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会社法

詐害的事業譲渡と残存債権者の請求―会社法23条の2の要件・期間と倒産手続(AI作成)

目次

第1 事業だけ移されても譲受会社へ請求できる場合がある第2 残存債権者と請求先を特定する第3 債権者への不利益と両会社の認識を調べる1 譲渡会社が残存債権者を害することを知っていたか2 譲受会社が効力発生時に何を知っていたか第4 請求できる額には限度がある第5 2年と10年の期間を別々に管理する第6 倒産手続開始後と他の請求を区別する第7 早期に集める資料と相談の準備第8 関連記事第9 出典と判断の範囲
第1 事業だけ移されても譲受会社へ請求できる場合がある

会社の事業・資産が別会社へ移り,自分の債権だけが旧会社に残された場合には,会社法23条の2による譲受会社への請求を検討する。
同条は,所定の要件を満たす残存債権者に,承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求する道を認めている。
事業譲渡や債務の除外があっただけで成立する請求ではなく,債権者への不利益と両会社の認識を調べる必要がある。

本記事は,令和8年10月20日に確認した会社法を中心に,会社間の事業譲渡における請求の確認順序を説明する。
商号を続用した責任,民法上の詐害行為取消し及び倒産手続での否認は,それぞれの制度として区別する。

第2 残存債権者と請求先を特定する

会社法23条の2の残存債権者とは,譲受会社に承継されない債務の債権者をいう。
まず,元の契約相手,債権の発生原因・金額・弁済期,事業譲渡契約による債務の扱いを確認する。
譲渡会社に請求する問題と,同条により譲受会社へ請求する問題を分けることが必要である。

契約書に債務不承継と書かれていることは,譲受会社に対する同条の請求を当然に排除する理由にはならない。
反対に,自分が譲渡契約の債務一覧に載っていないという事情だけで,詐害性や認識まで証明されたことにもならない。

会社名や店舗名が似ている場合も,登記履歴と契約資料により両法人を区別する。
同じ商号の会社への表示訂正と,別法人を相手方とする責任追及は異なる。

第3 債権者への不利益と両会社の認識を調べる
1 譲渡会社が残存債権者を害することを知っていたか

同条1項本文は,譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡した場合を対象とする。
譲渡対象資産だけでなく,対価が旧会社に実際に入ったか,その後どこへ支払われたか,旧会社にどの資産・負債・弁済原資が残ったかを調べる。

事業を低額で移した,対価を関係者へ流したという事情は調査の端緒となる。
もっとも,帳簿価額と売却額の差や役員の共通性だけで,直ちに全要件を満たすと決め付けてはならない。
価格の根拠,債務の選別,資金移動を客観資料で確認する必要がある。

2 譲受会社が効力発生時に何を知っていたか

同項ただし書は,譲受会社が事業譲渡の効力発生時に残存債権者を害することを知らなかったときは,この責任を負わないと定める。
譲渡会社の認識と譲受会社の認識を一つにまとめず,それぞれの担当者,入手資料,説明を受けた日を時系列で確認する。

契約後に届いた督促状だけから,契約交渉時や効力発生時に同じ情報を知っていたと断定しない。
財務調査の資料,債権者一覧,送金指図,取締役会等の資料,交渉メールが,いつ誰に共有されたかを対応させることが実務上有用である。

第4 請求できる額には限度がある

同条1項の請求は,譲受会社が承継した財産の価額を限度とする。
元の債権額と承継財産の価額は別に確認し,旧会社の負債全額を当然に譲受会社へ移せる制度として説明してはならない。

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事業譲渡で屋号・ブランドを続用すると旧債務を負うか―商号続用責任と判例(AI作成)

目次

第1 会社名を変えても旧債務の責任が問題になる第2 商号・屋号・商品商標を分ける第3 最高裁平成16年2月20日判決の内容1 ゴルフクラブ名を引き継いだ事案である2 名称が営業主体を表示する機能を重視した3 特段の事情の審理のため破棄差戻しとなった第4 どの表示と証拠を確認するか第5 免責通知・債務引受広告・名板貸しと区別する第6 譲受会社と債権者が行う確認第7 関連記事第8 出典と適用範囲
第1 会社名を変えても旧債務の責任が問題になる

事業譲渡の前後で会社の商号が変わっていても,同じ屋号やブランドを使っていれば,譲受会社の旧債務に対する責任が問題になることがある。
ただし,名称が同じという一事だけで責任が決まるわけではない。
その表示が商品を識別するだけなのか,事業を営む主体を示しているのかを,実際の使われ方から確認する必要がある。

本記事は,会社間の事業譲渡について,令和8年10月20日に確認した会社法と最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決を基に整理する。
旧会社の債権者が譲受会社へ請求する問題を扱い,名称の使用を許した名義人への請求は区別する。

第2 商号・屋号・商品商標を分ける

会社法22条1項は,譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合に,譲渡会社の事業によって生じた債務について譲受会社にも弁済責任を負わせる。
譲渡契約で旧債務を除外したことと,この対外責任が生じるかは別の問題である。

商号ではない店舗名・施設名等については,同項が当然に直接適用されるとして処理せず,商号続用責任を類推できるかを検討する。
商品の品質や出所を示す商標を引き継いだだけなのか,取引先や顧客に営業主体を示す名称としても使われていたのかが,検討の出発点となる。

第3 最高裁平成16年2月20日判決の内容
1 ゴルフクラブ名を引き継いだ事案である

最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決(平成14年(受)第399号,民集58巻2号367頁)は,ゴルフ場の営業を譲り受けた会社が,旧会社の商号は使わず,同じゴルフクラブ名で経営を続けた事案を扱った。
会員は,旧会社へ預託した1300万円について,譲受会社への返還を求めた。
原審では,譲受会社が預託金返還債務を契約上引き受けた事実は認定されていなかった。

2 名称が営業主体を表示する機能を重視した

最高裁は,当該クラブ名がゴルフ場の営業主体を示すものとして用いられていると評価した。
そのような名称を譲受人が続用するときは,特段の事情がない限り,旧商法26条1項の類推適用により預託金返還義務を負うとした。
会員が同じ主体による営業の継続,又は主体が変わっても旧債務が引き受けられたと信じることが無理からぬものとなる点を説明している。

3 特段の事情の審理のため破棄差戻しとなった

判決は,譲受後遅滞なく会員の施設優先利用を拒否したなどの特段の事情に言及した。
その有無を更に審理させるため原判決を破棄して差し戻しており,この判決だけで当該事件の最終的な支払義務が確定したと説明してはならない。

この法理は旧商法のゴルフ場事案について示されたものである。
現在の会社法22条の類推適用や,他の業種の商品ブランドへ検討を進める場合には,表示の機能と事案の違いを具体的に示す必要がある。
単に同じロゴ・商品名が残ったという理由で,すべての旧債務を引き受けたと結論付けることはできない。

第4 どの表示と証拠を確認するか

次の表は,判決の考え方を踏まえた調査上の整理である。
各資料が一つあるだけで責任が決まるものではなく,譲渡前後の使われ方と当該債権との関係を照合する。

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事業譲渡で必要となる社内手続―株主総会・取締役会の承認,省略の条件及び株主通知(AI作成)

目次

第1 事業譲渡の社内手続は四つに分けて確認する第2 重要な財産の売却と事業譲渡を区別する第3 売手・買手それぞれの株主総会承認1 承認対象は売手と買手で異なる2 特別決議と承認の期限第4 株主総会承認を省略できるか1 売手の重要な一部の譲渡と5分の1基準2 買手の簡易手続では純資産額を使う3 略式手続は特別支配会社の方向を確認する4 承認省略と全手続の省略は異なる第5 取締役会等の決定と利益相反1 業務執行の決定と代表権2 利益相反の承認と議決への参加3 取締役会決議の議案に書く事項と委任の範囲第6 会議を開かずに決議する場合1 株主総会の決議省略2 取締役会の決議省略第7 株主通知と株式買取請求を日程へ入れる1 効力発生日の20日前までの通知2 簡易手続に対する2週間以内の反対通知3 反対株主の株式買取請求第8 実行前にそろえる資料と確認の順序1 会社ごとに承認判定表を作る2 契約上の同意と対外関係を別に扱う3 過去の日付の議事録だけを作らない第9 関連する実務上の論点第10 出典
第1 事業譲渡の社内手続は四つに分けて確認する

事業譲渡では,契約書に代表者が署名する前後に,会社内部の意思決定と株主保護の手続を確認する必要がある。
売手と買手では株主総会承認の対象と省略の条件が異なるため,両社を別々に判定することが出発点となる。

確認するのは,①取締役会又は取締役による業務執行の決定,②株主総会による事業譲渡等の契約の承認,③株主への通知と株式買取請求への対応,④定款・社内規程・投資契約等に基づく同意である。
一つの承認を得たことを,他の手続まで終わった根拠にしない。

本記事は,令和8年10月20日時点で確認した会社法等に基づき,通常の株式会社による通常の事業売買を対象としている。
合同会社,特例有限会社,監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社における業務執行決定の特則,倒産手続上の許可・代替許可,業法上の認可及び税務手続の詳細は扱わない。

第2 重要な財産の売却と事業譲渡を区別する

会社法467条の承認を検討するときは,まず,取引が同条の事業譲渡等に当たるかを確認する。
重要な工場や不動産を売るという事情だけで,直ちに事業の全部又は重要な一部の譲渡になるわけではない。

最高裁大法廷昭和40年9月22日判決(昭和36年(オ)第1378号,民集19巻6号1600頁)は,旧商法上の営業譲渡について,有機的一体として機能する財産の移転と営業活動の承継等を伴うものと,単なる重要な営業用財産の売買とを区別した。
これは旧商法の解釈を示した判決であり,現行会社法の5分の1基準を判示したものではない。
判決本文:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-53752.pdf

譲渡対象の資産だけでなく,契約,従業員,顧客との関係及び譲渡後に誰がどの事業活動を続けるのかを整理することが実務上の検討材料となる。
会社法467条の承認対象に当たらなくても,重要な財産の処分として取締役会決議が必要になる場合はある。

第3 売手・買手それぞれの株主総会承認
1 承認対象は売手と買手で異なる

会社法467条1項1号~3号の基本的な対象は,次のとおりである。
同条の対象に当たるかを判定した上で,第4で述べる除外・省略の条件を確認する。

当事者株主総会承認を検討する取引注意点売手事業の全部の譲渡重要な一部の譲渡に関する5分の1以下の除外を流用しない。売手事業の重要な一部の譲渡譲渡資産の帳簿価額が法定の総資産額の5分の1以下の場合等は,2号の対象から除かれる。買手他の会社の事業の全部の譲受け一部の事業の譲受けを,金額が大きいという理由だけで3号の対象にしない。

買手が一部の事業を取得する場合にも,取締役会等による業務執行の決定や,定款・契約上の承認は別に確認する。
売手に株主総会承認が必要だから買手にも同じ承認が必要である,とは限らない。

2 特別決議と承認の期限

会社法467条1項の承認は,原則として同法309条2項11号の特別決議による。
基本となる要件は,議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主の出席と,出席株主の議決権の3分の2以上の賛成である。
定款により定足数を3分の1以上の割合に変更したり,賛成割合を加重したりすることができ,株主の人数に関する要件等が加わる場合もあるため,定款を確認する。

会社法467条1項が求める承認期限は,事業譲渡等の効力発生日の前日までである。
必ず契約締結前に承認しなければならないと一律に決め付けず,契約締結と承認,効力発生の順序を設計し,必要な承認の取得を実行条件等に反映する。
取締役会等による契約締結の決定や,利益相反取引の承認の時期は,これとは別に確認する。

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株主総会の書面決議のひな形―会社法319条の提案書・同意書・議事録と登記(AI作成)

目次

第1 ひな形を使う前に確認すること1 会社法319条の決議省略と320条の報告省略を分ける2 法定の固定様式はない3 株主名簿・定款・登記事項を照合する4 取締役会設置会社では事前の取締役会決議を検討する第2 書面決議の進め方1 提案内容を確定する2 同意を要する株主を確定する3 確定した同じ提案を全対象株主に示す4 書面又は電磁的記録で全員の同意を得る5 全員の同意がそろった時を決議日として管理する6 議事録を作成し,関係書類を備え置く第3 提案書と同意書のひな形1 取締役が提案する場合の提案書2 株主から会社へ提出する同意書3 会社法320条を併用する場合の同意欄4 一人株主等で提案書兼同意書を使う場合5 株主が提案する場合6 電子メールで同意する場合第4 株主総会議事録のひな形1 記載する事項2 会社法319条の議事録の記載例3 会社法320条を併用した議事録の追記例4 登記に用いるときの注意第5 登記がある場合のチェックリスト第6 よくある質問1 株主総会の書面決議の例文は2 書面決議の様式は3 書面議決と書面決議の違いは4 取締役会で書面決議をする方法は5 株主総会議事録への押印は必要か第7 出典及び参考文献1 法令2 法務省・法務局の資料3 参考文献
第1 ひな形を使う前に確認すること
1 会社法319条の決議省略と320条の報告省略を分ける

会社法319条1項は,取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合に,その事項について議決権を行使できる株主全員が書面又は電磁的記録により同意したとき,提案を可決する株主総会決議があったものとみなす制度である。
実際の株主総会を開催せずに決議が成立するため,一般に「書面決議」又は「みなし決議」と呼ばれる。
この制度の要件と効果,連絡の取れない株主がいる場合及び検討中の改正案は,株主総会の書面決議(みなし決議)とは―会社法319条の要件・手順・議事録・登記(AI作成)で説明する。

会社法320条は,取締役が株主全員に報告事項を通知し,株主全員が書面又は電磁的記録により報告を不要とすることに同意した場合に,株主総会への報告があったものとみなす制度である。
決議事項を扱う319条と報告事項を扱う320条は,要件,議事録の記載事項及び同意記録の法定備置きの有無が異なるため,提案書,同意書及び議事録では区分して記載する。
定時株主総会を実際に開催しない場合は,役員選任や剰余金処分等の決議事項について319条を,事業報告や計算書類等の報告事項について320条を,それぞれ満たす必要がある。

2 法定の固定様式はない

会社法319条1項が書面又は電磁的記録を要求しているのは株主の同意であり,提案自体の方式,提案書や同意書の名称,押印方法及び一体型か別紙型かについて全国一律の固定様式は定められていない。
もっとも,誰が,どの議案を,どの内容で提案し,どの株主が,いつ,その提案に同意したかを後から確認できなければならないため,提案も書面又は電磁的記録で固定しておくのが安全である。
署名又は記名押印は同意者と意思を確認する証拠として有用であるが,法律上当然に必要とされるものではない。
会社の定款,株主数,株主管理の方法及び登記の有無に応じて書式を調整する。

3 株主名簿・定款・登記事項を照合する

書面決議を始める前に,基準となる株主名簿,各株主の議決権数,議案について議決権を行使できない株主の有無及び種類株式の内容を確認する。
役員選任,定款変更,募集株式の発行その他の議案では,会社の機関設計,定款及び個別の法定要件も確認する。
登記事項を含む場合は,決議後に必要となる株主リスト,就任承諾書その他の添付書面を,管轄法務局又は司法書士に事前確認するのが安全である。

4 取締役会設置会社では事前の取締役会決議を検討する

取締役会設置会社で取締役が会社法319条1項の提案をする場合に,事前の取締役会決議を要するかについては,これを要するとする見解と省略できるとする見解がある。
手続上の争いを避ける実務対応としては,提案書を株主へ送る前に,取締役会で,決議を省略すること,決議事項の内容,320条を併用するときは報告事項の内容及び決議・報告があったものとみなす予定日を決めておくのが安全である。
ただし,これはすべての会社について会社法319条が明文で要求する手続であるという意味ではない。

第2 書面決議の進め方
1 提案内容を確定する

議案名だけでなく,決議内容が一義的に分かる文章を作る。
役員選任であれば氏名,就任日及び任期の起算に関係する事実を,定款変更であれば新旧条文と効力発生日を確認する。
複数の議案について議案ごとに同意の有無を確認する場合は,各議案を独立した提案として特定し,一部同意の範囲が曖昧にならないようにする。

2 同意を要する株主を確定する

会社法319条1項で同意を要するのは,提案事項について議決権を行使できる株主の全員である。
単に議決権の過半数又は3分の2以上を集めても,現行法上の書面決議は成立しない。

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株式等売渡請求とは―特別支配株主の90%要件,手続,差止めと価格決定(AI作成)

目次

第1 株式等売渡請求の仕組み第2 特別支配株主の90%要件1 株式数ではなく議決権の割合を確認する2 対象となる株式・新株予約権第3 対象会社の承認・通知・開示1 対価と取得日を定めて承認を受ける2 取得日の20日前までの通知第4 少数株主の差止めと価格決定申立て1 取得そのものを止めるための差止め2 価格決定の申立期間第5 価格の検討と保存する資料第6 出典と関連記事
第1 株式等売渡請求の仕組み

株式等売渡請求は,会社の議決権の原則90%以上を有する特別支配株主が,対象会社の承認を得て,他の株主の株式等を取得する制度である。
少数株主の個別の承諾や,対象会社の株主総会決議による株式併合とは異なる手続である。

本記事は,令和8年10月17日に確認した会社法179条から179条の10までを基に,会社側の手続と,通知を受けた少数株主の確認事項を説明する。
株式併合による締出しの手続・救済は,株式併合による少数株主の締出しで扱う。

第2 特別支配株主の90%要件
1 株式数ではなく議決権の割合を確認する

会社法179条1項の基準は,総株主の議決権の10分の9以上である。
定款でこれを上回る割合を定めている場合には,その割合が必要となる。
発行済株式数の90%という説明で済ませず,議決権を基準に算定する。

特別支配株主本人の保有分に加え,発行済株式の全部を有する株式会社その他法務省令で定める特別支配株主完全子法人の保有分を合算する仕組みがある。
単にグループ会社と呼ばれる会社の保有分を,全て合算できるわけではない。
株主名簿,議決権の数,保有構造,定款の加重要件を照合する必要がある。

2 対象となる株式・新株予約権

原則として,対象会社と特別支配株主を除く株主全員の株式全部を対象とする。
特別支配株主完全子法人には請求しないことができるが,特定の少数株主だけを任意に対象から外す一般的な仕組みではない。

株式売渡請求に併せて,新株予約権売渡請求をすることもできる。
新株予約権付社債に付された新株予約権を対象とする場合には社債についての規律も確認する必要があり,株式の手続だけで完結すると考えてはならない(同条2項・3項)。

第3 対象会社の承認・通知・開示
1 対価と取得日を定めて承認を受ける

特別支配株主は,対価となる金銭の額又は算定方法,割当て,取得日等を定め,対象会社へ通知して承認を受ける(会社法179条の2・179条の3)。
対象会社が取締役会設置会社である場合,承認するかどうかは取締役会で決議する。
株主総会を要しないことと,会社による審査・承認が不要であることは異なる。

対象会社は,保有割合・定款の条件に加え,対価の算定資料と手続の適法性を確認する必要がある。
価格算定,利益相反への対応及び意思決定の経過を保存しておくことが,後の争いへの備えとなる。

2 取得日の20日前までの通知

対象会社は,承認した場合,取得日の20日前までに,売渡株主等へ承認した旨,特別支配株主の情報,対価・取得日等の法定事項を通知する(会社法179条の4)。
売渡株主への通知は,同条2項の公告による代替の対象から除かれている。
「公告したから全株主への通知が不要」と一括して扱わない。

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社外取締役の設置義務と社外性の要件―対象会社,独立役員及びガバナンス・コードとの違い(AI作成)

目次

第1 設置義務・社外性・独立性を別々に確認する第2 社外取締役を置く必要がある会社1 監査役会設置会社の設置義務2 委員会を置く会社の構成要件第3 候補者の社外性を確認する1 対象会社・子会社の業務執行歴2 親会社等・兄弟会社との関係3 配偶者・二親等内の親族第4 独立役員・独立社外取締役との違い第5 選任時と就任後の確認資料第6 出典と関連記事
第1 設置義務・社外性・独立性を別々に確認する

社外取締役の選任では,①会社法上,社外取締役を置く必要がある会社か,②候補者が会社法の社外性の要件を満たすか,③取引所の独立役員としての独立性を満たすかを分けて確認する。
外部の専門家であることや,非常勤であることだけで,これらの要件を全て満たすものではない。

本記事は,令和8年10月17日に確認した会社法2条15号,327条の2,331条,400条及び日本取引所グループの独立役員制度の案内に基づき,選任前の確認順序を説明する。
ガバナンス・コード全般は,コーポレートガバナンス・コードとはで扱う。

第2 社外取締役を置く必要がある会社
1 監査役会設置会社の設置義務

会社法327条の2は,監査役会設置会社のうち,公開会社であり,かつ大会社であって,発行する株式について有価証券報告書の提出義務を負う会社に,社外取締役の設置を義務付ける。
上場会社であるかという呼び方だけでなく,条文の条件を順に確認する必要がある。

会社法の「公開会社」は,株式の全部又は一部について譲渡承認を要する定款の定めがない会社をいい,上場会社と同じ意味ではない。
「大会社」は,最終事業年度の貸借対照表の資本金5億円以上又は負債200億円以上等の定義による(会社法2条5号・6号)。

2 委員会を置く会社の構成要件

監査等委員会設置会社では,監査等委員である取締役は3人以上で,過半数が社外取締役でなければならない(会社法331条6項)。
指名委員会等設置会社では,指名・監査・報酬の各委員会を3人以上で組織し,各委員会の過半数を社外取締役とする(400条1項・3項)。

機関設計会社法上の主な確認数え方の注意監査役会設置会社327条の2の条件を満たす場合に設置義務公開・大会社・有報提出義務を確認監査等委員会設置会社監査等委員である取締役3人以上,その過半数が社外取締役全体の過半数とは異なる指名委員会等設置会社各委員会3人以上,各委員会の過半数が社外各委員会について個別に確認

327条の2の対象でない会社に,会社法上その条文による一律の設置義務があると説明してはならない。
ただし,他の機関設計上の条件,定款,上場規則等の確認は残る。

第3 候補者の社外性を確認する

会社法2条15号は,次のような関係について要件を置き,その全てに該当することを求める。
役職名だけでなく,対象会社と子会社・親会社等との関係及び就任時点の経歴を確認する。

1 対象会社・子会社の業務執行歴

現在,対象会社・子会社の業務執行取締役等でなく,就任前10年間にも該当していないことが基本となる。
直前10年間に非業務執行の取締役・会計参与・監査役であった場合には,その就任前にさかのぼる業務執行歴の条件も確認する。
現在退職しているという事情だけでは足りない。

2 親会社等・兄弟会社との関係

自然人である親会社等そのもの,又は親会社等の取締役・執行役・支配人その他の使用人でないことなどが求められる。
親会社等の子会社等である別の会社についても,業務執行取締役等に該当しないかを確認する。
グループ外からの選任という説明と,法律上の関係者の範囲を照合する必要がある。

3 配偶者・二親等内の親族

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会社補償契約とD&O保険の違い―対象費用,決定手続,利益相反と開示(AI作成)

目次

第1 会社補償とD&O保険の違い第2 会社補償の対象と補償できないもの1 責任追及に対処する費用2 第三者への賠償・和解による損失3 不正目的が判明した場合の返還第3 内容決定の機関と利益相反第4 D&O保険で確認する契約条件第5 開示と証拠の保存第6 出典と関連記事
第1 会社補償とD&O保険の違い

会社補償契約は,役員等の防御費用や第三者に対する賠償に伴う一定の損失を,会社が契約に基づいて補償する仕組みである。
D&O保険は,役員等の責任追及等による損害を,保険会社が契約の定めに従って填補する仕組みである。
役員の責任そのものを免除する制度とは異なり,補償・保険があるだけで任務懈怠責任がなくなるわけではない。

本記事は,令和8年10月17日に確認した会社法430条の2・430条の3及び施行規則を基に,株式会社の契約内容の決定と責任追及を受けた役員への対応の基本を説明する。
法律上可能な範囲と,実際の契約・約款上の支払範囲を区別する必要がある。

比較事項会社補償契約D&O保険主な契約関係会社と役員等会社と保険会社。役員等が被保険者となる支払の基礎補償契約と法定の補償制限保険約款・特約と法定の決定手続原資会社の財産保険契約に基づく保険金確認事項対象費用,補償禁止,返還・報告対象者,保険事故,限度額,免責,通知・同意
第2 会社補償の対象と補償できないもの
1 責任追及に対処する費用

会社法430条の2第1項1号は,役員等が職務執行に関して法令違反を疑われ,又は責任追及の請求を受けたことに対処するための費用を対象とする。
弁護士費用等についても,どの請求・調査に対応する費用か,契約の対象か,通常要する範囲かを確認する。
通常要する費用の額を超える部分は補償できない(同条2項1号)。

防御費用と,最終的に責任が認められた場合の賠償金は別の基準で判断する。
株主代表訴訟についても,両者を一括して「全て補償できない」又は「全て補償できる」と扱わない。

2 第三者への賠償・和解による損失

同条1項2号は,職務執行に関して第三者に損害賠償責任を負う場合の,賠償又は和解に基づく支払による損失を対象とする。
ただし,会社がその損害を賠償したなら役員等が会社に423条1項の責任を負う場合の当該責任部分や,役員等の悪意・重過失による第三者責任の損失は補償できない(430条の2第2項2号・3号)。

会社自身に対する賠償責任を,会社が補償して実質的に消すこととは区別する。
責任免除・責任限定契約の要件も,補償契約の決議だけで満たされるものではない。

3 不正目的が判明した場合の返還

防御費用を補償した会社が,役員等が自己・第三者の不正な利益を図り,又は会社に損害を加える目的で職務を執行したことを知った場合には,補償額に相当する金銭の返還を請求できる(同条3項)。
悪意・重過失に関する損失の補償禁止と,この不正目的に基づく防御費用の返還の規律は区別する必要がある。

第3 内容決定の機関と利益相反

補償契約の内容は,株主総会,取締役会設置会社では取締役会の決議で決める(会社法430条の2第1項)。
役員等賠償責任保険契約の内容の決定にも,同様の決議が必要である(430条の3第1項)。
代表取締役の署名と,会社として必要な決議の有無を別々に確認する。

両条は,通常の利益相反取引規制等について適用除外を定める。
しかし,内容決定の決議まで不要になるわけではなく,特別利害関係を有する取締役の議決参加は会社法369条2項等により別に確認する。
対象者,契約範囲,会社の負担,職務の適正性への影響を検討して決議資料に残すことが望ましい。

(続きを読む...)会社補償契約とD&O保険の違い―対象費用,決定手続,利益相反と開示(AI作成)

株主総会資料の電子提供制度とは―対象会社,開始時期,書面交付請求と招集通知(AI作成)

目次

第1 電子提供制度で変わること第2 対象会社と対象資料1 定款の定めと上場会社等の義務2 掲載する情報第3 開始日・継続期間と招集通知1 電子提供の開始日2 招集通知に何を記載するか第4 紙の資料を希望する株主の書面交付請求1 基準日までの請求2 書面の省略事項と請求の終了第5 掲載が中断した場合と会社の準備第6 出典と関連記事
第1 電子提供制度で変わること

株主総会資料の電子提供制度は,株主総会参考書類などの情報をウェブサイトに掲載し,株主が閲覧・保存できる状態に置く制度である。
資料を掲載すること,招集通知を送ること,株主が議決権を行使することは別の手続である。
電子提供をしただけで招集通知が不要になるわけでも,株主総会をオンラインだけで開催できるわけでもない。

本記事は,令和8年10月17日に確認した会社法・施行規則を基に,通常の株主総会を招集する会社と資料を受け取る株主の確認事項を説明する。
開催時期,決議事項,出席資格等の基本は,株主総会とはで説明する。

第2 対象会社と対象資料
1 定款の定めと上場会社等の義務

会社法325条の2は,電子提供措置をとる旨を定款で定めることを認めている。
振替株式を発行する会社には振替法159条の2の特則があり,上場会社等では義務的に電子提供制度を利用する仕組みとなっている。
非上場会社でも,定款の定めと招集方法を確認する必要がある。

制度は令和元年会社法改正で設けられ,電子提供関係の改正は令和4年9月1日に施行された。
現在の招集を検討するときは,導入時の経過措置と現在の定款・法令を区別する。

2 掲載する情報

対象は,株主総会参考書類,議決権行使書面,計算書類・事業報告,連結計算書類等に関する情報である。
実際の掲載事項は,書面投票・電子投票の採否,機関設計,定時総会かどうかなどによって異なり,会社法325条の3第1項各号を確認する。
修正した場合には,修正した旨と修正前の事項も電子提供の対象となる。

第3 開始日・継続期間と招集通知
1 電子提供の開始日

開始日は,株主総会の日の3週間前の日と,招集通知を発した日のうち,いずれか早い日である。
招集通知をそれより早く発送する場合は,その発送日までに掲載を始める必要がある。
掲載は株主総会の日後3か月を経過する日まで継続する(会社法325条の3第1項)。

