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実家に独身のまま無償で住み続けた子は特別受益者になるか―同居・別居・土地利用で分かれる判断(AI作成)

第1 本記事の対象と結論の見取図

1 対象とする場面

本記事は,親(被相続人)名義の実家に,子が家賃を払わずに住み続けていた場合に,その居住の利益が民法903条1項の特別受益として遺産分割や遺留分の計算に反映されるかを,令和8年9月11日時点の法令と裁判例に基づいて整理するものである。
独身のまま実家に残った子が典型的な場面であるが,独身であること自体は法律上の要件ではなく,判断を分けるのは,親と同じ家で暮らしていたのか,親の住まいから独立した部分を独占していたのか,親の財産がどれだけ減ったのかという事情である。
配偶者の居住については配偶者短期居住権等の別の制度があるため,本記事は子の居住を対象とする。

2 判断を分ける四つの場面

裁判例と実務書を踏まえると,場面ごとの結論は次のように整理できる。
①親と同じ家で暮らしていた場合は,原則として特別受益にならない。
②親の住まいから独立した住戸を独占して無償で使い,親がその住戸を賃貸に出せた場合には,特別受益とされた裁判例がある。
③親の土地に自分名義の家を建てて住んでいた場合は,土地の使用借権が特別受益とされることがある。
④家賃を免れただけでなく生活費の援助も受けていた場合は,援助の額によって特別受益となることがある。

第2 無償居住で問題となる利益

1 特別受益は「生計の資本としての贈与」に限られる

民法903条1項は,共同相続人のうち,被相続人から遺贈を受け,又は「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者」がいるときに,その価額を相続財産に加えて相続分を計算すると定めている。
実家に住まわせることは,所有権を移すものではなく,無償で使用させる使用貸借(民法593条)の関係である。
そのため,無償居住が特別受益になるかは,親から子へ何が「贈与」されたといえるのか,すなわち使用借権そのものか,免れた家賃の累計かという形で問題になる。

2 使用借権と賃料相当額は区別される

遺産分割の実務書である片岡武・管野眞一編著『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(以下「片岡・管野編著」という。)は,特別受益は遺産の前渡しを考慮する制度であるから,相続開始時の遺産の減少分である使用借権相当額が特別受益額であり,遺産の価値と関わらない地代相当額は特別受益額とはならないという見解に実務が立っていると説明している(同書258頁)。
東京地方裁判所平成15年11月17日判決(平成13年(ワ)第16810号,家月57巻4号67頁,判タ1152号241頁)も,土地を無償で使用していた相続人について,使用期間中の使用による利益は使用貸借権の価格に織り込まれているとして,使用貸借権とは別に使用料を加算することを否定した。

したがって,「何十年分の家賃相当額をそのまま足し戻す」という主張は,土地の使用については,上記の実務書と判決のいずれも採っていない。
他方,後記第4の1の東京地方裁判所平成30年12月27日判決は,建物の独立した住戸の無償使用について,使用期間の賃料相当額を基に特別受益の額を算定しており,土地の場合とは算定方法が異なる。

第3 親と同居していた場合は原則として特別受益にならない

1 同居の子は占有補助者にとどまる

片岡・管野編著は,相続人が被相続人の建物で被相続人と同居していたが,単なる占有補助者であって独立の占有権原があると認められない場合は,使用借権が認められないから特別受益にならないとしている(同書261頁)。

同書は,独立の占有が認められる場合でも,建物については賃料相当額が特別受益になる場合はないとの見解を示している(同書260頁~261頁)。
その理由として,建物の使用貸借は恩恵的要素が強く遺産の前渡しという性格が定型的に薄いこと,建物の使用借権は対抗力がなく明渡しも容易で経済的価値に乏しいこと,賃料相当額を合計すると遺産の総額と比べて過大になることなどを挙げている。

さらに同書は,被相続人の強い希望による同居,被相続人の療養看護や生活支援のための同居,家業従事の都合による同居は,単純に相続人の利益のためとは言い難く,特別受益に該当しないことがあるとしている(同書262頁)。

2 使用借主の家族として同居していたにすぎない場合

東京地方裁判所平成26年3月28日判決(平成24年(ワ)第21551号,裁判所HP未掲載)は,被相続人が前妻との裁判上の和解で離婚する際,前妻の存命中は前妻が建物を無償で使用することを認め,子らが前妻の家族として同居することに異議を述べないとした事案である。
同判決は,使用貸借契約を結んだのは前妻であり,子らは前妻の家族として同居する場合に限り居住を認められたにすぎず,子らが住むことによって被相続人の財産には何らの減少もなかったとして,子らの特別受益を否定した。
離婚前の居住についても,被相続人が夫婦間の協力扶助義務に基づいて前妻に建物を使用させ,子らはその家族として住んでいたとして,同様に特別受益を否定している。

