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消費者・個人情報

大学病院における医療等情報の提供に伴う課題と要望―全国医学部長病院長会議の提言と法務上の論点(AI作成)

目次

第1 資料の位置付けと要点1 大学病院側の提言を読む意味2 要望・政策方針・現行制度を区別する第2 調査から分かる現場の負担1 回答数と集計の範囲2 初期整備よりも継続運用が問題となる第3 全国医学部長病院長会議の9つの要望1 財政支援・制度簡素化・専門人材2 研究資源の保護と大学への還元3 セーフハーバーは創設要望である第4 10月の正式なとりまとめとの関係1 大規模病院と対象データを段階的に扱う方針2 公的支援を受けた研究は別の論点となる3 費用還元・患者対応・識別子第5 提供費用とデータの対価を分けて検討する1 現行ガイドラインが認める費用負担2 契約と予算で明確にする項目第6 大学病院の法務担当者が整理すべき事項1 提供対象と手続を台帳化する2 契約・運用・事故対応を対応させる第7 よくある疑問1 すべての大学病院に提供義務が確定したのか2 研究データはすべて提供対象から外れるのか3 資料の費用イメージをそのまま予算要求に使えるか4 セーフハーバーにより病院は免責されるのか第8 主な参照資料
第1 資料の位置付けと要点
1 大学病院側の提言を読む意味

「大学病院における医療等情報の提供に伴う課題と要望」は,全国医学部長病院長会議(AJMC)が令和8年7月8日の内閣府「医療等情報の利活用の推進に関する検討会」第13回会合に提出した資料である。大学病院が保有する医療情報を研究開発に活用する際の,費用,人材,データ品質,患者対応,知的財産及び責任分担の課題をまとめている。

提言の中心は,データ提供の推進に協力する一方で,財政・技術支援と人材確保を先行させ,電子カルテの更新時期などを考慮して段階的に進めるべきだという点にある。接続システムを作れば終わるわけではなく,抽出・修正・問い合わせ・拒否申出への対応を継続する負担がある。

本記事は,この資料と令和8年10月9日公表の正式な「とりまとめ」を対照し,大学病院の管理部門,情報部門,研究部門及び法務担当者が確認すべき事項を整理する。患者の同意と各制度の全体像は,医療情報は同意なく使われるようになるのかで説明している。

2 要望・政策方針・現行制度を区別する

AJMC資料は大学病院側の要望であり,それ自体が病院の提供義務や免責を定めるものではない。10月のとりまとめも制度改正に向けた政策方針であり,新たな提供義務が直ちに施行されたことを意味しない。とりまとめは令和9年通常国会への法案提出を目指すことを踏まえ,法制上の調整・検討を進めるべきとしている。

したがって,令和8年10月11日時点の実務では,現行の提供ルートと手続を確認する必要がある。「今後,提供義務の対象とする方針である」という記述を,「現在,すべての大学病院が,すべての研究データを提出しなければならない」という意味に読み替えてはならない。

第2 調査から分かる現場の負担
1 回答数と集計の範囲

AJMCは令和8年6月10日から24日まで,大学病院82校を対象に調査し,71校から回答を得た。資料3頁のFHIR対応やDICOM形式での画像出力に関する数値には,対応済みだけでなく対応予定が含まれる。接続可能性と,継続的に研究用途のデータを提供できる体制とは区別する必要がある。

資料4頁の負担に関する自由記述は,回答71校のうち48校によるものである。その整理では,費用負担が40件,人的負担が22件,技術的負担が21件,制度的負担が8件として示されている。これらは資料による分類数であり,排他的な回答割合や全国すべての大学病院の割合として扱うべきではない。資料5頁の提供義務化に関する自由記述は29校であり,48校の集計とは別である。

2 初期整備よりも継続運用が問題となる

負担として挙げられているのは,電子カルテ・部門システムの改修,標準コードへの対応,画像出力,共通仕様の不足,認定事業者ごとに異なる接続,専任人材の確保,医師によるデータ確認などである。診療情報,研究情報及び患者説明を複数部署が扱うため,情報システム担当者だけに任せることは難しい。

AJMC資料14頁には,1施設当たりの経費負担について次の「イメージ」が示されている。

区分資料上の金額と期間初期整備費用数年間で2.2億円〜8.8億円ランニングコスト年間1.7億円〜5.2億円

この金額は参考的な費用イメージであり,71校の実支出の平均値ではない。施設規模,既存設備,対象データ,接続方式などを揃えた見積りでもないため,個別病院の必要予算をこの数字だけで決定することはできない。予算協議では,初期費用と毎年の運用費を分け,追加データや仕様変更により増える費用も見積もるべきである。

第3 全国医学部長病院長会議の9つの要望
1 財政支援・制度簡素化・専門人材

AJMC資料10頁から13頁の要望は,次の9項目に整理できる。表は資料の趣旨を要約したものである。

要望求めている対応01 財政支援継続的な支援,加工等の認定事業者負担,出力機能の標準化による病院負担の軽減02 制度簡素化制度の整理,分かりやすい判断手順,倫理審査と出口規制の役割分担,国による周知03 対価・知財保険診療データの提供費用の回収と,研究由来データ等の権利保護04 対象範囲保険診療由来データと,大学が独自に蓄積したゲノム等の学術資源との区別05 画像等法的位置付けの整理と,大量の画像データの伝送・蓄積に必要な投資への支援06 安全性・責任被害補償,公的な安全解析環境,監視体制,サイバー保険への支援07 患者対応国民の理解形成,オプトアウトの一元管理,苦情窓口の集約,免責条項の創設08 研究への還元費用・研究利用の利益の還元,統合データベースの利用,倫理審査の合理化09 専門人材医療情報・データ・セキュリティの人材育成,配置,人件費及び共同利用への支援

各要望は相互に関連する。例えば,データ出力を義務付けても,ベンダーの改修費,専任人材の人件費及び品質確認の負担を誰が負うかが決まらなければ,継続的な提供は難しい。標準化前の個別対応が費用を増大させるという指摘も,段階的な導入を求める理由である。

2 研究資源の保護と大学への還元

資料11頁は,保険診療によって得たデータと,大学が独自の研究費で蓄積したレジストリ・バイオバンク等のデータや,通常患者に提供されない元データを区別している。後者を提供義務の対象外とし,強制的な無償提供が生じない制度設計を求めている。

これはAJMCの制度設計上の主張である。すべての研究データに同じ知的財産権が成立するという法的結論ではない。提供対象を検討する際には,データの由来,研究費の条件,共同研究契約,営業秘密の管理,特許出願や成果公表の時期を個別に確認する必要がある。

資料13頁は,金銭的な利益に加え,大学病院自身が統合されたデータベースを研究に利用できることを重視している。提供側と利用側の双方を担う大学病院にとって,利用申請の条件,利用料及び研究者のアクセス環境も重要な検討事項となる。

3 セーフハーバーは創設要望である

資料12頁は,病院が二次提供を行っても患者から直接法的責任を追及されない「Safe Harbor(セーフハーバー)条項」の創設を求めている。これは責任軽減の要望であり,この資料を根拠に「法令に従って提供すれば,病院は一切責任を負わない」と説明することはできない。

提供先との契約で事故対応や費用負担を定めることと,患者に対する責任が法律上免除されることも別問題である。提供先の管理下で起きる事故と,病院の抽出・送信・除外処理の誤りを区別し,実際に管理できる範囲に応じて責任を整理することが必要となる。

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ECサイトのカード情報漏えいと加盟店の義務―割賦販売法35条の16,クレジットカード・セキュリティガイドライン6.1版及び開発委託先の責任(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論3 基準日と資料第2 ECサイトのカード情報漏えいの現状1 ガイドラインの認識2 個人情報保護委員会の指導事例3 AIを使った攻撃の報告第3 割賦販売法上の加盟店の義務1 カード番号等の適切な管理(35条の16)2 事故時の調査(施行規則132条)3 ガイドラインの位置付け4 改善命令と加盟店契約による監督5 不正利用の防止(35条の17の15)第4 EC加盟店に求められる「脆弱性対策」1 5つの対策2 委託先の管理3 SQLインジェクションの根本的な対策第5 個人情報保護法の漏えい等報告第6 開発・保守委託先との責任分担1 東京地裁平成26年1月23日判決2 前橋地裁令和5年2月17日判決3 契約実務への示唆第7 相談を受けたときの確認事項第8 関連記事第9 出典1 法令2 ガイドライン等3 報告4 裁判例(裁判所HP掲載)5 裁判例(判例秘書で確認)
第1 本記事の対象と結論
1 対象

ECサイトを運営する事業者(EC加盟店)からクレジットカード情報が漏えいした場合に,加盟店がどのような法的義務を負い,サイトの開発・保守を委託した事業者との間で責任がどう分かれるかを扱う。
個人情報保護法の漏えい等報告にも触れるが,中心は割賦販売法とクレジットカード・セキュリティガイドラインである。

2 結論

① EC加盟店は,割賦販売法35条の16第1項2号の「クレジットカード番号等取扱業者」として,カード番号等の漏えい等の防止その他の適切な管理のために必要な措置を講じる義務を負う。
② クレジットカード・セキュリティガイドライン6.1版は,この義務の実務上の指針と位置付けられている。
同ガイドラインは,現在の主な漏えいを,カード情報を保持しない「非保持化」を実現したEC加盟店でWebサイトの脆弱性等を原因として窃取されるものとし,EC加盟店に「脆弱性対策」を求めている。
③ 「脆弱性対策」は,管理画面のアクセス制限と多要素認証,アップロードできるファイルの制限,脆弱性診断又はペネトレーションテストの定期実施等であり,「下記のすべての対策を講じる」ものとされている。
サイトの構築・運用を委託するときは,委託先にもこれを理解した構築・運用を求めることとされている。
④ 加盟店は経済産業大臣の改善命令の対象から除かれているが,加盟店契約を結ぶ事業者が加盟店の措置を調査し,基準に適合しないおそれがあれば,契約を結ばず,又は解除等の措置を講じる義務を負う。
⑤ ECサイトからのカード番号を含む個人データの漏えいは,個人情報保護法施行規則7条2号の報告対象事態の例としてガイドラインに挙げられており,人数にかかわらず報告対象となる。
⑥ 開発・保守の委託先が公的機関の周知していた基本的な対策を怠った場合,契約金額を上限とする責任制限条項が適用されないとした裁判例がある(東京地裁平成26年1月23日判決,前橋地裁令和5年2月17日判決)。
他方で,加盟店側が危険を知りながら放置していた事情は過失相殺の理由となる。

3 基準日と資料

本記事は,令和8年10月10日時点で,e-Gov法令検索で取得した割賦販売法,割賦販売法施行規則,個人情報保護法及び同法施行規則の条文,クレジット取引セキュリティ対策協議会の「クレジットカード・セキュリティガイドライン【6.1版】」(令和8年3月),個人情報保護委員会の資料並びに判決の全文に基づく。

第2 ECサイトのカード情報漏えいの現状
1 ガイドラインの認識

ガイドライン6.1版は,冒頭で次のように述べている(PDF9頁)。

> 「現在の主な情報漏えいは、非保持化を実現したEC加盟店においてWebサイトの脆弱性等を原因としてカード情報が窃取されているものである。」

カード情報を自社のサーバーに保存しない「非保持化」は,長く有効な対策とされてきた。
しかし,決済画面に入力される前のWebサイト自体が改ざんされると,保存していなくても入力された情報が窃取される。
そのため同ガイドラインは,6.0版から,EC加盟店に対し,カード情報を保持するかどうかにかかわらず,システムとWebサイトの「脆弱性対策」を講じることを指針対策としている。

2 個人情報保護委員会の指導事例

個人情報保護委員会の令和7年度年次報告(印字頁10頁)は,不正アクセスによる漏えい等の原因として,「VPN(Virtual Private Network)機器の脆弱性やECサイトを構築するためのアプリケーション等の脆弱性が公開され対応方法がリリースされていたにもかかわらず、事業者が放置していたこと」,推測されやすいID・パスワード,データベースのアクセス制御の設定ミス等,安全管理措置に不備があったケースが多くみられたとしている。

3 AIを使った攻撃の報告

セキュリティ企業のGambit Securityは,令和8年9月22日,攻撃者の作業用サーバーから回収したログを分析した中間報告を公表した。
同報告によれば,攻撃者は公開されているAIエージェントのツールを組み合わせ,令和8年9月10日から15日までの間に105件の攻撃を行い,少なくとも27社に程度の差はあれ侵入し,2社から合わせて60万件を超える有効なカード情報を取得していた。
攻撃者自身の集計では,完了した101件の調査にかかったAIの利用料は平均25.46ドルであった。

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クラウド事業者がランサムウェア被害を受けたとき,利用者に漏えい等報告義務はあるか―施行規則7条3号,滅失・毀損とバックアップ(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と結論1 対象2 結論3 基準日と資料第2 IDCフロンティアの公表から分かること1 公表の経過2 利用者側の公表の例3 公表資料だけでは分からないこと第3 クラウド事業者が個人データを取り扱うかで分かれる1 「取り扱わないこととなっている」場合2 取り扱わない場合でも報告義務は利用者にある3 取り扱う場合(委託)第4 報告対象事態に当たるか1 施行規則7条3号と「第三者の提供するサービス」2 漏えい,滅失及び毀損を分けて考える3 人数の要件4 報告対象とならない場合第5 期限,報告の方法及び本人への通知1 速報2 確報3 本人への通知4 クラウド事業者に求める情報第6 法律事務所と税理士事務所が利用者であるとき1 法律事務所2 税理士事務所第7 クラウド契約と事業者の責任1 免責・責任制限条項2 契約で確かめておく事項第8 平時に準備しておくこと第9 関連記事第10 出典1 法令・会規2 個人情報保護委員会の資料3 事業者の公表資料4 裁判例(裁判所HP掲載)5 裁判例(判例秘書で確認)
第1 本記事の対象と結論
1 対象

令和8年10月7日,クラウドサービス「IDCFクラウド」の一部がランサムウェア攻撃を受け,契約する495の企業や自治体に影響が出たことが公表された。
自社のサーバーではなく,利用しているクラウド事業者が攻撃を受けた場合に,利用者である企業,自治体,法律事務所及び税理士事務所が個人情報保護委員会への報告と本人への通知をしなければならないかが問題になる。

本記事は,この問題を,個人情報保護法26条,同法施行規則7条から10条まで,個人情報保護委員会の通則編ガイドライン及びQ&Aに沿って整理する。
クラウド事業者の公表資料は,事案の説明のための素材として用いる。
特定の利用者に報告義務があるかどうかを判断するものではない。

2 結論

① クラウド事業者が利用者の個人データを取り扱わないこととなっている場合でも,報告義務を負うのは利用者である(Q&A6-22)。
クラウド事業者は法26条1項の報告義務を負わないが,契約等に基づいて利用者に通知する等の対応を求められる。
② クラウド事業者が個人データを取り扱う場合(委託)は,委託元と委託先の双方が原則として報告義務を負う。
③ 施行規則7条3号の「不正の目的をもって行われたおそれがある当該個人情報取扱事業者に対する行為」には,利用者が使っているサービスの提供者に対する行為も含まれる(ガイドライン3-5-3-1)。
クラウド事業者へのランサムウェア攻撃は,この類型に当たり得る。
④ 3号の事態には人数の要件がない。
本人が1人でも,個人データの漏えい,滅失又は毀損が発生し,又は発生したおそれがあれば,報告対象となる。
⑤ ランサムウェアで暗号化され復元できなくなった個人データは「毀損」に当たる。
ただし,同じデータが他に保管されている場合は毀損に当たらない(ガイドライン3-5-1-4)。
利用者が自ら持つバックアップの有無が,報告対象事態に当たるかどうかを左右する。
⑥ 確報の期限は,3号の事態では,知った日を1日目として60日以内である。
速報の目安は,知った時点から概ね3~5日以内である。

3 基準日と資料

本記事は,令和8年10月10日時点で,e-Gov法令検索で取得した個人情報保護法及び同法施行規則の現行条文,個人情報保護委員会の通則編ガイドライン(令和8年6月一部改正版)並びにQ&A(令和7年7月1日更新版)に基づく。
IDCフロンティアの事案は,同社が令和8年10月7日から9日までに公表した第1報から第4報までの内容による。
侵入経路,データの窃取の有無,影響を受けた利用者の内訳等は,同日時点では公表されていない。

第2 IDCフロンティアの公表から分かること
1 公表の経過
公表主な内容第1報(令和8年10月7日)同日午前3時40分頃から,IDCFクラウドの一部のシステムに対する第三者からの不正アクセスにより,東日本第1リージョンで障害が発生した第2報(同日)障害は第三者からのランサムウェア攻撃によるものと判明した。影響範囲は「IDCFクラウドを契約している495の企業や自治体」。東日本リージョン1をネットワークから遮断してシステムを停止し,他のリージョンの管理コンソールも停止した第3報(同月8日)東日本リージョン1の一部(4つのゾーン)で仮想サーバーが停止し,再起動できない。保管されている顧客データは「取り出しや復元が困難な見通し」で,同社の見解では「データの復元はお客さま自身が保持しているバックアップデータからのみ可能」。監督省庁及び警視庁へ報告した第4報(同月9日)10月7日午前9時に緊急対策本部を設置し,親会社と連携してバックアップ手順の案内,移行環境の提案,仮想サーバーの起動・停止の代行等を行っている

