第1 本記事の対象と基準日
1 青切符の要点
令和8年4月1日から,16歳以上の者が自転車で信号無視や一時不停止等の反則行為をした場合,交通反則通告制度(いわゆる青切符)による処理が行われるようになった。
根拠は,道路交通法の一部を改正する法律(令和6年法律第34号)による改正後の道路交通法125条以下である。
自転車の反則金は,反則行為の種別に応じて3,000円から12,000円までであり,最も高いのは携帯電話使用等(保持)の12,000円である。
もっとも,自転車の違反に対しては,導入後も指導警告が原則とされ,検挙の対象は交通事故の原因となるような悪質・危険な違反である。
酒酔い運転・酒気帯び運転,妨害運転,違反によって交通事故を起こした場合等は,青切符ではなく赤切符等の刑事手続で処理される。
反則金を納付した効果は,その違反について公訴を提起されないことにとどまり,被害者に対する民事上の損害賠償責任とは別の問題である。
民事の過失割合では,二人乗り,無灯火,並進,傘差しによる片手運転等が自転車の著しい過失として修正要素になり得る。
大阪府と兵庫県は,条例で自転車損害賠償保険等への加入を義務付けている。
2 本記事が扱う範囲と基準日
本記事は,自転車の交通反則通告制度について,対象年齢,反則行為と反則金の額,指導警告との関係,告知後の手続,自動車が自転車の右側を通過する際の新しい規定,民事の損害賠償との関係及び大阪府・兵庫県の自転車保険の加入義務を整理するものである。
法令は令和8年9月16日現在のe-Gov法令検索の本文により,警察庁の資料は同日に同庁ウェブサイトで確認した版による。
導入後の運用件数は,同日までに警察庁が報道発表資料として公表したものに限っている。
特定小型原動機付自転車(いわゆる電動キックボード等)の反則行為,自転車の酒気帯び運転の罰則の詳細及び自動車の違反点数は扱わない。
自転車事故の個別の過失相殺率を示すものでもない。
第2 青切符の仕組みと対象者
1 交通反則通告制度の根拠
(1) 反則行為と反則金を定める規定
道路交通法125条1項は,反則行為を,同法の罪に当たる行為のうち別表第二の上欄に掲げるものであって車両等の運転者がしたものと定義している。
自転車は同法上の軽車両であり,反則行為の種別と反則金の額は道路交通法施行令45条及び別表第六で定められている。
(2) 反則金を納付した効果
同法128条2項は,「前項の規定により反則金を納付した者は、当該通告の理由となつた行為に係る事件について、公訴を提起されず、又は家庭裁判所の審判に付されない。」と定める。
警察庁の自転車ルールブックは,これを,反則金を納付すれば刑事手続に移行せず,いわゆる前科もつかない制度と説明している(7頁,11頁)。
従前,自転車の交通違反を検挙した場合は赤切符等による刑事手続だけで処理されていたから,手続の選択肢が一つ増えたことになる(同9頁~10頁)。
2 対象は16歳以上の運転者
(1) 16歳未満の者は対象外
同法125条2項は,反則者から除かれる者の一つとして,4号で「十六歳未満の者」を掲げている。
したがって,自転車の青切符の対象は16歳以上の運転者であり,16歳未満の者は青切符の対象外である。
警察庁は,16歳未満の者の違反については原則として指導警告を行うとしており(自転車ルールブック24頁),同庁の「自転車は車のなかま」のページでは,個別の事案の実情に即した違反処理になると説明している。
(2) 16歳以上20歳未満の者の扱い
16歳以上20歳未満の者も青切符の対象になる。
この年齢層が反則金を納付した場合は,同法128条2項により家庭裁判所の審判に付されず,刑事手続に移行する場合は少年法に基づく手続が行われる(自転車ルールブック7頁)。
家庭裁判所が審判を開始したときに反則金の納付を指示できる旨の規定もある(道路交通法130条の2第1項)。
3 反則者に当たらず赤切符等の刑事手続になる場合
(1) 法律上,反則者から除かれる者
道路交通法125条2項は,次の者を反則者から除いている。
①酒に酔った状態等で運転していた者又は政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態で自転車等を運転していた者(2号)
②「当該反則行為をし、よつて交通事故を起こした者」(3号)
③16歳未満の者(4号)
同法67条2項は交通事故を「車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊」と定義しているから,3号の交通事故には物の損壊だけの事故も含まれる。
自転車の反則行為が原因で事故を起こした場合は,事故の大小にかかわらず青切符の対象外になるということである。
