第1 本記事の結論
令和8年9月1日,米国司法省は,OpenAI等に対する著作権訴訟において,AIモデルの学習は一般に高度に変容的な利用であり,フェアユースに当たるとの立場を示す意見書を提出した。
しかし,この意見書は裁判所の判決ではなく,米国政府が訴訟で提示した法的主張である。
また,意見書自身も,個別事件の具体的な事実及び問題となる利用ごとにフェアユースを判断すべきであるとしている。
したがって,米国政府がAI学習を一律に「合法化した」と理解するのは正確でない。
少なくとも,①著作物をどのように取得したか,②取得した複製物をどのように保管したか,③モデルの学習にどのように利用したか,④モデルがどのような出力をしたかを分けて検討する必要がある。
本記事は,令和8年9月6日現在の公開資料に基づく。
米国の裁判記録については,裁判記録を再公開するCourtListener又はJustiaのPDFで本文を確認したものであり,PACERの認証済み写しではない。
第2 米国政府意見書の位置付け
1 裁判所の判断ではないこと
米国政府の文書は,In re OpenAI, Inc., Copyright Infringement Litigation, No. 25-md-3143 (SHS) (OTW) において,合衆国法典28編517条に基づき提出されたStatement of Interestである。
政府が重要と考える法的論点について見解を述べる文書であり,裁判所を拘束する判決でも,議会が制定した新しい法律でもない(同意見書1頁~4頁)。
同意見書は,令和8年3月20日付けのホワイトハウスのAI政策枠組みを引用し,著作物によるモデル学習それ自体は著作権法に違反しないという現政権の政策的立場を訴訟上の主張に反映している。
他方で,同政策枠組みも,著作権法上のフェアユースを最終的に判断するのは裁判所であることを前提としている。
2 意見書が主として扱う範囲
意見書は,LLM開発の過程を,データを集めて保存する取得又は収集段階,収集したデータでモデルを訓練する学習段階,利用者の入力に応じて回答を生成する出力段階に分けている(同意見書5頁~6頁)。
その上で,主として学習段階のフェアユースを論じている。
意見書は,海賊版サイト等からの取得が適法であるかについて立場を示していない。
また,出力が原著作物を再現する場合の著作権侵害も,学習とは別の利用として扱っている(同意見書12頁~16頁)。
この二つの留保を落として「AI学習は合法である」と要約すると,意見書の射程を広げ過ぎることになる。
第3 取得・保管・学習・出力を分ける理由
1 四つの段階
AI開発に伴う複製行為は,一つの行為ではない。
法的評価に必要な主な区分は,次のとおりである。
| 段階 | 主な行為 | 確認すべき証拠 |
|---|---|---|
| 取得 | ウェブサイト,契約データベース,第三者データセット等から著作物を入手すること | 取得元,取得日時,利用規約,ライセンス,robots.txt,アクセスログ |
| 保管 | 取得したファイルをデータベース又は一般目的のライブラリとして保存すること | 保存目的,保存期間,学習対象との対応,削除記録 |
| 学習 | 前処理,トークン化,訓練等のために複製し,モデルのパラメータを調整すること | データセットの版,処理記録,対象モデル,重複除去及び除外記録 |
| 出力 | 利用者の指示に応じて文章,画像等を生成すること | プロンプト,出力全文,再現性,原著作物との類似性,安全対策 |
取得した一つのファイルが学習にも一般目的の保管にも使われる場合,各利用について目的及び市場への影響が異なる。
そのため,最終的なモデルだけを見ても,問題となる複製の全体像は分からない。
2 アクセス許可と著作権処理も同じではないこと
robots.txtは,自動取得を行う事業者に対する技術的なアクセス方針を示すものである。
これを遵守した事実だけで著作権処理が完了するわけではなく,反対に,robots.txtによる拒否だけで個々の著作権侵害が当然に成立するわけでもない。
技術的な取得制御と著作権法上の利用許諾又は権利制限は,区別して検討する必要がある。
robots.txtの技術的効果及び日本法上の位置付けについては,robots.txtで生成AI学習・AI要約を拒否できるか――技術的効果と著作権法上の限界(AI作成)で整理している。
第4 米国政府が主張するフェアユース
1 四つの考慮要素
米国著作権法107条は,①利用の目的及び性質,②著作物の性質,③利用部分の量及び重要性,④著作物の潜在的市場又は価値への影響を考慮するものとしている。
これらは機械的な点数計算ではなく,問題となる特定の利用について総合評価される。
2 学習は高度に変容的であるとの主張
