民事事件記録一般の閲覧・謄写手続


目次
1 総論
2 訴訟記録閲覧時のメモ取りの可否
3 大阪地裁における事件記録の謄写手続
4 東京地裁等における事件記録の謄写手続
5 謄写事業の担当者
6 民訴法92条1項の閲覧等制限決定のメモ書き
7 裁判記録の電子化に関する国会答弁
8 利害関係を疎明した第三者による,破産事件,家事事件及び非訟事件の記録の閲覧謄写
9 関連記事その他

1 総論
(1) 民事事件の場合,事件記録の「閲覧」自体は誰でもできます(民事訴訟法91条1項のほか,外部HPの「訴訟の記録も,誰でも閲覧できます」参照)。
(2) 事件記録の謄写については,当事者及び利害関係を疎明した第三者しかできません(民事訴訟法91条3項)。
(3) 事件記録の閲覧謄写に関する裁判所内部の手続は「事件記録等の閲覧等に関する事務の取扱いについて」(平成9年8月20日付の最高裁判所総務局長の通達)(略称は「閲覧等通達」です。)に書いてあります。

2 事件記録閲覧時のメモ取りの可否
(1) 利害関係のない第三者が民事事件の事件記録を閲覧した際にメモを取ることができるかどうかについては,各地の裁判所によって取扱いに違いがあるみたいです(君の瞳に恋してる眼科ブログ「訴訟記録閲覧時のメモ取り行為と,裁判の公開原則,レペタ裁判の関係」参照)。
(2) 平成29年12月22日付の司法行政文書不開示通知書によれば,民事訴訟法91条1項に基づき,第三者が民事訴訟記録を閲覧する際,詳細なメモを取ることが禁止されていることが分かる文書は存在しません。

3 大阪地裁における事件記録の謄写手続
(1) 大阪地裁の場合,具体的な窓口は以下のとおりです(一般財団法人司法協会HPの「記録謄写(複写)」のほか,全国弁護士協同組合HPにある,大阪弁護士協同組合の「当組合おすすめお役立ち情報」参照)。
① 本庁本館及び第2別館(主として,大阪地裁民事部及び刑事部,並びに大阪高裁刑事部)に入居している民事部・刑事部の事件記録の場合
「本館」1階に入居している司法協会大阪出張所(電話:06-6363-1290)
② 本庁の第1別館(主として,大阪高裁民事部及び大阪簡裁)に入居している民事部・刑事部の事件記録の場合
「第1別館10階」に入居している司法協会大阪出張所(電話:06-6363-1290)
③ 大阪地裁第14民事部(大阪地裁執行センター)の事件記録の場合
〒532-8503
大阪市淀川区三国本町1-13-27
大阪地方裁判所執行部庁舎3階
司法協会新大阪出張所(電話:06-6350-6987)
④ 大阪家裁の事件記録の場合
〒540-0008
大阪市中央区大手前4-1-13
大阪家裁庁舎3階
司法協会大阪出張所家裁分室(電話:06-6944-7571)
⑤ 大阪地家裁堺支部の事件記録の場合
〒590-8511
大阪府堺市堺区南瓦町2番28号
大阪地家裁堺支部庁舎6階
司法協会堺出張所(電話:072-227-4781)
⑥ 大阪地家裁岸和田支部の事件記録の場合
〒596-0042
大阪府岸和田市加守町4-27-2
大阪地家裁岸和田支部庁舎1階
司法協会岸和田出張所(電話:072-441-4374)
(2)ア 大阪地裁で郵送により事件記録の謄写申請をする場合,堺支部及び岸和田支部も含めて,閲覧謄写票「だけ」を係属部に郵送すれば足りるものの,返送用住所ラベル及び複写伝票も送付することが望ましいです。
    後日,謄写した記録と一緒に請求書及び郵便局の振込用紙が司法協会の出張所から郵送されてきますから,郵便局の振込用紙を使って,複写料金及び送料を支払えばいいです。
イ 独立簡易裁判所(地家裁支部に併設されている簡易裁判所ではなく,単独で設置されている簡易裁判所)の場合,司法協会の職員が常駐しているわけではないため,週に1回とか,月に1回といったペースで,裁判所を訪問するにすぎません.
    そのため,独立簡易裁判所で事件記録の謄写申請をする場合,非常に時間がかかることがありますところ,1枚150円の収入印紙を支払ってもいいのであれば,裁判所書記官に対し,事件記録の謄本交付申請(民事訴訟費用等に関する法律別表第二・2項)をした方がいいです。
(3) 令和5年10月1日,司法協会の謄写料金は,白黒コピーは1枚45円から50円となったものの,カラーコピーは1枚80円のままです。
(4) 大阪弁護士会館の北近くの秋田ビル1階に入居している西村謄写館は,主として「検察庁の」刑事記録の謄写をやっています。


