目次
第1 結論1 国内法上の根拠は四つの段階に分かれる2 記者であることだけでは刑事免責にならない第2 外国人に適用される刑法276条1 ロシア国民の国家反逆罪とは主体が異なる2 国家秘密だけが対象とは限らない3 法定刑と自首等による免責第3 FSBが捜査を担当する根拠1 FSB法13条の権限2 刑事訴訟法151条の捜査管轄第4 最初の拘束から裁判所の勾留決定まで1 刑事訴訟法91条の拘束要件2 拘束記録,弁護人及び通知3 48時間と裁判所の勾留決定第5 取材の自由と刑事責任の境界1 情報収集権にも法律上の限定がある2 マスメディア法51条とスパイ罪を混同しない第6 国家秘密事件で公開情報が少なくなる理由1 非公開審理の法的根拠2 発表,主張,裁判所の認定及び不明点を分ける第7 ゲルシュコビッチ事件から分かること1 ロシア検察の発表2 反対見解とその後の経過第8 外国での記者拘束報道を読むときの確認事項1 法令と個別事件の立証を分ける2 日本の弁護士実務への示唆第9 出典及び関連記事
第1 結論
1 国内法上の根拠は四つの段階に分かれる
ロシア連邦保安局(FSB)が外国人記者をスパイ容疑で拘束する国内法上の根拠は,①ロシア刑法276条が外国人又は無国籍者によるスパイ行為を犯罪とすること,②FSB法13条及び刑事訴訟法151条がこの犯罪の捜査をFSBの権限とすること,③刑事訴訟法91条及び92条が被疑者の一時的な拘束の要件と手続を定めること,④同法108条が裁判所の決定による勾留を定めることにある。
報道で一括して「拘束」又は「逮捕」と表現されても,ロシア法上の最初の身柄拘束(задержание)と,裁判所が選択する身柄拘束処分(заключение под стражу)は別の段階である。
2 記者であることだけでは刑事免責にならない
ロシア憲法29条とマスメディア法47条は,情報を適法な方法で探索し,取得し,伝達する自由及び記者の取材権を定めている。
しかし,同条は国家秘密等を含む文書へのアクセスを例外とし,記者という身分そのものに刑法276条の適用を排除する免責を与えていない。
したがって,国内法上の権限があることと,個別事件で犯罪の要件が証拠により立証されたことは分けて考える必要がある。
第2 外国人に適用される刑法276条
1 ロシア国民の国家反逆罪とは主体が異なる
ロシア刑法276条は,外国人又は無国籍者が同条所定の行為をした場合をスパイ罪としている。
これに対し,刑法275条の国家反逆罪はロシア国民を主体とし,スパイ行為,国家秘密の提供,敵側への移行及び外国の国家・組織等への援助を処罰対象とする。
外国人記者の事件で276条が示されるのは,職業が記者だからではなく,被疑者が外国人又は無国籍者であるという主体要件による。
2 国家秘密だけが対象とは限らない
刑法276条は,第一に,外国国家,国際機関若しくは外国組織又はその代表者へ渡す目的で,国家秘密に当たる情報を伝達し,収集し,窃取し,又は保管する行為を対象とする。
第二に,外国情報機関又はその利益のために行動する者の指示に基づき,ロシア連邦の安全に反して利用するための「その他の情報」を伝達し,又は収集する行為も対象とする。
第三に,武力紛争,軍事行動その他ロシア連邦が武器・軍事装備を用いる行動の状況下では,ロシア軍等に不利に利用され得る情報を敵へ渡す目的で伝達し,収集し,窃取し,又は保管する行為も定める。
このため,問題となる情報が形式上の国家秘密に指定されているかだけでなく,情報の種類,収集又は伝達の態様,依頼者,目的及び利用先が条文上のどの類型に当たると主張されているかを確認しなければならない。
3 法定刑と自首等による免責
刑法276条の法定刑は10年以上20年以下の自由剥奪である。
刑法15条5項は,10年を超える自由剥奪刑等が定められた故意犯を特に重大な犯罪に分類しているため,276条は刑事訴訟法108条が勾留の対象とする犯罪類型に入る。
また,刑法275条の注記3は276条にも適用され,任意かつ適時の当局への申告その他の方法でロシア連邦の利益に対するさらなる損害の防止に寄与し,かつ他の犯罪が成立しない場合には刑事責任を免れると定める。
第3 FSBが捜査を担当する根拠
1 FSB法13条の権限
FSB法13条は,FSBに対し,スパイ行為を発見し,予防し,阻止し,解明するための捜索・捜査活動を行う権限を与える。
同条は,法令によりFSBの管轄とされた犯罪について,照会及び予備捜査を行い,法令に従って拘置施設を使用する権限も定めている。
ただし,FSB法13条だけで身柄拘束の全要件が完結するわけではなく,刑事手続上の拘束は刑事訴訟法の要件に従う。
2 刑事訴訟法151条の捜査管轄
ロシア刑事訴訟法151条2項2号は,刑法275条から280条の2までの犯罪等について,FSBの捜査官が予備捜査を担当すると定めており,276条もこの範囲に含まれる。
(続きを読む...)ロシアFSB(連邦保安局)が外国人記者をスパイ容疑で拘束する国内法上の根拠―刑法276条と刑事手続(AI作成)