第1 結論―先の刑の服役と別件への未決算入を分ける
懲役刑の受刑中に,その刑の対象となった犯罪と併合罪関係にある別件で逮捕・勾留された場合,先の刑の執行が継続していれば,その間も先の刑の服役日数は進行する。
別件の勾留が始まったというだけで,先の刑の執行が当然に停止するわけではない。
ただし,同じ期間を別件の刑にも未決勾留日数として重ねて算入することはできない。
「受刑期間に算入されるか」という問いには,①既に執行されている刑の刑期に数えることと,②別件の判決で未決勾留日数を本刑に算入することの,二つの問題が含まれているためである。
例えば,刑Aを現に受刑している30日間に別件Bの勾留が競合した場合,Aの執行が続いていれば,その30日はAの刑期として進行する。
その上で,同じ30日をBの刑にも算入して,二つの自由刑を同時に消化することはできない。
Aの執行が終了した後もBで勾留されている期間は,これと区別して検討する必要がある。
第2 刑期の計算と執行停止
1 起算の規定は刑法23条である
刑法23条1項は,刑期を裁判が確定した日から起算すると定め,同条2項は,拘禁されていない日数を刑期に算入しないと定めている。
月又は年による期間を暦に従って計算する規定は刑法22条であり,起算に関する条文とは異なる。
もっとも,裁判が確定していて,他事件によって身柄を拘束されているというだけで,未執行の刑の執行が始まったことになるわけではない。
最高裁昭和54年3月26日決定は,他事件の勾留中に刑が確定していた事案について,実際の刑の執行開始日を起算日とする更正を認めた。
既に受刑中の本記事の場面と,まだ刑の執行が始まっていない場面を区別する必要がある。
2 別件勾留だけでは刑の執行は停止しない
刑事訴訟法482条は,健康又は生命への危険,年齢,妊娠その他の事情について,検察官の指揮による刑の執行停止を定めている。
別件で逮捕・勾留されたことそれ自体によって,刑の執行が当然に停止するとは定めていない。
同条8号には「その他重大な事由」という規定もあるため,具体的な停止指揮の有無は別途確認する必要がある。
また,勾留の執行停止と,確定した刑の執行停止とは別の制度である。
別件の勾留が停止されても,現に執行されている刑による拘禁が当然に解消するわけではない。
執行停止がある場合も,「停止期間は一切刑期に入らない」と一括して説明すべきではない。
例えば,刑事訴訟法480条による停止後,同法481条1項の引渡し処分まで刑事施設に留置された期間は,同条2項によって刑期に算入される。
個別の根拠規定,指揮内容及び実際の拘禁状態を確認する必要がある。
第3 最高裁昭和32年12月25日大法廷判決
1 刑の執行と競合する勾留の二重算入を否定した
最高裁昭和32年12月25日大法廷判決・昭和29年(あ)第389号・刑集11巻14号3377頁は,別の懲役刑の執行と未決勾留が競合していた事案を扱った。
多数意見は,その期間には観念上の勾留が存在しても,現実の自由の拘束は刑の執行によるものであり,勾留によって別に自由を拘束されているわけではないとした。
このため,刑の執行と競合する期間を更に別件の本刑へ算入する必要はなく,その算入は,一つの拘禁によって二つの自由刑を執行したのと同じ結果を招くとして,刑法21条による算入を認めなかった。
先の刑の服役として数えられることと,別件の刑への未決算入が許されないことは,両立する結論である。
同判決では,別件の勾留が先に始まり,その途中で他の懲役刑の執行が始まっていた。
本記事のように受刑中に別件勾留が始まる場合にも,両者が競合する期間の二重算入を避けるという判断が問題となる。
2 違法な算入の是正方法は上訴関係等によって異なる
同判決は,第一審の算入日数に刑の執行と重なる日数が含まれていることを違法としつつ,被告人だけの控訴について不利益変更禁止を踏まえ,第一審で言い渡された算入を維持した。
したがって,二重算入が違法であるという一般論から,既に言い渡された算入日数を執行段階で常に機械的に削除できるとはいえない。
既に判決で算入が言い渡されている事件では,判決の確定の有無,上訴の主体・範囲及び不服申立ての方法を確認する必要がある。
検察官の執行処分に対する刑事訴訟法502条の異議と,判決自体の算入の当否も区別すべきである。
第4 後続の最高裁判例も二重算入を否定している
最高裁昭和61年10月21日判決・昭和61年(あ)第369号は,別の懲役刑の執行と重なる日数を含めて未決勾留60日を算入した原判決を破棄し,競合する日数を除いた35日を算入した。
検察官の上告に基づく事案である。
最高裁平成23年7月21日判決・平成23年(あ)第357号は,当審の未決勾留期間の全部が別の懲役刑の執行と重なっていたため,100日の算入部分を破棄した。
勾留と刑の執行が同時に存在することと,その期間を別の刑へ算入できることとは,同じではない。
第5 併合罪関係がある場合の注意点
1 別々の裁判による刑を同時に消化する制度ではない
