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消費者・個人情報

LPガスの解約時に設備費用を請求できるか―最高裁令和7年12月23日判決と消費者契約法9条(AI作成)

目次

第1 結論と判決の位置付け1 最高裁の結論2 現在の消費者契約法との関係第2 最高裁判決の事案1 LPガス供給契約と設備費用条項2 設備費用とガス料金との関係第3 最高裁の判断1 解除に伴う違約金等条項に当たること2 平均的な損害が零円とされた理由3 判決の射程4 三部料金制との関係第4 同日の配管付合判決との違い第5 消費者が確認する事項第6 事業者が契約書と料金体系を確認する事項第7 消費者契約法見直しとの関係第8 関連記事第9 出典
第1 結論と判決の位置付け
1 最高裁の結論

最高裁令和7年12月23日第三小法廷判決(令和6年(受)第204号・民集79巻8号2869頁)は,戸建て住宅のLPガス供給契約を供給開始から10年未満で終了する場合に,配管等の設置費用に関する所定額を消費者が支払う旨の条項について,消費者契約法9条1項1号の対象となる違約金等条項に当たり,その全部が無効であると判断した。

ただし,同判決は,設備費用とガス料金との関係が明確でなかったこと等を前提とする事例判断である。
LPガス契約を解約すれば,どのような設備費用も常に請求できないという意味ではない。
条項の文言,設備の所有関係,設備費用とガス料金との関係,契約時の説明及び請求額の算定方法を確認する必要がある。

2 現在の消費者契約法との関係

判決が適用したのは改正前の消費者契約法9条1号であるが,現在は同条1項1号に相当する。
同号は,消費者契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の合計額が,同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える場合に,その超過部分を無効とする。

第2 最高裁判決の事案
1 LPガス供給契約と設備費用条項

事案では,LPガス事業者が戸建て住宅へ配管等を設置し,消費者とLPガス供給契約を締結した。
契約書には,供給開始から一定期間内に契約が終了した場合,経過年数に応じて設備費用に関する所定額を消費者が支払う旨の条項があった。

契約終了後,事業者がこの条項に基づく支払を求めたため,条項が消費者契約法9条1項1号により無効となるかが争われた。

2 設備費用とガス料金との関係

最高裁が重視したのは,条項の名称だけではなく,契約の実質である。
事案では,設備費用がガス料金によってどのように回収されるのか,毎月のガス料金のうちどの部分が設備費用に対応するのか,契約終了時の所定額が未回収分とどのように対応するのかが明確ではなかった。

第3 最高裁の判断
1 解除に伴う違約金等条項に当たること

最高裁は,契約終了時に支払を求める設備費用条項を,単に既に発生していた独立の設備代金を精算する条項とは扱わなかった。
契約が一定期間内に終了したことによって支払義務が生じる仕組みに着目し,消費者契約法9条1項1号の「解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に当たるとした。

したがって,契約書で「設備費用」「貸付配管費用」等の名称を用いていても,解除又は契約終了を条件として支払義務が生じるのであれば,実質に応じて同号の適用を検討する必要がある。

2 平均的な損害が零円とされた理由

最高裁は,本件と同種の契約ではLPガスの価格に法令上の規制がなく,事業者がガス料金を自由に設定でき,設備費用の未回収リスクを見越して契約者全体の料金を設定できること,設備費用とガス料金との関係が明確でないこと等を考慮した。
その上で,同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害に当たり得るものは見当たらないとした。

この事案では平均的な損害が零円であるため,所定額のうち平均的な損害を超える一部だけでなく,条項に基づく請求額の全部が無効となった。

3 判決の射程

判決は,設備費用とガス料金との関係が不明確であった契約を前提としている。
設備代金がガス供給契約とは別の売買又は工事契約として明確に合意され,金額,支払方法,所有権及び中途精算方法が具体的に定められている場合まで,同じ結論になるとは限らない。

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証券口座を乗っ取られたら―補償の確認,証拠保存と相談の進め方(AI作成)

目次

第1 最初に証券会社へ連絡し,口座の状態を確認する第2 ログイン履歴,取引記録と連絡の経過を残す第3 補償は申し合わせと各社の条件を分けて読む第4 不正な売買の総額を損失額と取り違えない第5 警察と相談窓口へ持参する情報を整理する第6 認証情報を見直し,補償を装う連絡にも注意する第7 関連する個別事案
第1 最初に証券会社へ連絡し,口座の状態を確認する

証券口座で身に覚えのない売買や出金を見つけたら,まず証券会社の公式窓口へ連絡し,被害拡大を防ぐ手続と,記録の保存を進める必要がある。
補償については,業界の申し合わせ,各社の個別の方針,自分の取引についての回答を分けて確認することが大切である。
本記事は令和8年10月30日を基準に,金融庁,日本証券業協会,警察庁等の公表に沿って対応を整理する。

不審なメールやSMSのリンクからではなく,あらかじめ登録した公式サイトや公式アプリなど,正規の経路で証券会社の連絡先を確認する。
金融庁の注意喚起も,メール等のリンクを使わず,公式サイトをブックマークして利用することを求めている。

連絡時には,身に覚えのない取引を発見した日時,口座,取引の内容,現在ログインできるかを伝えると整理しやすい。
取引や出金の停止,口座の保護,認証情報の変更について,利用できる手続とその影響を確認することを勧める。
ログインできない場合も,自力での復旧に時間を費やさず,証券会社へ連絡する。

口座から外部への出金がなくても,被害がないとは限らない。
金融庁は,保有株式等を勝手に売却し,その代金で国内外の小型株等を買い付ける手口を説明している。
出金履歴だけでなく,売買履歴,注文,保有銘柄の変化も確認する必要がある。

第2 ログイン履歴,取引記録と連絡の経過を残す

警察庁の不正アクセス対策は,確認できるログイン履歴の保存・印字と,サービス提供会社とのメール等の保存を案内している。
証券会社への連絡を遅らせず,手元で確認できる範囲の記録を並行して残しておく。

相談用の整理方法として,①不審なログインや通知,②身に覚えのない注文・約定・出金,③その前後の残高・保有銘柄,④証券会社との連絡,⑤被害前の認証設定や心当たりのあるメール,を時系列にまとめることを勧める。
これは相談を円滑にするための整理例であり,この資料が全てそろわなければ連絡や相談ができないという条件ではない。

画面を保存する際は,日時,対象口座,取引内容が分かる状態で残し,取引報告書等の原本データも保管するとよい。
電話については,連絡日時,担当部署,受付番号,伝えた内容と回答をメモしておくと,後の説明に役立つ。
推測した侵入原因と,自分が実際に確認した出来事は,分けて記載する。

第3 補償は申し合わせと各社の条件を分けて読む

日本証券業協会が令和7年5月2日に公表した10社の申し合わせは,同年1月以降の今般のフィッシング詐欺等による不正アクセス等について,約款等の定めにかかわらず,一定の被害補償を行う方針を示した。
一方,顧客のID・パスワード等の管理状況と,証券会社の注意喚起等を含む対策などを勘案し,個別の事情に応じて対応するとしている。
全ての証券会社が,あらゆる時期・原因の被害を無条件に全額補償するという内容ではない。

自分の利用する会社について,対象となる期間・取引・被害,申出の期限と方法,提出資料,損失の計算,補償の条件を,最新の公式案内で確認する。
回答が分かりにくい場合は,自分の取引のどの部分が対象又は対象外とされたのか,理由と計算の内訳を説明してもらうと,検討すべき点が具体的になる。

企業が任意に示す補償方針の紹介と,個別事件の法律上の請求が認められるかという判断は,分けて検討する必要がある。
本記事の一般的な手順だけから,証券会社の法的責任や,自分の請求額が確定するわけではない。
回答に納得できない場合は,契約・取引記録と会社の回答をそろえ,個別の相談へ進むことが考えられる。

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GMOサイバー攻撃は何罪か―恐喝未遂・不正アクセス・FX不正取引を分ける(AI作成)

目次

第1 公表事実,攻撃者の主張及び法律上の評価を分ける1 会社が認めたことと,まだ推定できないこと2 成立し得る罪の見取り図第2 金銭を払っていなくても恐喝未遂罪が問題になる1 情報公開を材料とする金銭要求2 脅迫罪・強要罪との関係第3 不正アクセスと認証情報の取得は別々に検討する1 不正アクセス禁止法の要件2 盗んだパスワードをまだ使っていない場合第4 マルウェアと業務妨害は,検出だけで決めない1 不正指令電磁的記録に関する罪2 電子計算機損壊等業務妨害罪第5 FX口座の不正取引と電子計算機使用詐欺罪1 損失の発生と,不法な利益の取得は別の要件2 取引記録の不正作成・供用第6 関与者,罪数及び情報拡散の評価1 関与した全員に同じ罪が成立するわけではない2 会社の警告と,個々の投稿の違法性第7 被害の記録と,今後の公表を読むときの確認事項

「お名前.com デスクトップクラウド」へのサイバー攻撃では,侵入,情報の取得,金銭の要求及びFX口座の不正取引を分けて犯罪の成立を検討する必要がある。
身代金を受け取っていなくても恐喝未遂罪が問題になり得るが,会社の公表だけから全ての罪の成立や実行者の身元を確定することはできない。

本記事は,令和8年10月30日を基準として,GMOインターネットの公表と日本の刑罰法規から,何が確認されればどの罪が問題になるかを整理する。
個別事件についての起訴内容や裁判所の認定を紹介するものではなく,以下の当てはめは公表事実を前提とする条件付きの検討である。

第1 公表事実,攻撃者の主張及び法律上の評価を分ける
1 会社が認めたことと,まだ推定できないこと

GMOインターネットは,第2報で悪意あるプログラムの検出とサーバー停止の経緯を説明し,第4報ではセキュリティ上の問題,不正アクセス及び顧客情報の外部流出を認めている。
第4報には,一部の利用者から不正取引の報告を受けたことも記載されているが,個々の取引の実行者,権限の使われ方及び利益の帰属は,別に確かめる必要がある。
出典:第2報,第4報。

2万6739台という数は,不正アクセスの影響を受けた可能性があるサーバーの数である。
全台の情報流出や,その数の利用者の被害が確認されたという意味ではない。
70社以上の証券・FX会社に関する記述も,攻撃者の要求・主張を紹介する文脈を外し,全社のシステムへの侵入が確認されたという意味に読み替えることはできない。

第14報は,調査を進めている利用者の手元のPCについて,マルウェアやランサムウェアの痕跡が確認されていないと説明している。
侵害されたクラウド環境と,調査した手元のPCは別の対象であり,クラウド側での検出と直ちに矛盾するものではない。
出典:第14報。

2 成立し得る罪の見取り図
行為主に検討する罪個別に確認すべきこと無断で認証を突破し,利用できる状態にする不正アクセス禁止法違反アクセス制御,ネットワーク経由の操作,承諾の有無金銭を払わなければ情報公開等をすると告げる恐喝罪・恐喝未遂罪要求と害悪告知の内容,相手への到達,財物・利益の交付との関係マルウェアを作成・提供・実行させる不正指令電磁的記録に関する罪プログラムの内容,目的,作成・提供・供用等の行為コンピューターの正常な処理を妨げる電子計算機損壊等業務妨害罪異常な処理,業務妨害,両者の因果関係無断の取引等により自分又は他人に財産上の利益を得させる電子計算機使用詐欺罪等不実の記録,財産上の利益の取得及び故意権利義務等の証明に使う記録を不正に作成・使用する電磁的記録不正作出・供用罪記録の性質,事務処理を誤らせる目的,作出・供用の事実

この表は,現在分かっている罪名を積み上げたものではない。
同じ事件でも,侵入した者,マルウェアを提供した者,金銭を要求した者及び不正取引をした者が同一かどうかを確認する必要がある。

第2 金銭を払っていなくても恐喝未遂罪が問題になる
1 情報公開を材料とする金銭要求

刑法249条は,人を恐喝して財物を交付させる行為や,財産上不法の利益を得る行為等を処罰し,250条は未遂も処罰する。
「払わなければ盗んだ情報を公開する」という金銭要求についても,要求の内容や態様,相手方に与える害悪などから恐喝に当たるかを検討する。
恐喝罪の法定刑は10年以下の拘禁刑である。

会社が支払わず,実際の交付や利益取得に至っていなくても,恐喝の実行に着手していれば未遂罪が成立し得る。
暗号化をしていないことだけで,情報の公開を材料とする恐喝の可能性がなくなるわけでもない。
ただし,第三者が見付けた投稿や要求らしい文言があるだけで,誰にどのような要求が届き,どの段階まで実行されたかを確かめずに成立を断定することはできない。

GMOインターネットの第12報は要求に応じない方針を示し,第16報は攻撃・脅迫行為への刑事告訴を含む法的対応の方針を説明している。
これらは会社の対応方針を示す資料であり,捜査機関や裁判所が恐喝罪の成立を認定した資料とは区別する。

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SCS評価制度の契約実務―★3・★4の取得,脆弱性対応期限及び委託先管理(AI作成)

目次

第1 SCS評価制度を契約実務で確認する理由第2 取得単位・適用範囲・有効期間を確かめる1 契約先と評価対象が一致するか2 除外対象と境界を図面で確認する3 取得時点だけでなく有効期間を管理する第3 「14日以内」の二つの場面を区別する1 通常運用では更新プログラムのリリースが起算点となる2 ★4の技術検証後は診断結果の受領日が起算点となる第4 委託契約で具体化する事項1 何の基準をどこまで求めるか2 脆弱性情報の受領から修正確認までを割り当てる3 期限に間に合わない場合の手続を決める4 費用,協力及び契約上の効果を分ける第5 診断を実施するときの合意と記録第6 契約条項を検討するためのたたき台第7 出典及び今後の確認事項
第1 SCS評価制度を契約実務で確認する理由

サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)は,取引先との間でセキュリティ対策の水準を確認するための制度である。
IPAは,令和9年3月に★3・★4の申請受付を開始する予定として,令和8年10月に要求事項・評価基準を更新し,評価に関するガイド及び解説書を公開した。
本記事は,令和8年10月30日時点の公表資料に基づき,発注者,受託者及び顧問弁護士が契約で確認する事項を整理する。

★の取得自体は任意であり,取引要件に採用するかは契約当事者が決める。
IPAのFAQも,取得を制度が義務付けるものではなく,要求事項を満たさないことだけを理由に直ちに取引停止を求める制度ではないと説明する。
したがって,「国の制度だから全取引先に取得義務がある」と説明することはできない。
以下の契約上の確認事項や条項例は,公式資料を踏まえた実務上の提案であり,IPAの指定書式又は全事業者に共通する法定条項ではない。

根拠:IPA「よくある質問」(SCS評価制度。以下「FAQ」という。)Q1-1~Q1-5。
公式FAQ

第2 取得単位・適用範囲・有効期間を確かめる
1 契約先と評価対象が一致するか

解説書は,法人又は個人事業主を原則的な取得単位とする一方,妥当性を確認した事業部や企業グループ等の単位も認めている。
適用範囲は取得単位に対応するIT基盤が基本であり,クラウドも含めて整理する。
事業者が便宜的に対象を狭めればよいものではなく,★3の確認責任者又は★4の評価機関による妥当性の確認が必要となる。

発注者は,契約相手の法人名だけでなく,実際に受託業務を行う部門,システム及び接続先が評価範囲に入るかを確認するとよい。
範囲外の再委託先やサービスがあれば,登録の表示だけで管理を終えず,別途の確認方法を決める必要がある。
この確認は,委託先の評価を全社・全サービスの安全性保証と受け取らないために行うものである。

2 除外対象と境界を図面で確認する

OTなどの除外には条件があり,接続関係や境界防護によっては適用範囲に含まれる。
また,業務に使う私物端末や在宅勤務用端末は,原則として適用範囲に含まれる。
通話・SMS・多要素認証だけに用いる個人機器等の除外もあるため,用途を区別する。
「工場設備だから」「私物だから」という呼び方だけで対象外と決めず,除外理由と接続関係を記録することが重要である。

3 取得時点だけでなく有効期間を管理する

登録の有効期間は,★3が1年,★4が3年とされている。
取引期間中に評価の維持を求めるなら,契約期間との対応,更新の確認時期,失効・取消し・適用範囲変更を知った場合の連絡方法を決めておくとよい。
★の取得によって,他の法制度の要件を満たすことまで保証されるものではない。

根拠:SCS-620「★3・★4 要求事項・評価基準 解説書」(以下「解説書」という。)4頁・6頁・7頁~11頁,FAQ Q1-5。
解説書(公式PDF)

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ランサムウェアの身代金を要求されたら―支払い判断,役員責任,保険と証拠保全(AI作成)

目次

第1 身代金の要求を受けた企業が最初に整理すること1 暗号化されていない場合の脅迫も対象になる2 支払わない方針と,対応をしないことは異なる第2 送金の検討に先立つ初動と証拠保全1 被害拡大を防ぎ,電源操作は慎重にする2 脅迫文と事実確認の資料を分けて残す3 バックアップからの復旧と暫定運用を比較する第3 支払いの前に確認する法令と相手方1 被害者からの送金にも規制の確認が必要である2 国内法の確認だけで取引全体を判断しない第4 取締役の責任と判断記録1 支払ったかどうかだけで責任は決まらない2 何を調べ,何を比較し,誰が決めたかを残す3 平時に受けた警告への対応も別に検証する第5 サイバー保険は費目と約款を確認する1 事故対応費用と身代金そのものを分ける2 相談・通知は支払い判断と並行して進める第6 身代金要求についてのよくある質問1 支払えば復旧や情報の削除は保証されるか2 支払わなければ取締役の責任を免れるか3 警察への相談と公表の判断は同じか第7 関連記事第8 出典
第1 身代金の要求を受けた企業が最初に整理すること

ランサムウェアの被害で金銭を要求されたときは,復旧の見込み,支払いの適法性,会社としての意思決定及び証拠保全を並行して検討する必要がある。
攻撃者が示した期限や「払えば解決する」という説明だけを基準に,現場の担当者が送金を約束することは避けたい。

本記事は,令和8年10月26日までに確認した法令と公的資料を基に,企業の初動と判断記録を整理する。
警察庁の案内,内閣官房国家サイバー統括室(NCO)の「サイバーセキュリティ関係法令Q&Aハンドブック」Ver.3.0の解説と,本記事の実務上の提案を区別して示す。

1 暗号化されていない場合の脅迫も対象になる

警察庁は,データの暗号化と復号の対価要求に加え,暗号化せずに情報を盗んで金銭を要求する手口も紹介している。
したがって,「業務システムが動いているから問題は小さい」と決めず,情報の持出しや公開の脅迫も調査の対象にする。

2 支払わない方針と,対応をしないことは異なる

警察庁は,支払いが犯罪グループの活動資金になり得ること,支払っても復号が保証されないことを説明している。
支払わない方針を採る場合にも,隔離,代替復旧,被害の調査,相談及び必要な報告・通知の検討は進める。

第2 送金の検討に先立つ初動と証拠保全
1 被害拡大を防ぎ,電源操作は慎重にする

警察庁の案内では,感染した機器をネットワークから隔離し,調査に必要なログ等が失われる場合があるため,電源を落とさないよう求めている。
自社の担当者だけで操作を続けず,警察や調査担当者に,隔離済みの範囲と機器の状態を伝えて次の作業を相談する。

2 脅迫文と事実確認の資料を分けて残す

実務上は,要求のメール・画面,受信日時,指定された支払先,連絡の履歴,確認できた障害・情報持出しの状況を時系列で整理するとよい。
攻撃者の主張と,自社又は調査会社が確認した事実を同じ欄に書かず,未確認事項を残しておく。

ログや機器の調査・複製は,権限のある担当者が方法と実施時刻を記録して行う。
脅迫の添付ファイルや提示された復号プログラムを,通常の業務端末で不用意に開かない。
警察庁が挙げる提供資料には,ランサムノート,通信ログ,ディスクイメージ,メモリダンプ及びシステム構成図がある。

3 バックアップからの復旧と暫定運用を比較する

法務と技術部門は,「どの時点のデータが残っているか」「その環境まで侵害されていないか」「復旧に何日かかるか」「手作業等で維持できる業務は何か」を共通の資料にまとめたい。
復旧費用と停止の影響を具体化し,身代金の額だけを比較する状態を避けるためである。

第3 支払いの前に確認する法令と相手方
1 被害者からの送金にも規制の確認が必要である

外国為替及び外国貿易法16条は,一定の支払等について許可義務を課す仕組みを定めている。
財務省は,資産凍結等の経済制裁に関する支払規制では,制裁対象者への支払いに暗号資産によるものも含まれると説明している。

このため,「身代金だから支払ってよい」「暗号資産なら規制と無関係」と判断することはできない。

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サイバー被害の公表と金融不安をあおる投稿の読み方―事実・時系列・補償・予測を分ける(AI作成)

目次

第1 数字より先に、誰が何を確認したかを読む第2 対象数と被害確認数、脅迫内容と実行済みの被害を分ける1 26,739件は何を数えた数字か2 70社超のシステムが侵害されたという意味か第3 公表の更新と出来事の順序をそろえる第4 見舞金、補償条件、被害拡大防止を別に確認する第5 被害情報から金融移行の予測へ進むときに確認すること第6 サイバー被害の統計は期間、母集団と単位をそろえる1 報告書の順位は何を観測したものか2 不正アクセス件数、不正取引件数と損失額を分ける第7 当局のリスク分析とアンケートを区別する1 リスクの指摘を危機の発生断定へ変えない2 FRB報告書の50%は危機の発生確率か
第1 数字より先に、誰が何を確認したかを読む

サイバー被害のニュースに、銀行の停止、金融制度の変更、特定サービスの宣伝が結び付けられることがある。企業の被害公表に書かれた事実と、投稿者がそこから導いた予測を分けることが、判断の出発点になる。

例えば、GMOインターネットグループとGMOインターネットが公表した「お名前.com デスクトップクラウド」の不正アクセスでは、公表の更新とともに、把握された事実と説明の範囲が変わっている。
本稿は、令和8年10月の同社の公表等を例に、事実、調査中の事項、公表主体の評価と投稿者の推測を分ける読み方を整理する。
被害状況や補償手続の最新案内を網羅するものではない。

企業の公表を読む際には、①企業が調査で確認したこと、②利用者から申告を受けたこと、③攻撃者とみられる者が主張・要求していること、④調査中のこと、を別々に書き出すとよい。公表したという事実と、公表内容のすべてが第三者によって検証されたということも分けて扱う。

本稿の従前の整理に加え、令和8年10月30日時点の追補として、第12報・第14報・第16報を中心に、補償の区分、調査対象及び会社の法的対応方針を確認する。
以下の追補は会社の公表の読み方を示すもので、個別の被害や犯罪の成立を独立して認定するものではない。

令和8年10月27日の第12報は、一律5000円の見舞金、不正取引による損失の補償とは別に、流出情報の公開が確認された場合の特別見舞金を説明している。
具体的な条件と補償の区別は、お名前.com デスクトップクラウドの不正アクセスとFX損失の記事を参照されたい。

第2報のクラウド環境での悪意あるプログラムの検出と、第14報の調査中の利用者PCで痕跡が確認されていないという説明は、調査対象が異なる。
後者を全利用者PCの安全確認に広げたり、前者と矛盾するという理由だけでどちらかを虚偽と決めたりすることはできない。

第16報は、情報提供を受けて内容の確認・精査を進めていることや、攻撃・脅迫行為への刑事告訴を含む法的対応の方針を説明している。
情報提供の件数、捜査協力及び特定に役立つ情報の取得を、犯人の検挙や有罪認定と同一視しないことも必要である。

出典:GMOインターネット第2報、第12報、第14報及び第16報。
成立し得る罪と確認すべき事実は、GMOサイバー攻撃の刑事責任の記事で分けて検討する。

第2 対象数と被害確認数、脅迫内容と実行済みの被害を分ける
1 26,739件は何を数えた数字か

第3報は、影響の可能性があるサーバーを26,739件としている。その直後に、対象となり得るサーバー数であって、不正アクセスや情報取得が確認された件数ではないと説明している。したがって、この数字を漏えいが確定した利用者数や、不正取引の被害者数として扱うことはできない。

数値をメモするときは、件数だけでなく、単位、対象期間、確認段階を一緒に残す。「可能性がある」という限定を落とすと、公表の意味が変わる。

2 70社超のシステムが侵害されたという意味か

第4報には、国内外の70を超える証券会社・FX会社等に開設された利用者の取引口座に対する不正操作の継続、情報の不正公開、ランサムウェア攻撃の実行等が記載されている。これは、攻撃者とみられる者から受けた金銭要求と、要求に応じない場合の行為を説明する箇所に置かれている。

この記載だけで、70社超の証券会社・FX会社のシステム自体がすべて侵害されたことや、列挙された攻撃がすべて実行済みであることまでは示されない。取引口座への不正操作と、口座を提供する金融機関のシステムへの侵入は、区別して読む必要がある。

第3 公表の更新と出来事の順序をそろえる

10月21日の初報は、不正プログラムの設置と情報閲覧の可能性を述べる一方、その時点では個人情報漏えいや閲覧情報の悪用を確認していないとしていた。これに対し、10月24日の第4報は、サービス環境への不正アクセスと情報の外部持出しを確認したと公表している。初報だけで、その後も漏えい未確認だったと説明することはできない。

別の注意点は、報道日と取材対象の出来事の時期である。ITmediaの展示会取材記事は、10月21日から23日の展示会の初日に複数の出展企業へ話を聞き、9月下旬以降の問い合わせ増加や、経営層からの相談の増加を報じている。GMO事件の第4報が記す調査開始日は10月19日である。

9月下旬からの問い合わせ増加を、その後に公表されたGMO事件の脅迫報道だけによる変化と説明するには、根拠が足りない。取材先で観察された変化を、全国の企業や経営者全体の実態へ広げる際にも、別の裏付けが必要になる。

投稿にある「今日」「明日正午」「数週間前」は、元の投稿日と時刻、タイムゾーンが分からなければ、具体的な日時へ置き換えられない。転載や翻訳を読むときには、読む側の今日を基準に期限や出来事を判断しないことが大切である。

10月29日の第15報も、確認の段階を読む例になる。

(続きを読む...)サイバー被害の公表と金融不安をあおる投稿の読み方―事実・時系列・補償・予測を分ける(AI作成)

企業はサイバー攻撃を逆探知・ハックバックできるか―追跡プログラム,不正アクセスとコインハイブ判決(AI作成)

目次

第1 企業の防御と第三者の機器への介入を分ける第2 「逆探知」の仕組みを先に確かめる1 ログの記録と端末内の情報収集2 委託先に依頼する場合第3 追跡プログラムと不正指令電磁的記録1 無断実行という一点だけでは結論は出ない2 コインハイブ判決は追跡プログラムの適法判決ではない第4 不正アクセスと正当防衛・緊急避難1 他人の認証情報やアクセス制御の突破2 被害企業であることは包括的な免責ではない第5 政府のアクセス・無害化措置との関係第6 調査を依頼する前の確認事項第7 出典
第1 企業の防御と第三者の機器への介入を分ける

サイバー攻撃を受けた企業には,攻撃元を特定し,被害の拡大を止めたいという切実な必要がある。しかし,「能動的サイバー防御」という名称だけで,第三者の機器に侵入し,情報を取得し,プログラムやデータを消去できるようになるわけではない。

自社が管理するサーバーのログを調べること,自社の権限で接続を遮断すること,第三者の機器で追跡プログラムを動かすこと,他人の認証を突破して攻撃用サーバーを操作することは,行為の内容が異なる。適法性の検討も分ける必要がある。本記事は令和8年10月26日を基準に,民間企業の措置を検討する際の基本的な区別を整理し,同月27日のGMOの懸賞金制度の公表を踏まえた説明を追記したものである。

第2 「逆探知」の仕組みを先に確かめる
1 ログの記録と端末内の情報収集

自社のサーバーに届いた通信の記録を,管理権限の範囲内で分析する場合と,相手の端末でプログラムを実行させ,端末内の情報を送信させる場合とでは,対象となる機器も処理も異なる。契約書や製品説明に「追跡」「検知」と書かれていても,その名称だけで同じ行為として扱うべきではない。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業の令和7年9月の解説は,持ち出された文書を開くとプログラムが作動し,端末情報等を取得する仕組みを示して論じている。これは解説上の設計例であり,特定製品の実装や合法性が実証されたという資料ではない。

2 委託先に依頼する場合

調査会社やセキュリティ会社に依頼しても,自社が持っていない第三者の機器の管理権限が,委託契約だけで生じるわけではない。実務上は,実行場所,取得項目,送信先,認証情報の使用,処理の継続時間,停止方法及び第三者の機器に及ぶ影響を,実行前に説明できるようにすることが有用である。これは,行為を具体化するための本記事の提案である。

第3 追跡プログラムと不正指令電磁的記録
1 無断実行という一点だけでは結論は出ない

刑法168条の2は,正当な理由がないのに,他人の電子計算機で実行させる目的で,不正な指令を与える電磁的記録等を作成・提供する行為などを定めている。取得・保管には同法168条の3の検討も必要になる。

最高裁第一小法廷令和4年1月20日判決(令和2年(あ)第457号,コインハイブ事件)は,利用者の意図に反することと,刑法上の不正性とを区別した。判決は,機能,影響,利用方法などを踏まえ,社会的に許容し得るかという観点から不正性を判断している。

同事件では,閲覧中の端末の計算資源を使うプログラムについて,意図に反する点は認めながら,端末の機能や情報処理への影響などの事情から不正性を否定した。利用者の明示の同意がないプログラムが全て犯罪になる,という判決ではない。