(2) 反則行為に当たらない重大な違反と手続上の例外
酒酔い運転・酒気帯び運転,妨害運転及び携帯電話使用等によって実際に交通の危険を生じさせた場合(携帯電話使用等(交通の危険))は,そもそも反則行為に当たらず,刑事手続で処理される(自転車ルールブック12頁,29頁)。
自転車の酒気帯び運転は3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(道路交通法117条の2の2第1項3号),携帯電話使用等(交通の危険)は1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(同法117条の4第1項2号)の対象である。
酒酔い運転の「酒に酔つた状態」には,令和8年法律第52号により,血液1ミリリットルにつき1.0ミリグラム以上又は呼気1リットルにつき0.5ミリグラム以上のアルコールを保有する状態が含まれることになった(同法117条の2第1項1号)。
この改正の経緯は,危険運転致死傷罪の令和8年改正――飲酒・高速度の数値基準,殊更滑走等類型,号の繰下げ及び酒酔い運転の変更で整理している。
反則行為であっても,居所又は氏名が明らかでないとき,逃亡するおそれがあるときは告知がされず(同法126条1項各号),公訴提起の制限も及ばない(同法130条1号)。
警察庁は,反則行為の成否を争うときも反則金を納付せずに刑事手続に移行するとしている(自転車ルールブック29頁)。
第3 自転車の反則行為と反則金の額
1 反則金の額の決まり方
道路交通法125条3項は,反則金の額を,別表第二に定める金額の範囲内で反則行為の種別に応じて政令で定めるとしている。
これを受けた道路交通法施行令別表第六は,車両等の種類を「大型車」「普通車」「二輪車」「原付等」に分け,備考三の4で「原付等」に重被牽引車を除く軽車両を含めている。
自転車の反則金は,この「原付等」の欄の金額であり,最高額は12,000円,最低額は3,000円である。
2 主な反則行為と反則金の一覧
次の表は,警察庁「自転車をはじめとする軽車両の反則行為と反則金の額」に掲げられた反則行為のうち,自転車の日常的な利用で問題になりやすいものを抜き出し,道路交通法施行令別表第六の「原付等」の欄の金額と照合したものである。
反則行為の名称は同別表の文言に,根拠条文は警察庁の同資料の表記によった。
| 反則行為(施行令別表第六の名称) | 主な内容 | 根拠条文(道路交通法) | 反則金 |
|---|---|---|---|
| 携帯電話使用等(保持) | 手に持って通話し,又は画面を注視する | 71条5号の5 | 12,000円 |
| 遮断踏切立入り | 遮断機が閉じている踏切に入る | 33条2項 | 7,000円 |
| 信号無視(赤色等) | 赤信号等に従わない | 7条 | 6,000円 |
| 通行区分違反 | 右側通行,通行できない歩道の通行等 | 17条1項・2項・4項・6項 | 6,000円 |
| 交差点安全進行義務違反 | 交差点で安全な速度と方法で進行しない | 36条4項 | 6,000円 |
| 横断歩行者等妨害等 | 横断歩道等で歩行者の通行を妨げる | 38条1項~3項,38条の2 | 6,000円 |
| 安全運転義務違反 | 手放し運転等 | 70条 | 6,000円 |
| 信号無視(点滅) | 赤色の点滅信号等に従わない | 7条 | 5,000円 |
| 通行禁止違反 | 通行禁止の道路を通行する | 8条1項 | 5,000円 |
| 指定場所一時不停止等 | 一時停止の標識がある場所で止まらない | 43条 | 5,000円 |
| 無灯火 | 夜間にライトをつけない | 52条1項 | 5,000円 |
| 乗車積載方法違反 | 乗車・積載の方法に関する違反 | 55条1項・2項 | 5,000円 |
| 自転車制動装置不良 | 基準に適合するブレーキを備えない | 63条の9第1項 | 5,000円 |
| 公安委員会遵守事項違反 | 傘差し運転,周囲の音が聞こえない状態でのイヤホン使用等 | 71条6号 | 5,000円 |
| 被側方通過車義務違反 | 右側を車両が通過するときに左側端に寄らない | 18条4項 | 5,000円 |
| 並進禁止違反 | 自転車を並べて走行する | 19条 | 3,000円 |
| 軽車両乗車積載制限違反 | 二人乗り等 | 57条2項 | 3,000円 |
| 歩道徐行等義務違反 | 歩道で車道寄りを徐行しない等 | 63条の4第2項 | 3,000円 |
| 路側帯進行方法違反 | 路側帯で歩行者の通行を妨げる等 | 17条の3第2項 | 3,000円 |
