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遺産分割・特別受益・寄与分

特定財産承継遺言と異なる最初の相続人全員の協議――登記原因と課税関係(AI作成)

目次第1 検討の対象と結論1 「最初の協議」であることの意味2 本記事の資料上の限界第2 まず確認すべき判決・裁決1 最高裁平成3年4月19日判決――遺言による取得の時点2 さいたま地裁平成14年2月7日判決――最初の全員協議の民事上の効力3 最高裁平成22年12月16日判決――中間の権利移転を省略する登記の限界4 国税不服審判所の裁決――後のやり直しを「最初の協議」と混同しない第3 事例別にみた協議の位置付け1 特定財産承継遺言があり、執行・登記前に最初の全員協議をする場合2 全遺産を一人に取得させる遺言を、最初の分割で変更する場合3 一部の財産について遺言を執行し、残部だけを協議する場合4 遺言どおりの取得後、又は最初の分割後に変更する場合5 金銭信託の代替条項がある場合第4 登記原因の検討1 民事上の有効性と登記原因は別の確認事項である2 登記前に確認する資料第5 課税関係の検討1 真正な代償分割である場合2 別個の低額譲渡・贈与と評価される場合3 後の再分割・申告訂正の場合第6 実務上の確認順序1 合意前に作る資料第7 出典
第1 検討の対象と結論
1 「最初の協議」であることの意味

特定の財産を特定の相続人に「相続させる」と定めた遺言がある場合でも、相続開始後、相続人全員がその財産を別の相続人に取得させることについて最初に合意することがある。この合意を、有効な遺産分割として扱えるか、遺言によりいったん取得した相続人からの贈与・交換・譲渡として扱うべきかは、登記と税務の双方に影響する。
結論を先に述べると、「全員による最初の協議」という形式だけで登記原因や課税関係が一律に確定するわけではない。遺言の文言、対象財産の範囲、遺言執行の状況、全員の合意内容、対価の性質及び従前の申告・登記を分けて確認する必要がある。

2 本記事の資料上の限界

本記事で確認した裁判例・裁決には、特定財産承継遺言がある不動産について、最初の全員協議により別の相続人が代償金を支払って取得した事案の登記原因と相続税・贈与税・所得税のすべてを一体として確定したものはない。民事上の協議の効力を認めた判決を、直ちに税務又は登記の先例として扱うことはできない。
以下では、資料が直接判断した事項と、実務上検討すべき事項を区別する。

第2 まず確認すべき判決・裁決
1 最高裁平成3年4月19日判決――遺言による取得の時点

最高裁平成3年4月19日判決は、特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言について、特段の事情がない限り、その遺産は被相続人の死亡時に直ちに当該相続人に承継されると判断した。後の協議を検討する出発点は、遺言によるこの権利移転である。
もっとも、この判決自体は、その後の相続人全員による最初の合意の効力、登記原因又は課税関係を判断したものではない。

2 さいたま地裁平成14年2月7日判決――最初の全員協議の民事上の効力

同判決の事案では、土地全部を一人の相続人に相続させる遺言があったが、相続人全員は、別の相続人に土地の74%、残る二人に各13%を帰属させる内容の協議をした。裁判所は、遺言が協議を禁じておらず、第三者の権利も害しないなどの事実関係の下で、協議の効力を認めた。判決は、その合意に贈与や交換を含む混合契約の性質があり得ることにも触れた上で、通常の遺産分割と同様に取り扱うことが適切と述べている。
これは当該協議の民事上の効力に関する判断である。登記申請の原因を一律に「遺産分割」とできることや、贈与税・譲渡所得税が生じないことまで判示したものではない。また、代償金を伴う事案の税務を判断したものでもない。

3 最高裁平成22年12月16日判決――中間の権利移転を省略する登記の限界

同判決は、贈与を受けた者が死亡して相続が生じた事案について、贈与と相続という中間の権利移転を飛ばし、最終取得者に「真正な登記名義の回復」を原因として直接移転登記をすることは認められないとした。
これは特定財産承継遺言と全員協議の事案ではない。したがって、同判決をそのまま当てはめることはできないが、実際に生じた権利移転と異なる登記原因を便宜的に選べないことを検討する資料となる。

4 国税不服審判所の裁決――後のやり直しを「最初の協議」と混同しない

平成17年12月15日裁決では、有効に成立した最初の遺産分割の後で、錯誤を理由に再分割したと主張された事案につき、贈与税の課税が維持された。平成23年12月6日裁決は、全財産を各2分の1とする遺言、相続税申告後の紛争及び遺留分をめぐる和解に関するもので、相続税法55条等の適用が争われた。
両裁決は「遺言と異なる最初の全員協議」そのものを判断したものではない。協議がいつ成立したのか、従前の申告・分割が何を前提にしていたかによって論点が変わることを示す資料である。

第3 事例別にみた協議の位置付け
1 特定財産承継遺言があり、執行・登記前に最初の全員協議をする場合

相続人全員の合意により遺言と異なる帰属を定める協議は、さいたま地裁判決のように民事上有効と評価され得る。ただし、遺言による死亡時の権利承継を踏まえると、合意の法的構成にはなお検討を要する。対象財産の取得者を変更した理由、他の遺産との調整、支払金の位置付け、第三者の権利及び遺言執行者の権限を確認すべきである。
協議書の表題を「遺産分割協議書」としたことだけで、登記及び税務の取扱いは決まらない。

2 全遺産を一人に取得させる遺言を、最初の分割で変更する場合

国税庁タックスアンサーNo.4176は、遺言で財産全部を一人の相続人に取得させることとされていたが、相続人全員の協議で遺言と異なる分割をした場合、取得財産について相続税の課税対象として扱い、相続人間の贈与税の問題は生じないと説明する。関連する質疑応答は、全財産の包括遺贈を題材にしている。
この説明を、特定の土地だけを取得させる遺言と、別途執行される預貯金等がある事案へ無条件に拡張することはできない。個別の遺言と協議の構造を示して税務上の確認を要する。

3 一部の財産について遺言を執行し、残部だけを協議する場合

預貯金等は遺言どおりに払い戻し、土地だけを別の相続人が金銭を支払って取得する場合、土地の移転を遺産全体の分割調整として説明できるかが問題となる。協議書に「代償金」と記載しただけでは、遺言に基づいて土地を承継した者からの別個の移転という評価を排除できない。

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共同相続人間の無償の相続分譲渡と特別受益―相続放棄との違い,債務を含む評価及び遺留分(AI作成)

目次

第1 結論
第2 相続分譲渡と相続放棄は異なる
第3 最高裁平成30年10月19日判決
第4 債務を含む相続分の評価
第5 譲渡人の相続における特別受益
第6 旧法の遺留分減殺と現行法の遺留分侵害額請求
第7 証拠収集と主張の組立て
第8 実務チェックリスト
第9 出典と確認範囲

共同相続人間で相続分を無償譲渡した場合,「最初の相続の遺産分割から抜けただけ」と考えると,後に生じる譲渡人の相続で特別受益を見落とすことがあります。最高裁平成30年10月19日判決は,相続分が積極財産と消極財産を包括することを前提に,財産的価値がない場合を除き,無償譲渡を民法903条1項の贈与として扱いました。

第1 結論

共同相続人の一人が他の共同相続人へ相続分を無償で譲渡したときは,次の二つの相続を分けて検討します。

最初の相続では,譲受人が譲渡人の相続分を取得し,遺産分割に参加します。
譲渡人が後に死亡したときは,譲受人が譲渡人の相続人である場合,無償譲渡の財産的価値が特別受益として持戻しの対象になるかを検討します。

相続放棄とは効果も手続も異なります。評価に当たっては最初の相続の不動産・預貯金だけでなく,債務その他の消極財産も確認し,「額面上の相続分割合」をそのまま贈与額にしません。

第2 相続分譲渡と相続放棄は異なる

相続分譲渡は,共同相続人が遺産全体に対して有する包括的な持分を他人へ移す行為です。遺産分割前に,共同相続人間で行われることも,第三者に対して行われることもあります。

これに対し,相続放棄は,家庭裁判所への申述によって初めから相続人でなかったものと扱われる制度です。原則として自己のために相続開始があったことを知った時から3か月以内という熟慮期間があり,単なる合意書への署名では足りません。

「私は遺産を要らない」との家族内合意が,相続放棄,相続分譲渡,遺産分割で取得をゼロとする合意のどれに当たるのかを,書面の題名だけでなく,作成時期,家庭裁判所の受理の有無,対価及び当事者の行動から確定します。

