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仮差押えの担保(供託金)を取り戻す方法―担保取消しの3類型,簡易の取戻し及び所要期間(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

本記事は,仮差押命令を得るために債権者が立てた担保(法務局に供託した金銭等)を,後日,債権者が取り戻す方法を扱う。
調査基準日は令和8年9月17日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文,民事保全規則は裁判所ウェブサイト掲載の規則本文で確認した。
仮差押えの全体像は仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像を,担保の金額の決まり方は仮差押えの担保金はいくらか―目的物の価格を基準とする算定方法,担保基準表及び立て方を参照されたい。

債務者が仮差押えの執行を免れるために供託する仮差押解放金の取戻しは,本記事の対象外である(仮差押解放金とは―金額の決まり方,供託による執行の取消し及び債権者の回収方法を参照)。
控訴に伴う強制執行停止の担保など,民事保全以外の担保も対象外である。

2 結論

仮差押えの担保を取り戻す方法は,次の4つである。
① 担保の事由が消滅したことを証明して担保取消しを受ける方法(民事保全法4条2項,民事訴訟法79条1項)
② 担保権利者(債務者)の同意を得たことを証明して担保取消しを受ける方法(同条2項)
③ 訴訟の完結後に権利行使催告をし,債務者が権利を行使しないことで同意があったものとみなして担保取消しを受ける方法(同条3項)
④ 保全執行が空振りに終わった場合等に,裁判所の許可を得て担保を取り戻す方法(民事保全規則17条1項。担保の簡易の取戻し)

どれを選ぶかは,概ね次の順で判断する。
① 登記・送達ができなかった,執行に着手する前に取り下げた等,債務者に損害が生じないことが明らかであれば,簡易の取戻しを検討する。
② 債務者の同意が得られるなら,同意による担保取消しが最も早い。
③ 本案で債権者が全部勝訴して確定し,又は請求の認諾があったときは,事由消滅による担保取消しを使う。
④ それ以外(一部敗訴,本案未提起,本案の取下げ等)は,保全命令の申立てを取り下げた上で,権利行使催告による担保取消しを使う。

東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)では,担保取消しの申立てから供託原因消滅証明書の交付までの目安は,同意が約1週間,事由消滅が約1か月,権利行使催告が約2か月とされている。
大阪地方裁判所第1民事部(保全部)の案内には,所要日数の記載はない。
担保取消決定が確定した後(簡易の取戻しでは許可を得た後),法務局に供託物払渡請求をして,初めて供託金が戻ってくる。

権利行使催告の催告期間は,東京地方裁判所の取扱いでは,催告書の送達を受けた日から14日とされ,さらに権利行使の証明書の提出期間として5日が加えられている(岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年)377頁)。
本案訴訟の係属中で債務者の同意も得られないときは,担保を支払保証委託契約に変換する手続(民事保全法4条2項,民事訴訟法80条)もあるが,それで資金が手元に戻るかどうかは,保証を引き受ける銀行等の条件による。

第2 担保を取り戻す手続の全体像

1 担保は債務者の損害賠償請求権を担保するもの

保全命令は,担保を立てさせて発することができる(民事保全法14条1項)。
この担保には民事訴訟法77条,79条及び80条が準用され(民事保全法4条2項),債務者は,保全命令の執行によって損害を被ったときは,担保について他の債権者に先立って弁済を受けることができる(司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』107頁)。

そのため,債権者が担保を取り戻すには,債務者の損害賠償請求権を担保しておく必要がなくなったことを,法定の手続で裁判所に確認してもらわなければならない。
同教材107頁も,債権者が担保の取戻しを受けるには,担保の取消決定又は担保取戻許可決定を得なければならないとしている。
担保の取戻しと不当な仮差押えによる損害賠償の関係は,不当な仮差押えによる損害賠償―過失の推認と担保(供託金)からの回収を参照されたい。

2 担保取消しと簡易の取戻しの違い

4つの方法の違いを表にすると,次のとおりである。

方法根拠主な要件裁判所の判断東京地裁案内の目安
事由消滅民事訴訟法79条1項本案の全部勝訴判決確定,請求の認諾等担保取消決定約1か月
同意民事訴訟法79条2項債務者の同意(同意書又は和解調書)担保取消決定約1週間
権利行使催告民事訴訟法79条3項訴訟の完結+保全命令の申立ての取下げ担保取消決定約2か月
簡易の取戻し民事保全規則17条1項債務者に損害が生じないことが明らか+執行期間の経過又は申立ての取下げ担保取戻許可記載なし

