メインコンテンツへスキップ

知的財産・著作権

電子書籍のキャプチャー防止を外すソフトは違法か―最高裁令和3年3月1日決定と不正競争防止法・著作権法(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 最高裁令和3年3月1日決定1 どのような事案か2 弁護人の主張と最高裁の判断3 原審(大阪高裁)の判断4 決定の射程第3 現行の不正競争防止法の規律1 技術的制限手段の定義2 装置・プログラムの提供の禁止3 刑事罰と適用除外第4 著作権法の規律1 技術的保護手段と技術的利用制限手段2 利用者の複製と30条1項2号3 みなし侵害と刑事罰第5 画面キャプチャー型のソフトを使う前に確認すること1 防止機能を外す処理があるか2 提供者の説明を確かめる3 利用規約と業務利用第6 関連記事第7 出典
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

電子書籍の閲覧ソフトには,表示した画面の取り込みや保存を防ぐ機能を備えたものがある。
この記事は,そのような防止機能を外して画面を画像やPDFとして保存できるようにするソフトを提供する行為と,利用者が画面を取り込む行為が,不正競争防止法と著作権法の上でどう扱われるかを扱う。

法令は令和8年10月25日にe-Gov法令検索で確認した条文(不正競争防止法は令和8年5月21日施行の版,著作権法は令和8年6月24日施行の版で,いずれもその後同日までに施行された改正はない。)によった。
裁判例は,同日に裁判所ウェブサイトで全文を確認したものによった。
画面を自動で取り込んでPDFにし,生成AIで要約するソフトについての複製の主体や私的使用の問題は第6の関連記事で扱っており,この記事ではキャプチャー防止との関係に絞る。

2 結論

最高裁令和3年3月1日決定は,電子書籍の閲覧ソフトに組み込まれた記録・保存の防止機能を無効化し,閲覧ソフト以外でも読めるようにするプログラムを提供した行為が,不正競争防止法上の不正競争に当たり,刑事罰の規定に該当すると判断し,罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断を結論において正当とした。
プログラムに暗号を解く機能がないから技術的制限手段の効果を妨げていない,という弁護人の主張は退けられた。

他方,この決定が判断したのはプログラムを提供した側の責任であり,利用者が自分の端末で画面を取り込む行為そのものを判断したものではない。
利用者の行為は,著作権法30条1項2号(技術的保護手段の回避による複製)と,電子書籍サービスの利用規約によって別に検討することになる。

第2 最高裁令和3年3月1日決定
1 どのような事案か

決定が示した,原判決が是認した第1審判決の認定等によれば,事案は次のとおりである。
電子書籍の配信事業者は,ライセンスの発行を受けた特定の機器にインストールされた専用の閲覧ソフト(ビューア)でなければ復号できないよう,電子書籍の影像を暗号化して配信していた。
Windows対応版のビューアには,復号後の影像の記録・保存を防止する機能を持つプログラム「G」が組み込まれており,Gのない状態ではビューアは起動せず,ライセンスの発行を受けることも影像の視聴もできないようにされていた。

ソフトウェアの開発・販売会社の代表取締役と販売責任者は,同社のプログラマーと共謀の上,Gの機能を無効化し,復号後の影像を記録・保存することによりビューア以外での視聴を可能とするプログラム「F3」を,平成25年9月10日頃と同年11月23日頃に,顧客2名へダウンロードさせて提供した。

2 弁護人の主張と最高裁の判断

弁護人は,この技術的制限手段は暗号化の方式によるものであり,F3は復号の機能を有しないから,技術的制限手段の効果を妨げるプログラムではないと主張した。

最高裁は,上告趣意は刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないとした上で,職権で判断し,Gの機能,Gとビューアの関係及びF3の機能を認めた上で,「Gの上記機能により得られる効果は本件技術的制限手段の効果に当たり,これを無効化するF3は,技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムに当たると認められる。」と判断した。
そして,F3を提供した被告人両名の行為は平成27年法律第54号による改正前の不正競争防止法2条1項10号の不正競争に当たり,同法21条2項4号に該当するとし,同号の罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は結論において正当であるとして,上告を棄却した。

3 原審(大阪高裁)の判断
(1) 技術的制限手段の「効果」の捉え方

原審の大阪高裁平成29年12月8日判決は,電子書籍の暗号化について,「この技術的制限手段の効果は,本件ビューアがインストールされた機器以外の機器では暗号化されたコンテンツの表示ができないということであるというべきである。」とした。
その上で,Gは表示される影像のキャプチャを不能にする制御を行うプログラムであり,これと反対の制御を行って影像のキャプチャを再び可能にするF3は,その効果を妨げるプログラムであると判断した。
暗号を解く機能があるかどうかではなく,配信事業者が技術的制限手段によって実現している状態,すなわちビューアがインストールされた機器以外の機器では表示できないという状態を妨げるかどうかに着目した判断である。

(2) 画面を取り込んでPDFに保存する仕組み

大阪高裁は,証拠に基づき,「F3は,本件ビューアが端末の画面に表示する画像をキャプチャしてpng形式ファイルやpdf形式ファイルなどのファイルに保存することにより,本件ビューアを用いないでその画像を視聴することができるようにするものであると認められる。」と認定した。

(続きを読む...)電子書籍のキャプチャー防止を外すソフトは違法か―最高裁令和3年3月1日決定と不正競争防止法・著作権法(AI作成)

電子書籍のPDF化・AI要約ソフトと著作権―自炊代行判決の射程と利用者・提供者の責任(AI作成)

目次

第1 電子書籍のPDF化は,工程と行為者を分けて考える第2 誰が,どの複製をしているのか1 PDF作成とAI入力を一つの行為にしない2 道具の供給と複製工程の運営を区別する第3 関連判例が示す判断の境界1 自炊代行事件―注文と原本送付だけでは業者の主体性は失われない2 ロクラクⅡ事件―利用者の実行指示だけでは決まらない3 機器の所有や営利性だけでも決まらない第4 実装によって確認する事項が変わる第5 利用者自身の複製でも,適法根拠を確認する1 自分一人の業務利用と私的使用は別である2 AI処理という名称だけで30条の4を適用しない3 利用規約と保護措置を別に確認する第6 提供会社の責任は請求ごとに分ける1 直接の主体であるかと,他者の侵害を助けたか2 民事の損害賠償3 差止め4 刑事幇助5 保護手段を無効化する機能の提供第7 導入前の仕様確認と,相談時の資料第8 法律・税理士事務所での運用第9 関連記事第10 出典と確認範囲
第1 電子書籍のPDF化は,工程と行為者を分けて考える

電子書籍を画面から取り込み,PDFにして生成AIで要約する場合は,画面の取得,OCR,PDFの保存,AIへの入力及び回答の利用を分けて検討する必要がある。
利用者の端末で動くソフトであっても,実際の処理が端末内で完結するとは限らず,提供会社が営利企業であることだけで利用者の複製が違法になるわけでもない。

自炊代行訴訟が直接扱ったのは,業者が書籍を裁断・スキャンして電子ファイルを納品するサービスである。
その判断をソフトの提供へ及ぼすには,対象,処理方法,個別の複製への関与及び管理の実態を比較しなければならない。

本記事は,令和8年10月25日までに確認した日本の法令と裁判所公開の判決・決定原文を基に,一般的な判断手順を示す。
以下の実装別の評価は判例を踏まえた検討であり,特定製品について裁判所が適法又は違法と判断したことを意味しない。

第2 誰が,どの複製をしているのか
1 PDF作成とAI入力を一つの行為にしない

著作権法21条は複製権を定め,同法2条1項15号は有形的な再製を複製としている。
電子書籍の表現を画像やテキストとして保存する処理では,どの段階で何が再製されるかを確認する。
法律上の評価はファイル形式の名前だけでは決まらず,対象に保護される創作的表現があるか,保存・利用の具体的態様はどうかを調べる。

例えば,端末内で画面画像を保存する工程と,画像を外部サーバーへ送ってOCRする工程では,別の複製や別の行為者が問題になり得る。
完成したPDFを別会社のAIに入力する場合も,前段で作成したPDFの評価だけで,入力先の保存や後の出力まで処理したことにはならない。

2 道具の供給と複製工程の運営を区別する

利用者が対象を用意し,自分で管理する端末上で実行・保存し,会社はプログラムを供給するだけという構成なら,利用者が道具を用いて複製していると評価する有力な事情がある。
自動的なページ送りや連続保存も,それだけで開発会社を個々の複製の主体にするものではない。

他方,会社が個別の処理を引き受け,対象データを投入し,実行・再実行,検品又は納品を自己の事業として行うなら,その関与を具体的に検討する必要がある。
利用者が対象を選び,開始を指示することだけで,会社の主体性が否定されるわけではない。
主体は常に一人とは限らず,利用者と会社の関与をそれぞれ確認する。

第3 関連判例が示す判断の境界
1 自炊代行事件―注文と原本送付だけでは業者の主体性は失われない

知財高裁平成26年10月22日判決(平成25年(ネ)第10089号)は,独立した業者が自己の管理支配下で書籍を裁断・スキャンし,検品して納品する事実等から,業者を複製主体と認めた。
利用者が書籍を選び,注文して送付した事情によって,業者自身の複製行為が失われるとはしなかった。

同判決は,業者を複製主体と認定した後に,その業者について30条1項の私的使用の要件を検討している。
したがって,営利の会社がソフトを販売しているという事実だけから,利用者自身の複製に私的使用を認めないという順序にはならない。
また,原本を廃棄して複製物の総数が増えなくても,電子ファイルの作成が複製に当たることは変わらない。

2 ロクラクⅡ事件―利用者の実行指示だけでは決まらない

最高裁平成23年1月20日第一小法廷判決(平成21年(受)第788号)は,提供者が管理支配下で放送を受信して複製機器へ入力し,利用者の指示により自動録画する場合について,提供者が複製主体となるとした。

(続きを読む...)電子書籍のPDF化・AI要約ソフトと著作権―自炊代行判決の射程と利用者・提供者の責任(AI作成)

自作プログラムの著作権は誰のものか―著作物性・職務著作と会社への譲渡前の確認(AI作成)

目次

第1 自分で書いたことと自分が権利者であること第2 アルゴリズムと創作的な表現を分ける第3 知財高裁平成18年12月26日判決の読み方第4 プログラムの職務著作と制作時点の契約第5 会社へ譲渡する前の三つの分岐第6 弁護士と税理士が共有する権利確認票第7 関連記事と確認範囲
第1 自分で書いたことと自分が権利者であること

プログラムを自分で書いたとしても,そのすべてが著作物になるとは限らず,著作物であっても個人が著作権を持つとは限らない。
会社への譲渡,役員と会社との取引又は退職後の再利用を検討する際は,①保護される表現があるか,②法律上の著作者は誰か,③その後に権利が移転したかを,この順に調べることが有用である。

本記事は,令和8年10月20日までに確認した著作権法と知財高裁平成18年12月26日判決を基に,弁護士・税理士が権利の棚卸しを行う際の判断事項を整理するものである。
税額の計算は,権利の存在と帰属を確認した後の問題として扱う。

第2 アルゴリズムと創作的な表現を分ける

著作権法10条1項9号はプログラムの著作物を例示するが,同条3項は,保護がプログラム言語,規約及び解法に及ばないと定める。
同じ計算式や機能を使うことと,具体的なコードの創作的な表現を利用することは別である。
新しい機能であること,制作に時間や費用をかけたこと,又はコードが長いことだけで著作物性が決まるわけではない。

具体的には,処理の選択・組合せ,記述方法及び構成にどの程度の選択の幅があり,どこに作成者の個性が表れているかを示す。
一方,数式や仕様の制約から表現がほぼ決まる部分や,ありふれた記述方法しかない部分については,その制約も資料で確認する。
短いプログラムをすべて保護の対象外としたり,公知の数式を使うプログラムをすべて保護の対象外としたりする一律の基準にはしない。

法令の確認先は,e-Gov法令検索「著作権法」である。
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048?occasion_date=20260624

第3 知財高裁平成18年12月26日判決の読み方

知財高裁平成18年12月26日判決(平成18年(ネ)第10003号)は,複数のプログラムの著作物性と権利帰属等が争われた事件である。
判決43頁は,プログラムの表現と解法等を分け,表現の選択の幅と作成者の個性を検討する基準を示す。
政府の「サイバーセキュリティ関係法令Q&Aハンドブック」Ver.3.0のQ25脚注4も,この判決をプログラムの著作物性に関する説明で参照している。

判決44~47頁は,本件プログラム15,5,12及び13について著作物性を認める一方,47~50頁は,本件プログラム11について,数式からの表現の選択の幅等を検討して著作物性を否定している。
公知の数式を用いるというだけで4つのプログラムの保護を否定したものではなく,プログラムごとに結論を分けた判断である。
本件プログラム11については,従前同じプログラムが存在しなかったという事情だけでは創作性を基礎付けないとされた。

さらに判決58~60頁,80頁及び83~84頁等では職務著作と権利帰属が問題となり,個人の権利を前提とする請求は認められなかった。
したがって,請求棄却という結論から,すべてのプログラムの著作物性が否定されたと読み替えない。
データベースの判例要旨と本文の各プログラムの判断が一致するかを確認する必要がある。

判決原文は全91頁であり,上記の論点について参照する頁を特定して読むことができる。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-33985.pdf#page=43

政府Q&Aの参照箇所は本文117~118頁・脚注4(PDF実頁137~138頁)である。
この判決は,ソフトウェア解析の一般的な許可,AI学習の適法性又は所得区分を判断したものではない。
https://security-portal.cyber.go.jp/guidance/pdf/law_handbook/law_handbook_3.pdf#page=137

(続きを読む...)自作プログラムの著作権は誰のものか―著作物性・職務著作と会社への譲渡前の確認(AI作成)

ソフトウェアの解析・リバースエンジニアリングは適法か―著作権法30条の4・利用契約と実務の確認事項(AI作成)

目次

第1 解析という名称だけでは適法性は決まらない第2 調べたい機能と保護される表現を分ける第3 著作権法30条の4と解析のための実行第4 知財高裁平成22年4月27日判決の射程第5 利用規約・解析委託・外部AIへの送信第6 解析後の使用・配布と証拠の残し方第7 関連記事と確認範囲
第1 解析という名称だけでは適法性は決まらない

障害の原因調査,互換性の確認又はセキュリティ調査のためにソフトウェアを解析するときは,解析の目的,途中で行う複製・改変,解析後の利用,利用契約及び第三者への送信を分けて検討する必要がある。
「リバースエンジニアリングであるから自由に行える」という一律の扱いも,解析のためにプログラムを実行したことだけから直ちに違法とする扱いも適切ではない。

本記事は,令和8年10月20日までに確認した著作権法,政府のサイバーセキュリティ関係法令Q&A及び国内裁判例を基に,解析を依頼する企業と受託する専門家の確認事項を整理するものである。
個別製品の解析許諾又は解析ツールの性能を認定するものではない。

第2 調べたい機能と保護される表現を分ける

著作権法10条3項は,プログラムの著作物に対する保護が,その作成に用いるプログラム言語,規約及び解法に及ばないと定める。
計算方法や機能を理解することと,その機能を実現する創作的なプログラム表現を複製・翻案することは,分けて調べる必要がある。
機能が同じという事情だけで表現の侵害を認めることも,解法を調べる目的があることだけで途中の複製をすべて自由とすることもできない。

解析計画では,対象の実行ファイル・ソースコード・設定情報の版,調査する不具合又は仕様,実行環境,複製先,変更箇所及び成果物を特定する。
たとえば「障害原因を報告書にまとめる作業」と「改変したプログラムを顧客の通常業務で使わせる作業」では,検討すべき利用の範囲が異なる。

法令の確認先は,e-Gov法令検索「著作権法」である。
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048?occasion_date=20260624

第3 著作権法30条の4と解析のための実行

30条の4は,著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し,又は他人に享受させる目的がない場合に,必要と認められる限度で著作物を利用できるとする。
ただし,著作物の種類・用途と利用態様に照らして著作権者の利益を不当に害する場合は除かれる。
同条2号の情報解析は,多数の著作物その他の大量の情報を対象とする定義であり,単一のプログラムの調査を,名称だけでこの号に当てはめない。

同条3号の括弧書きはプログラムの電子計算機における実行を除くが,それだけで,調査・解析のために実行する場合にも同条全体が常に使えないという結論にはならない。
政府Q&AのQ25は,プログラムが本来の効用を発揮する形で機能を利用する場合と,調査・解析を目的に実行する場合とを分けて説明している。
実務では,実行の目的,通常業務への利用の有無,調査に必要な範囲及び権利者の利益への影響を具体化する。

解析の途中でコードや実行ファイルを複製・改変する場合は,どの行為をどの目的のために必要とするかも記録する。
著作権の制限が認められることと,著作者人格権,利用契約又は秘密保持の問題が解消することは同じではなく,50条も確認する。

政府資料は,内閣官房国家サイバー統括室「サイバーセキュリティ関係法令Q&Aハンドブック」Ver.3.0(令和8年10月)Q25・本文117~122頁(PDF実頁137~142頁)である。
https://security-portal.cyber.go.jp/guidance/pdf/law_handbook/law_handbook_3.pdf#page=137

第4 知財高裁平成22年4月27日判決の射程

知財高裁平成22年4月27日判決(平成21年(ネ)第10070号)は,外国為替取引の自動売買プログラムをめぐる損害賠償請求の控訴審である。
原審は大阪地裁平成21年10月15日判決(平成19年(ワ)第16747号)であり,控訴したのは請求を棄却された原告である。
政府Q&A本文121頁には被告らが控訴した旨の記載があるが,控訴審判決の当事者表示・主文に照らして,この点は区別する必要がある。

原審23~24頁は,具体的な開発経緯,解析の目的,権利者との関係等を踏まえて,損害賠償請求が権利濫用に当たると判断した。

(続きを読む...)ソフトウェアの解析・リバースエンジニアリングは適法か―著作権法30条の4・利用契約と実務の確認事項(AI作成)

従業員が撮った写真の著作権は誰のものか―職務著作・退職時のデータ管理と差止め(AI作成)

目次

第1 会社の写真かどうかを最初に確認する第2 職務著作の5つの確認事項第3 社内だけで使う写真と公表名義第4 退職時の返還・削除と証拠の保全第5 印刷・販売の差止めとデータ廃棄第6 外注写真との違いと税務資料第7 出典と関連記事
第1 会社の写真かどうかを最初に確認する

会社のカメラで撮影し,会社のサーバーに保存した写真でも,それだけで会社が著作者になるわけではない。
構図,光の選択,撮影角度などに創作性のある写真については,著作権法15条1項の職務著作が成立するか,撮影者から著作権の譲渡を受けたかを確認する。
カメラや記録媒体の所有と,写真の著作権の帰属は区別する必要がある。

退職者が業務写真を持ち出したときも,写真ごとの権利の帰属,保持しているデータ,予定されている利用行為を分けて整理する。
本記事は,令和8年10月16日時点の法令と文化庁資料を基礎に,会社側・撮影者側が確認する事項を示す。

第2 職務著作の5つの確認事項

写真について会社が著作者となるには,著作権法15条1項の要件を満たす必要がある。
確認するのは,①法人等の発意,②その業務に従事する者による作成,③職務上の作成,④法人等の著作名義で公表するものといえること,⑤作成時の契約・勤務規則等に別段の定めがないこと,の5点である。
文化庁「著作権テキスト」令和8年度版も,従業員が作った著作物のすべてが会社の著作物になるわけではないと説明している。

写真台帳には,撮影日,撮影指示者,利用目的,担当業務,撮影者,公表予定の名義,適用される契約・就業規則を記録する。
これは法定様式ではなく,後日の帰属判断に必要な事実を残すための整理方法である。
勤務時間中に撮ったことだけで全要件を満たすと判断せず,私的な撮影と業務上の撮影を区別する。

職務著作が成立すれば会社が著作者となる。
撮影した個人から会社へ著作権が移るという説明とは異なる。
成立しない場合には,撮影者の権利を前提に,譲渡や利用許諾の有無・範囲を別に確認する。

第3 社内だけで使う写真と公表名義

写真を社内資料や制作の参考に使い,外部への公表を予定していない場合には,公表名義の要件をどう満たすかが問題となる。
プログラムの著作物には15条2項の特則があるが,写真にその特則をそのまま適用することはできない。

令和3年司法試験知的財産法第2問の出題の趣旨は,内部利用だけを予定した写真について,仮に公表するとすれば法人等の名義で公表するものも含めるという解釈を示している。
内部利用であるために,かえって従業員に公表権等が帰属する不合理を避けるという理由付けである。
この公式資料は試験の解説であり,個別事件の判決ではない。

実務では,撮影依頼の経緯,会社の制作工程での位置付け,利用目的,名義に関する合意や運用を確認し,仮に公表する場合の名義を説明できる資料を残す。
会社の商品やゲームが会社名で公表されたというだけで,制作参考用の写真も公表されたと扱わない。
商品と写真は別個の著作物であり,写真が商品に複製されているかどうかも別の事実である。

第4 退職時の返還・削除と証拠の保全

退職時は,業務用端末,共有フォルダ,個人クラウド,バックアップ等について,業務写真の保存先とアクセス権を確認する。
写真の著作権,会社との返還・削除合意,端末の所有者を区別し,対象ファイルと処理方法を一覧にする。
会社が著作権を有するという理由だけで,退職者の私物端末へ自由にアクセスできると判断してはならない。

(続きを読む...)従業員が撮った写真の著作権は誰のものか―職務著作・退職時のデータ管理と差止め(AI作成)

特許法102条とは―1項・2項・3項・4項・5項の違い,損害額の計算及び推定覆滅(AI作成)

目次

第1 特許法102条の結論第2 特許法102条の1項・2項・3項の違い第3 1項による損害額の計算1 1項1号の基本式2 1項1号から差し引かれる事情3 1項2号の役割第4 2項による侵害者利益の推定1 2項は利益吐出しそのものではない2 2項が適用されるための関係3 侵害者利益は売上高ではなく限界利益である4 2項の推定覆滅第5 3項・4項・5項による実施料相当額1 3項の基本式2 4項は侵害を前提とした交渉事情を考慮する3 5項と3項を超える損害第6 同じ事例で見る1項・2項・3項の計算第7 原告側と被告側で準備する資料1 特許権者等が準備する資料2 侵害者側が準備する資料3 期間と数量を先に固定する第8 重要な知財高裁大合議判決1 令和元年6月7日判決2 令和4年10月20日判決3 令和7年3月19日判決第9 特許法102条についてよくある質問1 特許法102条とは何ですか2 1項・2項・3項はどう違いますか3 2項の侵害者利益は売上高ですか4 特許発明を実施していない特許権者も2項を使えますか5 2項と3項を同時に請求できますか6 4項は実施料を自動的に増額する規定ですか7 特許法103条との違いは何ですか8 差止請求と損害賠償請求の違いは何ですか9 特許が無効になれば102条の損害はどうなりますか第10 関連する記事及び一次資料1 関連する記事2 一次資料
第1 特許法102条の結論

特許法102条は,特許権侵害による損害額の立証を容易にするため,1項の特許権者等の販売利益,2項の侵害者利益及び3項の実施料相当額という算定方法を定めた規定である。
同条は損害賠償請求権そのものを新設する規定ではなく,民法709条に基づく損害賠償請求における損害額の立証を支える規定である。

1項は「侵害品がなければ特許権者等が売れた数量」を,2項は「侵害者が侵害行為で得た限界利益」を,3項は「特許を適法に実施するなら支払うべき実施料」をそれぞれ出発点とする。
4項は1項2号及び3項の実施料相当額を定める際に特許権侵害があったことを考慮できる旨を定め,5項は3項による請求をした後でも,これを超える損害の請求を妨げない旨を定める。

どの項が最も有利かは,特許権者等の製品と侵害品の競合関係,販売数量,利益率,実施能力,代替品,特許発明の顧客吸引力及びライセンス実績によって変わる。
請求時には一つの算定方法だけを早期に決め打ちせず,1項・2項・3項の各計算に必要な資料と,相手方が主張し得る控除・推定覆滅事情を並行して整理する必要がある。

以下は令和8年10月15日現在の現行法と公表裁判例を基準とする。

第2 特許法102条の1項・2項・3項の違い
規定計算の出発点主に必要となる資料主な減額・反論要素1項1号特許権者等の製品1個当たりの利益額×販売できた数量特許権者等の販売実績,限界利益,実施能力販売能力の上限,侵害品がなくても販売できなかった事情1項2号1項1号で数えない数量×実施料相当額侵害品の数量,合理的な実施料率侵害がなくても実施許諾しなかった事情2項侵害者が侵害行為で受けた利益侵害者の売上高,変動費・個別固定費,販売数量市場の相違,競合品,営業努力,特許発明以外の特徴など3項侵害品の売上高等×合理的な実施料率売上高,契約例,業界相場,特許の価値発明の寄与,代替技術,競争関係,ライセンス方針など

1項・2項・3項は,常に単純に足し合わせる選択肢ではない。
同じ損害について重複した回復は認められないため,各規定が対象とする数量と損害の範囲を区別しなければならない。

令和4年10月20日の知財高裁大合議判決は,2項の推定が覆滅された部分について,特許権者等にライセンス機会の喪失が認められるときは3項による損害を認め得るとした。
ただし,2項の覆滅部分であれば常に3項分を上乗せできるわけではなく,覆滅理由とライセンス機会の有無を個別に検討する必要がある。

第3 1項による損害額の計算
1 1項1号の基本式

1項1号は,侵害者が譲渡した侵害品の数量のうち,特許権者等の実施能力に応じた数量を上限として,特許権者等が販売できた数量に1個当たりの利益額を乗じる考え方である。
そこから,侵害品が存在しなくても特許権者等が販売できなかった事情に相当する数量を控除する。

計算の骨格は,「特許権者等の製品1個当たりの限界利益額×特許権者等が販売できた数量」である。
ここでいう1個当たりの利益額は,通常,売上高から販売数量の増加に伴って追加的に必要となる費用を控除した限界利益を基礎とする。

実施能力は,現実に製造・販売していた数量だけに固定されず,侵害がなければ合理的に追加できた製造委託,仕入れ,設備,人員及び販売網を含めて具体的に主張立証することが重要である。

2 1項1号から差し引かれる事情

侵害品と特許権者等の製品の市場・価格帯・用途が異なること,競合品が多数存在すること,侵害者のブランド・広告・販売網が需要を生み出したこと及び特許発明以外の機能が購買動機となったことは,販売できなかった事情として問題になり得る。
もっとも,事情が存在するというだけで全量が除外されるのではなく,その事情がどの程度の数量に影響したかを証拠に結び付ける必要がある。

3 1項2号の役割

1項2号は,特許権者等の実施能力を超える数量や,1項1号で販売できなかったとされた数量について,実施料相当額を損害として算定する規定である。
令和元年改正で設けられ,1項1号だけでは評価されにくかったライセンス機会の喪失を補う役割を持つ。

ただし,侵害がなければ特許権者等がその数量について実施許諾をしなかったと認められる事情があるときは,その数量は1項2号の計算対象にならない。

第4 2項による侵害者利益の推定

(続きを読む...)特許法102条とは―1項・2項・3項・4項・5項の違い,損害額の計算及び推定覆滅(AI作成)

共同開発・開発委託・製造委託で知財は誰に帰属するか―背景知財,成果,出願及び契約終了(AI作成)

目次

第1 契約名より実際の役割を先に確認する第2 背景知財と開発成果を分ける1 契約前から持つ技術を一覧にする2 成果を一つの言葉でまとめない第3 共同開発では貢献と利用条件を決める1 共同であること自体から共有とは限らない2 共有後の利用を先送りしない3 役割・費用・成果記録を対応させる第4 開発委託では移転と利用許諾を選ぶ1 ひな形の帰属条項をそのまま使わない2 納品物と知財を別々に特定する第5 製造委託では開発要素を見落とさない1 仕様・性能が確定している取引2 研究・開発を伴う取引第6 出願・権利化を管理する第7 利用・改良・再委託を定める第8 契約終了後の知財を決める第9 発注明示と対価を知財条項へ接続する第10 契約審査と証拠保存の確認表第11 一次資料と確認範囲
第1 契約名より実際の役割を先に確認する

【基準日:令和8年10月15日】

共同開発,開発委託及び製造委託では,契約名だけで成果の知的財産権の帰属は決まらない。
誰が課題を設定し,既存技術を持ち込み,研究・設計を担当し,費用と失敗リスクを負担し,成果を利用するかを確認した上で,契約類型と知財条項を選ぶ必要がある。

公正取引委員会等が令和8年6月24日に公表した契約書ひな形は,秘密保持,共同開発,開発委託及び製造委託の例を示す。
各ひな形は法定の統一契約ではなく,個別取引に応じて選択・修正する素材である。

第2 背景知財と開発成果を分ける
1 契約前から持つ技術を一覧にする

契約締結前から保有する特許権,出願,著作権,営業秘密,ソースコード,図面,製造条件,データ及び第三者から許諾を受けた技術を,背景知財又は固有知的財産権等として特定する。
契約後に相手方の秘密情報へ依拠せず独自に生み出した技術も,背景知財と同様に各当事者へ残すのかを定める。

一覧では,名称だけでなく,版,作成日,権利者,第三者の制限,利用可能な目的及び開示の可否を記録する。
既存技術を特定しないまま開発を始めると,後に開発成果との境界や相手方の利用権をめぐって争いになりやすい。

