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膝靱帯再建術後の症状固定と後遺障害|動揺性・可動域制限・疼痛の評価(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 症状固定に一律の術後月数はない

本記事は,交通事故による前十字靱帯(ACL),後十字靱帯(PCL)又は複合靱帯損傷について,再建術を受けた後も膝のぐらつき,曲げ伸ばしの制限又は疼痛が残った場合の症状固定と後遺障害評価を扱う。
再建術の適応又は術式の選択,競技復帰プログラム及び個別の医学的治療方針は対象外である。
交通事故以外の受傷についても医学的説明は共通し得るが,自賠責の等級及び請求期限は交通事故を前提とする。

再建術後について,「術後6か月」又は「術後1年」で一律に症状固定とする公表基準は確認できない。
厚生労働省は,労災保険における治ゆを,症状が安定し,医学上一般に認められた医療を行っても医療効果が期待できなくなった状態と説明しているため,術後経過月数ではなく,問題となる症状ごとの改善可能性を確認する必要がある。
国土交通省の自賠責案内も,症状固定を同様の状態として説明し,医師が判断するとしている。

症状固定は,治療を打ち切るよう求める制度でも,症状が消失したことを意味する概念でもない。
症状固定後も対症療法又は自己管理が必要なことはあり得るが,後遺障害評価では,その時点に残る動揺性,可動域制限及び疼痛を分けて検討する。

2 生物学的成熟,競技復帰及び症状固定は別の問題である

日本のACL損傷診療ガイドラインは,再建靱帯の成熟が術後6か月までには完了しないと説明している。
医学文献でも,移植腱のリモデリングは1年を超えて継続し得る一方,MRI信号だけから臨床的安定性又は患者の機能を一義的に予測できないとされている。
したがって,MRI上の成熟度を症状固定日の単独指標として用いることはできない。

移植腱の組織学的変化が続いていることは,そのまま法律上の症状固定前であることを意味しない。
反対に,競技復帰の許可が出たこと又は日常歩行が可能になったことも,回旋不安定性,階段での膝崩れ又は作業時疼痛が消失したことを意味しない。

競技復帰は,筋力,ホップテスト,動作の質,心理的準備及び再受傷リスクを含む競技上の判断である。
症状固定は,賠償又は保険実務で対象となる残存症状について,医学上一般に認められた治療による実質的改善が今後期待できるかという別の判断である。

3 既存記事との役割分担

靱帯損傷一般について,動揺関節,可動域制限及び神経症状の等級並びに申請資料を確認する場合は,交通事故の靱帯損傷と後遺障害等級を参照されたい。
ACL・PCL・側副靱帯の機能,事故との因果関係及び部位別検査は,交通事故による十字靱帯・側副靱帯損傷の後遺障害で説明している。

本記事は,術後のどの時点で何を確認するかに対象を限定する。
認定後の慰謝料,逸失利益及び将来装具費は,靱帯損傷の慰謝料・逸失利益・装具費で別に扱っている。

第2 再建術後の症状固定時期を判断する事項

1 症状ごとに改善可能性を検討する

再建術後には,同じ時期でも,靱帯による制動機能,関節可動域,筋力及び疼痛が同じ速度で回復するとは限らない。
したがって,「膝全体が治ったか」ではなく,①前後又は回旋の機械的不安定性,②伸展又は屈曲の制限,③疼痛・しびれ,④筋力及び神経筋制御に分けて改善経過を確認する。

動揺性が一定になっていても,関節線維症に対する治療で可動域改善が見込まれる場合がある。
反対に,可動域が回復していても,ストレス撮影又は機器計測で残る動揺性と膝崩れが今後の筋力訓練だけでは改善しないと判断される場合がある。

後遺障害評価の対象となるのは,原則として症状固定時に残った障害である。
術前のMRI又は徒手検査だけでなく,手術後の同時期に行われた画像,診察,動的検査及び生活上の支障を対応させて評価する。

2 具体的な追加治療の適応と予定を確認する

症状固定前であると判断するには,「再手術が理論上あり得る」という抽象的な可能性では足りず,残存症状に対する具体的な治療適応,実施予定及び改善見込みを確認する必要がある。
例えば,伸展制限について関節線維症に対する鏡視下授動術又は症候性サイクロプス病変の切除が予定され,改善可能性が医学的に認められている場合は,その治療後の状態を待つ理由となり得る。
候補となる治療名だけが記録され,適応も予定もない場合は,その記載から固定時期を決めることはできない。

