第1 「朝鮮籍」の意味
一般に「朝鮮籍」と呼ばれるものは、日本の在留管理上の国籍・地域欄に「朝鮮」と表示されている状態を指す。
本記事の基準日は令和8年8月29日である。
「朝鮮」は朝鮮半島の出身地・地域を示す表示であり、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の国籍を示す表示ではない。
参議院に対する平成20年の政府答弁書も、「韓国」は国籍を表示するものとしつつ、「朝鮮」は朝鮮半島出身者及びその子孫についての地域表示であって、何らかの国籍を表示するものとして用いているものではないと説明している。
第2 「韓国」と「朝鮮」の違い
1 「韓国」の表示
在留管理上の「韓国」は、大韓民国の国籍を表示するものである。
したがって、「朝鮮」から「韓国」へ表示を変更する手続では、大韓民国の旅券、家族関係登録事項別証明書その他の国籍を示す資料が問題となる。
2 「朝鮮」の表示
「朝鮮」は、現在の国家の国籍名ではなく、歴史的に用いられてきた地域表示である。
このため、在留カード、特別永住者証明書又は住民票に「朝鮮」と記載されていることだけから、本人の実体国籍を確定することはできない。
出入国在留管理庁の在留外国人統計も「国籍・地域」別の統計であり、「朝鮮」の人数をそのまま特定国家の国民数として読むことはできない。
第3 表示と実体国籍を分けて考える必要性
国籍・地域欄の表示は、日本の行政記録上の表示である。
これに対し、実体国籍は、関係国の国籍法に基づく国籍の取得・喪失、本人又は父母の届出、婚姻・認知、国籍離脱、日本への帰化その他の事実によって判断される。
したがって、「朝鮮」表示の人については、大韓民国国籍を有する場合、別の国籍関係が問題となる場合又は国籍が資料上明らかでない場合があり得る。
北朝鮮の旅券その他の文書を所持していることと、日本の在留管理記録の「朝鮮」表示も、同じ問題ではない。
第4 実体国籍を確認するための資料
実体国籍を確認するときは、少なくとも次の資料を相互に照合する必要がある。
①現在及び過去の旅券並びに旅行証明書。
②特別永住者証明書、在留カード及び旧外国人登録原票の写し。
③大韓民国の家族関係登録簿、除籍謄本その他の身分登録資料。
④本人、父母及び祖父母に関する出生、婚姻、認知、養子縁組及び死亡の記録。
⑤帰化、国籍取得、国籍離脱又は国籍喪失に関する記録。
いずれか一つの証明書の表記だけで結論を出すのではなく、いつ、どの制度に基づいて国籍又は表示が変わったのかを時系列で確認すべきである。
第5 相続その他の法律実務への影響
相続では、被相続人の本国法を確定する前提として国籍が問題となるため、「朝鮮」表示をそのまま大韓民国国籍又は北朝鮮国籍と扱うことはできない。
身分関係資料の取得先、準拠法及び相続人の確定方法は、実体国籍と登録の有無によって変わり得る。
大韓民国の家族関係登録資料を用いる相続調査については、在日韓国人が死亡した場合の相続人調査を参照されたい。
国籍喪失の歴史及び特別永住者制度との関係については、在日韓国・朝鮮人及び台湾関係者の国籍・地域表示と在留上の地位を参照されたい。