| 自転車道通行義務違反 | 自転車道があるのに車道を通行する | 63条の3 | 3,000円 |
| 警音器使用制限違反 | 必要のない場所でベルを鳴らす | 54条2項 | 3,000円 |
表にない反則行為として,速度超過(15キロメートル毎時未満の超過で6,000円),放置駐車違反及び駐停車違反等も自転車に適用され得る。
信号無視は,同じ道路交通法7条違反でも,赤色等の信号か点滅信号かによって金額が異なる(施行令別表第六備考二の16・17)。
3 主な違反の中身
(1) 携帯電話使用等(保持)
道路交通法71条5号の5は,自転車を運転する場合に,停止しているときを除き,手で保持しなければ送受信できない無線通話装置を通話のために使用し,又は持ち込んだ画像表示用装置に表示された画像を注視することを禁じている。
手に持って通話し,又は画面を注視すれば反則行為となり,反則金は自転車の反則行為の中で最も高い12,000円である。
警察庁は,自転車に取り付けたスマートフォンを注視した場合について,交通の危険を生じさせたときは赤切符の対象,生じさせていないときは取締りを受けることはないと説明している(自転車ポータルサイト「よくある質問」)。
(2) 信号無視と指定場所一時不停止等
信号無視(赤色等)は6,000円,指定場所一時不停止等は5,000円である。
導入後1か月の告知件数では,指定場所一時不停止が最も多く,信号無視は携帯電話使用に次ぐ3番目であった(後記第4の3)。
警察庁は,信号無視で交差点に進入し,青信号で進入した車両に急ブレーキをかけさせた場合を,違反の結果として交通への危険を生じさせた例として挙げている(自転車ルールブック28頁)。
(3) 二人乗り(軽車両乗車積載制限違反)
自転車の二人乗りは,道路交通法57条2項に基づき公安委員会が定める乗車人員の制限への違反であり,反則行為の名称は「軽車両乗車積載制限違反」,反則金は3,000円である(施行令別表第六備考二の27)。
同法55条の「乗車積載方法違反」は別の反則行為で,反則金は5,000円であるから,両者を混同しないよう注意したい。
警察庁は,16歳以上の保護者が小学校入学前の幼児を幼児用座席に乗せる場合等は公安委員会規則で認められているとし(自転車ルールブック48頁),幼児用座席に小学生を乗せて運転したことだけで取締りを受けることはないとも説明している(自転車ポータルサイト「よくある質問」)。
(4) 並進禁止違反
道路交通法19条は,「軽車両は、軽車両が並進することとなる場合においては、他の軽車両と並進してはならない。」と定める。
並進禁止違反の反則金は3,000円である。
(5) 傘差し運転とイヤホン使用(公安委員会遵守事項違反)
道路交通法71条6号は,公安委員会が道路における危険を防止するため必要と認めて定めた事項を運転者の遵守事項としている。
警察庁は,傘差し運転と,イヤホンをつけて周りの音が聞こえない状態での運転は全ての都道府県で禁止されているとし,違反すれば公安委員会遵守事項違反として反則金5,000円の対象になるとしている(自転車ルールブック48頁~49頁)。
イヤホンについて,警察庁は,片耳だけの装着やオープンイヤー型・骨伝導型のように耳を完全には塞がないものは,安全な運転に必要な音又は声が聞こえる限り違反にならないとしている(同49頁)。
傘の固定器具についても,視野やハンドル操作を妨げる場合等は違反となる可能性があるが,違反をしていることだけで取締りを受けることはないと説明されている(自転車ポータルサイト「よくある質問」)。
(6) 右側通行と歩道通行(通行区分違反)
自転車は車道の左側端を通行するのが原則であり(道路交通法17条4項,18条1項),右側通行や,通行が認められない場合の歩道通行は通行区分違反として6,000円の対象になる。
普通自転車が歩道を通行できるのは,標識・標示で認められている場合,運転者が13歳未満若しくは70歳以上又は一定の身体障害を有する場合,車道又は交通の状況からやむを得ない場合である(警察庁「普通自転車の歩道通行について」)。
警察庁は,単に歩道を通行しているといった違反については,青切符の導入後も通常は指導警告が行われるとしている(同資料)。
他方で,警察官の指導警告に従わずに右側通行を継続した場合は,青切符による検挙の例として挙げられている(自転車ルールブック29頁)。
第4 指導警告と取締りの基本的な考え方
1 原則は指導警告
(1) 警察庁の説明
警察庁の自転車ポータルサイトは,青切符の導入後も「自転車の違反に対しては基本的に、取締りには至らない指導警告が行われることになります」と説明している。
