第1 この記事の対象
1 対象と基準日
本記事は,相続人のあることが明らかでない場合に選任される相続財産清算人(民法952条)が,相続財産である不動産を換価する場面について,法律が定める競売と,家庭裁判所の許可を得てする任意売却とを比較し,担保権や差押えがある場合の処理,媒介契約,売買契約の条項,税金及び売れない場合の扱いを整理するものである。
令和8年9月19日時点の民法,民事執行法,家事事件手続法,建物の区分所有等に関する法律及び裁判所の公開資料(熊本家庭裁判所後見センター「相続財産の清算人の職務について」,大阪家庭裁判所及び名古屋家庭裁判所の相続財産清算人選任申立ての手引き),宅地建物取引業法,国税関係の法令並びに国税庁及び国税不服審判所の公表資料を確認して作成した。
家庭裁判所の運用は庁によって異なる部分があるため,実際の事件では選任した家庭裁判所に確認する必要がある。
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清算手続全体の流れは「相続人がいない場合の相続財産清算人」で,家庭裁判所の許可が要る行為と要らない行為の区別は「相続財産清算人の権限外行為許可」で整理している。
売れ残った不動産が国庫に引き継がれた後の扱いは「国庫帰属した不動産のその後」で整理している。
第2 換価の方法―競売と任意売却
1 法律が定める換価方法は競売である
相続財産清算人が相続債権者及び受遺者に弁済するために相続財産を売却する必要があるときは,これを競売に付さなければならない(民法957条2項が準用する932条本文)。
この競売は,民法の規定による換価のための競売であり,担保権の実行としての競売の例によって行われる(民事執行法195条)。
弁済のための競売は,法律が定める清算の職務であるから,家庭裁判所の権限外行為許可は問題とならない。
(1) 限定承認との違い
限定承認では,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って相続財産の価額を弁済し,競売を止めることができる(民法932条ただし書)。
これに対し,相続財産清算人の場合は,民法957条2項が932条ただし書を準用の対象から除いているため,この方法で競売を止めることはできない。
限定承認の手続全体は,「限定承認の手続と換価」で整理している。
(2) 相続債権者及び受遺者の参加
相続債権者及び受遺者は,自己の費用で,相続財産の競売又は鑑定に参加することができる(民法957条2項が準用する933条前段)。
参加の請求があったのに,その請求をした者を参加させないで競売をしたときは,その競売は,その請求をした者に対抗することができない(同条後段が準用する260条2項)。
(3) 剰余の見込みがない場合
担保不動産競売では,不動産の買受可能価額が手続費用と差押債権者に優先する債権の見込額の合計額に満たないときは,差押債権者が一定の申出や保証の提供等をしない限り,手続が取り消される(民事執行法188条が準用する63条)。
限定承認の場合の相続財産換価のための競売(民法932条)について,東京高裁平成5年12月24日決定(平成5年(ラ)第820号・判例タイムズ868号285頁。裁判所HP未掲載)は,民事執行法195条が相続財産の競売を担保権の実行としての競売の例によるとし,63条も何らの留保なく準用しているとして,無剰余取消しの規定が適用されるとした。
同決定は,限定承認の場合に先順位の抵当権者等が自ら競売を申し立てないのは,担保債権の十分な満足を得られないため不動産の値上がりを待っているなどの事情があるのが通常であり,その期待を無視して,限定承認の手続を終わらせる目的だけで無剰余の競売を進めるのは相当でないとも述べている。
その後,最高裁平成24年2月7日第三小法廷決定(平成23年(許)第31号・集民240号1頁)は,民法258条2項(当時。現在の同条3項)所定の競売を命ずる判決に基づく不動産競売について,民事執行法59条(売却に伴う担保権等の消滅)及び63条が準用されるとした。
もっとも,同決定の補足意見は,いわゆる形式的競売の中でも,競売の目的によって63条の準用の有無を異にする解釈があり得るとしている。
相続財産清算人がする換価のための競売は,民法957条2項が準用する932条本文に基づくもので,限定承認の場合と同じ条文による競売であるから,東京高裁平成5年決定の考え方によれば,63条が準用されることになる。
相続財産清算人(旧法の相続財産管理人)が申し立てた競売について無剰余取消しの可否を判断した裁判例は,判例秘書及び裁判所HPで確認した範囲では見当たらない。
