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法人版事業承継税制の特例措置の期限――特例承継計画は令和9年9月30日,贈与・相続は同年12月31日まで(AI作成)

第1 この記事が扱う対象と時点

1 対象とする制度

この記事は,非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例(いわゆる法人版事業承継税制の特例措置)の期限を扱う。
特例措置は,租税特別措置法70条の7の5(贈与)及び70条の7の6(相続)に定められ,平成30年度税制改正で10年間の時限措置として設けられた。
期限は,特例承継計画の提出期限,贈与・相続の期限,都道府県知事の認定申請の期限の三つが別々に定められており,令和8年度改正で延びたのは特例承継計画の提出期限だけである。
個人事業者の事業用資産を対象とする個人版事業承継税制については,期限の違いに触れるにとどめる。

2 調査基準日と資料

本記事は,令和8年9月17日時点で,e-Gov法令検索に掲載された租税特別措置法,中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」という。)及び同法施行規則(以下「円滑化規則」という。)の条文,中小企業庁及び国税庁の公表資料を確認して作成した。
国税庁の説明資料は「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」(令和8年7月)を,中小企業庁の資料は申請マニュアル第1章(令和8年6月改訂版)及び「特例承継計画に関する指導及び助言を行う機関における事務について」(令和8年4月改訂版)を用いた。
本記事は制度の期限と構造を説明するものであり,個別の会社が特例措置の要件を満たすか,どの時期に承継するのが有利かは,株主構成,財務内容及び後継者の状況によって異なる。

第2 特例措置の概要

1 一般措置との違い

法人版事業承継税制には,一般措置と,平成30年度改正で設けられた特例措置がある。
国税庁のあらまし資料上1頁の比較表によれば,主な違いは次のとおりである。

項目特例措置一般措置
事前の計画策定等特例承継計画の提出(平成30年4月1日から令和9年9月30日まで)不要
適用期限平成30年1月1日から令和9年12月31日までの贈与・相続等なし
対象株数全株式総株式数の最大3分の2まで
納税猶予割合100%贈与100%,相続80%
承継パターン複数の株主から最大3人の後継者複数の株主から1人の後継者
雇用確保要件弾力化承継後5年間平均8割の雇用維持が必要
事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除ありなし

一般措置の対象株式について,租税特別措置法70条の7の2第1項は「発行済株式又は出資(議決権に制限のない株式又は出資に限る。)の総数又は総額の三分の二に達するまでの部分」に限ると定めているが,特例措置の70条の7の6第1項にはこの限定がない。
後継者の人数についても,特例措置の条文は「二人又は三人までに限る。」とし(70条の7の5第2項6号,70条の7の6第2項7号),一般措置は「一の者に限る。」としている(70条の7の2第2項3号)。

2 相続の「80%」の意味

一般措置の相続で猶予されるのは,対象株式の価額を課税価格とみなして計算した相続税額から,価額の100分の20を課税価格とみなして計算した相続税額を控除した残額である(租税特別措置法70条の7の2第2項5号)。
相続税は累進税率であるから,この計算による猶予額は,相続税額の80%と一致するとは限らない。
特例措置の相続では,この控除の定めがなく,対象株式の価額を課税価格とみなして計算した相続税額そのものが猶予額となる(同法70条の7の6第2項8号)。

3 対象は議決権に制限のない株式に限られる

特例措置の対象となる株式は,条文上,議決権に制限のない株式等に限られる。
事業承継の設計で無議決権株式を後継者以外の相続人に取得させる方法を併用する場合,その無議決権株式は納税猶予の対象にならない。
種類株式の相続税評価については,種類株式の相続税評価で扱っている。

第3 特例措置の三つの期限

1 特例承継計画の提出期限――令和9年9月30日

特例措置を使うには,会社が特例承継計画を作成し,都道府県知事の確認を受ける必要がある。
国税庁のあらまし資料上2頁は,特例承継計画を円滑化規則16条1号の計画,その確認を同規則17条1項1号の都道府県知事の確認と説明している。
提出期限について,円滑化規則17条2項は「令和九年九月三十日までに、様式第二十一による申請書に、当該申請書の写し一通及び次に掲げる書類を添付して、都道府県知事に提出するものとする。」と定めている。
中小企業庁の「特例承継計画に関する指導及び助言を行う機関における事務について」(令和8年4月改訂版)資料上2頁は,計画を提出できる期間を「平成30年4月1日~令和9年9月30日」と説明しており,計画には認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた内容を記載する。

