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遺留分侵害額請求の基礎財産から控除される「被相続人の債務」の効果的な主張立証方法(AI作成)

遺留分侵害額請求の事件では,遺産や生前贈与の評価に目が向きがちですが,勝敗と金額を大きく左右するのは,しばしば「被相続人の債務」の扱いです。債務は,遺留分の計算の中で二つの異なる場面に登場し,しかも一方では請求額を減らし,他方では請求額を増やすという逆向きの働きをします。本稿では,この構造を整理したうえで,代理人として実際にどう主張し立証するかを,条文と最高裁判例に沿って解説します。

目次

第1 本稿の狙いと全体像

1 本稿が扱う問題

本稿が扱うのは,遺留分侵害額請求(民法1042条以下)において,被相続人が負っていた債務をどのように取り扱うか,という問題です。令和元年7月1日施行の改正相続法により遺留分は金銭債権となりましたが,債務の取扱いに関する基本的な考え方は,改正の前後を通じて実質的に維持されています。以下では,債務が計算に組み込まれる二つの場面を切り分けたうえで,代理人としての主張立証の勘所を示します。

2 最大のポイント-債務は「二つの段階」で逆向きに効く

遺留分の計算では,被相続人の債務は,性質の異なる二つの段階に登場します。この二段階を区別することが,正確な計算と説得的な主張の出発点になります。

(1) 段階① 基礎財産からの控除

第1の段階は,「遺留分を算定するための財産の価額」(基礎財産)の算定です。ここでは,被相続人の債務は基礎財産から控除され(民法1043条1項),債務が大きいほど遺留分額そのものが小さくなります。したがって,支払を求められる受遺者・受贈者の側は債務を大きく,遺留分を請求する側は債務を小さく主張するのが基本方向です。

(2) 段階② 侵害額算定における承継債務の加算

第2の段階は,遺留分侵害額そのものの算定です。ここでは逆に,遺留分権利者が現実に承継する相続債務(遺留分権利者承継債務)が侵害額に加算されます(民法1046条2項3号)。承継債務が大きいほど請求額は増えるため,この場面では相続債務は請求する側に有利に働きます。

(3) 二段階の混同が最も多い誤り

同じ相続債務が,段階①では遺留分額を減らし,段階②では侵害額を増やします。方向が逆であるため,「今はどちらの段階の話か」を常に意識しないと,二重に控除してしまう,あるいは加算すべき場面で加算し忘れる,といった誤りが生じます。実務では,この切り分けを最初に固定することが有効です。

第2 段階①-基礎財産から控除される「被相続人の債務」

1 条文の枠組み(民法1043条1項)

民法1043条1項は,「遺留分を算定するための財産の価額は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする」と定めます。式で示すと次のとおりです。

基礎財産 = 相続開始時の積極財産 + 加算される贈与 - 債務の全額

ここでいう「債務の全額」は,各相続人の相続分に応じて分割される前の,被相続人が負っていた債務の総額を指します。

2 控除される債務・されない債務

(1) 控除される債務

控除の対象となるのは,被相続人が相続開始時に負っていた債務です。具体的には,次のものが含まれます。

  • 契約に基づく債務(借入金,売買代金債務,未払費用など)
  • 不法行為に基づく損害賠償債務
  • 公租公課その他の公法上の債務(被相続人の生前に生じた未納の所得税・住民税・固定資産税,罰金など)

すなわち,私法上の債務に限られず,公法上の債務も控除の対象になります。

(2) 控除されない債務

これに対し,被相続人が相続開始時に負っていた債務とはいえないもの,すなわち相続開始後に生じた費用等は控除されません。代表例は次のとおりです。

  • 相続税(相続を契機として各相続人に課される税であり,被相続人の債務ではありません。)
  • 遺言執行に関する費用
  • 相続財産の管理に関する費用(民法885条参照)