このように解する場合,担保権が付いた不動産で剰余の見込みがなければ,清算人が申し立てた換価のための競売は取り消され得る。
その場合は,担保権者に担保権の実行を促すか,後記第7の選任審判の取消しの問題として扱うことになる。
2 任意売却は権限外行為許可による
清算人が不動産を競売によらずに第三者へ売却することは,民法103条の権限を超える処分行為であり,家庭裁判所の許可を得てする(民法953条,28条)。
熊本家庭裁判所の資料も,不動産の処分(建物の取壊しを含む。)を主な権限外行為の第一に挙げている。
許可を得ずにした売却は無権代理の規律に服し(民法113条),買主は所有権の取得を相続財産法人に対抗できないおそれを負う。
3 両者の比較
| 項目 | 競売 | 任意売却 |
|---|---|---|
| 根拠 | 民法957条2項,932条本文,民事執行法195条 | 民法953条,28条 |
| 家庭裁判所の許可 | 不要(清算の職務) | 権限外行為許可が必要 |
| 買主と価格 | 執行裁判所の売却手続で決まる | 清算人が買主と交渉して決め,許可の審理で相当性が問われる |
| 相続債権者等の関与 | 自己の費用で競売・鑑定に参加できる(民法933条) | 法律上の参加手続はない |
| 売れない場合 | 買受けの申出がなければ換価できない | 買主が見つからなければ換価できない |
任意売却では,売却の時期,買主,代金及び引渡しの条件を交渉で決めることができる。
他方,任意売却には家庭裁判所の許可の手続が加わり,清算人が買主を必ず見つけられるわけでもない。
大阪家庭裁判所及び名古屋家庭裁判所の手引きは,任意売却において清算人が買主(売却先)を捜すこともあるが,売却困難な不動産もあり,必ずしも売却が保障されるものではないと注意している。
どちらの方法によるかは,相続財産全体の清算の見通し,担保権の有無,買受希望者の有無,管理にかかる費用と期間等を踏まえ,相続債権者に説明できる形で判断することになる。
4 特別縁故者が現れ得る場合
特別縁故者に対する分与の対象は,清算後残存すべき相続財産である(民法958条の2第1項)。
清算人が不動産を売却すれば,分与の対象はその代金になる。
弁済のために換価が必要でない不動産について,特別縁故者として不動産そのものの分与を求める者がいる場合には,売却の時期を急がずに家庭裁判所と協議することが考えられる。
特別縁故者に対する分与の申立期間は,民法952条2項の公告の期間の満了後3か月以内であり(民法958条の2第2項),清算人や家庭裁判所から申立期間が知らされるわけではない(大阪家庭裁判所「特別縁故者に対する相続財産分与の申立ての手引き」)。
第3 担保権・差押えがある不動産
1 担保権者が清算人の選任を申し立てる場合
大阪家庭裁判所及び名古屋家庭裁判所の手引きは,遺産の不動産に抵当権等を有する担保権者が債権回収を目的として申し立てる場合には,清算人の選任と同時に競売の申立てができるよう,申立書の提出までに競売実行の準備をしておくよう求めている。
担保権を実行せずに任意売却を希望する場合について,大阪家庭裁判所の手引きは申立て前に買主を確保しておくと手続が円滑に進むとし,名古屋家庭裁判所の手引きはあらかじめ売却先を探しておくことも検討するよう求めている。
一定の期間を経過しても,競売開始がされない場合,落札がない場合又は任意売却ができない場合には,選任審判が取り消される場合があるとされている。
2 任意売却で担保権・差押えを消すには
抵当権,差押え,仮登記等の登記が残ったままでは,通常,買主は買受けに応じない。
任意売却では,売却代金から担保権者等に弁済し,決済と同時に登記を抹消してもらう段取りをつける必要がある。
破産手続には,破産管財人が担保権の目的である財産を任意に売却し,裁判所に金銭を納付して担保権を消滅させる担保権消滅許可の制度があるが(破産法186条),相続財産清算人についてこれに当たる規定はない。
そのため,後順位の担保権者等が抹消に応じなければ,任意売却は進まない。
売却の許可を申し立てるときは,担保権者等への弁済額と相続財産に残る見込額を説明できるようにしておくことが望ましい。
(1) 後順位の担保権者への抹消承諾料
後順位の担保権者は,任意売却に協力して担保権の抹消に応じる法律上の義務を負わない。
売却代金から弁済を受けられない後順位の担保権者に抹消を求める場合には,抹消に応じる対価(いわゆる抹消承諾料)を支払って合意することがあるが,その額を定めた法令や裁判所の公表基準は見当たらず,個別の交渉による。
清算人がこれを支払うと他の相続債権者への弁済の原資が減るから,売却の許可を申し立てるときは,支払の必要性と金額の相当性も説明することになる。
(2) 買主による抵当権消滅請求
