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第1 この記事の対象
本記事は,交通事故等により手関節(手首)に可動域制限が残った場合の後遺障害等級について,認定の根拠となる法令及び通達,可動域の測定方法,等級の当てはめ,裁判所が実際にどのように判断しているか,並びに可動域制限が生活動作に及ぼす影響と代償動作を扱う。等級の枠組みは労働者災害補償保険の認定基準に由来するため,本記事の等級に関する記述は,特に断らない限りせき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について(平成16年6月4日基発第0604003号)及びその別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」によるものである。裁判例については,実際に判決文を読んで判示内容を確認したものだけを取り上げ,掲載誌及び全文を確認したデータベースを出典欄に示している。
本記事は,手関節可動域の測定方法と第12級6号の判定を担当する。骨折・脱臼の画像と認定経路は,橈骨遠位端骨折,舟状骨骨折,尺骨茎状突起骨折,月状骨骨折,有頭骨骨折及び月状骨脱臼・月状骨周囲脱臼の各記事で扱う。軟部組織損傷等は,TFCC損傷,手根骨不安定症,伸筋腱・屈筋腱断裂及び手関節のデグロービング損傷の各記事が担当する。CRPSの診断基準と後遺障害評価は,関節可動域制限とは別稿で扱う。
第2 手関節の可動域制限が該当する後遺障害等級
1 該当するのは第12級6号である
交通事故により手関節の可動域が健側の4分の3以下に制限された状態は,自動車損害賠償保障法施行令別表第二の第12級6号「一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」に該当する。三大関節とは肩関節,ひじ関節及び手関節をいい,手関節はそのうちの一つである。同表の第12級7号は「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」であって下肢についての規定であるから,手関節の可動域制限を第12級7号と表記するのは誤りである。下肢の三大関節の可動域制限については,股関節の可動域制限と後遺障害12級7号,膝関節の可動域制限と後遺障害12級7号及び足関節の可動域制限と後遺障害12級7号で,それぞれ別に扱っている。
等級表に該当する項目がない障害について他の等級を借りる場合を準用等級又は相当等級というところ,手関節の可動域制限は第12級6号そのものに該当するから,「第12級相当」ではなく「第12級6号に該当」と表記するのが正確である。後述する前腕の回内・回外の制限は,これに対して文字どおり「第12級に準ずる」ものとして扱われる。
2 上位及び下位の評価
同じ手関節の機能障害でも,制限の程度により三段階に分かれる。①可動域が健側の4分の3以下であれば「関節の機能に障害を残すもの」として第12級6号,②2分の1以下であれば「関節の機能に著しい障害を残すもの」として第10級10号,③関節が強直したものは「関節の用を廃したもの」として第8級6号である。ここでいう強直とは,完全強直又はこれに近い状態をいい,通達の別添第1の2(1)は「これに近い状態」を関節可動域が原則として健側の関節可動域角度の10パーセント程度以下に制限されているものとし,「10パーセント程度」とは健側の関節可動域角度の10パーセントに相当する角度を5度単位で切り上げた角度であるとしたうえ,関節可動域が10度以下に制限されている場合はすべてこれに該当するものと取り扱うとしている。
労災保険と自賠責保険とでは,同じ内容の障害でも号数が一致しないことがある。「関節の機能に著しい障害を残すもの」は,労災保険の障害等級表では第10級の9であるのに対し,自賠責保険の施行令別表第二では第10級10号である。これは,自賠責保険の別表第二に「正面を見た場合に複視の症状を残すもの」が第10級2号として置かれ,以降の号数が一つずつ繰り下がっているためである。第8級6号及び第12級6号は両者で一致するので,労災の資料と自賠責の資料を突き合わせる際は,一致する等級と一致しない等級があることを前提に確認する必要がある。本記事では,労災保険の号数を引用するときは通達の表記に従って「第10級の9」のように記載し,自賠責保険の号数は「第10級10号」のように記載して区別する。
3 自賠責保険が労災保険の認定基準に従う仕組み
自賠責保険における後遺障害等級の認定基準は,自賠責保険の告示自体に細目まで定められているわけではない。自動車損害賠償保障法第16条の3第1項は,「保険会社は,保険金等を支払うときは,死亡,後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準(以下「支払基準」という。)に従つてこれを支払わなければならない」と定め,これを受けた自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3が,「等級の認定は,原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」と定めている。すなわち,法律が支払基準への準拠を義務付け,その支払基準が労災保険の認定基準を借りる,という二段の構造になっている。福岡地方裁判所小倉支部平成30年4月17日判決(判例タイムズ1455号187頁)も,「自賠責保険における後遺障害等級認定は,労働者災害補償保険における障害等級別認定基準(以下「労災認定基準」という。)に準拠して行われる(自賠法16条の3参照。)」として同じ理解を示している。自賠責保険の支払基準そのものについては,自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)を参照されたい。
第3 可動域の測り方と4分の3基準の当てはめ
1 掌屈と背屈は合計値で評価する
手関節の可動域制限を判断するに当たって最も誤解が多いのが,どの数値を分母・分子に置くかである。通達の別添第1の1(2)は,「原則として,屈曲と伸展のように同一面にある運動については,両者の可動域角度を合計した値をもって関節可動域の制限の程度を評価すること」と定め,その例外として「肩関節の屈曲と伸展は,屈曲が主要運動で伸展が参考運動であるので,それぞれの可動域制限を独立して評価すること」を挙げるにとどめている。手関節の掌屈(手のひら側へ曲げる動き)と背屈(手の甲側へ反らす動き)はまさに同一面にある運動であり,右の例外にも当たらないから,両者を合計した値で比較する。通達自身の設例も,手関節を基本肢位から自動で90度屈曲することができるが橈骨神経損傷により自動では伸展が全くできない場合について,「健側の可動域が屈曲・伸展を合計して160度のときは,患側の可動域は,健側の3/4以下に制限されていることとなり,『関節の機能障害』に該当する」として,手関節を例に合計値による評価を示している。
したがって,掌屈だけを取り出して4分の3を測るのは誤りである。例えば健側が掌屈70度・背屈60度で合計130度である被害者について,患側の掌屈と背屈の合計が97.5度以下になったときに,第12級6号に該当することになる。掌屈は大きく残っているが背屈がほとんどないという事案と,掌屈も背屈も中程度に減っている事案とが,合計値では同じ評価になり得るという点も,この評価方法の帰結である。後記第8の裁判例も,例外なく掌屈と背屈の合計値を健側の合計値と対比して当てはめを行っている。
2 比較の相手は原則として健側である
