第1 裁判所書記官とは
1 裁判の記録と手続を担う専門職であること
裁判所書記官は,事件記録の作成・保管や手続上の事務を担い,裁判官と協働して裁判の進行を支える専門職である。
裁判所事務官として採用された時点で直ちに書記官になるわけではなく,通常は採用後の勤務,総合研修所の入所試験及び養成課程を経て任命される。
仕事内容を知りたい方は第2,書記官を目指す方は第4,担当事件の連絡について確認したい方は第6を参照されたい。
裁判所書記官は,裁判所の事件に関する記録の作成・保管,法律で定められた手続上の事務及び裁判官の調査補助を担当する裁判所職員である。
法廷の発言を書き取るだけの職ではなく,手続法の知識を用いて,裁判が適正かつ円滑に進むよう支える職である。
本記事は,令和8年10月8日に確認した法令と裁判所の公表資料に基づき,仕事内容,近接する職種との違い,養成経路及び関連資料を整理する。
仕事内容,養成経路及び給与に関する説明資料は,同月10日に改めて確認した。
身分及び養成経路に関する裁判所の公式説明と総研規程は,同月13日に再確認した。
書記官が勤務する最高裁・高裁・地裁・家裁・簡裁の役割と,裁判官や他の職員との関係は,裁判所の組織と職種の全体像で整理している。職種の違いを確かめた上で,本記事の記録・手続に関する職務へ進むとよい。
裁判所法60条2項は,事件に関する記録その他の書類又は電磁的記録の作成・保管等を,書記官の事務として定めている。
同条3項は,裁判官の命を受けて,事件に関する法令・判例その他必要な事項の調査を補助することを定めている。
紙の書類だけを扱う職という説明では,現行法が対象とする電磁的記録を含む職務を十分に表せない。
2 裁判官と協働するが,役割は異なること
裁判所書記官は,その職務を行うについて裁判官の命令に従うが,裁判官と同じ職ではない(裁判所法60条4項)。
裁判の判断を担う裁判官に対し,書記官は記録と手続上の事務を担い,裁判運営を支える。
また,同条5項は,口述の書取等に関する裁判官の命令について,書記官が作成又は変更を正当でないと認める場合には,自己の意見を書き添え,又は併せて記録できることを定めている。
職務上の命令に従うことと,記録の作成等について法律が認める意見の記載を区別する必要がある。
3 裁判所書記官は国家公務員か
裁判所書記官は,特別職の国家公務員である。
裁判所の採用Q&Aは,裁判所の採用試験が人事院の国家公務員採用試験とは別に実施され,採用された職員は特別職の国家公務員になると説明している。
もっとも,裁判所職員臨時措置法により,裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員には,給与,任免,服務等に関する一般職の国家公務員の法律が,所定の除外・読替えの下で準用される。
採用試験の「一般職」という区分と,国家公務員法上の身分区分を混同しないことが大切である。
第2 裁判所書記官の仕事内容
1 記録の作成・保管と手続上の事務
裁判所の裁判所書記官の紹介は,法廷でのやり取りを法律的に構成して必要事項を調書に記載することや,執行文を付与することを,具体的な仕事として挙げている。
調書は,手続で何が行われたかを証明するための文書であり,会話の文字起こしと同じ目的・構成で作るものではない。
個々の調書の記載事項や証明力は,民事・刑事・家事等の手続に応じて確認する必要がある。
送達も,裁判の進行に関わる重要な事務である。
補充送達,付郵便送達,公示送達及びシステム送達の仕組みについては,民事訴訟の送達で,手続と要件を別に整理している。
2 裁判の準備と進行を支える仕事
前記の裁判所の紹介では,民事訴訟において,訴状の不備の補正や,期日に向けた弁護士・当事者の準備を促すことが挙げられている。
刑事事件でも,検察官や弁護人との連絡等を通じて準備を支え,裁判員裁判では候補者の呼出しや選任手続の調書作成等を担当する。
家事事件・少年事件にも,事件の種類に応じた書記官の事務がある。
このような連絡・調整は,単なる日程管理にとどまらない。
裁判所職員総合研修所の養成及び研修・研究についても,法律知識や調書作成技能に加えて,裁判官との連携及び当事者等との連絡・調整を通じ,裁判を円滑に進める能力を養成の対象としている。
裁判所の書記官紹介を事件の種類ごとに整理すると,次のようになる。具体的な担当事務は配属先や事件の種類により異なる。
| 事件の分野 | 紹介されている仕事の例 |
|---|---|
| 民事事件 | 提出された訴状等の確認,補正の促し,答弁書等の提出を促すことによる裁判の準備 |
| 刑事事件 | 公判に向けた準備・進行を支える事務。裁判員裁判では裁判員の選任手続に関する事務 |