刑法45条後段の併合罪では,ある罪について拘禁刑以上の刑に処する裁判が確定した場合,その罪と,その裁判が確定する前に犯した他の罪が併合罪となる。
確認すべきなのは別件の犯行日と先の裁判の確定日であり,別件の逮捕・勾留がいつ始まったかだけで決まるものではない。
この場合,未裁判の罪は刑法50条によって更に処断され,二個以上の裁判があるときは,同法51条の制限の下で刑を併せて執行する。
同条1項ただし書の上限は,最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものであり,単に「最も重い宣告刑の1.5倍」という意味ではない。
併合罪関係があることだけで,先の刑の受刑日数を後の刑にも重ねて算入することはできない。
2 先の刑が終わった後の勾留は別に扱う
東京高裁平成14年3月15日判決・平成13年(う)第2049号は,前の懲役刑との後段併合罪関係にある事件について,前刑の受刑終了日の翌日から第一審判決の前日までの未決勾留158日を対象とし,そのうち120日を算入した第一審の判断を不当でないとした。
前刑の執行中の期間と,前刑の終了後の勾留期間を分けて扱った具体例である。
前刑の終了後の勾留日数は,刑法21条による裁定算入又は刑事訴訟法495条による法定通算の対象となり得る。
ただし,判決前の勾留日数が常に全部算入されるわけではなく,上訴申立人,原判決が破棄されたかどうか,各審の判決主文等を確認する必要がある。
逮捕中の日数も,未決勾留日数と同一に扱って当然に算入すべきものではない。
3 一個の主文による併合処断とは区別する
最高裁平成18年8月30日決定・平成17年(あ)第2535号は,併合審理して一個の主文で懲役刑と罰金刑を併科した場合に,勾留の基礎となっていない事実に由来する罰金刑への未決勾留日数算入を認めた。
これは,一個の裁判での刑への算入の問題であり,別々の裁判による自由刑の執行と勾留が重なる本記事の場面とは異なる。
第6 個別事件で確認する資料
刑Aについては,判決主文,確定日,実際の執行開始日,刑期起算日・満了日,既に算入された未決勾留日数並びに停止・再開の指揮を確認する。
別件Bについては,犯行日,逮捕日,勾留の始期・終期,各審の判決日と算入主文,上訴の主体及び判決結果を整理する。
その上で,同じ暦の日がどの刑の執行又は通算に対応するかを照合する。
法務省の執行事務規程は,自由刑の執行順序,執行指揮書及び刑の執行停止の指揮等を定めている。
施設を移されたことや,刑務作業をしていないことだけから,先の刑の執行が停止したとは判断できない。
執行指揮書等の記録により,刑の執行と別件の勾留が実際にどう扱われているかを確認する必要がある。
『逐条実務刑事訴訟法』の裁判執行及び未決勾留日数通算の解説も,判決,執行指揮及び通算の根拠を分けて検討する際の参考となる。
個別の満了日や別件への算入日数は,上記の記録を得てから計算すべきである。
第7 旧懲役刑と拘禁刑への改正
拘禁刑が導入された後も,既に懲役刑を受刑している事件について,単に刑の名称を拘禁刑へ置き換えればよいわけではない。
令和4年法律第68号442条は,施行前の確定裁判の効力及び執行について,別段の定めがある場合を除き,従前の例によると定めている。
旧懲役刑を扱う場合は,犯行日,判決・確定の時期及び経過措置を確認する必要がある。
本記事の二重算入を否定した裁判例は,旧懲役刑を対象としたものである。
現行法の説明と,旧懲役刑に適用される経過措置を分けた上で,刑の執行と別件の勾留が重なる日数を検討することになる。
第8 関連記事
① 刑事事件の裁判の執行―拘禁刑・財産刑・労役場留置・執行異議
② 刑事控訴審の未決勾留日数の算入―控訴棄却・原判決破棄の場合
第9 出典
① e-Gov法令検索「刑法」21条ないし24条,45条,50条及び51条。同「刑事訴訟法」480条ないし482条,495条及び502条。令和8年10月5日時点の施行条文を確認した。
② 最高裁昭和32年12月25日大法廷判決・昭和29年(あ)第389号・刑集11巻14号3377頁,最高裁昭和61年10月21日第三小法廷判決・昭和61年(あ)第369号・集刑244号109頁,最高裁平成23年7月21日第一小法廷判決・平成23年(あ)第357号・集刑304号133頁。本文中の裁判所公開判決全文を参照した。
③ 東京高裁平成14年3月15日判決・平成13年(う)第2049号,最高裁昭和54年3月26日第三小法廷決定・昭和54年(し)第25号・刑集33巻2号121頁,最高裁平成18年8月30日第二小法廷決定・平成17年(あ)第2535号・刑集60巻6号457頁。本文中の裁判所公開裁判全文を参照した。
④ 刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第68号),執行事務規程(令和8年5月21日施行)。
⑤ 伊丹俊彦・合田悦三編集代表『逐条実務刑事訴訟法』(立花書房)。提供原本の1255頁,1257頁,1265頁,1278頁ないし1281頁及び1294頁ないし1295頁の該当箇所を参照した。