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AIと声の権利―声の無断利用・AIカバーと肖像権の保護(AI作成)

第1 AIによる声・肖像の無断模倣に対する現行法の結論

1 声の権利はどのように保護されるか

AIによる声の無断利用は,声そのものに著作権法上の権利が及ばない場合でも,適法とは限らない。
本人の声の顧客吸引力を専ら利用する場合にはパブリシティ権が,声の利用により人格的利益を社会生活上受忍すべき限度を超えて侵害する場合には,声をみだりに利用されない権利が問題となる。

「声の権利」は,ここでは声に関係する複数の権利利益を説明する呼称であり,あらゆる学習,生成,公開及び販売を一律に禁止できる単一の法定権利を意味しない。
①本人の声の顧客吸引力の利用,②精神的な人格的利益の侵害,③商品又は営業の出所についての混同,④商品・役務の内容等の誤認,⑤実際の録音,楽曲,写真又はイラストの利用を分けて検討する必要がある。

したがって,「本人に似ている」「許諾を得ていない」又は「AIで作った」という事実だけから,直ちに違法又は適法と結論付けることはできない。
本人と識別できるか,どの利益を侵害する利用か,商品・広告・投稿との結び付きは何かという具体的な利用態様が結論を左右する。

2 令和8年8月の法務省報告書は解釈指針であること

法務省は,令和8年8月,「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会取りまとめ報告書―生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―」を公表した。
同年10月22日には,東京地方裁判所令和8年9月30日判決の追補等を加えた第1.1版が公表された。
同報告書は,声もパブリシティ権及び肖像等をみだりに利用されない権利の保護対象となることを明記し,AIカバー,広告,生成AIサービス,データセット等の想定事例を検討している。

同報告書は,現行の判例法理及び不正競争防止法を具体的事例へ適用するための解釈指針であり,新たな法律又は裁判所を拘束する判例ではない。
また,所属事務所等が本人とは別に損害賠償又は差止めを請求できる範囲など,検討会で見解が一致しなかった論点も残されている。

3 AIによる声の利用で問題となる権利の早見表

次の表は,法務省の令和8年8月報告書等を踏まえた確認の入口である。
各行の事情だけで一律に適法又は違法と決まるものではなく,学習,生成,提供及び公開を分けて判断する。

利用場面主に検討する権利判断の要点
著名人の声によるAIカバー・広告パブリシティ権本人の声として識別でき,専ら顧客吸引力を利用したか
一般人を含む性的・侮辱的な合成音声声をみだりに利用されない権利保護される人格的利益と受忍限度を検討する
収益目的のないSNS投稿上記の権利を別々に検討非収益だけでは適法と決まらない
実際の歌唱・演技の録音の利用著作権・著作隣接権声質の模倣と,録音・楽曲等の利用を区別する
AIモデルの学習・提供,データセット販売行為段階ごとの責任学習自体のパブリシティ権侵害には見解対立がある

第2 本人を識別できるかと利用段階を分けて判断すること

1 声の類似性だけでなく表示及び文脈も考慮されること

法務省報告書は,声の利用が本人の声の利用に当たるかについて,声の類似性に加え,本人名,曲名,映像,説明文その他の付加情報を考慮し,需要者が本人の声と認識できるかによって判断するとの整理を示している。
声紋その他の科学的分析は一つの考慮要素となり得るが,その一致又は不一致だけで法的な本人識別可能性が決まるものではない。

通常の物まねや声まねは,芸をする人自身の氏名・芸名・肖像等を示して行われ,人物識別情報としてはその芸をする人を示すことなどから,まねされた本人のパブリシティ権侵害には当たらないと解されている。
ただし,本人を示すものとして顧客に誤解されるような利用には,侵害となる余地がある。

AI合成音声については,本人が実際に歌唱・発言したとの誤認と,本人の声として識別されることを区別しなければならない。
「AI歌手○○に歌わせてみた」と表示して実際の録音でないことが分かる場合でも,声の類似性と氏名等の付加情報を総合して本人の声と識別できれば,パブリシティ権の保護対象である本人の声の使用に当たり得る。

2 学習,生成,提供及び公開は別の行為であること

学習用データへの収録,AIモデルの学習,生成物の出力,サービスの提供及び生成物の公開・販売は,それぞれ行為主体と利用目的が異なる。
公開された広告が違法となり得るからといって,その生成に関係したすべての行為及び事業者が同じ理由で責任を負うわけではない。

