第1 日韓法的地位協定の意味と署名・発効
日韓法的地位協定とは,長年日本に居住していた一定の大韓民国国民について,永住の許可,退去強制の制限及び待遇等を定めた協定である。正式名称は「日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定」である。
1965年6月22日に東京で署名され,1966年1月17日に発効した。日韓基本条約や日韓請求権協定と署名日は同じであるが,発効日は異なる。法的地位協定6条は,批准書の交換の日の後30日で効力が生ずると定めている。
前文は,長年日本に居住する大韓民国国民と日本社会との特別な関係を考慮し,安定した生活と両国・両国民の友好関係の増進を協定の背景としている。条約本文は全6条であり,合意された議事録及び討議の記録も併せて確認する必要がある。
署名・発効及び条文は,外務省の条約データ検索及び協定・合意された議事録等で確認できる。本記事は2026年10月11日現在の資料に基づく。
第2 全6条の内容一覧
| 条文 | 主な事項 | 読む際の要点 |
|---|---|---|
| 1条 | 一定の大韓民国国民に対する永住許可 | 居住歴,出生,親子関係及び申請期限を区別する。 |
| 2条 | 日本で出生した直系卑属の居住に関する協議 | 韓国政府の要請による協議と,25年という期間の定めがある。 |
| 3条 | 退去強制の制限 | 協定永住の許可を受けた者について,限定された例外を定める。 |
| 4条 | 教育・生活保護・国民健康保険,帰国時の財産等 | 「妥当な考慮」と,議事録に記載された具体的な了解を併読する。 |
| 5条 | 日本の法令の適用 | 協定に特別の定めがある場合を除き,一般の外国人と同様に日本の法令が適用される。 |
| 6条 | 批准・発効 | 批准書交換後30日で発効する。 |
出典は協定本文である。以下では,当時の協定の内容と現在の国内制度を分けて説明する。
第3 協定永住の対象と申請期限
1 協定1条1項の対象
協定1条1項は,大韓民国国民のうち,①1945年8月15日以前から申請時まで引き続き日本に居住している者,又は②その者の直系卑属として同月16日以後,協定発効日から5年以内に日本で出生し,出生後申請時まで引き続き日本に居住している者を対象としていた。
これらの者が,協定の実施のために日本政府が定める手続に従い,発効日から5年以内に申請したときに永住を許可する仕組みであった。協定に該当する出自があることだけで,申請なしに協定永住となったわけではない。
2 5年経過後に出生した子と末期の出生
1条2項は,1項による永住許可を受けた者の子として,発効日から5年経過後に日本で出生した大韓民国国民について,出生の日から60日以内の申請による永住許可を定めていた。
また,1条3項は,1項(b)の対象者で発効日から4年10か月経過後に出生した者について,出生の日から60日までの申請期限を設けていた。1条4項は,これらの申請及び許可に手数料を徴収しないと定めている。
3 「韓国」「朝鮮」の表示と国籍の確認
協定の対象は所定の大韓民国国民であり,すべての在日外国人を対象とするものではない。合意された議事録は,国籍を証明するための旅券等の提示又は陳述書の提出と,日本側の文書照会に対する韓国側当局の文書回答を定めている。
現在の書類にある「韓国」「朝鮮」という国籍・地域表示だけから,過去の協定永住許可又は実体国籍を確定することはできない。国籍の表示と実体国籍の違いは,在日韓国・朝鮮人及び台湾関係者の国籍・地域表示と在留上の地位及び「朝鮮籍」とは何かを参照されたい。
第4 子孫に関する協議・退去強制・待遇
1 2条の協議と25年という期間
2条は,1条による永住許可を受けた者の直系卑属として日本で出生した大韓民国国民の居住について,韓国政府から要請があれば,発効日から25年を経過するまでは協議を行うと定めた。協議では,協定の精神及び目的を尊重することも定めている。
この25年という文言は協議に関する規定である。これを,協定永住の許可を受けた本人の永住が25年で当然に終了するという意味に読み替えてはならない。
2 3条の退去強制の制限