指導警告では現場で「指導警告票」が交付されるなどし,指導警告を複数回受けたことで何らかの処分がされるわけではないとされている(同サイト「よくある質問」)。
(2) 令和7年の指導警告と検挙の件数
令和7年中の自転車運転者に対する指導取締りは,指導警告票の交付が約110万件,交通違反の検挙が約6万件であった(警察庁「自転車は車のなかま」)。
青切符の導入前の令和7年も,検挙は指導警告票の交付に比べて少数であった。
2 検挙の対象となる「悪質・危険な違反」
(1) 違反自体が悪質・危険なもの
警察庁の自転車ルールブックは,検挙の対象となる悪質・危険な違反を「違反自体が悪質・危険なもの」と「違反態様が悪質・危険なもの」に分けている(25頁~28頁)。
前者のうち,酒酔い運転・酒気帯び運転,妨害運転,携帯電話使用等(交通の危険)は刑事手続で,遮断踏切立入り,自転車制動装置不良,携帯電話使用等(保持)は青切符で処理される(同25頁~26頁)。
自転車制動装置不良の例としては,ブレーキのない自転車での走行が図示されている(同27頁)。
(2) 違反態様が悪質・危険なもの
後者には,違反により実際に交通事故を発生させたとき(刑事手続),違反の結果として交通への危険を生じさせ,又は事故の危険が高まっているとき(青切符),指導警告されているにもかかわらずあえて違反を行ったとき(青切符)がある(自転車ルールブック26頁)。
交通への危険の例として,違反により歩行者が立ち止まり,又は他の車両が急ブレーキ等の回避措置をとったとき,傘差しをしながらの一時不停止のように違反を同時に2つ以上行っているときが挙げられている(同26頁~28頁)。
警察庁が公表した「青切符導入後の取締りの基本的な考え方等について」も,交通事故に直結する危険な運転行為をした場合や「警察官の警告に従わずに違反行為を継続した場合」を取締りの対象としている。
取締りは,各警察署が指定した自転車指導取締重点地区・路線を中心に,自転車事故が多い朝・夕に行われるのが基本とされる(自転車ポータルサイト「よくある質問」)。
3 導入後1か月の運用状況
警察庁交通局交通企画課の広報資料「自転車に対する交通反則通告制度導入後1月間の運用状況について」(令和8年5月14日公表)によれば,導入後1か月間の青切符による告知件数は2,147件(暫定値)であった。
違反種別の内訳は次のとおりである。
| 違反種別 | 件数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 指定場所一時不停止 | 846件 | 40% |
| 携帯電話使用 | 713件 | 33% |
| 信号無視 | 298件 | 14% |
| しゃ断踏切立入 | 156件 | 7% |
| 通行区分違反(右側通行) | 63件 | 3% |
| その他 | 71件 | 3% |
同じ期間の指導警告票の交付数は135,855件であり,同資料は「増加」と記載している。
比較の数値として,令和7年中の自転車の交通違反の検挙件数は月平均4,268件(青切符の対象となった違反種別に限った数値)と示されている。
告知件数は指導警告票の交付数の約1.6%にとどまる(2,147件÷135,855件で本記事が計算)。
令和8年9月16日時点で,警察庁の報道発表資料一覧に,導入後2か月目以降の運用状況をまとめた資料は見当たらなかった。
第5 青切符を受けた後の手続
1 告知と仮納付
(1) 青切符と納付書の交付
警察官は,反則者があると認めるときは,反則行為となるべき事実の要旨,反則行為の種別,通告を受けるための出頭の期日及び場所を書面で告知する(道路交通法126条1項)。
この書面が交通反則告知書であり,いわゆる青切符である。
違反者には青切符とともに,金融機関の窓口に持参する納付書が交付される(自転車ルールブック11頁)。
警察官が取締りの現場で反則金を徴収することはなく,警察官を騙る者から反則金を徴収されそうになった場合は110番通報をするよう警察庁は呼び掛けている(自転車ポータルサイト「よくある質問」)。
運転免許証を持っていない場合は,マイナンバーカードや学生証等で本人確認が行われる(同)。
(2) 7日以内の仮納付
告知を受けた者は,告知を受けた日の翌日から起算して7日以内に,反則金に相当する金額を仮に納付することができる(道路交通法129条1項)。
仮納付をした者にその後通告があったときは,反則金を納付した者とみなされる(同条3項)。
反則金は分割して納付することができない(道路交通法施行令52条4項・6項)。
期間の末日が日曜日その他政令で定める日に当たるときは,その翌日が末日とみなされる(道路交通法129条の2)。