同別添第1の1(1)は,「障害を残す関節の可動域を測定し,原則として健側の可動域角度と比較する」ものとし,せき柱や,健側となるべき関節にも障害を残す場合等に限って,後述する参考可動域角度と比較するとしている。すなわち,一般に「正常値」として紹介される角度は,あくまで健側が使えないときの代替の物差しである。もともと手首が柔らかく健側の可動域が大きい被害者であれば,同じ患側の角度でも制限率は大きく算定されることになるから,後遺障害診断書には必ず健側の実測値も記載してもらう必要がある。この原則と例外の切分けは訴訟でも争われており,健側にも障害があると主張して参考可動域角度との比較を求めた事案について,裁判所が健側に異常があるとは認められないとしてこれを排斥した例がある(後記第8の1)。
3 参考可動域角度
参考可動域角度は,日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会及び日本足の外科学会が定める関節可動域表示ならびに測定法(2022年4月改訂)によるもので,手関節については屈曲(掌屈)が0度から90度,伸展(背屈)が0度から70度,橈屈が0度から25度,尺屈が0度から55度である。前腕は回内・回外がいずれも0度から90度である。したがって,掌屈と背屈の合計の参考可動域角度は160度,橈屈と尺屈の合計は80度となる。これらの数値は通達の別添が掲げる測定要領の表と一致する。
参考可動域角度としては,掌屈を80度,背屈を90度とするなど,これと異なる数値を掲げる文献もある。しかし,労災保険の測定要領は右の学会基準に準拠して定められており,賠償実務で分母に置くべき数値は掌屈90度・背屈70度である。分母が変われば制限率も等級も動くから,この点は文献による揺れとして片付けられない。なお,2022年4月改訂の主な変更点は足関節・足部に関する用語等であり,手関節の参考可動域角度は改訂の前後で変わっていない。
4 測定は原則として他動運動による
同別添第2の1(1)は,測定値について「原則として,他動運動による測定値によることとするが,他動運動による測定値を採用することが適切でないものについては,自動運動による測定値を参考として,障害の認定を行う必要がある」と定める。他動運動とは検者が動かしたときの角度であり,被害者が自分の力で動かせる角度(自動運動)ではない。自動運動の値が用いられるのは,末梢神経損傷により関節を動かす筋が弛緩性麻痺となって他動では動くが自動では動かない場合や,関節を動かすと我慢できない程度の痛みが生じるために自動では動かせないと医学的に判断される場合等の例外に限られる。測定は5度刻みで行われる。
この原則は,被害者が努力して動かせる範囲がどれだけ狭くても,他動で動いてしまえば等級には結び付かないことを意味する。逆に,末梢神経損傷や強い疼痛が介在する事案では,自動値を採るべき医学的理由を診断書上で明らかにしておかなければ,実態より軽く評価される。もっとも,実際の訴訟では他動値と自動値の双方が診断書に記載されていることが多く,裁判所は他動値と自動値のいずれによっても基準を満たすかどうかを確認して結論を出している例がみられる。
5 参考運動(橈屈・尺屈)による救済とその限界
通達は,各関節の運動を主要運動と参考運動に区分している。この区分は学会の測定法によるものではなく,右の労働基準局長通達が定めたものである。通達の表は,手関節について主要運動を屈曲・伸展,参考運動を橈屈,尺屈とし,ひじ関節については主要運動を屈曲・伸展とするのみで参考運動を定めていない。関節の機能障害は,原則として主要運動の可動域の制限の程度によって評価される。
もっとも,同別添第1の2(3)は,「上肢及び下肢の三大関節については,主要運動の可動域が1/2(これ以下は著しい機能障害)又は3/4(これ以下は機能障害)をわずかに上回る場合に,当該関節の参考運動が1/2以下又は3/4以下に制限されているときは,関節の著しい機能障害又は機能障害と認定するものであること」と定める。ここでいう「わずかに」は原則として5度であるが,通達は「せき柱の運動障害又は関節の著しい機能障害に当たるか否かを判断する場合」に限って10度とし,その対象として,せき柱(頸部)の屈曲・伸展及び回旋,肩関節の屈曲及び外転,手関節の屈曲・伸展,並びに股関節の屈曲・伸展を挙げている。したがって,手関節について10度の幅が使えるのは,第10級10号(著しい機能障害)に当たるかどうかを判断する場面に限られ,第12級6号に当たるかどうかを判断する場面では原則どおり5度である。
ここで注意を要するのは,参考運動である橈屈と尺屈をどう評価するかである。同別添第1の2(3)には「参考運動が複数ある関節にあっては,1つの参考運動の可動域角度が上記のとおり制限されていることをもって足りるものであること」というなお書きがあるが,これは肩関節のように参考運動が別の面にある関節を想定した規定である。通達の測定要領は「橈屈と尺屈 手関節の手掌面の運動で,橈側への動きが橈屈,尺側への動きが尺屈である」として橈屈と尺屈を同一面の運動と定義しており,前記1の合計評価の原則がそのまま及ぶ。合計評価の例外として通達が明示しているのは肩関節の屈曲と伸展だけであって,手関節の橈屈と尺屈はこれに当たらない。したがって,掌屈と背屈の合計が健側の4分の3をあと数度のところで上回ってしまった事案でも,橈屈と尺屈の合計が健側の4分の3以下に制限されていれば第12級6号が認定される一方,尺屈だけが大きく制限されていても橈屈と合計すれば4分の3を上回るという場合には,この救済は使えない。裁判所も,参考運動を橈屈と尺屈の合計値で判断している(後記第8の2)。
この規定があるために,後遺障害診断書には橈屈及び尺屈も健患両側とも記載してもらう必要がある。記載が漏れていると,主要運動が基準をわずかに上回った場合に救済を主張する手掛かり自体が失われ,現にそのような理由で第10級の主張が退けられた事案がある(後記第8の3)。手関節は上肢の三大関節の中で参考運動が定められている点に特色があり,ひじ関節には参考運動が定められていないため同じ救済を用いることができない(ひじ関節については肘関節の可動域制限と後遺障害12級6号で扱っている)。
第4 前腕の回内・回外は別枠で評価される
1 解剖学上の一体性と等級評価上の区別
手関節は,前腕の橈骨と手根骨(舟状骨,月状骨など)がつくる橈骨手根関節,手根骨同士がつくる手根中央関節,及び前腕の回旋運動に関与する下橈尺関節が連携して機能する複合関節である。橈骨手根関節に尺骨は直接参加せず,尺骨と手根骨との間には三角線維軟骨複合体(TFCC)が介在する。この構造から,手のひらを上下に返す回内・回外の動きも,解剖学的には手関節の機能と不可分である。
しかし等級評価では,通達の別添が掲げる部位の表において「手関節」と「前腕」が別の部位として立てられており,手関節の主要運動が屈曲・伸展,参考運動が橈屈,尺屈であるのに対し,前腕は主要運動が回内・回外とされている(前腕に参考運動の定めはない)。回内・回外の制限は,手関節の可動域制限とは別に評価されるのである。
2 準用等級と「いずれか上位」の処理
通達は,前腕の回内・回外について,その可動域が健側の可動域角度の4分の1以下に制限されているものを第10級,2分の1以下に制限されているものを第12級に準ずる障害として取り扱うとする。そのうえで,回内・回外の可動域制限と同一上肢の関節の機能障害を残す場合は併合の方法を用いて準用等級を定めるとしつつ,手関節部又はひじ関節部の骨折等により,手関節又はひじ関節の機能障害と回内・回外の可動域制限を残す場合は,いずれか上位の等級で認定するとしている。手関節部の骨折等の場合には手関節と回内・回外の双方に障害を残すことが一般的であることが,その理由として説明されている。
