第1 寄与分を主張する前に確認すべきこと
1 寄与分は努力に対する一般的な報酬ではない
寄与分は,相続人間の抽象的な公平を図る制度ではなく,共同相続人の特別の寄与によって被相続人の財産が維持又は増加した場合に,具体的相続分を修正する制度である。
したがって,他の相続人より長く同居したこと,他の相続人が何もしなかったこと又は本人が大きな負担を感じたことだけでは足りない。
民法904条の2に沿って,誰が,いつ,何をし,それによって被相続人の財産がいくら維持又は増加したかを具体化する必要がある。
2 最初に5項目で採算を確認する
平均的な事務処理能力の弁護士が寄与分を扱う場合,最初から全期間の日誌や領収証を作り直す方法は,手間の割に成果が不確実である。
まず,次の5項目を1枚のメモにまとめ,詳しい調査へ進む価値があるかを判断するのが現実的である。
① 寄与行為をした者は相続人か,それとも相続人ではない親族か。
② 寄与行為の期間,内容及び実行者を大まかに区分できるか。
③ 報酬,生活費,贈与その他の対価を受けていないか。
④ 被相続人が免れた支出又は増加した財産を概算できるか。
⑤ 通帳,介護認定資料,診療記録,業務資料その他の客観資料が残っているか。
この段階で財産上の効果がほとんど説明できず,客観資料も乏しい場合は,大量の資料を集める前に,協議上の事情として述べるにとどめる選択肢も検討すべきである。
3 寄与分の額と実際に増える取得額は一致しない
寄与分をK円,寄与者の法定相続分をs,寄与分を考慮する前の遺産額をE円とし,特別受益等を考慮しない単純な事例を想定する。
寄与分を考慮しない取得額はsE円であり,寄与分を考慮した取得額はs(E-K)+K円となるため,実際の増加額はK(1-s)円である。
例えば,遺産が7000万円,法定相続分が8分の1,寄与分が400万円である場合,取得額は875万円から1225万円に増え,増加額は350万円となる。
同じ400万円の寄与分でも,法定相続分が2分の1である場合の増加額は200万円である。
したがって,資料取得費,弁護士費用,書面作成時間,遺産分割の遅延及び和解機会の喪失は,寄与分の名目額ではなく,実際に増える取得額と比較すべきである。
第2 寄与分の要件と5類型
1 主張できる者
寄与分を主張できるのは,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした共同相続人である。
相続放棄をした者及び相続人ではない親族は,寄与分を主張することができない。
相続人ではない親族が無償で療養看護その他の労務を提供した場合は,後記第6の特別寄与料を検討することになる。
2 特別の寄与
夫婦の協力扶助,親族間の扶養又は通常の同居生活として一般に期待される程度の行為は,それだけでは特別の寄与にならない。
寄与行為の期間,頻度,負担の重さ,被相続人との身分関係,報酬の有無及び他の親族の関与を併せて検討する必要がある。
療養看護型では,介護をしたという事実だけでなく,その時期に被相続人がどの程度の看護を必要としていたかが重要である。
3 財産の維持又は増加との因果関係
寄与行為によって,被相続人が介護費,従業員給与,借入費用,管理委託料その他の支出を免れたこと,又は事業若しくは財産の価値が増加したことを示す必要がある。
精神的な支え,付添い又は家族としての献身が大きくても,財産上の効果を説明できない部分は,寄与分の算定に直結しにくい。
4 無償性と対価の控除
給与,介護料,十分な生活費,財産の贈与その他の対価を受けていた場合は,寄与の特別性又は評価額が否定若しくは減額される可能性がある。
もっとも,少額の小遣いや通常の同居生活費が支払われていたというだけで直ちに無償性が失われるわけではなく,寄与行為との対価関係を具体的に検討すべきである。
5 実務上の5類型
寄与分は,家業従事型,金銭等出資型,療養看護型,扶養型及び財産管理型に整理されることが多い。
この類型は法律上の独立した請求原因ではなく,事実と評価方法を整理するための枠組みである。
同じ行為を複数の類型で重ねて評価すると二重計上になるため,最も説明しやすい類型を主位的に選び,異なる評価が必要な部分だけを分けるべきである。
第3 資料収集を段階化する方法
1 第1段階は入手しやすい資料だけで足りる
最初の段階では,戸籍関係,遺産目録,手元の通帳,介護保険資料,医療費資料,確定申告書,給与資料及び既存のメール等を確認する。
この資料から,寄与行為の期間,対価の有無,財産上の効果及び争点となりそうな箇所を抽出する。
相手方の反応も分からない段階で,数年分の行動を日単位で復元し,又は関係機関から考え得る全資料を取り寄せることは,通常は費用対効果に乏しい。
2 時系列は生活段階又は病状段階で区切る
療養看護の期間が長い場合は,要介護認定,入退院,認知機能の変化,介護サービスの導入及び同居開始等を基準として,複数の期間に区切る。
