メインコンテンツへスキップ
       

平成19年度最高裁民事破棄判決等の実情―57件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)

第1 本記事の対象と資料の読み方

本記事は,平成19年中に最高裁判所で言い渡された民事事件(行政事件・労働事件を含む。)の破棄判決50件と破棄決定7件を,山中弁護士の訴訟実務に使える「破棄の型」として整理するものである。判例時報の論文名は「平成十九年度」であるが,対象は会計年度ではなく暦年の平成19年中の裁判である。

入口とした資料は,森英明・絹川泰毅「最高裁民事破棄判決等の実情(上)(下)―平成十九年度」判例時報2009号3頁以下・2010号9頁以下である。この論文は最高裁調査官による体系的な二次資料であり,事件の所在,原審判断及び破棄理由を把握するのに有用である。他方,個別事件の正確な判示,射程,反対意見・補足意見は,裁判所が公表する判決・決定本文で確認する必要がある。

第2 件数と「破棄率」の限界

上告及び上告受理申立てを並行した事件を1件に換算すると,新受は3004件,既済は3111件であった。破棄判決は判決書単位で50件であり,換算後の既済件数に対して1.6%であった。その内訳は,差戻し(一部差戻しを含む。)26件,自判(一部自判を含む。)25件で,両方を含むものが1件ある。

破棄決定は7件で,特別抗告1件,許可抗告6件であった。許可抗告の既済44件に対する破棄決定6件は13.6%である。

もっとも,これらの数字は,不受理・棄却事件の内容,事件の難易,申立て理由の構成などを統制したものではない。「最高裁で勝てる確率」や個々の代理人の成功率として用いることはできない。

第3 原審が破棄された7つの型

1 手続の入口に問題がある型

口頭弁論に関与していない裁判官が判決裁判所を構成した事件,当事者・代表権・中断が問題となった光華寮訴訟,死亡当事者の受継命令,最高裁への上告受理申立てを原裁判所が内容判断で却下した事件などがある。受任直後に,裁判体,当事者表示,代表権,死亡・組織変更,受継,送達及び上訴権限を点検する必要がある。

2 請求・抗弁・判断対象を取り違える型

不法行為構成だけを判断して債務不履行主張を落とした事件や,予備的相殺抗弁の趣旨を取り違えた事件がある。請求原因,認否・抗弁,再抗弁,裁判所の判断を対応させ,選択的請求や予備的抗弁の順位も明示する。

3 評価語から要件事実へ飛躍する型

精神科入院患者の誤嚥死事件では,「ショック状態」という評価を先に置き,意識レベル,全身状態,頻脈,血圧,出血量,感染性ショックの可能性を必要十分に確定しない事実認定が経験則違反とされた。結果から過去の義務違反を逆算せず,義務発生時点ごとに客観的な事実を並べる必要がある。

4 契約文言と締結・履行経過がずれる型

コンビニ・フランチャイズ契約の「売上商品原価」は,契約条項だけでなく,付属資料,契約締結前の説明及び従前の運用を総合して解釈された。土地賃貸借でも,後年の低額支払又は不払だけで無償使用と決めず,長期の定期支払と当時の領収証を見る必要がある。

5 証明責任と立証対象の配分を誤る型

自動車盗難保険では,保険金請求者が立証すべき外形的事実と,被保険者の意思に基づかないことが分けられた。「盗難と矛盾しない」だけでは足りない。主張書面では,誰が何を証明するか,直接事実と間接事実,反証可能性を分ける。

6 制度の保護目的を抽象論で狭める型

建物の設計・施工・工事監理者について,契約関係のない居住者,隣人及び通行人にも,建物の基本的な安全性が欠けることがないよう配慮すべき注意義務が認められた。「強度の違法性」を要求した原審基準は狭すぎるとされた。

弁護士懲戒請求でも,不懲戒という結果だけで不法行為となるのではない。事実上・法律上の根拠を欠き,請求者が知っていたか通常の注意で知り得たのにあえて行い,制度の趣旨目的に照らして相当性を欠くかを判断する。

7 破棄差戻しで未確定事実が残る型

破棄差戻しは,最高裁が当事者の実体法上の勝敗を最終確定したことを必ずしも意味しない。「最高裁が確定した法理」「原審判断の誤り」「差戻審で未確定の事実」を三分する必要がある。