手関節の可動域制限をもたらす代表的な外傷である橈骨遠位端骨折は,まさにこの「手関節部の骨折等」に当たる。したがって,手関節の屈伸制限で第12級6号,回内・回外の制限で第12級準用という所見が併存しても,両者は併合されず,いずれか上位の一つの等級として認定される。この処理を知らないまま併合による等級の上昇を期待すると,見通しを誤ることになる。実際の認定例としては,手関節の屈伸制限が健側の4分の3以下であることを前提に,前腕の回内・回外の制限も含めて第12級6号と認定された事案がある(後記第8の7)。
第5 可動域制限の原因を医学的に裏付ける
1 器質的損傷の裏付けが認定の前提である
可動域の数値だけを揃えても等級は認定されない。通達の別添第2の1(1)は,「関節の機能障害は,関節そのものの器質的損傷によるほか,各種の原因で起こり得るから,その原因を無視して機械的に角度を測定しても,労働能力の低下の程度を判定する資料とすることはできない。したがって,測定を行う前にその障害の原因を明らかにしておく必要がある」と明記し,制限の原因を器質的変化によるものと機能的変化(神経麻痺,疼痛,緊張等)によるものとに区別すべきものとしている。実務書でも,可動域制限が生じている医学的原因を明らかにし,その原因に基づいて後遺障害診断書記載の可動域制限が生じていることを裏付けなければならないと説明されている。
その帰結として,画像上の器質的異常を伴わず疼痛のみによって可動域が減っている場合は,関節の機能障害ではなく局部の神経症状として評価される。自賠責保険の施行令別表第二では,第12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」又は第14級9号「局部に神経症状を残すもの」がこれに当たる。可動域が健側の4分の3という閾値に届かない事案で第12級13号にとどめた高等裁判所の判断もあり(後記第8の6),可動域制限で争うのか神経症状で争うのかによって必要な立証が変わるから,早い段階で見極めておく必要がある。
2 橈骨遠位端骨折の変形治癒
手関節の可動域制限をもたらす主因は橈骨遠位端骨折である。手首を背屈して転倒した際に生じ骨片が背側へ転位するコーレス骨折と,掌屈位で受傷し掌側へ転位するスミス骨折とに大別され,コーレス骨折では手首が食卓用フォークのように見える変形を呈することがある。骨が解剖学的な位置に戻らないまま癒合すると変形治癒となり,骨性の衝突や関節適合性の低下によって可動域が物理的に制限される。
整復後の変形がどの程度であれば手術を要するかについては,米国整形外科学会及び米国手外科学会の診療ガイドライン(2020年改訂)が,橈骨短縮が3ミリメートルを超えるもの,背側傾斜が10度を超えるもの,又は関節内の転位若しくは段差が2ミリメートルを超えるものを目安として掲げている。ここでいう橈骨短縮は橈骨の長さが縮むことであり,手が尺側へ偏位することではない。もっとも同ガイドラインは,これらの所見がある場合でも,65歳未満の患者では手術による利益が示唆されるのに対し,65歳以上の患者では手術による利益が乏しいとしており,年齢層によって推奨が分かれる点に留意を要する。
関節面の段差については,一定以上の段差が残ると変形性関節症へ進行するという説明がされることがある。しかし,橈骨遠位端の関節内段差・間隙は画像上の外傷後変形性関節症の発生率上昇とは相関するものの,受傷から5年ないし10年の時期において臨床症状への悪影響が説得的に示されているとはいえないとする文献レビューがあり,保存療法例の9年ないし13年の追跡調査でも,1ミリメートルないし2ミリメートルの関節面段差が残った5例のうち変形性関節症を生じたのは軽度の1例のみであったと報告されている。画像上の関節症所見と自覚症状とは必ずしも一致しないのであって,「段差が残ったから将来必ず悪化する」という説明も,「画像上の関節症は加齢性のもので症状とは無関係である」という反論も,いずれも一面的である。
3 見落とされやすい併存病態
橈骨遠位端骨折に目を奪われて他の病態を見落とすと,可動域制限の器質的な説明がつかなくなる。次の四つは特に問題となりやすい。
① 舟状骨骨折は,手をついて転倒した際に橈骨遠位端骨折と合併することがあるが,単純エックス線写真では見落とされやすい。舟状骨は栄養血管が末梢側(指側)から中枢側(手首側)へ逆行性に流れる特殊な血流構造を持つため,中央部で骨折すると中枢側の骨片への血流が途絶え,骨壊死や偽関節に陥りやすい。偽関節を放置すると特有の順序で手関節の関節症が進行するため,可動域制限と疼痛の器質的な裏付けとして決定的な意味を持つ。関節面の段差や骨片の転位を正確に把握するには,単純エックス線写真だけでなく三次元再構成を含むCT撮影が有用である。
② TFCC損傷は手関節尺側部の損傷であり,手首を捻る動作や尺屈時の疼痛と不安定感を生じる。画像診断ではT2*(ティーツースター)強調画像等を含むMRIが用いられるが,手関節鏡を参照基準として比較した大規模な検討では,日常診療におけるMRIの診断精度は関節鏡に劣り,撮像条件も施設によってばらつきがあることが報告されている。MRIで異常が指摘されなかったことをもってTFCC損傷が否定されるわけではない。分類にはパルマー分類(外傷性の1Aから1D及び変性の2Aから2E)が用いられる。
③ 橈骨が短縮して癒合すると相対的に尺骨が長くなり,尺骨頭が手根骨を突き上げる尺骨突き上げ症候群を生じる。画像上は尺骨変異(アルナー・バリアンス)が陽性となることで把握される。保存療法で改善しない場合には尺骨短縮術が行われるが,この手術については遷延癒合又は偽関節が最大で18パーセントに及ぶとの報告があり,手術を勧める際にはこの点も併せて説明する必要がある。なお,尺骨変異が陽性であることを理由に加害者側が素因減額を主張することがあるが,これを排斥した裁判例がある(後記第8の5)。
④ 手根管症候群は,橈骨遠位端骨折後に続発することが少なくない。2万3000例余りを対象とした保険データベースの解析では,骨折後6か月以内に手根管症候群と診断されたのは全体の9.2パーセントで,保存療法例では6.3パーセント(うち手根管開放術2.9パーセント),手術例では19.8パーセント(同13.3パーセント)であった。正中神経麻痺が生じれば母指球筋の萎縮や感覚障害により握力が著しく低下する。
4 腱断裂
手術の有無を問わず,腱の皮下断裂が生じることがある。転位のない橈骨遠位端骨折を保存療法で経過観察している間に長母指伸筋腱が断裂する現象は古くから知られており,本邦の多施設共同研究では,骨折線がリスター結節より遠位にあること,及びリスター結節の形態(隆起が浅く,橈側の頂点が尺側の頂点より高いもの)が危険因子であると報告されている。
手術例では,掌側ロッキングプレートの辺縁と長母指屈筋腱との摩擦による断裂が問題となる。もっとも2700例余りを対象とした後ろ向きコホート研究では,屈筋腱に関する何らかの問題を生じたのは1.2パーセントで,そのうち実際の腱断裂は4例にとどまっており,別の500例余りの研究では腱断裂は1例も生じていない。すなわち腱断裂自体はまれな合併症である。ただし,プレートの突出度を評価するスーン分類において,グレード1では調整オッズ比が4.4,グレード2では9.7と,設置位置によって危険度が数倍変わることが報告されている。プレートの設置位置は術後の単純エックス線写真から評価できるから,抜釘の要否を検討する際の判断材料になる。
5 複合性局所疼痛症候群