3 親の土地に建てた家で親と同居していた場合

東京地方裁判所平成30年10月1日判決(平成28年(ワ)第5059号,裁判所HP未掲載)は,被相続人夫妻と同居することを前提に被相続人の土地上に娘の夫が建物を建て,被相続人がその建物で娘夫婦と同居してきた事案である。
同判決は,娘夫婦は被相続人と同居して生活してきたのであるから一方的に利益を受けたと認めることはできないとして,土地の使用借権が特別受益に当たるとの主張を退けた。
被相続人が死亡直前には介護施設に入居していた点についても,施設から退去せざるを得なくなった場合に差し当たり住む場所はその建物であったと推認し,結論を変えなかった。

なお,同判決は土地の評価に当たり,被相続人が建物の収去を求める事態を想定していなかったことから使用借権を比較的強固なものとみて,土地評価額の2割を土地利用権価格として控除している。

第4 特別受益に当たり得る場面

1 親の住まいから独立した住戸を無償で使っていた場合

東京地方裁判所平成30年12月27日判決(平成28年(ワ)第39357号,裁判所HP未掲載)は,被相続人夫婦が自宅部分と賃貸用住戸のある建物を所有し,賃貸用住戸の賃料収入で生計を立てていたところ,被相続人夫婦が1階の住戸に移った後,空いた2階の住戸に相続人の一人が家族と共に入居し,約5年8か月にわたり賃料を支払わずに使用した事案である。
同判決は,次の事情から,無償使用は生計の資本としての贈与であり特別受益に当たるとした。
①その住戸が被相続人夫婦の住戸と完全に独立した構造で,生活実態としても同居と評価できる要素がなかったこと
②被相続人夫婦が賃貸収益で生計を立てていたこと
③他の相続人は以前賃貸用住戸を借りて月額12万5000円の賃料を支払っていたこと
④使用期間が5年以上に及んだこと
⑤被相続人の配偶者が退去時に賃料の支払を求めたこと
⑥被相続人らが遺言公正証書で無償使用を相続分の前渡しと考えている旨を表明していたこと

特別受益の額は,使用当時の賃料相当額を月額14万9000円を下らないとした上で,14万9000円×67か月÷2(被相続人の持分)により,少なくとも499万1500円と算定されている。

この事案の相続人は家族と共に入居しており独身の子の事案ではないが,判断の対象は,同居といえるか,親の住まいから独立した部分を独占していたか,親の収入が減ったかという点に向けられている。

実務書には,被相続人が生計の資本としていた賃貸物件を使用貸借の対象とした等の特段の事情がない限り,建物の使用貸借は特別受益に当たらないと解されるのが一般的であるとする説明がある(井川憲太郎ほか共編『Q&A収益不動産の相続をめぐる法律と税務』130頁)。
片岡・管野編著も,建物について特別受益になる場合は基本的にはないとしつつ,いわゆる収益物件で本来賃貸しているものを相続人に無償で居住させた場合には,場合によっては賃料相当額が特別受益になり得るかもしれないとの見解を紹介している(同書261頁)。

本記事では,賃貸に出していない普通の実家に,親が施設等に移った後も子が一人で住み続けたというだけでは,直ちに特別受益とされるものではなく,住戸の独立性,賃貸に出せた可能性,親が対価を求めていたか,親が前渡しの意思を示していたかといった事情を積み重ねて判断されるものと整理する。

2 親の土地に自分の家を建てて住んでいた場合

実家の敷地に子が自分名義の家を建てて住んでいる場合は,建物ではなく土地の使用借権が問題となる。
片岡・管野編著は,遺産である土地に相続人が被相続人の許諾を得て建物を建て無償で使用している場合,相続開始時の土地の使用借権は生計の資本としての贈与として特別受益になり,使用借権による減価は更地価格の1割~3割程度,非堅固な建物では1割程度が通常であるとしている(同書255頁~256頁)。

前記の東京地方裁判所平成15年11月17日判決は,被相続人の土地を無償で借りてアパートを所有していた相続人について,使用貸借権の贈与を生計の資本の贈与として特別受益と認め,鑑定に基づく更地価格の15%(1935万円)を持戻しの額とした。
同判決は,相続人が被相続人夫婦に月額10万円(合計1360万円)を支払っていたとの主張についても,金銭出納帳等に「給料」と記載されていたこと等から扶養料とは認めず,土地使用との対価関係を否定している。

