目次第1 共同著作物・共有著作権・二次的著作物を分ける第2 共同著作物と分離可能な共同制作第3 共有著作権の利用許諾と権利行使第4 侵害に対する単独の差止め・損害賠償第5 二次的著作物と原著作者の権利第6 誰が誰に何を請求できるか第7 契約・証拠のチェックリスト第8 一次資料と確認範囲
第1 共同著作物・共有著作権・二次的著作物を分ける
複数人が制作に関与した作品では、「共同で作った」という日常語だけで権利関係を決めることはできない。少なくとも、①各人の創作的寄与を分離して利用できない共同著作物、②分離可能な複数の著作物を組み合わせた作品、③一つの著作権が譲渡・相続等により共有となった場合、④既存著作物を翻訳・編曲・変形・脚色等した二次的著作物を区別する。
この区別によって、誰の同意が必要か、誰が単独で差止め又は損害賠償を請求できるか、原著作者の権利がどこまで及ぶかが変わる。
第2 共同著作物と分離可能な共同制作
著作権法2条1項12号は、共同著作物を、二人以上の者が共同して創作した著作物であって、各人の寄与を分離して個別的に利用できないものと定義する。文化庁の令和8年度著作権テキストは、分担部分を決めずに共同で執筆し、各人の創作部分を明確に区別できない場合を例に挙げる。
これに対し、第1章はA、第2章はBというように各人の寄与が分離して利用できる場合、書籍全体に別の編集著作物性が成立する余地はあっても、各章は当然には共同著作物にならない。漫画について、ストーリー、ネーム、人物画及び背景を複数人が担当した場合も、創作過程、相互依存性及び各寄与の分離利用可能性を事実に即して判断する。
企画、資金提供、資料提供、一般的な指示又は校正だけでは、直ちに共同著作者になるとは限らない。作品の表現形成に創作的に寄与したか、その寄与が一つの作品として共同化されたかを確認する。
第3 共有著作権の利用許諾と権利行使
著作権が共有に属する場合、各共有者は、他の共有者の同意がなければ持分を譲渡し、又は質権を設定できない(法65条1項)。共有著作権は共有者全員の合意によらなければ行使できず、各共有者は正当な理由がない限り合意の成立を妨げることができない(同条2項・3項)。
ここでいう権利行使は、第三者に複製・公衆送信・翻案等を許諾する場面を含む。過半数で足りる会社法上の意思決定と混同してはならない。共同制作契約では、利用許諾の窓口、承認手続、拒否できる正当理由、収益配分、二次利用、改変、権利譲渡、死亡・連絡不能時の取扱いを定める必要がある。
第4 侵害に対する単独の差止め・損害賠償
全員一致が必要な利用許諾と、侵害者に対する権利保全は別である。著作権法117条1項は、共同著作物の各著作者又は各著作権者が、他の著作者又は他の著作権者の同意を得ないで、112条の規定による請求(差止請求)をし、又はその著作権の侵害に係る自己の持分に対する損害の賠償若しくは自己の持分に応じた不当利得の返還を請求できると定め、同条2項は、これを共有に係る著作権又は著作隣接権の侵害に準用する。持分による限定が付くのは損害賠償と不当利得返還であり、差止請求は持分に限られない。
差止めは法112条に基づき、侵害の停止・予防及び侵害物等の廃棄その他必要な措置が問題となる。損害賠償では、故意・過失、損害及び因果関係を原則として立証し、法114条の損害額推定等を検討する。共有者が単独で請求できる損害額は、原則として自己の持分に対応する範囲である。
共同著作物の著作者人格権は、著作者全員の合意によらなければ行使できず、各著作者は、信義に反して合意の成立を妨げることができない(法64条1項・2項)。もっとも、64条が全員の合意を求めるのは著作者人格権の行使(公表や改変への同意等)である。第三者による著作者人格権の侵害に対しては、各著作者が、117条1項により、他の著作者の同意を得ないで112条の差止請求をすることができる。財産権である共有著作権の行使(65条)と共同著作物の著作者人格権の行使(64条)は規律が異なるが、侵害に対する単独の差止請求は、いずれも117条1項による。
第5 二次的著作物と原著作者の権利
二次的著作物とは、既存著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化その他の方法で創作した著作物である。二次的著作物の著作者は、新たに加えた創作的表現について著作権を取得するが、原著作物の表現についてまで独占権を取得するものではない。
著作権法28条により、原著作物の著作者は、二次的著作物の利用について、二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。したがって、二次的著作物を第三者が複製・公衆送信等する場合、二次的著作物側の権利処理だけでなく、原著作者側の権利処理も必要となり得る。
最高裁平成13年10月25日判決(キャンディ・キャンディ事件)は、連載漫画が原作原稿の二次的著作物であることを前提に、原作者が漫画の利用について28条により漫画家と同一の種類の権利を有するとした。漫画家が新たに描いた人物画であっても、原作に同一の絵がないという理由だけで原作者の28条上の権利から切り離すことはできない。
したがって、「二次的著作物のうち新たに加えた部分には原著作者の権利が当然に及ばない」と一般化するのは正確でない。二次的著作物として一体的に利用しているのか、それとも既存作品の具体的表現に依拠せず、抽象的な人物類型又は題材だけから別個独立に創作した作品なのかを区別する。
最高裁平成9年7月17日判決(ポパイ事件)は、具体的な漫画表現から昇華した抽象的なキャラクター自体を独立の著作物とは認めなかった。他方、近時の裁判例は、小説を原作とする映像作品で付加された外見的特徴を含む利用についても、映像作品が原作の二次的著作物である以上、原作者の28条上の権利が問題になるとしている。
Tシャツ、SNSスタンプ、映画の場面画像等への利用は、小説の登場人物をTシャツ・SNSスタンプに使えるか――キャラクター,翻案権及び二次的著作物の新規部分(AI作成)で整理する。
第6 誰が誰に何を請求できるか
権利行使を検討するときは、作品単位ではなく、対象行為ごとに次の順で整理する。
①侵害された表現は、共同著作物、各人の分離可能な著作物又は二次的著作物のどこに属するか
②その表現について著作者・著作権者・共有者・原著作者は誰か
③複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻案等のどの支分権が問題か
④侵害行為は継続中又は再発のおそれがあり、差止めの対象となるか
⑤既に終了した行為について損害賠償又は不当利得返還が可能か
⑥請求者が単独で請求できる範囲か、共同著作者全員の合意が必要か
物の引渡しや作品データの譲渡が終わっている場合でも、複製物の販売、掲載又は配信が続いていれば差止めの余地がある。他方、問題となる侵害行為が既に終了し、反復のおそれもない場合は、差止めではなく損害賠償等が中心となる。被告ごと、行為ごと、時点ごとに救済を分ける。
第7 契約・証拠のチェックリスト
共同制作開始時には、①創作担当、②成果物の単位、③著作者表示、④著作権の帰属・持分、⑤利用許諾の窓口、⑥翻案・改変・商品化、⑦第三者素材、⑧原データ・制作履歴、⑨報酬・収益配分、⑩侵害対応費用、⑪離脱・死亡・連絡不能時及び⑫紛争解決を文書化する。
紛争時には、草稿、レイヤー付きデータ、コミット履歴、電子メール、チャット、録音、作業日時、使用機材、素材入手先、契約書、請求書及び公表履歴を保存する。完成物だけでは、誰がどの表現を創作し、寄与を分離利用できるかを立証できないことがある。
第8 一次資料と確認範囲
(続きを読む...)共同著作物・二次的著作物の権利行使―単独差止め・損害賠償・原著作者の権利(AI作成)