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股関節の可動域制限と後遺障害12級7号――認定基準,測定方法,代償動作及び裁判例(AI作成)

第1 股関節の可動域制限が該当する後遺障害等級

1 等級表の文言と,本記事の対象

交通事故又は労働災害により股関節の可動域が健側の4分の3以下に制限された状態は,自動車損害賠償保障法施行令別表第二の第12級7号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」に該当し,同表の第12級の保険金額は224万円である。三大関節とは股関節,ひざ関節及び足関節をいい,同表の第10級11号は「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」(461万円),第8級7号は「一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの」(819万円)である。労災保険では労働者災害補償保険法施行規則別表第一の障害等級表が同じ文言の第12級7号を定め,障害補償一時金は給付基礎日額の156日分である。本記事は,股関節の可動域制限が第12級7号として評価される仕組み,制限に伴って生じる生活上の支障,患者が無意識にとる代償動作及びその二次的な弊害を,法令,行政通達,裁判例及び医学文献の順に整理するものであり,一次資料を機械的に照合しながらAIが作成した一般的な説明である。個別の事案における結論は,可動域の実測値,画像所見及び診療録の内容によって変わる。

2 等級の実体基準は労災の認定基準に置かれている

自賠責保険における後遺障害等級の認定基準は,自賠責保険の告示自体に定められているわけではない。自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3は「等級の認定は,原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」と定めており,自賠責保険は労災保険の認定基準を借りている。したがって,股関節の可動域制限がどのように評価されるかを正確に知るには,労働基準局長通達であるせき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について(平成16年6月4日基発第0604003号)と,その別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」に当たる必要がある。同通達は昭和50年9月30日基発第565号別冊の上肢・下肢に関する部分を差し替えたもので,平成16年7月1日以降に支給事由が生じたものに適用され,同年6月30日までに支給事由が生じたものには改正前の基準が適用される。支払基準そのものについては自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)を参照されたい。

3 股関節は主要運動が二つある関節である

股関節の評価が他の関節と最も異なるのは,主要運動が二つある点である。別添の表は,股関節の主要運動を「屈曲・伸展,外転・内転」,参考運動を「外旋・内旋」と定めており,主要運動が二つあるのは上肢・下肢の三大関節のうち肩関節と股関節だけである。そして通達は「上肢・下肢の3大関節のうち主要運動が複数ある肩関節及び股関節については,主要運動のいずれか一方の可動域が健側の関節可動域角度の1/2以下又は3/4以下に制限されているときは,関節の著しい機能障害又は機能障害と認定すること」と定めている。ここから導かれる帰結は実務上重要であり,屈曲・伸展の合計値が健側の4分の3を上回っていても,外転・内転の合計値が健側の4分の3以下であれば第12級7号が成立する。主要運動が屈曲・伸展だけであるひざ関節及び足関節では生じない分岐であって,手関節の可動域制限と後遺障害12級6号で問題となる前腕の回内・回外の扱いとも構造が異なる。

4 用を廃したものと,機能に著しい障害を残すもの

上位等級の当てはめも,主要運動が二つあることの影響を受ける。通達は,関節の用廃について「上肢・下肢の3大関節のうち主要運動が複数ある肩関節及び股関節については,いずれの主要運動も全く可動しない又はこれに近い状態となった場合に,関節の用を廃したものとする」と定めており,股関節が第8級7号に至るには屈曲・伸展と外転・内転の双方が強直に近い状態でなければならない。関節の強直とは完全強直又はこれに近い状態をいい,「これに近い状態」は関節可動域が原則として健側の関節可動域角度の10パーセント程度以下に制限されているものとされ,10パーセント程度とは健側の角度の10パーセントに相当する角度を5度単位で切り上げた角度である。関節可動域が10度以下に制限されている場合はすべて「これに近い状態」に該当する。

第2 可動域の測り方と,数値が動く原因

1 参考可動域角度と測定肢位

別添は,可動域の測定を日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会が決定した「関節可動域表示ならびに測定法」に準拠して行うものとし,股関節の参考可動域角度を屈曲125度,伸展15度,外転45度,内転20度,外旋45度,内旋45度と定めている。測定肢位も具体的に指定されており,屈曲は背臥位・ひざ屈曲位,伸展は腹臥位・ひざ伸展位,外転及び内転は背臥位で骨盤を固定し下肢を外旋させない状態,外旋及び内旋は股関節とひざ関節を90度屈曲した肢位で行う。外旋・内旋については基本肢位そのものが「股関節屈曲90度でひざ関節90度屈曲位」と定められている。さらに「多関節筋が関与する場合,原則としてその影響を除いた肢位で測定する。例えば,股関節屈曲の測定では,ひざ関節を屈曲しひざ屈筋群をゆるめた肢位で行う」と明記されており,ひざを伸ばしたまま股関節の屈曲を測れば,ハムストリングスの張力により実際より小さい数値が出る。