2 通告と10日以内の納付
(1) 通告と納付期間
仮納付をしなかった場合は,青切符に記載された期日に交通反則通告センターに出頭し,通告書と納付書の交付を受ける(自転車ルールブック11頁)。
通告は,理由を明示して書面で行われ(道路交通法127条1項),反則金は通告を受けた日の翌日から起算して10日以内に納付しなければならない(同法128条1項)。
(2) 出頭しない場合の通告書の送付
出頭しなかった場合等には,通告書の送付に要する費用の納付も併せて通告される(同法127条1項後段)。
警察庁は,遠隔地に住んでいるなどの理由で出頭できないときは,通告書と,送付費用が加算された納付書が郵送されると説明している(自転車ルールブック11頁)。
3 納付しない場合と違反を争う場合
(1) 刑事手続への移行
反則者は,通告を受け,かつ10日の納付期間が経過した後でなければ,公訴を提起されない(道路交通法130条)。
逆にいえば,期間内に納付しなければ刑事手続に移行し,検察官が起訴・不起訴を判断することになる(自転車ルールブック11頁)。
起訴されて有罪となれば罰金を納付するなどの必要があり,いわゆる前科がつく(同2頁,7頁)。
(2) 通告の取消訴訟はできないこと
最高裁昭和57年7月15日判決(昭和55年(行ツ)第137号,民集36巻6号1169頁)は,反則金の納付の通告は抗告訴訟の対象とならないと判断した。
同判決は,通告があっても「これにより通告を受けた者において通告に係る反則金を納付すべき法律上の義務が生ずるわけではなく、ただその者が任意に右反則金を納付したときは公訴が提起されないというにとどまり」と述べている。
その上で,反則行為の不成立等を主張しようとするのであれば,反則金を納付せず,公訴が提起されたときに刑事手続の中で争う途を選ぶべきであるとした。
違反の事実に納得できない場合は,反則金を納付しないで刑事手続の中で争うことになる。
いったん納付した後に,通告の取消しを求めて行政訴訟で争うことはできないということである。
4 運転免許と自転車運転者講習への影響
(1) 違反点数と免許停止
運転免許を持っている者が自転車で交通違反をしても,運転免許の点数は付されない(自転車ルールブック34頁)。
ただし,自転車でひき逃げ事件や死亡事故等の重大な交通事故を起こした場合や,酒酔い運転・酒気帯び運転をはじめとする特に悪質・危険な違反をした場合には,6月を超えない範囲内で運転免許の停止処分が行われることがある(同頁)。
(2) 自転車運転者講習
青切符とは別に,14歳以上の者が信号無視,指定場所一時不停止等,携帯電話使用等,遮断踏切立入り,自転車制動装置不良等の16種別の違反で3年以内に2回以上検挙され又は交通事故を起こしたときは,公安委員会から自転車運転者講習の受講を命じられる(道路交通法108条の3の5第2項,自転車ルールブック33頁)。
講習は3時間で受講料が必要であり,命令を受けて3か月以内に受講しないときは5万円以下の罰金の対象となる(同頁~34頁)。
第6 自動車が自転車の右側を通過するときの新しい規定
1 道路交通法18条3項・4項の内容
(1) 18条3項・4項の文言
令和8年4月1日に施行された道路交通法18条3項は,次のように定めている(施行時期は警察庁自転車ポータルサイト「よくある質問」による)。
「車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)は、当該車両と同一の方向に進行している特定小型原動機付自転車等(歩道又は自転車道を通行しているものを除く。)の右側を通過する場合(当該特定小型原動機付自転車等を追い越す場合を除く。)において、当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない。」
同条4項は,この場合,自転車等は「できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない」と定める。
(2) 規定の対象となる車両と自転車
「特定小型原動機付自転車等」には軽車両が含まれるから(同条1項),自転車はこの規定で保護される側に当たる。
規制を受けるのは自動車に限らず,特定小型原動機付自転車等を除く「車両」である。
同じ方向に進む自転車の右側を通過する場合が対象であり,歩道や自転車道を通行している自転車は除かれる。
なお,同項の括弧書は追い越す場合を除いているが,追越しには別に同法28条以下の規律がある。
2 警察庁が示す目安と違反の扱い
(1) 十分な間隔と安全な速度の目安