手続基準となる時点確認事項電子提供の開始総会の3週間前の日又は招集通知発送日の早い方資料,掲載先,修正履歴招集通知電子提供を行う場合は総会の2週間前まで日時・場所等とアクセス方法書面交付請求への対応招集通知に際して交付基準日までの請求と交付内容掲載の継続総会の日後3か月を経過する日まで閲覧・保存可能性と障害記録
2 招集通知に何を記載するか

会社法325条の4は,電子提供を行う場合の招集通知の特則を定める。
日時・場所等の法定事項に加え,電子提供措置をとっている旨と,資料を閲覧・保存するために必要な事項を記載する。
会社法施行規則95条の3がアクセス方法等の内容を定めており,「当社ホームページ参照」とだけ書けば常に足りるわけではない。

所定の期限までにEDINETで有価証券報告書を提出する場合には,会社法325条の3第3項の特則がある。
対象事項・提出期限等の要件があるため,有価証券報告書を提出する会社であることだけで,全ての掲載義務がなくなるとは扱わない。

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株式交付による買収と個人株主の税務―利用範囲,80%要件と同族会社の除外(AI作成)

目次

第1 会社法上の利用可能性と税務上の特例を別に確認する第2 現在の株式交付を利用できる場面1 他の株式会社を新たに子会社とするための制度である2 取得株式数の下限と応募状況を確認する3 株式交換・現物出資との違い第3 個人株主の課税繰延べには別の条件がある1 80%要件は対価の価額で判定する2 一定の同族会社に該当する場合は除外される3 金銭等が交付される場合は全額繰延べではない第4 取得価額と納税資料を買収後まで引き継ぐ第5 弁護士と税理士が契約前に共有する確認事項第6 出典と関連記事
第1 会社法上の利用可能性と税務上の特例を別に確認する

自社株式を対価に他社の株式を取得する買収では,株式交付,株式交換又は株式の現物出資等の方法を検討することになる。
取引を「株式で買う」と説明できても,どの制度を使うかによって,取得できる範囲,必要な手続及び課税関係が異なる。
会社法上の株式交付に該当することだけで,売主株主の課税が当然に繰り延べられるわけではない。

本記事は,令和8年10月17日現在の会社法と,国税庁が公表する個人株主の所得税の取扱いを基に,買収方法を選ぶ際の確認順序を説明する。
日本の居住者である個人が対象会社の株式を譲渡する場面を対象とし,法人株主の法人税,非居住者の国際課税及び具体的な組織再編全体の適格判定は扱わない。

第2 現在の株式交付を利用できる場面
1 他の株式会社を新たに子会社とするための制度である

会社法2条32号の2は,株式会社が他の株式会社を子会社とするため,その株式を譲り受け,譲渡人に自社の株式を交付する制度として株式交付を定める。
ここでいう子会社は,会社法施行規則4条の2により,同規則3条3項1号の議決権の過半数を自己の計算において所有する場合に限定される。
会社法上の子会社概念のすべてが株式交付の対象となるわけではない。

既にこの関係にある子会社の株式を追加取得する取引や,この過半数の関係を新たに生じさせない少数持分の取得には,現在の株式交付制度をそのまま使うことはできない。
対象会社は他の株式会社であり,持分会社や外国会社を対象とする取引とも区別する必要がある。
利用範囲の拡張に関する改正論議と,現在実行できる取引を混同してはならない。

2 取得株式数の下限と応募状況を確認する

株式交付をする株式会社は株式交付計画を作成し,譲り受ける対象会社株式の数の下限,対価となる自社株式,申込期日及び効力発生日等を定める(会社法774条の2,774条の3)。
下限は,効力発生日に対象会社が株式交付親会社の子会社となる数でなければならない。
株式交付は,対象会社の全株主の株式を一律に取得する制度ではないため,誰がどれだけ譲渡するかを契約・応募の段階で確認する。

株主総会の承認の要否,簡易手続の利用,開示,反対株主の権利及び債権者保護手続は,会社法816条の2以下と具体的な計画に即して確認する。
「株式交付だから決議は不要」「債権者保護手続は常に必要」と一括して処理せず,会社の類型,対価及び各例外の条件を検討する。

3 株式交換・現物出資との違い
方法主な構造選択前に確認する事項株式交付対象会社株式を譲り受け,自社株式を交付して新たに子会社化する子会社化の条件,応募・取得下限,対価と税務特例株式交換対象株式会社の発行済株式全部を取得させる組織再編である完全子会社化の目的,当事会社の手続,固有の税務要件株式の現物出資対象会社株式を募集株式の出資財産として給付する募集株式の発行手続,検査役調査の要否,価額不足責任と課税

法務上の方法を変えた場合は,税務の検討もその方法に対応させてやり直す。
株式交付についての課税繰延べの条件を,通常の現物出資や株式交換にそのまま適用してはならない。

第3 個人株主の課税繰延べには別の条件がある
1 80%要件は対価の価額で判定する

国税庁「No.1545 株式等を対価とする株式の譲渡に係る譲渡所得等の課税の特例」は,個人が株式交付で対象会社株式を譲渡し,親会社株式を受け取った場合の特例を説明する。
親会社株式の価額が,交付を受けた金銭と金銭以外の資産の価額の合計に占める割合が80%未満である場合は,特例の対象外である。
株数の80%や,買収後の議決権の80%を意味する要件ではない。

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現物出資の価額証明と弁護士・税理士の責任―設立,増資,DESと評価資料(AI作成)

目次

第1 価額証明を依頼する前に決めること1 最初に区別する四つの事項第2 設立と増資では検査役調査の例外が異なる1 会社設立では会社法33条を確認する2 増資では会社法207条を確認する3 専門家に証明を依頼できるか第3 DESで会社への貸付金を出資する場合第4 価額不足が生じたときの責任1 設立では会社成立時の価額を比較する2 増資では株主となった時の価額を比較する3 検査役調査の免除と無責任を混同しない第5 証明前に確認・保存する資料1 財産,権利帰属,評価条件をそろえる2 税務上の評価目的を確認する第6 出典と関連記事
第1 価額証明を依頼する前に決めること

現物出資を用いて株式会社を設立し,又は成立後の会社が募集株式を発行するときは,出資財産とその価額を明確にし,検査役による調査が必要かを確認する。
弁護士や税理士等による価額の証明は,法定の条件の下で検査役調査を不要とする方法の一つである。
証明書があれば価額不足の責任まで消える制度ではなく,設立と増資では根拠条項も責任を判断する時点も異なる。

本記事は,令和8年10月17日現在の会社法に基づき,企業の担当者と証明業務を検討する専門家が,受任前から証明書交付までに確認する事項を説明する。
以下の資料整理や担当分担は,条文の条件を実務に落とし込むための提案であり,資料をそろえるだけで無過失が認められるとするものではない。

1 最初に区別する四つの事項

最初に,①設立時の出資か成立後の募集株式の発行か,②出資財産は何か,③検査役調査を不要とするどの規定を使うか,④誰がどの資料に基づいて価額を判断するかを決める。
会社設立時の財産引受けも検査役調査等の対象となるが,以下では現物出資を中心に扱う。

第2 設立と増資では検査役調査の例外が異なる
1 会社設立では会社法33条を確認する

設立時の現物出資では,出資者,財産,その価額及び割り当てる設立時発行株式の数等を定款で定める(会社法28条1号)。
検査役の選任申立ては同法33条1項が定め,価額に関する例外は同条10項に置かれている。

主な例外は,①現物出資財産と財産引受けの財産について定款に記載・記録された価額の総額が500万円を超えない場合,②市場価格のある有価証券について定めた価額が法務省令による市場価格を超えない場合,③弁護士・公認会計士・税理士等の証明を受けた場合である。
500万円の判定は,個々の財産を別々に500万円以下とすればよいというものではない。

2 増資では会社法207条を確認する

成立後の会社が募集株式を発行する際の現物出資では,財産の内容と価額を募集事項として定め,原則としてその決定後遅滞なく検査役の選任を申し立てる(会社法199条1項3号,207条1項)。
調査を不要とする場面は207条9項各号に定められている。

例外の根拠増資時に確認する条件207条9項1号現物出資をする引受人に割り当てる株式の総数が,発行済株式総数の10分の1を超えないこと同項2号募集事項として定めた現物出資財産の価額の総額が500万円を超えないこと同項3号市場価格のある有価証券について定めた価額が,法務省令による市場価格を超えないこと同項4号法定の資格を有する者の価額証明を受けること。不動産では鑑定評価も必要であること同項5号会社に対する弁済期到来済みの金銭債権であり,定めた価額が対応する負債の帳簿価額を超えないこと

各号は別の例外である。
1号の株式数の条件や5号の金銭債権の条件を,設立時の33条10項にもそのまま当てはめることはできない。
市場価格の算定方法は,設立では会社法施行規則6条,増資では同規則43条を確認する。

3 専門家に証明を依頼できるか

会社法33条10項3号及び207条9項4号は,弁護士,弁護士法人,弁護士・外国法事務弁護士共同法人,公認会計士,監査法人,税理士又は税理士法人等による証明を定める。
不動産についてこの証明の例外を使う場合は,専門家の証明と不動産鑑定士の鑑定評価の双方が必要である。
ほかの調査免除要件に該当する場合まで,すべての不動産出資に一律にこの二つを要求するという意味ではない。

会社や出資者との関係も確認する。
設立では33条11項,増資では207条10項が証明できない者を定めており,資格の有無だけでは受任の可否を決められない。

第3 DESで会社への貸付金を出資する場合

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株主総会とは―開催時期,出席できる人,決議事項,普通決議・特別決議及び手続(AI作成)

目次

第1 株主総会とは何か第2 株主総会はいつ,年に何回開くか1 定時株主総会は事業年度ごとに開く2 事業年度終了後3か月以内という絶対的な期限ではない3 6月開催が多い理由と2026年の日程第3 株主総会に出席できる人1 基準日と議決権を確認する2 100株あれば必ず出席できるとは限らない3 代理人,家族及び弁護士第4 株主総会で決める主な事項第5 普通決議と特別決議第6 招集から議事録までの手続1 日時,場所及び議題を決める2 招集通知と電子提供措置3 当日の運営と議事録第7 株主総会を開かない場合と書面決議第8 オンライン参加とバーチャルオンリー株主総会第9 よくある質問1 株主総会に出られる人は誰か2 2026年の株主総会の日程はいつか3 株主総会は年に何回あるか4 株主総会はなぜ6月が多いのか5 株主総会を開かないとどうなるか6 100株はいくらか第10 会社側と株主側の確認事項第11 出典と関連記事1 公開一次資料2 山中弁護士ブログの関連記事
第1 株主総会とは何か

株主総会は,株式会社の株主が議決権を行使し,会社法又は定款により株主総会の権限とされた事項を決める機関である。
取締役会を置かない会社では,株主総会は会社法に規定する事項のほか,会社の組織,運営,管理その他会社に関する一切の事項を決議できる。
取締役会設置会社では,会社法に規定する事項と定款で定めた事項に限って決議できるため,株主総会がすべての業務執行事項を決めるわけではない(会社法295条)。

株主総会には,毎事業年度の終了後一定の時期に招集する定時株主総会と,必要がある場合に招集する臨時株主総会がある(会社法296条1項・2項)。
会社ごとの開催日,出席資格,議案及び議決権行使方法は,その会社の定款,株主名簿,招集通知及び株主総会参考書類で確認する必要がある。

第2 株主総会はいつ,年に何回開くか
1 定時株主総会は事業年度ごとに開く

会社法296条1項は,定時株主総会を「毎事業年度の終了後一定の時期」に招集しなければならないと定めている。
したがって,通常は事業年度ごとに1回の定時株主総会があり,必要があれば臨時株主総会を追加して開く。
「株主総会は年1回」とだけ説明すると臨時株主総会を見落とすため,定時総会は事業年度ごと,臨時総会は必要に応じて,と区別するのが正確である。

2 事業年度終了後3か月以内という絶対的な期限ではない

法務省「定時株主総会の開催時期について」は,会社法上,事業年度の終了後3か月以内に必ず定時株主総会を招集しなければならないわけではないと説明している。
もっとも,議決権行使の基準日を定める場合,基準日株主が行使できる権利は基準日から3か月以内に行使するものに限られる(会社法124条2項)。
定款の基準日から3か月を超えて開催する場合は,新たな基準日の設定と公告の要否を検討する。

3 6月開催が多い理由と2026年の日程

3月末を事業年度末とする上場会社が多く,決算,監査,招集通知等の準備と基準日の有効期間を踏まえて6月に定時株主総会を開く会社が多い。
しかし,すべての会社が6月に開催するわけではなく,会社ごとに事業年度と開催日が異なる。

東京証券取引所の2026年6月5日公表資料によれば,2026年3月期決算の東証上場内国会社のうち集計対象2142社では,6月26日が最多で,656社,30.6%が同日に開催を予定していた。
この数値は予定日の集計であり,個別会社の日程は変更されることがある。
最新の日程は,会社のIRページ,招集通知,適時開示資料及び東証上場会社情報サービスで確認する。

第3 株主総会に出席できる人
1 基準日と議決権を確認する

出席して議決権を行使できるかは,株式を買った日だけでなく,基準日,株主名簿への記載又は記録,保有株式の内容,単元株式数及び議案ごとの議決権の有無によって決まる。
会社は基準日を定め,その日に株主名簿に記載又は記録された株主を権利行使者と定めることができる(会社法124条)。
総会直前に株式を取得しても,その総会の基準日株主でなければ議決権を行使できないことがある。

2 100株あれば必ず出席できるとは限らない

東京証券取引所などの内国株式の売買単位は,2018年10月1日に100株へ統一された。
上場会社が単元株式数を100株と定めている場合,100株が1単元となり,原則として1個の議決権を有する(会社法308条1項)。

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第三者委員会の費用・報酬-見積り,時間制請求,追加調査及び予算管理(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 委嘱前から請求後までを確認する2 最初に押さえる4点第2 時間制報酬の原則と,費用の内訳1 日弁連ガイドラインが示すこと2 委員報酬だけを比較しない第3 見積りを依頼するときの確認票1 前提条件と成果物を対応させる2 当初の概算と上限を区別する第4 委嘱契約と費用監督の設計1 誰が費用を確認し,誰が調査を判断するか2 契約に具体化する事項第5 時間制請求の明細をどう点検するか1 作業と実時間を確認する2 作業管理表と残作業の見通し第6 追加調査と予算超過への対応1 変更理由と影響を記録する2 必要な調査を予算だけで打ち切らない第7 AI反訳と会計監査との連携1 AIによる時短と証拠の確認を両立させる2 委員会の調査と監査人の手続を分ける第8 請求に疑問があるときの確認順序1 請求項目と根拠を対応させる2 社内判断と紛争対応へ引き継ぐ第9 関連記事第10 出典・参考資料1 第三者委員会のガイドラインとプリンシプル2 会計監査との関係
第1 この記事の対象と結論
1 委嘱前から請求後までを確認する

企業不祥事の第三者委員会の費用を検討するときは,時間単価や請求総額だけでなく,何を明らかにするために,誰が,どの作業を,どれだけ行うのかを確認する必要がある。必要な調査資源を確保しながら,調査範囲,実際の作業及び費用の見通しを説明できる仕組みを作ることが重要である。

本記事は,令和8年10月13日現在,日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(平成22年12月17日改訂)と,日本公認会計士協会の監査実務指針等を踏まえ,企業の法務担当者,監査役等及び調査を受任する弁護士が,見積り,委嘱条件,請求明細及び追加調査を確認する手順を整理する。

ガイドライン・監査実務指針に記載された事項と,本記事が提案する契約・管理上の確認事項は区別する。具体的な報酬の適法性,返還請求又は懲戒の成否は,個別の契約,実作業,説明経過及び適用される法令・会規により判断する必要がある。

2 最初に押さえる4点

①時間制報酬が原則であることと,個々の単価・作業時間・請求額が合理的であることは,別の確認事項である。
②当初の見積り,社内予算,連絡を求める水準及び契約上の上限は,同じ意味ではない。
③費用の説明を求めることと,会社に不利な調査結果を変更させることは別である。
④委員会の調査と会計監査では目的が異なるため,同じ資料の再確認があることだけで過剰調査とは判断できない。

第2 時間制報酬の原則と,費用の内訳
1 日弁連ガイドラインが示すこと

日弁連ガイドライン第2部第6の2は,弁護士である委員及び調査担当弁護士の報酬を時間制とすることを原則とし,任務を全うするには相応の人数の専門家が相当程度の時間を費やし,それに応じた費用が発生することを事前に説明するよう求めている。

本文6頁の脚注14は,委員の著名性を利用する「ハンコ代」的な報酬について,不適切な場合が多いとする。また,成功報酬型の報酬体系についても,企業等が期待する調査結果を導こうとする動機につながり得るため,不適切な場合が多いとする。

これは,時間制であれば請求内容を問わないという説明ではない。他方,ガイドライン自身は会員を拘束するものではなく,ベスト・プラクティスを示す文書である。一律の法定料金表や,すべての案件に共通する報酬方式の禁止規定として扱うべきではない。

2 委員報酬だけを比較しない

費用として何が別途発生するかを,見積書と契約で確認する。対象となり得るのは,委員及び調査担当弁護士の報酬,会計・技術等の専門家費用,データの保全・復元・レビュー,反訳・翻訳,事務局,出張,報告書作成その他の支出である。これらがすべての案件で必要という意味ではない。

委員の報酬と補助者の報酬,同じ事務所内の人件費と外部業者への実費,通常の事務所経費と事件固有の支出を分ける。消費税,費用の立替え,外注費への加算及び請求時期も確認し,見積総額に含まれる範囲をそろえて比較する。

第3 見積りを依頼するときの確認票
1 前提条件と成果物を対応させる

見積りを依頼する会社側は,判明している疑惑,対象期間・部門・拠点,保有資料,電子データ量,想定する報告先及び開示日程を整理する。まだ分からない事項は,確定した条件と分けて伝える。調査受任者側は,その前提でどこまで行う見積りかを説明する。

確認項目確認する内容残す資料調査課題解明する疑問,対象と対象外,原因分析の範囲委嘱事項・調査計画人員と役割委員,調査担当者,専門家,事務局の担当分担体制図・単価表資料と手法データ源・期間,検索条件,聴取対象,保全方法資料一覧・作業計画時間と費用段階別概算,単価,請求単位,実費,税の扱い見積書・契約書成果物中間報告,最終報告,説明会等の範囲成果物一覧・期限追加条件新事実,対象拡大,データ欠落等による見直し変更条件・連絡方法

この表は本記事の運用提案であり,法定の書式ではない。単価が低くても必要な専門性や作業が含まれなければ目的を達成できず,総額が高くても大きな対象範囲を前提としている場合がある。比較では前提と成果物をそろえる。

2 当初の概算と上限を区別する

初期の資料収集で新しい事実が判明すれば,調査範囲も変わり得る。「概算100時間」としたことが,当然に100時間を超える作業の料金を請求できない合意を意味するわけではない。逆に,概算と説明したことだけで,追加費用の説明や契約上の制約が不要になるわけでもない。

当初見積り,社内予算,予算消化時の通知水準,上限合意の有無,上限を変更する手続を別に定める。定めが曖昧なら,追加作業を始める前に説明・協議する時点を具体化する。緊急の証拠保全については,範囲・費用・連絡先と事後報告の方法をあらかじめ整理する。

第4 委嘱契約と費用監督の設計
1 誰が費用を確認し,誰が調査を判断するか

契約上の依頼者,費用負担者,会社側の連絡担当者,予算権限者,調査対象者及び報告先を明確にする。経営陣の関与が疑われる事案では,非関与の監査役等や独立社外役員が,費用・進捗の説明を受ける経路を検討する。

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第三者委員会の調査報告書の読み方-独立性,調査範囲,証拠,原因分析及び再発防止策(AI作成)

目次

第1 調査報告書を読む目的1 結論だけでなく調査の前提を確認する2 公表版であることの限界を意識する第2 委員会の独立性と専門性1 委員と会社との関係2 補助者と事務局第3 調査範囲と調査方法1 何を調べ,何を調べなかったか2 資料,電子データ及びヒアリング3 会計監査との関係と費用の評価第4 事実認定の読み方1 事実,評価及び推認を区別する2 不利な事実と反対資料第5 原因分析の読み方1 個人の不正で終わっていないか2 調査範囲と原因分析がつながっているか第6 再発防止策の読み方1 原因に対応した具体策であるか2 実行と検証まで設計されているか第7 公表内容と非公表部分1 公表時期と説明の連続性2 非公表理由が具体的か第8 読者の確認順序1 最初に確認する事項2 最後に確認する事項第9 関連記事第10 参考資料
第1 調査報告書を読む目的
1 結論だけでなく調査の前提を確認する

第三者委員会の調査報告書を読むときは,「不正があったか」という結論だけでなく,誰が,どの範囲を,どの資料と方法で調査し,どのような限界の下で事実を認定したかを確認する必要がある。報告書の分量や委員の肩書だけでは,調査の十分性を判断できない。

日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」は,証拠に基づく客観的な事実認定,根本原因の分析,委員会による報告書の起案,会社に不利な事実の記載及び非公表理由の具体化を示している。日本取引所自主規制法人のプリンシプルも,必要十分な調査範囲,根本原因,実効性の高い再発防止策並びに迅速かつ的確な情報開示を重視している。

委員会の名称と,日弁連ガイドラインへの準拠の表明は別に確認する。
例えば,社外特別調査委員会の調査報告書(開示版。
令和8年10月8日にプルデンシャル生命が公表)は,ガイドラインに準拠するものではないと明記しつつ,その趣旨を踏まえた独立性確保の合意を説明している(PDF実頁10~11頁)。
名称だけで準拠を認定せず,委嘱内容と実際の調査条件を読む。

2 公表版であることの限界を意識する

公表された文書が原文,公表版,要約版又は中間報告のいずれであるかを最初に確認する。公表版では,個人情報,営業秘密又は捜査・調査への支障を理由に一部が省略されることがあるため,記載がないことと,調査されていないことを同一視してはならない。

第2 委員会の独立性と専門性
1 委員と会社との関係

報告書の冒頭又は末尾で,委員の氏名,職業,会社との現在及び過去の関係,選定主体並びに選定理由を確認する。現任の顧問弁護士は日弁連ガイドライン上の利害関係者に当たる。過去の受任者や社外役員については,事案との関係を個別に見なければならない。

「全員が外部者である」という説明だけでは足りない。誰が候補者を推薦し,不祥事への関与が疑われる経営陣が選定を主導していないか,委員会が会社の期待する結論から独立して判断できる委嘱内容であったかを見る必要がある。

2 補助者と事務局

委員以外に,調査担当弁護士,公認会計士,デジタル調査の専門家その他の補助者が誰であるか,その専門性及び会社との関係が記載されているかを確認する。会社の従業員が事務局を担う場合には,調査対象部門との情報隔壁と,委員会への直属関係が示されているかが重要である。

第3 調査範囲と調査方法
1 何を調べ,何を調べなかったか

調査対象となった行為,期間,部署,国内外の拠点,役職員及び関係会社を確認する。発覚した個別行為だけでなく,同種事案,経緯,動機,背景,内部統制,コンプライアンス,ガバナンス及び企業風土まで対象としているかを見る。

調査の途中で新たな疑義が生じた場合に,委員会が調査範囲を拡大又は変更したかも重要である。範囲を限定した理由,追加調査をしなかった理由又は設置者から与えられた制約が説明されていれば,読者は結論の射程を判断しやすい。

原因究明・再発防止,補償審査,懲戒判断及び個人・法人の法的責任追及は,同じ目的ではない。
調査報告書がどこまでの判断を委嘱されたかを確認する。
報告書を責任判断の証拠等として利用しないという委嘱者側の合意が記載されていても,その当事者・対象・趣旨を確認し,当然に第三者の引用禁止や訴訟上の証拠排除を意味すると説明しない。

2 資料,電子データ及びヒアリング

検討した契約書,稟議資料,会計記録,電子メール,チャット,端末データその他の資料の種類と収集方法を確認する。ヒアリングについては,対象者数,主要な対象者,複数回実施の有無,供述と客観資料をどのように照合したかを見る。

「関係者にヒアリングした」という総括だけでは,反対資料や供述の変遷をどのように評価したかが分からない。重要な事実認定について,どの証拠が中核となり,どの証拠と食い違い,その食い違いをどう判断したかが説明されているかを確認する必要がある。

3 会計監査との関係と費用の評価

訂正後財務諸表等の監査に関するJICPAの監査基準報告書560実務指針第2号A92項・A93項は,委員会の適性,能力,客観性及び報告書の監査証拠としての適切性を評価し,報告書だけでは十分かつ適切な監査証拠が得られたと判断できないとしている。
委員会の調査と会計監査は目的が異なり,手続・範囲も一致するとは限らない。

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第三者委員会の委員の選び方-顧問弁護士,利益相反,専門家構成及び事務局(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論1 委員の肩書より選定過程を見る2 選任時に固める事項第2 独立性をどのように確認するか1 顧問関係と過去の受任2 選任する側との関係第3 専門性と委員構成1 法律だけでなく事案に必要な能力をそろえる2 多様な視点と担当分担第4 調査権限と報告書の独立性1 資料と役職員へのアクセス2 報告書の起案と公表第5 事務局と情報隔壁1 事務局は委員会に直属させる2 協力が得られない場合の扱い第6 報酬,期間及び辞任1 必要な資源を事前に説明する2 結果と報酬を結び付けない第7 選任時の確認事項1 候補者について確認する事項2 設置文書に記載する事項第8 関連記事第9 参考資料
第1 この記事の対象と結論
1 委員の肩書より選定過程を見る

企業不祥事の調査で第三者委員会を設置する場合,委員に弁護士を選んだというだけでは,独立性,中立性及び専門性が確保されたことにはならない。誰が,どの候補者から,どの関係を確認した上で選んだのかを説明できることが重要である。

日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」は,企業等と利害関係を有する者は委員に就任できないとし,委員数は3名以上を原則とする。日本取引所自主規制法人の「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」も,委員の選定プロセスを含めて独立性,中立性及び専門性を確保するよう求めている。

2 選任時に固める事項

委員候補者の関係確認だけでなく,調査範囲,資料及び役職員へのアクセス,調査範囲を変更する権限,調査報告書の起案権,公表方針,事務局の指揮系統並びに報酬の決め方を文書化する必要がある。これらが会社側に留保されれば,形式上は外部委員であっても実質的な独立性が弱くなるためである。

第2 独立性をどのように確認するか
1 顧問関係と過去の受任

現任の顧問弁護士は,企業等と利害関係を有する者に当たり,日弁連ガイドライン上,委員に就任できない。過去に当該企業の業務を受任した弁護士や社外役員については,直ちに一律失格となるわけではないが,案件の性質,受任時期,業務内容及び調査対象者との関係を個別に確認する必要がある。

関係の有無だけでなく,報告書でその関係を開示し,ステークホルダーが独立性を評価できるようにすることが望ましい。確認対象には,候補者本人の関係のほか,所属事務所の継続的な受任関係や,主要な調査対象者との個人的・経済的関係も含めるべきである。

2 選任する側との関係

不祥事への関与が疑われる経営陣が候補者の選定を主導すると,調査対象から独立した選定であるかが問題となる。監査役,監査等委員会,独立社外取締役その他の非関与者を選定過程に関与させ,候補者の推薦者,選定理由及び確認した利害関係を議事録その他の記録に残すことが有用である。

第3 専門性と委員構成
1 法律だけでなく事案に必要な能力をそろえる

委員となる弁護士には,当該事案に関係する法令の知識に加え,内部統制,コンプライアンス,ガバナンス及び企業組織に関する理解が必要である。会計不正では公認会計士又は会計調査の経験者,品質不正では技術分野の専門家,電子データが中心となる事案ではデジタル調査の専門家を加えることを検討する。

専門家を委員とするのか,委員会に直属する補助者とするのかは区別して決める必要がある。補助者であっても,会社との直接契約にする場合には,調査結果の報告先を委員会に限定するなど,委員会の指揮命令と情報管理を契約で明確にすることが望ましい。

2 多様な視点と担当分担

委員が同じ専門分野に偏ると,法的評価はできても,業務実態や組織文化の把握が弱くなることがある。委員会内部で,証拠収集,ヒアリング,事実認定,原因分析及び再発防止策について誰が責任を持つかを決め,重要な判断は委員全体で検討する体制を設けるべきである。

第4 調査権限と報告書の独立性
1 資料と役職員へのアクセス

日弁連ガイドラインは,企業等が所有するあらゆる資料,情報及び社員へのアクセスを保障し,従業員等に優先的な協力を命じることを求めている。委員会の判断で調査範囲を拡大又は変更できること,資料の保存及び収集を速やかに指示できることも,委嘱契約又は設置決議に明記すべきである。

2 報告書の起案と公表

調査報告書の起案権は委員会に専属し,会社に不利な事実及び評価であっても記載対象となる。会社側が提出前に内容を確認し,削除又は表現変更を指示できる仕組みは避ける必要がある。