2 他動運動が原則であり,同一面の運動は合計する

測定値は原則として他動運動によるものを用いる。他動値を採用することが適切でない例として,通達は末梢神経損傷により関節を可動させる筋が弛緩性の麻痺となって自動では可動できない場合,及び関節を可動させると我慢できない程度の痛みが生じるために自動では可動できないと医学的に判断される場合を挙げている。関節が一方向には自動できるが逆方向には自動できない場合の可動域は,基本肢位から自動できない場合を0度とする。角度計は通常5度刻みで測定し,屈曲と伸展のように同一面にある運動は「両者の可動域角度を合計した値をもって関節可動域の制限の程度を評価する」ものとされる。肩関節の屈曲と伸展だけが例外として独立評価とされており,股関節は合計値評価の原則がそのまま適用される。自動値と他動値に差がある事案でこの原則がどのように適用されているかは,後記第7の2で取り上げる。

3 参考可動域角度から計算した4分の3及び2分の1の目安

健側に障害がなく,その可動域が参考可動域角度どおりであると仮定すると,機能障害の閾値は次のように計算できる。屈曲・伸展の合計は125度と15度を合わせた140度であるから,その4分の3は105度,2分の1は70度である。外転・内転の合計は45度と20度を合わせた65度であるから,その4分の3は48.75度,2分の1は32.5度である。参考運動である外旋・内旋の合計は45度と45度を合わせた90度であるから,その4分の3は67.5度である。もっとも通達は健側の実測値との比較を原則としており,これらの数値は健側が参考可動域角度と一致する場合の目安にすぎない。実際の事案では健側も加齢等により参考可動域角度を下回ることがあり,逆に健側が過剰に大きい値で測定されている場合には,その健側値自体の当否が問題となる。

4 健側との比較か,参考可動域角度との比較か

通達は「障害を残す関節の可動域を測定し,原則として健側の可動域角度と比較することにより,関節可動域の制限の程度を評価する」としつつ,「せき柱や健側となるべき関節にも障害を残す場合等にあっては,測定要領に定める参考可動域角度との比較により関節可動域の制限の程度を評価する」と定めている。両下肢を負傷した事案では健側が存在しないため,参考可動域角度が分母となる。後述する東京地方裁判所令和2年11月13日判決は両側の股関節について「正常値の合計(140度)」を分母として第12級7号を認定しており,名古屋地方裁判所令和6年12月20日判決も両下肢の機能障害について参考可動域角度との比較で各等級を認定している。

5 代償運動の混入と,測定肢位による過小評価

可動域の数値は,測定肢位の取り方によって上下いずれの方向にも動く。通達は「人の動作は,一関節の単独運動のみで行われることは極めてまれであって,一つの動作には,数多くの関節の運動が加わるのが普通である。したがって,関節の角度を測定する場合にも,例えば,せき柱の運動には股関節の運動が,前腕の内旋又は外旋運動には,肩関節の運動が入りやすいこと等に注意しなければならない」と述べており,骨盤を固定せずに屈曲を測れば骨盤前傾の分だけ股関節の屈曲が過大に評価される。

逆に,後述する名古屋地方裁判所平成30年3月30日判決は,大腿骨頭から頸部にかけての骨性膨隆が屈曲時に臼蓋縁と衝突して内旋制限を生じさせる病態を踏まえ,内旋位気味に屈曲して測定したことにより可動域が少なめに計測された可能性を認めており,測定肢位の誤りが被害者に不利に働く場合もある。通達は同じ箇所で,各関節の共働運動は無意識のうちに起こるものであるから注意深く監察すれば心因性の運動制限の診断又は詐病の鑑別に役立つとも述べている。

第3 参考運動による評価と「わずかに」の幅

主要運動の可動域が閾値をわずかに上回る場合には,参考運動を評価の対象とする救済がある。通達は「上肢及び下肢の3大関節については,主要運動の可動域が1/2(これ以下は著しい機能障害)又は3/4(これ以下は機能障害)をわずかに上回る場合に,当該関節の参考運動が1/2以下又は3/4以下に制限されているときは,関節の著しい機能障害又は機能障害と認定するものである」とし,「わずかに」とは原則として5度とする。もっとも例外があり,通達は「次の主要運動についてせき柱の運動障害又は関節の著しい機能障害に当たるか否かを判断する場合は10度とする」として,せき柱(頸部)の屈曲・伸展及び回旋,肩関節の屈曲及び外転,手関節の屈曲・伸展,股関節の屈曲・伸展を列挙する。この文言に従えば,股関節の屈曲・伸展について10度の幅が使えるのは第10級11号(著しい機能障害)に当たるかを判断する場合に限られ,第12級7号(機能障害)に当たるかを判断する場面では原則どおり5度である。参考運動が複数ある関節では,一つの参考運動の可動域角度が制限されていることをもって足りるとされているため,股関節では外旋・内旋の合計値が健側の4分の3以下であれば要件を満たす。なお別添の表は,ひじ関節及びひざ関節については参考運動を定めていないため,これらの関節ではこの救済自体が働かない(上肢側の同種の論点は肘関節の可動域制限と後遺障害12級6号を参照されたい)。

第4 可動域制限以外の枠組みとの切り分け

1 人工関節・人工骨頭をそう入置換した場合

股関節に人工関節又は人工骨頭をそう入置換した場合は,可動域制限の一般則ではなく専用の基準が適用される。通達は,人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているものを「関節の用を廃したもの」(下肢では第8級7号),それ以外のものを「関節の機能に著しい障害を残すもの」(第10級10号,自賠責保険の別表第二では第10級11号)と定めている。したがって人工股関節を入れた事案が第12級7号にとどまることはなく,等級の争いは第8級か第10級かという形になる。この取扱いは平成16年の改正で導入されたものであり,改正前の基準が適用される古い事案とは結論が異なり得る。

