目次第1 請求権が残ることと回収できることを分ける第2 貸倒れの三つの取扱いと損害賠償債権第3 逮捕,退職及び破産申立てだけでは足りない第4 破産手続の段階ごとに何を確認するか第5 非免責債権なら貸倒処理できないのか1 故意の不法行為をすべて非免責としない2 法的責任の存続は回収の保証ではない3 税務処理のために権利放棄を先行させない4 現在の給与と未定の再就職を区別する5 年金収入があっても貸倒れを認めた判決の射程6 回収不能は収入の有無だけで判断しない第6 回収不能を説明する記録の作り方第7 仕訳,貸倒引当金及び後日の回収1 帳簿上の債権と税務上の債権を照合する2 貸倒引当金も会社の適用資格から確認する3 貸倒処理後も権利・回収の台帳を管理する第8 法人税の貸倒れと消費税の貸倒税額控除を分ける第9 決算前に税理士と弁護士が確認する順序第10 関連記事と根拠資料
第1 請求権が残ることと回収できることを分ける
会社が犯罪や不法行為の被害に遭い,損害賠償請求権を取得した場合,請求できる権利があることと,その債権を実際に回収できることは別である。
加害者が破産した場合も,破産申立て,手続開始,配当,免責及び非免責債権の判断を分けなければならない。
法人税の貸倒損失は,民事上の請求を続けるかという判断と対応させつつ,税法上の要件と年度を別に確認する。
本記事は,令和8年10月7日に確認した法令,法人税基本通達,国税庁資料及び裁判所の公開資料に基づき,会社の税理士と回収を担当する弁護士の連携を扱うものである。
非免責性の詳しい判断基準は,破産法253条1項2号の「悪意で加えた不法行為」も参照されたい。
第2 貸倒れの三つの取扱いと損害賠償債権
取扱い損害賠償債権で確認する内容法人税基本通達9-6-1法定の切捨て等,又は相当期間の債務超過・弁済不能を伴う書面による債務免除などの要件同9-6-2資産状況・支払能力等から債権全額の回収不能が明らかになった年度,損金経理及び担保の処分同9-6-3対象は一定の売掛債権。純粋な損害賠償債権へ取引停止1年の取扱いをそのまま適用しない
これらの原文は,国税庁「金銭債権の貸倒れ」に掲載されている。
貸倒損失を計上したいからという理由で,賠償債権の勘定科目を売掛金へ付け替えても,債権の発生原因は変わらない。
回収のために分割払の約束を得たことや,和解・公正証書を作ったことだけで,通常の売掛債権と同じ取扱いになるものでもない。
書面で請求を放棄すれば必ず貸倒損失になるわけではない。
9-6-1(4)では,債務超過が相当期間続き,弁済を受けられないことが必要である。
合理的な回収手段を捨てる無償の放棄は,寄附金等の問題も生じ得るため,民事上の合意と税務処理を同時に検討する。
法人税基本通達9-7-16・9-7-17(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_07_04.htm)は,会社が第三者へ損害賠償金を支払った場合の,役員・使用人に対する求償債権等を扱う。
その「全部又は一部」という取扱いを,会社自身が窃盗・横領の被害を受けて取得した賠償債権へ,当然に適用することはできない。
誰が被害者で,誰へ賠償金を支払い,どの原因で社員に請求するのかを確認し,一部貸倒れの根拠を取り違えないようにする。
第3 逮捕,退職及び破産申立てだけでは足りない
加害者が逮捕された,会社を退職した,弁護士から受任通知が届いた,又は破産申立てをしたという事実だけで,賠償債権全額の回収不能が確定するわけではない。
預金,不動産,換価できる財産,収入,先順位の担保,生活状況及び他の債務を確認する。
担保や保証がある場合は,その回収経路を含めて検討する。
国税不服審判所令和元年5月16日裁決(https://www.kfs.go.jp/service/JP/115/11/index.html)の公表裁決書(抄)「4(4)」は,会社の商品を窃取・横領して転売した元従業員に対する損害賠償請求権について,平成25年1月期から平成29年1月期までの全額回収不能を否定した。
対象年度には会社が本人へ給与を支払っており,支払能力が皆無とはいえなかったことや,会社が発覚後直ちに賠償請求訴訟を提起したこと等が考慮されている。
資産に乏しく他の支払義務もあるという事情は,一部の回収が困難であることをうかがわせるにとどまると判断された。
この事案の懲戒解雇は平成29年9月15日であり,対象年度は解雇前である。
裁決は,非免責性や破産後の将来給与を直接判断したものではない。
「給与があれば常に貸倒処理できない」という一般則として読むのではなく,評価した年度と当時の具体的な支払能力を確認する必要がある。
反対に,全額回収不能を検討するため,どの事件でも必ず訴訟と強制執行を最後まで行わなければならないという一律の手順が定められているわけでもない。
財産調査で判明した内容,回収額の見込み,必要な費用・労力及び実行できる回収手段を記録する。