公表版を別に作る場合も,非公表部分を委員会が決定し,プライバシー,営業秘密又は捜査・調査への具体的な支障など,非公表理由を説明できるようにすることが重要である。

第5 事務局と情報隔壁
1 事務局は委員会に直属させる

調査を補助する事務局を設置する場合,担当者は委員会に直属させ,調査対象となる部門や経営陣との間に厳格な情報隔壁を設ける必要がある。会社側の連絡窓口と,委員会内部の証拠管理・ヒアリング調整を担う事務局を区別すると,情報流出や調査介入の危険を下げやすい。

2 協力が得られない場合の扱い

資料の提出遅延,対象者との連絡不能,調査対象データの欠落その他の制約が生じた場合には,委員会がその状況を記録し,事実認定への影響とともに報告書へ記載できるようにする。会社側の非協力を報告書から外す約束は,委員会の独立性と説明責任を損なう。

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企業不祥事の第三者委員会-設置判断,独立性,調査範囲及び報告書公表の実務(AI作成)

目次

第1 第三者委員会の位置付け1 本記事で扱う対象2 名称ではなく機能で評価する第2 第三者委員会を設置するかの判断1 設置が有力な選択肢となる場面2 社内調査等が適する場面3 判断時に確認する事情第3 設置時に定める事項1 目的,調査範囲及び委員会の権限2 委員の独立性と専門性3 独立した事務局と情報遮断第4 証拠保全と調査手法1 法的強制力がないことの意味2 電子データを含む保全対象3 ヒアリング,自主申告窓口及びデジタル調査第5 事実認定と根本原因の分析1 客観的証拠に基づく事実認定2 調査範囲の見直し3 個人の不正で終わらせない第6 調査報告書と情報開示1 委員会の起案権限2 報告書公表の原則と非公表部分3 調査中の適時開示と対外対応第7 報告後の責任追及と再発防止1 調査報告書と法的責任を分ける2 再発防止策を日常業務に定着させる第8 実務チェックリスト1 設置前から報告後までの確認事項第9 関連記事1 役員不正の処遇と責任追及2 委員弁護士の後続訴訟への関与3 地方公共団体の第三者調査委員会第10 出典・参考資料1 職能団体のガイドライン2 自主規制機関のプリンシプル3 自主規制機関のFAQ4 会計監査の実務指針5 裁判例
第1 第三者委員会の位置付け
1 本記事で扱う対象
(1) 対象範囲と基準日

本記事は,2026年10月9日現在,日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」が想定する企業等の調査委員会を対象とする。
地方公共団体の附属機関,取締役責任調査委員会,企業買収等の特別委員会及び個別企業の調査報告書の評価は対象外である。

(2) 調査委員会の役割

日弁連ガイドラインがいう第三者委員会は,企業等から独立した委員のみで構成され,不祥事について事実調査,原因分析及び必要に応じた再発防止策の提言を行う委員会である。
依頼料を支払う企業だけでなく,株主,投資家,従業員,債権者,取引先,消費者等のステークホルダーに調査結果を開示し,信頼回復と持続可能性の確保を目指す点に特徴がある。

2 名称ではなく機能で評価する
(1) ガイドラインとプリンシプルの性質

日弁連ガイドラインは,弁護士会員を法的に拘束する規範ではなく,第三者委員会に関するベスト・プラクティスを示す文書である。
日本取引所自主規制法人の「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」も,法令や取引所規則とは異なり,上場会社を一律に拘束するものではない。

(2) 形式だけの委員会を避ける理由

第三者委員会という名称を付けても,調査の客観性が自動的に確保されるわけではない。
JPXプリンシプルは,この形式によって不十分な調査に客観性・中立性の外観を持たせる事態を招かないよう留意するとしている。
したがって,独立性,中立性,専門性,調査範囲,証拠保全,公表方針及び再発防止策までを一体として設計する必要がある。

第2 第三者委員会を設置するかの判断
1 設置が有力な選択肢となる場面

JPXプリンシプルは,①内部統制の有効性又は経営陣の信頼性に相当の疑義がある場合,②企業価値の毀損が大きい場合,③事案が複雑である場合,④社会的影響が重大である場合などに,第三者委員会の設置が有力な選択肢になるとしている。
経営陣が調査対象に含まれる事案,不正が長期間又は複数部門に及ぶ事案,企業価値に重大な影響を及ぼし得る事案では,社内調査だけで客観性を説明できるかを早期に検討することになる。

2 社内調査等が適する場面
(1) 社内調査で足りる可能性

不適切行為の規模と社会的影響が限定され,経営陣の信頼性や社内調査の客観性に重大な疑義がない事案では,社内調査委員会又は独立社外役員を中心とした調査が適することがある。
日弁連ガイドラインの「策定にあたって」も,不祥事の規模や社会的影響の程度によっては,社内調査委員会で十分な場合があると説明している。

(2) 体制選択の基準

設置判断は,第三者委員会の方が厳格に見えるかではなく,必要十分な調査を実施でき,その客観性をステークホルダーに説明できる体制はどれかという観点から行う。
本記事では,調査の独立性と必要な専門性を確保できる最小限の体制を選び,事情の変化に応じて体制を見直せるようにすることを基本形とする。

3 判断時に確認する事情

設置判断では,①誰が被疑者又は監督責任の対象か,②社内調査の独立性を説明できるか,③不正の規模・期間・拠点数はどの程度か,④会計又はデジタル調査の専門性を要するか,⑤取引所,監督官庁又は捜査機関の対応と並行するか,⑥調査の適正さに対する市場又は社会の信頼が企業価値を左右するかを確認する。
これらを調査開始前に完全に把握できないときは,暫定的な調査体制と見直し条件を定める方法が考えられる。

第3 設置時に定める事項
1 目的,調査範囲及び委員会の権限
(1) 設置決議又は調査契約の内容

実務上,設置決議又は調査契約では,①調査目的,②対象となる疑惑,③当初の調査範囲,④資料・システム・役職員へのアクセス,⑤証拠保全,⑥報告書の作成権限,⑦公表方針,⑧調査期間,人員及び費用の見通しを具体化することが考えられる。
会社側の連絡担当者,委員会への報告経路及び調査対象者からの独立を確保する方法も,開始時に書面化しておくことが望ましい。

(2) 調査範囲を変更する権限

日弁連ガイドラインは,調査過程で当初想定していなかった事実が判明した場合,委員会が調査範囲を変更できるとしている。
当初の委嘱事項を固定し過ぎると,関連する不正や根本原因を見落とすため,変更権限と会社への連絡方法をあらかじめ定める必要がある。

(3) 費用と期間を見積もる際の要素

第三者委員会の費用と期間について,一律の相場を示す公的な基準はない。調査範囲,対象者数,電子データ量,拠点数,ヒアリング数,必要な専門家及び中間報告の有無により変動するため,開始時に調査段階ごとの概算,追加調査が必要となる条件及び見直し手続を定めることが望ましい。

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株主総会の議題・議案の通知漏れ―取締役会決定と招集通知,全員出席総会を分けて確認する(AI作成)

目次

第1 通知漏れを見つけたときの確認順序第2 議題の決定と通知を分ける1 取締役会が決定する総会の目的事項2 会社法309条5項が参照する事項第3 招集通知には何を記載するか1 議題と議案の概要2 有利発行の通知と説明を区別する第4 開催前に通知漏れが判明した場合1 まず通知の補正・再招集の余地を確認する2 会社法300条による招集手続の省略3 会社法319条の書面決議を選ぶ場合第5 判例上の全員出席総会を検討する場合1 開催への同意と出席の両方を確認する2 代理出席では委任の範囲を確認する3 通知の瑕疵を認識した同意かという問題第6 同意・説明・議事録を別々に残す1 保存しておく資料2 既に決議した場合の対応第7 出典と関連記事1 公開一次資料2 関連記事

本記事は,株主総会の議題・議案の通知漏れと,開催前後の対応を扱う。
招集から決議・議事録までの全体像は,株主総会とは―開催時期,出席できる人,決議事項,普通決議・特別決議及び手続(AI作成)で説明する。

第1 通知漏れを見つけたときの確認順序

株主総会の招集通知に議題や議案の概要の記載が抜けていたときは,取締役会で何を決めたか,株主に何を知らせたか,開催・審議にどのような同意を得たかを分けて確認します。「株主全員が出席した」という一事だけで,すべての問題が解消すると扱うことはできません。

取締役会設置会社では,取締役会が決定した総会の目的事項と,招集通知に記載した事項が一致しているかを照合します。さらに,有利発行など議案の概要の通知や総会での説明が求められる事項について,それぞれの要件を点検します。

本記事は,株式会社の総会準備・通知漏れへの対応を対象とし,令和8年10月9日現在の会社法・会社法施行規則と,最高裁昭和60年12月20日判決の原文を基礎に整理しています。決議が既に成立している場合の不存在・取消しの詳しい検討は,末尾の関連記事を参照してください。

確認段階主な資料判断する内容招集事項の決定取締役会議事録,定款総会の目的事項として何を決めたか株主への通知招集通知,添付資料,送付記録議題と,必要な議案の概要を通知したか開催方法の選択株主・議決権の確認資料,同意記録通常の招集,招集手続の省略,書面決議のどれを用いるか当日の審議説明資料,委任状,総会議事録説明義務,代理権の範囲,決議要件を満たすか
第2 議題の決定と通知を分ける
1 取締役会が決定する総会の目的事項

会社法298条1項2号は,株主総会の目的である事項があるときは,その事項を招集に際して定めることを求めています。取締役会設置会社では,原則として取締役会の決議により招集事項を決定します(同条4項)。株主が裁判所の許可を得て招集する場合などは,通常の取締役会による招集と区別が必要です。

実務では,取締役会議事録の議題名だけでなく,その決議内容と添付資料まで確認します。定款変更,役員の選任・解任,募集株式の発行など,総会で決議する事項が決定の対象に含まれているかを点検します。

2 会社法309条5項が参照する事項

取締役会設置会社の総会は,原則として,会社法298条1項2号の事項以外を決議できません(会社法309条5項。検査役の選任等の法定例外があります)。ここで参照されているのは,招集に際して決定した総会の目的事項です。

そのため,取締役会では議題を適法に決定しているのに,招集通知への記載だけを漏らした場合,その通知漏れだけを理由に「取締役会が決定した議題以外の決議」と扱うことはできません。通知の適法性は,会社法299条等によって別に検討します。

通知漏れがあったから決議できるという意味でもありません。どの手続に瑕疵があるかを特定して,開催前の是正又は成立後の決議の効力を検討するための区別です。

第3 招集通知には何を記載するか
1 議題と議案の概要

取締役会設置会社の招集通知は,書面又は法定の承諾を得た電磁的方法で行い,日時・場所,目的事項その他の法定事項を記載又は記録する必要があります(会社法299条2項から4項)。通知の送付期限も,公開会社か非公開会社か,書面・電磁的方法による議決権行使を認めるかなどを確認して定めます。

「議題」は総会の目的事項であり,「議案」はその事項について決議を求める具体的内容です。目的事項の記載があっても,別途求められる議案の概要が足りているとは限りません。

会社法施行規則63条7号は,書面・電磁的方法による議決権行使を認める場合を除き,同号に列挙された事項が目的事項となるとき,議案の概要を招集に際して決定する事項としています。議案が確定していないときは,その旨を定めます。対象には,役員の選任・報酬,定款変更,株式併合,有利発行などが含まれます。書面・電磁的方法による議決権行使を認める場合は,同条3号や株主総会参考書類に関する規定を別に確認します。

招集通知を電子メール等で送ることと,総会に出席しない株主の電子投票を認めることは別の問題です。この二つを区別して,適用する規定を確認します。

2 有利発行の通知と説明を区別する

募集株式の払込金額が引受人に特に有利な金額である場合,会社法施行規則63条7号ホは,会社法199条3項等に規定する事項に係る議案の概要を対象としています。通知に「募集株式の発行」と記載しただけで足りると決めつけず,具体的な条件と有利性に関する記載を確認する必要があります。

また,会社法199条3項は,取締役に対し,特に有利な払込金額で募集する必要がある理由を総会で説明することを求めています。これは株主からの質問に対する説明を定める会社法314条と異なり,質問が出たときだけ説明すればよいという義務ではありません。

全員出席総会の成立を検討する場面でも,有利発行の理由の説明や必要な決議要件は別に点検します。開催への同意を得たことを,それらの要件を満たした証拠の代わりにしないことが大切です。

第4 開催前に通知漏れが判明した場合
1 まず通知の補正・再招集の余地を確認する

開催までの期間,必要な通知事項,株主が検討できる資料を確認し,適法な通知をやり直せるかを検討します。単に当日配布すれば足りると扱わず,法定の通知期限を含めて点検します。取締役会の目的事項の決定自体が不足している場合は,通知文だけを修正して済ませないようにします。

通常の招集手続を維持するのか,会社法300条による省略を用いるのかを明確にし,後から同意があったはずだと説明する方法を避けます。

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法人株主の代表者と代理人が競合したとき―議決権行使の権限,委任状と受付記録(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論第2 代表取締役と代理人を分ける1 代表取締役による行使2 従業員等による代理行使第3 社内規程違反と議決権行使の効力1 社内の担当指定と代表権2 集団的な議決権行使への適用を確認する第4 委任状,書面投票,直接行使を区別する1 書面が何をするためのものか2 直接行使と撤回の内容を確認する第5 受付と集計の記録を残す第6 拒否又は不算入が決議に及ぼす影響第7 関連記事第8 出典と確認範囲
第1 この記事の対象と結論

法人である株主から委任状が提出された後に,その法人の代表取締役が総会へ出席し,委任状と異なる投票を求めることがある。会社側は,来場した人の肩書や書面の日付だけで採否を決めず,誰が法人を代表するのか,代理権はどこまで授与されたのか,どの行使又は撤回が有効なのかを分けて確認する必要がある。

本記事は,株式会社である法人株主の代表取締役と,その法人から委任を受けた代理人との競合を扱う。令和8年10月8日現在の会社法を基準とする。合同会社,地方公共団体,外国法人などの代表権は,それぞれの根拠法令や機関設計に戻って確認する。

実務では,①代表者か代理人か,②社内規程と対外的な権限の関係,③委任状と書面投票の区別,④撤回・直接行使の表示と到達時刻,⑤議案ごとの集計への影響,の順で判断する。受付だけで結論を急ぐことを避け,法務担当者と議長が採否の根拠を追跡できる記録を残す。

第2 代表取締役と代理人を分ける
1 代表取締役による行使

会社法349条4項は,代表取締役に会社の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を認める。法人株主の代表取締役が法人のために議決権を行使する場面では,その人を,委任状によって初めて権限を得る任意代理人と同じように扱わない。

「社長」「副社長」「専務」という呼称だけでは代表権は決まらない。登記事項証明書,選定・解職に関する資料,本人確認資料を照合する。登記の記載と実際の選定が争われている場合には,登記があるという一事だけで争点を処理しない。代表取締役が複数いる場合も,社内の役職順位と各人の代表権を区別する。

2 従業員等による代理行使

会社法310条1項による代理行使には,代理権を証明する書面の提出が必要であり,代理権の授与は株主総会ごとに行う(同条2項)。従業員が法人株主の業務として来場しても,それだけで代表取締役の権限を持つことにはならない。委任者の権限,対象総会,対象議案及び委任の範囲を確認する。

最高裁昭和51年12月24日判決は,代理人を株主に限る定款の下でも,法人株主の職員・従業員の代理行使を認めた。判決が前提としたのは,組織の一員として指示に従い,代表者の意図に反する行動をすることができない事実関係である。役員・従業員という属性だけで無条件の例外とした判決ではない。定款による資格制限とその例外は,議決権代理行使の記事で詳しく扱っている。

確認対象代表取締役委任を受けた代理人権限の出発点会社法349条と代表者の地位総会ごとの代理権授与主な確認資料代表者の地位・本人を確認する資料委任状,授与者の権限,代理人の本人確認混同を避ける点社内の役職順位だけで代表権を否定しない所属だけで委任の存在や範囲を認定しない
第3 社内規程違反と議決権行使の効力
1 社内の担当指定と代表権

法人株主が社内規程で,他社株式の議決権行使を特定の代表取締役や担当部署に割り当てていることがある。会社法349条5項は,同条4項の権限に加えた制限を善意の第三者に対抗できないと定める。内部の職務分掌と対外的な効力は別の問題である。

同項による第三者保護を検討する構成では,制限を知っていたかという主観面を,総会を開催する会社との関係で具体化する。行使した代表取締役本人が社内規程を知っていたことだけで,開催会社側の善意が否定されるわけではない。会社側の判断に関与した者,伝えられた規程の内容,伝達先・日時及び当該総会への適用範囲を記録する。

2 集団的な議決権行使への適用を確認する

議決権行使は,通常の売買契約等とは異なる集団的な権利行使である。この場面へ349条5項を適用するかは,法人株主の意思の尊重と,総会を開催する会社が権限を判断する際の保護を踏まえて検討する必要がある。内部規程に反した投票がすべて無効とも,開催会社が規程を知らなければすべて有効とも,一律に処理しない。

法務省の令和3年司法試験の採点実感は,この論点について同項を適用する構成と,集団的権利行使の場面には適用すべきでないとする構成の双方を評価している。これは問題の所在を示す教育資料であり,特定の実務事件について有効・無効を確定する裁判例ではない。本記事で確認した最高裁昭和43年・51年の代理人資格に関する判決も,この適用問題の結論を判示したものではない。

権限又は法人の最終意思に具体的な争いがある場合には,開催会社の法務担当者が資料を整理し,議長の判断前に弁護士へ照会する。社内規程違反と,代表者が自己又は第三者の利益を図って権限を濫用したかという問題も分けて検討する。

第4 委任状,書面投票,直接行使を区別する
1 書面が何をするためのものか

委任状は,他の者に議決権の行使を委ねる権限証明の書面である。会社法311条の議決権行使書面は,所定の方法と期限に従って株主自身の投票を届ける書面である。会社法312条の電磁的方法による行使も別の手続である。議案への賛否が書かれていることだけで,委任状を311条の書面投票として扱わない。

書類の名称だけでなく,招集通知の案内,宛先,本文の授権又は投票の内容,対象議案,提出方法を読む。先に提出した書類が委任状なのか,既にされた議決権行使なのかによって,後の出席・撤回との関係を検討する出発点が異なる。

2 直接行使と撤回の内容を確認する

有効な代表権を持つ者の直接行使が法人の最終意思を示し,先の代理行使の撤回を含むと認められる場合には,直接行使を優先させる構成が考えられる。ただし,「代表者が来場した」「後の日付の書類がある」というだけで,全議案の代理権が当然に消えたと決めない。

対象総会・議案,先の委任の範囲,撤回する旨の表示,その表示が誰にいつ届いたか,代理人が既に何を行ったかを確認する。代表権自体や撤回の効力に争いがある場合には,その判断を先に置く。同じ法人の同じ議決権を,代理人の票と代表者の票として二重に数えない。

第5 受付と集計の記録を残す

法人株主側は,総会前に議案への方針,行使者,委任状の作成権限,撤回時の連絡先を決め,代表者と代理人へ同じ指示を伝える。開催会社側は,競合する書類を受け付けた時点で受付担当者だけの判断にせず,法務担当者と議長への連絡経路を使う。

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株式交換完全親会社の反対株主による株式買取請求―競合公開買付け・DCF・市場株価と最高裁令和8年9月30日決定(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論第2 事案と裁判の経過1 株式交換と競合提案2 特別委員会と株主総会3 1518円,1670円,1518円第3 「公正な価格」の二つの基本枠組み1 企業価値の増加が生じない場合2 企業価値の増加が生じる場合第4 資本関係があっても株式交換比率が尊重される場合1 独立当事者間の原則2 資本関係がある場合の手続保障第5 上場株式の市場株価を使う条件1 市場価格を基礎資料とする合理性2 1518円の算定方法を一般化しない第6 競合公開買付けとDCF法による試算の扱い1 公表された高い価格は企業価値の増加そのものではない2 DCF法が不要になったわけではない第7 弁護士実務で確認する資料1 会社・特別委員会側2 反対株主側第8 司法書士実務・税理士実務との役割分担1 司法書士実務2 税理士実務第9 本決定の射程と資料の限界第10 一次資料・参考資料
第1 この記事の対象と結論

この記事は,株式交換完全親会社の反対株主が会社法797条1項に基づいて株式買取請求をした場合の「公正な価格」について判断した最高裁判所第二小法廷令和8年9月30日決定(令和6年(許)第32号,第33号,第34号)を扱う。

結論を先にいえば,公正な株式交換比率が一般に公正と認められる手続によって定められ,株式交換の公表後の市場株価がその比率と企業価値の増加を織り込んで形成されたとみられる場合,裁判所は,買取請求日又はこれに近接する一定期間の市場株価を基礎に公正な価格を定めることができる。競合する公開買付けの提案額やDCF法による理論株価がこれを上回って公表されていたというだけで,その差額又は一定の上乗せ額が当然に公正な価格へ加算されるわけではない。

もっとも,本決定が1株1518円という数値又は終値出来高加重平均値をあらゆる事件に使うよう命じたものではない。手続の公正さ,情報開示,実質的な交渉,株式交換後の価値増加,市場価格の形成過程及び各買取請求日の関係を,事案ごとに検討する必要がある。

第2 事案と裁判の経過
1 株式交換と競合提案

抗告人は,エイチ・ツー・オーリテイリング株式会社との資本業務提携を続ける一方,オーケー株式会社から,抗告人を子会社化するため1株2250円で公開買付けを行う提案を受けた。

抗告人は,オーケーの提案と,抗告人を株式交換完全親会社,イズミヤ株式会社及び株式会社阪急オアシスを株式交換完全子会社とする株式交換とを比較検討した。株式交換後の抗告人の理論株価については,DCF法に基づく2400円から3018円までの試算と,1787円から3128円までの試算があった。

2 特別委員会と株主総会

抗告人は,関係各社から利害関係のない弁護士と社外取締役から成る特別委員会を設けた。特別委員会は,複数の法務・財務専門家の意見を聴き,関係者へヒアリングを行い,株式交換と競合提案を比較し,提携先会社の議決権割合を当初提案の60%から58%へ引き下げさせた。

取締役会は,株式価値算定書と検討過程を株主へ開示し,買取価格は競合提案の2250円に拘束されないこと,DCF法による試算は理論株価であって直ちに市場株価として実現する保証はないことも説明した。株式交換契約は,出席株主の議決権の3分の2以上の賛成で承認された。

3 1518円,1670円,1518円

会社は,株主総会決議の翌取引日から各買取請求日までの終値出来高加重平均値を株主ごとに算出し,その最高額である1株1518円を全ての反対株主に提示した。

大阪高等裁判所は,競合提案とDCF法による試算が公表されていたことを考慮し,1518円を10%増額した1670円を公正な価格とした。これに対し最高裁は,その上乗せに法的根拠がないとして原決定を破棄し,原々決定に対する抗告を棄却した。その結果,1株1518円とした原々決定が維持された。

第3 「公正な価格」の二つの基本枠組み
1 企業価値の増加が生じない場合

株式交換によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合,公正な価格は,原則として,買取請求日における「株式交換を承認する株主総会決議がなければその株式が有したであろう価格」である。一般に「ナカリセバ価格」と呼ばれる考え方である。

2 企業価値の増加が生じる場合

それ以外の場合,公正な価格は,原則として,株式交換契約に定められた株式交換比率が公正であったならば,買取請求日にその株式が有していると認められる価格である。退出する反対株主にも,株式交換によって生じる価値の増加を適切に分配するためである。

この二分法は,最高裁平成23年4月19日決定と最高裁平成24年2月29日決定を踏襲したものである。本決定は,この枠組みを株式交換完全親会社の反対株主による会社法797条の請求に適用し,公正な手続と市場株価の関係を具体化した点に意味がある。

第4 資本関係があっても株式交換比率が尊重される場合
1 独立当事者間の原則

相互に特別の資本関係がない会社間では,各社の取締役が忠実義務に従って自社と株主の利益にかなう契約を締結することが期待できる。株主の判断の基礎となる情報が適切に開示され,株主総会で適法に承認されるなど一般に公正と認められる手続によって株式交換の効力が生じた場合,株主の合理的判断が妨げられた特段の事情がない限り,交換比率は公正とみるのが原則である。

2 資本関係がある場合の手続保障

取引当事者に資本関係があり,取締役の忠実義務の適切な履行をそのまま期待できない場合でも,結論が直ちに不公正となるわけではない。独立した第三者委員会や専門家の意見を聴き,恣意的な意思決定を排除する措置を講じ,実質的に条件交渉をし,判断材料を株主へ適切に開示し,適法な総会承認を得たときは,同じく交換比率を公正と評価し得る。

本件では,特別委員会の独立性,複数専門家の関与,競合提案との比較,議決権割合を引き下げた実質的交渉,価値算定書等と検討過程の開示,競合提案額や理論株価に拘束されない旨の説明が総合して評価された。

第5 上場株式の市場株価を使う条件
1 市場価格を基礎資料とする合理性

上場株式について,市場価格が企業の客観的価値を反映していないことをうかがわせる事情がなければ,公正な価格の基礎資料として市場株価を用いることには合理性がある。

(続きを読む...)株式交換完全親会社の反対株主による株式買取請求―競合公開買付け・DCF・市場株価と最高裁令和8年9月30日決定(AI作成)

事業譲渡の債務不承継条項と対外責任―商号続用の免責登記・通知と承継表示の確認(AI作成)

目次

第1 契約上の除外と債権者への責任を分ける第2 免責登記と個別通知は要件・相手を確認する1 登記の対象と時期2 両会社からの通知と受領者3 他の責任まで一括して消えるわけではない第3 商号を変えても屋号・ブランドの表示を調べる第4 承継広告と詐害的な資産移転を別に点検する第5 契約交渉では実行担当と回収可能性を決める第6 請求を受けたときは相手・根拠・期間を分ける第7 関連記事第8 出典と判断の範囲

事業譲渡契約で「旧債務は引き受けない」と定めても,旧債権者から譲受会社への請求が当然に排除されるわけではない。契約での負担配分,商号・屋号等の使用,会社法上の登記・通知を別々に確認し,実行後の証拠まで残す必要がある。

本記事は,会社が事業を譲り受ける場面について,令和8年10月20日に確認した会社法と公開判決を基に,契約・免責措置・実行管理を整理する。
契約で負担を配分することと,債権者に対する責任を免れることを区別し,資料保存等の実務上の提案は法令上の要件と分けて示す。

第1 契約上の除外と債権者への責任を分ける

会社法22条1項は,譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合に,譲渡会社の事業によって生じた債務について譲受会社にも弁済責任を負わせる。したがって,譲渡会社との内部的な債務不承継合意だけを,債権者への免責の根拠にしてはならない。

法務担当者は,①契約上引き受ける債務,②契約上除外する債務,③法定責任が生じ得る債務を別欄に置く。債務の発生原因,金額,弁済期,係争の有無及び元の債務者を確認し,譲渡対象の事業との関係を記録する。把握できない債務を「存在しない」と処理せず,調査資料と照会結果を残す。

第2 免責登記と個別通知は要件・相手を確認する
1 登記の対象と時期

会社法22条2項前段は,事業を譲り受けた後,遅滞なく,譲受会社がその本店所在地で譲渡会社の債務について責任を負わない旨を登記した場合に,同条1項を適用しないと定める。会社の商号変更登記や契約書への記載を,この登記と混同しない。

条文の「遅滞なく」を一律の日数に置き換えない。実行前に司法書士等と必要書類・申請担当・本店所在地・実行日との関係を確認し,実行後に申請記録と登記内容を確かめる。申請を予定したことだけで登記の完了を扱わない。

2 両会社からの通知と受領者

同項後段は,譲受会社及び譲渡会社から第三者に対し,事業譲受け後遅滞なく免責の旨を通知した場合に,その通知を受けた第三者について同じ扱いを認める。譲受会社だけの発信で両会社からの通知を満たしたと決め付けず,通知名義と内容を確認する。

通知先を漏れなく整理し,対象債務,両会社の名称,事業譲渡との関係,旧債務を弁済する責任を負わない旨が分かる文面を準備する。通知の原本,送付先,送付日及び受領を確認できる資料を一組にして保存する。通知を受けていない第三者についても免責されたと一括処理しない。

3 他の責任まで一括して消えるわけではない

22条2項は同条1項についての例外である。債務引受契約その他の責任根拠がある場合や,23条・23条の2が問題になる場合は,各根拠を別に確認する。通知文に免責と書いたことだけで全ての対外責任が消えるとはいえない。

第3 商号を変えても屋号・ブランドの表示を調べる

会社の商号を変えても,続用する屋号やブランドが営業主体を示す機能を果たしていれば,商号続用責任の類推適用が問題となり得る。
同じ商品名・ロゴが残るだけで直ちに責任が決まるわけではなく,契約書,請求書,看板,ウェブサイト及び顧客案内の実際の表示を調べる。

最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決は,ゴルフクラブ名の続用について旧商法26条1項の類推適用を示し,特段の事情の審理のため差し戻した。
判決の射程と,商品を示す表示・営業主体を示す名称の区別は,事業譲渡で屋号・ブランドを続用すると旧債務を負うかで説明する。

実行前後の表示案は法務が確認し,営業・広報・ウェブ担当が同じ内容へそろえる。
契約の債務除外と対外的な案内の食い違い,変更前後の版,顧客への説明日を記録することが望ましい。