2 大腿骨の回旋変形癒合と,骨盤骨の変形

股関節の可動域は,長管骨の変形障害の判定資料としても用いられる。通達は下肢の「長管骨に変形を残すもの」(第12級8号)の一類型として大腿骨が外旋45度以上又は内旋30度以上回旋変形癒合しているものを挙げ,その判定方法として「外旋変形ゆ合にあっては股関節の内旋が0度を超えて可動できないこと,内旋変形ゆ合にあっては,股関節の外旋が15度を超えて可動できないこと」及びエックス線写真等により大腿骨の回旋変形癒合が明らかに認められることの双方を確認すべきものとしている。また骨盤骨に高度の変形があってそのために股関節の運動障害が生じた場合について,通達は骨盤骨の高度の変形(転位)によって股関節の運動障害(例えば中心性脱臼)が生じた場合を系列を異にする障害として併合する例に挙げており,股関節の機能障害と骨盤骨の変形を単純に上位等級へ吸収させない扱いになっている。

3 動揺関節,準用等級及び廃用性の機能障害

可動域制限と動揺関節は別の軸で評価される。通達は下肢の動揺関節について,他動的なものか自動的なものかを問わず,常に硬性補装具を必要とするものを第8級,時々必要とするものを第10級,重激な労働等の際以外には必要としないものを第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱うものとし,習慣性脱臼及び弾発ひざを第12級に準ずるものとしている。立証手段については動揺関節の立証手段としてのストレスレントゲン撮影を参照されたい。同一下肢の三大関節すべてに機能障害を残す場合は第10級,すべてに著しい機能障害を残す場合は第8級に準ずる障害として取り扱われる。さらにギプス固定等による廃用性の機能障害については「将来における障害の程度の軽減を考慮して等級の認定を行うこと」とされており,症状固定の時期と拘縮の可逆性が争点になり得る。

第5 可動域制限が生活動作及び就労に及ぼす支障

1 動作ごとに必要な股関節の角度

第12級7号という等級だけを見ると軽微な障害のように見えるが,個別の動作に必要な角度と対照すると評価が変わる。健常者を対象とした三次元動作解析の報告によれば,平地歩行に必要な股関節の運動は屈曲約30度と伸展約10度であり,実測でも歩行時の最大屈曲角は約30度である。これに対し椅子からの立ち上がりでは最大屈曲角が約80度,しゃがみ込みでは約100度に達し,膝を最大屈曲した状態での股関節屈曲は平均約120度で,違和感のないしゃがみ込みや靴ひもを結ぶ動作はそれに相当する屈曲を要する。

床の物を取る動作では,しゃがんで取る方法が屈曲約90度と内旋約10度を要する一方,片膝立ちで取る方法は屈曲約30度で足りる。あぐらのように下肢を組む座り方は外転約30度と外旋約60度を要し,ひねり動作では内旋・外旋が各約30度用いられる。膝を伸ばした状態ではハムストリングス等の張力により股関節の屈曲は70度から80度に制限されるため,同じ「屈曲何度」という数値でも膝の角度によって意味が異なる。

2 閾値と機能的な限界の関係

健側の可動域が参考可動域角度どおりであれば,屈曲・伸展の合計の4分の3は105度である。屈曲・伸展の合計が105度という状態は,例えば伸展が15度確保されていれば屈曲が90度,伸展が10度であれば屈曲が95度という水準であり,平地歩行に必要な角度は十分に満たす一方,しゃがみ込み,靴ひもを結ぶ姿勢,和式便所の使用,浴槽の出入り及び床からの立ち上がりは,できるか否かの境界に位置する。変形性股関節症の機能制限として整形外科の教科書が挙げるのも,階段昇降,入浴,下肢の着替え及び低い椅子からの立ち上がりの困難である。したがって「歩行できるのだから就労にも生活にも支障がない」という反論は,必要角度が約30度にとどまる平地歩行を基準に据えた議論であって,支障の有無を判断する動作の選び方自体を検討する必要がある。低い姿勢での作業,反復するしゃがみ込み,脚立の昇降,屋外の不整地移動を含む職種では,等級の数字よりも動作の可否が就労能力に直結する。

3 股関節に加わる力の大きさ

代償動作の弊害を理解するには,股関節に加わる力の大きさを押さえておく必要がある。片脚支持期には,股関節外転筋の内的モーメントアームが体重の外的モーメントアームの約半分しかないため,外転筋は体重の約2倍の力を発生させる必要があり,その結果として股関節の関節合力は体重の約2.5倍に達し,合力の約3分の2が外転筋の収縮に由来する。計測機能を組み込んだ人工股関節や筋骨格モデルによる研究では,歩行時の股関節圧迫力は体重の約3倍であり,走行,階段昇降及び坂道ではこれが少なくとも体重の5倍から6倍に増加する。関節にかかる力は遊脚相では体重の約13パーセントにとどまるのに対し,立脚相では体重の300パーセントを超えて変動する。第12級7号という等級にとどまる可動域制限であっても,一歩ごとにこの水準の力が反復して加わり続けるという事実は,将来の関節症変化や人工関節置換の見込みを論じる際の前提となる。