第3 最高裁平成30年10月19日判決

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公正証書遺言と異なる遺産分割協議が相続税の申告期限までに成立しない場合の申告方法(AI作成)

目次第1 結論1 申告期限までに協議が成立しなくても申告期限は延びない2 申告内容は「遺言で取得済みか,真に未分割か」で決まる第2 公正証書遺言があっても,その内容を先に分類する1 公正証書という方式だけでは申告方法は決まらない2 遺言によって取得者が確定している財産3 遺言が相続分だけを定め,個々の財産が未分割である場合4 遺言の対象外となる財産第3 申告期限時点の状況別の申告方法1 遺言と異なる協議が成立している場合2 遺言で全部の取得者が確定し,協議が未成立の場合3 取得者が確定した財産と未分割財産が混在する場合4 遺言が相続分又は包括遺贈の割合だけを定める場合第4 未分割申告と分割見込書1 相続税法55条による仮の計算2 配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例3 申告期限後3年以内の分割見込書を付ける範囲第5 申告後に遺言と異なる合意が成立した場合1 真に未分割であった財産の後日分割2 遺言で取得済みであった財産の分け直し3 平成23年12月6日裁決が示す注意点第6 申告期限までに行う実務上の確認第7 設例による整理1 全財産を長男に相続させる遺言2 長男3分の2,長女3分の1とする遺言3 自宅だけを配偶者に相続させる遺言第8 よくある誤解第9 関連記事第10 出典1 法令・裁判例・裁決2 国税庁資料3 文献
第1 結論
1 申告期限までに協議が成立しなくても申告期限は延びない

公正証書遺言と異なる分け方を相続人らが話し合っていても,相続税の申告期限までに合意が成立しなければ,予定している分け方で申告することはできない。

相続税の申告期限は,原則として,相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内である。

協議中であること,遺産分割調停を申し立てたこと又は遺言執行者との調整が続いていることだけでは,この期限は延長されない。

2 申告内容は「遺言で取得済みか,真に未分割か」で決まる

申告期限時点で遺言と異なる合意が成立していない場合には,まず,遺言によって既に取得者が確定している財産と,なお共同相続人間で分割されていない財産とを分ける。

遺言によって取得者が確定している財産は,原則として遺言どおりに取得したものとして申告する。

これに対し,真に未分割である財産は,相続税法55条により,民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合に従って各人が取得したものとして課税価格を計算する。

したがって,「協議が成立していないから,遺産全部を一律に法定相続分で申告する」という処理は正確でない。

第2 公正証書遺言があっても,その内容を先に分類する
1 公正証書という方式だけでは申告方法は決まらない

公正証書遺言は遺言の方式であり,公正証書であること自体から相続税申告の取得割合が決まるわけではない。

申告方法を決めるのは,遺言の各条項が,①特定の財産を特定の相続人に相続させる特定財産承継遺言,②特定遺贈,③包括遺贈,④相続分の指定,⑤遺産分割方法の指定,⑥残余財産条項のいずれに当たるかである。

遺言の表題や一部の文言だけでなく,遺言全文,予備的条項,債務・費用の負担及び遺言執行者の権限まで確認する必要がある。

2 遺言によって取得者が確定している財産

最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)は,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言について,特段の事情のない限り,何らの行為を要せず,被相続人の死亡時に直ちに当該相続人へ承継されると判示した。

また,特定遺贈は受遺者が放棄すれば遺言者の死亡時に遡って効力を失うが,放棄されていない限り,遺贈の目的財産は遺言に基づいて取得される。

「全財産を長男に相続させる」,「自宅不動産を妻に相続させる」,「全財産を甲に包括遺贈する」など,遺言によって取得者が確定する財産は,単に別の分け方を交渉中であるという理由で未分割財産にはならない。

3 遺言が相続分だけを定め,個々の財産が未分割である場合

「長男の相続分を3分の2,長女の相続分を3分の1とする」など,割合だけを指定し,個々の財産の取得者を定めていない遺言では,個々の遺産はなお未分割となり得る。

その場合,相続税法55条による仮の計算では,遺言による指定相続分を含む民法上の相続分又は包括遺贈の割合を確認する。

法定相続分を機械的に用いるのではなく,遺言による割合指定と包括遺贈の有無を先に確認する必要がある。

4 遺言の対象外となる財産

遺言作成後に取得した財産,記載漏れの預金,遺言条項の解釈上対象に含まれない財産その他の残余財産について,取得者を定める条項がなければ,その部分は未分割となり得る。

他方,死亡保険金,死亡退職金その他の相続税法上のみなし相続財産は,相続税の課税対象となっても,通常の遺産分割の対象とは限らない。

遺言の対象財産,民法上の遺産及び相続税の課税財産の三つを同じ一覧に混在させないことが重要である。

第3 申告期限時点の状況別の申告方法
1 遺言と異なる協議が成立している場合

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死亡保険金が特別受益に準じて持戻しの対象となる「特段の事情」―最高裁平成16年10月29日決定と下級審の肯定例・否定例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 最高裁平成16年10月29日決定1 事案2 判示3 特段の事情の考慮要素4 当てはめ第3 下級審の判断例1 肯定例①:保険金が遺産の総額とほぼ同額だった例2 肯定例②:婚姻期間の短い妻が保険金を受け取った例3 否定例:保険金が遺産の6%余りにとどまった例4 3件の比較第4 持戻しの対象となった場合の計算第5 周辺の論点1 遺留分との関係2 相続税の扱いとは別の問題である3 受取人の変更の時期と経緯第6 主張・立証の進め方1 持戻しを求める側2 持戻しを争う側3 生前に保険を使って特定の相続人へ多く残したいとき4 受取人変更の有効性自体が争われる場合第7 出典1 法令2 裁判例
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

被相続人が自分を保険契約者・被保険者とし,相続人の一人を死亡保険金受取人とする生命保険に加入していた場合,受取人になった相続人だけが多額の保険金を受け取り,他の相続人との間に不公平が生じることがある。
遺産分割の場面で,他の相続人がその保険金を特別受益として持ち戻すべきだと主張することは多い。
本記事は,最高裁判所がこの問題について示した判断の枠組みと,その後に持戻しを認めた例・認めなかった例を整理する。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法・相続税法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の裁判例及び判例秘書で全文を確認した下級審の裁判例に基づいて整理したものである。
下級審の3件はいずれも裁判所ウェブサイトに掲載されていないので,判例秘書の判例番号を併記する。

2 結論の要約

死亡保険金請求権は,受取人の固有の権利であり,原則として民法903条1項の特別受益に当たらない。
ただし,保険金受取人である相続人と他の相続人との間の不公平が到底是認することができないほど著しいと評価すべき特段の事情があれば,同条の類推適用により,保険金が特別受益に準じて持戻しの対象となる。
特段の事情の有無は,保険金の額,その額の遺産の総額に対する比率,同居の有無や介護等への貢献の度合いなどの被相続人との関係,各相続人の生活実態等を総合して判断される。
下級審では,保険金が遺産の総額とほぼ同額であった例と,婚姻期間の短い妻の特別受益額が遺産の約61%に当たった例で持戻しが認められ,遺産の6%余りにとどまり,受取人が被相続人と長年同居して入通院の世話をしていた例では認められなかった。

第2 最高裁平成16年10月29日決定
1 事案

最高裁判所第二小法廷平成16年10月29日決定(平成16年(許)第11号,民集58巻7号1979頁)は,両親(決定文では甲・乙)の遺産分割について,子の一人が受け取った死亡保険金が特別受益に当たるかが争われた事案である。
遺産分割の対象として残っていた土地の評価額は,第1審の鑑定の結果によれば合計1149万円であった。
受取人となった子は,乙を保険契約者・被保険者とする2口の養老保険について,合計約574万円(500万2465円と73万7824円)の死亡保険金を受け取っていた。
この子は,甲・乙のために自宅を増築して甲・乙を住まわせ,認知症の状態になった甲の介護を乙が行うのを手伝っていた。
他の子らは,両親と同居していなかった。

2 判示

同決定は,被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の一人又は一部の者を保険金受取人と指定して締結した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権は,保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって,保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく,これらの者の相続財産に属するものではないとした。
また,死亡保険金請求権は,被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり,保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもないから,実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできないとした。
その上で,死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないとした。

もっとも,同決定は,保険料は被相続人が生前保険者に支払ったものであり,被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生すること等に鑑み,「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。」とした。

3 特段の事情の考慮要素

同決定は,特段の事情の有無について,「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」とした。
同居の有無と介護等への貢献の度合いは,被相続人との関係を示す事情の例として挙げられている。