検討の順序は,①何が入力・学習されたか,②誰がどのような指定で生成したか,③生成物から本人を識別できるか,④誰が広告,販売又は投稿を決定したか,⑤提供者が具体的な侵害を認識でき,合理的な防止措置を採れたか,という段階別の確認となる。
この区分は,権利者側の証拠保存にも,利用者・事業者側の責任範囲の判断にも共通する。

第3 パブリシティ権による保護

1 最高裁が示した権利の内容及び三つの典型例

最高裁第一小法廷平成24年2月2日判決(平成21年(受)第2056号・民集66巻2号89頁)は,パブリシティ権を,人の氏名,肖像等が持つ顧客吸引力を排他的に利用する権利であり,人格権に由来する権利の一内容であるとした。
同判決は,無断使用が不法行為法上違法となる典型例として,①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合,②商品の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合,③肖像等を商品等の広告として使用する場合を挙げた。

三つの類型は例示であるが,違法となるのは,利用の目的,方法及び態様を全体として見て,専ら肖像等の顧客吸引力を利用する目的といえる場合である。
顧客吸引力の有無は,全国一般への知名度だけでなく,商品・役務の対象となる需要者層に即して判断される場合がある。
大阪高等裁判所平成29年11月16日判決(平成29年(ネ)第1147号)は,フィットネスプログラム「Ritmix」のマスタートレーナーについて,日本のRitmix愛好家の間における一定の顧客吸引力を認めた。
また,最高裁第一小法廷平成24年2月2日判決の金築誠志裁判官の補足意見は,顧客吸引力以外の目的がわずかにあるだけで「専ら」が否定されるものではなく,写真の大きさ及び取扱い方と記事内容等を比較し,記事が添え物で独立した意義を認め難い場合等には「専ら」に当たり得ると説明している。
無断利用又は営利利用であることだけでは足りず,報道,論説,創作等の正当な表現行為として受忍すべき場合がある。

顧客吸引力,「専ら」の要件及び主要裁判例の比較については,パブリシティ権の要件と裁判例-顧客吸引力,「専ら」要件及び肖像権との違いで詳しく整理している。

本人死亡後のパブリシティ権,相続及び遺言による承継については,死後のパブリシティ権は相続・遺言の対象になるかで整理している。

2 AIで合成された声又は肖像にも適用され得ること

(1) 声も「氏名,肖像等」に含まれること

最高裁平成24年2月2日判決は声を明示的に列挙していないが,法務省報告書は,声が個人を識別する情報であり人格の象徴でもあることから,同判決のいう「氏名,肖像等」に含まれ,パブリシティ権の対象となると整理した。
したがって,本人の録音をそのまま複製していないAI合成音声でも,本人の声と識別でき,その顧客吸引力を専ら利用した場合には,パブリシティ権侵害が成立し得る。

声をコンテンツの一部として利用した場合が最高裁の第1類型に当たるか,三類型に準ずる「など」の場合に当たるかには議論がある。
もっとも,法務省報告書は,最終的には肖像等の顧客吸引力を専ら利用する目的の有無によって判断するため,形式的な類型の違いが直ちに結論を変えるものではないとする。

(2) AIカバー及び広告への利用

本人と識別できる声によるAIカバーを販売し,又はSNS上に公開して収益を得る行為は,利用態様によって,専ら声の顧客吸引力を利用するものとしてパブリシティ権侵害となり得る。
法務省報告書93頁~96頁の想定事例2は,生成した音源をSNS上に公開して収益を得た事例であり,視聴者が料金を払う有償配信だけに限定したものではない。

本人と識別できるAI生成画像又は合成音声を商品の主たる広告へ使う行為も,最高裁が挙げた広告利用の類型に当たり得る。
他方,人物に似ている程度が低い場合,本人との関係を示す表示がない場合,又は肖像等が論説・創作の補助的な素材にとどまる場合は,識別可能性又は専ら利用目的が否定される余地がある。

3 非営利投稿及び表現行為には限界があること

収益を得る目的がない興味本位の投稿は,法務省報告書の想定事例では,肖像等を「商品等」として扱う最高裁の三類型に該当するとはいい難いと整理されている。
もっとも,同報告書は,多数のフォロワー数又は閲覧数を獲得する意図があり,投稿が多数の閲覧数・再生数を獲得し,これによって本人に営業上の不利益を現に生じさせたと認められる場合には,三類型に準ずる「など」に該当し得るとの考え方を示す。この解釈には異なる立場もあり,再生数又は非営利との表示だけで侵害の有無を決めるものではない。
また,投稿に自らの商品・サービスの紹介又は販売サイトへの誘導を含め,視聴者を誘引する場合には,広告利用の第3類型に当たり得る。