第6 代償動作とその二次的弊害

1 前額面の代償――骨盤の下降と体幹の傾斜

股関節の障害でまず観察されるのは,前額面での骨盤と体幹の動きである。外転筋の機能が低下すると,患側で片脚起立したときに非支持側の骨盤が下降する。もっとも,体幹を筋力低下側へ傾ければ体重による外的モーメントアームが短縮して外転筋への要求が減るため,この骨盤下降は打ち消され得る。歩行時に現れるこの体幹傾斜は中殿筋歩行又は代償的トレンデレンブルグ歩行と呼ばれ,筋力低下側とは反対の手に杖を持つことで歩行パターンが修正される場合が多い。歩行分析の報告でも,立脚側へ体幹を傾けるほど外部股関節内転モーメントのインパルスは小さくなり,逆に股関節内転角と遊脚側への骨盤傾斜が大きいほど同インパルスは大きくなる。つまり体幹傾斜は,見た目には異常歩行であるが,股関節の負荷を下げる方向に働く合理的な代償である。

他方でこの所見の証明力には限界があり,関節内病変のない健常者を対象とした研究では外転筋のトルクと前額面の骨盤運動との相関は弱く,検者の判定と三次元動作解析の一致度も低いと報告され,上殿神経ブロックにより外転筋力を実験的に低下させても前額面の運動学的指標は変化しなかったとする報告もある。人工股関節置換後の患者では約27パーセントに骨盤下降がみられ,その規定因子は外転筋の遠心性収縮の低下と伸展筋の求心性収縮の低下であったとする報告がある。所見が陰性であることは外転筋機能が正常であることを意味せず,所見が陽性であることだけで障害の程度を語ることもできないと整理するのが穏当である。

2 矢状面の代償――骨盤前傾と腰椎前弯による見せかけの運動

矢状面では,股関節の運動の不足を骨盤と腰椎が肩代わりする。骨盤前傾とそれに伴う腰椎前弯の増大によって見せかけの股関節伸展がつくられ,逆に腰椎の平坦化を伴う骨盤後傾は見せかけの股関節屈曲を生じさせる。股関節が強直した患者が歩行できるのは,この矢状面の代償によって異常が目立たなくなるからである。骨盤の回転は仙腸関節を介して腰椎の形状を変えるため,健常成人でも股関節を90度屈曲して座った姿勢から,腰椎が完全伸展するまでさらに約30度の骨盤前傾による股関節屈曲が得られる。

股関節に屈曲拘縮がある場合の立位では,重心が股関節の前方に落ちるため,通常は伸展方向に働く重力が屈曲方向に作用するようになり,股関節とひざ関節の屈曲を防ぐために伸展筋の持続的な活動が必要となって立位の代謝コストが増大する。屈曲位で立つことは,本来最も厚い関節軟骨部が接触位置から外れた関節面を形成することにもなり,接触面と関節圧の増加につながると説明されている。

3 腰部への負荷と腰痛

矢状面及び水平面の代償は,腰部の症状として現れることがある。慢性腰痛の患者を対象とした研究では,股関節伸展の制限と代償的な腰椎回旋との間に強い相関が認められ,代償的な腰椎回旋による微小外傷の危険が指摘されている。同研究は,伸展可動域の絶対値よりも左右の非対称性の方が疼痛強度及び機能障害指数と強く相関したとしている。座位での股関節屈曲が制限されている腰痛患者では,健常者に比べて腰椎屈曲と骨盤後傾が有意に大きく,股関節の不足分を腰椎が代償していることが示されている。腰痛患者の股関節の生体力学に関する系統的レビューは,症状の有無を問わず股関節可動域(特に内旋)の低下,立ち座り等の動作遂行時間の延長,ハムストリングス及び大殿筋の活動増大並びに股関節外転筋及び伸展筋の筋力低下が認められると整理している。もっとも,これらは横断研究の相関及び力学モデルによる説明であって,股関節の可動域制限が腰痛を生じさせるという因果関係を前向き研究で確立したものではない。書面で主張する場合には,機序として合理的であり複数の実測研究と整合するという水準にとどめ,既存の腰椎変性所見がある事案では素因減額の主張への備えを併せて検討することになる。

4 対側下肢及び隣接関節への負荷

片側の股関節に障害が残ると,反対側の下肢に負荷が移る。片側の症候性股関節症の患者では,症状のない対側股関節の可動域及び屈曲・内転・内外旋の各モーメントが患側より大きく,その非対称性は単純X線上の重症度と相関する一方,疼痛の強さとは相関しなかったと報告されている。歩行分析では,片側例において対側のひざ関節に病的な外部内転モーメントが生じ,ひざ関節外側の変性の開始又は進行を加速し得ると指摘されている。症状のない対側のひざ関節でも,動的な荷重及び内側脛骨の骨密度が患側より有意に高いという報告があり,構造的な変化が症状に先行することが示されている。

