メインコンテンツへスキップ

会社法

名板貸の許諾撤回・営業主交替後に何を止め、誰に知らせるか―名義人の実務対応(AI作成)

目次第1 問題を「撤回日」と「取引時の外観」に分ける第2 裁判例から分かること1 撤回を告げても主要な外観が残れば責任が問題になる2 営業主交替と取引先への表示を時系列で調べる3 相手方が誰を営業主と信じたかが不可欠である第3 名義人が取る手順1 許諾と終了の対象を特定する2 使用の停止と外観の除去を記録する3 取引先への通知は接触資料に合わせる4 事業譲渡の別の責任と混ぜない第4 取引先・代理人の確認事項第5 出典と調査の限界
第1 問題を「撤回日」と「取引時の外観」に分ける

自己の商号を他人の営業に使わせた者の責任は、現行の商法14条及び会社法9条に定められる。平成18年会社法施行前の旧商法23条は「氏、氏名又ハ商号」を対象としていた。個人名やブランドを貸した事案に現行の両条を用いるときは、商号としての使用か、外観についての類推適用が問題になるかを別に検討する。
許諾の撤回又は営業主の交替後に生じた債務については、終了の合意書の日付だけでは足りない。取引時に誰の営業に見えたか、その外観を名義人が作り、又は存続させたか、債権者が誰を営業主と理解したかを確かめる。本記事は令和8年10月3日現在に確認できた法令と下記判決の範囲で、実務上の確認手順を示す。

第2 裁判例から分かること
1 撤回を告げても主要な外観が残れば責任が問題になる

東京地裁平成7年4月28日判決(平成6年(ワ)第7519号、判時1559号135頁、判例秘書L05030146)は、名刺・ゴム印を回収し、肩書使用を禁じて営業所から退去させた後の取引を扱う。名義人が、同じビルの別階で従前の名義による営業が続いていることを知りながら、基本的な外観を残した事情の下で、旧商法23条の責任を認めた。使用禁止の意思表示や一部物品の回収だけで、常に責任が消えるという判決ではない。判例秘書掲載の判決本文を確認したが、裁判所サイトの公開本文は確認できていない。

2 営業主交替と取引先への表示を時系列で調べる

大阪地裁昭和56年3月18日判決(昭和54年(ワ)第5278号、金商622号39頁、判例秘書L03650134)は、営業譲渡後も同じ場所・従業員・営業名で発注や納品が続き、取引先への交替通知が遅れた事案で、旧営業主の名板貸責任を認めた。ただし、譲渡前に供給契約が成立した余地にも言及している。譲渡後の債務と断定して一般化せず、発注、契約成立、納品及び請求の各日を照合する必要がある。判例秘書掲載の判決本文を確認したが、裁判所サイトの公開本文は確認できていない。

大阪地裁昭和46年5月27日判決(昭和45年(手ワ)第551号ほか、判タ266号264頁、判例秘書L02650416)は、旧営業主が経営から排除された後も氏名・届出印による手形取引が続くことを知り、取引先への交替周知もしなかった事情から、黙示の使用承認を認めた。判例秘書で確認した表示は判決理由中心の抄録であり、判決全文を確認したものではない。裁判所サイトの公開本文も確認できていない。

3 相手方が誰を営業主と信じたかが不可欠である

東京地裁平成15年10月9日判決(平成14年(ワ)第27281号、判例秘書L05834154)は、共同営業から退いた被告について、広告業者が研究所を会社組織、被告をその代表者と考えており、被告個人を営業主と信じていなかったことから名板貸責任を否定した。営業主交替後に旧名義が現れたという事情だけで、取引相手の誤認を飛ばしてはならない。判例秘書掲載の判決本文を確認したが、裁判所サイトの公開本文は確認できていない。

最高裁平成7年11月30日判決(民集49巻9号2972頁)は、テナントが営業していても、施設運営者が自己の営業の一部門であるような外観の作出に関与した場合に旧商法23条の類推適用を問題にし、破棄差戻しとした。営業譲渡の事案ではないが、名義の直接使用許諾がない場合にも、名義人側の外観への関与を独立に調べる根拠となる。

第3 名義人が取る手順
1 許諾と終了の対象を特定する

契約書、再許諾条項、対象店舗、許された名称・肩書・媒体、終了日及び営業主交替日を確定する。旧債務、交替後の新債務、取引継続中の債務を分ける。旧法時代の取引には当時の条文を用いる。

2 使用の停止と外観の除去を記録する

旧使用者と新営業主の双方へ、看板、名刺、印章、契約書式、領収書、ウェブサイト、SNS、電話案内等の使用停止と訂正を具体的に求める。名義人が管理できる表示は自ら改め、第三者管理の媒体は運営者に訂正を依頼する。撤去前後の写真、画面保存、通知の到達記録を残す。撤去を求めた事実と、実際に外観が消えた事実は別々に証明する。

3 取引先への通知は接触資料に合わせる

継続的な仕入先、金融機関、顧客など、旧表示に接した可能性のある相手を特定し、営業主が誰に変わったか、名義人が新営業主の取引を引き受ける意思の有無を正確に伝える。契約締結前後の相手方の認識に関わるため、通知先、内容、送信日、到達日及び相手の返答を保存する。通知だけで全取引先について一律に免責されるわけではなく、残る看板や書式との矛盾も点検する。

4 事業譲渡の別の責任と混ぜない

営業譲受人が譲渡人の旧債務を負うかは、商法17条又は会社法22条の商号続用等の問題である。名義人が譲受人の新債務を負うかとは、債務者と判断時点が異なる。関連記事「個人名・屋号を貸した後の事業譲渡」及び「事業譲渡で残存債権者は譲受会社に請求できるか」も参照されたい。

第4 取引先・代理人の確認事項

① 債権ごとの発生日、契約相手、発注者、請求書宛名及び支払口座。
② 交替の前後に相手方が実際に見た看板、広告、名刺、ウェブ画面及び通知。
③ 名義人が旧使用者又は新営業主へ何を許し、撤回後に何を知り、いつ是正したか。
④ 相手方が名義人自身を営業主と信じたか、別法人の代表者と理解したか。
⑤ 事業譲渡契約の効力発生、旧債務の引受け、商号・屋号続用及び免責通知。

記録の欠落を相手方の誤認や名義人の許諾の立証に置き換えない。各債権者が接した資料と認識を個別に調べる。

第5 出典と調査の限界

(続きを読む...)名板貸の許諾撤回・営業主交替後に何を止め、誰に知らせるか―名義人の実務対応(AI作成)

個人名・屋号を貸した後の事業譲渡―名板貸人は譲受人の債務まで負うか(AI作成)

目次第1 誰の、いつの債務かを先に確定する第2 旧商法と現行法で条文の対象が違う第3 最初の営業者への名義使用許諾第4 事業譲渡後の使用は改めて判断する第5 旧債務と新債務を混同しない第6 実務で収集する資料第7 名義人・譲受人が備えるべきこと第8 参照した一次資料と判断の範囲

名義を貸した相手が事業を第三者に譲り渡し、その第三者も同じ名前で取引を始めたとき、名義人はどこまで責任を負うのか。最初の使用許諾と譲渡後の使用を分けて判断する。以下は令和8年10月2日現在の法令に基づく整理である。平成15年度司法試験商法第2問のような旧法事案には、出題当時の条文を適用する。

第1 誰の、いつの債務かを先に確定する

甲がAに名称の使用を認め、AがBに事業を譲渡した場合、①甲とAの名義使用、②甲とBの名義使用、③AとBの事業譲渡という三つの関係がある。Aと取引したCの債権、譲渡後にBと取引したDの債権は、成立時期も責任根拠も異なる。

BがAの債務を負うかは、事業譲渡契約、商号続用、債務引受広告などの問題である。甲がBの新しい債務を負うかは、Bによる名義使用を甲に帰属させられるかという別の問題である。事業譲渡の事実だけで、甲のAへの許諾が当然にBへ移るわけではない。

第2 旧商法と現行法で条文の対象が違う

平成15年当時の旧商法23条は、自己の「氏、氏名又ハ商号」を他人に使用させて営業を行うことを許諾した者の責任を定めていた。著名人が個人名を貸した設例では、この文言が出発点となる。

現行の商法14条と会社法9条の文言は「自己の商号」である。単なる個人名やブランド名を貸しただけで、現行の両条を当然に直接適用できると書くのは正確でない。個人名を商号として用いているか、名義人自身が誤認を生む外観の作出に関与したかを個別に検討する。旧法の結論を現行法にそのまま移さない。

第3 最初の営業者への名義使用許諾

名板貸人の責任を検討するには、名義人がAによる営業上の使用を許諾した範囲、顧客から見た営業主体の表示、相手方の誤認を確認する。書面契約だけでなく、看板、広告、契約書、領収書、ウェブサイト、名義人の発言や関与も重要である。

名前が商品や店の品質を示すだけなのか、それとも甲自身が営業するように見せるものなのかを分ける。裁判所公開の平成15年2月28日判決では、ゴルフクラブの表示だけで結論を出さず、入会案内、通知、振込先、領収書に実際の契約主体が明示されていたことなどが検討された。個々の表示が誰を営業主体と示していたかが要点である。

第4 事業譲渡後の使用は改めて判断する

Aへの許諾があっても、Bがその許諾の相手方になるとは限らない。甲がBへの譲渡を承認したか、譲渡後の名称使用を明示又は黙示に認めたか、広告・開店・取引に関与したかを時系列で確かめる。単にBの使用を知らず、差止めをしていないだけで、黙示の許諾が成立したと即断してはならない。

逆に、甲が譲渡を知り、Bを自ら紹介し、甲の名を冠した新店舗の広告や取引書類を承認したなどの事情があれば、Aへの当初の許諾とは別に、Bとの関係で責任の基礎となるかを検討する。名義使用許諾が立証できない場合も、甲が営業主体について誤認を招く外観を自ら作ったかという問題は残る。ただし、外観への関与と第三者の誤認を具体的な証拠で示す必要がある。

営業者交替後の新債務を扱った大阪地裁昭和56年3月18日判決(昭和54年(ワ)第5278号、金商622号39頁、判例秘書L03650134)は、旧営業主が営業譲渡後も同じ場所・従業員・営業名による取引を続けさせ、取引先への通知が遅れた事情から旧商法23条の責任を認めた。ただし、判決は譲渡前に供給契約が成立した余地にも言及する。名義人・旧営業主と譲受人との関係、契約成立日を事案ごとに調べる必要がある。

東京地裁昭和62年4月30日判決(昭和59年(ワ)第12999号ほか、判時1266号31頁、判例秘書L04230148)は、店舗賃貸後に従前の看板・従業員を続用させた事案で黙示の名称使用許諾を認めた。反対に、東京地裁平成15年10月9日判決(平成14年(ワ)第27281号、判例秘書L05834154)は、相手方が被告個人を営業主と信じていなかったため名板貸責任を否定した。いずれも最初の名板借人から別人への典型的な三者間事業譲渡ではなく、許諾と誤認を個別に吟味する参考例である。

第5 旧債務と新債務を混同しない

Aと取引したCが甲に請求する場合、Cの取引時点で甲の名義がどう使われ、甲が何を許し、Cが誰を営業主体と理解したかを調べる。譲渡後にBと取引したDが甲に請求する場合は、Bの取引時点での甲の許諾又は外観作出への関与を別途立証する必要がある。Cに対する責任を認めることと、Dに対する責任を認めることは同義ではない。

一方、CがBにAの旧債務を請求する場合は、会社法22条、商法17条の商号続用責任や債務引受広告を検討する。商号以外の屋号や名称でも、それが営業主体を表示する機能を持つ場合には類推適用が争点となり得る。

最高裁平成16年2月20日判決は、ゴルフクラブ名の続用について、会員が同一主体による営業継続、又は主体は変わっても旧債務を引き受けたと信じることが無理からぬ場合を示し、譲受人が譲受後遅滞なく会員の施設優先利用を拒否したなどの特段の事情を検討させた。この判決は平成15年度試験の出題後のものであり、当時の判例として扱わない。

第6 実務で収集する資料

① 名称使用契約の原本、許諾範囲、譲渡・再許諾の条項
② AからBへの譲渡契約、効力発生日、甲への通知と回答
③ 譲渡前後の看板、広告、ウェブ画面、SNS、ドメイン、電話番号
④ C・Dそれぞれの契約書、請求書、領収書、振込先
⑤ 誰が店舗を運営すると説明したかを示すメール、案内、録音
⑥ 甲が名称使用を承認、宣伝、抗議又は中止要求した日時と記録
⑦ 債権者が当該表示をいつ見て、誰を営業主体と理解したかの資料

取引相手の誤認や、その認識に著しい落ち度があったかは、実際に相手方が接した資料に即して判断する。看板やウェブ画面の存在だけで誤認を推定せず、契約書や振込先に記載された主体との整合も調べる。

第7 名義人・譲受人が備えるべきこと

名義使用契約には、許諾する名称、用途、対象店舗、期間、事業譲渡時の扱い、再許諾の可否、表示の事前承認、終了後の撤去・周知を具体的に定める。譲渡時には、甲がBの使用を認めるかを改めて書面化する。認めない場合は、Bへの中止要求と、取引先に対する営業主体の明確な告知を検討する。

Bは、名称を続用する前に、甲の許諾、Aの旧債務、顧客・取引先への表示を調査する。営業主体の変更と旧債務の扱いを契約書、ウェブサイト、店頭表示、顧客通知で矛盾なく伝える。商号続用については法定の登記・通知の要件と時期も確認する。事業譲渡に伴う旧債権者の請求については、関連記事「事業譲渡で残存債権者は譲受会社に請求できるか」も参照されたい。

名義使用の許諾を撤回した後の表示撤去、営業主交替の通知と証拠保存については、関連記事「名板貸の許諾撤回・営業主交替後に何を止め、誰に知らせるか」で扱う。

第8 参照した一次資料と判断の範囲

① e-Gov法令検索・商法14条、17条、同・会社法9条、22条、23条。
② 最高裁平成16年2月20日判決本文(ゴルフクラブ名と旧債務)。
③ 裁判所公開の平成15年2月28日判決本文(表示・契約書類と名板貸責任)。

④ 判例秘書掲載判決本文:大阪地裁昭和56年3月18日(L03650134)、東京地裁昭和62年4月30日(L04230148)、東京地裁平成15年10月9日(L05834154)。裁判所ウェブサイトの公開本文は確認できていない。判例秘書の検索範囲と事案の限界は、各判決の説明に示した。

(続きを読む...)個人名・屋号を貸した後の事業譲渡―名板貸人は譲受人の債務まで負うか(AI作成)

取締役の競業取引を承認し損害を立証する実務――取締役会議事録・取引台帳・会社法423条2項(AI作成)

目次第1 兼任の承認と取引の承認を分ける第2 承認前に特定する取引1 会社の現実の事業と兼任先の取引を照合する2 在任期間と取引時期を確定する第3 取締役会に提出する資料と議事録1 重要な事実を具体化する2 議事録の記載例は事実に合わせる第4 損害賠償請求の組み立て1 請求原因と423条2項の位置付け2 顧客別・期間別に利益を計算する第5 相談時の確認順序と別論点第6 出典と調査範囲
第1 兼任の承認と取引の承認を分ける

取締役が競合会社の代表者を兼ねる場合,会社がその兼任を知っていたという事実だけで,兼任先の具体的な競業取引を承認したとはいえない。会社法356条1項1号は,取締役が自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき,その取引の重要な事実を開示して承認を受けることを求める。取締役会設置会社の承認機関は取締役会であり,取引後には重要な事実の報告も必要となる(365条)。

実務では,①誰がいつまで取締役であったか,②どの会社のために,誰と,何を取引したか,③承認の対象と範囲,④取引後の報告,⑤当該取引から得た利益を,別々の資料で確認する。本記事は令和8年10月2日時点の裁判所公開資料と判例秘書で確認した判決本文を基に,承認の準備と損害賠償請求の立証を扱う。兼任と競業取引の基本的な区別は関連記事で整理した。

第2 承認前に特定する取引
1 会社の現実の事業と兼任先の取引を照合する

定款の事業目的や兼任先への就任だけで結論を出さない。会社が現に扱う商品・役務,顧客,地域,時期と,兼任先が行おうとする取引を対比する。取締役が競合会社を代表して顧客と契約する場合も,兼任先のためにする取引として356条1項1号の対象となり得る。

大阪地裁令和5年4月17日判決25~27頁は,兼任先の請求書データの作成時期,振込先,取引相手の回答等を吟味し,在任中の契約締結も取引の申出も認めなかった。単なる兼任や営業上の接触から売買契約が成立したと推認しない。他方,勧誘の態様により秘密情報の持出し等が別途問題となり得る。同判決があらゆる勧誘を適法としたわけではない。

2 在任期間と取引時期を確定する

登記,選任・辞任に関する議事録,辞任届,会社との合意,報酬の終了日及び顧客別の契約日を1本の時系列に置く。大阪地裁令和7年4月24日判決47~49頁は,勤務と報酬が先に終わっていても,合意された辞任日までは取締役の義務が続くと判断した。同判決56~58頁は,在任中に始まった取引とこれに連続する退任後の取引について,因果関係が及ぶ期間を令和2年6月30日までと認定した。退任後の売上を一律に除外することも,全期間を算入することもできない。

第3 取締役会に提出する資料と議事録
1 重要な事実を具体化する

承認議案には,兼任先の商号・事業,対象の商品・役務,予定する顧客又は顧客群,地域,期間,価格決定の方法,原会社との競合の程度を記載する。取引が継続するなら,取引の類型と上限,条件が大きく変わった際の再審議の方法も示す。抽象的に「兼任を了承する」と記録するだけでは,後に問題となる取引が決議の範囲内か検証しにくい。これらは紛争予防のための記載事項の提案であり,会社法が一律の議事録文言を定めたという意味ではない。

当該取締役が決議について特別の利害関係を有するかを検討し,該当するときは議決に加えない(369条2項)。兼任の事実だけで個々の議案についての結論を決めず,兼任先での地位と当該取引の利益を記録する。取締役会非設置会社では,356条1項の承認機関は株主総会である。

東京地裁令和5年6月29日判決(令和3年(ワ)第7256号・第8178号,判例秘書L07832687)第3の2は,競業・利益相反取引の承認は原則として取引ごとに必要であり,同種同型の取引を反復継続する場合には合理的な限度を定めた包括承認が可能である一方,限度のない抽象的・概括的な承認は許されないとした。争われたのは,代表者が自己の支配する会社へ,方法を問わず利益を移せるとの合意であり,裁判所はそのような合意の存在も認めなかった。継続取引の承認をすべて否定した判決ではない。

東京地裁令和6年11月13日判決(令和2年(ワ)第15957号・第32403号・第32498号,判例秘書L07932270)は,両社の代表取締役を兼ねる者について,代表取締役への就任と競業行為を認める決議があっても,事業譲渡まで承認したものではないと判断した。また,ライセンス契約を追認する決議とは別に,不要なロイヤルティ負担や不正確な説明による任務懈怠を検討した。競業の承認と,貸付け・ライセンス・知的財産の移転等の利益相反取引の承認を,同じ議案に曖昧にまとめない。

承認の有無は議事録だけで機械的に判断しない。東京地裁令和6年1月31日判決(令和4年(ワ)第11964号,判例秘書L07930305)第3の3は,取締役会非設置会社で,無報酬の取締役が従前の個人事業を会社の設備で続けることにつき,連絡役への具体的な相談,供述の信用性,一人株主側が異議を述べなかった事情等から,一人株主の了承を認めた。単なる沈黙が常に承認になるという判断ではない。反対に,東京地裁令和7年3月13日判決(令和元年(ワ)第31100号・令和2年(ワ)第10745号・令和3年(ワ)第27359号,判例秘書L08030637)第3の3は,以前の出版活動を容認していたこと等から,会社の顧客を別の一般社団法人へ移す将来の取引まで一括して了承していたとは認めなかった。同事件の兼任先は一般社団法人であり,競合株式会社の代表取締役兼任の事例そのものではない。

