弁護士法人


目次
1 総論
2 弁護士法人に関する法規等
3 弁護士法人の社員の権利義務
4 弁護士法人の社員の退社事由
5 弁護士法人の社員の脱退に伴う課税関係
6 弁護士法人の社員及び使用人である弁護士の競業避止義務等
7 弁護士法人の社員の住所等
8 弁護士法人の会計帳簿,貸借対照表,財産目録等
9 弁護士法人における社員の常駐の意義
10 弁護士法人アディーレ法律事務所の修習期の分布等
11 関連記事その他
   
1 総論
(1)   
東弁リブラ2010年1月号「弁護士法人の実像」が載っています。
(2) 弁護士法人については合名会社に関する規定が多数,準用されています(弁護士法30条の30)から,「合名会社,合同会社,合資会社。持分会社がわかる!」HPが参考になります。
(3) 弁護士法人の定款は,定款に別段の定めがない場合,総社員の同意がないと改正できません(弁護士法30条の11第1項)。


2 弁護士法人に関する法規等
(1)   弁護士法等
① 弁護士法30条の2ないし30条の30
② 組合等登記令
③ 日弁連会則32条の2等

(2) 会規
③   弁護士法人規程(平成13年10月31日会規第37号)
(3) 規則
④   弁護士法人規程に関する常駐等の確認事項(平成13年12月20日日弁連理事会議決)
⑤   弁護士法人規程に関する表示等の確認事項(平成13年12月20日日弁連理事会決議)
⑥   弁護士法人規程に基づく確認事項(平成13年11月20日日弁連理事会議決)
⑦   弁護士法人の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会の採るべき措置に関する基準(平成13年12月20日日弁連理事会議決)
⑧   弁護士法人の社員となるべき資格証明書等規則(平成13年11月20日規則第77号)
⑨   弁護士法人の届出に関する規則(平成13年11月20日規則第78号)


   
3 
弁護士法人の社員の権利義務
(1) 弁護士法人の社員は,定款で別段の定めがない限り,すべて業務を執行する権利を有し,義務を負います(弁護士法30条の12)。
(2) 弁護士法人の業務を執行する社員は,各自弁護士法人を代表します(弁護士法30条の13第1項)。
(3)   定款又は総社員の同意によって,業務を執行する社員の中から弁護士法人を代表すべき社員(つまり,代表社員)を定めることができます(弁護士法30条の13第2項)。
(4)   弁護士法人を代表する社員(弁護士法人の業務を執行する社員又は代表社員)は,弁護士法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します(弁護士法30条の13第3項)。
(5)   弁護士法人の社員は,弁護士法人の債務について無限連帯責任を負いますし(弁護士法30条の15第1項),退社の登記をしてから2年が経過するまでの間,弁護士法人の債務に対する無限連帯責任が消滅することはありません(弁護士法30条の15第7項・会社法612条)。
(6)ア 弁護士法人は,弁護士法人を代表する社員がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(弁護士法30条の30第1項前段・会社法600条)。
    この場合,弁護士法人の損害賠償責任と弁護士法人を代表する社員の損害賠償責任は,不真正連帯債務になると思います(会社法350条に関する東京地裁平成29年1月19日判決(判例秘書)参照)。
イ 不真正連帯債務の場合,責任割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときに求償権が発生します(最高裁平成10年9月10日判決)。
(7) 弁護士法人が特定の事件について業務を担当する社員を指定した場合,当該社員を指定社員といいます(弁護士法30条の14第1項)ところ,指定事件については指定社員だけが業務を執行する権利を有し,義務を負います(弁護士法30条の14第2項)し,弁護士法人を代表します(弁護士法30条の14第3項)。


