目次
第1 全額を払った事実から結論を一つに決めない第2 債権者から請求される額と相続人間の負担1 遺言・合意・債権者の承認を確認する2 借入金ごとに整理する第3 他の相続人に請求できるか1 弁済の有効性と費用償還の根拠を分ける2 依頼を受けた場合と,受けていない場合第4 弁済による代位を確認する第5 相続税の債務控除は誰の欄に記載するか1 支払口座だけでは控除額を決めない2 仮例で支払額と負担額を分ける3 遺留分の計算とは別の表にする第6 支払前後にそろえる資料第7 関連記事第8 出典
第1 全額を払った事実から結論を一つに決めない
相続人の一人が被相続人の借入金を全額返済しても,その人が最終的に全額を負担することになるとは限らない。
債権者への弁済,相続人間での負担,立て替えた部分の回収,相続税の申告を分けて確認する必要がある。
本記事は,単純承認をした共同相続人が,通常の金銭債務を返済する場面を,現行法により説明する。
過去に開始した相続や改正前の契約・弁済については,当時の法令と経過措置を別に確認する必要がある。
相続放棄・限定承認を検討中の場合,保証債務・連帯債務の場合,国外居住者等が関係する場合は,別の規定や確認が必要になる。
国税庁タックスアンサーNo.4126の法令等基準日は令和8年4月1日であり,本記事の確認日は令和8年10月25日である。
弁護士と税理士が資料を共有するときも,「誰の口座から支払ったか」と「誰がいくら負担するか」を別の欄に記録することが,整理の出発点になる。
第2 債権者から請求される額と相続人間の負担
1 遺言・合意・債権者の承認を確認する
被相続人の借入金について相続分の指定がある場合,民法902条の2は,債権者が各共同相続人に対し法定相続分に応じて権利を行使できることを定めている。
ただし,債権者が共同相続人の一人に対し,指定相続分に応じた債務の承継を承認したときは,この限りでない。
したがって,遺言や相続人間の負担の取決めを読んだだけで,銀行等への責任がなくなったと判断しない。
遺言の内容,相続人間の合意に加え,債権者が何を承認したかを確認する。
2 借入金ごとに整理する
実務上は,借入先,死亡時の残高,担保・保証の有無,遺言の該当条項,相続人間の負担割合,債権者への説明・承認,返済日と返済原資を一つの表にする。
相続財産の受取額だけから借入金の負担割合を逆算する方法は避ける。
「預金を多く取得したから借金も全部負担する」という説明を採るなら,それを支える遺言の解釈又は具体的な合意を確認する必要がある。
第3 他の相続人に請求できるか
1 弁済の有効性と費用償還の根拠を分ける
民法474条1項は「債務の弁済は、第三者もすることができる。」と定める。
一方で,正当な利益を有しない第三者については債務者や債権者の意思による制限があり,債務の性質による制限や,当事者が第三者の弁済を禁止し,又は制限する旨の意思表示による制限もある。
他の相続人の債務を支払う部分は,これらを確認して弁済の有効性を検討する。
有効に支払ったことだけで,相手の相続人に同じ金額を請求できると決まるわけではない。
依頼を受けた立替えなのか,依頼を受けず本人のために事務を処理したのか,返済を求めない援助なのかを確認する。
2 依頼を受けた場合と,受けていない場合
委任に基づき必要な費用を支出した場合は,民法650条1項による費用償還を検討する。
依頼書やメールに,対象債務,支払額,返してもらう範囲と時期を残すと,後の説明に役立つ。
依頼を受けていない場合は,事務管理の要件を満たすかを確認する。