本記事は,昭和2年(1927年)の兵役法制定から昭和20年(1945年)までを中心として,日本の戦前の兵役年齢を整理するものである。
当時は,「兵役に服する年齢」,「徴兵検査を受ける年齢」,「志願できる年齢」及び「召集されて実際に勤務する年齢」が同じではなかった。
沖縄戦の学徒については,法令上の年齢区分と,実際に動員された生徒の年齢も分けて説明する。
第1 兵役年齢を理解するための区分
1 制度ごとの年齢一覧
兵役法上の身分,徴兵検査,志願及び義勇兵役を同じ意味の「兵役年齢」として扱うと,年齢の数字だけが独り歩きすることになる。
本記事で取り上げる主な年齢区分は,次のとおりである。
| 制度又は事実 | 年齢 | 意味 |
|---|---|---|
| 徴兵検査 | 原則20歳,昭和18年12月24日公布の特例後は19歳 | 徴兵検査を受ける年齢であり,直ちに全員が入営するという意味ではない。 |
| 第二国民兵役 | 当初17歳から40歳まで | 他の兵役に服していない者に関する兵役上の身分である。 |
| 第二国民兵役の上限 | 昭和18年11月1日以降は45歳に満つる年の3月31日まで | 兵役法の改正により上限が延長された。 |
| 志願現役兵 | 17歳以上,徴兵適齢未満 | 陸軍では2年,海軍では3年の在営を志願する制度である。 |
| 年少者の特別志願 | 14歳から16歳まで | 17歳未満という勅令上の上限と,14歳以上という施行規則上の下限を組み合わせた年齢である。 |
| 義勇兵役 | 原則として男子15歳から60歳まで,女子17歳から40歳まで | 昭和20年6月23日公布の義勇兵役法による年齢区分である。 |
| 沖縄戦の学徒 | 男子14歳から19歳,女子15歳から19歳 | 沖縄県が整理する実際の動員年齢であり,単一の兵役法上の区分ではない。 |
2 兵役上の身分と入営・召集の違い
兵役法上の兵役区分に編入されること,徴兵検査を受けること,現役兵として入営すること及び召集に応じて勤務することは,それぞれ別の段階である。
例えば,17歳から第二国民兵役に服する旨の規定があったとしても,17歳になった男子全員がその時点で部隊に入ったことを意味しない。
また,志願により第二国民兵役に編入された年少者についても,その編入だけで直ちに部隊勤務が始まるわけではなく,実際の勤務には召集などの手続を要した。
第2 徴兵検査と第二国民兵役の年齢
1 徴兵検査は原則20歳から19歳へ引き下げられた
昭和2年法律第47号の兵役法23条1項は,20歳に達する者について徴兵検査を受ける制度を定めていた。
その後,徴兵適齢臨時特例(昭和18年勅令第939号)が昭和18年12月24日に公布され,兵役法23条1項及び24条の年齢は20歳から19歳に引き下げられた。
もっとも,同特例の附則2項は,昭和18年12月1日から昭和19年11月30日までの間に20歳に達する者について,なお従前の例によるという経過措置を置いていた。
したがって,制度上の徴兵適齢は20歳から19歳に引き下げられたものの,20歳となる者に従前の制度を適用する経過措置が併存した時期があった。
2 第二国民兵役は17歳から始まった
兵役法9条2項は,他の兵役に服していない者を17歳から40歳まで第二国民兵役に服させる旨を定めていた。
この上限は,昭和18年11月1日公布の兵役法中改正法律(昭和18年法律第110号)により,「45歳に満つる年の3月31日まで」に延長された。
第二国民兵役は兵役上の身分であり,この年齢範囲にある者が常時部隊で勤務していたという意味ではない。
第3 志願できる年齢
1 17歳以上の志願現役兵
兵役法施行令(昭和2年勅令第330号)7条は,17歳以上で徴兵適齢未満の者が,陸軍では2年,海軍では3年の在営を志願する「志願現役兵」の制度を定めていた。
この規定は,第二国民兵役への志願を定めたものではない。
