第1 自動車保険の弁護士費用特約と源泉徴収の分岐1 弁護士費用特約とは2 保険会社によって源泉徴収の有無が分かれていること第2 源泉徴収義務の根拠となる規定1 所得税法6条及び204条1項2号2 個人が支払う場合の適用除外と保険会社への不適用第3 実費・立替金の取扱い1 名目ではなく実質で判断される原則2 交通費・宿泊費の直接払いによる除外3 登録免許税・手数料等による除外第4 保険会社は「支払をする者」に当たるか1 委任契約の不存在を理由とする不要説2 支払の実質に着目する必要説3 類似の場面における通達の考え方第5 弁護士法人として受任する場合第6 源泉徴収された場合に弁護士に生じる効果1 確定申告における税額控除2 実務上の対応第7 残された不確実な点出典1 法令2 法令解釈通達3 所管行政機関の解説・Q&A4 文献等
本稿は,自動車保険等の弁護士費用特約に基づき,保険会社が被保険者の依頼した弁護士へ弁護士報酬及び実費を保険金として支払う場面について,所得税法204条の源泉徴収義務の要否を扱う。
弁護士費用特約の内容,利用できる者及び利用できる手続の一般的な説明は,別稿「弁護士費用特約」(弁護士山中理司の交通事故相談HP)に譲る。
本稿が扱うのは,同特約に基づく保険金の支払実務のうち,保険会社が弁護士へ直接支払う場合の源泉徴収の要否について,保険会社間で対応が分かれている点に限られる。
第1 自動車保険の弁護士費用特約と源泉徴収の分岐
1 弁護士費用特約とは
弁護士費用特約は,自動車保険等の特約であり,被保険者が交通事故の加害者に対する損害賠償請求を弁護士に委任する場合の法律相談費用,弁護士報酬及び実費を,保険会社が保険金として負担するものである。
弁護士費用特約を利用する場合,保険会社が被保険者の依頼した弁護士へ直接,弁護士報酬相当額を支払う運用(以下「代理払い」という。)が広く行われている。
直接払いと初期費用の負担,補償範囲及び支払紛争への対応という制度上の課題は,別稿「弁護士費用保険(権利保護保険)の課題(AI作成)」で扱っている。
2 保険会社によって源泉徴収の有無が分かれていること
代理払いに際して,保険会社が所得税及び復興特別所得税を源泉徴収した上で支払う場合と,源泉徴収をせずに全額を支払う場合とがある。
高松総合法律事務所のブログ記事「弁護士費用補償特約による支払いと源泉徴収」(2018年5月16日公開)は,当時の認識として,東京海上日動火災保険株式会社は源泉徴収をしておらず,その他の保険会社は源泉徴収をしている(源泉徴収を前提とした請求書の作成を求められる)ことを紹介している。
同記事の公開から本稿執筆時点(令和8年8月28日)までに8年余りが経過しており,この記述は各社の現在の取扱いを保証するものではないから,具体的な事案では,当該保険会社に個別に確認する必要がある。
もっとも,この対応の分かれ自体は,所得税法204条の解釈上の一点に起因するものであるから,以下ではその解釈上の問題を整理する。
第2 源泉徴収義務の根拠となる規定
1 所得税法6条及び204条1項2号
源泉徴収義務の一般的な根拠規定は所得税法6条であり,同条は「給与等の支払をする者その他第四編第一章から第六章まで(源泉徴収)に規定する支払をする者は,この法律により,その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務がある」と定める。
この「第四編第一章から第六章まで」に含まれる規定の一つが同法204条であり,同条1項柱書は「居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金,契約金又は賞金の支払をする者は,その支払の際,その報酬若しくは料金,契約金又は賞金について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月十日までに,これを国に納付しなければならない」と定めた上で,同項2号に「弁護士(外国法事務弁護士を含む。)……の業務に関する報酬又は料金」を掲げている。
(続きを読む...)弁護士費用特約の保険金と源泉徴収――所得税法204条の解釈が分かれる理由(AI作成)