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生成AIプリンシプル・コードとは――対象事業者,適用除外,開示事項及び届出の意味(AI作成)

第1 生成AIプリンシプル・コードの位置付け

1 AI推進法とコードの関係

「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」は,生成AI事業者が行う透明性確保及び知的財産権保護の原則を定めた内閣府知的財産戦略推進事務局の文書である。
本記事は,令和8年8月27日現在の確定版に基づき,誰が対象となり,何を開示し,受入れ表明と届出にどのような意味があるかを解説する。

人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律3条4項は,人工知能関連技術の不適切な利用等によって著作権侵害その他の権利利益侵害が助長されるおそれを踏まえ,透明性確保その他の必要な施策を求めている。
同法13条は,国に対し,国際的な規範の趣旨に即した指針の整備その他の必要な施策を講ずることを定めており,プリンシプル・コードは,同法の趣旨を踏まえて生成AI分野の透明性と知的財産権保護を具体化する文書として位置付けられている。

2 法的拘束力のないコンプライ・オア・エクスプレイン型の規範

プリンシプル・コードは,法的拘束力を有する規範ではなく,生成AI事業者に帰属する営業秘密並びに安全性及びセキュリティに関する機微な情報の強制開示を求めるものでもない。
したがって,コードへの不参加又は原則の不実施だけを理由として,コードに基づく行政処分又は罰則が科される仕組みではない。

もっとも,コードを受け入れる事業者は,各原則を実施するか,実施しない場合にはその理由を説明する「コンプライ・オア・エクスプレイン」によって対応する。
すべての事業者へ同一の技術実装を強制する制度ではないが,何を実施せず,なぜ実施しないのかを権利者及び利用者が理解できるように説明することが求められる。

第2 対象となる生成AI事業者

1 生成AI開発者及び生成AI提供者

コードの対象は,「生成AI開発者」と「生成AI提供者」を合わせた「生成AI事業者」である。
生成AI開発者は,文章,画像,プログラム等を生成できるAIモデルに基づくシステムを構築し,そのシステムを公衆,すなわち不特定の者又は特定多数の者へ実質的に提供した者をいい,目的並びに法人又は個人の別を問わない。

生成AI提供者は,生成AIシステムをアプリケーション,製品,既存システム又はビジネスプロセス等へ組み込んだサービスを公衆へ提供した者である。
基盤モデルを自ら開発していなくても,他社のモデルを組み込んだ生成AIサービスを多数の顧客又は一般利用者へ提供すれば,生成AI提供者に当たり得る。

区分コード上の中心的な基準主な留意点
生成AI開発者生成AIシステムを構築し,公衆へ実質的に提供した者目的並びに法人又は個人の別を問わない
生成AI提供者生成AIを組み込んだサービスを公衆へ提供した者基盤モデルを自社開発していなくても対象になり得る
通常の生成AI利用者他社サービスを業務等で利用するにとどまる者利用だけでは開発者又は提供者にならない
海外事業者日本向けにシステム又はサービスを提供する者国内拠点の有無だけでは決まらない

2 通常の利用者,海外事業者及び事業規模

他社の生成AIサービスを通常の業務で利用するだけの者は,そのことだけで生成AI開発者又は生成AI提供者になるわけではない。
自社ウェブサイトの記事作成に生成AIを利用する場合も,その利用だけを理由として,ウェブサイト運営者がコード上の生成AI事業者になるものではない。

日本国内に本店又は主たる事務所を持たない事業者でも,生成AIシステム又はサービスを日本向けに提供していれば対象となる。
また,対象の定義には売上高又は従業員数による除外が置かれていないため,中小企業又は個人であるという理由だけでは対象外にならないが,事業規模は個別開示の体制整備時期等を説明する場面で考慮され得る。