2 議事録の記載例は事実に合わせる

例えば「取締役BはC社の代表取締役として,令和○年○月から○月まで,○地域で○商品を○顧客群へ販売する予定である。Bは予定取引の内容,価格条件及び当社事業との競合について資料○を示した。取締役会は,取引先・商品・期間及び金額上限○円を資料○で特定した範囲の取引を承認した。新規顧客群の追加,商品・期間・上限の変更は改めて審議する。原会社との貸付け,ライセンス又は事業・権利の移転は,本議案の承認対象に含めない」と記録し,実際に提出した資料を特定することが考えられる。決議への参加者,特別利害関係の判断,条件変更時の扱いも個別事情に応じて記録する。これは記載の発想を示す例であり,この文面だけで承認が有効になるとの保証ではない。

取引後は,365条2項に基づき,実際の相手方,契約日,売上・費用及び当初予定からの変更を報告する。承認を得た取引でも,会社への情報提供や善管注意義務が当然に免除されるわけではない。後者は東京地裁民事第8部の訴状記載例の注記にも示されているが,これは判決ではない。

第4 損害賠償請求の組み立て
1 請求原因と423条2項の位置付け

会社は,取締役の在任,会社の現実の事業,対象となる競業取引,必要な承認の欠如,損害を取引ごとに特定する。東京地裁民事第8部の訴状記載例10~13頁も,承認を得ていないことと,取締役又は競業会社がその取引によって得た利益を分けて記載する。

356条1項に違反して同項1号の取引をしたときは,その取引によって取締役又は第三者が得た利益の額が,会社の損害額と推定される(423条2項)。推定の対象は取引から得た「利益」であり,兼任先の総売上そのものではない。取引が認定されない場合や,在任期間外の取引について,同項による計算へ直ちに進むことはできない。

2 顧客別・期間別に利益を計算する

会社側は,契約書,見積り・発注書,請求書,入金記録,納品・役務提供記録,顧客との通信及び兼任先の会計資料を対応付ける。請求書データの作成履歴や取引先の回答も確認する。取締役側は,承認議事録,事後報告,対象外の顧客・期間の売上,取引に対応する費用を区分する。売上減少を主張する場合も,それが当該取引によるかを別途検討する。

大阪地裁令和7年4月24日判決55~58頁は,立証された1顧客との在任中の取引及びそれに連続する退任後の一定期間の取引に範囲を絞り,売上262万9110円と利益率約61.08%を基に利益160万5977円を算定した。別顧客との取引や調査費用はそのまま認めなかった。これは当該事件の証拠に基づく算定であり,他事件で一律に同じ算定期間や利益率を用いる根拠ではない。

東京地裁令和6年6月26日判決(令和3年(ワ)第479号・第27130号,判例秘書L07931067)第3の2・3は,クリエイティブ業務を行う取締役が個人で受託した8件について,会社の実際の業務内容を証拠から認定し,株主総会の承認がない競業取引と判断した。報酬合計1380万8700円を取締役の利益として423条2項の推定を適用し,顧客が会社には発注しなかったとの主張等による反証を認めなかった。これは個人受託の事例であり,兼任先の全売上を利益と扱ったものではない。

東京地裁令和5年6月29日判決第3の6は,会社の事業に属する匿名組合出資を,取締役が代表する別会社で無承認に行った事案で,実際の利益分配金から源泉所得税を控除した5290万6905円について423条2項による損害額の推定を認めた。他方,将来20年間の予定分配額を基にする請求のうち口頭弁論終結後の部分は,将来の給付の訴えの要件を満たさないとして却下した。実際に得た利益と将来の予定収益,出資払戻金を区別して資料を整理する。

損害の算定方法も区別する。東京地裁令和7年3月13日判決第3の5は,失った契約の1年分の収入から,履行に必要な外注費50%を控除して549万4186円の損害を認めた。この箇所は423条2項による競業先の利益額推定ではなく,会社の逸失利益の算定である。また,令和6年1月31日判決は,了承がないと仮定しても,従前から取締役個人の顧客であった取引先から会社が受注したであろう証拠がないとして,主張された損害との因果関係を認めなかった。

(続きを読む...)取締役の競業取引を承認し損害を立証する実務――取締役会議事録・取引台帳・会社法423条2項(AI作成)

競合会社の代表取締役を兼ねる取締役の競業取引――兼任・取引・承認・損害を分けて考える(AI作成)

目次第1 兼任の事実だけで結論を出さない第2 何が競業取引となるか1 会社の事業と取引の中身を対比する2 就任・準備・勧誘と取引成立第3 承認手続と兼任者の立場第4 取引が認められた裁判例と在任期間第5 損害と立証資料第6 依頼時の確認順序と関連論点第7 出典と確認範囲
第1 兼任の事実だけで結論を出さない

ある会社の取締役が、同業他社の代表取締役にも就任した場合、兼任という地位と、その他社のために具体的な取引を行うことを分けて検討する必要がある。
会社法356条1項1号が承認の対象とするのは、取締役が自己又は第三者のために「株式会社の事業の部類に属する取引」をしようとする場合である。
兼任の登記は取引の当事者と時期を調べる重要な端緒となるが、それだけで個々の競業取引の成立や損害額まで証明するものではない。

本記事は令和8年10月2日時点の裁判所公開資料と判例秘書で確認した判決本文を基に、取締役の任務懈怠責任を検討する手順を整理する。
同日の確認ではe-Gov法令検索の会社法本文を直接表示できなかったため、条文は逐語引用せず、裁判所の訴状記載例及び後掲の裁判所公開判決に照らして要点を示す。

第2 何が競業取引となるか
1 会社の事業と取引の中身を対比する

まず、兼任先の定款上の目的だけではなく、両社が現実に扱う商品・役務、顧客、地域、取引時期を確認する。
次に、問題の取締役が兼任先を代表して締結した契約、受注、納品など、どの行為を会社の事業の部類に属する取引と主張するのかを特定する。
第三者である競合会社のために取引した場合も356条1項1号の検討対象となる。

2 就任・準備・勧誘と取引成立

大阪地裁令和5年4月17日判決・令和3年(ワ)第11560号25頁~27頁は、原告会社の取締役が競合会社の代表取締役を兼ねた事案である。
裁判所は、在任中の売買契約の証拠とされた請求書データについて、ファイル作成時期、振込先、相手方の回答などを検討し、契約締結も取引の申出も認めなかった。
また、展示会の来場者への名刺交付や取引の勧誘について、在任中に取引が行われていなければ356条・365条違反の競業取引には当たらないとし、この事件では善管注意義務・忠実義務違反も認めなかった。

この判断から、単なる兼任や勧誘を直ちに「取引」と言い換えることはできない。
ただし、準備・勧誘の態様によっては秘密情報の持出しや忠実義務違反など別の問題が生じ得るし、個々の勧誘が取引の申出に至ったかは証拠に即して判断する必要がある。
同判決の結論を、在任中の顧客勧誘が常に適法という一般論に広げてはならない。

第3 承認手続と兼任者の立場

取締役会設置会社では、競業取引に先立ち重要な事実を示して取締役会の承認を受け、取引後にも重要な事実を報告する(会社法356条1項1号、365条)。
取締役会を置かない会社では、事前承認の機関は株主総会である。
兼任先の商号・事業、取引相手、商品・役務、地域、期間、価格その他の重要な条件を具体化し、取引前の議事録に残すことが実務上重要である。
「兼任を了承した」ことと「どの競業取引を承認したか」は同じではない。

取締役会の決議では、当該取締役の特別利害関係の有無を検討し、該当するときは議決に加えない(会社法369条2項)。
競合会社の代表者であるという事実を踏まえ、当該取引についての利害を議事録上明らかにして判断すべきである。
また、競合会社と元の会社が互いに契約する場合には、競業取引の問題とは別に、356条1項2号・3号の利益相反取引にも該当するかを検討する。

承認を得ても、顧客情報の流用や会社に対する説明不足が当然に免責されるわけではない。
東京地裁民事第8部の訴状記載例13頁も、承認済みの競業取引についてなお善管注意義務違反が問題となり得る旨を注記している。
これは訴状の記載例であり、個別事件の判決ではない。

(続きを読む...)競合会社の代表取締役を兼ねる取締役の競業取引――兼任・取引・承認・損害を分けて考える(AI作成)

会社が別会社の債務を保証するときの取締役会決議と利益相反―確認資料と争い方(AI作成)

目次第1 結論と本記事の対象第2 多額の借財・重要な業務執行第3 利益相反取引との区別第4 取締役会の審査と議事録第5 金融機関等の確認事項第6 承認・決定を欠く場合の効力第7 紛争時の証拠と取締役の責任第8 関連記事第9 出典と確認範囲
第1 結論と本記事の対象

会社Aが別会社Cの銀行借入れを保証する場合,最初に①Aの保証が会社法362条4項2号の「多額の借財」又は同項柱書の重要な業務執行に当たり,取締役会の決定を要するか,②AとC又はAの取締役との具体的関係から,別途,356条1項3号の利益相反取引にも当たるかを分けて検討する。Cの債務は法人格上,取締役個人の債務ではない。「Aの取締役がCの役員・株主だから利益相反」と即断することも,「主債務者が別会社だから取締役会は不要」と即断することもできない。

本記事は取締役会設置会社を中心に,令和8年10月2日時点の会社法と公開一次資料を基礎として,契約前・訴訟前に確認すべき資料を整理する。会社法356条の評価には個々の利害関係と保証条件が必要であり,以下の事例評価は条文からの検討である。個別保証の効力を一律に結論付けるものではない。

第2 多額の借財・重要な業務執行

取締役会設置会社では,取締役会は重要な業務執行を決定し,そのうち「多額の借財」などを取締役に委任できない(会社法362条4項)。保証は会社に現実の借入金を入れる取引ではないが,主債務者が返済できなければ保証会社が支払う債務を負う。昭和56年の商法改正審議で政府委員は,旧商法260条2項の「多額ノ借財」に保証債務を含める趣旨を説明した。この国会答弁は旧法の立法資料であり,現行法の個別事案について多額性を自動認定する資料ではない。

多額性・重要性は保証限度額だけでなく,Aの総資産,売上高,純資産,既存保証残高,返済不能時の資金繰り,保証期間,求償権の回収見込み,反対給付及び通常の取引慣行と比較して判断する。金額が小さくても事業上重要な取引であれば同項柱書の問題が残る。逆に,金額だけから直ちに結論を出さず,決定時点の財務資料を保存する。

第3 利益相反取引との区別

会社法356条1項3号は,株式会社が取締役の債務を保証する場合を明示し,その他,取締役以外の者との間で会社と当該取締役との利益が相反する取引を対象とする。取締役個人が主債務者の保証と,別会社が主債務者の保証では,出発点が異なる。

例えばAの取締役BがCの監査役である,あるいはC株式を多数保有する場合は,BがCの資金調達から得る利益の内容と大きさを確認する。BがCの借入れを個人保証しているなら,Aの保証によってBの負担が軽くなる可能性がある。AがCから相応の保証料・担保を得るのか,Cの倒産時にAがどれだけ負担するのかも重要である。役職名や持株比率だけで356条1項3号該当性,特別利害関係,又は契約無効を確定させてはならない。

利益相反取引に当たると判断した場合,取締役会設置会社では重要事実を開示して取締役会の承認を得る(365条1項)。承認決議に特別の利害関係を有する取締役は議決に加われず(369条2項),取引後には重要な事実を取締役会へ報告する(365条2項)。利益相反に当たらない場合でも,362条4項の取締役会決定の要否は独立して残る。

BがCの代表取締役を兼ね,CがAと競合する商品を顧客へ販売するなら,その販売はBによる兼任先のための競業取引(356条1項1号)として別途検討する。他方,AがCの借入れを保証する行為は,Aにとっての間接利益相反取引(同項3号)の成否と,重要な業務執行に関する取締役会決定(362条4項)を検討する。兼任,Cの販売及びAの保証を一つの「承認」で処理しない。

第4 取締役会の審査と議事録

決議資料には,主債務者・債権者,借入額,保証限度額,保証期間,元本・利息・遅延損害金の範囲,担保,既存保証,求償権の保全,Aが保証する事業上の利益,Cの返済原資及びAの資金繰りへの影響を記載する。複数の保証があるときは個別額と合計負担額を示す。議事録には審議の対象となった契約書案,利害関係を申告した取締役,議決に参加した者,決議の結論を対応付ける。

Cの株主・役員との兼職関係は取引ごとに更新する。借入れの増額,保証の更新,担保の追加等があれば,当初決議の射程に入るかを契約書と決議文で再確認する。形式上の「包括承認」だけでは,後に争われる保証の条件を特定できないことがある。

第5 金融機関等の確認事項

保証を受ける金融機関等は,①保証会社の登記事項証明書と定款,②保証契約書・主債務契約書,③保証条件を特定した取締役会議事録,④取締役と主債務会社の役員・株主・個人保証関係,⑤会社規模と保証額の関係を示す資料を確認する。議事録がない,又は契約条件と食い違う場合は,その理由と追加確認の経過を記録する。代表取締役の「承認済み」という説明のみで決議の存在が証明されるわけではない。

特に保全申立てを予定する場合,被保全権利である保証債権の成立・有効性と,保全の必要性を分けて検証する。不当な仮差押えによる損害賠償リスクもあるため,決議欠缺の疑いを把握した経緯と調査結果を保存する。

第6 承認・決定を欠く場合の効力

最高裁昭和40年9月22日判決は,取締役会決議を要する一般の対外取引について,決議を欠いても原則有効とし,相手方が欠缺を知り又は知り得べかりし場合に無効とした。他方,最高裁大法廷昭和43年12月25日判決は,取締役が自己のためにした旧商法265条の取引につき,会社が第三者に承認欠缺による無効を主張するには,相手方が欠缺を知っていたことの主張立証を要するとした。両判決は対象と相手方の主観的要件の表現が異なる。

別会社の債務保証でどちらの法的経路が成立するかを先に特定する。356条の利益相反該当性を十分検討せず昭和43年判決を直接当てはめたり,利益相反の問題を昭和40年判決だけで処理したりしない。相手方の認識は,決議の提出要求,回答,稟議,契約の停止条件,人的関係など締結時の具体的証拠で検討する。

第7 紛争時の証拠と取締役の責任

会社側は,保証契約,借入契約,決議・議事録,財務諸表,取締役とCの関係,銀行等の照会記録を時系列で整理する。利益相反承認の欠缺と,多額の借財・重要な業務執行に関する決定欠缺は分けて主張する。銀行等は承認を確認した日時・担当者・受領資料を示す。決議がなかった事実だけで対外効を断定できない。

保証により会社に損害が生じたときは,取締役の任務懈怠に基づく会社法423条1項の責任を検討する。利益相反取引に該当する場合には同条3項の任務懈怠推定が問題となる。保証履行額全額を当然に損害とせず,保証料,主債務者からの回収,担保実行,求償権の価値を調べる。東京地裁の公開参考書式は,取締役個人債務の保証と競業取引の請求原因の立て方を示すが,別会社債務保証の全事案への答えを示すものではない。

第8 関連記事

①会社が取締役個人の債務を保証した場合―利益相反取引,取締役会決議と取引相手の確認事項
②不当な仮差押えによる損害賠償―過失の推認と担保からの回収
③競合会社の代表取締役を兼ねる取締役の競業取引
④取締役の競業取引を承認し損害を立証する実務

第9 出典と確認範囲

①e-Gov法令検索「会社法」356条,362条,365条,369条,423条。
②第94回国会衆議院法務委員会昭和56年4月21日会議録(保証債務と旧商法260条2項に関する政府答弁)。
③最高裁昭和40年9月22日判決全文。
④最高裁大法廷昭和43年12月25日判決全文。
⑤東京地方裁判所民事第8部・取締役の任務懈怠責任の参考書式。

令和8年10月2日,国会会議録及び裁判所公開資料を確認した。e-Gov法令検索は同日の確認時にメンテナンス中であり,会社法条文の掲載画面は再確認できていない。昭和40年・43年判決は旧商法下の判断であり,現行会社法への適用は対象を確かめて行う。判例秘書の網羅検索は本記事作成時に行っておらず,別会社の債務保証をめぐる後続裁判例の有無・射程は未確定である。

会計限定監査役の監査義務―残高証明書の偽造と従業員横領に関する最高裁令和3年7月19日判決(AI作成)

目次

第1 結論
第2 最高裁令和3年7月19日判決の事案
第3 最高裁が示した監査義務

1 帳簿と計算書類の一致だけでは足りない場合がある
2 基礎資料と会計管理体制を確認する
3 公認会計士監査と同じ義務ではない

第4 監査手続を決める実務上の要素
第5 会社側・監査役側の証拠
第6 横領等を発見した後の対応
第7 まとめ
第8 出典

会計限定監査役は、会計帳簿と計算書類の数字が一致していることを確認すれば、常に任務を尽くしたことになるでしょうか。最高裁令和3年7月19日判決は、従業員が預金残高証明書を偽造して横領を隠していた事案で、このような一律の考え方を否定しました。本記事は、同判決が示した判断枠組みと、中小会社の会計監査で残すべき証拠を整理します。

第1 結論

会計限定監査役は、会計帳簿に計上された数字が計算書類へ正しく転記されていることを確認するだけで、常に任務を尽くしたことになるわけではありません。計算書類が会社の財産・損益の状況を重要な点で適正に表示しているかを確かめるため、預金等の重要性、管理状況、内部統制、過去に受けた報告等に応じ、帳簿作成状況の報告を求めたり、残高証明書その他の基礎資料を確かめたりすべき場合があります。

他方、同判決は、会計限定監査役に公認会計士又は監査法人と同じ監査を常に要求したものではありません。具体的な任務懈怠、発見可能性、損害及び因果関係は、個別事情に基づく審理事項です。

第2 最高裁令和3年7月19日判決の事案

会社の経理担当従業員は、会社名義の当座預金口座から自己名義の口座へ多数回送金し、長期間にわたり合計2億円を超える金員を横領しました。従業員は送金を会計帳簿へ計上せず、帳簿上の残高と実際の残高の不一致を隠すため、預金残高証明書を偽造していました。

監査範囲を会計に限定された監査役は、従業員から提出された残高証明書が偽造であることに気付かないまま、残高証明書と会計帳簿を照合し、計算書類等の情報が帳簿の内容と合致していることを確認しました。会社は、横領発覚の遅れによる損害について、会社法423条1項に基づき監査役へ損害賠償を請求しました。

原審は、帳簿の信頼性欠如が明らかである等の特段の事情がなければ、計算書類と帳簿の一致を確認すれば足りるとして請求を棄却しました。最高裁はこの判断を破棄し、さらに審理させるため事件を差し戻しました。

第3 最高裁が示した監査義務
1 帳簿と計算書類の一致だけでは足りない場合がある

監査役は、計算書類等に表示された情報と表示すべき情報との合致の程度を確かめ、会社の財産及び損益の状況を重要な点で適正に表示しているかについて意見等を記載した監査報告を作成します。この監査には、独立した監査役に確認を担わせることにより、計算書類等の信頼性を高める役割があります。

(続きを読む...)会計限定監査役の監査義務―残高証明書の偽造と従業員横領に関する最高裁令和3年7月19日判決(AI作成)

新株発行不存在確認の訴えと確認の利益―新株発行無効の訴えとの違いと最高裁平成4年10月29日判決(AI作成)

