目次第1 結論1 弁護士への委任と預金を処分できる根拠は別である2 標準的な手順第2 受任時に確定する事項1 依頼者の地位と利益相反2 委任状で特定する事項3 遺言,相続放棄及び債務の確認第3 被相続人の銀行口座を探す方法1 個別資料から取引銀行を特定する2 相続時預貯金口座照会を利用する3 死亡通知による取引制限に備える第4 相続関係と提出書類を整える方法1 戸籍と法定相続情報一覧図2 銀行ごとに変わる共通書類3 原本管理第5 残高と取引履歴を確認する方法1 死亡日残高と現在残高を分ける2 共同相続人1人による取引履歴の請求3 取得範囲を目的に合わせる第6 払戻しの法的根拠を選ぶ方法1 選択肢の一覧2 相続人全員による共同請求と遺産分割協議3 遺言執行者による手続4 遺産分割前の単独払戻し第7 銀行へ提出して払戻しを受ける方法1 提出前照会をする2 銀行別提出セットを作る3 払戻金と完了書類を管理する第8 例外的な事案で追加確認する事項1 未成年者,判断能力及び海外居住者2 相続放棄,行方不明者及び相続人不存在3 借入金,貸金庫及び金融商品第9 代理人弁護士の実務チェックリスト第10 出典1 法令2 裁判例3 公的機関及び金融機関の資料
第1 結論
本記事は,2026年9月6日現在の日本法及び公開資料に基づき,国内の個人名義の預貯金について,相続人,受遺者又は遺言執行者等から委任を受けた弁護士が行う口座探索,残高・取引履歴の取得,解約,払戻し及び完了管理を扱う。
証券口座の移管・換価及び相続税の申告計算は対象外とし,各銀行の書式,手数料,証明書の有効期間及び取扱いは,提出時に改めて確認する必要がある。
1 弁護士への委任と預金を処分できる根拠は別である
弁護士が相続人等の代理人として被相続人名義の銀行口座を調査し,相続手続書類を提出することは可能である。
もっとも,委任状は弁護士が本人に代わって行動できる範囲を示す書面であり,依頼者が預金全額を単独で取得できることを証明する書面ではない。
銀行口座の相続手続では,①弁護士が誰を代理し,何を委任されたかという代理権,②相続人全員の共同請求,遺産分割協議,遺言,遺言執行者の権限,調停調書又は審判書,民法909条の2による単独払戻し等の預金を処分できる根拠,③銀行所定の相続届,本人確認書類,印鑑登録証明書等の受付要件を分けて確認する必要がある。
弁護士が1人の共同相続人から委任を受けただけの場合,その弁護士が相続人全員を代理したことにはならず,原則として預金全額の解約及び払戻しを単独で行うことはできない。
2 標準的な手順
標準的な手順は,①依頼者の地位と委任範囲を確定する,②遺言,相続人,債務及び相続放棄の方針を確認する,③口座を探索する,④各銀行へ死亡の事実を連絡して専用書式と必要書類一覧を取り寄せる,⑤法定相続情報一覧図等を整える,⑥死亡日残高及び必要な取引履歴を取得する,⑦相続人全員の共同請求,遺産分割協議,遺言執行,裁判手続又は遺産分割前の払戻しの中から根拠を選ぶ,⑧銀行ごとに一式を提出する,⑨払戻金,返却原本及び手続完了書類を管理して依頼者へ報告する,という順序である。
各銀行の必要書類及び有効期限は同じではない。
例えば,三菱UFJ銀行は遺言書及び遺産分割協議書の有無等によって必要書類をAからDに分け,三井住友銀行は遺言書も遺産分割協議書もない場合に原則として相続人全員の署名・実印及び印鑑登録証明書を求め,みずほ銀行は代理人による手続について委任状,代理人の実印及び印鑑登録証明書を案内している。
したがって,共通書類だけを先に完成させるのではなく,対象銀行の相続担当部署から当該事案用の案内を取得してから署名,押印及び証明書の取得を進めるのが安全である。
第2 受任時に確定する事項
1 依頼者の地位と利益相反
最初に,依頼者が相続人,受遺者,遺言執行者,相続財産清算人その他のいずれであるかを確定する。
共同相続人の1人からの依頼であるか,相続人全員からの共同依頼であるかによって,取得できる資料及び行える払戻しの範囲が異なるためである。
相続人全員から依頼を受ける場合でも,預金の帰属,生前又は死後の出金,特別受益,寄与分,遺言の有効性又は分割割合に争いがないかを確認する。
