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交通事故によるCRPSの後遺障害等級――診断基準,自賠責の三要件及び裁判例(AI作成)

第1 本記事の対象と判断の順序

1 四つの判断を分けること

交通事故後にCRPS(複合性局所疼痛症候群)と診断された場合でも,直ちに特定の後遺障害等級が決まるわけではない。実務では,①医学上CRPSと診断できるか,②そのCRPS又は残存症状が当該事故から生じたか,③自賠責の後遺障害等級に該当するか,④民事損害賠償上どの程度・期間の労働能力喪失その他の損害を認めるかという四つの判断を分ける必要がある。医師の診断,自賠責の認定及び裁判所の判断は,目的と基準が同一ではないからである。

本記事は,この四段階を区別した上で,CRPSの医学的な診断基準,自賠責が反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)について求める慢性期の三徴候,7級・9級・12級・14級の分岐,事故との因果関係を裏付ける資料及び裁判例を扱う。資料の収集と整理には生成AIを用い,法令,行政基準,判決及び医学原著と照合した。本記事は一般的な情報提供を目的とし,特定の事故について等級又は損害額を判断するものではない。

2 肩関節の可動域制限との役割分担

CRPSでは疼痛や拘縮による関節可動域低下を伴うことがあるが,CRPSとしての神経症状評価と,器質的な関節機能障害としての評価は区別を要する。例えば肩関節について,主要運動・参考運動の測定方法,健側比4分の3以下という第12級6号の判定式及び代償動作は,肩関節の可動域制限と後遺障害12級6号で詳しく扱っている。

同じ原因から疼痛と可動域制限が派生した場合,症状を別々に数えて当然に併合するのではなく,障害の実質と等級認定の併合・準用の考え方を確認する必要がある。また,疼痛のため自動運動が制限される場合と,関節そのものの器質的変化又は神経損傷によって他動運動まで制限される場合とでは,機能障害としての証拠価値が異なる。

第2 CRPSの医学的な診断

1 CRPS type I及びtype II

CRPSは,通常の治癒経過から予想される程度に比して不釣合いな持続痛を中心とし,感覚,血管運動,発汗・浮腫,運動・栄養の異常が組み合わさる症候群である。症状は一つの末梢神経の支配領域に限定されないことが多く,強さと経過には個人差がある。発症機序については,末梢・中枢感作,炎症,自律神経,免疫,運動制御及び心理社会的要因が相互に関与する多因子モデルが有力であり,単一の原因で説明できる段階にはない。

明確な主要神経損傷を前提としないものがtype I,神経損傷を伴うものがtype IIである。ただし,両型の臨床像は大きく重なり,小径線維の障害は通常の神経伝導検査で捉えにくい。現代医学のtype I・IIと,行政基準が用いるRSD・カウザルギーという旧来の用語は完全には一致しないため,診断名だけで行政上の経路を決めず,損傷神経と客観所見を確認する必要がある。

2 Budapest臨床診断基準

国際的に用いられるBudapest臨床診断基準は,①原因となった出来事に比して不釣合いな持続痛があること,②次の4カテゴリー中3カテゴリー以上で自覚症状があること,③診察時に4カテゴリー中2カテゴリー以上で他覚徴候があること,④症状と徴候をより適切に説明する別の診断がないことを求める。自覚症状は患者が経験している内容であり,他覚徴候は診察時に医師が確認した内容であるから,両者を混同して項目数を数えることはできない。

カテゴリー主な内容
感覚知覚過敏,痛覚過敏,アロディニア
血管運動皮膚温の左右差,皮膚色の左右差又は変化
発汗・浮腫浮腫,発汗の変化又は左右差
運動・栄養可動域低下,筋力低下・振戦・ジストニア等の運動機能障害,毛・爪・皮膚の栄養変化

2010年の検証研究は,CRPS-Iの113例と非CRPSの神経障害性疼痛47例を比較し,旧IASP基準の感度を1.00,特異度を0.41,Budapest臨床基準の感度を0.99,特異度を0.68と報告した。これは診断基準の弁別性能を示す研究であって,交通事故との因果関係又は後遺障害等級を予測する数値ではない。