第3報は,IDCFクラウドの別の型のサービス(TypeS)とプライベートクラウドは対象外であるとしている。

2 利用者側の公表の例

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団体と構成員の権利を分ける憲法分析―公開情報の収集・報告義務の検討手順(AI作成)

目次

第1 情報の内容と権利の主体を分ける第2 団体と構成員の検討を別々に始める1 法務省の解説が示した区別2 最初に作る整理表第3 公開されている情報でも取得方法を検討する1 閲覧と団体への対応付け2 継続性と網羅性第4 情報の性質と利用を制限する仕組みを併せて見る第5 相談・起案・答案での確認手順1 制度と権利の対応を固定する2 短くまとめた後にも主体を確認する第6 出典と関連記事
第1 情報の内容と権利の主体を分ける

団体に情報の報告を求める制度を検討するとき,報告義務を負う団体だけに着目すると,構成員の表現活動や個人情報への影響を見落とす。他方,構成員の氏名が分かることを個人の問題としてだけ扱うと,団体の組織関係や自律に及ぶ影響が抜け落ちる。

まず,誰のどの権利が,どの情報の取得・対応付け・利用によって制約されるのかを分ける必要がある。情報を保有する者,報告を命じられる者,情報から識別される者,権利を主張する者は,必ずしも一致しない。

本記事は,公権力による情報収集・報告義務の憲法上の検討手順を整理するものである。個々の行政調査の権限や適法性は,その根拠法令と具体的な収集方法を確認して判断する。

第2 団体と構成員の検討を別々に始める
1 法務省の解説が示した区別

令和3年司法試験の出題の趣旨の公法系第1問は,仮想の法律案による団体の観察と媒体の報告義務について,団体と構成員の表現の自由・プライバシーへの影響を検討対象としている。同年の採点実感第3の1は,両者の区別と権利主体の明示を求め,構成員が明らかになることを団体のプライバシーとの関係で検討する視点も指摘している。

これは,当該試験の法律案を分析するための公式解説である。現行法に一般的な団体観察権限があることや,あらゆる団体に自然人と同一内容のプライバシー権が認められることを判示した裁判例として扱うことはできない。

2 最初に作る整理表

次の表は,権利の成立を先に決めるものではなく,調査・論証の漏れを防ぐための整理例である。それぞれの団体の性質,情報の内容,制約の態様に即した理由付けが必要となる。

検討する主体情報・活動検討する利益確認する影響団体団体の媒体による主義・主張の発信団体の表現の自由報告や観察によって発信が萎縮するか団体構成員と媒体の対応関係,組織のつながり団体のプライバシー・自律との関係公表済みの投稿から,別に組織関係が把握されるか構成員本人の投稿,思想信条,所属関係構成員の表現の自由・プライバシー個人の媒体が団体の活動と結び付けられるか団体・構成員団体への参加と共同活動結社の自由との関係参加・継続・組織運営に独自の支障が生じるか

結社の自由,表現の自由,プライバシーは,名称を並べれば足りるものではない。相互の関係を説明し,別の権利として論じる必要がある部分と,重なりのある部分を整理する。検討候補を挙げたことと,全ての権利侵害が成立することは区別する。

第3 公開されている情報でも取得方法を検討する
1 閲覧と団体への対応付け

誰でも閲覧できる投稿であることは,制約の程度を判断する上で重要である。ただし,個々の投稿が公開されていることと,投稿者が特定の団体の構成員であることまで公表されていることは同じではない。

法務省の出題の趣旨は,団体名義でない媒体も報告対象となることで構成員の特定につながる点を指摘している。採点実感も,公開媒体であることを踏まえた上で,報告の義務付けによる萎縮効果やプライバシーへの影響を論じるよう求めている。公開か非公開かという分類だけで検討を終えるべきではない。

2 継続性と網羅性

最高裁平成29年3月15日大法廷判決は,GPS捜査について,行動を継続的・網羅的に把握できることと,機器の秘密装着による私的領域への侵入を重視した。公道上の所在を肉眼で把握する手法等との違いも説明している。

この判決は刑事捜査と憲法35条等についての判断であり,公開SNSの閲覧や行政上の報告義務をそのまま同じ強制処分とする根拠にはならない。参照する際は,継続性・網羅性という共通する観点と,機器装着・私的領域への侵入・刑事手続という異なる前提を分ける。

第4 情報の性質と利用を制限する仕組みを併せて見る

最高裁平成20年3月6日第一小法廷判決は,住基ネットで扱う本人確認情報について,情報の性質,正当な行政目的,漏えいや目的外利用を防ぐ制度等を検討し,憲法13条による自由の侵害を否定した。

この判断を,公に知られ得る情報なら収集・利用は常に許されるという一般論に広げることはできない。団体への所属,思想信条,発信内容との対応関係については,情報の性質も,収集・利用を制限する仕組みも個別に確認する必要がある。

公開情報収集の検討では,収集目的,情報の範囲,対応付けの正確性,頻度,保存期間,アクセスできる者,他機関への提供,目的外利用への制限を整理する。これらは本記事の実務上の確認手順であり,どの制度にも同じ義務が一律に課されるという説明ではない。

第5 相談・起案・答案での確認手順
1 制度と権利の対応を固定する

①処分・報告要求の根拠と対象を特定する。②報告義務を負う者と,情報が識別する者を分ける。③取得される情報と,対応付けにより新たに分かる関係を分ける。④各主体の権利と,収集・報告・利用のどの段階で生じる支障かを結び付ける。

観察対象に指定されること自体の影響と,報告を義務付けることによる影響も分けて確認する。両者が一体の制度であれば全体の効果を見た上で,各要件と各措置が目的達成に役立つか,範囲や期間が過大でないかを検討する。

2 短くまとめた後にも主体を確認する

主張書面や答案を短くする際には,「団体及び構成員のプライバシーを制約する」という総括だけを残さない。団体については何が把握されるのか,構成員については何が識別・利用されるのかを,少なくとも一度は具体的に述べる。

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個人情報保護委員会が示した不正アクセス9類型―API,クラウド,グループ会社,個人領域及びログ管理(AI作成)

目次

第1 本記事の対象と資料の位置付け1 令和8年10月7日の個人情報保護委員会資料2 法的な拘束力と例示の区別第2 現行法と技術的安全管理措置の見直し予定1 法22条から25条までを一体で見る2 現行の4項目と将来の第5項目第3 不正アクセス9類型と対策1 脆弱性が放置された事例2 脆弱性への対応が遅れた事例3 不正ログインの事例4 グループ会社や海外拠点が狙われた事例5 グループ会社間のアクセス制御不備6 個人領域に保存したデータの漏えい7 グループ会社への監督が不十分な事例8 利用するクラウドサービスからの漏えい9 APIが悪用される事例第4 弁護士・司法書士・税理士実務への落とし込み1 共通の台帳を五つに分ける2 弁護士実務3 司法書士実務4 税理士実務5 委託契約と事故対応第5 後日の事実認定と一次資料の使い方1 確認済み・技術上可能・不明を分ける2 行政資料と裁判例の射程を分ける第6 関連記事第7 出典
第1 本記事の対象と資料の位置付け
1 令和8年10月7日の個人情報保護委員会資料

個人情報保護委員会は,令和8年10月7日の第371回会合で,「大規模な漏えい等事案を踏まえた対応について(注意喚起)」と改訂版「WARNING~不正アクセスによる個人データ漏えい防止のための注意喚起~」を公表した。
後者は,委員会に報告された不正アクセス事案の問題を9類型に整理し,原因と対策例を示している。

本記事は,この9類型を,一般企業だけでなく,弁護士,司法書士及び税理士の事務所で使える点検項目に置き換えるものである。
令和8年10月8日時点の公表資料に基づき,個別のシステムを安全と判定するものではない。

2 法的な拘束力と例示の区別

個人情報保護委員会の注意喚起は,法23条の安全管理措置を具体化する際の重要な行政資料であるが,資料に並ぶ全ての技術を全事業者に一律に義務付けるものではない。
「講じなければならない措置」と「手法の例示」を分け,事業の規模・性質,データの性質・量,リスク及び当時の技術水準に即して必要かつ適切な方法を選ぶ必要がある。

第2 現行法と技術的安全管理措置の見直し予定
1 法22条から25条までを一体で見る

個人情報保護法22条は,個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに,利用する必要がなくなったときの遅滞ない消去について努力義務を定める。
同法23条の安全管理措置,24条の従業者の監督及び25条の委託先の監督は,保有するデータと関係者を抽象的に管理するのではなく,資産台帳,保存場所,アクセス権限,委託関係及び消去時期に落とす必要がある。

2 現行の4項目と将来の第5項目

令和8年10月時点のガイドライン通則編は,技術的安全管理措置の「講じなければならない措置」を,①アクセス制御,②アクセス者の識別と認証,③外部からの不正アクセス等の防止,④情報システムの使用に伴う漏えい等の防止としている。

同委員会は,令和9年4月を目途とする見直しの予定内容として,⑤不正アクセス等の検知等を示した。
認証ログ,アクセスログ,操作ログ及び通信ログの保存・保護・定期分析,IDS/IPSやEDR等による早期検知,侵害システムの停止・隔離及びアカウント無効化が例示されているが,確定前の見直し予定と現行ガイドラインを混同してはならない。

第3 不正アクセス9類型と対策
1 脆弱性が放置された事例

システム導入の契約だけで保守契約がない,保守契約に脆弱性対応が含まれない,又は対応の役割分担が未定であると,公開された脆弱性と修正情報があっても対応が止まる。
貸与品を含むIT資産の棚卸し,脆弱性情報の収集・分析,対処者と期限,終了確認までを一つのプロセスとして決める必要がある。

個人情報保護委員会の令和7年度年次報告も,不正アクセスによる漏えい等の原因として,「VPN(Virtual Private Network)機器の脆弱性やECサイトを構築するためのアプリケーション等の脆弱性が公開され対応方法がリリースされていたにもかかわらず、事業者が放置していたこと」を最初に挙げている(印字頁10頁)。
ECサイトの脆弱性からクレジットカード情報が漏えいした場合の加盟店の義務と開発委託先の責任は,ECサイトのカード情報漏えいと加盟店の義務―割賦販売法35条の16,クレジットカード・セキュリティガイドライン6.1版及び開発委託先の責任で扱っている。

2 脆弱性への対応が遅れた事例

親会社がパッチ適用を指示しても,子会社の要員不足や資産管理の不備により適用できなければ,グループ全体が攻撃を受け得る。
指示の送付で終えず,適用状況,未適用の理由,代替措置及びサポート終了機器の有無を経営層へ集約する。

3 不正ログインの事例

推測しやすいパスワード,ロック機能の不足,漏えいした認証情報の未変更,及びログの保存・監視ルールの不在が原因として示されている。
強固な認証,多要素認証,試行回数制限,認証情報の初期化及びログ分析を組み合わせる必要があり,どれか一つだけで十分とはいえない。

(続きを読む...)個人情報保護委員会が示した不正アクセス9類型―API,クラウド,グループ会社,個人領域及びログ管理(AI作成)

Pマーク・ISMS取得済みの委託先なら安心か―AI・クラウドの認証範囲,安全管理措置及び委託先監督(AI作成)

目次第1 認証を取得していても個別サービスの確認は残る第2 Pマークは個人情報保護の体制と運用を評価する1 法人単位で確認する2 書類だけの制度と説明しない第3 ISMSは登録範囲と適用する管理策を読む第4 個人情報保護法上の委託先監督は別に行う1 取得済みでも監督義務がなくなるわけではない2 望ましい契約条項と具体的な監督方法を混同しない第5 認証・契約・実装・設定を一つの確認記録につなぐ1 四つの資料を分けて集める2 同じ製品でも機能ごとにデータの流れを確認する第6 導入時と利用継続時の判断を残す第7 資料の確認範囲

本記事は,令和8年10月3日現在の公表資料に基づき,法律事務所及び企業がAI・クラウド等の委託先を選ぶ際に,Pマーク又はISMSの取得をどのように評価するかを整理するものである。認証制度の説明と,個人情報保護法上の委託先監督と,具体的な導入時の確認方法を分けて扱う。

第1 認証を取得していても個別サービスの確認は残る

認証は,第三者による評価を受けた管理体制を確認する有用な資料である。しかし,「取得済み」という表示だけから,今回使うAI機能の全てのデータ処理,契約条件及び設定が事務所の要求を満たすと結論付けることはできない。まず取得した法人,認証の対象となる業務・組織及び有効性を確認し,その上で実際のデータの流れを確認する。

結論として,認証登録証,契約による約束,対策が実施されていることを示す資料,利用者が選んだ設定を組み合わせて判断する。「認証があるから確認を省く」ことも,「書類の制度だから意味がない」と扱うことも適切ではない。

第2 Pマークは個人情報保護の体制と運用を評価する
1 法人単位で確認する

JIPDECの制度概要によれば,プライバシーマークは,JIS Q 15001に準拠する構築・運用指針に基づき,個人情報を保護する体制を評価する制度である。付与は法人単位を基本とし,医療法人等及び学校法人等には例外がある。有効期間は2年間で,更新の仕組みがある。

委託契約の相手方と,マークの付与を受けた法人名を照合する。同じ企業グループの親会社が取得しているという説明だけで,契約相手の子会社も取得していると扱わない。登録番号及び有効期間も確認し,法人の合併・分社や契約相手の変更があれば確認し直す。

2 書類だけの制度と説明しない

構築・運用指針のJ.9.2は安全管理措置を,J.9.4は委託先の選定,契約及び監督を扱う。審査業務の案内も,文書と実際の運用の確認を示している。したがって,申請書式が複雑であるという経験談から,技術的対策や運用の確認が制度に含まれないと説明してはならない。

他方,制度上の評価を受けたことと,特定サービスの現在の設定や再委託先まで依頼者が確認したことは別である。取得の有無を出発点に,今回委託する業務に必要な具体的資料を求める。

第3 ISMSは登録範囲と適用する管理策を読む

ISMS-ACの制度説明によれば,ISMSは,情報の機密性,完全性及び可用性についてリスクを評価し,必要な管理を行うマネジメントシステムである。情報セキュリティの管理体制に関する認証であり,特定製品について脆弱性がないことや事故が起きないことを保証するものとして読むべきではない。

認証取得組織検索及び登録証で,法人名だけでなく,対象となる部署,所在地,登録範囲,登録番号,認証機関及び有効性を確認する。登録範囲に今回のサービスの開発・運用・保守が含まれるかを具体的に説明してもらう。グループ内の別法人や,範囲外のサービスまで対象であると推定しない。

適用宣言書などで,どの管理策を適用し,適用又は除外の理由をどのように整理しているかも確認する。付属書の管理策を全て一律に実施する制度と捉えず,今回の委託内容とリスクに必要な管理策が選ばれ,運用されているかを見る。機密資料の全面開示だけを要求するのでなく,該当部分の説明,監査報告の要約その他の合理的な確認方法を協議する。

クラウドセキュリティの追加認証がある場合も,通常のISMSと同一視せず,対象サービス及び基準を確認する。なお,ISMS-ACのFAQ3は,非公開希望,掲載準備,別の認定機関の下での認証等により検索できない場合を説明している。検索結果が0件であることだけで未取得又は無効と断定せず,登録証又は認証機関への照会で補う。

第4 個人情報保護法上の委託先監督は別に行う
1 取得済みでも監督義務がなくなるわけではない

個人情報保護法23条は必要かつ適切な安全管理措置を,25条は個人データの取扱いを委託する場合の必要かつ適切な委託先監督を求める。個人情報保護委員会の通則編ガイドライン3-4-4は,委託先の選定,契約及び取扱状況の把握を説明している。認証の取得によって,この義務が当然に免除されるわけではない。

委託するデータの内容・量,漏えい時の権利利益への影響,事業や取扱いの性質に応じて確認の程度を決める。診療情報,紛争資料,個人番号その他の慎重な管理を要する情報について,一般的な広報資料だけで判断しない。委託する業務に必要のない個人データを渡さないことも基本となる。

2 望ましい契約条項と具体的な監督方法を混同しない

通則編は,合意した安全管理措置と,委託元が取扱状況を合理的に把握する仕組みを契約に盛り込むことが望ましいとする。また,定期的な監査等を通じて実施状況を確認し,監督を見直す考え方を示している。全ての委託先を同じ頻度で現地監査しなければならないという説明に置き換えない。

再委託については,相手方,業務内容及び取扱方法の報告又は承認,安全管理の確認方法を契約と運用に反映する。全てのAI・クラウド利用が同じ法律関係になるわけではないため,そもそも個人データの取扱いの委託に当たるかも,契約と実際の処理に即して確認する。

第5 認証・契約・実装・設定を一つの確認記録につなぐ
1 四つの資料を分けて集める

①認証資料では,取得法人,登録範囲,有効性及び今回のサービスとの対応を確認する。
②契約資料では,利用規約,個別契約,DPA,秘密保持,再委託,処理国,保存期間,事故通知及び終了時の削除を確認する。
③実装を示す資料では,権限管理,認証,暗号化,操作ログ,保守担当者のアクセス及び復旧の仕組みを確認する。
④利用者の設定では,選択したプラン,学習・改善への利用,外部連携,共有範囲,管理者権限及び保持期間を確認する。