警察庁は,自転車ポータルサイトの「よくある質問」で,「少なくとも1メートル程度間隔を空けることが安全です」とし,1メートル程度の間隔を確保できない場合には「時速20キロメートルから30キロメートル程度で運転しましょう」との目安を示している。
これは,自転車の平均速度が時速10キロメートルから20キロメートル程度であることを踏まえ,十分な間隔がとれない場合に一定程度減速して追い抜くことを想定したものとされる。
目安は法令の数値基準ではなく,警察庁の説明である。
(2) 罰則と反則金
18条3項に違反した運転者は,3月以下の拘禁刑又は5万円以下の罰金の対象となる(道路交通法119条1項6号)。
反則行為としての名称は「歩行者等側方安全通過義務違反」であり(施行令別表第二備考二の31),反則金は普通車7,000円,大型車9,000円である(施行令別表第六)。
他の車両の通行を妨害する目的で交通の危険を生じさせるおそれのある方法により同項違反となる行為をすれば,妨害運転の罪の対象にもなる(同法117条の2の2第1項8号ロ)。
自転車の側も,左側端に寄らなければ被側方通過車義務違反として反則金5,000円の対象になる(施行令別表第六備考二の18,自転車ルールブック49頁)。
第7 民事の損害賠償・示談との関係
1 反則金の納付と民事責任の関係
(1) 納付の効果は公訴を提起されないことにとどまる
反則金は,反則者が道路交通法第9章の規定の適用を受けようとする場合に国に納付すべき金銭である(同法125条3項)。
納付の効果は,同法128条2項のとおり,その行為に係る事件について公訴を提起されず,又は家庭裁判所の審判に付されないことである。
前記の最高裁昭和57年7月15日判決も,通告によって反則金を納付すべき法律上の義務が生じるわけではなく,任意に納付したときは公訴が提起されないというにとどまるとしている。
被害者に対する損害賠償責任は,民法709条の不法行為責任として,これとは別に判断される。
反則金を納付しても被害者への賠償責任が消えるわけではなく,逆に,道路交通法には反則金の納付を民事上の過失の自認とみなす規定は置かれていない。
本記事では,反則金の納付は刑事手続を終わらせる選択にすぎず,それだけで民事上の過失や過失割合が決まるものではないと整理する。
(2) 民事訴訟での事実認定との関係
民事訴訟では,裁判所が口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌し,自由な心証により事実を認定する(民事訴訟法247条)。
反則金の納付によって過失が自認されたことにはならないとしても,違反の事実や当時の運転態様そのものは,他の証拠と併せて事実認定の資料になり得ると考えられる。
反則金の納付が民事上の過失の認定にどう影響するかを直接判断した裁判例は,本記事の作成時点で裁判所ウェブサイトの裁判例検索では確認できなかった。
2 事故を起こした場合は青切符ではなくなること
前記第2の3のとおり,反則行為をし,よって交通事故を起こした者は反則者に当たらない(道路交通法125条2項3号)。
自転車の違反が原因で人身事故や物損事故が起きた場合は,青切符ではなく刑事手続で処理され,事故の状況は実況見分調書等の捜査書類に記録されることになる。
民事の損害賠償で自転車側の違反が問題になるのは,多くの場合,こうした事故についてである。
事故の状況を記録する実況見分調書については,交通事故の実況見分調書作成時の留意点で整理している。
事故後に怪我が判明して物件事故から人身事故へ切り替える場合は,物件事故から人身事故への切替え-診断書,警察手続,交通事故証明書への反映と切替え不可時の対応を参照されたい。
交通事故証明書の取得については,交通事故証明書の取得方法――申請経路,手数料,申請期間及び記載事項の読み方で整理している。
3 過失割合での違反の位置付け
(1) 過失相殺の枠組み
民法722条2項は,「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と定める。
交通事故の民事訴訟では,事故態様ごとに基本の過失相殺率を定め,修正要素によって加算・減算する認定基準が広く用いられている。
その代表的な文献が,別冊判例タイムズ39号『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』(令和8年3月30日発行)である。
(2) 自転車特有の著しい過失・重過失
同書の用語集は,自転車特有の著しい過失の例として,二人乗り,無灯火,並進,傘を差すなどしてされた片手運転,右側通行,脇見運転等著しい前方不注視,携帯電話等を通話のため使用し又は画像を注視しながら運転すること等を挙げている(57頁~58頁)。