人工股関節置換後1年を経過しても,対側のひざ関節外側の接触力は健常者より高い水準にとどまり,五回立ち上がり動作では重心の対側方向への偏位が術後も残存するという報告がある。末期の股関節症では,患側の股関節屈曲及び伸展の角度が小さく,骨盤及び体幹の前額面の代償的な回旋は疼痛よりも股関節の筋力低下と強く相関したとされ,代償の主たる駆動要因が痛みではなく筋力である可能性が示されている。軽度から中等度の段階でも歩行速度の低下と股関節可動範囲の減少は既に生じており,しかもそれが自覚症状に反映されないことがある。

5 代償動作の記録はどこに残るか

代償動作は,後遺障害診断書には記載されないことが多い。他方で,理学療法記録及びリハビリテーションカンファレンスの記録には,荷重の状況,歩行様式,補助具の使用状況及び二次的な疼痛の発生が経過とともに記載される。大津地方裁判所平成28年5月19日判決(平成25年(ワ)第591号)は,理学療法士の「右下肢への荷重歩行時不十分であり,その代償として腰部痛が出現している」というコメント,床からの立ち上がり動作で痛い箇所を代償的に行っているという記載及び独立歩行で左右への動揺がみられるという記載を,判決の認定事実として引用している。同判決は判例秘書で全文を確認したもので裁判所HPには掲載されていないが,代償動作と二次的疼痛を主張するのであれば,症状固定時の診断書のみならず経過中の理学療法記録を証拠として確保しておく必要があることを示している。

第7 裁判例に現れた判断の分かれ目

1 器質的な制限であることを要求した例

否定例に共通するのは,可動域制限が器質的な変化に由来することの裏付けを求める姿勢である。名古屋地方裁判所令和4年1月26日判決(令和2年(ワ)第3172号)は,股関節唇損傷及びMRI上の関節水腫が認められた事案について,関節水腫自体は関節可動域制限の原因となることはないとして,訴えられている股関節の可動域制限は器質的なものとはいえず疼痛に由来するものであるとし,第12級7号に該当する後遺障害は認められないと判断した。横浜地方裁判所令和3年2月24日判決(平成30年(ワ)第1919号)は,右股関節の可動域が左股関節の4分の3以下に制限されたとして第12級7号相当を主張した当事者に対し,当該部位に骨折等の外傷性の異常所見や神経損傷等が認められないとして,事故と相当因果関係のある障害とは認められないとした。

名古屋地方裁判所令和4年9月30日判決(令和元年(ワ)第3629号)では,大腿骨転子部骨折後の股関節機能障害について,損害保険料率算出機構が画像上の骨癒合は良好で転位や明らかな変形が認められないことから事故受傷に起因して可動域制限が残存しているとは捉え難いとして非該当と判断しており,判決も後遺障害の残存を認めなかった。神戸地方裁判所令和5年7月20日判決(令和3年(ワ)第328号)でも,ひざ関節及び股関節の機能障害は自賠責保険における後遺障害に該当しないとされている。いずれも判例秘書で全文を確認したもので,裁判所HPには掲載されていない。

2 他動値と自動値のいずれによるかが争われた例

他動値を原則とする通達の建前は,労災保険の障害補償給付をめぐる行政訴訟で正面から支持されている。東京地方裁判所平成21年11月30日判決(平成19年(行ウ)第225号,障害補償給付処分取消請求事件)は,道路舗装工事作業中にタイヤローラーに接触して右下肢を負傷した労働者が,認定された障害等級が不当に低いとして処分の取消しを求めた事案について,関節可動域は原則として高い客観性及び正確性を備えている他動運動による測定値を採用すべきであり,例外的に「末梢神経損傷を原因として関節を可動させる筋が弛緩性の麻痺となり,他動では関節が可動するが,自動では可動できない場合」に自動運動による測定値が採用されると述べた。そして,医師の「可動域の評価は自動域で行った方がよい」という意見は,筋挫滅や神経の障害から関節運動機能の障害が起こっている可能性に基づく推論にすぎず,原因の重度性や弛緩性麻痺か否かの検討がされた形跡がうかがわれないとして採用しなかった。

右股関節については,「神経障害がある場合は軽度であってもすべて自動運動測定によるべきである」という証人の証言について,他動運動測定の原則の例外をあまりにも広く認める見解でありそれ自体相当性を欠くとし,自動運動による測定値が合計140度であることから「他動では関節が可動するが,自動では可動できない場合」に当たらないことが明らかであるとして,主張を失当とした。症状固定の約三年後に別の医師が行った障害診断についても,症状固定時の診断とも異なる内容であるとして根拠薄弱と評価している。右足関節については,参考可動運動範囲が65度であるのに対し他動運動範囲が合計40度であって約61パーセントに制限されているとして,障害等級表第12級の7と認定した処分を相当としており,参考可動域角度を分母とする計算過程が判文に現れている点も参考になる。