(続きを読む...)Pマーク・ISMS取得済みの委託先なら安心か―AI・クラウドの認証範囲,安全管理措置及び委託先監督(AI作成)

日本版DBSの犯罪事実確認記録をどう扱うか―本人通知・訂正、保護者への説明、内部共有と保存・廃棄(AI作成)

目次第1 施行前に決めておく情報管理の基本第2 最初に情報の種類を分ける1 犯罪事実確認記録等2 本人から別に取得する情報と被害申告の記録第3 本人への事前通知と訂正・開示の違い1 該当する結果は事業者への交付前に通知される2 事業者から本人への開示は別の問題である第4 内部共有と外部提供を分ける1 同一事業者内でも必要な担当者に限る2 目的外利用・第三者提供の例外は法定されている第5 保護者や派遣元には何を説明できるか1 保護者への説明2 派遣元への連絡第6 保存場所,廃棄・消去期限と証拠の扱い1 保存場所と取扱記録2 5年保存が一律の義務ではない3 労務紛争の証拠保存とは区別する第7 漏えい等が起きた場合の初動第8 準備の確認項目と参照資料1 実務で確認する項目2 参照資料
第1 施行前に決めておく情報管理の基本

日本版DBSを含むこども性暴力防止法は,令和8年12月25日に施行される。
本記事は,同年10月8日現在公表されている法令,9月改訂ガイドライン,9月29日更新のQ&A及び10月1日付け監督等指針に基づき,施行後の情報管理を準備するための説明である。
犯罪事実確認が必要な事業者・業務の範囲や現職者の確認時期は別に確認する必要があり,すべての企業がすべての従業員の前科を調べられる制度ではない。

制度全体の対象事業者,対象従事者,主な義務及び施行準備は,子ども性暴力防止法とは―「こども性暴力防止法」(日本版DBS)の対象・義務・令和8年12月25日の施行準備を参照されたい。
こどもの安全確保と従事者の情報保護を両立させるには,誰が確認結果を見るか,誰に何を説明するか,いつ消去するかを先に決める必要がある。
「本人が同意した」「顧問弁護士へ相談する」「保護者が求めた」という事情だけで,犯罪事実確認記録を外部へ提供できるわけではない。

弁護士の役割と被害申告時の聴き取りは,こども性暴力防止法の施行と弁護士の役割も参照されたい。

第2 最初に情報の種類を分ける
1 犯罪事実確認記録等

犯罪事実確認記録等には,犯罪事実確認書そのものだけでなく,そこに記載された情報を転記した記録も含まれる。
特定性犯罪事実の「有・無」だけを人事台帳に記載したものや,確認結果を直接うかがわせる記録にも,同じ制限が及ぶ。
該当する性犯罪歴が「ない」という結果も保護対象であり,確認書を捨ててチェック欄だけ残せばよいという扱いはできない。
対象期間内の特定性犯罪についての制度であって,不起訴,示談,あらゆる犯罪歴を一括して照会する制度ではない。

2 本人から別に取得する情報と被害申告の記録

特定性犯罪事実該当者であると分かった後,事業者が本人との面談等により別に取得する,過去の性犯罪の詳しい事情等は,ガイドライン上「特定性犯罪事実関連情報」と整理される。
この情報には確認記録等の目的外利用・第三者提供禁止規定が直接適用されないが,要配慮個人情報として個人情報保護法上の取得・提供等のルールを確認し,確認記録等に準じた厳格な管理を行う必要がある。
確認書の転記を「面談記録」と呼び替えて,この区別を利用することはできない。

こどもの被害申告,聴取記録,医療情報等についても,取得経緯,内容,利用目的及び法的根拠をそれぞれ確認する。
これらがすべて同じ種類の情報になるわけではないが,被害を受けた事実や医療情報など,要配慮個人情報に該当する内容が含まれ得る。
確認結果の管理規程だけで,こどもの聴き取りや支援に必要な情報管理を済ませないことが重要である。

第3 本人への事前通知と訂正・開示の違い
1 該当する結果は事業者への交付前に通知される

特定性犯罪事実該当者に該当する結果である場合,こども家庭庁は,事業者へ確認書を交付する前に本人へ記載内容を通知する。
通知内容が事実でないと思う本人は,通知を受けた日から2週間以内に訂正請求をすることができる。
事業者への交付は,この期間を経過するまで行われず,期間内に訂正請求があれば,その決定の通知まで行われない(法35条5項,37条)。
本人への連絡方法を確実にし,事前通知が来た場合の相談先と期限を説明しておくことが実務上有用である。

採用応募を取りやめる場合等の交付手続の中止についても,Q&Aで手続が説明されている。
本人が中止を求めただけで事業者の申請が当然に無効になるわけではないため,事業者側の申請取下げまで確認する必要がある。

(続きを読む...)日本版DBSの犯罪事実確認記録をどう扱うか―本人通知・訂正、保護者への説明、内部共有と保存・廃棄(AI作成)

店舗・法律事務所に防犯カメラを設置するとき―画角,録音,顔識別,保存期間及びクラウド契約(AI作成)

目次第1 設置前に決めること1 防犯の目的と撮影の範囲2 従来型カメラの表示と利用目的第2 顔識別・従業者の監視を追加するとき1 顔識別機能を通常の録画と区別する2 従業者の監視に関するルール3 職場の監視を問題とした労働委員会命令4 自衛目的の記録と保存・共有を分ける5 不在中の録音と自らの会話の録音を分ける第3 保存期間と証拠保全1 一律の日数ではなく必要性から決める2 映像とログを別に保全する第4 クラウド契約とアクセス管理1 契約前に確認する項目2 閲覧権限と委託先の確認第5 導入・変更時の確認と資料の範囲1 導入前に行う試験2 現行法と改正法を区別する3 関連記事
第1 設置前に決めること
1 防犯の目的と撮影の範囲

防犯カメラを導入するときは,機器の価格や画質だけでなく,何を防ぎ,どの場所を撮影し,誰が映像を確認するかを先に決める必要がある。本記事は,店舗や法律事務所での設置・運用を扱う。映像を警察や弁護士へ提供するときの判断は,防犯カメラ映像を警察・弁護士に提供するときで別に説明している。

実務上は,入口,駐車区画,レジ周辺等について,撮影によって確認したい事実を一つずつ書き出すとよい。例えば,無断駐車への対応なら,車両の出入りと駐車位置の確認が目的になる。隣家の室内や必要のない道路部分まで撮ることを当然の前提にせず,画角の変更やマスキングを検討する。これは目的に沿った運用設計の提案であり,全ての施設に同一の画角を義務付ける趣旨ではない。

法律事務所では,相談者の来訪自体や相談内容に配慮し,面談室の撮影・録音を受付の防犯と一緒に決めないことが大切である。音声が必要な理由,録音される場所,閲覧者,保存期間を別に検討し,必要性を説明できなければ録音機能を停止する運用を検討する。「防犯カメラ作動中」という表示だけで,あらゆる会話の録音や利用が許されるわけではない。

弁護士法23条は,職務上知り得た秘密の保持を弁護士の権利・義務として定めている。相談内容を録音する場合は,個人情報保護だけでなく守秘義務との関係も確認する。実務上の提案として,受付の防犯記録と相談の記録を分け,必要な場合には録音の目的,範囲,保存,閲覧者及びクラウド事業者のアクセスを具体的に説明し,録音を止めて相談できる方法も検討する。以下の職場の事例は法律相談室を直接扱うものではなく,相談室の常時録音の適法性を保証しない。

2 従来型カメラの表示と利用目的

個人情報保護委員会のカメラに関するQ&AQ1-13によれば,個人を識別できる画像を取得する場合は,利用目的を特定し,その範囲で利用する必要がある。設置状況から防犯目的が明らかな場合には利用目的の通知・公表の例外がある一方,撮影されることを容易に認識できない場合には,認識できるようにする措置が必要である。認識できる設置状況でも,掲示等を行うことが望ましいとされている。

入口の掲示,施設のウェブサイト及び運用規程の内容をそろえ,運用主体,目的及び問合せ先を案内すると,利用者からの質問に対応しやすい。表示が実際の運用と一致しているかを,導入時だけでなく,機能追加時にも確認する。

第2 顔識別・従業者の監視を追加するとき
1 顔識別機能を通常の録画と区別する

前記Q&AのQ1-14は,顔識別機能を使う場合,その使用を利用目的に明らかにし,通知又は公表を行う必要があると説明している。同Q1-15によれば,防犯目的で取得した画像や顔特徴データをマーケティング等の商業目的に転用するときは,事前の本人同意が必要になる。

導入判断では,「録画だけ」「顔を照合して通知」「来店分析」の機能を分けて確認する。防犯用の顔照合に登録する対象,登録理由の記録,誤登録の訂正,解除の判断者も決めておく。単に不審に見えたという担当者の印象だけで登録を広げる運用は避けるべきである。

2 従業者の監視に関するルール

個人情報保護委員会Q5-7は,個人データの取扱いに関する従業者の監督としてモニタリングを行う場面について,目的の特定・明示,責任者と権限,運用ルール及び適正な実施の確認を挙げている。重要事項について労働組合等への通知・必要に応じた協議や従業者への周知が望ましいとも説明している。

このQ&Aは,全ての職場監視の適法性を一括して認める資料ではない。社内不正の調査で映像を使う場合は,調査の対象期間と場所を絞り,関係のない映像へのアクセスを制限する。勤怠評価や懲戒に用いるなら,撮影目的との関係,規程,説明及び調査の相当性を別に検討する必要がある。調査の進め方は,社内で窃盗・横領が疑われたときの社内調査も参照されたい。

3 職場の監視を問題とした労働委員会命令

鹿児島県労働委員会平成26年1月9日命令〔平成24年(不)第2号〕は,組合員の職場を映すカメラ等について,画角・録音機能,説明,設置時期,労使関係及び主張された目的との整合性を検討し,組合員の行動監視を目的とする不利益取扱いを認定した。救済は,対象の7台について団体交渉に応じること等と,うち3台について一定の措置まで使用しないことを含む。全ての職場カメラの禁止や,7台全部の撤去を一律に命じたものではない。

これは裁判所の判決ではなく,労働委員会の命令である。防犯・事故防止という名目や事前の表示だけで判断せず,実際の撮影対象と監視の程度を確認する必要がある,という実務上の学びになる。カメラ配置図,必要性を示す事故等の記録,音声・ズーム機能の設定及び閲覧場所も,設置の検討資料として残すとよい。

4 自衛目的の記録と保存・共有を分ける

京都地裁令和6年5月14日判決〔令和2年(ワ)第1858号〕は,労働者が自衛目的で行った限られた範囲・期間の撮影や,自らの会話の無断録音について,その事案の就業規則上の懲戒事由には当たらないとした。一方,削除を指示された動画を削除したと偽り,第三者もアクセスできる共有サーバー内に保存した点は,懲戒事由に当たるとした。判決全体では,ほかの非違行為も踏まえて懲戒解雇を有効としている。

無断撮影・録音が一般に適法であるとか,一定期間以内なら問題がない,という判断ではない。記録の目的,撮影・録音の範囲,規程・指示に加え,その後の保存先,共有及び報告を別々に評価することが重要である。証拠を残す必要がある場合も,アクセスを制限した保全方法や削除指示への対応を個別に検討し,虚偽報告によって解決しようとしない。

5 不在中の録音と自らの会話の録音を分ける

大阪地裁令和5年12月7日判決〔令和3年(ワ)第6483号・令和4年(ワ)第350号,判例時報2612号55頁,判例秘書L07851277〕は,自分がいない間の従業員休憩室に録音機を置き,約4か月にわたり20回,1回約3時間,会話を広く秘密録音した証拠(甲6)を排除した。休憩室の利用状況,録音の方法・範囲等を踏まえてプライバシーを著しく侵害し,証拠として採用することが訴訟上の信義則に反すると判断したものである。

同じ判決は,別の従業員が自分の参加する会話を自衛目的で録音した証拠(甲8)については,侵害の程度や証拠の重要性等を検討して採用した。秘密録音という名称だけで一律に決めず,録音者が会話に参加しているか,場所,期間,対象,目的,取得の経緯及び立証上の必要性を具体的に確認する必要がある。

また,不在中の休憩室を録音した者には,録音に関するプライバシー侵害による慰謝料として,相手2名それぞれに5万円が認められた。証拠として使えるか,取得行為が不法行為になるか,就業規則上の懲戒事由に当たるかは,分けて検討する。甲8を採用したことは,自分の会話なら常に適法であるとか,録音者の損害賠償責任が一切ないと判断したという意味ではない。この事例も,法律相談室の常時録音を直接扱うものではない。

第3 保存期間と証拠保全
1 一律の日数ではなく必要性から決める

個人情報保護委員会Q5-4は,個人情報保護法22条に基づき,利用の必要性を考慮して保存期間を設定し,不要になった個人データを遅滞なく消去するよう努める必要があると説明している。「法律上,防犯映像は全て30日保存しなければならない」という整理にはならない。

(続きを読む...)店舗・法律事務所に防犯カメラを設置するとき―画角,録音,顔識別,保存期間及びクラウド契約(AI作成)

防犯カメラ映像を警察・弁護士に提供するとき―捜査関係事項照会,弁護士会照会,第三者の映り込みと提供範囲(AI作成)

目次第1 本記事の対象と基本的な考え方第2 映像が「個人情報」「個人データ」に当たるか1 顔が判別できる映像と個人データの区別2 防犯目的と新しい利用目的第3 警察から提供を求められた場合1 捜査関係事項照会と任意の協力依頼2 依頼者と範囲を確認する第4 弁護士会照会と弁護士個人の依頼1 弁護士会照会2 弁護士個人からの依頼第5 第三者の映り込みと必要な前後関係第6 映像の保全と安全な受渡し1 原記録と作業履歴を残す2 受取人と受領を確認する第7 記録義務と本人からの開示請求1 法定の第三者提供記録と社内の対応記録2 「警察に渡したから開示できない」とは限らない第8 撮影の適法性と裁判での評価は別に確認する第9 対応前の確認事項第10 資料の確認範囲と令和8年改正
第1 本記事の対象と基本的な考え方

店舗,会社又は集合住宅の管理者が保管する防犯カメラ映像について,警察や弁護士から提供を求められた場合の対応を,令和8年10月2日現在の個人情報保護委員会の公表資料に基づいて整理する。行政機関自身が保有する映像の取扱いは,本記事の対象外である。
映像の撮影,保存,社内での閲覧及び外部への提供は,それぞれ確認すべき事項がある。適法に撮影した映像であっても,誰に,どの範囲を,何のために渡すかを別に判断する必要がある。

対応の基本は,依頼者と法的根拠を確認し,上書き前に必要な映像を保全した上で,事件との関係が説明できる期間・カメラ・情報に提供範囲を絞ることである。本人同意が不要となる根拠があることと,求められた全映像をそのまま提供すべきことは,同じではない。

第2 映像が「個人情報」「個人データ」に当たるか
1 顔が判別できる映像と個人データの区別

特定の個人を識別できるカメラ画像は個人情報に当たる。顔が不鮮明でも,名札,制服,撮影場所又は他の情報との容易な照合によって個人を識別できる場合がある。
もっとも,個人情報であることから直ちに「個人データ」であるとはいえない。個人情報保護委員会のQ1-41は,特定の個人情報を検索できるよう体系的に構成していないカメラ画像は,個人情報データベース等を構成しないと説明している。録画装置の名称だけで判断せず,人物による検索,索引,顔照合その他の実際の構成を確認する。

個人データの第三者提供には個人情報保護法27条が関係する。一方,個人データに該当しない映像でも,利用目的による制限及びプライバシーの問題が消えるわけではない。

2 防犯目的と新しい利用目的

通常の防犯カメラと,顔の特徴から人物を識別するシステムは区別する。カメラに関するQ&Aは,防犯目的が設置状況から明らかな場合と,撮影を容易に認識できない場合を分け,顔識別機能を利用する場合にはその利用を含めた目的の特定を求めている。
社内の窃盗調査のため既存映像を保全することと,新たに隠しカメラ,録音又は顔照合を導入することも別の検討である。過去の映像提供依頼だけから,今後の継続監視まで承諾されたと扱ってはならない。

第3 警察から提供を求められた場合
1 捜査関係事項照会と任意の協力依頼

刑事訴訟法197条2項に基づく捜査関係事項照会に対する個人データの提供は,個人情報保護法27条1項1号の「法令に基づく場合」に当たり,本人の同意を要しない。個人情報保護委員会のQ1-63も,同照会を法令に基づく提供の例として扱っている。
ただし,照会への回答と,令状に基づく差押えは手続が異なる。「警察からの依頼」という呼び方だけで処理せず,照会の根拠,担当部署,対象事件及び求められた事項を確認する。

書面による照会がない依頼についても,常に本人同意が必要になるとは限らない。個人情報保護委員会の医療・介護分野のQ4-24は,任意の捜査協力は任意であるとしつつ,提供を受ける法令上の具体的根拠がある場合には,同号に該当すると説明している。
この説明を踏まえ,口頭依頼だから一律に拒否することも,警察を名乗れば無条件に提供することも避ける。具体的根拠と依頼内容が不明な場合は,書面化や担当部署への確認を求める。生命・身体の保護等の別の例外を検討する場合も,その要件を個別に確認する。