米国政府は,新聞記事が読者に情報又は表現を届けるのに対し,学習は,文章間の関係をモデルに学ばせ,多様な新しい課題に応答できる道具を作るための利用であると主張する。
そのため,学習目的は原著作物の目的と異なり,高度に変容的であるとして,第1要素がフェアユースに強く傾くと論じている(同意見書10頁~13頁)。
学習に作品全体を複製することについても,モデルを訓練する目的を達成するために合理的に必要であるとして,第3要素が直ちに権利者側へ傾くものではないとする。
商業目的であることも考慮されるが,変容性が強い場合には決定的でないというのが意見書の立場である。
3 市場への影響を狭く捉える主張
米国政府は,第4要素について,学習用の複製物自体は公衆に提供されず,新聞記事の代替物として読まれるものではないとする。
さらに,出力が原著作物と実質的に類似せず,著作権で保護されない題材又は様式だけを共有する場合,その出力との一般的な競争を学習行為の市場害として扱うべきでないと主張する(同意見書13頁~19頁)。
これは,生成物が市場を大量に希釈するという市場希釈論を広く考慮したKadrey判決の説示に対する明確な反論である。
もっとも,意見書は,具体的な出力が原著作物を再現し,又は市場で代替する場合まで適法であるとは述べていない。
第5 二つの連邦地裁判断が示す限界
1 Bartz v. Anthropic PBC
Bartz v. Anthropic PBC, 787 F. Supp. 3d 1007 (N.D. Cal. June 23, 2025) は,著作物の利用を分けて評価した。
同判決は,特定のLLMを訓練するための利用について,高度に変容的であり,原告らが侵害出力を主張していなかったこと等を踏まえ,フェアユースに当たると判断した(同判決10頁~18頁)。
他方で,海賊版サイトから取得した多数の書籍を,将来の様々な利用に備えた中央ライブラリに恒久的に保存する行為については,学習のフェアユースによって正当化されないと判断した(同判決18頁~22頁,30頁~32頁)。
同じ書籍ファイルであっても,学習のための複製と一般目的のライブラリ構築を別々に評価した点が重要である。
2 Kadrey v. Meta Platforms, Inc.
Kadrey v. Meta Platforms, Inc., 788 F. Supp. 3d 1026 (N.D. Cal. June 25, 2025) は,Metaによる学習利用について,対象となった13名の原告との関係ではMeta側の略式判決を認めた。
しかし,同判決は,すべてのAI学習を一般的に適法と宣言したものではない。
同判決は,LLMによる大量の生成物が原著作物と実質的に類似しなくても,同種の作品市場を希釈し得るという理論には法的な重要性があり得ると述べた。
その上で,当該原告らが市場希釈について経験的な証拠を提出せず,推測にとどまったため,具体的な記録上は第4要素でMetaに勝てなかったと判断した(同判決33頁~40頁)。
したがって,Bartz判決とKadrey判決から安全に導けるのは,学習が変容的と評価され得ることと,取得経路,問題となる利用,出力及び市場害の証拠によって結論が変わり得ることである。
第6 米国著作権局は異なる見方を示していること
米国著作権局は,令和7年5月の生成AI学習報告書において,フェアユースは事案ごとに判断されるとした。
同報告書は,海賊版又は違法にアクセスされた作品を知りながら学習に使ったことは,当然に結論を決めるものではないが,フェアユースに不利に働くと整理した(同報告書51頁~52頁)。
また,同報告書は,実質的に類似する出力による直接代替だけでなく,同種の生成物が大量に供給されることによる市場希釈及び発展中の学習用ライセンス市場も,第4要素で考慮し得るとした(同報告書64頁~71頁)。
この点は,市場害を実質的類似性のある出力に限定しようとする米国政府意見書と一致しない。
米国著作権局報告書も裁判所を拘束するものではない。
しかし,米国の行政機関内にも,学習利用の市場への影響をどこまで著作権法上考慮するかについて見解の対立があることを示している。
第7 日本の著作権法30条の4との関係
1 米国の結論をそのまま移せないこと
著作権法30条の4は,著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用について,必要と認められる限度で,かつ,著作権者の利益を不当に害しない場合に利用を認める規定である。
米国のフェアユースは四つの要素を総合評価する制度であり,日本法とは条文の構造が異なる。
そのため,米国で学習が変容的利用と評価されたことだけから,日本で著作権法30条の4が適用されるとの結論は出せない。