パロディ,批評,報道又は創作に本人の声・肖像を用いる場合は,顧客吸引力の利用と表現上の必要性を区別しなければならない。
パブリシティ権は表現行為を一律に排除する権利ではなく,最高裁判例の「専ら」という限定が,顧客吸引力の保護と表現の自由を調整する役割を持つ。

第4 肖像・声をみだりに利用されない人格的利益

1 著名人に限られない保護であること

顧客吸引力を持たない一般人であるためパブリシティ権が成立しない場合でも,肖像又は声の無断利用が人格的利益を侵害し,社会生活上の受忍限度を超えれば,民法709条の不法行為が成立する余地がある。
法務省報告書は,声についても,肖像と同様に,本人の意思に反してみだりに利用されない人格的利益の保護対象となり得ると整理している。

最高裁第一小法廷平成17年11月10日判決(平成15年(受)第281号・民集59巻9号2428頁)は,写真だけでなく,自己の容貌等を描写したイラスト画についても,みだりに公表されない人格的利益があるとした。
同判決は,イラスト画には作者の主観や技術が反映され,見る側もそのことを前提に受け取るという写真とは異なる特質があるため,利用目的,方法,態様等を総合して受忍限度を判断している。

この最高裁判決はAI生成画像を扱ったものではないため,その結論をAIによる描写へ機械的に移すことはできない。
声については,法務省報告書112頁~114頁が,保護される利益の内容を検討した上で,本人の社会的地位・活動内容,利用の目的・態様・必要性等を総合し,社会生活上受忍すべき限度を超えるかを判断すると整理している。

パブリシティ権で問題となる顧客による本人の声の識別と,名誉感情や私生活の平穏を保護する場面の本人による対象認識は,同じ基準ではない。
後者では,本人が自分を対象とした音源であると認識できれば侵害が成立し得るが,他の資料を基礎としてもおよそ本人を対象としたものといえない場合まで保護するものではない。
性的・侮辱的な内容,公開範囲,本人に生じる不利益等も評価し,パブリシティ権侵害と人格的利益の侵害が併存する場合があることにも注意する。

2 差止め及び損害賠償の範囲

人格的利益を侵害する無断利用について,民法709条及び710条に基づく損害賠償が問題となり,精神的損害が認められれば慰謝料請求の対象となり得る。
差止めは民法に明文の一般規定がないが,法務省報告書は,人格権に基づき,侵害が継続し,又は反復されるおそれがあり,差止めの必要性が認められる場合には請求できる余地があると整理している。

インターネット上の削除を含む差止めの可否は,侵害の明白性,継続・反復のおそれ,表現上の利益及び請求対象の特定等に左右される。
肖像権,プライバシー及び名誉に関する一般的な判断枠組みは,名誉毀損又はプライバシー侵害が違法となる場合で整理している。

第5 不正競争防止法による保護

1 問題となり得る四つの行為類型

経済産業省及び法務省報告書は,AIによる俳優,声優等の肖像・声の利用について,事案により,不正競争防止法2条1項1号,2号,20号又は21号が適用され得ると整理している。
もっとも,同法は肖像又は声そのものを包括的に保護する法律ではなく,次の各号の固有要件を満たす場合に限って適用される。

行為類型主な要件AIによる無断模倣で問題となる場面主な限界
1号・周知表示混同惹起行為周知な商品等表示,表示としての使用,類似性,混同周知の声又は肖像を用い,本人又は本人の事業による商品・サービスと誤信させる場合単なるコンテンツの題材では足りず,AI利用の明示により混同が否定され得る
2号・著名表示冒用行為著名な商品等表示,自己の商品等表示としての使用,類似性著名な声又は肖像を,提供者自身の商品・サービスの出所表示として用いる場合混同は不要であるが,表示としての使用は必要である
20号・誤認惹起行為商品・役務又は広告等における品質・内容等の誤認表示本人が出演,歌唱,推奨又は監修したかのような広告表示をする場合無断広告のすべてが,商品・役務の品質又は内容等に関する誤認となるわけではない
21号・信用毀損行為競争関係,虚偽の事実,営業上の信用の毀損競争者が,AI生成物により本人又は事業者が問題行動をしたとの虚偽事実を流布する場合権利者と行為者の間に競争関係がなければ適用しにくい