2 依頼者と範囲を確認する

依頼者の氏名,所属,連絡先及び照会番号を記録し,必要に応じて警察署の公表された代表番号から担当部署を確認する。メールに書かれた連絡先だけに依存しない。
期間,カメラ位置,対象場所,必要な画角,音声の要否及び提供方法を具体化する。「一か月分全部」といった依頼に対しては,事件との関係と範囲が必要な理由を確認し,絞込みが可能か協議する。緊急の保全が必要な場合は,まず消失を防ぎ,実際の提供範囲は別に確定する。

第4 弁護士会照会と弁護士個人の依頼
1 弁護士会照会

弁護士法23条の2に基づく照会は,受任弁護士の申出を受けた弁護士会が審査し,弁護士会として必要事項の報告を求める手続である。
個人情報保護委員会の弁護士会照会に関するQ5-7は,これに回答して個人データを提供する場合,本人同意は不要と説明する。同時に,具体的な回答内容によってはプライバシー侵害による損害賠償が問題となるため,照会理由と情報の性質を踏まえた慎重な判断を求めている。

したがって,「本人同意がない」という理由だけで回答を拒む扱いと,「弁護士会照会だから全て渡す」という扱いの双方を避ける。関係のない人物の映像,長期間の行動履歴,私生活又は秘密に関わる情報が含まれる場合は,照会事項と必要性を確認し,不明点を弁護士会へ照会する。

2 弁護士個人からの依頼

弁護士の名刺,受任通知又は法律事務所からの依頼書があるだけでは,弁護士会照会と同じ扱いにはならない。個人データを提供する場合は,本人同意,適用できる別の例外,又は本人の代理人としての開示請求等の根拠を確認する。
依頼者が映っている本人の代理人である場合でも,他人の映像を含む全記録を当然に受け取れるわけではない。代理権,本人確認,請求対象及び第三者の権利利益を確認する。提供する会社自身が委任した弁護士への業務上の情報提供は,外部の当事者の弁護士への提供と区別して検討する。

(続きを読む...)防犯カメラ映像を警察・弁護士に提供するとき―捜査関係事項照会,弁護士会照会,第三者の映り込みと提供範囲(AI作成)

「AIで稼げる」副業の勧誘と契約トラブル―無料相談会・Web会議での勧誘,クーリング・オフ,取消し及び借入れの勧め(AI作成)

目次第1 この記事の対象1 問題になる勧誘の流れ2 相談件数と契約金額第2 どの取引に当たるかで救済が変わる1 電話勧誘販売2 業務提供誘引販売取引3 通信販売にとどまる場合第3 契約をやめる方法1 クーリング・オフ2 特定商取引法による取消し3 消費者契約法による取消し4 不法行為による損害賠償第4 支払方法ごとの対応1 クレジットで支払った場合2 借入れを勧められた場合第5 勧誘の場で出てくる言葉と法律上の位置付け第6 証拠の残し方と相談先第7 法改正の動き第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 行政処分・注意喚起4 所管行政機関等の解説・資料第10 本記事で扱わない事項
第1 この記事の対象
1 問題になる勧誘の流れ

生成AIの新しいモデルが公表されるたびに,「このAIを使えば副業で稼げる」と紹介する動画や広告が公開され,その中には,公式LINEへの登録,特典資料の受取り,無料の個別相談会への参加を呼びかけるものがある。
無料の相談会や資料の配布そのものは違法ではない。
しかし,国民生活センターや消費者庁の公表資料には,無料又は安価な入口から始まり,Web会議での個別説明を経て,数十万円から数百万円の講座,サポート契約又はコンサルティング契約へ進む相談や処分の例が多数載っている。

国民生活センターの調査報告「消費生活センターにおける解決困難事例の研究~起業・副業をめぐる消費者トラブルの被害救済を中心に~」(令和5年3月22日)は,副業サポート契約の相談事例について,「当初、安価な情報商材等を購入し、その後、不意に電話勧誘が始まり、高額な副業のサポートに関する契約を勧められる例が目立ちました。」としている。
本記事は,令和8年10月1日時点の公開資料に基づき,このような流れで契約した人が,どの法律でどのように契約をやめ,支払ったお金を取り戻せるかを整理するものである。
AIを使って請け負う副業そのものの法律問題(著作権,素材の利用規約,フリーランス法等)は,パソコンを操作するAIで動画・ゲーム・3Dモデルを請け負う副業の法律問題で扱う。

2 相談件数と契約金額

国民生活センター「ビジネス講座のトラブルにご注意-広告・勧誘と実際の講座内容が異なる、Web会議での思わぬ勧誘に気をつけましょう-」(令和8年9月16日)は,AI講座を含む「ビジネス講座」の相談件数と平均契約購入金額を次のとおり示している(PIO-NETの令和8年7月31日までの登録分)。

年度相談件数通信販売の平均契約購入金額電話勧誘販売(Web会議での勧誘を含む)の平均契約購入金額2020年度1,169件44万円60万円2021年度1,831件47万円69万円2022年度2,106件59万円84万円2023年度2,510件57万円88万円2024年度2,682件64万円99万円2025年度3,551件64万円87万円2026年度(7月31日まで)1,121件48万円79万円

同じ資料は,「近年はSNS広告で知った事業者からWeb会議サービス等を利用して勧誘を受け契約したケースに関する相談が見られます。このようなケースは特定商取引法における電話勧誘販売に該当する場合があります。」としている。
紹介されている事例には,「AIを使って副業で稼ぐ」というSNS広告から安価な情報商材を買い,上位プランを勧められ,Web会議での説明で「講座代は1、2カ月ですぐに取り戻せる」と言われて約80万円の講座を個別クレジットで契約したもの,副業の面接と思って参加したWeb会議で講座の契約を勧められ,後に「事業者間契約だから解約はできない」と言われたもの等がある。

第2 どの取引に当たるかで救済が変わる
1 電話勧誘販売
(1) Web会議は「電話」に当たる

特定商取引法2条3項は,電話勧誘販売を,販売業者又は役務提供事業者が「電話をかけ又は政令で定める方法により電話をかけさせ、その電話において行う売買契約又は役務提供契約の締結についての勧誘」により,郵便等で申込みを受け,又は契約を締結して行う販売又は役務の提供と定めている。
消費者庁の通達「特定商取引に関する法律等の施行について」(令和6年11月19日)は,同項の「電話」について,インターネット回線を使って通話する形式(映像を伴う場合を含む。)を用いた場合も「電話」に当たるとしている。
同庁の「電話勧誘販売の解釈に関するQ&A」Q5は,事業者がWeb会議のURLを送った場合は「電話をかけ」に当たると説明している。

(2) 消費者から接続した場合

消費者が自分から相談会に申し込んだ場合でも,それだけで電話勧誘販売から外れるわけではない。
特定商取引法施行令2条1号は,電話,電磁的方法,ウェブページ等を利用して,契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに電話をかけることを要請することを,「電話をかけさせ」る方法として定めている。
同じQ&AのQ5は,情報商材の購入後にSNSで相談し,Web会議で別の商材を勧誘された事例について,消費者から依頼した場合でも通常は適用除外(同法26条7項1号)に当たらず,クーリング・オフができるとしている。

(3) Web会議の勧誘を電話勧誘販売とした処分例

消費者庁は,令和6年9月,Web会議ツールを用いたオンラインのコンサルティングに参加するためのURLをメール等で送信して電話をかけたとして,営業スキルの教材と研修を販売していた事業者を電話勧誘販売と認定し,「契約後のクーリング・オフできませんよ」等の不実告知(同法21条1項)や書面の不交付(同法19条1項)を理由に業務停止命令等をした(消費者庁の公表資料(令和6年9月5日))。
令和7年12月には,関東経済産業局が,SNS運用及びAIを活用したビジネスのスキル習得に係る動画コンテンツとサポートサービスを提供するオンラインスクール事業者について,SNS等で無料のコンサルティングをうたって申し込んだ消費者にウェブ会議のURLを送付する方法で電話をかけていると認定し,指示処分をした(消費者庁の公表資料(令和7年12月25日))。
この事案では,月収が多くても5万円程度の18歳の消費者に消費者金融からの借入れを勧めて支払総額約77万円の契約を締結させたことが,消費者の知識,経験及び財産の状況に照らして不適当な勧誘(同法22条1項5号,同法施行規則64条3号)とされている。

2 業務提供誘引販売取引

「講座を受ければ仕事を紹介する」「サポート契約をすれば案件を回す」と言われて契約した場合は,業務提供誘引販売取引に当たることがある。

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中国現地法人の従業員データを日本本社・海外SaaSへ送るときの中国個人情報保護法―越境人事管理の手続免除と残る義務(AI作成)

第1 この記事の対象と結論1 対象2 結論第2 国内での処理と国外提供の主体を分ける1 国内処理の根拠2 提供者・受領者・委託先第3 国外提供の経路と手続免除1 基本的な経路2 越境人事管理等の免除3 免除に該当しないときの人数基準4 手続免除後にも確認する義務第4 研修・内部通報システムの確認順序1 データの流れを記録する2 契約と運用の確認第5 出典

第1 この記事の対象と結論

1 対象

中国の現地法人が,従業員向けの研修システムや内部通報システムを利用し,日本本社又は国外のSaaS事業者と情報を共有する場合を取り上げる。
ここでの例は公開資料から作った一般的な確認場面であり,特定の会社の運用や事件を記述するものではない。

本記事は令和8年10月1日までに公表された中国の法令及び国家インターネット情報弁公室の資料を基準とする。
中国語原文を基礎にした実務上の確認順序であり,個々のシステムについて手続が不要だと判定するものではない。

2 結論

最初に,誰のどの情報が,中国国内のどの主体から,どの国の誰に,何のために提供されるかを図にする。
次に,①国内での処理根拠,②国外提供について安全評価・標準契約・認証のどの経路が必要か,又は手続免除に当たるか,③告知・個別同意・影響評価等をどう履行するかを,別々に確認する。

中国個人情報保護法38条~40条は国外提供の基本的な条件を定める。
他方,「データ越境流動の促進及び規範化に関する規定」5条は,一定の越境人事管理等について安全評価の申告,標準契約の締結,個人情報保護認証を免除する。
免除に該当するかと,個人情報の取扱い全体が適法かは,同じ問いではない。

第2 国内での処理と国外提供の主体を分ける

1 国内処理の根拠

中国個人情報保護法3条は,中国国内における自然人の個人情報処理を同法の対象とし,一定の国外での処理にも適用を及ぼす。
同法13条1項2号は,本人を一方当事者とする契約の締結・履行に必要な場合のほか,適法に制定された就業規則及び適法に締結された集団契約に従う人事管理に必要な場合を処理根拠としている。
人事管理という名称を付けるだけで,研修履歴,通報情報又は調査資料の全てがこの根拠に含まれるわけではない。

同法17条は,処理目的,方法,個人情報の種類,保存期間等の告知事項を定める。

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結婚式場の解約料で再販率をどう確かめるか―大阪高裁令和8年4月23日判決の公表要旨とBIAモデル約款(AI作成)

目次第1 対象と結論第2 消費者契約法9条と損害の区分第3 神戸地裁・大阪高裁判決の公表要旨1 計算の枠組み2 1年以上前の解約と実績資料第4 BIA改訂モデル約款の使い方第5 相談・交渉で確認する資料第6 関連記事と資料の限界第7 出典
第1 対象と結論

結婚式場の解約料を検討するとき、「挙式日まで長いから逸失利益はない」「業界のモデル約款より高いから無効」といった一つの事情だけでは結論を出せない。消費者契約法9条1項1号が問題にするのは、解除の事由・時期等の区分に応じ、同種の契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害である。再販率、粗利率、解約時見積額、既手配費用を、同じ区分に対応させて検討する必要がある。

本記事は、消費者庁の公表する神戸地裁令和7年4月24日判決及び大阪高裁令和8年4月23日判決の紹介文と、公益社団法人日本ブライダル文化振興協会(BIA)の改訂モデル約款を扱う。両判決の全文は本記事の作成時に確認していないため、公表要旨を超える判示、訴訟で提出された資料の内容や上訴後の確定状況は断定しない。

第2 消費者契約法9条と損害の区分

同法9条1項1号は、解約料等の合計が、条項に設定された解除の事由・時期等の区分に応じた平均的な損害を超えるとき、超える部分を無効とする。消費者庁の逐条解説は、平均値を事業者ごとに捉え、業界全体の水準とは区別している。

挙式予定日までの日数だけでなく、解約の意思表示がいつ相手方へ届いたか、約款上の時期区分、別途手配済みの商品・役務、同じ日時・会場の再予約の可能性を確かめる。申込金が解約料へ充当されるか、実費が加算されるかも約款で確認する。

第3 神戸地裁・大阪高裁判決の公表要旨
1 計算の枠組み

消費者庁の神戸地裁判決紹介によれば、同裁判所は、解約に伴う逸失利益に再販売による利益と支出を免れた費用を反映し、解除時見積額の平均×粗利率×非再販率という計算式を示した。この式は公表された当該事件の判断であり、あらゆる式場について同じ入力値又は同じ損害額を認めるものではない。神戸地裁は差止請求を棄却した。

2 1年以上前の解約と実績資料

消費者庁の大阪高裁判決紹介によれば、同高裁は令和8年4月23日、過去5年間の早期解約に関する再販・非再販実績から再販できなかったものが一定数あったことを重視し、「1年以上前だから逸失利益は生じない」とする主張を採用せず、第一審を維持して控訴を棄却した。また、役務等ごとの積算がされた見積額を損害算定の基礎とし得るとした。早い時期の解約ほど再販されやすい傾向は考慮しつつ、再販率が時期に機械的に比例するわけではないとして、時期区分の設け方も検討した。

この訴訟は適格消費者団体による条項の差止請求である。個別の利用者が負担する額を自動的に確定する判決ではない。早期解約で常に逸失利益が発生するとの一般命題にも、式場側の主張が常に通るとの一般命題にも読み替えない。

第4 BIA改訂モデル約款の使い方

BIAの改訂モデル約款は、365日前までの解約料を「申込金の25%又は3万円の低い額」、364日前から180日前までを「申込金の50%及び別表の商品代金」とする例を載せる。同資料自身が、モデルの数値を各事業者の料率とは区別し、各事業者が自ら算出した平均的損害を根拠に具体的な額と期間を定めるよう求めている。モデルの金額は法定上限ではない。

同資料は、想定利益に非再販率を乗じ、既に発注・手配した商品等の実費を加える考え方を示す。相談時には、モデル表と対象式場の約款を並べるだけで終えず、対象式場の区分別実績と費目の中身を確かめる。通常の営業経費、解約により支出を免れた費用、既に発生した実費を重複計上しないことも必要である。

第5 相談・交渉で確認する資料

契約書、申込書、約款、申込金の領収記録と説明資料。
挙式予定日、解約意思表示の到達日、約款の時期区分。
初回・変更後・解約時の見積書と、人数・商品・役務の変更履歴。
同種契約の範囲、同一日時・会場の時期別再販率、実績の対象期間及び除外事由。
粗利率の計算に含めた原価・経費、解約で不要となった支出、既手配品の発注日と取消条件。

これらは争点整理の確認事項であり、式場にすべての資料を当然に開示させられるという意味ではない。同法9条2項は、消費者から求められたときの算定根拠の概要の説明努力義務を定める。個別の開示方法と証拠収集は、契約関係と手続段階に応じて検討する。

第6 関連記事と資料の限界

契約の成立、旧来の裁判例、特定商取引法との関係は、結婚式場のキャンセル料はどこまで払う必要があるかで整理している。

本記事は公開資料から一般的な検討順序を示すものであり、特定の利用者・式場の交渉経過を扱わない。判決の全文、提出証拠、上訴・確定状況は未確認である。今後、判決本文を入手した場合には、公表要旨と照合する必要がある。

第7 出典

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消費者被害の集団的回復手続―共通義務確認訴訟と最高裁令和6年3月12日判決(AI作成)

目次
第1 制度の全体像とこの記事の要点

1 消費者被害を集団的に回復する二段階の手続
2 最高裁令和6年3月12日判決の要点

第2 二段階の手続

1 第1段階の共通義務確認訴訟
2 第2段階の簡易確定手続等
3 個別訴訟及び差止請求との違い

第3 共通義務確認の訴えの入口要件

1 共通性と多数性
2 法3条4項の「困難性」

第4 最高裁令和6年3月12日判決

1 事案の概要
2 原審が訴えを却下した理由
3 最高裁が示した判断
4 判決の射程

第5 訴える側の実務

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タイムズカー約660万アカウントの個人情報漏えいから考える本人通知―退会者・入会未完了者・法人会員の登録運転者(AI作成)

第1 本記事の対象と結論
第2 第1報から第3報までに判明したこと
第3 約660万「アカウント」と本人の数は同じとは限らない
第4 不正アクセスでは1000人超でなくても報告対象となり得る
第5 公表と本人への個別通知は別の手続である
第6 退会者及び入会未完了者への通知
第7 法人会員,契約担当者及び登録運転者の切り分け
第8 貸渡約款を読むときの注意点
第9 対象者が当面行うこと
第10 事業者が残すべき通知台帳
第11 損害賠償と裁判例
第12 確認済み・公表者の説明・投稿者の説明・推論・未確認事項
第13 関連記事
第14 出典及び調査範囲