第4 承継広告と詐害的な資産移転を別に点検する

会社法23条1項は,商号を続用しない場合でも,旧事業債務を引き受ける旨を広告した譲受会社への弁済請求を認める。
事業・商品の承継を知らせる表示と,旧債務を引き受ける表示は区別し,ウェブサイトやプレスリリースの文言を契約条件と照合する。

会社法23条の2は,残存債権者を害することを知って行われた事業譲渡について,承継財産の価額を限度とする譲受会社への履行請求を定める。
商号変更や22条2項の免責登記・通知だけでこの問題を処理せず,譲渡会社に残る資産・債務,対価の支払先及び両会社の認識を確認する。
要件・期間・倒産手続開始後の制限は,詐害的事業譲渡と残存債権者の請求で整理している。

第5 契約交渉では実行担当と回収可能性を決める

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取締役の責任免除と取引承認の違い―総株主同意・黙示免除・株主交代時の確認事項(AI作成)

目次第1 承認済みの取引でも責任免除は別に確認する第2 取引承認・任務懈怠・責任免除の三段階1 取引の承認を確認する2 会社に対する責任の成立を検討する3 責任が成立する場合の免除を検討する第3 総株主同意と黙示の免除をどう確認するか1 同意の対象と時点を記録する2 明示の書面がない場合は経過から検討する3 同型下級審判例の結論と限界4 黙示免除を主張する際に分けて立証する事項第4 一部免除・責任限定契約と第三者責任1 総株主同意による免除と他の制度を区別する2 会社債権者等の請求を別に検討する3 会社財産の保護に関する法定の制限も確認する第5 契約・交渉・訴訟で確保する資料第6 出典・関連記事
第1 承認済みの取引でも責任免除は別に確認する

会社の取引について株主又は取締役会の承認を得ていても,その承認だけで取締役の損害賠償責任まで免除されたとはいえない。
取引を実行するための承認,会社法423条1項の任務懈怠責任の有無,同法424条の責任免除は,対象と要件が異なる。
本記事は令和8年10月4日に確認した現行会社法を基準として,会社の法務担当者や取締役が保存すべき資料と,責任追及への対応を整理する。

一人会社でも,唯一株主の意向から責任の有無や免除を機械的に決めることはできない。
会社に対する責任と会社債権者等に対する責任を分け,誰が,何について,いつ同意したのかを確認する必要がある。

第2 取引承認・任務懈怠・責任免除の三段階
1 取引の承認を確認する

利益相反取引では,会社法356条1項の重要事実の開示及び株主総会の承認が問題となり,取締役会設置会社では同法365条1項により取締役会の承認が必要となる。
承認の議事録では,対象取引,開示された条件,利益相反の内容,決議機関を確認する。

これは取引についての手続的な規律である。
承認手続を経たことと,会社に損害が生じた場合の任務懈怠責任が成立しないことは別に検討する。
会社法423条3項には一定の利益相反取引について任務懈怠の推定があり,承認決議に賛成した取締役も対象に含まれる。

2 会社に対する責任の成立を検討する

会社法423条1項の検討では,取締役の具体的な任務,その懈怠,会社の損害及び因果関係を整理する。
株主の意向に沿ったことは評価材料となり得るが,会社の財務状態,取締役の私的利益及び会社債権者への影響も具体的に検討する。

3 責任が成立する場合の免除を検討する

会社法424条は,前条1項の責任を免除するには総株主の同意を要すると定める。
取締役会の承認や株主総会の多数決を,総株主の同意と取り違えてはならない。
任務懈怠がないという主張をする場合でも,その主張が認められなかった場合に備え,免除の有無を予備的に検討することには実務上の意味がある。

第3 総株主同意と黙示の免除をどう確認するか
1 同意の対象と時点を記録する
(1) 取引への賛成と責任免除の意思を分ける

同意書や議事録には,対象取引だけでなく,免除の対象となる取締役,責任の発生原因,損害及び免除する範囲を可能な限り特定する。
その記載は後日の立証に役立つが,書類の表題を「承認書」又は「免責合意書」としただけで法的要件を満たすものではない。
株主へどの事実が説明され,どの責任を免除する意思が示されたかを確認する。
さらに,会社自身による免除の意思表示と総株主の同意を分けて記録する。
民法519条は債権者の免除意思表示による債権消滅を定めており,後記東京地裁平成20年判決は,一人会社でも株主の同意だけで会社の請求権が当然に消滅するとの扱いを否定している。

(2) 株主交代前後の経過を分ける

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株主総会決議の取消しの訴えは誰が起こせるか―株主等,決議で地位を失った株主・役員(会社法831条1項後段),提訴期間及び訴えの利益(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論第2 原告になれる者1 株主等2 決議の取消しにより株主・役員となる者(会社法831条1項後段)3 平成26年改正で「株主」となる者が加わった第3 被告・管轄・期間・担保1 被告と管轄2 決議の日から3か月以内3 担保提供命令第4 訴えの利益が失われる場合1 役員選任決議の取消しと役員の退任2 否決された決議の取消しは求められない第5 判決の効力と裁量棄却1 判決の効力2 裁量棄却第6 実務で確認すること第7 関連記事第8 出典及び確認状態1 法令2 裁判例3 確認状態

本記事は,株主総会決議の取消しの訴えにおける原告適格,提訴期間及び訴えの利益を扱う。
株主総会の開催時期,出席資格,決議事項及び決議要件の全体像は,株主総会とは―開催時期,出席できる人,決議事項,普通決議・特別決議及び手続(AI作成)で説明する。

第1 この記事の対象と結論

本記事は,株主総会決議の取消しの訴え(会社法831条)について,誰が原告になれるか,誰を被告としていつまでに訴えるか,どのような場合に訴えの利益が失われるかを,条文と最高裁判例で整理するものである。
特に,その決議によって株主や役員の地位を失った者が原告になれるかという点(会社法831条1項後段)を詳しく扱う。

結論を先に示すと,次のとおりである。
①原告になれるのは「株主等」(株主,取締役,清算人のほか,監査役設置会社では監査役,指名委員会等設置会社では執行役)である(会社法831条1項前段,828条2項1号)。
②決議の取消しによって株主又は取締役・監査役・清算人となる者も原告になれる(会社法831条1項後段)。
株式の併合等で端数となって株主でなくなった者や,解任決議で解任された取締役・監査役がこれに当たる。
「株主」となる者が加わったのは,平成26年の会社法改正(平成27年5月1日施行)である。
③被告は会社であり,訴えは決議の日から3か月以内に,会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に提起する(会社法831条1項,834条17号,835条1項)。
④取消事由は3か月以内に主張しなければならず,役員選任決議の取消しを求めている間にその役員が全員退任したとき等は,訴えの利益が失われることがある。

第2 原告になれる者
1 株主等

会社法831条1項前段は,決議の取消しの訴えを提起できる者を「株主等」としている。
「株主等」は,会社法828条2項1号の括弧書で,「株主、取締役又は清算人(監査役設置会社にあっては株主、取締役、監査役又は清算人、指名委員会等設置会社にあっては株主、取締役、執行役又は清算人)」と定義されている。

株主は,自分に対する招集手続に瑕疵がなくても,他の株主に対する招集手続の瑕疵を理由に取消しの訴えを提起できる。
最高裁昭和42年9月28日判決は,「株主は自己に対する株主総会招集手続に瑕疵がなくとも、他の株主に対する招集手続に瑕疵のある場合には、決議取消の訴を提起し得る」とした。

2 決議の取消しにより株主・役員となる者(会社法831条1項後段)

会社法831条1項後段は,「当該決議の取消しにより株主…又は取締役…、監査役若しくは清算人…となる者も、同様とする。」と定めている。
この「取締役」等には,任期満了又は辞任により退任した後もなお役員としての権利義務を有する者(会社法346条1項)を含む。

この規定により,次のような者も原告になれる。
①株式の併合や全部取得条項付種類株式の取得によって株式が1株に満たない端数となり,株主の地位を失った者(決議が取り消されれば株主に戻る。)
②取締役・監査役を解任する決議によって解任された者(決議が取り消されれば役員に戻る。)

決議の効力が生じた後は株主・役員でなくなっているので,前段の「株主等」だけでは原告になれないおそれがある。
後段は,決議そのもので地位を奪われた者が,その決議を争う道を閉ざされないようにする規定である。

3 平成26年改正で「株主」となる者が加わった

平成26年の会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)は,会社法831条1項後段の「取締役、監査役又は清算人(」を,「株主(当該決議が創立総会の決議である場合にあっては、設立時株主)又は取締役…、監査役若しくは清算人(」に改めた。
同法の施行日は平成27年5月1日である(法務省「会社法の一部を改正する法律案」のページ)。

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黄金株(拒否権付種類株式)の仕組みと実例―会社法108条1項8号・323条,INPEXの甲種類株式,USスチールの黄金株及び外為法の投資審査(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 会社法上の黄金株1 拒否権付種類株式の定め2 種類株主総会の決議がなければ効力を生じないこと3 公開会社も発行できること4 「黄金株」という言葉の使われ方第3 INPEXの甲種類株式1 導入の経緯と目的2 拒否の対象と条件3 拒否権の行使の基準4 取得請求権と取得条項による流出防止5 有価証券報告書が挙げるリスク第4 上場会社と東京証券取引所の規則第5 USスチールの黄金株1 対米外国投資委員会の審査と大統領令2 国家安全保障協定とClass G優先株式3 同意を要する事項と期間(報道による部分)4 所有と決定の分離第6 外為法による投資審査との関係第7 中小企業・事業承継で黄金株を使うときの確認事項1 設計の段階で確認すること2 紛争になりやすい場面第8 関連記事と本記事の範囲1 関連記事2 本記事で扱わない事項第9 出典1 法令2 裁判例3 国税庁・INPEX・東京証券取引所の資料4 米国の資料5 報道
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

いわゆる黄金株は,株式を1株しか持たない者が,会社の重要な決定を止めることができるように設計された株式である。
日本の会社法には「黄金株」という用語はなく,会社法108条1項8号の拒否権付種類株式がこれに当たるものとして説明されることが多い。

本記事は,令和8年10月4日を基準日として,e-Gov法令検索で確認した会社法及び外国為替及び外国貿易法(外為法)の条文,株式会社INPEXの有価証券報告書(令和7年12月期,令和8年3月26日提出),東京証券取引所の上場制度に関する公表資料,米国の大統領令・連邦官報・米国証券取引委員会(SEC)への提出書類並びに裁判所ウェブサイトの裁判例検索を基に,黄金株の仕組みと国内外の実例を整理する。
米国の国家安全保障協定は全文が公表されていないため,その内容のうち報道に基づく部分は,その旨を明記する。

2 結論

拒否権付種類株式は,株主総会又は取締役会で決議すべき事項のうち定款で定めた事項について,その種類の株主による種類株主総会の決議を別に必要とするものであり,その決議がなければ,株主総会や取締役会の決議があっても効力を生じない(会社法108条1項8号,323条)。
役員選任権付種類株式と異なり,公開会社も発行することができる(会社法108条1項ただし書)。

黄金株の効き目は,持株比率ではなく,定款に書かれた拒否の対象と条件で決まる。
INPEXの甲種類株式は,経済産業大臣が1株を保有し,取締役の選解任,重要な資産の処分,目的の変更等の定款変更,合併等,資本金の額の減少及び解散について拒否権を持つが,取締役の選解任や合併では,公的主体以外の単一の株主が議決権の100分の20以上を持つ場合に限るなど,条件付きで設計されている。
米国では,日本製鉄によるUSスチールの買収が,国家安全保障協定の締結と米国政府への黄金株(Class G優先株式)1株の発行を条件として認められた。

一方,上場会社が拒否権付種類株式を発行することは,東京証券取引所の上場廃止基準との関係で原則として認められていない。
中小企業の事業承継で黄金株を使う場合は,拒否の対象・条件,相続や譲渡で黄金株が想定外の者に移ることへの手当て,登記及び相続税評価を設計の段階で確認する必要がある。

第2 会社法上の黄金株
1 拒否権付種類株式の定め

会社法108条1項は,「株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。」と定め,その8号に「株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第四百七十八条第八項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの」を掲げている。
これが拒否権付種類株式であり,一般に黄金株と呼ばれるものである。

拒否権付種類株式を発行するには,「当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項」と,「当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件」を,発行可能種類株式総数とともに定款で定めなければならない(会社法108条2項8号イ・ロ)。
つまり,拒否の対象は事項ごとに定款で特定し,必要があれば,一定の場合に限って拒否できるという条件を付けることができる。

2 種類株主総会の決議がなければ効力を生じないこと

会社法323条本文は,拒否権付種類株式の定めがあるときは,その事項は,「その定款の定めに従い、株主総会、取締役会又は清算人会の決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。」と定めている。
したがって,黄金株の株主は,株主総会で多数の議決権を持っていなくても,種類株主総会で反対することにより,定款で定めた事項の決定の効力を生じさせないことができる。
ただし,種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は,この限りでない(同条ただし書)。

黄金株の株主に,議決権のある普通株式と同様に議案を可決させる力はない。
黄金株が与えるのは,あくまで定款で定めた事項についての止める力であり,会社の経営を積極的に決める力ではない。

3 公開会社も発行できること

会社法108条1項ただし書は,「指名委員会等設置会社及び公開会社は、第九号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。」と定めている。
同項9号は,種類株主総会で取締役又は監査役を選任する役員選任権付種類株式である。

(続きを読む...)黄金株(拒否権付種類株式)の仕組みと実例―会社法108条1項8号・323条,INPEXの甲種類株式,USスチールの黄金株及び外為法の投資審査(AI作成)

実質株主確認制度と大量保有の通知義務違反による議決権の停止―部会資料16の修正案(有事・0.5%・故意重過失)と経済産業省の対案(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 二つの制度の骨格1 確認制度2 通知制度第3 確認制度の議決権の停止(部会資料16の修正)1 第15回会議の議論2 副次的な趣旨の追加3 議決権の停止の要件4 部会資料13からの主な変更点5 0.5%の閾値と分散保有6 指図権者の手続保障7 主張立証責任第4 通知制度の議決権の停止(部会資料16の修正)1 規律の要旨2 部会資料13からの主な変更点3 協調行動と決議取消し4 仮処分と誤った停止の救済第5 実質株主による代理出席と委任状の提出期限1 部会資料16の提案2 入場資格の確認3 委任状の提出期限に関する裁判例4 議決権の不統一行使の場合第6 経済産業省の対案(参考資料36)1 確認制度2 通知制度第7 実務者検討会の意見(参考資料34)第8 実務への影響(本記事の整理)1 上場会社2 投資家・指図権者3 仲介機関第9 関連記事と本記事の範囲1 関連記事2 本記事で扱わない事項第10 出典1 法令2 裁判例3 法制審議会の資料
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会は,令和8年9月30日の第18回会議で,部会資料16「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた補充的な検討」を審議した。
同資料の第1は,上場会社の実質株主確認制度について,①株式会社から仲介機関を通じて実質株主を確認する制度(以下「確認制度」という。)と,②株主側から株式会社に大量保有報告書等の提出を義務付ける制度(以下「通知制度」という。)の二つを取り上げ,それぞれの義務違反に対する議決権の停止の要件を修正している。

本記事は,令和8年10月4日を基準日として,部会資料16,同日に配布された参考資料34(全国銀行協会が事務局を務める実務者検討会の意見)及び参考資料36(経済産業省産業組織課の意見書),部会資料13,e-Gov法令検索で確認した現行の会社法・金融商品取引法並びに判例秘書で全文を確認した裁判例を基に,修正の内容と実務への影響を整理する。
部会資料は事務当局の検討資料であり,本文は「どのように考えるか」という問いの形で書かれているから,ここで紹介する規律は要綱案になっておらず,法律として成立していない。
第18回会議の議事録は,基準日の時点で「準備中」である。

2 結論

確認制度について,部会資料16は,制度の中核的な趣旨を「株式会社と株主との間の建設的な対話の促進」とした上で,副次的な趣旨として「有事の場面における株式会社の支配に関する重要な情報の把握」を加え,仲介機関の義務違反による議決権の停止を,株主提案や臨時株主総会の招集請求で役員の選解任等が付議される有事の株主総会に限り,違反株式が発行済株式の200分の1(0.5%)以上である場合に限って認める案を示した。

通知制度について,部会資料16は,議決権の停止の対象を故意又は重大な過失による違反に限定し,故意・重過失は議決権を停止した上場会社が主張立証責任を負うとした上で,株主総会の前に会社から議決権行使禁止の仮処分を申し立てることが促される設計であると説明している。

経済産業省は,議決権の停止を有事に限ると平時の透明性が確保されないとして,義務違反ではなく「指図権者を確認できない」という状態を基準とし,転送報告義務,確認未了通知及び指図権者の自己申告を組み合わせる対案を示している。

第2 二つの制度の骨格
1 確認制度

部会資料13で示された確認制度の基本的な規律(部会資料16は同じであるとして省略している。)は,次のとおりである。
① 上場会社は,仲介機関である名義株主に対し,その名義株主が有する株式についての直近下位仲介機関又は指図権者に係る情報の提供を請求できる。
② 請求を受けた仲介機関は,直近下位仲介機関があるときは法務省令で定める期間内に請求を受けた旨を通知(転送)し,上場会社に対し,直近下位仲介機関又は指図権者の氏名・名称,住所,確認対象株式の数等を提供しなければならない。
③ 上場会社は,名義株主又はその下位仲介機関が定めた費用を支払わなければならない。
④ 故意又は重大な過失により転送や情報提供をせず,又は虚偽の情報を提供した者は,過料に処される。

ここでいう「指図権者」は,仲介機関以外の者で,信託契約その他の契約又は法律の規定に基づき,仲介機関に対して議決権の行使について指図を行うことができる権限を有する者をいう。
「仲介機関」は,信託会社,銀行,金融商品取引業者等で,第三者のために株式の管理及び処分を業として行う者をいい,振替機関等は除かれる。

2 通知制度

通知制度は,金融商品取引法により大量保有報告書又は変更報告書(以下「大量保有・変更報告書」という。)を提出しなければならない者に,その提出期限までに,同じものを株券等の発行者である上場会社にも提出させる制度である(部会資料13の第2の2(1)から(4)まで)。
金融商品取引法27条の23第1項は,上場されている株券等の保有者で株券等保有割合が100分の5を超える者に,大量保有者となった日から5日(日曜日その他政令で定める休日の日数は算入しない。)以内の大量保有報告書の提出を求めている。
同条3項は,自己又は他人の名義で株券等を所有する者のほか,契約等に基づき議決権の行使について指図を行うことができる権限を有する者で発行者の事業活動を支配する目的を有する者や,投資一任契約等に基づき投資に必要な権限を有する者も保有者に含めている。

部会資料13の案では,金融商品取引法による内閣総理大臣への提出をもって上場会社への提出に代えることができるから,大量保有報告書を適法に提出していれば,通知制度上の義務も果たしたことになる。
したがって,通知制度で問題になるのは,大量保有・変更報告書を提出すべきなのに提出しない場合や,重要な事項に虚偽記載・記載漏れがある場合である。

第3 確認制度の議決権の停止(部会資料16の修正)
1 第15回会議の議論

部会資料13は,確認制度の趣旨を「株式会社と株主との間の建設的な対話の促進」に求めた上で,仲介機関が故意又は重大な過失により転送義務・情報提供義務に違反した場合に,上場会社の議決権停止通知から1か月を経過すると名義株主が確認対象株式について議決権を有しなくなる規律を問題提起していた。

(続きを読む...)実質株主確認制度と大量保有の通知義務違反による議決権の停止―部会資料16の修正案(有事・0.5%・故意重過失)と経済産業省の対案(AI作成)

業務執行事項の株主提案の制限と株主総会の招集請求の5%への引上げ―法制審議会部会資料16のA案・B案と第16回会議の議論(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 現行法の枠組み1 取締役会設置会社の株主総会の権限2 株主提案権の要件3 株主総会の招集請求と裁判所の許可4 裁判例第3 業務執行事項に係る定款変更議案の提出の制限1 経緯2 規律の趣旨の整理3 A案4 B案5 部会資料14の分類表6 第16回会議の議論7 参考資料35(株主提案の分析)8 経済産業省の意見9 実務上の注意(本記事の整理)第4 株主総会の招集請求権の要件の引上げ1 部会資料16の問い2 部会資料16が挙げる立法事実3 第16回会議の議論4 経済産業省の意見5 非公開会社への影響(本記事の整理)第5 今後の見通しと関連記事1 今後の見通し2 本記事で扱わない事項第6 出典1 法令2 裁判例3 法制審議会の資料

本記事は,法制審議会で検討中の株主提案と株主による招集請求の見直しを扱い,成立済みの現行法改正を説明するものではない。
現行法上の株主総会の基本は,株主総会とは―開催時期,出席できる人,決議事項,普通決議・特別決議及び手続(AI作成)で説明する。

第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会は,令和8年9月30日の第18回会議で,部会資料16「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた補充的な検討」を審議した。
同資料の第2は,株主提案権等に関する規律の見直しとして,①上場会社で業務執行事項に係る定款の変更に関する議案の提出を制限すること,②株主による株主総会の招集請求権の要件を議決権の100分の3以上から100分の5以上に引き上げることを取り上げている。

本記事は,令和8年10月4日を基準日として,部会資料16,同日に配布された参考資料35・36,同年7月22日の第16回会議の議事録,e-Gov法令検索で確認した現行の会社法及び判例秘書で全文を確認した裁判例を基に,二つの改正案の内容と実務への影響を整理する。
部会資料は事務当局の検討資料であり,本文は「どのように考えるか」という問いの形で書かれているから,改正案は要綱案になっておらず,法律として成立していない。
第18回会議の議事録は,基準日の時点で「準備中」であり,同会議での委員の発言内容は確認できない。

2 結論

業務執行事項の株主提案の制限について,部会資料16は,部会資料14の「提案をすることはできない」という形を改め,上場会社が取締役会の決議により議案を株主総会で取り上げないことができる形にした上で,法務省令で対象を限定列挙するA案と,社外取締役が過半数の上場会社に限り取締役会が業務執行の決定を委任している事項を対象とするB案を並べている。
規律の趣旨は,濫用的な提案への対応負担の軽減ではなく,業務執行に関する具体的な事項が定款に定められた場合に生ずる弊害の防止と整理された。

株主総会の招集請求権については,会社の負担の大きさ,会計帳簿の閲覧謄写請求や業務検査役の選任申立てとの比較,諸外国の水準及び大量保有報告書の提出基準(5%超)との関係を理由に,100分の3以上を100分の5以上に引き上げるかが問われている。
部会資料16の問いは上場会社に限定していないため,この形で立法されれば,同族会社などの非公開会社の少数株主にも影響する(本記事の読み方であり,部会資料はこの点に触れていない)。

いずれも現行法ではないから,現在の紛争は,会社法295条,297条,303条から305条まで及びこれらに関する裁判例によって処理することになる。

第2 現行法の枠組み
1 取締役会設置会社の株主総会の権限

株主総会は,会社法に規定する事項及び株式会社の組織,運営,管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる(会社法295条1項)。
もっとも,取締役会設置会社では,株主総会は,会社法に規定する事項及び定款で定めた事項に限り,決議をすることができる(同条2項)。

そのため,取締役会設置会社の株主が,特定の取引の中止や特定の委員会の設置のように取締役会が決める業務執行事項を株主総会で決めさせたいときは,その事項を定款に書き加える定款変更議案の形で提案することになる。
定款変更は株主総会の特別決議事項であり(会社法466条,309条2項11号),可決されれば,取締役は定款を遵守する義務を負う(会社法355条)。
部会資料16が問題にしているのは,この「定款変更の形式をとる業務執行事項に関する株主提案」である。

2 株主提案権の要件

取締役会設置会社では,株主が一定の事項を株主総会の目的とすることを請求する議題提案権(会社法303条2項)と,議案の要領を株主に通知することを請求する議案要領通知請求権(会社法305条1項ただし書)は,原則として,総株主の議決権の100分の1以上又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主に認められ,株主総会の日の8週間前までに行使する。
ただし,割合・個数・保有期間及び請求期限は,それぞれ定款で緩和できる(会社法303条2項,305条1項)。
公開会社でない取締役会設置会社では6か月の保有期間は要らない(会社法303条3項,305条2項)。
会社側・株主側とも,請求の可否と期限を判断する前に定款を確認する必要がある。

株主総会の場で議案を提出する議案提出権(会社法304条)には,これらの保有割合・個数・保有期間の要件はないが,当該株主が議決権を行使できる事項についての議案であることが必要である。
法令・定款に違反する議案や,実質的に同一の議案が総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない議案は提出できず,この賛成割合は定款で引き下げることができる(同条ただし書)。

(続きを読む...)業務執行事項の株主提案の制限と株主総会の招集請求の5%への引上げ―法制審議会部会資料16のA案・B案と第16回会議の議論(AI作成)

キックバックが疑われたときの会社の対応―証拠保全,損害額,取引先との交渉及び刑事告訴(AI作成)

目次第1 キックバックの疑いをどう整理するか1 呼び名から犯罪や損害額を決めない2 確認済みの事実と仮説を分ける第2 初動と証拠保全1 本人への照会より先に失われる資料を確認する2 取引と金銭の流れを突き合わせる第3 本人と関係者への聴取第4 会社の損害額と請求の根拠1 受領額,会社の支払額及び損害額2 誰に,どの根拠で請求するか3 マージンの支払があっても請求を認めなかった例4 仕入価格の水増しと会社の過大支払を認めた例5 架空・水増し請求の共同不法行為と過失相殺6 役員報酬の迂回送金と取引先の責任を分けた例7 4件の比較を調査計画に落とし込む第5 取引先との交渉と回収の保全1 情報協力の依頼と免責の約束2 仮差押えを検討する時期3 弁済又は和解を記録する第6 刑事相談と告訴1 構成要件と証拠を対応させる2 告訴の権限と民事回収との関係第7 処遇と再発防止第8 主な根拠資料と確認範囲
第1 キックバックの疑いをどう整理するか
1 呼び名から犯罪や損害額を決めない

取引先から従業員又は取締役に金銭等が渡っていたことが分かった場合,会社は,取引の公正さ,損害の回復,関係者の処遇及び刑事対応を検討することになる。
しかし,「キックバック」という呼び名だけでは,行為の違法性,犯罪の成立又は会社の損害額を判断できない。
誰が,いつ,誰に,どの取引に関連して,何を約束し,何を渡したのかを具体化することが出発点となる。

会社に帰属する値引き・リベートを担当者が自分のものにしたのか,取引先が担当者個人に便宜の対価を支払ったのか,架空の発注で会社の資金を流出させたのかによって,検討する請求や犯罪の構成は異なる。
金銭の流れ,会社の契約,担当者の権限及び実際の納品・役務を照合する必要がある。
本記事は,こうした確認から回収・刑事相談につなげる手順を整理するものである。

2 確認済みの事実と仮説を分ける

受領者,支払者,被害を受けた法人,対象期間,取引番号及び金額を整理し,それぞれについて根拠資料を付ける。
疑いの根拠だけでなく,本人や取引先の別の説明,通常の取引条件及び不正を否定する資料も残す。
グループ会社の取引であれば,どの法人に損害が生じ,どの法人が請求するかを最初に確認するべきである。

第2 初動と証拠保全
1 本人への照会より先に失われる資料を確認する

本人に一斉に質問したり,関係する端末を交換したりすると,データの消失や関係者間の口裏合わせにつながるおそれがある。
メール,チャット,会計データ,承認履歴,見積書,注文書,請求書,支払記録及び検収資料の所在と保存期限を先に確認する。
保全の対象,担当者,取得方法,取得日時及び保管場所を記録し,原本又は元データと調査用の複製を区別する。

証拠保全は,関係しそうなデータを無制限に集めることではない。
調査の目的,対象期間,対象者及び閲覧権限を定め,第三者の情報や事件と無関係な私生活の情報への配慮も必要になる。
会社の端末と私物のスマートフォン・アカウントを分けて扱い,私物に関する任意協力を求める場合は,対象と同意内容を具体化するべきである。

2 取引と金銭の流れを突き合わせる

注文と請求が一致するかだけでは,不正の有無は分からない。
価格を決めた経緯,相見積の有無,発注の必要性,実際の納品又は成果物,検収者及び支払承認者を確認し,外部の記録と照合する。
同じ取引先への集中,同じ担当者への権限の集中,短期間の価格上昇又は不自然な分割発注は,追加調査の端緒にはなるが,それだけで不正の証明にはならない。

取得できる範囲で,受領者側の入金日と金額,取引先側の出金又は経費処理,関連する連絡及び会社の支払を時系列で対応させる。
説明できない差額や空白期間を明示し,追加で必要な資料と,その資料を適法に取得できる方法を整理する。
電子データの取扱いは,USB型フォレンジックツールを労務管理で利用する場合の法的注意点も参照されたい。

第3 本人と関係者への聴取

関係者は原則として個別に聴取し,最初の説明を記録してから,不一致点を確認する。

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役員不正が発覚したときの処遇と責任追及―代表取締役の解職,取締役の解任,報酬返上及び損害賠償(AI作成)