(1) 贈与・相続の後でも提出できる場合

国税庁のあらまし資料上2頁は,「贈与後でも、円滑化法の認定申請時までは特例承継計画を提出することが可能です。」としている。
もっとも,これは提出期限内であることが前提であり,令和9年10月1日以後に初めて計画を提出することは,円滑化規則17条2項の文言上できない。
相続は開始の時期を選べないから,先代経営者が高齢である場合などは,承継の時期が決まっていなくても期限内に計画を提出しておく意味がある。

(2) 計画の変更

中小企業庁の同資料上5頁は,計画の変更申請書は「令和9年10月1日以後でも提出することができます。」とする一方,「特例後継者が事業承継税制の適用を受けた後は、当該特例後継者を変更することはできません。」としている。
期限内に提出した計画の後継者欄は,適用を受けるまでは変更の余地がある。

2 贈与・相続の期限――令和9年12月31日

特例措置の対象となる贈与について,租税特別措置法70条の7の5第1項は「平成三十年一月一日から令和九年十二月三十一日までの間の最初のこの項の規定の適用に係る贈与及び当該贈与の日から特例経営贈与承継期間の末日までの間に贈与税の申告書…の提出期限…が到来する贈与に限る。」と定めている。
相続についても,同法70条の7の6第1項が同じ期間を定めている。
令和8年9月17日時点でe-Gov法令検索に掲載された公布済みの改正(令和12年1月1日施行分まで)にも,この期間の文言を改めるものは見当たらない。

(1) 「最初の」適用の期限であること

令和9年12月31日は,最初に特例措置の適用を受ける贈与・相続の期限である。
国税庁のあらまし資料上11頁は,既に適用を受けている者が同じ会社の株式を別の者から取得して適用を受ける場合には,その取得が最初の適用に係る贈与・相続の日から特例経営(贈与)承継期間の末日までの間に申告期限が到来するものであることが要件になると説明している。
したがって,令和10年以後の取得が一律に対象外になるわけではないが,最初の適用はこの日までに済ませる必要がある。

(2) 相続の場合

令和9年12月31日までに開始した相続であれば,特例措置の対象になり得る。
ただし,前記1のとおり,特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日であるから,令和9年10月から12月までに相続が開始した場合に,それまで計画を提出していなければ,特例措置を使うことはできない。

3 認定申請と申告の期限

計画の確認と期限内の贈与・相続だけでは納税猶予を受けられず,都道府県知事の認定と期限内の申告が必要である。
贈与の場合,円滑化規則7条6項は,認定の申請を「当該認定に係る贈与の日の属する年の翌年の一月十五日」までにすると定めている。
中小企業庁の申請マニュアル第1章資料上5頁は,申請期間を「贈与年の10月15日~翌年1月15日」と説明している。
相続の場合,同規則7条7項は,申請を「相続の開始の日の翌日から八月を経過する日」までにすると定めており,同マニュアル資料上6頁は,相続の開始の日の翌日から5か月を経過する日以後の期間に限ると説明している。

令和9年中に贈与をする場合の流れは,次のとおりとなる。

手続期限根拠
特例承継計画の提出令和9年9月30日円滑化規則17条2項
贈与令和9年12月31日租税特別措置法70条の7の5第1項
都道府県知事への認定申請令和10年1月15日円滑化規則7条6項
贈与税の申告令和10年3月15日相続税法28条1項

認定の申請先は,会社の主たる事務所が所在する都道府県である。
中小企業庁の法人版事業承継税制のページは,申請の窓口を「申請企業の主たる事務所が所在している都道府県庁」と案内している。

4 個人版事業承継税制の期限

個人版事業承継税制では,個人事業承継計画の提出期限が令和10年9月30日(円滑化規則17条4項),贈与・相続の期限が令和10年12月31日(租税特別措置法70条の6の8第1項,70条の6の10第1項)であり,いずれも法人版より1年遅い。
法人版と個人版の期限を取り違えないよう注意を要する。