| 家事・少年事件 | 事件記録と手続に関する事務を通じ,家庭裁判所における事件の進行を支える仕事 |
3 手続案内と,担当事件についての連絡
裁判所の紹介は,来庁者に手続の流れや申立ての方法を説明することも,書記官の仕事に含めている。
手続案内,担当事件についての連絡及び裁判の判断は,それぞれ役割が異なる。
書記官は一方当事者の代理人ではなく,書記官からの連絡を,その当事者の主張が採用されるという意味に受け取るべきではない。
4 公証機能とコートマネジメントとは何か
公証機能は,調書などの記録を作成し,手続で行われたことを公に証明する仕事を指す。
これに対し,コートマネジメントは,訴状の補正,期日に向けた準備の促し及び連絡・調整を通じて,適正・迅速な裁判の進行を支える仕事として理解できる。
裁判所の書記官の公式紹介は,この両面に関わる具体的な職務を説明している。
| 側面 | 民事裁判での仕事の例 |
|---|---|
| 公証機能 | 期日で行われたことを法律的に構成し,必要な事項を調書に記載する |
| コートマネジメント | 訴状の不備の補正や,次回の期日に向けた書面・証拠の準備を促す |
書記官は,期日の内容を把握することによって,記録の作成と次の準備の双方を支える。
具体的な段階ごとの仕事と,平成12年の指針を現在の制度と読み分ける方法は,裁判所書記官の民事裁判での仕事で説明している。
デジタル化後の仕事を考える際は,受付・送達等の定型的な事務と,争点整理への関与等の非定型的な事務を分け,書記官の専門性と裁判官との役割分担を検討することが重要である。
令和6年度の開示資料に示された検討視点は,書記官事務のデジタル化で何が変わるか―3つの検討視点と定型・非定型事務(AI作成)で整理している。
第3 裁判所事務官等との違い
1 事務官と書記官の違いは何か
書記官は,記録の作成・保管や裁判の準備・進行などを担う専門職であり,事務官は,裁判部での事務の補助や司法行政部門等の事務を担当する。
両者の違いは,単に同じ職場で担当する作業が違うというだけでなく,官職と職務上の根拠が異なる点にある。
裁判所法58条は,裁判所事務官について,上司の命を受けて裁判所の事務を掌ると定めている。
これに対し,書記官の職務は,同法60条により,事件記録の作成・保管等,法律上の事務及び裁判官の調査補助として定められている。
同じ裁判所の職員でも,官職と担当職務の根拠が異なる。
裁判所事務官の具体的な仕事内容,採用区分及び働き方は,裁判所事務官とは―仕事内容,書記官との違い,採用と働き方で説明している。
通常の養成経路では,まず裁判所事務官として採用され,勤務と研修を経て書記官を目指す。
したがって,「裁判所事務官採用試験に合格したこと」と「裁判所書記官に任命されたこと」は同じではない。
裁判所職員全体の職種,身分及び定員は,裁判所における一般職の職員を参照されたい。
2 裁判官,家庭裁判所調査官及び裁判所速記官との違い
主な違いは,次のとおりである。
家庭裁判所調査官と裁判所速記官の法定職務については,裁判所法61条の2及び60条の2に基づいている。
| 職種 | 主な役割 | 書記官との違い |
|---|---|---|
| 裁判官 | 事件を審理し,裁判をする。 | 書記官は記録・手続の事務等を担い,裁判運営を支える。 |
| 裁判所事務官 | 上司の命を受けて裁判所の事務を担当する。 | 採用後,所定の養成等を経て書記官を目指す経路がある。採用時から書記官になるわけではない。 |
| 家庭裁判所調査官 | 家事・少年事件等に必要な調査その他法律上の事務を担当する。 | 書記官の事件記録・手続事務とは,専門分野と法定職務が異なる。 |
| 裁判所速記官 | 事件に関する速記と,これに関する事務を担当する。 | 書記官の調書作成を,速記又は発言の逐語的な記録と同一視できない。 |
第4 裁判所書記官になるには
1 どうすれば裁判所書記官になれるのか
通常は,裁判所事務官として採用され,一定期間の勤務後に書記官養成課程の入所試験を経て,養成課程を修了し,裁判所書記官に任命される。
裁判所の採用Q&Aと総研の養成案内に基づく経路を,下表に整理した。
外部から裁判所職員になるための採用試験と,採用後に養成課程へ入るための入所試験を区別して読む必要がある。
| 段階 | 内容 | 混同しやすい点 |
|---|---|---|
| 採用 | 裁判所事務官の採用試験を受け,採用される。 | 採用試験の合格・採用は,書記官任命とは異なる。 |
| 採用後の勤務 | 裁判所職員として一定期間勤務する。 | 勤務開始と養成課程への入所は同じ時点とは限らない。 |