自賠責保険の実務でも同じ整理がされている。大阪地方裁判所平成29年3月22日判決(平成26年(ワ)第9245号)が認定した事実によれば,損害保険料率算出機構は,左大腿骨転子下骨折に伴う左股関節の機能障害について,関節可動域に自動値と他動値の差が認められるが神経麻痺等の所見に乏しいことから他動値により等級評価を行うとした上で,主要運動である屈曲・伸展及び外転・内転の可動域が健側の可動域角度の4分の3以下に制限されていることから第12級7号に該当すると判断している。左下肢痛及び左大腿部痛は機能障害と通常派生する関係にあるものとして別個に評価されていない。同判決は,複合性局所疼痛症候群の該当性は否定しつつ全体として第11級相当の後遺障害を認め,労働能力喪失率を20パーセント,喪失期間を症状固定から67歳までの18年間として逸失利益を1008万4617円と算定した。加害者側が下肢短縮について労働能力喪失率の逓減を主張したのに対しては,短縮自体は経時的に解消されるものではなく,短縮による歩容の支障が期間の経過により逓減すると認めるに足りる立証もないとして退けている。いずれも判例秘書で全文を確認したもので,裁判所HPには掲載されていない。

3 実測値をそのまま当てはめて認めた例

東京地方裁判所令和2年11月13日判決(平成31年(ワ)第81号)は,店舗内の転倒事故について安全配慮義務違反を認めた事案であるが,股関節の可動域について「屈曲」は他動で右75度・左75度,「伸展」は他動で右15度・左15度と認定し,屈曲と伸展の合計が90度であって正常値の合計140度の4分の3以下に制限されているとして,両側について第12級7号に該当すると判断した。ひざ関節についても同様に第12級7号,手関節については第10級10号を認定し,全体として併合第9級相当として後遺障害慰謝料を690万円と認めている。この判決は,両側に障害があるため参考可動域角度を分母としたこと,及び屈曲・伸展の合計値のみで判断し外転・内転に触れていないことに特徴がある。もっとも同判決は,ひざ関節について右の正常値の合計を130度,左の正常値の合計を140度と記載しており,ひざ関節の参考可動域角度が屈曲130度・伸展0度であることに照らすと左の記載は正確でないと考えられる。可動域制限を争う場面では,分母として用いる参考可動域角度そのものを通達の別添で示しておく必要がある。同判決も判例秘書で全文を確認したもので,裁判所HPには掲載されていない。

4 行政の認定を引き下げつつ賠償額を上乗せした例

名古屋地方裁判所平成30年3月30日判決(平成26年(ワ)第382号)は,労災保険及び自賠責保険がいずれも右股関節の可動域を健側の2分の1以下と評価していた事案について,健側の4分の3以下に制限されていることは認められるものの2分の1以下に制限されているとまでは認められないとして,第12級7号に相当すると判断した。判断の根拠として,大腿骨頭から頸部にかけての骨性膨隆が屈曲時に臼蓋縁と衝突して内旋制限を起こし外旋位では屈曲しやすいという病態から,内旋位気味に屈曲して測定したときに可動域が少なめに計測された可能性があること,単純X線上の関節症変化が乏しく進行も乏しいことから症状固定時の可動域については診療録に記載された経過中の多くの測定値の方が信頼性が高いこと,及び控えめに見積もっても屈曲70度・伸展10度・外転25度・内転15度は確保されていたと考えられることを挙げている。健側の分母についても左股関節の屈曲110度又は120度という実測値を用い,その4分の3を82.5度から90度と算定している。測定方式についても,医療機関で測定されたものであれば厳密に日本整形外科学会方式に従っていない場合が含まれているとしても,労働を含む日常生活等における身体への制約を評価して後遺障害の程度を測るという観点からは判断を左右しないとしており,方式の不遵守を理由に測定値を全部排斥する立場は採っていない。

損害の評価では,労働能力喪失率を第12級に対応する14パーセントではなく20パーセントとし,基礎収入432万円,喪失期間28年として逸失利益を1287万1958円と算定し,後遺障害慰謝料を450万円,傷害慰謝料を360万円と認めている。慰謝料の算定では将来の人工股関節置換手術の必要性が考慮されており,他方で上位等級を否定する事情としては,日常生活で杖を常用しているものの必ずしも杖がなければ歩行できないわけではなく,短い距離であれば幼児や20キログラム程度の米袋を杖なしで運ぶことも可能であるという事実が挙げられている。同判決も判例秘書で全文を確認したもので,裁判所HPには掲載されていない。

5 主要運動が二つあることが正面から争われた例

大阪地方裁判所令和元年10月29日判決(平成29年(ワ)第8909号)では,自賠責保険会社が非該当と判断した理由が,主要運動である屈曲・伸展及び外転・内転の可動域が健側である左股関節の可動域角度の4分の3以下に制限されていないことであったと認定されており,被害者側は右股関節の外転及び内転の他動値が健側の4分の3を下回っていることを根拠に第12級7号を主張した。裁判所はこの主張を採用しなかったが,その理由付けは可動域の数値の信用性を判断する枠組みとして参考になる。判決は,後遺障害診断を受けるために受診した医療機関で医師が実際に測定した数値について信用性を否定すべき特段の事情が見当たらないこと,異議申立てのために提出された別の医療機関の診断書は,カルテやリハビリテーション記録に外転及び内転の可動域制限の記載が見当たらず,回答書記載の数値の根拠が証拠上明らかでなく,屈曲及び伸展の数値がリハビリテーション実施計画書等の数値と一致せず,しかも診断書の測定値は改めて測定したものではなく回答書からの転記と認められることを指摘している。さらに,診療経過中に股関節の可動域が良好であることが確認され骨折部位も良好に骨癒合していること,日常生活動作が回復していること,簡単な測定をした医療機関の測定値の方が丁寧に測定した医療機関の測定値よりも自動値の可動域が大きくなるのは不自然であること,及び後遺障害等級認定のための測定に当たり医師があえて実際より大きな可動域を測定するとは考えにくいことを挙げている。