第1 本記事の対象と結論

本記事は,タイムズモビリティ株式会社が令和8年9月25日及び同月28日に公表した「タイムズカーWebサイト」への不正アクセスを題材として,個人情報保護法上の漏えい等報告,本人通知,退会者・入会未完了者及び法人会員に関する通知先の切り分け並びに貸渡約款の読み方を整理するものである。基準日は令和8年9月29日であり,今後の続報,個人情報保護委員会の判断又は裁判によって事実関係及び法的評価が変わる可能性がある。

なお,令和8年7月17日に個人情報保護法等の改正法が公布されたが,主要部分は公布日から2年以内の政令で定める日から施行される。本件の報告及び本人通知は,令和8年9月29日現在の施行法を前提に検討する。将来,施行日,委員会規則又はガイドラインが定められた場合には再確認を要する。

結論は次のとおりである。

① 公表された約660万件は「アカウント数」であり,直ちに約660万人の本人を意味しない。
② 不正アクセスによる個人データの漏えい等は,本人が1000人を超えるか否かとは別に,個人情報保護法施行規則7条3号の報告対象となり得る。
③ Webサイトでの公表と,本人に直接知らせる法26条2項の通知は別である。連絡可能な本人への個別案内,通知不能者への代替措置及び各方法の到達記録を分けて管理する必要がある。

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サポート詐欺(偽のセキュリティ警告)に遭ったとき―画面の閉じ方,遠隔操作された端末の扱い,支払方法別の対応及び事業者の漏えい等報告(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 対象と基準日2 結論第2 手口と被害の状況1 手口2 統計第3 警告画面が表示されたとき1 画面が表示されただけならウイルスには感染していない2 画面の閉じ方第4 電話をかけて遠隔操作を許したとき1 個人のパソコン2 会社や法律事務所のパソコンは保存して調査する第5 支払ってしまったとき1 インターネットバンキングで送金させられた場合2 プリペイド型電子マネーで支払った場合3 クレジットカードで支払った場合4 サポート契約の扱い第6 事業者・法律事務所で起きたとき1 個人データの漏えい等の報告2 行政機関等で指導が行われた例3 法律事務所の場合第7 平時の備え第8 刑事上の位置付けと裁判例の調査結果1 刑事上の位置付け2 裁判例の調査結果第9 関連記事第10 出典1 公的機関の資料2 裁判例3 法令・会規
第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日

本記事は,パソコンでインターネットを閲覧している最中に「ウイルスに感染した」等の偽の警告画面が表示され,画面上の電話番号に電話をかけさせられ,遠隔操作ソフトを導入させられた上でサポート料金等の名目で金銭を支払わされる手口(いわゆるサポート詐欺)について,個人,会社及び法律事務所が行うべき対応を整理する。
統計及び公的機関の注意喚起は,令和8年9月28日に各機関のウェブサイトで原文を確認したものである。
法令は,同日現在の条文をe-Gov法令検索で確認した。
裁判例の調査結果は,第8で示す。

2 結論

①警告画面が表示されただけであれば,パソコンはウイルスに感染しておらず,画面を閉じれば足りる(情報処理推進機構)。
画面に表示された電話番号には電話をかけない。

②画面を閉じられないときは,ESCキーを長押しして表示される「閉じる」ボタンでブラウザを閉じる(情報処理推進機構)。

③電話をかけて遠隔操作ソフトを入れてしまった個人のパソコンについては,そのソフトのアンインストールと,Windowsの「システムの復元」が推奨されている(情報処理推進機構)。

④会社や法律事務所のパソコンが遠隔操作された場合は,情報漏えいの調査を行うのであれば,調査が終わるまで端末を保存し,復元や初期化は調査の後に行う(情報処理推進機構)。
遠隔操作されたかどうかが,情報漏えいの可能性があるかどうかの分かれ目となる(同)。

⑤インターネットバンキングで送金させられた場合は,至急,振込先の銀行に連絡し,自分の口座のある銀行と警察にも連絡する(情報処理推進機構)。
プリペイド型電子マネーで支払った場合は相手より早くチャージするか発行業者に連絡し,クレジットカードで支払った場合はカード会社に相談する(国民生活センター)。

⑥サポート契約を取り消せるかは,消費生活センター(局番なしの188)に相談する(情報処理推進機構)。
偽の警告画面で電話をかけさせ,その電話で有償サポート契約を勧誘した場合は,特定商取引法の電話勧誘販売に当たり得るが,公的機関がサポート詐欺への適用を明示した資料は見当たらず,事業者の実体が不明なことも多いため,実際の返金は難しい場合が多い。

⑦個人データを扱う端末が遠隔操作された事業者は,個人情報保護法26条の報告及び本人通知の対象となる事態に当たるかを検討する必要がある。
個人情報保護委員会は,サポート詐欺で遠隔操作ソフトを入れてしまった学校の事案を,個人情報の漏えいのおそれが生じた事案として扱っている。

⑧令和8年9月28日時点で,裁判所ウェブサイトの裁判例検索と判例秘書では,サポート詐欺そのものを扱った裁判例を確認できなかった。
遠隔操作ウイルス等で取得した識別符号を使ってインターネットバンキングで不正送金した行為について,電子計算機使用詐欺罪の成立を認めた裁判例はある(東京地方裁判所平成29年4月27日判決)。

第2 手口と被害の状況
1 手口

国民生活センターは,サポート詐欺を,「パソコンでインターネットを使用中に突然『ウイルスに感染している』等の警告画面や警告音が出て、それらをきっかけに警告画面上に表示されている電話番号に電話をかけさせ、偽のサポートに誘導し、サポート料金を支払わせる手口」と説明している(令和6年3月27日公表の報道発表)。
同センターは,新たな手口として,インターネットバンキングで送金を指示されるケースも確認されているとしている。

消費者庁は,偽の警告表示にMicrosoftのロゴを用いて信用させ,ウイルス駆除等を称して多額の金銭を支払わせる事業者について,消費者安全法38条1項に基づく注意喚起を令和3年2月19日と令和5年9月28日に行っている。
令和5年の注意喚起は,事業者の実体は不明であり,実在する日本マイクロソフト株式会社やその関係者は本件とは全く無関係であるとしている。

2 統計

警察庁は,パソコンのウイルス除去をサポートするなどの名目で電子マネー等をだまし取る手口を,特殊詐欺のうち架空料金請求詐欺の「サポート名目」として集計している。

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家庭の電気料金の値上げに国の認可は必要か―規制料金(特定小売供給約款)と自由料金の違い,経過措置の現状及び争い方(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 二つの料金はどう違うか1 小売電気事業は登録制であり,料金の認可はない2 規制料金は経過措置として残されている3 対象は低圧の需要家であり,高圧等は既に自由化されていた4 自分の契約がどちらかを確かめる方法第3 規制料金の値上げの手続1 認可の基準2 公聴会と関係閣僚会議3 届出で足りる変更4 令和5年の値上げ認可5 燃料費調整には上限がある第4 規制料金はいつまで続くか1 指定旧供給区域の指定の解除2 令和8年9月時点の状況第5 自由料金の値上げ1 契約と約款の問題になる2 定型約款の変更の要件3 小売電気事業者の説明義務と書面交付義務4 新電力の一方的な撤退と最終保障供給第6 値上げを争う方法1 規制料金の値上げ認可を取消訴訟で争えるか2 自由料金は契約の問題として争う第7 倒産・未払と電気の供給第8 関連記事第9 出典1 法令2 所管官庁等の資料3 裁判例
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

一般向けの経済解説では,電気は家庭向けの料金に国の認可が要るから値段が崩れない,と説明されることがある。
しかし,平成28年4月の電力小売の全面自由化の後,家庭向けの電気料金には,経済産業大臣の認可を要する「規制料金」と,認可の規制がない「自由料金」とが併存している。
本記事では,両者の違いを条文と所管官庁の資料で確かめたうえで,値上げの手続,規制料金の経過措置がいつまで続くか,値上げを争う方法及び関連する裁判例を整理する。

調査基準日は令和8年9月25日である。
条文は,e-Gov法令検索の現行条文(電気事業法は令和8年8月3日施行分まで反映したもの)で確認した。
平成28年4月の自由化を定めた電気事業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第72号。以下「平成26年改正法」という。)の附則は,電気事業法の改正附則として収録されているものを確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認したものに限っている。
民事再生手続の中での電気料金の扱いは,民事再生手続開始前後の電気料金と敷金――再生債権,共益債権,民事再生法92条3項及び弁済額の計算で扱っている。

2 結論

結論は次のとおりである。

①電気の小売事業は経済産業大臣の登録制であり(電気事業法2条の2),自由料金の設定や値上げに国の認可は要らない。
②経済産業大臣の認可が要るのは,旧一般電気事業者(大手電力会社)の小売部門である「みなし小売電気事業者」が経過措置として提供している規制料金(特定小売供給約款)だけである(平成26年改正法附則18条1項)。
③規制料金の認可は,料金が「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたもの」であること等を基準とする(同条2項1号)ので,値段を支えるための仕組みではなく,値上げの上限を抑えるための仕組みである。
④規制料金は,令和8年9月の調査時点でも全国で存続しており,令和8年6月の電力・ガス取引監視等委員会の会合で,沖縄エリアだけが解除の基準を満たす蓋然性があるとして精査の対象になった。
⑤自由料金の値上げは,契約と約款の問題であり,定型約款であれば民法548条の4の要件と周知が必要になるほか,小売電気事業者には変更内容の説明と書面の交付が義務付けられている。
⑥規制料金の値上げ認可を需要家が取消訴訟で争った裁判例は,裁判所ウェブサイトでは見当たらず,料金の認可について利用者の原告適格を否定した最高裁判決がある一方,託送料金の認可については小売電気事業者の原告適格を認めた裁判例がある。

第2 二つの料金はどう違うか
1 小売電気事業は登録制であり,料金の認可はない

電気事業法2条の2は,「小売電気事業を営もうとする者は、経済産業大臣の登録を受けなければならない。」と定める。
登録を受けた小売電気事業者が家庭に提示する料金について,同法は認可の規定を置いていない。
資源エネルギー庁の「電気料金の改定について(2023年6月実施)」のページも,自由料金は「原則として事業者の裁量で設定されるものであり、認可等の規制はありません。」と説明している。

2 規制料金は経過措置として残されている

資源エネルギー庁の同じページは,小売が全面自由化された後も,「ご家庭等向けの規制料金については、時限的な経過措置として残し、競争状況を見極めてから撤廃することになった」と説明している。
この経過措置の根拠が平成26年改正法の附則である。

平成26年改正法附則16条1項は,みなし小売電気事業者は,当分の間,経済産業大臣が指定する区域(指定旧供給区域)における一般家庭等の需要に応ずる電気の供給(特定小売供給)を,正当な理由がなければ拒んではならないと定める。
同附則18条1項は,みなし小売電気事業者は,この義務を負う間,特定小売供給に係る料金その他の供給条件について,「特定小売供給約款を定め、経済産業大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。」と定める。
つまり,認可が要るのは,みなし小売電気事業者が特定小売供給約款によって行う供給の料金だけである。

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スマホやパソコンを持っているだけでNHKの受信料はかかるか―令和7年10月施行の放送法64条1項2号と「配信の受信開始」の意味(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論第2 受信契約を締結しなければならない者1 放送法64条1項の二つの類型2 世帯で既に受信契約があるとき3 契約の種別と受信料の額第3 「配信の受信を開始した」とはどういう状態か1 受信規約の定義とNHKの義務2 国会答弁3 NHKの運用4 スマホを持っているだけでは足りない理由第4 ワンセグ・カーナビ等の「設置」についての裁判例1 ワンセグ機能付き携帯電話2 ワンセグ放送を受信できるカーナビ3 NHKだけ映らないように加工したテレビ4 裁判例の射程第5 手続,受信料の発生時期,割増金及び解約1 受信契約書の提出期限と契約の成立2 受信料が発生する月3 割増金4 配信の利用をやめたとき5 事業所の場合第6 大法廷平成29年判決との関係と残る論点1 大法廷平成29年判決の合憲判断2 配信への拡大についての政府の説明3 残る論点第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令・受信規約・利用規約2 裁判例3 国会会議録4 NHKの説明
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,テレビを持たずにスマートフォンやパソコンを使っている人が,日本放送協会(以下「NHK」という。)と受信契約を締結しなければならないのはどのような場合かを扱う。
令和7年10月1日に施行された放送法の改正により,NHKのインターネット配信が必須業務となり,NHKの配信の「受信を開始した者」も受信契約の締結義務を負うことになった(放送法64条1項2号)。
本記事では,この規定が何を要件としているのかを,条文,総務大臣の認可を受けた日本放送協会受信規約(以下「受信規約」という。),国会答弁及びワンセグ機能付き携帯電話等をめぐる裁判例によって整理する。

調査基準日は令和8年9月25日である。
放送法の条文はe-Gov法令検索の現行条文(令和7年10月1日施行分まで反映したもの),受信規約はNHKが公表している令和7年10月1日施行のものを確認した。
NHKが公表しているNHKインターネットサービス利用規約(以下「利用規約」という。)は,令和8年4月1日最終改定のもの及び同年10月1日改定予定のものを確認した。
受信料の消滅時効はNHK受信料の消滅時効は5年―最高裁平成26年9月5日判決と大法廷平成29年12月6日判決の起算点で,訪問集金と弁護士法72条の関係はNHK受信料の訪問集金は弁護士法72条違反か―東京地裁令和4年1月24日判決(判タ1508号240頁)ほか東京地裁の判断で扱っている。

2 結論

結論は次のとおりである。

①スマートフォンやパソコンを持っているだけでは,受信契約の締結義務は生じない。
②締結義務が生じるのは,NHKのテレビジョン放送の番組の同時配信・見逃し配信・番組関連情報の配信(ラジオ等を除く。)について,通信端末機器の操作を行って視聴又は閲覧を始めたときである(放送法64条1項2号,受信規約1条3項)。
③同じ世帯で既にテレビについて受信契約を締結しているときは,配信を利用しても新たな契約は要らない(放送法64条2項1号,受信規約2条1項4号)。
④ワンセグ機能付き携帯電話やテレビを受信できるカーナビは,配信ではなく放送の受信設備の問題であり,裁判例は,これらを持つことも「設置」に当たるとして締結義務を認めている。
⑤配信の受信を開始した人は,開始した月の翌々月の末日までに受信契約書を提出する必要があり,正当な理由なく遅れると割増金の対象になり得る(受信規約3条1項,12条2項2号)。
⑥配信の利用をやめても,解約の届出をしてNHKが事実を確認するまでは受信契約は終わらない(受信規約9条)。

第2 受信契約を締結しなければならない者
1 放送法64条1項の二つの類型
(1) 受信設備の設置と配信の受信開始

放送法64条1項は,「次の各号のいずれかに該当する者は、認可契約条項で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない。」と定める。
1号は「特定受信設備を設置した者」,2号は「特定必要的配信の受信を開始した者」である。
改正前の同項は受信設備を設置した者だけを対象にしていたから,2号が令和7年10月1日の施行で加わった部分である。

(2) 特定受信設備

「特定受信設備」とは,NHKの放送を受信することのできる受信設備のうち,放送の受信を目的としない受信設備と,ラジオ放送又は多重放送に限り受信することのできる受信設備を除いたものをいう(放送法64条8項3号)。
テレビのほか,ワンセグ機能付きの携帯電話やカーナビのように放送を受信できる機器がこれに当たるかは,後記第4の裁判例の問題である。

(3) 特定必要的配信

NHKは,放送する全ての番組を放送と同時に配信し,放送した全ての番組を一定期間配信し,番組関連情報を配信する業務を行う(放送法20条1項3号~5号)。
これが必要的配信であり,そのうちラジオ放送,多重放送,国際放送及び協会国際衛星放送の番組等の配信を除いたものが「特定必要的配信」である(同法20条の3第9項)。

(続きを読む...)スマホやパソコンを持っているだけでNHKの受信料はかかるか―令和7年10月施行の放送法64条1項2号と「配信の受信開始」の意味(AI作成)

行政による団体観察と公開情報の集約―結社の自由・プライバシー・SNS監視(AI作成)

目次第1 団体観察と公開情報収集を区別する1 団体規制法の観察処分は特別な制度である2 一般的なSNS監視権限を定めた法律ではない第2 現行団体規制法の入口と限界1 目的・解釈適用・必要最小限性2 観察処分の要件3 報告・調査・立入検査第3 個人の違法行為から団体規制へ進むための橋1 人数割合だけでは足りない2 団体の同一性と現在の必要性第4 公開SNSでも集約により新しい影響が生じる1 公開と無制限利用は同じではない2 一覧化・結合・時系列化・共有3 判例上確認できる範囲第5 行政調査を監査するチェックリスト第6 出典、射程及び未確認範囲
第1 団体観察と公開情報収集を区別する
1 団体規制法の観察処分は特別な制度である

無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(団体規制法)は、団体の活動として役職員又は構成員が無差別大量殺人行為を行った団体について、その活動状況を明らかにし、又は再発を防止するための特別な規制措置を定める法律である。