(3) 葬式費用と「相続税の債務控除」との違い

実務で混乱が生じやすいのが葬式費用です。相続税の計算では,葬式費用は相続財産から控除できます(相続税法上の債務控除)。しかし,これは税額計算のルールであり,遺留分の基礎財産の算定とは目的も基準も異なります。遺留分の基礎財産の算定では,葬式費用は被相続人が相続開始時に負っていた債務ではないため,控除すべき「債務」には含まれないと解するのが一般的です(葬式費用は喪主が負担するという考え方が実務上有力です。)。「相続税で控除できるのだから遺留分でも控除できるはずだ」という主張は,この点で成り立ちません。相手方がこの混同をしている場合は,制度目的の違いを指摘して反論することが有効です。

3 控除の基準時(最判平成8年11月26日)

控除すべき相続債務は,相続開始時を基準として確定します。最高裁平成8年11月26日第三小法廷判決(民集50巻10号2747頁)は,相続債務がある場合の遺留分(当時は遺留分減殺)の算定方法を示した基本判例であり,相続開始後に債務が弁済や相殺によって消滅しても,遺留分算定の基礎となる債務額には影響しないという考え方の基礎となっています。したがって,「相続開始後に自分が弁済したから債務はもう存在しない」という主張は,基礎財産の算定の場面では通りません。

4 債務超過の場合の帰結

積極財産と加算される贈与の合計を相続債務が上回る「債務超過」の場合,基礎財産はゼロまたはマイナスとなり,遺留分は生じないと解するのが一般的な考え方です。もっとも,債務の存否・数額や,計上されている債務に実体があるかは,別途争う余地があります。受遺者・受贈者側が債務超過を理由に「遺留分は生じない」と主張してきた場合でも,遺留分権利者側としては,計上された債務の実在性・数額・弁済の有無を精査し,基礎財産がプラスに転じないかを検討する意義があります。

第3 最大の争点-保証債務・連帯保証債務

1 原則と例外(東京高判平成8年11月7日)

段階①で最も争いになりやすいのが,被相続人が他人のために負っていた保証債務・連帯保証債務です。東京高等裁判所平成8年11月7日判決(判例時報1637号31頁)は,保証債務について,将来現実に履行するかどうかが不確実であること,履行しても本来の債務者に求償できることなどを理由に,原則として遺留分算定における控除の対象とならないとしました。控除が認められるのは,主たる債務者が弁済不能の状態にあって保証人が現実に履行せざるを得ず,かつ,履行しても主たる債務者に求償して返還を受けられる見込みがないという「特段の事情」がある場合の,回収不能部分に限られます。物上保証(抵当権を設定していた場合の被担保債務)についても,同様の実質的な判断が妥当します。

2 「特段の事情」の主張立証

この準則は,どちらの立場に立つかで,主張の方向が正反対になります。

(1) 控除を否定する側(遺留分権利者)

基礎財産を大きく保ちたい遺留分権利者側は,保証債務は原則として控除されないことを前提に,「特段の事情」の不存在を主張します。具体的には,主たる債務者に十分な資力があること,現に主たる債務者が弁済を続けていること,求償が可能であることなどを示します。主たる債務者の資産状況や弁済実績に関する資料が有効です。

(2) 控除を求める側(受遺者・受贈者)

基礎財産を小さくしたい受遺者・受贈者側は,「特段の事情」の存在を積極的に立証します。すなわち,主たる債務者が弁済不能であること(破産,資産の不存在,行方不明など),および求償しても回収の見込みがないことを,客観的資料によって裏づける必要があります。ここを立証できて初めて,回収不能部分を控除できます。単に「保証していた」というだけでは足りない点に注意が必要です。

3 条件付債務・存続期間の不確定な債務(民法1043条2項)

保証債務のように将来の履行が不確実な債務や,条件付き・存続期間の不確定な債務については,民法1043条2項が,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って価額を定めるとしています。額の当否が正面から争点になる場合には,この鑑定人評価の手続を用いて債務額を確定させるルートがあることを念頭に置くとよいでしょう。

4 連帯債務・可分債務・負担付贈与

債務の類型による違いも押さえておく必要があります。金銭債務のような可分債務は,相続開始と同時に各相続人が法定相続分に応じて当然に分割承継します(最高裁昭和34年6月19日第二小法廷判決・民集13巻6号757頁)。したがって,連帯債務についても,控除や承継は原則として被相続人の負担部分を基準に考えます。また,負担付贈与がされていた場合には,その目的の価額から負担の価額を控除した額を,基礎財産に算入すべき贈与の価額とします(民法1045条1項)。