目次

第1 結論
第2 三つの訴えを区別する

1 新株発行無効の訴え
2 新株発行不存在確認の訴え
3 株主総会決議の不存在・無効確認

第3 最高裁平成4年10月29日判決

1 事案と原審
2 最高裁の判断
3 判決から得られる実務上の意味

第4 現在の会社法上の手続

1 被告・管轄・必要的併合
2 認容判決の対世効
3 無効判決の将来効との違い

第5 不存在か無効かを分けるための証拠
第6 確認の利益を基礎付ける事情
第7 訴え提起前後のチェックリスト
第8 出典及び確認限界
第9 まとめ

(続きを読む...)新株発行不存在確認の訴えと確認の利益―新株発行無効の訴えとの違いと最高裁平成4年10月29日判決(AI作成)

新株発行無効判決の効力を受ける第三者の再審―独立当事者参加,対世効及び会社の訴訟活動(AI作成)

目次

第1 結論
第2 最高裁平成25年11月21日決定の事案
第3 新株発行無効判決の対世効と第三者
第4 独立当事者参加による再審原告適格
第5 民事訴訟法338条1項3号の再審事由
第6 通知がなかっただけで直ちに再審となるわけではない
第7 会社側の訴訟活動の実務
第8 第三者側の初動と立証資料
第9 決定の射程と差戻し後の注意
第10 出典・確認状況及び関連記事

新株発行無効判決は,訴訟の当事者でない株主等にも効力を及ぼします。最高裁平成25年11月21日決定は,その効力を受ける第三者の再審原告適格と,会社の著しく信義に反する訴訟活動が第三者の手続保障を害した場合の再審事由を示しました。

第1 結論

最高裁平成25年11月21日第一小法廷決定(平成24年(許)第43号,民集67巻8号1686頁)は,次の二点を示して原決定を破棄し,東京高裁へ差し戻しました。

新株発行無効判決の効力を受ける第三者は,それだけでは当然に再審原告適格を有しないが,確定判決に係る訴訟について独立当事者参加の申出をすることにより,再審原告適格を有する。
会社の訴訟活動が著しく信義に反し,第三者に確定判決の効力を及ぼすことが手続保障の観点から看過できない場合には,民事訴訟法338条1項3号の再審事由となる余地がある。

第2 最高裁平成25年11月21日決定の事案

抗告人は,新株予約権を行使し,平成23年2月7日に発行された1500株の株主となりました。その後,別の株主が会社だけを被告として,新株発行不存在確認の訴えを提起し,予備的に新株発行無効の訴えを追加しました。

会社は第1回口頭弁論期日に請求を認め,請求原因事実を全て認める旨を答弁しました。裁判所から追加立証を促されると,会社は新株発行が見せ金によるものであること等を記載した陳述書を提出しました。新株発行を無効とする判決は同年10月14日の経過により確定しました。

抗告人は,確定後に前訴を知り,独立当事者参加を申し出るとともに,再審の訴えを提起しました。会社は,前訴前から抗告人が新株発行の有効性を主張していたことを知り,前訴係属を容易に知らせられたのに知らせていませんでした。

第3 新株発行無効判決の対世効と第三者

(続きを読む...)新株発行無効判決の効力を受ける第三者の再審―独立当事者参加,対世効及び会社の訴訟活動(AI作成)

株主総会決議の不存在―招集通知の欠缺,招集権限のない者の招集,後続決議への連鎖,全員出席総会及び追認(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 決議の瑕疵を争う三つの訴え第3 決議が不存在とされる場合1 招集通知が大部分の株主に全くされなかった場合2 招集の権限のない者が招集した場合3 取消事由にとどまる場合との境界4 判断の視点第4 全員出席総会と招集手続の省略1 全員出席総会2 会社法300条の招集手続の省略3 一部の株主しか出席していない場合第5 後続の決議への連鎖1 不存在の決議で選任された取締役による招集2 先行決議の存否を確認する利益第6 追認・再決議1 取消事由にとどまる決議の再決議2 不存在の決議の追認第7 不存在を主張する場面と期間1 訴えと前提問題としての主張2 解任決議が不存在の場合の報酬請求第8 実務上の確認事項1 会社側2 株主・役員側第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例第11 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,株主総会の決議に手続上の瑕疵がある場合に,その決議が「取り消すことができる決議」にとどまるのか,それとも決議が法律上「存在しない」と評価されるのかを,最高裁判所の判例に即して整理する。
決議の不存在は,取消しの訴えと異なり期間の制限がないため,招集手続の瑕疵に後から気付いた株主や解任された役員にとって重要な意味を持つ。
法令は,令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトで判示事項・裁判要旨(一部は判決全文)を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①招集手続の瑕疵は原則として決議取消しの事由(会社法831条1項1号)であり,決議の日から3か月以内に訴えで主張しなければならない。
②もっとも,大部分の株主に招集通知が全くされず,一部の株主だけで決議をした場合や,招集の権限のない者が取締役会の決議を経ずに招集した場合には,株主総会の決議があったとはいえないとした最高裁判所の判例がある。
③不存在の決議で選任された取締役らが招集した後続の総会の決議も,全員出席総会であったなどの特段の事情がない限り不存在になるとした判例がある。
④招集手続を欠いても,株主全員が開催に同意して出席した全員出席総会の決議は有効であり,会社法は株主全員の同意による招集手続の省略も認めている(300条)。
⑤取消事由にとどまる決議については,遡って効力を生ずる同一内容の再決議がされると取消しの訴えの利益が失われるとした判例があるが,不存在の決議を追認して遡って有効にすることはできず,追認の決議は新たな決議として効力を持つにとどまると考えられる(本記事の解釈)。

第2 決議の瑕疵を争う三つの訴え
訴え対象となる瑕疵期間条文決議取消しの訴え招集手続・決議方法の法令・定款違反又は著しい不公正,決議内容の定款違反,特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議決議の日から3か月831条1項決議無効確認の訴え決議の内容の法令違反なし830条2項決議不存在確認の訴え決議が存在しないことなし830条1項

いずれも会社を被告とし(会社法834条16号・17号),請求を認容する確定判決は第三者に対しても効力を有する(会社法838条)。
取消しの訴えについては,招集手続・決議方法の法令・定款違反があっても,違反が重大でなく,かつ決議に影響を及ぼさないときは,裁判所は請求を棄却することができる(会社法831条2項)。

第3 決議が不存在とされる場合
1 招集通知が大部分の株主に全くされなかった場合

最高裁判所第二小法廷昭和33年10月3日判決(昭和31年(オ)第396号,民集12巻14号3053頁)は,株主9名・株式総数5000株の会社で,株主の一人である代表取締役が,自己の実子である2名の株主に口頭で招集を伝えただけで,他の6名の株主(持株2100株)には招集の通知を全くせず,親子3名だけで決議をした事案について,株主総会が成立しその決議があったものということはできないとした。
判決文は,手続に瑕疵があっても「決議取消の事由たるに過ぎず」とする上告人の主張に対し,決議は「なんら法律所定の手続によらず単に親子三名によつてなされた」として,不存在とした原審の判断を相当としている。
株式数で4割強(2100株/5000株),株主数で3分の2の株主が総会の開催を知る機会を全く与えられず,出席したのが身内だけであった点が重視されたといえる。

2 招集の権限のない者が招集した場合

最高裁判所第一小法廷昭和45年8月20日判決(昭和44年(オ)第276号,集民100号373頁)は,取締役会の決議を経ることなく,代表取締役以外の取締役によって招集された株主総会は,法律上の意義における株主総会とはいえず,そこで決議がされても,株主総会の決議があったものと解することはできないとした。

3 取消事由にとどまる場合との境界

招集手続の瑕疵のすべてが不存在をもたらすわけではない。
最高裁判所第一小法廷昭和46年3月18日判決(昭和44年(オ)第89号,民集25巻2号183頁)は,招集が取締役会の有効な決議に基づかず,招集の通知もすべての株主に対して法定の期間に2日足りない12日前にされた事案について,決議の取消請求を裁量棄却することの許されない重大な瑕疵があるとした。
この事案では,瑕疵は重大とされたが,扱いは取消しの問題であった。
招集の通知が全株主にされていたかどうかが,前記1との大きな違いである。

4 判断の視点

判例の事案からは,次のような事情が,不存在か取消しかを分ける目安になると考えられる(本記事の整理)。

(続きを読む...)株主総会決議の不存在―招集通知の欠缺,招集権限のない者の招集,後続決議への連鎖,全員出席総会及び追認(AI作成)

見せ金(仮装払込み)による募集株式の発行―会社法213条の2・213条の3の支払義務,議決権行使の制限,新株発行の無効及び株主の対応(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 見せ金とは何か1 典型的な見せ金2 会社の資金が還流する型3 判断に使う事情第3 平成26年改正前の扱い1 旧商法の下での判例2 平成26年改正で置かれた規定第4 現行法の仕組み1 引受人の支払義務2 関与した取締役の支払義務3 支払までの権利行使の制限4 株式を譲り受けた者5 設立の際の仮装払込み第5 既存株主が採れる手段1 責任追及等の訴え2 株主総会決議の取消しの訴え3 新株発行無効の訴え4 新株発行不存在確認の訴え第6 仮装払込みは新株発行の無効原因か1 無効原因の考え方2 否定する見方3 肯定する見方4 本記事の見方第7 会社・取締役の実務上の注意第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例第10 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,株式会社が募集株式を発行する際に,引受人が実際には出資をしないまま払込みの外形だけを整える「見せ金」(仮装払込み)が行われた場合に,引受人・取締役の責任,株式の権利行使の制限,新株発行の効力及び既存株主が採れる手段を整理する。
法令は,令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認し,平成26年の会社法改正で置かれた規定の文言は,衆議院ウェブサイトに掲載された改正法の本文でも確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトで判示事項・裁判要旨と判決全文を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①一時的な借入金で払込みの外形を整え,直ちに払い戻して借入先に返済するような払込みは,有効な払込みとはいえないとした最高裁判所の判例がある。
②払込みを仮装した引受人は,会社に対し,仮装した払込金額の全額を支払う義務を負い(会社法213条の2第1項1号),この義務は総株主の同意がなければ免除できない(同条2項)。
③仮装に関与した取締役(会社法施行規則46条の2が定める者)も,注意を怠らなかったことを証明しない限り,引受人と連帯して同じ額を支払う義務を負う(会社法213条の3)。
④引受人は,これらの支払がされるまで,仮装した株式について株主の権利を行使できず(会社法209条2項),その株式を譲り受けた者も,悪意又は重大な過失があれば同じく権利を行使できない(同条3項)。
⑤したがって,仮装払込みに係る株式の議決権を算入して成立した株主総会決議は,決議の方法の法令違反として取消しの対象になり得る(会社法831条1項1号)。
⑥仮装払込みが新株発行の無効原因になるかは,現行法の下で直接判断した最高裁判所の判例を確認できず,会社法が株式の成立を前提とする支払義務と権利行使の制限を用意していることから否定する見方と,全額が仮装で関係者が悪意の非公開会社のような場合には肯定する見方が考えられる。
⑦株主は,引受人・取締役の支払義務について責任追及等の訴え(会社法847条1項)を検討できる。

第2 見せ金とは何か
1 典型的な見せ金

最高裁判所第二小法廷昭和38年12月6日判決(昭和35年(オ)第1154号,民集17巻12号1633頁)は,会社設立の際の払込みについて,「当初から真実の株式払込として会社資金を確保する意図なく,一時的借入金を以て単に払込の外形を整え,株式会社成立の手続後直ちに右払込金を払い戻してこれを借入先に返済した場合は,有効な株式払込がなされたものとはいえない」とした。
払込みの前後の資金の動きを全体として見て,払込金が会社の資金として確保されたといえるかを問う考え方である。

2 会社の資金が還流する型

会社自身が第三者に融資した資金が,別の者を経由して引受人に渡り,それで払込みがされる場合も,会社の財産は実質的に増えない。
例えば,会社が乙に5000万円を融資し,乙がそれを引受人丙に融資し,丙がその資金で払い込み,しかも「丙が乙に返済しない限り会社は乙に返済を求めない」と合意しているような場合,会社に残るのは回収の見込みのない貸付債権だけである。
このような場合も,払込金が会社の資金として確保されていないという点で,典型的な見せ金と同じ評価を受けると考えられる(本記事の解釈)。
令和8年司法試験の論文式試験(民事系科目第2問)は,この型の事例を出題している(「令和8年度司法試験民事系第2問の模範解答と予想される評価項目」)。

3 判断に使う事情

仮装かどうかは,一つの事情だけで決まるものではなく,次のような事情を総合して判断することになる(本記事の整理)。

事情仮装を推認させる方向払込資金の出所借入金,とりわけ会社自身や会社の関係者からの資金である払込み後の資金の動き払込みの直後に払い戻され,借入先への返済に充てられる返済の条件会社が回収しない旨の合意がある,又は回収の見込みがない払込金の使途会社の事業資金として使われていない増資の目的取引先や許認可の関係で資本金の額を大きく見せることが目的である
第3 平成26年改正前の扱い
1 旧商法の下での判例

最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決(平成5年(オ)第317号,民集51巻1号71頁)は,新株発行の無効原因について判断した中で,「いわゆる見せ金による払込みがされた場合など新株の引受けがあったとはいえない場合であっても,取締役が共同してこれを引き受けたものとみなされるから(同法二八〇条ノ一三第一項),新株発行が無効となるものではなく」と述べ,見せ金による払込みは新株発行の無効原因にならないとした。
この部分は判決理由中の判示であり,同判決の裁判要旨は,新株発行に関する事項の公示(公告又は通知)を欠くことが原則として無効原因になるという点である。

(続きを読む...)見せ金(仮装払込み)による募集株式の発行―会社法213条の2・213条の3の支払義務,議決権行使の制限,新株発行の無効及び株主の対応(AI作成)

譲渡制限株式の譲渡承認請求と「承認したものとみなされる」場合―会社法136条から145条の期間,指定買取人,撤回,売買価格及び名義書換(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 譲渡制限株式の譲渡と会社の承認の関係1 承認がなくても当事者間では有効である2 会社に対して株主であることを主張するには承認と名義書換が要る第3 承認の請求の二つのルート1 株主からの請求(会社法136条)2 株式取得者からの請求(会社法137条)3 請求で明らかにする事項と買取りの請求第4 会社の決定と通知の期限1 決定する機関2 請求の日から2週間以内の通知3 承認しない場合の会社の買取り又は指定買取人4 買取りの通知と供託第5 会社が承認をしたものとみなされる場合(会社法145条)1 三つの場面2 承認しない旨の通知をした後に放置した場合(145条2号)3 別段の合意第6 請求の撤回と売買価格1 請求の撤回2 売買価格の決め方第7 承認の後の名義書換と二重譲渡1 名義書換の請求2 会社が書換えを拒み又は遅らせた場合3 株式が二重に譲渡された場合第8 会社側・株主側の実務上の確認事項1 会社側2 株主(譲渡人)・譲受人側第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例第11 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,定款で株式の譲渡に会社の承認を要すると定めている会社(非公開会社の大半がこれに当たる。)の株式を,株主が第三者に売りたい場合,又は第三者が既に取得した場合に,会社法136条から145条までの譲渡承認の手続がどのように進むかを整理する。
中心となるのは,会社が法定の期間内に必要な通知をしなかったときに,会社が承認をしたものとみなされる場面(会社法145条)である。
法令は,令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトで判示事項・裁判要旨(一部は判決全文)を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①譲渡制限株式の譲渡は,会社の承認がなくても譲渡の当事者間では有効であるが,会社の承認がなければ株主名簿の名義書換を請求できず,会社に対して株主であることを主張できない。
②承認の請求は,譲り渡そうとする株主(136条)からも,既に取得した者(137条。原則として株主名簿上の株主と共同して請求する。)からもできる。
③請求の際に「承認しないなら会社又は指定買取人が買い取れ」と請求しておくと(138条1号ハ・2号ハ),会社は承認しないときに,自ら買い取るか,買い取る者を指定しなければならない(140条)。
④会社が請求の日から2週間以内に承認するかどうかを通知しないとき(145条1号),又は承認しない旨の通知の日から40日以内に会社の買取りの通知をせず,指定買取人も10日以内に買取りの通知をしないとき(145条2号)等には,会社は承認をしたものとみなされる。
⑤承認がみなされれば,譲受人は株主名簿の名義書換を請求でき(134条1号),会社が正当な事由なく書換えを拒み,又は過失で書き換えなかったときは,会社は書換えがないことを理由に譲渡を否認できないとした最高裁判所の判例がある。
⑥会社又は指定買取人が買い取る場合の売買価格は,協議が調わなければ,買取りの通知の日から20日以内に裁判所に決定を申し立てることができ,期間内に申立ても協議の成立もなければ,1株当たり純資産額を基準とする額になる(144条)。

第2 譲渡制限株式の譲渡と会社の承認の関係
1 承認がなくても当事者間では有効である

最高裁判所第二小法廷昭和48年6月15日判決(昭和47年(オ)第91号,民集27巻6号700頁)は,定款で株式の譲渡に取締役会の承認を要すると定めている場合に,その承認を得ないで株式が譲渡されても,「右株式の譲渡は,譲渡当事者間においては有効であると解すべきである」とした。
また,最高裁判所第三小法廷平成5年3月30日判決(平成元年(オ)第1006号,民集47巻4号3439頁)は,いわゆる一人会社の株主がした株式の譲渡は,定款所定の取締役会の承認がなくても,会社に対する関係においても有効であるとした。
いずれも会社法制定前の商法204条1項についての判断であるが,譲渡の制限が会社の利益(好ましくない者が株主になることを防ぐこと)のためのものであることを前提とする点で,現行法の下でも同じように考えられている。

2 会社に対して株主であることを主張するには承認と名義書換が要る

株式の譲渡は,取得した者の氏名等を株主名簿に記載しなければ,会社その他の第三者に対抗することができない(会社法130条1項。株券発行会社では会社に対してのみ。同条2項)。
そして,株式取得者が名義書換を請求できるのは,取得した株式が譲渡制限株式である場合には,原則として,その取得について会社の承認を受けているときに限られる(会社法134条1号・2号)。
したがって,承認を受けていない譲受人は,当事者間では株主であっても,会社に対しては株主として権利を行使できない。

第3 承認の請求の二つのルート
1 株主からの請求(会社法136条)

譲渡制限株式の株主は,その株式を他人に譲り渡そうとするときは,会社に対し,その他人が株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる(会社法136条)。
譲渡の相手方が決まった段階で,譲渡の前に請求するのが通常の使い方である。

2 株式取得者からの請求(会社法137条)

譲渡制限株式を既に取得した者も,会社に対し,取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる(会社法137条1項)。
この請求は,原則として,株主名簿に株主として記載された者(譲渡人)又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない(同条2項)。
共同請求が要らない例外は法務省令で定められており,譲渡人に対して請求をすべきことを命ずる確定判決を得た場合,競売により取得した場合等である(会社法施行規則24条1項)。

(続きを読む...)譲渡制限株式の譲渡承認請求と「承認したものとみなされる」場合―会社法136条から145条の期間,指定買取人,撤回,売買価格及び名義書換(AI作成)

吸収合併消滅会社の反対株主の株式買取請求―事前通知・株主総会・委任状(AI作成)

目次第1 反対株主の株式買取請求とは第2 事前通知と株主総会での反対1 二つの行為は別々に必要である2 委任状による事前通知第3 株式買取請求の期間と方法1 請求期間2 請求時に明らかにする事項第4 価格協議と価格決定申立て1 協議が成立した場合2 裁判所への価格決定申立て第5 実務上の確認事項1 株主側2 会社側第6 一次資料と調査範囲第7 参考リンク

吸収合併に反対する消滅会社の株主が株式買取請求をするためには,効力発生日の20日前から前日までの請求期間だけでなく,株主総会に先立つ会社への通知と,株主総会における反対という二段階の手続を意識する必要がある。本記事では,会社法785条・786条と最高裁令和5年10月26日決定(令和4年(許)第11号)を中心に,委任状を利用する場合の注意点を整理する。