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遺言と異なる遺産分割協議はできるか―相続人・受遺者全員の合意,遺言執行者の同意,分割の禁止及び贈与税(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 この記事の対象2 結論の要約第2 遺言の型によって法律構成が変わる1 特定遺贈――受遺者が放棄すれば遺産に戻る2 包括遺贈――受遺者は遺産分割の当事者になる3 「相続させる」遺言――相続開始時に承継が済んでいる第3 合意に加わる人1 相続人全員2 受遺者3 相続人でない受遺者に財産を取得させる場合第4 遺言執行者がいる場合1 条文2 遺言執行者の同意を得た合意を有効とした裁判例3 遺言執行者の同意がない協議の扱い4 実務書の説明5 遺言執行者の立場と判断第5 遺言による分割の禁止第6 遺言の存在を知らずに協議した場合第7 税務・登記・金融機関の手続1 相続税と贈与税2 登記3 金融機関4 遺言による信託と受益権がある場合第8 手続の進め方1 協議前の確認2 協議書の書き方3 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説・質疑応答4 文献
第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
(1) 問題となる場面

遺言書があるのに,相続人全員が,遺言とは違う分け方を望むことがある。
例えば,「全財産を長男に相続させる」という遺言があるが,長男も含めて母に自宅を残したい場合や,「株式を換金して分けよ」という遺言があるが,相続人が株式をそのまま受け取りたい場合である。
このような場合に,相続人全員の話合いで遺言と異なる遺産分割をすることができるか,誰の合意が要るか,遺言執行者がいるときはどうなるか,贈与税がかかるかが問題になる。

(2) 本記事の資料と基準日

本記事は,令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている民法の条文,裁判所ウェブサイトに掲載された最高裁判所の判決,判例秘書に収録された下級審判決の全文,国税庁の質疑応答事例及び実務書に基づいて整理したものである。
東京地裁平成13年6月28日判決等は判例秘書の判例番号で特定する。さいたま地裁平成14年2月7日判決は,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した。

2 結論の要約
(1) 五つの確認事項

遺言と異なる遺産分割を検討するときは,次の順序で確認する。
①遺言が,特定遺贈,包括遺贈,「相続させる」遺言(特定財産承継遺言)のいずれに当たるか
②合意に加わる必要がある人は誰か(相続人全員のほか,受遺者を含むか)
③遺言執行者がいるか,いる場合にその同意を得られるか
④遺言で遺産の分割が禁じられていないか
⑤相続税・贈与税,登記及び金融機関の手続をどうするか

(2) 短い結論

相続人全員と受遺者全員が合意すれば,遺言と異なる内容で遺産を分けることは,実務上広く行われている。
遺言執行者がいない場合は,この合意だけで足りると整理されている。
遺言執行者がいる場合は,遺言執行者の同意を得て協議するのが安全である。
遺言執行者の同意がない協議の効力については,下級審の判断が分かれている。
国税庁が贈与税を課さないと回答したのは,特定の相続人へ遺産全部を与える遺言があり,相続人全員で異なる分割をした事例である。複数の条項を持つ遺言の一部を先に執行し,残る財産だけについて取得者を変える場合まで,同じ取扱いと断定することはできない。
申告期限までに協議が成立しない場合には,遺言によって取得者が確定した財産と真に未分割の財産を区別し,前者は原則として遺言どおり,後者は相続税法55条により申告する。

第2 遺言の型によって法律構成が変わる
1 特定遺贈――受遺者が放棄すれば遺産に戻る
(1) 条文

民法986条1項は,「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。」と定め,同条2項は,「遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と定める。
民法995条は,遺贈が放棄によってその効力を失ったときは,受遺者が受けるべきであったものは,遺言者が別段の意思を表示した場合を除き,相続人に帰属すると定める。

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特別寄与料の請求―請求できる親族とできない人,相手方と負担額,6か月・1年の期間制限及び相続税(AI作成)

目次第1 特別寄与料とは何か1 相続人ではない親族の貢献に報いる金銭請求2 寄与分との違い第2 請求できる親族と請求できない人1 被相続人の親族であること2 除かれる人3 相続人の配偶者が介護した場合第3 特別の寄与の要件1 無償の療養看護その他の労務の提供2 財産の維持又は増加3 「特別の寄与」の程度4 相続開始後の行為は含まれない第4 誰に,いくら請求できるか1 請求の相手方は相続人である2 相続人ごとの負担額3 遺言で相続分がないとされた相続人4 金額の決まり方と上限第5 期間制限と手続1 6か月と1年の期間制限2 協議,調停及び審判3 遺産分割とは別の手続である第6 相続税1 特別寄与料を受け取る側2 特別寄与料を支払う側第7 請求する側と請求される側の確認事項1 請求する側2 請求される側第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 裁判所の資料
第1 特別寄与料とは何か
1 相続人ではない親族の貢献に報いる金銭請求

被相続人の親族が,無償で療養看護その他の労務を提供し,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合,その親族は,相続の開始後,相続人に対し,寄与に応じた額の金銭の支払を請求することができる(民法1050条1項)。
この金銭を「特別寄与料」といい,請求する親族を「特別寄与者」という。
典型例は,亡くなった親の介護を長年担ってきた長男の妻のように,介護の担い手ではあったものの相続人ではない親族である。

本記事は,令和8年9月25日現在の法令及び確認できた裁判例に基づき,特別寄与料を請求できる人とできない人,請求の相手方と負担額,期間制限,手続及び相続税を整理するものである。
裁判所の特別の寄与に関する処分調停の案内のとおり,令和元年7月1日より前に開始した相続については,この申立てはできない。

2 寄与分との違い

相続人自身の貢献は,遺産分割の中で具体的相続分を修正する寄与分(民法904条の2)によって考慮される。
これに対し,特別寄与料は,遺産分割に参加して遺産の一部を取得する制度ではなく,相続人に対して金銭の支払を求める制度である。
特別寄与料が認められても,特別寄与者が土地の持分その他の遺産を当然に取得するわけではない。

項目寄与分特別寄与料主張できる人共同相続人相続人ではない被相続人の親族(相続放棄をした者,相続欠格者及び廃除された者を除く。)対象となる行為事業に関する労務の提供,財産上の給付,療養看護その他の方法(民法904条の2第1項)無償の療養看護その他の労務の提供に限られる効果遺産分割における具体的相続分の修正相続人に対する金銭の支払請求手続遺産分割の手続の中で主張し,審判では寄与分を定める処分の申立てが必要協議が調わなければ,家庭裁判所の特別の寄与に関する処分(調停・審判)期間相続開始から10年を経過した後の遺産分割では原則として考慮されない(民法904条の3)相続の開始及び相続人を知った時から6か月,相続開始の時から1年

寄与分の主張方法は,遺産分割における寄与分の主張方法―費用対効果・証拠・申立時期で扱っている。

第2 請求できる親族と請求できない人
1 被相続人の親族であること

特別寄与者は,被相続人の親族でなければならない。
親族とは,6親等内の血族,配偶者及び3親等内の姻族である(民法725条)。

子の配偶者は1親等の姻族であるから,長男の妻が義理の親を介護した場合は,親族の要件を満たす。
被相続人に子がいて兄弟姉妹が相続人とならない場合の兄弟姉妹,子が生存していて相続人とならない孫なども,親族に当たる。
後記第3の3の静岡家庭裁判所の審判も,被相続人の子2人が相続人である事案で,被相続人の弟が申し立てたものである。

他方,内縁の配偶者,友人,近所の人,事業者等は,親族ではないから,どれほど献身的に介護をしても特別寄与者にはならない。
相続人がいない場合の特別縁故者への財産分与(民法958条の2)は別の制度であり,相続人がいない場合の相続財産清算人で扱っている。

2 除かれる人

民法1050条1項は,特別寄与者から「相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者」を除いている。
したがって,次の人は特別寄与料を請求できない。

① 相続人(自らの貢献は寄与分として主張する。)
② 相続の放棄をした者
③ 相続欠格者(民法891条)
④ 廃除によって相続権を失った者(民法892条,893条)

(続きを読む...)特別寄与料の請求―請求できる親族とできない人,相手方と負担額,6か月・1年の期間制限及び相続税(AI作成)

相続開始後も同居配偶者は自宅に住み続けられるか―配偶者短期居住権・共有持分・使用貸借・明渡し(AI作成)

相続開始時に被相続人所有の建物で暮らしていた配偶者は,死亡直後に当然退去しなければならないわけではない。配偶者短期居住権に加え,配偶者自身の共有持分や,被相続人との間で成立していた使用貸借が居住の根拠となることがある。