第4 段階②-相続債務の加算(遺留分権利者承継債務)

1 算定式(民法1046条2項3号)

遺留分侵害額は,民法1046条2項により,次のように算定します。

遺留分侵害額 = 遺留分額 -〔1号〕遺留分権利者が受けた遺贈・特別受益(生前贈与)の額 -〔2号〕遺留分権利者が遺産分割で取得すべき遺産の額 +〔3号〕遺留分権利者が承継する相続債務(遺留分権利者承継債務)の額

3号の加算は,段階①で被相続人の債務を全額控除したことと対をなすものです。基礎財産の段階でいったん全額を差し引いた債務のうち,遺留分権利者が現実に承継して負担する部分を,最後に侵害額へ戻して回復させる仕組みと理解すると,全体の整合性がとらえやすくなります。この考え方は,前記最判平成8年11月26日が示した算定方法を条文化したものと位置づけられています。

2 計算例

具体例で確認します(金額・関係は説明のための仮設例です。)。

  • 被相続人A。相続人は長男C・二男Dの2人(法定相続分は各2分の1,総体的遺留分は2分の1)。
  • 遺言は「全財産を長男Cに相続させる」というもの。
  • 相続開始時の積極財産は3,000万円。生前贈与はなし。
  • 銀行借入(通常の相続債務)が1,000万円。
  • 被相続人が第三者のために負った連帯保証債務が500万円(主たる債務者には十分な資力がある)。
  • 二男Dが遺留分侵害額を請求する。
段階計算
段階① 基礎財産3,000万円(積極財産)-1,000万円(銀行借入)=2,000万円
※連帯保証債務500万円は,主たる債務者に資力があり「特段の事情」がないため控除しない。
Dの遺留分額2,000万円 × 1/2(総体的遺留分)× 1/2(Dの法定相続分)=500万円
段階② 侵害額500万円 -0円(Dの遺贈・特別受益)-0円(Dが取得する遺産)+0円(Dの承継債務)=500万円

ここで注目すべきは,段階②の承継債務が0円になっている点です。「全財産をCに相続させる」という遺言により,相続債務もCがすべて承継すると解されるため,Dの承継債務は加算されません(この点は次項で詳述します。)。仮にこの遺言が「全部を相続させる」型ではなく,特定の財産のみを対象とし残余は法定相続に委ねる内容であれば,Dは相続債務1,000万円のうち法定相続分に応じた500万円を承継し,この500万円が段階②で侵害額に加算されることになります。遺言の内容次第で承継債務の加算の有無が変わる点に,主張の分かれ目があります。

3 相続分の指定・全部を相続させる遺言(最判平成21年3月24日)

(1) 判例の準則

最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決(民集63巻3号427頁)は,相続人の1人に全部の財産を相続させる旨の遺言がされた場合について,相続債務もすべてその相続人に承継させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,相続人間においては当該相続人が相続債務もすべて承継すると解されるとしました。その帰結として,遺留分侵害額の算定にあたり,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないと判示しています。つまり,全部を相続させる遺言のもとでは,遺留分権利者の承継債務は原則としてゼロと扱われ,段階②の加算は封じられます。

(2) 民法902条の2の対外・対内の二重構造

この結論を理解する鍵は,相続債務の「対外的な関係」と「対内的な関係」の区別です。民法902条の2は,相続分の指定がされた場合でも,相続債権者は各共同相続人に対して法定相続分に応じて権利を行使できると定めています。すなわち,対外的には,遺留分権利者も法定相続分に応じた履行の請求を免れません。しかし,対内的な相続人間の関係では,指定に従って負担が定まり,全部を相続させる遺言のもとでは当該相続人が全債務を負担します。仮に遺留分権利者が債権者に弁済しても,最終的には全部を承継した相続人に求償できる立場にあります。この対内関係を前提に侵害額を算定するため,法定相続分に応じた債務の加算は認められない,という理解です。