イヤホン等を使用しながらの運転は著しい過失となり得るが,周囲の音を遮断するものかなど,聴覚的な情報を聞き逃したことが事故発生に結び付いたかどうかを検討する必要があろうとしている(同58頁)。
自転車特有の重過失としては,いわゆるピスト等の制動装置不良が挙げられ,酒酔い運転は車両一般の重過失の例とされている(同59頁)。
これらの多くは,青切符の反則行為(軽車両乗車積載制限違反,無灯火,並進禁止違反,公安委員会遵守事項違反,通行区分違反,携帯電話使用等(保持),自転車制動装置不良)と重なる。
もっとも,過失相殺の修正要素になるかどうかは,反則行為に当たるか,青切符を受けたかではなく,その違反が当該事故の発生や損害の拡大とどう関係したかという事故ごとの判断による。
同書が事故と直接の因果関係がない違法行為の評価について別の項目を設けていることからも,違反の存在だけで機械的に過失割合が修正されるものではないと考えられる。
(3) ヘルメットの着用
自転車の運転者のヘルメット着用は努力義務である(道路交通法63条の11第1項)。
同書は,現時点でヘルメット着用努力義務違反を著しい過失・重過失に準じて評価するのは困難であるとしつつ,頭部外傷を受けた場合等,着用義務違反が損害拡大に寄与しているようなときは5%程度過失相殺率を加算修正するのが相当であろうとしている(59頁)。
4 示談と未成年者の事故
(1) 示談で確認すべきこと
反則金の納付と被害者との示談は別の手続であり,反則金を納付したことで示談の内容が決まるわけではない。
保険会社から示された示談案を見る際の確認事項は,保険会社から届いた交通事故の示談案の見方――慰謝料・休業損害・逸失利益・既払金・過失割合・清算条項の確認で整理している。
自転車には自動車損害賠償責任保険の加入が求められていないから(自転車ルールブック14頁),自転車が加害者となる事故では,加害者側の自転車損害賠償保険等の有無が賠償の支払に大きく影響すると考えられる(後記第8)。
(2) 未成年者が事故を起こした場合
未成年者は,自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは賠償責任を負わず(民法712条),その場合は監督義務者が,義務を怠らなかったこと等を証明しない限り責任を負う(同法714条1項)。
他方,責任能力がある年齢の子どもであれば本人が賠償責任を負うことになり,本人に十分な資力がないときは,被害者が現実に賠償を受けられるかが問題になる。
大阪府と兵庫県の条例は,保護者に対し,監護する未成年者の利用に係る自転車損害賠償保険等への加入を義務付けている(後記第8)。
第8 自転車保険の加入義務(大阪府・兵庫県)
1 大阪府の条例
(1) 加入義務の内容
大阪府自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例(平成28年大阪府条例第5号)12条1項は,「自転車利用者は、自転車損害賠償保険等(自転車の利用に係る交通事故により生じた他人の生命又は身体の被害に係る損害を填補することができる保険又は共済をいう。以下同じ。)に加入しなければならない。」と定める。
自転車利用者以外の者が当該自転車の利用に係る保険等に加入しているときは,この限りでない(同項ただし書)。
保護者は,監護する未成年者が自転車を利用するときは,その利用に係る保険等に加入しなければならない(同条2項)。
事業者が従業者に自転車を利用させる場合の加入は努力義務にとどまる(同条3項)。
自転車小売業者による加入の有無の確認も努力義務である(同条例13条1項)。
12条と13条は平成28年7月1日に施行されており(附則),条例に罰則の規定は置かれていない。
(2) 対象となる保険
大阪府は,対象となる保険として,自転車向け保険のほか,自動車保険・火災保険・傷害保険の特約,共済,会社等の団体保険,PTAの保険,TSマーク付帯保険,クレジットカードの付帯保険等を挙げ,既に加入している保険の証券や加入証を確認するよう呼び掛けている(大阪府「自転車保険の加入義務化」)。
条例の定義上,対象は他人の生命又は身体の損害を填補する保険又は共済であり,自分自身の怪我だけを補償する保険はこれに当たらない。
2 兵庫県の条例
(1) 加入義務の内容
兵庫県の自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例(平成27年兵庫県条例第6号)13条1項も,自転車利用者に自転車損害賠償保険等への加入を義務付け,同条2項は保護者に,監護する未成年者の利用に係る保険等への加入を義務付けている。
大阪府と異なり,同条3項は,事業者が事業活動において従業者に自転車を利用させるときの加入を義務としている。