前記の神戸地方裁判所令和5年7月20日判決では,提訴後に別個の医療機関で改めて測定してほぼ同様の結果が得られたことが数値の客観性を裏付ける事情として主張されており,再測定が有利に働くか否かは,改めて実測されたものであるか,及び既存の診療録との整合があるかによって分かれると整理できる。同判決も判例秘書で全文を確認したもので,裁判所HPには掲載されていない。

6 既往の変性所見が争点となった例

高齢者の事案では,可動域制限の原因が事故か既往の変性かが争われる。東京地方裁判所令和2年2月21日判決(平成31年(ワ)第6671号)は,自転車と自動車の出合い頭の衝突事故について,被害者側が右股関節の可動域が参考可動域角度の2分の1以下に制限されたとして第10級,左股関節の可動域が4分の3以下に制限されたとして第12級,右ひざ関節の可動域制限で第12級,両ひざ痛・腰痛・歩行困難で第12級として併合第9級を主張したのに対し,加害者側は変形性膝関節症,大腿骨内側顆の特発性骨壊死,内側半月板断裂,前十字靱帯部分断裂及び変形性腰椎症に伴う腰部脊柱管狭窄が既往の変性所見であると主張した。裁判所は,救急搬送時及び事故から約2週間後の施術記録で確認された疼痛の部位が両手・右ひざ・腰部に限られること,左ひざの痛みの訴えが事故から三か月後まで現れず転倒方向と反対側であることを指摘して受傷部位を限定し,主治医が大学病院医局に確認して変形性関節症は外傷性でないと診断し,これを前提とする後遺障害診断書を作成していたことなどから,主張された半月板断裂等の傷害を認めなかった。結論として認められた後遺障害は,変形性膝関節症のある右ひざを打撲したことにより疼痛が残ったことが医学的に説明可能であるとして第14級9号の局部の神経症状にとどまり,股関節の可動域制限による等級は認められていない。歩行障害についても,既往の変形性膝関節症及び腰部脊柱管狭窄があることをもって他覚的所見があるとはいい難いとして,頑固な神経症状には当たらないとされた。同判決も判例秘書で全文を確認したもので,裁判所HPには掲載されていない。

7 併合及び準用の処理

複数の関節に障害が残る事案では,等級の積み上げと序列の調整が問題となる。名古屋地方裁判所令和6年12月20日判決(令和3年(ワ)第5051号)は,両下肢に障害を残す事案において参考可動域角度との比較で各関節を評価し,人工骨頭及び人工関節をそう入置換した股関節とひざ関節について可動域が参考可動域角度の2分の1以下であるとして二関節の用廃(第6級7号),足関節について4分の3以下であるとして第12級7号を認定した上で,同一系列であるため併合の方法を用いると第5級相当となるが「一下肢の用を全廃したもの」(第5級7号)の程度には達しないとして直近下位の第6級相当と判断している。大阪地方裁判所令和6年1月22日判決(令和元年(ワ)第8200号)では,右下肢について股関節の第10級11号,ひざ関節の第12級7号及び足関節の第8級7号を積み上げて準用第7級とする構成が示されている。もっとも,これらはいずれも下級審の個別事案であり,裁判所HPには掲載されていない。ここで紹介した範囲の裁判例から,裁判所全体の一般的な判断傾向を導くことはできず,各判決が前提とした画像所見及び測定経過の違いを確認する必要がある。

第8 被害者側から進める場合の調査の順序と,進めない場合の判断

1 初期に確認する事項

被害者側から第12級7号を主張する場合,最初に確認すべき事項は,①受傷部位と骨折型(大腿骨頸部・転子部,寛骨臼,骨盤骨),②受傷時から症状固定時までの画像所見の推移,③後遺障害診断書に記載された屈曲・伸展及び外転・内転の他動値と自動値,④健側の測定値,⑤測定肢位の記載の有無,⑥診療録及びリハビリテーション記録に残された経過中の可動域,⑦補助具の使用状況,⑧できなくなった具体的な動作と職務内容,⑨既存障害及び反対側下肢の既往である。これらはいずれも被害者側で取得又は聴取が可能な事項であり,相手方や第三者のみが保有する資料を前提としない。

2 低負担の調査から始める

次に行う調査は,費用及び期間の負担が小さい順に並べると,医療機関に対する診療録及び画像の開示請求,後遺障害診断書を作成した医師に対する測定肢位及び測定方法の照会,理学療法記録の取得,並びに参考可動域角度と実測値の対照表の作成である。この段階で,屈曲・伸展の合計値と外転・内転の合計値のそれぞれについて健側比が何パーセントであるかを確定し,どちらの主要運動で4分の3を下回るのか,下回らない場合に参考運動である外旋・内旋が4分の3以下であるかを確認する。数値が閾値に近い場合は,測定肢位が通達の指定どおりであったか,骨盤の固定及びひざの屈曲がされていたかを照会で埋めることが,追加の医学的調査より優先される。自動値と他動値に差がある事案では,自動値の採用を求める前提として,末梢神経損傷による弛緩性の麻痺その他の神経麻痺の所見が診療録及び神経学的検査の結果に現れているかを先に確認する必要がある。