本記事では,明渡しの可否を一つの制度だけで決めず,居住の根拠,存続期間,用途変更及び使用料を順番に確認する。

目次
第1 最初に確認する四つの居住根拠
第2 配偶者短期居住権1 成立要件2 存続期間3 従前の用法と無断改築
第3 配偶者に共有持分がある場合
第4 黙示の使用貸借
第5 明渡しと使用料を分けて考える
第6 相談時に確保する資料
第7 出典・関連記事

第1 最初に確認する四つの居住根拠

同居配偶者に対する明渡請求では,少なくとも次の四つを確認する。

民法1037条以下の配偶者短期居住権
遺産分割又は遺贈で取得した配偶者居住権
配偶者自身の所有権又は共有持分
被相続人との間の使用貸借,賃貸借その他の契約

一つの権利が消滅しても,他の権利まで当然に消滅するものではない。したがって,「配偶者短期居住権が終わった」という理由だけで明渡しの結論を出さず,競合する権原を一つずつ検討する必要がある。

第2 配偶者短期居住権
1 成立要件

民法1037条1項は,配偶者が,被相続人の財産に属した建物に相続開始時に無償で居住していた場合,原則としてその居住部分を無償で使用できる配偶者短期居住権を定める。

確認すべき中心事実は,①法律上の配偶者であること,②建物が相続開始時に被相続人の財産に属していたこと,③相続開始時に居住していたこと,④使用が無償であったことである。建物の一部だけに居住していたときは,原則としてその部分が対象になる。

2 存続期間

配偶者を含む共同相続人間で居住建物を遺産分割する場合は,建物の帰属が確定した日又は相続開始から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで存続する。

それ以外の場合は,居住建物取得者が消滅の申入れをした日から6か月を経過する日までである。死亡から常に6か月で終了するわけではないため,遺産分割の対象か,誰が建物を取得したか,消滅の申入れがいつされたかを時系列で確認する。

3 従前の用法と無断改築

民法1038条1項は,配偶者に対し,従前の用法に従い,善良な管理者の注意をもって居住建物を使用するよう求める。同条2項は,居住建物取得者の承諾を得なければ,第三者に居住建物を使用させることができないと定める。

同条3項は,配偶者が同条1項又は2項に違反したとき,居住建物取得者が配偶者短期居住権を消滅させる意思表示をできると定める。条文上,相当期間を定めた是正催告は消滅の要件ではない。また,譲渡禁止は民法1041条が準用する1032条2項に基づく。

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遺産分割調停・審判はどのくらいかかるか―調停に代わる審判と二期日指定(令和6年)(AI作成)

目次第1 この記事の対象と資料1 使用する資料と対象期間2 数え方の注意第2 遺産分割事件の平均審理期間1 令和6年の平均と分布2 平均審理期間の推移第3 期間を左右する事情1 手続代理人弁護士の関与2 当事者の人数3 遺産の額・特別受益・寄与分4 期日の回数と間隔第4 終局の仕方と期間1 終局区分ごとの割合と期間2 調停に代わる審判の活用第5 期日間隔を縮める家庭裁判所の取組1 実情調査で紹介された取組2 代理人の側の工夫と課題第6 大阪家庭裁判所管内の数値第7 依頼者への説明と代理人の準備第8 関連記事第9 出典1 法令2 統計・データ
第1 この記事の対象と資料
1 使用する資料と対象期間

本記事は,最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」(令和7年7月)の家事事件の統計を基に,家庭裁判所の遺産分割事件(調停及び審判)がどのくらいの期間で終わっているかを整理するものである。
対象は令和6年に終局した事件であり,統計は令和7年4月15日現在の数値である。
主に,報告書152頁~156頁(遺産分割事件の概況),185頁~193頁(実情調査の結果等),資料4-1・4-2(事件類型別の数値),資料4-4・4-5(家庭裁判所管内別の数値)及び資料5の表42~表44(遺産額・特別受益・寄与分別の数値)を使った。

2 数え方の注意

遺産分割事件の既済件数と審理期間は,調停が不成立になって審判に移行した事件のように,調停と審判の両方を経た事件も1件として数えている(報告書152頁【図10】の注)。
したがって,平均審理期間は,最初の申立てから調停又は審判で終わるまでの期間と考えてよい。
他方,新受件数は,調停としての係属と審判としての係属を別々に数えている。

報告書の本文が「前回」と書くときは第10回報告書,すなわち令和4年の数値を指す。
平均期日間隔は,平均審理期間を平均期日回数で割った数値である(報告書155頁【表16】の注)。

第2 遺産分割事件の平均審理期間
1 令和6年の平均と分布

令和6年の遺産分割事件の既済件数は1万5379件で,平均審理期間は12.1月であった(報告書153頁,資料4-1)。
同じ年の民事第一審訴訟の平均審理期間(9.2月)より長い。
新受件数(調停と審判を別々に数えたもの)は1万9550件で,前回(1万6687件)から約17%増えた。

審理期間件数割合6月以内5361件34.9%6月超1年以内5016件32.6%1年超2年以内3575件23.2%2年超3年以内958件6.2%3年超469件3.0%

1年を超える事件は32.5%であり,おおむね3件に1件が1年を超えている。
前回(令和4年)は,6月以内が32.8%,1年超が35.0%であったから,短い側へ少し移っている。

2 平均審理期間の推移

報告書によれば,平均審理期間は,令和元年までの数年間は12月を下回っていたが,令和2年に大きく長くなって12月を上回り,令和4年から緩やかに短くなっている(報告書152頁~153頁)。
資料4-5の数値では,令和2年12.7月,令和3年13.2月,令和4年12.9月,令和5年12.5月,令和6年12.1月である。

報告書は,令和4年以降の短縮の要因として,新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着いたことのほか,各家庭裁判所が同感染症の拡大を契機に進めてきた調停運営改善の取組の効果が現れてきたことが考えられるとしている(報告書153頁)。

第3 期間を左右する事情
1 手続代理人弁護士の関与

遺産分割事件のうち,当事者のいずれかに手続代理人弁護士が付いた事件は1万2336件(80.2%)であった(資料4-1)。
報告書は,関与率が長らく6割台であったものが15年ほど前から上がり,平成30年頃から80%前後で高止まりしているとしている(報告書155頁)。

平均審理期間は,代理人の関与がある事件で13.2月,関与がない事件で7.9月であった(資料4-2)。
報告書も,関与がある事件の方が平均審理期間が長いという傾向に変化はないとしている。

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親が負担した建築資金は金銭贈与か建物贈与か―特別受益の認定・評価・証拠(AI作成)

目次第1 結論及び本記事の対象第2 贈与対象の認定を評価より先に行う1 特別受益に当たるための入口2 金銭又は代金債務の弁済による利益の贈与となる場合3 建物又は建物持分の贈与となる場合4 債務免除,持分及び使用利益を混同しない5 新築と増築・改築・リフォームを分ける第3 東京高裁令和6年12月18日決定1 判例秘書による一次資料確認の状況2 不動産そのものではなく購入資金の贈与としたこと3 資金の流れを認定した証拠4 消費者物価指数による換算第4 金銭贈与の評価1 相続開始時の貨幣価値への換算2 建物の老朽化を金銭贈与へ持ち込まない第5 建物贈与の評価1 相続開始時の客観的価値2 親が建築後に建物を贈与した裁判例3 民法904条と受益者による状態変更4 相続税評価額と民事上の評価額は目的が違う第6 認定及び評価に用いる証拠1 契約及び所有帰属に関する資料2 資金の流れに関する資料3 贈与又は貸付けの意思に関する資料第7 遺産分割及び遺留分との関係1 遺産分割における具体的相続分2 遺留分算定における贈与第8 受任時の確認手順1 認定表を先に作成する2 主張書面と証拠説明書を対応させる第9 まとめ第10 出典・参考資料1 法令及び公的資料2 裁判例3 関連記事
第1 結論及び本記事の対象

親が子の住宅の建築代金又は購入代金を負担した場合,特別受益の額を計算する前に,何が誰から誰へ贈与されたのかを認定する必要がある。
子が契約当事者となって住宅を取得し,親が代金を援助したのであれば,通常は金銭又は代金債務の弁済による利益が贈与対象となる。
これに対し,親が取得した建物を後に子へ贈与したのであれば,贈与対象は建物である。

両者は評価対象が違うため,贈与時に同額の支出がされていても,相続開始時に持ち戻す特別受益額が異なり得る。
親から施工業者へ直接送金されたという一事だけで,金銭贈与又は建物贈与のいずれかに決まるものではない。

