メインコンテンツへスキップ
       

交通事故後の筋力低下と後遺障害――MMT,大腿周径,ハンドヘルドダイナモメーター及びサイベックスの役割と限界(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

交通事故後の診療では,筋力を確認する方法として,徒手筋力検査(MMT),大腿周径の測定,ハンドヘルドダイナモメーター及びサイベックス・バイオデックス等の等速性筋力測定装置が用いられることがある。
これらは同じ「筋力検査」と呼ばれることがあるが,測っている対象,数値の精度及び後遺障害等級認定における役割は同じではない。

結論として,筋力検査は,筋力低下の存在及び程度,リハビリテーションの経過並びに日常生活・就労上の支障を客観化する補助資料となり得る。
しかし,自賠責保険の公表された認定基準には,「患側筋力が健側の何%以下なら何級」という数値基準はなく,筋力測定値だけから動揺関節,可動域制限又は神経障害の等級を決めることはできない。

検査を追加するかどうかは,①どの障害を証明しようとしているのか,②既存の診察・画像・リハビリテーション記録では何が不足しているのか,③検査結果によって治療又は法的評価が変わるのか,④安全かつ再現可能な条件で実施できるのか,という順序で検討する必要がある。

第2 4種類の評価方法が測るもの

1 徒手筋力検査(MMT)

徒手筋力検査は,検者が患者の運動を観察し,重力に抗して動かせるか,さらに徒手抵抗に抗して動かせるかを段階的に評価する検査である。
診察室や病室で反復して実施でき,神経障害や廃用による筋力低下のスクリーニング及び経過観察に適している。

他方,MMTは段階評価であり,特に重力に抗して十分に動かせる患者同士の細かな筋力差を数量化することには限界がある。
検者が加える抵抗,患者の疼痛及び努力量の影響も受けるため,可能であれば検査した筋群,肢位,疼痛の有無及び左右の値を記録することが望ましい。

2 大腿周径

大腿周径は,大腿部の一定位置を巻尺で測り,左右差や経時的変化から筋萎縮の程度を推測する方法である。
簡便であり,長期間の免荷,固定又は使用減少に伴う廃用性萎縮を示す資料となり得る。

もっとも,周径は筋力そのものを測る検査ではない。
測定位置,巻尺の張力,浮腫,皮下脂肪,受傷前の左右差及び測定者の違いによって値が変わり得るほか,周径差と大腿四頭筋の筋力差が常に一致するわけでもない。
したがって,「膝蓋骨上縁から何センチメートル近位」などの測定位置,測定日及び左右の実測値を併記する必要がある。

3 ハンドヘルドダイナモメーター

ハンドヘルドダイナモメーターは,小型の測定器を用いて等尺性筋力を数値化する方法である。
MMTより細かな差を記録でき,等速性筋力測定装置より導入しやすい利点がある。

ただし,検者が測定器を固定する力,固定用ベルトの有無,関節角度及び測定手順によって結果が変わり得る。
同じ方法で複数回測定して平均値を用いるなど,測定条件をそろえることが重要である。

4 サイベックス・バイオデックス等の等速性筋力測定

サイベックス又はバイオデックスは,あらかじめ設定した角速度で関節を動かし,膝伸展筋群及び膝屈曲筋群等の筋機能を定量する装置である。
代表的な指標には,ピークトルク,体重で補正したピークトルク,総仕事量,平均パワー,疲労の程度及び屈筋と伸筋の比率がある。

等速性筋力測定は,左右差及びリハビリテーションの経過を数量化する点で有用である。
一方,測定装置,角速度,収縮様式,関節可動域及び測定回数が異なれば数値を単純に比較できず,同じ装置を用いた再検査でも一定の測定変動が生じる。

サイベックス等は筋が発揮した力を測る装置であって,靱帯の緩み又は脛骨の前後移動量を直接測る装置ではない。
ストレスレントゲン撮影や関節弛緩性測定器とは,検査目的が異なる。

第3 筋力測定値を左右する要因

1 疼痛,恐怖及び努力量

筋力検査は患者が自ら力を出すことを前提とするため,疼痛,関節を再び傷めることへの恐怖,疲労,検査への理解及び努力量の影響を受ける。
低い数値が得られた場合でも,その原因が筋肉量の減少,神経障害,疼痛による抑制又は心理的な防御反応のいずれであるかは,筋力測定だけでは決まらない。

これらを直ちに「努力不足」と評価することも適切ではない。
膝関節の外傷又は手術後には,関節からの感覚入力の変化等により大腿四頭筋を十分に随意収縮できない関節原性筋抑制が生じ,反対側にも筋活動低下がみられることが医学文献で報告されている。

2 可動域及び測定条件

膝を動かせる範囲が狭い場合,測定装置が設定する運動範囲の一部を使用できず,健側と患側を同じ条件で比較できないことがある。
角速度を変えると結果も変化するため,報告書には,測定肢位,角速度,測定可動域,収縮様式,試行回数及び休息時間を残す必要がある。