担保取消しは,民事訴訟法79条1項から3項までのいずれかの事由を証明して,担保取消決定を得る手続である。
これに対し,簡易の取戻しは,担保取消しの手続を経ることなく,保全命令を発した裁判所の許可を得て担保を取り戻す手続であり,一般に簡易取戻手続といわれている(同教材110頁)。

3 手続を選ぶときの考え方

最初に確認すべきなのは,保全執行によって債務者に損害が生じた可能性があるかどうかである。
登記の嘱託が却下された,第三債務者に送達できなかった,執行官が執行に着手する前に取り下げたなど,執行が実際には効果を生じていないときは,簡易の取戻しが使える可能性がある。

執行が奏功しているときは,担保取消しの3類型から選ぶことになる。
債務者との間で和解ができるなら,和解条項に担保取消しへの同意を入れておくのが最も確実で早い。
本案で全部勝訴して確定したときは,事由消滅による担保取消しを申し立てる。
一部敗訴や本案未提起のまま終わったときは,権利行使催告による担保取消しによるほかない。

第3 担保の事由の消滅による担保取消し(民事訴訟法79条1項)

1 「担保の事由が消滅したこと」の意味

(1) 最高裁判所の判断

民事訴訟法79条1項は,「担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したときは、裁判所は、申立てにより、担保の取消しの決定をしなければならない。」と定める。

最高裁判所第一小法廷平成13年12月13日決定(平成13年(許)第21号,民集55巻7号1546頁)は,理由中で,同項にいう「担保の事由が消滅したこと」とは,「担保供与の必要性が消滅したこと,すなわち,被担保債権が発生しないこと又はその発生の可能性がなくなったことをいい」と述べた。
ただし,この決定は,仮執行宣言付判決に対する控訴に伴う強制執行停止の担保について,債務者の破産宣告の一事では担保の事由の消滅に当たらないとした事案であり,保全命令の担保についての判断ではない。
本記事では,保全命令の担保についても,この一般的な説明と同じ考え方で事由消滅の有無が判断されると整理する。

(2) 保全事件での典型例

司法研修所の教材は,担保の事由が消滅した場合とは,債務者の損害賠償請求権の不存在が確定し,担保提供の必要性がなくなった場合であり,具体的には,①債権者勝訴の本案判決が確定した場合,②債務者が本案訴訟で請求を認諾した場合,③債務者が債権者に対する損害賠償請求権を放棄した場合などであるとする(同教材107頁~108頁)。

東京地方裁判所民事第9部の案内も,本案訴訟で債権者勝訴の判決が確定した場合(保全命令の被保全権利と本案訴訟で認容された権利が同一であること),請求を認諾した場合,債権者が全面的に勝訴したのと同じ内容の訴訟上の和解や調停が成立した場合などを挙げる。
大阪地方裁判所第1民事部の案内も,本案訴訟における債権者全部勝訴判決の確定,債務者の請求認諾,債権者勝訴的和解などを例に挙げている。

2 勝訴的和解に頼らず同意条項を入れる

本案訴訟で和解をした場合,それが「勝訴的和解」であれば事由消滅として債権者単独で担保取消しを申し立てる方法もある。
しかし,勝訴的和解に当たるかどうかは解釈の問題が生じるため,和解条項中に担保取消しに対する同意条項及び担保取消決定に抗告しない旨の合意条項を入れるのが通常である(同教材108頁)。
和解条項の作り方は,民事訴訟の和解案・和解条項案の作り方-確認・給付・清算・執行のチェックリストを参照されたい。

3 必要書類と所要期間

東京地方裁判所民事第9部の案内では,事由消滅による担保取消しの申立てには,概ね次の書類が必要とされている。
① 担保取消しの申立書(収入印紙は不要)
② 供託原因消滅証明申請書の正本及び副本(証明事項1件につき収入印紙150円)と,同証明書の受書
③ 全部勝訴の判決書など事由の消滅を証明する文書(上訴審判決があるときは各審級の判決書)
④ 判決確定証明書(写しは不可)
⑤ 被申立人の数に応じた郵便切手

