目次第1 本記事の対象と結論1 対象とする2つの資料2 結論第2 身上把握の根拠と目的1 手引書が挙げる根拠2 手引書が引く政府答弁書は警察職員に関するもの3 身上把握の目的第3 「身上」の範囲と種類1 範囲は私生活と心身の両面に及ぶ2 身上の種類第4 身上把握の方法1 方法の全体像と前提となる信頼関係2 個別面談3 家計の状況の聴取4 他の職員からの情報収集5 動向把握(観察)の着眼点第5 大阪国税局の事務運営指針(令和元年7月31日)1 基本的な考え方2 対象者と実施者3 時期と方法4 場所,意識の醸成,留意事項及び情報の管理5 手引書との対応関係第6 情報の取扱い,引継ぎ及び監督責任1 報告と自ら調査をしないこと2 情報の引継ぎと引受け3 監督責任第7 プライバシーとの関係1 手引書が示す限界2 手引書が挙げる裁判例3 現在の法令から見た留意点第8 実務上の意味1 国税職員やその家族から相談を受けたとき2 民間企業の人事管理への応用と限界3 情報公開請求で得られる資料第9 関連記事第10 本記事で扱わない事項第11 出典1 本記事で読んだ資料2 法令3 公的資料4 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 対象とする2つの資料
本記事は,国税庁及び国税局が「身上把握」と呼んでいる職員の人事管理の仕組みについて,次の2つの資料を読んで整理するものである。
基準日は令和8年10月1日である。
①国税庁長官官房人事課・監察官室「的確な身上把握のために」(平成26年7月)
②大阪国税局長「職員の身上の的確な把握について(事務運営指針)」(令和元年7月31日付け大局総人二(服)第255号)
①は,表紙,はじめに,目次,本文23頁及び参考文献から成る全27頁の冊子であり,管理者に対する研修の資料として作られたものである(はじめに)。
②は,大阪国税局の各部長及び各税務署長に宛てた全2頁の事務運営指針である。
いずれも当ブログに掲載しているPDFであり,表紙等に,①は「共通(研修関係)」「各種手引書(正本)」,②は「共通(法令・通達)」「事務運営指針及び事務運営指針関係書類(正本)」という行政文書の分類が記載されている。
以下,①を「手引書」,②を「大阪国税局指針」と呼び,手引書の頁は冊子に印字された頁で示す。
2 結論
結論は次のとおりである。
①国税組織では,身上把握は上司である管理者の「当然の職務」とされ,非行防止だけでなく,職員の能力や適性に応じた配置及び業務配分にも使う人事管理の手段と位置付けられている。
②把握の対象は,勤務時間外の私生活と心身の状態にまで及び,特に家計の状況(借財)は,重大な職務関連非行を防ぐために積極的に聴き取るべき事項とされている。
③大阪国税局指針は,人事評価の評価者等が,定期人事異動後と身上申告書の提出時期の年2回,非常勤職員を除く全職員と個室等で個別面談をするよう定めている。
④他方で,人種・本籍・思想・信条等のいわゆるセンシティブ情報は,特段の事由がない限り聴き取らず,把握した情報は厳格に管理することとされている。
⑤部下職員の非行の兆候を知った管理者は,自ら調査をせず,直ちに上司等へ報告すべきものとされ,報告を怠ったり身上把握が不十分であったりした管理者自身も,監督責任を問われ得る。
第2 身上把握の根拠と目的
1 手引書が挙げる根拠
手引書は,身上把握を直接定めた法律は無いとした上で,国家行政組織法10条を根拠に挙げる(1頁)。
手引書は,同条を「各省大臣,各委員会及び各庁の長官は,その機関の事務を統括し,職員の服務について,これを統督する。」と引用している。
もっとも,法務省の日本法令外国語訳データベースに収録された同条の日本語本文は「各省大臣、各委員会の委員長及び各庁の長官は、その機関の事務を統括し、職員の服務について、これを統督する。」であり,手引書の引用には「の委員長」が欠けている。
国税庁では,国税庁長官が国税組織全体の職員の服務を統督し,実際の運用では,各階層の管理・監督の地位にある者がこれに当たるという説明である。
その上で,手引書は,部下職員の服務を監督することは管理者の当然の職務であり,その手段の一つとして身上把握が行われていると述べる。
手引書は,「服務」の意味について,日本人事行政研究所編『服務・勤務時間・休暇関係質疑応答集(第8次改訂版)』3頁の説明を引いている。
それによれば,服務とは,組織の秩序を維持し,その目的を統一的・能率的に達成するために組織の構成員に求められる規律であり,必要に応じて勤務時間外,職場外で守るべきものまで含むとされている。
2 手引書が引く政府答弁書は警察職員に関するもの
手引書は,身上把握が「職員の指導監督上,必要な人事管理」の一環として行われることの出典として,平成19年の2つの政府答弁書を挙げている(2頁の注2)。
しかし,衆議院ウェブサイトで原文を確認すると,これらは,鉢呂吉雄衆議院議員が提出した「警察職員の不祥事に関する質問主意書」及び同再質問主意書に対する答弁書であった。
(続きを読む...)国税職員の身上把握とは―国税庁の手引書「的確な身上把握のために」(平成26年7月)と大阪国税局の事務運営指針(令和元年7月31日)(AI作成)