もっとも,第3の3の東京地方裁判所平成30年10月1日判決のように,その家で親と同居していた場合には特別受益が否定されることがある。
片岡・管野編著も,扶養の負担と土地使用の利益が実質的に相当の対価関係に立つ場合は特別受益はないと考えられるとしている(同書259頁)。

親子間の土地の使用貸借に関する贈与税・相続税の取扱いは,親族間で土地を使わせる場合の課税-使用貸借と相当の地代で説明している。

3 家賃だけでなく生活費の援助も受けていた場合

独身で実家に住む子が,家賃を免れるだけでなく親から生活費の援助を受けていた場合は,無償居住とは別に,その援助が生計の資本としての贈与に当たるかが問題となる。
直系血族は互いに扶養をする義務を負う(民法877条1項)ため,親族間の通常の扶養の範囲にとどまる援助は特別受益とされない。

東京家庭裁判所平成21年1月30日審判(平成17年(家)第4989号ほか,家月62巻9号62頁)は,遺産総額や被相続人の収入状況からすると,2年余にわたる毎月2万円から25万円の送金のうち,1か月10万円に満たない送金は親族間の扶養的金銭援助にとどまり,これを超える送金のみが生計の資本としての贈与と認められるとした。
この10万円という線は,同審判の事案における遺産総額や被相続人の収入を前提としたものであり,どの事案にも当てはまる一般的な基準ではない。

第5 特別受益に当たるとしても結論が動く事情

1 持戻し免除の意思表示

民法903条3項は,「被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。」と定めており,無償居住が特別受益に当たる場合でも,親が持戻しを免除する意思を示していれば,相続分の計算に加えない。
片岡・管野編著は,建物の無償使用が特別受益になるとしても,被相続人が相続人に建物を無償で使用させることは情宜に基づくものといえるから,持戻し免除の意思表示があると認めるのが相当であるとの見解を示している(同書261頁)。

反対に,第4の1の東京地方裁判所平成30年12月27日判決では,被相続人らが遺言公正証書で無償使用を相続分の前渡しと考えている旨を表明しており,これが特別受益を認める事情の一つとされた。
遺言書の本文だけでなく付言事項に,無償居住をどう扱うかについての親の考えが書かれていないかを確認する必要がある。

2 介護・扶養との関係と寄与分

実家に住み続けた子が親の介護や生活の支えを担っていた場合は,同居の目的が親の療養看護や生活支援にあったとして,特別受益に当たらない事情となり得る(片岡・管野編著262頁)。

その子が寄与分(民法904条の2)を主張する場合,片岡・管野編著は,寄与を主張する相続人が居住の利益を受けていたときは,算定された寄与分額から利益相当額を差し引くとしている(同書343頁)。
他方で同書は,被相続人から同居を求められた場合や療養看護のために同居せざるを得なかった場合には居住の利益は後退し,相続人に持家がなく相続人からの申出で同居が始まった場合には居住の利益が大きいとみることができると説明している(同書344頁)。
また,扶養の負担と土地使用の利益が対価関係に立つとして特別受益が否定される場合には,その扶養について重ねて寄与分を主張することはできないと解されている(同書259頁)。
寄与分の主張方法そのものは,遺産分割における寄与分の主張方法―費用対効果・証拠・申立時期で説明している。

第6 親の死亡後も住み続ける場合

親の死亡後に遺産分割が終わるまで実家に住み続けることは,親から子への贈与ではないから特別受益の問題ではなく,他の相続人がその間の家賃相当額を請求できるかという問題になる。

最高裁判所第三小法廷平成8年12月17日判決(平成5年(オ)第1946号,民集50巻10号2778頁)は,共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物で被相続人と同居してきたときは,特段の事情のない限り,相続開始時を始期とし遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認されるとした。
その上で,同居の相続人の占有・使用による利益に法律上の原因がないとはいえないとして,他の相続人の不当利得返還請求を認めなかった。

民法249条2項は,共有物を使用する共有者は,別段の合意がある場合を除き,他の共有者に対し自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うと定めているが,上記の使用貸借が存続している場合には,同項に基づく請求も認められないと考えられる(井川ほか共編129頁も同旨)。

民法1037条の配偶者短期居住権は「配偶者」を対象とする規定であり,子には適用されないため,子の居住は上記最高裁判決の推認に依拠することになる。
同判決は被相続人と同居してきた相続人についての判断であるから,親が施設等に移った後に子が一人で住んでいた場合に同じ推認が当然に及ぶかは,親の許諾の内容や経緯によって個別に判断されると考えられる。