第3 適用除外と境界事例

1 一部受託者及び公衆提供を伴わない研究・開発

生成AI開発者から委託を受け,モデル若しくはアルゴリズムの一部開発,データ収集,前処理,学習又は検証等の一部だけを担当し,成果を開発者へ納入する者は,原則として生成AI開発者に含まれない。
同様に,システム検証,他システムとの連携実装,サービス提供又は運用支援の一部だけを受託し,成果又は役務を生成AI事業者へ提供する者は,原則として生成AI提供者に含まれない。

これらは形式的な委託契約の有無だけで決まる例外ではない。
受託者が実質的にはシステム又はサービスを公衆へ提供していると評価できる場合は対象となり得る一方,公衆への提供を行わず,研究又は開発を行っているにすぎない者は対象外である。

2 データ提供者等だけが使う限定的なシステム

一つの法人又は個人が保有するデータだけを用いて特化させ,データ提供者又はその指定する限られた範囲の者だけへ提供する生成AIシステム又はサービスの開発・提供者は,コード上の対象外とされている。
企業グループ又は団体についても,構成員から提供を受けたデータだけを用い,データ利用の許諾を得た上で,当該グループ若しくは団体又はその指定する限られた者だけが使用する場合には,同様の扱いとなる。

この適用除外では,データの範囲と利用者の範囲の双方を確認する必要がある。
コードの具体例は,生成がデータ提供者から提供されたデータだけに基づくよう構築されていることを条件としているため,汎用モデルの一般知識又は外部データも生成に利用する構成を,単に「顧客専用」であることだけから対象外と断定することはできない。

3 低リスク生成物及び業界特化型サービス

第三者の権利を侵害する生成物が生じるおそれが著しく低いシステム又はサービスの開発・提供者も対象外である。
コードは,既存の著作物の創作的表現を直接感得できない生成物が極めて高い頻度で生成される場合や,意思決定に資する統計的データ又は推論結果等だけを生成する場合を例示しているが,「著しく低い」ことの定量的基準は示していない。

他方,汎用生成AIを特定業界向けに特化し,その業界の複数事業者へ提供する者は,限定データ・限定利用の例外に当たらない限り対象となり得る。
この場合,下流事業者に各原則への対応が求められる範囲は,原則として自ら付加した部分に限られ,汎用システムの部分は上流の開発者が対応するという責任分担が想定されている。

第4 三つの原則と開示事項

1 概要開示と個別回答の区別

コードの三つの原則は,公衆一般に対する概要開示と,特定の要求者に対する個別回答とに分かれる。
「学習データの開示」という表現だけでは両者が混同されやすいが,原則1は事業者の概要情報を一般公開する仕組みであり,原則2及び原則3は要求者が示したURL等について個別に回答する仕組みである。

原則対象となる事業者開示又は回答の相手中心となる内容
原則1すべての対象事業者誰でも閲覧できるコーポレートサイト等モデル,データ,クローラ,責任体制及び知財保護措置の概要
原則2対象事業者権利等の実現のため法的手続を行い,又は準備する者等指定されたURL等が容易に確認可能な学習・検証データ等に含まれるか
原則3対象事業者対象サービスで生成物を作成した者類似コンテンツのURL等が容易に確認可能な学習・検証データ等に含まれるか

2 原則1の透明性に関する開示

原則1は,モデルの名称,識別子及びバージョン,公開日を含む来歴,アーキテクチャ及び設計仕様,第三者とのライセンス状況,必要なハードウェア及びソフトウェア,想定用途と制限用途並びにトレーニング方法の概要を開示対象としている。
モデルの詳細なパラメータ又は契約書そのものを一律に公開する制度ではなく,誰でも閲覧できる形で概要を示す仕組みである。

学習及び検証等に用いたデータについては,検索拡張生成で用いるデータを含む種類,ウェブクロール,第三者から取得した非公開データセット,公開データセット,その他の収集手段並びに合成データの利用の有無及び目的が対象となる。
クローラについては目的,収集期間,名称又は識別子及び第三者クローラの利用状況が,アカウンタビリティについては技術的に可能かつ合理的な範囲のトレーサビリティ,責任者,責任分配,関係者対応及び文書化が対象となる。