本記事は,民法903条及び904条による遺産分割上の特別受益を中心に,遺留分算定への影響,東京高等裁判所令和6年12月18日決定及び実務で確認すべき証拠を整理する。
個別事件では,給付の法的性質,持戻し免除の意思表示,評価方法及び期間制限を別々に検討する必要がある。

第2 贈与対象の認定を評価より先に行う
1 特別受益に当たるための入口

民法903条1項は,共同相続人の中に,被相続人から遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者がある場合の具体的相続分を定めている。
住宅の取得又は建築のための多額の援助は「生計の資本」と評価されることが多いが,金額,被相続人の資力,援助の目的,通常の扶養の範囲,他の相続人への援助及び返済合意の有無を確認しなければならない。

贈与ではなく貸付けであれば特別受益ではない。
返済期限,利息,返済実績,催告,借用書及び会計・税務処理の有無は,贈与か貸付けかを区別する資料となる。

2 金銭又は代金債務の弁済による利益の贈与となる場合

子が建築請負契約又は売買契約の当事者であり,子が建物又は不動産を取得する一方,親が子へ資金を渡し,又は子に代わって施工業者若しくは売主へ代金を支払った場合は,金銭又は代金債務の弁済による利益が贈与されたと認定されることがある。

この場合,取得した住宅の現在価値ではなく,贈与された金銭等を相続開始時の貨幣価値に換算することが出発点となる。
もっとも,親自身の持分取得に対応する支払,共同住宅の親使用部分に対応する負担又は親に対する反対給付があるときは,支払全額が子への贈与になるとは限らない。

3 建物又は建物持分の贈与となる場合

親が注文者又は買主となって建物を取得し,その後,子へ建物又は建物持分を贈与した場合は,贈与対象は建物又はその持分となる。
この場合,特別受益として評価するのは,原則として贈与時の建築費そのものではなく,相続開始時における贈与対象の客観的な交換価値である。

登記が子名義であることは重要な資料であるが,建物取得の経緯,契約当事者,代金負担,完成時の所有帰属及び引渡しを含む事情を総合して判断する必要がある。
土地と建物の名義又は負担者が異なる場合は,建物だけでなく,敷地利用権,土地持分の贈与又は使用利益も切り分けて検討する。

親が建築計画を主導し,又は建築費の一部を負担したとしても,それだけで親が完成建物を取得したことにはならない。
東京地裁平成29年1月13日判決(平成27年(ワ)第21869号,判例秘書L07232077,裁判所HP未掲載)は,父が当初の建築計画を主導し,一部費用も負担したものの,融資及び建築名義等を子へ切り替えた事案で,建物が当然に父の所有となるものではないとした一方,父が負担した設計料等は別個の特別受益となり得るとした。

したがって,「親が建てた建物」という表現から直ちに建物贈与と分類せず,建築請負契約の注文者,代金債務者,融資の債務者,建築確認上の建築主,引渡しを受けた者,完成時の登記名義人及び各当事者の出捐を区別して,完成時の所有帰属を認定する必要がある。

4 債務免除,持分及び使用利益を混同しない

親がいったん子へ住宅資金を貸し付け,後に返済を免除したのであれば,問題となる給付は当初の貸付金ではなく,免除時の債権又は免除による利益である可能性がある。
また,二世帯住宅では,親子それぞれの建物持分,建築費の負担,土地の使用利益及び親に対する生活支援等が併存し得るため,単純な床面積比又は負担額の差だけで贈与額を決めるべきではない。

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相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割―協議の無効,代筆の危険,成年後見の申立て及び特別代理人(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事の対象2 結論の要旨第2 判断能力を欠く相続人を含めた遺産分割協議の効力1 遺産分割協議は共同相続人全員でする2 意思能力を欠く者の法律行為は無効である3 認知症の診断があるだけで意思能力がないとは限らない4 家族が代わりに署名押印することはできない第3 遺産分割を進める三つの方法1 後見開始等の申立てをして成年後見人等と協議し,又は調停をする方法2 特別代理人の選任を求める方法3 遺産分割審判を最初から申し立てる方法第4 判断能力の程度による違い1 後見相当の場合2 保佐相当の場合3 補助相当の場合4 任意後見契約がある場合第5 後見開始等の申立ての進め方1 申立てができる親族2 申立てができる親族がいない場合の市町村長申立て3 申立先,鑑定及び本人の陳述聴取4 申立ての取下げの制限と費用5 成年後見人の選任と遺産分割への関与第6 手続中に注意すべき期限と資金1 相続税の申告期限2 預貯金の払戻し3 相続放棄を検討する場合第7 出頭が難しいだけの相続人との違い第8 令和8年成年後見制度改正の影響第9 出典1 法令2 裁判例3 裁判所及び行政機関の公表資料4 文献
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事の対象

本記事は,共同相続人の中に,認知症,精神疾患又は知的障害等のため判断能力を欠き,又は欠いている疑いがある人がいる場合に,遺産分割をどのように進めるかを,令和8年9月11日時点の法令,裁判例及び家庭裁判所の公表資料に基づいて整理するものである。
主な対象は,その相続人がまだ家庭裁判所から後見開始等の審判を受けていない場面である。
判断能力の程度や手続の段階によって取るべき方法が異なるため,協議の効力,手続の選び方,判断能力の程度による違い,後見開始等の申立て,手続中の期限及び令和8年成年後見制度改正の影響を順に扱う。

2 結論の要旨

結論は次のとおりである。
①判断能力を欠く相続人を加えて遺産分割協議をしても,その相続人の意思表示は無効であり(民法3条の2),協議は有効に成立しないと考えられる。
②家族であっても,成年者を代理して遺産分割協議書に署名押印する権限は当然には生じず,権限なく本人名義で署名押印すれば私文書偽造罪(刑法159条)の成否が問題となり得る。
③遺産分割を進める本筋は,その相続人について後見開始等の申立てをし,家庭裁判所が選任した成年後見人等との間で協議又は調停をする方法である。
④家事事件手続法19条及び民事訴訟法35条の特別代理人は,文言上は未成年者又は成年被後見人を対象とする制度であり,後見開始の審判を受けていない人についても選任し得るとする解釈と高裁の決定はあるものの,遺産分割について家庭裁判所の公表資料が案内しているのは成年後見手続である。
⑤遺産分割審判を最初から申し立てることはできるが,それによって相続人の判断能力の問題が解消されるわけではない。
⑥後見開始等の申立ては,本人の配偶者や四親等内の親族等がすることができ,申立てをする親族がいない場合には市町村長による申立てが問題となる。

第2 判断能力を欠く相続人を含めた遺産分割協議の効力
1 遺産分割協議は共同相続人全員でする

民法907条1項は,共同相続人は,遺言で分割が禁じられた場合等を除き,いつでも,その協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができると定めている。
遺産分割協議は共同相続人全員でしなければならず,家庭裁判所の遺産分割調停でも,申立人は他の共同相続人全員を相手方とする必要がある(裁判所職員総合研修所監修『家事事件手続法下における書記官事務の運用に関する実証的研究-家事調停事件及び別表第二審判事件を中心に-』253頁)。
したがって,判断能力を欠く相続人を除外して,残りの相続人だけで遺産分割協議を成立させることはできない。

民法907条2項は,「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。」と定めている。
判断能力を欠く相続人がいて協議ができない場合も家庭裁判所の手続を利用することになるが,後記第3の3のとおり,家庭裁判所の手続でもその相続人の能力の問題は残る。

2 意思能力を欠く者の法律行為は無効である

民法3条の2は,「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と定めている。
遺産分割協議に加わる各相続人の合意は意思表示であるから,協議の時点で意思能力を欠いていた相続人の意思表示は無効となる。
その結果,共同相続人全員の有効な合意がないことになり,協議は有効に成立しないと考えられる。

このような協議に基づいて相続登記や預貯金の払戻しがされても,後に協議の無効が主張されれば,その前提が争われることになる。
遺産分割協議の効力が争われる場面としては,このほかに錯誤による取消しがあり,遺産分割協議における錯誤取消し―旧法の要素の錯誤,裁判例と実務対応で整理している。

3 認知症の診断があるだけで意思能力がないとは限らない

意思能力の有無は,病名だけで一律に決まるものではない。
片岡武・管野眞一編著『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』488頁は,遺言能力に関する説明の中で,意思無能力かどうかは,問題となる個々の法律行為ごとに,その難易や重大性なども考慮して,行為の結果を正しく認識できていたかを中心に判断されるべきものであると説明している。