2 成果を一つの言葉でまとめない

成果には,発明,考案,意匠,著作物,ソースコード,設計図,中間成果物,試作品,実験データ,学習データ,製造ノウハウ及び失敗記録等がある。
権利化できる成果と秘密として管理する成果,納品する成果と当事者内部に残す成果を分ける。

発明者・創作者,着想,実験,設計,レビュー及び完成の時系列を残し,単に費用を支払った者を発明者又は著作者として扱わない。
従業員・役員・再委託先から必要な権利承継又は利用許諾を得る手続も定める。

第3 共同開発では貢献と利用条件を決める
1 共同であること自体から共有とは限らない

共同開発では,各当事者の単独成果,共同成果及び相手方の秘密情報へ依拠した成果を区分する。
公正取引委員会等の共同開発ひな形は,相手方の秘密情報に依拠した成果について,別段の合意がなければ共有とし,貢献比率を考慮して持分を協議する例を示す。

これは法令上の一律の結論ではなく,ひな形が採用した契約例である。
共同研究という名称だけで,すべての成果を折半又は共有にする必要はない。

2 共有後の利用を先送りしない

共有にする場合は,持分だけでなく,各当事者の自己実施,第三者への実施許諾,譲渡,担保設定,訴訟,費用負担及び収益分配を定める。
一方当事者が成果を実施しない代わりに対価を受けるのか,独占分野・地域を分けるのかも検討する。

共同開発ひな形は,共有成果の実施条件・費用を別途協議し,第三者への実施許諾に相手方の事前承諾を要する例を示す。
「共有」と書くだけで事業化の条件が決まるわけではないため,実際の販売・製造計画に合わせて具体化する。

3 役割・費用・成果記録を対応させる

(続きを読む...)共同開発・開発委託・製造委託で知財は誰に帰属するか―背景知財,成果,出願及び契約終了(AI作成)

取適法・フリーランス法で知財の譲渡・許諾を発注するとき―令和8年10月1日改正,明示及び対価(AI作成)

目次

第1 この記事の結論と基準日第2 まず適用する法律を分ける1 取適法の対象となる取引2 フリーランス法の対象となる取引3 独占禁止法の検討が残る場合第3 譲渡・許諾等の対象を特定する1 「等」は権利だけを指さない2 利用範囲を構成する要素第4 取適法4条の発注明示へ落とす1 給付の内容に含める場合2 別の取引にする場合第5 フリーランス法の3条通知へ落とす1 給付内容と報酬を対応させる2 給付内容に含めない場合第6 対価を決めるときの実務1 価格に含めるなら根拠を残す2 追加利用は変更管理の対象にする第7 発注書・契約書の確認項目第8 紛争時に確認する証拠第9 一次資料と確認範囲
第1 この記事の結論と基準日

【基準日:令和8年10月15日】

成果物を発注したことと,受注者が持つ著作権,特許を受ける権利,図面,ノウハウ又はデータを発注者が自由に使えることは別の問題である。
令和8年10月1日に改正された取適法運用基準とフリーランス法の考え方は,知的財産権等の譲渡・許諾等を給付の内容に含める場合,その範囲を発注時に明らかにし,対価を代金又は報酬へ反映する考え方を明確にした。

もっとも,取適法とフリーランス法は,適用対象となる当事者と取引が異なる。
また,両法が適用されない取引でも,独占禁止法上の優越的地位の濫用や契約上の問題がなくなるわけではない。
最初に適用法を分け,次に発注対象,利用範囲,対価及び変更手続を一組で記録する必要がある。

第2 まず適用する法律を分ける
1 取適法の対象となる取引

取適法は,製造委託,修理委託,情報成果物作成委託及び役務提供委託について,当事者の規模要件等を満たす場合に適用される。
契約書の名称ではなく,実際に何を委託し,当事者がどの規模要件に該当するかを確認する。

取適法4条は,委託後直ちに給付の内容,代金額,支払期日等を明示することを求める。
契約が成立したかという民法上の問題と,取適法上の明示義務を履行したかという問題は別に確認する。

2 フリーランス法の対象となる取引

フリーランス法は,業務委託事業者が特定受託事業者へ業務委託をする場合に,3条通知による取引条件の明示等を求める。
3条の明示義務は,特定業務委託事業者だけでなく,すべての業務委託事業者に適用される点に注意する。

相手が個人名義であるというだけで適用を決めず,従業員の使用,法人の役員数その他の定義を確認する。
取適法とフリーランス法のいずれにも該当し得る取引では,それぞれの要件と義務を別々に照合する。

3 独占禁止法の検討が残る場合

両法の規模要件等を満たさなくても,発注者が受注者に対して取引上優越する地位にあり,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合は,独占禁止法上の優越的地位の濫用が問題となり得る。
会社規模の差だけで結論を出さず,取引依存度,取引先変更の可能性,専用投資,協議経過及び取引継続への影響を具体的に確認する。

第3 譲渡・許諾等の対象を特定する
1 「等」は権利だけを指さない

改正資料にいう「知的財産権等」は,特許権や著作権等の権利だけでなく,技術上又は営業上の秘密等を含み,ノウハウも対象になる。
公正取引委員会は,令和8年10月1日の意見募集結果で,「譲渡・許諾等」には技術上又は営業上の秘密等の提供も含まれると説明した。

したがって,注文書では「知財は発注者に帰属する」とだけ書かず,少なくとも対象となる成果物,既存技術,図面,素材,中間成果物,生産データ及びノウハウを分ける。
権利を移転するのか,目的内で利用を許すのか,閲覧・引渡し・アクセス付与をするのかも区別する。

2 利用範囲を構成する要素

利用許諾では,目的,期間,地域,独占性,利用主体,関係会社・委託先への提供,再許諾,改変,複製,二次利用及び終了後の取扱いを確認する。

(続きを読む...)取適法・フリーランス法で知財の譲渡・許諾を発注するとき―令和8年10月1日改正,明示及び対価(AI作成)

部品だけを販売する特許権者に特許法102条1項・2項は適用されるか―レーザ加工装置事件の二つの知財高裁判決(AI作成)

目次

第1 二つの判決が示した結論第2 特許法102条の三つの算定方法1 1項―特許権者製品の利益を基準にする方法2 2項―侵害者の利益を損害と推定する方法3 3項―実施料相当額を基準にする方法第3 令和6年3月6日判決が2項による算定を採らなかった理由1 2項の適用要件は認めた2 完成品全体の利益を部品販売者の損害とみることには無理があった3 1項により特許権者の部品利益から算定した第4 令和6年4月24日判決が2項を適用した理由1 部品と完成品の間接的な競合を認めた2 完成品利益の全額を推定し,価格比で推定を覆した3 1項と3項も検討した第5 二つの判決は矛盾するのか1 共通する出発点2 異なるのは推定の範囲と証明責任の置き方である3 事案の違いも無視できない第6 訴訟実務で確認すべき事項1 特許権者側2 侵害者側第7 関連記事第8 出典1 法令・裁判例2 確定状況・評釈
第1 二つの判決が示した結論

レーザ加工装置事件では,同じ特許権と同じ種類のレーザ加工装置をめぐり,知的財産高等裁判所が令和6年3月6日と同年4月24日に損害額について異なる算定経路を採った。
特許権者側が販売していたのは,完成品であるレーザ加工装置そのものではなく,その中核部品であるSDエンジンであった。
他方,侵害者側は,SDエンジンに相当する部分を組み込んだ完成品のレーザ加工装置(ダイサ)を販売していた。

令和6年3月6日判決は,特許法102条2項の適用要件自体は満たすとしながら,完成品全体の限界利益をそのまま特許権者の損害と推定することは合理的でなく,部品相当の限界利益を一義的に算定する方法も確立していないとして,同項による算定を採らなかった。
その上で,同条1項により,特許権者のSDエンジンの単位数量当たり利益に侵害品の販売数量を乗じ,販売することができなかった事情として70%を控除し,1億2384万円の損害を認めた。
弁護士費用1300万円を加えた認容額は1億3684万円である。

令和6年4月24日判決は,部品と完成品が同じ市場で直接競合していなくても,完成品市場を通じた間接的な競合があり,SDエンジンが技術的な中核を成すことを重視して,同条2項を適用した。
まず侵害者が完成品の販売で得た限界利益全額を推定の出発点とし,完成品価格に占めるSDエンジン価格の割合を推定覆滅事情として控除する方法により,7億5628万7981円の損害を認めた。
弁護士費用7562万8772円を加えた認容額は8億3191万6753円である。

両判決はいずれも確定している。
結論の違いは,特許法102条2項の入口を狭く捉えたかどうかだけではなく,完成品利益をどの段階で推定し,部品以外の価値を誰の立証によって控除するかという証明構造の違いにある。

第2 特許法102条の三つの算定方法

特許法102条全体の1項1号・2号,2項,3項,4項及び5項の関係,計算方法並びに推定覆滅は,特許法102条とは―1項・2項・3項・4項・5項の違い,損害額の計算及び推定覆滅(AI作成)で整理している。
本記事では,そのうち部品を販売する特許権者と完成品を販売する侵害者との関係に焦点を当てる。

1 1項―特許権者製品の利益を基準にする方法

特許法102条1項は,侵害品の譲渡数量に,特許権者又は専用実施権者が侵害行為がなければ販売できた物の単位数量当たり利益を乗じる方法を定める。
ただし,特許権者の実施能力を超える数量や,侵害行為がなくても販売できなかったと認められる数量は控除される。

この方法では,特許権者が完成品を販売していなくても,侵害品と市場で競合し得る部品を販売しているなら,その部品を「販売することができた物」と捉えられるかが問題になる。
令和6年3月6日判決は,特許権者のSDエンジンをこの物に当たるとした。

2 2項―侵害者の利益を損害と推定する方法

同条2項は,侵害者が侵害行為により利益を受けているとき,その利益の額を特許権者又は専用実施権者の損害額と推定する。
この規定は,侵害者利益を損害と無関係に吐き出させる制度ではなく,特許権者の逸失利益の立証を容易にする推定規定である。

知財高裁令和元年6月7日大合議判決は,特許権者に侵害行為がなければ利益を得られたであろう事情があれば足りるとし,特許権者が特許発明を実施していることを同項適用の必須条件とはしなかった。
レーザ加工装置事件の二判決も,この柔軟な入口を前提としている。

3 3項―実施料相当額を基準にする方法

同条3項は,特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を請求できるとする。
令和6年4月24日判決は,同項による実施料率について,原審が採った30%は過大であり,15%が相当とした。
ただし,同事件では2項による額の方が大きかったため,最終的な損害算定は2項によった。

(続きを読む...)部品だけを販売する特許権者に特許法102条1項・2項は適用されるか―レーザ加工装置事件の二つの知財高裁判決(AI作成)

漫画・イラスト教室の教材と著作権―コピー・上映・模写と営利教室の許諾確認(AI作成)

目次

第1 教育目的だけで教材利用が許されるわけではない第2 コピー・上映・配布・オンライン送信を分ける第3 35条・38条と30条の4の適用範囲第4 解説のための引用と模写用のお手本第5 受講者の模写と教室の複製を別に判断する第6 許諾書と授業記録で確認すること第7 教材代・使用料を支払う際の税務第8 関連記事第9 出典と確認範囲
第1 教育目的だけで教材利用が許されるわけではない

漫画やイラストの技術を教える教室で,市販作品のコマ絵をコピーし,スクリーンに映し,受講者へ模写用の紙を配る場合,それぞれの行為を分けて著作権を確認する必要がある。
本記事は,営利目的で設置された日本国内の教室を中心に,教材を用意する運営者と練習する受講者の行為を整理する。
確認日は令和8年10月14日である。

著作権法35条は営利目的で設置された教育機関を対象から除き,30条の4も表現の享受目的を併せ持つ利用には適用されない。
一方,営利の教室であることだけで引用が一切できなくなるわけではない。
教室の設置目的,教材の使い方,引用の範囲及び必要な許諾を,授業を始める前に確認する。

第2 コピー・上映・配布・オンライン送信を分ける

書籍をスキャンし,教材ファイルや紙の拡大コピーを作る行為は複製権(21条)の問題である。
その画像を教室のスクリーンへ投影する行為は上映権(22条の2),複製した紙を公衆である受講者へ渡す行為は譲渡権(26条の2)の問題となる。
メール送付,受講者サイトへの掲載又は授業動画の配信には公衆送信権(23条)も関係する。

人数が少ないことや,申込み・会員登録が必要であることだけで,公衆性を否定することはできない。
募集範囲,運営者と参加者の関係,人数及び利用態様を確認する。
正規に書籍を購入したことは,教材用の複製,上映又はオンライン掲載の許諾を受けたことを意味しない。

第3 35条・38条と30条の4の適用範囲

35条は,学校その他の教育機関のうち営利目的で設置されたものを除外している。
単に受講料を取るかどうかだけで,教育機関の設置目的を判断する制度ではない。
非営利の教育機関についても,授業の過程,必要な限度及び権利者の利益を不当に害しないことなどの要件があり,作品全体を教材として自由に配布できるわけではない。

38条1項による上映等には,非営利,観衆等から料金を受けないこと及び実演家等への報酬に関する条件がある。
営利の有料教室はこの規定による無許諾上映を前提にできず,同項は教材コピーやウェブ掲載を一般的に許す規定でもない。

30条の4の非享受目的の利用と,人が作画技術を学ぶための利用も同一ではない。
文化庁の令和元年10月24日付けの解説は,民間のカルチャー教室で漫画を手本として配布・模写し,作品を投影して吟味する例について,一般に享受目的も併存すると説明している。
同条が使えない場合も,引用,私的使用その他の規定が使えるかは,行為ごとに別に判断する。

第4 解説のための引用と模写用のお手本

32条1項は,公表された著作物の引用について,公正な慣行への適合と,引用目的上の正当な範囲を求める。
作品を使った説明の内容,対象箇所を示す必要性,利用量,画像の大きさ,解説と画像の関係及び配布先を具体的に検討する。
引用部分と自分の解説を区別し,48条に従い出所・著作者名を示す必要がある。

例えば,特定の構図を批評・解説するために必要なコマ絵を示す場合と,その絵をそのまま写すための拡大コピーを教材の中心として配る場合では,利用の意味が異なる。
「数コマなら引用」「出典を書けば適法」という共通の数値基準はない。

(続きを読む...)漫画・イラスト教室の教材と著作権―コピー・上映・模写と営利教室の許諾確認(AI作成)

特許出願前に販売・展示してしまったとき―公然実施,分析可能性及び新規性喪失の例外(AI作成)

目次

第1 公開の事実と出願の期限を同時に確認する第2 実施行為と技術内容の公開を分ける第3 物の構造が分かることと製法が分かることは同じではない第4 自己の公開には三つの時点を管理する第5 例外を使っても出願日が前へ移るわけではない第6 相談時に保全しておく資料第7 関連記事第8 出典と確認範囲
第1 公開の事実と出願の期限を同時に確認する

出願前に新製品を店頭へ出し,展示会で説明し,又は試作品を配った場合は,誰が,いつ,何を,どの条件で外部へ出したかを直ちに確認する。
販売したという一事だけで特許取得の可否を決めることはできないが,新規性喪失の例外には出願時の手続もあるため,分析結果がそろうまで相談を延期すべきではない。
本記事は,令和8年10月14日に確認した日本の特許法を基準とし,通常の国内出願を中心に扱う。

まず,最初の出荷日,店頭で購入できるようになった日,展示・説明の日,ウェブ公開日及び出願日を別々に並べる。
受注日,請求書発行日又は入金日が分かっても,それだけで技術内容が公衆に知られ得た日時を確定できるとは限らない。
追加の公開をどう扱うかと,既に起きた公開をどの証拠で説明するかを,弁護士・弁理士と並行して検討することが有用である。

第2 実施行為と技術内容の公開を分ける

特許法29条1項は,出願前の公知,公然実施,刊行物記載又は電気通信回線を通じた公衆への利用可能化を,それぞれ新規性の問題として扱う。
物の発明については,生産・使用・譲渡等に加え,譲渡等の申出も実施に含まれる(2条3項1号)。
物を生産する方法の発明では,その方法で生産した物の譲渡等やその申出も実施に含まれる(同項3号)。

しかし,実施行為があったことと,発明の技術内容を知り得る状態になったことは別である。
東京地裁平成17年2月10日判決(平成15年(ワ)第19324号)は,単に実施品が存在しただけでは足りず,物について,当業者が利用可能な分析技術で請求項に記載された物に該当するかを判断できる状態かを検討した。
同事件では,製剤から練合前の粒子の状態を解析する困難さなどを踏まえ,市販の事実だけでは公然実施を認めなかった。

店頭で自由に購入できる商品と,外観を見ることだけが許された展示品では,入手・分解・測定の条件が異なる。
現実に買った人がまだいないという事情だけで安全とは判断せず,どの情報を誰が取得できたかを確認する。
秘密保持契約も,その有無だけでなく,当事者,対象情報,開示先及び実際の流通・閲覧条件と対応させる必要がある。

第3 物の構造が分かることと製法が分かることは同じではない

完成品の成分,層構造又は寸法を測定できても,特定の温度,順序又は処理時間で製造したことまで直ちに判明するとは限らない。
反対に,製法を秘密にしていても,製品の特徴と当時の技術常識から工程を推認できる場合があり得る。
物の請求項と製法の請求項を分け,各構成について,製品,説明資料及び当時利用可能な分析技術から何を知り得たかを検討する。

分析依頼では,試料のロット,入手日,保管条件,測定手順,検出限界及び誤差を記録する。
現在の高性能機器で測定できたことを,そのまま公開当時にも可能だったという結論に置き換えない。
これらの記録方法は,公開当時の技術内容を検証するための実務上の提案である。

製造方法を用いて物を特定したPBPクレームでは,物の構造・特性による技術的範囲の判断も必要となる。
製法の相違,物の同一性及び特許の有効性の関係は,PBPクレームの権利範囲・明確性・侵害立証を参照されたい。

第4 自己の公開には三つの時点を管理する

特許を受ける権利を有する者の行為に起因する公開については,特許法30条2項・3項による新規性喪失の例外を検討する。
発明等に関する公報掲載による公開は同項の対象から除かれている。

(続きを読む...)特許出願前に販売・展示してしまったとき―公然実施,分析可能性及び新規性喪失の例外(AI作成)

用途特許の販売差止めと廃棄―医薬品の添付文書・用法用量と適法な他用途(AI作成)

目次

第1 用途を含む特許では成分の一致だけで判断しない第2 添付文書と実際の用途を合わせて見る第3 現在の販売態様と適法な他用途を区別する第4 廃棄は差止めが認められれば自動的に認められるものではない第5 請求と証拠を対応させる第6 根拠資料第7 関連記事
第1 用途を含む特許では成分の一致だけで判断しない

ある成分を特定の治療又は予防に用いる発明について特許が成立した場合、その成分を含むすべての製品の販売が当然に侵害となるわけではない。
特許請求の範囲に記載された用途を含めて技術的範囲を定め、問題の製品がその用途に向けられているかを確認する。
また、侵害が認められる販売を止めることと、製品そのものを廃棄することは、別々に検討する必要がある。

特許法70条は特許発明の技術的範囲を定める基準を、同法100条1項は侵害の停止・予防を、同条2項は廃棄等の必要な行為を定めている。
用途を含む物の発明であれば、特許法2条3項1号の生産、使用、譲渡等のどの行為が問題になるかも整理する。

第2 添付文書と実際の用途を合わせて見る

用途の認定では、添付文書の効能・効果、用法・用量、製品の剤形、包装、広告、販売先への説明等を確認する。
効能欄に同じ名称があるかという一項目だけで結論を出さない。
他方、特許の用途の記載を削っただけで、実際の販売・使用がその用途に向けられたままであれば、侵害の問題がなくなるとは限らない。

知財高裁平成28年7月28日判決のメニエール病治療薬に関する事件では、請求項の投与方法・用量と、被告製品の添付文書に記載された用法・用量等が検討された。
同じ有効成分を含むことだけで判断せず、具体的な用途発明の構成と被告製品の関係を確認した事例として参照できる。

これに対し、大阪地裁平成4年10月23日判決の気管支喘息予防剤に関する事件では、治療剤という表示の下でも、実際には特許発明の予防用途に向けられる事情が検討された。
表示の文言だけを変えれば足りるという一般則を、これらの判決から導くことはできない。
各事件の請求項、用法・用量及び実際の製品の位置付けを確認する必要がある。

第3 現在の販売態様と適法な他用途を区別する

一つの製品が特許の用途と他の適法な用途の双方に用いられる場合でも、現在の販売態様が特許の用途に向けられていれば、他用途があるという理由だけで販売差止めを否定できない。
問題は、請求の対象をどの製品・表示・販売態様として特定するかである。
用途を実際に切り分けられるか、切り分けた後も侵害のおそれが残るかを具体的に検討する。

例えば、治療用途と予防用途とで用法・用量が異なり、予防用途に向けられた表示と販売上の説明を除けば、治療用途の製品として扱える場合がある。
その場合でも、削除後の添付文書、広告、販売上の説明及び実際の供給態様を確認し、特許の用途に向けられていないと評価できるかを検討する。
医薬品の表示変更自体について必要な手続も、特許の侵害判断とは別に確認する。

適法な他用途としての販売まで含む差止めを求める場合は、その範囲が侵害の停止・予防に必要な理由を説明する必要がある。
逆に、用途を実質的に切り分けていない状態で、他用途向けの販売もあり得るという抽象的な説明だけをしても十分ではない。

第4 廃棄は差止めが認められれば自動的に認められるものではない

特許法100条2項は、侵害行為を組成した物の廃棄等について、「侵害の予防に必要な行為」として請求する仕組みを定めている。
最高裁平成11年7月16日判決は、同項の行為について、差止請求権の行使を実効あるものとし、かつ必要な範囲内にあることを求めた。
この判決の対象は方法の発明に関する装置であり、用途を含む物の発明に当てはめる際には、発明の種類と侵害対象を区別する。

用途に向けられた表示等を適法に除去し、侵害のおそれを防ぎつつ、製品を適法な他用途に利用できる場合は、製品全体の廃棄が必要かを検討する。

(続きを読む...)用途特許の販売差止めと廃棄―医薬品の添付文書・用法用量と適法な他用途(AI作成)

職務発明の相当の利益の請求期限と税務―支払時期・消滅時効・所得区分・源泉徴収(AI作成)

目次

第1 最初に確認するのは権利の取得方法と支払の根拠である第2 相当の利益の請求権と発明者性を分ける第3 発明完成日・出願日・登録日・退職日から機械的に数えない第4 所得区分と源泉徴収を分けて確認する第5 和解金の名称と現金の受領日だけで処理しない第6 弁護士と税理士が共有しておく資料第7 根拠資料と関連記事
第1 最初に確認するのは権利の取得方法と支払の根拠である

職務発明について会社から金銭を受け取る場合は、会社が特許を受ける権利を原始取得したのか、発明者から権利を承継したのか、それとも実施権の設定を受けたのかを最初に確認する。
同じ「報奨金」「相当の利益」という名称でも、請求権の内容、支払時期及び税務上の所得区分は同じとは限らない。
退職後の支払であることや和解で金額が決まったことだけで、退職所得、一時所得又は非課税になるわけでもない。

弁護士は権利の帰属、職務発明規程及び請求の内容を整理し、税理士はその資料を基に所得区分、収入の帰属年及び源泉徴収を確認する。
民事上の支払期限と、所得税の計算に収入を算入する年とは、別の問題として検討する必要がある。

第2 相当の利益の請求権と発明者性を分ける

現行特許法35条3項は、契約、勤務規則その他の定めにより、職務発明に係る特許を受ける権利を発生時から使用者等に帰属させる仕組みを認めている。
同条4項は、この原始取得のほか、権利の承継や専用実施権の設定についても、従業者等が「相当の金銭その他の経済上の利益」を受ける権利を定めている。
発明者であること、特許権を保有すること、利益を請求することを一つの問題として扱わない。

規程により利益を定めている場合は、同条5項の協議、基準の開示及び意見聴取等の事情を確認する。
定めがない場合や、その定めに従う利益の付与が不合理な場合には、同条7項による利益の内容の検討が必要になる。
規程の金額が最終的に十分かという問題と、その金額又は不足分をいつ請求できるかという問題も区別する。

第3 発明完成日・出願日・登録日・退職日から機械的に数えない

現行民法166条1項は、債権の消滅時効について、権利を行使できることを知った時から5年間、又は権利を行使できる時から10年間という二つの期間を定めている。
職務発明の案件でも、まず請求権を行使できる時点と、それを知った時点を特定する。
適用される規程の支払条項を読まずに、発明完成日、出願日、登録日又は退職日のいずれかを起算点と決めることはできない。

最高裁平成15年4月22日判決は、旧特許法の相当の対価について、権利の承継時に対価請求権を取得する一方、勤務規則等に支払時期の定めがあれば、その到来まで権利行使の法律上の障害があるとした。
これは旧法下の承継対価を扱った判決であり、現行法の原始取得や改正民法の時効期間にそのまま置き換えることはできない。
案件の発明・権利取得・請求権発生の時期と経過措置を確認した上で、規程による支払時期の意味を検討する。

出願時、登録時、実施実績の評価時等に段階的な支払を定めている場合は、各支払の条件と時期を分けて整理する。
不足額の請求についても、支払条項の解釈、利益決定の手続及び適用法を確認する必要がある。
交渉を続けていることだけで時効への対応が済んだと扱わず、完成猶予・更新の要否を別途検討する。

第4 所得区分と源泉徴収を分けて確認する

所得税法35条1項は、雑所得を他の所得区分の「いずれにも該当しない所得」と定める。
職務発明に関する具体的な取扱いは、国税庁の所得税基本通達23~35共-1及びタックスアンサーNo.2592で、権利取得と支払の内容に応じて整理されている。
ここでは、国内の居住者である役員・使用人への支払を前提とする。
以下の表は、その案内に基づく区分の入口であり、契約書や規程を読まずに支払名だけで適用するものではない。

支払の根拠所得区分源泉徴収等の確認職務発明の特許を受ける権利を会社が原始取得することに伴う相当の利益雑所得国税庁は源泉徴収を要しないと説明している。発明者の権利を会社へ承継させ、その承継に際して一時に支払われる対価譲渡所得承継時と支払の関係を確認する。源泉徴収の要否は、実際の支払内容に即して確認する。権利を承継させた後に支払われる対価雑所得原始取得の利益と混同せず、承継契約と支払根拠を確認する。特許権等の通常実施権又は専用実施権の設定に伴う対価雑所得特許権等の使用料は源泉徴収の対象となる。雑所得だから源泉徴収不要とは限らない。特許等に至らない工夫・考案に対する報償通常の職務の範囲内なら給与所得。それ以外は原則として一時所得、実施後の成績等に応じた継続支払は雑所得職務の範囲と支払の継続性を確認し、所得区分に応じて源泉徴収を検討する。

(続きを読む...)職務発明の相当の利益の請求期限と税務―支払時期・消滅時効・所得区分・源泉徴収(AI作成)

特許ライセンスの数量超過が判明したとき―許諾範囲,消尽,追加実施料及び和解金の消費税(AI作成)

目次

第1 数量超過で最初に確認すること第2 許諾範囲・支払義務・契約終了を分ける第3 転売先と消尽をどう検討するか第4 数量を把握し,出荷判断を記録する第5 超過分を精算するときの合意事項第6 実施料・侵害賠償・和解金と消費税第7 弁護士と税理士が共有する資料第8 関連記事第9 出典・適用範囲
第1 数量超過で最初に確認すること

「年1,000個まで」の特許ライセンスについて,1,100個の販売が判明した場合を考える。これは説明用の例であり,法定の数量基準ではない。超過分の実施料を支払えば販売を続けられるのか,転売先の販売まで差止めの対象になるのか,精算金に消費税を含めるのかは,それぞれ別に確認する必要がある。

まず契約原文・変更合意・数量記録を集め,対象製品と期間を特定する。許諾範囲が不明なまま追加出荷を決めず,法務,事業部,経理で暫定方針と決裁者を定める。以下の管理方法は実務上の提案であり,すべての契約に同じ法定手続があるという意味ではない。

第2 許諾範囲・支払義務・契約終了を分ける

特許法78条2項は,通常実施権者の実施を,法律の規定又は設定行為で定めた範囲内で認める。契約では,対象特許,製品,生産・使用・譲渡等の行為,地域,期間,当事者と再許諾の可否を確認する。

数量条項が,許諾する実施の範囲を画する条項なのか,販売報告・実施料計算・最低保証等の債務を定める条項なのかを読む。見出しだけでなく,超過時の追加許諾,料金変更,出荷停止,解除等の条項と交渉経緯も対応させる。「数量違反なら必ず侵害」「契約違反だから特許侵害にはならない」のいずれも,一律の結論にはできない。

実施料の不払いについても,支払債務の不履行と許諾の存否を分ける。催告,解除の要件,通知の到達及び効力発生日を確認し,支払期日の翌日から全製品が当然に無許諾になると扱わない。解除前に適法に流通へ置かれた製品と,終了後に新たに生産・販売する製品も区別する。

第3 転売先と消尽をどう検討するか

最高裁平成9年7月1日判決(BBS事件)は,特許権者又は許諾を受けた実施権者による国内譲渡と,その製品のその後の使用・譲渡等に関する消尽を示している。流通の自由と,特許権者に対価を確保する機会があることが理由である。ただし,同判決は,数量制限を超えたライセンシーの販売を直接判断した事件ではない。