| 入所試験 | 総合研修所の書記官養成課程入所試験に合格する。 | 職員採用試験とは別の試験である。 |
| 養成・任命 | 養成課程を修了し,裁判所書記官に任命される。 | 第一部・第二部の期間は,採用から任命までの総期間ではない。 |
採用試験の区分,受験資格及び日程は,受験する年度の公式案内で確認する必要がある。
入所試験についても,採用試験の合格率をそのまま入所試験の合格率として使うことはできない。
受験資格,試験科目,日程及び採用までの流れは,裁判所職員採用試験とはで説明している。
年度別の採用試験資料は,裁判所職員採用試験の倍率・合格最低点・採用者数にまとめている。
2 裁判所書記官になるには何年かかるか
養成課程の期間は,第一部が約1年,第二部が約2年である。
この期間に入所前の勤務期間は含まれないため,「採用から1年又は2年で書記官になれる」という意味ではない。
総合研修所の養成案内では,法学部卒業者等を第一部,それ以外の者を第二部の対象として説明している。
法律科目,書類の審査・受付,調書の作成,進行管理等を学び,各地の裁判所での実務修習も行う。
裁判所職員としての採用から書記官任命までの総年数は,入所までの勤務や入所試験の受験・選考等にも左右される。
前記の公式案内から,全国の採用者に共通する総年数を示すことはできない。
また,裁判所職員総合研修所規程7条は,入所期間を第一部1年,第二部2年としつつ,特に必要があるときは最高裁判所が異なる期間を定められるとしている。
総研の組織,入所試験及び研修の詳細は,裁判所職員総合研修所の書記官養成課程で説明している。
法学部卒業者でなければ,裁判所書記官になれないのか。
法学部卒業者等を主な対象とする第一部のほか,それ以外の者を主な対象とする第二部がある。法学部卒業者でないことだけを理由に,書記官への養成経路が閉ざされているわけではない。ただし,職員としての採用,入所試験の受験要件及び選考は別に確認する必要がある。
書記官になるには,司法試験に合格する必要があるのか。
裁判所が説明する通常の養成経路は,裁判所事務官としての採用,採用後の勤務,書記官養成課程の入所試験及び養成課程の修了を経るものである。司法試験の合格と司法修習を経て法曹を目指す経路とは異なる。
第5 役職と給与の調べ方
1 書記官の官名と,首席・次席・主任等の役職
裁判所書記官という官名と,首席書記官,次席書記官,主任書記官,訟廷管理官等の役職は,分けて理解する必要がある。
役職の職務,設置裁判所及び令和6年に新設された裁判部企画官については,裁判所書記官の役職で,規則・通達に基づいて整理している。
指導監督,訟廷事務及び査察について詳しく調べる場合は,首席書記官の職務を参照されたい。
2 裁判所書記官の年収はいくらか
裁判所書記官の年収は,俸給の級・号俸,俸給の調整額,勤務地に応じた手当,賞与及び個人に支給される諸手当等によって異なる。
採用案内にある事務官の初任給や,首席・主任などの役職名だけから,一律の年収又は書記官全体の平均年収を示すことはできない。
司法行政部門と裁判所書記官等の役職の対応関係は,職制上の段階を軸とした制度上の対応を整理した記事であり,個人の年収の一覧ではない。
指定職を除く裁判所職員の級別定数は,予算上の各級の配置枠を扱っている。
配置枠を実際の在職者の人数とみなして平均年収を計算したり,過年度の役職・号俸を現在の給与へ当てはめたりすることはできない。
給与の年額を確かめるときは,基準となる年,その年の各月の支給額,賞与等をそろえ,控除前の給与収入と手取りを区別する必要がある。
初任給,賞与の案内及び二重加算を避ける確認順序は,裁判所事務官の給料・年収の第4の1を参照されたい。
事務官の初任給と,書記官に任命された後の給与も区別する必要がある。令和6年10月23日の第63回東京地方裁判所委員会議事概要メモ3頁では,同地裁の人事課長が,書記官には通常の俸給に加えて俸給の調整に当たる支給があり,書記官任命後のもので,新規採用の時点では付かない旨を説明している。これは同日の説明であり,令和8年の一律の支給率や個人の年収を示す資料ではない。
公表された事務官の初任給,賞与及び諸手当の読み方は,裁判所事務官の給料・年収を参照されたい。
首席書記官の年収も,役職名だけで全国一律に決まるものではない。
最高裁判所の各首席書記官と下級裁判所の首席書記官を区別し,適用される俸給表,級・号俸,支給対象となる手当及び対象年を確認する必要がある。
首席書記官の仕事内容・権限と,官職の職制上の段階は,給与の年額とは別の説明である。