2 「商品等表示」として使用されたかが大きな限定となること

1号及び2号の「商品等表示」は,人の業務に係る氏名,商号,商標,商品の容器・包装その他の商品又は営業を表示するものをいい,出所を識別する機能を持つ必要がある。
肖像又は声が動画・作品の内容又は題材として使われただけでは足りず,本人又は本人の事業の商品等表示として需要者に認識されているか,行為者が自己の商品等表示として使用したかを分けて検討する。

声単独で商品等表示性が認められる場面は限定されるが,特徴的な決めぜりふ,キャラクター,番組名又は継続的な広告表現と結び付く場合には,出所識別機能が認められやすくなる。
通常のCM出演では,視聴者が出演者を広告対象商品の出所表示と受け取らないことも多く,著名人の広告利用であることと商品等表示の使用であることは同じではない。

3 AI利用の明示には異なる法的効果があること

「AI歌手○○」「AIによる合成音声」などの明示により,本人自身が歌唱・推奨したとの混同が弱まれば,不正競争防止法2条1項1号の適用は否定されやすくなる。
しかし,その表示が本人名と生成物を強く結び付け,本人の声を識別させる役割を果たすときは,パブリシティ権における本人識別可能性をかえって高めることがある。

また,2号は混同を要件としないため,AIであることを明示しても,著名な商品等表示を自己の商品等表示として使用する要件を満たせば問題が残る。
AI表示は透明性確保に有用であるが,すべての権利について適法性を保証する表示ではない。

法律事務所がAI生成の人物画像・動画を広告に使う場合の表示,弁護士広告,守秘及び制作記録については,AI生成画像・動画を法律事務所サイトで使う際の注意点を参照されたい。

4 請求主体及び救済

不正競争防止法3条は,不正競争によって営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者に,侵害の停止・予防及び必要な廃棄・除却等の請求を認め,同法4条は,故意又は過失による不正競争について損害賠償を定める。
同法上の商品等表示又は営業上の利益の主体であれば,本人に限らず,所属事務所又はライセンシーが請求主体となる余地があるが,個別の契約及び表示の帰属を確認しなければならない。

これに対し,パブリシティ権は人格権に由来するため,原則として本人が権利主体となる。
もっとも,前記大阪高等裁判所平成29年11月16日判決は,パブリシティ権そのものは一身に専属し,譲渡又は相続の対象にならないとした上で,少なくとも,独占的利用許諾を受けた者が現実に市場を独占しており,警告後も第三者が無断利用を継続した場合には,その利用許諾を受けた者との関係でも債権侵害による不法行為が成立するとした。
法務省報告書は,同判決を踏まえ,独占的ライセンシー自身の損害賠償請求が認められ得る場面を示す一方,差止請求については転用型債権者代位による可能性を検討し,パブリシティ権の譲渡性については裁判例,学説及び検討会で見解が一致していないと整理している。
したがって,専属契約があることだけから当然に本人と同じ範囲の請求主体になるとはいえず,独占的利用許諾の内容,市場独占の実態,警告後の利用継続及びライセンサーの侵害排除義務等を個別に確認する必要がある。

第6 著作権法による保護との境界

1 実際の実演と声質の模倣を区別する必要があること

著作権法91条は実演家に「その実演」を録音・録画する権利を,同法92条の2は「その実演」を送信可能化する権利を認めているため,本人の実際の演技又は歌唱の録音を複製・公開する場合には,実演家の著作隣接権が問題となる。
これに対し,文化庁の令和6年度法制度ワーキングチームは,実演の録音そのものではないAI合成音声の生成・利用について,実演家の権利が及ぶと理解することは難しく,声それ自体には著作権法上の権利が及ばないと整理した。

合成音声に既存の楽曲を歌わせる場合の楽曲,動画中の写真又はイラスト,学習時に利用した実演・レコード等には,それぞれ別の著作権又は著作隣接権が成立し得る。
声質の模倣が実演家の権利の対象になりにくいことは,利用した楽曲,録音又は画像について著作権侵害が成立しないことを意味しない。

2 学習段階の著作権法上の評価

著作権法30条の4は,情報解析その他の著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し,又は他人に享受させることを目的としない利用を,必要と認められる限度で認めるが,著作権者の利益を不当に害する場合を除外している。
同法102条1項は,同法30条の4を実演,レコード等にも準用している。