抵当不動産の第三取得者は,登記をした各債権者に代価等を記載した書面を送付して,抵当権消滅請求をすることができる(民法379条,383条)。
債権者が書面の送付を受けた後2か月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは,第三取得者が提供した代価又は金額を承諾したものとみなされ(同法384条1号),登記をした全ての債権者が承諾し,その代価等を払い渡し又は供託したときは,抵当権は消滅する(同法386条)。
清算人から不動産を買った者も第三取得者としてこの手続を使う余地はあるが,担保権者が期間内に競売を申し立てれば買主は不動産を失い得るから,買主がその危険を引き受ける場合に限られ,売買契約で代金の支払方法と危険の負担を定めておく必要がある。
(3) 公租公課の差押え
被相続人が納付すべき国税を納める義務は,相続財産法人が承継する(国税通則法5条1項)。
国税不服審判所の令和6年10月4日裁決は,相続財産法人について相続財産管理人(現在の相続財産清算人に当たる。)による清算が行われている場合でも,相続財産法人に帰属する財産に対する滞納処分は妨げられず,滞納処分において相続財産管理人の報酬が国税に優先することはないとして,預金債権の差押処分を適法とした。
固定資産税についても,滞納処分は国税徴収法に規定する滞納処分の例による(地方税法373条7項)。
徴収職員が差押えを解除しなければならないのは,差押えに係る国税の全額が消滅したときや,差押財産の価額が滞納処分費と優先する債権の合計額を超える見込みがなくなったとき等であり(国税徴収法79条1項),それ以外の解除は同条2項の定める場合に限られる。
そのため,差押えのある不動産を任意売却するときは,売却代金から滞納税額を納付して差押えを解除してもらうことを前提に,事前に公租公課庁と協議することになる。
3 一般債権者が買主を紹介した場合
担保権を持たない一般債権者が清算人の選任を申し立て,買主を紹介して換価がされたとしても,その売却代金から申立人が優先的に配当を受けるわけではない。
大阪家庭裁判所及び名古屋家庭裁判所の手引きは,相続財産を超える相続債務がある場合には,他の一般債権者を含め,債権額に応じて返済額が按分されると説明している。
請求申出期間の満了後の弁済は,債権額の割合に応じてするのが原則であり,優先権を有する債権者の権利を害することはできない(民法957条2項が準用する929条)。
4 マンションの滞納管理費等
区分所有者が管理費等について他の区分所有者に対して有する債権には先取特権があり(建物の区分所有等に関する法律7条1項),優先権の順位及び効力については共益費用の先取特権とみなされる(同条2項)。
この債権は,債務者である区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる(同法8条)。
被相続人が管理費や修繕積立金を滞納していたマンションを任意売却すると,買主が滞納分の請求を受け得るため,買主の側は決済の際に滞納分を精算するよう求めることになる。
清算人は,管理組合に滞納額を照会し,その精算を前提に代金と弁済計画を組み立てることになる。
第4 任意売却の手順
1 登記名義の変更
熊本家庭裁判所の資料は,相続財産である不動産について,名義を「亡○○○○相続財産」に変更するよう案内している。
相続財産法人が成立したことを登記に反映させた上で,買主への所有権移転登記をすることになる。
同資料は,名義変更に要する費用等の必要な経費を相続財産から支弁できるとしている(民法27条1項後段,家事事件手続法208条,125条3項を根拠に挙げる。)。
2 不動産業者との媒介契約
清算人が買主を探すために宅地建物取引業者と媒介契約を結ぶこと自体について,家庭裁判所の許可を要すると定めた規定はない。
媒介契約は不動産を処分する行為ではなく,家庭裁判所の許可は売買契約について得ることになる。
成年後見人等が本人の居住用不動産を売却する場合の家庭裁判所の案内も,仲介業者に作成してもらった査定書を許可の申立ての添付資料としている(大阪家庭裁判所「居住用不動産処分許可の申立てについて」)。
もっとも,媒介契約の報酬,有効期間,解除等の定めによっては相続財産に負担が生じ得るから,迷う場合は選任した家庭裁判所に確認する。
宅地建物取引業者は,媒介契約を締結したときは,価額,他の業者に重ねて依頼することの許否,有効期間及び解除,指定流通機構への登録,報酬等を記載した書面を依頼者に交付しなければならない(宅地建物取引業法34条の2第1項)。