第4 破棄差戻しと破棄自判の対照

最高裁第三小法廷平成19年4月3日判決は,精神科入院患者の誤嚥死について,原審の事実認定が経験則に反するとし,患者が当該時点で自ら気道を確保することが困難な状態にあったか否かなどを追加審理させるため差し戻した。

これに対し,最高裁第二小法廷平成19年7月6日判決は,競売前に先順位抵当権が消滅した事案における法定地上権の成立を認め,原審が確定した事実だけで結論を出せるとして,土地買受人の建物収去土地明渡請求を棄却する自判をした。

両判決の比較は,正しい法的枠組みを示した後に追加の事実審理が必要かどうかが,差戻しと自判の分水嶺となることを示す。

第5 代理人が作る3つの作業表

① 主張判断対応表:請求原因,認否,抗弁,再抗弁,予備的主張及び判断の有無を一覧化する。
② 事実証拠対応表:法律要件ごとに,直接事実,間接事実,反対事実,証拠及び立証責任を対応させる。
③ 破棄後作業表:最高裁が確定した法理,原審の誤り,差戻審で残る事実・抗弁・損害・因果関係と,それぞれに必要な証拠を分ける。

上訴理由の検討では,「結論が不当である」という抽象論ではなく,原判決のどの論理段階で,何が未確定で,何が証拠と整合せず,その違法が主文にどう影響するかまで示す必要がある。

第6 分野別の実務上の着眼点

① 担保・不動産:法定地上権では,登記順位だけでなく,各抵当権の設定時の所有状態と競売前の消滅の有無を時系列化する。
② 医療・専門訴訟:義務発生時点ごとにバイタルサイン,症状,検査,代替原因を並べ,診断ラベルから義務違反へ飛躍しない。
③ 建築瑕疵:構造躯体だけでなく,手すり,避難,防火,落下等の具体的危険を,図面,法令,施工及び補修必要性に結び付ける。
④ 弁護士懲戒請求:申立人が調査した事実,法的根拠,注意義務,請求時の認識及び制度目的との相当性を時系列化する。
⑤ 文書提出命令:法令上作成され監督官庁の検査利用が予定される資料,任意の検査対象となり得る稟議書,外部送付済み情報をまとめた文書などを区別する。

第7 一次資料,二次資料及び判例秘書の状態

本記事で個別に全文を確認した一次資料には,建物の基本的安全性,銀行の自己査定資料,先順位抵当権消滅後の法定地上権,精神科入院患者の誤嚥死,選択定年制及び不当な弁護士懲戒請求の各最高裁判決・決定がある。その他の掲載事件については,判例時報論文の記述までの確認であり,個別の判決・決定本文を全件確認したものではない。

判例秘書は,照会0件/ヒット不明/本文確認0件である。未検索をもって,事件が存在しない,又は同データベースに未収録であるということはできない。

第8 現行法へ接続する際の注意

平成19年当時の旧貸金業法43条のみなし弁済,旧独占禁止法の審判制度,旧商品取引所法の保証基金,当時の税制特例などは,現行事件の直接の根拠としては用いられない。事実婚の遺族年金,代理出産・親子関係,税務判例についても,後続立法,判例,対象年度の条文及び通達改正を確認する必要がある。

判例時報論文中の「◎」「○」「△」は,民集・集民への掲載状況を示す記号であり,事件の重要度や現行性の格付けではない。

第9 出典・関連記事

① 森英明・絹川泰毅「最高裁民事破棄判決等の実情(上)―平成十九年度」判例時報2009号3頁以下
② 同「最高裁民事破棄判決等の実情(下)―平成十九年度」判例時報2010号9頁以下
③ 最高裁第三小法廷平成19年4月3日判決(平成18年(受)第1547号)
④ 最高裁第三小法廷平成19年4月24日判決(平成17年(受)第2126号,民集61巻3号1102頁)
⑤ 最高裁第二小法廷平成19年7月6日判決(平成18年(受)第1398号,民集61巻5号1940頁)
⑥ 建物の基本的安全性と設計・施工・工事監理者の不法行為責任
⑦ 不当な懲戒請求と不法行為責任
⑧ 文書提出命令に関する最高裁判例
⑨ 民事の破棄差戻審―拘束力,残存争点及び主張立証