したがって,学習段階の適法性は,利用対象が著作物又は実演等であるか,利用目的が非享受目的であるか,必要な限度か,権利者の利益を不当に害するかによって判断する。
この著作権法上の評価と,学習又はサービス提供が本人の顧客吸引力若しくは人格的利益を侵害するかという不法行為法上の評価は,別個に行う必要がある。

第7 利用者,提供者及びデータセット事業者の責任

1 生成物を選択して公開した利用者

利用者が本人と容易に識別できる声又は肖像を意図的に生成し,商品広告,販売物又は収益化コンテンツへ用いた場合は,利用者自身についてパブリシティ権侵害又は不正競争が成立する可能性が高くなる。
本人名をプロンプトへ入力しなかった場合でも,生成物,タイトル及び表示から著名人と容易に識別できるのに,合理的な確認をせず公開したときは,故意がなくても過失が認められる余地がある。

2 生成AIの開発者及びサービス提供者

汎用的なモデル又は生成AIサービス自体は,通常,特定人の「肖像等」ではないため,その提供だけで最高裁の三類型に直接該当するとは限らない。
もっとも,特定の俳優,声優等を容易に再現できることを有料サービスの売り文句として提供する場合は,その人の顧客吸引力をサービス販売に利用する行為として,三類型に準ずる侵害となる余地がある。

利用者の侵害について提供者が共同不法行為責任を負うかは,侵害の蓋然性及び重大性,具体的な通知等による認識可能性,説明・警告,フィルタリング,出力制限その他の防止措置を踏まえて判断される。
汎用サービスを提供したという事実だけで当然に責任を負うものではないが,特定人の侵害を認識した後も容易に採れる措置を講じなかった事情は,責任を肯定する方向に働き得る。

3 データセット販売及び学習そのもの

特定の著名人の写真又は音声を集積した専用データセットを商品として販売する場合は,肖像等それ自体を独立して鑑賞・利用の対象となる商品として扱い,パブリシティ権を侵害する余地がある。
多数の人物・物を含む一般的な大規模データセットでは,通常,特定人の顧客吸引力を専ら利用する目的は認められにくいが,広告で特定人の収録を強調すれば評価が変わり得る。

特定人を再現する目的で画像又は音声をモデルに学習させる行為それ自体が,パブリシティ権侵害となるかについては,法務省報告書でも見解が分かれている。
学習行為だけで直ちに侵害と断定することはできない一方,侵害となるサービス提供又は生成物販売が具体的に差し迫っている場合には,その予防を求める請求の可否が別に問題となる。

第8 今後の法改正及びソフトロー

1 令和6年から令和8年までの政府検討

知的財産推進計画2024は,生成AIによる俳優・声優等の肖像・声の利用と不正競争防止法との関係を整理し,必要に応じて見直しを検討する方針を掲げた。
経済産業省は令和7年に現行不正競争防止法の適用可能性と限界を整理し,知的財産推進計画2026は,現行法・判例法理の整理,ガイドライン等の作成及び不正競争防止法改正を含むハードロー整備の必要性に関する議論の継続を掲げた。

これを受けて公表された令和8年8月の法務省報告書は,声を含む現行法上の保護と複数の想定事例を詳細に示した解釈指針である。
同報告書の公表によって予測可能性は高まったが,声又は肖像に関する新たな排他的権利が法律上創設されたわけではない。

2 不法行為法制研究会と検討段階

令和8年8月27日までに確認した法令及び政府資料の範囲では,AIによる声・肖像の模倣を包括的に規制する改正法は成立しておらず,不正競争防止法改正の具体的な条文及び施行時期も確定していない。
知的財産推進計画に「ハードロー整備の必要性」が記載されたことと,改正方針又は法案が決定したことは区別する必要がある。

その後,令和8年9月30日に第1回不法行為法制研究会が開催された。資料1は,人格権又は人格的利益,差止請求の明文化,未成年者の性的被害等の時効,犯罪被害の損害賠償等を検討課題に挙げる基礎研究の資料である。
同研究会は,令和8年8月の肖像・声等の検討会取りまとめ報告書と区別する必要がある。研究会の発足や資料への論点掲載を,AIによる声・肖像の包括的な禁止,新しい権利の創設又は改正法の成立と扱ってはならない。現行の請求では,本記事で説明した各権利の成立要件と個別の利用態様を検討する。