数量制限に関する紛争では,最初の譲渡が許諾された範囲内か,数量条項を特許権に基づく制限として扱うべきかを検討する。転売先が契約を知らなかったことだけで,差止めを当然に排除できるとは考えない。他方,実施料が実際に未回収であることだけを理由に,既に適法に譲渡された製品の消尽を否定するのも適切ではない。

製造番号,ロット,出荷日,販売先及び返品を照合し,争われる超過分と通常の許諾品を識別する。買主への説明・返金・補償の契約問題は,特許権の効力とは別に検討する。国外で最初に販売された製品にはBBS事件の別の判断枠組みがあるため,国内の数量管理だけで輸入の可否を決めない。

第4 数量を把握し,出荷判断を記録する

締結時に数量の数え方を決める。生産数,出荷数,売上計上数又は販売数のどれか,対象年度の開始日,関連会社・委託工場の数量,無償サンプル,不良品,返品及び再販売を含むかを明記する。同じ1個を二重計上しない仕組みと,報告資料の原本への参照を用意する。

事業部・製造部は,製造番号又はロットと月別数量,出荷予定,返品記録を集計する。契約担当は,上限に近づく前の警告値と報告日を決め,追加許諾の承認者・代替担当を登録する。法務は,契約の版,超過の原因,許諾の解釈,停止・条件変更・追加許諾の選択肢を整理する。経理は,販売報告と請求済み実施料を照合し,未払額と超過分の候補額を分ける。決裁者は,追加出荷の条件,権利者への申入れ担当及び次の確認期限を記録する。

超過発覚後は原データと変更履歴を保全し,数字だけを帳尻合わせしない。停止範囲は契約・特許・製品ごとに判断し,会社全体の販売を当然に止めるという運用にしない。

第5 超過分を精算するときの合意事項

精算の合意では,対象特許・請求項,製品,期間,数量及び金額計算を別紙で対応させる。過去の超過分についての紛争解決,今後の追加許諾,既存在庫の販売猶予,取引先に流通した製品の扱いを区別する。

追加金の支払だけで,過去の侵害主張の放棄,将来の販売許諾及び第三者の販売保護まで合意したことにはならない。合意書には,誰のどの行為について請求を清算するか,権利者が第三者に対してどう対応するか,効力発生日,未払実施料,報告・監査と終了後義務を具体化する。

例えば「対象期間に販売した別紙記載の超過製品について追加実施を許諾する」案と,「侵害の有無について双方の主張を維持しつつ,特定の請求を金銭で解決する」案は,同じものではない。目的に合わせて合意内容を選び,過去の帳票や契約の日付を事実と異なる日に書き換えない。

第6 実施料・侵害賠償・和解金と消費税

ここでは,日本国内の事業者間で,日本の特許の実施許諾又はその紛争を精算する通常の取引を想定する。消費税法2条2項は,資産の貸付けに「資産に係る権利の設定」を含める。消費税法基本通達5-4-1も,特許権等に係る実施権・使用権の設定を例示する。国内の事業として対価を得て行う実施許諾は,原則として消費税の課税取引として検討する(同法2条・4条)。

さらに,消費税法基本通達5-2-5は,実質が対価となる損害賠償金の例として「無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金」を挙げる。国税庁No.6257も特許権等の侵害賠償を課税対象の例として説明している。したがって,特許侵害に係る支払を単に「損害賠償金」「解決金」と記載して,消費税の対象外と処理することはできない。

和解案では,未払実施料,追加許諾の対価,過去の侵害に係る賠償,独立した他の損害及び費用を,実際の合意と計算根拠に沿って分ける。どの項目が何の対価かを確認し,混合する和解金を全額一括で課税又は不課税と決めない。当事者が内訳に名称を付けるだけで税務当局の判断を拘束できるわけでもない。

合意前に,税込・税別,消費税相当額の負担,支払総額,請求書等の交付担当・期限を税理士と確認する。受領者の納税義務・登録と,支払者の仕入税額控除の要件は別問題であり,登録番号の記載だけで控除可能額を決めない。国外の権利・非居住者・外国法人を含む場合は,国内外判定,源泉徴収及び租税条約を追加検討する必要があり,本節の結論をそのまま当てはめない。

民事上の損害額の計算と,受領する金銭の消費税上の区分とは,別に検討する必要がある。
例えば,特許法102条2項による利益額の算定・推定覆滅の問題を検討しただけでは,和解金等が消費税の課税対象となるかは決まらない。
国税庁の消費税法基本通達5-2-5及びタックスアンサーNo.6257は,損害賠償金の実質に応じた課税関係を示す資料であり,これらを根拠として民事上認められる賠償額に税率相当額を当然に上乗せできるわけではない。
和解条項では,各金員の対象と対価性を確かめ,支払総額が税込みの合意額なのか,別途消費税等相当額を加える合意なのかを明示し,二重に加算しないようにする。
根拠:国税庁No.6257「損害賠償金」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6257.htm),消費税法基本通達5-2-5(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/05/02.htm)。

第7 弁護士と税理士が共有する資料

弁護士は,特許の対象・許諾範囲,契約違反と侵害の主張,解除・変更の効力,清算する請求及び第三者の扱いを整理する。税理士は,その事実関係と実際の支払内容を踏まえ,消費税区分,所得税・法人税の計上時期,支払側の費用処理及び必要な証憑を検討する。消費税の課税取引であることだけで,支払側の法人税上の即時損金算入まで決まるものではない。

原契約,別紙,変更合意,交渉記録,解除・催告通知と到達記録対象特許・請求項,実施の地域・期間・当事者と権利者数量の原データ,製造番号・ロット,出荷・返品・在庫と転売先の記録請求済み実施料,入出金,元の税区分・仕訳及び申告済み期間和解案の支払内訳,算定表,追加許諾の内容と効力発生日税込・税別の合意,請求書等の交付,計算・説明・再確認の担当と期限

税務の確認を支払後まで延期せず,双方が合意する前に同じ資料で判断する。紛争の解決,許諾の確保及び税引後の資金負担を,一枚の精算メモで説明できる状態にすることが有用である。

第8 関連記事

修理・再生品は特許権侵害になるか―消尽,新たな生産,交換部品及び間接侵害(AI作成)

示談金・解決金・和解金に税金はかかるか―名目ではなく補填対象・所得区分・権利確定時期で判断する(AI作成)

令和6年度司法試験知的財産法第1問の模範解答と評価項目(AI作成)(数量制限と消尽を扱う試験問題。試験上の評価と個別契約の実務判断は区別する。)

第9 出典・適用範囲

法令・行政資料は令和8年10月10日に確認した。国税庁No.6257の本文表示は令和8年4月1日現在法令等である。以下の判決は消尽の一般的な根拠として参照し,数量超過のすべての場合の結論を示す先例とは扱っていない。契約文言,許諾経緯,製品の流通及び支払内容によって個別の結論は変わる。

①特許法68条,78条,100条
②最高裁第三小法廷平成9年7月1日判決(平成7年(オ)第1988号,民集51巻6号2299頁。国内譲渡の理由は4~5頁)
③消費税法2条・4条
④消費税法基本通達5-4-1(実施権等の設定)
⑤消費税法基本通達5-2-5(損害賠償金)
⑥国税庁No.6257「損害賠償金」

建物・展示美術の写真を広告や商品に使えるか―著作権法46条と写り込みの判断(AI作成)

目次

第1 公開前に分ける四つの対象1 建物の所有権と著作権は別の権利である2 写真に入る作品と写真自体も確認する第2 建物写真の商用利用と46条1 建築の著作物は屋外展示の条件と区別する2 建築による複製は別である3 著作者人格権と施設側の条件は残る第3 屋外と屋内の美術作品を分ける1 屋外に恒常設置された美術作品2 屋内展示が外から見える場合第4 写り込みは割合だけで判断しない1 付随性,軽微性及び正当な範囲を順に検討する2 営利目的や分離可能性だけで排除しない3 印刷・販売・切抜き後の利用も確認する第5 法務担当者が公開前に行う確認1 撮影担当と広告担当で判断資料を共有する2 所有物の売買と著作権取引を混ぜない3 異議が出たら作品と行為ごとに整理する第6 出典と関連記事1 確認した一次資料2 具体的な事例と関連する解説

建物の外観を撮影して広告や商品に使う場合,建物の所有者から許可を得れば著作権もすべて処理できるとは限らない。建築の著作物,背景の絵画・彫刻,写真自体の著作権及び撮影場所の利用条件を分けて確認する必要がある。

第1 公開前に分ける四つの対象
1 建物の所有権と著作権は別の権利である

著作権法2条1項1号は思想又は感情の創作的な表現を著作物とし,10条1項5号は建築の著作物を例示する。すべての建物が当然に著作物となるわけではないが,著作物として保護される建物では,建物の所有者と設計者等の著作権者が異なることがある。所有者の撮影承諾と,著作権法上の利用の可否を一つの判断にまとめない。

2 写真に入る作品と写真自体も確認する

同じ一枚の写真でも,建物,壁画・彫刻,屋内に展示された絵画及び撮影者が創作した写真は,別々の著作物となり得る。写真を自分で撮った場合と,他人が撮影した写真を購入・転載する場合も異なる。建物の利用が46条により許されても,他人の写真の著作権まで処理されるわけではない。

対象主な確認保存する資料建築の著作物46条の利用と各号の例外建物・設計の特定,利用方法絵画・彫刻等屋外設置の条件,46条,30条の2展示場所,撮影範囲,完成画像写真自体撮影者の権利,利用許諾撮影委託・素材サイトの条件撮影場所入場・撮影・商用利用の条件掲示,利用規約,管理者の承諾
第2 建物写真の商用利用と46条
1 建築の著作物は屋外展示の条件と区別する

著作権法46条は,一定の屋外の場所に原作品が恒常的に設置された美術の著作物と,建築の著作物について,列挙された例外を除き利用を認める。屋外に恒常的に設置されているという条件を,建築の著作物にも一律に課す読み方はしない。

建築の著作物を撮影し,写真を広告やウェブサイトに掲載し,絵はがきとして印刷・販売することは,46条による利用を検討できる。4号の「専ら美術の著作物の複製物の販売」を目的とする場合の除外を,建物写真の商品販売へそのまま広げない。

2 建築による複製は別である

46条2号は,建築の著作物を建築によって複製し,その複製物を公衆へ譲渡する場合を自由利用から除く。建物写真を掲載できることから,他人の建物の創作的な形状を新築や部分改築で再現してよいとはいえない。写真利用と建築行為を分けて判断する。

3 著作者人格権と施設側の条件は残る

著作権の制限規定は著作者人格権に影響を及ぼさない(50条)。作品の同一性を害する改変や氏名表示の問題は,財産権の利用許容と別に検討する。写真の編集がすべて侵害になるという意味ではなく,改変の内容,著作者の意,該当する例外等を具体的に確認する。

また,46条は私有地への立入りや撮影禁止の条件を当然に解除する規定ではない。施設内で撮影する場合は,入場時の条件と商用利用の承諾範囲を確認する。建物を実際に増築・改築・修繕・模様替えする場合の20条2項2号については,著作権全部譲渡後の改変と著作者人格権も参照されたい。

第3 屋外と屋内の美術作品を分ける
1 屋外に恒常設置された美術作品

46条の対象となる美術作品には,原作品が街路・公園等の一般公衆に開放された屋外の場所,又は建造物の外壁等の一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置されているという条件がある。屋外の一時的な展示を当然に同じものと扱わない。

対象となっても,彫刻の増製,所定の屋外の場所への恒常設置を目的とする複製,専ら美術作品の複製物の販売を目的とする複製・販売等は,各号により除外される。美術作品を主要な商品価値としてポスターや絵はがきにする場合には,建物写真の場合と同じ結論を使い回さない。

2 屋内展示が外から見える場合

屋内の絵画については,入口が開いていて外から見えるという事情だけで,46条が明記する屋外への恒常設置の条件を満たすと即断しない。設置位置,展示態様及び利用方法を確認し,46条の該当性,写り込み又は許諾を個別に検討する。

絵画の原作品を所有する者等が原作品を公に展示できる45条1項と,その絵画を撮影して広告や商品に利用できることも別である。絵画の購入代金を支払った事実だけでは,著作権の譲渡や写真利用の許諾まで確認したことにならない。

第4 写り込みは割合だけで判断しない
1 付随性,軽微性及び正当な範囲を順に検討する

著作権法30条の2第1項は,撮影等の対象に付随する著作物の利用について,写真等に占める割合,再製の精度等に照らした軽微性,利益を得る目的の有無,分離の困難性の程度及び作品が果たす役割等に照らした正当な範囲を求める。さらに,著作権者の利益を不当に害する利用は除かれる。

画面の小さな部分であるという一点だけでは判断できない。広告の構図,画質,作品が訴求の中心となっているか,鑑賞用の複製物の代わりになるか等も確認する。「何%以下なら許可不要」という一律の数値基準は本条にない。

2 営利目的や分離可能性だけで排除しない

広告や商品販売という営利目的があっても,直ちに30条の2の対象外とはならない。利益を得る目的の有無は,正当な範囲を判断する考慮要素である。また,現行法では,分離が不可能であることを独立した必須要件とはしていない。文化庁の令和2年改正の説明は,分離が困難でないものも対象とする一方,付随性・軽微性を維持し,濫用や権利者の市場を害する利用を防ぐ趣旨を示している。

(続きを読む...)建物・展示美術の写真を広告や商品に使えるか―著作権法46条と写り込みの判断(AI作成)

著作物でない成果物の模倣はいつ不法行為になるか―バンドスコア模倣事件の最高裁令和8年10月9日判決(AI作成)

目次

第1 本判決の概要と本記事の範囲1 結論2 基準日と資料第2 事案と審級の経過1 バンドスコアと採譜2 競業者の行為3 審級の経過第3 最高裁の判断1 北朝鮮映画事件の枠組みの確認2 特段の事情を認める基準3 当てはめで考慮された事情4 補足意見第4 北朝鮮映画事件判決との関係1 著作権法6条の判例を著作物でない成果物に当てはめた2 同じ系譜の下級審裁判例第5 原審判決から分かる立証の実務1 模倣の事実の推認2 因果関係3 損害額4 役員の責任第6 射程と実務上の注意1 事例判決として読む2 差止めは別に考える3 技術の進歩と時期の限定4 相談を受けたときの確認事項第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例(裁判所HP掲載)3 裁判例(判例秘書で確認)
第1 本判決の概要と本記事の範囲
1 結論

最高裁第二小法廷令和8年10月9日判決(令和6年(受)第2078号)は,著作権法上の著作物に当たらないバンドスコアの全体を細部まで模倣して自社のウェブサイトで無料公開し,広告料収入を得ていた競業者の行為について,不法行為の成立を認めた原審の判断を是認し,上告を棄却した。
これにより,競業者とその代表取締役に約1億6925万円の支払を命じた東京高裁令和6年6月19日判決が確定した。

最高裁は,著作物に当たらないものの利用行為は,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り不法行為にならないとする北朝鮮映画事件の判例を前提にした。
そのうえで,利用行為が「社会通念上自由競争の範囲を逸脱して」相手の営業を妨害し,その営業上の利益を侵害するものといえるときは,特段の事情があり不法行為になるとした。

2 基準日と資料

本記事は,令和8年10月10日時点で,裁判所HPに掲載された本判決の全文と,判例秘書で確認した第一審判決及び原審判決の本文に基づく。
令和8年10月25日に,原審判決が模倣を推認した具体的な表記,579曲全体への推認,損害額の算定に使われた弁護士会照会の内容等を,判例秘書で確認した原審判決及び第一審判決の本文に基づいて追記した。
裁判所HPの本判決の詳細ページでは,判示事項が「著作権法2条1項1号にいう著作物に当たらないバンドスコアを模倣するなどした行為が不法行為を構成するとされた事例」とされ,裁判要旨と判例集の欄は令和8年10月25日時点でも空欄である。
本判決は事例判決として示されているので,判断の射程は事案の特徴とともに読む必要がある(第6)。

第2 事案と審級の経過
1 バンドスコアと採譜

本判決が引く原審の確定事実によれば,バンドミュージックは録音現場で演奏・録音をしながら作曲されることが多く,作曲者自身が作った完全な楽譜が存在しないことが多い。
そのため楽譜出版社は,著作権等管理事業者の許諾を得たうえで楽曲の音源を聴き取り,ボーカル,ギター,キーボード,ドラム等の各パートの演奏情報を書き起こす「採譜」をして,バンドスコアを制作・販売している。
採譜は,本判決によれば「専門的な音楽教育を受けた上で相当な修練を積んだ者が、相応の時間をかけて行う作業」である。

被上告人(第一審原告)は,自ら採譜をしてバンドスコアを制作・販売する楽譜出版社であり,579曲について多大な費用,労力及び時間をかけてバンドスコアを制作した。
ただし,このバンドスコアは音源を基に採譜して作った楽譜であり,著作権法2条1項1号にいう著作物には当たらないとされている。
被上告人自身も,第一審では,北朝鮮映画事件の判例と同じ著作権法6条の文言を用いて,バンドスコアは「著作権法6条各号所定の著作物に該当しない」としたうえで,同判例がいう特段の事情があると主張していた。
楽曲そのものの著作権は別の者にあり,被上告人は著作権によってバンドスコアを守ることができない立場にあった。

2 競業者の行為

競業者である上告人会社は,少なくとも平成23年12月から平成30年6月までの間,本件の579曲についてバンドスコアを制作し,自社のウェブサイトで無料公開して広告料収入を得た。
制作は,上告人会社の代表取締役が自ら購入した被上告人のバンドスコアを音源データとともに担当者に渡し,担当者が自ら採譜をせずに被上告人のバンドスコアに依拠して実質的に同一の表記をする方法で行われた。
本判決は,その内容を,完全に複製したとまではいえないものの「被上告人スコアの全体を細部まで模倣したということができるもの」としている。

被上告人の売上げは,無料公開が行われていた平成24年度から平成29年度までの間,平成23年度に比べて大幅に減少した。
他方,サイトが閉鎖された直後の平成30年7月から9月までの売上げは,前年の同じ時期に比べて大幅に増加した。

3 審級の経過
審級判決結論主な理由第一審東京地裁令和3年9月28日判決(平成30年(ワ)第19860号,第33090号)請求棄却(請求額5億円)原告が模倣を主張した楽曲のいずれについても模倣を認めず,売上げ減少との因果関係も認めなかった控訴審(原審)東京高裁令和6年6月19日判決(令和3年(ネ)第4643号)会社と代表取締役に連帯して1億6925万5305円模倣を認め,採譜に要する時間,労力及び費用へのフリーライドとして特段の事情を認めた上告審最高裁第二小法廷令和8年10月9日判決(令和6年(受)第2078号)上告棄却第3のとおり

第一審は,特段の事情があるかどうかの判断に入る前に,模倣の事実と損害との因果関係の段階で原告の請求を退けた。

(続きを読む...)著作物でない成果物の模倣はいつ不法行為になるか―バンドスコア模倣事件の最高裁令和8年10月9日判決(AI作成)

政治家の演説の切り抜き動画・要約をSNSに載せてよいか―著作権法40条1項,演説動画の著作権及び放送の著作隣接権(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 対象2 結論の要旨第2 演説そのもの―40条1項1 条文と要件2 要約・書き起こし・切り抜きも含まれる3 40条2項との違い4 40条1項の対象とならない話第3 演説を撮影・編集した動画の著作権1 動画は映画の著作物になり得る2 動画の著作者と著作権者3 40条1項は動画の著作権を制限しない第4 テレビ放送・同時配信から切り抜く場合1 番組の著作権と放送事業者の著作隣接権2 102条1項は40条を準用していない第5 切り抜く側が頼れる規定1 引用(32条1項)2 時事の事件の報道(41条)3 映像作品を要約した動画との違い第6 著作者人格権・名誉・肖像1 権利制限規定は著作者人格権に影響しない2 名誉毀損3 肖像第7 実務のチェックリスト1 切り抜き・要約を作る側2 削除を求める側第8 関連記事第9 出典及び確認状態1 法令2 裁判例3 公式資料4 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象

本記事は,政治家や立候補予定者が街頭や集会で行った演説を,第三者が切り抜き動画にし,又は要約してSNS・ブログ・動画サイトに載せることが,著作権法上どこまで許されるかを整理するものである。
演説をした側(政治家・陣営)から削除を求める場合と,切り抜きや要約を作る側の双方の立場から検討する。
条文は,令和8年10月10日時点の著作権法(e-Gov法令検索)による。

2 結論の要旨

①公開して行われた政治上の演説そのもの(言語の著作物)は,同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き,いずれの方法によるかを問わず利用することができる(40条1項)。
要約,書き起こし,字幕付けも含まれると解される。
②もっとも,40条1項が自由な利用を認めるのは演説という著作物である。
演説を撮影・編集した動画に撮影や編集の創作性があれば,その動画の著作権は別に問題となると考えられる。
③テレビ放送等を録画して切り抜く場合は,放送事業者の著作隣接権(98条の複製権,99条の2の送信可能化権)も問題となる。
著作隣接権の制限を定める102条1項は,40条を準用していない。
④他人が撮影した動画や放送の映像を使うときは,引用(32条1項)又は時事の事件の報道(41条)の要件を満たす必要がある。
⑤切り抜き方によって発言の趣旨を歪めれば,演説者の同一性保持権(20条1項),名誉声望を害する利用(113条11項)又は名誉毀損の問題が生じ得る。

第2 演説そのもの―40条1項
1 条文と要件

著作権法40条1項は,「公開して行われた政治上の演説又は陳述並びに裁判手続及び行政審判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続をいう。第四十一条の二において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」と定める。
演説の原稿や話した内容は,思想又は感情を創作的に表現したものであれば言語の著作物(2条1項1号,10条1項1号)であるが,同項の要件を満たす限り,著作権者の許諾なく利用できる。

(1) 公開して行われたこと

駅前や街頭での演説,誰でも参加できる集会での演説は,公開して行われたものといえる。
これに対し,後援会や支持者だけを集めた非公開の会合での話は,参加者が多くても,公開して行われたとはいえない場合がある。

(2) 政治上の演説又は陳述

40条1項の趣旨は,公開の場でされた政治上の意見の表明を広く国民に伝え,自由な批判にさらすことにあると考えられる。
そうすると,政治上の演説に当たるかは,演説者が現に議員等の地位にあるかではなく,演説の内容が国や社会のあり方についての意見の表明であるかによって判断するのが自然である。
令和7年司法試験の知的財産法第2問は,政治家を目指している者が駅前広場で日本の将来を論じた文章の要約の掲載を素材として,同項の適用を問うている。

(3) 同一の著作者のものを編集して利用する場合

同項は,同一の著作者のものを編集して利用する場合を除いている。
法務省の令和7年司法試験の採点実感(知的財産法)は,この除外について,同一の著作者による複数の演説をまとめて出版するような場合が想定されているとし,一つの演説を要約した事案もこれに当たると誤解した答案が少なからず見られたと指摘している。
一人の政治家の演説を多数集めて演説集として出版・配信するような利用は,同項によっては許されない。

(続きを読む...)政治家の演説の切り抜き動画・要約をSNSに載せてよいか―著作権法40条1項,演説動画の著作権及び放送の著作隣接権(AI作成)

特許権の存続期間満了前に後発品の参入準備としてできること・できないこと―試験研究の例外,生産・在庫,譲渡の申出(AI作成)

目次

第1 この記事の要点第2 前提となる条文1 実施行為と特許権の効力2 試験研究の例外と存続期間3 損害賠償と過失の推定第3 承認・登録のための試験は試験研究の例外に当たる1 最高裁平成11年4月16日判決2 農薬その他の登録・承認制度3 試験を外部に委託する場合4 試験に使う装置・試薬(リサーチツール)第4 存続期間中の生産・在庫の積上げ第5 存続期間中の譲渡の申出・見積り・受注1 申出は独立の実施行為である2 裁判例3 実務上の注意第6 特許権者の側の確認事項第7 チェックリスト(後発品の事業者)第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 公式資料
第1 この記事の要点

本記事は,他社の特許権の存続期間が満了した後に後発品(同じ有効成分の医薬品・農薬,同じ構成の機械等)を販売しようとする事業者が,満了前にどこまで準備をしてよいかを,特許法の条文と裁判例から整理するものである。
特許権者の側から見れば,どこからが侵害として争えるかの整理でもある。

結論は次のとおりである。
①存続期間中でも,満了後の製造販売のため,医薬品の製造承認の申請に必要な試験を行う目的で特許発明の技術的範囲に属する物を生産・使用することは,特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たり,侵害とならない(最高裁平成11年4月16日判決)。
②他方,試験に必要な範囲を超えて,満了後に譲渡する製品を存続期間中に生産することは,侵害として許されない(同判決)。
③試験の一部を大学等に委託した場合や,他社の承認申請の試験のために製造・譲渡した場合も,試験のための実施として同項の範囲内とした裁判例がある(大阪地裁平成11年9月2日判決)。
④存続期間中の「譲渡の申出」(見積書の交付を含む。)は,譲渡が満了後であっても侵害行為とされ,満了後の販売による損害も,存続期間中の申出と相当因果関係のある損害とした裁判例がある(知財高裁平成26年6月26日判決,大阪地裁令和2年1月20日判決,知財高裁令和6年4月24日判決)。
⑤試験に用いる検査・実験装置等(いわゆるリサーチツール)が他人の特許発明の実施品である場合に,その使用まで同項で免責されるとした裁判例は,裁判所ウェブサイトでは確認できなかった。

本記事の基準日は令和8年10月10日であり,条文はe-Gov法令検索の現行のもの,裁判例は裁判所ウェブサイトの判決全文によった。

第2 前提となる条文
1 実施行為と特許権の効力

特許法2条3項1号は,物の発明の「実施」として,その物の生産,使用,譲渡等(譲渡及び貸渡し),輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。)をする行為を定めている。
同法68条本文は,特許権者が業として特許発明の実施をする権利を専有すると定める。
したがって,存続期間中に業として行う生産・使用・譲渡等の申出は,それぞれが独立の実施行為であり,例外に当たらない限り特許権の侵害となる。

2 試験研究の例外と存続期間

特許法69条1項は,特許権の効力は試験又は研究のためにする特許発明の実施には及ばないと定める。
同法67条1項は,特許権の存続期間を特許出願の日から20年で終了すると定め,同条4項は,安全性の確保等を目的とする法律による許可その他の処分で政令で定めるものを受ける必要があるために特許発明を実施できなかった期間があるときは,5年を限度として延長登録の出願により存続期間を延長できるとする。
この政令である特許法施行令2条は,農薬取締法3条1項の登録等(1号)と,医薬品医療機器等法14条1項の医薬品の承認等(2号)を挙げている。

3 損害賠償と過失の推定

特許権侵害による損害賠償の根拠は民法709条であり,特許法103条は,他人の特許権を侵害した者はその侵害の行為について過失があったものと推定すると定める。
後発品の準備が侵害と判断されれば,過失がなかったことを示す事情がない限り,損害賠償の責任を負うことになる。

第3 承認・登録のための試験は試験研究の例外に当たる
1 最高裁平成11年4月16日判決

最高裁判所第二小法廷平成11年4月16日判決(平成10年(受)第153号,民集53巻4号627頁)は,第三者が,特許権の存続期間終了後に後発医薬品を製造販売する目的で,薬事法(当時)14条の製造承認申請のため,存続期間中に特許発明の技術的範囲に属する医薬品等を生産し,これを使用して申請書に添付すべき資料を得るのに必要な試験を行うことは,特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たり,特許権の侵害とならないとした。
理由として,同判決は,存続期間が終了した後は何人でも自由に発明を利用できることが特許制度の根幹の一つであること,承認の申請には一定の期間をかけて試験を行う必要があり,存続期間中にこの試験ができないとすると,存続期間の終了後もなお相当の期間,第三者が発明を自由に利用できない結果となることを挙げている。

2 農薬その他の登録・承認制度

同判決は医薬品の事案であるが,その理由は,販売の前に試験を経た行政上の承認・登録が必要であり,その試験に相当の期間を要するという制度の構造に基づいている。
特許法施行令2条が,存続期間の延長登録の理由となる処分として,医薬品の承認と並べて農薬取締法の登録を挙げていることからすると,農薬の登録のための試験にも同じ理由が当てはまると考えられる。

(続きを読む...)特許権の存続期間満了前に後発品の参入準備としてできること・できないこと―試験研究の例外,生産・在庫,譲渡の申出(AI作成)

YouTuber・配信者の著作権・広告収益に相続税はかかるか―財産評価基本通達148と営業権(AI作成)

目次

第1 結論―チャンネルを一つの財産として評価しない1 権利・収益・アカウントを分ける2 最初に作る五つの一覧第2 動画の著作権と著作者人格権1 アップロードした人が全権利者とは限らない2 著作権は承継できるが著作者人格権は承継しない3 共同相続後の管理を決める第3 Google・YouTube・AdSenseの手続1 法的な承継とログイン権限は同じではない2 ブランドアカウントとチャンネル権限を区別する3 未払AdSense収益の受領手続第4 未払収益と死亡後の収益を分ける1 死亡時までに発生した未払収益2 死亡後に生じる収益第5 著作権の相続税評価―財産評価基本通達1481 著作権は相続税の課税対象となり得る2 通達148の算式3 固定倍率を使い回さない第6 営業権の評価と個人の才能への依存1 個人事業の営業権2 死亡とともに消滅する営業権は評価しない第7 法人運営と非上場株式1 権利者と契約名義を確認する2 二重計上を防ぐ第8 弁護士・税理士が集める資料1 初動で保存する資料2 共同作業の分担第9 裁判例・資料の確認状況1 直接の公表裁判例を前提にしない第10 出典・参考資料1 法令・国税庁資料2 Google・YouTube公式資料3 二次資料
第1 結論―チャンネルを一つの財産として評価しない
1 権利・収益・アカウントを分ける