第1 反対株主の株式買取請求とは

吸収合併により消滅する株式会社の反対株主は,会社に対し,自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求できる(会社法785条1項)。

この制度は,合併に反対する株主に投下資本を回収する機会を保障するものである。ただし,株主総会の決議に反対しただけで当然に買取請求権を行使できるわけではない。株主総会で議決権を行使できる株主については,原則として,次の二つを満たす必要がある(会社法785条2項1号イ)。

1 株主総会に先立って,吸収合併に反対する旨を会社に通知すること

2 株主総会で吸収合併に反対すること

第2 事前通知と株主総会での反対
1 二つの行為は別々に必要である

事前通知は,株主総会より前に会社へ到達する必要がある。また,株主総会でも反対の議決権行使をする必要がある。

この二つは目的が異なる。事前通知により,会社は買取請求をする可能性のある株主の規模を予測できる。他方,株主総会での反対は,合併契約承認に対する株主の意思を議決権行使として表明するものである。

したがって,株主総会で反対票を投じる予定であっても,事前通知を失念すれば,原則として会社法785条2項1号イの反対株主には当たらない。

2 委任状による事前通知

最高裁令和5年10月26日決定(令和4年(許)第11号)は,会社が株主に送付した委任状用紙に,吸収合併契約承認議案について「賛」「否」を選択する欄があり,株主が「否」に丸を付けて会社へ返送した事案を扱った。

最高裁は,この委任状の返送を,会社法785条2項1号イにいう「吸収合併等に反対する旨」の通知に当たると判断した。そして,事前通知に当たらないとした原決定を破棄し,事件を原審に差し戻した。

重要なのは,書面の表題が「事前通知書」であるかどうかではなく,株主総会に先立って,会社に対し,当該吸収合併に反対する意思が明確に伝えられたかという点である。

もっとも,委任状の文言や提出先,提出時期,議案の特定状況によって結論が変わり得る。実務上は,委任状だけに依存せず,対象議案を特定した独立の事前通知書を期限に余裕をもって提出し,到達の証拠を残す方が安全である。

第3 株式買取請求の期間と方法
1 請求期間

株式買取請求は,吸収合併の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までに行う必要がある(会社法785条5項)。

事前通知及び株主総会での反対を済ませていても,この期間内に株式買取請求をしなければならない。事前通知,株主総会での反対,株式買取請求という三つの段階を,それぞれ別の期限管理項目として扱う必要がある。

2 請求時に明らかにする事項

株式買取請求をする株主は,請求に係る株式の数を明らかにする必要がある(会社法785条5項)。また,株式買取請求は,会社の承諾を得なければ撤回できない(同条7項)。

そのため,請求前に,対象株式数,名義,取得経緯,担保権その他の権利関係を確認する必要がある。

第4 価格協議と価格決定申立て
1 協議が成立した場合

会社と株主の間で株式の価格について協議が調ったときは,会社は,吸収合併の効力発生日から60日以内に代金を支払わなければならない(会社法786条1項)。

2 裁判所への価格決定申立て

効力発生日から30日以内に協議が調わないときは,株主又は会社は,その期間満了後30日以内に,裁判所に価格決定の申立てをすることができる(会社法786条2項)。

この申立期間は短いため,協議中であっても,申立期限を別に管理する必要がある。本記事は事前通知と手続要件を中心とするものであり,「公正な価格」の具体的な算定方法や企業価値評価は別問題である。

(続きを読む...)吸収合併消滅会社の反対株主の株式買取請求―事前通知・株主総会・委任状(AI作成)

医療法人の社員が臨時社員総会を開く方法―最高裁令和6年3月27日決定と補足意見(AI作成)

◯本ブログ記事は専らAIで作成したものです。
◯以下の記事も参照してください。
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情

目次

第1 結論
第2 医療法46条の3の2第4項の招集請求
第3 最高裁令和6年3月27日決定

1 事案及び争点
2 法廷意見
3 判断の射程

第4 渡邉惠理子裁判官の補足意見
第5 社員側の実務手順
第6 訴訟を検討するときの主な論点
第7 理事長及び医療法人側の対応
第8 出典及び未確認事項

第1 結論
社団たる医療法人では,総社員の5分の1以上の社員が,社員総会の目的である事項を示して臨時社員総会の招集を請求したとき,理事長は請求の日から20日以内に招集しなければならない(医療法46条の3の2第4項)。

しかし,理事長が招集しない場合でも,社員は,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律37条2項を類推適用し,裁判所の許可を得て自ら社員総会を招集することはできない。最高裁令和6年3月27日第三小法廷決定が明確に否定した。

同決定の補足意見は,社員が訴訟により理事長に臨時社員総会の招集を命ずる判決を求める方法を示した。ただし,これは法廷意見の判示ではなく,判決を得た後の執行方法を含め,具体的な実現方法には未解決の部分が大きい。したがって,「社員が必ず自ら招集できる」「招集命令訴訟が確立した」と理解してはならない。
第2 医療法46条の3の2第4項の招集請求

(続きを読む...)医療法人の社員が臨時社員総会を開く方法―最高裁令和6年3月27日決定と補足意見(AI作成)

吸収合併の合併比率が不公正なときの少数株主の手段―事前開示,差止め,株式買取請求,決議取消し及び合併無効の訴え(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 合併比率と少数株主の不利益1 合併比率は合併契約で定める2 親子会社間の合併で問題が生じやすい場面第3 合併の前に使える手段1 事前開示書面の閲覧2 株主総会での説明請求3 合併の差止請求4 反対の通知と総会での反対第4 株式買取請求と価格の決定1 請求の期間2 「公正な価格」3 買取請求の限界第5 承認決議の取消し1 特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議2 合併比率が「著しく不当」かどうか3 裁量棄却は3号には適用されない第6 合併無効の訴え1 期間と提訴権者2 承認決議の瑕疵と事前開示の不備置を無効原因とした裁判例3 合併比率の不公正それ自体第7 取締役の責任1 株主代表訴訟では会社の損害が問題になる2 株主に対する責任(会社法429条1項)第8 手段と期限の一覧第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 立案過程の資料4 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,株式会社どうしの吸収合併で,消滅する会社の株主に割り当てられる存続会社の株式の数(いわゆる合併比率)が不公正であると考える少数株主が,合併の前と後に使える会社法上の手段を整理する。
親会社が子会社を吸収合併する場合のように,合併の相手方である会社が消滅会社の多数の議決権を持っている場面を主に想定している。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイト又は判例秘書プラスで判決等の全文又は裁判要旨を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①消滅会社の株主は,承認総会の2週間前の日等から,合併契約の内容や合併対価の相当性に関する事項(親子会社間の合併では,少数株主の利益を害さないように留意した事項を含む。)を記載した書面を,持株の数にかかわらず閲覧できる。
②株主総会では,取締役等に合併比率の算定根拠等の説明を求めることができる。
③合併の差止請求は合併が法令又は定款に違反する場合に認められ,合併対価が著しく不当であることを差止めの理由とする規定は,議決権の10分の9以上を持つ会社との略式合併の場合に限られている。
④合併に反対する株主は,総会に先立って反対を通知し,総会で反対しておけば,効力発生日の20日前の日から前日までの間に,公正な価格での株式の買取りを請求できる。
⑤決議について特別の利害関係を有する者(合併の相手方である会社がこれに当たると主張することになる。)が議決権を行使したことによって著しく不当な承認決議がされたときは,決議の日から3か月以内に,決議の取消しを請求できる。
⑥合併の効力が生じた後は効力発生日から6か月以内に合併無効の訴えを提起でき,承認決議に取消事由となる瑕疵がある場合に合併無効の原因が認められると述べた下級審の裁判例(事案は承認決議の不存在)や,存続会社の事前開示書類の不備置を合併無効の原因と認めた下級審の裁判例がある。
⑦他方,合併比率が不当であること自体は合併無効事由にならないとした会社法制定前の下級審の裁判例が複数あるので,合併の効力が生じた後は,比率の不公正だけでなく,承認決議の瑕疵や事前開示の不備を併せて主張できるかを検討することになる。
⑧取締役の責任については,合併比率が不公正でも存続会社自体には損害が生じないとして株主代表訴訟の請求を棄却した下級審の裁判例と,株式移転比率について会社法429条1項に基づく取締役の責任を否定した下級審の裁判例がある。

第2 合併比率と少数株主の不利益
1 合併比率は合併契約で定める

株式会社が存続する吸収合併では,合併契約において,存続会社が消滅会社の株主に対してその株式に代えて交付する金銭等(合併対価)についての事項と,その割当てに関する事項を定めなければならない(会社法749条1項2号・3号)。
合併対価が存続会社の株式であるときは,その数又はその数の算定方法を定める(同項2号イ)。
消滅会社の株式1株に対して存続会社の株式を何株割り当てるかという比率が,いわゆる合併比率である。

合併比率が消滅会社の株式の価値に比べて低く定められると,消滅会社の株主が合併後に持つ存続会社の株式の価値は,合併前に持っていた株式の価値を下回る。
その差額は,存続会社の既存の株主の側に移ることになる。

2 親子会社間の合併で問題が生じやすい場面

消滅会社は,効力発生日の前日までに,株主総会の決議によって合併契約の承認を受けなければならない(会社法783条1項)。
この決議は,定款に別段の定めがなければ,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う特別決議である(会社法309条2項12号。消滅会社が公開会社で,合併対価の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合は,同条3項2号の決議による。)。

合併の相手方である存続会社が消滅会社の株主でもある場合,存続会社は承認決議で議決権を行使できる。
定款に別段の定めがなければ,存続会社が消滅会社の議決権の3分の2以上を持っている場合,他の株主の全員が出席して反対しても,承認決議は成立する。
存続会社にとっては合併比率が低いほど有利になるので,少数株主の側から見ると,合併比率の決め方と承認決議の成り立ち方の両方を確かめる必要がある。

第3 合併の前に使える手段

(続きを読む...)吸収合併の合併比率が不公正なときの少数株主の手段―事前開示,差止め,株式買取請求,決議取消し及び合併無効の訴え(AI作成)

取締役の報酬の配分を代表取締役に再一任できるか―会社法361条,決定方針及び自分の報酬だけを増やした場合の責任(AI作成)

目次第1 この記事の対象と確認の方法1 対象と結論の要旨2 確認の方法と資料の性質第2 会社法361条と令和元年改正1 会社法361条1項・4項の規律2 令和元年改正で入った361条7項と施行規則98条の53 決定方針が義務付けられる会社と開示第3 最高裁判例が認めてきた一任と再一任1 総額を定めて配分を取締役会に委ねること2 取締役会から社長への再一任3 退職慰労金の一任と再一任4 配分を決める取締役会決議と特別利害関係5 決まった報酬は一方的に減らせない第4 令和7年司法試験の出題の趣旨・採点実感が示した整理1 設例と資料の位置付け2 一任・再一任の許容性と「お手盛り防止」3 361条7項・施行規則98条の5についての誤解第5 代表取締役が自分の報酬だけを増やした場合に会社が主張できること1 善管注意義務違反2 株主総会決議遵守義務と説明義務3 採りにくい構成4 損害の範囲第6 責任追及の手続1 会社の訴えと株主代表訴訟2 期間と責任の免除第7 顧問先・同族会社で再一任を続ける場合の整え方1 株主総会決議と取締役会決議の文言2 配分の記録と説明の整合第8 チェックリスト1 会社又は株主が責任追及を検討するとき2 再一任を続ける会社が整えておくこと第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例3 法務省の資料4 その他
第1 この記事の対象と確認の方法
1 対象と結論の要旨
(1) 扱う場面

株主総会では取締役全員の報酬の総額の上限だけを決め,各取締役への配分を取締役会に一任し,取締役会がさらにその配分を代表取締役に一任する(再一任する)という決め方は,上場会社でも同族会社でも広く見られる。
本記事は,この決め方が会社法上許されるか,また,再一任を受けた代表取締役が自分の報酬だけを大幅に増やした場合に,会社が代表取締役に対して何を主張できるかを扱う。
令和7年司法試験の論文式試験(民事系科目第2問)は,まさにこの場面を設問としており,法務省が公表した出題の趣旨及び採点実感には,実務でも誤りやすい点が具体的に書かれている。

(2) 結論の要旨

①株主総会で報酬総額の上限を定め,配分を取締役会に委ねることは,最高裁判例で認められている。
②取締役会が配分を社長に委ね,社長が自分の報酬額を決めた事案で,最高裁は,社長が一存で自己の報酬額を決めても取締役会の決議の本旨に反しないと判示している。
③令和元年改正に伴って設けられた会社法施行規則98条の5第6号は,会社法361条7項の決定方針で定める事項として,個人別の報酬等の決定を取締役その他の第三者に委任する場合の定め方を定めているが,法務省は,同号は委任をすることができることの根拠となる規定ではないと説明している。
④他方,再一任を受けた代表取締役が自分の報酬だけを増やした場合には,善管注意義務違反,株主総会決議遵守義務違反,株主総会での説明義務違反などを理由に,会社が損害賠償を求める余地がある。
⑤ただし,これらの構成がどこまで認められるかを正面から判断した最高裁判例は確認できず,損害の範囲も増額分全部になるとは限らない。
⑥下級審では,再一任を受けた代表取締役は善管注意義務を負うが,報酬決定に至る判断過程や判断内容に明らかに不合理な点がある場合を除き責任を負わないとして,株主代表訴訟の請求を棄却した東京地裁平成30年4月12日判決(控訴棄却)がある。

2 確認の方法と資料の性質
(1) 確認した資料

令和8年9月26日に,会社法,会社法施行規則,会社計算規則及び民法の条文をe-Gov法令検索のデータで確認した。
裁判例は,裁判所HPの裁判例検索で裁判年月日又は掲載誌から個別ページを開き,判決全文のPDFで該当部分を確認したものを取り上げた。
裁判所HPに掲載されていない裁判例は,判例データベース(判例秘書)で判決本文(大阪地裁昭和28年6月29日判決については,同データベースに収録された要旨形式の本文)を確認したものに限り,事件番号と判例秘書の判例番号を付けて取り上げた。
令和元年改正の経緯は,法務省民事局のページ及び同ページに掲載された法律概要と省令の新旧対照条文で確認した。

(2) 司法試験の資料の位置付け

司法試験の出題の趣旨及び採点実感は,考査委員が答案に何を期待したかを説明した資料であり,判例でも行政解釈でもない。
また,設例の事実は試験のために作られたものである。
それでも,答案に現れた主張が会社の立場としてふさわしいか,用いた言葉の意味を正しく理解しているかを具体的に指摘しており,実務で主張を組み立てるときの点検表として使える。
本記事では,令和7年司法試験の設例に触れるときは,その旨を明示する。

第2 会社法361条と令和元年改正
1 会社法361条1項・4項の規律
(1) 株主総会で定めるもの

会社法361条1項は,「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において『報酬等』という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。」と定めている。
同項1号は,額が確定している報酬等について「その額」を掲げている。

(続きを読む...)取締役の報酬の配分を代表取締役に再一任できるか―会社法361条,決定方針及び自分の報酬だけを増やした場合の責任(AI作成)

相続した譲渡制限株式を会社が買い取る方法―会社法174条から177条,定款,株主総会,価格決定及び期限(AI作成)

目次第1 制度を使うための入口1 対象は一般承継で取得した譲渡制限株式である2 定款の定めが必要である第2 株主総会で売渡請求を決定する1 その都度決議する事項2 対象者の議決権は原則として排除される第3 1年以内に売渡しを請求する1 起算点は会社が一般承継を知った日である2 請求株式を明らかにする第4 売買価格を決める1 まず会社と対象者が協議する2 裁判所への申立期限は請求日から20日である第5 資金・分配可能額・税務を確認する1 会社による自己株式取得の制約2 相続税・譲渡所得等は別に確認する第6 実務チェックリスト1 会社側2 相続人側3 日付を一枚にまとめる第7 確認済み事項と未確認事項1 確認済み事項2 個別案件で追加確認する事項第8 出典

非公開会社の株主が死亡すると,相続その他の一般承継によって,会社が予定していなかった者が株主になることがある。会社法174条から177条は,定款に定めがある場合,会社が相続人等に譲渡制限株式の売渡しを請求する手続を設けている。

この制度には,会社が相続を知った日から1年という請求期限と,売渡請求の日から20日という価格申立ての期限がある。対象株式,決議,通知,価格及び資金を一つの工程表で管理する必要がある。

第1 制度を使うための入口
1 対象は一般承継で取得した譲渡制限株式である

会社法174条の対象は,相続その他の一般承継により取得された「譲渡制限株式」に限られる。通常の売買や贈与による特定承継には,この制度ではなく,譲渡承認手続その他の規定を検討する。

相続人が複数で遺産分割前である場合は,株式の準共有関係,権利行使者の指定,遺産分割の進行及び売渡請求の相手方を確認する。戸籍,遺言,遺産分割協議書,株主名簿及び株券の発行状況を照合する。

2 定款の定めが必要である

会社が売渡しを請求できる旨が定款に定められていることが必要である。現行定款,定款変更の株主総会議事録,変更の効力発生日及び対象株式の内容を確認する。

相続後に定款条項を新設した場合に,既に一般承継された株式へ当然に適用できると扱うことは避ける。条項の効力発生時期,決議手続,相続人等の議決権及び個別事情を確認し,紛争予防のためには相続発生前に定款を整備する。

第2 株主総会で売渡請求を決定する
1 その都度決議する事項

会社法175条1項により,会社は,売渡請求をする都度,株主総会で,①売渡しを請求する株式の数と,②その株式を有する者の氏名又は名称を定める。種類株式発行会社では,株式の種類と種類ごとの数も特定する。

この決議には,会社法309条2項所定の特別決議が必要である。定款に一般的な売渡請求条項があるというだけで,取締役の判断のみで個別請求を進めることはできない。

2 対象者の議決権は原則として排除される

会社法175条2項により,売渡請求の対象者は,その株主総会で議決権を行使できない。ただし,その対象者以外の株主全員も議決権を行使できない場合は例外となる。

招集通知,基準日,議決権数,定足数及び決議要件を事前に計算する。対象相続人の議決権を除外したことで決議要件を満たすかを,株主名簿と議決権集計表で確認する。

第3 1年以内に売渡しを請求する
1 起算点は会社が一般承継を知った日である

会社法176条1項ただし書は,会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過すると,売渡請求ができないと定める。死亡日や相続登記日を機械的な起算点とせず,会社が一般承継を知った事実と日付を確認する。

訃報,戸籍,株主名簿書換請求,配当金の連絡,株主総会への出席申出及び会社担当者のメール等を保存し,会社がいつ何を知ったかを記録する。

2 請求株式を明らかにする

売渡請求では,対象株式の数を明らかにする。種類株式発行会社では,種類と種類ごとの数を記載する。対象者,株式数,請求日及び到達日を証明できる書面で行い,株主総会決議の内容と一致させる。

会社法176条3項により,会社は売渡請求をいつでも撤回できる。ただし,撤回が価格協議,資金計画,株主構成及び紛争解決へ与える影響を検討し,権限ある機関による意思決定を記録する。

第4 売買価格を決める
1 まず会社と対象者が協議する

会社法177条1項により,売買価格は会社と売渡請求の対象者との協議で定める。非上場株式では,純資産,収益力,配当,類似会社,支配権又は少数性,会社の将来見通し等が争点となるため,評価基準日と採用資料を合意できるかを検討する。

税務上の評価額と会社法上の売買価格は,目的と評価場面が同じとは限らない。税理士又は公認会計士の評価を用いる場合も,前提条件と法的評価を分ける。

2 裁判所への申立期限は請求日から20日である

会社又は対象者は,売渡請求の日から20日以内に,裁判所へ売買価格決定を申し立てることができる。裁判所は,売渡請求時の会社の資産状態その他一切の事情を考慮する。

(続きを読む...)相続した譲渡制限株式を会社が買い取る方法―会社法174条から177条,定款,株主総会,価格決定及び期限(AI作成)