4 東京地裁等における事件記録の謄写手続
(1)ア 東京地裁本庁で郵送により事件記録の謄写申請をする場合,司法協会が指定する書式での委任状「だけ」を司法協会に郵送すればいいです(閲覧謄写票の送付は不要です。)。
イ 東京地裁HPに「執行事件記録の閲覧謄写申請に際してのご注意」が載っています。
(2) 神戸地裁本庁で郵送により事件記録の謄写申請をする場合,閲覧謄写票「だけ」を兵庫県弁護士協同組合に郵送すればいいです(兵庫県弁護士協同組合HP「裁判所における設置場所・謄写の形態及び特別料金一覧」参照)。
(3) 名古屋地裁本庁で郵送により事件記録の謄写申請をする場合,愛知県弁護士協同組合が指定する書式での「記録謄写申請」と題する書面「だけ」を愛知県弁護士協同組合に郵送すればいいです(閲覧謄写票の送付は不要です。)。

5 謄写事業の担当者
(1)ア 東京地家裁,横浜地家裁,さいたま地家裁,千葉地家裁及び大阪地家裁については,司法協会が謄写事業を担当しています(一般財団法人司法協会HPの「記録謄写(複写)」参照)。
イ それ以外の地家裁については,弁護士協同組合が謄写事業を担当しています(全弁協HPの「全国の弁護士協同組合」参照)。
ウ 司法協会大阪家裁出張所を利用する場合,郵便で謄写申請をするときは,閲覧・謄写票及び複写伝票に加えて,返送用の住所ラベルを送付するようにお願いされます。
(2) 各地の裁判所の民事事件記録一般の閲覧・謄写手続については以下のHPが参考になります。
① 東京地裁HPの「民事事件記録の閲覧・謄写の御案内」
② 大阪地裁HPの「民事事件記録の閲覧・謄写手続について」
③ 京都地裁HPの「不動産競売事件(担保不動産競売,強制競売)記録の閲覧・謄写Q&A」
④ 神戸地裁HPの「記録の謄写・閲覧」