YouTuber,動画配信者又はインフルエンサーが死亡した場合,「YouTubeチャンネルを相続できるか」だけを検討しても,民事,税務及びプラットフォーム上の手続を整理できない。
少なくとも,①動画等の著作権,②死亡時までに発生した未払収益,③死亡後に著作権又は事業から生ずる収益,④Google・YouTube・ブランドアカウント及びAdSenseの管理権限,⑤法人が事業主体である場合の株式に分ける必要がある。

国税庁は,著作権を含む金銭に見積もることができる経済的価値のある財産が相続税の課税対象になると説明している。
しかし,アカウント名や登録者数そのものを直ちに一つの相続財産として評価するのではなく,死亡時に誰がどの権利を有し,どの将来収益がその権利に帰属するかを確定する必要がある。

2 最初に作る五つの一覧

実務では,次の五つを別々の一覧にすると整理しやすい。
①動画,台本,写真,楽曲,サムネイル,ロゴ等の権利一覧
②AdSense,メンバーシップ,Super Chat,スポンサー料,物販代金等の未払額一覧
③Googleアカウント,ブランドアカウント,YouTube Studio及びAdSenseの権限一覧
④制作費,外注費,出演料,音源利用料,返金その他の債務一覧
⑤個人事業か法人事業か,法人の場合は株主,役員,契約名義及び知的財産の帰属を示す一覧

第2 動画の著作権と著作者人格権
1 アップロードした人が全権利者とは限らない

動画には,映像,台本,写真,音楽,イラスト,ロゴ,出演者の実演その他の複数の素材が含まれ得る。
チャンネルの開設者又は動画の投稿者が,これらすべての著作権者であるとは限らない。

撮影・編集された動画は,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,物に固定されていれば,映画の著作物に当たり得る(著作権法2条3項)。
映画の著作物の著作者は,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその全体的形成に創作的に寄与した者であり(同法16条),撮影や編集を外注した場合は,外注先の撮影者・編集者が著作者となることがある。
もっとも,著作者が映画製作者(映画の著作物の製作に発意と責任を有する者。同法2条1項10号)に対し製作への参加を約束しているときは,その映画の著作物の著作権は映画製作者に帰属する(同法29条1項)。
この場合も著作者人格権は著作者に残るので(同法59条),外注契約の内容から,著作権が投稿者側と外注先のどちらにあるかを確認する。
相続税の課税対象となる著作権の範囲は,この帰属によって決まる。

雇用又は法人名義の制作,外注,著作権譲渡,利用許諾,共同制作及び第三者素材の利用がある場合は,契約書,発注書,請求書,制作データ及び公開時の表示から権利の帰属と利用範囲を確認する。
相続の対象を決める前提として,被相続人が有していた権利だけを特定する必要がある。

2 著作権は承継できるが著作者人格権は承継しない

著作権法61条は著作権の譲渡を予定しており,民法896条による包括承継の対象にもなり得る。
これに対し,著作者人格権は著作者の一身に専属し,譲渡することができないため,相続されない(著作権法59条)。

もっとも,著作者の死後も,著作者が生存していれば著作者人格権の侵害となるべき行為を原則としてしてはならない(著作権法60条)。
相続人が著作権を取得したからといって,故人の氏名表示を変え,内容を自由に改変し,又は第三者の権利を無視して再公開できるわけではない。

(続きを読む...)YouTuber・配信者の著作権・広告収益に相続税はかかるか―財産評価基本通達148と営業権(AI作成)

弁護士・税理士が有料の法律・税務資料を生成AIで分析するとき―閲覧権限,外部送信,引用及び成果物の再利用(AI作成)

目次第1 有料資料と生成AIの利用を工程ごとに考える1 契約して読めることと外部で利用できること2 正確性,秘密保持及び利用権限は別々に確認する第2 LIBRARYの規約から確認できる事項1 閲覧,コピー,印刷及びダウンロード2 サービス内のAIアシスタントが生成する短文第3 特定の1冊を分析する場合と外部AIへ送る場合1 1冊だけであることから結論は決まらない2 外部AIという語がなくても一般条項を読む第4 著作権法上の検討と公開する文章1 情報解析という名称だけで判断しない2 引用,独自の説明及び表現の再現第5 効率を保つための実務上の運用案1 資料ごとの短い台帳を作る2 AIに任せる工程と担当者が確認する工程第6 出典・参考資料
第1 有料資料と生成AIの利用を工程ごとに考える
1 契約して読めることと外部で利用できること

法律・税務の書籍や会員制データベースを生成AIで分析する場合,①サービス内での閲覧,②資料の取得・複製,③外部AIへの送信,④分析結果の作成,⑤依頼者への交付又はブログ公開,⑥知識庫への保存・再利用を分けて確認する必要がある。
閲覧できる契約を結んでいることは重要な出発点であるが,それだけで各工程の利用権限が確認できたことにはならない。

本記事は,令和8年10月7日に確認した弁護士ドットコムLIBRARYの利用規約を具体例として,専門職が確認する事項を整理するものである。
同規約は令和8年10月5日改定のものであり,他社の税務データベース,紙の書籍又は別契約のサービスへそのまま適用されるものではない。
過去の利用行為については,当時適用された規約,個別契約及び許諾の内容を確認する必要がある。

2 正確性,秘密保持及び利用権限は別々に確認する

法的説明が正確であり,出典を明記し,個人情報を含まない文章であっても,取得した文献の複製・外部送信・公開に関する契約上の制限は残り得る。
反対に,文献の利用許諾があっても,依頼者の秘密や個人データを同じ入力に含めてよいかは別の問題である。

顧客がAI利用に同意した場合も,その顧客が出版社やデータベース事業者の権利まで処分できるとは限らない。
顧客資料の取扱いは,税理士事務所であれば税理士法上の守秘義務を含めて検討し,文献のライセンスとは別に記録するのが適切である。

第2 LIBRARYの規約から確認できる事項
1 閲覧,コピー,印刷及びダウンロード

LIBRARY利用規約第4条は,指定する利用方法に従ったライセンスを定め,コピー,印刷及びダウンロードについても提供機能と許可範囲に条件を設けている。
公式の機能があることと,取得した情報をどの用途でも利用できることは同じではない。
コピー又はダウンロードした情報については,出典表示の条件に加え,法令及び第14条等との整合性も確認する必要がある。

第13条は許諾のない転載・投稿・アップロード等を,第14条は派生物の作成,複製・改変,第三者への頒布・公衆送信等を制限している。
そのため,画面を一括保存して全文を取り出す方法や,取得した本文を外部へ送信する方法については,単に閲覧できるという理由で許諾済みと扱うことはできない。
ID・パスワード及びサービス利用権の共有については第7条も確認する。

2 サービス内のAIアシスタントが生成する短文

第20条は,サービス内のAIアシスタントによる検索支援を定めている。
同条第6項は質問等への個人情報の入力を禁じ,第8項は生成された短文についてサービス内の利用を除く利用許諾をしない旨及び利益を得る利用の禁止を定めている。
したがって,その短文をブログの原稿や顧客向け文書へそのまま転用することは,同条の利用範囲に整合しない。

利用者自身が入力した質問についての無償の自己利用許諾と,生成された短文の利用制限は区別する必要がある。
この条項はサービス内の当該機能を対象としているため,外部AIが独自に生成した文章へ機械的に拡張することも適切ではない。

第3 特定の1冊を分析する場合と外部AIへ送る場合
1 1冊だけであることから結論は決まらない

対象を1冊に絞った分析であること自体から,規約違反であるとも適法・許諾済みであるとも断定できない。

(続きを読む...)弁護士・税理士が有料の法律・税務資料を生成AIで分析するとき―閲覧権限,外部送信,引用及び成果物の再利用(AI作成)

海外サイト運営者に記事・データ利用の停止を求めるとき―相手の特定,管轄,送達,証拠収集と執行(AI作成)

目次第1 提訴前に相手・送達先・財産を確認する第2 誰に何を請求するのか1 公開表示から法人・住所を確かめる2 請求と証拠を分ける第3 日本の管轄と準拠法1 日本の裁判所で訴えられるか2 日本の裁判所でも適用法は別に決まる第4 訴状等の外国送達1 条約・受領国の条件を確認する2 送達できない場合第5 国外の証拠を取得する第6 停止・回収の実効性を調べる第7 相手国が判明した後の確認票第8 出典と関連記事
第1 提訴前に相手・送達先・財産を確認する

記事・データの無断利用が疑われる場合,外国のサーバーを使っていることと,請求相手が外国に所在することは別である。
運営者,契約上のサービス提供法人,取得・配信をした者,モデル開発者,ホスティング事業者,CDN及び日本子会社を区別する。
本記事は,令和8年10月4日に確認した日本法とハーグ送達条約に基づく一般的な手順を示し,特定国での手続を確定するものではない。

確認の順序は,①責任を負う相手方,②請求根拠と対象行為,③裁判管轄と準拠法,④送達,⑤証拠収集,⑥判決後の停止・回収である。
ただし,財産の所在と外国での執行可能性は,判決を得た後に初めて調べるのではなく,提訴前に費用と実効性を検討する。
以下の整理方法は本記事の実務上の提案であり,各国の裁判所の統一的な書式ではない。

第2 誰に何を請求するのか
1 公開表示から法人・住所を確かめる

利用規約,プライバシーポリシー,問い合わせ先,契約書及び公開登記情報を対応させる。
ページに表示された管理者と法的な運営主体が同一か,住所が現在の送達先として使えるかは別に確認する。
日本語での提供,外国IP,ドメイン登録先又は開発に使ったAI製品の本拠地だけで,相手方の国を決めてはならない。

日本子会社があっても,親会社の行為について当然に責任を負い,又は親会社への訴状を受領する権限を有するとは限らない。
国内の適法な送達先又は代理人があるかは,民事訴訟法103条等に沿って確認する。
相手が国内主体であると確認できた場合には,外国サーバーの存在だけを理由に外国送達を選ばない。

2 請求と証拠を分ける

著作権侵害では,自分の権利,保護対象,相手の複製・公衆送信・翻案等と,許諾・権利制限の適用を検討する。
契約違反,一般不法行為及び不正競争も,それぞれ成立要件に対応させる。
ホスティング事業者への削除申告と運営者への損害賠償請求は,同じ相手・同じ根拠で当然に行えるものではない。

第3 日本の管轄と準拠法
1 日本の裁判所で訴えられるか

民事訴訟法3条の3第5号は,日本において事業を行う者に対する訴えについて,日本での業務との関係を要する。
同条8号の不法行為に関する訴えでは,行為地・結果発生地と,外国での行為による国内の結果の通常予見可能性が問題となる。
同条3号による財産所在地の管轄は,金銭支払請求について差押可能な国内財産等を要し,著しく低額の財産は除かれる。

日本から閲覧できることだけで必ず日本の管轄が生じると扱わず,日本向けの事業,問題行為,被害及び国内財産を具体化する。
同法3条の9の特別の事情による却下も,証拠の所在,当事者の負担等に応じて検討する。
利用規約の裁判所指定も,合意の当事者と対象となる紛争の範囲を確認し,規約に同意していない権利者の侵害請求に当然に及ぶとは考えない。

2 日本の裁判所でも適用法は別に決まる

一般不法行為では,法の適用に関する通則法17条の結果発生地法と予見可能性,20条の明らかにより密接な関係,22条の日本法による制限等を確認する。

(続きを読む...)海外サイト運営者に記事・データ利用の停止を求めるとき―相手の特定,管轄,送達,証拠収集と執行(AI作成)

AI処理の著作権を工程とログから確認する―30条の4・47条の5とRAGの実務(AI作成)

目次第1 「AIに使った」を具体的な行為に分ける第2 先に対象と工程を確定する1 判決本文と民間の付加情報2 工程別の台帳第3 30条の4の確認事項1 非享受目的と必要な限度2 権利者の利益を不当に害する場合3 出力から目的を検討する際の注意第4 47条の5の確認事項1 結果提供に付随する軽微利用2 準備行為の複製は表示量と同じではない3 政省令とrobots.txt4 出所と人格権第5 ログから分かることと分からないこと1 アクセス記録だけでは学習を証明できない2 RAGと学習を結び付ける記録第6 照会・訴訟で対象を限定する第7 出典・関連記事と未確認事項
第1 「AIに使った」を具体的な行為に分ける

記事やデータがAIサービスで利用されているように見えても,学習に使ったのか,検索時に参照したのか,利用者が直接入力したのかは,画面だけでは分からない場合がある。
適法性の確認では,対象著作物,主体,処理場所,時点,目的,利用量及び表示方法を工程ごとに対応させる。
本記事は,令和8年10月4日に確認した現行法令及び文化庁の資料に基づき,仕様書とログから確認する事項を示す一般的な実務解説である。

文化審議会の「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)は解釈の参考となる行政資料であり,個別事件について裁判所を拘束するものではない。
以下の記録方法は本記事の提案であり,全ての事業者に同じログ項目の保存義務があるという説明ではない。
依頼者の秘密,個人情報及び第三者の著作物を含む実ログは,必要な範囲とアクセス権限を定めて扱う。

第2 先に対象と工程を確定する
1 判決本文と民間の付加情報

著作権法13条の対象となる判決等と,民間の要旨,解説,分類又はDBの構成を分ける。
単なる事実の抽出と,創作的な文章を複製・翻案する処理も同じではない。
判決本文が権利の目的とならないことから,民間DB全体の取得又はその利用規約上の制限まで判断を省略しない。

2 工程別の台帳

①取得:元URL,取得版,取得日時,経路,認証・規約及び取得者。
②加工・保存:OCR,分割,重複除去,保存先,保存量,原文の残存及び保持期間。
③学習:データ集合の版,投入ジョブ,対象モデル,追加学習・評価の区別及び利用目的。
④RAG:検索用DBの版,検索結果,採用した文書・断片及びプロンプトへの挿入内容。
⑤生成・表示:モデル・版,指示,会話履歴,検索設定,出力原文,表示対象及び出典。
⑥削除・終了:キャッシュ,ログ,バックアップ及び学習済みモデルに残るもの。

各行に,著作権上の根拠と契約上の根拠,処理主体及び国を記載する。
日本法の権利制限が検討できることから,国外で行われる全ての処理も適法であるとはいえない。
サービス名又はモデル名だけで,どの法人がどの国で対象行為をしたかを確定しない。

工程表には,対象を選ぶ者,入力を準備する者,処理を開始・停止・再実行する者,OCR・PDF生成を実行する者,出力を検査・保存・再利用する者を記録する。
サーバーや端末の所有者と,著作権法上の行為主体は当然には一致しない。
また,ライセンス認証の通信と資料本文・画像の外部送信は別の事実であり,それぞれの有無を証拠により確認する必要がある。

第3 30条の4の確認事項
1 非享受目的と必要な限度

同法30条の4は,著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し,又は他人に享受させることを目的としない場合に,必要と認められる限度で利用できるとする。

(続きを読む...)AI処理の著作権を工程とログから確認する―30条の4・47条の5とRAGの実務(AI作成)

データベースを模倣されたときの立証―創作性・依拠性・一般不法行為・不正競争の分け方(AI作成)

目次第1 保護対象と相手の行為を対応させる第2 創作性を具体化する資料1 情報の選択と体系的な構成2 通常の項目と独自の関係付けを分ける3 制作履歴と権利帰属第3 国内裁判例から分かること1 構成の共通部分を検討した旅行業DB事件2 抽象的な工夫の説明では足りない顧客DB事件3 パッケージと蓄積後のDBを区別したeBASE事件第4 依拠性と保護対象の共通性を別に対比する1 参照した証拠が示す範囲2 対照表の作り方第5 一般不法行為と不正競争を検討する1 著作権による独占と別の利益2 営業秘密・限定提供データの要件3 契約・負荷・虚偽表示第6 請求と証拠収集を設計する第7 関連記事と調査範囲
第1 保護対象と相手の行為を対応させる

データベースの情報が他のサービスで使われている場合は,まず,何を保護しようとしているのかを特定する必要がある。
個々の事実,独自の文章,情報の選択,分類・関係付け,契約上の利用制限,営業秘密又は限定提供データは,それぞれ成立要件も請求方法も異なる。
収集に長年を費やしたという事情だけでは,これら全てを排他的に利用できる権利が生じるわけではない。

本記事は,令和8年10月4日に確認した現行法令と裁判所公表の判決本文に基づく一般的な実務解説である。
特定のウェブサイトによる模倣又は不正取得を認定するものではなく,以下の保存・対照表の作成方法は本記事の実務上の提案である。
相手が参照したという証拠と,保護される構成・表現を利用したという証拠を区別することが,請求を過度に広げないためにも重要となる。

第2 創作性を具体化する資料
1 情報の選択と体系的な構成

著作権法2条1項10号の3は,情報の集合物で,情報を電子計算機で検索できるように体系的に構成したものをデータベースと定義する。
同法12条の2が保護するのは,そのうち情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものである。
検索できることと著作物であることは別であり,件数,開発費,処理速度又は情報の正確性だけを創作性の説明に置き換えることはできない。

選択については,選べた情報の母集団,採用・除外の基準,実際の選定結果及び基準を変えた履歴を示す。
体系的な構成については,項目の組合せ,分類階層,テーブル間の関係,実データ及び検索結果をそろえ,別の構成も可能であった中でどのような選択をしたかを説明する。
全件収録を目指すDBであっても構成に創作性がある可能性はあるが,「独自の工夫がある」という説明だけでは具体的な保護範囲は分からない。

2 通常の項目と独自の関係付けを分ける

氏名,日付,住所等の一般的な項目,ありふれた並び順,形式の統一又は重複除去は,それだけで創作的な構成となるとは限らない。
関連人物を示す仕組みであれば,どの期間の重なりを採り,どの関係を除外し,どの組合せを表示するかという具体的な構成と実際の情報集合を検討する。
ただし,計算方法というアイデア,プログラムの表現,その結果として構成されたDBは別の対象であり,機能が同じという理由だけでDBの複製を認定しない。

3 制作履歴と権利帰属

設計書,元データ,版ごとの構造,分類の改訂理由,試作版,原稿,公開履歴及び外注契約を保存する。
Gitの最初のコミット日時は,その時に記録されたことの資料であって,制作開始日又は最初の公開日を当然に証明するものではない。
追跡対象外のファイル,移行前の版,復元した資料も区別し,相手による利用時点の構成を再現できるようにする。

自社のサーバーにDBがあることだけで,その著作権が自社に帰属するとは限らない。
外注,共同制作,職務著作,譲渡及び利用許諾を確認し,誰のどの権利について請求できるかを定める。
AIが関与した文章についても,人の創作的な加筆・編集を具体的に確認する。

第3 国内裁判例から分かること
1 構成の共通部分を検討した旅行業DB事件

知財高裁平成28年1月19日判決(平成26年(ネ)第10038号)は,旅行業向けDBの具体的なテーブル,フィールド及び関係付けを検討した。

(続きを読む...)データベースを模倣されたときの立証―創作性・依拠性・一般不法行為・不正競争の分け方(AI作成)

量産実用品のデザインはどこまで著作権で保護されるか-最高裁判決とトリップトラップ(AI作成)

目次第1 量産実用品のデザインに著作権が認められる条件第2 最高裁が示した保護基準とその理由1 創作性と「美術の範囲」を区別する2 機能と別個の表現を観念上把握できるか3 芸術的価値と美術工芸品の留保第3 トリップトラップの新旧判決を分けて読む1 令和8年最高裁が著作物性を否定した事件2 平成27年知財高裁の著作物性肯定と非侵害の結論第4 保護される表現を特定した後の侵害判断1 分離して把握できる部分にも創作性が必要である2 機能やアイデアの一致と具体的表現の一致3 権利帰属・利用行為・許諾を確認する第5 意匠権・不正競争防止法・契約との役割分担1 意匠登録による保護2 不正競争防止法の異なる保護根拠3 委託契約の対象と権利処理4 一般不法行為による損害賠償第6 商品開発と模倣対応で最初に確認する資料1 当事者ごとに手元の資料から確認する2 追加調査へ進む条件第7 出典1 法令2 裁判例
第1 量産実用品のデザインに著作権が認められる条件

家具や食器などの量産実用品は,独自に創作した美しいデザインというだけで,当然に著作権法の保護を受けるわけではない。
最高裁第二小法廷令和8年4月24日判決(令和7年(受)第356号)は,機能に由来する構成とは観念上別個に,創作的な表現として把握できる全体又は部分を保護する基準を示した。

量産品のすべてが保護対象から外れるわけではなく,付加された絵画・彫刻等や,一定の場合の商品全体にも保護が及び得る。
ただし,著作物として保護されることと,似た商品の製造販売が著作権侵害になることは,別の問題である。

本記事は,令和8年10月4日現在の日本法を基準とし,量産実用品の形状等の著作物性,トリップトラップの新旧判決及び他の保護制度との違いを説明する。
建築,外国法の詳細及び個別商品の侵害判断は対象とせず,商品開発と模倣対応の確認点を必要な範囲で扱う。

第2 最高裁が示した保護基準とその理由
1 創作性と「美術の範囲」を区別する
(1) 著作権法の定義

著作権法2条1項1号は,著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義している。
同条2項は美術の著作物に美術工芸品を含め,同法10条1項4号は絵画,版画,彫刻その他の美術の著作物を例示している。

実用品に美的な表現を用いる問題は,応用美術の問題として論じられてきた。
今回の最高裁判決は,そのうち「量産されて日常生活の中で実用に供されることが予定されている物品」を量産実用品とし,形状,模様,色彩又はこれらの結合を対象としたものである。

(2) 量産実用品に創作性があるだけでは足りない理由

最高裁は,量産実用品の形状等が創作的な表現であることから,直ちに「美術の範囲」に属する著作物とする解釈を採らなかった。
理由として挙げたのは,意匠法との役割分担と,商品利用に及ぼす影響である。

意匠権は設定登録によって発生し,現行法では原則として出願日から25年で存続期間が満了する。
これに対し,著作者人格権と著作権の享有に方式の履行は必要なく,個人の著作物の著作権は原則として著作者の死後70年まで存続し,著作者人格権の保護もある。

最高裁は,量産実用品の形状等を著作権で広く保護すると,意匠登録を受けずに長期間かつ広範な保護を受けられる可能性があり,意匠制度の存在意義や商品の利用を損なうおそれがあると説明した。
ただし,意匠には関連意匠や旧出願の経過措置,著作権には法人著作等の別の期間規定があるため,具体的権利の存続期間は個別に確認することになる。

2 機能と別個の表現を観念上把握できるか

最高裁判決3頁は,次の判断基準を示している。

「量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作権法2条1項1号にいう著作物のうち、美術の範囲に属するものに当たるというべきである。」

(1) 付加された絵画・彫刻等

最高裁は,単なる模様や表面加工の域を超える装飾が付され,その付加部分が機能と関連せず,観念上別個の絵画や彫刻として把握できる場合を挙げている。
この場合は,美術の著作物が実用品に付加されたものとして,その付加部分に保護が及ぶ。

説明用の仮定として,容器に独自の絵画を印刷する場合,絵画の表現と容器の実用的な形状は分けて検討することになる。
絵画が保護されても容器の形状全体が当然に保護されるわけではなく,反対に,実用品に付されたことだけで絵画の保護が失われるわけでもない。

(続きを読む...)量産実用品のデザインはどこまで著作権で保護されるか-最高裁判決とトリップトラップ(AI作成)

自サイトの記事・データを他サイトに利用されたとき―著作権,出典表示,流入減少の立証と初動対応(AI作成)

目次第1 最初に分けるべき三つの問題第2 何が利用されたのかを特定する1 事実・法令・判決と独自の文章を分ける2 編集物・データベースとしての保護3 権利者と許諾の範囲第3 利用の方法ごとに判断する1 リンクと転載は別である2 出典表示だけでは引用にならない3 AI要約・学習・検索用取得を一括しない第4 連絡する前に保存する証拠1 両サイトの同じ時点・版を保存する2 対照表と運営主体の確認第5 流入減少の原因と損害を分けて立証する1 競合登場後の減少だけでは原因が決まらない2 引用・評価・訪問・受任は別の指標である3 差止めと損害賠償で必要な検討は異なる第6 権利侵害が明確でない場合の検討1 収集の労力だけを独占権に置き換えない2 契約・不正競争・アクセス方法を別に確認する第7 求める対応を決め,限定して連絡する1 訂正・表示改善・許諾・削除の選択2 最初の連絡に記載する内容3 運営者への請求と検索結果の対応第8 弁護士への相談時にそろえる資料第9 関連記事第10 出典と調査範囲
第1 最初に分けるべき三つの問題

自サイトの記事やデータが他サイトに掲載されていると分かった場合は,①どの権利についてどの行為が問題になるか,②自サイトへの流入や事業にどのような影響があるか,③訂正,出典表示,許諾交渉,削除又は法的手続のどれを求めるかを分けて検討する必要がある。
出典が記載されていることは転載の許諾を意味せず,アクセス数が減ったことも,それだけで著作権侵害を意味しない。

本記事は,ウェブサイト運営者とその相談を受ける弁護士が,第三者利用を発見した段階で事実・権利・証拠を整理するためのものである。
令和8年10月4日に確認した著作権法,文化庁の説明,裁判所公表の判決及びGoogle公式文書を基に,初動で検討する事項を示す。
証拠の保存順序や観測方法は,本記事における実務上の提案であり,裁判所が定めた統一的なチェックリストではない。

第2 何が利用されたのかを特定する
1 事実・法令・判決と独自の文章を分ける

著作権法2条1項1号は,著作物について,思想又は感情の創作的な表現を要件としている。
人名,所属先,年月日その他の単なる事実やデータと,執筆者が作成した解説,論評,図表又は写真は,保護の判断を分けなければならない。
文化庁の利用案内も,単なる事実・データ,アイデア及びありふれた表現を著作物から区別している。

同法13条は,法令,所定の公的機関が発する告示・訓令・通達等,裁判所の判決・決定・命令・審判等を権利の目的から除いている。
判決本文を掲載したサイトが,その判決本文自体について独占的な著作権を取得するわけではない。
他方,民間の執筆者による判例解説,要旨,論点の比較又は独自の図表は別に検討する必要がある。

「官公庁の文書だから全て自由に転載できる」とまとめることもできない。
同条の対象となる文書か,別に創作性のある写真・地図・説明資料等か,第三者の著作物が含まれるか,公開サイトの利用条件がどうなっているかを確認する。
情報公開で取得したこと,PDF化又はOCRをしたこと,取得に費用がかかったことだけでは,元の情報全体について新しい著作権が生じるものではない。

2 編集物・データベースとしての保護

同法12条は,素材の選択又は配列に創作性がある編集物を,12条の2は,情報の選択又は体系的な構成に創作性があるデータベースを保護する。
個別の事実が保護されない場合でも,集合物の選択・構成が別に保護されることはあり得る。
しかし,収録件数,収集期間又は投下費用が大きいことだけで,創作性を満たすと決めることはできない。

請求を検討するときは,選択した対象,項目,分類,関係付け及び構成のうち,どこに独自性があり,相手サイトがそのどの部分を利用したのかを具体化する。
全体又は一部の取り込みについても,件数だけでなく,創作性のある部分が共通するかを比較する。
個別の事実を公的資料から独自に収集した可能性と,自サイトの構成を取り込んだ可能性を分けて調べる必要がある。

創作性の説明には,利用時点の情報集合,採否基準,項目・分類・関係図,実際の検索結果及び制作履歴をそろえる。
一般的な項目,年月順の並び又は正規化と,独自の選択・構成を分け,参照を示す出典リンクや特徴的な誤りとは別に評価する。
国内裁判例と対照表の作り方は,データベースを模倣されたときの立証で詳しく扱う。

3 権利者と許諾の範囲

自サイトに掲載した文章や画像でも,外部執筆者,撮影者又は資料提供者が権利を有する場合がある。

(続きを読む...)自サイトの記事・データを他サイトに利用されたとき―著作権,出典表示,流入減少の立証と初動対応(AI作成)

図面・ノウハウ・生産データを無償で求められたとき―知財取引指針と契約・証拠の実務(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 何を求められているかを分ける1 完成品と関連情報は同じではない2 開示・利用許諾・譲渡を分ける3 発注時の明示と対価に落とす第3 優越的地位の濫用を検討する資料1 取引関係から拒否の難しさを確認する2 無償であることと不当であることを区別する第4 提供前に契約と現場を整える1 NDAを締結しても開示範囲は別に決める2 工場見学と継続データ取得を具体化する3 既存技術と新たな成果を混同しない第5 要請を受けたときの初動と証拠第6 提供済みの図面・ノウハウ等を取り戻し,使用を止める1 契約に基づく請求と不正競争の請求を分ける2 判決から分かる保護の範囲と限界3 差止め・廃棄と緊急の仮処分4 損害賠償と訴訟前に確保する証拠第7 提供情報がAIへ組み込まれた場合の停止・削除と仮処分1 原データ,検索用データ,モデルを別々に特定する2 著作権のモデル廃棄と,契約・営業秘密の救済を分ける3 請求文言と暫定措置は実行できる単位にする4 学習の事実と保全の必要性を別々に疎明する第8 出典・確認範囲と関連記事
第1 この記事の対象と結論