株主総会の議決権代理行使―代理人を株主に限る定款,法人株主の従業員,弁護士と委任状(AI作成)

目次

第1 結論
第2 会社法310条の原則
第3 代理人を株主に限る定款は有効か
第4 法人株主の職員・従業員
第5 弁護士を代理人にする場合
第6 複数の委任状と代理権の撤回
第7 入場拒否・議決権不算入と決議取消し
第8 会社側と株主側の事前準備
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論

株主は,会社法310条1項により,代理人によって議決権を行使できる。もっとも,株主総会の撹乱を防ぎ会社の利益を保護する趣旨から,議決権行使の代理人を株主に限る定款は,判例上有効とされている。

ただし,この定款規定は一律の形式判断で完結しない。最高裁昭和51年12月24日判決は,法人である株主が職員又は従業員を代理人とした事案につき,特段の事情のない限り総会が撹乱され会社の利益が害されるおそれはなく,当該定款に反しないとした。

一方,株主でない弁護士なら常に出席できるという最高裁判例は確認できない。公開された東京地裁判決には,非株主である弁護士の代理行使を拒否した会社の対応を適法としたものがある。総会直前の受付で争うのではなく,定款,株主名簿,委任状,代理人の資格及び複数委任状の優劣を事前に整理することが重要である。

第2 会社法310条の原則

会社法310条1項は,株主が代理人によって議決権を行使できると定め,株主又は代理人に代理権を証明する書面の提出を求める。代理権の授与は株主総会ごとにしなければならず(同条2項),会社は出席できる代理人の数を制限できる(同条5項)。

委任状では,委任者の氏名・名称,代理人,対象となる株主総会,議決権数,各議案への賛否,修正動議への対応,復代理の可否及び作成日を確認する。会社が用意した委任状のみが常に有効というわけではなく,個別の委任状による代理権も原文に基づいて判定する。

第3 代理人を株主に限る定款は有効か

最高裁昭和43年11月1日判決(昭和40年(オ)第1206号,民集22巻12号2402頁,株主総会決議無効確認請求事件)は,議決権行使の代理人資格を株主に限定する定款規定を有効とした。その趣旨は,株主総会が株主以外の第三者によって撹乱されることを防止し,会社の利益を保護することにある。

したがって,株主側は「310条は代理行使を認めているから,代理人資格の定款制限は常に無効」とは主張できない。会社側も,定款の文言だけでなく,判例が認める例外的な扱い及び従前の受付運用を確認する必要がある。

第4 法人株主の職員・従業員

最高裁昭和51年12月24日判決(昭和48年(オ)第794号,民集30巻11号1076頁)は,株主である県,市及び株式会社の職員・従業員が代理行使した事案を判断した。

同判決は,職員・従業員は組織の一員として上司の命令に服する義務を負い,法人株主の代表者の意図に反する行動をすることができないという事実関係の下で,特段の事情のない限り株主総会が撹乱され会社の利益が害されるおそれはないとした。また,職員・従業員の代理行使を否定すれば,法人株主が意見を総会決議に十分反映させられず,事実上議決権行使の機会を失う不当な結果となることも理由とした。

これは,法人株主の役員・職員であれば無条件に認められるという判断ではない。雇用・所属,法人内部の権限,委任状の作成者,指示内容及び法人の意図に反する行動をするおそれの有無を確認する。

第5 弁護士を代理人にする場合

東京地裁平成13年2月28日判決は,株式譲渡制限のある会社で,代理人を株主に限る定款に従い,非株主である弁護士による議決権行使を拒否したことは違法でないとした。

同判決は,弁護士が一般に社会的信用が高く法律知識が豊富で,当該弁護士が総会を撹乱するおそれが非常に小さいと認めながらも,職種ごとの例外を設けると受付で個別審査が必要となり,運用が混乱し恣意的・差別的判断を招くおそれがあると指摘した。

(続きを読む...)株主総会の議決権代理行使―代理人を株主に限る定款,法人株主の従業員,弁護士と委任状(AI作成)

会社が取締役個人の債務を保証した場合―利益相反取引,取締役会決議と取引相手の確認事項(AI作成)

目次

第1 結論
第2 会社が取締役個人の債務を保証する場合の会社法上の手続
第3 取締役会の承認がない保証の効力
第4 一般の取締役会決議の欠缺との違い
第5 金融機関・取引相手が確認すべき資料
第6 会社側が無効を主張する場合の主張立証
第7 取締役の損害賠償責任と追認
第8 実務チェックリスト
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論

会社が代表取締役その他の取締役個人の債務を保証することは,会社法356条1項3号が予定する典型的な間接取引である。取締役会設置会社では,取引の重要な事実を開示し,特別の利害関係を有する取締役を議決から外した取締役会の承認を受ける必要がある(会社法365条1項,369条2項)。

承認を欠くときでも,会社は常に保証の無効を取引相手に主張できるわけではない。最高裁大法廷昭和43年12月25日判決は,会社以外の第三者との間で取締役が会社を代表して自己のためにした取引につき,承認を欠くことに加え,相手方の悪意(承認欠缺を知っていること)を会社が主張立証して初めて,相手方に無効を主張できると判断した。

したがって,「議事録がないから保証は無効」又は「代表取締役が署名したから有効」とだけ整理することはできない。利益相反性,承認決議の有無・内容,相手方の認識及びその根拠資料を分けて検討する必要がある。

会社側の主張は一つではない。①利益相反取引である間接取引につき会社法356条1項3号・365条1項の承認を欠くという経路と,②保証額,会社の財務規模,会社に対価が入らないこと等から同法362条4項2号の「多額の借財」又は同項柱書の重要な業務執行に当たり,取締役会の決定を欠くという経路を別々に検討する。いずれか一方だけを主張すると,他方の抗弁を落とすことになる。

別会社の債務との区別:本記事は取締役個人が主債務者の場合を扱う。別会社が主債務者で,保証会社の取締役がその会社の監査役・株主などを兼ねる場合,会社法356条1項3号の利益相反性は,個人保証の有無,持株関係,保証料・担保その他の具体的利害から検討する。兼職や持株だけで本記事の「典型的な間接取引」という結論を移してはならない。他方,362条4項の多額の借財・重要な業務執行の決定が必要かは別途検討する。詳細は別会社の債務保証に関する記事を参照されたい。

第2 会社が取締役個人の債務を保証する場合の会社法上の手続

会社法356条1項3号は,「株式会社が取締役の債務を保証すること」を明示し,その他取締役以外の者との間で会社と当該取締役との利益が相反する取引を対象とする。取締役会を設置していない会社では株主総会,取締役会設置会社では取締役会の承認が必要である(同法365条1項)。

承認議案では,主債務者,債権者,保証限度額,期間,利率・遅延損害金,担保,会社が保証をする事業上の理由,反対給付及び主債務者の返済能力を具体的に開示する。対象取締役は特別の利害関係を有するため,承認決議の議決に加われない(同法369条2項)。取引後は,取引の重要な事実を遅滞なく取締役会へ報告する(同法365条2項)。

第3 取締役会の承認がない保証の効力

最高裁大法廷昭和43年12月25日判決(昭和42年(オ)第1327号,民集22巻13号3511頁,売掛代金請求事件)は,取締役個人の債務を会社が引き受けた事案につき,取締役個人の利益となり会社に不利益を及ぼす行為は,旧商法265条の自己のためにする取引に含まれるとした。

その上で,承認を欠く取引は本来無効としつつ,会社以外の第三者との取引では取引の安全を考慮し,会社は,承認欠缺だけでなく,相手方がそのことを知っていたと主張立証して初めて無効を主張できるとした。同判決が括弧書きで「その旨を知っていること」と明示した点は,一般的な取締役会決議欠缺の判例と区別する上で重要である。

下級審には,取締役会の承認欠缺につき相手方に悪意又は重過失があるとして会社保証を無効とした例がある。ただし,これは下級審判決の判断であり,前記大法廷判決の「悪意」と同一の最高裁規範として扱うことはできない。

第4 一般の取締役会決議の欠缺との違い

最高裁昭和40年9月22日判決(昭和36年(オ)第1378号,民集19巻6号1656頁)は,取締役会決議を要する対外的取引を代表取締役が決議なしでした場合,取引は原則として有効であり,相手方が決議欠缺を知り又は知り得べかりしときに限り無効とした。

この判例は,重要な財産の処分,多額の借財その他の一般的な業務執行に必要な取締役会決議の欠缺に関する。利益相反取引に関する昭和43年大法廷判決とは,対象となる内部決定の性質も,相手方の主観的要件の表現も異なる。訴訟では,取引が会社法356条1項2号・3号に当たるか,それとも362条4項その他の取締役会権限のみが問題となるかを先に確定する必要がある。

相手方の主観面も一括して「善意・無過失」と書かない。まず,相手方が,取締役個人の債務を会社が保証するという間接取引の内容や,会社規模と保証額から多額の借財・重要な業務執行に当たる事情を認識していたかを確認する。その上で,各判例の経路に従い,取締役会の承認又は決定がないことを知らなかった点について,悪意,過失又は重過失のどれが問題になるのかを区別する。

(続きを読む...)会社が取締役個人の債務を保証した場合―利益相反取引,取締役会決議と取引相手の確認事項(AI作成)

定款変更で取締役の任期を短縮した場合の損害賠償―会社法339条2項の類推適用・正当な理由・残存任期(AI作成)

目次

第1 結論
第2 任期短縮で取締役は退任するか
第3 会社法339条2項を直接適用・類推適用できるか
第4 「正当な理由」の判断
第5 損害額は残存任期分の全額か
第6 請求する取締役が確認すべき証拠
第7 会社側が任期を変更するときの手順
第8 関連記事
第9 出典と調査範囲

第1 結論

取締役の任期を短縮する定款変更によって、在任中の取締役が変更後の任期を既に超えていることとなる場合、その取締役は定款変更の効力発生時に退任するとする裁判例がある。

しかし、特定の取締役を任期途中で退任させる結果となる以上、会社に「正当な理由」がなければ、会社法339条2項を類推適用して損害賠償を請求できる余地がある。請求額は、まず変更前の残存任期分の報酬を最大額として主張し得るが、裁判例には、残存任期分の全額を認めるものと、実際に在任を期待できた期間へ限定するものがある。

したがって、「定款を変えれば無償で退任させられる」「任期10年なら必ず10年分の報酬を請求できる」といういずれの理解も正確ではない。定款変更の目的、対象となった役員、再任の有無、報酬合意、従前の重任慣行及び会社・役員間の関係を個別に確認する必要がある。

第2 任期短縮で取締役は退任するか

会社法332条1項は、取締役の任期を原則として選任後2年以内に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結時までとし、定款又は株主総会決議による短縮を認めている。公開会社でない株式会社では、定款により任期を選任後10年以内まで伸長できる。

東京地裁平成27年6月29日判決(判例時報2274号113頁)は、任期を10年から1年へ短縮する定款変更について、変更後の定款は在任中の取締役にも適用され、変更後の任期を既に満了している取締役は変更時に退任するとした。同判決は、地位の維持ではなく、解任の場合と同様の損害賠償によって取締役を保護する考え方を採った。

もっとも、任期短縮決議の招集手続又は決議方法に瑕疵がある場合は、株主総会決議取消し等の問題が別に生じる。退任の登記がされたことだけで、決議の有効性又は損害賠償の成否が決まるわけではない。

第3 会社法339条2項を直接適用・類推適用できるか

会社法339条1項は株主総会決議による「解任」を、同条2項は正当な理由のない解任によって生じた損害の賠償を定める。定款変更による任期満了は、形式上は同条1項の解任決議ではないため、2項を直接適用するか、類推適用するかを区別して検討する必要がある。

類推適用を肯定する理由は、任期途中で地位を失わせる点で解任と実質的に共通し、類推を否定すると、解任決議を避けて定款変更を用いることで取締役の任期に対する期待を無補償で失わせ得るからである。他方、全役員に一般的に適用される組織設計上の変更と、特定役員を排除するための変更とでは、339条2項の趣旨との近さが異なり得る。

令和4年司法試験の公式「出題の趣旨」及び「採点実感」も、定款変更による任期短縮の事案について、339条2項の直接適用又は類推適用を検討し、条文の趣旨と解任との共通性・相違を論じることを求めていた。

第4 「正当な理由」の判断

正当な理由は、取締役に職務を継続させることが困難な事情があるかという観点から判断される。典型的には、法令・定款違反、重大な任務懈怠、心身の故障又は職務への著しい不適任が問題となる。

心身の故障については、最高裁判所第一小法廷昭和57年1月21日判決(昭和56年(オ)第974号、集民135号77頁)が、持病の悪化により療養に専念するため株式を譲渡して代表取締役を交替した取締役を、経営陣の一新を図るため株主総会の決議で解任した事案について、旧商法257条1項ただし書の「正当ノ事由」がないとはいえないとした原審の判断を是認している。取締役が自ら経営の一線から退いた後の解任という事案であり、病気であれば常に正当な理由になるという判断ではない点に注意を要する。

単なる意見対立、経営方針の不一致又は支配株主との人間関係の悪化だけで直ちに正当な理由になるとは限らない。会社側は、問題となる行為、時期、職務への影響、改善要求及び代替策を具体化する必要がある。

任期短縮が全役員を対象とする一般的なガバナンス変更であっても、変更直後に特定の取締役だけを再任しなかった場合は、実質的な排除目的の有無が争点となり得る。議案作成過程、説明資料、議事録及び再任者の選定基準が重要である。

第5 損害額は残存任期分の全額か

(続きを読む...)定款変更で取締役の任期を短縮した場合の損害賠償―会社法339条2項の類推適用・正当な理由・残存任期(AI作成)

M&Aでデュー・ディリジェンスを省略した取締役の責任―親会社の指示・経営判断・子会社利益(AI作成)

第1 結論―M&Aの責任は判断過程から検討する
第2 取締役の善管注意義務と経営判断
第3 DDを省略・限定できる場合
第4 具体的な警告がある場合の調査
第5 親会社の指示と子会社の利益
第6 損害と因果関係
第7 残すべき資料
第8 法令・裁判例・裁判所資料

第1 結論―M&Aの責任は判断過程から検討する

M&Aの結果として対象会社の価値が下がっただけでは、直ちに取締役の責任が生じるわけではない。取引当時に入手できた情報、警告された危険、調査範囲を限定した理由、価格算定、代替案及び契約上のリスク配分を時点ごとに検証する。

一方、具体的な不正・簿外債務・過大評価の疑いを把握しながら、理由を記録せず調査を省略した場合には、「経営判断」であるという説明だけで免責されるとは限らない。

第2 取締役の善管注意義務と経営判断

会社法330条により会社と取締役との関係には委任に関する規定が適用され、会社法355条は忠実義務を定める。任務懈怠により会社に損害を与えた取締役は、会社法423条1項の責任を負う。

東京地方裁判所の公式資料「取締役の任務懈怠責任」は、会社の請求について、任務懈怠、損害及び因果関係を区別して主張立証する構造を示している。M&Aでは、買収の成否という結果だけでなく、情報収集・分析と意思決定の過程を具体化する。

東京高裁平成29年9月27日判決は、事業計画等の策定が将来予測を伴う専門的判断であることを前提に、その決定過程及び内容に著しく不合理な点があるかを検討している。

第3 DDを省略・限定できる場合

デュー・ディリジェンス(DD)の範囲は、取引規模、時間的緊急性、対象会社の業種、入手済みの監査資料、売主との関係及び調査費用によって異なる。常に最大範囲のDDを実施しなければならないわけではない。

ただし、限定する場合には、①調査対象から外す分野、②その理由、③残る危険、④価格への反映、⑤表明保証・補償・解除条件等の代替策を取締役会資料に残す。調査をしないことと、別の方法で危険を配分することは同じではない。

法務DDでは、許認可、重要契約、訴訟、知的財産、労務、個人情報、環境及びコンプライアンスを取引特性に応じて選ぶ。財務・税務・事業DDとの間で発見事項を共有し、価格算定へ反映する。

法務DDを弁護士に依頼する際は、弁護士の報酬に関する規程5条4項が委任契約書の記載事項とする業務の表示・範囲を出発点に、見積りの前提、対象外分野、追加調査の提案、警告された残存リスク及び会社側の採否を同時期の文書で残すことが実務上有用である。専門家への依頼内容と取締役会の判断記録を対応させるためである。報酬方式と算定基礎の詳細については「中小M&Aにおける弁護士報酬の決め方(AI作成)」を参照されたい。

第4 具体的な警告がある場合の調査

東京高裁平成31年1月16日判決は、買収額やFA報酬等について具体的な疑惑が示された企業不祥事の事案で、取締役がその指摘を真剣に受け止めて違法行為の有無を調査すべきであったかを検討している。

匿名情報、報道又は少数役員の指摘だけで直ちに取引を中止する必要があるとは限らない。しかし、指摘が具体的で、既存資料と矛盾し、金額的重要性が高い場合には、独立した専門家への調査、原資料へのアクセス、関係者聴取及び取締役会での再審議を検討する。

経営陣からの説明を受けたというだけでなく、その説明が疑問に答えているか、裏付資料が提出されたか、調査担当者が独立しているかを記録する。

第5 親会社の指示と子会社の利益

完全子会社であっても、子会社は親会社とは別の法人であり、子会社取締役は子会社に対して職務上の義務を負う。親会社又はグループ全体に利益があることだけで、子会社が不相当に高い価格又は過大な危険を負担する取引が当然に正当化されるわけではない。

親会社の指示に従った場合も、子会社側の取引目的、期待利益、負担する危険、代替案及び補償を検討する。取締役会の承認や利害関係取締役の退席は重要な手続であるが、情報収集や価格検討の不足を自動的に治癒するものではない。

親会社が60%を保有し、残りを少数株主が保有するような子会社では、親会社の担当者個人に利益相反がなくても、親会社全体の利益と子会社・少数株主の利益が構造的に対立し得る。個人的利益相反と、支配株主・少数株主間の構造的利益相反を分けて検討する。

(続きを読む...)M&Aでデュー・ディリジェンスを省略した取締役の責任―親会社の指示・経営判断・子会社利益(AI作成)

事業譲渡で残存債権者は譲受会社に請求できるか―会社法22条・23条・23条の2とブランド続用(AI作成)

第1 事業譲渡では債務が当然に移らない
第2 商号を続用した譲受会社の責任
第3 ブランド・屋号を続用した場合
第4 債務引受けを広告した場合
第5 残存債権者を害する事業譲渡
第6 債権者側の調査と請求設計
第7 譲受会社側の予防策
第8 法令・裁判例

第1 事業譲渡では債務が当然に移らない

事業譲渡では、合併や会社分割と異なり、譲渡対象となる資産、契約及び債務を当事者間の契約で個別に定める。譲渡会社と譲受会社が「旧債務は譲渡会社に残す」と合意しただけでは、譲受会社が常に債権者への責任を免れるわけではない。

残された債権者は、①商号続用責任、②債務引受広告、③詐害的事業譲渡に関する会社法23条の2、④個別の債務引受契約、⑤民法上の詐害行為取消し等を分けて検討する。

第2 商号を続用した譲受会社の責任

会社法22条1項は、事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用するとき、譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うと定めている。

事業譲渡契約で引き受けないと定めた簿外債務や紛争債務についても、同項の要件を満たせば対外責任が問題となる。契約上の債務承継の範囲と、会社法22条による法定責任を分ける必要がある。

ただし、譲受会社が事業譲渡後遅滞なく、旧債務を負わない旨を本店所在地で登記した場合、又は譲渡会社及び譲受会社から債権者へその旨の通知をした場合には、会社法22条2項の例外が問題となる。通知の相手、到達日及び内容を保存する。