再建靱帯の再断裂,骨孔位置の問題,感染又は合併半月板損傷が疑われる場合も,追加治療の適応と残存症状との関係を確認する。
もっとも,画像上の異常があることだけで再手術が必要になるわけではなく,症状,身体所見,治療利益及び侵襲を担当医が総合して判断する。

追加治療を選択しない場合も,その理由を単に「本人希望」と記載するだけでは足りない。
治療効果の不確実性,侵襲,合併症リスク,既往治療,医師の説明及び本人が重視した生活上の事情を記録すれば,治療が現実的な選択肢として残っていたかを後から検討しやすくなる。

3 リハビリテーション継続中という事実だけでは決まらない

筋力訓練又は可動域訓練を続けていることだけから,症状固定前又は症状固定後のいずれかを決めることはできない。
確認すべきなのは,訓練の目的,直近の測定値の推移,今後期待する改善の内容及び担当医の予測である。
通院が続いている事実は治療経過を示すが,改善可能性そのものの代わりにはならない。

筋力が増えれば日常動作が改善しても,靱帯性の前後動揺又は回旋動揺が同じ程度で残ることがある。
この場合,リハビリテーションの継続には医学的意味があっても,動揺関節という特定の障害について改善可能性が残るかは別に検討する。

症状固定の判断に用いる経過表には,単なる通院回数ではなく,可動域,筋力,腫脹,膝崩れ,装具使用及び患者報告アウトカムの推移を並べることが望ましい。
数か月にわたり各指標が横ばいであることは安定を支持し得るが,その期間だけを固定的な月数基準へ置き換えることはできない。

4 術後保護用装具と後遺障害の固定装具を区別する

手術直後の装具は,移植腱の保護,疼痛管理又は段階的な可動域訓練のために期間を限って使用されることがある。
一方,動揺関節の後遺障害評価で問題となる固定装具は,症状固定時に残る機械的不安定性のため,労働又は特定の動作でどの程度必要かという観点から評価される。
同じ製品を使い続けていても,使用目的と医学的必要性が変われば,評価上の意味も変わる。

日本の診療ガイドライン及びAAOSのガイドラインは,孤立性の初回ACL再建後について,ルーチンの機能装具が疼痛,可動域,安定性又は再受傷予防を改善する明確な利益を示していないとする。
この医学的知見は,複合靱帯再建又は症状固定後に客観的動揺性が残る人の装具必要性を一律に否定するものではない。

装具資料には,製品名だけでなく,硬性又は軟性の別,処方目的,使用開始・終了予定,装着する動作,非装着時の膝崩れ及び装着による改善を残す。
術後保護の予定期間が終わった後にも使用する場合は,使用理由が保護から残存不安定性へ変わったのかを主治医の記録で確認する。

第3 再建後に残る動揺性の評価

1 再建済みであることは安定性回復の証明ではない

膝靱帯再建術は,損傷した靱帯の制動機能を回復させることを目的とするが,手術を受けた事実だけで正常な安定性が回復したとはいえない。
移植腱の弛緩,再断裂,骨孔又は固定の問題,複合靱帯損傷,半月板・軟骨損傷及び下肢アライメント等により,前後又は回旋の不安定性が残る場合がある。

PCL再建後の系統的レビューでは,術後の機能改善が報告される一方,機器計測又はストレス撮影による健側差が残る結果も示されている。
集団平均の改善は,個々の患者について正常安定性が回復したことを証明しないため,症状固定時の実測資料が必要である。

MRIは,再建靱帯の連続性,走行,骨孔,固定材料及び合併病変の確認に役立つ。
もっとも,静止画像に連続性があることと,荷重・回旋時に正常な制動機能があることは別である。

2 不安定性の方向と検査条件を対応させる

ACL再建後はLachman test,前方引き出しテスト,pivot shift test及び前方移動量の機器計測が用いられる。
PCL再建後はposterior sag sign,後方引き出しテスト,重力位・跪座位又は器械負荷によるストレス撮影等を検討する。
前方不安定性の検査で後方又は回旋不安定性を代用せず,問題となる方向に対応する方法を選ぶ。

側副靱帯又は後外側支持機構を含む再建後は,内外反及び回旋不安定性も問題となり,重い複合損傷は交通事故による膝関節脱臼の後遺障害等級認定と立証資料も参照されたい。
検査名と陽性・陰性だけでなく,膝屈曲角度,負荷方向,end point,grade,筋収縮,疼痛及び健側差を記録しなければ,術前後又は施設間の結果を比較しにくい。