製品を発注したことと,受注者の図面,製造ノウハウ,機械の稼働データまで自由に利用できることは,別の問題である。
令和8年6月24日に公正取引委員会,中小企業庁及び特許庁が公表した知財取引指針は,特許権等だけでなく,成果物の作成過程で生じるノウハウやデータも対象にしている。

無償提供の要請があるだけで,直ちに優越的地位の濫用になるわけではない。
取引上の優越,正当な理由の有無,提供を受け入れざるを得ない事情及び正常な商慣習に照らした不利益を確認する必要がある。
本記事は令和8年10月15日を基準とし,同指針,同年10月1日改正後の取適法運用基準及びフリーランス法の考え方を用いて,発注明示,対価,提供前の交渉及び証拠保全の手順を説明する。

第2 何を求められているかを分ける
1 完成品と関連情報は同じではない

納入対象の完成品,完成品の仕様確認に必要な資料,加工可能な設計データ,製造工程,試作過程の中間成果物,継続取得する生産データを区分する。
「図面一式」「関連資料全部」という表現では,納入物の確認に必要な情報と,第三者への転注や発注者の内製化に使える情報との境界が消えてしまう。

指針16頁~19頁は設計図面,工場見学及び産業データを別々に取り上げ,44頁~45頁は契約に含まれない中間成果物等の無償提供を扱っている。
完成品を納めた後に追加で求められたものも,当初の注文内容,対価及び利用目的と照合する。

2 開示・利用許諾・譲渡を分ける

情報を見せること,特定目的に利用させること,第三者へ提供させること,知的財産権を移転することを,それぞれ独立した合意事項にする。
データについては,一律に「所有権が誰にあるか」だけで処理せず,取得,アクセス,複製,分析,再提供及び派生データの利用権限を具体化する。

指針28頁~34頁は,成果物の取引対価と関連する知的財産権等の対価の明確化,ライセンスと譲渡等の選択を示している。
対価を別欄に記載していないことだけで違法と判断するのではなく,実際の利用範囲が何であり,その価値が価格に反映されているかを確認する。

3 発注時の明示と対価に落とす

令和8年10月1日改正後の取適法運用基準は,知的財産権及び技術上又は営業上の秘密等(ノウハウを含む。)の譲渡・許諾等を中小受託事業者の給付の内容とする場合,その範囲を発注時の明示事項に含め,代金の額を決める際に当該範囲を考慮するものとしている。
給付とは別のライセンス契約等にする場合も,譲渡・許諾等の範囲と対価を明確にする必要がある。

フリーランス法の適用対象となる業務委託では,知的財産権等の譲渡・許諾等を給付の内容に含める場合,3条通知にその範囲を記載し,対価を報酬に加える必要がある。
成果物代金との合計額で示すこと自体を直ちに否定するものではないが,何を移転・利用させるのかを読み取れず,その価値を考慮したかも説明できない発注にはしない。

第3 優越的地位の濫用を検討する資料
1 取引関係から拒否の難しさを確認する

指針4頁~5頁に沿い,売上の取引依存度,相手方の市場における地位,取引先を変更できる可能性,専用設備への投資等の具体的事情を整理する。
大企業と中小企業という規模の差だけで結論を出さず,代替顧客の獲得に要する期間や,取引を失った場合の事業への影響を資料で示す。

提供要請に対し,受注者が対価又は範囲の協議を求めた経過,取引終了・発注減少を示唆された内容,契約ひな形の変更を拒まれた理由を残す。
取引終了を明示的に告げられた場合だけに限定せず,継続取引への影響を懸念して受け入れざるを得なかった事情を確認する。

2 無償であることと不当であることを区別する

(続きを読む...)図面・ノウハウ・生産データを無償で求められたとき―知財取引指針と契約・証拠の実務(AI作成)

パソコンを操作するAIで動画・ゲーム・3Dモデルを請け負う副業の法律問題―著作権,不正競争防止法,素材の利用規約,メールアドレスの取得及びフリーランス法(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 取り上げる四つの副業の型2 パソコンを操作するAIの位置付け第2 動画編集を請け負う場合1 AIが自分で探してきた素材の権利2 完成した動画の権利と納品第3 既存の有名ゲームに似せたゲームを作る場合1 似せてよい部分と似せてはいけない部分2 作品名やキャラクター名をAIに指示する危険3 名称,ロゴ及び商品の外観第4 写真から3Dモデルや内見動画を作る場合1 建物そのものを3Dにすること2 物件写真を素材にすること3 写真から3Dプリント用データを作ること第5 ゲームでメールアドレスを集める場合1 個人情報保護法2 特定電子メール法第6 受注する個人の契約上の立場1 依頼どおりに作っても責任を負う場合2 フリーランス法と取適法3 仲介サイトとAIサービスの利用規約第7 受注前の確認事項第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関等の資料4 事業者の公表資料・利用規約(令和8年10月1日確認)第10 本記事で扱わない事項
第1 この記事の対象
1 取り上げる四つの副業の型

令和8年9月には,パソコンの画面を見ながらアプリを操作する生成AIが公表され,これを使って動画編集,ブラウザゲームの制作,3Dモデルの制作を請け負う副業を勧める動画も公開されている。
本記事は,そのような公開動画の一つで紹介された次の四つの型を素材にして,受注する個人が契約前に確かめるべき法律上の論点を整理するものである。

①撮影素材をAIに渡し,動画編集アプリでカット,テロップ,差し込み素材の追加まで行わせる動画編集
②有名な既存ゲームに似せたゲームをAIに作らせる制作
③不動産サイトの物件写真から家の3Dモデルとバーチャル内見動画を作る制作,写真から3Dプリント用データを作る制作
④短時間で遊べるブラウザゲームを作り,遊んだ人にメールアドレスを登録してもらって商品の販売につなげる集客

本記事は令和8年10月1日時点の公開資料に基づく。
副業の勧誘そのもの(無料相談会から有料サポート契約へ進む流れ)の法律問題は,別記事の「AIで稼げる」副業の勧誘と契約トラブルで扱う。

2 パソコンを操作するAIの位置付け

OpenAIは,令和8年9月3日,GPT‑6 Astraを発表した。
同社の発表(OpenAI「GPT‑6 Astra:新世代の応答性能」)は,Astraがオンラインフォームへの入力,CRMの顧客レコードの更新,Webサイトの作成とその動作確認,ソフトウェアのインストールとテスト等を行えると説明し,作例としてゲーム開発,Blenderモデル,Unreal Engineのウォークスルー等を挙げている。

同じ発表は,安全性の確認によって作業が一時停止されることがあり,ChatGPT又はCodexでは続行の前に操作の確認を求められることがあるとし,Enterprise(法人向けプラン)では管理者が有効にするまで既定で利用できない状態にしていると説明している。
AIが自分でアプリを操作できるようになっても,何を作り,何を素材に使い,誰に渡すかを決めるのは利用者である。
以下で扱う権利侵害や契約上の責任は,AIの性能が上がったことで軽くなるものではない。

第2 動画編集を請け負う場合
1 AIが自分で探してきた素材の権利
(1) 他人の著作物である素材

AIが編集の途中でロゴ,画像,効果音,音楽を自分で探して差し込んだ場合でも,その素材に他人の著作権があれば,複製(著作権法21条)や,完成した動画を配信・投稿すること(同法23条1項の公衆送信)に権利者の許諾が要る。
素材を集めたのがAIであることは,許諾が要らない理由にならない。

(2) 編集アプリが用意している素材

編集アプリが用意している素材にも条件がある。
例えば,CapCutの利用規約(日本語版。令和8年4月15日最終更新)は,テンプレート,ステッカー,効果音等を同社のコンテンツとし,その商用利用の可否を別の素材ライセンス契約に委ねている。
同社の素材ライセンス契約(Materials License Agreement。英語版。令和8年1月22日最終更新)は,非商用に限る素材を一つでも含めた作品は非商用の範囲でしか使えないとし,一般の音楽ライブラリを個人・非商用の利用に限っている。
依頼主の会社の宣伝動画を作る仕事は商用利用に当たるので,AIが差し込んだ素材を一つずつ,出所とライセンスの条件で確かめる必要がある。

2 完成した動画の権利と納品
(1) 編集した動画が著作物になるか

撮影素材の選択,カットの配列,テロップの入れ方に創作性があれば,編集された動画は映画の著作物(著作権法10条1項7号)になり得る。

(続きを読む...)パソコンを操作するAIで動画・ゲーム・3Dモデルを請け負う副業の法律問題―著作権,不正競争防止法,素材の利用規約,メールアドレスの取得及びフリーランス法(AI作成)

医薬用途発明の進歩性と予測できない顕著な効果―最高裁令和元年8月27日判決(AI作成)

目次

第1 結論第2 進歩性と有利な効果の位置づけ1 特許法29条2項2 現在の特許庁審査基準第3 最高裁令和元年8月27日判決1 事件の概要2 原審の判断3 最高裁の判断第4 判断枠組みを実務に落とす1 比較対象を固定する2 非予測性と顕著性を分ける3 基準時を優先日に固定する4 構成容易性と効果を混同しない第5 主張立証のチェックリスト第6 出願・審判・訴訟での使い分け第7 出典と資料の確認状況1 一次資料・行政一次資料2 専門誌目次で所在を確認した評釈3 判例秘書
第1 結論

医薬用途発明の進歩性における「予測できない顕著な効果」は,構造の異なる他の化合物が同程度の効果を示していたという理由だけで否定できない。優先日当時,本願発明の構成が奏すると当業者に予測できた効果の範囲を定め,実際の効果がその範囲を超えるかを検討する必要がある。

最高裁令和元年8月27日第三小法廷判決は,進歩性を最終的に肯定したのではなく,原審の効果判断が不十分であるとして破棄差戻しとした判決である。実務では,構成の容易想到性と効果の顕著性を混同せず,比較対象,基準時及び推認過程を証拠に即して示すことが重要である。

第2 進歩性と有利な効果の位置づけ

1 特許法29条2項

特許法29条2項は,特許出願前に当業者が先行技術に基づいて容易に発明できたときは,特許を受けられないと定める。進歩性判断では,主引用発明と本願発明の相違点を認定し,当業者がその相違点に容易に到達できたかを検討する。

2 現在の特許庁審査基準

特許・実用新案審査基準「第Ⅲ部第2章 新規性・進歩性」は,引用発明と比較した有利な効果が,異質で予測できない場合,又は同質でも際立って優れ,予測できない場合には,進歩性を肯定する方向に働く有力な事情になると説明する。同基準は,最高裁令和元年8月27日判決を参考判決として明示している。

ただし,有利な効果があっても,容易想到性の論理付けが十分である場合に常に進歩性が肯定されるわけではない。効果は進歩性判断の一要素として,発明の構成,先行技術及び技術常識と一体で評価される。

第3 最高裁令和元年8月27日判決

1 事件の概要

最高裁令和元年8月27日第三小法廷判決(平成30年(行ヒ)第69号)は,「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」に関する特許無効審判の審決取消訴訟である。

本件発明は,公知の化合物を,ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン遊離を抑制する用途に適用する医薬用途発明であった。先行する審決取消判決により,この用途への適用自体は容易に想到できたとの判断が確定していた。その後,予測できない顕著な効果の有無が争点となった。

2 原審の判断

原審は,優先日当時,本件化合物とは異なる複数の化合物が70%から90%程度の高いヒスタミン遊離抑制率を示すことなどを考慮し,本件発明の効果は予測できる範囲を超えて顕著とはいえないとした。

3 最高裁の判断

最高裁は,他の各化合物が本件化合物と構造を異にし,引用発明にも引用例2にも関係しないことを重視した。構造の異なる他の化合物に同程度の効果が知られていたことだけから,本件化合物の効果の程度を当業者が予測できたとはいえないとした。

原審は,優先日当時,本件発明の構成が奏するものとして当業者が予測できた効果は何か,実際の効果がその予測範囲を超える顕著なものかという観点から十分に検討していなかった。そのため,最高裁は原判決を破棄し,顕著な効果の有無等を更に審理させるため知的財産高等裁判所へ差し戻した。

第4 判断枠組みを実務に落とす

1 比較対象を固定する

(続きを読む...)医薬用途発明の進歩性と予測できない顕著な効果―最高裁令和元年8月27日判決(AI作成)

自己の著作権を会社へ低額譲渡したときの所得税―長期譲渡所得・時価課税・契約実務(AI作成)

目次

第1 結論と検討の順序
第2 譲渡所得か,事業所得・雑所得か
第3 自己の著作に係る著作権は長期譲渡所得
第4 法人への低額譲渡と時価課税
第5 数字で確認する総所得金額への算入額
第6 契約書・時価・申告資料の確認表
第7 射程と別途検討する課税関係
第8 一次資料と関連記事

第1 結論と検討の順序

著作者である個人が,自分で創作した著作物の著作権を会社へ一回限り譲渡する場合,通常の利用許諾料と区別して,まず著作権という資産の譲渡所得に当たるかを調べる。譲渡所得に当たるなら,自己の著作に係る著作権は,保有期間が5年以内でも長期譲渡所得に区分される。

会社への対価が時価の2分の1未満なら,所得税法59条1項2号・同法施行令169条により,譲渡者の譲渡所得は原則として時価で譲渡したものとして計算する。さらに,長期譲渡所得の金額を求めた後,総所得金額へ算入する段階でその2分の1を用いる。「長期譲渡所得の金額」と「総所得金額に加える額」は異なる。

以下は個人の所得税を中心とする整理であり,個別契約の権利範囲,時価,取得費及び他の譲渡所得の有無で結論・金額が変わる。

所得税法59条の「時価の2分の1」は,法人への低額譲渡について譲渡者の収入金額を時価とみなす課税基準であり,取適法,フリーランス法又は独占禁止法上の対価の安全圏ではない。
時価の2分の1以上の価格でも,利用範囲,交渉経緯及び取引上の地位によっては取引適正上の問題が残り,反対に十分に協議した価格であっても税務上の時価が当然に確定するわけではない。

第2 譲渡所得か,事業所得・雑所得か

国税庁は,著作権を譲渡所得の対象となる資産の一つとして挙げている。ただし,著作権が関係する収入をすべて譲渡所得とすることはできない。顧客に著作物の利用を継続的に許諾して受け取る対価と,著作権そのものを移転して受け取る対価は,まず契約の内容で分ける。

また,所得税法33条2項は,棚卸資産の譲渡や営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生じる所得などを譲渡所得から除く。創作物・権利を商品として反復販売する事業では,一件ごとに「著作権」と名付けても譲渡所得と即断できない。事業の取引形態,譲渡頻度,制作・販売の方法及び会計処理を確認する。

第3 自己の著作に係る著作権は長期譲渡所得

総合課税の譲渡所得は,原則として保有期間5年以内の資産を短期,5年超の資産を長期に分ける。しかし,所得税法33条3項1号は一定の資産を短期の範囲から除き,同法施行令82条1号は「自己の著作に係る著作権」をその対象にする。その結果,同条3項2号により,自己の著作に係る著作権の譲渡所得は保有期間を問わず長期譲渡所得となる。国税庁タックスアンサーNo.3152も同じ区分を示す。

適用前に,譲渡者自身が著作者であること,譲渡対象がその著作に係る著作権であることを確認する。共同制作,職務上の創作,過去の譲渡又は第三者から取得した権利が混在する場合には,契約・制作記録をたどり,権利ごとの帰属を確定する必要がある。

プログラムでは,①そもそも著作物性が認められない場合,②著作物性はあるが職務著作により会社が最初から著作者となる場合,③個人が著作権を保有し会社へ譲渡する場合を分ける。
①②では,個人が自己の著作権を会社へ譲渡したという前提自体を検討し直す必要があり,支払金の名目だけで本記事の長期譲渡所得の扱いへ進まない。
支払の実質に応じた所得区分等は別に確認し,権利の不存在から直ちに非課税とも扱わない。

知財高裁平成18年12月26日判決(平成18年(ネ)第10003号)は,プログラムごとに著作物性を判断した上で,職務著作による権利帰属も検討した判決であり,所得税の所得区分を判断したものではない。
弁護士が対象の版,創作的表現,著作者及び権利移転の経路を整理し,税理士が同じ対象と基準時を使って課税関係を検討することが有用である。

(続きを読む...)自己の著作権を会社へ低額譲渡したときの所得税―長期譲渡所得・時価課税・契約実務(AI作成)

職務発明の二重譲渡が発覚したときの権利回復――出願中の確認請求、登録後の特許法74条移転請求と無効審決(AI作成)

目次第1 まず確認すべき結論第2 発明完成から出願までの権利帰属第3 出願前の二重譲渡と出願の先後第4 出願中に争う場合の請求と手続第5 登録後に争う場合の74条移転請求第6 無効審決の確定と移転請求の競合第7 実務で保存・照合する資料第8 出典と裁判例の射程
第1 まず確認すべき結論

従業者の職務発明が二重譲渡された疑いがあるときは、発明完成時の権利者、各譲渡の成立時期、出願の先後、審査・登録の段階を先に確定する。出願中に特許を受ける権利を争う場面と、設定登録後に特許権の移転を請求する場面では、請求の対象と根拠が異なる。

特許法34条1項は出願前の承継について出願を第三者への対抗要件とする。一方、特許法74条1項は、冒認又は共同出願違反により既に特許がされた場合に、真の権利者が特許権者に移転を請求する制度である。先に譲渡を受けたという事実だけで74条の請求が当然に認められるわけではない。誰が誰に対して権利取得を主張できるかを、34条の段階で検討する必要がある。

以下は一般的な手順である。実際の事件では、発明完成日、適用される職務発明規程の版、出願番号、特許原簿、包袋及び各契約書の原本を確認する。

第2 発明完成から出願までの権利帰属

発明をした者は特許を受けることができ、その権利は移転できる(特許法29条1項、33条1項)。職務発明では、契約・勤務規則等があらかじめ使用者に特許を受ける権利を取得させると定めた場合、権利は発生時から使用者に帰属する(35条3項)。

特許庁の職務発明制度に関するQ&A第9問は、会社が取得する旨の通知が発明者に到達した時に権利を取得する規程を、発明時からの原始帰属の定めに当たらない例とする。したがって、規程が発生時帰属型か通知時承継型かで、従業者が第三者へ譲渡できた時点が変わる。発明の完成後に規程を改めたときも、完成時に適用される版を特定する。

使用者の法定通常実施権(35条1項)と特許を受ける権利の帰属、従業者への相当の利益(35条4項以下)は別の問題である。使用者の通常実施権だけから、その使用者を出願人又は特許権者とは扱えない。規程の読み方は職務発明を従業員が第三者へ譲渡した場合でも整理した。

第3 出願前の二重譲渡と出願の先後

同じ特許を受ける権利が二人に譲渡された場合、特許出願前の承継は、承継人が出願しなければ第三者に対抗できない(34条1項)。譲渡契約の締結日が早いだけでは、後の譲受人への対抗が完了しない。両譲受人の出願日時を、願書の提出記録に基づいて比較する。

もっとも、先に出願した譲受人が背信的悪意者である場合まで、出願の先後だけで決着するとは限らない。知財高裁平成22年2月24日判決(平成21年(ネ)第10017号)は、先の譲受人の存在や秘密情報をめぐる具体的事情を踏まえ、後の譲受人を背信的悪意者と評価した。単に先行譲渡を知っていたという抽象的な主張では足りず、秘密保持関係、取得・利用の経緯、出願への働き掛けなどを証拠で示す必要がある。

この平成22年判決は、発明完成が現行35条3項の原始帰属規定の施行前で、相手方の出願が審査中だった事案である。現行法の原始帰属の成否や、74条に基づく登録後の移転請求を直接判示したものとして使わない。

第4 出願中に争う場合の請求と手続

出願中は、争いの対象が原則として特許を受ける権利である。前記平成22年判決が認容したのも、この権利を有することの確認請求であった。請求者は発明者・承継・対抗関係を示し、相手方の出願の処理状況を追う必要がある。

出願後に特許を受ける権利を承継した場合は、34条4項の届出によって効力が生じる。特許庁は出願人名義変更の案内で、出願中の名義変更と登録後の権利移転を別の手続として示している。出願前の譲渡を34条1項により対抗する局面と、出願後の承継の効力を34条4項により生じさせる局面を取り違えない。

確認請求が認められても、それだけで特許庁の願書上の出願人名義や特許原簿が自動的に変わると断定できない。判決主文、出願の係属状況、必要な届出・補正・審査手続を個別に確認する。相手方の出願が特許査定・設定登録へ進んだときは、次節の救済を検討する。

これに対し,有効にされた権利譲渡が後に契約解除された場合は,当初から権利を持たない者による出願や二重譲渡と区別して検討する。
まず,解除の対象と効力発生時,解除時点で出願中か登録後か,第三者への譲渡や実施許諾の時期と内容を時系列にする。

民法545条1項は解除に伴う原状回復義務を定め,ただし書は第三者の権利を害することができないとする。
解除があったというだけで直ちに冒認出願や特許法74条1項の移転請求の要件を満たすとせず,同項の法定要件と,契約及び原状回復に基づく返還・移転手続をそれぞれ検討する。
これは本稿の既掲判決が解除事案を判断したという説明ではなく,類似事案を処理する際の確認手順である。
民法545条:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

第5 登録後に争う場合の74条移転請求

特許が、共同出願違反又は特許を受ける権利のない者による出願についてされた場合、特許を受ける権利を有する者は、特許権者に特許権の移転を請求できる(特許法74条1項。共同出願について38条、冒認について49条7号・123条1項6号も参照)。

74条1項の請求に基づいて移転の登録があると、その特許権は初めから登録を受けた者に帰属していたものとみなされる(同条2項)。ただし、提訴又は勝訴だけで移転登録が済むわけではない。判決の確定、登録申請と特許原簿の確認を分けて管理する。第三者の実施については、善意の一定の権利者等に通常実施権を認める79条の2の要件も確認する。

二重譲渡の場合、請求者が先の譲受人であっても、34条1項の対抗関係で相手方に優先できなければ、その相手方の登録を直ちに冒認と評価できない。発明の同一性、共有持分、登録名義及び相手方の取得経緯を特許原簿・包袋・契約書と照合する。

第6 無効審決の確定と移転請求の競合

特許を無効にすることと、その特許権を真の権利者へ移すことは、救済の結果が異なる。知財高裁令和6年1月22日判決では、第一審が特許法74条1項による移転登録請求を一部認容したが、控訴中に同じ特許の無効審決が確定した。控訴審は、特許法125条により特許権は初めから存在しなかったものとみなされ、移転を請求すべき特許権が失われたとして、その請求を棄却した。

この令和6年判決は職務発明の二重譲渡の判断例ではない。移転請求と無効審判が並行するとき、無効審決の確定が移転の対象そのものに影響することを示す資料として参照する。判決は、予告登録の有無も特許権の消長に影響しないと述べた。紛争開始時には、無効審判の請求・審決・取消訴訟の期限と移転訴訟の進行を一つの表で管理する。

(続きを読む...)職務発明の二重譲渡が発覚したときの権利回復――出願中の確認請求、登録後の特許法74条移転請求と無効審決(AI作成)

原作小説を映像化・商品化するときの許諾先と契約条項――原作者・制作会社・画像制作者・出演者の権利確認(AI作成)

目次第1 最初に「何を」「どこで」「どう使うか」を固定する第2 権利者を一枚の表にする第3 原作と映像の二層を確認する第4 「映像化の許諾」と「商品化の許諾」を契約で分ける第5 制作会社・画像制作者・出演者の確認第6 弁護士が受任時に集める資料と判断順序第7 出典と確認の限界

原作小説をドラマにする許諾を得ても、その場面画像を商品パッケージやTシャツに使う許諾まで得たとは限らない。
原作、脚本、映像、宣伝写真、人物画及び出演者の肖像について、利用する素材と行為ごとに権利の根拠を確認する必要がある。
本記事は一般的な契約確認の手順を示すものであり、個々の作品の権利帰属や許諾範囲は、契約書・制作記録・使用画像を見なければ確定できない。

第1 最初に「何を」「どこで」「どう使うか」を固定する

商品化の相談では、「キャラクターを使いたい」だけでは許諾先を特定できない。
小説の文章、脚本の台詞、ドラマの一場面を切り出した静止画、宣伝用の写真、新たに描く人物画、俳優の氏名・容貌、作品のロゴを、それぞれ別の素材として列挙する。
印刷して販売するのか、広告動画に組み込むのか、SNSスタンプとして配信するのかも決める。

次に、完成見本と元になった画像を並べ、出典、制作日、制作担当者、契約書、許諾メール、素材番号を記録する。
抽象的な人物設定と、特定の文章・画面・写真に現れた創作的表現を混同しないことが出発点となる。
この区別の詳細は小説の登場人物をTシャツ・SNSスタンプに使えるかで検討した。

第2 権利者を一枚の表にする
素材・行為最初に確かめる相手と資料見落としやすい点原作小説の映画化・脚色原作の現在の著作権者、出版契約、映画化契約出版社が当然に映画化権や商品化権を持つとはいえない。相続・譲渡・管理委託も確認する。脚本・台詞・独自の美術脚本家、美術制作者、制作会社との契約原作以外の新たな創作的表現が重なる。制作費の支払だけで権利移転を断定しない。完成したドラマ・映画の画面映画製作者、原作権利者、制作・配給契約著作権法16条・29条に基づく映画の権利帰属と、原作者の28条の権利を分ける。宣伝用の写真・描き起こした絵写真家・イラストレーターの契約、使用元の画面映像作品の利用許諾だけで、別に作られた写真・絵の利用を許諾できるとは限らない。俳優の氏名・容貌出演者・所属先との出演契約、広告・商品化同意著作権の処理とは別に、肖像・パブリシティと契約上の利用範囲を確認する。作品名・ロゴ・商品表示商標登録、ロゴ制作者との契約、表示の使用実態著作権の許諾だけでは商標等の問題は解消しない。

映画の著作者について、著作権法16条は制作、監督、演出、撮影、美術等を担当し、映画の全体的形成に創作的に寄与した者を定める。
同法29条1項の要件を満たす場合、映画の著作権は映画製作者に帰属する。
ただし、原作小説や脚本など映画の素材になった著作物の権利まで、映画製作者に一括して移るという規定ではない。
職務著作、譲渡、相続、制作委託その他の具体的事情によっても権利者は変わるため、肩書だけで決めない。

第3 原作と映像の二層を確認する

著作権法2条1項11号は、翻訳、脚色、映画化その他の翻案によって創作した著作物を二次的著作物とする。
原作小説の創作的表現を取り込んだドラマは二次的著作物となり得る。
同法28条により、原著作物の著作者は、二次的著作物の利用について、二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を有する。

最高裁平成13年10月25日判決(キャンディ・キャンディ事件)は、原作を基に制作された漫画の利用について原作者の28条上の権利を認めた。
知財高裁令和7年9月24日判決(令和6年(ネ)第10007号)は、「木枯し紋次郎」のテレビ作品に現れた具体的な人物画像と商品図柄を対比して、権利侵害を認めた。
同判決は、抽象的な人物の名前や設定だけで結論を出したものではない。また、原作と無関係な新しい場面だけを利用した場合の28条の射程を一般的に決めたものでもない。

したがって、映像化後の商品化では、原作者側と映像側の双方について権利処理を検討する。
ただし、具体的な商品の図柄がどの作品のどの表現を利用したか、原作と映像の関係、依拠性、許諾済みの範囲を確かめずに「必ず双方の許諾が必要」と断定することも避ける。

第4 「映像化の許諾」と「商品化の許諾」を契約で分ける

文化庁の誰でもできる著作権契約マニュアルは、利用許諾では契約に定めた利用方法・条件の範囲だけ利用でき、第三者への再許諾にはその旨の定めが必要であると説明する。
原作をドラマ化する契約の文言から、第三者が静止画を複製し、商品に印刷・販売し、販売サイトで画像を配信する権限まで導けるかを別々に読む。

許諾を得る場合は、対象となる作品・話数・場面・画像を別紙で特定し、少なくとも次を明記する。

(続きを読む...)原作小説を映像化・商品化するときの許諾先と契約条項――原作者・制作会社・画像制作者・出演者の権利確認(AI作成)

令和8年度司法試験知的財産法第2問の参考答案と予想される評価項目―著作権法の教育利用・二次的著作物をめぐる32項目と5段階の重み付け(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論(法務省とは関係のない独自の予想)第2 本記事独自の評価項目の示し方と重み付けの基準1 評価項目の性質2 5段階の重み第3 本問の概要第4 本記事が独自に予想した評価項目と重み(法務省の資料ではない)1 共通の前提と設問1・行為①2 設問1・行為②3 設問2・行為③4 設問2・行為④と全体5 重みの分布第5 参考答案1 答案の前提2 答案3 結論が分かれる箇所の補足4 公開答案との比較第6 関連記事第7 出典及び確認状態1 公式問題・法令2 裁判例3 公開答案と資料の限界
第1 この記事の対象と結論(法務省とは関係のない独自の予想)

本記事は、法務省掲載の令和8年司法試験問題のうち、選択科目・知的財産法第2問だけを対象とする。
問題冊子の22頁にある設問1・設問2について、著作権法上の主張、反論、判断及び差止めの範囲を検討する。