年収を比べる際には,年間に支給された月々の給与と期末・勤勉手当等を合計した額と,税・共済掛金等の控除後の手取りを区別する必要がある。
給与資料に示された月額と,既にその月額に含まれる手当を再び加算しないよう,何を含む数字かを確認する。
3 裁判所書記官は勝ち組か―進路を比較する視点
「裁判所書記官は勝ち組か」という評価は,給与だけでなく,法律実務の専門性,仕事内容,異動,勤務条件及び本人の希望によって異なる。
裁判所の公式案内は,能力と勤務成績に応じた昇進の道や,職員の養成・研修制度を説明しているが,それだけで希望する勤務地,昇任時期又は生涯年収が保障されるわけではない。
進路を考える場合は,①記録作成・手続運営・当事者等との連絡調整という仕事内容,②書記官への養成経路,③給与・休暇等の勤務条件,④異動の範囲を分けて確認すると比較しやすい。
書記官に任命されることと,その後に首席・次席・主任等の役職へ進むことも,異なる段階の話である。
第6 裁判所へ連絡するときの確認事項
1 事件と用件を先に整理すること
担当事件について裁判所へ問い合わせる際には,①裁判所名と担当部・係,②事件番号,③自分の立場,④確認したい手続又は連絡事項を整理しておくと,用件を伝えやすい。
例えば,書類の提出方法,通知の内容,期日に向けた準備等について,どの連絡又は書類のどの部分を確認したいかを具体的にする。
これは連絡を円滑にするための実務上の目安であり,個々の申請に必要な事項を一律に定めたものではない。
連絡の前には,次のように用件を分けておくと確認すべき箇所を整理しやすい。これは連絡のための実務上の目安であり,補正事項や申請要件を一律に定めるものではない。
| 用件 | 確認しておく事項 |
|---|---|
| 補正についての連絡 | 対象書類,指摘された箇所,補正の方法,提出先及び期限。意味が不明な場合は,どの記載をどう直すよう求められたかを具体的に尋ねる。 |
| 期日・提出についての連絡 | 届いた通知の日付・内容,事件番号,指定された期日又は期限,担当部・係。 |
| 事件記録の閲覧・謄写 | 裁判所名,事件番号,申請する人の立場,希望する記録の範囲及び事前予約等の案内。民事事件記録の閲覧・謄写手続も参照されたい。 |
2 手続上の確認と,主張・立証の検討を分けること
担当係との手続上の確認と,自分に有利な主張・証拠の選択や紛争解決方針の検討は,分けて行う必要がある。
書記官から補正や準備に関する連絡を受けた場合も,連絡の対象となる手続事項と,裁判官による判断を区別して理解する。
通知の期限や期日に関する連絡は,届いた書類の記載を確認し,分からない箇所を担当係に具体的に尋ねることが重要である。
連絡をしたことだけで期限や期日が変更されたと考えず,変更の有無と内容を確認する必要がある。
補正の連絡については,書類の形式・添付資料等の確認と,請求の当否や証拠評価を分けて受け止める必要がある。提出前に不明点を具体的に確認し,対応した書類と連絡内容を手元に残しておくと,後の確認に役立つ。補正に応じたことだけで,請求が認められると考えることはできない。
第7 出典・参考資料
① e-Gov法令検索「裁判所法」58条,60条,60条の2及び61条の2。https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
② e-Gov法令検索「裁判所職員臨時措置法」。https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000299
③ 裁判所「裁判所書記官」。https://www.courts.go.jp/saiban/zinbutu/syokikan/index.html
④ 裁判所「採用Q&A」。https://www.courts.go.jp/saiyo/sikenjoho/siken/qa/index.html
⑤ 最高裁判所「養成及び研修・研究について」。https://www.courts.go.jp/saikosai/syokuinkensyujo/youseikensyukenkyu/index.html
⑥ 東京地方裁判所委員会「第63回議事概要メモ」1頁(発言者の表示)及び3頁(書記官の給与に関する説明)。https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/2024/kouhou/63_tokyotisaiiinkai_gijiroku.pdf
民事立会部の仕事の具体例については,最高裁判所事務総局の指針(平成12年5月)とその解説も参照した。
当時の事務手順と現在の適用法・運用は区別して読む必要がある。