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大学の学費は特別受益になるか―きょうだいの一人だけが大学へ進学した場合と医学部・歯学部の裁判例(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の見取図1 対象とする場面2 結論の見取図第2 学費が特別受益になるかを考える枠組み1 「生計の資本としての贈与」と扶養義務の関係2 学説の二つの見解3 家庭裁判所の実務書の説明4 大学進学の現状5 裁判例が示す基準第3 きょうだいの一人だけが大学へ進学した場合1 特別受益とされなかった例2 特別受益に当たることを前提に算定を求めた例3 二つの事案の違い第4 医学部・歯学部など学費が特に多額の場合1 歯学部の学費を特別受益とした例2 医学部・歯学部の学費を特別受益としなかった例3 高卒のきょうだいがいる場合への当てはめ4 学費以外の費用と,誰が負担したか第5 特別受益に当たり得ても持戻しが免除されることがある第6 孫の学費を祖父母が負担した場合第7 金額の算定,期限と確認する資料1 特別受益とされた場合の金額2 期限3 確認する資料第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献4 統計
第1 本記事の対象と結論の見取図
1 対象とする場面

本記事は,3人の子のうち2人は高校を卒業して就職し,1人だけが親に大学の学費を出してもらったという場合に,その学費が民法903条1項の特別受益として遺産分割で考慮されるかを,令和8年9月11日時点の法令と裁判例に基づいて整理するものである。
遺留分の計算でも,相続人に対する生計の資本としての贈与は基礎となる財産に算入されるため(民法1044条1項・3項),同じ問題が生じる。
子の人数が3人であること自体は結論に関係せず,判断を分けるのは,学費の額,親の資産や社会的地位,学費が支出された当時の事情,他の子との比較である。

2 結論の見取図

裁判例と実務書を踏まえると,結論は次のように整理できる。
①大学の学費は,親の資産や社会的地位からみてその程度の教育を受けさせるのが普通といえる範囲では親の扶養義務の履行とされ,本記事で確認した裁判例でも特別受益を否定したものが多い。
②きょうだいのうち一人だけが大学へ進学したという事実だけで,直ちに特別受益とされるわけではない。
③私立大学の医学部や歯学部のように学費が特に多額の場合には,特別受益とされた裁判例がある一方,家業の承継や他のきょうだいの学歴を理由に否定した裁判例もある。
④特別受益に当たり得る場合でも,親が持戻しを免除する意思を有していたと認められることがある。

第2 学費が特別受益になるかを考える枠組み
1 「生計の資本としての贈与」と扶養義務の関係

民法903条1項は,共同相続人のうち,被相続人から遺贈を受け,又は「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者」があるときは,その贈与の価額を相続財産に加えて相続分を計算すると定めている。
他方で,直系血族は互いに扶養をする義務を負う(民法877条1項)。
大学の学費は,卒業後の生活の基礎となる点で「生計の資本」に当たり得るが,親が子に教育を受けさせる費用は扶養の一内容でもあるため,どこまでが扶養でどこからが遺産の前渡しかが問題となる。

親が離婚した場合に子の大学の学費を養育費に加算できるかという別の問題は,私立学校・大学・留学の学費は養育費に加算できるか―標準教育費と超過分の計算で扱っている。

2 学説の二つの見解

松川正毅・窪田充見編『新基本法コンメンタール 相続』(日本評論社,2016年)の民法903条の解説(木村敦子執筆)は,教育費用として特別受益性が特に問題となるのは大学以上の高等教育であるとした上で,二つの見解を紹介している(同書71頁)。
一つは,高等教育の費用は生活費の源泉及び生活能力の取得のためのものであるから,常に生計の資本としての贈与に当たるとする見解である。
もう一つは,被相続人の資力や社会的地位,他の兄弟との比較から,具体的に被相続人の扶養義務に含まれるかどうかを判断した上で,通常の学資と考えられるものは特別受益に該当しないとする見解であり,同書はこちらが有力に主張されているとしている。

3 家庭裁判所の実務書の説明

片岡武・管野眞一編著『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(日本加除出版,2021年。以下「片岡・管野編著」という。)は,高等教育を受けるための学資とは基本的には入学金や授業料等をいい,その間の生活費や下宿代,留学時の渡航費用などを必ずしも含むものではないとしている(同書243頁~244頁)。
同書は,高校卒業後の専門学校,大学,留学等の学資は,私立の医科・薬科等の大学の入学金・授業料のように特別に多額なものでない限り,子の資質・能力等に応じた親の子に対する扶養義務の履行に基づく支出とみることができるとしている(同書244頁)。
また,扶養の範囲内とはいえないものの,相続人全員が大学教育を受け,ほぼ同額の受益を受けている場合には,「特別受益として考慮しない」とするのが相当であるとしている(同書244頁)。

田村洋三・小圷眞史編著『第3版 実務相続関係訴訟』(日本加除出版,2020年。以下「田村・小圷編著」という。)は,高等学校や大学の学費については,高学歴化の時代で多くの者が進学することから,扶養義務の履行にすぎないとして特別受益と見ない考え方が強くなっているようであるが,医学部など高額な費用を要する場合は特別受益と考える扱いが多いようであると説明している(同書27頁)。

4 大学進学の現状

文部科学省が令和7年12月26日に公表した学校基本統計(学校基本調査の結果)の確定値によれば,令和7年度の大学(学部)進学率(過年度卒を含む)は58.6%,大学・短期大学のほか高等専門学校4年次や専門学校を含む高等教育機関への進学率は85.4%である。
ここでいう大学(学部)進学率は,大学(学部)の入学者を3年前の中学校等の卒業者の数で割ったものである。

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実家に独身のまま無償で住み続けた子は特別受益者になるか―同居・別居・土地利用で分かれる判断(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の見取図1 対象とする場面2 判断を分ける四つの場面第2 無償居住で問題となる利益1 特別受益は「生計の資本としての贈与」に限られる2 使用借権と賃料相当額は区別される第3 親と同居していた場合は原則として特別受益にならない1 同居の子は占有補助者にとどまる2 使用借主の家族として同居していたにすぎない場合3 親の土地に建てた家で親と同居していた場合第4 特別受益に当たり得る場面1 親の住まいから独立した住戸を無償で使っていた場合2 親の土地に自分の家を建てて住んでいた場合3 家賃だけでなく生活費の援助も受けていた場合第5 特別受益に当たるとしても結論が動く事情1 持戻し免除の意思表示2 介護・扶養との関係と寄与分第6 親の死亡後も住み続ける場合第7 期限と主張立証の進め方1 遺産分割の10年と遺留分の期間2 特別受益を主張する側が確認する資料3 住み続けた側の反論第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 文献
第1 本記事の対象と結論の見取図
1 対象とする場面

本記事は,親(被相続人)名義の実家に,子が家賃を払わずに住み続けていた場合に,その居住の利益が民法903条1項の特別受益として遺産分割や遺留分の計算に反映されるかを,令和8年9月11日時点の法令と裁判例に基づいて整理するものである。
独身のまま実家に残った子が典型的な場面であるが,独身であること自体は法律上の要件ではなく,判断を分けるのは,親と同じ家で暮らしていたのか,親の住まいから独立した部分を独占していたのか,親の財産がどれだけ減ったのかという事情である。
配偶者の居住については配偶者短期居住権等の別の制度があるため,本記事は子の居住を対象とする。

2 判断を分ける四つの場面

裁判例と実務書を踏まえると,場面ごとの結論は次のように整理できる。
①親と同じ家で暮らしていた場合は,原則として特別受益にならない。
②親の住まいから独立した住戸を独占して無償で使い,親がその住戸を賃貸に出せた場合には,特別受益とされた裁判例がある。
③親の土地に自分名義の家を建てて住んでいた場合は,土地の使用借権が特別受益とされることがある。
④家賃を免れただけでなく生活費の援助も受けていた場合は,援助の額によって特別受益となることがある。

第2 無償居住で問題となる利益
1 特別受益は「生計の資本としての贈与」に限られる

民法903条1項は,共同相続人のうち,被相続人から遺贈を受け,又は「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者」がいるときに,その価額を相続財産に加えて相続分を計算すると定めている。
実家に住まわせることは,所有権を移すものではなく,無償で使用させる使用貸借(民法593条)の関係である。
そのため,無償居住が特別受益になるかは,親から子へ何が「贈与」されたといえるのか,すなわち使用借権そのものか,免れた家賃の累計かという形で問題になる。