6 民訴法92条1項の閲覧等制限決定のメモ書き
(1) 判例タイムズ1497号(2022年8月号)に「民事訴訟記録の閲覧等制限決定の理論と実務―多義的な「秘密」からの解放」(筆者は51期の高原知明 元裁判官(令和3年3月31日依願退官))には,「閲覧等の制限の申立てがあっても,裁判所において同申立てに対する判断を一定期間留保し,訴訟が終局する際に併せて閲覧等の制限の申立てに対する判断をするという運用」は,筆者が見聞してきた限り,「民訴法制定後間もない時期から続いてきたもの」であるとした上で,以下の記載があります(判例タイムズ1497号47頁)。
【1】決定(山中注:性犯罪を受けた事実や被害者の個人情報を閲覧等制限の対象とした大阪地裁平成11年8月30日決定)のように,提訴直後から世間の関心を惹いている事案は別論であること,立案担当者が例示した薬害関係訴訟のように,提訴直後に原告の個人情報等を対象として閲覧等制限決定を定型的に行っている類型が存在すること,申立ての全部又は一部が認容されないことが見込まれる事案において,申立ての効果として民訴法92条2項による閲覧等制限の暫定効が生じることを前提として,判断の前提として実際に第三者からの閲覧請求があるか否かを一定期間見極め,第三者閲覧を通じた情報拡散の可能性が低いことを確認の上で申立ての取下げを促す運用がかなり広く定着していることを併せて紹介しておく。
(2) 最高裁平成29年1月31日決定に関する最高裁判所判例解説(担当者は51期の高原知明)には以下の記載があります。
    前掲東京高判平成26年1月15日に対する上告兼上告受理申立事件に関し,上告等に伴う最高裁判所への記録到着後における訴訟記録全部を対象とする閲覧等制限の申立て(最高裁平成27年(マ)第153号,第154号)がされ,本決定(山中注:最高裁平成29年1月31日決定)と同一日に,同申立てに対する一部認容,一部却下決定(以下「本閲覧等制限決定」という。)がされた。
    本閲覧等制限決定の理由は例文による簡潔なものであるが,本決定の裁判長裁判官である岡部喜代子裁判官の補足意見が次のとおり付されている。「本件は,民事訴訟法92条1項に基づき,訴訟記録全部についての閲覧等制限の申立てをしたものであるところ,同項1号は,訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載されるなどした部分についてのみ閲覧等の請求をすることができる者を制限しているのであって,秘密記載部分が訴訟記録中の一部に限定されるにもかかわらず,そのような限定をすることなく訴訟記録全部について閲覧等の請求をすることができる者を当事者に限る旨の決定をすることは,同号に反するものであって許されない。とりわけ,裁判書は当事者以外の第三者にとって裁判理由中における判断の正確性を理解するために代替困難な手段であるから,裁判書を秘密記載部分に含めることは裁判の公正性を担保するために慎重な配慮が求められる。本決定は,基本事件における諸般の事情に鑑み,上記のような観点に加え,私生活についての重大な秘密を保護するという閲覧等制限の趣旨を踏まえて,主文のとおり決定したものである。」
    岡部裁判官補足意見で述べられた一般論は民事訴訟法92条1項の条文の文言や沿革に照らし当然のことであるが,同項に基づく申立てやこれに対する閲覧等制限決定の範囲の解釈に関する実務は,民事訴訟法施行20年を過ぎた今なお十分に確立されているとまではいえない。閲覧等制限決定をした裁判体ごとに基本的なスタンスが異なっているものも少なくない実情が背後にあるものと思われる。
(3) 最高裁令和6年7月8日決定の裁判官深山卓也の補足意見には,「近年、民事訴訟法92条1項2号による訴訟記録の閲覧等の制限の申立てにおいて、申立てに係る部分が営業秘密に該当することの疎明が十分にされていない事案が少なからず見受けられる」と書いてあります。


7 裁判記録の電子化に関する国会答弁
・ 47期の小野寺真也最高裁総務局長は,令和4年11月7日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    今委員の方から御指摘をいただきましたように、裁判手続のデジタル化が今後実現されてまいります。記録も電子化されていくということになります。そういたしますと、記録の保存という観点からは、記録を物理的に保管するスペースは不要になるということになりますし、職員による運搬も不要となるということが想定されるところでございます。
    記録の電子化に伴う記録の保存の在り方につきましては、今後、このような電子化された記録の特性のほか、システムの維持管理に関するコストの問題でありますとか、事件記録等に表れる高度な個人情報を保有し続けることに関する問題等、様々な問題がございますので、そのようなものも踏まえつつ検討してまいりたいというふうに考えております。
令和4年11月2日の衆議院法務委員会に関する国会答弁資料ですが,同月7日の参議院法務委員会における国会答弁と同趣旨のことが書いてあります。

