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膝靱帯損傷で再建術を行わない場合の症状固定と後遺障害――保存療法,筋力回復の見通し及び装具の必要性(AI作成)

第1 再建術を行わないことから何が分かるか

1 三つの判断を分ける

交通事故による膝靱帯損傷について,再建術を行わず,装具及びリハビリテーションで経過をみることがある。
この場合,「再建術を行わないという治療選択」「今後の改善可能性」「症状固定時に残る障害」は,それぞれ別の判断である。
再建術を行わないことだけから,靱帯機能が正常に戻った,症状が消失した,又は症状固定に達したと結論づけることはできない。

本記事は,保存療法を続ける膝靱帯損傷について,症状固定と後遺障害の検討に必要な医学的事実及び確認手順を説明する。
既に一部の靱帯の縫合・修復を受け,残る靱帯の再建を行わない場合にも,どの組織を治療し,どの機能が残っているかを分けて確認するという考え方は共通する。
個別の手術適応,運動負荷及び装具の着脱は,担当医が傷病の状態に応じて判断する事項である。

2 「再建しない」の理由を確認する

(1) 現在の機能と治療目標に基づく選択

手術を行うかどうかは,損傷靱帯,損傷程度,合併損傷,実際の不安定性及び生活・仕事で必要とする活動によって異なる。
単独のACL損傷で日常動作に不安定性がない場合などには保存療法が選択され得る一方,不安定性が続く場合や複合損傷では手術を検討する場面がある。
ACL単独損傷の説明を,PCL損傷や膝関節脱臼を伴う多靱帯損傷へそのまま広げないことが重要である(末尾の医学資料①②)。

(2) 手術時期,身体的条件及び本人の選択

現在の再建を見送る理由が,安定性が十分であるためなのか,合併損傷や可動域等の条件から時期を調整しているためなのか,予想される利益と不利益を比較した結果なのかを確認する。
本人が説明を受けて手術を希望しない場合と,医師が現在の適応を認めない場合も区別する必要がある。
多靱帯損傷についての専門家合意は,文献全体として手術を支持する傾向を示す一方,損傷の組合せ,神経血管損傷及び患者側の条件に応じた個別判断を求めている(末尾の医学資料③)。

したがって,診療録の「手術不要」「保存的に経過観察」という短い記載については,その判断の理由,前提となる活動範囲及び再検討する条件を確認する。
再建しないという方針と,階段下降,不整地歩行又は重量物の取扱いに支障が残ることは,直ちに矛盾するものではない。

第2 症状固定は完治や通院終了と同じではない

1 公的な説明と判断の対象

国土交通省は,自賠責保険・共済の案内で,症状固定を,症状が安定し,医学上一般に認められた医療による効果が期待できなくなった時と説明し,医師が判断するとしている。
厚生労働省の労災保険の説明も,健康時の状態に完全に回復したことだけを治ゆとするのではなく,症状が安定して治療効果が期待できなくなった状態を含めている。
一時的な症状の緩和にとどまる治療が続いていることだけで,症状固定前であると決まるわけではない(末尾の行政資料①②)。

膝靱帯損傷では,①関節の動揺性,②曲げ伸ばしの制限,③筋力低下,④疼痛・しびれ,⑤具体的な動作の支障を分け,何が改善しており,何が残っているかを確認する。
筋力が改善していても動揺性又は拘縮が残る場合があり,反対に画像上の損傷が残っていても生活動作が改善する場合がある。
一つの所見の改善又は残存だけで,全症状の固定時期を決めないことが大切である。

2 手術をしないことと治療効果の有無

再建術を行わなくても,リハビリテーション等によって実質的な機能改善を期待できる段階であれば,その治療内容と経過を踏まえて症状固定時期を検討する必要がある。
他方,通院や運動を継続しているという事実だけで,今後も十分な改善が見込まれるとは限らない。
症状の維持,一時的な疼痛緩和及び持続的な機能改善を区別して担当医に確認する。

保険会社が治療費の支払終了を提案した日,手術を見送った日及び通院回数を減らした日を,そのまま症状固定日と扱うことも適切でない。
症状固定日が争われる場合には,診察所見,リハビリ記録及び予後に関する医師の説明をそろえて検討する。
症状固定後も治療を受ける必要があるかという診療上の問題と,その費用をどの制度・請求で扱うかという問題は分けて相談する必要がある。

第3 「筋力がつけば改善する」という見通しを具体化する

1 一般的な可能性と個別の予測

膝の支持に関わる筋機能の回復は,保存療法における重要な目標である。
ただし,「筋力がつけば改善する」という一般的な説明だけでは,対象となる患者のどの症状が,どの程度,どの時期までに改善すると見込まれているかは分からない。
担当医には,予測の根拠となる所見と,改善を期待する動作を確認する必要がある。