以下の評価項目、重み及び参考答案は、問題文、条文、裁判例並びに公開答案との比較を踏まえた本記事独自の予想である。
法務省の出題の趣旨、採点実感又は実際の配点を示すものではない。
令和8年9月30日の作成時点で、これらの公式講評は未公表として扱い、参照していない。
本記事の答案は、令和8年の出題の趣旨及び採点実感を踏まえたものではないため、「模範解答」ではなく「参考答案」と呼ぶ。

結論の中心は、①数行の翻訳・投影では教育機関の例外を当然には使えないが、適切な文法解説のための引用は成立し得ること、②数段落を配る到達度確認テストには著作権法36条の適用が難しいこと、③ドラマの新規場面にも原作者の28条上の権利が及ぶという有力な解釈があること、④人物設定・名称とドラマの具体的な映像表現を区別することにある。
③④は反対説と事実評価によって結論が動くため、理由を示した上で判断する。

第2 本記事独自の評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の性質

32項目は、採点基準の推定値ではなく、答案で検討すべきと予想される判断事項である。
一項目につき一つの判定対象を置き、問題冊子22頁の事実、条文又は裁判例との対応を示した。
設問の配点は第2問全体で50点であるが、下の重みを合計して50点に換算してはならない。

2 5段階の重み

重み5はその設問の判断を大きく分ける核心,4は結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ,3は通常押さえる法的処理・事情の評価,2は論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意,1は補充的な引用・記述範囲の確認を表す。

第3 本問の概要

小説家Xの短編小説Pには、孤独な高校教師Aが登場し、Aは長髪、丸眼鏡、長身、常に袴という姿で記述される。
設問1では、退職教師Y1らが、公民館の一室を借りた日本語教室で、小説の数行を英訳して原文・訳文を投影し、数段落を抜き出した文法クイズを最後に全員へ配布する。
教室は登録すれば誰でも参加でき、毎回5~10人が集まり、各人から会場費200円を集める。

設問2では、Xの許諾を受けたテレビ局B社がPをドラマQにし、原作に登場しない女性の表情を大写しにした場面でQを終える。
B社の許諾を受けたY2社は、その場面のスクリーンショットをTシャツに印刷・販売し、ドラマで俳優が演じるAの外見をイラスト化したスタンプ画像Rをオンライン販売する。
Xは、①から④の各行為の差止めを求めたい。

第4 本記事が独自に予想した評価項目と重み(法務省の資料ではない)

(続きを読む...)令和8年度司法試験知的財産法第2問の参考答案と予想される評価項目―著作権法の教育利用・二次的著作物をめぐる32項目と5段階の重み付け(AI作成)

令和8年度司法試験知的財産法第1問の参考答案と予想される評価項目―出題の趣旨・採点実感の公表前に問題文・判例から予想した37項目と5段階の重み付け(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論(法務省とは関係のない独自の予想)第2 本記事独自の評価項目の示し方と重み付けの基準第3 本問の概要第4 本記事が独自に予想した評価項目と重み(法務省の資料ではない)1 共通の前提2 設問1――職務発明と特許権移転請求3 設問2――文言侵害、均等、サポート要件、各請求第5 参考答案1 答案の前提2 答案3 答案の読み方4 公開答案・再現答案との照合第6 関連記事第7 出典及び確認状態
第1 この記事の対象と結論(法務省とは関係のない独自の予想)

この記事は、令和8年司法試験論文式試験問題・知的財産法第1問(問題冊子20~21頁)のうち、特許法の第1問だけを対象とする。令和8年9月30日時点で、同年度の出題の趣旨と採点実感は公表されていない。以下の評価項目、重み、解説、答案は、問題文、法令、裁判例と公開再現答案を照合して独自に作成した予想であり、法務省の採点基準・配点を示すものではない。本記事の答案は、令和8年の出題の趣旨及び採点実感を踏まえたものではないため、「模範解答」ではなく「参考答案」と呼ぶ。

設問1の結論は、X2社が特許法74条1項に基づく特許権の移転登録を請求することは考えられるが、提示された事実だけでは認められない、というものである。職務発明規程は通知時の承継を定め、発明時の原始帰属を定めていないため、ZからX2社への先行譲渡は有効である。しかし、同じ権利についてX1社が先に出願しており、X2社は先行譲渡を対抗できない。X1社を背信的悪意者とする具体的事実もない。

設問2の結論は、Y製品の製造販売の停止、廃棄、損害賠償はいずれも認められない、というものである。分子量599は「600以上」に文言上含まれない。均等論では境界の非本質性を肯定する余地があるが、任意の整数値600で下限を明示した外形から、第5要件の意識的除外等を認めるのが有力である。さらに、明細書の実験結果だけで請求項の下限付近を支えられるかというサポート要件上の問題がある。ただし、第5要件とサポート要件の個別の結論は、出題の趣旨が未公表の段階では本記事の推論である。

第2 本記事独自の評価項目の示し方と重み付けの基準

評価項目の重みは、令和8年度司法試験・主要7科目の参考答案と予想評価項目で用いた5段階の判断基準に沿って、本問の具体的事実から独立に判定した。
重み5はその設問の判断を大きく分ける核心,4は結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ,3は通常押さえる法的処理・事情の評価,2は論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意,1は補充的な引用・記述範囲の確認を表す。
数字は配点ではなく、本記事が予想する相対的重要度である。
主要7科目の一覧は選択科目を含まないため、その件数や各段階の割合に本問を機械的に合わせていない。
同じ結論に至っても、反対説を正確に示して事実に即して評価した答案は、十分に評価され得る。

設問1と設問2は独立している。設問1でX2社の移転請求を否定したことを、設問2でX1社の権利帰属を省略する理由と取り違えない。また、設問1では無効審判請求、設問2では損害額の検討が不要とされている。

第3 本問の概要時点・事実意味ZがX1社の指示による研究で発明を完成職務発明。発生時の特許を受ける権利の帰属が問題となる。X1社の規程は「承継すると決定し、通知した時点で承継」特許法35条3項の発生時帰属と、通知による事後承継を区別する。通知前にZがX2社へ譲渡し、その後X1社が承継通知同一の特許を受ける権利の二重譲渡・対抗関係が生じる。X1社が先に出願し、X2社の同一請求項の後願が拒絶特許法34条1項と39条1項の役割を区別する。請求項は樹脂A~Dの少なくとも1種と吸収剤の分子量600以上Y製品のA・Cは樹脂要件を満たすが、599が数値要件を満たすか問題となる。明細書には558の失敗と656の成功だけが記載され、600は任意均等論の本質的部分・意識的除外、サポート要件の検討材料となる。登録は令和5年8月25日、公報発行は11月10日、Y社は10月23日以降に製造販売差止め、廃棄、損害賠償及び過失推定の時期を区別する。
第4 本記事が独自に予想した評価項目と重み(法務省の資料ではない)
1 共通の前提№評価項目重み問題文の手掛かり・根拠1二つの設問を独立の法律関係として扱う220頁の独立指示2発明、譲渡、通知、二つの出願、登録、実施、公報発行の順序を取り違えない220~21頁の時系列3設問1の無効審判請求と設問2の損害額を論じない1各設問の末尾4請求の根拠、相手方の反論、再反論、各請求の結論を対応させる2各設問の文言
2 設問1――職務発明と特許権移転請求№評価項目重み問題文の手掛かり・根拠5X1社の業務範囲とZの現在の職務から職務発明と評価する320頁・特許法35条1項6発明完成時にZに特許を受ける権利が生じることを出発点とする420頁・29条1項柱書7X1社の法定通常実施権を、権利そのものの帰属と区別する235条1項835条3項による発生時からの使用者等帰属の要件を示す420頁の職務発明規程9本件の「通知した時点で承継」は事後承継であり、発明完成時に遡る原始帰属ではないと論じる520頁の規程の文言・特許庁資料10通知前にZが有した権利のX2社への譲渡を有効と評価する320頁の譲渡時期・33条1項11一方的な規程策定・事前関与の欠如と、相当の利益の合理性を、権利帰属と分けて論じる320頁の「事前関与はなかった」・35条4~7項12X2社への先行譲渡とX1社への後行承継を二重譲渡と把握する420頁の譲渡・通知の順序13出願前の承継は承継人の特許出願がなければ第三者に対抗できないと示す534条1項14X1社の出願が先である事実を対抗関係に当てはめる320頁の二つの出願15後願が拒絶された39条1項の結果を、34条1項の対抗要件と混同しない220頁の後願拒絶16先願者が背信的悪意者なら出願の先後だけで保護されない可能性を検討する4知財高判平成22年2月24日17X1社が先行譲渡を知っていた事実や不当取得の事実がないことを評価する320頁の事実全体18特許が123条1項6号(特許を受ける権利を有しない者の出願)に該当するときに、特許を受ける権利を有する者がする74条1項の移転登録請求と、登録後の2項の効果を示す420頁・74条1・2項、123条1項6号19X2社の請求を否定しつつ、背信性が立証された場合は結論が変わり得ることを示す320~21頁・34条1項、74条
3 設問2――文言侵害、均等、サポート要件、各請求№評価項目重み問題文の手掛かり・根拠20設定登録日から特許権が生じ、Y社の製造販売が業としての実施に当たると示す320頁・66条1項、68条、2条3項1号21停止を100条1項、廃棄を同条2項、賠償を民法709条に位置付ける420~21頁の請求内容22樹脂A及びCが「少なくとも1種」を満たすと読む320頁の請求項とY製品23分子量599は600以上に含まれず、文言侵害を否定する420頁・70条1・2項24作用効果の同一性や近接値を理由に、600という下限を丸めたり「程度」と読んだりしない2知財高判令和7年3月4日25ボールスプライン事件最判の均等5要件を正確に示す4最判平成10年2月24日26600の任意性、558の失敗・656の成功、599の同効を第1要件の本質的部分に当てはめる520頁・知財高判令和7年3月4日27599への置換後も本件発明と同じ作用効果を生む事実を第2要件に当てはめる320頁のX1社の分析28対象製品の製造等の時点において599への置換が容易かを第3要件として検討する3均等論第3要件29599の構成が出願時の公知技術等に当たるとの事実は示されていないと指摘する2均等論第4要件30任意に整数の下限600を選んだ外形と、599を含む記載が可能だった点を第5要件に当てはめる420頁・知財高判令和7年3月4日31「思い付いた別構成を単に書かなかった」だけでは除外といえない平成29年最判と本件を区別する4最判平成29年3月24日32出願時の明細書と技術常識から請求項の範囲で課題解決を認識できるかを検討する5558・656のみの実験・36条6項1号33サポート要件違反の判断を無効審判の結論と混同せず、104条の3第1項の抗弁と結び付ける436条6項1号、123条1項4号、104条の334下限を599にする訂正は権利範囲拡張、上げればY製品を捕捉できないと整理する2126条6項・訂正の効果35登録後・公報発行前の実施に103条の過失推定が及ぶか、公報発行前であることで覆るかを検討する3登録8月25日、実施10月23日、公報11月10日36文言・均等・無効の抗弁を踏まえ、差止め、廃棄、賠償のそれぞれについて結論を示す320~21頁の三つの請求37設問の指示どおり損害額の算定には進まない121頁の末尾

重み5が4項目,4が11項目,3が12項目,2が8項目,1が2項目である。
重みの合計は118であり,公式の配点又は予測得点への換算値ではない。
これは本記事の整理用の数字であり、50点満点の配点に換算したものではない。
重み5は4項目(番号9・13・26・32)であり,各項目の適用条件は評価表による。
条文の提示と個別事実への当てはめ、補足的な誤読防止はそれぞれの役割に応じて4以下に区別した。

第5 参考答案
1 答案の前提

以下は設問1・2を合わせて1問分、1行最大30文字・全92行に収めた答案である。
見出し・空白を含む本文は2,650字で、選択科目の上限(4頁、1頁23行、1行30字)内に収まる。
改行は答案入力時の行数を想定したものである。
法令は令和8年の試験時点、裁判例はそれまでに言い渡されたものを前提とする。

2 答案第1 設問1
1 X2社は、特許法74条1項に基づき、X1社に本件特許権の
移転登録を求める。同項は、特許が権利を有しない者の出願に対し
てされたとき(冒認。123条1項6号)、特許を受ける権利を有
する者に移転請求を認める。移転登録がされれば、権利は設定登録
日に遡り請求者に帰属したものとみなされる(同条2項)。X2社
がX1社に優先する権利者かが問題となる。
2 本件発明は、樹脂の研究開発を業とするX1社の業務範囲に属
し、社長の指示によるZの現在の職務に属する職務発明である。発

(続きを読む...)令和8年度司法試験知的財産法第1問の参考答案と予想される評価項目―出題の趣旨・採点実感の公表前に問題文・判例から予想した37項目と5段階の重み付け(AI作成)

小説の登場人物をTシャツ・SNSスタンプに使えるか――キャラクター,翻案権及び二次的著作物の新規部分(AI作成)

目次

第1 結論
第2 抽象的なキャラクターと具体的表現を分ける
第3 小説から映画・漫画になった場合
第4 キャンディ・キャンディ事件と28条
第5 「二次的著作物の新規部分」なら自由か
第6 Tシャツ・SNSスタンプ・場面画像の検討
第7 著作権以外の権利
第8 商品化前のチェックリスト
第9 出典・確認範囲

第1 結論

小説の登場人物について、性格、役割、口癖、人物関係等を抽象化した「キャラクター」自体は、直ちに独立の著作物になるわけではない。もっとも、小説の具体的な文章表現、漫画の絵、映画の映像・台詞等をTシャツやSNSスタンプに再製すれば、複製権、翻案権、公衆送信権等の侵害になり得る。

小説を原著作物として漫画・映画が二次的著作物に当たる場合、原著作者は著作権法28条により、二次的著作物の利用について二次的著作物の著作者と同一の種類の権利を有する。二次的著作物で新たに付加された外見や場面だから原著作者の権利が当然に及ばない、と単純に切り分けることはできない。

第2 抽象的なキャラクターと具体的表現を分ける

最高裁平成9年7月17日判決(ポパイ事件)は、漫画の登場人物のいわゆるキャラクターは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、それ自体は思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないとした。

したがって、「無口な渡世人」「眼帯をした海賊」「魔法学校に通う少年」といった抽象的設定だけを利用することと、特定作品の絵、文章、衣装、構図、台詞及び組合せを再現することは区別する。名前だけの利用も著作権侵害にならない場合が多いが、ロゴとしての図案、商標、不正競争防止法上の商品等表示その他の権利は別に検討する。

著作権侵害では、アイデア又は抽象的特徴の共通ではなく、既存作品の創作的表現に依拠し、その表現上の本質的特徴を直接感得できるかが中心となる。

第3 小説から映画・漫画になった場合

著作権法2条1項11号は、二次的著作物を、著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化その他翻案することにより創作した著作物と定義する。小説を漫画化・映画化した作品は、原作の創作的表現を維持しつつ新たな表現を加えた二次的著作物になり得る。

映画監督、脚本家、美術担当者、漫画家等は、新たに創作した表現について権利を取得し得る。他方、二次的著作物の創作・利用には原著作者の権利処理も必要である。著作権法28条は、二次的著作物の原著作物の著作者が、その二次的著作物の利用について、二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有すると定める。

したがって、映画の場面画像を商品化する場合、映画製作者側の権利だけでなく、原作小説の著作者の28条上の権利も問題になり得る。

第4 キャンディ・キャンディ事件と28条

最高裁平成13年10月25日判決(キャンディ・キャンディ事件)は、連載漫画が原作原稿を原著作物とする二次的著作物であることを前提に、原作者が著作権法28条により、その漫画の利用について漫画家と同一の種類の権利を有するとした。

この判決の重要点は、漫画の絵が漫画家の創作した新たな表現であっても、二次的著作物である漫画の利用について、原作者の28条上の権利を否定しなかったことにある。原作文章に登場人物の顔の細部が書かれていないというだけで、漫画の商品化を原作者の権利から切り離すことはできない。

(続きを読む...)小説の登場人物をTシャツ・SNSスタンプに使えるか――キャラクター,翻案権及び二次的著作物の新規部分(AI作成)

公民館の自主講座で小説を翻訳・投影・配布できるか――著作権法35条・36条・38条・47条の6(AI作成)

目次

第1 結論
第2 公民館と「公民館を借りる自主グループ」は別である
第3 35条が使える場合
第4 36条の試験問題としての利用
第5 38条の非営利・無料の上映等
第6 翻訳と47条の6
第7 投影・配布・オンライン送信を分ける
第8 実施前のチェックリスト
第9 出典・確認範囲

第1 結論

市立公民館が組織的・継続的に行う非営利の自主講座であれば、著作権法35条の「学校その他の教育機関」に当たり、授業の過程で必要な限度の複製・公衆送信等が認められる余地がある。これに対し、市民の読書会やサークルが公民館の一室を借りて活動するだけなら、会場が公民館であることから直ちに35条の教育機関になるわけではない。

小説の翻訳、スクリーン投影、紙の配布、クイズへの利用及びオンライン送信は、それぞれ27条、22条の2、21条、36条及び23条の問題である。非営利・無料だから一括して自由になるのではない。35条、36条、38条及び47条の6の要件を、利用行為ごとに分ける必要がある。

第2 公民館と「公民館を借りる自主グループ」は別である

文化庁の「改正著作権法第35条運用指針」は、学校その他の教育機関を、組織的・継続的に教育活動を営む非営利の機関とし、公民館、博物館、図書館、生涯学習センター等を対象例に挙げる。他方、営利を目的として設置された塾、予備校、文化センター、企業内研修施設等は対象外とする。

重要なのは、誰が講座を設置・運営し、教育課程、講師、受講者及び会場を管理しているかである。市又は公民館が主催し、継続的な教育活動として位置付ける講座と、私的団体が公民館を単に会場として借りる集会は区別する。

会費又は200円程度の会場費を集めているかだけでは決まらない。営利性は一事情であるが、非営利であることだけで35条の「教育機関」になるわけではない。

第3 35条が使える場合

著作権法35条1項は、営利を目的として設置されたものを除く学校その他の教育機関で、教育を担任する者及び授業を受ける者が、授業の過程で必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、又は公衆送信等することを認める。ただし、著作物の種類・用途、複製部数、利用態様等に照らし、著作権者の利益を不当に害する場合は除かれる。

公民館の正規の講座が教育機関の授業に当たるとしても、小説1冊の全文を毎回配布する、市販教材の購入に代えて全員分を複製する、受講者以外も閲覧できるウェブサイトへ掲載するなど、権利者の市場と競合する利用は許されにくい。

必要性と分量は、講座の目的、対象箇所、受講者数、利用期間、アクセス制限及び市販物の入手可能性から判断する。出所を明示することは重要であるが、出所を示せば35条の限度を超えてもよいわけではない。

第4 36条の試験問題としての利用

著作権法36条1項は、公表された著作物を、入学試験その他の学識技能に関する試験又は検定の問題として、目的上必要な限度で複製・公衆送信することを認める。ただし、著作権者の利益を不当に害する場合は除かれ、営利目的の利用者には通常の使用料相当額の補償金支払義務がある。

講座の理解度を確認する簡単なクイズが、同条の「試験又は検定」に当たるとは限らない。裁判例は、試験の公正な実施のため、どの著作物を問題に利用するかを事前に秘密にする必要があり、そのため事前許諾が困難であることを重視する。

(続きを読む...)公民館の自主講座で小説を翻訳・投影・配布できるか――著作権法35条・36条・38条・47条の6(AI作成)

数値限定発明の境界値を下回る製品は特許侵害か――「700以上」と699.91848判決,均等論及びサポート要件(AI作成)

目次

第1 結論
第2 「700以上」と699.91848が争われた判決
第3 文言侵害は数値の丸めでは決まらない
第4 均等論の第1要件・第2要件・第5要件
第5 サポート要件との関係
第6 登録後・公報発行前の実施と損害賠償
第7 数値限定発明を検討する手順
第8 出典・確認範囲

第1 結論

特許請求の範囲が「分子量700以上」と定めているとき、測定値が699.91848の製品は、通常の数学的な丸め方では700と表示できるとしても、それだけで文言上「700以上」に含まれるわけではない。知的財産高等裁判所令和7年3月4日判決(令和6年(ネ)第10026号)は、700未満の数値を文言侵害に含めず、均等侵害についても第5要件を満たさないとして特許権侵害を否定した。

もっとも、境界値をわずかに下回れば常に非侵害になるわけでもない。①請求項の数値の意味、②明細書の測定方法・有効数字・実施例、③作用効果、④出願経過、⑤均等論の5要件、⑥サポート要件等の無効理由を、別々に検討する必要がある。

第2 「700以上」と699.91848が争われた判決

知財高裁令和7年3月4日判決は、紫外線吸収剤(UVA)の分子量を「700以上」とする構成要件について、被告製品のUVAの分子量が699.91848であった事案を扱った。

判決は、構成要件の「分子量700以上」は、その文言どおり700以上であることを求め、699.91848は700未満であるから文言充足を否定した。侵害判断で問題になるのは、商品のラベル表示又は便宜上の丸め値ではなく、請求項を明細書及び図面も参酌して解釈した結果と、採用すべき測定方法による対象製品の値である。

同判決は均等論の第1要件を満たすと判断したが、第5要件を満たさないとして均等侵害を否定した。特に第5要件では、出願人が請求項に小数点以下を付けず「700以上」と記載したことなどから、700未満の構成を特許請求の範囲から客観的・外形的に除外したと評価した。

第3 文言侵害は数値の丸めでは決まらない

特許法70条1項は、特許発明の技術的範囲を特許請求の範囲の記載に基づいて定めるとし、同条2項は明細書及び図面を考慮して用語の意義を解釈すると定める。したがって、数値限定発明では少なくとも次を確認する。

①請求項が整数、小数又は範囲でどのように記載されているか。
②明細書が測定装置、試料調製、測定条件、誤差及び有効数字を定めているか。
③実施例・比較例が境界値をどのように扱っているか。
④出願経過で数値範囲を補正し、又は境界外の構成を区別したか。
⑤当業者が請求項の数値をどの精度で理解するか。

測定誤差があることと、請求項の境界値を丸めてよいことは同じではない。測定方法が複数あり結果が変わるときは、まずクレーム解釈として採用すべき測定方法を確定し、その方法による立証値が境界内かを判断する。

第4 均等論の第1要件・第2要件・第5要件

最高裁平成10年2月24日判決(ボールスプライン事件)は、文言上の相違があっても、①相違部分が本質的部分でないこと、②置換しても目的を達成し同一の作用効果を奏すること、③置換が対象製品の製造時等に容易想到であること、④対象製品等が出願時の公知技術と同一又は容易推考でないこと、⑤意識的除外等の特段の事情がないことという要件の下で均等侵害を認め得るとした。

同判決が原判決を破棄して差し戻したのは、原審が置換可能性及び置換容易性を中心に判断し、対象製品が出願時の公知技術と同一又は当業者が容易に推考できたものかという第4要件を十分に検討しないまま結論を出したためである。均等論は五要件の一部を満たせば足りるものではなく、各要件に対応する主張、証拠、反証及び判断を一つずつ確認する必要がある。

699.91848判決は、請求項の分子量700以上という限定について、第1要件を満たすと判断した。他方、第5要件を満たさないため、その他の均等要件について判断するまでもなく均等侵害を否定した。境界値に近いことや作用効果の同一性だけから、第2要件を裁判所が認定したものと読むことはできない。

(続きを読む...)数値限定発明の境界値を下回る製品は特許侵害か――「700以上」と699.91848判決,均等論及びサポート要件(AI作成)

職務発明を従業員が第三者へ譲渡した場合――原始帰属,予約承継,二重譲渡及び特許権移転登録請求(AI作成)

目次

第1 結論
第2 職務発明でも原則は従業者に権利が発生する
第3 35条3項の原始帰属と通知時承継の違い
第4 出願前の二重譲渡と34条1項
第5 背信的悪意者と先願者の扱い
第6 冒認出願・登録後の移転請求
第7 会社・従業者・譲受人が保存すべき証拠
第8 出典・確認範囲

第1 結論

従業者が完成した職務発明について、会社の職務発明規程が「会社が取得すると決定して通知した時に承継する」と定める場合、その規程は、特許法35条3項の「発明完成時から会社に原始帰属する」定めとは異なる。発明完成時には従業者に特許を受ける権利が発生し、会社の決定・通知によって会社へ移転する承継型の規程と解される。

従業者が通知前又は通知後に同じ権利を第三者へ譲渡し、会社と第三者の双方が権利を主張する場合は、①発明完成時の規程、②会社への承継時期、③第三者への譲渡時期、④誰が先に出願したか、⑤第三者が背信的悪意者か、⑥既に特許登録がされたかを時系列で分ける。出願前の特許を受ける権利の承継は、原則として承継人が出願しなければ第三者に対抗できない(特許法34条1項)。

第2 職務発明でも原則は従業者に権利が発生する

特許法29条1項は発明をした者が特許を受けることができるとし、33条1項は特許を受ける権利を移転できると定める。職務発明であっても、35条3項の原始帰属を定める契約・勤務規則等がない限り、特許を受ける権利は発明者である従業者に発生する。

使用者は、職務発明について特許を受ける権利を従業者から承継しなかった場合でも、その従業者又は承継人が取得した特許権について通常実施権を有する(35条1項)。しかし、通常実施権があることと、会社が特許権者であることは別である。

また、発明者であることと権利者であることも別である。従業者が発明者でありながら会社が特許を受ける権利を保有することも、第三者が適法に権利を承継して出願人になることもある。

第3 35条3項の原始帰属と通知時承継の違い

特許法35条3項は、職務発明について、契約、勤務規則その他の定めにより「あらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたとき」は、特許を受ける権利が発生した時から使用者等に帰属すると定める。典型的には、「従業者がした職務発明について、特許を受ける権利は、その発生した時から会社に帰属する」という規程である。

これに対し、特許庁の職務発明制度に関するQ&Aは、「会社が職務発明に係る権利を取得する旨を発明者に通知したときは、会社は当該通知の到達時に取得する」という規程を、35条3項の原始帰属の定めに当たらない例として明示する。この規程では、会社は通知の到達によって従業者から権利を承継する。

両者の違いは、従業者が第三者へ譲渡した場合に重大である。原始帰属型なら、発明完成時から会社が権利者であり、従業者は原則として第三者へ有効に譲渡できない。承継型なら、会社への承継前には従業者が権利者であり、会社と第三者との優劣が34条1項等の問題になる。

職務発明の発明者性と相当の利益については、職務発明の発明者は誰か――上司の指示,実験担当者,共同発明者及び相当の利益(AI作成)で整理している。

第4 出願前の二重譲渡と34条1項

特許法34条1項は、特許出願前における特許を受ける権利の承継は、承継人が特許出願をしなければ第三者に対抗できないと定める。登記ではなく、出願が対抗要件になる。

承継型の職務発明規程の下で、従業者が同じ特許を受ける権利を会社と第三者に二重に譲渡した場合、両者の契約日又は通知日だけで優劣が決まるわけではない。原則として、承継人として先に出願した者が、他方に対して権利取得を主張できる。

(続きを読む...)職務発明を従業員が第三者へ譲渡した場合――原始帰属,予約承継,二重譲渡及び特許権移転登録請求(AI作成)

過去問・入試問題の解説を販売・配信してよいか―塾のテスト問題のライブ解説事件,国語テスト事件及び著作権法36条の射程(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 試験問題の著作権1 問題文と問題の組み立て2 題材の文章の権利は別に残る3 著作物にならない問題もある第3 問題文を載せずに解説する場合1 塾のテスト問題のライブ解説事件(東京地裁令和元年5月15日判決)2 控訴審(知財高裁令和元年11月25日判決)3 生徒が持ってきた問題を使うとき4 他の解説を参考にして自分の解説を書くとき5 塾名・テスト名の表示と一般不法行為(東京地裁平成30年5月11日判決・知財高裁平成30年12月6日判決)6 自由競争の範囲を逸脱するとされた例(将棋の棋譜の配信事件)第4 問題文を載せる場合1 著作権法36条は過去問集には使えない2 引用として載せることも難しい3 塾・予備校での配布(35条・30条)4 問題を複製した教材の裁判例5 過去問を再現しただけの部分は保護されにくい6 英文や古文の全訳を載せる場合7 公民館の自主講座(35条・38条・47条の6)第5 試験の実施者の利用条件1 大学入試センター(大学入学共通テスト)2 京都大学の例3 法務省(司法試験・予備試験)4 資格試験・検定の実施団体第6 場面別の確認表第7 関連記事第8 出典1 法令2 裁判例(裁判所HP掲載)3 裁判例(判例秘書で確認)4 試験の実施者の資料5 国会会議録
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

この記事は,大学入試・中学入試・資格試験の過去問について,解答や解説を作って販売し,動画で配信し,又は塾の教材に使うことが著作権侵害になるかを扱う。
法令は令和8年9月28日にe-Gov法令検索(法令API)で著作権法の現行条文を確認し,裁判例は裁判所HPの裁判例検索と判例秘書で判決本文を確認した。
大学・独立行政法人・法務省の利用条件は,同日に各機関のウェブサイトで確認した内容である。

弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」には,過去問の解答販売,問題文の転載,塾での利用などについての相談と回答が100件以上蓄積されている。
もっとも,過去問や試験問題を扱った裁判例を示した回答は見当たらなかった。
この記事では,実際に争われた裁判例を軸に,場面ごとの結論を整理する。