2 コインハイブ判決は追跡プログラムの適法判決ではない

最高裁が判断したのは,当該マイニングプログラムとその利用状況である。端末内の情報を収集・送信する追跡プログラムを,そのまま適法とした判決ではない。

追跡の目的が被害防止であっても,取得する情報の範囲,継続性,端末への影響や利用者に認識できる仕組みなどを検討する必要がある。前記法律事務所の解説が追跡プログラムへの当てはめを示している部分は,最高裁の判断枠組みを使った解説者の分析として読むべきである。

第4 不正アクセスと正当防衛・緊急避難
1 他人の認証情報やアクセス制御の突破

不正アクセス禁止法3条は不正アクセス行為を禁止し,同法2条4項はその類型を定める。他人の識別符号を使う場合や,アクセス制御による制限を免れる情報・指令を入力する場合などについて,通信回線,アクセス制御機能,承諾及び利用可能になる状態を確認する必要がある。

したがって,「攻撃者が使ったサーバーだから操作してよい」とはならない。他方,端末が一定情報を自動送信する仕組みについて,その名称だけで直ちに同法の不正アクセスに当たるともいえない。具体的な接続と制御の仕組みに即した検討が必要である。

2 被害企業であることは包括的な免責ではない

刑法36条の正当防衛には急迫不正の侵害と防衛のためやむを得ずした行為という要件があり,同法37条の緊急避難にも現在の危難,やむを得なさ,生じた害と避けようとした害の比較などの要件がある。

攻撃の継続,対象機器の管理者,危険の切迫性,代替手段及び措置の影響を確かめず,「攻撃された企業なら逆侵入できる」と一般化することはできない。これらの規定が個別事案で成立するかは,事実関係に即した判断を要する。

第5 政府のアクセス・無害化措置との関係

令和7年法律第43号による警察官職務執行法6条の2等は,警察等の措置について主体,要件及び手続を定めている。これらの規定から,民間企業や委託先に第三者のサーバーを操作する一般的な権限が与えられるとは読めない。

令和8年9月の政府の施行説明は,官民連携とアクセス・無害化措置を同年10月1日から,通信情報の利用を翌年秋からの施行と整理している。制度全体が一度に施行されたという説明は適切でない。政府の制度と個々の企業の防御を分けて検討する必要がある。

企業による要請と政府の判断の違いは,能動的サイバー防御は企業の要請で発動するのかを参照されたい。

国家情報会議・国家情報局と,対外情報庁構想の位置付けについては,成立した法律と今後の検討を整理した記事を参照されたい。

(続きを読む...)企業はサイバー攻撃を逆探知・ハックバックできるか―追跡プログラム,不正アクセスとコインハイブ判決(AI作成)

採用課題を装うWaterPlumの攻撃とは―IT技術者がコード実行前と感染後に確認すること(AI作成)

目次

第1 WaterPlumはどのように採用活動を装うのか第2 コードを実行する前の確認1 相手の身元と,求められている操作を分けて確認する2 普段の作業環境をそのまま使わない第3 VS Codeの「信頼する」に注意する第4 実行してしまった・感染が疑われる場合1 通信の遮断と,安全な端末での対応2 初期化の前に調査・証拠保全も考える第5 勤務先・発注元へ伝える事項第6 資料と関連記事

転職や業務受注のために届いたコーディング課題でも,送信者が本物の採用担当者とは限らない。
面接ツールの不具合を直すよう求められた場面でも,指示されたプログラムを実行する前の確認が必要である。
警察庁等は,令和8年9月18日,IT技術者を標的とするWaterPlumの攻撃について共同注意喚起を公表した。
この記事は求職者・フリーランス側の対策を扱う。
企業が偽装ITワーカーを採用・委託する問題は,北朝鮮IT労働者への業務委託を防ぐための確認事項で扱う。

第1 WaterPlumはどのように採用活動を装うのか

共同注意喚起によれば,WaterPlumは,正規のAI企業,暗号資産関連企業,人材紹介サービス等になりすまし,SNS,求人サイト,フリーランス向けのサービス等でIT技術者へ接触する。
技術面接やコーディング課題に参加させ,不正なプログラムをダウンロード・実行させる手口である(同2~3頁)。
課題の実施を求めるだけでなく,オンライン会議の不具合を診断・修正するという名目でファイルを使わせることも説明されている。
悪意あるNPMパッケージや開発用リポジトリも攻撃の入口となる。
共同開発サービスに置かれているという理由だけで,その課題の安全性が確認されたことにはならない。
窃取の対象として,ブラウザ内の認証情報,暗号資産ウォレットの秘密鍵・シードフレーズ,身分証画像,PCや共有フォルダのファイル等が挙げられている。
また,窃取した認証情報を使い,勤務先のネットワークへ侵入する手口も説明されている(同3~4頁)。
個人の求職活動をきっかけに,勤務先や発注元へ影響が広がり得る点に注意が必要である。

第2 コードを実行する前の確認
1 相手の身元と,求められている操作を分けて確認する

警察庁等は,業務用PCや暗号資産・個人情報を扱うPCで,むやみに第三者の関与したコードを実行しないよう求め,仮想マシン等のサンドボックスでの実行や,コードに難読化された部分・動作を理解できない部分がないかの確認を挙げている(共同注意喚起4頁)。
求職者側では,会社名の実在だけで終わらせず,公式サイト等から独立して確認した連絡先を使い,その担当者と課題の実在を確かめる方法が考えられる。
これは本記事の確認手順の提案である。
相手から届いたリンクだけを確認経路にすると,なりすまし側が用意した場所を再び見ている可能性が残る。
「すぐに面接を再開したい」「提出期限に間に合わせたい」と思う場面でも,理解できない修復コマンドや追加ツールを,案内されたまま実行しないことが大切である。

2 普段の作業環境をそのまま使わない

サンドボックスを使う場合でも,「仮想マシンなら何を実行しても安全」と考えるべきではない。
共同注意喚起の推奨は,任意の設定で安全を保証する記載ではない。
実務上は,会社の認証情報,秘密鍵,顧客資料等を持ち込まない検証環境を用意できるかを,勤務先等の担当者に確認することが考えられる。
個人の判断で業務用PCに検証環境を追加したり,会社のルールを外して課題を実行したりすることは避けたい。

第3 VS Codeの「信頼する」に注意する

共同注意喚起は,他人から渡されたVS Codeのプロジェクトを開く際の注意を具体的に説明している。
関与していないプロジェクトを開くよう求められた場合は制限モードを利用し,作成者を信頼するかという警告には「いいえ」を選ぶことなどを勧めている(同4~5頁)。

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北朝鮮IT労働者への業務委託を防ぐには―なりすまし,ラップトップ・ファームと企業の対策(AI作成)

目次

第1 警察庁の注意喚起が対象とする二つの入口第2 ラップトップ・ファームと国内で把握された事例1 国内の名義・端末を経由する手口2 公表された被害と,読み分けるべき事実第3 採用・委託の前に確認する事項第4 契約とアクセス権限に落とし込む1 再委託のルールを実際に確認できる形にする2 正規のアカウントにも権限の上限を設ける第5 疑いが生じたときの初動第6 制裁・法的責任を判断するときの注意第7 資料と関連記事

採用した人や業務を委託した相手が,申告された人物とは違う。
正規のアカウントを渡した後に,ソースコードや顧客情報へのアクセスを悪用される。
このような問題は,外部からの不正侵入対策だけでは捉えにくい。
警察庁等は,令和8年9月18日の共同注意喚起で,北朝鮮IT労働者による日本国内での外貨獲得活動,国内支援者の自宅に遠隔操作用PCを置く手口及び企業への採用応募の実例を公表した。
本記事では,その公表内容と,それを踏まえた企業側の確認事項を分けて整理する。

第1 警察庁の注意喚起が対象とする二つの入口

共同注意喚起は,①採用担当者を装って求職者に不正なプログラムを実行させる攻撃と,②身元や作業場所を偽って企業からIT業務を受注する活動を扱っている。
この記事は②を対象とする。
①の求職者側の対処は,偽の採用課題によるWaterPlumの攻撃で扱う。
警察庁とFBIは,WaterPlumと一部の北朝鮮IT労働者が北朝鮮の313総局の指揮下で運用されていると評価している。
「一部」という範囲を外し,全ての関係者が同一の組織又は同一の手口で活動すると読むことはできない。
これは捜査機関の評価を紹介するものであり,裁判所の認定を紹介するものではない。

第2 ラップトップ・ファームと国内で把握された事例
1 国内の名義・端末を経由する手口

警察庁等によれば,国内支援者から提供された身分証明書の画像を悪用した受注,支援者が受注した業務の請負,支援者の銀行口座を使った報酬受領が確認されている。
支援者宅に遠隔操作用PCを設置するラップトップ・ファームや,支援者が借りたVPSを利用して,居場所・作業場所を偽装する手口も説明されている(共同注意喚起5~6頁)。
したがって,国内の振込先や国内からの接続があることだけを,実際の作業者が申告どおりである証明にするのは十分ではない。
契約名義,実際の作業者,端末の管理者及び再委託関係をつなげて確認することが,企業側の点検課題になる。

2 公表された被害と,読み分けるべき事実

共同注意喚起6頁は,北朝鮮IT労働者と知らずに開発業務を一部外注した企業で,報酬の支払をめぐるトラブルの際に,担当プログラムのソースコードがインターネットへ公開された事例を紹介している。
また,北朝鮮IT労働者が作成に関わったWebサイトが,後に改ざんされ正常に表示されなくなった事例も紹介する。
ただし,この記載だけから,その改ざんの実行者や原因まで確定したとはいえない。
一方,bitFlyerへの応募事例は,同社が不審点に気づいて対応し,採用にも被害にも至らなかった事例である。
「国内暗号資産取引所に侵入した事例」と読み替えないことが必要である(同7頁)。

第3 採用・委託の前に確認する事項

共同注意喚起は,連絡先の確認,経歴に記載されたスキルについての具体的な質問,資格の確認等を勧めている。
企業では,これを一度の面接だけで終わらせず,次の事項を照合する運用が考えられる。
以下は本記事の実務上の整理であり,法令が一律に義務付けたチェック項目という意味ではない。

確認する関係確認事項の例契約名義と実作業者誰が作業し,変更時に誰へ知らせるのか。法人への発注でも担当者と再委託先を把握できるか経歴と技能書面の記載について,担当した作業や判断過程を具体的に説明できるか作業場所と端末申告された作業環境と実態が整合するか。第三者による遠隔操作を許していないか報酬と取引主体契約名義と異なる第三者口座への変更等について,合理的な説明と確認資料があるか提出資料の取扱い確認目的に必要な範囲の資料を求め,閲覧者と保管方法を決めているか

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社内で禁止した生成AIに個人データを入力したら漏えい等報告は必要か―ガイドラインの「自らの意図」,クラウド例外,委託及び協会けんぽの公表事例(AI作成)

目次

第1 本記事の概要第2 問題の所在1 承認したサービスと禁止したサービス2 検討の順序第3 漏えい等報告の仕組み1 個人情報保護法26条と施行規則7条2 「おそれ」の判断3 報告の期限と「知った」時点第4 生成AIへの入力は提供か委託か1 委託に伴う提供2 クラウド例外3 個人情報保護委員会の注意喚起第5 禁止された生成AIへの入力は漏えいに当たるか1 漏えいの定義と「自らの意図」2 承認の有無で評価が分かれる理由3 学習に利用しない設定の意味4 報告が必要になるのは報告対象の事態に当たる場合第6 協会けんぽの公表事例1 公表の内容2 この事例から読み取れること第7 実務上の対応1 平時の備え2 禁止された入力が判明したとき第8 出典
第1 本記事の概要

本記事は,社内で業務利用を禁止している生成AIサービスに従業者が個人データを入力した場合に,個人情報保護委員会への漏えい等報告(個人情報保護法26条)が必要になるかを整理するものである。
基準日は令和8年10月25日であり,個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(令和8年6月一部改正)と,「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A」を参照した。

結論を先に述べると,生成AIサービスへの入力が直ちに漏えいになるわけではない。
しかし,事業者が自らの意図に基づいて提供したといえない入力は,個人データの漏えい又はそのおそれと評価される余地があり,施行規則7条の4つの事態のいずれかに当たれば報告が必要になると考えられる。
ただし,個人情報保護委員会が,社内で禁止された生成AIへの入力について報告の要否を直接示した資料は,基準日現在,確認できない。

学習に利用しない設定の生成AIに秘密情報を入力することの評価は学習オフの生成AIに秘密情報を入力することは第三者開示に当たるかで,社内の禁止ルールと懲戒はシャドーAIの問題点――営業秘密,個人情報保護法及び懲戒処分をめぐる法的枠組みで説明している。

第2 問題の所在
1 承認したサービスと禁止したサービス

同じ生成AIサービスでも,会社が契約して業務利用を認めている場合と,社内規程で利用を禁止している場合とがある。
社内規程による禁止の対象には,従業者が個人で契約したアカウントを業務に使う場合や,正式な審査の前に試験的な利用を始める場合も含まれ得る。
サービスの仕様や入力データの扱いが同じであっても,会社が承認しているかどうかで個人情報保護法上の評価が変わるのかが,本記事の問いである。

2 検討の順序

この問いは,次の順に検討すると整理しやすい。
①生成AIサービスへの入力が,第三者提供,委託に伴う提供又はクラウド例外のどれに当たるか
②社内で禁止された入力が,個人データの漏えい又はそのおそれに当たるか
③当たるとして,施行規則7条の報告対象の事態に当たるか

第3 漏えい等報告の仕組み
1 個人情報保護法26条と施行規則7条

個人情報保護法26条1項本文は,「個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失、毀損その他の個人データの安全の確保に係る事態であって個人の権利利益を害するおそれが大きいものとして個人情報保護委員会規則で定めるものが生じたときは、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、当該事態が生じた旨を個人情報保護委員会に報告しなければならない。」と定める。
同条2項は,この場合に本人への通知も求めている。

報告の対象となる事態は,個人情報の保護に関する法律施行規則7条が定める次の4つである。
①要配慮個人情報が含まれる個人データ(高度な暗号化等の措置を講じたものを除く。)の漏えい等が発生し,又は発生したおそれがある事態(1号)
②不正に利用されることにより財産的被害が生じるおそれがある個人データの漏えい等が発生し,又は発生したおそれがある事態(2号)
③不正の目的をもって行われたおそれがある当該個人情報取扱事業者に対する行為による個人データの漏えい等が発生し,又は発生したおそれがある事態(3号)
④個人データに係る本人の数が千人を超える漏えい等が発生し,又は発生したおそれがある事態(4号)

2 「おそれ」の判断

ガイドライン(通則編)3-5-3-1の(※2)は,「報告対象事態における「おそれ」については、その時点で判明している事実関係に基づいて個別の事案ごとに蓋然性を考慮して判断することになる。」とする。
その上で,漏えい等が発生したおそれについては,「その時点で判明している事実関係からして、漏えい等が疑われるものの漏えい等が生じた確証がない場合がこれに該当する。」としている。

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医学部入試の得点調整と損害賠償―東京医大・順天堂など7判決の受験慰謝料と不合格慰謝料(AI作成)

目次

第1 医学部入試の得点調整をめぐる判決の全体像第2 得点調整等はなぜ違法とされたか1 判決は私立大学にも公法上の規定の趣旨の尊重を求めた2 不法行為の構成は受験校を選択する自由の侵害3 控訴審は不合格とされた者への差別的取扱い自体も不法行為とした4 年齢を理由とする不合格判定も違法とされた第3 損害として認められたもの・認められなかったもの1 入学検定料・交通費・宿泊費2 受験したこと自体についての慰謝料3 不合格とされたことについての慰謝料4 他大学との学費の差額,逸失利益,予備校費用第4 訴訟で注意すべき点1 受験年度ごとに請求を特定し,時効に注意する2 大学の補償の申出や追加の合格判定との関係3 共通義務確認の訴えでは対象が限られた第5 関連記事第6 出典1 法令2 裁判例
第1 医学部入試の得点調整をめぐる判決の全体像

平成30年に,複数の大学の医学部入試で,受験者の性別や浪人年数・年齢によって得点を調整し,又は合格判定の基準を変えていたことが明らかになった。
その後,受験者本人による損害賠償請求と,特定適格消費者団体による共通義務確認の訴えが起こされ,判決が出ている。
本記事は,裁判所ウェブサイトと判例秘書で本文を確認できた7件の判決を,違法とされた理由,損害として認められたもの,訴訟で注意すべき点に分けて整理する。
本記事では,得点の調整と合格判定基準の差を併せて「得点調整等」という。
これらの判決で問題となった入試は,いずれも平成30年度以前のものである。

基準日は令和8年10月25日である。
東京地裁令和4年9月9日判決が控訴され,東京高裁令和5年5月30日判決で変更されたことを除き,各判決の上訴の有無と確定の有無は確認していない。
判決が大学名を伏せているものは,本記事でも大学名を書かない。
ここで扱うのは私立大学の医学部入試をめぐる民事の判決であり,入試に関係した文部科学省幹部の刑事事件は扱わない。

判決大学訴えの種類主な判断東京地裁令和2年3月6日判決東京医科大学共通義務確認入学検定料等の支払義務を確認し,旅費・宿泊費の部分は却下東京地裁令和3年9月17日判決順天堂大学共通義務確認入学検定料等の支払義務を確認し,旅費・宿泊費の部分は却下東京地裁令和4年5月19日判決順天堂大学損害賠償受験1年度当たり慰謝料30万円と,入学検定料・受験者本人の交通費・宿泊費東京地裁令和4年9月9日判決東京医科大学損害賠償受験1年度当たり慰謝料20万円,不合格慰謝料100万円~150万円(控訴人の分は控訴審で変更)東京高裁令和5年5月30日判決東京医科大学損害賠償(控訴審)不合格慰謝料を200万円~300万円とし,予備校費用の一部を認容東京地裁令和5年8月10日判決判決が名称を伏せた私立大学損害賠償年齢を理由とする不合格判定につき慰謝料150万円(ほかに記者会見での発言につき10万円)東京地裁令和5年12月25日判決判決が名称を伏せた私立大学損害賠償女性受験者への得点調整につき受験慰謝料40万円,合格の相当程度の可能性があった者は140万円(受験の分を含む)
第2 得点調整等はなぜ違法とされたか
1 判決は私立大学にも公法上の規定の趣旨の尊重を求めた

憲法14条1項は,「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と定める。
教育基本法4条1項は,「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。」と定める。
大学設置基準2条の2は,入学者の選抜を「公正かつ妥当な方法により、適切な体制を整えて行うものとする。」と定めている。

東京地裁令和4年9月9日判決は,私立大学を設置する学校法人も,入学者の選抜に当たり,憲法並びに教育基本法及び学校教育法をはじめとする公法上の諸規定の趣旨を尊重する義務を負うとした。
そのうえで,小論文試験の点数に性別と高校卒業からの経過年数に応じて差をつけた措置について,「性別という自らの努力や意思によっては変えることのできない属性を理由として、女性の受験者を一律に不利益に扱うものであって、性別による不合理な差別的取扱いを禁止した教育基本法4条1項及び憲法14条1項の趣旨に反する」とし,「公正かつ妥当な方法」による入学者の選抜とはいえないと判断した。
順天堂大学の損害賠償の判決(東京地裁令和4年5月19日判決)と東京地裁令和5年12月25日判決も,私立大学が公法上の諸規定の趣旨を尊重すべき立場にあることを前提に,女性受験者を不利に扱った判定基準や得点調整を不合理な差別と評価している。

2 不法行為の構成は受験校を選択する自由の侵害

東京地裁令和4年9月9日判決は,得点の調整を公表しないまま受験させた行為を,受験者が「自らの意思によって受験校を選択する自由を侵害するものとして、原告らに対する不法行為に該当する」とした。
東京地裁令和4年5月19日判決は,大学には受験者が誤った情報の下で出願を決めることがないよう必要な情報を提供すべき信義則上の義務があったとし,判定基準を秘して受験させた行為は,受験するか否か,他の大学を受験するか否かについての意思決定の自由を侵害する不法行為に当たるとした。
東京地裁令和5年12月25日判決は,入試で合理性を欠く差別を受けないという利益を,大学選択の意思決定の自由の基盤をなすものと位置づけている。

これら3件の判決では,得点調整等によって合否が変わったかどうかにかかわらず,調整のある試験を受験した原告らについて不法行為の成立が認められている。
合否が変わった者には,これに加えて不合格とされたことによる精神的苦痛が問題となる。
なお,共通義務確認の2件の判決は,属性による調整や判定基準を事前に告知し,又は明らかにすべき信義則上の義務に反したという構成をとっている。

3 控訴審は不合格とされた者への差別的取扱い自体も不法行為とした

東京高裁令和5年5月30日判決(東京医科大学の控訴審)は,第一審の構成を補正した。
得点の調整を公表せずに学生を募集し,調整を実施した行為は,合否への影響の有無にかかわらず受験校を選択する自由を侵害する不法行為に当たるとともに,調整がなければ合格と判定されていたのに不合格とされた者との関係では,「性別による不合理な差別的な取扱いとして不法行為に該当する」とした。

(続きを読む...)医学部入試の得点調整と損害賠償―東京医大・順天堂など7判決の受験慰謝料と不合格慰謝料(AI作成)

お名前.com デスクトップクラウドの不正アクセスでFX口座に損失が出たら―GMOの補償,FX会社との関係と利用規約の免責条項(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と基準日第2 GMOが公表した事実と,公表されていないこと1 経緯2 影響範囲の数字の読み方3 第4報で同社が認めたこと4 公表されていないこと第3 GMOの見舞金と損失補償の内容1 見舞金2 不正取引による損失の補償3 補償の範囲と法律上の損害賠償の範囲は同じではない4 補償を装う連絡に注意する第4 FX会社との関係―不正な取引は誰の取引か1 本人の意思によらない取引の効果2 本人に責任を負わせる外観法理3 FX会社の認証の仕組み4 FX会社の約款の免責条項5 海外のFX業者の口座だった場合第5 GMOに対する法的責任と利用規約1 利用規約の免責条項と責任の上限2 消費者である利用者の場合3 事業者会員の場合4 同社の責任を判断するために必要な事実第6 被害を受けた利用者が今すること第7 よくある質問1 被害がなくても見舞金は受け取れるか2 含み損や,取引で得られたはずの利益も補償されるか3 海外のFX業者の口座でも補償の対象になるか4 利用規約に「責任を負わない」とあれば請求できないか第8 出典
第1 本記事の対象と基準日

GMOインターネット株式会社が提供するFX自動売買向けの仮想デスクトップサービス「お名前.com デスクトップクラウド」が第三者による不正アクセスを受け,利用者の取引口座で身に覚えのない取引が行われたとの報告が同社に寄せられている。
本記事は,この事案で取引口座に損失が出た利用者が,同社の補償,FX会社との関係,利用規約の免責条項をどう整理すればよいかを扱う。

初稿の基準日は令和8年10月25日であり,今回の追補の基準日は同月30日である。
以下の初稿の事実関係は,同社が令和8年10月21日から同月24日までに公表した第1報から第5報まで,同社の同月23日・24日の適時開示及びGMOの代表者の同月25日付公式ブログに基づいて記載する。
その後,同月27日の第12報と同月29日の第15報による追記を加え,従前の経緯・補償方針の説明と,その後に公表された特別見舞金等を,発表時点が分かる形で記載している。
補償の申請方法等について,第4報では同年11月6日までに案内する予定とされていたが,予定の記載と,その後に案内・支払が実施されたこととは区別する必要がある。

本記事は同社の調査・報告の内容を紹介するものであり,被害の全容,侵入経路又は個々の取引と不正アクセスとの因果関係を独立して認定したものではない。
能動的サイバー防御の要請については,能動的サイバー防御は企業の要請で発動するのか―GMOの公表事案と政府の判断を分けて読む(AI作成)で扱っている。

第2 GMOが公表した事実と,公表されていないこと
1 経緯

同社の第4報によれば,経緯は次のとおりである。

①令和8年10月19日,利用者からの問合せを受けて調査を開始した。
②同月20日,不正なプログラムの設置を確認し,新規申込みとコントロールパネルを停止した。
③同月21日午前4時,被害拡大防止のため全プランのサーバーを順次停止し,第1報を掲載した。
④同日以降,取引口座での身に覚えのない操作等の報告を受け付けた。
⑤同月22日,警察に相談した。

2 影響範囲の数字の読み方

同社は,影響の可能性があるサーバーを26,739件としている。
もっとも,第3報はこの数について「上記は対象となり得るサーバー数であり、不正アクセスまたは情報取得が確認された件数ではありません。」と注記している。
この数を,情報が流出した件数や被害者の数と読むことはできない。

同社は,決済情報(クレジットカード情報を含む。)を本サービスのサーバー上で保有していないと説明する一方,「他方、お客様ご自身がサーバー内に保存された情報は、影響範囲に含まれます。」としている。
同社は,影響の可能性がある情報として,取引ツール等に保存された取引口座のログイン情報等を挙げている。

3 第4報で同社が認めたこと

第1報(令和8年10月21日午前4時時点)は,同社が預かる個人情報の漏えいや,閲覧された情報が悪用された事実は確認されていないとしていた。
これに対し,第4報(同月24日午前11時50分時点)は,「本サービスのシステムにセキュリティ上の問題が存在し、本サービスの環境に対する不正なアクセスと、お客様の情報が外部に持ち出された事実を確認しております。」と述べている。
同じ第4報は,一部の利用者から取引口座での身に覚えのない取引の報告を受けているとしている。

同社は,10月27日の第12報で,自分の情報が公開されたことを同社が確認した利用者に対する特別見舞金を公表し,確認した対象者には個別に連絡すると説明した。
同社による確認・連絡の説明であり,全利用者の情報公開が確認されたことを意味しない。

(続きを読む...)お名前.com デスクトップクラウドの不正アクセスでFX口座に損失が出たら―GMOの補償,FX会社との関係と利用規約の免責条項(AI作成)

漏えい等の本人通知は殺害予告や営業メールの送り主にも必要か―個人情報保護法26条2項ただし書の「通知が困難な場合」とStudio事案(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論3 基準日と資料第2 Studio事案で公表されていること1 不正アクセスと流出のおそれがある情報2 サイト運営者とStudio社の関係3 本人通知についての同社の案内第3 本人通知が必要になる場面1 報告対象事態と本人通知2 フォームの回答は個人データか3 委託先やクラウド事業者が関わる場合第4 送り主の目的や内容で通知の対象外にできるか1 営業メールやスパムの送り主2 法人の担当者が送信した場合第5 危険な相手への通知と「本人への通知が困難な場合」1 条文とガイドラインの例2 他の規定との比較3 身の危険を「困難」と整理する見解4 先に検討すべき通知の時期と方法5 「困難」と整理するときの記録第6 代替措置としての公表1 代替措置の例2 どこに何を公表するか第7 委託元が行政機関等である場合第8 令和8年改正法の施行後第9 関連記事第10 出典1 法令2 個人情報保護委員会の資料3 事業者の公表資料等
第1 本記事の対象と結論
1 対象

令和8年10月,Webサイト作成サービス「Studio」の運営会社(以下「Studio社」という。)は,同社が利用するクラウド環境への不正アクセスにより,同サービスで作られたサイトのフォームに送信された内容が外部に流出した可能性があると公表した。
フォームで問い合わせ,予約,採用応募等を受け付けていた事業者は,送信者への本人通知を検討することになるが,送信者の中には,殺害予告を送ってきた者や,営業メールを繰り返し送ってきた者も含まれ得る。
本記事は,このような送り主にも個人情報保護法26条2項の本人通知が必要か,通知することが危険なときにどう扱うかを,条文,個人情報保護委員会の通則編ガイドライン及びQ&A並びにStudio社の公表資料に沿って整理する。
特定の事業者に通知義務があるかどうかを判断するものではない。

2 結論

① 送信の目的や内容が営業やスパムであることだけを理由に,本人通知の対象外とすることはできない。
氏名やメールアドレス等によって特定の個人を識別できる回答であれば,原則として通知の対象になる。
② 法26条2項ただし書の「本人への通知が困難な場合」について,通則編ガイドラインが挙げる例は,連絡先が含まれていない場合と,連絡先が古いために連絡できない場合である。
通則編ガイドライン及びQ&Aで「通知が困難」に触れる箇所には,通知すると事業者側に危害が及ぶおそれがある場合を「困難」に当たるとした記載は見当たらない。
③ 危険な相手への通知は,まず通知の時期と方法で調整する。
施行規則10条は「当該事態の状況に応じて速やかに」通知するとしており,警察への相談,通知の名義,通知事項の範囲を検討したうえで通知する方法がある。
④ それでも直接の通知が危険な場合に,「困難」と整理して公表等の代替措置で対応する考え方もあるが,明文の裏付けがないので,危険の根拠と判断の経過を記録しておく必要がある。
⑤ 委託元が国の行政機関や地方公共団体の機関である場合は,法68条2項が適用され,民間事業者とは例外の定め方が異なる。
⑥ 令和8年改正法の施行後も,「本人への通知が困難な場合」の枠組みは維持され,これに加えて,本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合として委員会規則で定める場合にも代替措置によることができるようになる。

3 基準日と資料

本記事は,令和8年10月25日時点で,e-Gov法令検索で取得した個人情報保護法及び同法施行規則の現行条文,個人情報保護委員会の通則編ガイドライン(令和8年6月一部改正)及びQ&A(令和7年7月1日更新)に基づく。
Studio社の対応は,同社の「Studioにおける不正アクセスに関するご案内」の令和8年10月20日12時30分の更新までの記載による。
同社の調査は続いており,今後の続報によって事実関係が変わる可能性がある。

第2 Studio事案で公表されていること
1 不正アクセスと流出のおそれがある情報

Studio社の案内によれば,令和8年9月30日から10月1日にかけて,第三者が同サービスの一部機能の脆弱性を悪用して不正にアクセスし,環境内のデータを外部から取得できる状態にしており,この状態は同月14日に同社が対処するまで続いた。
同社は,実際に第三者に取得された事実は確認できていないが,取得されたものとみなして対応を進めているとしている。