目次第1 最初に分けて決めること1 不正の調査と役員の処遇2 決定前にそろえる資料第2 証拠保全と権限の管理1 調査対象者が調査を指揮する状態を避ける2 アクセス制限と代表権の変更を区別する第3 代表取締役の解職と取締役の解任1 代表取締役の解職2 取締役の解任第4 報酬返上と報酬変更1 報酬の決め方を確認する2 本人の同意なく確定した報酬をなくせるか3 従業員としての賃金がある場合第5 会社からの損害賠償請求1 任務懈怠,損害及び因果関係2 誰が会社を代表して請求するか3 回収と責任免除を分ける第6 決定を実行し,再発防止につなげる第7 主な根拠資料と確認範囲
第1 最初に分けて決めること
1 不正の調査と役員の処遇

取締役の不正が疑われたときは,証拠を保全し,事実を調べる作業と,権限・地位・報酬をどう扱うかを決める作業を並行して進めることになる。
しかし,「不正が疑われるから役員を処分する」という一つの判断だけでは,必要な手続を選べない。
代表取締役の地位を外すこと,取締役を解任すること,報酬を変更すること及び会社の損害を請求することには,それぞれ異なる根拠と手続がある。

本記事は,株式会社の取締役を中心に,通常の取締役会設置会社の手続を整理する。
取締役会を置かない会社,監査等委員会設置会社,指名委員会等設置会社では,代表者の選定・解職,報酬決定又は訴訟代表に関する規定が異なるため,会社の機関設計を先に確認する必要がある。
監査役,執行役,合同会社の業務執行社員等の処遇を,本記事の取締役の説明だけで決めることはできない。

2 決定前にそろえる資料

最初に確認すべきものは,登記事項証明書,定款,株主名簿,取締役会規程,役員報酬の決議・委任の資料及び本人との契約である。
これに,不正の疑いを支える資料,損害の計算資料,本人の説明と反証,取引先・金融機関への権限通知の必要性を加える。
誰がどの機関を招集し,誰が決議に参加でき,誰が会社を代表して交渉又は訴訟を行うのかを,議案ごとに整理しておくべきである。

第2 証拠保全と権限の管理
1 調査対象者が調査を指揮する状態を避ける

疑われた取締役が調査範囲,証拠の取得先又は報告先を決める立場にあると,調査の信頼性が損なわれるおそれがある。
調査を担当する取締役,監査役又は外部専門家の役割と報告経路を定め,疑いのある者から独立して資料を保全できる体制を検討する。
第三者委員会を設けるかどうかは,不正の範囲,経営陣の関与,社外への説明の必要性等によって判断するものであり,すべての不正事案で当然に必要になるわけではない。

第三者委員会の設置判断,独立性,調査範囲及び報告書公表については,企業不祥事の第三者委員会-設置判断,独立性,調査範囲及び報告書公表の実務で整理している。

公表された調査報告書の独立性,調査範囲,証拠,原因分析,再発防止策及び非公表部分の確認順序は,第三者委員会の調査報告書の読み方-独立性,調査範囲,証拠,原因分析及び再発防止策(AI作成)で詳しく整理している。

会社のメール,会計資料,承認履歴等については,自動削除,端末交換及び資料の廃棄予定を先に確認する。
取得者,日時,方法及び保管場所を記録し,原本と調査用の複製を区別する。
具体的な初動と聴取の進め方は,社内で窃盗・横領が疑われたときの社内調査を参照されたい。

2 アクセス制限と代表権の変更を区別する

システムへのアクセスや社内の承認権限を制限しても,それだけで会社法上の代表権がなくなるわけではない。
会社法349条5項は,代表取締役の代表権に加えた制限を善意の第三者に対抗できないとしている。
また,会社が取締役に社長等の名称を付した場合の表見代表取締役については,同法354条にも注意を要する。

したがって,社内の権限管理に加え,代表者の選定・解職の手続,変更登記,取引先・金融機関への通知及び従前の肩書・署名権限の表示を整合させる必要がある。
特定の取引を止める必要がある場合には,社内通知だけで目的が達成できるかを確認し,必要に応じて裁判上の保全も個別に検討する。

第3 代表取締役の解職と取締役の解任

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代表取締役の死亡後に誰が会社を代表するのか―後継者選任,不実登記と無断契約への対応(AI作成)

目次第1 代表取締役の死亡と会社の代表権第2 後継者を選ぶ前に確認する事項1 株式の相続と役員の地位を区別する2 取締役会設置会社とそれ以外の会社3 死亡と権利義務役員の制度第3 不実の代表者登記と最高裁昭和55年9月11日判決1 判決で問題となった事案2 登記を信じたことだけで結論を出さない第4 代表権の不存在と社内承認の欠缺は別の問題である1 実際の代表者による契約2 代表者らしい名称を会社が付与した場合第5 会社側が死亡後に進める確認と対応1 代表権と株主権を確認できる資料を集める2 印章・口座・電子的な権限を管理する3 登記と契約対応を別々に進める第6 取引相手が確認すべき事項第7 関連記事と一次資料1 関連記事2 法令・判例の確認範囲
第1 代表取締役の死亡と会社の代表権

代表取締役が死亡した場合,会社の株式を相続した人が,そのまま会社の代表者になるわけではない。
まず,会社の機関構成,定款,取締役及び代表取締役の選任・選定状況を確認し,現在誰が会社を代表できるかを確定する必要がある。
登記簿に代表者の名前が残っていることや,会社の実印を所持していることだけで,死亡後の代表権が生じるものでもない。

本記事は,取締役が会社を代表する通常の株式会社を対象とする。
指名委員会等設置会社の代表執行役や,特例有限会社固有の取扱いは対象に含めない。
以下の法令・判例の確認日は令和8年10月3日である。

第2 後継者を選ぶ前に確認する事項
1 株式の相続と役員の地位を区別する

株式の相続は株主の地位に関する問題であり,取締役の地位や代表権の相続ではない。
相続人が取締役になるには,原則として株主総会での選任が必要である(会社法329条1項)。
代表者になるには,さらに会社の機関構成と定款に応じた手続が必要となる。

遺産分割前に株式が準共有となっている場合は,株主総会で誰が議決権を行使できるかも別途確認する。
準共有株式の権利行使者の指定・通知と,会社を代表して契約を締結する権限とは,それぞれ別の問題である。
この点は,相続した非公開会社株式の議決権行使を参照されたい。

2 取締役会設置会社とそれ以外の会社

取締役会設置会社では,取締役会が取締役の中から代表取締役を選定する(会社法362条2項3号・3項)。
代表取締役が死亡しても,他の取締役が当然に代表取締役になるわけではない。
別の代表取締役が在任しているか,取締役会を適法に開催できるか,取締役の欠員補充を要するかを順に確認する。

取締役会を設置していない会社では,各取締役が会社を代表することを基本とし,定款,定款に基づく取締役の互選又は株主総会決議によって代表取締役を定めることができる(会社法349条1項から3項まで)。
したがって,「代表取締役が死亡したから,会社には必ず代表者がいなくなる」とも,「残った取締役なら誰でも当然に代表できる」とも,一律には判断できない。
当該会社の定款,機関構成,従前の代表者選定の内容及び他の取締役の在任状況に即して検討する。

3 死亡と権利義務役員の制度

会社法346条1項の権利義務取締役及び351条1項の権利義務代表取締役は,任期満了又は辞任により退任した役員が,一定の場合に後任の就任まで権利義務を継続する制度である。
死亡はこれらの継続事由に含まれない。
死亡した代表取締役本人やその相続人が,同制度によって会社の代表権を維持・取得するという処理はできない。

役員又は代表者の不足により必要がある場合には,利害関係人の申立てにより,裁判所が一時役員又は一時代表取締役の職務を行う者を選任する制度がある(会社法346条2項,351条2項)。
どちらの申立てが必要かは,取締役と代表取締役のいずれが不足しているかによって異なる。
契約期限,給与・税金の支払,訴訟対応などの支障を整理し,通常の選任・選定手続で解消できるかを含めて検討する。

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株価が下がったとき株主は取締役に請求できるか―会社損害,株主固有の損害及び株主代表訴訟(AI作成)

目次第1 株価下落だけでは請求の根拠は決まらない第2 会社の損害は会社に回復させる1 会社法423条と株主代表訴訟2 提訴請求,保有期間及び待機期間第3 会社損害を反映した株価下落と直接請求の限界1 東京高裁平成17年1月18日判決2 最高裁の第三者責任の一般論との関係第4 不公正な増資による希薄化は別に検討する1 会社財産の減少と株主間の価値移転は同じではない2 株主本人の請求と会社への回復を分ける第5 損害と因果関係を立証する資料第6 出典と本記事の調査範囲
第1 株価下落だけでは請求の根拠は決まらない

取締役の行為を原因として株価が下がったと考える場合でも,株主本人に賠償金を支払うよう求める訴えと,会社に賠償金を支払うよう求める株主代表訴訟は,根拠も回復対象も異なる。
会社の資産が減った結果として保有株式の価値が下がったのか,不公正な増資によって既存株主から引受人へ経済的利益が移ったのか,虚偽の説明を信じて株式を買ったのかを分ける必要がある。
「株価が下がった」という結果だけで,会社法429条により株主本人への支払を請求できるとはいえない。

本記事は,令和8年10月3日現在の会社法を基準に,会社への任務懈怠責任と株主固有の損害の整理を説明する。
金融商品取引法上の虚偽記載責任,株式買取価格の決定及び税務上の株式評価は,それぞれ別の制度として検討を要する。

第2 会社の損害は会社に回復させる
1 会社法423条と株主代表訴訟

取締役が任務を怠ったことにより会社に損害が生じたときは,取締役は会社に賠償する責任を負う(会社法423条1項)。
例えば,会社が必要性のない資産を不相当に高い価格で買い,会社財産が減少した場合は,まず会社の損害と任務懈怠を検討する。
個々の株主が保有株式の価値を失ったことと,会社が支出した損害額を混同してはならない。
価格の相当性と証拠は,取締役が会社に不相当な価格で資産を買わせた場合で扱っている。

会社が責任を追及しない場合は,株主は会社法847条の株主代表訴訟を検討する。
株主が原告となるが,会社のために責任を追及するのであり,請求する金銭の支払先は原告株主個人ではない。
会社への賠償が実現すれば会社財産が回復するが,市場環境やその後の経営によって株価が変動するため,株価が同額だけ上がることまで保証される制度ではない。

2 提訴請求,保有期間及び待機期間

公開会社では原則として6か月前から引き続き株式を有する株主が,会社に書面等で提訴を請求する(会社法847条1項)。
定款で保有期間を短縮でき,非公開会社には6か月の保有期間の制限が適用されない(同条2項)。
会社が請求日から60日以内に訴えを提起しないときは,請求した株主が会社のために提訴できる(同条3項)。
待機によって会社に回復できない損害が生じるおそれがある場合は,所定の株主が直ちに提訴できる例外もある(同条5項)。

原告株主又は第三者の不正な利益を図る目的,あるいは会社に損害を加える目的の訴えは認められない。
この二つは「又は」で結ばれた要件であり,両方の目的がそろわなければ制限されないという意味ではない。
代表訴訟を検討するときは,株主資格,提訴請求の到達,会社が提訴しない理由,時効及び請求の支払先を併せて確認する。

第3 会社損害を反映した株価下落と直接請求の限界
1 東京高裁平成17年1月18日判決

東京高裁平成17年1月18日判決(平成16年(ネ)第3563号,金融・商事判例1209号10頁,判例秘書L06020002)は,不祥事で業績が悪化し,解散によって保有株式が無価値となった上場会社の株主が,取締役等に本人への賠償を求めた事案である。
同判決は,取締役の過失による業績悪化で全株主が平等に不利益を受けた場合,特段の事情がない限り,株主代表訴訟によるべきであり,旧商法266条ノ3又は民法709条による株主への直接賠償は認められないとした。

理由として,会社への回復と株主の損害の関係,二重の責任,会社債権者に先んじる株主の回収及び株主間の不平等などを挙げている。
一方,判決の一般論では,株式の処分が容易でない閉鎖会社で,違法行為をした取締役と支配株主が一体となり,代表訴訟による救済が実質的に期待できない場合を,特段の事情がある例として述べた。

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安すぎる第三者割当増資への株主の対応―有利発行の特別決議,差止め,発行無効及び引受人・取締役の責任(AI作成)

目次第1 発行前か発行後かを最初に確認する第2 有利発行には株主総会の特別決議が必要になる1 公開会社と非公開会社の違い2 支配株主の異動に関する承認との違い第3 「安すぎる」かは発行当時の資料で判断する第4 発行前は差止めと仮処分を検討する第5 発行後の無効の訴えには短い期限がある1 公開会社6か月,非公開会社1年2 有利発行の手続違反があれば常に無効になるわけではない第6 引受人・取締役への金銭請求と支払先1 引受人に会社への差額支払を求める責任2 取締役の会社への責任と株主本人への責任第7 相談時に用意する資料と出典
第1 発行前か発行後かを最初に確認する

第三者割当増資により,既存株主の議決権の割合と,保有株式1株当たりの経済的価値が低下することがある。
ただし,持株比率が下がることと,違法な発行によって経済的損害を受けることは同じではない。
公正な払込金額で行う資金調達でも持株比率は下がるため,価格,発行数,目的及び手続を分けて検討する。

株主が対応を考えるときは,①払込期日又は払込期間と実際の払込日,②定款の譲渡制限,③募集事項を決めた機関と決議内容,④株主への通知・公告,⑤発行価額の算定資料を確保する。
発行前であれば差止め,発行後であれば発行無効の訴えと金銭請求が中心となり,手段によって相手方,期限及び支払先が異なる。
本記事は,令和8年10月3日現在の会社法のうち,金銭出資による普通株式の第三者割当てを主な対象とする。
株主割当て,種類株式,自己株式の処分,新株予約権及び金融商品取引法上の開示には別の検討も必要である。

第2 有利発行には株主総会の特別決議が必要になる
1 公開会社と非公開会社の違い

会社法上の公開会社は,上場会社という意味ではない。
発行する全部又は一部の株式について,譲渡による取得に会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社である(会社法2条5号)。
非上場会社でも公開会社であることがあるから,登記事項と定款を確認する。

公開会社では,原則として取締役会が募集事項を決定するが,引受人に特に有利な払込金額の場合はこの特則が適用されない(会社法201条1項)。
有利発行の募集事項は株主総会の特別決議で定め,取締役はその金額で募集する必要がある理由を説明しなければならない(会社法199条2項・3項,309条2項5号)。
非公開会社の第三者割当ては原則として株主総会の特別決議によるが,会社法200条による募集事項決定の委任が適法にされている場合は,委任の内容・有効期間も確認する。

2 支配株主の異動に関する承認との違い

特定の引受人が発行後の総株主の議決権の過半数を持つことになる公開会社の第三者割当てには,会社法206条の2の通知と,所定の反対通知があった場合の承認手続も問題になる。
この承認決議は,有利発行の特別決議とは別のものである。
同条4項ただし書の緊急性の例外は同条の承認手続に関する例外であり,有利発行の特別決議まで不要にする規定ではない。
詳しくは,支配株主が変わる第三者割当てを参照されたい。

第3 「安すぎる」かは発行当時の資料で判断する

有利発行に当たるかの判断では,発行当時の株式価値,資金調達の条件,価格決定の過程及び発行の必要性を検討する。
非上場株式については,純資産,収益,配当,類似会社,直近の取引など,採用する評価方法によって金額が異なり得る。
税務上の評価額が,会社法上も当然に唯一の公正な価額になるわけではない。

最高裁平成27年2月19日判決(平成25年(受)第1080号)は,非上場会社の有利発行を理由とする株主代表訴訟について,発行当時の客観的資料に基づく一応合理的な算定方法で価額が決められていた場合,特別の事情のない限り,旧商法の有利発行に当たらないとした。
同判決は,後から別の評価方法や予測値で計算し直した金額だけで有利発行とすることを否定している。
したがって,株主側は算定結果だけでなく,資料の欠落,前提の誤り,評価方法の不合理性又は算定後の重大な事情変更を具体的に示す必要がある。
会社側も,専門家の意見書を取得した事実だけで済ませず,提供資料,算定基準日,採用・不採用の方法とその理由を残しておくことが重要である。

(続きを読む...)安すぎる第三者割当増資への株主の対応―有利発行の特別決議,差止め,発行無効及び引受人・取締役の責任(AI作成)

名板貸の許諾撤回・営業主交替後に何を止め、誰に知らせるか―名義人の実務対応(AI作成)

目次第1 問題を「撤回日」と「取引時の外観」に分ける第2 裁判例から分かること1 撤回を告げても主要な外観が残れば責任が問題になる2 営業主交替と取引先への表示を時系列で調べる3 相手方が誰を営業主と信じたかが不可欠である第3 名義人が取る手順1 許諾と終了の対象を特定する2 使用の停止と外観の除去を記録する3 取引先への通知は接触資料に合わせる4 事業譲渡の別の責任と混ぜない第4 取引先・代理人の確認事項第5 出典と調査の限界
第1 問題を「撤回日」と「取引時の外観」に分ける

自己の商号を他人の営業に使わせた者の責任は、現行の商法14条及び会社法9条に定められる。平成18年会社法施行前の旧商法23条は「氏、氏名又ハ商号」を対象としていた。個人名やブランドを貸した事案に現行の両条を用いるときは、商号としての使用か、外観についての類推適用が問題になるかを別に検討する。
許諾の撤回又は営業主の交替後に生じた債務については、終了の合意書の日付だけでは足りない。取引時に誰の営業に見えたか、その外観を名義人が作り、又は存続させたか、債権者が誰を営業主と理解したかを確かめる。本記事は令和8年10月3日現在に確認できた法令と下記判決の範囲で、実務上の確認手順を示す。

第2 裁判例から分かること
1 撤回を告げても主要な外観が残れば責任が問題になる

東京地裁平成7年4月28日判決(平成6年(ワ)第7519号、判時1559号135頁、判例秘書L05030146)は、名刺・ゴム印を回収し、肩書使用を禁じて営業所から退去させた後の取引を扱う。名義人が、同じビルの別階で従前の名義による営業が続いていることを知りながら、基本的な外観を残した事情の下で、旧商法23条の責任を認めた。使用禁止の意思表示や一部物品の回収だけで、常に責任が消えるという判決ではない。判例秘書掲載の判決本文を確認したが、裁判所サイトの公開本文は確認できていない。

2 営業主交替と取引先への表示を時系列で調べる

大阪地裁昭和56年3月18日判決(昭和54年(ワ)第5278号、金商622号39頁、判例秘書L03650134)は、営業譲渡後も同じ場所・従業員・営業名で発注や納品が続き、取引先への交替通知が遅れた事案で、旧営業主の名板貸責任を認めた。ただし、譲渡前に供給契約が成立した余地にも言及している。譲渡後の債務と断定して一般化せず、発注、契約成立、納品及び請求の各日を照合する必要がある。判例秘書掲載の判決本文を確認したが、裁判所サイトの公開本文は確認できていない。

大阪地裁昭和46年5月27日判決(昭和45年(手ワ)第551号ほか、判タ266号264頁、判例秘書L02650416)は、旧営業主が経営から排除された後も氏名・届出印による手形取引が続くことを知り、取引先への交替周知もしなかった事情から、黙示の使用承認を認めた。判例秘書で確認した表示は判決理由中心の抄録であり、判決全文を確認したものではない。裁判所サイトの公開本文も確認できていない。

3 相手方が誰を営業主と信じたかが不可欠である

東京地裁平成15年10月9日判決(平成14年(ワ)第27281号、判例秘書L05834154)は、共同営業から退いた被告について、広告業者が研究所を会社組織、被告をその代表者と考えており、被告個人を営業主と信じていなかったことから名板貸責任を否定した。営業主交替後に旧名義が現れたという事情だけで、取引相手の誤認を飛ばしてはならない。判例秘書掲載の判決本文を確認したが、裁判所サイトの公開本文は確認できていない。

最高裁平成7年11月30日判決(民集49巻9号2972頁)は、テナントが営業していても、施設運営者が自己の営業の一部門であるような外観の作出に関与した場合に旧商法23条の類推適用を問題にし、破棄差戻しとした。営業譲渡の事案ではないが、名義の直接使用許諾がない場合にも、名義人側の外観への関与を独立に調べる根拠となる。

第3 名義人が取る手順
1 許諾と終了の対象を特定する

契約書、再許諾条項、対象店舗、許された名称・肩書・媒体、終了日及び営業主交替日を確定する。旧債務、交替後の新債務、取引継続中の債務を分ける。旧法時代の取引には当時の条文を用いる。

2 使用の停止と外観の除去を記録する

旧使用者と新営業主の双方へ、看板、名刺、印章、契約書式、領収書、ウェブサイト、SNS、電話案内等の使用停止と訂正を具体的に求める。名義人が管理できる表示は自ら改め、第三者管理の媒体は運営者に訂正を依頼する。撤去前後の写真、画面保存、通知の到達記録を残す。撤去を求めた事実と、実際に外観が消えた事実は別々に証明する。

3 取引先への通知は接触資料に合わせる

継続的な仕入先、金融機関、顧客など、旧表示に接した可能性のある相手を特定し、営業主が誰に変わったか、名義人が新営業主の取引を引き受ける意思の有無を正確に伝える。契約締結前後の相手方の認識に関わるため、通知先、内容、送信日、到達日及び相手の返答を保存する。通知だけで全取引先について一律に免責されるわけではなく、残る看板や書式との矛盾も点検する。

4 事業譲渡の別の責任と混ぜない

営業譲受人が譲渡人の旧債務を負うかは、商法17条又は会社法22条の商号続用等の問題である。名義人が譲受人の新債務を負うかとは、債務者と判断時点が異なる。関連記事「個人名・屋号を貸した後の事業譲渡」及び「事業譲渡で残存債権者は譲受会社に請求できるか」も参照されたい。

関連する平成15年度旧司法試験の問題文・出題趣旨・模範答案は、平成15年度旧司法試験論文式試験の模範答案―憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法の全12問と出題趣旨を踏まえた解説に掲載している。

第4 取引先・代理人の確認事項

① 債権ごとの発生日、契約相手、発注者、請求書宛名及び支払口座。
② 交替の前後に相手方が実際に見た看板、広告、名刺、ウェブ画面及び通知。
③ 名義人が旧使用者又は新営業主へ何を許し、撤回後に何を知り、いつ是正したか。
④ 相手方が名義人自身を営業主と信じたか、別法人の代表者と理解したか。
⑤ 事業譲渡契約の効力発生、旧債務の引受け、商号・屋号続用及び免責通知。

記録の欠落を相手方の誤認や名義人の許諾の立証に置き換えない。各債権者が接した資料と認識を個別に調べる。

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個人名・屋号を貸した後の事業譲渡―名板貸人は譲受人の債務まで負うか(AI作成)

目次第1 誰の、いつの債務かを先に確定する第2 旧商法と現行法で条文の対象が違う第3 最初の営業者への名義使用許諾第4 事業譲渡後の使用は改めて判断する第5 旧債務と新債務を混同しない第6 実務で収集する資料第7 名義人・譲受人が備えるべきこと第8 参照した一次資料と判断の範囲

名義を貸した相手が事業を第三者に譲り渡し、その第三者も同じ名前で取引を始めたとき、名義人はどこまで責任を負うのか。最初の使用許諾と譲渡後の使用を分けて判断する。以下は令和8年10月2日現在の法令に基づく整理である。平成15年度司法試験商法第2問のような旧法事案には、出題当時の条文を適用する。

第1 誰の、いつの債務かを先に確定する

甲がAに名称の使用を認め、AがBに事業を譲渡した場合、①甲とAの名義使用、②甲とBの名義使用、③AとBの事業譲渡という三つの関係がある。Aと取引したCの債権、譲渡後にBと取引したDの債権は、成立時期も責任根拠も異なる。

BがAの債務を負うかは、事業譲渡契約、商号続用、債務引受広告などの問題である。甲がBの新しい債務を負うかは、Bによる名義使用を甲に帰属させられるかという別の問題である。事業譲渡の事実だけで、甲のAへの許諾が当然にBへ移るわけではない。

第2 旧商法と現行法で条文の対象が違う

平成15年当時の旧商法23条は、自己の「氏、氏名又ハ商号」を他人に使用させて営業を行うことを許諾した者の責任を定めていた。著名人が個人名を貸した設例では、この文言が出発点となる。

現行の商法14条と会社法9条の文言は「自己の商号」である。単なる個人名やブランド名を貸しただけで、現行の両条を当然に直接適用できると書くのは正確でない。個人名を商号として用いているか、名義人自身が誤認を生む外観の作出に関与したかを個別に検討する。旧法の結論を現行法にそのまま移さない。

第3 最初の営業者への名義使用許諾

名板貸人の責任を検討するには、名義人がAによる営業上の使用を許諾した範囲、顧客から見た営業主体の表示、相手方の誤認を確認する。書面契約だけでなく、看板、広告、契約書、領収書、ウェブサイト、名義人の発言や関与も重要である。

名前が商品や店の品質を示すだけなのか、それとも甲自身が営業するように見せるものなのかを分ける。裁判所公開の平成15年2月28日判決では、ゴルフクラブの表示だけで結論を出さず、入会案内、通知、振込先、領収書に実際の契約主体が明示されていたことなどが検討された。個々の表示が誰を営業主体と示していたかが要点である。

第4 事業譲渡後の使用は改めて判断する

Aへの許諾があっても、Bがその許諾の相手方になるとは限らない。甲がBへの譲渡を承認したか、譲渡後の名称使用を明示又は黙示に認めたか、広告・開店・取引に関与したかを時系列で確かめる。単にBの使用を知らず、差止めをしていないだけで、黙示の許諾が成立したと即断してはならない。

逆に、甲が譲渡を知り、Bを自ら紹介し、甲の名を冠した新店舗の広告や取引書類を承認したなどの事情があれば、Aへの当初の許諾とは別に、Bとの関係で責任の基礎となるかを検討する。名義使用許諾が立証できない場合も、甲が営業主体について誤認を招く外観を自ら作ったかという問題は残る。ただし、外観への関与と第三者の誤認を具体的な証拠で示す必要がある。

営業者交替後の新債務を扱った大阪地裁昭和56年3月18日判決(昭和54年(ワ)第5278号、金商622号39頁、判例秘書L03650134)は、旧営業主が営業譲渡後も同じ場所・従業員・営業名による取引を続けさせ、取引先への通知が遅れた事情から旧商法23条の責任を認めた。ただし、判決は譲渡前に供給契約が成立した余地にも言及する。名義人・旧営業主と譲受人との関係、契約成立日を事案ごとに調べる必要がある。

東京地裁昭和62年4月30日判決(昭和59年(ワ)第12999号ほか、判時1266号31頁、判例秘書L04230148)は、店舗賃貸後に従前の看板・従業員を続用させた事案で黙示の名称使用許諾を認めた。反対に、東京地裁平成15年10月9日判決(平成14年(ワ)第27281号、判例秘書L05834154)は、相手方が被告個人を営業主と信じていなかったため名板貸責任を否定した。いずれも最初の名板借人から別人への典型的な三者間事業譲渡ではなく、許諾と誤認を個別に吟味する参考例である。

第5 旧債務と新債務を混同しない

Aと取引したCが甲に請求する場合、Cの取引時点で甲の名義がどう使われ、甲が何を許し、Cが誰を営業主体と理解したかを調べる。譲渡後にBと取引したDが甲に請求する場合は、Bの取引時点での甲の許諾又は外観作出への関与を別途立証する必要がある。Cに対する責任を認めることと、Dに対する責任を認めることは同義ではない。

一方、CがBにAの旧債務を請求する場合は、会社法22条、商法17条の商号続用責任や債務引受広告を検討する。商号以外の屋号や名称でも、それが営業主体を表示する機能を持つ場合には類推適用が争点となり得る。

最高裁平成16年2月20日判決は、ゴルフクラブ名の続用について、会員が同一主体による営業継続、又は主体は変わっても旧債務を引き受けたと信じることが無理からぬ場合を示し、譲受人が譲受後遅滞なく会員の施設優先利用を拒否したなどの特段の事情を検討させた。この判決は平成15年度試験の出題後のものであり、当時の判例として扱わない。

商号とは異なる屋号・ブランドの続用と,営業主体を示す表示の機能,判例の射程及び確認する資料は,事業譲渡で屋号・ブランドを続用すると旧債務を負うかで整理している。
同記事が扱う譲受会社への旧債務請求と,本記事で扱う名義人への請求は,責任を負う者を区別して読む必要がある。

第6 実務で収集する資料

① 名称使用契約の原本、許諾範囲、譲渡・再許諾の条項
② AからBへの譲渡契約、効力発生日、甲への通知と回答
③ 譲渡前後の看板、広告、ウェブ画面、SNS、ドメイン、電話番号
④ C・Dそれぞれの契約書、請求書、領収書、振込先
⑤ 誰が店舗を運営すると説明したかを示すメール、案内、録音
⑥ 甲が名称使用を承認、宣伝、抗議又は中止要求した日時と記録
⑦ 債権者が当該表示をいつ見て、誰を営業主体と理解したかの資料