また,経済産業省の産業構造審議会知的財産分科会不正競争防止小委員会は,令和8年9月11日の第30回会合で俳優・声優の団体等からヒアリングを行い,同年10月13日の第31回会合で,①不正競争防止法2条1項1号の商品等表示の例示に「肖像」と「音声」を明記する方向性と,②肖像や声の無断使用を不正競争の新たな類型とする方向性を,検討の案として示した。
これは審議資料に記載された案であり,法案の内容や施行時期は決まっていない。
小委員会の経過と2つの方向性の違いは,声と肖像の無断利用に不正競争防止法改正の動き―経済産業省の小委員会(令和8年10月13日)が示した2つの方向性と現行法(AI作成)で扱っている。

今後の制度設計では,①本人の同意及び対価還元,②AIで生成した旨の表示,③差止め及び損害賠償の要件,④故人,一般人,キャラクター等の保護範囲,⑤報道,批評,パロディ及び創作の自由,⑥開発者,提供者,利用者及びプラットフォーム間の責任分配が論点となる。
法改正の有無だけでなく,法務省報告書の運用,裁判例の蓄積及び事業者の自主的なルール形成を併せて追跡する必要がある。

ハードローの検討と並行する生成AI事業者向けのソフトローについては,生成AIプリンシプル・コードとは――対象事業者,適用除外,開示事項及び届出の意味で説明している。
プリンシプル・コードへの適合と,パブリシティ権侵害その他の民事責任の成否は,制度上別の問題である。

弁護士会でもこの問題への関心が広がっており,日本弁護士連合会は,2026年9月5日開催の第24回弁護士業務改革シンポジウムの一分科会(生成AI時代のスポーツ・エンターテインメントとパブリシティ権)で,生成AIとパブリシティ権の問題を取り上げている。
詳細は「第24回弁護士業務改革シンポジウム(2026年9月5日・福岡)の分科会一覧」を参照されたい。

第9 AIに声・肖像を無断利用されたときの対処法

1 生成物だけでなく表示及び流通状況を保存すること

権利者側は,削除要請をする前に,①公開URL,アカウント名及び投稿日時,②音声・画像・動画の原データと画面表示,③商品,広告又は有料サービスとの結び付き,④本人名,肩書,曲名,キャラクター名,ハッシュタグ等の表示,⑤AI生成である旨の表示,⑥再生数,販売数その他の公開数値,⑦プラットフォームへの申告及び相手方からの回答を保存する必要がある。
本人識別可能性は生成物だけでなく付加情報から判断され,不正競争防止法上の混同又は誤認は販売画面及び広告表示から判断されるため,音声又は画像のファイルだけを保存するのでは足りない。

相手方及び提供者に関する公開情報,利用規約,権利侵害申告窓口並びに保存日時も記録する。
削除後には表示文脈,販売条件又は再生数を再現できないことがあるため,低負担の画面保存及びファイル保存を先に行うのが合理的である。

声を無断利用されたときは,次の項目を一つの記録に対応させておくと,どの資料が何を示すかを説明しやすい。
これは法務省報告書の本人識別・利用態様の判断及び裁判例を踏まえた実務上の記録例であり,特定の様式や一律の提出期限が法律で定められているという趣旨ではない。

記録項目保存・確認する内容
対象と日時URL,投稿ID,アカウント,公開・確認日時,確認できた範囲
音声と文脈入手可能な音声・動画,画面全体,字幕,タイトル,説明欄,本人名・役名
利用態様有料販売,広告,商品・サービスへの誘導,公開されている再生数等
本人との関係比較対象となる適法に保有する録音,活動内容,許諾の有無・範囲
通知と対応通知先,通知内容,到達の記録,回答,その後の公開状態

保存できた公開情報と,学習元,運営者の内部記録,実際の収益額等の未確認事項は分ける。
保存できない項目があることだけで請求の可能性を否定せず,証拠の収集に時間をかけ過ぎて緊急の削除申告等を遅らせないよう,必要な保全と被害拡大の防止を並行して検討する。

2 権利主体と請求原因を選別すること

初期段階では,①本人のパブリシティ権又は人格的利益,②所属事務所等の不正競争防止法上の営業上の利益,③実演・楽曲・写真等の著作権又は著作隣接権,④契約上の権利を分け,誰がどの請求をできるかを確認する。
その上で,利用停止・削除の申入れ又はプラットフォームの権利侵害申告を行い,応じない場合に仮処分,本案の差止請求又は損害賠償請求を検討することになる。