流出した可能性がある情報には,同サービスの利用者のアカウント情報のほか,各サイトのフォームに送信された内容が含まれる。
暗号化して保存していたものについても,復号に必要な鍵が同じ不正アクセスで読み出されたため,内容を知られた可能性があるとされている。
フォームに添付されたファイルは,ファイル名だけが対象とされている。

2 サイト運営者とStudio社の関係

同社は,フォームの送信内容について,「弊社は、運営者からの委託を受けて、送信内容の保管などを行っています。」と説明している。

(続きを読む...)漏えい等の本人通知は殺害予告や営業メールの送り主にも必要か―個人情報保護法26条2項ただし書の「通知が困難な場合」とStudio事案(AI作成)

クロネコ代金後払いの情報漏えい(約526万件)―持ち出された項目,利用者・加盟店の対応と後払い決済の仕組み(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事が扱う事案2 結論の要旨第2 公表された事実関係1 第1報から第3報まで2 第4報(令和8年10月16日)3 二次被害と不審な連絡第3 後払い決済の仕組み1 立替払契約と保証2 割賦販売法の対象にならない理由第4 個人情報保護法上の報告と本人への通知1 報告義務を負う者2 加盟店に報告義務はあるか3 本人への通知と「代わるべき措置」第5 利用者が確認すること1 不審な連絡への対応2 商品明細が含まれることの意味3 損害賠償の見通し第6 加盟店(通販事業者)が確認すること1 自社の顧客への説明2 契約と決済手段の見直し第7 関連記事第8 出典1 公表資料2 法令・ガイドライン等3 裁判例
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事が扱う事案

本記事は,ヤマト運輸株式会社が,「クロネコ代金後払いサービス」への第三者による不正アクセスを令和8年9月28日に確認し,利用者の情報等が持ち出された事案について,公表された事実を整理した上で,利用者と加盟店(後払い決済を導入している通販事業者)が確認すべき事項と,後払い決済の法的な仕組みを説明するものである。
事実関係は,ヤマトホールディングスの公式サイトに掲載された第1報から第4報までに基づく。
本記事の記載は,令和8年10月25日時点で確認できた公表資料と法令に基づく。

2 結論の要旨

①令和8年10月16日の第4報によれば,持ち出しが判明したのは,利用者の情報約526万件,お届け先の情報約5万件及び加盟店の情報約4100件であり,利用者の情報には氏名,住所,電話番号,メールアドレスのほか,商品明細(商品名,数量,単価等)が含まれる。
②クレジットカード情報とパスワード情報は含まれておらず,第2報で漏えいの可能性があるとされた請求金額,債権残高及び同社社員の氏名は,持ち出しが確認されなかったとされている。
③個別の連絡が難しい利用者については,第4報の公表をもって通知に代えるとされており,これは個人情報保護法26条2項ただし書の「代わるべき措置」として事案を公表する方法に当たると考えられる。
④同サービスの規約上,同社は購入者との間で立替払契約を結び,加盟店から購入者の個人情報と購入情報の提供を受けるとされている。
この仕組みを前提にすると,持ち出された利用者の情報は同社が自らの事業のために取り扱っていた個人データであり,個人情報保護委員会への報告と本人への通知は,加盟店ではなく同社の義務になると考えられる。
⑤割賦販売法の個別信用購入あっせんからは,契約の締結から2か月を超えない範囲内で定められた時期までに受領するものが除かれており,商品を受け取った後に届く払込票で14日以内に一括して支払う同サービスの立替払いは,通常この除外に当たると考えられる。
⑥利用者が損害賠償を求める場合の慰謝料の水準は,漏えいした情報の内容,流出の範囲,実害の有無及び事業者の事後の対応によって決まり,商品明細という購入の内容が含まれる点がどう評価されるかは,個別の事情による。

第2 公表された事実関係
1 第1報から第3報まで

第1報(令和8年9月29日)によれば,同社は,9月28日に「クロネコ代金後払いサービス」が第三者による不正アクセスを受けたことを確認し,外部からのアクセス制限等の対策を講じるとともに,同日22時28分に同サービスを停止した。
宅急便を含む他のサービスは,通常どおり利用できるとされた。

第2報(同年10月2日)は,漏えいした可能性がある主な情報として,利用者の氏名,住所,電話番号,メールアドレス,与信番号,請求金額,債権残高及び商品明細,加盟店の加盟店名及び加盟店コード並びに同サービスを担当する同社社員の氏名を挙げた。
同時に,クレジットカード情報やパスワード情報などは含まれていないとした。

第3報(同月9日)は,同日13時に同サービスを再開したことを公表した。
サービス停止期間を考慮し,9月28日以降に支払期限を迎える払込票については期限が延長され,例えば支払期限日が10月1日の払込票は,同月18日が変更後の期限とされた。

2 第4報(令和8年10月16日)

第4報は,セキュリティ専門機関の協力を得て調査した結果,同サービスに関わる一部の情報が不正に持ち出されたことが判明したとして,次のとおり公表した。

区分情報項目対象期間件数利用者の情報氏名,住所,電話番号,メールアドレス,商品明細(商品名,数量,単価など),社内管理用情報(申込番号,受注日,与信番号など)平成30年10月1日から令和8年9月28日まで約526万件(メールアドレスを含むものは約49万件)お届け先の情報お届け先の氏名,住所,電話番号,送り状番号令和3年2月5日から令和8年9月28日まで約5万件加盟店の情報加盟店名,社内管理用情報(加盟店コード)平成30年10月1日から令和8年9月28日まで約4100件

同報は,クレジットカード情報とパスワード情報は含まれていないこと,第2報で挙げた請求金額,債権残高及び同社社員の氏名は調査の結果持ち出しが確認されなかったこと,個人向けの「クロネコメンバーズ」等の他のサービスからの持ち出しは確認されていないことも明らかにしている。

3 二次被害と不審な連絡

第4報の時点で,同社は,持ち出された情報が不正利用されたことによる二次被害は確認されていないとしている。
他方で,心当たりのない不審なメール・SMSが届いた,不審な電話がかかってきたといった問合せがあるとして,メール内のアドレスへのアクセスや添付ファイルの開封をせず,不審な電話や郵便物にも慎重に対応するよう呼び掛けている。

第3 後払い決済の仕組み

(続きを読む...)クロネコ代金後払いの情報漏えい(約526万件)―持ち出された項目,利用者・加盟店の対応と後払い決済の仕組み(AI作成)

個人情報漏えいで集団訴訟はできるか―消費者裁判手続特例法が慰謝料を原則として対象外とする理由と共同訴訟(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 「集団訴訟」と呼ばれる手続の種類1 多数の原告による共同訴訟2 選定当事者3 特定適格消費者団体による共通義務確認訴訟第3 消費者裁判手続特例法と慰謝料1 対象となる請求2 慰謝料が対象外とされてきた理由3 慰謝料が対象となる二つの場合4 個人情報漏えいが議論された経緯5 過失による漏えいの慰謝料だけを求める場合6 財産的請求と併せる場合第4 共同訴訟で請求するときの留意点1 原告ごとの主張と証明2 訴訟の目的の価額3 認容額の水準4 消滅時効5 登録,委任契約及び提訴の区別6 参加者の住所・氏名と記録の閲覧7 住所・氏名の変更と連絡・分配の管理第5 関連記事第6 出典1 法令2 公表資料3 裁判例
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事が扱う場面

大規模な個人情報の漏えいが公表されると,被害者が集まって損害賠償を求める「集団訴訟」が話題になることがある。
本記事は,個人情報の漏えいについて多数の被害者が損害賠償を求める場合に,日本の法制度上どのような手続があり,消費者裁判手続特例法(消費者の財産的被害等の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律)の手続がどこまで使えるかを説明するものである。
本記事の記載は,令和8年10月25日時点で確認できた法令と公表資料に基づく。

2 結論の要旨

①被害者がそれぞれ原告となって同じ事業者を訴える共同訴訟(民事訴訟法38条)では,確定判決の効力は当事者となった被害者に及び,訴訟に加わらなかった被害者には及ばない。
②消費者裁判手続特例法には,内閣総理大臣の認定を受けた特定適格消費者団体が原告となる共通義務確認訴訟の制度があるが,精神上の苦痛を受けたことによる損害(慰謝料)は,原則として対象から除かれている(同法3条2項6号)。
③慰謝料が除かれてきたのは,第2段階の手続で個々の債権を適切かつ迅速に判断できること(支配性)と,事業者が被害額の見通しを把握できること(係争利益の把握可能性)を確保するために,対象を類型化したためである。
④令和4年法律第59号による改正で,慰謝料も,算定の基礎となる主要な事実関係が相当多数の消費者に共通することを前提に,財産的請求と併せて請求する場合か,事業者の故意によって生じた場合に限り,対象となった。
⑤改正に先立つ消費者庁の検討会報告書は,過失による個人情報漏えいの慰謝料を対象外とすべきとの指摘と,個人情報漏えい事案かどうかで対象を決めることは妥当でないとする個人情報保護委員会の指摘の双方を記録している。
⑥その結果,事業者の過失による漏えいについて慰謝料だけを求める場合は,同法の手続を使うことができず,被害者は,自ら原告となるか,選定当事者を選定するなどして,民事訴訟法の手続で請求することになる。

第2 「集団訴訟」と呼ばれる手続の種類
1 多数の原告による共同訴訟

民事訴訟法38条は,訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき,同一の事実上及び法律上の原因に基づくとき,又は同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときは,その数人は共同訴訟人として訴えることができると定める。
同じ漏えい事故で個人情報が流出した被害者が,一つの訴えで同じ事業者に損害賠償を求めるのは,この共同訴訟に当たる。
共同訴訟でも,請求権は原告ごとに別であり,どの情報が流出したか,二次被害があったか,損害がいくらかは,原告ごとに主張し,証明する必要がある。
確定判決は当事者に対して効力を有するものであり(民事訴訟法115条1項1号),訴訟に加わらなかった被害者には及ばない。

2 選定当事者

民事訴訟法30条1項は,共同の利益を有する多数の者は,その中から,全員のために原告となるべき一人又は数人を選定することができると定める。
選定された者(選定当事者)が全員のために訴訟を追行するので,多数の被害者が全員で訴訟手続に関わる負担を減らすことができる。
選定当事者が受けた確定判決の効力は,選定をした者にも及ぶ(民事訴訟法115条1項2号)。
もっとも,選定当事者になるのは共同の利益を有する者の中の者であり,被害者でない団体が代わりに原告となる制度ではない。

3 特定適格消費者団体による共通義務確認訴訟

消費者裁判手続特例法は,特定適格消費者団体が原告となり,相当多数の消費者に共通する原因に基づいて事業者が金銭を支払う義務を負うことの確認を求める共通義務確認訴訟(第1段階)と,その後に個々の消費者の債権の存否及び内容を確定する簡易確定手続(第2段階,同法2条7号)の2段階で,消費者の被害を回復する制度を定めている。
特定適格消費者団体は,被害回復裁判手続を追行するのに必要な適格性を有する法人である適格消費者団体として,内閣総理大臣の認定を受けた者である(同法2条10号)。
個々の消費者は,第1段階の訴訟の当事者にならない。
第2段階では,簡易確定手続を申し立てた特定適格消費者団体が,対象となる消費者から授権を受けて,その債権を届け出る(同法33条1項・34条1項)。
制度の流れと最高裁判例は,消費者被害の集団的回復手続―共通義務確認訴訟と最高裁令和6年3月12日判決(AI作成)で整理している。

(続きを読む...)個人情報漏えいで集団訴訟はできるか―消費者裁判手続特例法が慰謝料を原則として対象外とする理由と共同訴訟(AI作成)

取引先から生成AIの利用に関する調査票・誓約書が届いたら―改正個人情報保護法30条の3・58条の2と回答前の確認事項(AI作成)

目次

第1 記事の対象と結論第2 取引先が調査票を送る理由1 委託元の委託先監督義務2 委託先がクラウドサービスを使う場合の注意喚起3 生成AIサービスへの入力に関する注意喚起第3 回答の前に確認すること1 預かっている情報を分ける2 契約の定めを確かめる3 社内の実際の利用状況を確かめる4 利用しているサービスの規約と設定を確かめる第4 改正法で受託者に生じる義務1 第30条の3の内容2 違反した場合3 第58条の2の特例4 契約に定める事項の検討状況5 施行までの日程第5 回答書・誓約書の書き方1 事実,予定及び約束を分ける2 規則の公表前に約束しすぎない3 全面禁止を求められたとき4 マスキングは匿名加工情報と同じではない第6 関連記事第7 出典
第1 記事の対象と結論

本記事は,業務の委託を受けて取引先から個人情報や秘密情報を預かっている事業者(以下「受託者」という。)が,取引先から生成AIの利用状況に関する調査票への回答や,生成AIへの入力を制限する誓約書・覚書への署名を求められた場合に,回答・署名の前に確認すべき事項を整理するものである。
基準日は令和8年10月25日であり,令和8年法律第56号による改正後の個人情報保護法の条文は,個人情報保護委員会が掲載する改正法の本文とe-Gov法令検索の改正後の条文で確認した。
改正法は令和8年7月17日に公布されたが,受託者の義務を定める第30条の3と,契約を条件とする特例を定める第58条の2は,公布の日から起算して二年を超えない範囲内で政令で定める日に施行され,本記事の基準日現在は施行されていない。

結論は次のとおりである。
①個人情報の取扱いの委託に伴う取引先からの調査票は,委託元が現行法第25条の委託先監督を行うための手段と位置付けられ,個人情報保護委員会も,委託先がクラウドサービスを利用している場合に,委託元がその安全性などを委託先に確認することを挙げている。
②回答の前に,預かっている情報の種類,契約の定め,社内の実際の利用状況,利用しているサービスの規約・設定を確認する。
会社として生成AIを導入していないことと,従業員が業務に使っていないことは別の事実である。
③改正法の施行後は,個人情報取扱事業者である受託者が,法令に基づく場合等を除き,委託された個人情報を委託業務の遂行に必要な範囲を超えて取り扱うことが,委託元との契約の問題にとどまらず,受託者自身の個人情報保護法違反となる(改正後の第30条の3)。
④第58条の2の特例を受けるために委託契約に定める事項は個人情報保護委員会規則で定められる予定であり,令和8年10月1日に事務局が検討の方向を示した段階であるから,現時点の回答や誓約では,確定していない事項を約束しすぎないようにすることが望ましい。

第2 取引先が調査票を送る理由
1 委託元の委託先監督義務

現行法第25条は,「個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。」と定めている。
個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-4-4は,必要かつ適切な措置として,適切な委託先の選定,委託契約の締結及び委託先における個人データ取扱状況の把握を挙げている。
同ガイドラインは,委託先の選定や取扱状況の把握に当たり,必要に応じて個人データを取り扱う場所に赴く又はこれに代わる合理的な方法(口頭による確認を含む。)により確認することが考えられるとしており,委託先への調査票は,この把握の方法の一つと位置付けることができる。

また,同ガイドライン3-6-3は,委託に伴って個人データの提供を受けた者について,「委託された業務以外に当該個人データを取り扱うことはできない。」としている。
現行法の下でも,同ガイドラインの解釈上,受託者が委託に伴って預かった個人データを委託業務以外に使うことは許されず,取引先は,生成AIへの入力がこの範囲を超えていないかを確かめようとすることになる。

2 委託先がクラウドサービスを使う場合の注意喚起

個人情報保護委員会は,令和6年3月25日,「クラウドサービス提供事業者が個人情報保護法上の個人情報取扱事業者に該当する場合の留意点について(注意喚起)」を公表した。
同注意喚起は,クラウドサービスの利用が個人データの取扱いの委託に当たるかどうかは,クラウドサービス提供事業者が個人データを取り扱うこととなっているか否かが判断の基準になるとし,利用規約で提供事業者が保守・運用上必要な場合にデータを監視・分析・調査できるとされていたこと,提供事業者が保守用IDを保有し,技術的なアクセス制御等が講じられていなかったこと等を,提供事業者が個人情報取扱事業者に該当すると判断した考慮要素として挙げている。

同注意喚起の第3項は,個人データの取扱いの委託先が,クラウドサービス提供事業者の提供するアプリケーションを利用して委託された個人データを取り扱っている場合について,「委託元である個人情報取扱事業者は、委託先事業者に対する監督の一内容として、当該クラウドサービスの安全性などを委託先事業者に確認することが考えられます。」としている。
同項は,委託先事業者のクラウドサービスの利用によって,委託先からクラウドサービス提供事業者に対する「再委託」となっている場合があることを念頭に置くよう求めている。
受託者が生成AIサービスを使って委託業務を処理する場合も,そのサービスの提供事業者が入力された情報をどう取り扱うかによって同じ問題が生じるから,調査票でサービス名・プラン・設定を尋ねられるのは,この確認のためであると考えられる。

個人情報保護委員会は,この注意喚起のポイントを解説する動画を,令和6年12月16日に公式YouTubeチャンネルで公開している。

3 生成AIサービスへの入力に関する注意喚起

個人情報保護委員会は,令和5年6月2日,「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表した。
同注意喚起は,個人情報取扱事業者が個人情報を含むプロンプトを入力する場合には,特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めている。
また,本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し,その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合には,個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるとして,生成AIサービスの提供事業者が個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めている。

(続きを読む...)取引先から生成AIの利用に関する調査票・誓約書が届いたら―改正個人情報保護法30条の3・58条の2と回答前の確認事項(AI作成)

個人情報保護法の課徴金と罰則はどう変わるか―令和8年改正の対象行為,1000人基準,算定方法と令和9年1月17日施行の罰則強化(AI作成)

目次

第1 記事の対象と結論第2 改正の経緯と施行日1 成立と公布2 罰則の見直しは令和9年1月17日に施行される3 課徴金を含む主要部分の施行日第3 課徴金制度の骨格1 導入の目的2 対象となる行為3 課される要件4 要件を満たせば納付を命じなければならない第4 課徴金の額1 対価額2 資料が提出されない場合の推計3 10年以内に繰り返した場合の加算4 自主的な報告による減額5 合併等の場合6 7年の期間制限第5 課徴金納付命令の手続1 弁明の機会2 命令の方式と納期限3 督促・延滞金・強制執行第6 政令・規則の検討状況1 対象外とする「権利利益を害する程度が大きくない場合」2 算定方法・推計方法・自主報告の方法3 今後の日程第7 令和9年1月17日に施行される罰則の見直し1 改正前後の比較2 個人情報データベース等の不正提供等罪3 不正な手段による個人情報の取得を処罰する規定の新設4 命令違反の罰則と経過期間の読替え5 国外犯第8 事業者が今から確認しておくこと第9 関連記事第10 出典
第1 記事の対象と結論

本記事は,令和8年法律第56号「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」による個人情報保護法の改正のうち,課徴金制度の新設と罰則の見直しを扱う。
基準日は令和8年10月25日であり,条文はe-Gov法令検索に収録された改正後の条文と,個人情報保護委員会が掲載する改正法の本文で確認した。

結論は次のとおりである。
①罰則の見直しは,附則第1条第3号により,公布の日から起算して六月を経過した日である令和9年1月17日に施行される。
②課徴金制度は改正法の主要部分とともに,公布の日から起算して二年を超えない範囲内で政令で定める日に施行され,本記事の基準日現在,その日は定まっていない。
③課徴金の対象は,違法な行為又は不当な差別的取扱いが想定される第三者への個人情報の提供等,第三者提供の制限に違反する個人データの提供,統計作成等の特例に違反する取扱い及び不正に取得した個人情報の利用に限られ,本人の数が千人を超えないとき等は課されない。
④課徴金の額は,違反行為又は違反行為をやめることの対価として得た金銭等に相当する額であり,算定方法や対象外とする場合の細目は,政令及び個人情報保護委員会規則の検討段階にある。

第2 改正の経緯と施行日
1 成立と公布

改正法の法律案は令和8年4月7日に国会へ提出され,同年7月10日に成立し,同月17日に公布された。
個人情報保護委員会の改正法の特設ページも,この経緯を掲げた上で,政令・規則・ガイドライン等の検討を進めているとしている。

2 罰則の見直しは令和9年1月17日に施行される

改正法附則第1条本文は,改正法を「公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と定める。
もっとも,同条第3号は,罰則の改正規定等について,「公布の日から起算して六月を経過した日」から施行すると定めている。
公布の日が令和8年7月17日であるから,罰則の見直しは令和9年1月17日に施行され,課徴金を含む主要部分よりも先に適用が始まる。

3 課徴金を含む主要部分の施行日

課徴金制度を定める改正後の第148条の3から第148条の17までは,附則第1条本文の政令で定める日から施行される。
e-Gov法令検索の改正履歴でも,主要部分の施行日は「公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日」と表示されており,本記事の基準日現在,施行日を定める政令は確認できない。

第3 課徴金制度の骨格
1 導入の目的

個人情報保護委員会事務局の「個人情報保護法等の一部を改正する法律について」は,現行法では,違反事業者が勧告・命令等を受けた後に違反行為を中止すれば,違反行為から得た経済的利得をそのまま保持することが可能であると説明している。
そのうえで,経済的誘因のある,大量の個人情報の取扱いによる悪質な違反行為を実効的に抑止するため,重大な違反行為により個人の権利利益が侵害された場合等について,違反行為によって得られた財産的利益等に相当する額の課徴金の納付を命ずることとしたと説明している。

2 対象となる行為

改正後の第148条の3第1項は,次の行為を課徴金の対象とする。
①個人情報を利用して違法な行為又は不当な差別的取扱いを行うことが想定される状況にある第三者に対する個人情報の提供
②第三者の求めにより行う個人情報の利用であって,その第三者が利用を通じて違法な行為又は不当な差別的取扱いを行うことが想定される状況にある場合に行われるもの
③第27条第1項の規定に違反する個人データの提供
④統計作成等の特例について定める第30条の2第4項若しくは第9項又は第31条の3第5項の規定に違反する個人情報の取扱い

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能動的サイバー防御は企業の要請で発動するのか―GMOの公表事案と政府の判断を分けて読む(AI作成)

目次

第1 GMOインターネットは何を公表したか1 発表主体と対象サービス2 企業による要請と政府の決定第2 企業の要請だけで措置が決まるわけではない理由1 警察のアクセス・無害化措置2 自衛隊の通信防護措置3 被害企業自身の措置との違い第3 対象企業と施行時期の読み方1 届出・報告義務の対象は別に確認する2 全制度が同時に施行されたわけではない第4 企業・顧問弁護士が公表を読む際の確認事項第5 よくある質問1 GMOの要請は政府による発動の発表なのか2 被害企業が要請すれば必ず無害化されるのか

企業が政府に能動的サイバー防御を求めた場合,その公表だけで,国が攻撃元のサーバーに対する措置を決定したことになるわけではない。
企業が何を公表したか,法律がどの機関にどのような権限を与えているか,実際に何が決まったかを分けて確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月24日11時50分時点のGMOインターネット株式会社の公式発表と政府資料に基づき,この区別を整理する。
政府の個別対応については,確認できた範囲を超えて断定しない。

第1 GMOインターネットは何を公表したか
1 発表主体と対象サービス

GMOインターネット株式会社(証券コード4784)は,「お名前.com デスクトップクラウドサービス」に対するサイバー攻撃について第4報を公表した。
同社は,不正アクセスと顧客情報の外部持出しを確認し,一部の利用者から取引口座の身に覚えのない取引に関する報告を受けたと説明している。
これらは同社の調査・報告内容であり,本記事で被害の全容や個々の取引との因果関係を独立して認定したものではない。

公式発表:https://internet.gmo/news/article/249/

2 企業による要請と政府の決定

同社は,警察や所管官庁への初報,捜査への協力,影響を受けたシステムのネットワーク接続停止等を説明している。
末尾の政府への具申に関する記載では,本件を能動的サイバー防御の「発動第1号」の事案と位置付け,政府関係機関に緊急要請したとしている。

ここで確認できるのは,企業がそのように位置付けて要請を公表したことである。
「発動第1号」は企業側の表現であって,政府が同事案について初めての措置を決定・実施したことを示す政府発表ではない。

要請文書の原文,具体的な宛先,政府の受理・審査状況,措置の決定・実施については,本記事で確認した公表資料からは確定できない。
政府が実施したとも,実施を拒否したとも断定できない。

熊谷正寿氏は,令和8年10月25日付ブログ(同月26日の追記を含む。)で,政府に対する働きかけについて,現行制度の対象範囲等を踏まえつつ,サイバー攻撃に対して国全体で対応するための制度・運用を求める趣旨を説明している。同氏の政策上の要望と,政府による個別の措置の決定・実施は,引き続き区別して読む必要がある。

このブログは企業の代表者による発信であり,政府の判断を示す文書ではない。対象事業者等への該当性も,企業側の説明だけで法的に確定したとは扱わず,関係法令と指定等の資料によって別に確認する。

出典:熊谷正寿氏の令和8年10月25日付ブログ。

第2 企業の要請だけで措置が決まるわけではない理由
1 警察のアクセス・無害化措置

整備法によって新設された警察官職務執行法6条の2は,警察庁長官が指名するサイバー危害防止措置執行官の権限を定めている。
同条2項は,加害関係の通信や記録等を認め,放置すれば人の生命・身体・財産に重大な危害が発生するおそれがあるため緊急の必要がある場合を対象とする。
被害企業が要請したという事実だけで,これらの要件を満たすとは判断できない。

同条4項では,サイバー通信情報監理委員会の事前承認を原則とし,承認を得るいとまがないと認める特段の事由がある場合の例外も定めている。
対象計算機が国内に設置されていると認める相当な理由がない場合の主体・協議等にも別の規定があり,要請の有無だけで処理が完結する制度ではない。

条文の確認先(令和7年法律第43号2条による改正部分):https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/21720250523043.htm

2 自衛隊の通信防護措置

(続きを読む...)能動的サイバー防御は企業の要請で発動するのか―GMOの公表事案と政府の判断を分けて読む(AI作成)

英会話教室の中途解約と返金―受講済み授業料の単価と解約料の上限(AI作成)

目次

第1 中途解約では何を差し引けるのか1 受講済みの授業料と解約料を分ける2 中途解約とクーリング・オフは扱いが違う第2 すべての英語学習サービスが同じ扱いになるのか第3 解約したときだけ単価を上げてよいのか1 最高裁が扱ったポイント制の授業契約2 契約時の単価と別の高額な精算単価第4 返金額の計算例1 契約残額の20%が5万円を下回る場合2 5万円の上限が働く場合第5 返金を求める前に残しておく資料第6 教室が倒産した場合は返金の計算と回収を分ける
第1 中途解約では何を差し引けるのか

英会話教室の授業料をまとめて前払いした後,途中で通うのをやめた場合,返金額は「未受講の回数」だけでは決まらない。
契約時の単価,受講済みの回数,解約料の約定,特定商取引法の適用を分けて確認する必要がある。

本記事では,消費者庁の特定商取引法ガイドと,最高裁の外国語会話教室の受講料清算事件を基に,受講開始後の中途解約を中心に説明する。

以下は,特定継続的役務提供契約(特定商取引法41条1項1号)の授業料を全額前払いし,同法50条の適用除外に当たらない場合を中心とする説明である。

1 受講済みの授業料と解約料を分ける

特定商取引法の対象となる語学教室では,クーリング・オフ期間の経過後でも,将来に向かって契約を中途解約できる。
受講開始後に事業者が請求できる額には制限がある。
同法49条2項1号は「提供された特定継続的役務の対価に相当する額」と,解除によって通常生ずる損害の額を分けている。

語学教室の解約によって通常生ずる損害の上限は,5万円と契約残額の20%を比べた低い方である。
ここでいう契約残額は,契約に関する役務の対価総額から,既に提供された役務の対価相当額を差し引いた額である。
契約時に解約料や違約金を約束していても,この法定の制限を超える額を請求できるわけではない。
なお,同法49条2項には法定利率による遅延損害金の加算も定められており,後掲の計算例ではこれを含めていない。

この上限額が,事業者に当然に発生する定額の解約料という意味ではない。
実際の精算では,約定の有無・内容,入学金等の扱い,関連商品の有無も確認する。

2 中途解約とクーリング・オフは扱いが違う

クーリング・オフは,法定の契約書面を受け取ってから一定期間内に行う解除であり,受講開始後の中途解約と同じ計算をする制度ではない。
本記事の計算例を,そのままクーリング・オフの精算へ使うことはできない。

消費者庁の説明:
https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/

第2 すべての英語学習サービスが同じ扱いになるのか

特定継続的役務提供として規制される語学教室は,語学の教授を内容とし,契約期間が2か月を超え,契約金の総額が5万円を超えるものが基本となる。
語学を教える契約であっても,入学試験の準備や学校教育の補習に当たる場合には,語学教室としての指定との区別が必要である。
また,営業のために締結する契約など,適用除外もある。
同法50条2項は,特定継続的役務等の割賦販売について,49条2項等の請求額の制限を適用しないと定めている。
これは中途解約権そのものの有無とは別の問題であり,分割払い等を利用している場合は,契約内容と支払方法を示す資料をそろえて,適用される規定を別に確認する。

対面かオンラインかだけで対象の内外は決まらない。
消費者庁は,インターネット等を用いて役務を提供する場合も広く含まれると説明している。
一方,録画教材の購入,短期間の講座,法人の研修契約などを,名称だけで同じ規制の対象と決めることはできない。

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Microsoft 365の外部アプリ権限と情報漏えい―ConnectWise事案から学ぶ点検事項(AI作成)