大阪地方裁判所第1民事部の案内でも,判決正本及び写し(上訴があるときは全審級の判決),判決確定証明書(最高裁判所で判決又は決定があった場合は不要),和解又は請求認諾調書の正本及び写し,郵便切手が挙げられている。
本案訴訟の記録が電子化されているときは,東京地方裁判所の案内上,記録事項証明書等の提出又はそれに代わる事件特定情報の提供が必要とされている。

事由消滅による担保取消決定には即時抗告をすることができ(民事訴訟法79条4項),債務者が同意していない以上,決定が債務者に送達されて確定するのを待つことになる。
東京地方裁判所民事第9部の案内では,申立てから供託原因消滅証明書の交付までの目安は約1か月である。

第4 担保権利者の同意による担保取消し(民事訴訟法79条2項)

1 同意の意味と証明方法

民事訴訟法79条2項は,「担保を立てた者が担保の取消しについて担保権利者の同意を得たことを証明したとき」も,担保の取消しの決定をしなければならないと定める。

担保権利者の同意は,その担保に対する権利を放棄する意思表示と解されるため,同意がある以上,担保の事由が消滅しているかどうかに関わりなく,事件の終了を待たずに担保取消決定をすることができる(同教材108頁)。
本案訴訟が係属中でも使える点が,権利行使催告との大きな違いである。

同意は書面で証明する必要がある(同教材108頁)。
担保権利者本人が同意する場合は,同意書に実印を押し,印鑑登録証明書を添付するのが実務である(同頁)。
大阪地方裁判所第1民事部の案内では,被申立人の印鑑登録証明書は申立日から3か月以内のものとされている。

2 和解条項に同意と抗告権放棄を入れる

保全事件又は本案訴訟で和解や調停が成立した場合,和解又は調停の条項中に担保取消しに同意する旨の条項があれば,その調書の正本又は謄本を同意書面として提出すればよい(同教材108頁)。

担保取消決定には即時抗告ができるため(民事訴訟法79条4項),抗告期間の経過を待たずに決定を確定させるには,債務者側の即時抗告権の放棄が必要になる。
即時抗告の期間は,裁判の告知を受けた日から1週間の不変期間である(民事訴訟法332条)。
そこで,和解条項には,①債務者は債権者が仮差押命令の申立事件について供託した担保の取消しに同意する,②債務者は担保取消決定に対して抗告しない,という趣旨の条項を並べて入れておくことが多い。

3 同意書による場合の書類と所要期間

訴訟外で合意した場合は,同意書による。
実務では,担保取消決定を直ちに確定させて迅速に担保を取り戻すため,あらかじめ債務者又はその代理人から,同意書とともに日付を空欄にした即時抗告権放棄書及び担保取消決定正本受書を受け取り,これらを添付して申し立てるのが通例とされている(同教材109頁)。

東京地方裁判所民事第9部の案内では,代理人弁護士が職印で同意書を作成する場合は債務者本人の印鑑証明書は不要であるが,債務者から代理人への「担保取消しの同意,担保取消決定正本の受領,担保取消決定に対する即時抗告権の放棄」に関する委任状が必要とされている。
同案内での目安は,申立てから供託原因消滅証明書の交付まで約1週間である。

4 債務者が破産した場合

債務者が破産し破産管財人が選任されているときは,破産管財人から同意を得る。
東京地方裁判所民事第9部の案内でも,担保権利者の破産により破産管財人が選任されている場合は,破産管財人が被申立人になるとされている。

破産法78条2項は,破産管財人が同項各号に掲げる行為をするには裁判所の許可を得なければならないと定め,その12号に「権利の放棄」を掲げている。
担保取消しへの同意は担保に対する権利を放棄する意思表示と解されているから(同教材108頁),破産管財人の同意はこの「権利の放棄」に当たることになる。
もっとも,同条3項は,同条2項7号から14号までの行為について,「最高裁判所規則で定める額以下の価額を有するものに関するとき。」(1号)及び「前号に掲げるもののほか、裁判所が前項の許可を要しないものとしたものに関するとき。」(2号)は許可を要しないとしており,破産規則25条は,この額を「百万円」と定めている。

