目次
第1 結論と本記事の対象1 結論2 調査基準日と資料の性質第2 安全性は責任分界で比較する1 Shopifyが引き受ける基盤側の範囲2 Shopifyでも残る利用者側の責任3 WordPressは構成による差が大きい4 ログインURL変更だけでは足りない第3 速度と安定性はサイトごとに測る1 Shopifyの標準機能2 WordPressの速度を左右する要素3 Core Web Vitalsで実測する第4 法律事務所サイトとしての選定基準1 電子商取引が必要かを先に決める2 問い合わせフォームを事件記録の入口にしない3 外注先と管理権限を契約で固定する第5 移行する場合とWordPressを維持する場合1 Shopifyへの移行が候補になる場合2 WordPressの維持が合理的な場合第6 事故に備える共通の最低線1 予防と検知2 バックアップと復旧3 改ざん又は漏えいが疑われる場合第7 営業資料を読むときの注意点第8 関連記事第9 出典1 公的機関及び日弁連の資料2 WordPressの公式資料3 Shopifyの公式資料4 性能測定の資料
第1 結論と本記事の対象
1 結論
Shopifyは,基盤のホスティング,CDN及び画像最適化等をサービス側が提供するため,自前で構築したWordPressと比べて,利用者がサーバーやWordPress本体の保守を直接行う範囲を小さくできる。
しかし,このことから,すべてのShopifyサイトがすべてのWordPressサイトより安全であり,表示速度も常に安定すると結論付けることはできない。
Shopifyでも,アカウント,二段階認証,スタッフ権限,第三者アプリ,テーマ,外部コード,ドメイン及び個人データの取扱いは利用者側の管理に残る。
WordPressでも,管理されたホスティング,更新,二要素認証,最小権限,WAF,バックアップ及び監視を適切に組み合わせれば,リスクを相当に下げることができる。
したがって,法律事務所が選ぶべきなのは,製品名だけでなく,①サイトの用途,②誰が更新と障害対応を担うか,③取得する情報の種類,④停止時の復旧目標,⑤実測した表示性能,⑥契約終了時のデータ移行方法を比較した結果である。
2 調査基準日と資料の性質
本記事は,令和8年10月21日現在のWordPress,Shopify,Google,個人情報保護委員会,情報処理推進機構及び日本弁護士連合会の公表資料を基礎とする。
WordPress及びShopifyの資料は,各サービス提供者が自らの仕様又は推奨事項を説明した資料であり,両製品を同一条件で独立に比較した試験結果ではない。
また,本記事は一般的な法律事務所サイトを対象とし,個別のホスティング契約,導入アプリ,テーマ,アクセス数又は障害履歴を実測した結果ではない。
第2 安全性は責任分界で比較する
1 Shopifyが引き受ける基盤側の範囲
Shopifyは,オンラインストアをグローバルなサーバーでホストし,CDN及び画像CDNを提供すると説明している。
Shopifyの日本語セキュリティページは,PCI DSSレベル1への準拠並びにSOC 2 Type II及びSOC 3レポートの発行を掲げている。
これらは,決済及びサービス組織としての管理策を確認する重要な資料であり,自前でサーバー,OS,PHP,データベース及びWordPress本体を保守する場合よりも,利用者が直接管理する基盤層を減らせることを示す。
もっとも,PCI又はSOCの存在は,法律事務所が作成するページ,設定する権限又は導入する第三者アプリまで自動的に安全になることを意味しない。
Shopifyの利用規約も,アカウントとパスワードの安全保持,ストアの運営及び法令遵守を利用者の責任としている。
2 Shopifyでも残る利用者側の責任
Shopifyの管理画面では,ログイン履歴の確認,二段階認証の強制及びコラボレーターの管理を行うことができる。
利用できる機能があることと,実際に適切な設定がされ,退職者又は制作会社の権限が速やかに停止されることは別である。