他の業者に重ねて依頼することを禁ずる専任媒介契約では,有効期間は3か月を超えることができず(同条3項),業者は目的物を指定流通機構に登録し(同条5項),業務の処理状況を2週間に1回以上(依頼者が自ら見つけた相手方とも契約できない旨の特約がある場合は1週間に1回以上)報告しなければならない(同条9項)。
どの形の媒介契約によるべきかについて,家庭裁判所の基準を示した公開資料は見当たらない。
複数の業者に並行して依頼して条件を比べたい場合は一般の媒介契約が,一つの業者に販売活動を任せて定期的な報告を受けたい場合は専任媒介契約が,それぞれ選択肢になる。
3 価格の相当性の資料
熊本家庭裁判所の資料は,不動産を売買するときは,売買契約書及び当該不動産の評価証明や不動産業者の査定資料を提出し,買主が法人の場合は登記事項証明書等を申立時に添付するよう案内している。
許可の審理では,売却価格の相当性や買主が誰であるかが問題となるから,複数の査定や買受希望者の比較によって価格の相当性を説明できるようにしておくことが望ましい。
4 許可の申立てと許可の範囲
許可の申立ては,相続財産の清算に関する処分の審判事件(家事事件手続法別表第一の99の項)として,相続が開始した地を管轄する家庭裁判所に申し立てる(同法203条1号)。
申立手数料は収入印紙800円である(民事訴訟費用等に関する法律別表第一の15の項)。
許可は,申立書で特定した相手方,対象不動産,代金等の内容についてされるから,許可後に買主や代金等の重要な内容が変わる場合には,改めて許可を得る必要があると考えられる。
家庭裁判所は,審判をした後,その審判を不当と認めるときは,申立てを却下した審判や即時抗告をすることができる審判を除き,職権で取り消し,又は変更することができる(家事事件手続法78条1項)。
権限外行為許可の審判に対しては即時抗告を認める規定がないから,同項の対象にはなり得るが,同項は家庭裁判所が審判を不当と認める場合の職権による是正の規定であり,変更をする場合には当事者等の陳述を聴かなければならない(同条3項)。
契約条件の変更に合わせて許可の内容を改めたいときは,改めて許可を申し立てるのが確実である。
5 決済と報告
決済は,代金の受領,担保権等の抹消書類の交付及び所有権移転登記の申請を同時に行う形にするのが安全である。
熊本家庭裁判所の資料は,権限外行為の許可審判後の状況を,許可審判月の2か月後の末日までに報告するよう求めている。
報告の時期と方法は家庭裁判所ごとに定められているため,選任時に交付される案内を確認する。
第5 売買契約の条項
1 家庭裁判所の許可
清算人がする不動産の売却は,家庭裁判所の許可を得てする行為である(民法953条,28条)。
売買契約書には,家庭裁判所の許可を得ることを契約の効力発生の条件とする旨を定め,許可が得られなかった場合の扱い(契約の失効,受領済みの金銭の返還等)も定めておく。
買主の側は,許可審判書の写しで,許可された売買の相手方,代金及び対象物件が契約と一致しているかを確認する。
2 契約不適合責任を負わない旨の特約
売主は,引き渡した目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないときは,買主から履行の追完等の請求を受ける(民法562条~564条)。
清算人は,被相続人の生活や物件の来歴を直接知らないことが多く,売却後に責任を負えば,相続債権者への弁済や国庫への引継ぎを終えた後の清算が困難になる。
そのため,清算人が売主となる売買では,担保の責任を負わない旨の特約を置き,現状有姿での引渡し,公簿面積による売買,境界の明示をしない旨等の条項を置くことが考えられる。
もっとも,担保責任を負わない旨の特約をしたときであっても,売主は,知りながら告げなかった事実については責任を免れない(民法572条)。
清算人が知っている雨漏り,越境,土壌の問題等は,契約書や重要事項説明で具体的に告げておく必要がある。
3 手付と代金の支払方法
買主が売主に手付を交付したときは,相手方が契約の履行に着手するまでは,買主はその手付を放棄し,売主はその倍額を現実に提供して,契約を解除することができる(民法557条1項)。
債務超過の事案では,清算人が倍額を提供する原資を確保できないことがあるから,手付の授受や代金の分割払いを前提にせず,代金の一括決済と所有権移転登記を同時に行う形にしておくことが考えられる。
手付を受け取る場合は,それが解約手付として働くのかどうかを契約書で明確にしておく。
4 建物内の残置物
熊本家庭裁判所の資料は,動産の売却,譲渡,贈与及び廃棄を権限外行為に挙げる一方,価値のない家財道具などの廃棄は清算人の判断で行うことができるとしている。
建物内に家財等が残っている場合は,売却前に清算人が処分するのか,現状のまま引き渡して買主が処分するのかを決め,売買契約に明記する。