そのため,東京地方裁判所民事第9部の案内では,破産管財人の資格証明書及び印鑑証明書のほか,担保の額が100万円を超える場合は,担保取消しの同意及び即時抗告権の放棄についての破産裁判所の許可を証する書面が必要とされている(同案内は根拠として破産法78条2項12号,3項1号及び破産規則25条を挙げる)。
許可を得ないでした行為は無効とされる(破産法78条5項本文)から,担保の額が100万円を超えるのに許可書が付いていない同意書では,担保取消しは受けられないと考えられる。

第5 権利行使催告による担保取消し(民事訴訟法79条3項)

1 「訴訟の完結後」の意味

民事訴訟法79条3項は,「訴訟の完結後、裁判所書記官が、担保を立てた者の申立てにより、担保権利者に対し、一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、担保権利者がその行使をしないときは、担保の取消しについて担保権利者の同意があったものとみなす。」と定める。

東京地方裁判所民事第9部の案内は,訴訟の完結とは,「担保権利者の損害賠償請求権の発生する範囲及び額の確定により,損害賠償請求権を算定し,行使するのに支障のない状態になった場合」をいうと説明している。
債権者敗訴の本案判決が確定したとき,又は民事保全の執行が取り消されたときなどに,債務者が権利を行使しないと,債権者はいつまでも担保をそのままにしておかなければならないため,この手続が設けられている(同教材109頁)。

2 保全事件では保全命令の申立ての取下げも必要

東京地方裁判所民事第9部の案内では,民事保全の場合には,本案訴訟が確定していること(本案未提起の場合を除く)に加え,保全命令の申立ての取下げが必要とされている。
同案内は,権利行使催告による担保取消しを申し立てる場合は,先に執行取消し(保全事件の取下げ)をする必要があるとし,取下書と担保取消申立書を同時に提出してもよいが,取下書の処理が先行するとしている。

本案訴訟を提起していない場合について,岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年)377頁は,保全命令の申立てを取り下げ(又は保全命令が取り消され),保全執行が解放されれば「訴訟の完結」に当たるとする。
同頁は,保全執行が解放されたというためには保全命令の申立てを取り下げる必要があるとするのが東京地方裁判所の取扱いであるとしている。

大阪地方裁判所第1民事部の案内も,前提要件として保全事件の取下げと保全執行の解放を挙げ,本案訴訟における債権者の全部又は一部敗訴判決の確定,敗訴的和解,請求の放棄,訴えの取下げ,本案未提起などを例示している。
仮差押えの取下げの手続と効果は,仮差押えの取下げ―債務者の同意の要否,書面での取下げ,執行の解放及び担保の取戻しを参照されたい。

本案で一部勝訴した場合,保全命令の申立てを取り下げると仮差押えの執行も解放される。
本記事では,勝訴部分について強制執行に移る必要があるときは,本執行の手続を先に進めてから取下げと担保取消しに進むべきであると考えられる。

3 本案訴訟の係属中は使えない

「訴訟の完結後」が要件であるから,本案訴訟を提起している場合は,その訴訟が判決の確定や取下げ等で終了しない限り,権利行使催告による担保取消しは利用できない。
東京地方裁判所民事第9部の案内も,本案訴訟を提起している場合は訴訟の終了及び保全事件の取下げが必要であるとしている。

したがって,本案訴訟の係属中に担保を取り戻したいときは,債務者の同意による担保取消しを目指すことになる。
仮差押えの申立てをする段階で,担保に充てる資金が本案訴訟の終了まで固定されうることを前提に資金計画を立てておく必要がある。

4 催告期間と権利が行使された場合

(1) 催告期間の長さ

民事訴訟法79条3項は「一定の期間」とだけ定め,期間の長さを法定していない。
岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年)377頁によれば,東京地方裁判所では,この期間を催告書の送達を受けた日から14日とし,さらに権利行使の証明書の提出期間として5日を加えている。

同書380頁は,東京地方裁判所の催告書の書式として,権利を行使したときは期間の満了日から5日以内に,その手続をとったことの証明書(訴状等の写しを添付したもの)を添えて裁判所に申し出るよう求め,申出がないときは権利を行使しなかったものとして処理する旨の文例を紹介している。
東京地方裁判所民事第9部の案内にある約2か月という目安は,催告書の送達,この催告期間及び担保取消決定の確定までの期間を含んだものと考えられる。

