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人身傷害保険金を受け取った後も加害者に遅延損害金を請求できるか―最高裁平成24年2月20日判決と保険代位の範囲(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

本記事は,交通事故の被害者が自分の加入する自動車保険の人身傷害条項に基づいて保険金(以下「人傷保険金」という。)を受け取った後,加害者に対して,事故日から人傷保険金の支払日までの遅延損害金を請求できるかを扱う。
調査基準日は令和8年9月19日である。
中心となる裁判例は,最高裁判所第一小法廷平成24年2月20日判決(平成21年(受)第1461号,民集66巻2号742頁)であり,比較の対象として,無保険車傷害保険金に関する最高裁判所第二小法廷平成24年4月27日判決(平成21年(受)第1923号,集民240号223頁)を取り上げる。

人傷保険金と過失相殺の関係(いわゆる裁判基準差額説)や,人傷先行・賠償先行の選択の全体像は,既存記事の人身傷害保険の補償範囲と請求順序―人傷先行・賠償先行,保険代位及び自賠責回収及び過失相殺と素因減額が併存する場合の人身傷害保険会社の代位の範囲――最高裁令和7年7月4日判決で説明している。
本記事では,それらとの重複を避け,遅延損害金の帰属に焦点を当てる。

2 結論

約款に保険会社が損害元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めがない人身傷害条項に基づいて保険金を支払った保険会社は,損害金元本の支払請求権(被害者に過失があるときは,裁判基準差額説による範囲)を代位取得するだけであり,その元本に対する遅延損害金の支払請求権は代位取得しない(最高裁平成24年2月20日判決)。
したがって,被害者は,人傷保険金を受け取った後も,加害者に対し,事故日から人傷保険金の支払日までの遅延損害金を請求できる。
この遅延損害金は,保険会社に移った元本部分に対応するものも含め,支払日時点の損害金元本の全体について計算される。
人傷保険金の支払日の翌日以降に被害者が請求できる遅延損害金は,被害者に残った元本に対するものだけとなる。

利率は,事故日が令和2年3月31日以前であれば年5%,令和2年4月1日以後であれば年3%となるのが原則である。
無保険車傷害保険金についても,最高裁平成24年4月27日判決は,同じく約款上遅延損害金を塡補しない保険であることを前提に,保険金額の算定で遅延損害金への充当を考慮しないとした。
もっとも,いずれの結論も「約款に遅延損害金を支払う定めがないこと」を前提とするから,実際の事件では,契約時の約款を確認する必要がある。

第2 最高裁平成24年2月20日判決の事案と判断

1 事案の概要

平成17年5月1日,道路を横断中の歩行者Aが自動車に衝突されて負傷し,同年11月26日に死亡した。
Aの両親である原告らが,運転者に対して民法709条に基づき,保有者に対して自賠法3条に基づき,損害賠償を請求した事案である(判決全文2頁)。

Aの損害は合計7,828万2,219円,Aの過失割合は10%であり,過失相殺後の損害金は7,045万3,997円であった。
原告らは共済組合から123万9,297円,保有者から793万0,904円の支払を受け,過失相殺後の残元本は6,128万3,796円となっていた。
その後,平成19年10月25日,原告らは,原告の一人(X1)が契約していた自動車保険の人身傷害条項に基づき,人傷保険金5,824万6,898円を受け取った(判決全文2頁~4頁)。

判決が確定事実として挙げる約款の内容のうち,本記事に関係するのは次の2点である。
①代位条項は,保険会社が「その損害に対して支払った保険金の額の限度内で,かつ,保険金請求権者の権利を害さない範囲内で」,保険金請求権者が他人に対して有する権利を取得するというものであった。
②「本件約款には,訴外保険会社が上記(6)アの損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めはない。」とされた(判決全文4頁)。

原審は,人傷保険金を,旧民法491条に準じて,まず残元本に対する支払日までの遅延損害金762万2,696円に充当し,残りを元本に充当するという処理をした(判決全文5頁~6頁)。
最高裁は,この処理を是認しなかった。