ストレス撮影又は機器計測の数値は,撮影方法,負荷量,基準線及び測定者によって変わる。
特定のミリメートル値を等級へ機械的に換算せず,検査方法の詳細は,動揺関節とストレスレントゲン撮影と併せて確認されたい。

3 筋力低下による膝折れと機械的動揺性を分ける

術後の大腿四頭筋又は膝屈筋の筋力低下,疼痛による抑制及び神経筋制御の低下でも,患者は膝が抜ける又は力が入らないと感じることがある。
この現象と,靱帯性又は骨性の異常可動性による動揺関節は同じではない。
もっとも,筋力低下と機械的動揺性が併存する場合もあるため,どちらか一方へ早急に決めない。

厚生労働省の障害等級認定基準は,筋力低下によって関節に動揺が生じる場合を動揺関節として扱わない。
被害者側は,膝崩れの訴えだけでなく,反復可能な徒手所見,動的計測,筋力測定及び装具による変化を組み合わせて原因を区別する。

筋力低下が主因であり,測定値が改善傾向にある場合は,訓練による改善可能性を検討する。
反対に,筋力が回復しても一定方向の動揺性が残る場合は,構造的な制動不全を検討する理由となる。

4 固定装具の必要場面を具体化する

下肢の動揺関節は,固定装具を常時必要とするか,時々必要とするか,重激な労働等の際だけ必要とするかによって評価区分が異なる。
自賠責の等級表に動揺関節という独立した文言はないため,労災障害等級認定基準を踏まえた相当等級として検討される。

症状固定時の残存状態主な法的評価経路優先して確認する資料
靱帯性又は骨性の異常可動性動揺関節として第8級7号,第10級11号又は第12級7号の相当等級方向別検査,健側差,固定装具の医学的必要性及び使用場面
器質的原因による屈曲・伸展制限膝関節の機能障害症状固定時の他動可動域,健側値,制限原因及び測定条件
疼痛・しびれ等が残る状態局部の神経症状として第12級13号又は第14級9号画像・診察所見,治療経過,症状の一貫性及び具体的支障

装具を購入又は所有している事実だけでは,医学的必要性は証明されない。
処方医,装具の構造,必要な動作・時間,非装着時の具体的危険及び装着効果について,診療録,装具処方記録及び生活・就労記録の対応関係を示す。

日常歩行では装具を使用しなくても,階段下降,不整地,重量物運搬又は回旋を伴う作業で必要となる場合がある。
等級と損害額は別問題であるため,職務上の支障と逸失利益の詳細は前記の損害額記事で検討する。

第4 再建後に残る可動域制限の評価

1 伸展制限と屈曲制限の原因を特定する

ACL再建後の伸展制限では,関節線維症,症候性サイクロプス病変,移植腱又は骨孔に関係する問題,疼痛及び防御性筋収縮等を検討する。
屈曲制限では,関節線維症,腫脹,疼痛,固定期間,合併骨折・半月板損傷及び複合靱帯再建の影響等を確認する。

日本のACL損傷診療ガイドラインは,術後伸展制限の主な原因として関節線維症とサイクロプスを挙げ,鏡視下授動術又はサイクロプス切除が行われる場合を説明している。
追加治療の適応が具体的に残るときは,その治療によってどの可動域がどの程度改善すると見込まれるかを確認してから症状固定時期を判断する。

可動域制限の原因が残存障害と対応しない場合は,事故又は再建術との因果関係が争われ得る。
器質的原因は,手術記録,術後画像,診察所見及びリハビリ記録を時系列で照合する。

2 自動値・他動値・健側値を同じ条件で記録する

関節機能障害の評価は,原則として他動可動域を基礎とし,健側との比較によって行う。
自動可動域は疼痛,筋力及び努力の影響を受けるため,他動値と記録を分ける。
後遺障害診断書には,左右の屈曲・伸展について自動値と他動値を混同せず記載する。

膝の伸展と屈曲について,基本肢位,測定器,固定位置,代償動作及び疼痛の有無をそろえる。
複数回の測定値が大きく異なる場合は,測定時期,担当者,腫脹及び治療直後かどうかを確認する。

術前又は退院時の可動域だけでは,症状固定時の機能障害を示せない。
詳細な測定方法及び等級基準は,膝関節の可動域制限と後遺障害12級7号で説明している。

3 サイクロプス病変の画像だけで機能障害を決めない

ACL再建後のMRIでは,移植腱前方の結節状病変が認められることがある。
しかし,MRIで確認されるサイクロプス病変には無症候のものがあり,画像上の存在だけで伸展制限又は後遺障害を認めることはできない。