3 原則1の知的財産権保護に関する開示

知的財産権保護については,①知的財産権保護の原則及び責任体制を定めて年1回以上見直すこと,②データ利用に際して他者の知的財産権を侵害しないこと,③ペイウォール及びrobots.txt等のアクセス制限へ対応すること,④学習ログを一定期間保存すること,⑤海賊版サイトへのクロール回避に取り組むことの対応状況が開示対象となる。
さらに,⑥権利侵害生成物を防止する技術的措置,⑦電子透かし又はC2PA等の出所・来歴を示す技術,⑧侵害が疑われる生成物を利用しないよう利用者へ周知すること,⑨権利者の申出窓口,申出要件及び対応記録の保存も含まれる。

「概要開示対象事項 具体例」は,技術上の大分類,データの取得経路,クローラの識別子,窓口ページ等の記載例を示している。
ただし,同資料は参考例であり,個別事業者の開示がコードへ適合することを政府が判定する審査基準ではない。

4 原則2及び原則3の個別開示要求

原則2は,自らの権利又は法律上保護される利益を実現するため,訴訟,調停,ADR等の法的手続を行い,又は準備している者等が,URL等を示して回答を求める仕組みである。
原則3は,対象サービスで生成物を作成した者が,生成物を公表又は利用する前に,類似コンテンツの掲載URL等を示して回答を求める仕組みであり,回答を訴訟,調停又はADRの申立てに利用しない旨の誓約を必要とする。

両原則で中心となる回答は,要求者が示したURL等が,事業者において容易にアクセスし確認できる学習・検証データ又はその取得源に含まれるか否かであり,学習データ全体の一覧を取得する制度ではない。
原則2及び原則3の要件,要求書の作り方並びに回答から分かること及び分からないことについては,「生成AIの学習データを開示要求する方法――プリンシプル・コード原則2・3の要件と限界(AI作成)」で詳述している。

第5 エクスプレインと開示の限界

1 非実施の理由は具体的に説明する

事業者は,技術的な現実に合わないなどの個別事情により,原則の全部又は一部を実施せず,理由を説明することができる。
ただし,個別開示へ対応する体制ができていないと述べるだけでは不十分であり,事業規模等を考慮しつつ,体制構築が完了する時期を説明することが求められている。

開示が技術的に不可能である旨を必要な根拠とともに示した場合は,原則2又は原則3についてエクスプレインをしたものとされる。
他方,説明内容の適否を事務局が審査する制度は設けられていないため,公表された理由を権利者,利用者又は取引先がどのように評価するかは,行政上の認定とは別の問題である。

2 機微情報,利用規約及び他の法的手続

コードは営業秘密並びに安全性及びセキュリティに関する機微情報の強制開示を求めず,原則1の一部を開示しないという一事だけで事業者を直ちに批判することは慎むべきであるとしている。
原則1は当面の措置と位置付けられているため,国際的な整合性及び技術の進展による改訂も見込んで確認する必要がある。

コードを受け入れると表明していても,利用規約等によって開示対象を限定し,各原則を実質的に実施していないと評価できる場合には,別途の説明が必要となる。
規約にコードの適用を撤廃又は制限する条項があることを示すだけでは足りず,その条項を設けた理由を説明しなければならない。

また,コードは,別の法令に基づく情報収集又は権利実現の手続を制限しない。
著作権侵害,契約,個人情報又は不正競争防止法上の問題がある場合は,コード上の回答の有無とは別に,各法令の要件及び証拠を検討する必要がある。

第6 受入れ表明及び届出の意味

1 受入れ事業者が公表し,届け出る事項

コードを受け入れる生成AI事業者には,自らのコーポレートサイト等で,①各原則を受け入れる旨,②各原則について実施する事項,③実施しない原則がある場合にはその理由を公表し,同じ事項を内閣府知的財産戦略推進事務局の所定様式で届け出ることが期待されている。
各事項は原則として毎年見直し,更新した場合には更新した旨も公表する。

