目次
第1 食品事業者が準備すべきこと第2 税率の変更と契約価格の変更を分ける1 契約書・見積書で確認する項目2 価格条項だけでなく,取引時期も確認する第3 定期便・通販では,令和9年1月1日前の条件を確認する1 定期供給契約による予約販売2 通信販売第4 総額表示の特例は,値札と実際の精算を分けて考える1 特例の期間と条件2 表示とレジ処理の食い違いを防ぐ第5 請求書・帳簿・返品を切替え前後で点検する1 月締めの請求書2 切替え前の売上げの返品第6 担当者と期限を決めて準備する第7 参照資料
第1 食品事業者が準備すべきこと
食品消費税1%法案への対応では,税率マスターの変更だけでなく,取引先との価格の合意,定期便・通販の経過取扱い,店頭表示,請求書及び返品処理を一緒に点検する必要がある。
本記事は,令和8年10月9日に閣議決定され,第222回国会に提出された政府法案と国税庁の公表資料を前提にした準備の解説である。法案提出,成立,公布及び施行は別の段階であり,以下の特例を現在利用できる制度として扱ってはならない。実施に当たっては成立した法律とその後の国税庁資料を確認する必要がある。
政府案は,令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間,対象となる飲食料品の消費税率を地方消費税と合わせて1%とする内容である。現在の標準税率10%,軽減税率8%と区別する。対象品目や法案全体は,食品消費税1%法案の解説を参照されたい。
第2 税率の変更と契約価格の変更を分ける
1 契約書・見積書で確認する項目
税率が1%になる場合の税額計算と,売買代金をいくらとするかは,それぞれ確認すべき事項である。取引先への説明では,税込の総額,本体価格,適用税率,適用を切り替える取引及び変更の合意内容を明確にしておく必要がある。
例えば,本体価格1000円を維持する前提なら,税込価格は8%で1080円,1%で1010円となる。税込1080円の合意をそのまま維持する案は,本体価格を維持する案とは異なる。税率変更だけを理由に契約価格の扱いまで一律に決めつけず,価格条項と変更手続を読んで取引先と確認するのが実務上の準備となる。
確認する資料確認する内容基本契約・個別契約税込総額か,税抜価格に税額を加える約束か。税率変更時の調整条項があるか。見積書・注文書適用する価格の期間,納品日,送料等の区分及び注文の承諾内容。価格改定の合意書新価格,適用開始日,対象商品,既受注分への適用及び相手方の承諾記録。定期便・通販の条件旧税率の経過取扱いの対象か。1%を前提とする条件を定めたか。
2 価格条項だけでなく,取引時期も確認する
国税庁Q&Aの問1-3は,原則として飲食料品を譲渡した時期で適用税率を判定することを説明している。注文日や請求書の発行日だけで税率を決めてはならない。
同Q&Aの問1-4では,売手が出荷日,買手が検収日を継続して用いている取引について,買手は売手の適用した税率によるインボイスを基に仕入税額控除の計算を行うとされている。税率が不明な場合には相手方へ確認する。境界日の取引について,出荷記録,納品記録,検収記録及びインボイスを結び付けて保存しておくことが望ましい。
第3 定期便・通販では,令和9年1月1日前の条件を確認する
1 定期供給契約による予約販売
政府案と国税庁Q&Aの問1-6には,一定の取引に引下げ前の8%を適用する経過取扱いが示されている。対象なら任意に1%を選択する取扱いではない。
定期供給契約による予約販売については,令和9年1月1日前に締結した,不特定多数の者に対する定期的な継続供給契約に基づき,令和9年4月1日前に受領した対価に係る飲食料品を同日以後に譲渡する場合が対象とされる。ただし,1%への引下げを前提とした契約は除かれる。
単に「契約が古い」という理由だけでは足りない。契約締結日,対価の受領日,供給時期及び税率変更に関する契約内容を確認する必要がある。
2 通信販売
通信販売については,令和9年1月1日前に販売条件を提示し,又は提示する準備を完了した場合に,令和9年4月1日前に申込みを受け,同日以後に飲食料品を譲渡する取引が対象とされる。1%への引下げを前提とした販売条件は除かれる。
国税庁Q&Aは,ウェブサイト,電子メール及び電話等による申込みも扱い,訪問等による対面での販売条件の提示や申込みはこの通信販売から除くと説明している。カタログの印刷完了も,提示する準備が完了した場合の例とされている。
残しておく記録確認する理由条件の旧版・新版と改訂日令和9年1月1日前の条件と,1%を前提とした変更の有無を確認するため。カタログの印刷記録・ウェブ掲載記録条件の提示又はその準備が完了した日を確認するため。申込受付・決済・出荷の記録申込日,対価受領日,譲渡日を混同しないため。変更通知・相手方の承諾記録税率変更を反映した契約内容と価格の扱いを確認するため。
定期便の契約や通販条件に1%を前提とする内容を設ける場合は,国税庁Q&Aの具体例と照合する必要がある。既存条件のまま経過取扱いに該当する取引と,条件変更後の取引を一括して処理しない。
第4 総額表示の特例は,値札と実際の精算を分けて考える
1 特例の期間と条件
総額表示は,課税事業者が消費者に対し,あらかじめ価格を表示する場合の税込価格の表示義務である。国税庁Q&Aの問3-9は,税率の切替え時に直ちに表示を変更することが困難な事情があり,誤認防止措置を講じる場合に限り,次の表示を認める特例を説明している。
表示する期間特例で認める税込表示令和9年2月1日~3月31日引下げ後の1%に基づく税込価格。令和9年4月1日~5月31日引下げ前の8%に基づく税込価格。令和11年2月1日~3月31日引下げ終了後の8%に基づく税込価格。令和11年4月1日~5月31日引下げ期間中の1%に基づく税込価格。
これは表示に関する特例である。表示されている旧税率を理由に,実際の取引にも旧税率を適用する制度ではない。また,税抜価格だけ,又は税抜価格に「+税」と付記するだけの表示を認める特例でもない。
2 表示とレジ処理の食い違いを防ぐ
国税庁Q&Aは,夜間の値札の貼替えだけでは対応できない場合や,カタログ・商品パッケージに価格が印刷されている場合を,困難な事情の例としている。値札を貼り替えたのに,具体的な事情もなく旧税率の表示を続ける例は区別されている。