遺留分に関するメモ書き


目次
第1 総論
第2 遺留分と寄与分等との関係
第3 遺留分侵害額請求にも妥当する遺留分減殺請求に関する判例
第4 遺留分減殺請求(旧法)に関するメモ書き
1 遺留分減殺請求の対象
2 価額弁償の基準時
3 価額弁償における遅延損害金の起算日
4 価額弁償の方法
5 価額弁償と全面的価格賠償の関係
6 価額弁償に関する確認の訴え
7 特別受益の評価時点
8 所有権の帰属
9 取得時効との関係
第5 関連記事

第1 総論
1 改正相続法が施行された令和元年7月1日以降に相続が発生した場合,相続人に対する贈与は相続開始前の10年間にしたものについて遺留分侵害額請求の基礎となります(民法1044条3項)。
2 相続財産に対する各相続人の遺留分は以下のとおりです。
① 子と配偶者が相続人の場合
・ 子が4分の1,配偶者が4分の1
② 父母と配偶者が相続人の場合
・ 配偶者が3分の1,父母が6分の1
③ 兄弟姉妹及び配偶者が相続人の場合
・ 配偶者が2分の1、兄弟姉妹は遺留分なし
④ 配偶者のみが相続人の場合
・ 配偶者が2分の1
⑤ 子のみが相続人の場合
・ 子が2分の1
⑥ 直系尊属のみが相続人の場合
・ 直系尊属が3分の1
⑦ 兄弟姉妹のみが相続人の場合
・ 兄弟姉妹には遺留分なし。

第2 遺留分と寄与分等との関係
1 遺留分侵害額を計算する際,寄与分は考慮しません(民法1043条1項)から,寄与分の存在は遺留分侵害額請求に対する抗弁事由とはなりません。
2 持戻し免除の意思表示(民法903条3項)によって遺留分の侵害を回避することはできません(みずほ中央法律事務所HPの「持戻し免除の意思表示」参照)。

第3 遺留分侵害額請求にも妥当する遺留分減殺請求に関する判例
1 被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合において,遺留分減殺請求権を有する相続人が,遺贈の効力を争うことなく,遺産分割協議の申入れをしたときは,特段の事情のない限り,その申入れには遺留分侵害額請求の意思表示が含まれていると解されます(遺留分減殺請求に関する最高裁平成10年6月11日判決参照)。
2  遺留分侵害額請求権は,遺留分権利者が,これを第三者に譲渡するなど,権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き,債権者代位の目的とすることができません(遺留分減殺請求に関する最高裁平成13年11月22日判決参照)。
3 相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合には,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,相続人間においては当該相続人が相続債務もすべて承継したと解され,遺留分の侵害額の算定に当たり,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されません(最高裁平成21年3月24日判決)。