複合性局所疼痛症候群(CRPS)は,リハビリテーションの失敗として語られることが多いが,それ自体が後遺障害等級の対象である。神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について(平成15年8月8日基発第0808002号)は,改正の要旨として「反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)の取扱いは,従来認定基準上明確ではなかったが,一定の要件を満たすものについて,カウザルギーと同様の基準により障害等級を認定することとした」ことを挙げている。前掲の福岡地方裁判所小倉支部平成30年4月17日判決も,「労災認定基準において,RSDは,〈1〉関節拘縮,〈2〉骨の萎縮,〈3〉皮膚の変化(皮膚温の変化,皮膚の萎縮)という慢性期の主要な3つの各症状がいずれも健側と比較して明らかに認められる場合に限り,認定することができるものとされ,自賠責保険においては,その程度に応じて,自賠令第7級,第9級又は第12級に該当するものとして認定される」と判示しており,三徴のいずれもが健側との比較で明らかであることが要求される運用であることが判決文からも確認できる。
発生機序については,過度なリハビリテーションが原因であるかのような説明がされることがあるが,近年の研究はむしろ逆の方向を示している。ギプス除去直後から漸増的な自主訓練を課した保存療法129例ではCRPSの発生が皆無であったと報告され,患者向けの説明資料の配布と職員教育を導入した施設では発生率が25パーセントから1パーセントへ低下したと報告されている。2026年の系統的レビューも,早期の積極的なリハビリテーションと漸増的な可動域訓練を有望と評価する一方で,ビタミンCの効果については見解が分かれ,プロバイオティクス及びアスピリンは無効であったとしている。痛みを無視した無理な操作が炎症を遷延させるのは確かであるが,恐れて動かさないことの方が拘縮とCRPSの双方の危険を高める。
なお,CRPSの発生率として報告される数値は,診断基準とデータ源によって桁が変わる。橈骨骨折を対象としたメタ解析では0.19パーセントから13.63パーセントという幅のある値が示され,約6万例の保険データベースを用いた解析では,診断名として記録されていたのは0.19パーセントにとどまり,しかもその多くが線維筋痛症の併存と強く結び付いていた。
第6 症状固定及び申請の時期
1 抜釘を待つべき場合
通達の第2節第1の2は,「骨折部にキュンチャーを装着し,あるいは金属釘を用いたため,それが機能障害の原因となる場合は,当該キュンチャー等の除去を待って等級の認定を行うこと」とし,機能障害の原因とならない場合は創面治ゆをもって等級の認定を行うとしている。掌側ロッキングプレートが腱の滑走を妨げ,あるいは可動域制限の原因となっているのであれば,抜釘を待って等級を判断すべき場合があることになる。抜釘は再骨折の危険を伴う処置でもあるから,医学的な適否と申請時期の双方から検討することになる。
2 廃用性の機能障害
同項は続けて,「廃用性の機能障害(たとえば,ギプスによって患部を固定していたために,治ゆ後に関節に機能障害を存するもの)については,将来における障害の程度の軽減を考慮して等級の認定を行うこと」としている。固定期間中の不動によって生じた拘縮は,リハビリテーションによって改善する余地があるものとして,実際の測定値より控えめに評価されることがあり得る。骨性の制限であることを画像で裏付ける意味は,この点にもある。
3 測定時期によって数値が動くことへの備え
保存療法で治療された橈骨遠位端骨折87例を9年から13年にわたって追跡した研究は,手関節の可動域が握力よりも明らかに速く回復すること,60歳以上では可動域・握力ともに回復が遅いこと,及び長期経過後に残る訴えは重い作業をしたときの疼痛と機能低下であることを報告している。可動域が回復したことをもって症状固定と判断すると,握力の低下が評価に反映されないまま手続が進む可能性がある。また,「日常生活はできているのだから支障はない」という主張に対しては,重い作業でだけ困るという訴えが長期経過例の典型であることを指摘できる。
他方で,測定時期による数値の変動は,被害者側に不利にも働く。手術後にいったん改善した可動域が数か月後の別の機関の測定で大きく悪化していた事案において,裁判所が悪化の理由が明らかでないとして労災の等級認定を採用せず,可動域制限自体を否定した例がある(後記第8の5)。逆に,症状固定時から1年後にかけて増悪した経過を考慮して自賠責保険の認定より上位の等級を認めた例もある(後記第8の8)。複数の測定値が存在する場合には,どの測定がどのような経過の中で行われたのかを整理し,症状固定時の数値として採用すべき理由を説明できるようにしておく必要がある。
第7 可動域制限が生活動作に及ぼす影響と代償動作
1 日常生活動作が要求する可動域
「健側の4分の3」という数字が実際にどの程度の支障を意味するのかは,日常生活動作に必要な可動域を測定した研究と対照させることで具体化できる。現代的な22種類の日常生活動作について健常者の手関節の動きを解析した研究によれば,動作の遂行に要する角度は,かき混ぜる動作での掌屈約47度から髪をとかす動作での背屈約64度まで,橈尺方向では瓶の蓋を開ける動作での橈屈約16度からスマートフォンを取る動作での尺屈約33度までの範囲にあり,日常生活動作で実際に使われる運動範囲は最大可動域の平均約58パーセントにとどまっていた。八つの上肢動作について測定した別の研究でも,動作の完遂に要する手関節の可動域は屈曲・伸展方向で概ね40度から38度の範囲であった。
ここから二つのことが導かれる。第一に,日常生活動作は最大可動域の六割弱しか使っていないから,健側の4分の3という等級の線は,機能的に必要な可動域を侵し始めるちょうどの水準にある。「4分の3残っていれば生活できるはずである」という反論は,この点で成り立たない。第二に,右の研究は日常生活動作中の手関節運動の約55パーセントが背屈と尺屈を組み合わせた象限で行われており,22動作中16動作の平均肢位がこの象限にあったことを報告している。つまり生活動作の主戦場は背屈と尺屈であって,橈屈は要求角度が最も小さい。等級評価上は橈屈も尺屈も等しく参考運動であるが,実生活への影響という観点では両者の重みは異なる。
2 握力低下の機序
障害等級表に握力それ自体を評価する項目はなく,握力の低下は可動域制限又は神経症状を通じて評価される。裁判例も,握力の低下について別途の後遺障害等級を認定することはできず,神経症状のうちに含まれるものと解している(後記第8の1)。もっとも,背屈制限と握力低下との間には明確な生理学的関係がある。健常者が自由に握るときに自ら選ぶ手関節の肢位は背屈約35度・尺屈約7度であり,この肢位から屈曲・伸展・橈屈・尺屈のいずれの方向へ10度から15度ずらしても握力は有意に低下する。背屈が15度しか得られない場合や橈尺中間位に固定された場合には,握力は正常の三分の二から四分の三に低下し,最適な握力を発揮するには少なくとも25度の背屈が必要であるとされている。別の研究は背屈30度で握力が最大となり,かつ握力の持久力を損なわないことを報告しており,装具の肢位や関節固定術の固定角を決める際の根拠となっている。
これは,指の屈筋が最も力を発揮しやすい長さに保たれる肢位が背屈位であることによる。背屈が制限されて手首が真っすぐ又は掌屈位になっていると,屈筋が短縮しすぎて十分な張力を発揮できない。ペットボトルの蓋が開けにくい,重い荷物が持てないといった訴えは,握力そのものの障害ではなく背屈制限の帰結として説明できる場合が多い。なお,橈屈位では握力が有意に低下するのに対し尺屈位では有意な低下がみられないという報告があり,変形治癒によって手が橈屈位に固定されることの意味づけにも用いられる。