取引相手の誤認や、その認識に著しい落ち度があったかは、実際に相手方が接した資料に即して判断する。看板やウェブ画面の存在だけで誤認を推定せず、契約書や振込先に記載された主体との整合も調べる。

第7 名義人・譲受人が備えるべきこと

名義使用契約には、許諾する名称、用途、対象店舗、期間、事業譲渡時の扱い、再許諾の可否、表示の事前承認、終了後の撤去・周知を具体的に定める。譲渡時には、甲がBの使用を認めるかを改めて書面化する。認めない場合は、Bへの中止要求と、取引先に対する営業主体の明確な告知を検討する。

Bは、名称を続用する前に、甲の許諾、Aの旧債務、顧客・取引先への表示を調査する。営業主体の変更と旧債務の扱いを契約書、ウェブサイト、店頭表示、顧客通知で矛盾なく伝える。商号続用については法定の登記・通知の要件と時期も確認する。事業譲渡に伴う旧債権者の請求については、関連記事「事業譲渡で残存債権者は譲受会社に請求できるか」も参照されたい。

名義使用の許諾を撤回した後の表示撤去、営業主交替の通知と証拠保存については、関連記事「名板貸の許諾撤回・営業主交替後に何を止め、誰に知らせるか」で扱う。

関連する平成15年度旧司法試験の問題文・出題趣旨・模範答案は、平成15年度旧司法試験論文式試験の模範答案―憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法の全12問と出題趣旨を踏まえた解説に掲載している。

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取締役の競業取引を承認し損害を立証する実務――取締役会議事録・取引台帳・会社法423条2項(AI作成)

目次第1 兼任の承認と取引の承認を分ける第2 承認前に特定する取引1 会社の現実の事業と兼任先の取引を照合する2 在任期間と取引時期を確定する第3 取締役会に提出する資料と議事録1 重要な事実を具体化する2 議事録の記載例は事実に合わせる第4 損害賠償請求の組み立て1 請求原因と423条2項の位置付け2 顧客別・期間別に利益を計算する第5 相談時の確認順序と別論点第6 出典と調査範囲
第1 兼任の承認と取引の承認を分ける

取締役が競合会社の代表者を兼ねる場合,会社がその兼任を知っていたという事実だけで,兼任先の具体的な競業取引を承認したとはいえない。会社法356条1項1号は,取締役が自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき,その取引の重要な事実を開示して承認を受けることを求める。取締役会設置会社の承認機関は取締役会であり,取引後には重要な事実の報告も必要となる(365条)。

実務では,①誰がいつまで取締役であったか,②どの会社のために,誰と,何を取引したか,③承認の対象と範囲,④取引後の報告,⑤当該取引から得た利益を,別々の資料で確認する。本記事は令和8年10月2日時点の裁判所公開資料と判例秘書で確認した判決本文を基に,承認の準備と損害賠償請求の立証を扱う。兼任と競業取引の基本的な区別は関連記事で整理した。

第2 承認前に特定する取引
1 会社の現実の事業と兼任先の取引を照合する

定款の事業目的や兼任先への就任だけで結論を出さない。会社が現に扱う商品・役務,顧客,地域,時期と,兼任先が行おうとする取引を対比する。取締役が競合会社を代表して顧客と契約する場合も,兼任先のためにする取引として356条1項1号の対象となり得る。

大阪地裁令和5年4月17日判決25~27頁は,兼任先の請求書データの作成時期,振込先,取引相手の回答等を吟味し,在任中の契約締結も取引の申出も認めなかった。単なる兼任や営業上の接触から売買契約が成立したと推認しない。他方,勧誘の態様により秘密情報の持出し等が別途問題となり得る。同判決があらゆる勧誘を適法としたわけではない。

2 在任期間と取引時期を確定する

登記,選任・辞任に関する議事録,辞任届,会社との合意,報酬の終了日及び顧客別の契約日を1本の時系列に置く。大阪地裁令和7年4月24日判決47~49頁は,勤務と報酬が先に終わっていても,合意された辞任日までは取締役の義務が続くと判断した。同判決56~58頁は,在任中に始まった取引とこれに連続する退任後の取引について,因果関係が及ぶ期間を令和2年6月30日までと認定した。退任後の売上を一律に除外することも,全期間を算入することもできない。

第3 取締役会に提出する資料と議事録
1 重要な事実を具体化する

承認議案には,兼任先の商号・事業,対象の商品・役務,予定する顧客又は顧客群,地域,期間,価格決定の方法,原会社との競合の程度を記載する。取引が継続するなら,取引の類型と上限,条件が大きく変わった際の再審議の方法も示す。抽象的に「兼任を了承する」と記録するだけでは,後に問題となる取引が決議の範囲内か検証しにくい。これらは紛争予防のための記載事項の提案であり,会社法が一律の議事録文言を定めたという意味ではない。

当該取締役が決議について特別の利害関係を有するかを検討し,該当するときは議決に加えない(369条2項)。兼任の事実だけで個々の議案についての結論を決めず,兼任先での地位と当該取引の利益を記録する。取締役会非設置会社では,356条1項の承認機関は株主総会である。

東京地裁令和5年6月29日判決(令和3年(ワ)第7256号・第8178号,判例秘書L07832687)第3の2は,競業・利益相反取引の承認は原則として取引ごとに必要であり,同種同型の取引を反復継続する場合には合理的な限度を定めた包括承認が可能である一方,限度のない抽象的・概括的な承認は許されないとした。争われたのは,代表者が自己の支配する会社へ,方法を問わず利益を移せるとの合意であり,裁判所はそのような合意の存在も認めなかった。継続取引の承認をすべて否定した判決ではない。

東京地裁令和6年11月13日判決(令和2年(ワ)第15957号・第32403号・第32498号,判例秘書L07932270)は,両社の代表取締役を兼ねる者について,代表取締役への就任と競業行為を認める決議があっても,事業譲渡まで承認したものではないと判断した。また,ライセンス契約を追認する決議とは別に,不要なロイヤルティ負担や不正確な説明による任務懈怠を検討した。競業の承認と,貸付け・ライセンス・知的財産の移転等の利益相反取引の承認を,同じ議案に曖昧にまとめない。

承認の有無は議事録だけで機械的に判断しない。東京地裁令和6年1月31日判決(令和4年(ワ)第11964号,判例秘書L07930305)第3の3は,取締役会非設置会社で,無報酬の取締役が従前の個人事業を会社の設備で続けることにつき,連絡役への具体的な相談,供述の信用性,一人株主側が異議を述べなかった事情等から,一人株主の了承を認めた。単なる沈黙が常に承認になるという判断ではない。反対に,東京地裁令和7年3月13日判決(令和元年(ワ)第31100号・令和2年(ワ)第10745号・令和3年(ワ)第27359号,判例秘書L08030637)第3の3は,以前の出版活動を容認していたこと等から,会社の顧客を別の一般社団法人へ移す将来の取引まで一括して了承していたとは認めなかった。同事件の兼任先は一般社団法人であり,競合株式会社の代表取締役兼任の事例そのものではない。

2 議事録の記載例は事実に合わせる

例えば「取締役BはC社の代表取締役として,令和○年○月から○月まで,○地域で○商品を○顧客群へ販売する予定である。Bは予定取引の内容,価格条件及び当社事業との競合について資料○を示した。取締役会は,取引先・商品・期間及び金額上限○円を資料○で特定した範囲の取引を承認した。新規顧客群の追加,商品・期間・上限の変更は改めて審議する。原会社との貸付け,ライセンス又は事業・権利の移転は,本議案の承認対象に含めない」と記録し,実際に提出した資料を特定することが考えられる。決議への参加者,特別利害関係の判断,条件変更時の扱いも個別事情に応じて記録する。これは記載の発想を示す例であり,この文面だけで承認が有効になるとの保証ではない。

取引後は,365条2項に基づき,実際の相手方,契約日,売上・費用及び当初予定からの変更を報告する。承認を得た取引でも,会社への情報提供や善管注意義務が当然に免除されるわけではない。後者は東京地裁民事第8部の訴状記載例の注記にも示されているが,これは判決ではない。

第4 損害賠償請求の組み立て
1 請求原因と423条2項の位置付け

会社は,取締役の在任,会社の現実の事業,対象となる競業取引,必要な承認の欠如,損害を取引ごとに特定する。東京地裁民事第8部の訴状記載例10~13頁も,承認を得ていないことと,取締役又は競業会社がその取引によって得た利益を分けて記載する。

356条1項に違反して同項1号の取引をしたときは,その取引によって取締役又は第三者が得た利益の額が,会社の損害額と推定される(423条2項)。推定の対象は取引から得た「利益」であり,兼任先の総売上そのものではない。取引が認定されない場合や,在任期間外の取引について,同項による計算へ直ちに進むことはできない。

2 顧客別・期間別に利益を計算する

会社側は,契約書,見積り・発注書,請求書,入金記録,納品・役務提供記録,顧客との通信及び兼任先の会計資料を対応付ける。請求書データの作成履歴や取引先の回答も確認する。取締役側は,承認議事録,事後報告,対象外の顧客・期間の売上,取引に対応する費用を区分する。売上減少を主張する場合も,それが当該取引によるかを別途検討する。

大阪地裁令和7年4月24日判決55~58頁は,立証された1顧客との在任中の取引及びそれに連続する退任後の一定期間の取引に範囲を絞り,売上262万9110円と利益率約61.08%を基に利益160万5977円を算定した。別顧客との取引や調査費用はそのまま認めなかった。これは当該事件の証拠に基づく算定であり,他事件で一律に同じ算定期間や利益率を用いる根拠ではない。

東京地裁令和6年6月26日判決(令和3年(ワ)第479号・第27130号,判例秘書L07931067)第3の2・3は,クリエイティブ業務を行う取締役が個人で受託した8件について,会社の実際の業務内容を証拠から認定し,株主総会の承認がない競業取引と判断した。報酬合計1380万8700円を取締役の利益として423条2項の推定を適用し,顧客が会社には発注しなかったとの主張等による反証を認めなかった。これは個人受託の事例であり,兼任先の全売上を利益と扱ったものではない。

東京地裁令和5年6月29日判決第3の6は,会社の事業に属する匿名組合出資を,取締役が代表する別会社で無承認に行った事案で,実際の利益分配金から源泉所得税を控除した5290万6905円について423条2項による損害額の推定を認めた。他方,将来20年間の予定分配額を基にする請求のうち口頭弁論終結後の部分は,将来の給付の訴えの要件を満たさないとして却下した。実際に得た利益と将来の予定収益,出資払戻金を区別して資料を整理する。

損害の算定方法も区別する。東京地裁令和7年3月13日判決第3の5は,失った契約の1年分の収入から,履行に必要な外注費50%を控除して549万4186円の損害を認めた。この箇所は423条2項による競業先の利益額推定ではなく,会社の逸失利益の算定である。また,令和6年1月31日判決は,了承がないと仮定しても,従前から取締役個人の顧客であった取引先から会社が受注したであろう証拠がないとして,主張された損害との因果関係を認めなかった。

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競合会社の代表取締役を兼ねる取締役の競業取引――兼任・取引・承認・損害を分けて考える(AI作成)

目次第1 兼任の事実だけで結論を出さない第2 何が競業取引となるか1 会社の事業と取引の中身を対比する2 就任・準備・勧誘と取引成立第3 承認手続と兼任者の立場第4 取引が認められた裁判例と在任期間第5 損害と立証資料第6 依頼時の確認順序と関連論点第7 出典と確認範囲
第1 兼任の事実だけで結論を出さない

ある会社の取締役が、同業他社の代表取締役にも就任した場合、兼任という地位と、その他社のために具体的な取引を行うことを分けて検討する必要がある。
会社法356条1項1号が承認の対象とするのは、取締役が自己又は第三者のために「株式会社の事業の部類に属する取引」をしようとする場合である。
兼任の登記は取引の当事者と時期を調べる重要な端緒となるが、それだけで個々の競業取引の成立や損害額まで証明するものではない。

本記事は令和8年10月2日時点の裁判所公開資料と判例秘書で確認した判決本文を基に、取締役の任務懈怠責任を検討する手順を整理する。
同日の確認ではe-Gov法令検索の会社法本文を直接表示できなかったため、条文は逐語引用せず、裁判所の訴状記載例及び後掲の裁判所公開判決に照らして要点を示す。

第2 何が競業取引となるか
1 会社の事業と取引の中身を対比する

まず、兼任先の定款上の目的だけではなく、両社が現実に扱う商品・役務、顧客、地域、取引時期を確認する。
次に、問題の取締役が兼任先を代表して締結した契約、受注、納品など、どの行為を会社の事業の部類に属する取引と主張するのかを特定する。
第三者である競合会社のために取引した場合も356条1項1号の検討対象となる。

2 就任・準備・勧誘と取引成立

大阪地裁令和5年4月17日判決・令和3年(ワ)第11560号25頁~27頁は、原告会社の取締役が競合会社の代表取締役を兼ねた事案である。
裁判所は、在任中の売買契約の証拠とされた請求書データについて、ファイル作成時期、振込先、相手方の回答などを検討し、契約締結も取引の申出も認めなかった。
また、展示会の来場者への名刺交付や取引の勧誘について、在任中に取引が行われていなければ356条・365条違反の競業取引には当たらないとし、この事件では善管注意義務・忠実義務違反も認めなかった。

この判断から、単なる兼任や勧誘を直ちに「取引」と言い換えることはできない。
ただし、準備・勧誘の態様によっては秘密情報の持出しや忠実義務違反など別の問題が生じ得るし、個々の勧誘が取引の申出に至ったかは証拠に即して判断する必要がある。
同判決の結論を、在任中の顧客勧誘が常に適法という一般論に広げてはならない。

第3 承認手続と兼任者の立場

取締役会設置会社では、競業取引に先立ち重要な事実を示して取締役会の承認を受け、取引後にも重要な事実を報告する(会社法356条1項1号、365条)。
取締役会を置かない会社では、事前承認の機関は株主総会である。
兼任先の商号・事業、取引相手、商品・役務、地域、期間、価格その他の重要な条件を具体化し、取引前の議事録に残すことが実務上重要である。
「兼任を了承した」ことと「どの競業取引を承認したか」は同じではない。

取締役会の決議では、当該取締役の特別利害関係の有無を検討し、該当するときは議決に加えない(会社法369条2項)。
競合会社の代表者であるという事実を踏まえ、当該取引についての利害を議事録上明らかにして判断すべきである。
また、競合会社と元の会社が互いに契約する場合には、競業取引の問題とは別に、356条1項2号・3号の利益相反取引にも該当するかを検討する。

承認を得ても、顧客情報の流用や会社に対する説明不足が当然に免責されるわけではない。
東京地裁民事第8部の訴状記載例13頁も、承認済みの競業取引についてなお善管注意義務違反が問題となり得る旨を注記している。
これは訴状の記載例であり、個別事件の判決ではない。

(続きを読む...)競合会社の代表取締役を兼ねる取締役の競業取引――兼任・取引・承認・損害を分けて考える(AI作成)

会社が別会社の債務を保証するときの取締役会決議と利益相反―確認資料と争い方(AI作成)

目次第1 結論と本記事の対象第2 多額の借財・重要な業務執行第3 利益相反取引との区別第4 取締役会の審査と議事録第5 金融機関等の確認事項第6 承認・決定を欠く場合の効力第7 紛争時の証拠と取締役の責任第8 関連記事第9 出典と確認範囲
第1 結論と本記事の対象

会社Aが別会社Cの銀行借入れを保証する場合,最初に①Aの保証が会社法362条4項2号の「多額の借財」又は同項柱書の重要な業務執行に当たり,取締役会の決定を要するか,②AとC又はAの取締役との具体的関係から,別途,356条1項3号の利益相反取引にも当たるかを分けて検討する。Cの債務は法人格上,取締役個人の債務ではない。「Aの取締役がCの役員・株主だから利益相反」と即断することも,「主債務者が別会社だから取締役会は不要」と即断することもできない。

本記事は取締役会設置会社を中心に,令和8年10月2日時点の会社法と公開一次資料を基礎として,契約前・訴訟前に確認すべき資料を整理する。会社法356条の評価には個々の利害関係と保証条件が必要であり,以下の事例評価は条文からの検討である。個別保証の効力を一律に結論付けるものではない。

第2 多額の借財・重要な業務執行

取締役会設置会社では,取締役会は重要な業務執行を決定し,そのうち「多額の借財」などを取締役に委任できない(会社法362条4項)。保証は会社に現実の借入金を入れる取引ではないが,主債務者が返済できなければ保証会社が支払う債務を負う。昭和56年の商法改正審議で政府委員は,旧商法260条2項の「多額ノ借財」に保証債務を含める趣旨を説明した。この国会答弁は旧法の立法資料であり,現行法の個別事案について多額性を自動認定する資料ではない。

多額性・重要性は保証限度額だけでなく,Aの総資産,売上高,純資産,既存保証残高,返済不能時の資金繰り,保証期間,求償権の回収見込み,反対給付及び通常の取引慣行と比較して判断する。金額が小さくても事業上重要な取引であれば同項柱書の問題が残る。逆に,金額だけから直ちに結論を出さず,決定時点の財務資料を保存する。

第3 利益相反取引との区別

会社法356条1項3号は,株式会社が取締役の債務を保証する場合を明示し,その他,取締役以外の者との間で会社と当該取締役との利益が相反する取引を対象とする。取締役個人が主債務者の保証と,別会社が主債務者の保証では,出発点が異なる。

例えばAの取締役BがCの監査役である,あるいはC株式を多数保有する場合は,BがCの資金調達から得る利益の内容と大きさを確認する。BがCの借入れを個人保証しているなら,Aの保証によってBの負担が軽くなる可能性がある。AがCから相応の保証料・担保を得るのか,Cの倒産時にAがどれだけ負担するのかも重要である。役職名や持株比率だけで356条1項3号該当性,特別利害関係,又は契約無効を確定させてはならない。

利益相反取引に当たると判断した場合,取締役会設置会社では重要事実を開示して取締役会の承認を得る(365条1項)。承認決議に特別の利害関係を有する取締役は議決に加われず(369条2項),取引後には重要な事実を取締役会へ報告する(365条2項)。利益相反に当たらない場合でも,362条4項の取締役会決定の要否は独立して残る。

BがCの代表取締役を兼ね,CがAと競合する商品を顧客へ販売するなら,その販売はBによる兼任先のための競業取引(356条1項1号)として別途検討する。他方,AがCの借入れを保証する行為は,Aにとっての間接利益相反取引(同項3号)の成否と,重要な業務執行に関する取締役会決定(362条4項)を検討する。兼任,Cの販売及びAの保証を一つの「承認」で処理しない。

第4 取締役会の審査と議事録

決議資料には,主債務者・債権者,借入額,保証限度額,保証期間,元本・利息・遅延損害金の範囲,担保,既存保証,求償権の保全,Aが保証する事業上の利益,Cの返済原資及びAの資金繰りへの影響を記載する。複数の保証があるときは個別額と合計負担額を示す。議事録には審議の対象となった契約書案,利害関係を申告した取締役,議決に参加した者,決議の結論を対応付ける。

Cの株主・役員との兼職関係は取引ごとに更新する。借入れの増額,保証の更新,担保の追加等があれば,当初決議の射程に入るかを契約書と決議文で再確認する。形式上の「包括承認」だけでは,後に争われる保証の条件を特定できないことがある。

第5 金融機関等の確認事項

保証を受ける金融機関等は,①保証会社の登記事項証明書と定款,②保証契約書・主債務契約書,③保証条件を特定した取締役会議事録,④取締役と主債務会社の役員・株主・個人保証関係,⑤会社規模と保証額の関係を示す資料を確認する。議事録がない,又は契約条件と食い違う場合は,その理由と追加確認の経過を記録する。代表取締役の「承認済み」という説明のみで決議の存在が証明されるわけではない。

特に保全申立てを予定する場合,被保全権利である保証債権の成立・有効性と,保全の必要性を分けて検証する。不当な仮差押えによる損害賠償リスクもあるため,決議欠缺の疑いを把握した経緯と調査結果を保存する。

第6 承認・決定を欠く場合の効力

最高裁昭和40年9月22日判決は,取締役会決議を要する一般の対外取引について,決議を欠いても原則有効とし,相手方が欠缺を知り又は知り得べかりし場合に無効とした。他方,最高裁大法廷昭和43年12月25日判決は,取締役が自己のためにした旧商法265条の取引につき,会社が第三者に承認欠缺による無効を主張するには,相手方が欠缺を知っていたことの主張立証を要するとした。両判決は対象と相手方の主観的要件の表現が異なる。

別会社の債務保証でどちらの法的経路が成立するかを先に特定する。356条の利益相反該当性を十分検討せず昭和43年判決を直接当てはめたり,利益相反の問題を昭和40年判決だけで処理したりしない。相手方の認識は,決議の提出要求,回答,稟議,契約の停止条件,人的関係など締結時の具体的証拠で検討する。

第7 紛争時の証拠と取締役の責任

会社側は,保証契約,借入契約,決議・議事録,財務諸表,取締役とCの関係,銀行等の照会記録を時系列で整理する。利益相反承認の欠缺と,多額の借財・重要な業務執行に関する決定欠缺は分けて主張する。銀行等は承認を確認した日時・担当者・受領資料を示す。決議がなかった事実だけで対外効を断定できない。

保証により会社に損害が生じたときは,取締役の任務懈怠に基づく会社法423条1項の責任を検討する。利益相反取引に該当する場合には同条3項の任務懈怠推定が問題となる。保証履行額全額を当然に損害とせず,保証料,主債務者からの回収,担保実行,求償権の価値を調べる。東京地裁の公開参考書式は,取締役個人債務の保証と競業取引の請求原因の立て方を示すが,別会社債務保証の全事案への答えを示すものではない。

第8 関連記事

①会社が取締役個人の債務を保証した場合―利益相反取引,取締役会決議と取引相手の確認事項
②不当な仮差押えによる損害賠償―過失の推認と担保からの回収
③競合会社の代表取締役を兼ねる取締役の競業取引
④取締役の競業取引を承認し損害を立証する実務

関連する平成15年度旧司法試験の問題文・出題趣旨・模範答案は,平成15年度旧司法試験論文式試験の模範答案―憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法の全12問と出題趣旨を踏まえた解説に掲載している。

第9 出典と確認範囲

①e-Gov法令検索「会社法」356条,362条,365条,369条,423条。
②第94回国会衆議院法務委員会昭和56年4月21日会議録(保証債務と旧商法260条2項に関する政府答弁)。
③最高裁昭和40年9月22日判決全文。
④最高裁大法廷昭和43年12月25日判決全文。
⑤東京地方裁判所民事第8部・取締役の任務懈怠責任の参考書式。

令和8年10月2日,国会会議録及び裁判所公開資料を確認した。e-Gov法令検索は同日の確認時にメンテナンス中であり,会社法条文の掲載画面は再確認できていない。昭和40年・43年判決は旧商法下の判断であり,現行会社法への適用は対象を確かめて行う。判例秘書の網羅検索は本記事作成時に行っておらず,別会社の債務保証をめぐる後続裁判例の有無・射程は未確定である。

会計限定監査役の監査義務―残高証明書の偽造と従業員横領に関する最高裁令和3年7月19日判決(AI作成)

目次

第1 結論
第2 最高裁令和3年7月19日判決の事案
第3 最高裁が示した監査義務

1 帳簿と計算書類の一致だけでは足りない場合がある
2 基礎資料と会計管理体制を確認する
3 公認会計士監査と同じ義務ではない

第4 監査手続を決める実務上の要素
第5 会社側・監査役側の証拠
第6 横領等を発見した後の対応
第7 まとめ
第8 出典

会計限定監査役は、会計帳簿と計算書類の数字が一致していることを確認すれば、常に任務を尽くしたことになるでしょうか。最高裁令和3年7月19日判決は、従業員が預金残高証明書を偽造して横領を隠していた事案で、このような一律の考え方を否定しました。本記事は、同判決が示した判断枠組みと、中小会社の会計監査で残すべき証拠を整理します。

第1 結論

会計限定監査役は、会計帳簿に計上された数字が計算書類へ正しく転記されていることを確認するだけで、常に任務を尽くしたことになるわけではありません。計算書類が会社の財産・損益の状況を重要な点で適正に表示しているかを確かめるため、預金等の重要性、管理状況、内部統制、過去に受けた報告等に応じ、帳簿作成状況の報告を求めたり、残高証明書その他の基礎資料を確かめたりすべき場合があります。

他方、同判決は、会計限定監査役に公認会計士又は監査法人と同じ監査を常に要求したものではありません。具体的な任務懈怠、発見可能性、損害及び因果関係は、個別事情に基づく審理事項です。

第2 最高裁令和3年7月19日判決の事案

会社の経理担当従業員は、会社名義の当座預金口座から自己名義の口座へ多数回送金し、長期間にわたり合計2億円を超える金員を横領しました。従業員は送金を会計帳簿へ計上せず、帳簿上の残高と実際の残高の不一致を隠すため、預金残高証明書を偽造していました。

監査範囲を会計に限定された監査役は、従業員から提出された残高証明書が偽造であることに気付かないまま、残高証明書と会計帳簿を照合し、計算書類等の情報が帳簿の内容と合致していることを確認しました。会社は、横領発覚の遅れによる損害について、会社法423条1項に基づき監査役へ損害賠償を請求しました。

原審は、帳簿の信頼性欠如が明らかである等の特段の事情がなければ、計算書類と帳簿の一致を確認すれば足りるとして請求を棄却しました。最高裁はこの判断を破棄し、さらに審理させるため事件を差し戻しました。

第3 最高裁が示した監査義務
1 帳簿と計算書類の一致だけでは足りない場合がある

監査役は、計算書類等に表示された情報と表示すべき情報との合致の程度を確かめ、会社の財産及び損益の状況を重要な点で適正に表示しているかについて意見等を記載した監査報告を作成します。この監査には、独立した監査役に確認を担わせることにより、計算書類等の信頼性を高める役割があります。

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新株発行不存在確認の訴えと確認の利益―新株発行無効の訴えとの違いと最高裁平成4年10月29日判決(AI作成)

目次

第1 結論
第2 三つの訴えを区別する

1 新株発行無効の訴え
2 新株発行不存在確認の訴え
3 株主総会決議の不存在・無効確認

第3 最高裁平成4年10月29日判決

1 事案と原審
2 最高裁の判断
3 判決から得られる実務上の意味

第4 現在の会社法上の手続

1 被告・管轄・必要的併合
2 認容判決の対世効
3 無効判決の将来効との違い

第5 不存在か無効かを分けるための証拠
第6 確認の利益を基礎付ける事情
第7 訴え提起前後のチェックリスト
第8 出典及び確認限界
第9 まとめ

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新株発行無効判決の効力を受ける第三者の再審―独立当事者参加,対世効及び会社の訴訟活動(AI作成)

目次

第1 結論
第2 最高裁平成25年11月21日決定の事案
第3 新株発行無効判決の対世効と第三者
第4 独立当事者参加による再審原告適格
第5 民事訴訟法338条1項3号の再審事由
第6 通知がなかっただけで直ちに再審となるわけではない
第7 会社側の訴訟活動の実務
第8 第三者側の初動と立証資料
第9 決定の射程と差戻し後の注意
第10 出典・確認状況及び関連記事

新株発行無効判決は,訴訟の当事者でない株主等にも効力を及ぼします。最高裁平成25年11月21日決定は,その効力を受ける第三者の再審原告適格と,会社の著しく信義に反する訴訟活動が第三者の手続保障を害した場合の再審事由を示しました。

第1 結論

最高裁平成25年11月21日第一小法廷決定(平成24年(許)第43号,民集67巻8号1686頁)は,次の二点を示して原決定を破棄し,東京高裁へ差し戻しました。

新株発行無効判決の効力を受ける第三者は,それだけでは当然に再審原告適格を有しないが,確定判決に係る訴訟について独立当事者参加の申出をすることにより,再審原告適格を有する。
会社の訴訟活動が著しく信義に反し,第三者に確定判決の効力を及ぼすことが手続保障の観点から看過できない場合には,民事訴訟法338条1項3号の再審事由となる余地がある。

第2 最高裁平成25年11月21日決定の事案

抗告人は,新株予約権を行使し,平成23年2月7日に発行された1500株の株主となりました。その後,別の株主が会社だけを被告として,新株発行不存在確認の訴えを提起し,予備的に新株発行無効の訴えを追加しました。

会社は第1回口頭弁論期日に請求を認め,請求原因事実を全て認める旨を答弁しました。裁判所から追加立証を促されると,会社は新株発行が見せ金によるものであること等を記載した陳述書を提出しました。新株発行を無効とする判決は同年10月14日の経過により確定しました。

抗告人は,確定後に前訴を知り,独立当事者参加を申し出るとともに,再審の訴えを提起しました。会社は,前訴前から抗告人が新株発行の有効性を主張していたことを知り,前訴係属を容易に知らせられたのに知らせていませんでした。