3 日本版CRPS判定指標の内容と限界

日本版CRPS判定指標は,①皮膚・毛・爪の萎縮性変化,②関節可動域制限,③持続性又は不釣合いな痛み・知覚過敏,④発汗異常,⑤浮腫という5群を用いる。臨床用指標は,自覚症状について2群以上,診察時所見について2群以上を求め,研究用指標はそれぞれ3群以上を求める。作成研究での臨床用指標の感度は82.6%,特異度は78.8%,研究用指標の感度は59.0%,特異度は91.8%であった。

もっとも,原著は,この判定指標を治療方針の決定や専門施設への紹介に用いるものとし,外傷後の遷延症状がCRPSによるかを補償又は訴訟で判定する目的や,重症度・後遺障害の有無を判定する目的には用いるべきでないと明記している。したがって,日本版指標を満たすことは医学診断を支える事情となるが,それだけで事故因果関係又は12級以上を導くことはできない。

4 画像検査及び生理検査の位置付け

CRPSには単一の確定検査がない。単純X線は骨折,骨壊死,他疾患及び経時的な骨萎縮を確認するのに適するが,早期には正常となり得て,廃用性骨萎縮とCRPSに伴う斑状の骨萎縮との鑑別を要する。MRIは骨髄浮腫,軟部組織及び別の病変の評価に有用であるが,所見はCRPSに特異的ではない。三相骨シンチグラフィーのメタ解析では,Budapest基準を参照した研究群の感度が55.1%,特異度が93.5%であり,陰性結果だけでCRPSを除外することはできない。

サーモグラフィー,発汗検査及び皮膚温測定は自律神経所見の左右差を示し得るが,室温,順化時間,時刻,服薬,喫煙及び直前の活動で変動する。神経伝導検査及び針筋電図は主要神経損傷とtype IIを検討する資料になるが,小径線維障害を捉えにくく,type Iでは正常となり得る。画像や検査は,実施時期,条件,感度及び特異度を示して初めて評価でき,単独で診断,事故原因,等級又は予後まで証明するものではない。

5 徴候の変動と症状固定

CRPSの徴候は時間とともに変動し,一部が消退することがある。国際的な合意文書は,過去に診断基準を満たしたが一部徴候が寛解した状態を「一部徴候が寛解したCRPS」として整理している。そのため,症状固定時の一回の診察で皮膚温差や浮腫がなかったという理由だけで,過去の病態まで否定するのは適切でない。初期からの診療録,写真,測定及び画像が重要となる。

他方,後遺障害等級は,過去の診断歴ではなく,症状固定時に残り,将来も存続すると合理的に見込まれる機能・労働制限を評価する。過去にBudapest基準を満たしたことと,症状固定時に高い等級へ該当することは同義ではない。症状固定は治療終了とも同義ではなく,維持治療や再燃時の治療を要する状態はあり得るため,改善可能性と維持治療の必要性を分けて記載する必要がある。

第3 自賠責における認定経路と等級

1 労災の障害等級認定基準を参照する構造

自賠責の支払基準は,後遺障害等級の認定を原則として労働者災害補償保険の障害等級認定基準に準じて行うものとしている。そのため,自賠責でCRPSを検討するときは,医学上の診断基準とは別に,厚生労働省平成15年8月8日基発第0808002号「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」を確認する必要がある。

同基準はRSDの取扱いを明確化したものであり,現代のBudapest基準より古い医学用語と考え方を残している。この時間差により,医学上はCRPSと診断されても,自賠責上の特殊な性状の疼痛としては認定されない事案が構造的に生じる。

2 RSDの慢性期三徴候

厚生労働省基準は,RSDについて,①関節拘縮,②骨の萎縮,③皮膚の変化(皮膚温の変化又は皮膚の萎縮)という慢性期の三徴候が,いずれも健側と比較して明らかに認められる場合に限り,カウザルギーと同様に評価する。三つのうち二つで足りる基準ではない。骨の萎縮については,単に使用しないことによる廃用性変化ではなく,分布,出現時期及び他の徴候からCRPSに伴う変化と説明できるかが争点となる。

三徴候を満たすことは等級評価の入口である。その後に,疼痛の部位,性状,頻度,強度,持続時間,日内変動及び原因となる他覚所見を基に,労働能力への影響を評価して7級,9級又は12級を定める。したがって,三徴候がそろえば当然に7級又は9級となるわけではない。