2 遅延損害金の請求権は代位取得されないとした判断

(1) 判決の理由

最高裁は,まず,人身傷害条項に基づいて保険金を支払った保険会社は,保険金の額の限度内で,これによって塡補される損害に係る保険金請求権者の加害者に対する賠償請求権を代位取得し,その範囲は約款の定めるところによるとした(判決全文6頁)。
その上で,約款によれば,人傷保険金は「被害者が被る損害の元本を塡補するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を塡補するものではないと解される。」と述べた。
そして,保険会社は,支払時に,保険金に相当する額の損害金元本の支払請求権を代位取得するのであって,「損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではないというべきである。」と判断した(判決全文6頁)。

裁判所HPの裁判要旨も,遅延損害金を支払う旨の定めがない人身傷害条項に基づいて保険金を支払った保険会社は,損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって,遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではないとまとめている。
この結論は,約款に遅延損害金を支払う定めがないことを前提とする点に注意を要する。

(2) 補足意見の「対応の原則」

この判決には補足意見が付されている。
補足意見は,人身傷害条項では被保険者が迅速な損害塡補を受けることができるのであるから,「判決による遅延損害金をも塡補している賠償責任条項とは異なって,損害金元本に対する遅延損害金を塡補していない。」と述べる。
さらに,保険代位の対象となる権利は保険による損害塡補の対象と対応する損害についての賠償請求権に限定されるとして,これを「対応の原則」と呼び,原審が旧民法491条を準用して人傷保険金を遅延損害金に充当したことは相当でないとした(判決全文9頁)。

つまり,人傷保険金は元本だけを塡補する保険金であるから,保険会社が代わりに取得する権利も元本だけであり,遅延損害金は被害者の手元に残る,という整理である。
加害者側から見れば,人傷保険金の支払を受けた被害者に対しても,事故日から支払日までの遅延損害金の支払義務は消えないことになる。

(3) 両親固有の損害に対する遅延損害金

判決は,両親固有の損害についても,原審が特段の理由を示さずに事故日から人傷保険金支払日までの遅延損害金を棄却した点を誤りとした。
その理由として,固有の損害の賠償債務は事故時に発生し,何らの催告を要することなく遅滞に陥ったものであるから(最高裁判所第三小法廷昭和37年9月4日判決(昭和34年(オ)第117号,民集16巻9号1834頁)を参照),事故日から保険金支払日までの遅延損害金の支払請求が否定される理由はないと述べた(判決全文7頁)。
不法行為の遅延損害金が事故日から発生するという原則は,不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するかで説明している。

(4) 最高裁が認めた金額

最高裁は,Aの損害金について,両親それぞれに次の金額を認めた(判決全文8頁~9頁)。
①Aの損害金の残元本の2分の1である543万2,560円
②残元本6,128万3,796円に対する事故日から人傷保険金支払日までの遅延損害金の2分の1である381万1,348円
③上記①と固有の損害金元本の合計額に対する人傷保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

②は,人傷保険金で塡補された部分を含む残元本の全体に対して,事故日から支払日までの遅延損害金を計算したものである。
残元本6,128万3,796円に年5%を掛け,事故日から支払日までの908日(事故日と支払日をいずれも算入)で日割計算すると,762万2,696円となり,その2分の1が381万1,348円に当たる。
原審が人傷保険金を充当した762万2,696円の遅延損害金は,最高裁の処理では,保険金で消えることなく被害者の請求権として残ったことになる。

3 過失がある場合の代位の範囲(裁判基準差額説)

判決のもう一つの判断は,被害者に過失がある場合に保険会社が代位取得する範囲である。
最高裁は,人傷保険金が「被害者が被る実損をその過失の有無,割合にかかわらず塡補する趣旨・目的の下で支払われるもの」であることから,代位条項の「保険金請求権者の権利を害さない範囲」とは,保険金請求権者が民法上認められるべき過失相殺前の損害額(裁判基準損害額)を確保できるように解するのが合理的であるとした(判決全文6頁~7頁)。
その結果,保険会社は,人傷保険金の額と過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で代位取得する。
補足意見は,この考え方を「いわゆる裁判基準差額説」と呼んでいる(訴訟基準差額説と呼ばれることもある)。

本件では,人傷保険金5,824万6,898円と過失相殺後の損害金7,045万3,997円の合計1億2,870万0,895円が,損害7,828万2,219円を上回る5,041万8,676円の範囲で,保険会社が元本の請求権を代位取得した(判決全文8頁)。
残元本6,128万3,796円から5,041万8,676円を控除した1,086万5,120円が,原告らが加害者に請求できる残元本となった。
この部分の詳しい説明と,素因減額が加わる場合の最高裁令和7年7月4日判決の処理は,前記の既存記事2本に譲る。

