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選択定年制・早期退職優遇制度の申出を会社は承認しないことができるか―最高裁平成19年1月18日判決と割増退職金(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

本記事は,定年前に退職する従業員を定年退職の扱いとし,割増退職金を支給する選択定年制(早期退職優遇制度)について,従業員が退職を申し出たのに使用者が承認しなかった場合に,割増退職金を受け取れるかを判断した最高裁平成19年1月18日判決(平成16年(受)第380号・集民223号5頁)を紹介するものである。
判決の内容は,裁判所HPの裁判例検索に掲載されている判決全文によっている。

2 結論の要旨

①選択定年制による退職が,従業員の申出に対する使用者の承認によって効果を生ずるものとされ,承認をするかどうかに関し就業規則等で特段の制限が設けられていない場合,使用者が承認しなければ,割増退職金債権の発生を伴う退職の効果は生じない。
②割増退職金は,従業員の申出と使用者の承認とを前提に,早期の退職の代償として特別の利益を付与するものである。
③承認されなかった従業員も,選択定年制によらない退職を申し出ることは妨げられないから,退職の自由を制限されるものではない。
④この事件で,経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったとの判断の下に,事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐために承認しなかったことは,理由が不十分であるというべきものではないとされた。

第2 事案の概要

1 選択定年制の定め

上告人は,農業協同組合法に基づいて設立された信用農業協同組合である。
上告人の就業規則13条は,従業員は満60歳をもって定年とし,定年に達した日の属する事業年度末をもって退職とすると定めた上,本人の希望により定年前の年齢で退職する者は,選択定年制実施要項の規定により定年扱いとし,特別処置を講ずると定めていた。

選択定年制実施要項は,次のように定めていた。
①対象者は,退職時点において48歳以上の職員でかつ勤続年数が15年以上の職員のうち,所定の手続によりこの制度による退職を選択し,組合が認めたものとする(2条)。
②この制度による退職は,定年扱いとし,別表の割増退職金を支給する(3条)。
③この制度による退職を希望する職員は,退職を希望する6か月前までに組合長に申し出るものとし,事業年度末をもって退職とする(4条)。

判決によれば,選択定年制を設けた趣旨は,組織の活性化,従業員の転身の支援及び経費の削減にあり,事業上失うことのできない人材の流出をとどめることができるようにすることなどを考慮して,上告人の承認を必要とすることとされたものである。

2 退職の申出と不承認

被上告人らは,平成13年7月と9月に,選択定年制により,平成14年3月31日付けで退職することを希望する旨の申出をした。

上告人は,平成13年7月に神奈川県から資産査定状況の検査において自己資本比率の低下等を指摘されて指導を受け,他の信用農業協同組合との合併の道を探ったが,同年8月,経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったと判断し,事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐため,選択定年制を廃止する方針を立てた。
上告人は,同年9月,申出の資格を有する者全員に対し,既にされた申出についても今後される申出についても承認をしない趣旨の説明をし,同月18日の理事会で,申出を承認しないこと及び選択定年制を廃止することを決定し,同月27日,被上告人らを含む申出者に承認しない旨を告げた。

上告人は,平成14年1月23日の総会で事業の全部を譲り渡して解散することを決議し,同年3月31日,全従業員を解雇した。
被上告人らは,選択定年制により退職したものと取り扱われるべきであるとして,割増退職金債権を有することの確認を求めた。

第3 原審の判断

原審の東京高等裁判所は,上告人は申出に対して承認をするかどうかの裁量権を有するが,不承認とすることが従業員の退職の自由に対する制限となることなどからすれば,その裁量権の行使は選択定年制の趣旨目的に沿った合理的なものでなければならず,不合理な裁量権の行使により不承認とした場合には,申出のとおり選択定年制による退職の効果が生ずるとした。
その上で,不承認により被上告人らの受ける不利益は受忍し得る程度のものとはいい難く,従業員個々の具体的事情にかかわらない事由に基づいて不承認とするのは理由が不十分であるとして,被上告人らの請求を認容すべきものとした。

第4 最高裁の判断

1 承認がなければ割増退職金を伴う退職の効果は生じない

最高裁判所第一小法廷は,原審の判断を是認することができないとして,原判決を破棄し,第1審判決を取り消して,被上告人らの請求をいずれも棄却した。

判決は,選択定年制による退職は,従業員がする各個の申出に対し,上告人がそれを承認することによって,所定の日限りの雇用契約の終了や割増退職金債権の発生という効果が生ずるものとされており,上告人が承認をするかどうかに関し,就業規則及び実施要項において特段の制限は設けられていないことが明らかであるとした。
そして,割増退職金は,従業員の申出と上告人の承認とを前提に,早期の退職の代償として特別の利益を付与するものであり,承認がされなかったとしても,従業員は,特別の利益を付与されることこそないものの,選択定年制によらない退職を申し出るなどすることは何ら妨げられておらず,退職の自由を制限されるものではないとした。
したがって,申出に対して上告人が承認をしなければ,割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生ずる余地はないとした。

2 不承認の理由について

判決は,なお書きで,上告人が申出をすべて承認しないこととしたのは,経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったとの判断の下に,事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐためであったから,その理由が不十分であるというべきものではないとした。
判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

第5 実務上の確認事項

1 会社が制度を設けるとき

この判決は,承認によって退職の効果が生ずるとされ,承認に関して特段の制限が設けられていない制度を前提にしている。
常時10人以上の労働者を使用する使用者は,退職手当の定めをする場合には,適用される労働者の範囲,退職手当の決定,計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項について就業規則を作成し,届け出なければならない(労働基準法89条3号の2)。
制度を設ける会社は,次の点を就業規則又は実施要項で明らかにしておくことが考えられる。
①申出だけで退職の効果が生ずるのか,会社の承認によって効果が生ずるのか
②承認の基準又は承認しない場合の事由を定めるか
③申出の期限,退職日及び割増退職金の額の決め方
④制度を廃止又は停止する場合の扱い

2 従業員が申し出るとき

従業員の側では,次の点を確認する必要がある。
①申出をしただけで割増退職金が確定する制度か,会社の承認が要る制度か
②承認の基準や制限が就業規則等に定められているか
③承認されなかった場合でも通常の退職の申出はできるが,その場合は割増退職金の対象とならないこと

3 国家公務員の早期退職募集との違い

国家公務員の早期退職募集は,国家公務員退職手当法8条の2に基づく制度であり,同条5項が認定をしない事由と応募者が募集人数を超える場合の制限の方法を定め,同条6項が認定をしない旨の決定をした場合には理由を含めて書面で通知するものとしている。
裁判官の早期退職募集は,裁判官の早期退職とは―50歳以上(簡易裁判所判事は55歳以上)の募集,応募と認定,退職手当の割増し及び関係資料で整理している。

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第7 出典

1 裁判例

①最高裁平成19年1月18日判決(平成16年(受)第380号)

2 法令

①労働基準法89条(e-Gov法令検索)
②国家公務員退職手当法8条の2(e-Gov法令検索)