(3) 「特段の事情」という留保を見落とさない

もっとも,この判例には「相続債務もすべてを承継させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り」という留保が付されています。したがって,遺言の文言や付言事項などから,被相続人が相続債務まで一人に負わせる意思ではなかったとうかがわれる事案では,結論が変わり得ます。遺留分権利者側としては,この特段の事情を基礎づける事実を拾い上げることで,承継債務の加算の余地を主張できます。逆に受遺者・受贈者側としては,遺言全体の趣旨から債務も含めて全部を承継させる意思であったことを示し,加算を封じることになります。

4 参考-相続分の指定と減殺請求権の帰すう(最決平成24年1月26日)

関連して,最高裁平成24年1月26日第一小法廷決定は,相続分の指定がされた場合における遺留分減殺請求権の行使の効果について判断を示しています。これは改正前の遺留分減殺請求を前提とするものですが,相続分の指定と遺留分との関係を検討する際の参考になります。改正後の金銭債権としての遺留分侵害額請求に引き直して考える必要がある点には留意してください。

第5 受遺者・受贈者の防御-債務消滅請求(民法1047条3項)

1 制度の趣旨と効果

受遺者・受贈者の側には,相続債務を用いた有力な防御手段があります。民法1047条3項は,遺留分侵害額の請求を受けた受遺者・受贈者が,遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは,消滅した債務の額の限度で,遺留分権利者に対する意思表示によって自らが負担する金銭債務(侵害額)を消滅させることができるとしています。この場合,弁済等によって取得した求償権も同じ額の限度で消滅します。これにより,いったん支払って後で求償するという迂遠な処理を避け,相殺類似の効果を一挙に実現できます。免責的債務引受をした場合には求償権が発生しないため,この1047条3項の消滅請求によって処理することになります。

2 期限の許与との併用(民法1047条5項)

あわせて,民法1047条5項は,裁判所が受遺者・受贈者の請求により,負担する債務の全部または一部の支払について相当の期限を許与できると定めています。期限が許与されると,遅延損害金はその弁済期の翌日から発生します。資金調達に一定の時間を要する場合には,債務消滅請求と期限の許与を組み合わせて,支払の負担を平準化する戦略が考えられます。

3 実務上の使いどころ

この防御は,手元資金が乏しい受遺者・受贈者にとって特に有用です。現金を用意して侵害額を支払う代わりに,遺留分権利者が承継している相続債務を肩代わりして弁済し,または免責的に引き受ければ,その分だけ侵害額(金銭債務)を確実に圧縮できます。相続債務の存在を,防御の道具として積極的に活用する発想です。

第6 訴訟の攻撃防御構造と立証

1 相続債務の存在は「請求原因」か「抗弁」か

遺留分侵害額請求訴訟では,相続債務に関する事実がどちらの当事者の主張に属するかを整理しておくことが重要です。段階②の承継債務の加算(民法1046条2項3号)は,侵害額という請求権の発生原因を構成する要素です。しかも,法定相続分率が遺留分割合を上回る関係から,相続債務が存在するほど侵害額は大きくなります。そのため,遺留分権利者が承継する相続債務の存在は,原則として遺留分権利者(原告)が主張立証すべき請求原因に位置づけられます。

2 被告(受遺者・受贈者)の主な抗弁

これに対し,被告である受遺者・受贈者の側からは,主に次のような主張が抗弁として問題になります。

  1. 全部を相続させる旨の遺言・相続分の指定があり,原告の承継債務はゼロであること(最判平成21年3月24日)。
  2. 原告の承継相続債務を弁済し,または免責的に引き受けたことによる債務消滅請求(民法1047条3項)。
  3. 原告自身が受けた遺贈・特別受益が存在すること(侵害額の控除要素)。
  4. 保証債務を基礎財産から控除すべき「特段の事情」があること(控除を求める側が立証)。
  5. 債務超過であり遺留分が生じないこと。