(2) 期間内に権利が行使された場合

権利行使催告を受けた債務者が,定められた期間内に権利を行使したときは,同意は擬制されず,この方法による担保取消しはできない。
ここでいう権利の行使は,民事保全の執行を原因とする損害賠償請求の訴えの提起等を指す(同教材109頁)。
その場合,担保の帰趨は損害賠償請求訴訟の結果に左右されることになる。

岡口・前掲書378頁は,権利行使の着手が催告期間の経過後にされても,担保取消決定の前にその証明があれば同意の擬制を免れるとした東京高等裁判所平成9年8月8日決定(判例時報1638号94頁,判例タイムズ982号296頁,裁判所ウェブサイト未掲載)を紹介している。
本記事では,催告期間が経過しただけで担保取消しが確実になるとは考えず,決定の確定まで債務者の動きに注意しておくべきであると考える。

(3) 担保取消決定の確定

また,権利行使催告による担保取消決定では,債務者は即時抗告権を失わないから,決定が債務者に送達され,即時抗告の申立てがないまま1週間を経過して確定することが必要である(同教材109頁,民事訴訟法332条)。

5 必要書類と所要期間

東京地方裁判所民事第9部の案内では,本案訴訟を提起している場合は訴訟が終了していることを示す文書(判決正本及び確定証明書,又は訴状の写しを添付した訴えの取下証明書)を,本案訴訟を提起していない場合はその旨を申立書に記載することとされている。
郵便切手は,被申立人1人当たり1,220円の2倍の額が必要とされている。

同案内での目安は,申立てから供託原因消滅証明書の交付まで約2か月であり,債務者への催告書の送達の状況によって事件ごとに異なるとされている。

第6 担保の簡易の取戻し(民事保全規則17条)

1 要件

民事保全規則17条1項は,「保全執行としてする登記若しくは登録又は第三債務者に対する保全命令の送達ができなかった場合その他保全命令により債務者に損害が生じないことが明らかである場合において、法第四十三条第二項の期間が経過し、又は保全命令の申立てが取り下げられたときは、債権者は、保全命令を発した裁判所の許可を得て、法第十四条第一項の規定により立てた担保を取り戻すことができる。」と定める。

要件は,次の2つを両方満たすことである。
① 登記・登録又は第三債務者への送達ができなかった場合その他保全命令により債務者に損害が生じないことが明らかであること
② 保全執行の期間(債権者に保全命令が送達された日から2週間。民事保全法43条2項)が経過し,又は保全命令の申立てが取り下げられたこと

損害が生じないことが明らかな場合に限られるから,執行によって債務者の財産の処分が現実に制限された後は,原則として担保取消しの手続によることになると考えられる。

2 運用基準

(1) 登記又は登録による執行

司法研修所の教材に資料として掲載された「担保取戻しの運用基準」(同教材114頁)では,不動産等の登記又は登録による仮差押えについて,①発令前に保全命令の申立ての取下げがあった場合,②登記(登録)嘱託前に取下げがあった場合,③登記(登録)嘱託が却下された場合において取下げがあり又は執行期間が経過したとき,に許可するとされている。
債務者に対する命令の告知の有無は,許可の要件として考慮しないとされている(同頁)。

(2) 第三債務者への送達による執行

預金債権などの債権仮差押えについては,①発令前の取下げ,②第三債務者等への送達着手前の取下げ,③送達が不能となった場合において取下げがあり又は執行期間が経過したとき,に許可するとされている(同教材114頁)。

注意すべきなのは,備考欄に「第三債務者の提出した陳述書に債権が不存在である旨の記載があっても,取戻しは認めない」とあることである(同頁)。
仮差押命令が第三債務者に送達された以上,陳述書で預金がないと回答されても,簡易の取戻しではなく担保取消しの手続によることになる。

(3) 執行官による執行

動産や自動車の取上げなど執行官による執行については,①発令前の取下げ,②執行申立て前の取下げ又は執行期間の経過,③執行官が執行に着手する前の取下げ又は執行期間の経過(着手していないことが執行調書等により明らかな場合に限る)に許可するとされている(同教材114頁)。