症候性のサイクロプス症候群を検討するときは,終末伸展の制限,伸展時痛,弾発又はclunk,診察経過及び画像所見を対応させる。
切除術が行われた場合は,術前後の伸展角度と症状の変化を確認する。

画像上の病変があっても可動域及び患者報告アウトカムへの影響が確認できない場合には,法的な機能障害の根拠としての射程は限定される。
反対に,画像所見が明瞭でなくても,関節線維症その他の原因による反復可能な制限がある可能性は残るため,画像だけで結論を出さない。

第5 再建後に残る疼痛の評価

1 疼痛部位と原因候補を分ける

再建術後の疼痛には,膝前面痛,移植腱採取部痛,膝蓋腱又はハムストリング周囲痛,関節裂隙痛,固定材料周囲痛及び神経障害性疼痛等がある。
半月板損傷,軟骨損傷,変形性変化,感染後変化又は可動域制限に伴う疼痛が併存する場合もある。

「膝が痛い」という一括記載では,原因,事故との関係及び後遺障害の評価経路を判断しにくい。
部位,性状,圧痛,腫脹,熱感,知覚異常及び誘発動作を診察記録と対応させる。
膝崩れへの恐怖又は筋疲労を疼痛と一括せず,患者の表現を具体的な症状へ分ける。

膝前面痛又は跪坐痛は,移植腱の採取部位及び伸展制限等との関係が報告されている。
もっとも,術式だけから疼痛の存在又は程度を推定せず,個別の術式,診察所見及び経過を確認する。

2 器質的所見と神経症状の評価経路を分ける

疼痛が可動域制限又は動揺性と同じ器質的原因から生じる場合は,機能障害との評価の重なりを検討する。
動揺性又は可動域制限が等級要件を満たさなくても,事故及び手術後の経過と整合する疼痛・しびれが残れば,局部の神経症状として第12級13号又は第14級9号が問題となる場合がある。

神経症状の評価では,画像上の異常の有無だけでなく,症状の部位,治療経過,診察所見及び一貫性を確認する。
一方,自覚症状だけで等級が決まるわけではないため,疼痛の発生機序を支持する医学的所見がどこまであるかを区別する。

同じ痛みを,動揺関節,可動域制限及び神経症状として重ねて評価できるとは限らない。
残存障害ごとに原因と支障を整理し,系列,併合又は派生関係を個別に検討する。

3 症状の時系列と誘発動作を記録する

疼痛は,安静時,歩行時,階段昇降,しゃがみ込み,正座,跪坐,方向転換又は長時間座位のどの場面で生じるかを記録する。
痛みの強さだけでなく,動作を中止するのか,休憩で回復するのか,腫脹を伴うのか及び鎮痛薬又は装具で変化するのかを確認する。

術後早期に強かった痛みが軽減した後,特定動作の痛みだけが残る場合もある。
初診,手術前,手術直後,リハビリ中及び症状固定時の記録を並べれば,残存疼痛が手術侵襲,原外傷又は別原因のいずれと整合するかを検討しやすくなる。

就労資料は,医学的疼痛の存在そのものではなく,具体的な損害への影響を示す資料である。
診療録と,作業内容,休憩,配置変更,欠勤及び同僚の補助を対応させ,医学的評価と損害評価を混同しないようにする。

第6 症状固定前後に確認する資料と手順

1 既存の術前・術中・術後資料を先に揃える

被害者側が最初に取得する資料は,①事故直後の診療録及び画像,②術前MRI・ストレス撮影・徒手検査,③手術記録及び退院要約,④術後画像,⑤リハビリ記録,⑥装具処方・適合記録,⑦症状固定時の診察及び後遺障害診断書である。
術前と術後を同じ表に並べ,損傷構造,治療内容,改善した機能及び残った機能を分ける。
一部の資料が作成されていないことと,検査結果が陰性であることも区別する。

手術記録では,再建した靱帯,移植腱,骨孔,固定方法,合併半月板・軟骨病変及び術中合併症を確認する。
患者側が手術内容を推測して記載せず,医療機関が通常作成する記録を基礎にする。

リハビリ記録では,可動域,筋力,腫脹,荷重,歩行,階段,ホップ等の評価及び患者報告アウトカムの推移を確認する。
検査名又は数値だけでなく,測定条件と改善曲線を残せば,症状固定時期の説明に使いやすい。