目次

第1 MFAを設定していても確認すべき経路第2 利用者の権限とアプリの権限はどう違うか1 利用者に代わるアクセスとアプリ自身のアクセス2 アプリの資格情報には証明書やシークレットがある第3 ConnectWiseに関する報告で確認できること1 既存の信頼関係が悪用されたとの報告2 認証成功とデータ取得は別の事実である第4 管理担当者に確認したいこと1 外部アプリの台帳2 利用者ログだけで調査を終えない3 条件付きアクセスの適用範囲第5 疑わしいアクセスが見つかったとき1 封じ込めと証拠保全を並行する2 事業者への質問を具体化する3 法務は事実の整理を技術担当と共有する第6 出典・関連記事
第1 MFAを設定していても確認すべき経路

Microsoft 365の不正アクセス対策では,利用者のパスワードや多要素認証(MFA)に注目しがちである。
しかし,バックアップなどの外部サービスが,利用者の操作を介さずに組織のデータへアクセスする構成もある。
利用者のログイン経路と,アプリが自身の資格情報でアクセスする経路を,分けて点検する必要がある。

Microsoftは,令和8年10月21日の調査報告で,ConnectWiseに関係するアプリケーション資格情報を悪用し,既にアクセスを許可していた顧客環境へアクセスする活動を報告した。
本稿は,同月24日までに確認した報告と公式仕様を基に,外部アプリの権限,証拠保全及び委託管理上の点検事項を整理する。
個々の企業の被害や責任を認定するものではない。

第2 利用者の権限とアプリの権限はどう違うか
1 利用者に代わるアクセスとアプリ自身のアクセス

Microsoftの公式説明は,利用者に代わって行う委任アクセスと,利用者の対話的な操作を介さず,アプリ自身のIDで行うapp-onlyアクセスを区別している。
後者は,自動処理や複数の利用者の情報を扱うバックアップなどに使われる。

アプリにどの操作を許すかは,付与されたアプリケーション権限などによって決まる。
外部サービスと契約していることだけでなく,自社環境で何を許可したかを確認しなければならない。

2 アプリの資格情報には証明書やシークレットがある

サービスプリンシパルとは,組織の環境内でアプリなどの主体を表すものである。
そのサインインでは,アプリが証明書やクライアントシークレットなどの資格情報を用いる場合がある。
利用者がその都度パスワードを入力する処理とは異なる。

したがって,利用者のパスワード変更やMFAの設定確認だけで,アプリ側の資格情報や既存の権限まで点検したことにはならない。
MFAを継続しながら,アプリのID,所有者,資格情報,付与権限及び利用状況も調べることが必要である。

第3 ConnectWiseに関する報告で確認できること
1 既存の信頼関係が悪用されたとの報告

Microsoftは,Storm-0940と呼ぶ攻撃者がARTEXを用い,侵害したアプリケーションの資格情報を通じて顧客環境へアクセスしたと評価している。
報告が説明するのは,利用者の対話型ログインを必要としない経路である。
「AIがあらゆるMFAを破った」と言い換えることは適切でない。

ConnectWiseもCloud Backup(旧SkyKick)に関連するアプリケーション資格情報への不正アクセスを公表し,調査及び復旧に関する情報を更新している。
別の製品やポータルについての復旧告知を,Cloud Backupの復旧完了と読み替えないよう注意が必要である。

2 認証成功とデータ取得は別の事実である

Microsoftは,影響するアプリの存在や攻撃者による認証成功だけで,顧客データへのアクセス又は外部への持ち出しがあったとは限らないと説明している。
これは,被害がないと確認したという意味でもない。

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ARTEXとは―AIサイバー攻撃の仕組みと企業が確認すべき対策(AI作成)

目次

第1 ARTEXについて最初に押さえること第2 AIモデル・攻撃ツール・攻撃者を分ける1 AIモデルは判断や文章生成を担う2 ARTEXは複数の処理を組み合わせる基盤である3 使用ツールだけでは攻撃者を特定できない第3 韓国・国内・ConnectWiseの報告は何が違うか1 CrowdStrikeによる韓国金融分野の調査2 JPCERT/CCによる国内向けの注意喚起3 MicrosoftによるStorm-0940の調査第4 企業が点検すべきこと1 公開システムと権限を点検する2 ログと初動の担当を決める3 IPアドレスだけで断定しない第5 被害調査と責任の問題を混同しない第6 出典・関連記事
第1 ARTEXについて最初に押さえること

ARTEXは,AIを利用するペネトレーションテストのための基盤であり,特定のAIモデルそのものの名称ではない。
ペネトレーションテストとは,実際の攻撃に近い方法でシステムへの侵入の可能性などを調べる試験である。

Microsoft及びCrowdStrikeは,令和8年10月,ARTEXを悪用した攻撃について調査結果を公表した。
JPCERT/CCも同月23日の注意喚起の更新で,ARTEXなどを悪用した攻撃試行を取り上げている。

企業にとっての問題は,「中国のAIだから危険」という分類だけでは捉えられない。
公開システムの脆弱性,管理不備,外部サービスに与えた権限などを,攻撃者がAIを使って効率よく探索・悪用し得る点にある。
本稿は,令和8年10月24日までに確認した公表資料を基に,仕組みと対策を整理する。

第2 AIモデル・攻撃ツール・攻撃者を分ける
1 AIモデルは判断や文章生成を担う

AIモデルは,入力された情報を基に解析や次の行動の提案などを行う。
どのモデルを使用したかと,どの組織が攻撃したかは,別々の確認事項である。

2 ARTEXは複数の処理を組み合わせる基盤である

Microsoftの説明によれば,ARTEXは,複数のAIエージェントを用いる基盤である。
AIモデルを呼び出すだけでなく,調査や試行の処理を組み合わせて進める。
使用するモデルを変更できるため,ARTEXの悪用を特定のモデル1製品の問題に限定することはできない。

CrowdStrikeが調査した韓国向けの活動では,ARTEXの主なモデルとしてDeepSeekが使われていたと報告されている。
同報告に登場する別のモデルの利用記録まで,すべて同一のARTEX設定だったと読むべきではない。

3 使用ツールだけでは攻撃者を特定できない

同じツールを異なる攻撃者が利用することがある。
「ARTEXが見つかった」という事実だけから,国,組織,動機又は他の事件との同一性まで確定することはできない。
攻撃者の帰属に関する評価には,観測資料と評価の確度を付けて読む必要がある。

第3 韓国・国内・ConnectWiseの報告は何が違うか
1 CrowdStrikeによる韓国金融分野の調査

CrowdStrikeの令和8年10月7日付け報告は,韓国の金融分野を狙う活動について,公開状態にあった攻撃側の記録などを分析したものである。
同社は,中国語を使用し,金銭目的とみられる攻撃者との評価を示しているが,その確度は中程度とされている。
確定した捜査結果又は裁判所の認定として紹介することは適切でない。

2 JPCERT/CCによる国内向けの注意喚起

JPCERT/CCは,令和8年10月23日,注意喚起にケースEを追加した。

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レジデンシャルプロキシとは―家庭用IoT機器が犯罪の踏み台になる仕組みと対策(AI作成)

目次

第1 レジデンシャルプロキシについての結論1 家庭の回線を第三者へ使わせる仕組み2 利用者が承知している場合と知らない場合がある第2 国内で確認された規模1 一日最大約2万7000のIPアドレス2 不正送金事件との関係第3 どのような機器が悪用されるのか1 動画視聴端末,ルーター及びカメラ2 無料VPN及び提供元不明のアプリ3 DDoSボット等が追加される危険第4 悪用されていないか確認する方法1 機器とアプリを一覧にする2 通信量と設定の変化を見る3 外部からの到達可能性を確認する第5 悪用が疑われたときの初動1 通信を止めることと電源を切ることを分ける2 初期化や更新の前に記録を残す3 連絡先を整理する第6 平時の対策1 不審な機器及びアプリを導入しない2 更新とサポート期限を管理する3 JC-STAR及びNOTICEを利用する第7 法的責任の考え方1 機器の利用者2 メーカー,販売者及びサービス提供者3 直接判例の確認状況第8 よくある質問1 レジデンシャルプロキシを使うこと自体が違法ですか2 無料VPNを削除すれば安全ですか3 家庭用ルーターを初期化すべきですか第9 出典と確認範囲
第1 レジデンシャルプロキシについての結論

家庭の動画視聴端末,ルーター,ネットワークカメラ等が,利用者の知らない間に第三者の通信を中継する「レジデンシャルプロキシ」として悪用されている。
通信先からは一般家庭のIPアドレスによるアクセスに見えるため,不正送金,不正アクセス及びサイバー攻撃の実行者を隠す基盤となり得る。
本記事では,NICT,総務省及び警察庁の令和8年7月の公式資料を中心に,仕組み,国内の観測結果,確認すべき兆候,初動及び事業者の管理を整理する。

1 家庭の回線を第三者へ使わせる仕組み

レジデンシャルプロキシは,一般家庭向けのインターネット回線に接続した機器が,第三者の通信を中継する仕組みである。
通信先のサービスには家庭へ割り当てられたIPアドレスが記録されるため,攻撃者自身の接続元を把握しにくくなる。
企業が海外のデータセンター等からのアクセスを制限していても,国内の一般家庭からの通信に見えることで,不正検知を回避されることがある。

2 利用者が承知している場合と知らない場合がある

利用規約を読んで通信帯域を提供するサービスもあれば,提供元不明のアプリやマルウェアによって,利用者が気付かないまま中継機器にされる場合もある。
無料VPN又は「通信帯域を提供すれば収益が得られる」とうたうサービスについても,誰の通信をどの目的で中継するかを確認する必要がある。
利用者の認識,表示及び同意の有無と,実際に犯罪へ利用されたかは分けて調べる。

第2 国内で確認された規模
1 一日最大約2万7000のIPアドレス

NICTは,令和8年1月以降,一日当たり最大約2万7000のIPアドレスをレジデンシャルプロキシの出口ノードとして観測した。
国内には少なくとも数万台規模のレジデンシャルプロキシが存在すると推定している。
ここでいう数値は観測されたIPアドレス等に基づく推定であり,全ての家庭用IoT機器の台数ではない。

2 不正送金事件との関係

警察庁の分析では,令和6年中のインターネットバンキング不正送金事犯のうち,少なくとも1918件,被害額約28億9000万円でレジデンシャルプロキシが利用されていた。
被害件数全体の約44%,被害額全体の約33%に当たるとされる。
これは,レジデンシャルプロキシ自体が送金を行ったとの意味ではなく,攻撃者が接続元を隠す経路として利用したとの分析である。

第3 どのような機器が悪用されるのか
1 動画視聴端末,ルーター及びカメラ

公式ファクトシートは,「テレビに接続して無料で国内外の動画を視聴できる」などとうたう動画ストリーミング機器,ルーター,ネットワークカメラ及びデジタルフォトフレーム等を挙げている。
安価で提供者又は更新方法が不明な機器,初期パスワードのままの機器,インターネットへ管理画面を公開している機器及びサポート終了後の機器は,特に確認が必要である。

2 無料VPN及び提供元不明のアプリ

パソコン又はスマートフォンへ導入した無料VPN,提供元不明のアプリ及び通信帯域提供サービスによって,端末又は家庭内の機器が中継に使われることがある。
アプリを削除しただけで,ルーターや別のIoT機器に導入されたプログラムまで消えたとは限らない。
同じネットワークに接続している機器,管理アカウント及び外部通信を併せて確認する。

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AIワームとは―スマート家電を乗っ取る「デジタル粘菌」は実現したのか(AI作成)

目次

第1 AIワームについての結論1 AIワームとは何か2 既に確認されたことと未確認のこと第2 Anthropicが行った実験1 複数のテレビ端末による分散推論2 異なる機器への推論環境の構築3 隔離環境での伝播実験第3 「2026年末にも可能」の意味第4 従来型ワーム及びAI支援型攻撃との違い1 人がAIを道具として使う攻撃2 AIエージェントが対象ごとに攻撃方法を変える場合3 モデル自体が機器間を移動する場合第5 フランスの冷凍設備攻撃とは別の問題である第6 日本法上の位置付け1 攻撃者について問題となる犯罪2 メーカー,サービス事業者及び利用者の責任第7 スマート家電やIoT機器の対策1 平時に確認すること2 異常が疑われた場合第8 よくある質問1 AIワームは既に家庭で増殖していますか2 テレビ15台が乗っ取られたのですか3 フランスの冷凍設備攻撃はAIワームですか4 感染が疑われる機器は直ちに初期化すべきですか第9 出典と確認範囲
第1 AIワームについての結論

令和8年10月,Anthropicは,小型のAIモデルがスマート家電等のIoT機器上で自らの推論環境を構築し,別の機器へ広がる「AIワーム」が現実に近付きつつあるとの実験結果を公表した。
もっとも,家庭内の機器へ侵入し,自律的に増殖を続ける完全なAIワームが実環境で確認されたわけではない。
本記事では,実証された範囲,研究上の予測及び報道や専門家が付け加えた評価を分けた上で,日本法上の問題と利用者・事業者の対策を整理する。

1 AIワームとは何か

コンピュータワームは,人による個別操作を待たず,他のコンピュータへ自らを複製して広がるプログラムである。
Anthropicが検討したAIワームは,モデルの重みを攻撃用プログラムの一部として運び,又は公開された配布元から再取得し,侵害した機器上でAIによる推論を行う仕組みである。
従来型ワームがあらかじめ組み込まれた攻撃手順を繰り返すのに対し,AIワームは,遭遇した機器の種類や状態を読み取り,その機器に合わせた手順を組み立てる可能性がある。

2 既に確認されたことと未確認のこと

Anthropicは,安価なAndroid TV端末15台を連携させ,約260億パラメータのモデルを動かした。
また,約90億パラメータのモデルは,試した9種類の機器のうち8種類で推論環境を構築した。
隔離されたクラウド環境では,認証のない接続口を通じて,実験用ワームが複数のノードへ伝播した。

他方,現実の家庭や事業所へ無差別に侵入し,機器を探し,脆弱性を発見し,推論環境を構築し,さらに増殖する全工程を一つの小型モデルが完遂したわけではない。
Anthropic自身も,完全な自律型複製体はまだ得られていないと説明している。
したがって,「AIワームが既に野外で増殖している」「テレビ15台が自動的に乗っ取られた」とは書けない。

第2 Anthropicが行った実験
1 複数のテレビ端末による分散推論

実験に用いられたのは,1台約55ドル,メモリ4GBの市販Android TV端末15台である。
端末間でモデルの処理を分担させ,約260億パラメータのモデル(Gemma4-26B-A4B)を1秒当たり約0.39トークンの速度で動かした。
これは,安価な機器を多数集めれば一定規模のAIモデルを動かせることを示すが,実用的な高速処理や自動侵入を示すものではない。

冷蔵庫,オーブン,掃除機及び芝刈り機等は,計算資源を分散配置する脅威モデル上の例である。
これら全てを実際に乗っ取ってモデルを動かしたとの実験結果ではない。

2 異なる機器への推論環境の構築

約90億パラメータのモデルは,異なる9種類の機器のうち8種類で,自分を動かすための推論環境を構築した。
この実験は,機器ごとに異なるOS,計算環境又は導入手順へAIが対応できるかを調べたものである。
対象機器へ侵入するための脆弱性の発見及び攻撃は,実験の中心から外されている。

3 隔離環境での伝播実験

端から端までの伝播実験では,ファイアウォールで隔離された仮想環境に8台のクラウドノードとAndroidエミュレータを配置し,最初の感染点を研究者が用意した。
ワームは認証のない接続口を通じてノード間を移動し,各ノードで推論環境が正しさの確認を通過すると次のワームが起動する仕組みが用いられた。

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メタに約4兆円の制裁金―ケンブリッジ・アナリティカ事件と4389万件の「違反」の数え方(AI作成)

目次

第1 ニューメキシコ州地裁が命じた内容第2 4389万9725件の内訳第3 違反件数はどのように計算されたか第4 陪審と裁判所が問題とした5分野1 利用者によるデータ管理及び「データを売らない」との表示2 第三者アプリの調査及び利用者への通知3 誤情報及びヘイトスピーチへの対応4 政治家・著名人等に対する異なる取扱い第5 ケンブリッジ・アナリティカ事件との関係第6 上限約2195億ドルから250億ドルになった理由第7 日本の個人情報漏えい慰謝料と単純比較できない理由第8 第一審判決であり,控訴と差止めの審理が残っている第9 子どもの安全を巡る別事件との区別第10 関連記事第11 出典及び確認範囲
第1 ニューメキシコ州地裁が命じた内容

令和8年10月21日,米国ニューメキシコ州第1司法地区裁判所は,State of New Mexico ex rel. Raúl Torrez v. Meta Platforms, Inc.(事件番号D-101-CV-2021-00132)について,Facebookを運営するMeta Platforms, Inc.に対し,250億ドルの民事制裁金を命じた。
ただし,陪審が認定した4389万9725件は,個人情報が漏えいした人数でも,被害者の人数でもない。
Metaが公表した26個の表示ごとに,その表示を受けることが予想された州内の利用者数又は人口を積み上げた州消費者保護法上の違反件数である。

判決は,支払済みとなるまで年15%の利息を付すとしている。
州が求めている差止めその他の非金銭的救済については,追加の書面提出と審理に留保された。

本件は,利用者の個人情報を直接流出させたことだけに対する損害賠償請求ではない。
ニューメキシコ州が,同州のUnfair Practices Actに基づき,Facebookが利用者に向けて行った表示が不公正又は欺瞞的であったと主張した州法上の執行事件である。

本記事では,ニューメキシコ州裁判所が公開した判決及び陪審評決票に基づき,報道だけでは分かりにくい違反件数の数え方,ケンブリッジ・アナリティカ事件との関係,250億ドルの位置付け及び日本の個人情報漏えい慰謝料との違いを整理する。
これは第一審の判断であり,Metaは控訴する方針を示している。

第2 4389万9725件の内訳

陪審は,次の5分野について,合計26個の表示を不公正又は欺瞞的な取引行為と認定した。

分野認定された表示の数違反件数利用者によるデータ管理及び「データを売らない」との表示6件1045万9944件誤情報対策についての表示2件348万6648件ヘイトスピーチ対策についての表示5件764万6592件政治家・著名人等にも同じ基準を適用するとの表示3件415万9944件第三者アプリの調査及び利用者への通知についての表示10件1814万6592件不公正又は欺瞞的な表示の合計26件4389万9720件

陪審は,これとは別に,上記5分野の各1件について非良心的取引行為を認定した。
そのため,評決上の総数は4389万9725件である。

第3 違反件数はどのように計算されたか

判決によれば,Facebookのニューメキシコ州における令和2年6月30日時点の月間利用者数は138万6648人であり,同州の人口は約210万人であった。

陪審は,各表示について,表示の方法及び想定された対象に応じて,138万6648人又は約210万人を違反件数として計上した。
例えば,令和2年のFacebook投稿について138万6648件,連邦議会で広く報道された発言等について約210万件という形である。

同じ利用者が複数の表示を見た可能性があり,同一人物が複数回計上されている。
また,実際に全員が各表示を閲覧したことを個別に立証した人数でもない。
したがって,4389万9725件を「漏えいした人数」又は「被害者数」と書き換えることはできない。

第4 陪審と裁判所が問題とした5分野
1 利用者によるデータ管理及び「データを売らない」との表示

陪審は,Facebookが,利用者は自己のデータを管理できる,個人データを販売しない,広告主に利用者を識別する情報を渡さないなどと説明した6個の表示を問題とした。

ここでは,「データを販売しない」という言葉と,利用者の行動等を自社内で分析し,広告主が特定の属性又は関心を持つ利用者へ広告を表示できるようにする仕組みとを区別する必要がある。
情報を商品として広告主へ引き渡すことと,プラットフォームが情報を保持したまま広告配信に利用することは,同じではない。

2 第三者アプリの調査及び利用者への通知

平成30年3月以降,Metaは,大量のデータへアクセスしたアプリを調査し,疑わしいアプリについて監査を行い,データを不正利用した事業者を排除し,影響を受けた利用者へ通知すると公表した。

(続きを読む...)メタに約4兆円の制裁金―ケンブリッジ・アナリティカ事件と4389万件の「違反」の数え方(AI作成)

ESTA・ETAの申請代行サイトで高額請求されたら―申請状況,解約・返金とカード会社への相談(AI作成)

目次

第1 渡航手続の確認と返金交渉を同時に進める1 申請済みの場合2 申請が確認できない場合第2 公式サイトと最新料金の調べ方1 米国のESTA2 英国のETA第3 代行業者への解約・返金申入れ1 保存する資料2 申入れの理由を具体化する第4 カード会社・消費生活相談窓口への相談第5 海外旅行の公的情報をまとめて確認する
第1 渡航手続の確認と返金交渉を同時に進める

ESTAやETAを公式サイトで申し込んだつもりが,民間の申請代行サイトから高額な料金を請求された場合は,実際の申請状況を公式窓口で確認することが先決である。
返金交渉が続いていても,渡航に必要な手続が完了しているとは限らない。
申請の有無,登録情報及び審査状況の確認と,代行業者への解約・返金の申入れを分けて進める必要がある。

国民生活センターは,公式サイトと勘違いした例だけでなく,申請されたか分からない例や,キャンセルできない例も紹介している。
高額な代行料を支払ったという一つの事情から,申請が無効である,又は全額返金を請求できると一律に判断することはできない。
出典:国民生活センター・電子渡航認証等の申請代行サイトに関する注意喚起

1 申請済みの場合

公式の照会画面等で申請状況を確認できた場合は,旅券番号,氏名その他の登録情報が正しいかを確認する。
代行料の説明や同意に問題がなかったかという契約上の争点と,認証手続の有効性は別の問題となる。
承認されている場合でも,それだけで入国が保証されるわけではない。

2 申請が確認できない場合

代行業者には,申請番号,提出日時及び手続状況を尋ねる。
出発が迫っている場合は,必要な手続と処理期間を公式窓口や航空会社に確認し,返金の回答を待つだけで時間を失わないようにする。
重複申請や再申請の要否も,業者の説明だけで判断しない。

第2 公式サイトと最新料金の調べ方
1 米国のESTA

米国の公式申請先は esta.cbp.dhs.gov である。
米国連邦取引委員会(FTC)の案内は,公式サイトに似せたサイトへの注意を促すとともに,公式サイトで申請状況を照会する方法を案内している。
検索結果の広告表示や,サイトの名称に「公式」を連想させる言葉があることだけで判断せず,接続先のドメインを確認する。

令和8年10月22日に確認したFTCの説明では,公式料金は申請処理料10.27米ドルと,承認された場合の追加30米ドルで構成される。
処理料は承認の有無にかかわらず返金されないと説明されているが,これは政府に納める処理料についての説明であり,民間業者への代行料の返金可否を決めるものではない。
料金や申請方法は変更されるため,実際の申請時には公式サイトの最新表示を確認する必要がある。
出典:FTC・How to avoid scams while applying for ESTA

2 英国のETA

英国政府の公式案内は GOV.UKのETA案内 である。
令和8年10月22日に確認した同ページは,料金を20ポンドとし,他のサイトでは追加料金が生じる場合があること,政府サービスを模倣するサイトを避けることを案内している。
既にETAがあるか,有効期限がいつかを確認するための公式照会先も,同ページからたどることができる。

「ETA」という略称が同じでも,国によって制度,申請先及び料金は異なる。

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海外サブスクの解約と返金―継続課金を止める手順,証拠の残し方と相談先(AI作成)

目次

第1 身に覚えのない継続課金に気付いたとき1 自分の申込みによる請求かを確認する2 サービスの利用停止と契約の解約を区別する第2 解約できないときに残す資料第3 事業者への申入れ方1 今後の自動更新を止める申入れ2 既に支払った代金の返金を求める申入れ3 日本法による取消し等を一律に断定しない第4 カード会社と消費生活相談窓口への相談第5 相談に持参する時系列メモ
第1 身に覚えのない継続課金に気付いたとき

海外のサービスから毎月請求されていると気付いたときは,契約先と請求内容を確認し,今後の更新を止める手続と,既に支払った代金の返金申入れを分けて進める必要がある。
まず,利用したサイト,申込完了メール,アカウントの契約画面及びカード利用明細を保存し,契約先の解約窓口とカード会社に連絡する。

国民生活センターは,安価な試用だと思って申し込んだ後に月額料金が発生する海外サブスクリプションの相談事例を公表している。
少額の初回決済だけで契約内容を判断せず,自動更新の有無,次回請求日及び解約条件まで確かめることが出発点となる。
出典:国民生活センター・海外サブスクリプション契約の注意喚起

1 自分の申込みによる請求かを確認する

最初に,請求日,金額,通貨,明細上の事業者名及び利用したメールアドレスを照合する。
家族の利用,別のアカウント,アプリストア経由の契約も考えられるため,明細の表示だけで請求先を決めつけない。
申込み自体に心当たりがないときは,不正利用の疑いとしてカード会社にその旨を伝える。

2 サービスの利用停止と契約の解約を区別する

アプリを削除したこと,サイトにアクセスしなくなったこと及びカードを変更したことだけで,事業者との契約が解約されたとは判断できない。
契約画面や規約に従って自動更新の停止又は解約を申し入れ,処理完了画面と確認メールを保存する。
解約後も利用できる契約では,利用終了日と次回更新が停止したことをそれぞれ確認する。

第2 解約できないときに残す資料

解約ボタンが見つからない場合や,操作してもエラーになる場合は,その画面と日時を記録する。
問い合わせフォームを送信した場合も,送信内容,受付番号,自動返信及びその後の回答を一組で残す。
個人情報が写る画面は,第三者への相談時に必要な範囲で提示し,公開の掲示板等には載せない。

次の資料があれば,いつ,何を,どの条件で申し込んだのかを説明しやすい。

- 申込みに至った広告,サイトのURL及び価格表示
- 試用期間,自動更新,請求周期及び解約期限の表示
- 最終確認画面,申込完了メール及び当時の利用規約
- 各回の請求日・金額・通貨が分かる利用明細
- 解約操作の記録,連絡履歴及び解約完了の通知

契約時の表示は後から変わることがある。
現在の画面だけで当時の説明を再現しようとせず,保存済みのメールや画像を優先して整理する。

第3 事業者への申入れ方
1 今後の自動更新を止める申入れ

事業者には,契約を特定できるメールアドレスや注文番号を示して,自動更新の停止又は解約を求める。

(続きを読む...)海外サブスクの解約と返金―継続課金を止める手順,証拠の残し方と相談先(AI作成)

運動会・社内行事の写真をホームページやSNSに載せてよいか―肖像権,個人情報と同意の範囲(AI作成)

目次

第1 撮影への了解とインターネット公開への了解を分ける第2 肖像権・プライバシーは個人情報保護法とは別に確認する1 無断撮影・公表がすべて一律に違法となるわけではない2 会場にいたことから公開への包括的同意を推測しない第3 個人情報と個人データの違い1 会社行事の写真に直接答えた個人情報保護委員会のQ&A2 データの管理方法と公開先を確認する第4 撮影者の著作権も確認する第5 公開前の同意確認をどう設計するか1 媒体・期間・用途を分けて示す2 子どもや写り込みにも対応する第6 公開後の削除・変更の申し出に対応する
第1 撮影への了解とインターネット公開への了解を分ける

運動会や社内行事の写真を広報に使うときは,写っている本人に関する権利と,写真そのものの著作権を分けて確認する。撮影者が写真を提供したことや,参加者がカメラに向かって笑顔を見せたことだけで,どの媒体にも無期限に掲載できると扱うべきではない。

会社内の掲示,参加者限定の共有,会社ホームページ及び一般公開のSNSでは,閲覧者と拡散の範囲が異なる。何のために,誰に,いつまで見せるかを具体化することが,掲載判断の出発点である。

本記事は,令和8年10月22日を基準とする,日本の民間事業者による一般的な行事写真の取扱いの整理である。行政機関等の取扱いや,医療・介護,学校等の個別分野では,適用される規律・指針を別に確認する必要がある。

第2 肖像権・プライバシーは個人情報保護法とは別に確認する
1 無断撮影・公表がすべて一律に違法となるわけではない

最高裁平成17年11月10日判決(平成15年(受)第281号・民集59巻9号2428頁)は,みだりに容ぼう等を撮影されず,写真を公表されない人格的利益を認めた。無断撮影の違法性については,地位,活動,場所,目的,態様,必要性等を総合し,社会生活上受忍すべき限度を超えるかを判断するとした。公開判決・本文4~5頁

これは刑事事件の法廷内での撮影等を扱った判決であり,運動会の集合写真を直接判断したものではない。行事の広報では,写真の大きさ,人物の扱われ方,説明文,公開範囲及び本人の了解の内容を,具体的な掲載画面に即して検討することになる。

2 会場にいたことから公開への包括的同意を推測しない

公開の場所で開催される行事であっても,個人を大きく写した写真を広告として使う場合と,会場全体の様子を伝える場合とでは,検討すべき事情が異なる。「屋外だから自由」「集合写真だから同意は不要」という一律の基準では判断できない。

同意を取得する場合も,行事の記録としての撮影と,採用広告や商品広告への転用を分ける。後から用途・媒体・対象者の範囲を広げる場合には,もとの説明と了解でその利用まで含まれているかを確認する必要がある。

第3 個人情報と個人データの違い
1 会社行事の写真に直接答えた個人情報保護委員会のQ&A

個人情報保護委員会のQ7-11は,会社行事の写真を社内で展示する場面を扱う。本人を判別できる写真は個人情報である一方,一般的には個人情報データベース等を構成する「個人データ」ではないとして,個人情報保護法27条1項との関係を説明している。ただし,利用目的の通知・公表は必要であり,肖像権やプライバシーへの配慮も求めている。個人情報保護委員会Q&A・Q7-11

この回答は,「社内展示だからどの写真でも自由」「ホームページやSNSでも同じ」という意味ではない。また,写真を名簿と対応させるなどして,個人を検索できるよう体系的に管理する場合には,個人データ該当性を具体的に確認する必要がある。

