第1 結論
新株発行不存在確認の訴えは,外形上も新株発行と評価できる会社の組織行為が存在しないことを確認する訴えであり,現行会社法829条1号に定められている。新株発行無効の訴えと異なり,同条には原告資格と出訴期間の列挙がない。
しかし,誰でもいつでも抽象的に確認を求められるわけではない。最高裁平成4年10月29日判決は,原告らが会社の株主でないことが別件判決で確定し,当該新株発行について他に格別の利害関係もない事案で,確認の利益を否定して訴えを却下した。
実務では,①そもそも新株発行と認められる外形があるか,②原告の株主資格その他の法的地位は何か,③発行の存否が現在の権利関係にどのような影響を与えるか,④別件訴訟や後発事情によってその影響が失われていないかを分けて主張立証する。
第2 三つの訴えを区別する
1 新株発行無効の訴え
会社法828条1項2号は,株式会社の成立後における株式の発行の無効の訴えを定める。出訴期間は効力発生日から6か月以内であり,公開会社でない株式会社では1年以内である。同条2項2号により提訴できる者は当該株式会社の株主等に限られる。
この訴えは,外形上は株式発行が存在するが,法令・定款違反等の無効原因があると主張する場合の訴えである。手続違反があれば常に無効になるわけではなく,無効原因の判断は取引安全との調整を伴う。
2 新株発行不存在確認の訴え
会社法829条1号は,株式会社の成立後における株式の発行について,当該行為が存在しないことの確認を訴えで請求できると定める。同条には出訴期間も提訴できる者の列挙もない。
もっとも,「不存在」は単なる手続上の瑕疵の大小ではない。発行決定,募集事項,申込み・割当て,払込み又は現物出資,登記,株主名簿,株券その他の客観的経過を通じ,会社の組織行為として株式発行があったと認められる外形そのものがあるかを検討する。
3 株主総会決議の不存在・無効確認
会社法830条は,株主総会等の決議の不存在又は無効確認の訴えを定める。新株発行を決めた株主総会の招集・決議過程に問題がある場合でも,争う対象が「決議」なのか,その後の「株式発行」なのかを区別しなければならない。
決議が存在しない又は無効であることと,株式発行自体が不存在又は無効であることは当然には同じではない。請求の趣旨,出訴期間,被告,判決効及び無効原因を訴えごとに確認する。
第3 最高裁平成4年10月29日判決
1 事案と原審
最高裁第一小法廷平成4年10月29日判決(昭和63年(オ)第958号)は,原告らが会社の株主であることを前提として,会社が昭和55年8月1日にした6000株の新株発行が存在しないことの確認を求めた事案である。
原告らは,亡くなった者から株式を相続して株主になったと主張していた。しかし,別件の株主資格確認訴訟について,原告らが当該株式の株主ではないとした控訴審判決が,同年6月25日の最高裁判決により確定していた。
2 最高裁の判断
最高裁は,原告らが株主でないことが別件で確定し,本件新株発行について他に格別の利害関係を有するものとも認められないことから,新株発行が存在しないことの確認を求める訴えの利益がないとした。
そして,本案について判断した原判決を破棄し,第一審判決を取り消して,原告らの訴えを不適法として却下した。新株発行が実際に存在したか否かについて判断したのではなく,その前提となる確認の利益で訴訟を終結させた判決である。
3 判決から得られる実務上の意味
会社法829条が提訴権者を限定していないことから,株主以外には常に訴えの利益がないと読むべきではない。反対に,提訴権者の列挙がないことから誰にでも訴えの利益があると読むこともできない。
発行の存否により,原告の持株比率,議決権,配当,残余財産分配,株式価値,役員選任・解任その他の法的地位が現実に左右されることを具体化する必要がある。債権者その他の第三者が提訴する場合も,単なる事実上・経済上の関心ではなく,確認判決により除去される法的不安を特定する。
株主資格自体が争われているときは,株主資格確認訴訟との先後,併合,既判力及び一方の確定が他方の確認の利益に及ぼす影響を検討する。訴え提起後の別件判決確定等により,確認の利益が失われることもある。
第4 現在の会社法上の手続
1 被告・管轄・必要的併合