第3 ブランド・屋号を続用した場合

最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決は、ゴルフ場の営業譲渡において、商号そのものではなくゴルフクラブの名称が営業主体を表示する機能を果たしていた場合に、旧商法26条1項の類推適用を認め得る法理を示した。

同判決は、ゴルフクラブ名が営業主体を表示するものとして使われ、譲受人がこれを続用する場合、会員が①同じ営業主体が事業を続けている、又は②主体は変わったが譲受人が旧債務を引き受けた、と信じることが無理からぬものになり得ると判示した。ただし、譲受人が譲受後遅滞なく会員の施設優先利用を拒否したなどの特段の事情があれば結論は変わり得る。判決は、この特段の事情の審理のため事件を差し戻した。

したがって、会社の商号が異なる場合でも、屋号・ブランド等が取引先や顧客にとって営業主体を識別する機能を果たしていたかを確認する。ウェブサイト、電話番号、看板、会員制度の連続性は判断資料となるが、それだけで屋号の商号性や法定責任が決まるわけではない。表示が誰に向けられ、いつ営業主体の変更や旧債務の扱いが告知されたかも調べる。

東京地裁平成16年12月15日判決(平成16年(ワ)第15373号、判例秘書L05935045)は、実質的な営業移転を認めつつ、旧経営主体と新経営主体の名称が明示的に異なり、クラブ名だけが同一である事情の下で、商号続用及び名板貸による責任を否定した。最高裁判決を「同じブランドなら必ず旧債務を負う」と読むことはできない。どの表示が営業主体を識別させ、債権者が何を認識したかを具体的に検討する。判例秘書の判決本文で確認したが、裁判所サイトの公開本文は確認できていない。

第4 債務引受けを広告した場合

会社法23条1項は、譲受会社が譲渡会社の商号を続用しない場合でも、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨を広告したとき、債権者が譲受会社へ弁済を請求できると定めている。

広告に当たるかは、ウェブサイト、店頭掲示、顧客通知、プレスリリース等の具体的な表現によって判断する。「事業を承継しました」という表示と「旧会社の債務をすべて引き受けました」という表示は同じではないため、表示内容を画像又はPDFで保存する。

第5 残存債権者を害する事業譲渡

会社法23条の2第1項は、譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡した場合、残存債権者が譲受会社に対し、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求できると定めている。ただし、譲受会社が効力発生時に残存債権者を害することを知らなかった場合は除かれる。

重要なのは、事業譲渡後の譲渡会社に、残存債権者への弁済に足りる財産が残ったかである。譲渡対象資産、対価、対価の支払先、債務の選別、譲渡前後の貸借対照表及び資金移動を調べる。

同条2項は、譲渡会社が害意をもって譲渡したことを知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしない場合、また事業譲渡の効力発生日から10年を経過した場合に責任が消滅すると定めている。知った時と効力発生日の双方を記録する。

第6 債権者側の調査と請求設計

(続きを読む...)事業譲渡で残存債権者は譲受会社に請求できるか―会社法22条・23条・23条の2とブランド続用(AI作成)

取締役が会社に不相当な価格で資産を買わせた場合―会社法423条・429条・株主代表訴訟(AI作成)

代表取締役が,会社にとって必要性の乏しい資産を著しく高い価格で買わせた場合,取締役会の承認や議事録があっても,取締役の責任が当然に否定されるわけではない。

本記事では,会社法423条の会社に対する責任,株主代表訴訟,会社法429条の第三者に対する責任及び損害・因果関係の立証を整理する。

目次
第1 最初に分ける三つの請求
第2 不相当価格取引と任務懈怠
第3 会社法423条の会社に対する責任
第3の2 一人会社・総株主同意をどう扱うか
第4 株主代表訴訟
第5 会社法429条の第三者責任
第6 損害と因果関係
第7 取締役会承認と経営判断原則
第8 確保すべき証拠
第9 出典・関連記事

第1 最初に分ける三つの請求

不相当価格の取引では,誰が損害を受け,誰が請求するかを最初に分ける。

会社が取締役へ請求する会社法423条1項の責任
株主が会社のために追及する会社法847条の株主代表訴訟
債権者その他の第三者が取締役へ請求する会社法429条1項の責任

会社の損害と第三者の損害は同じではない。会社が高値で買ったことによる損害額を,そのまま債権者の損害額として請求できるとは限らない。

第2 不相当価格取引と任務懈怠

取引価格が市場価格を上回るだけで直ちに任務懈怠となるわけではない。取締役には経営上の裁量があり,立地,シナジー,希少性,代替取引の有無,取引条件及び取得後の利用計画を含めて判断する必要がある。

他方,次の事情は任務懈怠を基礎付ける方向に働く。

複数の査定・鑑定と比べて著しく高額である。
取得目的が会社の事業ではなく,代表者個人の生活・感情・紛争解決にある。
価格交渉,代替案及び資金繰りへの影響を検討していない。
重要な利害関係又は不利な情報を取締役会へ開示していない。

(続きを読む...)取締役が会社に不相当な価格で資産を買わせた場合―会社法423条・429条・株主代表訴訟(AI作成)

相続した非公開会社株式の議決権行使―準共有株式・会社法106条・決議取消し・後続決議(AI作成)

被相続人が保有していた非公開会社の株式は,遺産分割が終わるまで共同相続人の準共有となる。相続人の一人が株式全部について単独で議決権を行使しても,会社が認めさえすれば有効になるとは限らない。

本記事では,会社法106条の権利行使者,準共有者間の意思決定,決議取消し及び後続総会が開かれた場合の訴えの利益を整理する。

目次
第1 遺産分割前の株式は準共有となる
第2 会社法106条の権利行使者
第2の2 準共有者の原告適格
第3 会社の同意だけでは足りない
第4 持分価格の過半数で決める
第5 株主総会決議取消し
第6 後続総会と訴えの利益
第7 会社側・相続人側の実務対応
第8 出典・関連記事

第1 遺産分割前の株式は準共有となる

相続人が複数いる場合,相続財産は遺産分割まで共同相続人の共有に属する。株式も同様であり,各相続人が株式数を法定相続分どおりに当然取得するのではなく,一株ごとに準共有する状態になる。

そのため,株主名簿に被相続人の氏名が残っているかだけでなく,相続人の範囲,法定相続分,遺言,遺産分割の有無及び会社への通知を確認する。

第2 会社法106条の権利行使者

会社法106条本文は,株式が二人以上の共有に属するときは,共有者が権利を行使する者一人を定め,会社へその氏名又は名称を通知しなければ,株式についての権利を行使できないと定める。

権利行使者は株式の所有者になる者ではなく,準共有者全体を代表して株主権を行使する者である。会社へ通知した後も,議決権,配当,株主提案その他の権利について,準共有者間の意思決定が問題となる。

準共有者の原告適格は別に確認する

株式の準共有持分を有することと,会社訴訟を提起できる原告適格があることは同じではない。最高裁平成2年12月4日第三小法廷判決(平成元年(オ)第573号・民集44巻9号1165頁)は,旧商法203条2項の権利行使者の指定・通知を欠く共同相続人は,特段の事情がない限り,株主総会決議不存在確認の訴えの原告適格を有しないとした。

同判決は不存在確認訴訟についての判例であり,具体的な訴訟類型と現行会社法の条文を確認する必要がある。それでも,準共有株式をめぐる会社訴訟では,①原告適格,②訴えの利益,③本案の取消事由・無効又は不存在を順に分け,持分保有だけで①を即断しないことが重要である。

第3 会社の同意だけでは足りない

会社法106条ただし書は,会社が同意した場合の例外を置く。しかし,会社が任意に選んだ相続人へ議決権行使を認めれば常に適法になるという規定ではない。

最高裁平成27年2月19日第一小法廷判決(平成25年(受)第650号・民集69巻1号25頁)は,権利行使者の指定・通知を欠く場合,議決権行使が民法の共有に関する規定に従ったものでなければ,会社が同意しても適法にならないとした。

会社側は,出席者が相続人であることだけで受け付けず,遺産分割の有無,権利行使者の指定資料,準共有者の持分及び意思決定方法を確認する必要がある。

第4 持分価格の過半数で決める

前記最高裁判決は,議決権行使が株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなどの特段の事情がない限り,議決権行使を管理行為として,民法252条本文により各共有者の持分価格の過半数で決めるとした。

「過半数」は半数以上ではない。準共有者が各2分の1の持分を有する場合,一人だけでは過半数に達しない。会社がその一人による株式全部の議決権行使を認めても,民法上の意思決定を欠くため適法にならない。

一方,株式の処分又は内容変更に直結する行為では,管理行為とは異なる判断が必要となり得る。行使する権利の内容を具体的に特定する。

(続きを読む...)相続した非公開会社株式の議決権行使―準共有株式・会社法106条・決議取消し・後続決議(AI作成)

裁判所の許可を得て株主が招集する株主総会―監査役の差止め,利益供与及び決議取消し(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論
第2 株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集するまで
第3 株主が招集者となることの意味
第4 監査役は開催前に差し止められるか
第5 賛成株主への商品券等と利益供与規制
第6 決議取消しの主張をどう組み立てるか
第7 実務で保存・確認する資料
第8 一次資料と確認できていない範囲
第9 出典・参考資料

第1 この記事の対象と結論

取締役が株主総会を招集しないとき,少数株主は,会社法297条4項に基づく裁判所の許可を得て,自ら株主総会を招集できる場合がある。この総会で,招集株主が自らの議案への賛成を条件に商品券その他の利益を約束した場合,開催前の差止めと決議成立後の取消しを分けて検討する必要がある。

結論を先に示すと,①会社法385条は取締役の行為を対象とするため株主の招集行為への直接適用は難しいが,類推適用の可否には両論がある,②会社法120条1項も株式会社が会社又は子会社の計算でする利益供与を直接の対象とするため,招集株主が自費でする供与への直接適用は難しい,③それでも決議方法が著しく不公正であったとして会社法831条1項1号による取消しが認められる余地は別に残る,という三段階の整理になる。

この論点について最高裁判例が結論を確立していると確認できたわけではない。以下では,条文の直接適用,類推適用及び決議取消しという順に,確立した条文要件と未解決の解釈を区別する。

第2 株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集するまで

総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は,原則として,取締役に対し,株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して,株主総会の招集を請求できる(会社法297条1項)。非公開会社では6か月の保有期間要件が除かれ,定款による要件緩和も確認する必要がある(同条2項)。

招集請求後,遅滞なく招集手続が行われない場合又は請求日から8週間以内の日を開催日とする招集通知が発せられない場合には,請求株主は,裁判所の許可を得て株主総会を招集できる(同条4項)。許可を得たからといって,その後の招集手続,議決権行使の勧誘又は決議方法がすべて適法になるわけではない。

実務では,株主の議決権割合と継続保有期間,定款,取締役への招集請求書と到達日,会社側の対応,裁判所の許可決定及び許可の対象を一組で確認する。

第3 株主が招集者となることの意味

通常の株主総会では取締役が招集手続を担うのに対し,会社法297条4項の場合は,裁判所の許可を受けた株主が会社の株主総会を招集する。もっとも,招集株主が会社のために招集権限を与えられたと評価できるとしても,その株主が取締役になるわけではない。

この違いが,会社法385条と120条の直接適用を難しくする。他方,株主総会という会社の意思決定手続を自ら運営する以上,招集株主に手続の適法性と公正を無視する自由があるわけでもない。条文上の主体が異なるという入口を確認した後,制度目的と保護の必要性から類推適用の可否を検討する必要がある。

第4 監査役は開催前に差し止められるか

会社法385条1項は,取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款に違反する行為をし,又はそのおそれがあり,その行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときに,監査役が取締役に対して行為の差止めを請求できると定める。条文上の対象は「取締役」であるため,招集株主の行為へそのまま直接適用することは難しい。

類推適用を肯定する方向では,①招集株主は個人のためではなく会社のために総会を招集する権限を与えられ,適法に招集する義務を負う点で取締役に準ずる,②類推適用を否定すると,監査役が違法な会社意思決定手続を事前に監査する任務を果たせない,という理由が考えられる。

反対に,否定する方向では,①株主と取締役は会社法上の地位と責任が異なる,②385条は「著しい損害」を要件とする特別の差止制度であり,条文が対象者を取締役に限定していることを軽視できない,という理由が考えられる。したがって,類推適用を当然の結論として扱わず,招集株主の会社法上の地位,問題となる違法,会社に生ずる損害及び事後救済では足りない理由を具体化する。

別の被保全権利を構成して民事保全法23条2項の仮処分を申し立てる可能性も考えられるが,被保全権利の根拠と,本案となる決議がまだ存在しない段階で開催自体を止めることが許されるかを独立して検討する必要がある。

(続きを読む...)裁判所の許可を得て株主が招集する株主総会―監査役の差止め,利益供与及び決議取消し(AI作成)

株式併合による少数株主の締出し―差止め・決議取消し・買取請求・価格決定(AI作成)

第1 株式併合による締出しの仕組み第2 会社が守るべき手続第3 少数株主の四つの争い方第4 目的・手続・価格を分ける第5 決議方法が著しく不公正とされた裁判例第6 出典・参考資料
第1 株式併合による締出しの仕組み

株式併合は,複数の株式を一株にまとめる手続である。
併合割合を大きく設定し,少数株主の持株を一株未満の端数にすると,その株主は株主の地位を失い,端数処理による代金を受け取ることになる。
公開買付け後のスクイーズ・アウトや非公開会社の株主整理に用いられる。

特別支配株主の株式等売渡請求(会社法179条以下)とは別制度である。
株式併合では株主総会の特別決議が必要であり,少数株主の救済条文も182条の3~5を中心に確認する。

株数の減少後に確認する二つの閾値

株式併合の影響は,株数と配当額の減少だけで終わらない。併合後の議決権割合が法定の閾値をまたぐ場合,少数株主権又は株主間の拒否力が変わる。

閾値確認する効果3%総会招集請求等,3%以上を要件とする少数株主権を失うか。公開会社の保有期間要件その他の個別要件も別に確認する。3分の1他の株主が3分の1を超えることにより,特別決議を阻止できる議決権配置が変わるか。定足数・議決要件と実際の出席状況を区別する。

令和2年度司法試験の具体的数値はこの二つの閾値をまたぐように設定されていた。全案件で同じ効果が生ずるという意味ではなく,併合前後の総議決権数と各株主の議決権を再計算する必要がある。

第2 会社が守るべき手続

会社は,併合割合,効力発生日,効力発生日における発行可能株式総数等を株主総会で定める(会社法180条2項)。
取締役は,株式の併合を決議する株主総会において,株式の併合をすることを必要とする理由を説明しなければならない(同条4項)。
この説明義務は,端数が生じる場合に限られない。
説明した理由が事実に反し,又は締出しという本来の目的を説明しなかった場合は,決議の方法の法令違反(831条1項1号)として取消事由となり得る。
決議は309条2項4号の特別決議による。

会社は,効力発生日の20日前までに株主へ通知又は公告をしなければならない(181条。株式の併合については182条の4第3項により「二週間」が「二十日」に読み替えられる。)。
また,株主総会の日の2週間前の日又は上記の通知・公告の日のいずれか早い日から,効力発生日後6か月を経過する日まで,併合に関する事項を記載した書面等を本店に備え置く(182条の2第1項)。
端数株式は競売等により換価され,代金が持株数に応じて交付される(235条が234条を準用)。

種類株式がある場合の追加確認

種類株式の権利内容が実質的に不利益を受ける場合は,普通株式だけの株式併合と同じ順序で終えない。会社法116条の反対株主による買取請求が成立するかを,182条の4の買取請求と区別して確認する。

種類株主総会について定款で不要とする定めがある場合でも,株式併合が優先配当その他の権利内容を実質的に縮減する特殊な事案では,322条1項1号・3項ただし書の趣旨を類推し,種類株主総会決議の欠缺を182条の3の「法令違反」へ接続する構成があり得る。これは令和2年度問題の事実関係に即した高度な構成であり,一般に322条が当然適用されると断定するものではない。

差止事由は,①決議取消事由を180条2項違反へ接続する構成,②権利濫用,③取締役の善管注意義務違反,④種類株主総会規定の類推適用等を分ける。他方,取消判決がされるまでは取消事由が直ちに法令違反になるわけではないとの反対説もあるため,各構成から差止要件までを独立に説明する。

第3 少数株主の四つの争い方

第1は差止請求である。
株式併合が法令又は定款に違反し,株主が不利益を受けるおそれがあるときは,効力発生前に差止めを請求できる(会社法182条の3)。
決議後に準備していては効力発生日に間に合わないため,招集通知受領時から違反内容と保全の必要性を検討する。

第2は株主総会決議取消し等の訴えである。
招集手続・決議方法の法令定款違反又は著しい不公正などがある場合,原則として決議の日から3か月以内に決議取消しを求める(831条)。
差止請求と決議取消しは,効力発生前後の関係も含めて並行して検討する。

株式併合の効力発生により株主の地位を失った者も,決議が取り消されれば株主の地位を回復する者として,決議取消しの訴えを提起できる(831条1項柱書き後段)。
効力発生日を過ぎたことだけで争う手段がなくなるわけではないが,決議の日から3か月以内という提訴期間は変わらない。

第3は反対株主の株式買取請求である。
反対株主は,①株主総会に先立って反対の旨を通知し,かつ,総会で反対した株主(議決権を行使できる者に限る。)と,②その総会で議決権を行使することができない株主であり,公正な価格での買取りを請求できる(182条の4第1項・第2項)。
基準日の後に相続等で株式を取得して名義書換えをした者が②に当たるかは,条文だけでは決まらないので,個別事案で裁判例を確認する必要がある。
請求期間は効力発生日の20日前から前日までであり,通知・反対・請求の各段階を落とさない。

第4は価格決定の申立てである。
会社と株主の間で効力発生日から30日以内に価格の協議が調わないときは,その後30日以内に裁判所へ価格決定を申し立てることができる(182条の5第2項)。

株式併合それ自体は会社法828条の列挙する会社の組織に関する行為に含まれないため,同条の無効の訴えを当然に選ぶことはできない。まず,①特別利害関係人が議決権を行使したため著しく不当な決議となったとする831条1項3号の取消し,②決議内容の法令違反を理由とする830条2項の無効確認を検討し,③828条の類推適用は補充的な構成として検討する。

決議内容の法令違反をいう場合は,違反する実体法上の根拠として,会社法109条1項の株主平等原則又は民法1条3項の権利濫用等を特定する。特別利害関係人による著しく不当な決議,決議内容の法令違反,決議方法の著しい不公正及び価格の不公正は,対象となる瑕疵と救済が異なるため,一つの「不公正」にまとめない。

831条1項3号の取消しは,①決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことにより決議が成立したことと,②決議が著しく不当であることに分けて主張する。全部取得条項付種類株式を用いた完全子会社化の事案で,東京地裁平成22年9月6日判決(平成21年(ワ)第26121号,判例秘書の判例番号 L06530452)は,この二つの要件が必要であるとし,不当性の要件について,少なくとも,少数株主に交付される予定の金員が対象会社の株式の公正な価格に比して著しく低廉であることを必要とするとした(請求は棄却)。

また,裁判所が違反する事実の重大性と決議への影響を考慮して請求を棄却できる裁量棄却(831条2項)は,招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反する場合についての規定であり,3号の取消しには適用されない。

合併の承認決議についての同様の争い方と,差止め・株式買取請求・合併無効の訴えとの関係は,吸収合併の合併比率が不公正なときの少数株主の手段で扱っている。

第4 目的・手続・価格を分ける

締出し目的があること,手続が違法又は著しく不公正であること,交付価格が低いことは別の論点である。
少数株主を排除する目的だけから直ちに決議が無効になるとは限らない。
他方,形式上の各手続だけを切り離して適法性を判断できない場合もある。