3 健側を基準とする場合の限界

左右差は分かりやすい指標であるが,健側を常に正常値とみなすことはできない。
長期の活動低下によって両下肢の筋力が低下している場合,受傷側と非受傷側の差が小さくても,受傷側の筋力が十分に回復しているとは限らない。

反対に,受傷前から左右差があった場合又は利き脚・競技歴による差がある場合には,事故後の左右差を全て事故の結果とみなすことはできない。
左右差,体重補正値,経時的変化及び実際の動作能力を併せて評価する必要がある。

第4 後遺障害等級との関係

1 筋力低下率から等級を直接決める基準はないこと

自賠責保険の等級認定は,自動車損害賠償保障法施行令別表第一・第二及び,自賠責保険の支払基準が準拠すると定める労災保険の障害等級認定基準を基礎として行われる。
公表されている基準には,サイベックス等による筋力低下率を特定の等級へ機械的に対応させる規定はない。

したがって,「健側比60%であるから第12級」「左右差が30%を超えたから第10級」という当てはめはできない。
筋力測定は,適用を検討する障害系列の医学的根拠及び機能上の支障を補う資料として位置付けるべきである。

2 動揺関節との関係

動揺関節は,靱帯又は骨性支持組織の破綻等による機械的な不安定性と,硬性補装具を必要とする程度が中心となる。
公表された認定基準は,下肢の動揺関節について,労働への支障及び固定装具を必要とする程度によって区分しており,筋力測定値を区分基準としていない。

筋力低下による膝折れと,靱帯の弛緩等による関節動揺性は区別する必要がある。
後者を確認する主な資料は,ラックマンテスト,前方・後方引き出しテスト,内反・外反ストレステスト,ストレスレントゲン撮影,MRI所見,手術記録及び装具の必要性に関する医師の判断である。

筋力検査は,筋力低下が膝折れに関与している可能性,リハビリテーションの到達度又は装具装着下での機能を検討する補助資料にはなるが,靱帯の緩みを直接証明するものではない。
動揺関節とストレスレントゲン撮影については,動揺関節の立証手段としてのストレスレントゲン撮影で詳しく扱っている。

3 関節可動域制限との関係

関節の機能障害としての可動域制限は,原則として関節可動域の測定値及び器質的な原因を中心に評価される。
筋力が弱いため自力では十分に動かせない場合と,他動でも関節が動かない場合とでは医学的意味が異なるため,自動運動と他動運動を区別しなければならない。

サイベックス等で著しい筋力差が示されても,それだけで可動域制限の等級が認定されるわけではない。
反対に,筋力測定が正常範囲であっても,器質的な拘縮等による他動可動域制限が否定されるわけではない。

4 末梢神経障害との関係

神経損傷が疑われる場合,MMT及び定量的筋力測定は,どの筋群にどの程度の筋力低下があるかを確認する資料となる。
しかし,障害部位の特定及び事故との因果関係の判断には,知覚所見,腱反射,筋萎縮,針筋電図,神経伝導検査及び画像所見等との整合を確認する必要がある。

筋力低下があるという結果だけから,特定の末梢神経が損傷していると推定することはできない。
神経障害が認められる場合の等級は,神経症状又は支配筋の機能障害に関する基準に即して検討し,筋力測定値はその判断を補う資料となる。

第5 複数の傷害がある場合の因果関係

同じ下肢に膝靱帯損傷,骨折,末梢神経障害,疼痛又は血流障害等が併存している場合,測定された筋力低下がどの傷害によるものかは,筋力検査だけでは区別できない。
長期間の免荷,装具固定及び手術後の活動低下も,広い範囲の筋力低下を生じさせる。

因果関係を検討する際は,①事故前の下肢疾患及び左右差,②各傷害の受傷時期,③荷重制限・固定期間,④手術部位,⑤リハビリテーションの経過,⑥筋力の経時的変化,⑦神経学的所見,⑧画像及び電気生理学的検査との整合を確認する必要がある。

筋力測定結果が事故後の機能低下を示すことと,その全てが特定の一つの傷害に起因することとは別の命題である。
後遺障害診断書又は医師意見書では,測定値だけでなく,筋力低下の医学的原因について説明できる範囲を区別して記載することが望ましい。

第6 筋力検査の実施が有用な場合

定量的な筋力検査を追加することが有用となり得るのは,①MMTでは細かな左右差を表現できない場合,②リハビリテーション前後の変化を評価する場合,③自覚症状に対応する筋力低下の有無を確認する場合,④復職又は作業能力の検討に必要な場合,⑤医師が治療方針又は運動療法の設定に必要と判断する場合である。