3 運動方向ごとの支障
① 掌屈が制限されると,指先を自分の身体へ向ける動作が困難になる。顔を洗う際に手のひらが顔の曲面に合わず水が肘へ垂れる,腹部の前でシャツのボタンを留める,ズボンのファスナーを上げるといった動作の操作性が低下する。最も切実なのは排泄後の清拭であり,臀部の後ろから手を回す動作には掌屈に加えて背屈及び橈尺屈の複合運動が必要となるため,掌屈制限があると肛門部へ適切に到達できない。
② 背屈が制限されると,手をついて体重を支える動作が困難になる。椅子や床から立ち上がる際に手のひら全体を接地できず,指の付け根や指先だけで支えることになるため,狭い面積に荷重が集中して疼痛を生じ,支えきれずに転倒する危険がある。重いドアを押し開ける動作でも,力が手首から手のひらへ直線的に伝わらず,関節面に剪断力がかかる。
③ 橈屈が制限されると,包丁で硬いものを押し切る際に手首を橈屈位で固定して力を伝えることができず,箸操作における母指側の微細な制御も損なわれる。もっとも,前記のとおり日常生活動作が要求する橈屈の角度はもともと小さい。
④ 尺屈が制限されると,握って回すタイプのドアノブや鍵を最後まで回しきれず,身体全体を使って開けることになる。手を机上に置く際に手のひら全体が接地せず小指球の一点に圧力が集中しやすくなるが,この部位には尺骨神経が通るギヨン管(有鉤骨鉤と豆状骨の間)があるため,圧迫により痺れを生じ得る。臀部を拭く動作の仕上げや,髪を後ろで束ねる動作でも尺屈が用いられる。
4 隣接関節による代償には代価が伴う
手関節は独立して動いているのではなく,肩・肘・体幹・下肢を含む運動連鎖の中で機能している。手首が動かなければ,隣接する肘関節や肩関節,さらには体幹が過剰に動いてその機能を補おうとする。この補う動きが代償動作であり,医学的にはトリックモーションとも呼ばれる。代償動作によって動作を「遂行できる」ことと,受傷前と「同等である」こととは別であって,代償動作は隣接部位の過負荷や動作の緩慢化という代価を伴う。被害者側が主張すべきは,動作ができるか否かではなく,どのような代価を払って遂行しているかである。
隣接部位に過度な負担をかけずに目的を達成できる動きとしては,次のものが挙げられる。①低い位置の物を取る際に,手首を曲げる代わりに股関節と膝関節を屈曲してしゃがみ込み,体幹を対象物に近づける。②手を開いて接地できない場合に,拳を握った状態で床や座面につき,手関節を中間位に保ったまま中手骨から前腕骨へ荷重を直線的に伝える。③テーブルや手すりに手をつく際に,手先ではなく前腕全体を面として接地させ,接触面積を増やして手首への負担を回避する。④顔を洗う際に手首を曲げようとせず前腕の回外を強調して手のひらを顔へ向ける。⑤手先を母指側へ向けたい場合に,脇を締めて肘を体幹へ引き寄せ,相対的に手の角度を変える。⑥キーボード操作時にパームレストを用い,手首を自力で反らし続けなくても良肢位を保てるようにする。⑦柄の太い調理器具や角度のついたスプーン,レバー式のドアノブ,鍵の補助カバー,清拭補助具といった自助具及び環境調整を用いる。これらのうち環境調整と自助具は,身体への負担を最も小さくしながら動作を完遂させる手段であり,作業療法士の介入によって選定される。夜間に手関節を良肢位で休ませる静的スプリントの作製も同様である。
5 二次障害を招く代償動作
これに対し,短期的には目的を達成できても長期的に二次障害を招く動きがある。①手首が曲がらない分,肩を内側に捻り後方へ反らして背中側へ手を回す動作は,肩関節への機械的ストレスを増大させ,腱板損傷や肩関節周囲炎の危険を高める。②手首が反らない分,肩をすくめて腕全体を持ち上げる動作は,僧帽筋上部線維の慢性的な緊張を招き,肩こりや緊張型頭痛の原因となる。③手首が固定されない状態で指の力だけで過剰に握り込む動作は,前腕の筋群に過度の緊張を強い,腱鞘炎や外側上顆炎を招き得る。④届かない距離を補うために腰を強く捻る動作,及び手先を小指側へ下げるために極端に肩を下げて身体をくの字に曲げる動作は,腰痛や体側の筋緊張を生じさせる。⑤手がつかない分,肘を過伸展させて距離を稼ぐ動作は,肘関節への負担を増大させる。⑥指の付け根の関節を極端に反らせて見かけ上の角度を稼ぐ動作は,中手指節関節の掌側板及び側副靱帯に反復して伸展ストレスをかける。
なお,こうした代償動作を繰り返すことによって鷲手変形が生じるという説明がされることがあるが,鷲手は尺骨神経麻痺等による手内在筋の麻痺(内在筋マイナス肢位)によって生じる変形であって,代償運動の反復によって生じるものではない。
6 ダーツスローモーションと訓練上の留意点
橈側背屈から尺側掌屈へ向かう斜めの軌道はダーツスローモーションと呼ばれ,多くの生活動作の基本をなす。実際,健常者は日常生活動作の時間の約半分を機能的可動域の中心2割の範囲で過ごしており,ダーツスロー方向の運動は,これに直交する方向の運動の約三倍の頻度で行われている。最も頻度の高い高速運動はダーツスロー方向の動きと回内から回外への捻りとを組み合わせたものであり,これは体の前の物を取って頭部へ運ぶ動作,すなわち整容・食事といった自己ケアの中核をなす。
もっとも,この軌道に沿った訓練が常に安全であるわけではない。国際手外科学会連合の手関節バイオメカニクス委員会報告は,純粋なダーツスロー運動がほぼ手根中央関節のみで生じ舟状骨・月状骨がほとんど動かないこと,金槌を振るような機能的なダーツスロー運動では舟状骨・月状骨の動きが大きくなること,手根中央関節の固定術がダーツスロー運動を橈骨手根関節の固定術より強く損なうこと,及び舟状月状骨間解離のある患者ではダーツスロー訓練が同靱帯に張力をかけて間隙を生じさせたとの報告があることを指摘している。また,ダーツスロー面の角度は利き手で20度から45度,非利き手で15度から40度と課題及び個人によってばらつくため,単一の角度に限定した訓練は適切でないとされる。舟状月状骨間解離を伴う事案では,訓練内容を主治医と確認する必要がある。
第8 裁判例
1 掌屈と背屈の合計値で健側と比較し,握力低下は神経症状に含めた例
福岡地方裁判所小倉支部平成31年4月19日判決(自保ジャーナル2073号147頁)は,人身傷害保険金請求の事案において,右手関節の機能障害の程度を判断した。原告は,健側である左手にも障害があるから文献上の正常可動域と比較すべきであると主張し,主要運動(背屈と掌屈)の合計85度は正常可動域の約53パーセントで,参考運動(橈屈と尺屈)の合計40度は正常可動域の2分の1であるから第10級10号に当たると主張した。これに対し同判決は,「原告の左手首の関節に異常があるとは認められないので,左手首の関節の可動域の数値(他動,主要運動,背屈70度,掌屈70度,合計140度)と比較すべきである」として健側比較の原則を維持したうえ,患側の「他動,主要運動,背屈45度,掌屈40度,合計85度」は健側の2分の1以下とはいえないが4分の3以下であるとして,第12級6号に該当するとした。
同判決は,測定値の採否についても判断を示している。被告は事故後の一時点で掌屈70度・背屈70度まで回復した記録を指摘したが,同判決は,後遺障害診断をする際の計測の方が正確であると考えるべきであるとして,後遺障害診断書の数値によって判断するのが相当であるとした。さらに,右手の握力が11.4キログラムに低下していた点について,「これについて別途後遺障害等級を認定することはできず,上記神経症状のうちに含まれるもの(末梢神経障害に伴う運動麻痺としての筋緊張の低下)と解するのが相当である」とし,TFCC縫合術後に画像上疼痛の原因が確認できない残存疼痛については第14級9号に該当するとしたうえで,二種以上の後遺障害が生じているとして重い方の第12級によるものとした。