会社側は,併合の事業上の目的,代替手段,併合割合の理由,価格算定資料,利害関係の処理及び情報提供の経過を記録する。
株主側は,手続違反,議決権行使を困難にした事情,目的の不当性,算定前提及び比較対象取引を分けて主張する。

第5 決議方法が著しく不公正とされた裁判例

東京地裁令和4年11月28日判決(令和2年(ワ)第18534号,判例秘書の判例番号 L07732771)は,代表取締役が,自己単独で特別決議を行えない定款を違法な定足数変更決議によって変更し,その取消訴訟の3か月の提訴期間経過後に株式併合決議を行った事案で,決議方法が著しく不公正であるとして併合決議を取り消した。

東京高裁令和5年9月28日判決(令和4年(ネ)第5998号等,判例秘書の判例番号 L07820568)は原判決を維持した。
各招集通知に議題を記載せず開催直前に発送して,他の株主の出席・議決権行使を事実上困難にしたこと,株主の地位を失わせる重大な結果を具体的に知らせなかったことなど,一連の事情を評価した。

この裁判例は,個々の手続が形式上適法かだけでなく,先行する定款変更から併合決議までの一連の方法を検討すべきことを示す。
他方,具体的な経緯を重視した事例判断であり,すべてのキャッシュアウト目的の株式併合を否定したものではない。

令和6年司法試験公式資料による補足:会社法828条・830条・831条による救済の分岐,会社法109条1項及び民法1条3項に関する補足は,第2問設問2の公式整理に基づく。
民事系科目の論文式試験問題,論文式試験出題の趣旨(民事系科目)及び採点実感(民事系科目)(法務省)を確認した。

令和2年度司法試験公式資料による補足:3%・3分の1の閾値,会社法116条・182条の3・322条・831条及び取締役の善管注意義務に関する分岐は,令和2年司法試験論文式試験出題の趣旨と同採点実感(民事系科目)を確認して追記した。公式資料が示す複数構成を,個別事件の確定的結論として一般化しない。

第6 出典・参考資料

(続きを読む...)株式併合による少数株主の締出し―差止め・決議取消し・買取請求・価格決定(AI作成)

少数株主が会社の業務と財産を調べる方法―会計帳簿の閲覧,業務検査役,2項調査者,総会検査役と改正案(AI作成)

目次第1 本記事の対象と手段の一覧第2 書類の閲覧から始める1 計算書類等と株主総会議事録2 取締役会議事録と株主名簿3 合併・会社分割等の事前開示書面と株主総会での説明第3 会計帳簿の閲覧謄写(会社法433条)1 議決権又は株式数の3%以上2 請求の理由を具体的に示す3 会社が請求を拒める場合4 会社が応じないとき5 訴訟の途中で持株の割合が3%を下回った場合第4 業務検査役(会社法358条)1 申立ての要件2 選任された後の手続3 申立て後に持株の割合が下がった場合第5 株主総会で選任する調査者(2項調査者)1 制度の仕組み2 同族会社で使う場合の注意第6 総会検査役(会社法306条)1 申立ての要件,時期及び費用2 報告書の使われ方第7 調査の制度に関する改正案1 2項調査者を廃止して業務検査役に置き換える案2 総会検査役の申立権者に取締役・監査役を加える案3 株主総会の招集請求の要件を5%に引き上げるかの問題提起4 改正案の位置付け第8 出典1 法令2 裁判例3 裁判所の案内4 株式会社東芝の公表資料5 法制審議会の資料6 司法試験の資料
第1 本記事の対象と手段の一覧

同族会社などで経営に関与していない株主が,会社の財産が不当に流出していないか,役員の報酬や取引が適正かを確かめたいと考えても,株主が見られる資料は法律で決まっている。
会社法は,株主が会社の業務と財産を調べる手段として,書類の閲覧謄写,会計帳簿の閲覧謄写,裁判所が選任する検査役,株主総会で選任する調査者を用意しているが,手段ごとに,必要な持株の割合,裁判所の関与の有無及び得られる情報が異なる。

本記事は,令和8年9月19日を基準に,会社法の条文と,裁判所ウェブサイト又は判例秘書で確認した裁判例を基に,これらの手段の要件と使い分けを説明する。
あわせて,法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会で検討されている,2項調査者の制度を廃止して裁判所が選任する業務検査役に置き換える案など,調査の制度に関する改正案を紹介する。
改正案は令和8年9月19日時点で事務当局の提案の段階にあり,法律として成立していない。

主な手段は次の表のとおりである。

手段必要な持株裁判所の関与調べられるもの計算書類等の閲覧(442条)1株でよいなし計算書類,事業報告,附属明細書等会計帳簿の閲覧謄写(433条)議決権又は発行済株式の3%以上拒まれたら訴え会計帳簿とこれに関する資料業務検査役(358条)議決権又は発行済株式の3%以上裁判所が選任業務と財産の状況2項調査者(316条2項)総会招集請求に議決権の3%以上なし(総会が選任)業務と財産の状況総会検査役(306条)議決権の1%以上裁判所が選任株主総会の招集手続と決議の方法合併等の事前開示書面の閲覧(782条)1株でよいなし合併契約等の内容,合併対価の相当性に関する事項等
第2 書類の閲覧から始める
1 計算書類等と株主総会議事録

計算書類,事業報告及びこれらの附属明細書は,株主であれば持株の数にかかわらず,会社の営業時間内いつでも閲覧を請求でき,会社の定めた費用を支払えば謄本等の交付も請求できる(会社法442条3項)。
株主総会の議事録も,株主は営業時間内いつでも閲覧又は謄写を請求できる(会社法318条4項)。
これらの請求には,会計帳簿の閲覧のような持株の要件も,請求の理由を明らかにする要件もない。

2 取締役会議事録と株主名簿
(1) 取締役会議事録

取締役会の議事録は,株主がその権利を行使するため必要があるときに閲覧又は謄写を請求できる(会社法371条2項)。
ただし,監査役設置会社,監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社では,裁判所の許可を得なければならず(同条3項),裁判所は,閲覧等により会社等に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは許可をすることができない(同条6項)。

(2) 株主名簿

株主名簿は,請求の理由を明らかにして閲覧又は謄写を請求できる(会社法125条2項)。
他の株主と連絡を取って株主総会の招集請求や議案の提出をするための持株を集めるときは,株主名簿が出発点になる。

3 合併・会社分割等の事前開示書面と株主総会での説明

会社が吸収合併,吸収分割又は株式交換をするときは,消滅株式会社等は,吸収合併契約等備置開始日(承認総会の日の2週間前の日等)から所定の日まで,吸収合併契約等の内容その他法務省令で定める事項を記載した書面等を本店に備え置かなければならない(会社法782条1項・2項)。
株主は,持株の数にかかわらず,営業時間内いつでもその閲覧を請求でき,会社の定めた費用を支払えば謄本又は抄本の交付も請求できる(同条3項)。

吸収合併の消滅会社では,法務省令で定める事項に,合併対価の相当性に関する事項及び合併対価について参考となるべき事項が含まれる(会社法施行規則182条1項1号・2号)。
存続会社と消滅会社が共通支配下関係にあるとき(一方の会社が他方の会社を支配している場合を含む。会社計算規則2条3項36号)は,共通支配下関係にある株主を除く消滅会社の株主の利益を害さないように留意した事項(その事項がないときは,その旨)も記載しなければならない(会社法施行規則182条3項3号)。

株主総会では,取締役等に対し,合併対価の算定根拠等について説明を求めることができる(会社法314条)。
閲覧や説明の請求をしたこと自体で合併の承認決議の効力が左右されるわけではないが,事前開示書面が備え置かれていなかったことや,必要な説明がされなかったことは,後に決議や合併の効力を争う理由になり得る。
合併の条件に不満がある株主が使える差止請求,株式買取請求,決議取消しの訴え及び合併無効の訴えは,吸収合併の合併比率が不公正なときの少数株主の手段で扱っている。

第3 会計帳簿の閲覧謄写(会社法433条)

(続きを読む...)少数株主が会社の業務と財産を調べる方法―会計帳簿の閲覧,業務検査役,2項調査者,総会検査役と改正案(AI作成)

株主総会の書面決議(会社法319条)―株主全員の同意,議事録・登記,連絡の取れない株主と改正案(AI作成)

目次第1 株主総会の書面決議とは第2 書面決議の要件1 提案をする者2 議決権を行使することができる株主の全員の同意3 書面又は電磁的記録による同意第3 書面決議の効果1 可決の決議があったものとみなされる2 定時株主総会の終結と取締役の任期3 報告事項の省略と計算書類の備置き第4 書面決議の後の手続1 同意書面の備置きと閲覧2 議事録の作成3 登記の添付書面と株主リスト第5 株主全員の同意が得られない場合1 書面決議は成立しない2 招集手続の省略と全員出席総会3 連絡が取れない株主がいる場合第6 取締役会の書面決議との違い第7 議決権の10分の9以上の同意で足りるとする改正案1 部会資料14の提案の内容2 中間試案からの変更点3 改正案の位置付けと注意点第8 出典1 法令2 裁判例3 法務省・法務局の資料4 法制審議会の資料
第1 株主総会の書面決議とは

株主総会の書面決議とは,株主総会を開かずに,株主全員が書面又は電磁的記録(電子メール等)で提案に同意することによって,その提案を可決する株主総会の決議があったものとみなす制度である(会社法319条1項)。
条文の見出しは「株主総会の決議の省略」であり,「みなし決議」とも呼ばれる。
株主が数名の同族会社や,親会社が全株式を持つ子会社では,株主全員の同意を集めやすいから,定時株主総会の計算書類の承認や役員の選任をこの方法で行うことが考えられる。

本記事は,令和8年9月19日を基準に,会社法,会社法施行規則,商業登記法及び商業登記規則の条文,法務省・法務局の公表資料並びに判例秘書で全文を確認した下級審の裁判例を基に,書面決議の要件,効果,決議後の議事録と登記,全員の同意が得られない場合の選択肢を説明する。
あわせて,法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会で検討されている,非上場会社に限って議決権の10分の9以上の同意で足りるとする改正案を紹介する。
改正案は令和8年9月19日時点で事務当局の提案の段階にあり,現行法は株主全員の同意を要する。

第2 書面決議の要件
1 提案をする者

書面決議の出発点は,取締役又は株主が,株主総会の目的である事項について提案をすることである(会社法319条1項)。
株主も提案をすることができるから,株主全員が賛成していれば,株主の側から書面決議を成立させることもできる。

2 議決権を行使することができる株主の全員の同意
(1) 同意が必要な株主の範囲

同意が必要なのは,「当該事項について議決権を行使することができるもの」に限った株主の全員である(会社法319条1項括弧書)。
そのため,議決権制限株式しか持たず,その事項について議決権を行使できない株主の同意は要らない。
反対に,議決権を行使できる株主は,保有する株式が1株でも,連絡が取れない状態であっても,同意を得る対象から外れない。

(2) 多数決ではない

書面決議は,普通決議や特別決議の要件(会社法309条1項・2項)を満たせば成立するものではない。
議決権の99%を持つ株主が同意していても,残りの1人が同意しなければ,決議があったものとはみなされない。

(3) 決議の種類を問わない

会社法319条1項は,対象となる事項を限定していない。
計算書類の承認や役員の選任のような普通決議の事項だけでなく,定款変更のような特別決議の事項も,株主全員が同意すれば書面決議で可決できる。

3 書面又は電磁的記録による同意
(1) 口頭の同意では足りない

同意の意思表示は,書面又は電磁的記録でしなければならない(会社法319条1項)。
口頭や電話で「賛成する」と伝えただけでは足りない。
電子メールで同意する場合も,後に閲覧・謄写の対象となるので(同条3項2号),会社は同意のメールを保存しておくことになる。

(2) 株主が会社である場合の同意

株主が会社(法人)である場合,その代表者がする同意について,東京地裁令和元年9月3日判決は,会社法319条1項に基づく同意の意思表示は意思表示に準じたものであり,民法の一般原則が適用されるとした。

(続きを読む...)株主総会の書面決議(会社法319条)―株主全員の同意,議事録・登記,連絡の取れない株主と改正案(AI作成)

支配株主が変わる第三者割当て(会社法206条の2)―株主への通知,反対通知と株主総会,手続違反と新株発行の無効(AI作成)

目次第1 会社法206条の2が適用される場面第2 株主への通知1 通知が必要になる場合2 通知の期限と通知事項3 公告による代替と通知の省略第3 反対通知と株主総会の承認1 10分の1以上の議決権を持つ株主の反対通知2 決議の要件3 株主総会を要しない例外第4 株主総会の招集通知と株主名簿上の住所1 株主名簿上の住所に宛てて発すれば足りる2 新しい住所を知りながら旧住所に送った場合第5 手続に違反した新株発行の効力1 新株発行の無効の訴え2 最高裁が示した無効原因の考え方3 株主総会の承認を経ずにした発行を無効とした裁判例4 通知の欠缺と招集手続の瑕疵第6 株主と会社が確認しておく事項第7 出典1 法令2 裁判例
第1 会社法206条の2が適用される場面

公開会社は,取締役会の決議で募集株式の発行(第三者割当て)をすることができる(会社法201条1項)。
しかし,引受人が株主となった結果,その引受人が総株主の議決権の過半数を持つことになる場合は,会社の支配権が移るため,会社法206条の2の特則が適用される。

特則の中身は,次の3点である。
①払込期日の2週間前までに,株主に引受人の情報などを通知する(同条1項)。
②総株主の議決権の10分の1以上を持つ株主が反対を通知したときは,株主総会の決議で割当ての承認を受ける(同条4項本文)。
③財産の状況が著しく悪化し,事業の継続のため緊急の必要があるときは,株主総会を要しない(同項ただし書)。

本記事は,令和8年9月19日を基準に,会社法と会社法施行規則の条文,新株発行の無効に関する最高裁判例と,206条の2に違反した新株発行を無効とした東京地裁の判決を基に,この手続と,手続に違反した場合に株主が取り得る手段を説明する。
会社法の最高裁判例の全体は会社法等に関する最高裁判例―裁判所HP掲載判例の論点別索引で,会社法の改正経緯は会社法(平成17年法律第86号)の改正経緯で扱っている。

第2 株主への通知
1 通知が必要になる場合

公開会社は,引受人(その子会社等を含む。)が引き受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数の,引受人全員が株主となった場合における総株主の議決権の数に対する割合が2分の1を超える場合には,株主に通知しなければならない(会社法206条の2第1項)。
この引受人を特定引受人という。
ただし,特定引受人が会社の親会社等である場合と,株主に株式の割当てを受ける権利を与えた場合(株主割当て)は,通知は要らない(同項ただし書)。

2 通知の期限と通知事項

通知は,払込期日(払込期間を定めた場合はその初日)の2週間前までにしなければならない(会社法206条の2第1項)。
通知すべき事項は会社法施行規則42条の2が定めており,次のとおりである。
①特定引受人の氏名又は名称及び住所
②特定引受人が株主となった場合に有することとなる議決権の数
③その募集株式に係る議決権の数
④引受人全員が株主となった場合における総株主の議決権の数
⑤特定引受人への割当てに関する取締役会の判断及びその理由
⑥社外取締役を置く会社で,取締役会の判断が社外取締役の意見と異なる場合はその意見
⑦特定引受人への割当てに関する監査役,監査等委員会又は監査委員会の意見

3 公告による代替と通知の省略

通知は公告をもって代えることができる(会社法206条の2第2項)。
また,払込期日の2週間前までに金融商品取引法に基づく届出をしている場合など,株主の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合は,通知を要しない(同条3項,会社法施行規則42条の3)。
この通知は,公開会社が取締役会で募集事項を定めたときに株主へ通知又は公告すべき募集事項の通知(会社法201条3項・4項)とは別のものである。

第3 反対通知と株主総会の承認

(続きを読む...)支配株主が変わる第三者割当て(会社法206条の2)―株主への通知,反対通知と株主総会,手続違反と新株発行の無効(AI作成)

役員等の第三者に対する責任(会社法429条)の消滅時効は10年―最高裁昭和49年12月17日判決(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 結論2 本記事の対象と調査基準日第2 最高裁昭和49年12月17日判決1 判示事項と結論2 理由3 大法廷昭和44年11月26日判決との関係第3 現行法の下での時効期間1 民法166条1項の5年・10年2 起算点3 経過措置4 不法行為構成との比較第4 会社に対する責任(会社法423条)の消滅時効1 最高裁平成20年1月28日判決2 現行法第5 遅延損害金との関係第6 関連記事第7 出典・参考資料1 法令2 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 結論

取締役等の役員等が職務を行うについて悪意又は重大な過失があり,それによって第三者に損害を与えた場合の損害賠償責任(会社法429条1項)には,最高裁判例の考え方によれば,不法行為の消滅時効(民法724条の3年)は適用されない。
最高裁昭和49年12月17日判決は,この責任の前身である商法266条の3第1項前段の責任について,消滅時効期間は10年であると判示した。

同判決は,取締役の責任は法が特に認めた責任であって不法行為責任ではないから民法724条は当然には適用されず,類推適用する余地もないとして,債権の一般原則である改正前民法167条1項(10年)を適用した。
令和2年4月1日以後に生じた請求権については,現行民法166条1項が適用され,権利を行使することができることを知った時から5年,権利を行使することができる時から10年のいずれか早い方で時効が完成すると考えられる。

したがって,不法行為構成の3年が経過していても,会社法429条1項の責任は時効にかかっていないことがある。
ただし,現行法の下では「10年」だけでなく「知った時から5年」にも注意する必要がある。

役員等の会社に対する任務懈怠責任(会社法423条1項)についても,最高裁平成20年1月28日判決は,前身の商法266条1項5号の責任の消滅時効期間を商事時効の5年ではなく民法の10年とした。

2 本記事の対象と調査基準日

本記事は,役員等の第三者に対する責任(会社法429条)の消滅時効を中心に,会社に対する責任(会社法423条)の消滅時効と遅延損害金に触れる。
責任の成立要件(悪意・重過失,損害の範囲等)は扱わない。

調査基準日は令和8年9月19日である。
条文はe-Gov法令検索(法令API)で取得した現行条文と照合し,裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で判決全文を確認した。
消滅時効全般の論点は,ハブ記事の消滅時効に関するメモ書きで整理している。

第2 最高裁昭和49年12月17日判決
1 判示事項と結論

最高裁判所第三小法廷昭和49年12月17日判決(昭和49年(オ)第768号,民集28巻10号2059頁)の判示事項は,「商法二六六条の三第一項前段所定の第三者の取締役に対する損害賠償請求権の消滅時効期間」である。
裁判要旨は,「商法二六六条の三第一項前段所定の第三者の取締役に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は一〇年と解すべきである。」というものである。
上告は棄却され,同旨の原審(大阪高等裁判所)の判断が維持された。

2 理由

同判決は,第三者の取締役に対する損害賠償請求権に民法724条の適用があるかどうかは,取締役の責任の法的性質と,民法724条が短期消滅時効を設けた趣旨等の観点から検討して決すべきであるとした。

第一に,取締役の責任は,法がその責任を加重するため特に認めたものであって,不法行為責任たる性質を有するものではないから,不法行為責任に関する消滅時効の特則である民法724条は当然に適用されるものではないとした。
この点について,同判決は最高裁大法廷昭和44年11月26日判決を引用している。

第二に,民法724条が短期消滅時効を設けた趣旨は,不法行為に基づく法律関係が,通常,未知の当事者間に予期しない偶然の事故に基づいて発生するため,加害者が極めて不安定な立場に置かれるので,被害者が損害及び加害者を知りながら相当の期間内に権利を行使しないときは加害者を保護することにあるとした。
これに対し,取締役の責任は,通常,第三者と会社との間の法律関係を基礎として生ずるものであって,取締役は不法行為の加害者のような不安定な立場に立たされるわけではないから,民法724条を適用すべき実質的論拠はなく,類推適用する余地もないとした。