2 データの管理方法と公開先を確認する

個人データに該当する写真を第三者に提供するときは,法27条の本人同意原則と例外等を確認する。個人データに当たらない場合も,目的に応じた取扱いと,肖像・プライバシーの検討が残る。個人情報保護委員会の通則ガイドライン

なお,医療・介護関係のQ4-15にも,利用者の行事写真の掲載等に関する回答がある。しかし,適用分野と前提があるため,その回答だけからすべての企業行事の写真について同じ法的結論を出すことは避けるべきである。医療・介護関係のQ4-15

第4 撮影者の著作権も確認する

参加者本人が掲載に同意していても,他人が撮った写真の利用権限がなければ別の問題が生じる。撮影を外注した場合には,納品を受けたことと,写真の著作権を譲り受けたことを区別する。

文化庁の写真撮影に関する契約書作成支援システムは,撮影依頼に当たっての権利処理等を示している。主催者は,掲載媒体,利用期間,広告への転用,切抜きや加工,氏名表示及び再利用の範囲を,撮影者との契約・許諾に照らして確認するとよい。文化庁・写真撮影の契約上の注意事項

被写体の肖像に関する了解と,撮影者等の著作権上の許諾は,片方を得れば他方も当然に満たすという関係ではない。自由利用マークについての文化庁の説明も,写真中の人物への配慮を別に示している。ただし,同説明は自由利用マークを付ける場面のものであり,すべての写真掲載に関する一律の法定手続を示すものではない。文化庁・他人の肖像や著作物についての注意

第5 公開前の同意確認をどう設計するか
1 媒体・期間・用途を分けて示す

次は,行事運営のための実務上の提案である。法令がすべての主催者に同じ書式を義務付けるものではない。

開催案内には,撮影の目的,予定する掲載先,掲載期間及び問い合わせ先を示す。外部公開を予定する場合は,社内だけの記録利用と区別して,掲載を希望しない人が意思を伝えられる方法を用意する。申し出た人を不利益に扱わずに撮影・参加を調整できる運用が望ましい。

同意を得る際は,少なくとも次の情報を対応させて残す。

- 対象の写真又は対象となる撮影・行事
- 行事報告,採用広報,商品広告などの利用目的

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分娩予約をキャンセルしたら予約金は戻るか―転院・流産・無痛分娩の変更と精算(AI作成)

目次

第1 分娩予約金の返金は何で決まるか1 全額返金とも全額没収とも限らない2 最初に分ける三つの問題第2 予約金の名前より合意した内容を確認する1 分娩費用の前払金と予約確保の対価2 予約の成立,規約及び手付の呼称第3 変更・キャンセルの理由ごとの確認事項1 患者の希望,里帰り先の変更又は転居2 医師が高次医療機関への転院を勧めた場合3 患者が医療上の不安から転院を希望した場合4 流産・死産等で予定していた分娩が行われない場合5 施設側の受入不能や無痛分娩の変更第4 返金不可条項にも法律上の制限がある1 平均的な損害を超える部分は無効となる2 署名や事前説明だけで効力は決まらない第5 施設の公開規定にも違いがある第6 返金交渉では何を確認するか1 申込時の資料と変更理由を残す2 返金しない根拠の概要を求める3 既履行費用と解約料の二重控除を避ける第7 関連記事第8 出典
第1 分娩予約金の返金は何で決まるか
1 全額返金とも全額没収とも限らない

分娩予約を取り消した場合の予約金は,支払った目的,予約時の合意,変更の理由と時期,既に受けた診療等の内容によって精算が変わる。
「予約金だから戻らない」「医療上の転院だから必ず全額戻る」と,一つの事情だけで決めることはできない。

本記事は,令和8年10月19日現在の民法・消費者契約法,消費者庁の解説,分娩予約を扱う国会答弁及び医療機関の公開案内に基づき,返金を検討する順序を整理するものである。
個別の返金額を判断するときは,その施設で申し込んだ当時の規約と実際の経過を確認する必要がある。

2 最初に分ける三つの問題

①どのような内容の予約が成立したか,②予約を変更・終了できるか,③終了したときにいくら精算するかは,分けて考える必要がある。
転院を希望して予約を終わらせることができても,有効な解約負担や既に受けた診療の費用が残ることはある。

出産費用への公的な給付と,施設との契約に基づく予約金の精算も別の問題である。
給付制度については,出産無償化はいつから?2026年改正法と対象費用・出産育児一時金の変更を参照されたい。

第2 予約金の名前より合意した内容を確認する
1 分娩費用の前払金と予約確保の対価

予約金が分娩時の会計に充当される金銭なら,分娩を行わなくなった場合の精算を検討することになる。
ただし,前払金であることだけで全額返金が決まるわけではなく,別に有効な解約料が生じるか,既に提供された役務の対価が残るかを確認する。

施設側から,分娩枠や人員等を確保する独立した役務の対価だという説明がされる場合も考えられる。
その場合も,何を有償で提供する合意だったか,実際に何が提供されたかを確認する必要があり,「予約料」「事務手数料」という名称だけでは結論は出ない。

分娩が行われれば代金の一部となり,取り消したときだけ返さない仕組みであれば,解約料としての実質を持つ可能性がある。
この場合には,消費者契約法9条による制限を検討することになる。

2 予約の成立,規約及び手付の呼称
(1) 書面と予約の承諾

民法522条によれば,契約は申込みと承諾によって成立し,原則として書面の作成を要しない。
したがって,署名した申込書がないという理由だけで契約の成立を否定することはできないが,問い合わせや仮受付だけで施設の予約承諾があったとも断定できない。

(2) 予約時の規約

現在のウェブサイトに掲載されている返金規定と,予約時に説明・合意された規定が同じかも確認する。
定型約款に当たる場合は民法548条の2の規律も問題となり,後から掲載された規定を当然に過去の申込みへ適用することはできない。

(3) 手付という呼称

「手付金」という呼称だけで,患者は放棄すれば足りる,施設側は倍額を返せば足りると考えることも適切ではない。
民法557条は売買の手付についての規定であり,分娩予約では当該契約の合意と法的性質を先に検討する必要がある。

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AIを悪用した無差別サイバー攻撃とは―仕組みと企業の対策(AI作成)

目次

第1 無差別な探索と個別の攻撃を分けて考える1 自社が有名でなくても点検が必要な理由2 AIを使った攻撃とAI自体への攻撃第2 AIは無差別サイバー攻撃にどう関係するのか1 調査や解析の効率化が攻撃対象を広げる2 一般的なスキャンと対象別の解析3 AIワームと従来型ワームの違い第3 公開アプリから裏側のサーバを狙うA2B攻撃1 アプリの解析から接続先を調べる2 個別事件でAIが使われたかは別に確認する第4 企業が点検する対策1 公開範囲とAPIの権限を確かめる2 AI向け製品の導入だけで対策を終えない3 脆弱性対応を担当・期限・再確認までつなぐ第5 被害が疑われたときの調査と法務対応1 AI利用の特定を待たずに対応する2 対外説明の断定を調査の範囲に合わせる第6 よくある質問1 AIとサイバー攻撃の関係は?2 AIを使うとサイバー攻撃はなぜ広がるのか?3 AIに入力してはいけない情報は?4 AIを使わないほうがいい場合はあるか?第7 出典
第1 無差別な探索と個別の攻撃を分けて考える
1 自社が有名でなくても点検が必要な理由

AIを悪用したサイバー攻撃では,情報の収集や解析が効率化され,多数のシステムを調べた上で,見付かった弱点に合わせた攻撃が行われる危険がある。
「無差別に探されること」と「自社の仕様に合わせて攻撃されること」は,両立する。
会社の知名度だけを理由に,攻撃対象にならないと考えることはできない。

本記事では「無差別」を,特定の一社に限らず広く対象や弱点を探すという意味で用いる。
全ての会社が同じ手法で攻撃されたことや,AIが一連の操作を全自動で実行したことを意味しない。
以下は令和8年10月18日までに確認した公表資料に基づく説明である。

2 AIを使った攻撃とAI自体への攻撃

国家サイバー統括室のサイトに掲載されたIPA担当者のコラムは,AIの悪用により従来の攻撃の速度や量が増す問題と,AI自体が攻撃対象になる問題を分けている。
前者には詐欺メールの作成や攻撃の効率化があり,後者には外部の文章を通じてAIに不適切な指示を与える間接プロンプトインジェクションなどがある。
本記事の中心は前者であり,社内で生成AIを使っていない企業にも関係する。

第2 AIは無差別サイバー攻撃にどう関係するのか
1 調査や解析の効率化が攻撃対象を広げる

AIは,攻撃者が情報を読み解き,プログラムや通信の仕組みを調べる作業を助ける場合がある。
NICTは,AIの活用によってアプリの解析や脆弱性の発見が効率化され,攻撃がより多くのシステムに広がる可能性に注意を促している。
これは攻撃が広がる仕組みの説明であり,国内の全ての漏えい事案についてAI利用が実証されたという意味ではない。

また,広い範囲を自動で探索する攻撃と,AIの利用は同じ概念ではない。
アクセスが大量又は高速であるという事情だけで,AIが使われたと断定しないことが必要である。
IPA担当者の同コラムも,攻撃の様子だけからAIとの関わりを判別できないのが通例であると説明している。

2 一般的なスキャンと対象別の解析

JPCERT/CCの令和8年10月8日公開・23日更新の注意喚起は,さまざまな既知の脆弱性を探索するケースと,API経由で不正な操作を行うケースなどを挙げている。
同資料は,把握している情報が限定的・断片的であり,全ての事案が同じ攻撃手法によるものではないと留保している。
したがって,最近の被害を一つの原因にまとめず,自社の構成と記録に照らして点検する必要がある。

JPCERT/CCは,令和8年10月23日の更新で,Cairn,CyberStrikeAI及びARTEXなどのAIを用いたペネトレーションテスト基盤を悪用した攻撃試行を,ケースEとして追加した。
主に公開Webアプリケーションの脆弱性や管理不備を狙うもので,公開WSUSサーバーを標的とした試行も含まれると説明している。
これは,国内のすべての漏えい事案がARTEXや同じ攻撃者によるものだと認定したものではない。

AIモデル,攻撃基盤及び攻撃者の区別と,韓国向け・国内向け・ConnectWise関係の各報告の違いは,ARTEXとは―AIサイバー攻撃の仕組みと企業が確認すべき対策で扱う。

3 AIワームと従来型ワームの違い

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重要電子計算機防護法とは―特別社会基盤事業者の届出・報告義務,警察のアクセス・無害化措置及び自衛隊法81条の3(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 令和8年10月1日に施行された部分2 結論3 能動的サイバー防御のよくある質問第2 法律の構造と施行日1 段階的な施行2 通信の秘密の尊重第3 対象となる電子計算機と事業者1 重要電子計算機の3つの類型2 特別社会基盤事業者と特定重要電子計算機第4 特別社会基盤事業者の届出・報告義務1 特定重要電子計算機の届出2 特定侵害事象等の報告3 命令,報告徴収及び罰則第5 国の情報提供と協議会1 総合整理分析情報の提供2 電子計算機・プログラムの供給者への要請3 協議会第6 警察のアクセス・無害化措置と自衛隊法81条の31 警察のサイバー危害防止措置執行官2 自衛隊法81条の3の通信防護措置3 サイバー通信情報監理委員会4 物理的な警護との違い第7 まだ施行されていない部分第8 弁護士・税理士が確認すること1 顧問先が対象かどうか2 期限と記録3 ベンダー・委託先との契約第9 関連記事第10 出典
第1 本記事の対象と結論
1 令和8年10月1日に施行された部分

重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律(令和7年法律第42号。以下「防護法」という。)は,令和7年5月23日に公布され,令和8年10月1日に主要な部分が施行された。
同じ日に,同法の施行に伴って改正された警察官職務執行法6条の2と自衛隊法81条の3も施行され,警察と自衛隊がサイバー攻撃に対処するための新しい権限が動き出した。
本記事は,防護法と関係法令の条文に基づいて,企業の側に生じる届出・報告の義務と,国の対処の仕組みを説明する。
基準日は令和8年10月17日であり,条文はe-Gov法令検索で同日現在の本文を確認した。
政府の説明資料では,防護法は「サイバー対処能力強化法」と呼ばれ,同時に成立した重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和7年法律第43号。以下「整備法」という。)と一体で説明されている。
内閣官房国家サイバー統括室等の説明資料(令和8年9月)によれば,届出・報告等の対象となる基幹インフラ事業者は15分野・258事業者である。

2 結論

防護法の義務を直接負う民間事業者は,経済安全保障推進法の基幹インフラ制度で指定された特定社会基盤事業者のうち,特定重要電子計算機を使う「特別社会基盤事業者」である。
特別社会基盤事業者は,特定重要電子計算機の製品名・製造者名等を所管大臣に届け出て,サイバー攻撃による被害やその兆候を認知したときは所管大臣と内閣総理大臣に報告しなければならない。
施行の時点で既に導入している特定重要電子計算機の届出期限は,施行日から6か月以内である。
他方,国が通信情報を取得する仕組み(当事者協定・外外通信目的送信措置等)は,令和8年10月17日現在まだ施行されていない。
警察のサイバー危害防止措置執行官と自衛隊の通信防護措置は,攻撃元のサーバ等に電気通信回線を介して働きかける措置であり,原則としてサイバー通信情報監理委員会の承認を要する。

3 能動的サイバー防御のよくある質問
(1) 能動的サイバー防御(ACD)とは何ですか

能動的サイバー防御とは,重大なサイバー攻撃による被害を未然に防ぎ,拡大を防止するための取組を表す言葉である。
政府の制度説明では,官民連携の強化,通信情報の利用,アクセス・無害化措置という3つの柱で整理されている。
特定の防御製品の名称や,民間企業が自由に反撃できる制度を意味するものではない。

(2) 能動的サイバー防御の具体例は何ですか

制度上の例としては,国が得た脅威情報を基幹インフラ事業者等に提供して対策に結び付けることや,法定の要件と手続に従い,警察の執行官が攻撃に使われる計算機の有害な記録の消去等を命じ,又は自ら措置をとることが挙げられる。
これは制度の働き方の説明であり,特定の国内事案について実際に措置が行われたと認定するものではない。
自社設備の防御と,第三者のサーバーに対する公的措置も区別する必要がある。

(3) 能動的サイバー防御の対象企業はどこですか

届出・報告義務を問う場合,対象は特別社会基盤事業者とその特定重要電子計算機への該当性によって判断する。
通信・金融等の分野に属するというだけで全企業が一律に義務を負うわけではなく,指定と使用する計算機を確認する必要がある。
他方,この義務の対象範囲と,警察が重大な危害を防ぐために措置を検討する範囲は別問題である。

(4) 能動的サイバー防御はいつから施行されていますか

官民連携とアクセス・無害化措置に関する制度は,令和8年10月1日に施行された。

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信用情報機関とは―CIC・JICC・KSCの違い,開示方法・費用と何年で消えるか(AI作成)

目次

第1 信用情報機関とは何をするところか第2 CIC・JICC・KSCの違いと開示先の選び方1 3機関は同じ情報を一括保管する窓口ではない2 どこがよいかは調べたい内容によって決まる第3 信用情報を開示する方法と費用1 本人がオンラインで申し込む場合の費用2 申込み前に整理する情報と受領後の確認順序第4 信用情報は何年で消えるか1 5年・7年だけでなく情報の種類と起算点を確認する2 JICCの古い契約と債務整理後の確認第5 信用情報の訂正・削除を求めたい場合第6 免許証画像の流出では本人申告と開示を使い分ける1 本人申告は注意喚起,開示は登録内容の確認である2 全ての契約や口座開設を停止する制度ではない第7 信用情報機関についてよくある質問1 信用情報機関のJICCとCICの違いは何か2 KSCは何年で消えるか3 信用情報機関はどこがよいか4 完済したらすぐに信用情報は消えるか5 信用情報を削除すれば必ずカードを作れるか6 本人申告をすれば信用情報の開示は不要か7 相続人が開示して登録なしなら,被相続人の借金はないか第8 主な出典と公式手続の入口
第1 信用情報機関とは何をするところか

信用情報機関とは,加盟する金融会社等から登録されたローンやクレジットの契約内容,返済・支払状況等の信用情報を管理し,加盟会社の与信判断の参考となる情報を提供する機関である。
日本では,CIC,JICC及び全国銀行個人信用情報センター(KSC)が主な確認先となる。
信用情報を提供する機関と,貸付けやカード発行の可否を決める会社は区別する必要がある。

自分の登録内容を知る手続が「信用情報の開示」であり,免許証画像の流出等に伴う注意喚起を登録する「本人申告」とは目的が異なる。
誤った情報の訂正・削除について問い合わせる場合も,まず開示結果から対象の契約と登録元会社を特定することが出発点になる。
本記事は,令和8年10月17日に確認した3機関及び金融庁の公表資料に基づく。

第2 CIC・JICC・KSCの違いと開示先の選び方
1 3機関は同じ情報を一括保管する窓口ではない
機関公表資料で確認できる主な情報調べるときの注意点CIC(株式会社シー・アイ・シー)クレジットやローンの契約内容・支払状況,申込情報,利用記録等契約時の電話番号等が開示条件に関係する。CICに登録されている範囲を確認する。JICC(株式会社日本信用情報機構)契約内容,返済状況,債務整理・保証履行等の取引事実,申込情報等令和元年10月1日の前後で,契約日による登録期間の取扱いが異なる。全国銀行個人信用情報センター(KSC)ローン等の取引情報,照会記録,破産・民事再生手続開始決定の官報情報等取引情報と官報情報の登録期間を分けて読む。KSCは全国銀行協会が設置・運営している。

比較の要点は,「CICなら全てのカード,JICCなら全ての消費者金融,KSCなら全ての銀行」という固定的な振り分けで考えないことである。
確認したい会社の加盟先と,その機関に登録される情報を確かめる。
同じ会社や契約について,複数の機関の確認が必要になることもある。

2 どこがよいかは調べたい内容によって決まる

特定の契約内容を確認したい場合は,契約先が加盟する機関を確認して開示先を選ぶ。
借入先自体が分からない場合は,1機関の結果だけで借入状況全体を把握できるとは限らず,3機関への開示が必要となる場合がある。
金融庁も,借入先が不明な場合には3機関全てへの開示が必要になることがあると案内している。

したがって,「最も安い1機関を選べば十分」「銀行の借入れだから他の機関は関係しない」とは限らない。
費用だけでなく,何を確認するための開示かを先に整理するのがよい。
公式の開示案内は次節の表から確認できる。

第3 信用情報を開示する方法と費用
1 本人がオンラインで申し込む場合の費用

次の金額は,令和8年10月17日に確認した本人向けのオンライン開示の手数料である。
郵送,代理人,相続人による手続の費用・必要書類は同じとは限らないため,それぞれの公式案内を確認する。

機関本人のオンライン開示公式案内CIC500円https://www.cic.co.jp/credit-report/JICCスマホアプリからの申込み700円(税込み)https://www.jicc.co.jp/kaiji/01KSC800円(税込み。令和8年4月1日以降の改定額)https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/info/21544/

CICのインターネット開示では,インターネットを利用できるスマートフォン,CICに登録されている電話番号及び署名用電子証明書が有効な本人のマイナンバーカード等が必要である。
JICCのスマホ申込みでも,マイナンバーカードの電子証明書による本人認証が案内されている。
利用できる端末や認証方法,受付状況は変更され得るため,申込み直前に公式ページを確認する。

2 申込み前に整理する情報と受領後の確認順序

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証券会社の約款とは―種類・読み方・契約締結前交付書面との違い(AI作成)

目次

第1 証券会社の約款とは第2 約款・契約締結前交付書面・目論見書の違い1 文書ごとに役割が異なる2 「約款」と「約定」も区別する第3 困り事から確認条項を探す方法第4 約款は読んでいなくても効力があるか1 定型約款が契約内容になる条件2 内容の提示と,変更の条件を確認する第5 免責・取引停止・資産返還の読み方1 免責条項は,本文とただし書を一緒に読む2 取引停止・解約と,預り資産の返還を分ける3 住所変更・通知・後見の届出も確認する第6 電子交付の閲覧期間と記録保存は同じか1 5年間という定めを,全記録の保存期間に広げない2 紙での交付を希望する場合第7 相続では,総合取引約款だけで判断しない1 MRF・特定口座・NISAでは規定が異なる2 受入口座の開設と,取引履歴の請求を区別する第8 公式約款と改定版の探し方1 現在の冊子と新旧対照表を組み合わせる2 紛争では,取引時点の版も残す第9 よくある質問1 証券会社の約款は全部読む必要がありますか2 約款と契約締結前交付書面は同じですか3 約款の変更には必ず個別の同意が必要ですか4 免責条項があれば損害賠償を請求できませんか5 電子交付書面が見えなくなったら,記録はなくなったのですか6 名義人が死亡すると,約款によりすべて自動売却されますか第10 主な出典
第1 証券会社の約款とは

証券会社の約款とは,口座の開設,注文の受付,資産の保管,金銭の受払い,電子交付及び口座の解約などについて,証券会社があらかじめ定める契約条件である。
総合取引約款だけで全部が決まるとは限らず,利用する商品・サービスに応じ,特定口座,NISA,オンライン取引等の個別約款も確認する必要がある。

約款は法律そのものではなく,会社ごとに内容が異なる。
本記事は令和8年10月17日を確認基準日とし,SMBC日興証券の「約款・規定集」(2026年4月1日時点)とその後の改定案内を主な具体例として,文書の違いと確認方法を整理する。

最初から全頁を同じ密度で読むより,①利用する口座・サービス,②問題となる出来事,③該当条項,④例外・ただし書,⑤適用時点の版,という順で絞ると読みやすい。
ただし,確認画面に同意する前には,費用,リスク,取引制限その他の重要な条件も確かめる必要がある。

第2 約款・契約締結前交付書面・目論見書の違い
1 文書ごとに役割が異なる
文書主に確認する内容読むときの注意総合取引約款証券会社との取引全般,届出,通知,解約等個別約款の適用関係も確認する。特定口座・NISA等の個別約款口座区分又はサービス固有の条件全商品・全口座へ一律に広げない。契約締結前交付書面対象取引の仕組み,手数料,損失リスク等約款と重なる説明があっても,確認の目的は同一ではない。投資信託の交付目論見書個別ファンドの目的,運用方針,リスク,費用等証券会社の総合取引約款だけでは商品の内容を把握できない。投資信託約款投資信託の信託契約の内容委託者と受託者の信託契約であり,顧客と証券会社の口座約款とは区別する。

SMBC日興証券は,口座の約款類と別に,商品・取引別の契約締結前交付書面等を案内している。
証券口座を開設した事実だけで,後に始める信用取引,外国証券取引その他の条件をすべて確認し終えたことにはならない。
資料は同社のリスク・手数料等の案内で,実際に利用する取引に対応するものを選ぶ。

2 「約款」と「約定」も区別する

「約款」は契約条件を定めた文書であり,株式売買などでいう「約定」は注文に基づく売買の成立を指す。
約定日時や約定価格を調べたい場合は,約款の目次だけでなく,注文履歴,約定履歴又は取引報告書を確認する。

第3 困り事から確認条項を探す方法
確認したいこと探す条項・文書一緒に残す資料注文が受け付けられない注文受付,取引制限,オンライン取引の個別規定注文日時,画面表示,受付・約定の履歴不正ログイン又はシステム障害本人確認,認証方法,免責,会社の補償案内通知,アクセス・取引記録,会社への申告内容口座が停止・解約された取引停止,解約事由,預り資産の返還通知,照会への回答,残高と返還方法電子書面を見られない電子交付の対象,閲覧期間,サービス終了書面名,交付日,閲覧できない画面名義人が死亡した総合取引,特定口座,NISA,商品別の相続規定死亡日残高,現在残高,相続窓口の案内約款が変わった変更条項,改定案内,新旧対照表改定前後の版,周知日,効力発生日

条文の見出しに目的の語がなくても,総則,個別取引,雑則及び別約款に分かれて規定されていることがある。
SMBC日興証券の例では,総合取引約款のオンライン取引の章,雑則及び電子交付サービス約款を行き来して確認する必要がある。

第4 約款は読んでいなくても効力があるか
1 定型約款が契約内容になる条件

民法548条の2は,一定の要件を満たす定型取引について,定型約款を契約内容とする合意,又は約款を準備した者による事前の表示がある場合の取扱いを定めている。
したがって,「全文を読まなかった」という事情だけで,すべての条項の効力が否定されるわけではない。

他方,名称が「約款」であれば必ず同条の定型約款になるわけではない。
同条2項は,相手方の権利を制限し又は義務を加重する条項について,取引の態様・実情及び取引上の社会通念に照らし,信義則に反して相手方の利益を一方的に害する場合の除外を定めている。

2 内容の提示と,変更の条件を確認する

民法548条の3は,契約前又は契約後の相当期間内に請求を受けた場合の定型約款の内容の提示等を定めている。
契約締結前の提示請求を拒んだ場合には,正当な事由等の例外を除き,同法548条の2による組入れの規定を適用しないとする取扱いもある。

(続きを読む...)証券会社の約款とは―種類・読み方・契約締結前交付書面との違い(AI作成)

税理士事務所がクラウド会計・給与サービスの漏えい通知を受けたとき―顧問先別の影響確認,マイナンバー,e-Tax及び業務継続(AI作成)

目次

第1 税理士事務所に固有の初動課題1 一つの通知を顧問先ごとの影響へ分解する2 直ちに行うこと,当日中に行うこと第2 契約主体,利用者及びデータを固定する1 提供事業者,事務所及び顧問先の三者を分ける2 顧問先別の影響表を作る第3 認証情報,API及び証拠を点検する1 パスワードだけで終わらせない2 通知,ログ及び操作履歴を保全する3 税理士用電子証明書の所在と失効を確認する第4 e-Taxと期限管理を切り離さない1 税理士の認証と納税者の情報を区別する2 送信結果とメッセージを独立して確認する3 業務継続表を顧問先ごとに作る第5 マイナンバーを含むかを別に判定する1 個人データ一般と特定個人情報を分ける2 委託元・再委託先の役割を確認する第6 報告・通知・顧客連絡を整理する1 個人情報保護委員会への報告2 顧問先と本人への説明第7 保存義務と不要な複製を分ける1 税理士法41条の帳簿2 削除と証拠保全を両立させる第8 提供事業者への質問と契約の見直し1 提供事業者へ確認する事項2 契約と平時の台帳へ戻す第9 税理士事務所の確認チェックリスト第10 関連記事第11 出典
第1 税理士事務所に固有の初動課題
1 一つの通知を顧問先ごとの影響へ分解する

税理士事務所がクラウド会計,給与計算,証憑保管又は電子申告に関する漏えい通知を受けた場合,提供事業者の全体発表を読むだけでは足りない。
事務所自身の契約,職員アカウント,各顧問先から付与された権限,保存された申告・給与・マイナンバー関係資料及び申告期限への影響を分けて確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月16日時点の公表資料に基づき,税理士事務所が提供事業者から不正アクセス,設定不備その他の漏えい等の通知を受けた場合の確認順序を整理するものである。
個別サービスの安全性又は個別事案の違法性を判定するものではなく,事実,提供事業者の説明,実務上の推認及び未確認事項を分けて扱う。

2 直ちに行うこと,当日中に行うこと

直ちに行うことは,公式サイト又は契約書記載の窓口から通知の真偽を確認し,不審な通信・セッション・アカウントを止め,消去又は上書きされる前に関係ログと通知原本を保全することである。
メール本文のリンクだけを起点にせず,普段のブックマーク又は手入力した公式URLから案内を確認する。

当日中に,①影響を受けたサービスと期間,②事務所・職員・顧問先のアカウント,③保存又は連携していたデータ,④次の申告・納付・給与処理期限,⑤行政報告・本人通知・顧客通知の担当を一覧にする。
原因調査の完了を待ってから期限管理を始めるのではなく,封じ込め,証拠保全,影響確認及び代替業務を並行する。

第2 契約主体,利用者及びデータを固定する
1 提供事業者,事務所及び顧問先の三者を分ける

同じクラウド画面を利用していても,契約者,個人データの取扱主体,管理者,通常利用者及び費用負担者が同じとは限らない。
顧問先が契約したアカウントに事務所が招待されている場合と,事務所が契約した環境へ顧問先データを取り込んでいる場合とでは,権限停止,ログ取得,通知及び契約上の連絡先が異なる。

委託先で事故が起きたことは,委託元の確認・報告・本人通知が当然に不要になることを意味しない。
契約名義と実際のデータフローを照合し,誰が個人情報取扱事業者又は個人番号関係事務実施者となるかを事案ごとに確認する。

2 顧問先別の影響表を作る

対象件数の総数だけでは,個別顧問先の影響を判断できない。
次の表のように,顧問先ごとにアカウント,データ,期間,期限及び連絡担当を対応させる。

項目確認する内容証拠・担当契約・権限契約者,管理者,職員の役割,顧問先からの招待又は委任,停止すべき権限契約書,管理画面,権限台帳データ仕訳,証憑,給与,従業員情報,口座情報,申告データ,マイナンバー関係資料,API連携先データ台帳,連携一覧時間不正アクセス又は設定不備の期間,最終正常時点,ログの保存期限提供者通知,ログ,時刻表業務直近の申告・納付・給与・年末調整等の期限,代替手段,送信結果の確認期限表,受信通知,受付結果連絡提供事業者,顧問先,従業員等の本人,保険会社,専門家及び行政への担当連絡網,受付番号,対応記録

一つの顧問先についても,登録情報,保存ファイル,取引データ及び認証情報のどれが対象かを分ける。
「流出可能性のある全項目」と「その本人又は顧問先について対象となった項目」を同一視しない。

第3 認証情報,API及び証拠を点検する
1 パスワードだけで終わらせない

対象サービスのパスワードを公式手順で変更し,同一又は類似のパスワードを使っている他のサービスも変更する。
その上で,多要素認証,登録メール・電話,復旧先,継続中のセッション,連携アプリ,APIトークン,管理者権限及び退職者アカウントを確認する。