本記事との関係で押さえておくべきことは,裁判基準差額説による代位の計算は元本についての計算であり,遅延損害金はその計算の外にあるという点である。
過失があって代位の範囲が小さくなる場合でも,過失がなく保険金の全額について代位が生じる場合でも,事故日から支払日までの遅延損害金は被害者に残る。

4 保険法25条との関係

保険法25条1項は,保険者が保険給付を行ったときは,「当該保険者が行った保険給付の額」と「被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額)」のうちいずれか少ない額を限度として,被保険者債権について当然に被保険者に代位すると定める。
同条2項は,保険給付の額がてん補損害額に不足するときは,被保険者が,保険者が代位した部分を除いた被保険者債権について,保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有すると定める。
保険法26条は,25条の規定に反する特約で被保険者に不利なものを無効とする。

平成24年2月20日判決の事案は保険法の施行前に締結された保険契約に関するものであるが,裁判所HPの参照法条には平成20年法律第57号による改正前の商法662条とともに保険法25条が挙げられている。
補足意見も,裁判基準差額説が「保険法25条1項が一部保険に関していわゆる差額説を採用したことにも相応する」と述べている(判決全文9頁~10頁)。
遅延損害金を代位の対象に含めない判断も,保険給付がてん補する損害と代位の対象とを対応させる考え方に立つものであり,保険法の下で締結された契約についても同じ構造で考えることになると考えられる。
ただし,代位の範囲は最終的には約款の定めによるとされているから(判決全文6頁),約款の文言の確認は欠かせない。

第3 被害者が加害者に請求できる遅延損害金の範囲と計算例

1 請求できる遅延損害金の範囲

平成24年2月20日判決の処理を整理すると,人傷保険金を受け取った被害者が加害者に請求できる金額は次のとおりとなる。
①人傷保険金の支払後に被害者に残った損害金元本
②人傷保険金の支払時の損害金元本の全体に対する,事故日から人傷保険金の支払日までの遅延損害金
③上記①の残元本に対する,人傷保険金の支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

②には,保険会社に移った元本部分に対応する遅延損害金も含まれる。
この部分を落とさないことが,本判決の実務上の意味である。
一方,保険会社が代位取得した元本については,保険会社が加害者に請求する立場に立つ。

利率は,債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率であり(民法419条1項),不法行為の場合は事故日を基準に判断する。
事故日が令和2年3月31日以前なら年5%,令和2年4月1日以後なら年3%となり,令和8年4月1日から令和11年3月31日までの期も年3%のままである。
経過措置と法定利率の変動の詳細は,遅延損害金の利率は年3%か年5%かで扱う。

2 計算例1(被害者に過失がない場合)

次の単純な例で計算する。
日割計算は1年を365日として行い,端数は考えない。
①事故日は令和7年4月1日で,利率は年3%である。
②裁判基準による損害の元本は2,000万円で,被害者に過失はなく,自賠責保険金その他の既払金もないものとする。
③事故から1年後の令和8年3月31日(事故日から365日目)に,人傷保険金1,000万円が支払われた。
④加害者側からの支払は,令和9年3月31日(人傷保険金の支払日の翌日から365日目)にされたものとする。

過失がないので,人傷保険金1,000万円と過失相殺後の損害賠償請求権2,000万円の合計3,000万円が裁判基準損害額2,000万円を上回る1,000万円の範囲で,保険会社が元本の請求権を代位取得する。
したがって,被害者に残る元本は1,000万円である。

事故日から人傷保険金の支払日までの遅延損害金は,元本2,000万円の全体に対して計算する。
2,000万円×3%×365日÷365日=60万円となる。
このうち,保険会社に移った元本1,000万円に対応する30万円も,被害者が加害者に請求できる。

人傷保険金の支払日の翌日から加害者側の支払日までの遅延損害金は,被害者に残った元本1,000万円に対して計算する。
1,000万円×3%×365日÷365日=30万円となる。

被害者が加害者に請求できる額は,元本1,000万円,事故日から人傷保険金の支払日までの遅延損害金60万円及びその後の遅延損害金30万円の合計1,090万円である。
仮に保険会社が遅延損害金の請求権まで代位取得すると考えると,事故日から支払日までの遅延損害金のうち30万円は保険会社に移ることになるが,最高裁の判断によればこの30万円は被害者に残る。