4 弁護士法人の社員の退社事由
(1)   弁護士法人の社員は以下の場合に弁護士法人を退社できます。
① 事業年度の終了6ヶ月前までに退社の予告をした上で事業年度終了時に退社する(弁護士法30条の30第1項前段・会社法606条1項)。
   ただし,定款で別段の定めをすることはできます(弁護士法30条の30第1項前段・会社法606条2項)。
② やむを得ない事由がある場合に退社する(弁護士法30条の30第1項前段・会社法606条3項)。
③ 定款の定めがある場合(例えば,定年の到来)に退社する(弁護士法30条の22第1号)。
④ 総社員の同意がある場合に退社する(弁護士法30条の22第2号)。
⑤ 死亡(弁護士法30条の22第3号)
⑥ 禁錮以上の刑に処せられた場合(弁護士法30条の22第4号・7条1号)
→ 執行猶予が付いた場合を含みます(税理士の場合につき税理士法基本通達4-1及び4-4参照)。
⑦ 除名された場合(弁護士法30条の22第4号・7条3号)
⑧ 成年被後見人又は被保佐人となった場合(弁護士法30条の22第4号・7条4号)
⑨ 破産した場合(弁護士法30条の22第4号・7条5号)
⑩ 業務停止又は退会命令の懲戒を受けた場合(弁護士法30条の4第2項1号参照)
→ 弁護士法人の社員となる資格証明書等規則(平成13年11月20日規則第77号)3条1項並びに別記様式第3号及び別記様式第4号では,「法定脱退事由たる懲戒処分」と書いてあります。
(2) 弁護士法人アディーレ法律事務所の石丸幸人弁護士は,業務停止3月の懲戒処分を告知された平成29年10月11日,同法人を法定退社しましたところ,同日時点で同弁護士が保有していた同弁護士法人の持分は約95%でした(自由と正義2018年1月号95頁)。


5 弁護士法人の社員の脱退に伴う課税関係
(1) 総論
   弁護士法人を脱退した社員は,持分の払戻しを受けることができ(弁護士法30条の30第1項前段・会社法611条1項本文),退社した社員と弁護士法人との間の計算は,退社の時における弁護士法人の財産の状況に従ってしなければなりません(弁護士法30条の30第1項前段・会社法611条2項)。
(2) 持分の払戻請求権を行使した場合
ア 弁護士法人を退社した社員が持分の払戻請求権を行使した場合,その価額は,評価すべき弁護士法人の課税時期における各資産を財産評価基本通達の定めにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額を控除した金額に,持分を乗じて計算した金額となると思います(国税庁の質疑応答事例「持分会社の退社時の出資の評価」参照)。
イ 脱退に伴う出資持分の払戻しの場合,利益剰余金に対するものはみなし配当として配当所得になり,資本剰余金に対するものだけが株式譲渡益として譲渡所得になると思います。
ウ みなし配当となる分については,弁護士法人は20.42%の源泉徴収(総合課税)をする必要があると思います。
エ 所得税基本通達36-4(3)ト(昔のハ)からすれば,みなし配当につき支払の確定した日は社員弁護士が弁護士法人を脱退した日となり,支払の確定した日から1年を経過した日がみなし支払日となります(所得税法212条4項・181条2項)から,みなし支払日の属する月の翌日10日が源泉徴収による所得税(自動確定の国税です。)の納期限となります。
   また,所得税基本通達を見る限り,業務停止に伴う法定退社の効力を争っていることは「支払の確定した日」を否定する理由にならないと思います。
オ 国税不服審判所の平成18年11月27日裁決別紙1「関係法令等の要旨」が参考になります。
   また,この事案では,平成13年3月,平成15年7月及び平成15年12月のみなし配当について,平成17年12月26日付で,配当所得に係る源泉所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分が出ました。
カ 平成30年1月1日以降,弁護士法人が国税を滞納した場合において,その財産につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合,弁護士法人の社員は第二次納税義務を連帯責任として負います(国税徴収法33条)。
キ 最高裁平成23年11月22日判決によれば,第二次納税義務(財団債権)を履行した社員は,他の社員に対し,内部負担の割合に応じて,財団債権としての権利行使ができると思います(定款に別段の定めがない限り,内部負担の割合は,各社員の出資の価額の割合と同じです(弁護士法30条の30第1項前段・会社法622条1項)。)。
   ただし,社員の退社に伴って発生する源泉徴収による所得税は,当該社員の退社の登記をした後に発生するため,当該社員は第二次納税義務を負わないと思います(弁護士法30条の15第7項本文・会社法612条1項参照)。
(3) 持分の払戻請求権を放棄した場合
ア   弁護士法人を退社した社員が持分の払戻請求権を放棄した場合,残存出資者へのみなし贈与が成立する結果,残存出資者が贈与税を負担すると思います(医療法人の事例につき,厚生労働省HPの「第2章 持分によるリスクについて」参照)。
イ   相続税基本通達9-12(共有持分の放棄)には「共有に属する財産の共有者の1人が、その持分を放棄(相続の放棄を除く。)したとき、又は死亡した場合においてその者の相続人がないときは、その者に係る持分は、他の共有者がその持分に応じ贈与又は遺贈により取得したものとして取り扱うものとする。」と書いてあります。