したがって、過去に構成員が犯罪を犯したというだけで、一般の会社、政治団体、市民団体又は宗教団体を同法上の観察処分に付すことができるわけではない。

2 一般的なSNS監視権限を定めた法律ではない

団体規制法は、あらゆる団体のウェブサイトやSNSを行政が常時監視できるという一般的権限を定めたものではない。通常の公開情報収集、捜査、行政調査、情報公開資料の利用及び同法上の観察処分は、それぞれ根拠、目的、対象、手続及び効果を分けて検討する。

第2 現行団体規制法の入口と限界
1 目的・解釈適用・必要最小限性

団体規制法1条は、国民の生活の平穏を含む公共の安全の確保を目的とする。同法2条は、基本的人権に重大な関係を有するため必要最小限度においてのみ適用し、拡張解釈してはならないとする。同法3条は、規制と調査を目的達成のため必要最小限度に限り、思想、信教、集会、結社、表現等の自由を不当に制限し、又は団体の正当な活動へ介入してはならないと明記する。

2 観察処分の要件

同法5条1項の観察処分は、役職員又は構成員が「団体の活動として」無差別大量殺人行為を行った団体であることを前提とする。その上で、首謀者の影響力、行為関与者又は当時の役員の在籍、殺人を勧める綱領その他の危険性に関する事実のいずれかがあり、活動状況を継続して明らかにする必要があることを要する。期間更新でも、更新時点の要件と必要性を確認しなければならない。

3 報告・調査・立入検査

観察処分を受けた団体には、役職員・構成員、活動施設、資産・負債その他の法定事項に関する報告義務が課される。同法7条は、公安調査庁長官による必要な調査と、特に必要がある場合の土地・建物への立入検査を定める。同法29条以下は調査権、国会報告及び一定の場合の地方公共団体への調査結果提供等を定める。

報告や調査ができるという結論だけでなく、処分要件を満たす団体か、求める情報が活動状況の把握に必要か、対象・期間・利用目的が必要最小限かを個別に確認する。

第3 個人の違法行為から団体規制へ進むための橋
1 人数割合だけでは足りない

複数の構成員に有罪判決があることは重要な事実になり得る。しかし、それだけで、個々の犯罪が団体の活動として行われたこと、団体の意思決定・指示・承認・資金提供等があったこと、現在も危険な要素が残ること、観察の必要性があることまで当然に導かれるわけではない。

実務では、①行為者、②団体内の地位、③意思決定、④指示・承認、⑤資金・設備、⑥広報・事後対応、⑦団体目的との関係、⑧現在の組織・人員・活動への連続性を分けて立証する。

2 団体の同一性と現在の必要性

東京地裁令和6年2月28日判決は、観察処分後に設立された集団が元の団体に含まれるかについて、対内的な帰依・教義の保持、目的実現のための組織構造・修行体系等を具体的に検討した。また、団体規制法5条1項各号と同条4項の更新時の必要性を区別して判断した。

名称、分派又は構成員数だけで同一性を決めず、目的、意思決定、指揮命令、教義・綱領、財産、施設、人員及び活動実態の連続性を確認する必要がある。

第4 公開SNSでも集約により新しい影響が生じる
1 公開と無制限利用は同じではない

ウェブサイトやSNS投稿が公衆に公開されていても、個々の閲覧と、行政がアカウントを網羅的に一覧化し、所属関係を推知し、長期保存し、他機関へ共有することは同じではない。「秘密ではない」という一点だけで、収集方法、結合、保存、利用目的及び活動への萎縮を検討対象から外すべきではない。

2 一覧化・結合・時系列化・共有

公開情報の集約では、①対象アカウントの選定、②本人・団体への帰属の正確性、③交友・組織関係の推知、④過去投稿との時系列化、⑤検索可能性、⑥保存期間、⑦アクセス権限、⑧行政機関間の共有、⑨目的外利用、⑩誤結合の訂正・削除を監査する。

公開情報の集約が常に違法になるという直接の最高裁判例命題を述べるものではない。個別情報が公開されていても、結合・継続把握・共有によって新しい権利制約が生じ得るという分析上の観点である。

影響を受ける主体は、団体と構成員に分けて確認する。構成員と媒体の対応関係が明らかになることは、個人の所属・発信内容だけでなく、団体の組織関係や自律にも関わり得る。情報が誰に関するものかという問題と、誰のどの利益が制約されるかという問題を分ける必要がある。

令和3年司法試験の出題の趣旨の公法系第1問部分及び同年の採点実感第3の1・2も、団体と構成員を区別し、公開媒体の報告による所属等の把握と萎縮効果を検討する視点を示している。これは仮想の法律案に関する試験解説であり、現行法の一般的な情報収集権限や一律の違法性を示すものではない。

(続きを読む...)行政による団体観察と公開情報の集約―結社の自由・プライバシー・SNS監視(AI作成)

NHK受信料の訪問集金は弁護士法72条違反か―東京地裁令和4年1月24日判決(判タ1508号240頁)ほか東京地裁の判断(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論3 確認した裁判例の一覧第2 弁護士法72条と「その他一般の法律事件」1 条文2 条文の趣旨3 「その他一般の法律事件」の考え方第3 訪問集金を弁護士法72条違反でないとした東京地裁の判断1 東京地裁令和4年1月24日判決(判タ1508号240頁)2 東京地裁令和4年1月31日判決3 東京地裁令和4年7月14日判決と同年8月4日判決第4 関連する裁判例と行政の見解1 東京地裁令和3年6月15日判決(集金人おびき寄せ作戦)2 東京地裁令和3年10月28日判決(受信料請求訴訟)3 政府答弁書(令和2年11月17日)第5 判断の枠組みと残る問題1 判決が示した線引き2 判決が判断していないこと第6 受信料を請求された人が知っておくべきこと1 集金人の非弁行為は支払を拒む理由にならない2 払わないままでいた場合の負担3 時効や免除を検討することは正当である4 不払を援助するサービスへの注意第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令・規約2 裁判例3 国会・公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,日本放送協会(以下「NHK」という。)から業務の委託を受けた会社の訪問員が,受信料を滞納している人の自宅を訪ねて支払を求め,受信料を受け取ることが,弁護士法72条の禁止する「非弁行為」に当たるかを扱う。
委託先の訪問員が弁護士でないのに受信料を取り立てるのは非弁行為であるという主張は,国会の質問主意書(第4の3)や,NHKとの訴訟(第3,第4)でも持ち出されてきた。
この主張を正面から取り上げた東京地方裁判所の判決が,令和4年に少なくとも4件あり,いずれも訪問による集金は弁護士法72条に違反しないと判断している。

調査基準日は令和8年9月20日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文で,最高裁判例と東京地裁令和3年6月15日判決は裁判所HPの裁判例検索で確認した。
東京地裁令和4年の4件の判決と東京地裁令和3年10月28日判決は,裁判所HPに掲載されていないため,判例秘書(LLI/DB)で判決の全文を確認した。
これらの判決について控訴審の判断があるかは,裁判所HPと判例秘書の検索では確認できなかった。

受信料の消滅時効は,NHK受信料の消滅時効は5年―最高裁平成26年9月5日判決と大法廷平成29年12月6日判決の起算点で整理している。

2 結論

本記事の結論は,次のとおりである。
①NHKの委託先の訪問員が,受信料の支払を求め,任意に支払われた受信料を受け取ることは,弁護士法72条の「その他一般の法律事件」に関する業務に当たらず,同条に違反しないとするのが,東京地裁の一貫した判断である。
②判決が示した線引きは,受信契約の締結や受信料の支払を「任意の締結や支払を促す範囲」にとどまるかどうかであり,訴えの提起や,その前段階として行う内容証明郵便等による請求といった「法的手続業務」に及べば別の評価になり得る。
③長期間払っていないことや,訪問時に支払を拒んだことだけで,直ちに法的紛議が顕在化したとはいえないとされている。
④したがって,集金に来た人が非弁行為をしているという理由で受信料の支払を免れることはできず,払わないままでいると延滞利息,割増金,支払督促や訴訟の負担が生じ得る。
⑤消滅時効の援用や免除基準への当てはめを検討することは正当であるが,事情を個別に検討しないまま一律に不払を援助するサービスについて,弁護士が懲戒を受けた例がある。

3 確認した裁判例の一覧
裁判例訴えた人と相手結論東京地裁令和4年1月24日判決(判タ1508号240頁)委託先に所属していた元訪問員4名がNHKを訴えた請求棄却。長期未収者への個別訪問による収納業務は「その他一般の法律事件」に当たらない東京地裁令和4年1月31日判決委託会社の元従業員が雇用主の会社を訴えた請求棄却。支払再開を促す業務は弁護士法72条に違反しない東京地裁令和4年7月14日判決訪問を受けた人がNHKを訴えた請求棄却。任意の支払を促す範囲にとどまる業務は同条に違反しない東京地裁令和4年8月4日判決同じ訪問を受けた人が委託会社と代表者を訴えた請求棄却。上記と同じ基準で違反しないとした東京地裁令和3年6月15日判決NHKが政党とその代表者らを訴えた330万円の賠償を命じた。職員の集金が同条に違反するとの指摘は「それ自体失当」
第2 弁護士法72条と「その他一般の法律事件」
1 条文

弁護士法72条本文は,「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と定めている。
違反した者は,同法77条3号により処罰される。

2 条文の趣旨

最高裁判所大法廷昭和46年7月14日判決(昭和44年(あ)第1124号,刑集25巻5号690頁)は,弁護士でない者が報酬を得る目的で業として法律事務を取り扱うことを禁止した規定であるとし,その趣旨を,みだりに他人の法律事件に介入することを業とする行為を放置すると,当事者その他の関係人らの利益を損ね,法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げ,ひいては法律秩序を害することにあるとした。
最高裁判所第一小法廷平成29年7月24日判決(平成28年(受)第1463号,民集71巻6号969頁)も,同じ趣旨を述べている。
本記事で取り上げる東京地裁の判決も,これらの最高裁判例を引用して検討を始めている。

3 「その他一般の法律事件」の考え方

最高裁判所第一小法廷平成22年7月20日決定(平成21年(あ)第1946号,刑集64巻5号793頁)は,ビルの賃借人らと交渉して立ち退かせる業務について,「立ち退き合意の成否,立ち退きの時期,立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり,弁護士法72条にいう『その他一般の法律事件』に関するものであったというべきである。」と判断した。

(続きを読む...)NHK受信料の訪問集金は弁護士法72条違反か―東京地裁令和4年1月24日判決(判タ1508号240頁)ほか東京地裁の判断(AI作成)

結婚式場のキャンセル料はどこまで払う必要があるか―消費者契約法9条の「平均的な損害」と裁判例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と要点1 対象と基準日2 要点第2 申込み・「仮予約」で契約は成立するか1 東京地方裁判所平成17年9月9日判決の事案2 契約の成立についての判断第3 消費者契約法9条による制限1 条文2 平均的な損害の意味と立証責任3 逐条解説にある結婚式場の設例4 東京地方裁判所平成17年9月9日判決の9条1号の判断第4 適格消費者団体による差止訴訟(京都の2件と神戸・大阪の1件)1 差止請求の仕組みとKCCNの取組み2 ベストブライダル事件3 Plan・Do・See事件4 2件から読み取れること5 神戸地裁令和7年・大阪高裁令和8年判決の公表要旨第5 新型コロナウイルス感染症による解約1 名古屋地方裁判所令和4年2月25日判決の事案2 判決の判断3 この判決の位置付け第6 特定商取引法・割賦販売法との関係1 特定商取引法の特定継続的役務には当たらない2 互助会の積立で挙式する場合第7 実務上の対応1 申込金を払う前に確認すること2 解約するとき3 式場側がキャンセル規定を作るときの注意第8 関連記事第9 出典
第1 この記事の対象と要点
1 対象と基準日

本記事は,結婚式場・披露宴会場を予約し,申込金を支払った後に解約を考えている方,式場側でキャンセル規定を作る事業者及び相談を受ける弁護士を対象に,キャンセル料をどこまで支払う必要があるかを整理するものである。
基準日は令和8年9月20日であり,法令の条文はe-Gov法令検索で同日に確認した現行の本文による。第4の神戸地裁・大阪高裁判決の公表要旨とBIA改訂モデル約款については,令和8年10月1日に追記した。
従来記載した裁判例は,裁判所ウェブサイトに掲載された判決の全文,判例秘書(LLI/DB)の判決全文及び適格消費者団体である特定非営利活動法人京都消費者契約ネットワーク(以下「KCCN」という。)がウェブサイトで公開している判決書等の写しに基づく。追記した神戸地裁・大阪高裁判決は消費者庁の公表要旨に基づき,判決全文は未確認である。

飲食店の無断キャンセル(ノーショー)については無断キャンセルのキャンセル料と平均的な損害で,格安プランの広告表示の問題については格安葬儀の広告と見積もりの記事で扱っているので,本記事では取り上げない。

2 要点

①申込書を出して申込金を払えば,料理や衣装の内容と金額が決まっていなくても,挙式・披露宴の日時と会場が決まった時点で契約が成立したとされることがある(東京地方裁判所平成17年9月9日判決)。
②キャンセル料の条項は,消費者契約法9条1項1号により,同じ時期区分で解約した場合に式場に生ずべき「平均的な損害」を超える部分が無効となる。
③ただし,平均的な損害を超えることの主張立証責任は,基本的に消費者側にあるとされている(最高裁平成18年11月27日判決)。
④挙式の1年以上前の解約で申込金の返還を認めた裁判例がある一方,時期に応じて段階的に上がるキャンセル料条項の差止めを適格消費者団体が求めた京都の2件と,神戸地裁令和7年・大阪高裁令和8年判決の公表要旨では,いずれも団体の請求は認められていない。ただし,時期区分と再販実績等の検討を省けるわけではない。
⑤新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言の翌日にされた解約について,取消料条項の適用自体を否定した判決がある(名古屋地方裁判所令和4年2月25日判決)が,これは消費者契約法9条1項1号を判断したものではない。
⑥結婚式は特定商取引法の特定継続的役務に当たらないので,同法の中途解約の規定は使えない。

第2 申込み・「仮予約」で契約は成立するか
1 東京地方裁判所平成17年9月9日判決の事案
(1) 予約から6日後の解除

この判決は,東京簡易裁判所の判決(平成16年(ハ)第9186号)に対する控訴審として東京地方裁判所が言い渡したものである(平成17年(レ)第67号,判例時報1948号96頁,裁判所ウェブサイトに掲載)。
消費者は,平成16年5月8日に式場を訪れ,平成17年5月28日(約1年後)の挙式・披露宴を申し込んで申込金10万円を支払ったが,その6日後の平成16年5月14日に予約を解除し,申込金の返還を求めた。
申込書の裏面には,申込日から挙式等の90日前までに取り消した場合には,実費総額に加えて取消料として申込金10万円を支払う旨の条項があった。

(2) 第一審は請求棄却,控訴審で9条1号の主張を追加

消費者は,第一審では契約が成立していないこと及び取消料条項が消費者契約法10条に反することを主張したが,請求は棄却された。
控訴審で,取消料条項が同法9条1号に違反して無効であるとの主張を追加し,これが認められて原判決が取り消され,10万円の返還が命じられた。

2 契約の成立についての判断
(1) 重要部分が決まれば契約は成立する

消費者は,料理,引出物,サービス等の内容と対価が確定していない以上,契約は成立していないと主張した。
判決は,「契約の成立に当たっては契約内容の全てが確定している必要はなく、契約の重要部分が確定していれば契約は有効に成立すると解するのが相当である」とした。
その上で,結婚式・披露宴の契約では,「特定の日時及び会場において、結婚式という儀式及び結婚の披露宴を開催するというサービスを提供することが、その契約の重要な部分であると解すべきである」として,日時と会場が合意で確定した予約の時点で契約の成立を認めた。

(2) 「仮予約」という呼び方との関係

この判決で問題となったのは,申込書を提出して申込金を支払った「予約」であり,「仮予約」という言葉の意味を判断したものではない。

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冠婚葬祭互助会の解約手数料はいくらまで有効か―消費者契約法9条,特定商取引法10条及び裁判例(AI作成)

目次第1 この記事の対象と要点第2 互助会の法的性格1 割賦販売法の前払式特定取引2 経済産業大臣の許可制と解約手数料の位置付け第3 消費者契約法による解約手数料の規律1 9条1項1号の「平均的な損害」2 適格消費者団体の差止請求と説明要請3 他の法律に別段の定めがある場合第4 訪問販売で入会した場合1 特定商取引法10条1項4号による上限2 クーリング・オフの可否第5 互助会の解約手数料に関する裁判例1 京都地方裁判所平成23年12月13日判決2 大阪高等裁判所平成25年1月25日判決3 福岡地方裁判所平成26年11月19日判決と福岡高等裁判所平成27年11月5日判決4 佐賀地方裁判所令和元年6月14日判決と福岡高等裁判所令和2年5月27日判決第6 平均的な損害の3つの算定方法1 算定方法の比較2 福岡高裁の2件が逆の結論になった理由第7 解約を考えたときの実務1 解約の申出の前に確認すること2 会員の死亡後に相続人が解約する場合3 説明の求め方と相談先第8 関連記事第9 出典1 法令2 裁判例3 所管行政機関の解説・公表資料
第1 この記事の対象と要点

この記事は,冠婚葬祭互助会(以下「互助会」という。)の会員が積立金を解約したときに差し引かれる解約手数料について,どこまでが有効で,どこからが無効になり得るかを,法令と裁判例から整理するものである。
会員本人のほか,親が積み立てていた互助会を相続人が解約する場面や,相談を受ける弁護士を想定している。
記事の基準日は令和8年9月20日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により確認した。

