目次第1 研究会が検討したADRにおけるAI利用1 対象とするADRの範囲2 取りまとめの参照箇所第2 現行法の説明義務と研究会の見解1 手続実施者と手続の説明2 AIの役割に応じた説明第3 区別して確認したい三つの意思決定1 手続の利用とAI利用への理解2 提示された和解案を受け入れるか第4 説明内容を具体的にするための確認事項1 抽象的なAI利用の告知だけで済ませない2 情報の取扱いへの同意を別に確かめる第5 AI利用を望まない場合の確認第6 資料と確認時点
第1 研究会が検討したADRにおけるAI利用
ADRでAIを使うことへの同意と,AIが関与して作られた和解案を受け入れることへの同意は,分けて確認する必要がある。
公益社団法人商事法務研究会の「AI時代における民事司法を考える研究会」は,取りまとめでADRにおけるAI利用を検討し,手続の選択,適切な説明及び当事者の理解を重視している。
本記事では,現行のADR法の規定,研究会の見解及び実務上の確認事項を区別して整理する。
1 対象とするADRの範囲
ADRは,訴訟手続によらない紛争解決手続を指す広い言葉である。
ここで主に扱うのは,裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)の民間紛争解決手続,すなわち当事者双方の依頼と契約に基づいて和解を仲介する手続である。
そのうち法務大臣の認証を受けた業務として行われる手続が,認証紛争解決手続となる(同法2条)。
裁判所の調停,仲裁判断を行う仲裁及び個別の業法に基づく制度などは,根拠法や仕組みが異なる。
本記事の認証ADRに関する説明を,全ての制度に一律に当てはめることはできない。
2 取りまとめの参照箇所
AI利用に関する主な記述は,研究会の取りまとめ第5「その他の利活用場面」の1「ADRにおける利活用の可能性」にある(本文49~50頁,PDFの53~54枚目)。
研究会資料の全体像は,「AI時代における民事司法を考える研究会」取りまとめの要点と限界で説明している。
取りまとめで示された運用の考え方と,現行法が直接定める義務とは,分けて読む必要がある。
第2 現行法の説明義務と研究会の見解
1 手続実施者と手続の説明
ADR法6条2号は,取り扱う紛争の範囲に応じ,和解の仲介にふさわしい者を手続実施者として選任できることを認証の基準としている。
また,同法14条は,認証紛争解決事業者に対し,手続を行う契約を締結する前に,手続実施者の選任に関する事項,当事者が支払う報酬・費用,標準的な手続の進行,その他法務省令で定める事項を説明する義務を定めている。
説明は,書面の交付又は電磁的記録の提供により行う。
この制度の中でAIを利用する場合も,誰が手続を担当し,どのように進め,どの費用が生じるかを利用者が理解できることが基礎となる。
「AIが案内したから」「AIが和解案を作ったから」というだけで,運営者や手続実施者の役割がなくなるわけではない。
2 AIの役割に応じた説明
研究会は,資料の整理や参考案の作成と,判断に近い役割をAIに担わせる場合とを区別し,利用者の属性も踏まえて,説明の必要性と程度を検討している。
AI利用が手続の進め方に関わる場合には,同法14条3号の標準的な手続の進行に関する説明との関係も問題となる。
とりわけ,利用者がAIの働き方や限界を理解した上で,その手続を選択できることが重要である。
取りまとめは,AI利用について十分な説明を受け,その利用を含む手続を選択する場合の同意を検討している。
ただし,これを「あらゆるAI利用について,法律上必ず独立した同意書が必要である」と一般化することはできない。
具体的なAIの役割,手続規則,説明内容及び契約の仕組みを確認する必要がある。
第3 区別して確認したい三つの意思決定