3 カウザルギー及びRSDの等級

行政基準上のカウザルギーは,末梢神経の不完全損傷によって生じる灼熱痛を想定し,血管運動,発汗,軟部組織の栄養及び骨の変化等を伴う病的な強い疼痛を評価する。RSDは主要な末梢神経損傷が確認されない場合を想定するが,前記三徴候をすべて求める点で入口が狭い。自賠責と労災では同じ内容でも号数が異なるため,書面では制度名と号数を併記する必要がある。

自賠責等級障害の内容被害者1名当たり限度額対応する労災等級
第7級4号神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの1051万円第7級3号
第9級10号神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの616万円第9級7号の2
第12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの224万円第12級12号
第14級9号局部に神経症状を残すもの75万円第14級9号

第14級9号は,カウザルギー又はRSDを特殊な性状の疼痛として評価する等級ではない。しかし,CRPSの行政上の入口を満たさなくても,事故後に医学的に説明可能な局所痛が一貫して残る場合には,一般神経症状として第12級13号又は第14級9号が問題となる。高い等級だけを主張して代替的な神経症状評価を落とすと,実際に残る障害を適切に位置付けられない。

4 関節機能障害その他の代替評価

RSDの三徴候がそろわない場合でも,骨折・靱帯損傷後の疼痛,皮膚変化,腫脹,筋萎縮又はアロディニアに他覚的な裏付けがあれば,一般神経症状としての評価を検討する。また,器質的な拘縮,神経損傷又は骨・関節病変により他動可動域まで永続的に制限される場合には,身体部位に応じた関節機能障害が問題となる。

ただし,CRPSに伴う疼痛,筋力低下及び可動域低下を,同じ原因から生じた障害であるのに別個独立の損害として重複評価することはできない。自賠責の認定経路と民事訴訟上の損害評価は別であり,裁判所が症状全体を自賠責とは異なる等級相当として評価する場合もあるため,診断名よりも個々の機能障害を特定することが必要である。

第4 事故との因果関係及び立証資料

1 事故直後から症状固定までの時系列

事故因果関係の中心は,一般に外傷がCRPSを生じさせ得るかではなく,当該被害者の当該症状が当該事故から連続しているかである。①事故態様と受傷部位,②初診から数週間の疼痛・腫脹・色調・皮膚温・発汗・可動域・神経所見,③CRPS診断までの空白とその説明,④症状の一肢内での分布,⑤既往症・手術・固定・後発事故・他疾患,⑥治療反応,⑦診療録と生活・就労実態の整合性を,一つの時系列で確認する。

事故前は無症状で事故後に症状が出たという前後関係は重要であるが,それだけで医学的な連続性と他原因の除外を代替しない。診断が遅れた場合も直ちに因果関係が否定されるわけではないが,初期記録の空白,症状の変化及び遅れて特徴的徴候が現れた理由を医学的に説明する必要がある。

2 診療録,写真及び反復測定

被害者側で最初に行うべき低負担の作業は,受傷から症状固定までの全診療録,検査報告,リハビリ記録,画像データ及び後遺障害診断書を取得し,月別の経過表を作ることである。診療録では,患者の訴えと医師が診察時に確認した徴候を分け,Budapestの4カテゴリー,日本版の5群及び自賠責の三徴候に対応させる。後遺障害診断書だけでは,初期からの連続性を示せない。

浮腫,皮膚色,栄養変化及び筋萎縮は,両側を同時に撮影した写真が有用である。ただし,日付,照明,距離,背景及び室温をそろえなければ比較価値が下がる。皮膚温,周径,容積,握力及び可動域も,測定位置,環境,測定者,自動・他動及び疼痛による中止理由を記録して反復する必要がある。単発の最大差だけを選ぶ方法は,症状の変動と測定誤差を区別できない。

3 画像及び神経損傷の資料

単純X線は,受傷直後,症状出現期及び症状固定前を並べ,健側と比較する。画像データは読影報告だけでなくDICOM原画像を保存し,骨萎縮の分布と時期,廃用性変化,骨壊死,骨折後変化その他の鑑別を整形外科又は放射線科へ具体的に照会する。画像所見は病変の存在,部位及び時期を支えるが,画像だけで当該事故が原因であることや等級まで決めることはできない。

type II又はカウザルギーを主張する場合は,損傷神経,神経支配領域,受傷機序,手術所見,神経伝導検査及び針筋電図を対応させる。検査が正常であった場合は,何をどの感度で除外できるのかを確認する。小径線維障害を捉えにくい検査の陰性結果を,神経障害全般の不存在へ広げることはできない。