項目対象の元本期間金額
残元本1,000万円
事故日から人傷保険金支払日までの遅延損害金2,000万円365日60万円
人傷保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金1,000万円365日30万円
合計1,090万円

3 計算例2(被害者に過失がある場合)

計算例1の条件のうち,被害者の過失割合だけを30%に変える。
過失相殺後の損害賠償請求権は2,000万円×70%=1,400万円である。
人傷保険金1,000万円と1,400万円の合計2,400万円が裁判基準損害額2,000万円を上回るのは400万円であり,保険会社はこの400万円の範囲で元本の請求権を代位取得する。
被害者に残る元本は,1,400万円-400万円=1,000万円となる。

事故日から人傷保険金の支払日までの遅延損害金は,支払時の損害金元本(過失相殺後の1,400万円)の全体に対して計算する。
1,400万円×3%×365日÷365日=42万円となる。
その後の遅延損害金は,残元本1,000万円に対して計算し,30万円となる。
被害者が加害者に請求できる額は,1,000万円+42万円+30万円=1,072万円である。

この例では,被害者は人傷保険金1,000万円と加害者からの元本1,000万円により,裁判基準損害額2,000万円を確保した上で,遅延損害金も受け取ることになる。
平成24年2月20日判決の事案でも,最高裁は,残元本6,128万3,796円(過失相殺後の元本から既払金を控除した額)の全体に対して,事故日から支払日までの遅延損害金を認めている。
なお,既払金を元本から控除した額を基準としたのは原告らの請求の立て方によるものであり,同判決は既払金の充当方法について判断していない。

第4 無保険車傷害保険金との比較

1 最高裁平成24年4月27日判決①(保険金額の算定)

最高裁平成24年4月27日判決は,被害者が自分の自動車保険の無保険車傷害条項に基づいて保険会社に保険金を請求した事案である。
約款には,保険金の額は被害者等の被る損害の額から自賠責保険からの支払額等を差し引いた額とする定めがあり,保険会社が損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めはなかった(判決全文3頁)。
被害者側は,差し引くべき自賠責保険金等の額は,遅延損害金に充当された額を控除した残額であると主張した。

最高裁は,約款によれば,無保険車傷害保険金は「被害者等の被る損害の元本を塡補するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を塡補するものではない」と解されるから,保険金の額は,損害の元本の額から自賠責保険金等の全額を差し引いて算定すべきであり,遅延損害金に充当された額を控除した残額を差し引くべきではないとした(判決全文5頁~6頁)。
自賠責保険金等が無保険車傷害保険金の弁済期後に支払われた場合でも異ならないとされている。

2 同判決②(保険金の支払債務の遅延損害金の利率)

同判決は,無保険車傷害保険金の支払債務は,商人である保険会社との間で締結された保険契約に基づくものであるから商行為によって生じた債務(当時の商法514条)に当たり,その遅延損害金の利率は商事法定利率である年6分であるとした(判決全文6頁)。
支払請求が賠償義務者に対する損害賠償請求に代わる性質を有するとしても,利率を損害賠償請求の場合と同様に解すべき理由にはならないとされた。
商法514条はその後削除されており,現在の利率の考え方は遅延損害金の利率は年3%か年5%かで扱う。

3 両判決に共通する考え方と違い

両判決は,いずれも約款に遅延損害金を支払う定めがない自動車保険について,その保険金は損害の元本を塡補するものであり遅延損害金を塡補しないという約款解釈を出発点にしている。
平成24年2月20日判決はこれを保険会社の代位の範囲に当てはめ,平成24年4月27日判決はこれを保険金額の算定に当てはめたものといえる。

もっとも,場面は異なる。
平成24年2月20日判決は,被害者と加害者の間の損害賠償請求で,人傷保険金の支払後に被害者に何が残るかを決めたものである。
平成24年4月27日判決は,被害者と自分の保険会社の間の保険金請求で,保険金の額と,保険会社自身が支払を遅れたときの遅延損害金の利率を決めたものである。
無保険車傷害保険金の請求では,加害者に対する遅延損害金とは別に,保険会社の支払債務自体の遅延損害金が問題となり,判決はその起算日を約款上の弁済期の翌日としている(判決全文6頁~7頁)。
政府保障事業と無保険車傷害特約の関係は,政府保障事業と無保険車傷害特約で説明している。