例えば,回復に1~2年程度を見込むとの説明を受けた場合には,①どの時点からの期間か,②筋力,動揺性,疼痛又は歩行機能のどれを指すか,③現在の改善傾向があるか,④予定する治療・運動療法は何か,⑤次の再評価をいつ行うかを確認する。
説明された年数を,すべての患者に当てはまる症状固定までの待機期間又は回復保証と扱わない。

2 測定値と実際の動作を併せて追う

MMT,大腿周径,ハンドヘルドダイナモメーター及び等速性筋力測定は,測っている対象と測定条件が異なる。
大腿周径の増加,筋力測定値の改善及び階段下降の改善を,同じ事実として扱わないことが必要である。
検査の役割と限界は,交通事故後の筋力低下と後遺障害で説明している。

経過を整理する場合には,次の項目を測定日ごとに並べる方法が有用である。
これは法定の書式ではなく,既存の医療資料と生活・就労上の支障を比較するための記録方法の提案である。

確認項目記録する内容比較時の注意
診察・測定日付,左右,筋力,周径,可動域,疼痛・腫脹方法,肢位,測定者等の違いを残す
日常動作階段,不整地,方向転換,歩行距離,膝崩れ装具の有無と動作条件を区別する
治療内容リハビリ内容,負荷・頻度の変更,処方医師の指示と実施状況を分ける
将来の見通し改善を期待する症状,根拠,再評価時期漠然とした可能性と具体的予測を分ける

改善が乏しい場合にも,直ちに努力不足と評価するのではなく,疼痛,可動域制限,神経障害,別部位の傷害及び運動負荷の制限を確認する。
筋力低下を認めたことは,残る症状の原因が筋力低下だけであることの証明とは異なる。
運動負荷を自己判断で増やしたり,評価のために装具を外して危険な動作を試したりする必要はない。

第4 MRIの連続性,瘢痕及び安定性を分ける

1 画像上の治癒所見が意味する範囲

ACL損傷のリハビリテーション後にMRI上の連続性を認めた研究がある。
ただし,対象は18~35歳の急性ACL損傷例であり,側副靱帯の完全断裂等は除外されている。
研究上の治癒所見には,正常な靱帯だけでなく,細く又は伸びていても連続している靱帯が含まれるため,正常な制動機能の回復を意味するとは限らない(末尾の医学資料④)。

この知見を,開放性脱臼,多靱帯損傷,PCL損傷又は研究対象とは異なる年齢・活動水準の患者へそのまま適用することはできない。
個別の機能は,原画像,診察所見,必要な動揺性評価及び実際の活動状況を併せて検討する。
詳細は,交通事故による十字靱帯・側副靱帯損傷の後遺障害を参照されたい。

2 瘢痕が支えているという説明の確認

「瘢痕が膝を支えている」という説明については,靱帯自体の連続性を指すのか,関節包等の周囲組織の瘢痕・拘縮を指すのかを担当医に確認する。
その説明が,現在の診察で緩みが小さいという評価なのか,負荷を加える動作でも十分な機能があるという評価なのかも区別する。
動揺性が小さいことと,可動域,筋力,疼痛及び就労機能が正常であることは,同じ判断ではない。

過去の「不安定性あり」と現在の「不安定性なし」が並ぶ場合には,診察日,検査の方向・肢位,疼痛や筋収縮,治療経過及び拘縮の状態を確認する。
異なる時点又は条件の記載を直ちに矛盾と評価せず,現在の評価がどの条件における所見かを明らかにすることが重要である。
追加の検査は,既存資料で解けない医学的な疑問が残り,担当医が診療上の必要性と安全性を認める場合に検討する。

第5 装具の使用実態と医学的必要性

1 「必要なとき」の意味を動作に置き換える

本人が装具を使う頻度と,医師が装具を必要と判断する頻度は,必ずしも同じではない。
「必要なときに使用する」という説明では,平地歩行,階段,不整地,長距離移動又は重量物の取扱いのうち,どの動作を想定しているかを確認する。
治療上の保護,疼痛の軽減,不安感の軽減及び機械的不安定性の補完という使用目的も分けて記録する。

装具については,処方日,製品又は構造,支柱等の有無,医師の指示,実際の装着場面及び装着による変化を確認する。
「サポーター」「ブレース」等の呼び名だけで,認定基準の硬性補装具に当たるかを決めない。
使用頻度が少ないことだけで必要性を否定せず,反対に頻繁に使用していることだけで上位等級を認めるものでもない。