会社法834条13号により,会社法829条1号の新株発行不存在確認の訴えでは,当該株式会社を被告とする。835条1項により,被告会社の本店所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄である。
同じ請求を目的とする会社の組織に関する訴えが数個同時に係属するときは,会社法837条により弁論及び裁判を併合しなければならない。提訴前に同一発行を争う別訴の有無を確認する。
2 認容判決の対世効
会社法838条は,会社の組織に関する訴えに係る請求を認容する確定判決が第三者に対しても効力を有すると定める。新株発行不存在確認の認容判決も,原告・被告間だけで完結しない。
この対世効があるため,請求の対象となる発行行為を日付,発行株式数,種類,払込金額,割当先及び登記事項等で特定し,別の発行と混同しないことが重要である。
3 無効判決の将来効との違い
会社法839条は,同条が列挙する無効・取消しの訴えについて,認容判決で無効又は取消しとされた行為が将来に向かって効力を失うと定める。しかし,同条の対象となる会社法834条の号には,新株発行不存在確認の訴えに関する13号が含まれていない。
したがって,新株発行無効判決についての将来効を,不存在確認判決へそのまま適用することはできない。不存在の場合の法律関係,登記,株主名簿,既払配当及び第三者との取引をどのように処理するかは,請求対象と具体的関係ごとに検討する。
第5 不存在か無効かを分けるための証拠
新株発行の客観的経過を,次の資料で時系列に固定する。
- 取締役会・株主総会の招集通知,議事録及び決議資料
- 募集事項,株主への通知・公告,申込書及び割当通知
- 払込取扱機関の証明,預金口座の入出金,現物出資資料及び会計仕訳
- 株主名簿,株券台帳,株券,新株式申込証拠金領収書及び配当記録
- 資本金・発行済株式総数の変更登記,登記申請添付書類及び閉鎖事項証明書
- 発行後の議決権行使,株主総会出席,譲渡,質権設定及び組織再編の資料
決議書や登記があることだけで実体が必ず存在するとも,払込みに問題があることだけで直ちに不存在になるとも限らない。発行行為の外形の有無と,存在する発行行為の瑕疵を分けて評価する。
第6 確認の利益を基礎付ける事情
原告が株主である場合は,株主名簿,株券,取得契約,相続関係,名義書換請求及び別件訴訟の有無から株主資格を固める。その上で,問題の発行が持株比率,議決権数,配当又は会社支配へ及ぼす影響を計算する。
原告が株主以外である場合は,発行不存在の確認によって除去される現在の法的不安を具体的に示す。単なる経営上の不満,競争上の関心又は一般的な法令遵守への関心だけでは足りない可能性が高い。
確認の利益は口頭弁論終結時まで必要である。株式譲渡,相続,自己株式取得,株式併合,組織再編,別件判決の確定,和解その他の後発事情を定期的に確認する。
第7 訴え提起前後のチェックリスト
- 争う対象は,新株発行,発行決議,株主資格又は登記のどれか。
- 発行の外形がない不存在か,存在する発行の瑕疵をいう無効か。
- 無効の訴えの出訴期間と原告資格を満たすか。
- 不存在確認により除去される原告の現在の法的不安は何か。
- 株主資格その他の前提問題を争う別件訴訟はあるか。
- 提訴後に確認の利益を失わせる後発事情がないか。
- 対象発行を日付,株式数,種類,金額及び割当先で特定したか。
- 会社を被告とし,本店所在地の地方裁判所へ提訴するか。
- 同一請求の訴訟が他に係属していないか。
- 認容判決の対世効と,登記・株主名簿・既払配当等の後続処理を見通したか。
第8 出典及び確認限界
会社法828条,829条,830条,834条,835条,837条,838条及び839条(e-Gov法令検索)
最高裁第一小法廷平成4年10月29日判決(昭和63年(オ)第958号,裁判所公式全文)
平成4年判決は旧商法下の事案であり,現行会社法829条の制定後の事案ではない。ただし,株主資格を否定する別件判決の確定と,その他の格別の利害関係の不存在から確認の利益を否定した判断は,現在の訴訟要件を検討する上でも重要である。
第9 まとめ
新株発行不存在確認の訴えでは,「期間制限がない」ことより先に,発行行為の外形が本当にないのか,原告に現在の確認の利益があるのかを確認する。株主資格を前提とするなら,その資格を基礎付ける証拠と別件訴訟の状況を同時に監査する。無効・不存在・決議不存在を区別し,請求,証拠及び判決後の処理まで一体として設計することが重要である。