東京地方裁判所民事第9部の案内も,執行官が執行不能の認定をするために物件の開錠や立入りなど何らかの強制的な処分をしている場合には,担保取戻しではなく担保取消しの申立てをする必要があり,執行に着手しているかどうかがポイントになるとしている(占有移転禁止の仮処分についての説明)。
同案内にも,民事第9部における担保取戻しの運用基準の表が掲載されている。

3 申立書と添付書類

簡易の取戻しの許可を求める申立ては,保全命令事件の表示,当事者及び代理人の氏名等,申立ての趣旨及び理由等を記載した書面でしなければならない(民事保全規則17条2項)。
申立書には,原則として保全命令の正本を添付し,事件の記録上明らかである場合を除き,保全命令により債務者に損害が生じないことが明らかであることを証する書面を添付しなければならない(同条3項)。

東京地方裁判所民事第9部の案内では,申立書の正副2通と担保取戻許可正本の受書を提出し,事由に応じて,保全命令申立ての取下書,保全命令の決定正本,執行機関の不受理証明書,執行着手前執行取下げ証明書等を添付するとされている。
同案内では,担保取戻許可申立ての場合,供託原因消滅証明申請書は不要とされている。

東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)では,担保の簡易の取戻しの手続は,令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外であり,書面で申し立てる必要がある。
担保取消しの手続も,強制執行停止に係る担保取消し等の一部を除き,同様に全面電子化の対象外とされている。

簡易の取戻しの所要期間について,東京地方裁判所及び大阪地方裁判所の案内には記載がない。
大阪地方裁判所第1民事部のウェブサイト(令和8年9月17日確認)には,担保取消しの手続の頁はあるが,担保の簡易の取戻しを独立して説明した頁や,担保取戻許可申立書の書式は掲載されていない。

4 債務者が債権者の権利を承継した場合

債務者が担保に関する債権者の権利を承継したときは,債務者が,保全命令を発した裁判所の許可を得て担保を取り戻すことができる(民事保全規則17条4項)。
東京地方裁判所民事第9部の案内では,相続,法人の合併,債権譲渡,差押・転付命令による承継が例として挙げられている。

第7 担保取消決定確定後の供託金の払渡し

1 供託原因消滅証明書の交付を受ける

担保提供者は,裁判所から供託原因消滅証明書(又は担保取消決定正本及び確定証明書)の交付を受け,これを供託物払渡請求書に添付して,供託書正本とともに供託所に提出し,供託金の取戻しをする(同教材109頁)。

東京地方裁判所民事第9部では,担保取消しの申立ての際に供託原因消滅証明申請書を併せて提出する扱いである。
大阪地方裁判所第1民事部の案内では,担保取消決定の確定(裁判所から告知される)後に,供託原因消滅証明申請書2通(1通に収入印紙150円を貼付)と原因消滅証明書の受領書を提出するとされている。

2 法務局への供託物払渡請求

供託物の取戻しをしようとする者は,供託物払渡請求書を提出し(供託規則22条1項),取戻しをする権利を有することを証する書面を添付しなければならない(同規則25条1項本文)。
供託原因消滅証明書は,この書面に当たる。
払渡請求書又は代理人の権限を証する書面に押された印鑑について,原則として市町村長又は登記所の作成した印鑑証明書を添付し(同規則26条1項),代理人によって請求する場合は代理人の権限を証する書面を添付する(同規則27条1項)。

東京法務局の「裁判上の担保(保証)」に関するQ&Aは,再供託に先立つ取戻請求の例として,裁判所発行の不受理証明書のほか,発行から3か月以内の供託者の印鑑証明書,法人であれば資格証明書,代理人による請求であれば委任状等が必要となるとし,不明な点は請求前に供託所に確認するよう案内している。

3 受取方法

供託金の払渡しを受ける方法は,払渡請求書に記載して選択する(供託規則22条2項5号)。
① 預貯金振込みの方法
② 国庫金振替の方法
③ 小切手の振出しの方法
④ 隔地払の方法

預貯金振込み又は隔地払の方法を選んだときは,供託官は日本銀行に払渡しの手続をして請求者に通知し(供託規則28条2項),小切手の振出しの方法を選んだときは,請求者に受領を証させて小切手を振り出して交付する(同条4項)。