4 就労及び日常生活上の機能

第7級と第9級の分岐,並びに民事上の労働能力喪失率・期間は,疼痛の強さだけでは決まらない。職種,利き手,立位・歩行,反復動作,巧緻運動,重量物,通勤,欠勤,配置転換,勤務時間,実収入及び職場の配慮を資料化し,どの作業がどの頻度で中断されるかを示す。給与が直ちに減っていなくても配慮や同僚の補助で維持されている場合があり,反対に診断名があっても具体的な業務支障を示せなければ高い喪失率は導けない。

日常生活動作は,「できる」「できない」だけで記載せず,所要時間,補助具,他者の介助,休息,実施後の増悪及び良い日・悪い日の頻度を記録する。行動映像は症状との矛盾を検討する資料になり得るが,CRPSには変動があるため,短時間の歩行や特定動作ができた一場面だけで持続的障害を否定することもできない。撮影期間,選択編集,前後の休息及び活動後の反動を含めて評価する必要がある。

5 医師への照会事項

医師への照会は,単に「CRPSか」「事故が原因か」と結論を求めるのではなく,判断過程を分解する。具体的には,①用いた診断基準と該当所見,②自覚症状と診察時徴候の区別,③事故前・初期・診断時・症状固定時の所見,④骨萎縮がCRPS型か廃用性か,⑤拘縮が器質的か疼痛性防御か,⑥陰性検査の意味,⑦事故から現在症状までの医学的連鎖,⑧他原因・後発事故の除外,⑨将来改善可能性,維持治療及び具体的機能制限を尋ねる。

相手方側からは,診断基準の射程が補償因果関係へ直結されていないか,初期診療録に特徴的所見があるか,後日の所見を廃用・固定・手術・別疾患で説明できないか,測定条件と再現性があるか,症状分布と拡大が解剖学的・時間的に整合するかを検証する必要がある。同時に,CRPSを否定しても一般神経症状又は関節機能障害が残らないかを別に検討すべきである。

第5 裁判例が示す判断の分岐

1 行政基準と民事裁判の関係

裁判所は,自賠責又は労災の等級認定に法律上拘束されず,医学基準,専門医意見,診療経過,客観所見及び実際の機能障害を総合して民事上の後遺障害と損害を判断する。他方,医学上CRPSと診断されたことだけにも拘束されない。行政上の三徴候を満たさなくても民事上の障害を認めた例がある一方,複数医師の診断があっても事故との連続性と客観所見を欠くとして否定した例もある。

このため,裁判例を「三徴候が不要である」「診断があれば足りる」と一般化することはできない。肯定例と否定例の差は,採用した診断名よりも,初期からの経過,所見の分布,画像,測定の再現性,他原因及び具体的な生活・就労制限が一つの説明として整合するかに現れる。

2 大阪高等裁判所平成18年9月28日判決

大阪高等裁判所平成18年9月28日判決(平成16年(ネ)第112号,平成18年(ネ)第823号)は,交通事故後の左上肢RSDを認め,神経系統の障害として第7級相当,労働能力喪失率56%・26年間,後遺障害慰謝料1500万円と評価した。判決は,診療経過,医師の診断,労災認定,疼痛・腫脹・知覚障害・可動域・握力等を検討しており,高等級の判断が診断名だけに基づくものではない。

もっとも,同判決は,具体的な心因的要素,治療経過及び後発事故等を踏まえ,症状固定後の損害について50%を減額した。この減額は当該事件の具体的事情によるものであり,CRPSであるという理由から一般に50%を減額する基準を示したものではない。

3 近時の否定例及び代替認定例

横浜地方裁判所平成30年7月17日判決(平成27年(ワ)第2934号)は,事故直後の診療録,骨萎縮・皮膚変化等の有無,診断までの時間,症状経過及び日常行動との整合性を検討し,事故によるCRPSの発症を否定した。後から付された診断名だけでは,初期記録の弱さと客観所見の不足を補えないことを示す例である。