要点は次のとおりである。
①互助会の契約は割賦販売法の「前払式特定取引」であり,事業者は経済産業大臣の許可を受けているが,同法には解約手数料の上限を定める民事上の規定がない。
②そのため,解約手数料の効力は,主に消費者契約法9条1項1号(平均的な損害を超える部分は無効)で判断される。
③訪問販売で入会した場合には,特定商取引法10条1項4号(契約の締結及び履行のために通常要する費用の額が上限)が消費者契約法に優先して適用されるとした高等裁判所の判決がある。
④適格消費者団体による差止訴訟の結論は分かれており,特に福岡高等裁判所の2件は,会員募集の費用を平均的な損害に入れるかどうかで逆の結論になった。
⑤解約を申し出る前に,入会の経緯(訪問か店舗か),約款の手数料表,払込回数及び施行の請求をしたかどうかを確認することが重要である。

裁判例は,事業者ごとの約款と費用の証拠に基づいて平均的な損害を算定したものであり,判決に示された金額がそのまま他の互助会に当てはまるわけではない。
本記事の試算や当てはめは,個別の事案の結論を示すものではない。

第2 互助会の法的性格
1 割賦販売法の前払式特定取引
(1) 前払式特定取引の定義

互助会の契約は,割賦販売法2条6項の「前払式特定取引」に当たる。
同項は,「この法律において「前払式特定取引」とは、次の各号に掲げる取引で、当該各号に定める者に対する商品の引渡し又は政令で定める役務(以下この項、第三十五条の三の六十一、第三十五条の三の六十二、第四十一条及び第四十一条の二において「指定役務」という。)の提供に先立つてその者から当該商品の代金又は当該指定役務の対価の全部又は一部を二月以上の期間にわたり、かつ、三回以上に分割して受領するものをいう。」と定め,同項2号は「指定役務の提供又は指定役務の提供をすること若しくは指定役務の提供を受けることの取次ぎ」を掲げている。
つまり,冠婚葬祭のサービスを受ける前に,その対価を2か月以上・3回以上に分けて払い込む仕組みが前払式特定取引である。

(2) 指定役務としての婚礼と葬式

割賦販売法施行令1条4項は,「法第二条第六項の政令で定める役務は、別表第二に掲げる役務とする。」と定める。
同令別表第二は,第1号で「婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供、衣服の貸与その他の便益の提供及びこれに附随する物品の給付」を,第2号で「葬式のための祭壇の貸与その他の便益の提供及びこれに附随する物品の給付」を掲げている。
互助会の「冠」(婚礼)と「葬」(葬式)の役務は,いずれもこの別表第二の指定役務に当たる。

2 経済産業大臣の許可制と解約手数料の位置付け
(1) 許可制

割賦販売法35条の3の61は,「前払式特定取引は、経済産業大臣の許可を受けた者でなければ、業として営んではならない。」と定める(同条ただし書の例外を除く。)。
互助会は,この許可を受けて営業している。

(2) 解約手数料の上限を定める民事上の規定がないこと

割賦販売法6条1項は,割賦販売の方法による契約が解除された場合の損害賠償等の額を制限しており,同項3号は,役務の提供の開始前に解除された場合について,「契約の締結及び履行のために通常要する費用の額」を上限としている。
しかし,京都地方裁判所平成23年12月13日判決は,同号は前払式特定取引には適用されず,類推適用する基礎も欠くと判断した。

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格安葬儀の広告と葬儀社とのトラブル―景品表示法の処分例,クーリング・オフの可否,消費者契約法及び裁判例(AI作成)

目次第1 本記事の対象と基準日第2 金宝堂に対する措置命令(令和8年9月18日)1 命令の対象となった表示と実際の価格2 CM画面の注記と命令の内容第3 葬儀業者に対する景品表示法の処分の系譜1 平成29年から令和8年までの7件2 処分例に共通する表示の型第4 打消し表示についての消費者庁の考え方1 動画広告の打消し表示2 追加料金型の打消し表示第5 国民生活センターの相談統計と事例1 相談件数と相談内容2 公表された3つの事例3 国民生活センターの助言第6 相談を受けたときの法的構成1 クーリング・オフは原則として使えない2 消費者契約法による取消し3 キャンセル料の一部無効4 景品表示法違反と被害者個人の請求第7 葬儀社と遺族の紛争に関する裁判例1 契約の当事者は誰か2 契約前の搬送と困惑による取消し3 生活保護葬での意向確認と慰謝料4 葬儀費用の最終的な負担者第8 Googleマップの口コミの見方第9 互助会の解約と結婚式場のキャンセル料との違い第10 実務のチェックリスト1 葬儀社を決める前2 契約後にトラブルになったとき第11 関連記事第12 出典1 法令・告示2 裁判例3 行政処分(消費者庁の報道発表)4 所管行政機関の資料・Q&A5 統計・相談事例
第1 本記事の対象と基準日

本記事は,テレビCM,インターネット広告,チラシ等に表示された低価格の葬儀プランを見て葬儀社に依頼したところ,見積額や請求額が広告の価格を大きく上回ったという場面を扱う。
想定する読者は,葬儀の見積もりや請求に納得できない遺族と,死後事務や相続の相談の中でこの種の相談を受ける弁護士である。

まず,令和8年9月18日に消費者庁が株式会社金宝堂に対して行った措置命令と,平成29年以降に葬儀業者に対して行われた景品表示法の処分例を,消費者庁の公表資料に基づいて整理する。
次に,国民生活センターが公表した相談統計と事例を確認した上で,相談を受けたときに検討する法律(特定商取引法,消費者契約法,民法及び景品表示法)と,葬儀社と遺族の間の裁判例を取り上げる。

本記事の基準日は令和8年9月20日である。
条文はe-Gov法令検索で基準日時点の現行条文を確認した。
個別の事業者名は,消費者庁が公表した処分の対象となった事業者に限って記載する。
取り上げる下級審の裁判例は,いずれも個別の事案についての判断であり,同種の事案で同じ結論になることを保証するものではない。

第2 金宝堂に対する措置命令(令和8年9月18日)
1 命令の対象となった表示と実際の価格
(1) テレビCMの表示

消費者庁は,令和8年9月18日,株式会社金宝堂(東京都渋谷区)に対し,景品表示法7条1項に基づく措置命令(消表対第807号)を行った。
違反とされたのは,価格その他の取引条件についての有利誤認表示を禁止する同法5条2号である。
対象は,「小さな森の家」という屋号で提供する「貸切ホールを用いる家族葬に係る葬儀サービス」であり,表示媒体は地上波放送のテレビCMである。
表示期間は,令和7年3月1日から同年5月31日までのうちの一部の期間である。

CMでは,花飾りを背景に,「1日1組限定」との音声と共に「1日1組 貸切ホール」との文字,「選べるホールがこんなに」との音声と共に「えらべるホールがこんなに」との文字が映され,続いて「お得なプランがこの価格から」との音声と共に「家族葬 10.45万円~ (税込)」との文字が映された。
消費者庁は,これにより,あたかも貸切ホールを用いる家族葬が「最低料金として10万4500円で提供されるかのように表示していた」と認定した。

(2) 実際の最低額と報道の「約3倍」

これに対し,実際には,貸切ホールを用いる家族葬の提供を受けるには,「僅かな場合を除き,30万8000円以上の費用が必要であった」と認定されている。
一部の報道はこれを「約3倍」と伝えたが,30万8000円を10万4500円で割ると約2.95倍であり,「約3倍」は丸めた表現である。
消費者庁の発表資料及び命令書には「3倍」という語はない。

2 CM画面の注記と命令の内容
(1) 別紙の画像に写る注記

消費者庁の発表資料の別紙には,CMの画面が画像で添付されている(PDF7頁)。
その画像を見ると,「家族葬 10.45万円~」の画面の下部に,小さな文字で,「会員割引適用価格」,「こちらの料金は火葬式プランになります。」,「10.45万円のプランはお付き添い面会はできません。」,「火葬料金は別途お客様負担になります。」,「事前に資料請求と会員登録が必要です。」,「資料請求・会員登録・年会費無料」という注記が表示されている。
この読み取りは,本記事が別紙の画像から行ったものであり,消費者庁が命令書の中で認定した事実ではない。
命令書の本文は注記に言及しておらず,注記が付されていても,表示全体として5条2号に当たると判断されたものと考えられる。

画像の注記によれば,10.45万円は火葬式プランの会員割引価格であり,CMが音声と映像で強調していた「貸切ホール」の家族葬の価格ではなかったと読める。

(続きを読む...)格安葬儀の広告と葬儀社とのトラブル―景品表示法の処分例,クーリング・オフの可否,消費者契約法及び裁判例(AI作成)

NHK受信料の消滅時効は5年―最高裁平成26年9月5日判決と大法廷平成29年12月6日判決の起算点(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論1 本記事の対象2 結論3 用語第2 受信契約と受信料債権の仕組み1 放送法64条(現行)2 条文の変遷第3 受信料債権の時効期間1 最高裁平成26年9月5日判決2 最高裁平成30年7月17日判決3 改正後民法の下での時効期間第4 受信契約を締結していない場合の起算点1 受信契約はいつ成立するか2 時効は契約成立時から進行する3 反対意見と補足意見第5 割増金と延滞利息1 割増金2 延滞利息第6 時効の援用と注意点1 援用の方法2 計算例3 時効完成後に支払った場合4 判決や支払督促で確定した場合5 受信料を払わなくてよいという主張やサービスへの注意第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 公的資料
第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象

本記事は,日本放送協会(以下「NHK」という。)の受信料の支払を求められた人が,古い期間の受信料について消滅時効を主張できるかを扱う。
中心となるのは,受信料債権の時効期間を5年とした最高裁判所第二小法廷平成26年9月5日判決(平成25年(受)第2024号,集民247号159頁)と,受信契約を締結していない人について時効の起算点を契約成立時とした最高裁判所大法廷平成29年12月6日判決(平成26年(オ)第1130号等,民集71巻10号1817頁)である。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索の現行条文と過去時点の条文で,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で確認した。
第5の2の付則の記載と第6の5は,令和8年9月20日に追記した。

消滅時効全体の見取り図は,消滅時効に関するメモ書きで整理している。

2 結論

NHK受信料の消滅時効についての結論は,次のとおりである。
①受信契約を締結している人の受信料債権は,各期の支払期日から5年で時効が完成する(平成26年判決。改正前民法169条)。
②令和2年4月1日以後の受信料についても時効期間は5年であるが,根拠条文は受信契約の締結時期によって異なり,施行日前に締結された受信契約に基づく受信料には改正前民法169条が,施行日以後に締結された受信契約に基づく受信料には改正後民法166条1項が適用されると考えられる。
③受信契約全体について第1回の弁済期から20年とする定期金債権の時効(改正前民法168条1項前段)は適用されないから,長年払っていなくても将来の受信料の支払義務まで消えることはない(最高裁平成30年7月17日判決)。
④受信設備を設置しながら受信契約を締結していない人については,NHKが承諾の意思表示を命ずる判決を得てその判決が確定した時に受信契約が成立し,設置の月以降の受信料債権が発生するが,その時効は契約成立時から進行するから,何年前に設置した分であっても,契約成立の時から時効期間が経過するまでは時効を主張できない(大法廷平成29年判決)。
⑤時効は援用しなければ効果が生じないから(民法145条),時効が完成した期間の受信料の支払を拒むには,NHKに対して援用の意思表示をする必要がある。

つまり,契約済みで支払を滞納している人は5年より前の分について時効を援用できるが,契約をしていない人は,判決で契約が成立させられた場合には設置の月まで遡って支払を命じられ得ることになる。

3 用語

本記事で「改正前民法」とは,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による改正前の民法をいい,同法の施行日は令和2年4月1日である。
「受信契約」とは,NHKの放送又は配信の受信についての契約をいう(放送法64条8項1号)。
改正前民法169条は定期給付債権の5年の短期消滅時効を定めた規定であり,判決で確定した権利の時効期間を10年とする現行169条とは内容がまったく異なる。

第2 受信契約と受信料債権の仕組み
1 放送法64条(現行)

現行の放送法64条1項は,「次の各号のいずれかに該当する者は、認可契約条項で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない。」と定め,1号で「特定受信設備を設置した者」,2号で「特定必要的配信の受信を開始した者」を掲げる。
「特定受信設備」とは,NHKの放送を受信することのできる受信設備であって,放送の受信を目的としない受信設備と,ラジオ放送又は多重放送に限り受信することのできる受信設備を除いたものをいう(同条8項3号)。
同条5項は,受信契約の条項についてNHKが総務大臣の認可を受けなければならないとし,その記載事項として,受信料の支払の時期及び方法(3号)や,不正な手段により受信料の支払を免れた場合等の割増金(4号)を掲げる。

放送法は,受信料の支払義務そのものを直接定めてはいない。
受信料の支払義務は,放送法64条1項に基づいて締結される受信契約から生じる。
この構造が,後に見る時効の起算点の考え方に直結する。

2 条文の変遷

平成29年判決の当時の放送法64条1項は,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と定めていた(e-Gov法令検索で平成29年12月6日時点の条文を確認)。

(続きを読む...)NHK受信料の消滅時効は5年―最高裁平成26年9月5日判決と大法廷平成29年12月6日判決の起算点(AI作成)

医療機関が破産・閉院した場合のカルテ等の保存・開示・廃棄―破産管財人と元管理者の実務(AI作成)

目次

第1 結論―保存,開示,診療継続及び廃棄を分けて設計する
第2 最初の72時間に行うこと
第3 誰が記録を保存し,誰が開示に対応するか
第4 記録ごとの保存期間と起算点
第5 紙カルテと電子カルテの外部保存
第6 患者の転院と診療情報の開示
第7 実務上考えられる四つの運用モデル
第8 保存期間満了後の廃棄
第9 破産管財人の時系列チェックリスト
第10 判例秘書の検索結果と未確認事項
第11 関連記事
第12 出典

第1 結論―保存,開示,診療継続及び廃棄を分けて設計する

本記事は,令和8年9月18日現在の法令及び公的資料に基づき,医療法人,一般財団法人又は個人診療所が破産又は閉院する場合の診療録,電子カルテ,画像,健診記録等の取扱いを整理するものである。

法令・通知で確認できることとして,勤務医が作成した診療録は病院又は診療所の管理者が5年間保存し,厚生労働省は,病院又は診療所が廃止された場合には,通常は廃止時点の管理者が保存するのが適当であるとしている。また,患者等から診療録の開示を求められた場合,原則として応じる必要があるとの行政上の整理が示されている。

本記事の実務上の提案は,①記録を失わないための保全,②現在患者の診療継続,③本人又は遺族からの開示依頼,④保存期間満了後の廃棄を一つの問題として扱わず,責任者,連絡先,費用及び終了条件をそれぞれ決めることである。

未確認事項として,医療機関の破産管財人が,破産手続開始だけによって医師法24条2項上の「管理者」又はその公法上の保存義務を当然に承継すると明記した法令・最高裁判例は,今回確認した範囲では見当たらない。もっとも,破産財団に属するサーバー,紙記録及び契約を管理処分する権限は管財人に専属するため,管財人が記録の消失を防ぎ,元管理者,保健所,電子カルテ事業者等との実施体制を作る必要性は高い。裁判所職員総合研修所の研究報告書も,管財人が破産財団の費用で記録を保管し,保存期間経過後に処分する実務を記載するにとどまり,管理者の地位の承継には触れていない(第10参照)。

第2 最初の72時間に行うこと
1 削除,返却,解約及び上書きを止める

まず,電子カルテ,画像管理システム,検査機器,クラウド,バックアップ媒体及びリース物件について,自動削除,アカウント停止,機器返却,初期化及び契約終了の日を確認する。ベンダーやリース会社には,記録保全のために処分を一時停止する対象と期間を明確に伝える。紙への一括印刷を先行させると,画像原データ,波形,更新履歴,監査ログ,添付ファイル又は検索情報を失うおそれがあるため,まず原データの保全可能性を確認する。

2 現在患者と未処理検査を優先する

治療継続中の患者,結果説明前の検査,予約済みの処置及び紹介状未作成の患者を抽出し,転院先への診療情報提供を優先する。単にカルテを保存しても,現在進行中の診療上の危険が解消されるわけではない。緊急性,連絡結果,提供資料及び未了事項を患者ごとに記録する。

3 記録台帳を作る

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ブログ・裁判官経歴データベースと個人情報保護法57条-報道・著述の適用除外,名簿との違い及び苦情処理

第1 この記事の対象と結論
第2 「正当性」を判断する三つの層
第3 個人情報保護法57条の枠組み

1 主体と目的の組合せで判断する
2 著述と名簿の違い
3 名簿的画面にも適用除外が及ぶという本ブログの立場
4 一覧表示と「報道」該当性

第4 本ブログの正当性を支える事情

1 裁判官人事は公共性の高い情報である
2 散在する一次資料を追跡可能な形で整理している
3 継続性と網羅性が制度理解に寄与している
4 一覧・検索機能は記事を読むための編集基盤でもある
5 外部評価と実際の利用が確認できる