不正競争防止法3条を用いるには営業上の利益の侵害又はそのおそれが必要であり,民法709条に基づく損害賠償には権利又は法律上保護される利益の侵害,故意又は過失,損害及び因果関係が必要である。
理論上の請求原因を増やすより,本人識別可能性,顧客吸引力,表示としての使用,混同・誤認,公開主体及び損害を裏付ける資料があるかを先に確認すべきである。
声・肖像の生成又は公表を指示した者,これを業務に利用した企業,サービス提供者又はモデル開発者が同一とは限らない。
個別の請求原因を確認した上で,各主体の義務違反と損害との因果関係を分ける一般的な判断順序については「AI利活用に伴う民事責任-補助/支援型AI・依拠/代替型AI・AIエージェントで誰が責任を負うか(AI作成)」参照。

不法行為による損害賠償請求権は,民法724条により,被害者又は法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間,又は不法行為の時から20年間行使しないと時効によって消滅する。
差止請求について同じ期間がそのまま適用されるわけではないが,侵害の継続性及び緊急性を示すためにも,発見後の証拠固定と加害者特定を先送りすべきではない。

声優の声をめぐる具体的な削除請求の判断については,生成AIで模倣されたとする声優の声-津田健次郎の削除請求と東京地裁判決(AI作成)を参照されたい。
声の保護に関する一般論と,削除対象がなくなったことによる請求棄却及び個別侵害が判断されなかった範囲を区別して解説している。

3 通知対象を特定し,削除後の状態を確認すること

投稿者,広告主,制作会社,AI提供者及びプラットフォームでは,関与した行為と採れる措置が異なる。通知では,対象URL,コンテンツ,表示,問題となる権利及び求める停止・削除等の措置を,相手方ごとに具体化するのが合理的である。
通知内容,到達の記録,回答及び通知後の利用継続を保存する。これらは提供者の認識可能性や,独占的利用許諾先の債権侵害の検討にも関係するが,通知をしたという事実だけで責任が確定するわけではない。

法務省報告書は,差止請求について,現在の侵害又は将来の侵害を防止する必要性を検討している。削除完了との回答だけでなく,実際の公開状態,他媒体への掲載,再投稿及び継続のおそれを確認し,日時と結果を残すべきである。
社内の初動目標を法律上の一律期限と混同せず,緊急性,契約上の期限,手続上の期限及び時効をそれぞれ管理する。

無断利用への対応とは別に,利用開始前の本人の許諾,学習・再利用の範囲,公開画面の承認及び終了後の措置については,肖像・合成音声のAI利用許諾と制作委託契約で整理している。

削除等の申入れを準備する際は,対象の特定,問題となる権利とその事情,求める措置,連絡先及び回答を求める時期を整理する。
権利侵害の成立や対応義務は相手方の行為と法的根拠によって異なるため,通知の送付だけで責任が確定するとは扱わない。

相手方具体化する措置と確認事項
投稿者・広告主特定した投稿・広告の公開停止又は削除,利用を継続する媒体の確認
制作会社契約上の利用範囲,納品先への連絡,管理する素材・生成物の取扱い
AI提供者サービス提供行為の問題,具体的な侵害の通知,実行可能な出力・提供上の措置
SNS運営者対象URL・投稿ID,申告内容,受付・回答,公開停止後の状態

公開画面から見えなくなったこと,復旧できる状態であること,サーバから消去されたことは区別して記録する。
東京地裁令和8年9月30日判決の削除認定を,他のサービスの内部記録や全ての再投稿にも当然に当てはめることはできない。
削除後も過去の損害賠償や別の投稿への請求が問題となり得るが,それぞれの要件を確認する必要がある。

第10 AIと声の権利に関するよくある質問

1 声そのものに著作権はあるか

声そのものには著作権法上の権利は及ばないと整理されているが,実際の歌唱・演技の録音,楽曲,歌詞等の利用は別である。
声質を模したAI音声であっても,パブリシティ権や声をみだりに利用されない権利が問題となるため,著作権だけで適法性を判断できない。
詳しくは第6を参照されたい。

2 AIカバーは収益化しなければ適法か

収益化していないことだけで適法とは決まらない。
法務省報告書の想定事例4は,非収益の投稿でも,顧客吸引力を利用する態様や営業上の不利益によってパブリシティ権侵害が問題となり,別に人格的利益の侵害も検討されると整理している。
3類型に準ずる利用の解釈には異なる立場もあるため,第3の3及び第4の判断条件を確認する必要がある。