東京地方裁判所令和5年9月25日判決(令和4年(ワ)第5965号)は,日本版CRPS判定指標を根拠とする第12級13号の主張を退けた一方,右足外側靱帯損傷後の疼痛等は医学的に説明可能であるとして第14級9号を認めた。CRPSの主張が通らない場合でも,事故による局所の神経症状を別の入口から評価し得ることを示している。

大阪地方裁判所令和6年1月22日判決(令和元年(ワ)第8200号)は,複数医師によるCRPS及び線維筋痛症の診断,アロディニア,皮膚温左右差,浮腫,発汗異常等の記載を検討しながら,診療経過と客観所見の整合性から事故起因性を否定し,主張された後遺障害と逸失利益も認めなかった。診断する医師の数や所見名の列挙ではなく,事故から症状固定までの全体整合性が問われることを示す近時例である。

第6 民事損害賠償上の評価

1 労働能力喪失率及び期間

等級別労働能力喪失率は,第7級56%,第9級35%,第12級14%,第14級5%が実務上の出発点となる。しかし,CRPSの診断又は自賠責等級から,その割合と就労可能期間まで機械的に決まるわけではない。職種,利き手,患肢,反復負荷,症状の変動,欠勤,配置転換,職場配慮,実収入及び家事労働への影響を基に,具体的な喪失を判断する。

古い裁判例には就労可能年齢まで喪失を認める例がある一方,疼痛の改善可能性を理由に期間を限定した例もある。長期予後の系統的レビューは,相当数に疼痛・機能制限・就労困難が残り,おおむね3分の1が長期に就労復帰できないと報告するが,研究間の異質性が大きい。個別事件の期間は,罹病期間,病型,治療経過及び就労実績によって検討する必要がある。

2 慰謝料,将来治療費及び症状固定

後遺障害慰謝料は等級を重要な基準とするが,自賠責の限度額と民事訴訟の損害額は同一ではない。CRPSの治療が症状固定後も必要である場合,将来治療費又は装具・介助関係費を主張するには,治療内容,頻度,期間,改善目的か維持目的か及び医学的必要性を具体化する必要がある。

治療継続中であることは,当然に症状固定を否定しない。反対に,治療法が残っているという抽象的な理由だけで症状固定を遅らせることもできない。症状固定時期は,症状の推移,治療効果,機能回復の見込み及び維持治療の性質を基に判断し,等級申請の時期と治療上の必要性を混同しないことが重要である。

3 素因減額

最高裁判所第一小法廷平成4年6月25日判決(昭和63年(オ)第1094号・民集46巻4号400頁)は,被害者の疾患と事故が共に原因となって損害が生じ,当該疾患の態様・程度等に照らして全損害を加害者に負担させるのが公平を失するとき,民法722条2項を類推適用して疾患を斟酌できるとした。これに対し,最高裁判所第三小法廷平成8年10月29日判決(平成5年(オ)第875号・民集50巻9号2474頁)は,平均的な体格又は通常の体質と異なる身体的特徴でも,疾患に当たらなければ,特段の事情がない限り減額事情にできないとした。

したがって,CRPSが比較的まれであること,痛みに敏感であること又は一般的な性格傾向だけで素因減額をすることはできない。減額を主張する側は,事故前から存在する疾患又は具体的な心因的要素が損害の発生・拡大へどのように寄与したかを立証する必要がある。大阪高等裁判所平成18年9月28日判決も,その事件で認定した個別事情を斟酌したものである。

第7 申請・異議申立て・訴訟の進め方

1 等級申請前の低負担調査

最初に,①全診療録・画像・リハビリ記録の取得,②事故から症状固定までの時系列化,③健側比較を伴う写真・皮膚温・周径・可動域・画像所見の整理,④Budapest基準,日本版判定指標及び自賠責三徴候の対照,⑤既往症・後発事故・廃用その他の原因の検討,⑥職務・欠勤・配慮・収入及び日常生活制限の資料化を行う。この段階で,CRPSという病名と各基準の該当事実を分けて確認する。

画像や診療録に不足がある場合,まず通常の開示請求と主治医への具体的照会を用いる。相手方又は第三者しか保有しない資料は当然に入手できるものではなく,弁護士会照会,調査嘱託,文書送付嘱託又は文書提出命令には要件,裁判所・照会先の判断,秘密及び不回答・不採用の可能性がある。先に自己側の診療録と画像から争点を絞る方が,費用と時間を抑えられる。