徴兵適齢が20歳であった時期には17歳から19歳までが,徴兵適齢が19歳に引き下げられた後は17歳及び18歳が,この年齢要件に該当した。
同条による年齢は,志願する年の12月1日現在で計算された。
2 昭和19年に設けられた14歳から16歳までの特別志願
昭和19年10月16日公布の陸軍特別志願兵令中改正ノ件(昭和19年勅令第594号)は,17歳未満の帝国臣民男子について,本人の志願により第二国民兵役に編入できる制度を設けた。
さらに,昭和19年10月20日公布の陸軍特別志願兵令施行規則中改正(陸軍省令第47号)は,その対象を14歳以上で所管の聯隊区司令官が適当と認めた者に限った。
勅令による17歳未満という上限と,施行規則による14歳以上という下限を合わせると,この特例の年齢範囲は14歳から16歳までである。
したがって,上限を示さずに「14歳以上であれば志願できた」と説明するのは正確でない。
第4 義勇兵役法の年齢
義勇兵役法(昭和20年法律第39号)2条は,原則として,男子について15歳に達する年の1月1日から60歳に達する年の12月31日まで,女子について17歳に達する年の1月1日から40歳に達する年の12月31日までを義勇兵役の対象とした。
同法は昭和20年6月23日に公布された。
同法によって義勇兵役の対象になったことと,直ちに戦闘に参加したことは同じではなく,実際に義勇隊の隊員として勤務させるためには義勇召集が必要であった。
第5 沖縄戦における年齢
1 現地徴兵・防衛召集と学徒隊は別に整理する必要がある
沖縄戦では,兵力補充のために現地徴兵及び防衛召集が行われたほか,男女の生徒が鉄血勤皇隊,通信隊及び女子学徒隊などに編成された。
小林武『沖縄憲法史考』(日本評論社,2020年)55頁も,現地徴兵及び防衛召集と,男女学徒の部隊編成を区別して記載している。
そのため,正規の徴兵,第二国民兵役に基づく防衛召集,年少者の志願及び学校単位の学徒動員を,一括して1つの「兵役年齢」で説明することはできない。
2 男子学徒は14歳から19歳,女子学徒は15歳から19歳
沖縄県の「戦場に動員された21校の学徒隊」によれば,女子学徒は15歳から19歳で主に看護活動に当たり,男子学徒は14歳から19歳で,上級生が鉄血勤皇隊,下級生が通信隊に編成された。
同資料によれば,鉄血勤皇隊は軍の物資運搬や破壊された橋の補修などに当たり,通信隊は電話線の修復や電報の配達などに従事した。
これらは沖縄戦で実際に動員された学徒の年齢及び活動に関する整理であり,全員が同一の法的根拠により兵役へ編入されたことを意味しない。
また,陸軍特別志願兵令による14歳から16歳までの志願制度が存在したことだけから,個々の学徒の志願又は承諾があったと推定することもできない。
3 義勇兵役法は沖縄戦初期の動員根拠ではない
義勇兵役法の公布日は昭和20年6月23日であり,沖縄への米軍上陸及び同年3月下旬から行われた学徒隊の編成より後である。
したがって,同法を,沖縄戦の初期から行われた現地徴兵,防衛召集又は学徒隊編成の法的根拠として説明することはできない。
第6 出典
1 法令・公文書
① 国立公文書館「兵役法・御署名原本・昭和二年・法律第四七号」
② 国立公文書館「兵役法中改正法律・御署名原本・昭和十八年・法律第一一〇号」
③ 国立公文書館「徴兵適齢臨時特例・御署名原本・昭和十八年・勅令第九三九号」
④ 国立公文書館「兵役法施行令・御署名原本・昭和二年・勅令第三三〇号」
⑤ 国立国会図書館日本法令索引「陸軍特別志願兵令中改正ノ件(昭和十九年勅令第五九四号)」
⑥ 国立国会図書館デジタルコレクション「陸軍特別志願兵令施行規則中改正(昭和十九年陸軍省令第四七号)」
⑦ 国立国会図書館日本法令索引「義勇兵役法(昭和二十年法律第三九号)」
2 文献
① 小林武『沖縄憲法史考』(日本評論社,2020年)55頁
3 ウェブ資料
① 沖縄県「沖縄戦継承事業 戦場に動員された21校の学徒隊」(2024年2月13日更新)