第4 遺留分減殺請求(旧法)に関するメモ書き
1 遺留分減殺請求の対象
(1)ア 相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては,右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが,民法1034条にいう目的の価額に当たります(最高裁平成10年2月26日判決)。
イ 本橋総合法律事務所HPの「【相続法改正前】共同相続人に対して遺留分減殺請求を行う場合、減殺の対象となるのはどの部分でしょうか」に,具体的な計算事例が載っています。
(2)ア 相続開始の約19年前の贈与が遺留分権利者たる法定家督相続人に損害を加えることを知ってなされたものであると言うには,当事者双方において贈与当時贈与財産の価額が残存財産の価額を超えることを知っていたのみならず,なお将来相続開始までに被相続人の財産に何らの変動のないこと,少なくともその増加がないであろうことを予見していた事実のあることを必要とします(大審院昭和11年6月17日判決(判例体系に掲載))。
イ 改正相続法の取扱いと異なり,民法903条1項の定める相続人に対する贈与は,右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって,その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき,減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り,同法1030条の定める要件を満たさないものであっても,遺留分減殺の対象となります(最高裁平成10年3月24日判決)。
(3) 遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正されます(最高裁平成24年1月26日判決)。
 価額弁償の基準時
(1)  遺留分権利者が受贈者又は受遺者に対し改正前民法1041条1項の価額弁償を請求する訴訟における贈与又は遺贈の目的物の価額算定の基準時は,右訴訟の事実審口頭弁論終結の時です(最高裁昭和51年8月30日判決)。
(2) 千葉の弁護士による相続の無料相談HPの「Q. 令和元年7月より前に生じた相続の遺留分減殺請求に対して、価額弁償の抗弁を出した場合の価額算定の基準時はいつになりますか。」には,「遺留分減殺請求の場合、遺留分の割合を決める際の不動産の評価の基準時は相続開始時(被相続人死亡時)である一方、価額弁償の抗弁の基準時は事実審の口頭弁論終結時(直近)となりますので、両者は異なってきます。」と書いてあります。
3 価額弁償における遅延損害金の起算日
(1) 遺留分減殺請求を受けた受遺者が民法1041条1項の規定により遺贈の目的の価額を弁償する旨の意思表示をし,これを受けた遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした場合には,その時点において,当該遺留分権利者は,遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権をさかのぼって失い,これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得します(最高裁平成20年1月24日判決)。
(2) 名駅南法律事務所の相続相談窓口HP「遺留分減殺請求における価額弁償について」には「価額弁償において遅延損害金を請求する場合には、単に受遺者(遺留分減殺請求の相手方)が価額弁償の意思を表明したのみでは足りず、遺留分権利者が受遺者に対して弁償金の支払いを請求する必要があることとなります。」と書いてあります。
4 価額弁償の方法
・ 受贈者又は受遺者は,遺留分減殺の対象とされた贈与又は遺贈の目的である各個の財産について,民法1041条1項に基づく価額弁償をすることができます(最高裁平成12年7月11日判決)。
5 価額弁償と全面的価格賠償の関係
(1)  減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的である不動産の持分移転登記手続を求める訴訟において,受遺者が,事実審口頭弁論終結前に,裁判所が定めた価額により改正前民法1041条の規定による価額の弁償をする旨の意思表示をした場合には,裁判所は,右訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上,受遺者が右の額を支払わなかったことを条件として,遺留分権利者の請求を認容すべきとされています(最高裁平成9年2月25日判決)。
(2) 遺留分減殺請求を受けた者の立場から考えた場合,共有となることを回避して,対象物の全体を所有する状態を維持する対抗策としては,①価額賠償の抗弁,及び②(共有物分割による)全面的価格賠償(最高裁平成8年10月31日判決及び最高裁平成9年4月25日判決)の2つがありますところ,②については,実質的に価額弁償ができる期間を伸長することに等しいといえます(みずほ中央法律事務所HPの「【遺留分減殺請求・価額弁償と全面的価格賠償(共有物分割)の関係】」参照)。
6 価額弁償に関する確認の訴え
・ 遺留分権利者から遺留分減殺請求を受けた受遺者が,民法1041条所定の価額を弁償する旨の意思表示をしたが,遺留分権利者から目的物の現物返還請求も価額弁償請求もされていない場合において,弁償すべき額につき当事者間に争いがあり,受遺者が判決によってこれが確定されたときは速やかに支払う意思がある旨を表明して,弁償すべき額の確定を求める訴えを提起したときは,受遺者においておよそ価額を弁償する能力を有しないなどの特段の事情がない限り,上記訴えには確認の利益があります(最高裁平成21年12月18日判決)。
7 特別受益の評価時点
・  相続人が被相続人から贈与された金銭をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産の価額に加える場合には,贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもつて評価すべきです(最高裁昭和51年3月18日判決)。
8 所有権の帰属
(1) 遺留分権利者が特定の不動産の贈与につき減殺請求をした場合には,受贈者が取得した所有権は遺留分を侵害する限度で当然に右遺留分権利者に帰属します(最高裁平成7年6月9日判決。なお,先例として,最高裁昭和51年8月30日判決)。
(2)  遺留分権利者が減殺請求により取得した不動産の所有権又は共有持分権に基づく登記請求権は,時効によって消滅することはありません(最高裁平成7年6月9日判決)。
(3)  遺言者の財産全部の包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は,遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しません(最高裁平成8年1月26日判決)。
9 取得時効との関係
・  遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与を受けた者が,右贈与に基づいて目的物の占有を取得し,民法162条所定の期間,平穏かつ公然にこれを継続し,取得時効を援用したとしても,右贈与に対する減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属は妨げられません(最高裁平成11年6月24日判決)。

第5 関連記事その他
1(1) 司法書士・行政書士町田リーガル・ホームHPに「民事信託・家族信託」が載っています。
(2) 株式会社サイエンス社HPの「遺留分:平成30年改正前の条文との対照」には,改正前の条文及び最高裁判例が載っています。
2 東京地裁平成30年9月12日判決(判例秘書に掲載)は,「信託契約による信託財産の移転は、信託目的達成のための形式的な所有権移転にすぎないため、実質的に権利として移転される受益権を対象に遺留分減殺の対象とすべきである。」と判示しています。
3 以下の記事も参照して下さい。
・ 相続事件に関するメモ書き
・ 家事事件に関する審判書・判決書記載例集(最高裁判所が作成したもの)
・ 離婚時の財産分与と税金に関するメモ書き
・ 相続財産管理人,不在者財産管理人及び代位による相続登記
・ 公正証書遺言の口授
・ 大阪家裁後見センターだより
・ 訴訟能力,訴状等の受送達者,審判前の保全処分及び特別代理人
・ 裁判所関係国賠事件
・ 後見人等不正事例についての実情調査結果(平成23年分以降)
・ 平成17年以降の,成年後見関係事件の概況(家裁管内別件数)


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