その上で,消滅時効期間については他に特に定めた規定がないから,改正前民法167条1項を適用すべきであるとした。

3 大法廷昭和44年11月26日判決との関係

最高裁判所大法廷昭和44年11月26日判決(昭和39年(オ)第1175号,民集23巻11号2150頁)は,商法266条ノ3第1項前段の規定について,取締役が悪意又は重大な過失により会社に対する義務に違反し,よって第三者に損害を被らせたときは,任務懈怠の行為と第三者の損害との間に相当の因果関係がある限り,会社が損害を被った結果ひいて第三者に損害を生じた場合(間接損害)であると,直接第三者が損害を被った場合(直接損害)であるとを問わず,取締役が直接第三者に対し損害賠償責任を負うことを定めたものであるとした。

(続きを読む...)役員等の第三者に対する責任(会社法429条)の消滅時効は10年―最高裁昭和49年12月17日判決(AI作成)

企業不祥事の「分岐点」と内部統制―例外運用,違和感の記録及び取締役の責任(AI作成)

第1 結論第2 「不正の分岐点」という着眼点1 A&Sニューズレターの位置付け2 法的義務と問題発見の着眼点を分ける第3 会社法上の内部統制システム1 取締役会設置会社2 取締役会を置かない会社3 取締役の責任と会社の責任第4 最高裁平成21年7月9日判決1 事件及び結論2 存在していた体制3 不正手法と予見可能性4 判決の射程第5 不正の端緒となり得る例外運用1 例外と不正を同一視しない2 確認を開始すべき兆候第6 例外対応レジスター1 記録項目2 運用上の要点第7 善意,不正及びデータ不備という競合仮説1 一つの筋書きへ飛びつかない2 証拠の保全と独立した確認第8 公益通報制度との接続第9 JPX資料の位置付け1 不祥事予防のプリンシプル2 内部統制強化ハンドブック第10 例外運用を点検するための質問第11 関連記事第12 出典1 法令2 裁判例3 行政資料及び実務資料
第1 結論

企業不祥事を防ぐ内部統制は,不正を一件も生じさせないことを保証する仕組みではない。
実務上の例外対応も,それ自体が不正であるわけではない。
しかし,「今回だけ」という例外が反復され,通常の承認経路が迂回され,説明が変遷し,又は判断資料が残っていない場合,その例外は調査又は再評価を始める端緒となり得る。

会社法上は,取締役会設置会社の内部統制システムについて,会社法362条4項6号及び5項並びに会社法施行規則100条が中心となる。
もっとも,法令は,あらゆる例外対応を記録する特定名称の台帳まで一律に義務付けているわけではない。
本記事で示す「例外対応レジスター」は,法令上の義務をそのまま転記したものではなく,例外の理由,承認及び事後評価を後から検証できるようにするための実務上の整理である。

最高裁平成21年7月9日判決は,不正発生という結果だけで代表取締役のリスク管理体制構築義務違反の過失を認めたものではなく,当時の体制,実際の運用,不正手法の巧妙性及び予見可能性を具体的に検討した。
反対に,過去の同種不正,合理的に説明できない異常又は統制の形骸化が認識できる状況であれば,同判決と同じ結論になるとは限らない。

第2 「不正の分岐点」という着眼点
1 A&Sニューズレターの位置付け

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業が令和8年6月に公表した「企業はどこでつまずくのか―多数の不正・紛争事案から考える『不正の分岐点』」は,裁判官及び弁護士として不正・紛争事案に携わった経験から,問題が大きくなる前の小さな判断に着目するニューズレターである。
同資料は,法令,裁判例又は統計的研究ではなく,実務家の経験に基づく問題発見の着眼点として読む必要がある。

同ニューズレター3頁~6頁は,例外を設けること自体を否定せず,通常運用との違い,例外の理由,判断者,記録の有無及び反復の有無を後から確認できることの重要性を指摘する。
また,現場が抱いた違和感を直ちに不正と決め付けるのではなく,その違和感を言語化し,説明可能な形で残すという視点を示している。

2 法的義務と問題発見の着眼点を分ける

ニューズレターの指摘は,例外運用を確認する際の有用な手掛かりとなる。
しかし,個別事件における取締役の責任は,会社の規模,機関設計,事業内容,想定されるリスク,既存の統制,認識できた兆候及び対応経過を踏まえて判断されるため,ニューズレターの着眼点だけから責任の有無を決めることはできない。

本記事では,①法令が定める体制,②最高裁判決が具体的事案で検討した事情,③実務資料が示す点検の着眼点,及び④本記事が提案する記録方法を分けて整理する。

第3 会社法上の内部統制システム
1 取締役会設置会社

会社法362条2項は,取締役会の職務として,業務執行の決定,取締役の職務執行の監督並びに代表取締役の選定及び解職を定める。
同条4項6号は,取締役の職務執行の法令・定款適合性を確保する体制その他会社及び企業集団の業務の適正を確保するために必要な体制の整備を,取締役へ委任できない重要な業務執行の決定としている。
大会社である取締役会設置会社では,同条5項により,取締役会がこの事項を決定しなければならない。

会社法施行規則100条1項は,①取締役の職務執行に係る情報の保存及び管理,②損失の危険の管理,③取締役の職務執行の効率性,④使用人の職務執行の法令・定款適合性,並びに⑤企業集団の業務の適正を確保する体制を掲げる。
同条3項は,監査役設置会社について,監査役への報告,報告者に対する不利益取扱いの防止及び監査の実効性確保等も定める。

取締役会が基本方針を決議していることと,現場で統制が実際に機能していることは同じではない。
取締役会には取締役の職務執行を監督する権限があるため,決議済みの規程が実際の業務で使われているか,事業又はリスクの変化に応じて見直されているかという運用面も重要となる。

2 取締役会を置かない会社

(続きを読む...)企業不祥事の「分岐点」と内部統制―例外運用,違和感の記録及び取締役の責任(AI作成)

完全子会社の取締役・監査役が親会社に対抗する方法―解任・報酬・監査権限(AI作成)

第1 親会社への対抗手段を考える前提
1 親会社への請求と子会社への請求
2 親会社の支配と子会社役員の職務

第2 解任・報酬・辞任をめぐる請求
1 解任の効力と損害賠償
2 報酬の減額と解任による損害
3 決議取消しは3か月の期限を分けて考える
4 辞任・任期満了・代表取締役の解職

第3 在任中の取締役・監査役の権限
1 取締役による異議・報告・取締役会の利用
2 監査役による調査・報告・差止め
3 会計限定監査役には使えない権限がある

第4 親会社への直接請求と会社財産の回復
1 契約・不法行為の根拠を特定する
2 法人格否認と強制執行の限界
3 子会社の損害は子会社の権利として扱う

(続きを読む...)完全子会社の取締役・監査役が親会社に対抗する方法―解任・報酬・監査権限(AI作成)

コーポレートガバナンス・コードとは-2026年版の4つの基本原則・適用対象・法的拘束力(AI作成)

目次

第1 コーポレートガバナンス・コードとは1 コードが対象とするコーポレートガバナンス2 会社法とは異なる上場制度上の原則第2 プリンシプルベースとコンプライ・オア・エクスプレイン1 細則ではなく原則を示すプリンシプルベース2 実施又は説明を求める仕組み第3 2026年版コードの構造1 4つの基本原則と26の原則2 解釈指針の役割第4 2026年版の4つの基本原則1 4つの基本原則の一覧2 基本原則1―株主の権利・平等性の確保,株主との対話3 基本原則2―株主以外のステークホルダーとの適切な協働4 基本原則3―適切な情報開示と透明性の確保5 基本原則4―取締役会等の責務第5 コードの適用対象1 市場区分ごとに異なる説明対象2 未上場会社と上場外国会社第6 コードの法的拘束力1 各原則自体には法的拘束力がない2 説明は上場規程上の義務である第7 制定・改訂の経緯と2026年版への移行1 2015年の施行から2026年改訂まで2 コーポレート・ガバナンス報告書の更新第8 出典・参考資料1 法令・取引所規則・コード2 金融庁・東京証券取引所の公表・運用資料

第1 コーポレートガバナンス・コードとは

1 コードが対象とするコーポレートガバナンス

東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)は,「コーポレートガバナンス」を,上場会社が株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で,透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みと説明している。
コードは,この仕組みを実効的なものとする主要な原則を示し,各社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を促すものである。

コードは,不祥事の防止や経営者の監視だけを目的とするものではない。
意思決定の透明性・公正性を確保しながら,経営陣による迅速・果断な意思決定と適切なリスクテイクを支える「攻めのガバナンス」も目的としている。

2 会社法とは異なる上場制度上の原則

コーポレートガバナンス・コードは,会社法の条文ではなく,東京証券取引所が定める上場制度上の原則である。
会社法が株式会社の機関,取締役の権限・義務,株主総会その他の法的な仕組みを定めるのに対し,コードは,上場会社がそれぞれの状況に応じて実効的なガバナンスを実現するための考え方を示す。

したがって,会社法上の義務とコード上の原則は,同じものとして扱うことができない。
会社法の制定後の改正については,会社法(平成17年法律第86号)の改正経緯参照。

第2 プリンシプルベースとコンプライ・オア・エクスプレイン

1 細則ではなく原則を示すプリンシプルベース

コードは,会社が取るべき行動を細部まで一律に定めるルールベースではなく,大づかみな原則の趣旨・精神に照らして各社が自らの対応を判断するプリンシプルベース・アプローチを採用している。
同じ原則でも,業種,規模,事業特性,機関設計及び会社を取り巻く環境によって,適切な実施方法は異なり得る。

このため,コードを読むときは,文言を形式的に満たしているかだけでなく,その会社の具体的な取組みが原則の目的に適合しているかを見る必要がある。
コードは,各社に同じ組織図や手続を採用させるための仕様書ではない。

(続きを読む...)コーポレートガバナンス・コードとは-2026年版の4つの基本原則・適用対象・法的拘束力(AI作成)

2026年改訂コーポレートガバナンス・コード-変更点・適用日・2027年7月末までの報告書対応(AI作成)

目次

第1 改訂日と報告書の更新期限1 2026年7月21日と2027年7月31日は別の期限である2 コードと上場規程上の説明義務を区別する第2 2026年版コードの構造1 補充原則を廃止し,4基本原則・26原則へ再編した2 解釈指針は説明義務の対象外である第3 2026年改訂の主な変更点1 成長の道筋と経営資源の配分2 独立社外取締役の質・数と取締役会の支援体制3 サイバーセキュリティ等を含む全社的リスク管理4 有価証券報告書の株主総会前開示第4 2027年7月末までの報告書対応1 2021年版による定期更新も一時的に認められる2 二つの記載欄を別々に点検する3 旧コードの開示内容を新しい原則へ対応させる第5 報告書更新の実務手順1 現在の記載を2026年版へ対応付ける2 エクスプレインは提出日時点の状況に合わせる3 他の開示資料との不一致を確認する4 2027年7月30日以前を社内提出目標とする第6 改訂内容を読む際の注意点第7 出典・参考資料1 上場制度上の原則及び規則改正資料2 金融庁・東京証券取引所の解説及び運用資料3 パブリックコメント

第1 改訂日と報告書の更新期限

1 2026年7月21日と2027年7月31日は別の期限である

2026年改訂コーポレートガバナンス・コードは,2026年7月21日に確定・公表されたものであり,改訂案の段階ではない。
東京証券取引所は,同日,改訂に伴う有価証券上場規程の一部改正を施行した。

これに対し,上場会社が2026年版コードに基づくコーポレート・ガバナンス報告書を提出する期限は,2027年7月31日である。
したがって,2026年7月21日はコード及び関連上場規程の施行日であり,2027年7月31日は改訂後のコードに基づく報告書の移行期限である。

時点上場会社との関係

2026年7月21日2026年版コードの確定・公表及び関連上場規程の改正施行
2027年3月を目途TDnetの入力欄を「コードの各原則に関する取組み」へ切り替える予定
2027年7月31日2026年版コードに基づくコーポレート・ガバナンス報告書の提出期限

2 コードと上場規程上の説明義務を区別する

コードの各原則は,それ自体が法的拘束力を有する規範ではない。
他方,東証の有価証券上場規程436条の3により,上場内国会社には,市場区分に応じて各原則を実施するか,実施しない場合にはその理由をコーポレート・ガバナンス報告書で説明することが求められる。

このコンプライ・オア・エクスプレインは,全原則の実施を一律に義務付ける仕組みではない。
会社の業種,規模,事業特性,機関設計その他の個別事情に照らして実施しない原則がある場合,その理由を具体的に説明することも予定されている。

市場区分ごとの対象範囲は,次のとおりである。

(続きを読む...)2026年改訂コーポレートガバナンス・コード-変更点・適用日・2027年7月末までの報告書対応(AI作成)

名義株の時効取得は10年・20年で成立するか―民法163条の要件と裁判例(AI作成)

第1 この記事が扱う対象と検討の順序
第2 時効取得の対象となりうるか―民法163条と株式

1 民法162条ではなく民法163条が問題となる理由
2 株券という有価証券自体の即時取得との違い
3 東京地方裁判所が示した適用肯定の判断枠組み

第3 成立要件―「自己のためにする意思」をもって「平穏かつ公然」に「行使」すること

1 会社に対する株主としての行動が中心的な判断要素となること
2 時効取得が認められた事案で認定された行使の実態
3 時効取得が否定された事案で欠けていた事実

第4 善意・無過失の10年と,悪意・過失の20年
第5 時効取得を認めた一審判決は,その後どうなったか
第6 そもそも「誰が真の株主か」を立証すること自体が高い壁になる
第7 名義株を巡る実務上の対応

1 実質株主が名義株を放置した場合のリスクと対応
2 名義人の側から時効取得を主張する場合の高いハードル
3 会社に対する関係―株主名簿の名義書換

第8 出典・参考資料

(続きを読む...)名義株の時効取得は10年・20年で成立するか―民法163条の要件と裁判例(AI作成)

名義株の解消方法―名義書換え,訴訟,買取り及び所在不明株主の株式売却(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 名義株の解消とは何を指すか
2 解消方法を分ける二つの軸

第2 名義書換えによる解消―名義人の協力が得られる場合

1 名義株確認書の作成
2 株主名簿の名義書換請求
3 贈与税認定を避けるための注意
4 株券発行会社での留意点

第3 訴訟による解消―名義人が争う場合

1 株主権確認訴訟の当事者と請求
2 確定判決による単独での名義書換請求
3 連絡が取れない名義人に対する訴訟

第4 買取りによる強制的な解消

1 合意による任意の買取り
2 相続人等に対する売渡請求
3 相続人等に対する売渡請求の逆用リスク
4 株式併合及び特別支配株主の株式等売渡請求

(続きを読む...)名義株の解消方法―名義書換え,訴訟,買取り及び所在不明株主の株式売却(AI作成)

名義株と死亡・相続―真の株主と名義人の死亡を分ける(AI作成)

第1 死亡したのが誰かで相続の結論が変わる

1 本記事が扱う範囲
2 三つの場面の基本的な違い

第2 各死亡時点の真の株主を先に確定する

1 株主名簿だけで相続財産を決めない
2 死亡日ごとに帰属が変わっていないかを確認する
3 会社法上の帰属と相続税上の帰属を同じ資料で検証する

第3 真の株主が死亡した場合

1 名義が別人でも株式は真の株主の相続財産となる
2 遺産分割までは共同相続人の準共有となる
3 株主名簿が真の株主名義か別人名義かで手続が分かれる
4 会社法174条は株式を承継した相続人に適用される

第4 名義人だけが死亡した場合

1 株式は名義人の相続財産に入らない
2 名義人の相続人は名義書換えの共同申請者となる
3 相続人の協力が得られない場合は判決による例外を検討する
4 会社法174条を名義人の相続人へ当然には使えない

(続きを読む...)名義株と死亡・相続―真の株主と名義人の死亡を分ける(AI作成)

子供名義の株は誰のものか―親の出資・贈与・管理・配当・議決権(AI作成)

第1 子供名義の株式は取得経路によって帰属が分かれる

1 本記事が扱う範囲
2 三つの取得経路
3 名義・出資・管理の一要素だけでは決まらない

第2 親が資金を出した場合

1 親が自己のために子の名を借りた場合
2 現金を子に贈与して買い付けた場合
3 親の既存株式を贈与した場合

第3 未成年者への贈与と親権者の受諾

1 親権者は子を代理して贈与を受諾できる
2 単純贈与と利益相反行為を区別する
3 令和8年4月1日以後の共同親権

第4 親が管理していても親の株式とは限らない

1 未成年中の管理は子の所有と両立する
2 成年後は引渡しと管理計算が必要になる
3 成年後の継続支配は反対証拠になり得る

(続きを読む...)子供名義の株は誰のものか―親の出資・贈与・管理・配当・議決権(AI作成)

名義株は違法か―会社法・相続税・重加算税・上場規則違反を区別する(AI作成)

第1 名義株が直ちに違法になるわけではない

1 この記事が扱う問い
2 「違法」を七つの効果に分ける

第2 会社法上の株主帰属と株主名簿

1 承諾を得た借名引受けでは実際の引受人が株主になり得る
2 株主名簿への記載と株式の帰属は同じ問題ではない

第3 相続税は株式の実質的な帰属から判定する

1 被相続人の財産であれば相続税の課税対象になる
2 名義株であることは重加算税の十分条件ではない

第4 重加算税は隠蔽又は仮装がある場合に限られる

1 税率は35%又は40%を基本とする
2 他人名義という状態を認識して申告しない行為が問題になる
3 名義株の申告漏れでも重加算税が取り消された裁決がある
4 名義状態を利用したとして重加算税が認められた例もある
5 相続税法上の刑事罰は別の要件である

第5 上場会社では大量保有報告と上場規則を分ける

(続きを読む...)名義株は違法か―会社法・相続税・重加算税・上場規則違反を区別する(AI作成)

名義株の株主は誰か―認定基準,証拠,名義書換え及び相続・M&Aの留意点(AI作成)

第1 名義株の意味と検討の順序

1 この記事で扱う名義株

2 最初に取得原因を分ける

第2 誰が株主になるか

1 最高裁昭和42年11月17日判決の基準と射程

2 実質的な株主を認定する7要素

3 株主名簿は無視できない

第3 証拠をどの順序で集めるか

1 最初に集める客観資料

2 資料の保有者と取得可能性を区別する

3 反証と調査の停止基準

(続きを読む...)名義株の株主は誰か―認定基準,証拠,名義書換え及び相続・M&Aの留意点(AI作成)

会社法(平成17年法律第86号)の改正経緯(AI作成)

会社法の改正史は,平成17年法律第86号の成立,平成26年法律第90号及び令和元年法律第70号による二度の大改正だけでは完結しない。
信託法,非訟事件手続法,民法,民事執行法,民事訴訟法,譲渡担保法制及び成年後見制度の改正も,会社法の実体規律又は会社関係事件の手続を順次変更しているからである。
AIで作成した本記事は,会社法本文の実質的な変更を網羅した上で,直接改正ではあるものの用語又は引用条項の整理にとどまる改正も完全沿革表に収録し,公布済み未施行改正及び現在の法制審議会における検討を区別して説明する。

目次

第1 会社法改正史の読み方

1 「改正」を三つの層に分ける
2 会社法の発展を三期に分ける
3 実務では行為時点の法令を確定する

第2 平成17年会社法の制定

1 独立法典化までの経緯
2 制定時の実質的変更

(1) 会社類型及び設立法制
(2) 定款自治,資金調達及び剰余金分配
(3) 機関設計,責任及び会計
(4) 組織再編及び特別清算

3 成立,公布及び段階施行

第3 平成26年改正

1 立法経緯,法律番号及び施行日

(続きを読む...)会社法(平成17年法律第86号)の改正経緯(AI作成)