日本では,享受目的の併存,利用の必要限度及び著作権者の利益を不当に害するかを,具体的な利用態様に即して検討する必要がある。
2 文化庁の整理
文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」は,AI学習のための複製が非享受目的に当たり得る一方,既存の情報解析市場との衝突,robots.txt等による取得制限,海賊版と知りながら行う収集その他の事情が評価に関係し得ると整理している(同資料22頁~29頁)。
これは文化庁の審議会資料であり,裁判所を拘束する判決ではない。
3 日本の裁判例及び判例データベースの確認範囲
令和8年9月6日までに裁判所ウェブサイトの公開裁判例検索で確認した範囲では,生成AIの学習段階について著作権法30条の4の適否を直接判断した日本の裁判例を確認できなかった。
裁判所ウェブサイトに掲載されていない裁判例があり得るため,これは裁判例の不存在を意味しない。
また,本記事の作成時には判例秘書を確認していないため,裁判例の網羅性は未確認である。
第8 実務で先に確保すべき証拠
1 権利者側
権利者側では,抽象的に「無断学習された」と主張するだけでなく,次の資料を可能な限り分けて確保する必要がある。
①対象著作物の原本,公開日及び権利帰属資料
②取得元,アクセス日時,robots.txt,利用規約及びサーバーログ
③対象作品とデータセット又はモデルとの対応を示す開示資料
④同一又は類似の出力を再現するプロンプト,日時,モデル版及び画面記録
⑤原著作物と出力の対照表
⑥既存又は具体的に発展しつつあるライセンス市場及び売上への影響を示す資料
学習データに関する開示要求の方法及び限界については,生成AIの学習データを開示要求する方法――プリンシプル・コード原則2・3の要件と限界(AI作成)で整理している。
2 AI開発者及び利用者側
AI開発者側では,データの取得経路,ライセンス,取得時の規約,データセットの版,学習への採否,保存期間及び削除記録を追跡できるようにする必要がある。
また,学習の目的と一般目的のライブラリ保管を区別し,原著作物の再現を抑える評価,フィルタ及び対応記録を残すことが重要である。
学習データ契約及び対価還元の設計については,生成AIの学習データ契約とクリエイターへの対価還元――著作権法30条の4との関係(AI作成)で整理している。
第9 まとめ
令和8年9月1日付けの米国政府意見書は,AI学習をフェアユースとする強い政策的及び法的主張であるが,判決ではない。
Bartz判決は学習と海賊版ライブラリを分け,Kadrey判決は市場希釈の証拠不足を重視し,米国著作権局は海賊版,市場希釈及びライセンス市場をより広く考慮している。
実務上の中心は,「AIに使われたか」という一つの問いではなく,どこから取得され,どの複製が何の目的で保存され,どのモデルの学習に使われ,どのような出力及び市場害が生じたかを証拠で分けることである。
日本法の検討でも,米国の結論を輸入するのではなく,著作権法30条の4の要件に沿って具体的な利用を評価する必要がある。
第10 出典
①United States, Statement of Interest, In re OpenAI, Inc., Copyright Infringement Litigation, No. 25-md-3143 (SHS) (OTW), ECF No. 1682 (S.D.N.Y. Sept. 1, 2026), CourtListener掲載PDF
②Bartz v. Anthropic PBC, 787 F. Supp. 3d 1007 (N.D. Cal. June 23, 2025), Justia掲載PDF
③Kadrey v. Meta Platforms, Inc., 788 F. Supp. 3d 1026 (N.D. Cal. June 25, 2025), Justia掲載PDF
④U.S. Copyright Office, Copyright and Artificial Intelligence, Part 3: Generative AI Training, Pre-Publication Version, May 2025, 米国著作権局掲載PDF
⑤The White House, National Policy Framework for Artificial Intelligence: Legislative Recommendations, March 20, 2026, ホワイトハウス掲載PDF
⑥e-Gov法令検索・著作権法30条の4
⑦文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)