2 動揺関節の基準との関係

自賠責の支払基準は,原則として労災保険の障害等級認定基準に準じた等級認定を定める。
厚生労働省の下肢の動揺関節の基準は,硬性補装具の必要性を,常時,時々及び重激な労働等の際に必要となる場合に分け,それぞれ第8級,第10級及び第12級に準ずる機能障害として扱っている(末尾の行政資料③④)。
この区分を検討するためには,症状固定時の動揺性と,そのために装具を必要とする医学的理由を具体化する必要がある。

筋力低下の数値だけを動揺関節の等級へ換算したり,未再建の靱帯があることだけから動揺関節を認めたりすることはできない。
動揺性,可動域制限,疼痛・しびれは,それぞれの認定要件に沿って検討する。
ストレス撮影の位置付け及び装具に関する立証は,動揺関節の立証手段としてのストレスレントゲン撮影で説明している。

第6 医師への確認と資料収集の順序

1 説明の出所を明らかにする

患者が伝える医師の説明は,確認すべき論点を見つける重要な手掛かりである。
ただし,患者による伝聞,診療録に残された医師の所見,検査結果及び将来予測を同じ資料として扱わない。
診察日,説明をした医師,対象となる症状及び説明の前提を整理し,判断を左右する事項は診療録又は医療機関への照会で確認する。

照会では,等級名や有利な定型句を求めるのではなく,次のように医学的事実を尋ねる方法が考えられる。
①再建術を行わない理由は何か。その判断は現在のどの所見と活動範囲を前提とするか。
②残る症状の原因を,靱帯性不安定性,筋力低下,拘縮又は他の損傷とどのように評価しているか。
③今後改善を期待する症状は何か。根拠となる経時的変化と治療計画はあるか。
④装具を必要とする動作,頻度及び目的は何か。使用頻度についての本人の判断とは区別できるか。
⑤現在の治療による持続的改善を見込むか。次の再評価時期と治療方針を見直す条件は何か。

2 既存資料を先にそろえる

最初に,救急・初診記録,画像報告と原画像,手術記録,リハビリ評価,装具処方及び後遺障害診断書を時系列でそろえる。
医学的な所見の変化と,階段や歩行等の支障の変化を対応させ,既存資料で何が確認でき,何が分からないかを特定する。
発行済みの診断書の誤記又は記載漏れが疑われる場合は,根拠資料を示して発行した医療機関に確認する。

専門医への紹介,追加のストレス撮影又は医学意見書は,結論に影響する具体的な医学的争点が残る場合に検討する。
検査を増やすこと自体を目的とせず,何が判明すれば治療又は後遺障害の評価が変わるかを明確にする。
作成依頼と受領後の確認は,交通事故の後遺障害診断書で説明している。

第7 関連する記事

①膝靱帯再建術後の症状固定と後遺障害
②交通事故による十字靱帯・側副靱帯損傷の後遺障害
③交通事故後の筋力低下と後遺障害
④動揺関節の立証手段としてのストレスレントゲン撮影
⑤交通事故の後遺障害診断書

第8 出典・参考資料

1 行政資料

①国土交通省「損害賠償を受けるときは?」症状固定の説明。
②厚生労働省「2-2 療養費はいつまでもらえるのですか。」労災保険の治ゆ・症状固定の説明。
③国土交通省掲載「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」第3。
④厚生労働省「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」平成16年6月4日基発第0604003号,第3節の動揺関節の準用基準。

2 医学資料

①American Academy of Orthopaedic Surgeons, OrthoInfo, “ACL Injury: Does It Require Surgery?”。ACLの保存療法と再建の判断についての患者向け解説。
②American Academy of Orthopaedic Surgeons, OrthoInfo, “Posterior Cruciate Ligament Injuries”。単独PCL損傷と複合損傷の治療選択についての患者向け解説。
③Murray IR et al., “Multiligament knee injury (MLKI): an expert consensus statement on nomenclature, diagnosis, treatment and rehabilitation”, British Journal of Sports Medicine, 2024. doi:10.1136/bjsports-2024-108089. 論文全文。専門家合意であり,個別患者の治療結果を保証する資料ではない。
④Filbay SR et al., “Evidence of ACL healing on MRI following ACL rupture treated with rehabilitation alone may be associated with better patient-reported outcomes: a secondary analysis from the KANON trial”, British Journal of Sports Medicine, 2023;57:91-99. DOI・論文全文。対象集団,MRI上の治癒の定義及び探索的二次解析という性質に留意する。