3 高負担の手段に進む条件と,進めない場合の判断

医師の意見書の作成依頼,医療照会,鑑定又は証人尋問といった負担の大きい手段に進むのは,低負担の資料収集を終えた後に残る争点が具体的に特定でき,かつその手段によって何が判明すれば結論が変わるかを説明できる場合に限られる。例えば,測定値が閾値の直近にあり,測定肢位の適否が結論を左右する場合には,測定方法についての医学的な意見が争点解決に直結する。これに対し,画像上に骨折後の転位,変形,関節症変化その他の器質的所見が全く認められず,診療録上も可動域が良好であると継続的に記載されている事案では,前記の否定例が示すとおり,可動域制限は疼痛に由来するものと評価される可能性が高い。この場合には,第12級7号の主張に資源を投入するのではなく,疼痛に関する等級の主張へ切り替えるか,等級の主張自体を見合わせる判断が必要になる。手続の選択についても,資料を追加して繰り返し申請できる異議申立てと,一回で判断が確定し再申請ができない紛争処理機構の調停とでは性質が異なるため,追加資料の内容と重要性に応じて順序を検討することになる。損害額の算定については医療関係者から見た大阪地裁の交通損害賠償の算定基準を参照されたい。上位等級を狙う主張の組み方の例としては高次脳機能障害で後遺障害等級7級4号を認定してもらうための具体的な主張立証方法も参考になる。

4 賠償額の枠組みと将来の変化

第12級に対応する労働能力喪失率は,支払基準の別表Ⅰ(労働能力喪失率表)において14/100と定められている。同基準の逸失利益は,年間収入額又は年相当額に該当等級の労働能力喪失率と後遺障害確定時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数を乗じて算出するものとされ,後遺障害慰謝料は施行令別表第二の第12級について94万円と定められている。もっとも自賠責保険の支払基準は保険金等の支払の基準であって裁判所を拘束するものではなく,前記の名古屋地方裁判所平成30年3月30日判決のように,喪失率を20パーセントとし慰謝料を450万円と認定した例がある。また人工股関節置換に至れば等級の枠組み自体が第8級7号又は第10級11号に変わるため,示談の段階では将来の悪化及び手術の際の取扱いについて留保するかどうかを検討することになる。

出典

法令

告示・行政通達

裁判例

裁判所HPの裁判例検索(https://www.courts.go.jp/hanrei/search1/index.html )で事件番号による検索を行ったが,以下の各判決はいずれも掲載が確認できなかった。全文は判例秘書(掲載誌はいずれもLLI/DB判例秘書登載)で確認した。

  • 東京地方裁判所平成21年11月30日判決(平成19年(行ウ)第225号,障害補償給付処分取消請求事件)
  • 大津地方裁判所平成28年5月19日判決(平成25年(ワ)第591号,損害賠償請求事件)
  • 大阪地方裁判所平成29年3月22日判決(平成26年(ワ)第9245号,損害賠償請求事件)
  • 名古屋地方裁判所平成30年3月30日判決(平成26年(ワ)第382号,損害賠償請求事件)
  • 大阪地方裁判所令和元年10月29日判決(平成29年(ワ)第8909号,損害賠償請求事件)
  • 東京地方裁判所令和2年2月21日判決(平成31年(ワ)第6671号,損害賠償請求事件)
  • 東京地方裁判所令和2年11月13日判決(平成31年(ワ)第81号,損害賠償等請求事件)
  • 横浜地方裁判所令和3年2月24日判決(平成30年(ワ)第1919号,損害賠償請求反訴事件)
  • 名古屋地方裁判所令和4年1月26日判決(令和2年(ワ)第3172号,損害賠償請求事件)
  • 名古屋地方裁判所令和4年9月30日判決(令和元年(ワ)第3629号,損害賠償請求事件)
  • 神戸地方裁判所令和5年7月20日判決(令和3年(ワ)第328号,損害賠償請求事件)
  • 大阪地方裁判所令和6年1月22日判決(令和元年(ワ)第8200号,損害賠償請求事件)
  • 名古屋地方裁判所令和6年12月20日判決(令和3年(ワ)第5051号,損害賠償請求事件)

文献

  • Donald A. Neumann(嶋田智明・平田総一郎監訳)『カラー版 筋骨格系のキネシオロジー』原著第2版(医歯薬出版,2005年)第12章及び第15章
  • 日本整形外科学会・日本股関節学会編『変形性股関節症診療ガイドライン2016』改訂第2版(南江堂,2016年)第1章
  • 沖田実編『関節可動域制限――病態の理解と治療の考え方』第2版(三輪書店,2013年)
  • 労災保険情報センター『労災保険後遺障害診断書作成手引(整形外科領域)』

医学文献(英文)

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