第4 延長の経緯と期限後の扱い

1 計画の提出期限だけが1年6月延びた

特例承継計画の提出期限は,もともと令和8年3月31日であった。
令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)資料上36頁は,「非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度について、特例承継計画の提出期限を1年6月延長する。」としている。
これを受けて,中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和8年経済産業省令第33号)が令和8年3月31日に公布され,同年4月1日に施行されて,円滑化規則17条2項の期限が令和9年9月30日に改められた。
延長は経済産業省令の改正によるものであり,贈与・相続の期限を定める租税特別措置法70条の7の5及び70条の7の6の期間は変わっていない。
「特例措置が延長された」という説明は,計画の提出期限の延長と贈与・相続の期限を混同させるおそれがある。

2 令和10年以降の扱い

自由民主党及び日本維新の会の「令和8年度税制改正大綱」(令和7年12月19日)資料上14頁~15頁は,特例措置について「適用期限到来後のあり方については、世代交代の停滞や地域経済の成長への影響に係る懸念に加えて、本措置の適用状況や課税の公平性等の観点も踏まえて多角的な検討を行い、令和9年度税制改正において結論を得る。」とし,「中小企業経営者及び個人事業者の方々には、適用期限の到来を見据え、早期に事業承継に取り組むことが期待される。」としている。
これは与党の文書であり,延長,縮小又は終了のいずれかを示したものではない。
閣議決定された大綱,中小企業庁及び国税庁の資料には,期限後の扱いについての記載は見当たらない。
国税庁の事業承継税制特集のページは,特例措置を「平成30年1月1日から令和9年12月31日までの10年間の措置」と説明している。

第5 猶予を受けた後に残る義務と免除

1 猶予税額を納付することになる場合

国税庁のあらまし資料上4頁(贈与)及び8頁(相続)は,対象株式を譲渡するなど一定の場合(確定事由)には,猶予されている税額の全部又は一部を利子税と併せて納付する必要があるとしている。
特例経営承継期間内に後継者が代表権を失った場合(やむを得ない理由がある場合を除く。)や,期間の内外を問わず会社が資産管理会社に該当した場合は,猶予税額の全額と利子税を納付することになる。
納付の期限は,確定事由に該当することとなった日から2か月を経過する日までである。

2 雇用確保要件

一般措置では,承継期間の末日に判定する雇用の平均が承継時の8割を下回ると猶予が打ち切られる。
特例措置では,8割を下回っても引き続き納税が猶予されるが,国税庁のあらまし資料上4頁は,円滑化省令により下回った理由等を記載した報告書を都道府県知事に提出して確認を受けることとされていると説明している。
中小企業庁の「特例承継計画に関する指導及び助言を行う機関における事務について」資料上6頁は,この報告に際し,認定経営革新等支援機関が雇用減少の理由について所見を記載し,理由が経営悪化又は正当でないものである場合には経営改善の指導及び助言をする必要があるとしている。
雇用確保要件がなくなったわけではない。

3 免除される場合と贈与者の死亡

国税庁のあらまし資料上5頁は,贈与税の猶予税額が免除される場合として,先代経営者等(贈与者)の死亡,後継者(受贈者)の死亡,次の後継者への一定の贈与などを挙げている。
もっとも,贈与者が死亡した場合には,同資料上10頁のとおり,贈与税の納税猶予の適用を受けた株式は「相続又は遺贈により取得したものとみなして、贈与の時の価額により他の相続財産と合算して相続税を計算します。」とされている。
同頁は,都道府県知事の確認を受けて一定の要件を満たす場合には,そのみなされた株式について「非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除」の適用を受けることができるとし,確認の申請は相続開始後8か月以内に行う必要があるとしている。
贈与税の免除は,株式に課税されなくなることを意味しない。