価値のある動産を含めて買主に引き渡すときは,その動産の処分についても許可の対象に含めておく。
第6 税金の扱い
1 被相続人の所得税の準確定申告
民法上の相続人も包括受遺者もいない場合について,国税庁の質疑応答事例は,被相続人の死亡した年分の所得税について,所得税法125条を類推して相続財産法人が準確定申告書を提出するものとし,その期限は,清算人が確定した日(裁判所から清算人に通知された日)の翌日から4か月を経過した日の前日としている。
被相続人に不動産の賃料収入等があった場合は,売却の前後を問わず,この申告の要否を確認する必要がある。
2 滞納税がある場合
被相続人の滞納税は相続財産法人が承継し,清算中であっても滞納処分は妨げられない(前記第3の2(3))。
任意売却の代金から納付する額と,他の相続債権者への弁済に回る額の見込みを,売却の許可を申し立てる前に整理しておく。
3 売却に伴う課税
土地(土地の上に存する権利を含む。)の譲渡には消費税が課されない(消費税法6条1項,別表第二第1号)。
他方,相続財産法人が不動産を売却して利益が生じた場合に,法人税その他の課税がどのように扱われるかを明示した国税庁の公表資料は見当たらない。
建物を含む売却や多額の売却益が見込まれる場合は,売却の前に所轄の税務署に確認し,必要に応じて税理士の助言を受けることになる。
滞納処分と清算人の報酬との優劣,固定資産税及び特別縁故者の相続税を含め,相続人がいない場合の税金は,「相続財産清算人と税金」で整理している。
第7 売れない場合
1 選任審判の取消し
家庭裁判所は,管理すべき財産がなくなったときその他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは,財産の管理者の選任その他の財産の管理に関する処分の取消しの審判をしなければならない(家事事件手続法208条が準用する125条7項)。
大阪家庭裁判所及び名古屋家庭裁判所の手引きも,一定の期間を経過しても不動産の売却ができない場合には,選任審判が取り消される場合があるとしている。
担保権者が競売を申し立てず,任意売却もできない不動産を,清算人が管理し続けることは予定されていない。
前記第2の1(3)のとおり,剰余の見込みがない不動産については換価のための競売も取り消され得るため,このような不動産が残る場合は,選任審判の取消しの問題になる。
2 国庫への引継ぎ
特別縁故者への分与をしてもなお処分されなかった相続財産は,国庫に帰属する(民法959条)。
熊本家庭裁判所の資料は,不動産の国庫帰属が想定される事案については,財務局からの依頼事項を確認の上,家庭裁判所と協議する等して対応するよう求めている。
国庫に引き継がれた不動産の扱いは,「国庫帰属した不動産のその後」で整理している。
第8 出典
1 法令
① e-Gov法令検索・民法(27条,28条,103条,113条,258条,260条,379条,383条,384条,386条,557条,562条~564条,572条,929条~934条,952条,953条,957条,958条の2,959条)
② e-Gov法令検索・民事執行法(59条,63条,188条,195条)
③ e-Gov法令検索・家事事件手続法(78条,125条,203条,208条,別表第一の99の項)
④ e-Gov法令検索・民事訴訟費用等に関する法律(別表第一の15の項)
⑤ e-Gov法令検索・建物の区分所有等に関する法律(7条,8条)
⑥ e-Gov法令検索・破産法(186条)
⑦ e-Gov法令検索・宅地建物取引業法(34条の2)
⑧ e-Gov法令検索・国税通則法(5条)
⑨ e-Gov法令検索・国税徴収法(79条)
⑩ e-Gov法令検索・地方税法(373条)
⑪ e-Gov法令検索・消費税法(6条,別表第二)
2 裁判例・裁決
① 東京高裁平成5年12月24日決定・平成5年(ラ)第820号・判例タイムズ868号285頁(裁判所HP未掲載)
② 最高裁平成24年2月7日第三小法廷決定・平成23年(許)第31号・集民240号1頁
③ 国税不服審判所令和6年10月4日裁決
3 公的資料
① 熊本家庭裁判所後見センター財産管理係「相続財産の清算人の職務について」
② 大阪家庭裁判所「相続財産清算人選任申立ての手引き」(令和8年1月5日版)
③ 名古屋家庭裁判所「相続財産清算人選任申立ての手引」(令和5年4月1日版)
④ 大阪家庭裁判所「特別縁故者に対する相続財産分与の申立ての手引き」(令和8年1月5日版)
⑤ 大阪家庭裁判所「居住用不動産処分許可の申立てについて」
⑥ 国税庁・質疑応答事例「民法上の相続人が不存在の場合の準確定申告の手続」