各期間について,必要な介護,実際に行った介護,外部サービスの利用,実行者及び被相続人が負担した費用を数行で整理する。
争いのない軽い期間まで毎日の行為を復元するのではなく,寄与の特別性又は金額を左右する期間に限って詳細化するのが相当である。
3 類型別に優先すべき証拠
(1) 金銭等出資型
金銭等出資型では,振込記録,通帳,契約書,領収証及び資金使途の資料を優先する。
支出額と被相続人の財産取得又は債務減少との対応が明確であれば,事実の復元に要する手間が比較的小さく,金額も説明しやすい。
名義上の支払者と実際の負担者が異なる場合は,資金の出所までたどる必要がある。
(2) 療養看護型
療養看護型では,要介護認定資料,診療録,ケアプラン,サービス利用票,介護事業者の記録及び入退院資料によって,看護の必要性と外部サービスの利用状況を先に確認する。
その上で,日記,予定表,メール,写真,交通記録及び第三者の説明によって,寄与者が実際に行った介護を補う。
同居していた事実だけでは,具体的な介護内容,頻度及び財産上の効果を示したことにならない。
(3) 家業従事型
家業従事型では,従事した業務,期間,勤務時間,事業への必要性及び同等の従業員を雇った場合の賃金を整理する。
確定申告書,決算書,給与台帳,社会保険資料,取引先とのメール及び業務日誌は,無償又は低額報酬であったことと事業への貢献を確認する資料になる。
長期間の業務を復元する負担が大きいため,事業価値又は人件費の維持額に比べて増加取得額が小さい場合は,調査範囲を限定すべきである。
(4) 扶養型
扶養型では,通常の親族扶養を超える支出のうち,振込記録等で追跡できる高額又は継続的な部分を優先する。
日常の食費や少額の立替えを長期間にわたって一件ずつ復元する方法は,証拠化の手間に対して寄与額が伸びにくい。
被相続人自身の収入及び資産から支払われた費用は,寄与者の財産上の給付と区別する必要がある。
(5) 財産管理型
財産管理型では,不動産管理,賃貸業務,債権回収その他の行為によって,どの管理費用を免れ,又はどの収益を維持したかを特定する。
管理委託契約の見積書,賃貸借資料,修繕記録,入出金記録及び同種業務の報酬資料が中心となる。
単に被相続人の事務を代行したというだけでなく,管理をしなければ生じた費用又は損失を具体化する必要がある。
4 第2段階以降は争点に応じて追加する
相手方が介護の必要性を争うなら医療・介護資料を,相手方が実行者を争うなら行動記録や第三者資料を,相手方が金額を争うなら代替サービスの料金資料を追加する。
この順序にすれば,争われない要件のために大量の資料を作成する手間を避けられる。
裁判所へ提出する書面は相手方にも開示されることを前提とし,無関係な個人情報のマスキング及び写しの作成に要する時間も見込むべきである。
第4 寄与分の算定と主張書面
1 最初は概算幅を示す
寄与分の協議を始める段階では,一つの精密な金額を先に固定するより,客観資料で確認できる下限と,追加立証ができた場合の上限を示す方が実務的である。
裁判所は,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して寄与分を定めるため,機械的な一律算定にはならない。
療養看護型では,第三者に同等の看護を依頼した場合の費用,実際の看護日数及び内容を基礎にすることがあるが,一律の裁量割合や平均的な認容率を前提にすべきではない。
2 主張書面は要件と証拠を対応させる
主張書面では,寄与行為ごとに,時期,方法,程度,無償性,財産上の効果及び対応する証拠番号を並べる。
介護した事実の説明と,被相続人が費用を免れたことの説明を分けると,因果関係が明確になる。
複数の期間又は類型がある場合でも,同じ介護行為について介護費と扶養額を重ねるなど,同じ財産上の効果を二重に計上してはならない。
3 請求額を増やすより中核部分を明確にする
裏付けの弱い周辺事情を大量に加えると,相手方の反論と裁判所の確認事項が増え,中核となる寄与行為の審理も遅くなる。
金銭の流れが明確な出資,介護度が高い期間の具体的な看護又は外部委託費を明確に節約した管理行為を優先し,弱い期間は予備的に位置付ける方がよい。
寄与分の増加取得額が小さい場合は,寄与分だけを全面的に争うより,遺産の取得方法,代償金の支払条件その他の分割条件を含めて解決する方が,全体の利益が大きくなることがある。
第5 協議・調停・審判での申立時期
1 調停中は直ちに別申立てが必要とは限らない
京都家庭裁判所の遺産分割調停案内は,調停手続では,まず遺産分割調停の中で寄与分を主張し,寄与分を考慮した分割方法に合意できれば,別の申立ては不要であると案内している。
したがって,相手方が寄与の事実をおおむね認め,金額を含む一括解決の可能性がある段階で,当然に別事件を申し立てる必要はない。