2 主治医への質問を残存症状ごとに分ける

主治医に「後遺障害がありますか」とだけ質問しても,等級評価に必要な事実を十分に得られない場合がある。
質問は,①症状固定と判断する対象症状,②今後見込まれる治療効果,③残存動揺性の方向・原因,④可動域制限の原因,⑤疼痛の医学的説明,⑥装具の必要場面に分ける。
医師の回答と既存診療録が異なる場合は,どちらかを選ぶのではなく,時点又は測定条件の違いを確認する。

追加治療が候補となる場合は,治療名だけでなく,適応,予定時期,改善を期待する症状,成功可能性及び実施しない場合の見通しを確認する。
担当医が判断できない事項を法的等級の形式で回答するよう求めず,医学的事実と予測を質問する。

後遺障害診断書には,術前診断名だけでなく,症状固定時の症状,検査結果,可動域,装具及び予後が反映されているかを確認する。
不足がある場合は,既存診療録又は既に行われた検査で補えるかを先に検討する。

3 追加検査又は医学意見を検討する条件

追加のMRI,ストレス撮影,機器計測,専門医の再診又は医学意見書は,既存資料を確認しても結論を左右する具体的な空白が残る場合に検討する。
検査の安全性及び医学的必要性は医師が判断するものであり,等級取得の目的だけで患者側が一律に実施を求めるものではない。

低負担の確認で足りる場合は,手術記録,既存DICOM,リハビリ数値及び装具記録の取得を優先する。
異なる施設の測定値を比較する場合は,方法が同じかを確認し,条件が違う数値を単純に増減として扱わない。

高負担の医学意見を検討するのは,例えば,術後画像の解釈,不安定性の原因又は追加治療による改善可能性について専門的対立があり,何が判明すれば症状固定又は等級の評価が変わるかを説明できる場合である。
事故とのつながり,残存所見及び具体的支障のいずれも確認できない場合は,費用の高い意見書を重ねても結論が変わりにくいため,追加調査の停止を検討する。

4 後遺障害申請と請求期限を別に管理する

症状固定日は,後遺障害申請の医学的基準日となる一方,自賠責被害者請求及び加害者に対する損害賠償請求の期限は別に管理する。
リハビリ又は追加治療を続けているだけで,すべての請求権について時効完成が止まるとは限らない。

自賠責の後遺障害被害者請求について,国土交通省は症状固定日の翌日から3年以内と案内している。
加害者に対する請求権は別の規律及び経過措置が問題となるため,事故日,症状固定日,請求先及び交渉経過を分けて確認する。

申請時期を遅らせる医学的理由がある場合も,期限の確認を後回しにしない。
被害者請求,異議申立て及び時効の詳細は,前記の交通事故の靱帯損傷と後遺障害等級を参照されたい。

第7 再建術後の裁判例から分かること

1 PCL再建後の動揺関節を認めた判決

東京地方裁判所令和2年7月22日判決は,右PCL再建術後の事案について,ストレス撮影では術前より改善していたものの,knee-lax計測による不安定性,階段・しゃがみ込み・屈曲時痛及び仕事上の支障等を検討した。
同判決は,筋力強化後も残った構造的不安定性について,第12級7号の動揺関節を前提とする労働能力喪失を認めた。

この判決は,再建術により数値が改善したことと,後遺障害に当たる動揺性が残っていることが両立し得る例である。
もっとも,特定の計測値を一般的な等級基準とした判決ではなく,検査,装具,生活及び就労への支障を総合した個別判断である。

2 ACL再建後の機能障害を否定して疼痛を認めた判決

大阪地方裁判所令和元年6月13日判決は,ACL再建術を受け,術後約3か月で症状固定とされた事案について,症状固定時の膝関節機能障害を裏付ける明確な客観的異常所見を認めなかった。
他方,事故及び治療経過と整合する疼痛・しびれについて,第14級9号相当,労働能力喪失率5%,喪失期間5年を認めた。

この判決は,術後約3か月を一般的な症状固定期間としたものではない。
同じ膝の残存症状でも,可動域又は動揺性による機能障害が否定され,疼痛等の神経症状だけが認められる場合があることを示す個別例である。