4 簡易の取戻しの場合

簡易の取戻しの許可を得た債権者は,その許可書と供託書正本を供託物払渡請求書に添付して供託所に提出し,供託物の取戻しをする(同教材110頁)。
担保取消決定の確定や供託原因消滅証明書の交付を待つ必要がない点で,担保取消しより手順が少ない。

第8 支払保証委託契約(ボンド)と担保の変換

1 ボンドで担保を立てた場合の解放手続

担保は,金銭等を供託する方法のほか,裁判所の許可を得て,銀行等との間で支払保証委託契約を締結する方法でも立てることができる(民事保全法4条1項,民事保全規則2条)。
この契約は,担保取消しの決定が確定した時又は民事保全規則17条1項若しくは4項の許可がされた時に効力が消滅するものでなければならない(同規則2条2号)。

したがって,支払保証委託契約の場合も,担保を解放するための手続は,担保取消し(民事訴訟法79条1項~3項)又は簡易の取戻し(民事保全規則17条)であり,供託の場合と変わらない。
東京地方裁判所民事第9部及び大阪地方裁判所第1民事部は,支払保証委託契約の場合の担保取消申立書,支払保証委託契約原因消滅証明申請書及び担保取戻許可申立書の書式をそれぞれ用意している。
違いは,法務局への供託物払渡請求がない点であり,契約の終了に伴う銀行等との手続は,契約をした銀行等に確認する必要がある。

2 保証料は返ってこないことがある

担保取消しの後に支払済みの保証料がどう扱われるかは,契約の内容による。
銀行が裁判上の担保のために締結する支払保証委託契約について,保証料の返戻の有無を明らかにした銀行の公表資料は確認できなかった。

これに対し,損害保険ジャパン株式会社が引受保険会社となり,全国弁護士協同組合連合会の所属員である弁護士が受任する事件で使われる民事保全の支払保証委託契約(ボンド)については,公表資料がある。
同社(当時の商号は損害保険ジャパン日本興亜株式会社)の令和元年9月26日付けのお知らせ及び全国弁護士協同組合連合会のパンフレット(令和8年9月版)では,申込時に支払う保証料は5年までの保証料であり,担保事由が5年より早く止んだ場合でも保証料の返還(清算)は行わないとされている。
同パンフレットは,担保取消しができる場合は,担保取消決定正本及び確定証明書又はこれに代わる支払保証委託契約原因消滅証明書を保険会社(取扱代理店)に交付し,保証証券の原本を返還する必要があるとしている。

3 供託した担保を支払保証委託契約に変換する方法

民事訴訟法80条は,「裁判所は、担保を立てた者の申立てにより、決定で、その担保の変換を命ずることができる。ただし、その担保を契約によって他の担保に変換することを妨げない。」と定め,この規定は保全命令の担保に準用される(民事保全法4条2項)。

東京地方裁判所民事第9部の「その他の手続」の案内(令和8年9月17日確認)は,担保物の変換の手続の流れを,概ね次のように説明している。
① 担保決定をした裁判所に担保物変換申立書を提出する(支払保証委託契約に変換する場合で,契約先の銀行等が裁判所の書面を要求するときは,支払保証委託契約による立担保の許可申請書も提出する)。
② 裁判官の許可(内諾)があると,書記官から連絡がある。
③ 新たな担保を供託し,又は支払保証委託契約を締結して,供託書正本又は支払保証委託契約締結証明書を裁判所に提出する。
④ 担保物変換決定が発令され,申立人に決定正本が交付され,債務者に通知される。
⑤ 担保物変換決定正本を法務局(供託所)や銀行等に提出するなどして,変換の対象となった担保物を取り戻し,又は保証委託契約を解除する。

岡口・前掲書57頁~59頁も,担保物の変換を,担保提供者の申立てにより裁判所が決定で担保を他の担保に変換する手続として紹介している。

もっとも,変換によって供託金が手元に戻っても,新たな保証の引受けに同額の預金等が求められれば,資金の固定は解消しない。
損害保険ジャパン株式会社の前記お知らせも,銀行が保証書を発行する場合は,一般的に保証希望額までの(定期)預金が必要になると注記している。
また,前記の保険会社のボンドを既に供託した担保の変換に使えるかどうかを明示した公表資料は確認できなかった。
変換で資金繰りを改善できるかどうかは,申立ての前に,保証を引き受ける銀行等の条件を確認して判断する必要がある。