受入れ表明は,対象となるすべての事業者へ法律上義務付けられた届出の前提ではなく,コードを受け入れる事業者が自社の実施内容及び非実施理由を可視化するための選択である。
もっとも,受け入れる旨だけを掲げ,実施事項又は非実施理由を示さない表示は,コードが予定する可視化の内容を満たさない。

2 届出は審査又は認証ではない

事務局は,コンプライ・オア・エクスプレインの参考様式を作成し,届出事業者の一覧及び各事業者が公表したページへのリンク等を公開し,各業界へ届出を促すとしている。
一方,事務局は届出内容を審査せず,第三者からの照会にも回答しない。

したがって,届出は,政府が事業者の対応内容を適合確認し,認証し,又は保証する手続ではない。
一覧から各事業者の公表ページへ到達しやすくし,権利者,利用者及び取引先が対応内容を自ら確認できるようにする可視化の仕組みである。

パブリックコメントで寄せられた意見には,罰則又は審査を求める方向と,一覧公表の事実上の強制力,対応コスト,営業秘密及びセキュリティへの影響を懸念する方向の双方があった。
これらは政府見解ではなく寄せられた意見であり,確定版は,法的拘束力を否定し,機微情報の強制開示を求めず,届出内容を審査しない設計を採用した。

3 令和8年8月27日現在の運用状況

AI時代の知的財産権検討会の公式ページは,令和8年8月27日現在,コード1(4)に基づく届出の開始時期を別途知らせるとしている。
同ページでは,届出用の所定様式,届出事業者一覧又は事業者別の公表ページへのリンク集を確認できない。

そのため,現時点では,ある事業者が「届出済み」であるかを事務局の一覧で確認することはできない。
受付開始後は,所定様式,一覧の表示項目,事業者側の公表ページ及び更新方法を改めて確認する必要がある。

第7 対象事業者が確認する順序

生成AIに関係するサービスを提供する者は,まず,①自ら生成AIシステムを構築しているか,②生成AIを組み込んだサービスを提供しているか,③提供先が不特定又は特定多数であるかを確認する必要がある。
対象性は名称又は契約上の役割だけでなく,誰がシステム又はサービスを公衆へ実質的に提供しているかによって判断する。

次に,④一部業務の受託又は公衆提供を伴わない研究にとどまるか,⑤利用データ及び利用者が限定された適用除外に当たるか,⑥権利侵害生成物のおそれが著しく低い類型に当たるかを確認する。
例外を用いる場合は,契約上の提供先だけでなく,データフロー,生成に使用する情報,利用者の範囲及び出力の性質を記録しておく必要がある。

対象となる場合は,⑦上流モデルと自社追加部分の責任範囲,⑧原則1の公開情報,⑨原則2及び原則3の照会対応,⑩実施しない事項の説明,⑪受入れ表明及び届出の準備を順に整理する。
届出開始前であっても,自社がどの区分に当たり,どの情報を保有し,何を公開できないかを整理する作業は,受入れの可否及び説明内容を判断する基礎となる。

出典・参考資料

1 法令

人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和7年法律第53号)3条4項・13条(e-Gov法令検索)

2 公的資料

① 内閣府知的財産戦略推進事務局「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」1頁~14頁
② 内閣府知的財産戦略推進事務局「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード 概要開示対象事項 具体例」1頁~5頁
③ 内閣府知的財産戦略推進事務局「AI時代の知的財産権検討会」(令和8年8月27日確認)
④ 内閣府知的財産戦略推進事務局「パブリックコメントで寄せられた主な意見」(令和8年4月21日)PDF3頁~4頁・9頁・19頁~20頁(資料記載2頁~3頁・8頁・18頁~19頁)

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