2 参考運動は橈屈と尺屈の合計で判断されている
大阪地方裁判所平成30年3月23日判決(判例時報2386号47頁,平成28年(ワ)第11478号)は,リードを離れた犬を避けようとして転倒した事案において,手関節の可動域制限の等級を判断した。同判決は,健側である左手関節が他動で背屈90度・掌屈80度の合計170度であるのに対し,患側である右手関節が他動で背屈55度・掌屈55度の合計110度,自動で合計100度であることを認定し,「手関節の主要運動である背屈と掌屈において,原告の右手関節の可動域は,健側である左手関節の170度に対し,他動で110度,自動で100度と,4分の3以下に制限されていたといえるから」第12級6号に該当するとした。
原告は,健側の2分の1との差が15度にとどまること,及び参考運動とされる尺屈の可動域が2分の1に制限されていることを理由に第10級に当たると主張したが,同判決は「そもそも15度の差がわずかであるとはいえない」としたうえ,括弧書きで「ただし,橈屈と併せれば,原告の右手関節の参考運動の可動域が2分の1以下に制限されていない」と述べて,尺屈単独の制限では足りないことを明示した。健側の橈屈30度・尺屈40度の合計70度に対し,患側は橈屈25度・尺屈25度の合計50度であったから,合計値で見れば2分の1以下に達しない,という判断である。参考運動を橈屈と尺屈の合計で評価する扱いは,後記4の横浜地方裁判所判決でも同様であり,第3の5で述べた通達の解釈と一致する。
3 参考運動が測定されていないと救済を主張できない
大阪地方裁判所平成21年7月28日判決(自保ジャーナル1820号114頁,平成20年(ワ)第3904号)は,右手関節の舟状骨骨折後の機能障害について,自賠責保険会社が第10級と認定した事案である。被告は,症状固定日当時の可動域が健側の2分の1以下に制限されていないと主張したうえで,参考運動による救済についても「本件においては,原告の右手関節について,参考運動である橈屈・尺屈の可動域値がいずれも測定されていないから,この方法による認定もできない」と主張した。参考運動が測定されていなければ,主要運動が基準をわずかに上回った場合の救済を主張する手掛かり自体が失われることを,被告側の主張が端的に示している。
もっとも同判決は,症状固定日の可動域を測定した記録がカルテに見当たらないという点について,後遺障害診断書に患側の伸展45度・屈曲35度と記載されていることから症状固定時点の測定結果が記載されていると第一次的には推定するのが相当であること,及び同一医療機関の別の診断書に測定日を明記した同旨の記載があることを理由に,患側の合計80度が健側の合計190度の2分の1以下に制限されていると認定し,第10級と認めた。測定記録の不備が直ちに被害者側の不利に働くわけではなく,他の記載から測定時期を推認できる場合があることを示す例である。
4 自賠責保険の非該当認定が訴訟で覆された例
横浜地方裁判所平成25年9月30日判決(自保ジャーナル1910号42頁,平成24年(ワ)第627号)は,自賠責保険が併合第11級,労災保険が第9級と認定した事案において,両者の認定内容を障害ごとに対照したうえで判断を示した。同判決が掲げる対照によれば,右手関節の可動域制限は自賠責保険で非該当,労災保険で第12級の6とされ,右前腕の回内・回外の可動域制限は自賠責保険で非該当,労災保険で準用第12級とされていた。
同判決は,後遺障害診断書に患側の可動域が健側の4分の3以下に制限されていないとの記載があることを認めつつ,当該診断書が測定結果を訂正したものであり,訂正後の自動値では屈曲・伸展について患側の合計95度が健側の合計140度の4分の3以下であること,橈屈・尺屈についても患側の合計55度が健側の合計75度の4分の3以下であること,労災医員による別の測定でも患側の橈屈10度・尺屈20度の合計30度が健側の橈屈20度・尺屈45度の合計65度の4分の3以下であることを認定し,「障害〈2〉は,自賠においても,第12級6号に該当するものと認められる」とした。同判決は右母指の可動域制限についても自賠責保険で判断の対象とされていなかった点を捉えて第10級7号に該当するとし,結論として自賠責保険の認定を上回る併合第9級,労働能力喪失率35パーセント,67歳までの21年間として逸失利益を算定した。自賠責保険の等級認定が裁判所を拘束するものではないことを具体的に示す例である。
5 労災保険の認定を裁判所が採用せず,可動域制限を否定した例
名古屋地方裁判所令和4年9月14日判決(交通事故民事裁判例集55巻5号1190頁,令和2年(ワ)第5540号)は,右手関節TFCC損傷により尺骨短縮術及び抜釘術を受けた鍼灸師(症状固定時39歳)の事案である。同判決は,労働局において計測された可動域が右の掌屈と背屈の合計95度,左の合計155度で4分の3以下であるのに対し,症状固定時に主治医が計測した数値は右の合計145度,左の合計160度で4分の3以下ではないことを指摘し,「症状固定時の計測と比較すると,G労働局で計測された可動域は大きく悪化しているが,両計測の間(約4ヶ月間)に右手関節の可動域が悪化した理由は明らかでない」「尺骨短縮術後,抜釘術後も,可動域は順調に回復して,上記の症状固定時期の計測に至っており,同院での計測状況にも不合理な点は見当たらない」として,労災保険における機能障害の認定を採用せず,可動域制限を認めなかった。
もっとも同判決は,残存する疼痛について,これを裏付ける神経学的所見はないとして第12級13号は否定しつつ,初診から一貫して疼痛を訴えていること,受傷機転が合理的であること,注射治療でも改善せず尺骨短縮術に至った経過,抜釘後も安静時痛及び動作時痛があり手関節固定器具がないと鍼灸師の業務に支障が出ることを挙げて,第14級9号に該当するとし,労働能力喪失率5パーセント,症状固定時39歳で疼痛への馴化も期待できることから喪失期間5年として逸失利益を算定した。また,被害者の尺骨が橈骨より長いことを理由とする素因減額の主張については,「尺骨プラスバリアンスの程度は1.6ミリメートルと長いとはいえず,それ自体では疾患に当たるとまでは解されない」として排斥した。外傷性TFCC損傷と尺骨突き上げ症候群の鑑別についても,主治医が尺骨突き上げ症候群の手術例に多いとされる月状骨尺側関節面の信号強度変化が認められないことを理由にTFCC損傷と判断したことを,医学的知見に基づいた合理的なものとして採用している。
6 可動域が4分の3に達しない場合は神経症状として評価される
仙台高等裁判所令和4年8月31日判決(判例時報2569号31頁,令和3年(ネ)第143号)は,刑務作業中に印刷機に手を挟まれて右手背裂創及び右手関節TFCC損傷を負った受刑者の国家賠償請求事件において,後遺障害の程度を判断した。同判決は,「〈1〉右手背側尺側に,尺骨神経背側皮枝の障害に伴った頑固な痛み痺れが遺残しているが,〈2〉手指可動域制限は,健側に比して2分の1以下までには制限されておらず,〈3〉手関節可動域制限は,健側に比して4分の3以下までには制限されていない」として,第12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当するとし,第9級10号に当たるとの主張は認めなかった。可動域の数値が閾値に届かない場合に,同一部位の疼痛を神経症状として構成することになるという第5の1の帰結を,高等裁判所のレベルで確認できる例である。