自転車小売業者及び貸付業者は,自転車を販売し又は貸し付けるとき,保険等の加入の措置の有無を確認しなければならない(同条例14条)。
13条・14条は平成27年10月1日に施行された(附則)。
(2) 罰則がないこと及び県外からの利用者
同条例に罰則の規定は置かれておらず,兵庫県は,同条例のQ&Aで罰則を設けていない理由を説明している。
また,県外から自転車で乗り入れた場合や観光でレンタサイクルを利用する場合でも,県内で自転車を利用するときは条例の適用を受け,保険等への加入が義務付けられると説明している(兵庫県「「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」について」Q&A9)。
兵庫県は,業務中の自転車事故は個人の日常生活の事故に対応する個人賠償責任保険では対応しておらず,業務上の賠償事故を補償する保険等への加入が必要になるとも説明している(同ページ)。
3 加入状況の確認
自転車保険の加入義務は,青切符の対象となる反則行為ではなく,加入していないことで反則金が科されるわけではない。
ただし,自転車事故の賠償責任は数千万円に及んだ判決事例もあるとして,政府広報オンラインも損害賠償責任保険等への加入と家族の加入状況の確認を呼び掛けている(政府広報オンライン「2026年4月から自転車の交通違反に「青切符」を導入!何が変わる?」)。
大阪府が示すとおり,自動車保険や火災保険の特約等で既に補償されていることもあるから,家族の自転車利用者について,保険証券等で補償の範囲を確認しておくことが考えられる。
第9 出典
1 法令・条例
①道路交通法(昭和35年法律第105号)7条,17条,18条,19条,33条2項,43条,52条1項,55条,57条2項,63条の9第1項,63条の11,67条2項,71条5号の5・6号,108条の3の5第2項,117条の2第1項1号,117条の2の2第1項3号・8号,117条の4第1項2号,119条1項6号,125条~130条の2(e-Gov法令検索,令和8年9月16日確認)
②道路交通法施行令(昭和35年政令第270号)45条,52条,別表第二備考,別表第六(e-Gov法令検索,令和8年9月16日確認)
③民法(明治29年法律第89号)709条,712条,714条,722条2項(e-Gov法令検索)
④民事訴訟法(平成8年法律第109号)247条(e-Gov法令検索)
⑤大阪府自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例(平成28年大阪府条例第5号)12条,13条,附則(大阪府例規集)
⑥兵庫県「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」(平成27年兵庫県条例第6号)13条,14条,附則(兵庫県掲載の条例本文PDF)
2 裁判例
①最高裁昭和57年7月15日判決(昭和55年(行ツ)第137号,民集36巻6号1169頁,裁判所ウェブサイト)
3 所管行政機関の解説・運用資料
①警察庁交通局「自転車を安全・安心に利用するためにー自転車への交通反則通告制度(青切符)の導入ー【自転車ルールブック】」(令和7年9月,PDF)7頁,9頁~12頁,24頁~29頁,33頁~34頁,48頁~49頁
②警察庁「自転車をはじめとする軽車両の反則行為と反則金の額」(PDF)
③警察庁「普通自転車の歩道通行について」(青切符導入後の取締りの基本的な考え方等,PDF)
④警察庁「自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~」(警察庁ウェブサイト)
⑤警察庁自転車ポータルサイト「よくある質問」(警察庁ウェブサイト)
⑥警察庁自転車ポータルサイト「取締りについて」(警察庁ウェブサイト)
⑦大阪府「自転車保険の加入義務化」(大阪府ウェブサイト)
⑧兵庫県「「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」について」(兵庫県ウェブサイト)
⑨政府広報オンライン「2026年4月から自転車の交通違反に「青切符」を導入!何が変わる?」(令和8年1月29日,政府広報オンライン)
4 統計
①警察庁交通局交通企画課「自転車に対する交通反則通告制度導入後1月間の運用状況について」(令和8年5月14日,PDF)
5 文献
①菊池憲久・堂薗幹一郎・伊東智和編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』(別冊判例タイムズ39号,判例タイムズ社,令和8年)57頁~59頁