2 結論
(1) 問題文を載せず,掲載ページにリンクして解答・解説する場合

試験実施者その他の権利者が適法に過去問を公開しているウェブページに通常の方法でリンクを設定し,ブログには問題文,設問,選択肢,図表等を表示せず,自分の言葉で作成した解答又は解説だけを掲載する場合は,原則として,問題の複製又は翻案には当たらない。
通常のリンクは,リンク先の所在を示すものであり,リンク先の問題文を自分のブログ上に複製するものではない。
中学受験塾のテスト問題をライブ配信で解説した他の塾に対する請求は,東京地裁と知財高裁のいずれでも棄却された(第3)。
塾名やテスト名を「○○マンスリーテスト解説」のように表示することも,解説の対象を示すにとどまる限り,不正競争防止法違反にも一般不法行為にもならないとされた(控訴審も一般不法行為を否定)。
ただし,解答の中で問題文を実質的に再現した場合や,他人の解答・解説の創作的表現を利用した場合は,別途,複製権又は翻案権の侵害が問題となり得る。また,他人が費用を投下して得た情報をそのまま逐次提供してその営業と競合するような態様では,著作物でなくても不法行為が認められた例がある(第3の6)。

(2) 問題文を載せる場合

問題文そのものを載せる場合は,原則として権利者の許諾が要る。
著作権法36条(試験問題としての複製等)は,これから実施する試験の出題のための規定であり,過去問集,市販の問題集,教材への掲載には使えない(第4の1)。
引用(32条1項)も,問題文を問題として出題する形では主従関係を欠くので通りにくい(第4の2)。
塾・予備校は営利目的で設置されているので,学校の授業のための複製を認める35条も使えない(第4の3)。
英文や古文の全訳を公開・販売することも,題材の文章の翻訳に当たる(第4の6)。

(3) 利用条件の確認

大学入試センター,京都大学,法務省,資格試験の実施団体などは,試験問題の利用条件をウェブサイトで公表している。
問題文を使うときは,まずその利用条件を確かめる(第5)。

第2 試験問題の著作権
1 問題文と問題の組み立て

著作権法2条1項1号は,著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定めている。
文章で出題される問題は,作成者の個性が表れていれば言語の著作物になる。

これとは別に,著作権法12条1項は「編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。」と定めている。

(続きを読む...)過去問・入試問題の解説を販売・配信してよいか―塾のテスト問題のライブ解説事件,国語テスト事件及び著作権法36条の射程(AI作成)

北朝鮮映画事件―ベルヌ条約,未承認国及び著作権法6条3号(AI作成)

目次

第1 結論と本記事の射程
第2 北朝鮮映画事件の事案と結論

1 放送の内容
2 原告の請求
3 最高裁の結論

第3 著作権法6条の三つの保護経路

1 三つの保護経路
2 本判決で否定された範囲

第4 ベルヌ条約と未承認国

1 WIPOの締約国情報
2 未承認国との条約関係
3 日本と北朝鮮への当てはめ

第5 一般不法行為による保護

1 最高裁の判断枠組み
2 本件への当てはめと判決の射程
3 後続裁判例

(続きを読む...)北朝鮮映画事件―ベルヌ条約,未承認国及び著作権法6条3号(AI作成)

他人の文章や講演を要約してブログ・SNSに載せると著作権侵害か―翻案,要約引用,公開の演説及び時事の事件の報道(AI作成)

目次第1 この記事の対象と確認の方法1 対象と結論の要旨2 確認の方法と資料の性質第2 要約は何の権利の問題になるか1 著作物と翻案2 ブログ・SNSへの掲載と公衆送信権第3 利用者の反論1―そもそも類似していない1 表現上の本質的な特徴を直接感得できるか2 約1万字を1000字程度にした要約3 アニメや映画の内容を文章で説明した記事が翻案とされた刑事事件第4 利用者の反論2―引用(32条1項)1 条文と判断の枠組み2 要約による引用3 出所の明示(48条)第5 利用者の反論3―公開の演説(40条1項)1 40条1項の要件2 裁判手続の陳述と未陳述の書面第6 利用者の反論4―時事の事件の報道(41条)1 41条の要件と要約2 報道に当たるかを判断した裁判例3 設例への当てはめ第7 削除請求と損害賠償の根拠1 削除請求(差止請求)2 損害賠償第8 動画を歪めて表示するソフトと著作者人格権1 問題となる権利2 ときめきメモリアル事件と請求の相手方3 名誉回復等の措置(115条)第9 実務のチェックリスト1 要約を載せる前の確認2 削除請求を受けたとき3 権利者として削除を求めるとき第10 関連記事第11 出典1 法令2 裁判例3 法務省の資料4 その他
第1 この記事の対象と確認の方法
1 対象と結論の要旨
(1) 取り上げる場面

他人の書籍,論文,新聞記事,講演,セミナー又は動画の内容を要約して,自分のブログ,SNS,社内報又は研修資料に載せることは多い。
本記事は,このような要約の掲載が著作権侵害になるかを,権利者の主張と利用者の反論に分けて整理し,削除請求と損害賠償の根拠を示す。
あわせて,動画を歪めて表示するソフトの提供と著作者人格権の問題を短く扱う。

(2) 結論の要旨

①原文の表現上の本質的な特徴を直接感得できるほど詳しい要約は,翻案に当たり得る。
②そのような要約をブログ等に載せることは,二次的著作物の公衆送信であり,原著作者が著作権法28条を介して有する公衆送信権(23条1項)の問題となる。
③要約が短く,事実やアイデアだけが原文と共通するにとどまるときは,翻案に当たらない。
④引用(32条1項)に伴う利用として47条の6第1項2号が挙げるのは翻訳だけであり,要約による引用が許されるかは解釈に委ねられているが,原文の趣旨に忠実な要約による引用を認めた下級審裁判例(東京地裁平成10年10月30日判決)がある。
⑤公開の政治上の演説(40条1項)と時事の事件の報道(41条)は,要件が限られており,一般の講演や記事の紹介に広く使える規定ではない。
⑥権利者は,差止請求(112条)として削除を求め,故意又は過失があれば損害賠償(民法709条,著作権法114条)を求めることができる。
⑦アニメや映画の内容を文章で詳しく説明したウェブサイトの記事が翻案に当たり引用にも当たらないとして,運営会社の代表者に有罪判決が言い渡された下級審裁判例(東京地裁令和8年4月16日判決)もある。

2 確認の方法と資料の性質
(1) 確認日と確認した資料

令和8年9月26日に,e-Gov法令検索の法令APIで著作権法の現行条文と施行前の改正を確認し,裁判所HPの裁判例検索で裁判例の書誌と判決全文を確認した。
裁判所HPに掲載されていない裁判例は,判例データベース(判例秘書)で判決本文を確認したものに限り,事件番号と判例秘書の判例番号を付けて取り上げた。
また,法務省HPに掲載されている令和7年司法試験論文式試験の選択科目(知的財産法)第2問の問題,出題の趣旨及び採点実感を読んだ。
以下で「採点実感」「出題の趣旨」の頁を示すときは,いずれも各PDFに印刷された頁である。

(2) 司法試験の資料の位置付け

出題の趣旨と採点実感は,司法試験考査委員が答案に何を期待したかを示す資料であり,判例でも行政解釈でもない。
本記事では,論点の並べ方と見落としやすい点を知るために用い,結論の根拠には条文と裁判例を用いる。

令和7年司法試験の設例では,政治家を目指すAが約1万字の文章Pを早朝の駅前広場で披露し,その様子を撮影した映像を編集した動画Qを自己のウェブサイトに掲載した。
個人ブロガーBは,動画Qが注目を集めていることを紹介する投稿に,文章Pを1000字程度に要約した文章P’と,これを批判する3000字程度の文章を載せた。
プログラマーCは,インターネット上の動画ファイルを視聴するとその映像が変容して表示される再生ソフトRを公開しており,自己のウェブサイトで再生ソフトRを用いて動画Qを見るよう書き込み,多くの人がこれを用いて動画Qを視聴した(問題21頁)。

(3) 施行前の改正

e-Gov法令検索の改正履歴によれば,著作権法には,確認日の時点で施行されていない改正が三つ登録されている。
令和9年4月1日に施行予定の学校教育法等の一部を改正する法律(令和8年法律第37号)による改正後の本文では,47条の6第1項3号から33条の3第1項が除かれ,48条1項1号と20条2項1号の引用する条項も変わる。

(続きを読む...)他人の文章や講演を要約してブログ・SNSに載せると著作権侵害か―翻案,要約引用,公開の演説及び時事の事件の報道(AI作成)

特許無効を争う三つの手続―無効審判・審決取消訴訟・侵害訴訟の無効の抗弁(AI作成)

目次

第1 三つの手続の違い第2 特許無効審判第3 審決取消訴訟第4 侵害訴訟における無効の抗弁第5 訂正請求・訂正審判との関係第6 並行手続と中止第7 無効理由と証拠の作り方第8 手続選択のチェックリスト第9 調査範囲と限界第10 関連記事第11 出典・参考資料
第1 三つの手続の違い

特許の有効性を争う手続として,特許庁の特許無効審判,その審決に対する知的財産高等裁判所の審決取消訴訟,特許権侵害訴訟における特許法104条の3の無効の抗弁がある。機関,目的,結果の効力及び提出できる主張の範囲が異なるため,「どこでも同じ無効理由を主張すればよい」と考えてはならない。

本記事は,令和8年9月25日現在の法令,特許庁・裁判所の公表資料及び裁判例本文に基づく。

手続判断機関主な目的結果
特許無効審判特許庁審判部特許を対世的に無効とする審決を求める。無効審決が確定すれば原則として特許権は初めから存在しなかったものとみなされる。
審決取消訴訟知的財産高等裁判所特許庁の審決の違法を審査し,取り消す。取消判決確定後,特許庁で再度審理する。裁判所が自ら無効審決をする手続ではない。
無効の抗弁侵害訴訟の裁判所当該侵害訴訟で特許権の行使を制限する。請求棄却等につながるが,判決だけで特許登録が対世的に消滅するわけではない。

第2 特許無効審判

特許法123条は,特許が新規性・進歩性等の特許要件に違反してされた場合,記載要件を満たさない場合,冒認その他の法定事由がある場合に,無効審判を請求できることを定める。請求人適格は条文上の「利害関係人」等の要件を無効理由ごとに確認する。

請求書では,無効を求める請求項,無効理由,事実及び証拠を具体的に特定する。進歩性を争う場合,主引用発明,副引用発明,周知技術,技術常識,組合せの動機付け,阻害要因及び予測困難な効果を区別する。複数の引用例を並べるだけでは,どの構成をどの証拠から導くのかが不明になる。

無効審決が確定すると,特許法125条により,原則として特許権は初めから存在しなかったものとみなされる。確定審決後の再請求制限は同法167条の当事者・参加人,同一の事実及び同一の証拠という要件を確認する。

第3 審決取消訴訟

特許無効審判の審決に対する訴えは知的財産高等裁判所の専属管轄であり,審決の謄本送達日から30日以内という出訴期間を確認する。裁判所は審決の違法性を審理し,取消判決が確定したときは,行政事件訴訟法33条及び特許法181条に沿って特許庁が再度審理する。

再度の審判や審決取消訴訟では,取消判決の拘束力が及ぶ判断を先に特定する。
最高裁平成4年4月28日判決は,取消判決の主文を導くために必要な事実認定及び法律判断に拘束力が及び,これに抵触する認定判断は許されないとした。
同じ引用例について,新たな証拠を提出したというだけで,拘束力の及ぶ判断をやり直すことはできない。

新しい主張や証拠を検討するときは,その主張を認めると従前の必要な認定判断に抵触するかを具体的に確認する。
この問題は,審決取消訴訟で審理できる範囲の問題や,確定審決後の特許法167条による再請求の制限とは区別する。

最高裁昭和51年3月10日大法廷判決は,審判で審理判断されなかった公知事実との対比における無効原因を,審決取消訴訟で新たに主張することを許さないとした。もっとも,審判で審理された無効原因について,その判断の当否を明らかにする補充的な主張・証拠まで一律に排除されるわけではない。新しい証拠を提出できるかは,証拠が新しいかだけでなく,別個の無効原因を持ち込むことになるかで判断する。

特許権が共有に係る場合は,審判の当事者と訴訟の当事者を分けて考える。共有者が共有に係る権利について審判を請求するときは,共有者の全員が共同して請求しなければならず(特許法132条3項),共有に係る特許権について特許権者に対し審判を請求するときは,共有者の全員を被請求人としなければならない(同条2項)。

他方,取消訴訟については,最高裁平成14年3月25日判決(平成13年(行ヒ)第154号,民集56巻3号574頁)が,特許異議の申立てに基づく特許取消決定の取消訴訟を特許権の共有者の一人が単独で提起できるとし,最高裁平成14年2月22日判決(平成13年(行ヒ)第142号,民集56巻2号348頁)も,商標登録の無効審決の取消訴訟について,商標権の共有者の一人による単独の提起を認めた。これに対し,最高裁平成7年3月7日判決(平成6年(行ツ)第83号,民集49巻3号944頁)は,実用新案登録を受ける権利の共有者が拒絶査定不服審判の請求不成立審決に対して提起する取消訴訟を,固有必要的共同訴訟とした。

特許無効審決の取消訴訟は,権利が成立した後の共有に関する点で前二者に近く,共有者の一人が単独で提起できると考えられる。もっとも,出訴期間は30日と短いため,共有者間で審決送達後の対応を事前に取り決め,共同で提起するか単独で提起するかを早期に決めておくのが安全である。

審決取消訴訟は,所定の場合に知財高裁が行政事件の第一審として取り扱う。地裁判決に対する民事控訴事件とは別である。東京高裁の特別の支部という位置付け,専属管轄,移送の例外及び大合議の対象は,知的財産高等裁判所の組織・取扱事件・管轄を参照されたい。

第4 侵害訴訟における無効の抗弁

特許法104条の3は,特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとき,特許権者は相手方に対して権利を行使できないと定める。被告は無効審判を請求していなくても抗弁を提出できる。

この判断は当該訴訟における権利行使を制限するものであり,特許登録を対世的に消滅させる無効審決とは異なる。差止めを将来にわたり安定して排除したい,第三者との関係でも特許を消滅させたい,又は侵害訴訟が終わっても無効判断を得る必要がある場合は,無効審判を併用する意味がある。

裁判所は,当事者の審理を不当に遅延させる目的でされた無効の抗弁を却下できる。侵害論の進行に合わせ,主引用例,対比表,技術説明及び証拠を早期に整える。

第5 訂正請求・訂正審判との関係

(続きを読む...)特許無効を争う三つの手続―無効審判・審決取消訴訟・侵害訴訟の無効の抗弁(AI作成)

著作権全部譲渡後の改変と著作者人格権―著作権法20条・59条・61条(AI作成)

目次

第1 結論の要旨第2 著作権と著作者人格権を分ける第3 著作権法61条の譲渡範囲第4 同一性保持権と改変第5 不行使合意,第三者及び著作者の死後1 不行使合意と利用主体2 著作者が死亡した後の人格的利益第6 契約作成と証拠保存1 譲渡範囲と証拠を整える2 著作権法上の効力と取引条件の適正を分ける第7 差止め・損害賠償・原状回復第8 確認済みと未確認の境界第9 関連記事第10 出典・参考資料
第1 結論の要旨

著作権を全部譲渡しても,著作者人格権は譲渡できない。したがって,譲受人が作品を改変できるかは,財産権の帰属だけでなく,著作権法20条,59条及び61条,著作者の同意・不行使合意,譲渡時に予定された利用の範囲から判断する。

本記事は令和8年10月15日現在の法令,法務省公式資料及び公正取引委員会の知財取引指針・同年10月1日改正資料を確認して作成している。行政資料が示す解釈方向及び問題となり得る事例は,裁判例又は個別の違反認定と同じ引用強度ではない。

第2 著作権と著作者人格権を分ける

著作権は,複製権,上映権,公衆送信権,翻案権等の財産的な権利であり,譲渡できる。他方,公表権,氏名表示権と同一性保持権は著作者人格権であり,著作権法59条により著作者の一身に専属し,譲渡できない。

確認対象主な条文契約での確認財産権の帰属61条譲渡対象,地域,期間,対価,再譲渡・再許諾改変の可否20条改変の目的,種類,範囲,媒体,事前確認著作者人格権59条不行使合意の対象行為,期間,利用主体,承継

建物や絵画の原作品の所有権,写真データの保有と,著作権の帰属も区別する。美術の著作物等の原作品の所有者等が原作品を公に展示できる45条1項は,撮影・広告利用・商品化の著作権を一括して取得させる規定ではない。譲渡契約では,物の売買,著作権の譲渡及び利用許諾の対象と対価を分けて確認する。

第3 著作権法61条の譲渡範囲

著作権法61条2項は,著作権譲渡契約で27条の翻訳権・翻案権等又は28条の二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を特掲しないとき,譲渡人に留保されたと推定する。「著作権をすべて譲渡する」とだけ書くと,後の翻案・二次利用で紛争になる。

官公庁の制作委託でも,この推定を意識した書き方がみられる。
参議院ホームページのデザインリニューアル業務の仕様書(令和8年4月)は,成果物に関する権利を著作権法21条から28条までに定める全ての権利を含むものとして参議院へ移転すると定め,受注者が著作者人格権を行使しないことも定めている。
同契約の内容は,参議院ホームページの令和8年デザインリニューアル契約―入札,業務範囲,著作権条項と収入印紙で説明している。

第4 同一性保持権と改変

同法20条1項は,著作者に,その著作物と題号の同一性を保持し,その意に反して変更,切除その他の改変を受けない権利を与える。2項は学校教育の目的上やむを得ない改変,建築物の増築・改築・修繕・模様替えによる改変,プログラムの利用上必要な改変,その他著作物の性質並びに利用の目的及び態様に照らしやむを得ない改変を例外とする。

建築物については20条2項2号の増築・改築・修繕・模様替えによる改変を,4号の「やむを得ない」改変と区別して検討する。2号の適用に4号の要件をそのまま加えたり,修繕という呼び方だけで建物以外の作品の改変まで許されると判断したりしない。また,自己の建物を改変することと,他人の建築の著作物を新築・部分改築で複製することは別であり,後者は複製権と46条2号を検討する。

著作権の全部譲渡があっても,それだけであらゆる改変が許されるわけではない。
令和3年司法試験の公式資料は,全部譲渡を認める61条の趣旨と,著作者人格権の一身専属性を定める59条の趣旨を踏まえ,許容される改変の範囲と具体的な法律構成を示すことを求めている。
譲渡時に通常想定される改変について20条1項の「意に反して」に当たらないとする説明は,その一例であり,唯一の構成ではない。

実務では,契約時の説明,利用目的,対価,予定された媒体・利用者,改変の種類と程度,交渉記録から,同意の対象と限界を具体的に確認する。
公式資料が例示する名誉声望への影響は,許容される改変の限界を考える事情であり,名誉声望を害することが同一性保持権侵害の一般的な成立要件という意味ではない。
試験の公式資料は裁判例とは区別して参照する。

第5 不行使合意,第三者及び著作者の死後1 不行使合意と利用主体

著作者人格権は譲渡できないため,実務では不行使合意が用いられる。しかし,不行使合意は基本的に契約当事者間の債権関係である。子会社,委託先,配信プラットフォーム,販売先又は二次取得者が当然に援用できるとは限らない。どの者が,どの利用で,どの種類の改変を行うかを明示する。

著作者が譲受人に対して不行使を約束しても,改変を行う第三者に対して当然に同じ債務を負うとはいえない。
第三者が契約上の効力を主張する根拠と,著作者がその第三者による具体的な改変自体に同意したかどうかを分けて確認する。
委託先への再許諾だけで人格権の処理まで済んだとせず,対象者・改変内容を示した同意や当事者間の合意を記録する。

2 著作者が死亡した後の人格的利益

著作権法60条は,著作者が死亡した後も,著作者が存していれば著作者人格権の侵害となるべき行為を原則として禁止する。ただし,行為の性質・程度,社会的事情の変動その他により著作者の意を害しないと認められる場合は例外となる。

同法116条は,60条違反の行為又はそのおそれがある場合について,一定の遺族等に差止め及び名誉回復等の請求を認める。著作者の死亡によって改変上のリスクが当然に消滅するわけではないため,譲受人は,生前の利用目的・意思・契約記録,改変の性質・程度及び遺言による請求権者の指定を確認する必要がある。

第6 契約作成と証拠保存1 譲渡範囲と証拠を整える著作物と著作者を特定する。原始的な著作権者,職務著作,共同著作の有無を確認する。譲渡する支分権と27条・28条の特掲を書く。予定する改変,媒体,期間,地域,後続版を例示する。不行使合意の対象行為と利用主体を限定する。ラフ,納品版,改変版,指示,確認,対価と利用目的を保存する。

契約と税務資料では,制作作業,利用許諾,著作権譲渡の各対価を対応させる。
文化庁の契約書作成資料も,これらの対価を区別して確認するよう説明している。
実態のない名目上の分割で処理せず,契約書,発注書,納品物,請求書の説明を一致させる。

源泉徴収は,支払先が個人か法人か,支払者に徴収義務があるか,支払の具体的な内容が所得税法204条等の対象かを別に判断する。
「著作権を全部譲渡した」という契約条項だけから,源泉徴収の要否を決めない。
具体的な確認方法は,業務委託・外注費の源泉徴収は必要か(AI作成)を参照されたい。

消費税の課税関係は,源泉所得税相当額が差し引かれて入金された場合でも,源泉徴収前の金額により判定する(消費税法基本通達10-1-13)。
預金への入金額をそのまま対価の全額として処理せず,契約上の対価,源泉徴収額,区分された消費税額等を照合する。
請求書で消費税額等が明確に区分された場合の源泉徴収対象額の取扱いと,消費税の課税関係の判定は区別する。

2 著作権法上の効力と取引条件の適正を分ける

著作権法61条・59条は,何を譲渡できるか,著作者人格権が譲渡できないこと及び譲渡範囲の推定を定める。
これとは別に,取引上優越する発注者が著作権の無償譲渡又は広範な著作者人格権不行使を一方的に求める行為は,独占禁止法等の観点から問題となり得る。

(続きを読む...)著作権全部譲渡後の改変と著作者人格権―著作権法20条・59条・61条(AI作成)

修理・再生品は特許権侵害になるか―消尽,新たな生産,交換部品及び間接侵害(AI作成)

目次

第1 修理と再生品の結論第2 特許権の消尽第3 修理か「新たな生産」か1 最高裁の判断枠組み2 加工・部品交換で確認する事項第4 インクタンク事件第5 交換部品の供給と間接侵害第6 直接侵害・間接侵害・消尽を混同しない第7 事業者が保存すべき資料第8 契約・表示・競争法との関係第9 実務チェックリスト第10 関連記事第11 出典・参考資料
第1 修理と再生品の結論

適法に購入した特許製品を使用し,通常の修理をして再販売する行為には,原則として消尽した特許権の効力は及ばない。他方,加工又は部品交換によって元の製品と同一性を欠く特許製品を新たに製造したと評価される場合,特許権者は権利を行使できる。

「修理」「再生」「リファービッシュ」「リサイクル」という表示だけでは結論は出ない。対象製品,特許請求項,加工前の状態,交換部品の機能・価値・耐用期間,加工の程度,取引実情及び再販売方法を対応させる必要がある。

第2 特許権の消尽

特許法68条は,特許権者が業として特許発明を実施する権利を専有すると定める。他方,特許権者又は許諾を受けた実施権者が日本国内で特許製品を譲渡した場合,その製品について特許権は目的を達成して消尽し,特許権者は当該製品の使用・譲渡等を原則として差し止められないというのが最高裁判例である。

消尽は,製品の流通のたびに許諾を必要とすると取引の安全を害する一方,特許権者には最初の譲渡時に対価確保の機会があることを基礎とする。ただし,消尽するのは譲渡された当該製品についてであり,新たな特許製品の生産まで自由にするものではない。

特許権者が国外で特許製品を譲渡した場合は,国外の対応特許権と日本の特許権が別個の権利であるため,国内での譲渡と同列には論じられない。最高裁判所第三小法廷平成9年7月1日判決(平成7年(オ)第1988号,民集51巻6号2299頁。BBS事件)は,日本の特許権者又はこれと同視し得る者(子会社・関連会社等)が国外で特許製品を譲渡した場合,譲受人に対しては日本を販売先・使用地域から除外する旨を合意したときを除き,転得者に対してはその合意をした上で特許製品にこれを明確に表示したときを除き,日本で特許権を行使できないとした。製品に明確に表示されていれば転得者も制限を認識できることを理由としているので,製品自体に表示がなく,販売者のウェブサイトに掲載しただけの場合は,この要件を満たさないと考えられる。また,最高裁平成19年11月8日判決は,国外で譲渡された特許製品に加工や部材の交換がされ,新たに製造されたと認められるときは,日本で特許権を行使でき,その判断は国内で譲渡された場合と同じ基準によるとしている。

国内でライセンシーから仕入れた製品では,最初の譲渡が許諾範囲内かも確認する。特許法78条2項は,通常実施権者による実施を法律の規定又は設定行為で定めた範囲内で認める。数量上限を超えた販売が判明した場合,数量条項が実施の許諾範囲を画するのか,報告・実施料計算等の契約債務を定めるのかを,契約全体と許諾経緯から検討する。数量違反をすべて特許侵害と扱ったり,契約違反にすぎないと一律に処理したりしない。

実施料の不払いと,許諾が解除・終了したことも区別する。BBS事件の国内譲渡に関する理由は,特許権者の対価確保の機会を基礎としており,実施料が実際に未回収であるだけで,適法に譲渡された製品の消尽が当然に失われるわけではない。同判決は数量超過の譲渡を直接判断した先例ではないため,仕入先がライセンシーであることだけで超過品も適法と決めない。製造番号・ロット,出荷日,数量報告,変更合意と終了通知を対応させる。

超過分の識別,出荷判断,追加許諾と過去の請求清算及び精算金の消費税は,特許ライセンスの数量超過が判明したとき―許諾範囲,消尽,追加実施料及び和解金の消費税(AI作成)で整理している。

第3 修理か「新たな生産」か
1 最高裁の判断枠組み

最高裁平成19年11月8日判決(インクタンク事件)は,加工・部材交換により元の特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたと認められるときは,特許権者が権利を行使できるとした。

その判断では,①製品の属性,②特許発明の内容,③加工・部材交換の態様,④取引の実情等を総合考慮する。単一の部品を交換したか,製品価格の何割かという一つの数字だけで決める枠組みではない。

2 加工・部品交換で確認する事項
考慮領域確認事項製品の属性機能,構造,材質,用途,耐用期間及び通常の使用態様発明の内容請求項の構成,作用効果,加工後に再形成される技術的特徴加工の態様加工前の消耗・破損状態,加工の内容・程度,品質管理交換部品耐用期間,技術的機能,経済的価値及び製品全体との関係取引実情修理市場,純正・再生品の表示,価格,保証,回収・再流通の実態
第4 インクタンク事件

同判決の事案では,使用済みインクタンクを回収し,内部を洗浄し,インクを再充填するための加工をして再販売していた。最高裁は,製品の状態,発明の内容及び加工の態様等から,新たな製造に当たるとして特許権行使を認めた。

この結論を「消耗品への再充填は常に侵害」と一般化してはならない。最高裁は製品属性から取引実情までの総合考慮を示しており,別製品では,通常交換される消耗部品か,製品本体の寿命が残るか,加工が発明の技術的特徴を再形成するか等によって評価が変わり得る。

第5 交換部品の供給と間接侵害

修理業者が完成品を新たに生産したかという直接侵害の問題と,部品供給者が間接侵害責任を負うかは別である。直接侵害が成立せず,特許法101条1号の専用品型にも当たらないときでも,同条2号を順に検討する。
もっとも,1号・2号はいずれも,物の発明について「その物の生産に用いる物」を対象とする。同じ特許について部品供給者の間接侵害を問うには,その部品が,特許製品の新たな製造(生産)と評価される加工又は交換に用いられることが前提となる。
また,直接の実施行為が「業として」の要件を欠く等の理由で直接侵害とならない場合に間接侵害が成立するかは見解が分かれるから,直接侵害を否定した理由を特定して検討する。

1号は,物の発明について,その物の生産にのみ用いる物の業としての生産・譲渡等を対象とする。「のみ」については,単に想定可能な他用途ではなく,経済的,商業的又は実用的な非侵害用途があるかを問う。

2号は,広く一般に流通している物を除き,その物の生産に用いる物であって発明による課題の解決に不可欠なものを,その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら,業として生産・譲渡等する行為を対象とする。警告書到達や訴え提起等により主観的要件が充足した時点の前後を分け,充足前の販売数量を間接侵害の損害に自動的に入れない。

また,部品の一部が適法な修理や非侵害製品にも使用されるなら,その数量は,直接に損害が発生しないこと又は特許法102条2項の推定覆滅の事由として実証する。客先別,用途別,警告前後別の販売記録が重要である。

第6 直接侵害・間接侵害・消尽を混同しない
問題対象行為主な確認直接侵害特許製品の生産・使用・譲渡等請求項の全構成要件,業としての行為,地域消尽適法に譲渡された個別製品の使用・再譲渡等適法な初回譲渡と,新たな生産の有無間接侵害専用品・不可欠品の生産・譲渡等特許法101条の各号,汎用品,知情,用途