なお同判決は,被害者が無期懲役の受刑者であることから後遺障害逸失利益の発生を認めず,5割の過失相殺及び刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第100条第2項に基づく障害手当金との損益相殺を行った上で,後遺障害慰謝料を290万円と認めている。交通事故の事案ではないから,逸失利益及び過失相殺に関する部分をそのまま参照することはできない。
7 回内・回外の制限を含めて一つの等級とした例
京都地方裁判所平成23年6月7日判決(交通事故民事裁判例集44巻3号757頁,平成22年(ワ)第3348号)は,右手三角骨骨折後の右手関節拘縮の事案である。同判決が認定した可動域は,他動で手関節の背屈が右70度・左80度,掌屈が右40度・左70度(患側の合計110度が健側の合計150度の約73パーセント),橈屈が右20度・左40度,尺屈が右30度・左45度,前腕の回内が右80度・左90度,回外が右60度・左90度,握力が右13.5キログラム・左38.5キログラムというものであった。
同判決は,損害保険料率算出機構が,右手関節の可動域が健側の4分の3以下に制限されていることから「右前腕の回内・回外の可動域制限も含め」自賠責保険の施行令別表第二の第12級6号に該当すると認定判断したことを「相当といえる」とした。第4の2で述べた,手関節部の骨折等により手関節の機能障害と回内・回外の制限が併存する場合にいずれか上位の等級で認定するという処理が,実際の認定に表れた例である。逸失利益については,症状固定時21歳であった被害者につき,「将来,関節拘縮が快復する蓋然性が高いことを認めるべき証拠はない」として,症状固定時から67歳までの46年間,労働能力の14パーセントを喪失したものと認めている。
8 症状固定後の増悪を考慮して自賠責保険の認定を上回る等級を認めた例
大阪地方裁判所平成20年3月14日判決(交通事故民事裁判例集41巻2号340頁,平成18年(ワ)第10425号)は,右月状骨骨折及び右手関節捻挫を負い,既往の右キーンベック病(月状骨の無腐性壊死)及び右遠位橈尺関節症が外傷を契機に有症化して右外傷性手関節症へ進展した事案である。原告は,症状固定時の背屈と掌屈の合計が健側の52パーセントで2分の1にわずかに足らなかったが,その時点では参考運動を測定していなかったため,約1年後に改めて測定したところ橈屈・尺屈も2分の1以下であったと主張した。
自賠責保険の事前認定は第12級6号であったが,同判決は,症状固定時点で健側の52パーセントとほぼ2分の1に制限されていたこと,当時から障害の増悪が見込まれており,実際に1年後には健側の32パーセントに増悪していることを認定し,「原告の後遺障害の程度としては,自賠責保険後遺障害等級第一〇級一〇号に相当するものと評価することが相当である」とした。他方で同判決は,既往のキーンベック病及び遠位橈尺関節症が損害に大きく寄与しているとして,民法第722条第2項を類推適用して5割の素因減額を行い,さらに2割の過失相殺をしている。症状固定後の経過が等級の評価に影響し得ること,及び既往症がある場合には素因減額によって賠償額が大きく減じられ得ることの双方を示す例である。
9 柔道整復師の施術費と医師の同意
東京地方裁判所令和3年10月13日判決(交通事故民事裁判例集54巻5号1334頁,平成31年(ワ)第5290号,平成31年(ワ)第9900号)は,右肩鎖関節脱臼等を負った柔道整復師の事案において,整骨院の施術費の相当性を判断した。同判決は,「本件事故による負傷が右肩鎖関節脱臼という医師の同意を得た場合に限り施術が許容されるものであるところ(柔道整復師法17条)」と条文を明示したうえで,一方の医療機関については通院の事実を当初主張しておらず診療録等の証拠もないこと,他方の医療機関については診療録に「接骨院への紹介状希望 当院では出来ないと説明して帰宅」とのみ記載され,その後に施術経過を報告した事実もないことを理由に,医師の同意を得たとする原告の供述等を信用し難いとした。
その結果,同判決は,整骨院の施術費65万7230円のうち2割に当たる13万1446円の限度でのみ損害と認めた(他の医療機関の治療費は全額を認めている)。原告自身が柔道整復師であり,骨折や脱臼の場合に医師の同意がなければ施術を受けられないという知識を有していたと主張していたにもかかわらず,同意の立証がないとして減額された点に留意する必要がある。手関節の事案ではないが,橈骨遠位端骨折や舟状骨骨折も骨折である以上,同じ問題が生じる。
第9 賠償額及び関連する実務上の論点
1 自賠責保険の水準
自賠責保険の支払基準第3の2(1)②により,施行令別表第二の第12級に対する後遺障害の慰謝料等の額は94万円である。逸失利益は,同基準別表Ⅰの労働能力喪失率(第12級は14/100)と,後遺障害確定時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数(同基準別表Ⅱ-1)を乗じて算出される。第8級の慰謝料等の額は331万円,労働能力喪失率は45/100である。
なお,労働能力喪失率の根拠を労働者災害補償保険法に求める説明がみられるが,同法に労働能力喪失率の規定はない。労災保険における労働能力喪失率表は昭和32年7月2日基発第551号(労働基準局長通達)の別表であり,自賠責保険については右の支払基準別表Ⅰである。
2 裁判上の水準
裁判上は自賠責保険の基準を上回る額が認められるのが通例であり,日弁連交通事故相談センター東京支部が編集する『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(いわゆる赤い本)の基準が参照される。同書の講演録は個別の損害費目についての裁判実務の考え方を示すものとして参照価値が高く,本ブログでは交通事故のインプラント治療費はどこまで損害になるか―赤い本講演録2025の論評で講演録の内容を検討している。労働能力喪失率及び喪失期間については,第8で挙げた裁判例のように,症状固定時の年齢,職業,障害の内容並びに将来の回復又は馴化の見込みに応じて,第12級で14パーセント・67歳までとするもの,第14級9号で5パーセント・5年間とするものなど,事案ごとに幅がある。
3 関節固定術を選択した場合の等級
疼痛が強く生活への支障が大きい場合には,関節を固定して除痛を図る関節固定術(授動術と混同されやすいが,可動域を広げる授動術とは目的が逆である)が選択肢となる。関節固定術を受けると手関節の可動域はほぼ失われて強直に至るから,通達の定める基準を当てはめる限り,等級は第12級6号から第8級6号へ変わることになる。自賠責保険の慰謝料等の額は94万円から331万円へ,労働能力喪失率は14パーセントから45パーセントへ変わる。もっとも,手関節の固定術を受けた被害者について第8級6号を認めた裁判例は,判例秘書プラス及びD1-Law.com判例体系のいずれでも確認できなかったから,右は通達の構造から導かれる帰結として述べるにとどまる。除痛と引換えに何を失い,賠償上どのように評価されるのかを,手術の前に主治医と弁護士の双方に確認しておくことが望ましい。
4 併合及び通常派生する関係
手関節の機能障害と同一上肢の手指の欠損又は機能障害を残す場合は,上肢と手指がみなし系列であることから,それぞれ別個に等級を定めたうえで併合の方法を用いて準用等級を定める。通達は,手関節の機能に障害を残し(労災の第12級の6),同一上肢の母指の用を廃し(同第10級の6),中指を亡失した(同第11級の6)場合に,手指について併合の方法を用いて準用第9級を定め,さらにこれと手関節の機能障害とについて併合の方法を用いて準用第8級と認定する例を挙げている。この設例の号数は労災保険の障害等級表によるものであり,自賠責保険の施行令別表第二では,母指の用廃は第10級7号,中指の亡失は第11級8号に当たる。