3 二つの判決の射程

二つの判決から導けるのは,①手術済みであるだけでは後遺障害を否定できないこと,②術後期間だけでは症状固定を決められないこと,③動揺性,可動域制限及び疼痛を別の評価経路で検討する必要があることである。
どちらも下級審の個別事案であり,裁判所全体の確立した期間基準又は数値基準を示すものではない。
結論が異なる主因は手術名ではなく,症状固定時に確認された客観所見と残存症状の違いにある。

裁判例を個別事件へ当てはめるときは,損傷靱帯,術式,術後経過,症状固定時の検査,既往変性,装具及び職務内容の異同を確認する。
結論だけを引用し,手術時期又は等級だけを他の事案へ移すことはできない。

両判決は裁判所ウェブサイトに掲載されておらず,認証付き商用データベースで判決全文を確認した。
裁判所ウェブサイト未掲載であることは,判決が存在しないこと又は同種裁判例が他にないことを意味しない。

出典・参考資料

1 法令・行政資料

e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)」16条,16条の4及び19条
e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)」別表第二
③厚生労働省「2-2 療養費はいつまでもらえるのですか。」回答及び注1・注2
④厚生労働省「障害等級認定基準の一部改正について」(平成16年6月4日基発第0604002号)第10節上肢及び下肢
⑤厚生労働省「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日基発第0604003号)
⑥国土交通省「後遺障害別等級表
⑦国土交通省「支払までの流れと請求方法
⑧日本リハビリテーション医学会「関節可動域表示ならびに測定法改訂に関する告知(2022年4月改訂)

2 裁判例

①東京地方裁判所令和2年7月22日判決・平成30年(ワ)第38770号ほか・交通事故民事裁判例集53巻4号932頁~943頁(裁判所HP未掲載,弁護士ドットコムライブラリーで全文確認)
②大阪地方裁判所令和元年6月13日判決・平成30年(ワ)第1492号・交通事故民事裁判例集52巻3号709頁~720頁(裁判所HP未掲載,弁護士ドットコムライブラリーで全文確認)

3 診療ガイドライン・医学文献

①日本整形外科学会・日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会『前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン2019(改訂第3版)』(南江堂,2019年)52頁~54頁,61頁~63頁及び65頁~77頁
②American Academy of Orthopaedic Surgeons, Management of Anterior Cruciate Ligament Injuries: Evidence-Based Clinical Practice Guideline, 2022, 41頁~43頁
③Kotsifaki R et al., Aspetar clinical practice guideline on rehabilitation after anterior cruciate ligament reconstruction, Br J Sports Med, 2023;57:500-514, PMID 36731908, PMCID PMC11785408. PMC全文
④Meredith SJ et al., Return to Sport After Anterior Cruciate Ligament Injury: Panther Symposium ACL Injury Return to Sport Consensus Group, Orthop J Sports Med, 2020;8, PMID 32647735, PMCID PMC7328222. PMC全文
⑤Vajapey S et al., Assessment of Graft Maturity After Anterior Cruciate Ligament Reconstruction Using Autografts, Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc, 2020, PMCID PMC7451875. PMC全文
⑥Devitt BM et al., Isolated Posterior Cruciate Reconstruction Results in Improved Functional Outcome but Low Rates of Return to Preinjury Level of Sport, Orthop J Sports Med, 2018;6, PMID 30386804, PMCID PMC6204629. PMC全文
⑦Facchetti L et al., Cyclops lesions detected by MRI are frequent findings after ACL surgical reconstruction but do not impact clinical outcome over 2 years, Eur Radiol, 2017;27:3499-3508, PMID 27986989, PMCID PMC6374043. PMC全文
⑧Kambhampati SBS et al., Cyclops Lesions of the Knee: A Narrative Review of the Literature, Orthop J Sports Med, 2020, PMID 32923503, PMCID PMC7457408. PMC全文
⑨Peebles LA et al., Following Anterior Cruciate Ligament Reconstruction With Bone-Patellar Tendon-Bone Autograft, the Incidence of Anterior Knee Pain Ranges From 5.4% to 48.4% and the Incidence of Kneeling Pain Ranges From 4.0% to 75.6%, Arthrosc Sports Med Rehabil, 2024, PMID 38562662, PMCID PMC10982565. PMC全文

4 文献

①榎木貴之・小杉晴洋『自賠責・紛争処理事例と判例から読み解く後遺障害等級認定の判断』(新日本法規,2026年)396頁~437頁
②小野裕樹『被害者側弁護士のための交通賠償法実務』(日本評論社,2025年)514頁~515頁
③高木健司・有冨正剛・小林邦夫・小河原寧「症状固定について」公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2013年版(下)』7頁~21頁