後遺障害申請との関係では,既存の診療録に筋力低下の訴えだけがあり,客観的な筋力評価が全くない場合には,検査を追加する意義がある。
また,複数回の測定により低下が一貫して確認され,診察所見及び日常動作上の支障と整合する場合には,症状の持続性を説明する資料となり得る。

もっとも,適用を検討する等級が動揺関節である場合は,筋力検査よりも,靱帯損傷の内容,徒手不安定性検査,ストレスレントゲン撮影及び硬性補装具の必要性に関する記録の確認を優先する。
可動域制限を問題とする場合は,正確な自動・他動可動域測定と器質的原因の確認を優先する。

第7 検査を追加しないことが合理的な場合

追加検査が常に有益とは限らない。
既存の定量検査及びリハビリテーション記録によって筋力低下の程度が十分に確認できる場合,結果が治療方針又は等級上の評価を変えない場合,疼痛・不安定性等のため最大努力を伴う検査が安全に実施できない場合,又は標準化された方法で測定できない場合には,実施を見送ることが合理的である。

「後遺障害等級に有利になる可能性がある」という理由だけで,医学的必要性の乏しい検査を医療機関へ求めるべきではない。
どの検査をどの時期に行うかは,現在の症状,治療目的,安全性及び測定結果の利用目的を踏まえて主治医が判断する事項である。

第8 検査報告書に残したい事項

筋力測定の報告書には,少なくとも,①測定日,②対象筋群及び左右,③装置名,④測定肢位,⑤角速度又は等尺性測定時の関節角度,⑥収縮様式,⑦試行回数,⑧ピークトルクその他の採用指標,⑨体重補正値,⑩左右差,⑪疼痛・可動域制限・検査中止の有無,⑫検者及び使用した手順を残すことが望ましい。

後遺障害診断書には全ての測定条件を書き切れないため,詳細な検査結果表又はリハビリテーション評価表を別紙として確保し,診療録上の所見と対応させることが有用である。
単に「筋力低下あり」と記載するより,どの筋群に,どの方法で,どの程度の低下が確認されたかを明らかにする方が検証可能性は高くなる。

第9 後遺障害申請に向けた確認順序

筋力低下が問題となる事案では,次の順序で確認すると,検査の目的を見失いにくい。

①認定を求める障害が,動揺関節,可動域制限,神経障害,疼痛その他のどれであるかを特定する。
②診断名,画像所見,手術記録及び神経学的所見から,筋力低下の原因候補を整理する。
③MMT,大腿周径及び既存のリハビリテーション評価を確認する。
④不足する事実が定量的筋力測定によって明らかになるかを検討する。
⑤実施する場合は,安全性,測定条件及び他の傷害による影響を主治医と確認する。
⑥測定後は,数値を等級へ直接換算せず,他覚所見,経過及び具体的な生活・就労上の支障との整合を検討する。

筋力検査は,後遺障害の全体像を構成する一つの資料である。
検査の種類を増やすことよりも,何を証明する検査であり,どの所見と整合し,どこに限界があるのかを明示することが重要である。

第10 関連する記事

膝靱帯損傷,膝関節脱臼及び症状固定後の評価については,次の記事で詳しく扱っている。

交通事故による十字靱帯・側副靱帯損傷の後遺障害――動揺関節,MRI及び等級認定
交通事故による膝関節脱臼の後遺障害等級認定と立証資料
膝靱帯再建術後の症状固定と後遺障害
交通事故の後遺障害診断書

第11 出典・参考資料

1 法令・行政資料

自動車損害賠償保障法13条1項
自動車損害賠償保障法施行令2条及び別表第一・第二
国土交通省「自賠責保険・共済ポータルサイト よくあるご質問」
厚生労働省「障害等級認定基準の一部改正について」

2 医学文献

①Urhausen AP, et al. “Measurement properties for muscle strength tests following anterior cruciate ligament and/or meniscus injury: What tests to use and where do we need to go? A systematic review with meta-analyses for the OPTIKNEE consensus.” British Journal of Sports Medicine, 2022;56(24):1422-1431. PubMed
②Chamorro C, et al. “Absolute Reliability and Concurrent Validity of Hand Held Dynamometry and Isokinetic Dynamometry in the Hip, Knee and Ankle Joint: Systematic Review and Meta-analysis.” Open Medicine, 2017;12:359-375. PubMed
③Li RC, et al. “Eccentric and concentric isokinetic knee flexion and extension: a reliability study using the Cybex 6000 dynamometer.” British Journal of Sports Medicine, 1996;30(2):156-160. PubMed
④Hart JM, et al. “Quadriceps Activation Following Knee Injuries: A Systematic Review.” Journal of Athletic Training, 2010;45(1):87-97. PMC
⑤Nuelle CW, et al. “The Clinical Utility of Thigh Circumferential Measurement in Association with Quadriceps Limb Symmetry.” Arthroscopy, Sports Medicine, and Rehabilitation, 2025. PMC