3 AI生成と表示すれば本人の許諾は不要か

AI生成という表示は,本人の許諾の代わりにはならない。
本人自身が実演したとの混同を弱める場合がある一方,「AI歌手○○」等の表示が本人の声としての識別を強め,パブリシティ権の検討につながることもある。
権利ごとに表示の効果を分ける必要があり,詳しくは第5の3を参照されたい。

4 有名ではない一般人の声も保護されるか

一般人の声も,声をみだりに利用されない権利による保護の対象となる。
ただし,無断利用の全てが直ちに違法になるわけではなく,保護される利益,利用の目的・態様・必要性等から受忍限度を超えるかを判断する。
法務省報告書は,性的なテキストを読ませた音源の公開について,一般人と声優との間に侵害の有無等の大きな差異が生じる可能性は低いと整理している。

5 声まねとAIによる声の模倣は同じか

いずれも,音が似ていることだけでは結論を出せない。
通常の声まねでは芸をする人自身の表示等があることを踏まえる一方,AI合成音声では本人名,役名,説明文等も含め,本人の声として利用されているかを検討する。
詳しくは第2の1を参照されたい。

6 声をAIに学習させるだけでも違法か

特定人の声を出力させる目的の学習行為それ自体がパブリシティ権侵害となるかについて,法務省報告書では見解が一致していない。
モデル・サービスの提供,データセットの販売及び生成物の公開は別の行為として検討される。
学習素材の著作権・著作隣接権,契約等も別に問題となるため,「公開しなければ常に適法」ともいえない。

出典・参考資料

1 法令

①e-Gov法令検索・民法709条,710条,719条及び724条
②e-Gov法令検索・不正競争防止法2条1項1号,2号,20号及び21号,3条,4条並びに21条
③e-Gov法令検索・著作権法30条の4,91条,92条の2及び102条

2 裁判例

①最高裁第一小法廷平成24年2月2日判決(平成21年(受)第2056号・民集66巻2号89頁)PDF3頁~6頁
②最高裁第一小法廷平成17年11月10日判決(平成15年(受)第281号・民集59巻9号2428頁)PDF5頁~7頁
③大阪高等裁判所平成29年11月16日判決(平成29年(ネ)第1147号)PDF6頁~8頁

3 公的資料

声の権利について参照した法務省報告書の箇所は,冊子9頁~10頁,26頁~30頁,93頁~101頁,112頁~114頁及び118頁~122頁(PDF11頁~12頁,28頁~32頁,95頁~103頁,114頁~116頁及び120頁~124頁)である。
本人の声の識別,AIカバー,学習・提供行為,一般人及び非収益投稿を扱う。
判断の概観は同報告書の概要資料(https://www.moj.go.jp/content/001468506.pdf)を,削除対象の存否と未判断の争点は東京地裁令和8年9月30日判決(https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97097.pdf)7頁~8頁を参照されたい。

①法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会取りまとめ報告書―生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―」(令和8年8月7日公表,同年10月22日補訂の第1.1版)冊子7頁~10頁,26頁~30頁,36頁~44頁,55頁~59頁,68頁~78頁,93頁~101頁,118頁~127頁及び136頁(PDF9頁~12頁,28頁~32頁,38頁~46頁,57頁~61頁,70頁~80頁,95頁~103頁,120頁~129頁及び138頁)
②文化庁「生成AIによる声優を模した声の生成・利用と著作権との関係について」1頁~3頁
③文化庁「令和6年度法制度に関するワーキングチームの審議の経過等について」生成AIによる声優を模した声の生成・利用に関する部分
④経済産業省「肖像と声のパブリシティ価値に係る現行不競法における考え方の整理」1頁~8頁
⑤経済産業省「令和6年度知的財産の保護及び適切な活用に関する調査研究報告書」39頁~47頁
⑥知的財産戦略本部「知的財産推進計画2024」18頁
⑦知的財産戦略本部「知的財産推進計画2026」19頁~21頁

第8の2の補足出典:法務省不法行為法制研究会(第1回,令和8年9月30日)及び資料1「不法行為法制の在り方に関する検討について」並びに経済産業省産業構造審議会知的財産分科会不正競争防止小委員会(第31回,令和8年10月13日)資料3「不正競争防止法に関する検討課題について」。