認証は利用者が誰かを確かめる仕組みであり,認可はその利用者がどの顧問先・データへアクセスできるかを決める仕組みである。
API事故では,ログインの有無だけでなく,要求ごとの認可,返却項目の最小化,利用量の異常検知及びトークンの失効を確認する。

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情報漏洩が相次ぐ今,企業の信頼を守る法務の備え―平時の体制,発覚後の初動,報告・通知・公表(AI作成)

目次

第1 企業の信頼を守る法務の備えとは1 事故を完全になくす約束ではなく,発見して説明できる体制を整える2 「情報漏洩」と法令上の「漏えい等」を区別する第2 なぜ今,企業法務が平時から関与する必要があるか1 攻撃経路と委託関係が複雑になっている2 令和8年10月の注意喚起と現行義務を混同しない第3 最初に情報と法的関係を分類する1 個人情報だけを見ない2 自社,委託元,委託先及びクラウド事業者の役割を固定する第4 平時に整える六つの備え1 情報資産・システム・委託先の台帳2 権限・認証・ログ・バックアップ3 社内規程と教育4 初動連絡網と判断票5 契約とサイバー保険6 机上訓練と更新第5 発覚直後の初動1 被害拡大防止と証拠保全を並行する2 確認済み事実,可能性及び不明を分ける3 関係者への連絡と守秘第6 個人情報保護委員会への報告,本人通知及び公表1 報告対象となる四つの類型2 速報と確報3 本人通知と対外公表は目的が異なる第7 信頼を損なわない対外説明1 最初の発表で断定し過ぎない2 更新履歴を残す3 再発防止策を抽象語で終わらせない第8 情報漏洩と企業法務に関するよくある質問1 情報漏洩を防ぐ三原則は何ですか2 情報漏洩の原因一位は何ですか3 情報漏洩で会社はどのような責任を負いますか4 会社で情報漏洩が起きたら最初に何をしますか5 従業員が漏えいさせたら直ちに解雇できますか6 生成AIへ社内情報を入力することは情報漏洩ですか7 情報漏洩の公表は必ず必要ですか8 法務部門だけで準備できますか第9 企業法務の確認チェックリスト第10 関連記事第11 出典
第1 企業の信頼を守る法務の備えとは
1 事故を完全になくす約束ではなく,発見して説明できる体制を整える

情報漏洩が相次ぐ今,企業の信頼を守る法務の備えは,「事故を一件も起こさない」と表明することではない。
保有する情報と利用するシステムを把握し,異常を早期に発見し,被害拡大を止め,証拠を残し,必要な相手へ期限内に報告・通知し,確認済みの事実を継続して説明できる体制を平時から整えることである。

本記事は,一般企業が個人データ等の漏えい,滅失又は毀損のおそれを把握した場合を中心に,企業法務が確認する順序を整理する。
金融,医療,通信,上場会社等には業法上の報告又は適時開示が加わることがあるため,個別業種の規制は別に確認する必要がある。

2 「情報漏洩」と法令上の「漏えい等」を区別する

一般に「情報漏洩」と呼ばれる事象には,外部への流出だけでなく,誤送信,紛失,盗難,不正アクセス,設定不備,内部不正,ランサムウェアによる利用不能及びデータの改変が含まれ得る。
個人情報保護法の実務では,個人データの「漏えい,滅失又は毀損」を分け,それぞれ発生又は発生のおそれがあるかを判断する。

第2 なぜ今,企業法務が平時から関与する必要があるか
1 攻撃経路と委託関係が複雑になっている

近時の公的注意喚起は,既知の脆弱性,認証情報の窃取,クラウド設定,APIの認可不備,グループ会社,委託先及び個人用領域など,事故の入口が一つではないことを示している。
法務部門は,情報システム部門だけに対応を委ねず,誰がどの情報をどのサービスで扱い,誰に委託し,異常時に誰が決定するかを契約と社内体制の両面から確認する必要がある。

2 令和8年10月の注意喚起と現行義務を混同しない

個人情報保護委員会が令和8年10月7日に示した資料は,大規模漏えい等を踏まえ,異常の早期検知,横展開防止,ログ取得・保存・分析及び遮断等を重視している。
同資料は,見直しの内容の確定を令和9年4月に予定すると説明し,見直し予定の内容を先取りして示している。
この記載を令和9年4月からの適用開始が確定したという意味に読み替えず,現行の義務,手法の例示及び今後の見直しを区別する。

個人情報保護法上の安全管理措置義務,現行ガイドライン,将来改正の予告及びMFA・EDR等の技術上の手法例は,根拠と時点を分けて検討する。
具体策は,取り扱う情報の性質,件数,システム構成,事業規模,委託関係及び当時の技術水準に応じて選ぶ。

第3 最初に情報と法的関係を分類する
1 個人情報だけを見ない

初動では,氏名や連絡先を含む個人情報だけでなく,要配慮個人情報,決済情報,認証情報,営業秘密,契約上の秘密,顧客から預かった資料,マイナンバー,知的財産及び業務継続に必要なデータを分類する。
同じファイルでも,個人情報保護法,番号法,不正競争防止法,秘密保持契約,委託契約及び業法上の義務が重なることがある。

2 自社,委託元,委託先及びクラウド事業者の役割を固定する

クラウド又は委託先で事故が起きても,自社の本人通知,行政報告,契約通知及び顧客対応が当然に不要になるわけではない。
平時の契約では,事故の定義,第一報の期限,提供すべきログと事実,調査協力,証拠保全,再委託,費用負担及び対外公表の調整方法を確認する。

事故発生後は,事実を知らないまま責任の押し付け合いをしないよう,意思決定者,技術調査担当,法務担当,広報担当及び外部専門家の連絡線を一本化する。

第4 平時に整える六つの備え
1 情報資産・システム・委託先の台帳

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情報漏えいのフォレンジック報告書をどう読むか―調査範囲,ログ欠落及び「痕跡なし」の限界(AI作成)

目次

第1 報告書の結論と調査の限界を一緒に読む1 対象と結論2 フォレンジック調査と法的判断の役割第2 調査対象と対象外の理由を確かめる1 機器名だけでなく業務上の役割を見る2 除外理由と未調査の範囲を残す第3 ログの有無,期間及び偏りを点検する1 取得できたログと失われたログ2 直近のログから過去全体を推定しない第4 閲覧,取得及び外部送信を分けて評価する1 確認された事象と技術上の可能性2 対外説明は根拠と留保を合わせる第5 調査完了を待たず報告対象と期限を検討する1 個人データと報告対象事態への当てはめ2 速報,確報及び本人通知第6 調査会社・クラウド事業者への質問を記録にする1 回答の根拠,担当及び更新を残す2 専門会社への依頼と再調査の必要性第7 関連する実務と出典1 関連する実務2 出典
第1 報告書の結論と調査の限界を一緒に読む
1 対象と結論

サイバー事故の調査報告書に「情報の持出しは確認されなかった」と記載されていても,その一文だけで漏えいがなかったとは判断できない。
どの機器・サービスを,どの期間のどの記録で調べ,何が確認できずに残ったのかを併せて読む必要がある。
逆に,ログが不足していることだけで漏えいが実際に起きたと断定することもできない。

本記事は,企業の法務担当者,顧問弁護士及び法律・税理士事務所が,調査会社又はクラウド事業者の報告を受け取る場面を扱う。
個人情報保護委員会の「不正アクセス発生時のフォレンジック調査の有効活用に向けた着眼点」を中心に,報告書への質問と法的判断へのつなぎ方を整理する。
制度の整理の基準日は令和8年10月13日であり,GMOの公表事例に関する今回の追補の基準日は同月30日である。
また,以下の質問表は法定の様式ではなく,事案に応じて使う運用上の提案である。

2 フォレンジック調査と法的判断の役割

フォレンジック調査は,端末,サーバー,ログ等を保全・解析して,侵入経路や影響を調べるための技術的な調査である。
調査の結論と,個人情報保護法上の報告対象事態への該当性,契約違反,過失,損害及び懲戒等の判断は区別する。
技術的な評価語が,そのまま法律上の要件を満たすとの意味で使われているかも確認する必要がある。

第2 調査対象と対象外の理由を確かめる
1 機器名だけでなく業務上の役割を見る

報告書を読む担当者は,調査対象の端末・サーバー・クラウドを,業務上のデータの流れと対応付ける。
ファイルサーバーを調べても,メール,バックアップ,共有リンク,管理用アカウント又は別のクラウドが対象外であれば,その領域の影響まで調査済みとはいえない。
機器が多いという理由で全てを同じ深さで調べる必要があるとは限らないが,対象を絞った理由と,そこから説明できる範囲は必要である。

2 除外理由と未調査の範囲を残す

PPC資料31・32頁は,対象機器や保全データの詳細に加え,調査対象として選定した理由及び選定しなかった理由を明らかにすることを勧めている。
費用,ログ不足又は簡易調査の結果に基づき対象を絞った場合にも,調査範囲と被害が生じ得る範囲が同じとは限らない。
調査依頼時と結果受領時に,対象の追加・変更とその理由を記録すると,後日の説明に役立つ。

確認事項調査担当者へ求める説明対象の同定機器・サービス・アカウントの識別情報,業務上の役割,保存されるデータ。対象外除外した機器・サービスと理由。他の記録で影響を確認したか。調査期間想定する侵入期間と,実際に調べられる期間の差。根拠資料使用したログ・保全イメージの一覧,取得日時,取得者及び同一性の確認。追加調査結論が変わり得る未取得資料,取得可能性,保存期限及び担当者。
第3 ログの有無,期間及び偏りを点検する
1 取得できたログと失われたログ

PPC資料33頁は,調査の前提となったログの詳細と,重要なログを保存していなかった又は消失していた事情を明らかにすることを勧めている。
接続成功だけを記録するログ,操作を記録しないサービス,暗号化されて読めないログ,攻撃者が削除したログは,それぞれ説明できる内容が異なる。
報告書の「ログなし」を,保存設定なし,保存期限切れ,消去,取得不能又は対象外に分けて確認する。

半田病院が公表した調査報告書の3.4.3.1(PDF実頁19頁・紙面16頁)は,VPN装置の脆弱性や資格情報に関する事情等を踏まえ,そのネットワークを悪用した侵入の可能性が極めて高いと評価している。

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「情報漏えいゼロ」は安全の証拠か―暗数,報告件数及び検知率の読み方(AI作成)

目次

第1 事故件数を評価する前に確かめること1 結論2 発生,検知,報告及び公表を分ける第2 ゼロ件の説明には複数の可能性がある1 事故がない場合と見えていない場合2 相談しやすさと記録の質も見る第3 公的な報告件数の増加を読む1 報告義務化による観測の変化2 不審アクセス数と被害報告数は別である3 「原因1位」は集計対象によって変わる第4 「内部検知52%」は何を表すか1 調査済み事案の検知源の構成比2 年,対象及び統計量を付けて説明する第5 顧問先・専門職事務所で使う確認票1 件数の説明と管理の実態を対応させる2 税務資料と事件資料への当てはめ第6 安全管理,報告義務及び民事責任を分ける第7 出典
第1 事故件数を評価する前に確かめること
1 結論

「これまで情報漏えいはゼロである」という説明を受けても,その数字だけで安全管理が十分であるとは判断できない。
実際に事故がなかった場合と,検知できなかった場合,社内へ報告されなかった場合,集計から除外された場合を区別する必要がある。
一方,事故ゼロの企業が必ず最も危険であるとか,事故を公表した企業の方が安全であるという順位を,件数だけから付けることもできない。

本記事は,企業の法務担当者,顧問弁護士及び法律・税理士事務所が,事故件数やサイバー統計を用いて管理体制を点検する場面を扱う。
資料の基準日は令和8年10月13日であり,以下の質問票は公表資料を踏まえた運用上の提案である。
個別企業の安全性又は法的責任を認定するものではない。

2 発生,検知,報告及び公表を分ける

事故が発生していても,担当者が気付かなければ検知件数には入らない。
検知されても社内報告がなければ経営者の把握件数に入らず,行政への報告又は一般への公表の件数とも一致しない。
統計を読むときは,どの段階を数えているかを最初に確認する。

数字の段階確認する事項発生何を事故と定義し,どの期間・システム・データを対象にしたか。未検知の事案まで数えられる資料か。検知・認知誰がどの方法で発見したか。相談,外部通知,監視対象外の機器を含むか。報告社内報告,行政への法定報告,警察への被害報告のどれか。報告対象や経路が変わっていないか。公表ウェブサイト等で公表された事案か。未公表の報告や対象外の事案を含むと誤解していないか。
第2 ゼロ件の説明には複数の可能性がある
1 事故がない場合と見えていない場合

ここで問題にする暗数は,実際には存在していても認知された件数に表れない事案である。
その規模がゼロという表示だけから分かるわけではない。

集計がゼロである場合には,少なくとも次の可能性を分けて確認するとよい。
どれに当たるかは,数字だけでなく,台帳,ログ,相談記録及び報告の運用から判断する。

可能性確認する記録・運用対象期間中に事故がなかった対象資産と監視範囲が明確であり,点検・相談・委託先通知を確認したか。事故があったが検知できなかったログを取得していない環境,監視していない機器,保存期間外の空白がないか。検知したが報告されなかった報告先が分かるか。担当者が不在でも報告できるか。軽微と自己判断して記録を残さない運用がないか。定義又は集計範囲が狭い誤送信,誤共有,持出し,滅失・毀損,委託先事故又は未遂を別集計にしていないか。
2 相談しやすさと記録の質も見る

事故件数を減らす目標だけを掲げると,担当者が相談をためらう運用になっていないかを確認する必要がある。
相談を受けたことと違反を認定したことを分け,誤送信の疑い,設定ミス又は不審な操作でも記録できる入口を設ける方法が考えられる。
相談件数の増加だけで管理の悪化を決め付けず,内容,検知方法,対応時間及び是正結果を併せて見る。

これは,報告を増やせば事故が減るという効果を保証する説明ではない。
報告経路が実際に使えるか,報告後に必要な調査と改善が進むかを点検するための考え方である。

第3 公的な報告件数の増加を読む
1 報告義務化による観測の変化

個人情報保護委員会の令和4年度年次報告9頁は,漏えい等の報告7685件が前年度の受付5846件より増えたことについて,報告の義務化と周知等によるものと考えられると説明している。

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スクリーンショット・画像共有サービスで事件資料や税務資料を扱うとき―OCR,メタデータ,削除後の残存と共有再開(AI作成)

目次

第1 画像本体だけを管理しても十分ではない第2 Gyazoの公表資料が示す三つの区別1 画像,OCR及びメタデータ2 削除済み画像と,その画像に関する情報3 サービス再開と,画像の配信再開第3 アップロード前に確認する1 その画面を外部へ送る必要があるか2 保全用と共有用を分ける3 閲覧者と有効期間を決める第4 削除対象と保存が必要な資料を分ける1 保存期間を画像の種類ごとに決める2 削除を確認する対象3 削除記録に何を残すか第5 共有を再開するときの順序1 誰が再開を判断するか2 既存のリンクと埋込みも点検する第6 漏えい通知を受けた事務所の確認票第7 根拠と確認範囲
第1 画像本体だけを管理しても十分ではない

法律事務所や税理士事務所では,エラー画面,裁判資料,給与台帳又は本人確認書類の一部を,スクリーンショットとして担当者へ伝えることがある。
送信が簡単である反面,画像の内容だけでなく,画像から読み取られた文字,題名,元のページのURL等が別に保存・共有される場合がある。

本記事は,令和8年9月に公表された画像共有サービス「Gyazo」の情報漏えいを手掛かりに,何を確認してからアップロードし,何を削除・再共有の対象とするかを整理する。
公表資料の確認日は同年10月13日である。
個々のサービス,契約又はプランについて一律の安全性を認定するものではない。

実務上の結論は,①画像本体と付随情報を別に把握する,②保全用データと共有用コピーを分ける,③入力・共有前に不要な情報を除く,④削除の範囲と残存期間を確認する,⑤停止した画像の配信再開では内容と閲覧者を再点検する,という五点である。
以下の確認票や担当の決め方は,本記事の運用提案であり,一律の法定様式ではない。

第2 Gyazoの公表資料が示す三つの区別
1 画像,OCR及びメタデータ

Helpfeelの第一報は,流出した画像関連のメタデータとして,画像URLの構成に用いられる画像ID,アップロード元のIPアドレス,User-Agent,画像に含まれる場合のEXIF位置情報,OCRで抽出した文字,画像の題名及び元のURL等を挙げている。
これは同社の公表内容であり,外部から独立したフォレンジック検証を行った結果ではない。

OCRとは,画像に写った文字を文字データとして読み取る処理である。
画像本体を閲覧できなくても,OCRの文字が残れば,氏名,事件番号,口座番号又は取引内容が読める場合がある。
逆に,すべてのスクリーンショットに位置情報やOCRが存在するわけでもない。
利用するサービスが実際に生成・保持する項目を確認する必要がある。

2 削除済み画像と,その画像に関する情報

同社の第二報は,過去に削除された画像に関するメタデータ約1.74億件の流出を追加で公表した。
主に令和5年2月以前に画像又はアカウントが削除されたものが対象であり,この追加確認に削除済み画像ファイルそのものは含まれていないとしている。

したがって,「削除した画像約1.74億枚が流出した」と言い換えることはできない。
また,この公表を,現在のすべての削除処理に同じ残存があることの証明として扱うこともできない。
学びは,利用者から見た削除,画像本体の消去及び関連データの消去が同じとは限らず,それぞれを確認する必要があるという点にある。

3 サービス再開と,画像の配信再開

サービス再開案内は,利用者が画像の配信を再開すると,事故前の閲覧範囲が適用されると説明する。
9月29日の追記では,Gyazo Teamsの事故前にアップロードされた画像について,配信停止中でも同じチームのメンバーが閲覧できる仕様を示している。
「自分のみ」設定は除かれ,パスワード保護のある画像は引き続き入力を要するとされる。

このため,「サービスを再開しても全画像が本人だけに見える」と一括して説明することは適切でない。
サービスの復旧,個々の画像の配信再開及びチーム内の閲覧権限を分ける必要がある。
現在の設定を確認せず,過去の案内だけで共有先を決めてはならない。

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個人情報漏えいの通知を受けたら―流出項目別の対処,二次被害の防止と証拠保存(AI作成)

目次

第1 最初に行うことと本記事の対象1 公式の連絡先で通知の真偽と対象範囲を確認する2 会社全体の公表と自分の情報を分ける第2 流出項目ごとの対処1 ID,パスワード,メールアカウント2 氏名,住所,電話番号,予約情報3 口座情報,カード情報,不審な取引4 本人確認書類,医療資料,写真及び保存ファイル第3 証拠を残しながら二次被害を防ぐ1 通知,公表,問い合わせの原本を保存する2 被害と対処を時刻順にまとめる第4 相談先と事業者に確認する事項1 相談の目的で窓口を選ぶ2 返答を求める項目を具体化する第5 関連記事第6 出典
第1 最初に行うことと本記事の対象
1 公式の連絡先で通知の真偽と対象範囲を確認する

個人情報漏えいの通知を受けた場合は,①公式の経路で通知を確認する,②自分に関係する流出項目を確かめる,③不正ログインや不正送金等の拡大を止める,④通知と対応の証拠を保存する,という順で進める。
進行中の不正利用がある場合は,資料を全て揃えるまで停止の依頼を待たない。

通知メールやSMSに書かれたリンクや電話番号だけを信用せず,普段使っている公式アプリ,ブックマーク又は契約書にある連絡先から事業者の案内を確認する。
IPAの不正ログイン対策も,不審な連絡の真偽は公式サイトや公式アプリから確認することを勧めている。
補償や返金の手続を装った連絡に,認証コード,パスワード又は口座の暗証番号を渡さない。

2 会社全体の公表と自分の情報を分ける

公表された件数が,自分の流出項目を示しているとは限らない。
退会者,登録途中の者,同行者又は法人契約の登録利用者も対象に含まれる場合があるため,利用時期,登録情報,対象サービス及び通知の対象条件を確認する。
事業者には,自分が対象か,どの項目が漏えいしたか又はそのおそれがあるか,いつのデータか,確認済みの事実と調査中の事項は何かを問い合わせる。

本記事は,令和8年10月16日時点で確認した官公庁の案内と事業者の公表に基づく,本人向けの初動の説明である。
問い合わせ内容と証拠のまとめ方は,これらを踏まえた実務上の提案である。
事業者の報告義務の判断や慰謝料の額は,末尾の関連記事で別に扱う。

ソースネクスト株式会社の令和8年10月15日の公表は,対象件数を2251万9960件としつつ,列挙した項目は流出した可能性のある全項目であり,全ての会員について全項目が対象となったわけではないと説明している。
同社FAQは,同月13日13時36分までの登録者を対象範囲とし,対象者への案内を順次行うとしている。
全体の対象範囲,最大の項目集合及び自分について対象となった項目を分けて確認する必要がある。

同社の公表ページはログイン時にパスワード再設定を求める措置を説明し,FAQはパスワードのリセットを順次実施すると説明している。
個別メール,公表ページ,FAQ及び実際のログイン画面の表現が異なる場合は,各資料と確認時刻を保存し,公式サイトを直接開いて最新の手順を確認する。
公式に使用されている送信元ドメインと一致することだけで個別メールの真正性を確定せず,完全なメールヘッダーも保存する。

同社はパスワードが流出した可能性を公表しているが,令和8年10月16日時点の公表資料から保存方式は確認できない。
平文であった又は安全なハッシュ化であったと推測せず,公式手順による再設定と,同一又は類似のパスワードを使っている他サービスの変更を優先する。

第2 流出項目ごとの対処
1 ID,パスワード,メールアカウント

認証情報が流出した場合は,対象サービスの公式の手順で変更し,同じパスワードを使っている他のサービスも変更する。
個人情報保護委員会の令和8年8月19日の注意喚起は,メールサービスの流出したパスワードと同一又は類似のパスワードを他のサービスで使っている場合にも変更を求めている。
ハッシュ化して保存されていたという説明だけで,変更が不要であると判断しない。

自分でログインできる場合は,パスワード変更に加え,登録メールアドレスや電話番号に不審な変更がないか確認し,多要素認証の設定を検討する。
ログインできない場合は,公式の復旧手順とサポート窓口を使う。

(続きを読む...)個人情報漏えいの通知を受けたら―流出項目別の対処,二次被害の防止と証拠保存(AI作成)

大学病院における医療等情報の提供に伴う課題と要望―全国医学部長病院長会議の提言と法務上の論点(AI作成)

目次

第1 資料の位置付けと要点1 大学病院側の提言を読む意味2 要望・政策方針・現行制度を区別する第2 調査から分かる現場の負担1 回答数と集計の範囲2 初期整備よりも継続運用が問題となる第3 全国医学部長病院長会議の9つの要望1 財政支援・制度簡素化・専門人材2 研究資源の保護と大学への還元3 セーフハーバーは創設要望である第4 10月の正式なとりまとめとの関係1 大規模病院と対象データを段階的に扱う方針2 公的支援を受けた研究は別の論点となる3 費用還元・患者対応・識別子第5 提供費用とデータの対価を分けて検討する1 現行ガイドラインが認める費用負担2 契約と予算で明確にする項目第6 大学病院の法務担当者が整理すべき事項1 提供対象と手続を台帳化する2 契約・運用・事故対応を対応させる第7 よくある疑問1 すべての大学病院に提供義務が確定したのか2 研究データはすべて提供対象から外れるのか3 資料の費用イメージをそのまま予算要求に使えるか4 セーフハーバーにより病院は免責されるのか第8 主な参照資料
第1 資料の位置付けと要点
1 大学病院側の提言を読む意味

「大学病院における医療等情報の提供に伴う課題と要望」は,全国医学部長病院長会議(AJMC)が令和8年7月8日の内閣府「医療等情報の利活用の推進に関する検討会」第13回会合に提出した資料である。大学病院が保有する医療情報を研究開発に活用する際の,費用,人材,データ品質,患者対応,知的財産及び責任分担の課題をまとめている。

提言の中心は,データ提供の推進に協力する一方で,財政・技術支援と人材確保を先行させ,電子カルテの更新時期などを考慮して段階的に進めるべきだという点にある。接続システムを作れば終わるわけではなく,抽出・修正・問い合わせ・拒否申出への対応を継続する負担がある。

本記事は,この資料と令和8年10月9日公表の正式な「とりまとめ」を対照し,大学病院の管理部門,情報部門,研究部門及び法務担当者が確認すべき事項を整理する。患者の同意と各制度の全体像は,医療情報は同意なく使われるようになるのかで説明している。

2 要望・政策方針・現行制度を区別する

AJMC資料は大学病院側の要望であり,それ自体が病院の提供義務や免責を定めるものではない。10月のとりまとめも制度改正に向けた政策方針であり,新たな提供義務が直ちに施行されたことを意味しない。とりまとめは令和9年通常国会への法案提出を目指すことを踏まえ,法制上の調整・検討を進めるべきとしている。

したがって,令和8年10月11日時点の実務では,現行の提供ルートと手続を確認する必要がある。「今後,提供義務の対象とする方針である」という記述を,「現在,すべての大学病院が,すべての研究データを提出しなければならない」という意味に読み替えてはならない。

第2 調査から分かる現場の負担
1 回答数と集計の範囲

AJMCは令和8年6月10日から24日まで,大学病院82校を対象に調査し,71校から回答を得た。資料3頁のFHIR対応やDICOM形式での画像出力に関する数値には,対応済みだけでなく対応予定が含まれる。接続可能性と,継続的に研究用途のデータを提供できる体制とは区別する必要がある。

資料4頁の負担に関する自由記述は,回答71校のうち48校によるものである。その整理では,費用負担が40件,人的負担が22件,技術的負担が21件,制度的負担が8件として示されている。これらは資料による分類数であり,排他的な回答割合や全国すべての大学病院の割合として扱うべきではない。資料5頁の提供義務化に関する自由記述は29校であり,48校の集計とは別である。

2 初期整備よりも継続運用が問題となる

負担として挙げられているのは,電子カルテ・部門システムの改修,標準コードへの対応,画像出力,共通仕様の不足,認定事業者ごとに異なる接続,専任人材の確保,医師によるデータ確認などである。診療情報,研究情報及び患者説明を複数部署が扱うため,情報システム担当者だけに任せることは難しい。

AJMC資料14頁には,1施設当たりの経費負担について次の「イメージ」が示されている。

区分資料上の金額と期間初期整備費用数年間で2.2億円〜8.8億円ランニングコスト年間1.7億円〜5.2億円

この金額は参考的な費用イメージであり,71校の実支出の平均値ではない。施設規模,既存設備,対象データ,接続方式などを揃えた見積りでもないため,個別病院の必要予算をこの数字だけで決定することはできない。予算協議では,初期費用と毎年の運用費を分け,追加データや仕様変更により増える費用も見積もるべきである。

第3 全国医学部長病院長会議の9つの要望
1 財政支援・制度簡素化・専門人材

AJMC資料10頁から13頁の要望は,次の9項目に整理できる。表は資料の趣旨を要約したものである。

要望求めている対応01 財政支援継続的な支援,加工等の認定事業者負担,出力機能の標準化による病院負担の軽減02 制度簡素化制度の整理,分かりやすい判断手順,倫理審査と出口規制の役割分担,国による周知03 対価・知財保険診療データの提供費用の回収と,研究由来データ等の権利保護04 対象範囲保険診療由来データと,大学が独自に蓄積したゲノム等の学術資源との区別05 画像等法的位置付けの整理と,大量の画像データの伝送・蓄積に必要な投資への支援06 安全性・責任被害補償,公的な安全解析環境,監視体制,サイバー保険への支援07 患者対応国民の理解形成,オプトアウトの一元管理,苦情窓口の集約,免責条項の創設08 研究への還元費用・研究利用の利益の還元,統合データベースの利用,倫理審査の合理化09 専門人材医療情報・データ・セキュリティの人材育成,配置,人件費及び共同利用への支援

各要望は相互に関連する。例えば,データ出力を義務付けても,ベンダーの改修費,専任人材の人件費及び品質確認の負担を誰が負うかが決まらなければ,継続的な提供は難しい。標準化前の個別対応が費用を増大させるという指摘も,段階的な導入を求める理由である。

2 研究資源の保護と大学への還元

資料11頁は,保険診療によって得たデータと,大学が独自の研究費で蓄積したレジストリ・バイオバンク等のデータや,通常患者に提供されない元データを区別している。後者を提供義務の対象外とし,強制的な無償提供が生じない制度設計を求めている。

これはAJMCの制度設計上の主張である。すべての研究データに同じ知的財産権が成立するという法的結論ではない。提供対象を検討する際には,データの由来,研究費の条件,共同研究契約,営業秘密の管理,特許出願や成果公表の時期を個別に確認する必要がある。

資料13頁は,金銭的な利益に加え,大学病院自身が統合されたデータベースを研究に利用できることを重視している。提供側と利用側の双方を担う大学病院にとって,利用申請の条件,利用料及び研究者のアクセス環境も重要な検討事項となる。

3 セーフハーバーは創設要望である

資料12頁は,病院が二次提供を行っても患者から直接法的責任を追及されない「Safe Harbor(セーフハーバー)条項」の創設を求めている。これは責任軽減の要望であり,この資料を根拠に「法令に従って提供すれば,病院は一切責任を負わない」と説明することはできない。

提供先との契約で事故対応や費用負担を定めることと,患者に対する責任が法律上免除されることも別問題である。提供先の管理下で起きる事故と,病院の抽出・送信・除外処理の誤りを区別し,実際に管理できる範囲に応じて責任を整理することが必要となる。