第9 所要期間の目安と注意点

1 東京地方裁判所の目安

東京地方裁判所民事第9部の案内では,担保取消しの申立てをしてから供託(支払保証委託契約)原因消滅証明書を交付するまでにかかる日数の目安は,次のとおりである。
① 同意(民事訴訟法79条2項):約1週間
② 事由消滅(同条1項):約1か月
③ 権利行使催告(同条3項):約2か月

記録が民事第9部に保管されていない場合は記録の取寄せにさらに日数を要し,申立書に不備がある場合や被申立人に送達できない場合は,その間手続は進行しないとされている。
これらは申立てから証明書交付までの目安であり,その後の法務局での払渡しの期間は含まれていない。

2 大阪地方裁判所

大阪地方裁判所第1民事部(保全部)の担保取消しの案内は,事由ごとの必要書類と担保取消申立書等の書式(金銭供託の場合と支払保証委託契約の場合)を示しているが,所要日数の記載はない(令和8年9月17日に同部の各頁を改めて確認した)。
大阪地方裁判所で担保取消しをする場合の期間の見通しは,東京地方裁判所の目安を参考にしつつ,担当部に確認するのが確実である。

3 資金計画上の注意点

担保は,本案訴訟が終わるまで取り戻せないことが多い。
債務者の同意が得られない場合,本案訴訟の係属中は事由消滅にも権利行使催告にも当たらないから,担保に充てた資金は本案訴訟の終了まで固定されうる。
そのため,仮差押えを申し立てる段階で,担保の額だけでなく,資金が戻るまでの期間も見込んでおく必要がある。
途中で担保を支払保証委託契約に変換する方法(第8の3)もあるが,前記のとおり,それで資金が戻るとは限らない。

債務者が仮差押えに対して保全異議等で争った場合の手続は,仮差押えを受けた債務者の対抗手段―保全異議,起訴命令,事情変更による保全取消し及び保全抗告を参照されたい。

第10 関連記事

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⑪ mintsを利用できる裁判所と対象事件―旧法事件,少額訴訟,支払督促及び対象外手続

第11 出典・参考資料

1 法令・裁判所規則

① 民事保全法(平成元年法律第91号)4条,14条,43条
② 民事訴訟法(平成8年法律第109号)77条,79条,80条,332条
③ 供託規則(昭和34年法務省令第2号)22条,25条~28条
④ 破産法(平成16年法律第75号)78条2項・3項・5項
⑤ 民事保全規則(平成2年最高裁判所規則第3号)2条,17条
⑥ 破産規則(平成16年最高裁判所規則第14号)25条

2 裁判例

① 最高裁判所第一小法廷平成13年12月13日決定(平成13年(許)第21号,民集55巻7号1546頁)
② 東京高等裁判所平成9年8月8日決定(判例時報1638号94頁,判例タイムズ982号296頁,裁判所ウェブサイト未掲載。岡口・前掲書378頁による紹介)

3 裁判所等の案内

① 東京地方裁判所民事第9部「担保取消しの手続」
② 東京地方裁判所民事第9部「担保の簡易の取戻しの手続」
③ 東京地方裁判所民事第9部「その他の手続」(担保物の変換)
④ 大阪地方裁判所第1民事部「担保取消しの手続」
⑤ 東京法務局「裁判上の担保(保証)」Q&A
⑥ 損害保険ジャパン日本興亜株式会社「民事保全『支払保証委託契約(ボンド)』制度の開始」(令和元年9月26日)
⑦ 全国弁護士協同組合連合会「保全事件『支払保証委託契約(ボンド)』制度」パンフレット(令和8年9月版)

4 文献

① 司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年3月1日発行)107頁~110頁(第10 担保の取消し・取戻し),114頁(担保取戻しの運用基準 Ⅰ 仮差押)
② 岡口基一『民事保全・非訟マニュアル―書式のポイントと実務』(ぎょうせい,2019年)57頁~59頁(担保物の変換),377頁~380頁(権利行使催告)