3条は,1条による永住許可を受けた者について,協定発効日以後の行為に関する限定的な事由に該当する場合を除き,退去強制をしないと定めた。例外は,内乱・外患,国交に関する犯罪等,所定の麻薬犯罪及び無期又は7年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた場合等であり,刑の種類・量刑・執行猶予等の条件は各号に即して読む必要がある。
合意された議事録は,3条(c)又は(d)による退去強制に際して家族構成その他の事情を人道的見地から考慮することなどを定めている。ここでの懲役・禁錮は協定原文の歴史的な用語である。現在の特別永住者に関する退去強制は,現行の入管特例法22条を確認する必要がある。
3 4条・5条と合意された議事録
4条は,教育,生活保護,国民健康保険及び永住の意思を放棄して韓国に帰国する場合の財産携行・送金について,日本政府が妥当な考慮を払うと定める。議事録では,公立小中学校への入学に関する措置,生活保護の当分の間の従前どおりの取扱い,国民健康保険の被保険者とするための措置等が了解された。
これらの文言だけで,現在のすべての給付について個人の請求権の有無や要件が決まるわけではない。5条も,特別の定めがある場合を除き,出入国・居住を含む日本の法令が適用されることを確認している。現在の給付や出入国の手続は,それぞれの現行法令及び制度に即して検討する必要がある。
第5 協定永住から特別永住への移行
1 1991年の入管特例法による整理
現在の特別永住者の根拠法は,日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法である。同法3条は,施行時に旧日韓特別法による永住許可を受けていた者のほか,法126-2-6該当者等の法定区分を定めている。同法附則6条は旧日韓特別法を廃止した。
日本政府の人種差別撤廃条約第1回・第2回政府報告(第37~39段落)によれば,協定2条に基づく協議を経て1991年に覚書が交わされ,入管特例法は同年5月10日に公布,同年11月1日に施行された。新制度は韓国国籍を有する者に限らず,所定の朝鮮及び台湾関係者とその子孫にも適用される仕組みである。
旧国内実施法の廃止と,国際協定そのものの廃止は別の問題である。現在の在留上の地位や申請手続を確認する際は,1965年協定だけで結論を出さず,現行の入管特例法を読む必要がある。
2 協定と現行法では対象の基準が異なる
協定1条の居住基準日は1945年8月15日である。他方,入管特例法2条1項1号は1945年9月2日以前から引き続き日本に在留する者を定め,同項2号は同月3日から平和条約発効日までに日本で出生した者について,継続在留及び実親の要件を定めている。日付も対象の構造も同一ではない。
現行法の子孫の要件及び出生後60日以内の申請は,入管特例法2条・4条等に基づく別の確認事項である。詳しくは,特別永住者の対象者・子孫の要件と申請を参照されたい。再入国については,特別永住者の再入国許可で扱っている。
第6 日韓基本条約・日韓請求権協定との違い
日韓基本条約は両国間の基本関係を定める条約であり,日韓請求権協定は経済協力と財産・権利・利益及び請求権の問題を扱う協定である。日韓法的地位協定は,所定の在日韓国人の永住と待遇等を扱う。この三つは,主題と条文が異なる別の文書である。
基本条約及び請求権協定の発効日は1965年12月18日であるのに対し,法的地位協定の発効日は1966年1月17日である。外務省の条約データ検索(基本条約・請求権協定)からそれぞれの文書を確認できる。
個人請求権,徴用工判決及び仲裁手続は,日韓請求権協定の解説を参照されたい。在留上の地位に関する本協定の規定を,請求権協定2条の問題と混同してはならない。
第7 全文・原資料と関連する記事
協定本文だけを読む場合と,議事録・討議の記録を併せて読む場合では確認できる事項が異なる。外務省のHTML版には文字の誤りが見られるため,正確な原文を引用する際は,同省が示す優先関係に従い官報及びPDF版を確認する必要がある。
① 外務省:協定・合意された議事録・討議の記録・法務大臣声明
③ データベース「世界と日本」:協定本文及び合意された議事録(出典:外務省条約局『条約集』)
⑤ 外務省:人種差別撤廃条約第1回・第2回政府報告(制度沿革の説明は第37~39段落)