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ECサイトのカード情報漏えいと加盟店の義務―割賦販売法35条の16,クレジットカード・セキュリティガイドライン6.1版及び開発委託先の責任(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論3 基準日と資料第2 ECサイトのカード情報漏えいの現状1 ガイドラインの認識2 個人情報保護委員会の指導事例3 AIを使った攻撃の報告第3 割賦販売法上の加盟店の義務1 カード番号等の適切な管理(35条の16)2 事故時の調査(施行規則132条)3 ガイドラインの位置付け4 改善命令と加盟店契約による監督5 不正利用の防止(35条の17の15)第4 EC加盟店に求められる「脆弱性対策」1 5つの対策2 委託先の管理3 SQLインジェクションの根本的な対策第5 個人情報保護法の漏えい等報告第6 開発・保守委託先との責任分担1 東京地裁平成26年1月23日判決2 前橋地裁令和5年2月17日判決3 契約実務への示唆第7 相談を受けたときの確認事項第8 関連記事第9 出典1 法令2 ガイドライン等3 報告4 裁判例(裁判所HP掲載)5 裁判例(判例秘書で確認)
第1 本記事の対象と結論
1 対象

ECサイトを運営する事業者(EC加盟店)からクレジットカード情報が漏えいした場合に,加盟店がどのような法的義務を負い,サイトの開発・保守を委託した事業者との間で責任がどう分かれるかを扱う。
個人情報保護法の漏えい等報告にも触れるが,中心は割賦販売法とクレジットカード・セキュリティガイドラインである。

2 結論

① EC加盟店は,割賦販売法35条の16第1項2号の「クレジットカード番号等取扱業者」として,カード番号等の漏えい等の防止その他の適切な管理のために必要な措置を講じる義務を負う。
② クレジットカード・セキュリティガイドライン6.1版は,この義務の実務上の指針と位置付けられている。
同ガイドラインは,現在の主な漏えいを,カード情報を保持しない「非保持化」を実現したEC加盟店でWebサイトの脆弱性等を原因として窃取されるものとし,EC加盟店に「脆弱性対策」を求めている。
③ 「脆弱性対策」は,管理画面のアクセス制限と多要素認証,アップロードできるファイルの制限,脆弱性診断又はペネトレーションテストの定期実施等であり,「下記のすべての対策を講じる」ものとされている。
サイトの構築・運用を委託するときは,委託先にもこれを理解した構築・運用を求めることとされている。
④ 加盟店は経済産業大臣の改善命令の対象から除かれているが,加盟店契約を結ぶ事業者が加盟店の措置を調査し,基準に適合しないおそれがあれば,契約を結ばず,又は解除等の措置を講じる義務を負う。
⑤ ECサイトからのカード番号を含む個人データの漏えいは,個人情報保護法施行規則7条2号の報告対象事態の例としてガイドラインに挙げられており,人数にかかわらず報告対象となる。
⑥ 開発・保守の委託先が公的機関の周知していた基本的な対策を怠った場合,契約金額を上限とする責任制限条項が適用されないとした裁判例がある(東京地裁平成26年1月23日判決,前橋地裁令和5年2月17日判決)。
他方で,加盟店側が危険を知りながら放置していた事情は過失相殺の理由となる。

3 基準日と資料

本記事は,令和8年10月10日時点で,e-Gov法令検索で取得した割賦販売法,割賦販売法施行規則,個人情報保護法及び同法施行規則の条文,クレジット取引セキュリティ対策協議会の「クレジットカード・セキュリティガイドライン【6.1版】」(令和8年3月),個人情報保護委員会の資料並びに判決の全文に基づく。

第2 ECサイトのカード情報漏えいの現状
1 ガイドラインの認識

ガイドライン6.1版は,冒頭で次のように述べている(PDF9頁)。

> 「現在の主な情報漏えいは、非保持化を実現したEC加盟店においてWebサイトの脆弱性等を原因としてカード情報が窃取されているものである。」

カード情報を自社のサーバーに保存しない「非保持化」は,長く有効な対策とされてきた。
しかし,決済画面に入力される前のWebサイト自体が改ざんされると,保存していなくても入力された情報が窃取される。
そのため同ガイドラインは,6.0版から,EC加盟店に対し,カード情報を保持するかどうかにかかわらず,システムとWebサイトの「脆弱性対策」を講じることを指針対策としている。

2 個人情報保護委員会の指導事例

個人情報保護委員会の令和7年度年次報告(印字頁10頁)は,不正アクセスによる漏えい等の原因として,「VPN(Virtual Private Network)機器の脆弱性やECサイトを構築するためのアプリケーション等の脆弱性が公開され対応方法がリリースされていたにもかかわらず、事業者が放置していたこと」,推測されやすいID・パスワード,データベースのアクセス制御の設定ミス等,安全管理措置に不備があったケースが多くみられたとしている。

3 AIを使った攻撃の報告

セキュリティ企業のGambit Securityは,令和8年9月22日,攻撃者の作業用サーバーから回収したログを分析した中間報告を公表した。
同報告によれば,攻撃者は公開されているAIエージェントのツールを組み合わせ,令和8年9月10日から15日までの間に105件の攻撃を行い,少なくとも27社に程度の差はあれ侵入し,2社から合わせて60万件を超える有効なカード情報を取得していた。
攻撃者自身の集計では,完了した101件の調査にかかったAIの利用料は平均25.46ドルであった。

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クラウド事業者がランサムウェア被害を受けたとき,利用者に漏えい等報告義務はあるか―施行規則7条3号,滅失・毀損とバックアップ(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論3 基準日と資料第2 IDCフロンティアの公表から分かること1 公表の経過2 利用者側の公表の例3 公表資料だけでは分からないこと第3 クラウド事業者が個人データを取り扱うかで分かれる1 「取り扱わないこととなっている」場合2 取り扱わない場合でも報告義務は利用者にある3 取り扱う場合(委託)第4 報告対象事態に当たるか1 施行規則7条3号と「第三者の提供するサービス」2 漏えい,滅失及び毀損を分けて考える3 人数の要件4 報告対象とならない場合第5 期限,報告の方法及び本人への通知1 速報2 確報3 本人への通知4 クラウド事業者に求める情報第6 法律事務所と税理士事務所が利用者であるとき1 法律事務所2 税理士事務所第7 クラウド契約と事業者の責任1 免責・責任制限条項2 契約で確かめておく事項第8 平時に準備しておくこと第9 関連記事第10 出典1 法令・会規2 個人情報保護委員会の資料3 事業者の公表資料4 裁判例(裁判所HP掲載)5 裁判例(判例秘書で確認)
第1 本記事の対象と結論
1 対象

令和8年10月7日,クラウドサービス「IDCFクラウド」の一部がランサムウェア攻撃を受け,契約する495の企業や自治体に影響が出たことが公表された。
自社のサーバーではなく,利用しているクラウド事業者が攻撃を受けた場合に,利用者である企業,自治体,法律事務所及び税理士事務所が個人情報保護委員会への報告と本人への通知をしなければならないかが問題になる。

本記事は,この問題を,個人情報保護法26条,同法施行規則7条から10条まで,個人情報保護委員会の通則編ガイドライン及びQ&Aに沿って整理する。
クラウド事業者の公表資料は,事案の説明のための素材として用いる。
特定の利用者に報告義務があるかどうかを判断するものではない。

2 結論

① クラウド事業者が利用者の個人データを取り扱わないこととなっている場合でも,報告義務を負うのは利用者である(Q&A6-22)。
クラウド事業者は法26条1項の報告義務を負わないが,契約等に基づいて利用者に通知する等の対応を求められる。
② クラウド事業者が個人データを取り扱う場合(委託)は,委託元と委託先の双方が原則として報告義務を負う。
③ 施行規則7条3号の「不正の目的をもって行われたおそれがある当該個人情報取扱事業者に対する行為」には,利用者が使っているサービスの提供者に対する行為も含まれる(ガイドライン3-5-3-1)。
クラウド事業者へのランサムウェア攻撃は,この類型に当たり得る。
④ 3号の事態には人数の要件がない。
本人が1人でも,個人データの漏えい,滅失又は毀損が発生し,又は発生したおそれがあれば,報告対象となる。
⑤ ランサムウェアで暗号化され復元できなくなった個人データは「毀損」に当たる。
ただし,同じデータが他に保管されている場合は毀損に当たらない(ガイドライン3-5-1-4)。
利用者が自ら持つバックアップの有無が,報告対象事態に当たるかどうかを左右する。
⑥ 確報の期限は,3号の事態では,知った日を1日目として60日以内である。
速報の目安は,知った時点から概ね3~5日以内である。

3 基準日と資料

本記事は,令和8年10月10日時点で,e-Gov法令検索で取得した個人情報保護法及び同法施行規則の現行条文,個人情報保護委員会の通則編ガイドライン(令和8年6月一部改正版)並びにQ&A(令和7年7月1日更新版)に基づく。
IDCフロンティアの事案は,同社が令和8年10月7日から9日までに公表した第1報から第4報までの内容による。
侵入経路,データの窃取の有無,影響を受けた利用者の内訳等は,同日時点では公表されていない。

第2 IDCフロンティアの公表から分かること
1 公表の経過
公表主な内容第1報(令和8年10月7日)同日午前3時40分頃から,IDCFクラウドの一部のシステムに対する第三者からの不正アクセスにより,東日本第1リージョンで障害が発生した第2報(同日)障害は第三者からのランサムウェア攻撃によるものと判明した。影響範囲は「IDCFクラウドを契約している495の企業や自治体」。東日本リージョン1をネットワークから遮断してシステムを停止し,他のリージョンの管理コンソールも停止した第3報(同月8日)東日本リージョン1の一部(4つのゾーン)で仮想サーバーが停止し,再起動できない。保管されている顧客データは「取り出しや復元が困難な見通し」で,同社の見解では「データの復元はお客さま自身が保持しているバックアップデータからのみ可能」。監督省庁及び警視庁へ報告した第4報(同月9日)10月7日午前9時に緊急対策本部を設置し,親会社と連携してバックアップ手順の案内,移行環境の提案,仮想サーバーの起動・停止の代行等を行っている

第3報は,IDCFクラウドの別の型のサービス(TypeS)とプライベートクラウドは対象外であるとしている。

2 利用者側の公表の例

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団体と構成員の権利を分ける憲法分析―公開情報の収集・報告義務の検討手順(AI作成)

目次

第1 情報の内容と権利の主体を分ける第2 団体と構成員の検討を別々に始める1 法務省の解説が示した区別2 最初に作る整理表第3 公開されている情報でも取得方法を検討する1 閲覧と団体への対応付け2 継続性と網羅性第4 情報の性質と利用を制限する仕組みを併せて見る第5 相談・起案・答案での確認手順1 制度と権利の対応を固定する2 短くまとめた後にも主体を確認する第6 出典と関連記事
第1 情報の内容と権利の主体を分ける

団体に情報の報告を求める制度を検討するとき,報告義務を負う団体だけに着目すると,構成員の表現活動や個人情報への影響を見落とす。他方,構成員の氏名が分かることを個人の問題としてだけ扱うと,団体の組織関係や自律に及ぶ影響が抜け落ちる。

まず,誰のどの権利が,どの情報の取得・対応付け・利用によって制約されるのかを分ける必要がある。情報を保有する者,報告を命じられる者,情報から識別される者,権利を主張する者は,必ずしも一致しない。

本記事は,公権力による情報収集・報告義務の憲法上の検討手順を整理するものである。個々の行政調査の権限や適法性は,その根拠法令と具体的な収集方法を確認して判断する。

第2 団体と構成員の検討を別々に始める
1 法務省の解説が示した区別

令和3年司法試験の出題の趣旨の公法系第1問は,仮想の法律案による団体の観察と媒体の報告義務について,団体と構成員の表現の自由・プライバシーへの影響を検討対象としている。同年の採点実感第3の1は,両者の区別と権利主体の明示を求め,構成員が明らかになることを団体のプライバシーとの関係で検討する視点も指摘している。

これは,当該試験の法律案を分析するための公式解説である。現行法に一般的な団体観察権限があることや,あらゆる団体に自然人と同一内容のプライバシー権が認められることを判示した裁判例として扱うことはできない。

2 最初に作る整理表

次の表は,権利の成立を先に決めるものではなく,調査・論証の漏れを防ぐための整理例である。それぞれの団体の性質,情報の内容,制約の態様に即した理由付けが必要となる。

検討する主体情報・活動検討する利益確認する影響団体団体の媒体による主義・主張の発信団体の表現の自由報告や観察によって発信が萎縮するか団体構成員と媒体の対応関係,組織のつながり団体のプライバシー・自律との関係公表済みの投稿から,別に組織関係が把握されるか構成員本人の投稿,思想信条,所属関係構成員の表現の自由・プライバシー個人の媒体が団体の活動と結び付けられるか団体・構成員団体への参加と共同活動結社の自由との関係参加・継続・組織運営に独自の支障が生じるか

結社の自由,表現の自由,プライバシーは,名称を並べれば足りるものではない。相互の関係を説明し,別の権利として論じる必要がある部分と,重なりのある部分を整理する。検討候補を挙げたことと,全ての権利侵害が成立することは区別する。

第3 公開されている情報でも取得方法を検討する
1 閲覧と団体への対応付け

誰でも閲覧できる投稿であることは,制約の程度を判断する上で重要である。ただし,個々の投稿が公開されていることと,投稿者が特定の団体の構成員であることまで公表されていることは同じではない。

法務省の出題の趣旨は,団体名義でない媒体も報告対象となることで構成員の特定につながる点を指摘している。採点実感も,公開媒体であることを踏まえた上で,報告の義務付けによる萎縮効果やプライバシーへの影響を論じるよう求めている。公開か非公開かという分類だけで検討を終えるべきではない。

2 継続性と網羅性

最高裁平成29年3月15日大法廷判決は,GPS捜査について,行動を継続的・網羅的に把握できることと,機器の秘密装着による私的領域への侵入を重視した。公道上の所在を肉眼で把握する手法等との違いも説明している。

この判決は刑事捜査と憲法35条等についての判断であり,公開SNSの閲覧や行政上の報告義務をそのまま同じ強制処分とする根拠にはならない。参照する際は,継続性・網羅性という共通する観点と,機器装着・私的領域への侵入・刑事手続という異なる前提を分ける。

第4 情報の性質と利用を制限する仕組みを併せて見る

最高裁平成20年3月6日第一小法廷判決は,住基ネットで扱う本人確認情報について,情報の性質,正当な行政目的,漏えいや目的外利用を防ぐ制度等を検討し,憲法13条による自由の侵害を否定した。

この判断を,公に知られ得る情報なら収集・利用は常に許されるという一般論に広げることはできない。団体への所属,思想信条,発信内容との対応関係については,情報の性質も,収集・利用を制限する仕組みも個別に確認する必要がある。

公開情報収集の検討では,収集目的,情報の範囲,対応付けの正確性,頻度,保存期間,アクセスできる者,他機関への提供,目的外利用への制限を整理する。これらは本記事の実務上の確認手順であり,どの制度にも同じ義務が一律に課されるという説明ではない。

第5 相談・起案・答案での確認手順
1 制度と権利の対応を固定する

①処分・報告要求の根拠と対象を特定する。②報告義務を負う者と,情報が識別する者を分ける。③取得される情報と,対応付けにより新たに分かる関係を分ける。④各主体の権利と,収集・報告・利用のどの段階で生じる支障かを結び付ける。

観察対象に指定されること自体の影響と,報告を義務付けることによる影響も分けて確認する。両者が一体の制度であれば全体の効果を見た上で,各要件と各措置が目的達成に役立つか,範囲や期間が過大でないかを検討する。

2 短くまとめた後にも主体を確認する

主張書面や答案を短くする際には,「団体及び構成員のプライバシーを制約する」という総括だけを残さない。団体については何が把握されるのか,構成員については何が識別・利用されるのかを,少なくとも一度は具体的に述べる。

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個人情報保護委員会が示した不正アクセス9類型―API,クラウド,グループ会社,個人領域及びログ管理(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の位置付け1 令和8年10月7日の個人情報保護委員会資料2 法的な拘束力と例示の区別第2 現行法と技術的安全管理措置の見直し予定1 法22条から25条までを一体で見る2 現行の4項目と将来の第5項目第3 不正アクセス9類型と対策1 脆弱性が放置された事例2 脆弱性への対応が遅れた事例3 不正ログインの事例4 グループ会社や海外拠点が狙われた事例5 グループ会社間のアクセス制御不備6 個人領域に保存したデータの漏えい7 グループ会社への監督が不十分な事例8 利用するクラウドサービスからの漏えい9 APIが悪用される事例第4 弁護士・司法書士・税理士実務への落とし込み1 共通の台帳を五つに分ける2 弁護士実務3 司法書士実務4 税理士実務5 委託契約と事故対応第5 後日の事実認定と一次資料の使い方1 確認済み・技術上可能・不明を分ける2 行政資料と裁判例の射程を分ける第6 関連記事第7 出典
第1 本記事の対象と資料の位置付け
1 令和8年10月7日の個人情報保護委員会資料

個人情報保護委員会は,令和8年10月7日の第371回会合で,「大規模な漏えい等事案を踏まえた対応について(注意喚起)」と改訂版「WARNING~不正アクセスによる個人データ漏えい防止のための注意喚起~」を公表した。
後者は,委員会に報告された不正アクセス事案の問題を9類型に整理し,原因と対策例を示している。

本記事は,この9類型を,一般企業だけでなく,弁護士,司法書士及び税理士の事務所で使える点検項目に置き換えるものである。
令和8年10月16日時点の公表資料に基づき,個別のシステムを安全と判定するものではない。

2 法的な拘束力と例示の区別

個人情報保護委員会の注意喚起は,法23条の安全管理措置を具体化する際の重要な行政資料であるが,資料に並ぶ全ての技術を全事業者に一律に義務付けるものではない。
「講じなければならない措置」と「手法の例示」を分け,事業の規模・性質,データの性質・量,リスク及び当時の技術水準に即して必要かつ適切な方法を選ぶ必要がある。

第2 現行法と技術的安全管理措置の見直し予定
1 法22条から25条までを一体で見る

個人情報保護法22条は,個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに,利用する必要がなくなったときの遅滞ない消去について努力義務を定める。
同法23条の安全管理措置,24条の従業者の監督及び25条の委託先の監督は,保有するデータと関係者を抽象的に管理するのではなく,資産台帳,保存場所,アクセス権限,委託関係及び消去時期に落とす必要がある。

2 現行の4項目と将来の第5項目

令和8年10月時点のガイドライン通則編は,技術的安全管理措置の「講じなければならない措置」を,①アクセス制御,②アクセス者の識別と認証,③外部からの不正アクセス等の防止,④情報システムの使用に伴う漏えい等の防止としている。

同委員会の令和8年10月7日の注意喚起は,見直し内容の確定を令和9年4月に予定していると説明し,その予定内容を先取りする形で,⑤不正アクセス等の検知等を示している。
この時点で示された予定を,令和9年4月からの適用開始が確定したとの説明に置き換えない。
認証ログ,アクセスログ,操作ログ及び通信ログの保存・保護・定期分析,IDS/IPSやEDR等による早期検知,侵害システムの停止・隔離及びアカウント無効化が例示されているが,確定前の見直し予定と現行ガイドラインを混同してはならない。

第3 不正アクセス9類型と対策
1 脆弱性が放置された事例

システム導入の契約だけで保守契約がない,保守契約に脆弱性対応が含まれない,又は対応の役割分担が未定であると,公開された脆弱性と修正情報があっても対応が止まる。
貸与品を含むIT資産の棚卸し,脆弱性情報の収集・分析,対処者と期限,終了確認までを一つのプロセスとして決める必要がある。

ウェブサイトでは,WordPress等のCMS本体,テーマ及びプラグインだけでなく,PHP,OS及び関連ライブラリも管理対象として確認する。
CMS側に更新がないことだけで,実行基盤の脆弱性への対応まで不要と判断することはできない。
令和8年10月21日のPHP公式告知は,認証不要の遠隔コード実行につながり得る2件の脆弱性について修正版を示しており,CMSと実行基盤の更新担当を分けて把握する具体例となる。
これはPHPの開発側による技術的な告知であり,特定のサイトの侵害や管理者の過失を認定した資料ではない。
出典:PHP「News Archive - 2026」。
https://www.php.net/archive/2026.php

(続きを読む...)個人情報保護委員会が示した不正アクセス9類型―API,クラウド,グループ会社,個人領域及びログ管理(AI作成)

Pマーク・ISMS取得済みの委託先なら安心か―AI・クラウドの認証範囲,安全管理措置及び委託先監督(AI作成)

目次第1 認証を取得していても個別サービスの確認は残る第2 Pマークは個人情報保護の体制と運用を評価する1 法人単位で確認する2 書類だけの制度と説明しない第3 ISMSは登録範囲と適用する管理策を読む第4 個人情報保護法上の委託先監督は別に行う1 取得済みでも監督義務がなくなるわけではない2 望ましい契約条項と具体的な監督方法を混同しない第5 認証・契約・実装・設定を一つの確認記録につなぐ1 四つの資料を分けて集める2 同じ製品でも機能ごとにデータの流れを確認する第6 導入時と利用継続時の判断を残す第7 資料の確認範囲

本記事は,令和8年10月3日現在の公表資料に基づき,法律事務所及び企業がAI・クラウド等の委託先を選ぶ際に,Pマーク又はISMSの取得をどのように評価するかを整理するものである。認証制度の説明と,個人情報保護法上の委託先監督と,具体的な導入時の確認方法を分けて扱う。

第1 認証を取得していても個別サービスの確認は残る

認証は,第三者による評価を受けた管理体制を確認する有用な資料である。しかし,「取得済み」という表示だけから,今回使うAI機能の全てのデータ処理,契約条件及び設定が事務所の要求を満たすと結論付けることはできない。まず取得した法人,認証の対象となる業務・組織及び有効性を確認し,その上で実際のデータの流れを確認する。

結論として,認証登録証,契約による約束,対策が実施されていることを示す資料,利用者が選んだ設定を組み合わせて判断する。「認証があるから確認を省く」ことも,「書類の制度だから意味がない」と扱うことも適切ではない。

第2 Pマークは個人情報保護の体制と運用を評価する
1 法人単位で確認する

JIPDECの制度概要によれば,プライバシーマークは,JIS Q 15001に準拠する構築・運用指針に基づき,個人情報を保護する体制を評価する制度である。付与は法人単位を基本とし,医療法人等及び学校法人等には例外がある。有効期間は2年間で,更新の仕組みがある。

委託契約の相手方と,マークの付与を受けた法人名を照合する。同じ企業グループの親会社が取得しているという説明だけで,契約相手の子会社も取得していると扱わない。登録番号及び有効期間も確認し,法人の合併・分社や契約相手の変更があれば確認し直す。

2 書類だけの制度と説明しない

構築・運用指針のJ.9.2は安全管理措置を,J.9.4は委託先の選定,契約及び監督を扱う。審査業務の案内も,文書と実際の運用の確認を示している。したがって,申請書式が複雑であるという経験談から,技術的対策や運用の確認が制度に含まれないと説明してはならない。

他方,制度上の評価を受けたことと,特定サービスの現在の設定や再委託先まで依頼者が確認したことは別である。取得の有無を出発点に,今回委託する業務に必要な具体的資料を求める。

第3 ISMSは登録範囲と適用する管理策を読む

ISMS-ACの制度説明によれば,ISMSは,情報の機密性,完全性及び可用性についてリスクを評価し,必要な管理を行うマネジメントシステムである。情報セキュリティの管理体制に関する認証であり,特定製品について脆弱性がないことや事故が起きないことを保証するものとして読むべきではない。

認証取得組織検索及び登録証で,法人名だけでなく,対象となる部署,所在地,登録範囲,登録番号,認証機関及び有効性を確認する。登録範囲に今回のサービスの開発・運用・保守が含まれるかを具体的に説明してもらう。グループ内の別法人や,範囲外のサービスまで対象であると推定しない。

適用宣言書などで,どの管理策を適用し,適用又は除外の理由をどのように整理しているかも確認する。付属書の管理策を全て一律に実施する制度と捉えず,今回の委託内容とリスクに必要な管理策が選ばれ,運用されているかを見る。機密資料の全面開示だけを要求するのでなく,該当部分の説明,監査報告の要約その他の合理的な確認方法を協議する。

クラウドセキュリティの追加認証がある場合も,通常のISMSと同一視せず,対象サービス及び基準を確認する。なお,ISMS-ACのFAQ3は,非公開希望,掲載準備,別の認定機関の下での認証等により検索できない場合を説明している。検索結果が0件であることだけで未取得又は無効と断定せず,登録証又は認証機関への照会で補う。

第4 個人情報保護法上の委託先監督は別に行う
1 取得済みでも監督義務がなくなるわけではない

個人情報保護法23条は必要かつ適切な安全管理措置を,25条は個人データの取扱いを委託する場合の必要かつ適切な委託先監督を求める。個人情報保護委員会の通則編ガイドライン3-4-4は,委託先の選定,契約及び取扱状況の把握を説明している。認証の取得によって,この義務が当然に免除されるわけではない。

委託するデータの内容・量,漏えい時の権利利益への影響,事業や取扱いの性質に応じて確認の程度を決める。診療情報,紛争資料,個人番号その他の慎重な管理を要する情報について,一般的な広報資料だけで判断しない。委託する業務に必要のない個人データを渡さないことも基本となる。

2 望ましい契約条項と具体的な監督方法を混同しない

通則編は,合意した安全管理措置と,委託元が取扱状況を合理的に把握する仕組みを契約に盛り込むことが望ましいとする。また,定期的な監査等を通じて実施状況を確認し,監督を見直す考え方を示している。全ての委託先を同じ頻度で現地監査しなければならないという説明に置き換えない。

再委託については,相手方,業務内容及び取扱方法の報告又は承認,安全管理の確認方法を契約と運用に反映する。全てのAI・クラウド利用が同じ法律関係になるわけではないため,そもそも個人データの取扱いの委託に当たるかも,契約と実際の処理に即して確認する。

第5 認証・契約・実装・設定を一つの確認記録につなぐ
1 四つの資料を分けて集める

①認証資料では,取得法人,登録範囲,有効性及び今回のサービスとの対応を確認する。
②契約資料では,利用規約,個別契約,DPA,秘密保持,再委託,処理国,保存期間,事故通知及び終了時の削除を確認する。
③実装を示す資料では,権限管理,認証,暗号化,操作ログ,保守担当者のアクセス及び復旧の仕組みを確認する。
④利用者の設定では,選択したプラン,学習・改善への利用,外部連携,共有範囲,管理者権限及び保持期間を確認する。

(続きを読む...)Pマーク・ISMS取得済みの委託先なら安心か―AI・クラウドの認証範囲,安全管理措置及び委託先監督(AI作成)

日本版DBSの犯罪事実確認記録をどう扱うか―本人通知・訂正、保護者への説明、内部共有と保存・廃棄(AI作成)

目次第1 施行前に決めておく情報管理の基本第2 最初に情報の種類を分ける1 犯罪事実確認記録等2 本人から別に取得する情報と被害申告の記録第3 本人への事前通知と訂正・開示の違い1 該当する結果は事業者への交付前に通知される2 事業者から本人への開示は別の問題である第4 内部共有と外部提供を分ける1 同一事業者内でも必要な担当者に限る2 目的外利用・第三者提供の例外は法定されている第5 保護者や派遣元には何を説明できるか1 保護者への説明2 派遣元への連絡第6 保存場所,廃棄・消去期限と証拠の扱い1 保存場所と取扱記録2 5年保存が一律の義務ではない3 労務紛争の証拠保存とは区別する4 情報管理規程のひな型はどれを選ぶか第7 漏えい等が起きた場合の初動第8 準備の確認項目と参照資料1 実務で確認する項目2 参照資料
第1 施行前に決めておく情報管理の基本

日本版DBSを含むこども性暴力防止法は,令和8年12月25日に施行される。
本記事は,同年10月8日現在公表されている法令,9月改訂ガイドライン,9月29日更新のQ&A及び10月1日付け監督等指針に基づき,施行後の情報管理を準備するための説明である。
犯罪事実確認が必要な事業者・業務の範囲や現職者の確認時期は別に確認する必要があり,すべての企業がすべての従業員の前科を調べられる制度ではない。

制度全体の対象事業者,対象従事者,主な義務及び施行準備は,こども性暴力防止法とは―日本版DBSの対象・義務・令和8年12月25日の施行準備を参照されたい。
こどもの安全確保と従事者の情報保護を両立させるには,誰が確認結果を見るか,誰に何を説明するか,いつ消去するかを先に決める必要がある。
「本人が同意した」「顧問弁護士へ相談する」「保護者が求めた」という事情だけで,犯罪事実確認記録を外部へ提供できるわけではない。

弁護士の役割と被害申告時の聴き取りは,こども性暴力防止法の施行と弁護士の役割も参照されたい。

犯罪事実確認の対象となる罪と期間,申請から確認書の交付までの流れは,こども性暴力防止法の犯罪事実確認とは―対象となる性犯罪・20年と10年の期間・確認の流れと事前通知で説明している。
本記事は,確認書を受け取った後の記録の扱いを中心に説明する。

第2 最初に情報の種類を分ける
1 犯罪事実確認記録等

犯罪事実確認記録等には,犯罪事実確認書そのものだけでなく,そこに記載された情報を転記した記録も含まれる。
特定性犯罪事実の「有・無」だけを人事台帳に記載したものや,確認結果を直接うかがわせる記録にも,同じ制限が及ぶ。
該当する性犯罪歴が「ない」という結果も保護対象であり,確認書を捨ててチェック欄だけ残せばよいという扱いはできない。
対象期間内の特定性犯罪についての制度であって,不起訴,示談,あらゆる犯罪歴を一括して照会する制度ではない。