対立が現実化したときは,同じ弁護士が複数の相続人を代理し続けられるかを改めて検討する必要がある。
2 委任状で特定する事項
銀行所定の委任状があるときはその書式を用い,委任事項を抽象的な「相続手続一切」にとどめない方がよい。
委任状又は別紙では,必要に応じて,①死亡の届出及び相続手続の開始,②口座の有無,取引店,預貯金の種類及び口座番号の照会,③死亡日その他の基準日の残高証明書及び取引履歴の申請・受領,④相続手続書類の作成・提出・補正,⑤預貯金契約の解約及び払戻請求,⑥払戻金の受領及び振込先口座,⑦原本還付及び完了書類の受領,⑧銀行からの連絡の受領を特定する。
ゆうちょ銀行の相続用委任状の記載例も,書類の提出,完了後の書類等の受領,払戻金の受領,不備返却書類の受領及び電話連絡を別々の委任事項としている。
これは,窓口へ書類を持参する権限と,預金を解約して払戻金を受け取る権限とが同じではないことを示す実務例である。
3 遺言,相続放棄及び債務の確認
預金の全額払戻しを進める前に,公正証書遺言,法務局保管の自筆証書遺言及び家庭内保管の遺言書の有無を確認する。
自筆証書遺言については,法務局保管制度を利用したもの等を除き,家庭裁判所の検認を要する場合がある。
借入金,保証債務,未払税金その他の債務が不明であり,相続放棄又は限定承認を検討する余地があるときは,預金の払戻し及び費消を先行させない。
資産調査と相続放棄の熟慮期間の管理は並行して行い,期限が迫るときは期間伸長の申立ても検討する。
第3 被相続人の銀行口座を探す方法
1 個別資料から取引銀行を特定する
まず,通帳,キャッシュカード,銀行からの郵便物,電子メール,確定申告書,給与・年金の振込記録,公共料金・クレジットカード・家賃等の引落資料及び他口座の振込履歴から,金融機関名と取引店を特定する。
口座番号が分からなくても,金融機関と本人特定情報を示して名寄せ及び残高証明の可否を問い合わせる余地がある。
死亡後に被相続人のキャッシュカード,暗証番号又はインターネットバンキングの認証情報を使用して出金することは避けるべきである。
権限及び取得額をめぐる紛争を生じさせるだけでなく,死亡時残高と死亡後取引の証拠関係を不明確にするため,正式な相続手続又は法定の払戻制度を用いるのが原則である。
2 相続時預貯金口座照会を利用する
令和7年度から開始された相続時預貯金口座照会では,相続人又は包括受遺者が,受付金融機関を通じて預金保険機構へ申込み,被相続人が生前にマイナンバーを付番し,制度の適用対象となる金融機関が管理する預貯金口座について,金融機関名,店舗名,預貯金の種類及び口座番号等の通知を受けることができる。
他の共同相続人の同意は不要であり,代理人が申し込む場合は,相続人本人と代理人の本人確認書類に加え,委任状その他の代理権確認資料を提出する。
預金保険機構の案内では,照会対象は被相続人の死亡後10年まで,手数料は1件5,060円,結果通知までは1か月程度とされている。
もっとも,照会できるのはマイナンバーが付番された口座に限られ,残高は通知されず,金融機関の回答状況等によっては存在する口座が表示されないこともあり,結果通知は口座の存否を証明するものではない。
したがって,この制度を通帳等による探索及び個別金融機関への照会に代わる完全な名寄せ制度として扱ってはならない。
3 死亡通知による取引制限に備える
全国銀行協会は,銀行が死亡の事実を知ると口座の取引を制限し,その後に相続関係書類を提出して払戻しを受ける流れを案内している。
三井住友銀行は,死亡の連絡を受けた口座について全ての入出金を停止すると明記し,公共料金等の引落口座及び家賃等の入金口座を早めに変更するよう案内している。
死亡通知を不当に遅らせるのではなく,いつ,どの銀行へ,誰が,どの連絡手段で届け出るかを決め,それまでに年金,給与,賃料その他の入金先と,公共料金,施設費,ローンその他の支払方法を変更する。
口座凍結の対象及び時期は銀行と取引内容によって異なるため,死亡通知の前後の対応を対象銀行へ確認する必要がある。
第4 相続関係と提出書類を整える方法
(続きを読む...)弁護士が代理人として被相続人の銀行口座の相続手続をする方法(AI作成)