第5 実務上の確認事項

1 約款に遅延損害金を支払う定めがあるか

平成24年2月20日判決の結論は,約款に遅延損害金を支払う定めがないことを前提としている。
人身傷害条項の約款は保険会社や契約の始期によって異なるから,事故時に適用される約款について,次の点を確認する。
①保険会社が損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めがあるか
②代位条項が,保険金請求権者の権利を害さない範囲で代位する旨を定めているか
③人傷保険金の額の算定で,賠償義務者から既に取得した損害賠償金をどのように差し引くか

①の定めがあれば,人傷保険金が遅延損害金も塡補することになり,本判決の前提が変わり得る。
③について,補足意見は,既取得額を字義どおり差し引くと,先に保険金を受領した場合と比べて不利となることがあるから,差し引くことができる金額を裁判基準損害額の確保という「保険金請求権者の権利を害さない範囲」のものに限定解釈すべきであると述べている(判決全文10頁)。

2 人傷先行か賠償先行か

人傷先行では,人傷保険金を先に受け取り,その後に加害者に残元本と遅延損害金を請求する。
この場合,第3の計算例のとおり,事故日から人傷保険金の支払日までの遅延損害金を,支払時の元本の全体について請求できることを忘れない。
加害者側の保険会社との示談では,遅延損害金が計上されないことがあるから,訴訟で請求するか,示談でどう扱うかを意識して判断する。

賠償先行では,先に加害者に対する判決や和解を得てから,自分の保険会社に人傷保険金を請求する。
この場合に人傷保険金の額がどう計算されるかは約款の定めによるところが大きく,判決額のうち遅延損害金をどう扱うかも約款次第である。
どちらを先行させるべきかの判断材料は,人身傷害保険の補償範囲と請求順序にまとめている。

3 示談や和解で遅延損害金を落とさないこと

人傷保険金を受け取った後に加害者側と示談する場合,示談金が残元本だけで計算され,事故日から人傷保険金の支払日までの遅延損害金が含まれていないことがある。
清算条項を入れて示談すると,後から遅延損害金を請求することは難しくなる。
示談案の確認方法は,保険会社から届いた交通事故の示談案の見方を参照されたい。

自賠責保険金が先に支払われている場合,その支払は元本と遅延損害金のいずれに充当されるかという別の問題がある。
自賠責保険金は,元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないとき,遅延損害金にまず充当される(最高裁判所第二小法廷平成16年12月20日判決(平成16年(受)第525号,集民215号987頁))。
同判決が参照した当時の民法491条1項は,現行の民法489条1項に相当する。
これに対し,人傷保険金は,平成24年2月20日判決のとおり遅延損害金に充当されない。
既払金の充当の詳細は交通事故の既払金は元本と遅延損害金のどちらに充当されるかで扱う。

4 人身傷害保険以外の保険との区別

搭乗者傷害保険のように,約款で定められた金額を支払う定額型の保険は,損害をてん補する損害保険契約とは性質が異なり,保険法25条の請求権代位は損害保険契約についての規定であるから,同じ問題は通常生じない。
搭乗者傷害保険と人身傷害保険の違いは,搭乗者傷害保険の補償内容,人身傷害保険との違い及び請求時の確認事項で説明している。

被害者が死亡した場合に誰が人傷保険金を請求できるかは,約款の定めと相続の問題になる。
この点は,人身傷害保険の死亡保険金請求権は相続財産であると判示した最高裁令和7年10月30日判決の解説を参照されたい。

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第7 出典・参考資料

1 法令

保険法2条7号,25条,26条(e-Gov法令検索)
民法404条,419条1項,489条,709条(e-Gov法令検索)
③民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則17条3項
④自動車損害賠償保障法3条

2 裁判例

最高裁判所第一小法廷平成24年2月20日判決(平成21年(受)第1461号,民集66巻2号742頁)
最高裁判所第二小法廷平成24年4月27日判決(平成21年(受)第1923号,集民240号223頁)
最高裁判所第三小法廷昭和37年9月4日判決(昭和34年(オ)第117号,民集16巻9号1834頁)
最高裁判所第二小法廷平成16年12月20日判決(平成16年(受)第525号,集民215号987頁)