他方,橈骨の遠位骨端部にゆ合不全又は欠損を残し(第12級8号)かつ手関節に著しい機能障害を残す(労災の第10級の9,自賠責保険では第10級10号)場合は,両者が「通常派生する関係」にあるとして,併合せず上位の等級で認定される。骨折部にゆ合不全又は変形を残し,その部位に疼痛を残す場合も,いずれか上位の等級による。
5 動揺関節
手関節の可動域制限とは別に,関節が不安定に動く動揺関節が問題となることがある。通達は,上肢の動揺関節について,他動的なものであると自動的なものであるとを問わず,常に硬性補装具を必要とするものを第10級に準ずる,時々硬性補装具を必要とするものを第12級に準ずる関節の機能障害として取り扱うとし,習慣性脱臼を第12級に準ずるものとしている。下肢の動揺関節には「重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないもの」を第12級とする第三の区分があるが,上肢は二段階である点が異なる。動揺関節の立証方法については,動揺関節の立証手段としてのストレスレントゲン撮影で詳しく検討している。
6 柔道整復師の施術
代償動作によって緊張した前腕や肩周囲の筋に対する徒手療法として柔道整復師の施術を受けることがあるが,柔道整復師法第17条は「柔道整復師は,医師の同意を得た場合のほか,脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし,応急手当をする場合は,この限りでない」と定めている。橈骨遠位端骨折や舟状骨骨折は骨折であるから,患部への施術には医師の同意が必要である(打撲・捻挫については同意を要しない)。第8の9で述べたとおり,医師の同意の有無は施術費の相当性を左右し,同意があったとする被害者の供述だけでは足りず,診療録その他の客観的資料による裏付けが求められる。この点は整骨院・接骨院と交通事故の施術費―柔道整復師・健康保険・広告規制で整理している。
7 労災保険との関係
業務中又は通勤途上の交通事故であれば労災保険の障害補償給付を請求できる。第12級は障害補償一時金として給付基礎日額の156日分が支給される。労災保険給付と加害者に対する損害賠償請求とは支給調整の対象となるから,示談の前に調整関係を確認する必要がある。この点は労災保険又は障害年金を支給される可能性がある事案における示談で扱っている。第8の4及び5の裁判例のように,労災保険と自賠責保険とで認定が食い違うことがあり,そのいずれもが裁判所を拘束するものではないから,双方の認定資料と測定値を突き合わせて,どの数値を症状固定時のものとして主張するかを決めることになる。
第10 後遺障害診断書及び資料収集の確認事項
1 診断書に記載してもらう事項
以上の認定構造からすると,後遺障害診断書について確認すべき事項は次のとおりである。①掌屈及び背屈の角度を患側・健側の双方について記載してもらうこと(合計値で評価されるため一方だけでは足りない)。②橈屈及び尺屈の角度も患側・健側の双方について記載してもらうこと(主要運動が基準をわずかに上回った場合の救済に用いるものであり,両者の合計で判断されるため一方だけでは足りない)。③前腕の回内・回外の角度も患側・健側の双方について記載してもらうこと(別枠で準用等級の対象となる)。④他動値か自動値かを明示してもらい,自動値を用いる場合はその医学的理由を記載してもらうこと。⑤可動域制限の原因となっている器質的所見(変形治癒の程度,関節面の不整,骨性の衝突,軟部組織の瘢痕等)を,画像所見と対応させて記載してもらうこと。⑥握力の実測値と,手根管症候群等の神経症状の有無を記載してもらうこと。⑦測定日を明記してもらうこと(複数の測定値が存在する場合に,症状固定時の数値がどれであるかを特定できるようにするためである)。
2 画像資料の取得
器質的所見の裏付けには,単純エックス線写真のほか,関節内骨折や粉砕骨折ではCT(三次元再構成を含む),軟部組織損傷が疑われる場合にはMRIが必要となる。医療機関から診療録及び画像記録を取り寄せる費用の扱いについては,被保険者本人が支出した診療録,画像記録その他の資料取得費が弁護士費用特約の「弁護士・損害賠償請求等費用」に当たり得るかで検討している。任意の交付が得られない場合の手続としては,文書提出命令による方法がある。整骨院の施術費が争点となる見込みがあるときは,医師の同意の有無を裏付けるために,紹介状の写しや同意の経過が記載された診療録も併せて取得しておく必要がある。
3 自覚症状の伝え方
自覚症状は,「重だるい」「つらい」といった漠然とした表現では評価に結び付かない。いつ(どの動作・場面で),どこに,どのような症状(疼痛,痺れ,脱力等)が,どの程度(強さ・頻度・持続時間),いつから生じているのかを組み合わせて医師に伝える必要がある。事故前にはできたが現在は困難な作業に翻訳し,職業上の具体的な作業に即して述べると診断書に反映されやすい。
他方,症状を誇張することは有害である。通達の別添第2の1(3)は「障害補償の対象となる症状には心因性の要素が伴われがちであるが,これが過度にわたる場合は当然排除しなければならない」とし,各関節の共働運動を利用して被測定者の注意を患関節から外させて測定する方法や,筋電図等の電気生理学的診断を挙げている。医学的にも,中間位・掌屈位・背屈位の三肢位における握力の比が最大努力と非最大努力とを判別し得ることが報告されており,努力の一貫性は検査によって把握され得る。誇張は信用性を損ない,かえって不利に働く。
なお,同様に器質的所見と自覚症状との対応関係が問題となる類型として,高次脳機能障害で後遺障害等級7級4号を認定してもらうための具体的な主張立証方法も参照されたい。
出典・参考資料
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- 福岡地方裁判所小倉支部平成31年4月19日判決(自保ジャーナル2073号147頁) 事件番号はD1-Law.com判例体系に表示がない。裁判所HP未掲載。同判例体系(判例ID〔28283698〕)により判決文を確認。判例秘書プラスには登載されていない
- 東京地方裁判所令和3年10月13日判決(平成31年(ワ)第5290号,平成31年(ワ)第9900号・損害賠償請求事件,求償金請求事件) 交通事故民事裁判例集54巻5号1334頁。裁判所HP未掲載。D1-Law.com判例体系(判例ID〔29067196〕)により判決文を確認。判例秘書プラスにも登載(L07632388)
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- 名古屋地方裁判所令和4年9月14日判決(令和2年(ワ)第5540号・損害賠償請求事件) 交通事故民事裁判例集55巻5号1190頁。裁判所HP未掲載。D1-Law.com判例体系(判例ID〔28311818〕)により判決文を確認。判例秘書プラスにも登載(L07751572)
行政資料
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- 「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号) 国土交通省 https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/kijyun.pdf
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