目次
第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 最高裁令和3年3月1日決定1 どのような事案か2 弁護人の主張と最高裁の判断3 原審(大阪高裁)の判断4 決定の射程第3 現行の不正競争防止法の規律1 技術的制限手段の定義2 装置・プログラムの提供の禁止3 刑事罰と適用除外第4 著作権法の規律1 技術的保護手段と技術的利用制限手段2 利用者の複製と30条1項2号3 みなし侵害と刑事罰第5 画面キャプチャー型のソフトを使う前に確認すること1 防止機能を外す処理があるか2 提供者の説明を確かめる3 利用規約と業務利用第6 関連記事第7 出典
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
電子書籍の閲覧ソフトには,表示した画面の取り込みや保存を防ぐ機能を備えたものがある。
この記事は,そのような防止機能を外して画面を画像やPDFとして保存できるようにするソフトを提供する行為と,利用者が画面を取り込む行為が,不正競争防止法と著作権法の上でどう扱われるかを扱う。
法令は令和8年10月25日にe-Gov法令検索で確認した条文(不正競争防止法は令和8年5月21日施行の版,著作権法は令和8年6月24日施行の版で,いずれもその後同日までに施行された改正はない。)によった。
裁判例は,同日に裁判所ウェブサイトで全文を確認したものによった。
画面を自動で取り込んでPDFにし,生成AIで要約するソフトについての複製の主体や私的使用の問題は第6の関連記事で扱っており,この記事ではキャプチャー防止との関係に絞る。
2 結論
最高裁令和3年3月1日決定は,電子書籍の閲覧ソフトに組み込まれた記録・保存の防止機能を無効化し,閲覧ソフト以外でも読めるようにするプログラムを提供した行為が,不正競争防止法上の不正競争に当たり,刑事罰の規定に該当すると判断し,罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断を結論において正当とした。
プログラムに暗号を解く機能がないから技術的制限手段の効果を妨げていない,という弁護人の主張は退けられた。
他方,この決定が判断したのはプログラムを提供した側の責任であり,利用者が自分の端末で画面を取り込む行為そのものを判断したものではない。
利用者の行為は,著作権法30条1項2号(技術的保護手段の回避による複製)と,電子書籍サービスの利用規約によって別に検討することになる。
第2 最高裁令和3年3月1日決定
1 どのような事案か
決定が示した,原判決が是認した第1審判決の認定等によれば,事案は次のとおりである。
電子書籍の配信事業者は,ライセンスの発行を受けた特定の機器にインストールされた専用の閲覧ソフト(ビューア)でなければ復号できないよう,電子書籍の影像を暗号化して配信していた。
Windows対応版のビューアには,復号後の影像の記録・保存を防止する機能を持つプログラム「G」が組み込まれており,Gのない状態ではビューアは起動せず,ライセンスの発行を受けることも影像の視聴もできないようにされていた。
ソフトウェアの開発・販売会社の代表取締役と販売責任者は,同社のプログラマーと共謀の上,Gの機能を無効化し,復号後の影像を記録・保存することによりビューア以外での視聴を可能とするプログラム「F3」を,平成25年9月10日頃と同年11月23日頃に,顧客2名へダウンロードさせて提供した。
2 弁護人の主張と最高裁の判断
弁護人は,この技術的制限手段は暗号化の方式によるものであり,F3は復号の機能を有しないから,技術的制限手段の効果を妨げるプログラムではないと主張した。
最高裁は,上告趣意は刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないとした上で,職権で判断し,Gの機能,Gとビューアの関係及びF3の機能を認めた上で,「Gの上記機能により得られる効果は本件技術的制限手段の効果に当たり,これを無効化するF3は,技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムに当たると認められる。」と判断した。
そして,F3を提供した被告人両名の行為は平成27年法律第54号による改正前の不正競争防止法2条1項10号の不正競争に当たり,同法21条2項4号に該当するとし,同号の罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は結論において正当であるとして,上告を棄却した。
3 原審(大阪高裁)の判断
(1) 技術的制限手段の「効果」の捉え方
原審の大阪高裁平成29年12月8日判決は,電子書籍の暗号化について,「この技術的制限手段の効果は,本件ビューアがインストールされた機器以外の機器では暗号化されたコンテンツの表示ができないということであるというべきである。」とした。
その上で,Gは表示される影像のキャプチャを不能にする制御を行うプログラムであり,これと反対の制御を行って影像のキャプチャを再び可能にするF3は,その効果を妨げるプログラムであると判断した。
暗号を解く機能があるかどうかではなく,配信事業者が技術的制限手段によって実現している状態,すなわちビューアがインストールされた機器以外の機器では表示できないという状態を妨げるかどうかに着目した判断である。
(2) 画面を取り込んでPDFに保存する仕組み
大阪高裁は,証拠に基づき,「F3は,本件ビューアが端末の画面に表示する画像をキャプチャしてpng形式ファイルやpdf形式ファイルなどのファイルに保存することにより,本件ビューアを用いないでその画像を視聴することができるようにするものであると認められる。」と認定した。
(続きを読む...)電子書籍のキャプチャー防止を外すソフトは違法か―最高裁令和3年3月1日決定と不正競争防止法・著作権法(AI作成)