2 非該当又は低い等級に対する検討

認定理由を確認し,欠けているのが①RSD三徴候の一つ,②事故との連続性,③神経損傷,④症状固定時の永続性,⑤労務制限のいずれかを特定する。三徴候,特にCRPS型の骨萎縮を示す経時画像が既にあるのに見落とされた場合は,画像と読影意見を整理した異議申立ての意味がある。三徴候を満たさない場合は,同じ資料を繰り返し提出するだけでなく,一般神経症状又は器質的な関節機能障害としての代替評価を検討する。

追加資料は,何が判明すれば結論が変わるかを先に定める。例えば,骨萎縮の性質が唯一の争点なら画像再読影が有効であるが,初期診療録に患肢症状がなく事故との連続性が崩れている場合,症状固定後の検査を増やしても因果関係の欠落を埋められないことがある。申立ての回数より,否定理由へ対応する新資料の有無が重要である。

3 高負担手段へ進む条件と停止基準

専門医意見,画像鑑定又は裁判所の鑑定は,低負担の資料を集めた後も残る具体的争点を解決でき,その結論によって等級又は損害評価が変わる場合に限って検討する。医学意見は,診断名の追認ではなく,基準の各項目,所見の時期と測定条件,事故からの連続性,鑑別診断,症状固定時の機能及び将来予後を既存資料に即して説明できる必要がある。

他方,初期からの患肢症状を示す記録がなく,三徴候の客観資料もなく,一般神経症状を裏付ける損傷又は一貫した所見もなく,後日の主観的訴えだけがある場合は,高額な鑑定へ進んでも主要な欠落を埋めにくい。追加手段で新たに判明する事実と結論への影響を説明できないときは,費用,期間及び立証可能性を踏まえて停止又は主張範囲の縮小を検討すべきである。

第8 現在の争点

1 医学診断と行政基準の時間差

医学上の診断はBudapest基準とその後の国際的整理へ更新され,徴候が一部寛解した状態やtype I・II分類の限界も検討されている。これに対し,自賠責が参照する行政基準は,平成15年に整備されたRSD,カウザルギー及び慢性期三徴候という枠組みを維持する。この時間差を理解しなければ,「医学的にはCRPSであるが,自賠責の特殊疼痛等級には該当しない」という結論を誤りと受け止めることになる。

同じ陰性所見も目的によって意味が異なる。骨萎縮又は骨シンチ所見がないことは,医学上のCRPSを絶対に否定するものではないが,自賠責でRSDの三徴候を満たすかという判断には重大な影響を持つ。反対に,過去の特徴的所見は診断歴を支えても,症状固定時に残る労務制限を当然に証明しない。

2 診断名中心から機能と連続証拠へ

近時の裁判例は,CRPSという診断名の有無だけでなく,事故と症状の時間的連続性,客観的な機能,測定の再現性,生活・就労実態,他原因及び代替的な神経症状を重視している。これは,医学診断,自賠責の定型認定及び民事損害評価を別の判断として扱う方向である。

実務上の主張も,「CRPSだから何級である」という形では足りない。事故直後から症状固定までの各時点で,どの所見が誰によりどの条件で確認され,その所見がどの機能・職務をどの程度妨げ,他原因より当該事故が優れた説明となるかを,一続きの証拠で示す必要がある。

出典

1 法令・行政基準

2 裁判例

3 日本語文献

  • 住谷昌彦ほか「本邦におけるCRPSの判定指標」日本臨床麻酔学会誌30巻3号420頁~429頁,2010年
  • ②榎木貴之・小杉晴洋『自賠責・紛争処理事例と判例から読み解く後遺障害等級認定の判断―傾向を踏まえた交通事故事件処理―』新日本法規出版,令和8年,印字219頁~225頁(原本PDF実頁239頁~245頁)
  • ③小賀野晶一・古笛恵子編『交通事故医療法入門〔第2版〕』勁草書房,令和5年,260頁~274頁
  • ④小松初男・小林覚・西本邦男編『後遺障害入門〔補訂版〕』青林書院,令和4年,169頁~179頁
  • ⑤日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2013年版講演録』34頁~39頁

4 医学文献