6 弁護士法人の社員及び使用人である弁護士の競業避止義務等
(1) 弁護士法人の社員の場合
ア   弁護士法人の社員は,他の社員の承諾がない限り,個人事件を取り扱うことはできません(弁護士法30条の19第2項)。
   「他の社員の承諾」とは,他の社員全員の承諾を意味しますものの,本条項は弁護士法人の利益保護等を目的とする規定であることにかんがみ,定款で別段の定めをすることにより,この要件を緩和できると解されています(「条解弁護士法」第4版277頁参照)。
イ ちなみに,監査法人の社員の場合,他の社員の承諾がある場合であっても,財務書類の監査又は証明(公認会計士法2条1項)を個人として行うことはできません(公認会計士法34条の14第2項本文)
(2) 使用人である弁護士の場合
   弁護士法人の使用人である弁護士の場合,複数の法人の使用人となることは複数の法律事務所に所属すること(弁護士法20条3項)を意味しますから,その意味で禁止されます。
   しかし,弁護士法上は,他の社員の承諾がない限り個人事件を取り扱うことはできないというわけではありません。
   ただし,弁護士法人と使用人である弁護士との契約により,使用人である弁護士に競業避止義務を負わせることは可能です。


7 弁護士法人の社員の住所等
(1)   弁護士法人の社員の住所は,弁護士法人の登記簿に載っています(弁護士法30条の7第1項のほか,代表社員につき組合等登記令2条2項4号,その他の社員につき別表第一)。
(2) 弁護士法人の社員の住所は,弁護士法人の定款の絶対的記載事項です(弁護士法30条の8第3項5号)。
(3) ちなみに,民事訴訟の場合,以下の事務連絡に基づき,原告の現実の住所を訴状の当事者欄に記載しなくても良いことがあります。
① 訴状等における当事者の住所の記載の取扱いについて(平成17年11月8日付の最高裁判所民事局第二課長等の事務連絡)
② 人事訴訟事件及び民事訴訟事件において秘匿の希望がされた住所等の取扱いについて(平成25年12月4日付の最高裁判所家庭局第二課長等の事務連絡)


8 弁護士法人の会計帳簿,貸借対照表,財産目録等
(1)   弁護士法人の会計帳簿等は,弁護士法人及び外国法事務弁護士法人の業務及び会計帳簿等に関する規則(平成13年8月17日法務省令第62号)に基づいて作成されています。
(2) 有限責任監査法人の場合,業務及び財産状況説明書がHPで公表されています(公認会計士法34条の16の3)ものの,弁護士法人の場合,貸借対照表等は公表されていません。
① あずさ有限責任監査法人HP「ステークホルダーの皆様へ」
② 新日本有限責任監査法人HP「業務及び財産の状況に関する説明書類」
③ 有限責任監査法人トーマツHP「ステークホルダーの皆様へ」
④ あらた有限責任監査法人HP「業務及び財産の状況に関する説明書類」


9 弁護士法人における社員の常駐の意義
   弁護士法人規程に関する常駐等の確認事項(平成13年12月20日理事会決議)は,弁護士法30条の17の「常駐」の解釈指針として以下のとおり定めています。