第3 新株発行無効判決の対世効と第三者

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株主総会決議の不存在―招集通知の欠缺,招集権限のない者の招集,後続決議への連鎖,全員出席総会及び追認(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 決議の瑕疵を争う三つの訴え第3 決議が不存在とされる場合1 招集通知が大部分の株主に全くされなかった場合2 招集の権限のない者が招集した場合3 取消事由にとどまる場合との境界4 判断の視点第4 全員出席総会と招集手続の省略1 全員出席総会2 会社法300条の招集手続の省略3 一部の株主しか出席していない場合第5 後続の決議への連鎖1 不存在の決議で選任された取締役による招集2 先行決議の存否を確認する利益第6 追認・再決議1 取消事由にとどまる決議の再決議2 不存在の決議の追認第7 不存在を主張する場面と期間1 訴えと前提問題としての主張2 解任決議が不存在の場合の報酬請求第8 実務上の確認事項1 会社側2 株主・役員側第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例第11 確認状態

本記事は,招集通知の欠缺等により株主総会決議が法的に存在しないと評価される場合を扱う。
適法な株主総会の開催時期,出席資格,招集・決議及び議事録の基本は,株主総会とは―開催時期,出席できる人,決議事項,普通決議・特別決議及び手続(AI作成)で説明する。

第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,株主総会の決議に手続上の瑕疵がある場合に,その決議が「取り消すことができる決議」にとどまるのか,それとも決議が法律上「存在しない」と評価されるのかを,最高裁判所の判例に即して整理する。
決議の不存在は,取消しの訴えと異なり期間の制限がないため,招集手続の瑕疵に後から気付いた株主や解任された役員にとって重要な意味を持つ。
法令は,令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトで判示事項・裁判要旨(一部は判決全文)を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①招集手続の瑕疵は原則として決議取消しの事由(会社法831条1項1号)であり,決議の日から3か月以内に訴えで主張しなければならない。
②もっとも,大部分の株主に招集通知が全くされず,一部の株主だけで決議をした場合や,招集の権限のない者が取締役会の決議を経ずに招集した場合には,株主総会の決議があったとはいえないとした最高裁判所の判例がある。
③不存在の決議で選任された取締役らが招集した後続の総会の決議も,全員出席総会であったなどの特段の事情がない限り不存在になるとした判例がある。
④招集手続を欠いても,株主全員が開催に同意して出席した全員出席総会の決議は有効であり,会社法は株主全員の同意による招集手続の省略も認めている(300条)。
⑤取消事由にとどまる決議については,遡って効力を生ずる同一内容の再決議がされると取消しの訴えの利益が失われるとした判例があるが,不存在の決議を追認して遡って有効にすることはできず,追認の決議は新たな決議として効力を持つにとどまると考えられる(本記事の解釈)。

第2 決議の瑕疵を争う三つの訴え
訴え対象となる瑕疵期間条文決議取消しの訴え招集手続・決議方法の法令・定款違反又は著しい不公正,決議内容の定款違反,特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議決議の日から3か月831条1項決議無効確認の訴え決議の内容の法令違反なし830条2項決議不存在確認の訴え決議が存在しないことなし830条1項

いずれも会社を被告とし(会社法834条16号・17号),請求を認容する確定判決は第三者に対しても効力を有する(会社法838条)。
取消しの訴えについては,招集手続・決議方法の法令・定款違反があっても,違反が重大でなく,かつ決議に影響を及ぼさないときは,裁判所は請求を棄却することができる(会社法831条2項)。

第3 決議が不存在とされる場合
1 招集通知が大部分の株主に全くされなかった場合

最高裁判所第二小法廷昭和33年10月3日判決(昭和31年(オ)第396号,民集12巻14号3053頁)は,株主9名・株式総数5000株の会社で,株主の一人である代表取締役が,自己の実子である2名の株主に口頭で招集を伝えただけで,他の6名の株主(持株2100株)には招集の通知を全くせず,親子3名だけで決議をした事案について,株主総会が成立しその決議があったものということはできないとした。
判決文は,手続に瑕疵があっても「決議取消の事由たるに過ぎず」とする上告人の主張に対し,決議は「なんら法律所定の手続によらず単に親子三名によつてなされた」として,不存在とした原審の判断を相当としている。
株式数で4割強(2100株/5000株),株主数で3分の2の株主が総会の開催を知る機会を全く与えられず,出席したのが身内だけであった点が重視されたといえる。

2 招集の権限のない者が招集した場合

最高裁判所第一小法廷昭和45年8月20日判決(昭和44年(オ)第276号,集民100号373頁)は,取締役会の決議を経ることなく,代表取締役以外の取締役によって招集された株主総会は,法律上の意義における株主総会とはいえず,そこで決議がされても,株主総会の決議があったものと解することはできないとした。

3 取消事由にとどまる場合との境界

招集手続の瑕疵のすべてが不存在をもたらすわけではない。
最高裁判所第一小法廷昭和46年3月18日判決(昭和44年(オ)第89号,民集25巻2号183頁)は,招集が取締役会の有効な決議に基づかず,招集の通知もすべての株主に対して法定の期間に2日足りない12日前にされた事案について,決議の取消請求を裁量棄却することの許されない重大な瑕疵があるとした。
この事案では,瑕疵は重大とされたが,扱いは取消しの問題であった。
招集の通知が全株主にされていたかどうかが,前記1との大きな違いである。

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見せ金(仮装払込み)による募集株式の発行―会社法213条の2・213条の3の支払義務,議決権行使の制限,新株発行の無効及び株主の対応(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 見せ金とは何か1 典型的な見せ金2 会社の資金が還流する型3 判断に使う事情第3 平成26年改正前の扱い1 旧商法の下での判例2 平成26年改正で置かれた規定第4 現行法の仕組み1 引受人の支払義務2 関与した取締役の支払義務3 支払までの権利行使の制限4 株式を譲り受けた者5 設立の際の仮装払込み第5 既存株主が採れる手段1 責任追及等の訴え2 株主総会決議の取消しの訴え3 新株発行無効の訴え4 新株発行不存在確認の訴え第6 仮装払込みは新株発行の無効原因か1 無効原因の考え方2 否定する見方3 肯定する見方4 本記事の見方第7 会社・取締役の実務上の注意第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例第10 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,株式会社が募集株式を発行する際に,引受人が実際には出資をしないまま払込みの外形だけを整える「見せ金」(仮装払込み)が行われた場合に,引受人・取締役の責任,株式の権利行使の制限,新株発行の効力及び既存株主が採れる手段を整理する。
法令は,令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認し,平成26年の会社法改正で置かれた規定の文言は,衆議院ウェブサイトに掲載された改正法の本文でも確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトで判示事項・裁判要旨と判決全文を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①一時的な借入金で払込みの外形を整え,直ちに払い戻して借入先に返済するような払込みは,有効な払込みとはいえないとした最高裁判所の判例がある。
②払込みを仮装した引受人は,会社に対し,仮装した払込金額の全額を支払う義務を負い(会社法213条の2第1項1号),この義務は総株主の同意がなければ免除できない(同条2項)。
③仮装に関与した取締役(会社法施行規則46条の2が定める者)も,注意を怠らなかったことを証明しない限り,引受人と連帯して同じ額を支払う義務を負う(会社法213条の3)。
④引受人は,これらの支払がされるまで,仮装した株式について株主の権利を行使できず(会社法209条2項),その株式を譲り受けた者も,悪意又は重大な過失があれば同じく権利を行使できない(同条3項)。
⑤したがって,仮装払込みに係る株式の議決権を算入して成立した株主総会決議は,決議の方法の法令違反として取消しの対象になり得る(会社法831条1項1号)。
⑥仮装払込みが新株発行の無効原因になるかは,現行法の下で直接判断した最高裁判所の判例を確認できず,会社法が株式の成立を前提とする支払義務と権利行使の制限を用意していることから否定する見方と,全額が仮装で関係者が悪意の非公開会社のような場合には肯定する見方が考えられる。
⑦株主は,引受人・取締役の支払義務について責任追及等の訴え(会社法847条1項)を検討できる。

第2 見せ金とは何か
1 典型的な見せ金

最高裁判所第二小法廷昭和38年12月6日判決(昭和35年(オ)第1154号,民集17巻12号1633頁)は,会社設立の際の払込みについて,「当初から真実の株式払込として会社資金を確保する意図なく,一時的借入金を以て単に払込の外形を整え,株式会社成立の手続後直ちに右払込金を払い戻してこれを借入先に返済した場合は,有効な株式払込がなされたものとはいえない」とした。
払込みの前後の資金の動きを全体として見て,払込金が会社の資金として確保されたといえるかを問う考え方である。

2 会社の資金が還流する型

会社自身が第三者に融資した資金が,別の者を経由して引受人に渡り,それで払込みがされる場合も,会社の財産は実質的に増えない。
例えば,会社が乙に5000万円を融資し,乙がそれを引受人丙に融資し,丙がその資金で払い込み,しかも「丙が乙に返済しない限り会社は乙に返済を求めない」と合意しているような場合,会社に残るのは回収の見込みのない貸付債権だけである。
このような場合も,払込金が会社の資金として確保されていないという点で,典型的な見せ金と同じ評価を受けると考えられる(本記事の解釈)。
令和8年司法試験の論文式試験(民事系科目第2問)は,この型の事例を出題している(「令和8年度司法試験民事系第2問の参考答案と予想される評価項目」)。

3 判断に使う事情

仮装かどうかは,一つの事情だけで決まるものではなく,次のような事情を総合して判断することになる(本記事の整理)。

事情仮装を推認させる方向払込資金の出所借入金,とりわけ会社自身や会社の関係者からの資金である払込み後の資金の動き払込みの直後に払い戻され,借入先への返済に充てられる返済の条件会社が回収しない旨の合意がある,又は回収の見込みがない払込金の使途会社の事業資金として使われていない増資の目的取引先や許認可の関係で資本金の額を大きく見せることが目的である
第3 平成26年改正前の扱い
1 旧商法の下での判例

最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決(平成5年(オ)第317号,民集51巻1号71頁)は,新株発行の無効原因について判断した中で,「いわゆる見せ金による払込みがされた場合など新株の引受けがあったとはいえない場合であっても,取締役が共同してこれを引き受けたものとみなされるから(同法二八〇条ノ一三第一項),新株発行が無効となるものではなく」と述べ,見せ金による払込みは新株発行の無効原因にならないとした。
この部分は判決理由中の判示であり,同判決の裁判要旨は,新株発行に関する事項の公示(公告又は通知)を欠くことが原則として無効原因になるという点である。

(続きを読む...)見せ金(仮装払込み)による募集株式の発行―会社法213条の2・213条の3の支払義務,議決権行使の制限,新株発行の無効及び株主の対応(AI作成)

譲渡制限株式の譲渡承認請求と「承認したものとみなされる」場合―会社法136条から145条の期間,指定買取人,撤回,売買価格及び名義書換(AI作成)

目次第1 この記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 譲渡制限株式の譲渡と会社の承認の関係1 承認がなくても当事者間では有効である2 会社に対して株主であることを主張するには承認と名義書換が要る第3 承認の請求の二つのルート1 株主からの請求(会社法136条)2 株式取得者からの請求(会社法137条)3 請求で明らかにする事項と買取りの請求第4 会社の決定と通知の期限1 決定する機関2 請求の日から2週間以内の通知3 承認しない場合の会社の買取り又は指定買取人4 買取りの通知と供託第5 会社が承認をしたものとみなされる場合(会社法145条)1 三つの場面2 承認しない旨の通知をした後に放置した場合(145条2号)3 別段の合意第6 請求の撤回と売買価格1 請求の撤回2 売買価格の決め方第7 承認の後の名義書換と二重譲渡1 名義書換の請求2 会社が書換えを拒み又は遅らせた場合3 株式が二重に譲渡された場合第8 会社側・株主側の実務上の確認事項1 会社側2 株主(譲渡人)・譲受人側第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例第11 確認状態
第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,定款で株式の譲渡に会社の承認を要すると定めている会社(非公開会社の大半がこれに当たる。)の株式を,株主が第三者に売りたい場合,又は第三者が既に取得した場合に,会社法136条から145条までの譲渡承認の手続がどのように進むかを整理する。
中心となるのは,会社が法定の期間内に必要な通知をしなかったときに,会社が承認をしたものとみなされる場面(会社法145条)である。
法令は,令和8年9月28日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトで判示事項・裁判要旨(一部は判決全文)を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①譲渡制限株式の譲渡は,会社の承認がなくても譲渡の当事者間では有効であるが,会社の承認がなければ株主名簿の名義書換を請求できず,会社に対して株主であることを主張できない。
②承認の請求は,譲り渡そうとする株主(136条)からも,既に取得した者(137条。原則として株主名簿上の株主と共同して請求する。)からもできる。
③請求の際に「承認しないなら会社又は指定買取人が買い取れ」と請求しておくと(138条1号ハ・2号ハ),会社は承認しないときに,自ら買い取るか,買い取る者を指定しなければならない(140条)。
④会社が請求の日から2週間以内に承認するかどうかを通知しないとき(145条1号),又は承認しない旨の通知の日から40日以内に会社の買取りの通知をせず,指定買取人も10日以内に買取りの通知をしないとき(145条2号)等には,会社は承認をしたものとみなされる。
⑤承認がみなされれば,譲受人は株主名簿の名義書換を請求でき(134条1号),会社が正当な事由なく書換えを拒み,又は過失で書き換えなかったときは,会社は書換えがないことを理由に譲渡を否認できないとした最高裁判所の判例がある。
⑥会社又は指定買取人が買い取る場合の売買価格は,協議が調わなければ,買取りの通知の日から20日以内に裁判所に決定を申し立てることができ,期間内に申立ても協議の成立もなければ,1株当たり純資産額を基準とする額になる(144条)。

第2 譲渡制限株式の譲渡と会社の承認の関係
1 承認がなくても当事者間では有効である

最高裁判所第二小法廷昭和48年6月15日判決(昭和47年(オ)第91号,民集27巻6号700頁)は,定款で株式の譲渡に取締役会の承認を要すると定めている場合に,その承認を得ないで株式が譲渡されても,「右株式の譲渡は,譲渡当事者間においては有効であると解すべきである」とした。
また,最高裁判所第三小法廷平成5年3月30日判決(平成元年(オ)第1006号,民集47巻4号3439頁)は,いわゆる一人会社の株主がした株式の譲渡は,定款所定の取締役会の承認がなくても,会社に対する関係においても有効であるとした。
いずれも会社法制定前の商法204条1項についての判断であるが,譲渡の制限が会社の利益(好ましくない者が株主になることを防ぐこと)のためのものであることを前提とする点で,現行法の下でも同じように考えられている。

2 会社に対して株主であることを主張するには承認と名義書換が要る

株式の譲渡は,取得した者の氏名等を株主名簿に記載しなければ,会社その他の第三者に対抗することができない(会社法130条1項。株券発行会社では会社に対してのみ。同条2項)。
そして,株式取得者が名義書換を請求できるのは,取得した株式が譲渡制限株式である場合には,原則として,その取得について会社の承認を受けているときに限られる(会社法134条1号・2号)。
したがって,承認を受けていない譲受人は,当事者間では株主であっても,会社に対しては株主として権利を行使できない。

第3 承認の請求の二つのルート
1 株主からの請求(会社法136条)

譲渡制限株式の株主は,その株式を他人に譲り渡そうとするときは,会社に対し,その他人が株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる(会社法136条)。
譲渡の相手方が決まった段階で,譲渡の前に請求するのが通常の使い方である。

2 株式取得者からの請求(会社法137条)

譲渡制限株式を既に取得した者も,会社に対し,取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる(会社法137条1項)。
この請求は,原則として,株主名簿に株主として記載された者(譲渡人)又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない(同条2項)。
共同請求が要らない例外は法務省令で定められており,譲渡人に対して請求をすべきことを命ずる確定判決を得た場合,競売により取得した場合等である(会社法施行規則24条1項)。

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吸収合併消滅会社の反対株主の株式買取請求―事前通知・株主総会・委任状(AI作成)

目次第1 反対株主の株式買取請求とは第2 事前通知と株主総会での反対1 二つの行為は別々に必要である2 委任状による事前通知第3 株式買取請求の期間と方法1 請求期間2 請求時に明らかにする事項第4 価格協議と価格決定申立て1 協議が成立した場合2 裁判所への価格決定申立て第5 実務上の確認事項1 株主側2 会社側第6 一次資料と調査範囲第7 参考リンク

吸収合併に反対する消滅会社の株主が株式買取請求をするためには,効力発生日の20日前から前日までの請求期間だけでなく,株主総会に先立つ会社への通知と,株主総会における反対という二段階の手続を意識する必要がある。本記事では,会社法785条・786条と最高裁令和5年10月26日決定(令和4年(許)第11号)を中心に,委任状を利用する場合の注意点を整理する。

第1 反対株主の株式買取請求とは

吸収合併により消滅する株式会社の反対株主は,会社に対し,自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求できる(会社法785条1項)。

この制度は,合併に反対する株主に投下資本を回収する機会を保障するものである。ただし,株主総会の決議に反対しただけで当然に買取請求権を行使できるわけではない。株主総会で議決権を行使できる株主については,原則として,次の二つを満たす必要がある(会社法785条2項1号イ)。

1 株主総会に先立って,吸収合併に反対する旨を会社に通知すること

2 株主総会で吸収合併に反対すること

第2 事前通知と株主総会での反対
1 二つの行為は別々に必要である

事前通知は,株主総会より前に会社へ到達する必要がある。また,株主総会でも反対の議決権行使をする必要がある。

この二つは目的が異なる。事前通知により,会社は買取請求をする可能性のある株主の規模を予測できる。他方,株主総会での反対は,合併契約承認に対する株主の意思を議決権行使として表明するものである。

したがって,株主総会で反対票を投じる予定であっても,事前通知を失念すれば,原則として会社法785条2項1号イの反対株主には当たらない。

2 委任状による事前通知

最高裁令和5年10月26日決定(令和4年(許)第11号)は,会社が株主に送付した委任状用紙に,吸収合併契約承認議案について「賛」「否」を選択する欄があり,株主が「否」に丸を付けて会社へ返送した事案を扱った。

最高裁は,この委任状の返送を,会社法785条2項1号イにいう「吸収合併等に反対する旨」の通知に当たると判断した。そして,事前通知に当たらないとした原決定を破棄し,事件を原審に差し戻した。

重要なのは,書面の表題が「事前通知書」であるかどうかではなく,株主総会に先立って,会社に対し,当該吸収合併に反対する意思が明確に伝えられたかという点である。

もっとも,委任状の文言や提出先,提出時期,議案の特定状況によって結論が変わり得る。実務上は,委任状だけに依存せず,対象議案を特定した独立の事前通知書を期限に余裕をもって提出し,到達の証拠を残す方が安全である。

第3 株式買取請求の期間と方法
1 請求期間

株式買取請求は,吸収合併の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までに行う必要がある(会社法785条5項)。

事前通知及び株主総会での反対を済ませていても,この期間内に株式買取請求をしなければならない。事前通知,株主総会での反対,株式買取請求という三つの段階を,それぞれ別の期限管理項目として扱う必要がある。

2 請求時に明らかにする事項

株式買取請求をする株主は,請求に係る株式の数を明らかにする必要がある(会社法785条5項)。また,株式買取請求は,会社の承諾を得なければ撤回できない(同条7項)。

そのため,請求前に,対象株式数,名義,取得経緯,担保権その他の権利関係を確認する必要がある。

第4 価格協議と価格決定申立て
1 協議が成立した場合

会社と株主の間で株式の価格について協議が調ったときは,会社は,吸収合併の効力発生日から60日以内に代金を支払わなければならない(会社法786条1項)。

2 裁判所への価格決定申立て

効力発生日から30日以内に協議が調わないときは,株主又は会社は,その期間満了後30日以内に,裁判所に価格決定の申立てをすることができる(会社法786条2項)。

この申立期間は短いため,協議中であっても,申立期限を別に管理する必要がある。本記事は事前通知と手続要件を中心とするものであり,「公正な価格」の具体的な算定方法や企業価値評価は別問題である。株式交換完全親会社の反対株主について,公正な交換比率,市場株価,競合公開買付け及びDCF法の関係を判断した最高裁令和8年9月30日決定は,株式交換完全親会社の反対株主による株式買取請求で扱っている。

(続きを読む...)吸収合併消滅会社の反対株主の株式買取請求―事前通知・株主総会・委任状(AI作成)

医療法人の社員が臨時社員総会を開く方法―最高裁令和6年3月27日決定と補足意見(AI作成)

◯以下の記事も参照してください。
・ 平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析(AI作成)
・ 最高裁判所に係属した許可抗告事件一覧表(平成25年分以降),及び許可抗告事件の実情

目次

第1 結論
第2 医療法46条の3の2第4項の招集請求
第3 最高裁令和6年3月27日決定

1 事案及び争点
2 法廷意見
3 判断の射程

第4 渡邉惠理子裁判官の補足意見
第5 社員側の実務手順
第6 訴訟を検討するときの主な論点
第7 理事長及び医療法人側の対応
第8 出典及び未確認事項

第1 結論
社団たる医療法人では,総社員の5分の1以上の社員が,社員総会の目的である事項を示して臨時社員総会の招集を請求したとき,理事長は請求の日から20日以内に招集しなければならない(医療法46条の3の2第4項)。

しかし,理事長が招集しない場合でも,社員は,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律37条2項を類推適用し,裁判所の許可を得て自ら社員総会を招集することはできない。最高裁令和6年3月27日第三小法廷決定が明確に否定した。

同決定の補足意見は,社員が訴訟により理事長に臨時社員総会の招集を命ずる判決を求める方法を示した。ただし,これは法廷意見の判示ではなく,判決を得た後の執行方法を含め,具体的な実現方法には未解決の部分が大きい。したがって,「社員が必ず自ら招集できる」「招集命令訴訟が確立した」と理解してはならない。
第2 医療法46条の3の2第4項の招集請求
招集請求の要件は,①社団たる医療法人であること,②総社員の5分の1以上の社員によること,③社員総会の目的である事項を示すこと,である。定款で別の割合を定める余地については,条文及び定款の内容を個別に確認する必要がある。

(続きを読む...)医療法人の社員が臨時社員総会を開く方法―最高裁令和6年3月27日決定と補足意見(AI作成)

吸収合併の合併比率が不公正なときの少数株主の手段―事前開示,差止め,株式買取請求,決議取消し及び合併無効の訴え(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象と基準日2 結論第2 合併比率と少数株主の不利益1 合併比率は合併契約で定める2 親子会社間の合併で問題が生じやすい場面第3 合併の前に使える手段1 事前開示書面の閲覧2 株主総会での説明請求3 合併の差止請求4 反対の通知と総会での反対第4 株式買取請求と価格の決定1 請求の期間2 「公正な価格」3 買取請求の限界4 株式交換完全親会社の反対株主に関する令和8年決定第5 承認決議の取消し1 特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議2 合併比率が「著しく不当」かどうか3 裁量棄却は3号には適用されない第6 合併無効の訴え1 期間と提訴権者2 承認決議の瑕疵と事前開示の不備置を無効原因とした裁判例3 合併比率の不公正それ自体第7 取締役の責任1 株主代表訴訟では会社の損害が問題になる2 株主に対する責任(会社法429条1項)第8 手段と期限の一覧第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 立案過程の資料4 調査範囲
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象と基準日

本記事は,株式会社どうしの吸収合併で,消滅する会社の株主に割り当てられる存続会社の株式の数(いわゆる合併比率)が不公正であると考える少数株主が,合併の前と後に使える会社法上の手段を整理する。
親会社が子会社を吸収合併する場合のように,合併の相手方である会社が消滅会社の多数の議決権を持っている場面を主に想定している。
法令は,令和8年9月27日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイト又は判例秘書プラスで判決等の全文又は裁判要旨を確認したものに限って紹介している。

2 結論

①消滅会社の株主は,承認総会の2週間前の日等から,合併契約の内容や合併対価の相当性に関する事項(親子会社間の合併では,少数株主の利益を害さないように留意した事項を含む。)を記載した書面を,持株の数にかかわらず閲覧できる。
②株主総会では,取締役等に合併比率の算定根拠等の説明を求めることができる。
③合併の差止請求は合併が法令又は定款に違反する場合に認められ,合併対価が著しく不当であることを差止めの理由とする規定は,議決権の10分の9以上を持つ会社との略式合併の場合に限られている。
④合併に反対する株主は,総会に先立って反対を通知し,総会で反対しておけば,効力発生日の20日前の日から前日までの間に,公正な価格での株式の買取りを請求できる。
⑤決議について特別の利害関係を有する者(合併の相手方である会社がこれに当たると主張することになる。)が議決権を行使したことによって著しく不当な承認決議がされたときは,決議の日から3か月以内に,決議の取消しを請求できる。
⑥合併の効力が生じた後は効力発生日から6か月以内に合併無効の訴えを提起でき,承認決議に取消事由となる瑕疵がある場合に合併無効の原因が認められると述べた下級審の裁判例(事案は承認決議の不存在)や,存続会社の事前開示書類の不備置を合併無効の原因と認めた下級審の裁判例がある。
⑦他方,合併比率が不当であること自体は合併無効事由にならないとした会社法制定前の下級審の裁判例が複数あるので,合併の効力が生じた後は,比率の不公正だけでなく,承認決議の瑕疵や事前開示の不備を併せて主張できるかを検討することになる。
⑧取締役の責任については,合併比率が不公正でも存続会社自体には損害が生じないとして株主代表訴訟の請求を棄却した下級審の裁判例と,株式移転比率について会社法429条1項に基づく取締役の責任を否定した下級審の裁判例がある。

第2 合併比率と少数株主の不利益
1 合併比率は合併契約で定める

株式会社が存続する吸収合併では,合併契約において,存続会社が消滅会社の株主に対してその株式に代えて交付する金銭等(合併対価)についての事項と,その割当てに関する事項を定めなければならない(会社法749条1項2号・3号)。
合併対価が存続会社の株式であるときは,その数又はその数の算定方法を定める(同項2号イ)。
消滅会社の株式1株に対して存続会社の株式を何株割り当てるかという比率が,いわゆる合併比率である。

合併比率が消滅会社の株式の価値に比べて低く定められると,消滅会社の株主が合併後に持つ存続会社の株式の価値は,合併前に持っていた株式の価値を下回る。
その差額は,存続会社の既存の株主の側に移ることになる。

2 親子会社間の合併で問題が生じやすい場面

消滅会社は,効力発生日の前日までに,株主総会の決議によって合併契約の承認を受けなければならない(会社法783条1項)。
この決議は,定款に別段の定めがなければ,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う特別決議である(会社法309条2項12号。消滅会社が公開会社で,合併対価の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合は,同条3項2号の決議による。)。

合併の相手方である存続会社が消滅会社の株主でもある場合,存続会社は承認決議で議決権を行使できる。
定款に別段の定めがなければ,存続会社が消滅会社の議決権の3分の2以上を持っている場合,他の株主の全員が出席して反対しても,承認決議は成立する。
存続会社にとっては合併比率が低いほど有利になるので,少数株主の側から見ると,合併比率の決め方と承認決議の成り立ち方の両方を確かめる必要がある。

第3 合併の前に使える手段

(続きを読む...)吸収合併の合併比率が不公正なときの少数株主の手段―事前開示,差止め,株式買取請求,決議取消し及び合併無効の訴え(AI作成)

取締役の報酬の配分を代表取締役に再一任できるか―会社法361条,決定方針及び自分の報酬だけを増やした場合の責任(AI作成)

目次第1 この記事の対象と確認の方法1 対象と結論の要旨2 確認の方法と資料の性質第2 会社法361条と令和元年改正1 会社法361条1項・4項の規律2 令和元年改正で入った361条7項と施行規則98条の53 決定方針が義務付けられる会社と開示第3 最高裁判例が認めてきた一任と再一任1 総額を定めて配分を取締役会に委ねること2 取締役会から社長への再一任3 退職慰労金の一任と再一任4 配分を決める取締役会決議と特別利害関係5 決まった報酬は一方的に減らせない第4 令和7年司法試験の出題の趣旨・採点実感が示した整理1 設例と資料の位置付け2 一任・再一任の許容性と「お手盛り防止」3 361条7項・施行規則98条の5についての誤解第5 代表取締役が自分の報酬だけを増やした場合に会社が主張できること1 善管注意義務違反2 株主総会決議遵守義務と説明義務3 採りにくい構成4 損害の範囲第6 責任追及の手続1 会社の訴えと株主代表訴訟2 期間と責任の免除第7 顧問先・同族会社で再一任を続ける場合の整え方1 株主総会決議と取締役会決議の文言2 配分の記録と説明の整合第8 チェックリスト1 会社又は株主が責任追及を検討するとき2 再一任を続ける会社が整えておくこと第9 関連記事第10 出典1 法令2 裁判例3 法務省の資料4 その他
第1 この記事の対象と確認の方法
1 対象と結論の要旨
(1) 扱う場面

株主総会では取締役全員の報酬の総額の上限だけを決め,各取締役への配分を取締役会に一任し,取締役会がさらにその配分を代表取締役に一任する(再一任する)という決め方は,上場会社でも同族会社でも広く見られる。
本記事は,この決め方が会社法上許されるか,また,再一任を受けた代表取締役が自分の報酬だけを大幅に増やした場合に,会社が代表取締役に対して何を主張できるかを扱う。
令和7年司法試験の論文式試験(民事系科目第2問)は,まさにこの場面を設問としており,法務省が公表した出題の趣旨及び採点実感には,実務でも誤りやすい点が具体的に書かれている。