2 使用借権と賃料相当額は区別される

遺産分割の実務書である片岡武・管野眞一編著『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(以下「片岡・管野編著」という。)は,特別受益は遺産の前渡しを考慮する制度であるから,相続開始時の遺産の減少分である使用借権相当額が特別受益額であり,遺産の価値と関わらない地代相当額は特別受益額とはならないという見解に実務が立っていると説明している(同書258頁)。
東京地方裁判所平成15年11月17日判決(平成13年(ワ)第16810号,家月57巻4号67頁,判タ1152号241頁)も,土地を無償で使用していた相続人について,使用期間中の使用による利益は使用貸借権の価格に織り込まれているとして,使用貸借権とは別に使用料を加算することを否定した。

したがって,「何十年分の家賃相当額をそのまま足し戻す」という主張は,土地の使用については,上記の実務書と判決のいずれも採っていない。
他方,後記第4の1の東京地方裁判所平成30年12月27日判決は,建物の独立した住戸の無償使用について,使用期間の賃料相当額を基に特別受益の額を算定しており,土地の場合とは算定方法が異なる。
親に固定資産税相当額や相場より安い家賃を払っていた場合に,それが賃料といえるか,使用貸借にとどまるかは,使用貸借と賃貸借の区別-固定資産税程度の支払,相場より安い地代・家賃は賃料かで扱っている。

第3 親と同居していた場合は原則として特別受益にならない
1 同居の子は占有補助者にとどまる

片岡・管野編著は,相続人が被相続人の建物で被相続人と同居していたが,単なる占有補助者であって独立の占有権原があると認められない場合は,使用借権が認められないから特別受益にならないとしている(同書261頁)。

同書は,独立の占有が認められる場合でも,建物については賃料相当額が特別受益になる場合はないとの見解を示している(同書260頁~261頁)。
その理由として,建物の使用貸借は恩恵的要素が強く遺産の前渡しという性格が定型的に薄いこと,建物の使用借権は対抗力がなく明渡しも容易で経済的価値に乏しいこと,賃料相当額を合計すると遺産の総額と比べて過大になることなどを挙げている。

さらに同書は,被相続人の強い希望による同居,被相続人の療養看護や生活支援のための同居,家業従事の都合による同居は,単純に相続人の利益のためとは言い難く,特別受益に該当しないことがあるとしている(同書262頁)。

2 使用借主の家族として同居していたにすぎない場合

(続きを読む...)実家に独身のまま無償で住み続けた子は特別受益者になるか―同居・別居・土地利用で分かれる判断(AI作成)

遺言と異なる遺産分割をしたい場合の調停手続-受遺者がいる場合の選び方(AI作成)

目次

第1 結論及び本記事の対象第2 遺産分割調停を利用できる場合1 分割すべき遺産が存在すること2 包括受遺者がいる場合3 包括受遺者と養子縁組無効確認の訴えの利益第3 遺言によって取得者が確定している場合1 特定遺贈及び特定財産承継遺言2 特定遺贈を放棄した場合第4 一般調停を利用する場合1 遺産に関する紛争調整調停2 親族関係調整調停3 調停不成立後の違い第5 遺言執行者及び関係者全員の同意1 遺言執行者がいる場合2 関係者全員が同意する場合第6 申立て前の手続選択1 状況ごとの手続2 最初に集める資料及び停止基準第7 遺言の存在を知らずに協議した場合第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 裁判所及び所管行政機関の解説・質疑応答4 その他の文献
第1 結論及び本記事の対象

受遺者が遺言と異なる分け方を希望しているというだけで,遺産分割調停を利用できるわけではない。
最初に確認すべきことは,遺言によって対象財産の取得者が既に確定しているか,複数の共同相続人又は包括受遺者の間に分割すべき未分割遺産が残っているかである。

未分割遺産が残っている場合は遺産分割調停を利用する。
これに対し,遺言によって取得者が既に確定した財産を関係者全員の合意で組み替える場合は,遺産分割調停ではなく,一般調停である「遺産に関する紛争調整調停」を検討するのが基本となる。
親族間の感情的対立や関係修復が中心である場合には「親族関係調整調停」が候補になるが,遺産の帰属を組み替えること自体が目的であれば,「遺産に関する紛争調整調停」の方が事件の内容に即している。

本記事は,令和8年10月1日現在の民法,家事事件手続法,裁判所の手続案内,裁判例及び国税庁の質疑応答事例を基に,AIを用いて手続選択の分岐を整理したものである。
具体的な申立てでは,遺言の文言,受遺者の種類,遺贈の承認又は放棄,遺言執行者及び登記の状況によって結論が変わる。

第2 遺産分割調停を利用できる場合
1 分割すべき遺産が存在すること

民法907条は,共同相続人が,被相続人による遺産分割の禁止がない限り,協議によって遺産の全部又は一部を分割できることを定めている。
協議が調わない場合又は協議をすることができない場合には,各共同相続人は家庭裁判所に遺産分割を請求できる。

遺産分割の対象になるのは,取得者がまだ確定していない遺産である。
名古屋家庭裁判所の遺産分割調停の案内も,有効な遺言書がある場合は原則として遺言書の内容が優先され,遺言で遺産全部の取得者が指定されている場合には,一般に遺産分割の余地がないと説明している。
ただし,遺言の対象となっていない残余財産があれば,その部分は遺産分割の対象になり得る。

2 包括受遺者がいる場合

民法990条は,包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有することを定めている。
複数の共同相続人又は包括受遺者の間に未分割遺産が存在する場合,包括受遺者も遺産分割手続の当事者となる。

裁判所の手続案内は,遺産分割調停の申立人として共同相続人及び包括受遺者を挙げ,すべての共同相続人及び包括受遺者を相手方又は申立人として手続に参加させる必要があるとしている。
一部の共同相続人又は包括受遺者を除外した合意では,遺産全体の分割を確定できない。

包括受遺者がいることだけで,当然に遺産分割調停を選択できるわけではない。
例えば,遺産全部が1人の包括受遺者に帰属し,包括遺贈が有効なままである場合には,複数人の間で分割すべき遺産が存在しない可能性がある。

3 包括受遺者と養子縁組無効確認の訴えの利益

最高裁平成31年3月5日第三小法廷判決(平成30年(受)第1197号)は,養親の相続財産全部の包括受遺者であることから直ちに養子縁組無効確認の訴えの利益が生じるとはいえないと判断した。包括受遺者が養子から遺留分請求を受け得るとしても,養子縁組の無効によって影響を受けるのは財産上の権利義務にすぎず,自己の身分関係上の地位に直接影響を受けるものではないからである。

民法990条により包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有することと,身分訴訟の訴えの利益を有することは同じではない。他方,包括受遺者が別に法定相続人たる地位その他の身分上の地位を有し,縁組の無効がその地位へ直接影響する場合まで,一律に訴えの利益を否定した判決ではない。

そのため,相続・遺留分等の財産上の紛争と,身分関係の対世的確定を求める訴えを分け,求める最終結果に対応する手続を選択する必要がある。訴えの利益の判断順序,戸籍・遺言等の確認資料及び判例秘書の確認状況は,養子縁組無効確認の訴えの利益―包括受遺者・相続人と最高裁平成31年3月5日判決で整理している。

第3 遺言によって取得者が確定している場合
1 特定遺贈及び特定財産承継遺言

民法964条及び985条によれば,遺言者は遺言によって財産の全部又は一部を遺贈でき,遺言は原則として遺言者の死亡時に効力を生じる。

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遺産分割と詐害行為取消権・無償行為否認―相続放棄との違い(AI作成)

第1 対象と結論

1 最初に押さえる結論

2 三つの制度を分ける必要

3 この記事の時点と適用法

第2 民法上の詐害行為取消請求

1 遺産分割が取消対象となり得る理由

2 現行民法上の要件

3 法定相続分との差額が直ちに取消額にならない理由

4 受益相続人の善意・悪意

5 取消しの方法・範囲・期間

第3 破産法上の否認権

1 詐害行為否認と無償行為否認

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遺産分割における代償分割―代償金・支払能力・分割払・税務(AI作成)