2 本人から別に取得する情報と被害申告の記録

特定性犯罪事実該当者であると分かった後,事業者が本人との面談等により別に取得する,過去の性犯罪の詳しい事情等は,ガイドライン上「特定性犯罪事実関連情報」と整理される。
この情報には確認記録等の目的外利用・第三者提供禁止規定が直接適用されないが,要配慮個人情報として個人情報保護法上の取得・提供等のルールを確認し,確認記録等に準じた厳格な管理を行う必要がある。
確認書の転記を「面談記録」と呼び替えて,この区別を利用することはできない。

こどもの被害申告,聴取記録,医療情報等についても,取得経緯,内容,利用目的及び法的根拠をそれぞれ確認する。
これらがすべて同じ種類の情報になるわけではないが,被害を受けた事実や医療情報など,要配慮個人情報に該当する内容が含まれ得る。
確認結果の管理規程だけで,こどもの聴き取りや支援に必要な情報管理を済ませないことが重要である。

第3 本人への事前通知と訂正・開示の違い
1 該当する結果は事業者への交付前に通知される

特定性犯罪事実該当者に該当する結果である場合,こども家庭庁は,事業者へ確認書を交付する前に本人へ記載内容を通知する。
通知内容が事実でないと思う本人は,通知を受けた日から2週間以内に訂正請求をすることができる。
事業者への交付は,この期間を経過するまで行われず,期間内に訂正請求があれば,その決定の通知まで行われない(法35条5項,37条)。
本人への連絡方法を確実にし,事前通知が来た場合の相談先と期限を説明しておくことが実務上有用である。

(続きを読む...)日本版DBSの犯罪事実確認記録をどう扱うか―本人通知・訂正、保護者への説明、内部共有と保存・廃棄(AI作成)

店舗・法律事務所に防犯カメラを設置するとき―画角,録音,顔識別,保存期間及びクラウド契約(AI作成)

目次第1 設置前に決めること1 防犯の目的と撮影の範囲2 従来型カメラの表示と利用目的第2 顔識別・従業者の監視を追加するとき1 顔識別機能を通常の録画と区別する2 従業者の監視に関するルール3 職場の監視を問題とした労働委員会命令4 自衛目的の記録と保存・共有を分ける5 不在中の録音と自らの会話の録音を分ける第3 保存期間と証拠保全1 一律の日数ではなく必要性から決める2 映像とログを別に保全する第4 クラウド契約とアクセス管理1 契約前に確認する項目2 閲覧権限と委託先の確認3 カメラ・録画機・ルーター自体を管理する第5 導入・変更時の確認と資料の範囲1 導入前に行う試験2 現行法と改正法を区別する3 関連記事
第1 設置前に決めること
1 防犯の目的と撮影の範囲

防犯カメラを導入するときは,機器の価格や画質だけでなく,何を防ぎ,どの場所を撮影し,誰が映像を確認するかを先に決める必要がある。本記事は,店舗や法律事務所での設置・運用を扱う。映像を警察や弁護士へ提供するときの判断は,防犯カメラ映像を警察・弁護士に提供するときで別に説明している。

実務上は,入口,駐車区画,レジ周辺等について,撮影によって確認したい事実を一つずつ書き出すとよい。例えば,無断駐車への対応なら,車両の出入りと駐車位置の確認が目的になる。隣家の室内や必要のない道路部分まで撮ることを当然の前提にせず,画角の変更やマスキングを検討する。これは目的に沿った運用設計の提案であり,全ての施設に同一の画角を義務付ける趣旨ではない。

法律事務所では,相談者の来訪自体や相談内容に配慮し,面談室の撮影・録音を受付の防犯と一緒に決めないことが大切である。音声が必要な理由,録音される場所,閲覧者,保存期間を別に検討し,必要性を説明できなければ録音機能を停止する運用を検討する。「防犯カメラ作動中」という表示だけで,あらゆる会話の録音や利用が許されるわけではない。

弁護士法23条は,職務上知り得た秘密の保持を弁護士の権利・義務として定めている。相談内容を録音する場合は,個人情報保護だけでなく守秘義務との関係も確認する。実務上の提案として,受付の防犯記録と相談の記録を分け,必要な場合には録音の目的,範囲,保存,閲覧者及びクラウド事業者のアクセスを具体的に説明し,録音を止めて相談できる方法も検討する。以下の職場の事例は法律相談室を直接扱うものではなく,相談室の常時録音の適法性を保証しない。

2 従来型カメラの表示と利用目的

個人情報保護委員会のカメラに関するQ&AQ1-13によれば,個人を識別できる画像を取得する場合は,利用目的を特定し,その範囲で利用する必要がある。設置状況から防犯目的が明らかな場合には利用目的の通知・公表の例外がある一方,撮影されることを容易に認識できない場合には,認識できるようにする措置が必要である。認識できる設置状況でも,掲示等を行うことが望ましいとされている。

入口の掲示,施設のウェブサイト及び運用規程の内容をそろえ,運用主体,目的及び問合せ先を案内すると,利用者からの質問に対応しやすい。表示が実際の運用と一致しているかを,導入時だけでなく,機能追加時にも確認する。

第2 顔識別・従業者の監視を追加するとき
1 顔識別機能を通常の録画と区別する

前記Q&AのQ1-14は,顔識別機能を使う場合,その使用を利用目的に明らかにし,通知又は公表を行う必要があると説明している。同Q1-15によれば,防犯目的で取得した画像や顔特徴データをマーケティング等の商業目的に転用するときは,事前の本人同意が必要になる。

導入判断では,「録画だけ」「顔を照合して通知」「来店分析」の機能を分けて確認する。防犯用の顔照合に登録する対象,登録理由の記録,誤登録の訂正,解除の判断者も決めておく。単に不審に見えたという担当者の印象だけで登録を広げる運用は避けるべきである。

2 従業者の監視に関するルール

個人情報保護委員会Q5-7は,個人データの取扱いに関する従業者の監督としてモニタリングを行う場面について,目的の特定・明示,責任者と権限,運用ルール及び適正な実施の確認を挙げている。重要事項について労働組合等への通知・必要に応じた協議や従業者への周知が望ましいとも説明している。

このQ&Aは,全ての職場監視の適法性を一括して認める資料ではない。社内不正の調査で映像を使う場合は,調査の対象期間と場所を絞り,関係のない映像へのアクセスを制限する。勤怠評価や懲戒に用いるなら,撮影目的との関係,規程,説明及び調査の相当性を別に検討する必要がある。調査の進め方は,社内で窃盗・横領が疑われたときの社内調査も参照されたい。

3 職場の監視を問題とした労働委員会命令

鹿児島県労働委員会平成26年1月9日命令〔平成24年(不)第2号〕は,組合員の職場を映すカメラ等について,画角・録音機能,説明,設置時期,労使関係及び主張された目的との整合性を検討し,組合員の行動監視を目的とする不利益取扱いを認定した。救済は,対象の7台について団体交渉に応じること等と,うち3台について一定の措置まで使用しないことを含む。全ての職場カメラの禁止や,7台全部の撤去を一律に命じたものではない。

これは裁判所の判決ではなく,労働委員会の命令である。防犯・事故防止という名目や事前の表示だけで判断せず,実際の撮影対象と監視の程度を確認する必要がある,という実務上の学びになる。カメラ配置図,必要性を示す事故等の記録,音声・ズーム機能の設定及び閲覧場所も,設置の検討資料として残すとよい。

4 自衛目的の記録と保存・共有を分ける

京都地裁令和6年5月14日判決〔令和2年(ワ)第1858号〕は,労働者が自衛目的で行った限られた範囲・期間の撮影や,自らの会話の無断録音について,その事案の就業規則上の懲戒事由には当たらないとした。一方,削除を指示された動画を削除したと偽り,第三者もアクセスできる共有サーバー内に保存した点は,懲戒事由に当たるとした。判決全体では,ほかの非違行為も踏まえて懲戒解雇を有効としている。

無断撮影・録音が一般に適法であるとか,一定期間以内なら問題がない,という判断ではない。記録の目的,撮影・録音の範囲,規程・指示に加え,その後の保存先,共有及び報告を別々に評価することが重要である。証拠を残す必要がある場合も,アクセスを制限した保全方法や削除指示への対応を個別に検討し,虚偽報告によって解決しようとしない。

5 不在中の録音と自らの会話の録音を分ける

大阪地裁令和5年12月7日判決〔令和3年(ワ)第6483号・令和4年(ワ)第350号,判例時報2612号55頁,判例秘書L07851277〕は,自分がいない間の従業員休憩室に録音機を置き,約4か月にわたり20回,1回約3時間,会話を広く秘密録音した証拠(甲6)を排除した。休憩室の利用状況,録音の方法・範囲等を踏まえてプライバシーを著しく侵害し,証拠として採用することが訴訟上の信義則に反すると判断したものである。

同じ判決は,別の従業員が自分の参加する会話を自衛目的で録音した証拠(甲8)については,侵害の程度や証拠の重要性等を検討して採用した。秘密録音という名称だけで一律に決めず,録音者が会話に参加しているか,場所,期間,対象,目的,取得の経緯及び立証上の必要性を具体的に確認する必要がある。

また,不在中の休憩室を録音した者には,録音に関するプライバシー侵害による慰謝料として,相手2名それぞれに5万円が認められた。証拠として使えるか,取得行為が不法行為になるか,就業規則上の懲戒事由に当たるかは,分けて検討する。甲8を採用したことは,自分の会話なら常に適法であるとか,録音者の損害賠償責任が一切ないと判断したという意味ではない。この事例も,法律相談室の常時録音を直接扱うものではない。

第3 保存期間と証拠保全
1 一律の日数ではなく必要性から決める

個人情報保護委員会Q5-4は,個人情報保護法22条に基づき,利用の必要性を考慮して保存期間を設定し,不要になった個人データを遅滞なく消去するよう努める必要があると説明している。「法律上,防犯映像は全て30日保存しなければならない」という整理にはならない。

(続きを読む...)店舗・法律事務所に防犯カメラを設置するとき―画角,録音,顔識別,保存期間及びクラウド契約(AI作成)

防犯カメラ映像を警察・弁護士に提供するとき―捜査関係事項照会,弁護士会照会,第三者の映り込みと提供範囲(AI作成)

目次第1 本記事の対象と基本的な考え方第2 映像が「個人情報」「個人データ」に当たるか1 顔が判別できる映像と個人データの区別2 防犯目的と新しい利用目的第3 警察から提供を求められた場合1 捜査関係事項照会と任意の協力依頼2 依頼者と範囲を確認する第4 弁護士会照会と弁護士個人の依頼1 弁護士会照会2 弁護士個人からの依頼第5 第三者の映り込みと必要な前後関係第6 映像の保全と安全な受渡し1 原記録と作業履歴を残す2 受取人と受領を確認する第7 記録義務と本人からの開示請求1 法定の第三者提供記録と社内の対応記録2 「警察に渡したから開示できない」とは限らない第8 撮影の適法性と裁判での評価は別に確認する第9 対応前の確認事項第10 資料の確認範囲と令和8年改正
第1 本記事の対象と基本的な考え方

店舗,会社又は集合住宅の管理者が保管する防犯カメラ映像について,警察や弁護士から提供を求められた場合の対応を,令和8年10月2日現在の個人情報保護委員会の公表資料に基づいて整理する。行政機関自身が保有する映像の取扱いは,本記事の対象外である。
映像の撮影,保存,社内での閲覧及び外部への提供は,それぞれ確認すべき事項がある。適法に撮影した映像であっても,誰に,どの範囲を,何のために渡すかを別に判断する必要がある。

対応の基本は,依頼者と法的根拠を確認し,上書き前に必要な映像を保全した上で,事件との関係が説明できる期間・カメラ・情報に提供範囲を絞ることである。本人同意が不要となる根拠があることと,求められた全映像をそのまま提供すべきことは,同じではない。

第2 映像が「個人情報」「個人データ」に当たるか
1 顔が判別できる映像と個人データの区別

特定の個人を識別できるカメラ画像は個人情報に当たる。顔が不鮮明でも,名札,制服,撮影場所又は他の情報との容易な照合によって個人を識別できる場合がある。
もっとも,個人情報であることから直ちに「個人データ」であるとはいえない。個人情報保護委員会のQ1-41は,特定の個人情報を検索できるよう体系的に構成していないカメラ画像は,個人情報データベース等を構成しないと説明している。録画装置の名称だけで判断せず,人物による検索,索引,顔照合その他の実際の構成を確認する。

個人データの第三者提供には個人情報保護法27条が関係する。一方,個人データに該当しない映像でも,利用目的による制限及びプライバシーの問題が消えるわけではない。

2 防犯目的と新しい利用目的

通常の防犯カメラと,顔の特徴から人物を識別するシステムは区別する。カメラに関するQ&Aは,防犯目的が設置状況から明らかな場合と,撮影を容易に認識できない場合を分け,顔識別機能を利用する場合にはその利用を含めた目的の特定を求めている。
社内の窃盗調査のため既存映像を保全することと,新たに隠しカメラ,録音又は顔照合を導入することも別の検討である。過去の映像提供依頼だけから,今後の継続監視まで承諾されたと扱ってはならない。

第3 警察から提供を求められた場合
1 捜査関係事項照会と任意の協力依頼

刑事訴訟法197条2項に基づく捜査関係事項照会に対する個人データの提供は,個人情報保護法27条1項1号の「法令に基づく場合」に当たり,本人の同意を要しない。個人情報保護委員会のQ1-63も,同照会を法令に基づく提供の例として扱っている。
ただし,照会への回答と,令状に基づく差押えは手続が異なる。「警察からの依頼」という呼び方だけで処理せず,照会の根拠,担当部署,対象事件及び求められた事項を確認する。

書面による照会がない依頼についても,常に本人同意が必要になるとは限らない。個人情報保護委員会の医療・介護分野のQ4-24は,任意の捜査協力は任意であるとしつつ,提供を受ける法令上の具体的根拠がある場合には,同号に該当すると説明している。
この説明を踏まえ,口頭依頼だから一律に拒否することも,警察を名乗れば無条件に提供することも避ける。具体的根拠と依頼内容が不明な場合は,書面化や担当部署への確認を求める。生命・身体の保護等の別の例外を検討する場合も,その要件を個別に確認する。

2 依頼者と範囲を確認する

依頼者の氏名,所属,連絡先及び照会番号を記録し,必要に応じて警察署の公表された代表番号から担当部署を確認する。メールに書かれた連絡先だけに依存しない。
期間,カメラ位置,対象場所,必要な画角,音声の要否及び提供方法を具体化する。「一か月分全部」といった依頼に対しては,事件との関係と範囲が必要な理由を確認し,絞込みが可能か協議する。緊急の保全が必要な場合は,まず消失を防ぎ,実際の提供範囲は別に確定する。

第4 弁護士会照会と弁護士個人の依頼
1 弁護士会照会

弁護士法23条の2に基づく照会は,受任弁護士の申出を受けた弁護士会が審査し,弁護士会として必要事項の報告を求める手続である。
個人情報保護委員会の弁護士会照会に関するQ5-7は,これに回答して個人データを提供する場合,本人同意は不要と説明する。同時に,具体的な回答内容によってはプライバシー侵害による損害賠償が問題となるため,照会理由と情報の性質を踏まえた慎重な判断を求めている。

したがって,「本人同意がない」という理由だけで回答を拒む扱いと,「弁護士会照会だから全て渡す」という扱いの双方を避ける。関係のない人物の映像,長期間の行動履歴,私生活又は秘密に関わる情報が含まれる場合は,照会事項と必要性を確認し,不明点を弁護士会へ照会する。

2 弁護士個人からの依頼

弁護士の名刺,受任通知又は法律事務所からの依頼書があるだけでは,弁護士会照会と同じ扱いにはならない。個人データを提供する場合は,本人同意,適用できる別の例外,又は本人の代理人としての開示請求等の根拠を確認する。
依頼者が映っている本人の代理人である場合でも,他人の映像を含む全記録を当然に受け取れるわけではない。代理権,本人確認,請求対象及び第三者の権利利益を確認する。提供する会社自身が委任した弁護士への業務上の情報提供は,外部の当事者の弁護士への提供と区別して検討する。

(続きを読む...)防犯カメラ映像を警察・弁護士に提供するとき―捜査関係事項照会,弁護士会照会,第三者の映り込みと提供範囲(AI作成)

「AIで稼げる」副業の勧誘と契約トラブル―無料相談会・Web会議での勧誘,クーリング・オフ,取消し及び借入れの勧め(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 問題になる勧誘の流れ2 相談件数と契約金額第2 どの取引に当たるかで救済が変わる1 電話勧誘販売2 業務提供誘引販売取引3 通信販売にとどまる場合第3 契約をやめる方法1 クーリング・オフ2 特定商取引法による取消し3 消費者契約法による取消し4 不法行為による損害賠償第4 支払方法ごとの対応1 クレジットで支払った場合2 借入れを勧められた場合第5 勧誘の場で出てくる言葉と法律上の位置付け第6 証拠の残し方と相談先第7 法改正の動き第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 行政処分・注意喚起4 所管行政機関等の解説・資料
第1 この記事の対象
1 問題になる勧誘の流れ

生成AIの新しいモデルが公表されるたびに,「このAIを使えば副業で稼げる」と紹介する動画や広告が公開され,その中には,公式LINEへの登録,特典資料の受取り,無料の個別相談会への参加を呼びかけるものがある。
無料の相談会や資料の配布そのものは違法ではない。
しかし,国民生活センターや消費者庁の公表資料には,無料又は安価な入口から始まり,Web会議での個別説明を経て,数十万円から数百万円の講座,サポート契約又はコンサルティング契約へ進む相談や処分の例が多数載っている。

国民生活センターの調査報告「消費生活センターにおける解決困難事例の研究~起業・副業をめぐる消費者トラブルの被害救済を中心に~」(令和5年3月22日)は,副業サポート契約の相談事例について,「当初、安価な情報商材等を購入し、その後、不意に電話勧誘が始まり、高額な副業のサポートに関する契約を勧められる例が目立ちました。」としている。
本記事は,令和8年10月1日時点の公開資料に基づき,このような流れで契約した人が,どの法律でどのように契約をやめ,支払ったお金を取り戻せるかを整理するものである。
AIを使って請け負う副業そのものの法律問題(著作権,素材の利用規約,フリーランス法等)は,パソコンを操作するAIで動画・ゲーム・3Dモデルを請け負う副業の法律問題で扱う。

2 相談件数と契約金額

国民生活センター「ビジネス講座のトラブルにご注意-広告・勧誘と実際の講座内容が異なる、Web会議での思わぬ勧誘に気をつけましょう-」(令和8年9月16日)は,AI講座を含む「ビジネス講座」の相談件数と平均契約購入金額を次のとおり示している(PIO-NETの令和8年7月31日までの登録分)。

年度相談件数通信販売の平均契約購入金額電話勧誘販売(Web会議での勧誘を含む)の平均契約購入金額2020年度1,169件44万円60万円2021年度1,831件47万円69万円2022年度2,106件59万円84万円2023年度2,510件57万円88万円2024年度2,682件64万円99万円2025年度3,551件64万円87万円2026年度(7月31日まで)1,121件48万円79万円

同じ資料は,「近年はSNS広告で知った事業者からWeb会議サービス等を利用して勧誘を受け契約したケースに関する相談が見られます。このようなケースは特定商取引法における電話勧誘販売に該当する場合があります。」としている。
紹介されている事例には,「AIを使って副業で稼ぐ」というSNS広告から安価な情報商材を買い,上位プランを勧められ,Web会議での説明で「講座代は1、2カ月ですぐに取り戻せる」と言われて約80万円の講座を個別クレジットで契約したもの,副業の面接と思って参加したWeb会議で講座の契約を勧められ,後に「事業者間契約だから解約はできない」と言われたもの等がある。

第2 どの取引に当たるかで救済が変わる
1 電話勧誘販売
(1) Web会議は「電話」に当たる

特定商取引法2条3項は,電話勧誘販売を,販売業者又は役務提供事業者が「電話をかけ又は政令で定める方法により電話をかけさせ、その電話において行う売買契約又は役務提供契約の締結についての勧誘」により,郵便等で申込みを受け,又は契約を締結して行う販売又は役務の提供と定めている。
消費者庁の通達「特定商取引に関する法律等の施行について」(令和6年11月19日)は,同項の「電話」について,インターネット回線を使って通話する形式(映像を伴う場合を含む。)を用いた場合も「電話」に当たるとしている。
同庁の「電話勧誘販売の解釈に関するQ&A」Q5は,事業者がWeb会議のURLを送った場合は「電話をかけ」に当たると説明している。

(2) 消費者から接続した場合

消費者が自分から相談会に申し込んだ場合でも,それだけで電話勧誘販売から外れるわけではない。
特定商取引法施行令2条1号は,電話,電磁的方法,ウェブページ等を利用して,契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに電話をかけることを要請することを,「電話をかけさせ」る方法として定めている。
同じQ&AのQ5は,情報商材の購入後にSNSで相談し,Web会議で別の商材を勧誘された事例について,消費者から依頼した場合でも通常は適用除外(同法26条7項1号)に当たらず,クーリング・オフができるとしている。

(3) Web会議の勧誘を電話勧誘販売とした処分例

消費者庁は,令和6年9月,Web会議ツールを用いたオンラインのコンサルティングに参加するためのURLをメール等で送信して電話をかけたとして,営業スキルの教材と研修を販売していた事業者を電話勧誘販売と認定し,「契約後のクーリング・オフできませんよ」等の不実告知(同法21条1項)や書面の不交付(同法19条1項)を理由に業務停止命令等をした(消費者庁の公表資料(令和6年9月5日))。
令和7年12月には,関東経済産業局が,SNS運用及びAIを活用したビジネスのスキル習得に係る動画コンテンツとサポートサービスを提供するオンラインスクール事業者について,SNS等で無料のコンサルティングをうたって申し込んだ消費者にウェブ会議のURLを送付する方法で電話をかけていると認定し,指示処分をした(消費者庁の公表資料(令和7年12月25日))。
この事案では,月収が多くても5万円程度の18歳の消費者に消費者金融からの借入れを勧めて支払総額約77万円の契約を締結させたことが,消費者の知識,経験及び財産の状況に照らして不適当な勧誘(同法22条1項5号,同法施行規則64条3号)とされている。

2 業務提供誘引販売取引

「講座を受ければ仕事を紹介する」「サポート契約をすれば案件を回す」と言われて契約した場合は,業務提供誘引販売取引に当たることがある。

(続きを読む...)「AIで稼げる」副業の勧誘と契約トラブル―無料相談会・Web会議での勧誘,クーリング・オフ,取消し及び借入れの勧め(AI作成)

中国現地法人の従業員データを日本本社・海外SaaSへ送るときの中国個人情報保護法―越境人事管理の手続免除と残る義務(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 対象2 結論第2 国内での処理と国外提供の主体を分ける1 国内処理の根拠2 提供者・受領者・委託先第3 国外提供の経路と手続免除1 基本的な経路2 越境人事管理等の免除3 免除に該当しないときの人数基準4 手続免除後にも確認する義務第4 研修・内部通報システムの確認順序1 データの流れを記録する2 契約と運用の確認第5 出典

第1 この記事の対象と結論

1 対象

中国の現地法人が,従業員向けの研修システムや内部通報システムを利用し,日本本社又は国外のSaaS事業者と情報を共有する場合を取り上げる。
ここでの例は公開資料から作った一般的な確認場面であり,特定の会社の運用や事件を記述するものではない。

本記事は令和8年10月1日までに公表された中国の法令及び国家インターネット情報弁公室の資料を基準とする。
中国語原文を基礎にした実務上の確認順序であり,個々のシステムについて手続が不要だと判定するものではない。

2 結論

最初に,誰のどの情報が,中国国内のどの主体から,どの国の誰に,何のために提供されるかを図にする。
次に,①国内での処理根拠,②国外提供について安全評価・標準契約・認証のどの経路が必要か,又は手続免除に当たるか,③告知・個別同意・影響評価等をどう履行するかを,別々に確認する。

中国個人情報保護法38条~40条は国外提供の基本的な条件を定める。
他方,「データ越境流動の促進及び規範化に関する規定」5条は,一定の越境人事管理等について安全評価の申告,標準契約の締結,個人情報保護認証を免除する。
免除に該当するかと,個人情報の取扱い全体が適法かは,同じ問いではない。

第2 国内での処理と国外提供の主体を分ける

1 国内処理の根拠

中国個人情報保護法3条は,中国国内における自然人の個人情報処理を同法の対象とし,一定の国外での処理にも適用を及ぼす。
同法13条1項2号は,本人を一方当事者とする契約の締結・履行に必要な場合のほか,適法に制定された就業規則及び適法に締結された集団契約に従う人事管理に必要な場合を処理根拠としている。
人事管理という名称を付けるだけで,研修履歴,通報情報又は調査資料の全てがこの根拠に含まれるわけではない。

同法17条は,処理目的,方法,個人情報の種類,保存期間等の告知事項を定める。

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結婚式場の解約料で再販率をどう確かめるか―大阪高裁令和8年4月23日判決の公表要旨とBIAモデル約款(AI作成)

目次第1 対象と結論第2 消費者契約法9条と損害の区分第3 神戸地裁・大阪高裁判決の公表要旨1 計算の枠組み2 1年以上前の解約と実績資料第4 BIA改訂モデル約款の使い方第5 相談・交渉で確認する資料第6 関連記事と資料の限界第7 出典
第1 対象と結論

結婚式場の解約料を検討するとき、「挙式日まで長いから逸失利益はない」「業界のモデル約款より高いから無効」といった一つの事情だけでは結論を出せない。消費者契約法9条1項1号が問題にするのは、解除の事由・時期等の区分に応じ、同種の契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害である。再販率、粗利率、解約時見積額、既手配費用を、同じ区分に対応させて検討する必要がある。

本記事は、消費者庁の公表する神戸地裁令和7年4月24日判決及び大阪高裁令和8年4月23日判決の紹介文と、公益社団法人日本ブライダル文化振興協会(BIA)の改訂モデル約款を扱う。両判決の全文は本記事の作成時に確認していないため、公表要旨を超える判示、訴訟で提出された資料の内容や上訴後の確定状況は断定しない。

第2 消費者契約法9条と損害の区分

同法9条1項1号は、解約料等の合計が、条項に設定された解除の事由・時期等の区分に応じた平均的な損害を超えるとき、超える部分を無効とする。消費者庁の逐条解説は、平均値を事業者ごとに捉え、業界全体の水準とは区別している。

挙式予定日までの日数だけでなく、解約の意思表示がいつ相手方へ届いたか、約款上の時期区分、別途手配済みの商品・役務、同じ日時・会場の再予約の可能性を確かめる。申込金が解約料へ充当されるか、実費が加算されるかも約款で確認する。

第3 神戸地裁・大阪高裁判決の公表要旨
1 計算の枠組み

消費者庁の神戸地裁判決紹介によれば、同裁判所は、解約に伴う逸失利益に再販売による利益と支出を免れた費用を反映し、解除時見積額の平均×粗利率×非再販率という計算式を示した。この式は公表された当該事件の判断であり、あらゆる式場について同じ入力値又は同じ損害額を認めるものではない。神戸地裁は差止請求を棄却した。

2 1年以上前の解約と実績資料

消費者庁の大阪高裁判決紹介によれば、同高裁は令和8年4月23日、過去5年間の早期解約に関する再販・非再販実績から再販できなかったものが一定数あったことを重視し、「1年以上前だから逸失利益は生じない」とする主張を採用せず、第一審を維持して控訴を棄却した。また、役務等ごとの積算がされた見積額を損害算定の基礎とし得るとした。早い時期の解約ほど再販されやすい傾向は考慮しつつ、再販率が時期に機械的に比例するわけではないとして、時期区分の設け方も検討した。

この訴訟は適格消費者団体による条項の差止請求である。個別の利用者が負担する額を自動的に確定する判決ではない。早期解約で常に逸失利益が発生するとの一般命題にも、式場側の主張が常に通るとの一般命題にも読み替えない。

第4 BIA改訂モデル約款の使い方

BIAの改訂モデル約款は、365日前までの解約料を「申込金の25%又は3万円の低い額」、364日前から180日前までを「申込金の50%及び別表の商品代金」とする例を載せる。同資料自身が、モデルの数値を各事業者の料率とは区別し、各事業者が自ら算出した平均的損害を根拠に具体的な額と期間を定めるよう求めている。モデルの金額は法定上限ではない。

同資料は、想定利益に非再販率を乗じ、既に発注・手配した商品等の実費を加える考え方を示す。相談時には、モデル表と対象式場の約款を並べるだけで終えず、対象式場の区分別実績と費目の中身を確かめる。通常の営業経費、解約により支出を免れた費用、既に発生した実費を重複計上しないことも必要である。

第5 相談・交渉で確認する資料

契約書、申込書、約款、申込金の領収記録と説明資料。
挙式予定日、解約意思表示の到達日、約款の時期区分。
初回・変更後・解約時の見積書と、人数・商品・役務の変更履歴。
同種契約の範囲、同一日時・会場の時期別再販率、実績の対象期間及び除外事由。
粗利率の計算に含めた原価・経費、解約で不要となった支出、既手配品の発注日と取消条件。

これらは争点整理の確認事項であり、式場にすべての資料を当然に開示させられるという意味ではない。同法9条2項は、消費者から求められたときの算定根拠の概要の説明努力義務を定める。個別の開示方法と証拠収集は、契約関係と手続段階に応じて検討する。

第6 関連記事と資料の限界

契約の成立、旧来の裁判例、特定商取引法との関係は、結婚式場のキャンセル料はどこまで払う必要があるかで整理している。

本記事は公開資料から一般的な検討順序を示すものであり、特定の利用者・式場の交渉経過を扱わない。判決の全文、提出証拠、上訴・確定状況は未確認である。今後、判決本文を入手した場合には、公表要旨と照合する必要がある。

第7 出典

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