第7 期限と主張立証の進め方

1 遺産分割の10年と遺留分の期間

民法904条の3本文は,「前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。」と定めており,相続開始から10年を過ぎると,家庭裁判所への遺産分割の請求等の例外に当たらない限り,特別受益を具体的相続分に反映させることができなくなる。
施行前に開始した相続についての経過措置を含め,この期限については特別受益を効率よく主張・立証する方法―遺産分割の10年ルールと証拠収集で説明している。

遺留分の計算では,相続人に対する婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本としての贈与は,相続開始前10年間にしたものが基礎財産に算入される(民法1044条1項・3項)。
遺留分侵害額の請求権は,相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅し,相続開始の時から10年を経過したときも同様である(民法1048条)。
遺留分侵害額の計算方法は,遺留分侵害額請求の計算方法と請求を受けた側の対応―期限の許与・分割払い・遅延損害金で扱っている。

2 特別受益を主張する側が確認する資料

無償居住を特別受益と主張する相続人は,裁判例が重視した事情に対応させて,次の資料を確認することになる。
①建物の登記事項証明書と図面(親の住まいと子の住戸が構造上独立していたか)
②住民票の写しや戸籍の附票(子がいつから住み,親がいつ施設等へ移ったか)
③親名義の賃貸借契約書や確定申告書の不動産所得の内訳(その住戸を賃貸に出していたか,同じ建物の他の住戸の賃料額)
④近隣の賃料相場や不動産業者の査定(賃料相当額の見込み)
⑤遺言書の本文と付言事項,親の手紙やメモ(前渡しとする意思か,持戻し免除の意思か)
⑥親名義の通帳の送金記録(家賃とは別の生活費援助の有無と額)

親名義の資料は相続人の誰かが保管していることが多く,手元にない資料は,遺産分割調停の中で任意の提出を求めるなどの方法を検討することになる。
見込まれる増加額と調査の手間の比べ方は,前記の特別受益の主張・立証に関する記事で説明している。

3 住み続けた側の反論

実家に住み続けた相続人の側では,次の事情が特別受益を否定し,又は持戻しを免除させる方向に働く。
①親と同じ家で生活を共にしており,独立して占有していたわけではないこと
②同居が親の希望や介護・生活支援のためであったこと
③その建物は親の自宅用であり,賃貸に出す予定がなかったため親の財産が減っていないこと
④親が持戻しを免除する意思を示していたこと
⑤固定資産税や修繕費,親への仕送り等を負担しており,使用と対価関係にあったこと
もっとも,⑤については,東京地方裁判所平成15年11月17日判決が月額10万円の支払を「給料」として記録されていたことから扶養料と認めなかったように,支払の名目と記録が問われる。

遺産分割でその実家を取得して住み続ける場合の代償金の考え方は,遺産分割における代償分割―代償金・支払能力・分割払・税務で説明している。

第8 出典・参考資料

1 法令

①民法(明治29年法律第89号)249条,593条,877条,903条,904条の2,904条の3,1037条,1044条,1046条,1048条(e-Gov法令検索
法令は令和8年9月11日を基準とする。

2 裁判例

最高裁判所第三小法廷平成8年12月17日判決(平成5年(オ)第1946号,民集50巻10号2778頁)
②東京地方裁判所平成15年11月17日判決(平成13年(ワ)第16810号,家月57巻4号67頁,判タ1152号241頁,裁判所HP未掲載,判例秘書で全文確認)
③東京家庭裁判所平成21年1月30日審判(平成17年(家)第4989号,平成20年(家)第299号,平成20年(家)第300号,家月62巻9号62頁,裁判所HP未掲載,判例秘書で確認)
④東京地方裁判所平成26年3月28日判決(平成24年(ワ)第21551号,裁判所HP未掲載,D1-Law.com判例体系〔29026834〕で全文確認)
⑤東京地方裁判所平成30年10月1日判決(平成28年(ワ)第5059号,裁判所HP未掲載,D1-Law.com判例体系〔29052110〕で全文確認)
⑥東京地方裁判所平成30年12月27日判決(平成28年(ワ)第39357号,裁判所HP未掲載,D1-Law.com判例体系〔29051554〕で全文確認)

3 文献

①片岡武・管野眞一編著『第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』(日本加除出版,2021年)255頁~262頁,343頁~344頁
②井川憲太郎・枝吉経・大塚康貴・棚橋桂介共編『Q&A収益不動産の相続をめぐる法律と税務』(新日本法規出版,2023年)129頁~130頁