もっとも,寄与分が主要な争点となって合意できない段階,審判移行が近い段階又は裁判所から申立てを促された段階では,申立てを遅らせるべきではない。
2 審判では寄与分を定める処分の申立てが必要である
遺産分割の審判で寄与分の判断を求めるには,寄与分を定める処分の審判を申し立てる必要がある。
裁判所の案内によれば,寄与分を定める処分調停が不成立となって審判手続が始まっても,遺産分割審判の申立てがなければ,寄与分事件は不適法として却下される。
家事事件手続法192条により,遺産分割と寄与分を定める処分の各審判事件が係属するときは,両手続及び審判は併合される。
同法193条により,家庭裁判所は1か月を下らない申立期間を定めることができ,期間後の申立てを却下できるほか,期間指定がなくても,申立人の責めに帰すべき遅れによって遺産分割手続が著しく遅滞する場合には却下できる。
3 申立手数料より写しと立証の負担が大きい
裁判所の寄与分を定める処分調停の案内によれば,申立手数料は申立人1人につき1200円である。
もっとも,申立人以外の共同相続人全員が相手方となり,申立書の写しを相手方の人数分用意する必要がある。
既に遺産分割事件が係属している場合は標準的な申立添付書類が不要とされるため,既存事件の資料を利用して重複提出を避けるべきである。
大阪家庭裁判所の遺産分割調停案内も,申立書,遺産目録,相続関係図及び事情説明書等の提出書類を案内しており,相続人が多い事件では交渉状況一覧表の提出を求めている。
相手方が多い事件では,送付用写し,主張書面,証拠説明及び個人情報のマスキングが人数に応じて増えるため,この事務負担を見込んで主張を絞る必要がある。
4 相続開始から10年の制限
民法904条の3は,原則として,相続開始から10年を経過した後の遺産分割には,特別受益及び寄与分による具体的相続分の修正を適用しないとしている。
ただし,10年経過前に家庭裁判所へ遺産分割を請求した場合や,期間満了前6か月以内にやむを得ない事由があり,その事由が消滅してから6か月以内に請求した場合には例外がある。
古い相続には経過措置があるため,相続開始日だけで期限を自己判断せず,施行日との関係も確認すべきである。
第6 相続人ではない親族の特別寄与料
1 寄与分とは別の金銭請求である
民法1050条は,相続人ではない被相続人の親族が,無償で療養看護その他の労務を提供し,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合に,相続人へ特別寄与料を請求できるとしている。
特別寄与料は遺産分割に参加して財産を取得する制度ではなく,相続人に対する金銭請求である。
また,対象となるのは無償の労務提供であり,金銭を支出しただけの場合は民法1050条の対象に含まれない。
2 申立期間は短い
裁判所の特別の寄与に関する処分調停の案内によれば,家庭裁判所への申立ては,特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月,又は相続開始から1年を経過するとすることができない。
この期間は遺産分割の進行を待つには短いため,相続人ではない親族が実際の介護者であると分かった時点で,寄与分とは別に期限を確認する必要がある。
令和元年7月1日より前に開始した相続には,特別寄与料の申立制度を利用できない。
3 誰を相手方にするかで回収額と事務負担が変わる
特別寄与者は,相続人の1人又は数人だけを相手として請求することもできる。
もっとも,各相続人が負担する上限は,特別寄与料の総額にその相続人の法定又は指定相続分を乗じた額であるため,総額の支払を得るには相続分を有する相続人全員への請求が必要となる。
裁判所の案内によれば,特別寄与料の調停申立手数料は,相手方又は被相続人が複数の場合,1200円に相手方数及び被相続人数を乗じて算定され,申立書の写しも相手方人数分必要である。
したがって,一部の相続人だけを相手に短期解決を目指す場合は回収できる上限を確認し,全員を相手にする場合は申立費用,写し,送達及び交渉の負担を見込む必要がある。
4 実際に介護した者を曖昧にしない
相続人の配偶者等が介護した事案で,相続人自身の寄与分として主張するか,相続人ではない親族の特別寄与料として請求するかは,実際の行為者,役割分担,期限及び証拠を確認して決めるべきである。
家族単位で介護したというだけで,配偶者等の行為をすべて相続人の行為として扱う方法は,実行者に関する反論を招きやすい。
介護記録は行為者ごとに整理し,特別寄与料の期間制限が迫っている場合は,遺産分割内での評価だけに依存しない対応が必要である。
第7 出典・参考資料
① e-Gov法令検索・民法904条の2,904条の3及び1050条。
② e-Gov法令検索・家事事件手続法191条~193条及び216条の2~216条の5。
⑦ 堂薗幹一郎・野口宣大編著『一問一答 新しい相続法』(商事法務,2019年)176頁~194頁。