第1 代償分割の仕組みと本記事の範囲第2 協議・調停と審判の違い1 協議・調停では合意内容を柔軟に設計できる2 審判の直接の根拠は家事事件手続法195条である第3 審判で代償分割を選ぶための条件1 「特別の事情」は現在も条文上の要件である2 代償金の支払能力が必要である3 現物取得者を選ぶ事情を具体化する第4 代償金額と財産評価1 基本は具体的相続分と現物取得額との差額である2 遺産分割の評価額と相続税評価額を区別する3 高額な鑑定へ進む条件を絞る第5 支払能力の立証と資金計画1 支払期限に利用できる資金を示す2 将来の売却だけに依存する計画は弱い3 資金不足が明らかなら分割方法を再検討する第6 分割払・期限猶予と履行確保1 長期分割は相手方へ信用リスクを移す2 支払原因,金額及び期限を確定する3 担保・債務名義・引換給付を区別する第7 代償金が支払われない場合1 原則は解除ではなく代償金請求である2 再合意で税務を当然に巻き戻せるとは限らない第8 代償分割で確認する税金1 現金の代償金と相続税2 不動産の相続登記と不動産取得税3 取得不動産を後日売却するときの所得税4 固有不動産を代償として渡す場合第9 資産別の評価・税務・換価手続1 不動産は時価・正味換価額・税務評価を分ける2 上場株式等は評価基準日と口座所在を確認する3 非上場株式は評価と処分可能性を別に調べる4 退職金・死亡退職金は権利の帰属と支給時期を分ける第10 実務上の確認順序第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 裁判所・国税庁等の公表資料4 文献5 関連記事
第1 代償分割の仕組みと本記事の範囲

代償分割とは,共同相続人の一人又は数人が不動産,非上場株式その他の遺産を現物で取得し,取得額がその相続人の取り分を超える部分について,他の相続人に代償金を支払う分割方法である。自宅を売らずに配偶者が取得する場合,同族会社の株式を後継者へ集約する場合,事業用資産の一体性を保つ場合などに用いられる。

京都家庭裁判所の遺産分割調停案内は,遺産の分け方を現物分割,代償分割,共有分割及び換価分割の四つに整理し,代償分割には代償金を支払う相続人の資力が必要であると説明している。それぞれの特徴は次のとおりである。

分割方法
内容
主な注意点

現物分割
遺産そのものを各相続人へ分ける
財産ごとの価値に差があると公平な配分が難しい

代償分割
一部の相続人が現物を取得し,他の相続人へ代償金を支払う
評価額と支払能力が争点になりやすい

換価分割
遺産を売却し,手取金を分ける
売却時期,費用及び譲渡所得税を検討する必要がある

共有分割

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遺産分割協議における錯誤取消し―旧法の要素の錯誤,裁判例と実務対応(AI作成)

第1 この記事の対象と最初に確認すべきこと

1 現在は「錯誤無効」ではなく「錯誤取消し」である

2 結果が不満になっただけでは取り消せない

3 本記事の射程

第2 現行民法95条による判断の順序

1 錯誤には二つの類型がある

2 錯誤は重要なものでなければならない

3 基礎事情は他の共同相続人に表示されていなければならない

4 重大な過失があると原則として取り消せない

5 取消通知,期間及び第三者を別々に確認する

第3 誤認の類型別にみる裁判例

1 存在を知らなかった遺言

2 遺産目録から預貯金又は株式が漏れていた場合

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遺産分割における非嫡出子の相続分の変遷(AI作成)

第1 現在の結論と過去の相続の判定方法

1 現在は子の相続分に差がない

2 確認すべき二つの日付

第2 相続開始時期別の適用関係

1 時期別一覧

2 平成12年9月19日から平成13年6月30日までの空白

第3 明治民法から昭和22年改正まで

1 明治民法1004条

2 日本国憲法施行後の応急措置

3 昭和22年法律第222号

第4 合憲判断から違憲判断への転換

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遺産確認の訴えとは――当事者・確認の利益・対象財産・主張立証(AI作成)

第1 遺産確認の訴えが必要となる場面

1 「何を分けるか」を民事訴訟で確定する手続

2 判決で決まる事項と決まらない事項

第2 遺産分割その他の手続との区別

1 家庭裁判所の遺産分割との役割分担

2 別の訴訟物を選ぶべき争い

3 調停前置と管轄

第3 全共同相続人の参加と当事者の確定

1 固有必要的共同訴訟

2 相続分全部譲渡と一部当事者に対する取下げ

3 第三者が権利を主張する場合

第4 確認の利益を判断する基準

1 現実の争いと抜本的解決の必要性

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遺産分割前に預貯金を払い戻す二つの方法―民法909条の2と仮分割の仮処分(AI作成)

第1 結論

1 二つの方法

2 通常の検討順序

第2 預貯金が遺産分割の対象となるまでの経緯

1 最高裁判例

2 平成30年相続法改正

第3 民法909条の2による金融機関での払戻し

1 払戻限度額

(1) 各預貯金債権についての計算
(2) 一金融機関当たり150万円の上限

2 計算例

3 金融機関に提出する資料

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遺産分割調停・審判の管轄,移送と自庁処理(AI作成)

第1 調停と審判の管轄は異なる

1 基本的な区別

2 同じ裁判所で当然に続くわけではない

3 管轄を調べる前に手続類型を分ける

第2 遺産分割調停の管轄

1 相手方住所地と複数の相手方

2 住所がない場合又は住所が知れない場合

3 調停の合意管轄

4 相続開始地は調停の法定管轄ではない

第3 遺産分割審判の管轄

1 相続開始地の家庭裁判所

2 審判の合意管轄

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遺産管理人とは――遺産分割調停・審判中の選任要件と権限(AIリライト)

第1 この記事でいう遺産管理人

1 家事事件手続法200条1項の財産の管理者

2 名称が似ている制度との違い

第2 遺産管理人の選任要件

1 遺産分割事件の係属と本案審判の蓋然性

2 財産管理の必要性

3 選任の必要性を基礎付ける例

(1) 保存・管理が行われていない例

(2) 中立的な管理が必要となる例

(3) 賃料の開示をめぐる紛争

第3 申立て,審理及び不服申立て

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遺産分割における寄与分の主張方法―費用対効果・証拠・申立時期(AIリライト)

◯山中弁護士への事件のご相談・ご依頼は「遺言・相続のお問い合わせ」から可能です。

目次

第1 寄与分を主張する前に確認すべきこと

1 寄与分は努力に対する一般的な報酬ではない
2 最初に5項目で採算を確認する
3 寄与分の額と実際に増える取得額は一致しない

第2 寄与分の要件と5類型

1 主張できる者
2 特別の寄与
3 財産の維持又は増加との因果関係
4 無償性と対価の控除
5 実務上の5類型

第3 資料収集を段階化する方法

1 第1段階は入手しやすい資料だけで足りる
2 時系列は生活段階又は病状段階で区切る
3 類型別に優先すべき証拠

(1) 金銭等出資型
(2) 療養看護型

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特別受益を効率よく主張・立証する方法―遺産分割の10年ルールと証拠収集(AIリライト)

目次

第1 特別受益の調査は見込効果の確認から始める

1 特別受益が変えるのは具体的相続分である
2 調査費用と見込増加額を先に比べる

第2 遺産分割と遺留分の期限を混同しない

1 特別受益だけを独立訴訟で確定することはできない
2 遺産分割には相続開始から10年の制限がある
3 遺留分には別の1年及び10年がある

第3 調査する特別受益候補を絞る

1 優先順位が高い候補
2 慎重に扱う候補
3 共同相続人間の無償の相続分譲渡
4 生前贈与と預金の無断払戻しを分ける

第4 証拠収集は負担の軽い順に進める

1 第1段階は手元資料と公開資料である
2 被相続人名義口座は相続人から直接請求する
3 取引金融機関が不明なときは口座照会の限界を理解する
4 受贈者名義口座の取得は対象を絞ってから検討する

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遺産相続における非上場株式の評価方法(AI作成)

◯山中弁護士への事件のご相談・ご依頼は「遺言・相続のお問い合わせ」から可能です。

目次

第1 本稿の視点――「評価」は1つではない

1 なぜ非上場株式の評価は難しいのか
2 場面ごとに異なる「時価」の見取図

(1) 4つの時価
(2) 私法上の時価は税務上の時価より高くなりやすい

第2 相続税評価(財産評価基本通達)の基礎

1 4段階の判定手順

(1) 株主区分の判定
(2) 会社規模の判定
(3) 特定の評価会社の判定
(4) 評価方式の適用

2 相続税評価と遺産分割では評価目的が異なる
3 評価方式の見直しの動き

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遺産相続における共有状態の解消方法(AI作成)

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目次

第1 はじめに――「とりあえず共有」という先送り

1 本記事の狙い
2 共有状態が生む実務上の問題

第2 遺産共有の基礎――通常共有との異同

1 遺産共有の法的性質
2 各相続人の共有持分の割合
3 準共有となる財産(株式・投資信託・国債)
4 二つの解消ルート

(1) 遺産分割と共有物分割の役割分担
(2) 遺産共有は共有物分割訴訟によれないという原則

第3 遺産分割による解消――4つの分割方法

1 現物分割
2 代償分割

(1) 意義と要件

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