8 利害関係を疎明した第三者による,破産事件,家事事件及び非訟事件の記録の閲覧謄写
(1) 破産事件の記録の閲覧謄写
ア 破産事件の記録の場合,利害関係を疎明した第三者は裁判所書記官の許可を得て閲覧謄写できますし(破産法11条1項),閲覧謄写に対する裁判所書記官の許可がない場合,裁判所書記官所属の受訴裁判所に対して異議申立てをすることができます(破産法13条・民事訴訟法121条)。
イ 受訴裁判所の決定に対して不服がある場合,抗告の利益がある限りいつでも通常抗告ができますし(民事訴訟法328条1項),高等裁判所の決定に対して不服がある場合,裁判の告知を受けた日から5日以内に特別抗告(民事訴訟法336条)及び許可抗告(民事訴訟法337条)ができます。
(2) 家事事件又は非訟事件の記録の閲覧謄写
・ 家事事件又は非訟事件の記録の場合,利害関係を疎明した第三者は裁判所の許可を得て閲覧謄写できる(家事事件手続法47条1項,非訟事件手続法32条1項)ものの,破産事件の記録と異なり,閲覧謄写に対する裁判所の許可がない場合に不服申立てをすることはできません家事事件手続法47条5項及び8項,非訟事件手続法32条4項及び7項参照)。

9 関連記事その他
(1)ア 尋問の際に訴訟代理人をしていた弁護士であっても,事件終了後6ヶ月を経過してから民事事件の確定記録の「謄写」をする場合,地裁民事訟廷記録係に対し,改めて依頼者の委任状を提出する必要があります。
イ 柳谷憲司税理士事務所HP「訴訟になっている課税事件資料の閲覧方法について(東京地裁の場合)」が載っています。
(2)ア 病院等の画像データが入ったCD-Rのコピーを取り寄せる場合,裁判所書記官室に対し,「申請区分」欄を「複製」とした閲覧・謄写票を,「申請区分」欄を「謄写」とした閲覧・謄写票とは別に作成して郵送する必要があります。
イ その際,返信用封筒を付けておく必要があります。
(3) 調査嘱託又は文書送付嘱託に基づく回答文書を謄写する場合,嘱託先に送った調査嘱託書又は文書送付嘱託書及び嘱託先からの送り状も一緒に謄写した方が二度手間にならずにいいと思います。
(4)ア アメリカの連邦裁判所の場合,PACERというインターネット上のサービスを利用すれば,裁判手続に関する資料(ただし,個人情報として保護の必要があるもの等は除く。)を閲覧したり,ダウンロードしたりできるみたいです(法と経済ジャーナルHPの「インターネットで訴訟記録を閲覧できる米国に見るサービスの進歩」参照)。
イ 51期の高原知明 元裁判官は,判例タイムズ1497号(2022年8月号)に「民事訴訟記録の閲覧等制限決定の理論と実務―多義的な「秘密」からの解放」を寄稿しています。
(5) 第三者が訴訟記録を閲覧する場合,閲覧・謄写票に150円の印紙を貼付する必要があります(民事訴訟費用等に関する法律7条・別表第二の1項)。
(6)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 民事訴訟記録の編成について(平成9年7月16日付の最高裁判所事務総長の通達。令和2年9月当時のもの)
・ 民事立会部における書記官事務の指針(平成12年5月)
・ 民事立会部における書記官事務の指針の解説(平成12年5月)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 地方裁判所において尋問調書の作成が省略される場合
・ 簡易裁判所においては尋問調書の作成が原則として省略されること
・ 裁判文書の文書管理に関する規程及び通達
・ 裁判所書記官の処分に対する異議申立て
 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(被害者側)
 刑事裁判係属中の,起訴事件の刑事記録の入手方法(加害者である被告人側)
 刑事記録の入手方法等に関する記事の一覧


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