修理行為が新たな生産に当たらない場合でも,部品供給に別の特許が及ぶことはあり得る。逆に,部品が101条に該当しないことだけで,完成した再生品の直接侵害が否定されるわけではない。

(続きを読む...)修理・再生品は特許権侵害になるか―消尽,新たな生産,交換部品及び間接侵害(AI作成)

訴訟資料に著作物を利用する場合の著作権―複製・mints提出・引用・事件外共有を分ける(AI作成)

目次
第1 結論―一つの資料を五つの行為に分ける
第2 著作物・権利者・入手経路を確認する
第3 裁判手続のための複製
第4 mints提出と公衆送信等
第5 引用として利用する場合
第6 鑑定書・意見書と画像
第7 事件外共有・広報・研修への転用
第8 提出前チェックリスト
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論―一つの資料を五つの行為に分ける

訴状、準備書面、証拠説明書、鑑定書又は意見書に他人の論文、写真、図面、ウェブ画面等を使う場合、「裁判だから自由に使える」と一括してはいけない。少なくとも、①資料を取得する、②紙又はPDFへ複製する、③裁判所・相手方へ提出又は送信する、④法廷で表示する、⑤事件外で依頼者・関係者・研修参加者等へ共有する、という行為を分ける。

著作権法41条の2は裁判手続に必要な利用を認める重要な規定であるが、必要な限度と著作権者の利益を不当に害しないことが条件である。違法に入手した資料の取得を適法化したり、事件外の公表・二次利用を当然に許したりする規定ではない。

第2 著作物・権利者・入手経路を確認する
確認事項具体例
著作物性論文本文、写真、図表、設計図、地図、ソフト画面の創作的表現
保護されない部分単なる事実、法令、裁判所の判決そのもの、ありふれた短文
権利者著作者、勤務先、出版社、写真提供者、共同著作者
利用行為複製、公衆送信、上映・口述、譲渡、翻案
入手経路正規購入、契約DB、依頼者提供、公開ウェブ、第三者からの流出
契約条件データベース利用規約、ライセンス、秘密保持、個人情報

著作権法上利用できる場合でも、契約上の利用制限、営業秘密、個人情報、プライバシー、訴訟記録の閲覧等制限は別に検討する。

第3 裁判手続のための複製

著作権法41条の2第1項は、裁判手続のために必要と認められる場合、必要と認められる限度で著作物を複製できる旨を定める。ただし、著作物の種類・用途、複製部数・態様等に照らして著作権者の利益を不当に害する場合は除かれる。

なお、著作権法47条の6第1項2号は、41条の2の規定により著作物を利用することができる場合に、その例により行える利用の方法として「翻訳」だけを定めており、翻案を挙げていない。資料の内容を要約して書面に記載するときは、事実や論旨の要約にとどめ、原文の表現を用いる部分は引用(32条1項)として区別して示すのが無難である。

「必要」は、争点との関連性だけでなく、全文が必要か該当頁で足りるか、カラー高精細画像が必要か、提出部数が適切かという範囲にも及ぶ。証明対象、立証趣旨、必要部分を先に書き出すと、過剰な複製を避けやすい。

裁判手続のための複製は、資料を適法に取得する権利まで与えるものではない。ID・パスワードの不正使用、アクセス制御の回避、秘密情報の不正取得等は別問題である。

(続きを読む...)訴訟資料に著作物を利用する場合の著作権―複製・mints提出・引用・事件外共有を分ける(AI作成)

共同著作物・二次的著作物の権利行使―単独差止め・損害賠償・原著作者の権利(AI作成)

目次第1 共同著作物・共有著作権・二次的著作物を分ける第2 共同著作物と分離可能な共同制作第3 共有著作権の利用許諾と権利行使第4 侵害に対する単独の差止め・損害賠償第5 二次的著作物と原著作者の権利第6 誰が誰に何を請求できるか第7 契約・証拠のチェックリスト第8 一次資料と確認範囲
第1 共同著作物・共有著作権・二次的著作物を分ける

複数人が制作に関与した作品では、「共同で作った」という日常語だけで権利関係を決めることはできない。少なくとも、①各人の創作的寄与を分離して利用できない共同著作物、②分離可能な複数の著作物を組み合わせた作品、③一つの著作権が譲渡・相続等により共有となった場合、④既存著作物を翻訳・編曲・変形・脚色等した二次的著作物を区別する。

この区別によって、誰の同意が必要か、誰が単独で差止め又は損害賠償を請求できるか、原著作者の権利がどこまで及ぶかが変わる。

第2 共同著作物と分離可能な共同制作

著作権法2条1項12号は、共同著作物を、二人以上の者が共同して創作した著作物であって、各人の寄与を分離して個別的に利用できないものと定義する。文化庁の令和8年度著作権テキストは、分担部分を決めずに共同で執筆し、各人の創作部分を明確に区別できない場合を例に挙げる。

これに対し、第1章はA、第2章はBというように各人の寄与が分離して利用できる場合、書籍全体に別の編集著作物性が成立する余地はあっても、各章は当然には共同著作物にならない。漫画について、ストーリー、ネーム、人物画及び背景を複数人が担当した場合も、創作過程、相互依存性及び各寄与の分離利用可能性を事実に即して判断する。

企画、資金提供、資料提供、一般的な指示又は校正だけでは、直ちに共同著作者になるとは限らない。作品の表現形成に創作的に寄与したか、その寄与が一つの作品として共同化されたかを確認する。

全体の作品が共同著作物であるかと、今回利用された部分について誰の権利が及ぶかは、別に確認する必要がある。
例えば、人物画だけを立体化・商品化する場合には、原画、ネーム、物語及び背景のうち何が再製され、誰の創作的寄与が現れているかを特定する。
担当名だけからその部分を一人の著作物と断定せず、全体への共同創作の事実と、対象部分の独立利用可能性をそれぞれ検討する。
共同著作物の一部の利用と、原作に基づく二次的著作物の利用についての28条の問題も混同しない。

第3 共有著作権の利用許諾と権利行使

著作権が共有に属する場合、各共有者は、他の共有者の同意がなければ持分を譲渡し、又は質権を設定できない(法65条1項)。共有著作権は共有者全員の合意によらなければ行使できず、各共有者は正当な理由がない限り合意の成立を妨げることができない(同条2項・3項)。

ここでいう権利行使は、第三者に複製・公衆送信・翻案等を許諾する場面を含む。過半数で足りる会社法上の意思決定と混同してはならない。共同制作契約では、利用許諾の窓口、承認手続、拒否できる正当理由、収益配分、二次利用、改変、権利譲渡、死亡・連絡不能時の取扱いを定める必要がある。

65条3項の正当な理由を検討するときは、利用の目的・態様、作品や共有者の利益への影響、提示条件及び拒否理由を具体的に整理する。
拒否に正当な理由がないとの評価と、全員の合意が成立したことは同じではなく、高額な使用料を提示しただけで利用を開始できるわけではない。
許諾を得るための交渉・合意を求める手続と、既に利用した後の侵害訴訟で差止めを制限する反論は分けて検討し、不当な拒否なら許諾が自動的に成立するという契約運用にしない。

この二つの判断を問う素材として、令和4年司法試験知的財産法第2問の模範解答と評価項目(AI作成)の設問1・2がある。
同試験の出題の趣旨PDF32頁は、部分利用への権利行使と、合意を命ずる判決を得ない場合の抗弁を別の検討事項としている。
ここで示した確認項目は実務上の整理であり、試験答案が採る分岐を、あらゆる共同制作契約の確定的な結論とするものではない。

第4 侵害に対する単独の差止め・損害賠償

全員一致が必要な利用許諾と、侵害者に対する権利保全は別である。著作権法117条1項は、共同著作物の各著作者又は各著作権者が、他の著作者又は他の著作権者の同意を得ないで、112条の規定による請求(差止請求)をし、又はその著作権の侵害に係る自己の持分に対する損害の賠償若しくは自己の持分に応じた不当利得の返還を請求できると定め、同条2項は、これを共有に係る著作権又は著作隣接権の侵害に準用する。持分による限定が付くのは損害賠償と不当利得返還であり、差止請求は持分に限られない。

差止めは法112条に基づき、侵害の停止・予防及び侵害物等の廃棄その他必要な措置が問題となる。損害賠償では、故意・過失、損害及び因果関係を原則として立証し、法114条の損害額推定等を検討する。共有者が単独で請求できる損害額は、原則として自己の持分に対応する範囲である。

共同著作物の著作者人格権は、著作者全員の合意によらなければ行使できず、各著作者は、信義に反して合意の成立を妨げることができない(法64条1項・2項)。もっとも、64条が全員の合意を求めるのは著作者人格権の行使(公表や改変への同意等)である。第三者による著作者人格権の侵害に対しては、各著作者が、117条1項により、他の著作者の同意を得ないで112条の差止請求をすることができる。財産権である共有著作権の行使(65条)と共同著作物の著作者人格権の行使(64条)は規律が異なるが、侵害に対する単独の差止請求は、いずれも117条1項による。

第5 二次的著作物と原著作者の権利

二次的著作物とは、既存著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化その他の方法で創作した著作物である。二次的著作物の著作者は、新たに加えた創作的表現について著作権を取得するが、原著作物の表現についてまで独占権を取得するものではない。

著作権法28条により、原著作物の著作者は、二次的著作物の利用について、二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。したがって、二次的著作物を第三者が複製・公衆送信等する場合、二次的著作物側の権利処理だけでなく、原著作者側の権利処理も必要となり得る。

最高裁平成13年10月25日判決(キャンディ・キャンディ事件)は、連載漫画が原作原稿の二次的著作物であることを前提に、原作者が漫画の利用について28条により漫画家と同一の種類の権利を有するとした。漫画家が新たに描いた人物画であっても、原作に同一の絵がないという理由だけで原作者の28条上の権利から切り離すことはできない。

したがって、「二次的著作物のうち新たに加えた部分には原著作者の権利が当然に及ばない」と一般化するのは正確でない。二次的著作物として一体的に利用しているのか、それとも既存作品の具体的表現に依拠せず、抽象的な人物類型又は題材だけから別個独立に創作した作品なのかを区別する。

(続きを読む...)共同著作物・二次的著作物の権利行使―単独差止め・損害賠償・原著作者の権利(AI作成)

非享受目的の著作物利用はどこまで許されるか――複製,上映,著作権法30条の4及び49条1項2号(AI作成)

目次

第1 結論第2 行為を複製と上映に分ける第3 著作権法30条の4の要件第4 上映権と「公に」の要件第5 目的外使用と49条1項2号第6 実務上の確認表第7 AI学習等との関係第8 関連記事第9 出典と確認範囲

第1 結論

著作物を試験、解析又は技術開発のために端末へ記録し、その後に人へ見せた場合は、全体を一つの「利用」として扱わず、少なくとも①端末への記録という複製、②画面での再生という上映、③その後の目的変更を分けて検討する。

非享受目的の複製が著作権法30条の4で許されても、その複製物を後に鑑賞のために利用すると、同法49条1項2号により複製を行ったものとみなされ得る。30条の4を一度満たせば、その複製物を後の目的で自由に使えるわけではない。

第2 行為を複製と上映に分ける

著作権法21条は複製権、22条の2は上映権を定める。映像等をタブレット、サーバー又は記録媒体へ保存する行為は複製として検討し、保存された映像を画面で再生する行為は上映として検討する。

同じ端末を使う一連の行為でも、支分権、要件及び権利制限規定は同じとは限らない。行為ごとに「誰が、いつ、どの著作物を、どの方法で、何人に、何の目的で利用したか」を表にする。

第3 著作権法30条の4の要件

著作権法30条の4は、著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し、又は他人に享受させることを目的としない場合に、必要と認められる限度で、方法を問わず著作物を利用できると定める。

確認すべき要件は、①利用時の目的が非享受目的か、②利用がその目的に必要な限度か、③著作物の種類・用途と利用態様に照らして著作権者の利益を不当に害しないか、である。文化庁は、技術開発の試験、情報解析、人の知覚による認識を伴わない電子計算機処理等を例示している。

名称だけで判断せず、実際に人が表現内容を鑑賞することが予定されていたかを確認する。
非享受目的と鑑賞目的が併存する利用は、30条の4の適用対象外である。
もっとも、人が実際に映像を見たという結果と、利用者がその人に思想又は感情を享受させる目的を持っていたことは別の問題である。
利用の説明、対象者の募集、画面の向き、全編再生、人の視聴を止めたか許容したか等を対応させ、目的の併存を具体的に判断する。

作画技術の習得を目的とする漫画教室でも、著名な漫画を手本として複製・配布し、受講者が模写し、その作品を投影して吟味する利用について、30条の4が当然に使えるわけではない。
文化庁の令和元年10月24日付け解説問7(PDF15頁・本文8頁)は、これらの例に一般に享受目的も併存すると説明する。
同条の適用を否定しても、引用などの他の権利制限が使えるかと、運営者の教材複製・受講者の模写の主体が誰かは、別に検討する。

第4 上映権と「公に」の要件

上映権は、著作物を公に上映する権利である。そこで再生行為については、まず「公に」に当たるかを検討する。著作権法2条5項は、「公衆」に特定かつ多数の者を含むと定める。

少人数であれば常に公衆でないとはいえず、参加者の特定性、人数、相互の人的結合、利用主体との関係及び利用の継続性を具体的に確認する。複製が適法であっても、上映が別に権利侵害となる可能性がある。

店頭の体験参加者など不特定の者に映像を提示する場合は、実際の視聴者が少数でも、その不特定性を含めて「公に」の要件を判断する。
「見る必要はない」と伝えたことだけで、上映行為や公衆への提示を当然に否定することはできない。
上映権の成立要件を先に確認した上で、その利用について30条の4等の権利制限が認められるかを別に判断する。

第5 目的外使用と49条1項2号

(続きを読む...)非享受目的の著作物利用はどこまで許されるか――複製,上映,著作権法30条の4及び49条1項2号(AI作成)

製造方法で特定された物の特許(PBPクレーム)―権利範囲・明確性・侵害立証(AI作成)

目次第1 PBPクレームとは何か第2 平成27年最高裁判決の二つのルール1 権利範囲は物の構造・特性等で捉える2 明確性には不可能・非実際的事情を要する3 知財高裁「無洗米」事件が示した補足4 千葉補足意見と山本意見第3 出願・審査段階の実務第4 侵害訴訟で確認する事項第5 無効主張・訂正と契約実務第6 証拠収集のチェックリスト第7 一次資料と確認状況
第1 PBPクレームとは何か

プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBPクレーム)とは,物の発明に係る請求項に,その物の製造方法が記載されている請求項をいう。
例えば,「工程A及び工程Bを経て得られる物X」のように,物を構造又は特性だけで表現せず,製造工程を用いて特定する場合である。

PBPクレームでは,①特許権の効力が工程A・Bで実際に製造された物だけに及ぶのか,②製造方法の異なる同一物にも及ぶのか,③そもそも請求項が明確性要件を満たすのかが問題となる。
「物の発明」と「物を生産する方法の発明」は別のカテゴリーであるため,請求項の文言だけでなく,発明のカテゴリーを最初に固定する必要がある。

第2 平成27年最高裁判決の二つのルール
1 権利範囲は物の構造・特性等で捉える

最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決(平成24年(受)第1204号,民集69巻4号700頁)は,物の発明について特許がされている場合,その特許権の効力は,当該物と構造,特性等が同一である物であれば,製造方法にかかわらず及ぶとした。
したがって,PBPクレームの技術的範囲は,原則として,請求項に記載された製造方法で実際に製造された物だけに限定されない。

侵害判断では,被疑侵害品がどの工程で製造されたかだけを見るのではなく,特許請求項が特定する物と,被疑侵害品の構造・特性等が同一かを検討する。
製造工程の相違は無関係になるという意味ではなく,構造・特性の同一性又は相違を推認する証拠として重要になることがある。

2 明確性には不可能・非実際的事情を要する

最高裁平成27年6月5日第二小法廷判決(平成24年(受)第2658号,民集69巻4号904頁)は,PBPクレームに係る発明の要旨も,製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定するとした。
その上で,物の発明に係る請求項へ製造方法を記載したものが特許法36条6項2号の明確性要件に適合するのは,出願時において,当該物を構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られるとした。

このため,PBPクレームは,権利範囲を製造方法に限定して明確にする便利な書き方ではない。
広い物同一説によって権利範囲を捉える一方,第三者の予測可能性を確保するため,請求項の明確性を厳格に審査するという組合せで理解すべきである。

3 知財高裁「無洗米」事件が示した補足

知財高裁平成29年12月21日判決(平成29年(行ケ)第10083号)は,最高裁平成27年判決の不可能・非実際的事情を確認した上で,請求項に製造方法が記載されていても,請求項,明細書,図面及び技術常識から,その方法が表す物の構造又は特性を一義的に明確に理解でき,第三者の利益が不当に害されない場合には,明確性要件に反しないと判断した。

もっとも,製造方法を書けば不可能・非実際的事情がなくても常に許されるという一般的な例外を示したものではない。問題となる文言が実質的に物の構造・特性を明確に表しているか,それとも製造方法によって物を特定しているため構造・特性の範囲が不明確かを,請求項ごとに確認する必要がある。出願実務では,最高裁判決と特許庁の現行審査運用を前提に,PBP該当性と不可能・非実際的事情の資料をなお準備すべきである。

4 千葉補足意見と山本意見

平成27年の2判決には,いずれも千葉勝美裁判官の補足意見と山本庸幸裁判官の意見が付されている。

千葉裁判官の補足意見は,平成16年の特許法改正で104条の3が創設され,無効の抗弁の前提となる発明の要旨認定と特許発明の技術的範囲の確定とが同一の訴訟手続で審理されるようになったことから,両場面におけるPBPクレームの解釈,処理の基本的な枠組みは統一的に捉えるべきであるとする。
また,米国では侵害の場面でPBPクレームの範囲を製造方法に限定する判断が示されていることに触れ,最高裁の判断枠組みがこれと異なる面を持つことを述べている。

山本裁判官の意見は,差戻しには賛成しつつ理由を異にし,平成6年の特許法改正の経緯からすれば,特許請求の範囲に何を記載するかは基本的に特許出願人の自由な選択に委ねられているとする。
その上で,PBPクレームであることなどの手続的な事項を根拠に不明確として拒絶・無効理由とすることには慎重であるべきとし,技術的範囲については,出願の経緯等からこれを限定的に解釈する可能性を審理すべきであるとしている。
PBPクレームの明確性や技術的範囲を争う側は,多数意見に加えて両裁判官の個別意見の論理も確認しておくとよい。

第3 出願・審査段階の実務

出願時には,まず,問題となる文言が本当にPBPクレームに当たるかを確認する。
特許庁は,「溶接部」「焼結体」「PEG化されたタンパク質」等のように,製造を想起させる表現であっても,技術常識上,物の構造又は特性を表す用語として定着している場合や,単に状態を示して構造又は特性を特定しているにすぎない場合があることを示している。

(続きを読む...)製造方法で特定された物の特許(PBPクレーム)―権利範囲・明確性・侵害立証(AI作成)

固定カメラ映像・編集映像の著作物性――撮影の工夫,シーンの選択・配列及び類似映像(AI作成)

目次

第1 結論
第2 固定カメラだから当然に著作物でないとは限らない
第3 原映像と編集映像を分ける
第4 創作性を基礎付ける具体的な選択
第5 同じ場所・画角・順序で別に撮影した映像
第6 誰が著作者・権利者になるか
第7 主張し得る権利と請求
第8 撮影・編集時に保存する資料
第9 関連記事
第10 出典

第1 結論

固定カメラで自動撮影した映像であっても、直ちに著作物性が否定されるわけではない。しかし、希少な対象が映ったこと、撮影に長時間を要したこと、機材が高価であったこと又は商業的価値が高いことだけでは、著作権法上の創作性を基礎付けない。

最初に、撮影場所、カメラ位置・角度、画角、レンズ、光、撮影開始時期等について撮影者の個性が表れているかを確認する。次に、長時間の原映像から特定のシーンを選び、長さを決め、時系列と異なる順序で配置した編集映像について、選択・配列・映像の変化に別個の創作性があるかを確認する。原映像と編集映像は、著作物性、著作者、保護される表現及び侵害判断が異なり得る。

第2 固定カメラだから当然に著作物でないとは限らない

著作権法2条1項1号は、著作物を、思想又は感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものと定義する。同法10条1項7号は映画の著作物、同項8号は写真の著作物を例示する。

文化庁の令和2年著作権法改正資料は、写り込みに関する説明の中で、創作性が認められない行為の例として固定カメラでの撮影を挙げる。この記載は、固定カメラ映像の全てに著作物性がないという一律の判断ではない。撮影前に表現上の選択がされた事案と、記録目的で機械的・定型的に設置された事案を区別する必要がある。

写真について、知的財産高等裁判所令和元年12月26日判決は、構図、陰影、画角、焦点位置及びシャッターチャンス等の工夫に個性が表れ得ることを示している。動画でも、撮影者が選択できた事項と、対象の偶然の動き又は撮影機器が自動的に決めた事項を分ける。

第3 原映像と編集映像を分ける
対象主な創作性の候補侵害判断で比較するもの
長時間の原映像撮影場所、位置、角度、画角、レンズ、光、撮影時期その他の撮影設計実際の映像表現、フレーム又は連続部分
原映像から抜き出した静止画元フレームの構図等に加え、どの瞬間・範囲を切り出したか切り出された具体的画像
短く編集した映像シーンの選択、各シーンの長さ、順序、接続、音、字幕、速度等選択・配列による映像の展開と個々の創作的部分

東京高等裁判所平成16年7月26日判決(平成14年(ネ)第6311号)は、連続映像について、各映像自体の創作性だけでなく、その組合せ・配列により表現される映像の変化も保護対象となり得るとした。したがって、原映像の著作物性が弱い又は争われる場合でも、編集映像の選択・配列に独立した創作性が認められる可能性がある。

(続きを読む...)固定カメラ映像・編集映像の著作物性――撮影の工夫,シーンの選択・配列及び類似映像(AI作成)

職務発明の発明者は誰か――上司の指示,実験担当者,共同発明者及び相当の利益(AI作成)

目次

第1 結論
第2 発明者、権利者及び職務上の役職は別である
第3 発明者を判断する基本枠組み
第4 上司、実験担当者及び共同研究者をどう区別するか
第5 共同発明者の判断
第6 出願後に発明者表示を訂正する手続
第7 職務発明規程と相当の利益
第8 紛争時に保存・確認する資料
第9 出典

第1 結論

職務発明の発明者は、部長、研究責任者、実験担当者又は特許出願書類の発明者欄に記載された者という形式だけでは決まらない。まず特許請求の範囲と明細書から発明の特徴的部分を特定し、その特徴的部分について、誰が技術的課題と解決手段を着想し、又はその着想を実施可能な程度まで具体化する創作活動に関与したかを確認する。

一般的な研究テーマを与えただけの管理者、決められた条件で機械的に実験しただけの補助者、資金・設備を提供しただけの後援者は、通常、それだけでは発明者にならない。他方、上司であっても具体的な解決手段を着想し、部下と一体的・連続的に具体化した場合は、共同発明者になり得る。実験担当者も、実験を通じて予想外の課題を発見し、条件・構成を創作的に選択して発明を完成させた場合には、発明者又は共同発明者になり得る。

第2 発明者、権利者及び職務上の役職は別である

特許法2条1項は、発明を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義する。発明者は、この技術的思想の創作を行った自然人である。

これに対し、特許を受ける権利又は特許権は、契約、勤務規則、譲渡その他の原因により会社等へ帰属し得る。したがって、次の三つを分ける必要がある。

区分判断対象主な資料
発明者技術的思想の創作に現実に関与した自然人研究ノート、実験計画、メール、会議資料、発明届
特許を受ける権利・特許権の帰属者発明時の帰属条項、譲渡、共同研究契約等職務発明規程、雇用契約、譲渡証書、共同研究契約
出願書類の発明者表示願書に記載された氏名願書、手続補正書、宣誓書、変更理由書

願書の発明者欄は重要な資料であるが、その記載だけで実体上の発明者性が創設されたり、創作に関与していない者が発明者になったりするわけではない。

第3 発明者を判断する基本枠組み

東京地方裁判所平成19年10月30日判決(平成17年(ワ)第1238号)は、特許請求の範囲を基準とし、明細書の発明の詳細な説明も参酌して技術的思想を把握した上で、その創作に具体的に貢献・加担したかを検討するとした。

知的財産高等裁判所平成27年3月25日判決(平成25年(ネ)第10100号)は、発明の特徴的部分を当業者が実施できる程度まで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者を発明者と捉えている。

(続きを読む...)職務発明の発明者は誰か――上司の指示,実験担当者,共同発明者及び相当の利益(AI作成)

出版取次の本がAI学習に使われたら―日販・Anthropic報道,譲渡権の消尽,再販契約及び米国Bartz事件の裁判資料(AI作成)

目次第1 本記事の結論1 結論2 基準日と資料の性質第2 報道された事実1 朝日新聞の報道2 日経ビジネスの報道第3 米国の裁判資料で確認できること1 Bartz事件と封印解除2 社内会議メモに記載された「Nippan Japan」3 日本語書籍の書誌の取込み4 他の取次・書店との取引5 裁判資料から分からないこと第4 米国の裁判所の判断1 フェアユース命令の三つの区分2 和解の範囲第5 日本法の論点―本を売ること1 譲渡権の消尽2 出版社と取次の取引契約3 再販売価格維持契約第6 日本法の論点―スキャンと学習1 準拠法2 日本で行われた場合の著作権法30条の43 私的使用の複製(30条1項)との違い第7 当事者ごとの実務1 出版社2 取次・書店3 AI事業者第8 まとめ第9 出典1 法令2 裁判例3 米国の裁判資料4 公的資料5 報道6 関連記事
第1 本記事の結論
1 結論

令和8年9月18日,出版取次大手の日販グループが米国のAI開発企業Anthropic社に大量の書籍を販売していたとして,日本書籍出版協会(書協)が日販に事実確認を求める書面を送ったと報じられた。
報道の根拠となった米国の裁判資料を確認すると,Anthropic社の社内会議メモに「Nippan Japan」との書籍購入契約が令和6年11月21日に締結された旨の記載がある。
他方で,購入した冊数,単価,金額及び書籍の種類は黒塗りであり,日販にどのような用途が告げられていたかも,裁判資料からは分からない。

日本法の観点からは,次の3点を分けて考える必要がある。
①出版社が流通に置いた本を取次が転売すること自体は,譲渡権の消尽(著作権法26条の2第2項1号)により,著作権の問題になりにくい。
②転売先・用途・価格をめぐる問題は,出版社と取次の間の取引契約と再販売価格維持契約の問題であり,契約書の条項によって結論が変わる。
③購入した本の裁断・スキャンと学習は,それが行われた国の著作権法で判断されるのが原則であり,米国で行われたのであれば米国法(フェアユース)の問題になる。

米国の連邦地裁は,購入した紙の本を裁断・スキャンして電子化した行為をフェアユースと判断し,その後の15億ドルの和解も,購入した本のスキャンによる学習を対象外としている。
したがって,「本を買ってスキャンし,学習に使う」という経路は,米国では法的に閉じられていない。
出版社がこの経路に対応するには,取引契約での転売先・用途の定めと,AI学習用のライセンス市場の形成という,契約と市場の手段によることになる。

2 基準日と資料の性質

本記事は,令和8年9月19日現在の公開資料に基づく。
法令の条文は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文により,日本の裁判例は裁判所ウェブサイトで実在と該当箇所を確認したものを用い,関連する裁判例の有無は判例秘書でも検索した。
米国の裁判資料は,裁判記録を再公開するCourtListenerのPDFで本文を確認したものであり,PACERの認証済み写しではない。

朝日新聞と日経ビジネスの記事は,いずれも有料部分がある。
朝日新聞の記事は,Yahoo!ニュースに転載された全文で内容を確認したが,日経ビジネスの記事は有料部分を確認していない。
書協の書面と日販の回答書は公表されておらず,本記事は報道の記載によっている。

本記事の作成には,本件の当事者であるAnthropic社の生成AIを用いている。
そのため,裁判資料と報道の記載に即して記述し,いずれかの当事者に有利又は不利な評価を加えないよう注意した。

第2 報道された事実
1 朝日新聞の報道

朝日新聞(令和8年9月18日)によれば,書協は日販に対し,Anthropic社に渡った書籍に加盟出版社の発行物が含まれていたか,含まれていた場合の詳細,出版社の了承なく海外業者に大量販売した場合の法的整合性等の説明を求めた。
あわせて,AI学習を目的とする書籍の新たな販売の取りやめと,AI学習目的の書籍供給についての考え方の表明も求めたとされる。

同記事は,作家らがAnthropic社を訴えた米国の著作権侵害訴訟の裁判資料に,日販とみられる「Nippan Japan」の記述が複数回登場すると報じている。
日販は同紙の取材に対し,個別取引については取引の有無を含めて回答を差し控えるとした上で,「AI企業の学習向け用途と認識したうえで販売した事実はない」などと回答したとされる。

令和8年9月19日現在,書協と日販の各ウェブサイトに,本件に関する発表は見当たらない。

2 日経ビジネスの報道

(続きを読む...)出版取次の本がAI学習に使われたら―日販・Anthropic報道,譲渡権の消尽,再販契約及び米国Bartz事件の裁判資料(AI作成)