(2) 結論の要旨

①株主総会で報酬総額の上限を定め,配分を取締役会に委ねることは,最高裁判例で認められている。
②取締役会が配分を社長に委ね,社長が自分の報酬額を決めた事案で,最高裁は,社長が一存で自己の報酬額を決めても取締役会の決議の本旨に反しないと判示している。
③令和元年改正に伴って設けられた会社法施行規則98条の5第6号は,会社法361条7項の決定方針で定める事項として,個人別の報酬等の決定を取締役その他の第三者に委任する場合の定め方を定めているが,法務省は,同号は委任をすることができることの根拠となる規定ではないと説明している。
④他方,再一任を受けた代表取締役が自分の報酬だけを増やした場合には,善管注意義務違反,株主総会決議遵守義務違反,株主総会での説明義務違反などを理由に,会社が損害賠償を求める余地がある。
⑤ただし,これらの構成がどこまで認められるかを正面から判断した最高裁判例は確認できず,損害の範囲も増額分全部になるとは限らない。
⑥下級審では,再一任を受けた代表取締役は善管注意義務を負うが,報酬決定に至る判断過程や判断内容に明らかに不合理な点がある場合を除き責任を負わないとして,株主代表訴訟の請求を棄却した東京地裁平成30年4月12日判決(控訴棄却)がある。

2 確認の方法と資料の性質
(1) 確認した資料

令和8年9月26日に,会社法,会社法施行規則,会社計算規則及び民法の条文をe-Gov法令検索のデータで確認した。
裁判例は,裁判所HPの裁判例検索で裁判年月日又は掲載誌から個別ページを開き,判決全文のPDFで該当部分を確認したものを取り上げた。
裁判所HPに掲載されていない裁判例は,判例データベース(判例秘書)で判決本文(大阪地裁昭和28年6月29日判決については,同データベースに収録された要旨形式の本文)を確認したものに限り,事件番号と判例秘書の判例番号を付けて取り上げた。
令和元年改正の経緯は,法務省民事局のページ及び同ページに掲載された法律概要と省令の新旧対照条文で確認した。

(2) 司法試験の資料の位置付け

司法試験の出題の趣旨及び採点実感は,考査委員が答案に何を期待したかを説明した資料であり,判例でも行政解釈でもない。
また,設例の事実は試験のために作られたものである。
それでも,答案に現れた主張が会社の立場としてふさわしいか,用いた言葉の意味を正しく理解しているかを具体的に指摘しており,実務で主張を組み立てるときの点検表として使える。
本記事では,令和7年司法試験の設例に触れるときは,その旨を明示する。

第2 会社法361条と令和元年改正
1 会社法361条1項・4項の規律
(1) 株主総会で定めるもの

会社法361条1項は,「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において『報酬等』という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。」と定めている。
同項1号は,額が確定している報酬等について「その額」を掲げている。

(続きを読む...)取締役の報酬の配分を代表取締役に再一任できるか―会社法361条,決定方針及び自分の報酬だけを増やした場合の責任(AI作成)

相続した譲渡制限株式を会社が買い取る方法―会社法174条から177条,定款,株主総会,価格決定及び期限(AI作成)

目次第1 制度を使うための入口1 対象は一般承継で取得した譲渡制限株式である2 定款の定めが必要である第2 株主総会で売渡請求を決定する1 その都度決議する事項2 対象者の議決権は原則として排除される第3 1年以内に売渡しを請求する1 起算点は会社が一般承継を知った日である2 請求株式を明らかにする第4 売買価格を決める1 まず会社と対象者が協議する2 裁判所への申立期限は請求日から20日である第5 資金・分配可能額・税務を確認する1 会社による自己株式取得の制約2 相続税・譲渡所得等は別に確認する第6 実務チェックリスト1 会社側2 相続人側3 日付を一枚にまとめる第7 確認済み事項と未確認事項1 確認済み事項2 個別案件で追加確認する事項第8 出典

非公開会社の株主が死亡すると,相続その他の一般承継によって,会社が予定していなかった者が株主になることがある。会社法174条から177条は,定款に定めがある場合,会社が相続人等に譲渡制限株式の売渡しを請求する手続を設けている。

この制度には,会社が相続を知った日から1年という請求期限と,売渡請求の日から20日という価格申立ての期限がある。対象株式,決議,通知,価格及び資金を一つの工程表で管理する必要がある。

第1 制度を使うための入口
1 対象は一般承継で取得した譲渡制限株式である

会社法174条の対象は,相続その他の一般承継により取得された「譲渡制限株式」に限られる。通常の売買や贈与による特定承継には,この制度ではなく,譲渡承認手続その他の規定を検討する。

相続人が複数で遺産分割前である場合は,株式の準共有関係,権利行使者の指定,遺産分割の進行及び売渡請求の相手方を確認する。戸籍,遺言,遺産分割協議書,株主名簿及び株券の発行状況を照合する。

2 定款の定めが必要である

会社が売渡しを請求できる旨が定款に定められていることが必要である。現行定款,定款変更の株主総会議事録,変更の効力発生日及び対象株式の内容を確認する。

相続後に定款条項を新設した場合に,既に一般承継された株式へ当然に適用できると扱うことは避ける。条項の効力発生時期,決議手続,相続人等の議決権及び個別事情を確認し,紛争予防のためには相続発生前に定款を整備する。

第2 株主総会で売渡請求を決定する
1 その都度決議する事項

会社法175条1項により,会社は,売渡請求をする都度,株主総会で,①売渡しを請求する株式の数と,②その株式を有する者の氏名又は名称を定める。種類株式発行会社では,株式の種類と種類ごとの数も特定する。

この決議には,会社法309条2項所定の特別決議が必要である。定款に一般的な売渡請求条項があるというだけで,取締役の判断のみで個別請求を進めることはできない。

2 対象者の議決権は原則として排除される

会社法175条2項により,売渡請求の対象者は,その株主総会で議決権を行使できない。ただし,その対象者以外の株主全員も議決権を行使できない場合は例外となる。

招集通知,基準日,議決権数,定足数及び決議要件を事前に計算する。対象相続人の議決権を除外したことで決議要件を満たすかを,株主名簿と議決権集計表で確認する。

第3 1年以内に売渡しを請求する
1 起算点は会社が一般承継を知った日である

会社法176条1項ただし書は,会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過すると,売渡請求ができないと定める。死亡日や相続登記日を機械的な起算点とせず,会社が一般承継を知った事実と日付を確認する。

訃報,戸籍,株主名簿書換請求,配当金の連絡,株主総会への出席申出及び会社担当者のメール等を保存し,会社がいつ何を知ったかを記録する。

2 請求株式を明らかにする

売渡請求では,対象株式の数を明らかにする。種類株式発行会社では,種類と種類ごとの数を記載する。対象者,株式数,請求日及び到達日を証明できる書面で行い,株主総会決議の内容と一致させる。

会社法176条3項により,会社は売渡請求をいつでも撤回できる。ただし,撤回が価格協議,資金計画,株主構成及び紛争解決へ与える影響を検討し,権限ある機関による意思決定を記録する。

第4 売買価格を決める
1 まず会社と対象者が協議する

会社法177条1項により,売買価格は会社と売渡請求の対象者との協議で定める。非上場株式では,純資産,収益力,配当,類似会社,支配権又は少数性,会社の将来見通し等が争点となるため,評価基準日と採用資料を合意できるかを検討する。

税務上の評価額と会社法上の売買価格は,目的と評価場面が同じとは限らない。税理士又は公認会計士の評価を用いる場合も,前提条件と法的評価を分ける。

2 裁判所への申立期限は請求日から20日である

会社又は対象者は,売渡請求の日から20日以内に,裁判所へ売買価格決定を申し立てることができる。裁判所は,売渡請求時の会社の資産状態その他一切の事情を考慮する。

(続きを読む...)相続した譲渡制限株式を会社が買い取る方法―会社法174条から177条,定款,株主総会,価格決定及び期限(AI作成)

株主総会の議決権代理行使―代理人を株主に限る定款,法人株主の従業員,弁護士と委任状(AI作成)

目次

第1 結論
第2 会社法310条の原則
第3 代理人を株主に限る定款は有効か
第4 法人株主の職員・従業員
第5 弁護士を代理人にする場合
第6 複数の委任状と代理権の撤回
第7 入場拒否・議決権不算入と決議取消し
第8 会社側と株主側の事前準備
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

本記事は,株主本人の出席資格一般ではなく,代理人による議決権行使を扱う。
基準日,100株・単元未満株,株主本人が出席できる場合及び株主総会の全体像は,株主総会とは―開催時期,出席できる人,決議事項,普通決議・特別決議及び手続(AI作成)で説明する。

第1 結論

株主は,会社法310条1項により,代理人によって議決権を行使できる。もっとも,株主総会の撹乱を防ぎ会社の利益を保護する趣旨から,議決権行使の代理人を株主に限る定款は,判例上有効とされている。

ただし,この定款規定は一律の形式判断で完結しない。最高裁昭和51年12月24日判決は,法人である株主が職員又は従業員を代理人とした事案につき,特段の事情のない限り総会が撹乱され会社の利益が害されるおそれはなく,当該定款に反しないとした。

一方,株主でない弁護士なら常に出席できるという最高裁判例は確認できない。公開された東京地裁判決には,非株主である弁護士の代理行使を拒否した会社の対応を適法としたものがある。総会直前の受付で争うのではなく,定款,株主名簿,委任状,代理人の資格及び複数委任状の優劣を事前に整理することが重要である。

第2 会社法310条の原則

会社法310条1項は,株主が代理人によって議決権を行使できると定め,株主又は代理人に代理権を証明する書面の提出を求める。代理権の授与は株主総会ごとにしなければならず(同条2項),会社は出席できる代理人の数を制限できる(同条5項)。

委任状では,委任者の氏名・名称,代理人,対象となる株主総会,議決権数,各議案への賛否,修正動議への対応,復代理の可否及び作成日を確認する。会社が用意した委任状のみが常に有効というわけではなく,個別の委任状による代理権も原文に基づいて判定する。

委任状の提出期限について,東京地裁令和6年9月10日決定(令和6年(ヨ)第30142号,判例秘書の判例番号 L07932609)は,株主総会を招集する者は,会社法298条1項5号及び会社法施行規則63条5号に基づき,代理権を証明する方法,代理人の数その他代理人による議決権の行使に関する事項を決定する権限を有し,いつまでに委任状の提出を要するかは,法令及び定款・株式取扱規程等に定めがなければ招集者の合理的な裁量に委ねられているとした。その上で,委任状の有効性の判断や集計に時間を要することを考慮して,午前9時開会の総会について前日午後5時30分とした期限を,合理的な裁量の範囲内の決定とした。法制審議会の部会資料16(令和8年9月30日)は,この決定を引用して,実質株主(指図権者)が代理出席する場合の証明書類の提出期限も解釈で定められるとしている(実質株主確認制度と大量保有の通知義務違反による議決権の停止―部会資料16の修正案(有事・0.5%・故意重過失)と経済産業省の対案)。

第3 代理人を株主に限る定款は有効か

最高裁昭和43年11月1日判決(昭和40年(オ)第1206号,民集22巻12号2402頁,株主総会決議無効確認請求事件)は,議決権行使の代理人資格を株主に限定する定款規定を有効とした。その趣旨は,株主総会が株主以外の第三者によって撹乱されることを防止し,会社の利益を保護することにある。

したがって,株主側は「310条は代理行使を認めているから,代理人資格の定款制限は常に無効」とは主張できない。会社側も,定款の文言だけでなく,判例が認める例外的な扱い及び従前の受付運用を確認する必要がある。

第4 法人株主の職員・従業員

最高裁昭和51年12月24日判決(昭和48年(オ)第794号,民集30巻11号1076頁)は,株主である県,市及び株式会社の職員・従業員が代理行使した事案を判断した。

同判決は,職員・従業員は組織の一員として上司の命令に服する義務を負い,法人株主の代表者の意図に反する行動をすることができないという事実関係の下で,特段の事情のない限り株主総会が撹乱され会社の利益が害されるおそれはないとした。また,職員・従業員の代理行使を否定すれば,法人株主が意見を総会決議に十分反映させられず,事実上議決権行使の機会を失う不当な結果となることも理由とした。

これは,法人株主の役員・職員であれば無条件に認められるという判断ではない。雇用・所属,法人内部の権限,委任状の作成者,指示内容及び法人の意図に反する行動をするおそれの有無を確認する。

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会社が取締役個人の債務を保証した場合―利益相反取引,取締役会決議と取引相手の確認事項(AI作成)

目次

第1 結論
第2 会社が取締役個人の債務を保証する場合の会社法上の手続
第3 取締役会の承認がない保証の効力
第4 一般の取締役会決議の欠缺との違い
第5 金融機関・取引相手が確認すべき資料
第6 会社側が無効を主張する場合の主張立証
第7 取締役の損害賠償責任と追認
第8 実務チェックリスト
第9 関連記事
第10 出典と調査範囲

第1 結論

会社が代表取締役その他の取締役個人の債務を保証することは,会社法356条1項3号が予定する典型的な間接取引である。取締役会設置会社では,取引の重要な事実を開示し,特別の利害関係を有する取締役を議決から外した取締役会の承認を受ける必要がある(会社法365条1項,369条2項)。

承認を欠くときでも,会社は常に保証の無効を取引相手に主張できるわけではない。最高裁大法廷昭和43年12月25日判決は,会社以外の第三者との間で取締役が会社を代表して自己のためにした取引につき,承認を欠くことに加え,相手方の悪意(承認欠缺を知っていること)を会社が主張立証して初めて,相手方に無効を主張できると判断した。

したがって,「議事録がないから保証は無効」又は「代表取締役が署名したから有効」とだけ整理することはできない。利益相反性,承認決議の有無・内容,相手方の認識及びその根拠資料を分けて検討する必要がある。

会社側の主張は一つではない。①利益相反取引である間接取引につき会社法356条1項3号・365条1項の承認を欠くという経路と,②保証額,会社の財務規模,会社に対価が入らないこと等から同法362条4項2号の「多額の借財」又は同項柱書の重要な業務執行に当たり,取締役会の決定を欠くという経路を別々に検討する。いずれか一方だけを主張すると,他方の抗弁を落とすことになる。

別会社の債務との区別:本記事は取締役個人が主債務者の場合を扱う。別会社が主債務者で,保証会社の取締役がその会社の監査役・株主などを兼ねる場合,会社法356条1項3号の利益相反性は,個人保証の有無,持株関係,保証料・担保その他の具体的利害から検討する。兼職や持株だけで本記事の「典型的な間接取引」という結論を移してはならない。他方,362条4項の多額の借財・重要な業務執行の決定が必要かは別途検討する。詳細は別会社の債務保証に関する記事を参照されたい。

第2 会社が取締役個人の債務を保証する場合の会社法上の手続

会社法356条1項3号は,「株式会社が取締役の債務を保証すること」を明示し,その他取締役以外の者との間で会社と当該取締役との利益が相反する取引を対象とする。取締役会を設置していない会社では株主総会,取締役会設置会社では取締役会の承認が必要である(同法365条1項)。

承認議案では,主債務者,債権者,保証限度額,期間,利率・遅延損害金,担保,会社が保証をする事業上の理由,反対給付及び主債務者の返済能力を具体的に開示する。対象取締役は特別の利害関係を有するため,承認決議の議決に加われない(同法369条2項)。取引後は,取引の重要な事実を遅滞なく取締役会へ報告する(同法365条2項)。

第3 取締役会の承認がない保証の効力

最高裁大法廷昭和43年12月25日判決(昭和42年(オ)第1327号,民集22巻13号3511頁,売掛代金請求事件)は,取締役個人の債務を会社が引き受けた事案につき,取締役個人の利益となり会社に不利益を及ぼす行為は,旧商法265条の自己のためにする取引に含まれるとした。

その上で,承認を欠く取引は本来無効としつつ,会社以外の第三者との取引では取引の安全を考慮し,会社は,承認欠缺だけでなく,相手方がそのことを知っていたと主張立証して初めて無効を主張できるとした。同判決が括弧書きで「その旨を知っていること」と明示した点は,一般的な取締役会決議欠缺の判例と区別する上で重要である。

下級審には,取締役会の承認欠缺につき相手方に悪意又は重過失があるとして会社保証を無効とした例がある。ただし,これは下級審判決の判断であり,前記大法廷判決の「悪意」と同一の最高裁規範として扱うことはできない。

第4 一般の取締役会決議の欠缺との違い

最高裁昭和40年9月22日判決(昭和36年(オ)第1378号,民集19巻6号1656頁)は,取締役会決議を要する対外的取引を代表取締役が決議なしでした場合,取引は原則として有効であり,相手方が決議欠缺を知り又は知り得べかりしときに限り無効とした。

この判例は,重要な財産の処分,多額の借財その他の一般的な業務執行に必要な取締役会決議の欠缺に関する。利益相反取引に関する昭和43年大法廷判決とは,対象となる内部決定の性質も,相手方の主観的要件の表現も異なる。訴訟では,取引が会社法356条1項2号・3号の利益相反取引に当たるかと,362条4項その他の規定により取締役会の業務執行決定も必要となるかを,それぞれ確定する必要がある。一つの保証について両経路が問題となる場合は,各機関決定の欠缺,原則効果及び相手方の主観的要件を別々に検討する。

相手方の主観面も一括して「善意・無過失」と書かない。まず,相手方が,取締役個人の債務を会社が保証するという間接取引の内容や,会社規模と保証額から多額の借財・重要な業務執行に当たる事情を認識していたかを確認する。その上で,各判例の経路に従い,取締役会の承認又は決定がないことを知らなかった点について,悪意,過失又は重過失のどれが問題になるのかを区別する。

(続きを読む...)会社が取締役個人の債務を保証した場合―利益相反取引,取締役会決議と取引相手の確認事項(AI作成)

定款変更で取締役の任期を短縮した場合の損害賠償―会社法339条2項の類推適用・正当な理由・残存任期(AI作成)

目次

第1 結論
第2 任期短縮で取締役は退任するか
第3 会社法339条2項を直接適用・類推適用できるか
第4 「正当な理由」の判断
第5 損害額は残存任期分の全額か
第6 請求する取締役が確認すべき証拠
第7 会社側が任期を変更するときの手順
第8 関連記事
第9 出典と調査範囲

第1 結論

取締役の任期を短縮する定款変更によって、在任中の取締役が変更後の任期を既に超えていることとなる場合、その取締役は定款変更の効力発生時に退任するとする裁判例がある。

しかし、特定の取締役を任期途中で退任させる結果となる以上、会社に「正当な理由」がなければ、会社法339条2項を類推適用して損害賠償を請求できる余地がある。請求額は、まず変更前の残存任期分の報酬を最大額として主張し得るが、裁判例には、残存任期分の全額を認めるものと、実際に在任を期待できた期間へ限定するものがある。

したがって、「定款を変えれば無償で退任させられる」「任期10年なら必ず10年分の報酬を請求できる」といういずれの理解も正確ではない。定款変更の目的、対象となった役員、再任の有無、報酬合意、従前の重任慣行及び会社・役員間の関係を個別に確認する必要がある。

第2 任期短縮で取締役は退任するか

会社法332条1項は、取締役の任期を原則として選任後2年以内に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結時までとし、定款又は株主総会決議による短縮を認めている。公開会社でない株式会社では、定款により任期を選任後10年以内まで伸長できる。

東京地裁平成27年6月29日判決(判例時報2274号113頁)は、任期を10年から1年へ短縮する定款変更について、変更後の定款は在任中の取締役にも適用され、変更後の任期を既に満了している取締役は変更時に退任するとした。同判決は、地位の維持ではなく、解任の場合と同様の損害賠償によって取締役を保護する考え方を採った。

もっとも、任期短縮決議の招集手続又は決議方法に瑕疵がある場合は、株主総会決議取消し等の問題が別に生じる。退任の登記がされたことだけで、決議の有効性又は損害賠償の成否が決まるわけではない。

第3 会社法339条2項を直接適用・類推適用できるか

会社法339条1項は株主総会決議による「解任」を、同条2項は正当な理由のない解任によって生じた損害の賠償を定める。定款変更による任期満了は、形式上は同条1項の解任決議ではないため、2項を直接適用するか、類推適用するかを区別して検討する必要がある。

類推適用を肯定する理由は、任期途中で地位を失わせる点で解任と実質的に共通し、類推を否定すると、解任決議を避けて定款変更を用いることで取締役の任期に対する期待を無補償で失わせ得るからである。他方、全役員に一般的に適用される組織設計上の変更と、特定役員を排除するための変更とでは、339条2項の趣旨との近さが異なり得る。

令和4年司法試験の公式「出題の趣旨」及び「採点実感」も、定款変更による任期短縮の事案について、339条2項の直接適用又は類推適用を検討し、条文の趣旨と解任との共通性・相違を論じることを求めていた。

第4 「正当な理由」の判断

正当な理由は、取締役に職務を継続させることが困難な事情があるかという観点から判断される。典型的には、法令・定款違反、重大な任務懈怠、心身の故障又は職務への著しい不適任が問題となる。

心身の故障については、最高裁判所第一小法廷昭和57年1月21日判決(昭和56年(オ)第974号、集民135号77頁)が、持病の悪化により療養に専念するため株式を譲渡して代表取締役を交替した取締役を、経営陣の一新を図るため株主総会の決議で解任した事案について、旧商法257条1項ただし書の「正当ノ事由」がないとはいえないとした原審の判断を是認している。取締役が自ら経営の一線から退いた後の解任という事案であり、病気であれば常に正当な理由になるという判断ではない点に注意を要する。

単なる意見対立、経営方針の不一致又は支配株主との人間関係の悪化だけで直ちに正当な理由になるとは限らない。会社側は、問題となる行為、時期、職務への影響、改善要求及び代替策を具体化する必要がある。

任期短縮が全役員を対象とする一般的なガバナンス変更であっても、変更直後に特定の取締役だけを再任しなかった場合は、実質的な排除目的の有無が争点となり得る。議案作成過程、説明資料、議事録及び再任者の選定基準が重要である。

第5 損害額は残存任期分の全額か

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M&Aでデュー・ディリジェンスを省略した取締役の責任―親会社の指示・経営判断・子会社利益(AI作成)

第1 結論―M&Aの責任は判断過程から検討する
第2 取締役の善管注意義務と経営判断
第3 DDを省略・限定できる場合
第4 具体的な警告がある場合の調査
第5 親会社の指示と子会社の利益
第6 損害と因果関係
第7 残すべき資料
第8 法令・裁判例・裁判所資料

第1 結論―M&Aの責任は判断過程から検討する

M&Aの結果として対象会社の価値が下がっただけでは、直ちに取締役の責任が生じるわけではない。取引当時に入手できた情報、警告された危険、調査範囲を限定した理由、価格算定、代替案及び契約上のリスク配分を時点ごとに検証する。

一方、具体的な不正・簿外債務・過大評価の疑いを把握しながら、理由を記録せず調査を省略した場合には、「経営判断」であるという説明だけで免責されるとは限らない。

第2 取締役の善管注意義務と経営判断

会社法330条により会社と取締役との関係には委任に関する規定が適用され、会社法355条は忠実義務を定める。任務懈怠により会社に損害を与えた取締役は、会社法423条1項の責任を負う。

東京地方裁判所の公式資料「取締役の任務懈怠責任」は、会社の請求について、任務懈怠、損害及び因果関係を区別して主張立証する構造を示している。M&Aでは、買収の成否という結果だけでなく、情報収集・分析と意思決定の過程を具体化する。

東京高裁平成29年9月27日判決は、事業計画等の策定が将来予測を伴う専門的判断であることを前提に、その決定過程及び内容に著しく不合理な点があるかを検討している。

第3 DDを省略・限定できる場合

デュー・ディリジェンス(DD)の範囲は、取引規模、時間的緊急性、対象会社の業種、入手済みの監査資料、売主との関係及び調査費用によって異なる。常に最大範囲のDDを実施しなければならないわけではない。

ただし、限定する場合には、①調査対象から外す分野、②その理由、③残る危険、④価格への反映、⑤表明保証・補償・解除条件等の代替策を取締役会資料に残す。調査をしないことと、別の方法で危険を配分することは同じではない。

法務DDでは、許認可、重要契約、訴訟、知的財産、労務、個人情報、環境及びコンプライアンスを取引特性に応じて選ぶ。財務・税務・事業DDとの間で発見事項を共有し、価格算定へ反映する。

法務DDを弁護士に依頼する際は、弁護士の報酬に関する規程5条4項が委任契約書の記載事項とする業務の表示・範囲を出発点に、見積りの前提、対象外分野、追加調査の提案、警告された残存リスク及び会社側の採否を同時期の文書で残すことが実務上有用である。専門家への依頼内容と取締役会の判断記録を対応させるためである。報酬方式と算定基礎の詳細については「中小M&Aにおける弁護士報酬の決め方(AI作成)」を参照されたい。

中小M&Aでは、買主が対象会社の法務・財務・税務を調べるDDと、売主が買主自身の資力・契約履行能力を確認する調査を区別する。
対象会社のDDを実施しても、買主の代金支払、借換え又は経営者保証の解除が確実になるわけではない。
また、仲介者・FAが作成した説明資料が、独立した専門家によるDDと同じ範囲・責任を持つかは、担当者の資格、調査対象、未確認事項及び委任契約で確かめる必要がある。

中小企業庁の「【中小M&A専門人材(個人)向け】使命、倫理・行動規範、知識スキルマップ」(令和7年4月)82頁は、DDが十分でない場合、売主が負う表明保証の範囲や補償額・補償期間等の負担が増え得ることを説明する。
同資料145頁は、開示した情報を表明保証から除外する規定がない場合、開示した情報も補償の対象とされるリスクが残るとする。
DDで開示した事項が当然に表明保証・補償の対象外となるわけではなく、契約の例外規定と開示資料の対応を確認する必要がある。
これらは中小M&Aの実務資料の説明であり、DDを省略した取締役の責任について裁判所が示した判断基準そのものではない。
売主側から見た買主の資力確認と経営者保証の解除は「中小M&Aで経営者保証を残さないために(AI作成)」で、仲介者・FAの業務範囲の確認は「中小M&Aの仲介・FA契約を締結する前に(AI作成)」で整理している。

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事業譲渡で残存債権者は譲受会社に請求できるか―会社法22条・23条・23条の2とブランド続用(AI作成)

第1 事業譲渡では債務が当然に移らない
第2 商号を続用した譲受会社の責任
第3 ブランド・屋号を続用した場合
第4 債務引受けを広告した場合
第5 残存債権者を害する事業譲渡
第6 債権者側の調査と請求設計
第7 譲受会社側の予防策
第8 法令・裁判例

第1 事業譲渡では債務が当然に移らない

事業譲渡後も旧会社の債権者が譲受会社へ請求できるかは,債務不承継という契約の一文だけでは決まらない。
会社法上の商号続用責任,債務引受広告,詐害的事業譲渡による請求,個別の債務引受けを分けて確認する必要がある。
本記事は,令和8年10月20日に確認した法令と公開判決に基づき,債権者が請求先・根拠・証拠を選ぶ順序を整理する。

事業譲渡では,合併や会社分割と異なり,譲渡対象の資産・契約・債務を当事者間で個別に定める。
旧債務を譲渡会社に残す合意があっても,譲受会社に法定責任が生じるかは別に検討する。
元の債権が成立していること,弁済期,既払額等を確認した上で,誰へどの金額を請求するのかを整理する。

第2 商号を続用した譲受会社の責任

会社法22条1項は,事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合に,譲渡会社の事業によって生じた債務を譲受会社も弁済する責任を負うと定める。
事業譲渡契約で除外された債務でも,同項の要件を満たすかを別に確認する。

同条2項の免責登記,又は事業譲受け後遅滞なく両会社から行う免責通知による例外も調べる。
通知による例外はその通知を受けた第三者についてのものであるため,自分が受け取った文書の名義・内容・受領日と登記内容を確認する。
通知文があるというだけで,受け取っていない債権者や他の責任根拠にまで一律に免責を広げない。

登記・通知の準備と実行管理の詳細は,事業譲渡の債務不承継条項と対外責任で説明している。

第3 ブランド・屋号を続用した場合

商号そのものが異なる場合でも,屋号・ブランド等が営業主体を示す名称として使われていたときは,商号続用責任の類推適用が問題となり得る。
最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決は,ゴルフクラブ名の続用について旧商法26条1項の類推適用を示し,特段の事情の審理のため差し戻した。

同じ商品名・看板・ウェブ表示があるだけで結論を出さず,表示の機能と譲渡前後の事実を確認する。
判例の適用範囲と証拠の整理は,事業譲渡で屋号・ブランドを続用すると旧債務を負うかを参照されたい。
会社法22条4項の弁済の効力に関する善意・重大な過失がないという条件を,同条1項へそのまま追加しない。

(続きを読む...)事業譲渡で残存債権者は譲受会社に請求できるか―会社法22条・23条・23条の2とブランド続用(AI作成)