目次第1 結論及び本記事の対象第2 贈与対象の認定を評価より先に行う1 特別受益に当たるための入口2 金銭又は代金債務の弁済による利益の贈与となる場合3 建物又は建物持分の贈与となる場合4 債務免除,持分及び使用利益を混同しない第3 東京高裁令和6年12月18日決定1 判例秘書による一次資料確認の状況2 不動産そのものではなく購入資金の贈与としたこと3 資金の流れを認定した証拠4 消費者物価指数による換算第4 金銭贈与の評価1 相続開始時の貨幣価値への換算2 建物の老朽化を金銭贈与へ持ち込まない第5 建物贈与の評価1 相続開始時の客観的価値2 親が建築後に建物を贈与した裁判例3 民法904条と受益者による状態変更4 相続税評価額と民事上の評価額は目的が違う第6 認定及び評価に用いる証拠1 契約及び所有帰属に関する資料2 資金の流れに関する資料3 贈与又は貸付けの意思に関する資料第7 遺産分割及び遺留分との関係1 遺産分割における具体的相続分2 遺留分算定における贈与第8 受任時の確認手順1 認定表を先に作成する2 主張書面と証拠説明書を対応させる第9 まとめ第10 出典・参考資料1 法令及び公的資料2 裁判例3 関連記事
第1 結論及び本記事の対象
親が子の住宅の建築代金又は購入代金を負担した場合,特別受益の額を計算する前に,何が誰から誰へ贈与されたのかを認定する必要がある。
子が契約当事者となって住宅を取得し,親が代金を援助したのであれば,通常は金銭又は代金債務の弁済による利益が贈与対象となる。
これに対し,親が取得した建物を後に子へ贈与したのであれば,贈与対象は建物である。
両者は評価対象が違うため,贈与時に同額の支出がされていても,相続開始時に持ち戻す特別受益額が異なり得る。
親から施工業者へ直接送金されたという一事だけで,金銭贈与又は建物贈与のいずれかに決まるものではない。
本記事は,民法903条及び904条による遺産分割上の特別受益を中心に,遺留分算定への影響,東京高等裁判所令和6年12月18日決定及び実務で確認すべき証拠を整理する。
個別事件では,給付の法的性質,持戻し免除の意思表示,評価方法及び期間制限を別々に検討する必要がある。
第2 贈与対象の認定を評価より先に行う
1 特別受益に当たるための入口
民法903条1項は,共同相続人の中に,被相続人から遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者がある場合の具体的相続分を定めている。
住宅の取得又は建築のための多額の援助は「生計の資本」と評価されることが多いが,金額,被相続人の資力,援助の目的,通常の扶養の範囲,他の相続人への援助及び返済合意の有無を確認しなければならない。
贈与ではなく貸付けであれば特別受益ではない。
返済期限,利息,返済実績,催告,借用書及び会計・税務処理の有無は,贈与か貸付けかを区別する資料となる。
2 金銭又は代金債務の弁済による利益の贈与となる場合
子が建築請負契約又は売買契約の当事者であり,子が建物又は不動産を取得する一方,親が子へ資金を渡し,又は子に代わって施工業者若しくは売主へ代金を支払った場合は,金銭又は代金債務の弁済による利益が贈与されたと認定されることがある。
この場合,取得した住宅の現在価値ではなく,贈与された金銭等を相続開始時の貨幣価値に換算することが出発点となる。
もっとも,親自身の持分取得に対応する支払,共同住宅の親使用部分に対応する負担又は親に対する反対給付があるときは,支払全額が子への贈与になるとは限らない。
3 建物又は建物持分の贈与となる場合
親が注文者又は買主となって建物を取得し,その後,子へ建物又は建物持分を贈与した場合は,贈与対象は建物又はその持分となる。
この場合,特別受益として評価するのは,原則として贈与時の建築費そのものではなく,相続開始時における贈与対象の客観的な交換価値である。
登記が子名義であることは重要な資料であるが,建物取得の経緯,契約当事者,代金負担,完成時の所有帰属及び引渡しを含む事情を総合して判断する必要がある。
土地と建物の名義又は負担者が異なる場合は,建物だけでなく,敷地利用権,土地持分の贈与又は使用利益も切り分けて検討する。
親が建築計画を主導し,又は建築費の一部を負担したとしても,それだけで親が完成建物を取得したことにはならない。
東京地裁平成29年1月13日判決(平成27年(ワ)第21869号,判例秘書L07232077,裁判所HP未掲載)は,父が当初の建築計画を主導し,一部費用も負担したものの,融資及び建築名義等を子へ切り替えた事案で,建物が当然に父の所有となるものではないとした一方,父が負担した設計料等は別個の特別受益となり得るとした。
したがって,「親が建てた建物」という表現から直ちに建物贈与と分類せず,建築請負契約の注文者,代金債務者,融資の債務者,建築確認上の建築主,引渡しを受けた者,完成時の登記名義人及び各当事者の出捐を区別して,完成時の所有帰属を認定する必要がある。
4 債務免除,持分及び使用利益を混同しない
親がいったん子へ住宅資金を貸し付け,後に返済を免除したのであれば,問題となる給付は当初の貸付金ではなく,免除時の債権又は免除による利益である可能性がある。
また,二世帯住宅では,親子それぞれの建物持分,建築費の負担,土地の使用利益及び親に対する生活支援等が併存し得るため,単純な床面積比又は負担額の差だけで贈与額を決めるべきではない。