第6 株式の評価見直しの動きとの関係

1 猶予税額は株式の価額で決まる

特例措置の相続で猶予される税額は,対象株式の価額を課税価格とみなして計算した相続税の額であり(租税特別措置法70条の7の6第2項8号),贈与の場合も,国税庁のあらまし資料上5頁のとおり,贈与を受けた財産が対象株式のみであると仮定して贈与税を計算する。
その価額は,相続税法22条の時価であり,実務上は財産評価基本通達による取引相場のない株式の評価額である。
国税庁の質疑応答事例(令和7年7月7日付資産課税課情報第9号)の設例も,猶予税額を相続税評価額に基づいて示している。
したがって,株式の評価方法が変われば,猶予される税額と,猶予が打ち切られた場合に納付すべき税額の規模も変わる。

2 国税庁の有識者会議で示された方向

国税庁は,令和8年4月から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催している。
令和8年8月20日の第5回会議では,会社規模に応じた評価体系を廃止し,一般の評価会社を残余利益方式で評価するなどの骨子が示された。
令和8年9月16日の第6回資料は,令和2年分から令和5年分までの申告から抽出した1,378社について,加算期間5年,還元率8%と仮定した試算を示しており,現行の申告評価額の中央値と比べて,大会社では増加し,小会社では減少する傾向が示されている。
ただし,還元率としんしゃく率は試算上の仮定であり,第5回会議の骨子自体が,評価水準や税負担の在り方も含めて最終的には税制改正プロセスにおいて決定するとしている。
見直しの内容と経過は,取引相場のない株式の評価に関する有識者会議――国税庁が示した見直しの骨格と論点で整理している。

3 期限と評価見直しを並べて考えるときの視点

令和8年9月17日時点で,国税庁は新しい評価方法の適用時期を公表していない。
そのため,評価見直しの結論が出る前に特例措置の期限が到来する可能性があり,期限と評価見直しの前後関係を前提にした判断はできない。
考慮すべき事項としては,次のものが挙げられる。
①特例承継計画は,承継の時期が未定でも令和9年9月30日までに提出しておかなければ,後から特例措置を選ぶことができないこと。
②贈与税の猶予を受けた株式は,贈与者の死亡時に「贈与の時の価額」で相続税の計算に取り込まれること。
③猶予が打ち切られると,猶予税額と利子税を納付することになり,承継後も代表権,株式の保有及び資産管理会社への該当等の管理が続くこと。
④評価見直しは会社の規模や収益力によって評価額を上げる方向にも下げる方向にも働き得る案であり,一律に有利不利を言えないこと。

株式の相続税評価の現行の仕組みは遺産相続における非上場株式の評価方法で,評価明細書の作成は取引相場のない株式(出資)の評価明細書の書き方で扱っている。

第7 出典

1 法令

租税特別措置法70条の6の8第1項,70条の6の10第1項,70条の7第1項,70条の7の2第1項・第2項3号・5号,70条の7の5第1項・第2項,70条の7の6第1項・第2項7号・8号(e-Gov法令検索)
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律12条1項,17条(e-Gov法令検索)
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則7条6項・7項,16条,17条1項・2項・4項(令和8年経済産業省令第33号による改正後。e-Gov法令検索)
相続税法22条,28条1項(e-Gov法令検索)

2 国税庁・中小企業庁の資料

①国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」(令和8年7月)1頁,2頁,4頁,5頁,8頁,10頁,11頁
②国税庁「事業承継税制特集
③国税庁資産課税課情報第9号「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例措置等に関する質疑応答事例について(情報)」(令和7年7月7日)
④中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)
⑤中小企業庁「申請マニュアル【相続税,贈与税の納税猶予制度の特例】第1章」(令和8年6月改訂版)2頁,5頁,6頁
⑥中小企業庁財務課「特例承継計画に関する指導及び助言を行う機関における事務について」(令和8年4月改訂版)2頁,5頁,6頁
⑦中小企業庁「個人版事業承継税制の前提となる認定

3 税制改正大綱

①財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定)35頁~36頁
②自由民主党・日本維新の会「令和8年度税制改正大綱」(令和7年12月19日)14頁~15頁(政党の文書)

4 評価見直しに関する資料

①国税庁「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」(取引相場のない株式の評価に関する有識者会議第5回当日机上配付資料,令和8年8月20日)1頁
②国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)資料」(令和8年9月16日)9頁~10頁