また,Shopifyの第三者アプリは,顧客情報,ストア所有者情報,注文,分析又はオンラインストアを閲覧・編集する権限を求める場合がある。
導入前に必要権限及びプライバシーポリシーを確認し,導入後も実際の利用履歴,未使用権限及び個人データへのアクセスを定期的に見直す必要がある。
「Shopifyを使っている」という一事だけで,アプリ供給者,制作会社及び外部タグに関する委託先管理が不要になるわけではない。
3 WordPressは構成による差が大きい
WordPressの公式文書は,WordPress本体,テーマ及びプラグインを最新に保つこと,強固なパスワードと二段階認証を用いること並びにログを確認することを勧めている。
古いプラグインその他のソフトウェアを狙う攻撃と,総当たりによるログイン試行は,代表的な攻撃類型として挙げられている。
WordPressは,安価な共有ホスティング,自ら管理するサーバー及び管理型WordPressサービスで責任分界が異なる。
管理型サービスを用いる場合には,サービス提供者が担う更新,WAF,監視,バックアップ及び復旧支援の範囲を契約で確認する必要がある。
反対に,自ら管理する範囲が広ければ,柔軟性と引換えに,更新失敗,互換性,監視及び復旧の責任も広くなる。
4 ログインURL変更だけでは足りない
予測されにくい管理者名又はログインURLは,自動攻撃のノイズを減らす補助策にはなり得る。
しかし,WordPressの公式文書も,情報を隠すことだけを主要な防御とする方法は適切でないとしている。
優先すべきなのは,①一意で長いパスワードとパスワード管理,②管理者全員の二要素認証,③本体・テーマ・プラグインの更新,④不要なアカウント・テーマ・プラグインの削除,⑤最小権限,⑥WAF又はレート制限,⑦操作・認証ログの監視,⑧復元試験を伴うバックアップである。
セキュリティプラグインを短時間でインストールできても,互換性確認,バックアップ,検証環境,ロールバック手順及び導入後監視まで終わったことにはならない。
第3 速度と安定性はサイトごとに測る
1 Shopifyの標準機能
Shopifyは,ホスティング,CDN及び画像最適化を標準機能として提供している。
この点は,CDN又は画像最適化を別途設計しなければならないWordPress構成と比べて,初期設定及び保守の負担を減らす方向に働く。
他方,Shopify自身も,テーマ,導入アプリ及び手動で追加した第三者コードが表示性能に大きく影響すると説明している。
多数のアプリ,重い動画,過大な画像,アニメーション又はタグ管理の過剰は,Shopifyでも速度及び表示の安定性を下げる。
2 WordPressの速度を左右する要素
WordPressの公式文書は,ホスティング環境,WordPressの設定,ソフトウェアの版,画像の数と容量,テーマ及びプラグインを性能要因として挙げている。
キャッシュ,CDN,画像圧縮,十分なサーバー資源及び軽量なテーマを適切に使えば高速化できる一方,不適切なプラグイン又は低いサーバー資源は性能を下げる。
したがって,「WordPressだから遅い」という表現も,「Shopifyだから安定して速い」という表現も,構成と測定条件を示さなければ比較資料として不十分である。
3 Core Web Vitalsで実測する
GoogleのPageSpeed Insightsは,実利用者データと試験環境のデータを区別して表示する。
実利用者データは実際の利用環境を捉える一方,十分なサンプルがないページでは表示されないことがあり,試験環境のデータは原因調査に有用であっても現実の全利用者をそのまま表すものではない。
比較する場合は,同じ種類のページ,同じ端末区分及び同じ期間について,LCP,INP及びCLSを確認する。
Googleは,良好の目安をLCP2500ミリ秒以下,INP200ミリ秒以下,CLS0.1以下とし,原則として各指標の75パーセンタイルで評価している。
単発のトップページ測定だけで,サイト全体又は将来の安定性を断定すべきではない。