1 社員は、当該事務所を、弁護士名簿上の事務所として登録していなければならない。
2 社員は、当該事務所を、弁護士及び弁護士法人の業務活動の本拠としていなければならない。そのためには、少なくとも以下の基準を満たしていることが必要である。
一 社員は、弁護士法人の各事務所における所在時間を比較して、当該事務所を中心として執務しているものと認められなければならない。
二 当該事務所において、その業務が、当該社員によって遂行されていると認められる体制がとられていなければならない。
三 社員は、当該事務所の業務の遂行状況及び使用人である弁護士及び職員などの勤務状況を基本的に把握していなければならない。
四 社員は、当該事務所を維持するに要する費用の管理状況を基本的に把握していなければならない。

五 社員との連絡が、当該事務所において、容易に取れなければならない。


10 弁護士法人アディーレ法律事務所の修習期の分布等
(1) 平成29年10月11日現在,アディーレの弁護士数は185人であり,そのうちの92人が社員でありますところ,修習期の分布は以下のとおりです。
55期:社員 1人
56期:社員 1人
59期:使用人1人
60期:社員 1人,使用人 2人
61期:社員 1人,使用人 4人
62期:社員 3人,使用人 3人
63期:社員11人,使用人 4人
64期:社員 9人,使用人 7人
65期:社員11人,使用人 9人
66期:社員11人,使用人 3人
67期:社員16人,使用人14人
68期:社員14人,使用人21人
69期:社員13人,使用人25人
(2) 平成29年10月11日時点における,アディーレの池袋本店及び85の支店における修習期の分布及び社員の配置状況については,「平成29年10月当時の,弁護士法人アディーレ法律事務所の状況」を参照してください。
   弁護士法人の支店には弁護士法人の社員が常駐する必要があります(弁護士法30条の17本文)から,支店の数以上に社員がいることとなります。


11 関連記事その他
(1) 弁護士が個人として領収書を発行する場合,収入印紙を貼付する必要はありませんが,弁護士法人が領収書を発行する場合,収入印紙を貼付する必要があります(みずほ中央法律事務所HP「【領収証に貼付する収入印紙|印紙額・非課税|弁護士・司法書士など】」参照)。
(2) MONEYISMに「正しい経営判断のために!表面税率と法定実効税率の違いを知っておこう」が載っています。
(3) 利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当は,その全体が法人税法24条1項3号に規定する資本の払戻しに該当します(最高裁令和3年3月11日判決)。
(4)  無限責任社員が合資会社を退社した場合において,退社の時における当該会社の財産の状況に従って当該社員と当該会社との間の計算がされた結果,当該社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超えるときには,定款に別段の定めがあるなどの特段の事情のない限り,当該社員は,当該会社に対してその超過額を支払わなければなりません(最高裁令和元年12月24日判決)。
(5)  法人における民法192条の善意・無過失は,その法人の代表者について決せられるものの,代理人が取引行為をしたときは,その代理人について決せられます(最高裁昭和47年11月21日判決)。
(6) 司法制度改革審議会第28回(平成12年8月29日開催)配布資料一覧に含まれる「弁護士の在り方」説明資料には以下の記載がありました。
 一部では,弁護士事務所の事務部門のみを会社とする試みなども行われているが(いわゆる「事務局法人」),事務局法人は,法律事務の受任主体となり得ないことなどから,安定した多様な法律サービスを提供するインフラとはなり得ず,余り活発に利用されていない。
(7) 「法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について」(昭和24年7月28日付の厚生省保険局長通知)は以下のとおりです。
 法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であつて、他面その法人の業務の一部を担任している者は、その限度において使用関係にある者として、健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取扱つて来たのであるが、今後これら法人の代表者又は業務執行者であつても、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。
 なお、法人に非ざる社団又は組合の総裁、会長及び組合及び組合長等その団体の理事者の地位にある者、又は地方公共団体の業務執行者についても同様な取扱と致されたい。
(8) 以下の記事も参照して下さい。
・ 弁護士法人の懲戒
・ 弁護士法人アディーレ法律事務所に対する懲戒処分等


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