どの事実を,どちらが主張立証すべきかを最初に確定しておくと,準備書面と証拠の設計が明確になります。

3 立証の実務

債務の立証には,次のような資料が中心となります。

  • 金銭消費貸借契約書,銀行の残高証明・取引履歴(借入金債務)
  • 保証契約書,担保設定契約書(保証債務・物上保証)
  • 主たる債務者の資力に関する資料(保証債務の「特段の事情」の有無)
  • 課税通知・納税証明(公租公課)
  • 債務引受契約書・弁済の領収書(債務消滅請求)

また,遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示は,後日の期間管理の観点から,配達証明付きの内容証明郵便で行い,到達を確保しておくのが安全です。

4 期間制限(民法1048条)

遺留分侵害額請求権は,遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅します。相続開始の時から10年を経過したときも同様です(民法1048条)。遺言の効力を別途争っている場合でも,期間の進行に注意し,予備的にでも侵害額請求の意思表示を先行させておくことが実務上の定石です。

第7 主張立証チェックリスト

1 遺留分権利者側

  • 基礎財産の計算では,計上された債務の実在性・数額・弁済の有無を精査し,控除額を圧縮する。
  • 保証債務は原則控除されないことを前提に,「特段の事情」の不存在(主たる債務者の資力・求償可能性)を主張する。
  • 自らが承継する相続債務を段階②で加算し,侵害額を積み上げる。ただし全部を相続させる遺言の場合は加算できない点に留意する。
  • 全部を相続させる遺言の事案では,債務まで一人に負わせる意思ではなかった「特段の事情」を拾い,加算の余地を探る。
  • 1年・10年の期間制限に注意し,早期に配達証明付き内容証明で意思表示する。

2 受遺者・受贈者側

  • 基礎財産の段階で,控除すべき債務を漏れなく主張し,遺留分額そのものを引き下げる。
  • 保証債務を控除すべき「特段の事情」(主たる債務者の弁済不能・求償不能)を客観的資料で立証する。
  • 全部を相続させる遺言・相続分の指定を根拠に,原告の承継債務の加算を封じる(最判平成21年3月24日)。
  • 手元資金が乏しい場合でも,原告の承継相続債務を弁済・免責的引受して侵害額を圧縮する(民法1047条3項)。
  • 必要に応じて期限の許与を求め,支払の時期を調整する(民法1047条5項)。

第8 まとめ

遺留分侵害額請求における被相続人の債務は,段階①(基礎財産からの全額控除・民法1043条1項)と段階②(承継債務の加算・民法1046条2項3号)という二つの場面で,互いに逆向きに作用します。実務では,(1)この二段階を最初に切り分けること,(2)保証債務は原則控除されず「特段の事情」で初めて控除されること(東京高判平成8年11月7日),(3)全部を相続させる遺言では承継債務の加算が封じられること(最判平成21年3月24日),(4)受遺者・受贈者は債務消滅請求(民法1047条3項)で侵害額を圧縮できること,という4点を押さえることが,効果的な主張立証につながります。個別事件では,計上された債務の実在性・数額・弁済の有無まで踏み込んで検討することが,結論を左右します。

第9 参考とした条文・裁判例

本稿で参照した主な条文および裁判例は,次のとおりです。裁判例を実際の書面に引用する際は,判例集の原典で内容をご確認ください。

  • 条文-民法1042条,1043条,1045条,1046条,1047条,902条の2,899条,1048条,885条
  • 最高裁昭和34年6月19日第二小法廷判決・民集13巻6号757頁(可分債務の当然分割)
  • 東京高裁平成8年11月7日判決・判例時報1637号31頁(保証債務の控除の可否)
  • 最高裁平成8年11月26日第三小法廷判決・民集50巻10号2747頁(相続債務がある場合の算定方法)
  • 最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決・民集63巻3号427頁(全部を相続させる遺言と承継債務の加算の可否)
  • 最高裁平成24年1月26日第一小法廷決定(相続分の指定と遺留分減殺請求権の行使の効果・参考)

(本稿はAIが作成した一般的な解説であり,個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的事件の処理にあたっては,最新の法令・裁判例と事案の詳細に即してご検討ください。)