第5 正当性を維持するための限界設定

1 掲載対象を公務・司法制度との関係に限定する
2 出典・正確性・事実評価の区別を確認する

第6 苦情・訂正・削除等の申出

1 苦情等を受け付ける基本姿勢

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消費者契約法はどう変わろうとしているのか-令和8年9月中間取りまとめの要点(AI作成)

目次第1 中間取りまとめの位置付けと結論1 令和8年9月時点では現行法ではない2 検討されている変更の全体像第2 消費者の多様な脆弱性を基礎とする制度1 現行法の目的及び定義との違い2 脆弱性は一部の人だけの固定的属性ではない3 配慮規定,指針及び官民協議会第3 深刻な結果をもたらす契約からの解放1 従来の不当勧誘とは異なる救済の構想2 対象契約と要件は確定していない第4 継続的契約の解約妨害と自動更新1 相談件数と規律の対象2 一般的な中途解約権を新設する提案ではない3 禁止が検討される解約妨害4 禁止違反の効果と差止請求5 合理的な離脱方法と情報提供6 自動更新前の通知第5 定型約款の変更と契約者死亡時の対応1 重要な不利益変更の個別通知2 契約者が死亡した場合の対応手順第6 解約料と消費者契約法9条1 現行法の平均的な損害という基準2 9条1項1号は今回は見直さない方向3 説明に関する既存制度の拡充第7 消費者と事業者が現時点で確認できること1 消費者は現行法上の権利を先に確認する2 事業者は解約経路と変更通知を点検できる3 制度化までの四つの段階を区別する第8 今後の手続1 パブリックコメント2 最終取りまとめ,法律案及び施行日第9 関連記事第10 出典・参考資料1 法令2 所管行政機関の検討会資料3 所管行政機関の説明
第1 中間取りまとめの位置付けと結論
1 令和8年9月時点では現行法ではない

本記事は,消費者庁の「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会」が令和8年9月10日に公表した中間取りまとめについて,現行法との違いと今後の検討事項を整理するものである。
法令及び公表資料の確認基準日は令和8年9月15日であり,同日現在,中間取りまとめは改正法,法律案又は確定した施行内容ではない。

検討会は令和7年11月から9回,その下のワーキンググループは8回開催され,中間取りまとめ後も制度の具体化を続ける予定である。
消費者庁長官は令和8年9月10日の記者会見で,準備が整い次第パブリックコメントを実施する予定である一方,最終取りまとめの時期は未定であり,令和9年の通常国会への法案提出も断言できないと説明した。

2 検討されている変更の全体像

中間取りまとめの主要点は,①全ての消費者が有し得る多様な脆弱性を制度の基礎に置くこと,②深刻な結果をもたらす契約から消費者を解放する新たな仕組みを検討すること,③継続的契約における解約妨害,自動更新,契約変更及び契約者死亡時の対応を整備すること,④消費者契約法9条1項1号の解約料規制は今回は見直さず,説明に関する制度を拡充することである。
もっとも,規律の対象,要件,法的効果及び例外が未確定の項目は多く,中間取りまとめだけから個別の契約を解除し,又は事業者の責任を確定することはできない。

第2 消費者の多様な脆弱性を基礎とする制度
1 現行法の目的及び定義との違い
(1) 情報・交渉力の格差を基礎とする現行法

現行の消費者契約法1条は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み,不当な勧誘による意思表示の取消し,不当条項の無効及び適格消費者団体による差止請求等によって消費者の利益を擁護することを目的としている。
同法2条1項は,事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く個人を「消費者」と定義している。

(2) 目的規定を広げ,消費者の定義は維持する方向

中間取りまとめは,情報・交渉力の格差の是正に加え,消費者ならば誰しも多様な脆弱性を有するという認識と,関係主体の連携によって安心・安全に取引できる環境を形成するという要素を,目的規定に加える方向を示した。
他方で,「消費者」の定義自体は変更しない方向であり,年齢,障害又は認知機能等によって保護対象となる消費者を限定する提案ではない。

2 脆弱性は一部の人だけの固定的属性ではない
(1) 全ての消費者が有し得る状態

中間取りまとめがいう「消費者の脆弱性」は,消費者の力を弱め,又は危害にさらされやすくする状態であり,他者又は環境との関係によって多様に変化するものと整理されている。
したがって,高齢,若年,障害又は認知機能の低下のような属性だけでなく,情報過多,心理状態,時間的圧迫,取引環境及び相手方との関係等によって,誰にでも生じ得る状態を対象としている。

(2) 判断過程と契約結果の双方への着目

検討の対象は,消費者が契約を締結するか否かを適切に判断できるかという過程だけではない。
契約内容が消費者の生活又は財産に深刻な結果をもたらさないかという結果にも着目し,契約の締結,履行,継続及び終了の各段階を通じた対応が検討されている。

3 配慮規定,指針及び官民協議会
(1) 事業者の配慮を促進する規定

中間取りまとめは,事業者が,取引条件その他の事情に応じて,消費者の適切な判断の確保と契約締結によって生じる結果に配慮することを促進する仕組みを設ける方向を示した。
この規律は,特定の行為だけを禁止する民事ルールではなく,広い取引分野で行動を促すプリンシプルとして構想されている。

(2) 指針による具体化と官民の協議

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無断キャンセル(ノーショー)のキャンセル料はいくらまで請求できるか――消費者契約法9条の「平均的な損害」と裁判例(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と結論
第2 無断キャンセルで損害賠償を請求できる根拠

1 予約による契約の成立
2 無断キャンセルと契約の「解除」

第3 キャンセル料の上限――消費者契約法9条1項1号

1 条文と適用される場面
2 平均的な損害の意味と主張立証責任
3 解除の時期による違い
4 算定根拠の説明(9条2項)

第4 飲食店のパーティー予約についての裁判例

1 東京地裁平成14年3月25日判決の事案
2 判決の判断
3 この判決から読み取れること

第5 No showレポートが示す損害の考え方

1 レポートの位置付けと損害の規模
2 コース予約と席のみの予約
3 事前のキャンセルと無断キャンセルの違い

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個人情報漏えいの慰謝料はいくらか―ベネッセ事件最高裁判決と裁判例の認容額(AI作成)

目次第1 本記事の対象と結論の要旨1 本記事が扱う場面2 結論の要旨第2 最高裁平成29年10月23日判決1 事案2 判断3 判決が決めていないこと第3 裁判例の認容額1 認容額の一覧2 ベネッセ事件3 Yahoo! BB事件(1人6000円又は5500円)4 宇治市の住民基本台帳データの流出(1人1万5000円)5 大学の講演会名簿の提出(1人5000円又は1万円)6 エステティックサロンのアンケート回答の流出(1人3万5000円)7 市の職員が職務上知った情報を漏らした例(5万円)8 高額の慰謝料が認められた例(110万円・165万円)第4 金額を左右する事情1 情報の内容と秘匿性2 流出の範囲と実害3 事業者の事後の対応4 弁護士費用と実費第5 請求の根拠と期間制限1 不法行為と委託先の従業員による持ち出し2 個人情報保護法の報告と本人通知3 消滅時効第6 法律事務所から漏えいした場合第7 関連記事第8 出典・参考資料1 法令2 裁判例(裁判所HP掲載)3 裁判例(裁判所HP未掲載)
第1 本記事の対象と結論の要旨
1 本記事が扱う場面

本記事は,事業者や自治体が管理していた個人情報が外部に漏えいした場合に,漏えいした本人が慰謝料を請求できるか,認められるとしていくらかを,最高裁平成29年10月23日判決と,裁判所HP及び判例秘書で確認した裁判例の認容額に沿って説明するものである。
漏えいを起こした事業者の側から見れば,本人から損害賠償を求められたときの見通しの問題でもある。
本記事の記載は,令和8年9月13日時点で確認できた法令及び裁判例に基づく。

2 結論の要旨

①氏名,住所及び電話番号のような基本的な情報であっても,プライバシーに係る情報として法的保護の対象となり,漏えいによってプライバシーが侵害されたといえる(最高裁平成29年10月23日判決)。
②同判決は,迷惑行為や財産的損害のような「不快感や不安を超える損害」の主張・立証がないことだけを理由に,請求を棄却することはできないとした。
③本記事で確認した裁判例では,氏名や住所等の基本的な情報が漏えいし,実害が確認されていない事案の認容額は,弁護士費用を含めて1人当たり1000円から1万5000円であり,ベネッセ事件では1000円から4000円であった。
④エステティックサロンのアンケートの回答のように,氏名や住所だけの場合より秘匿の必要性が高い情報がインターネット上に広く流布した事案では,1人3万5000円が認められている。
⑤DVの被害者の住所のように生命身体の安全に関わる情報が伝わり,重大な結果が生じた事案では慰謝料100万円が,HIV感染という病歴を病院が採用判断に流用した事案では内定取消しと合わせて慰謝料150万円が認められている。
⑥事業者が謝罪し,500円相当の金券等を送り,再発防止策を講じたことは,額を抑える方向の事情として考慮され,又は損害の一部弁済として差し引かれているが,それだけで請求が否定されるわけではない。
⑦請求の根拠は民法の不法行為(709条・715条・719条)であり,自治体に対しては国家賠償法1条も根拠となる。
不法行為による損害賠償の請求権は,損害及び加害者を知った時から3年で時効にかかる(民法724条1号)。

第2 最高裁平成29年10月23日判決
1 事案

通信教育等を目的とする会社(ベネッセコーポレーション)が管理していた子の氏名,性別,生年月日,郵便番号,住所及び電話番号並びに保護者の氏名が,遅くとも平成26年6月下旬頃までに外部に漏えいした。
漏えいは,同社のシステムの開発,運用を行っていた会社の業務委託先の従業員であった者が,同社のデータベースから大量の個人情報を不正に持ち出し,複数の名簿業者に売却したことによるものであった。
保護者が同社に慰謝料を請求したが,原審の大阪高等裁判所は,迷惑行為を受けているとか財産的な損害を被ったなど,「不快感や不安を超える損害を被ったことについての主張,立証がされていない」として,請求を棄却すべきものとした。

2 判断

最高裁は,漏えいした個人情報は「上告人のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべき」であるとし,漏えいによって上告人はプライバシーを侵害されたといえるとした。
その上で,原審が「精神的損害の有無及びその程度等について十分に審理することなく」,不快感等を超える損害の発生についての主張・立証がないことのみから直ちに請求を棄却すべきものとしたことは違法であるとして,原判決を破棄し,事件を大阪高等裁判所に差し戻した。

同判決が参照した最高裁平成15年9月12日判決は,大学が講演会の参加申込者の学籍番号,氏名,住所及び電話番号を記載した名簿を無断で警察に提出した事案で,これらの情報は参加申込者のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるとし,無断での開示は不法行為を構成するとしたものである。

3 判決が決めていないこと

同判決は,慰謝料の額を示しておらず,事業者の過失の有無と精神的損害の有無及びその程度について,さらに審理を尽くさせるために差し戻している。
したがって,同判決からいえるのは,基本的な個人情報の漏えいでも慰謝料の請求が直ちに否定されるわけではないということであり,どの程度の額が認められるかは,下級審の裁判例を見る必要がある。

第3 裁判例の認容額
1 認容額の一覧

本記事で確認した裁判例の1人当たりの認容額は,次のとおりである(括弧内は慰謝料と弁護士費用等の内訳)。

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AIで作った社内ツールの情報漏えい――Moltbook事件から見る認可設計,個人情報保護法の安全管理措置及び委託契約(AI作成)

目次第1 本記事の対象第2 Moltbook事件で何が起きたか1 公表された事実と時系列2 原因――見えていたキーではなく,行単位の制御の欠如3 読取りだけでなく書換えもできた第3 AIで作ったことがなぜ問題になるのか1 動く機能と,守る設定は別物である2 認証と認可を分けて考える第4 個人情報保護法から見た位置付け1 安全管理措置(法23条)2 設定の不備で公開状態になったことは「漏えい」に当たる3 個人情報保護委員会への報告と本人への通知4 外部のサービスを使う場合と,開発を委託する場合第5 開発を外部に委託するときの契約1 セキュリティ仕様を開発の前に決める2 個人情報の取扱いを定める条項第6 公開前と公開後に確かめること1 公開前の点検2 公開後の点検第7 関連記事第8 出典1 法令2 所管行政機関の指針・Q&A3 公的機関の技術資料・契約モデル4 事件の調査報告・技術文書5 裁判例
第1 本記事の対象

本記事は,AIエージェントが投稿するSNS「Moltbook」で令和8年(2026年)1月末に見つかったデータベースの露出を題材に,AIを使って作った社内ツール又はサービスで同じことが起きた場合の技術上の原因と法的な位置付けを整理するものである。
事件の事実は,発見者である米国のセキュリティ企業Wizが同年2月2日に公表した調査結果によっており,調査基準日は令和8年9月13日である。

Moltbookは海外のサービスであり,その運営者に日本の個人情報保護法が適用されるかどうかは確認できていない。
そこで,後記第4の1以下では,日本の事業者が同じ仕組みの社内ツールで同じことを起こしたと仮定して,法令,個人情報保護委員会のガイドライン及びQ&Aを当てはめる。
Moltbookの運営者に日本法上の義務違反があったと述べるものではない。

結論を先に示すと,次の3点になる。
①原因は,ブラウザから見える接続用のキーそのものではなく,データベースに「誰がどの行を見てよいか」の制御(行単位のアクセス制御)が設定されていなかったことにある。
②日本の事業者であれば,設定の不備で個人データが誰でも閲覧できる状態になったこと自体が「漏えい」の典型例に当たり,本人の数が1,000人を超える場合その他の施行規則7条各号に該当すれば,個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要になる。
③開発を外部に委託するときは,機能の仕様と同じように,認可の方式を開発前にセキュリティ仕様として書面で決めておく必要がある。

第2 Moltbook事件で何が起きたか
1 公表された事実と時系列
(1) 露出した情報

Wizの公表によれば,Moltbookは,AIエージェントが投稿,コメント及び投票をする,AIエージェント専用をうたうSNSである。
Wizは,創業者がX上で,Moltbookのコードを1行も書いていないと述べていたと紹介している。

露出していたのは,約150万件のAPI認証トークン,約3万5千件のメールアドレス及びエージェント間のダイレクトメッセージ(4,060件の会話)等であり,Wizは露出したレコードを約475万件としている。
所有者(人間)の情報を収めたテーブルには1万7千人を超える利用者の個人情報があり,別のテーブルには2万9,631件のメールアドレスが追加で見つかった。
ダイレクトメッセージの中には,他社のAIサービスのAPIキーが平文で書かれたものも含まれていた。
なお,これらの件数の相互の関係(重複の有無等)はWizの公表では説明されていない。

(2) 通報から修正まで

Wizは,通常の利用者と同じようにサイトを閲覧するだけの方法で問題を見つけたと説明している。
Wizの記載する時系列(協定世界時)では,令和8年1月31日21時48分に運営者へ連絡し,22時06分にデータベースの設定不備を報告した。
その後,読取りの遮断,残りのテーブルの保護,書込みの遮断,追加で見つかったテーブルの保護と4段階で修正が行われ,最終的な修正は2月1日1時00分であった。
報告から最終修正までは約3時間であるが,1回の修正では終わらず,修正のたびに新たな露出が見つかっている。
他方で,データベースがいつから外部に開いた状態にあったか(露出の始期)は,Wizの公表では明らかにされていない。

2 原因――見えていたキーではなく,行単位の制御の欠如
(1) 公開用のキーはブラウザに置く前提のキーである

Moltbookは,データベースと認証の機能をまとめて提供する外部サービス(Supabase)を使っていた。
本番サイトのJavaScriptには,このサービスに接続するためのキーが書かれていたが,それは「公開用キー」(publishable key。以前のanon keyに相当する。)であった。

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令和8年改正個人情報保護法と委託契約-クラウド・生成AI利用で見直す事項(第30条の3・第58条の2)(AI作成)

第1 記事の対象と結論第2 現行法上の三類型1 サービス提供者が個人データを取り扱わないクラウド利用2 サービス提供者が委託業務として個人情報を取り扱う場合3 サービス提供者が自己の目的でも利用する場合第3 改正法第30条の31 委託先等に対する直接の利用範囲制限2 対象情報と必要な範囲第4 改正法第58条の21 契約を基礎とする特例の条件2 特例によっても残る義務3 現時点で確定していない事項第5 クラウド及び生成AIへの当てはめ1 「学習利用なし」だけでは足りないこと2 契約,設定及び実装を一体で確認すること3 国外処理及び再委託第6 委託契約の確認事項1 目的,対象及び二次利用2 安全管理,再委託及び国外処理3 報告,削除及び変更管理4 認可仕様及び受入試験第7 導入及び見直しの手順第8 関連記事第9 出典・参考資料1 法令2 個人情報保護委員会の解説・Q&A・運用資料

第1 記事の対象と結論

令和8年改正個人情報保護法の施行に備えた委託契約の見直しでは,サービス提供者が実際に何をするかが出発点となる。
本記事では,クラウド及び生成AIの利用を機能ごとに三類型へ分け,二次利用,ログ,再委託,国外処理,報告及び削除を契約へ反映する方法を検討する。
特に,改正法第30条の3は委託先等に委託業務の必要範囲を超える利用を直接禁止し,改正法第58条の2は一定の処理者について契約及び実際の取扱いを条件とする特例を設けるものであるから,契約書の名称又は「学習利用なし」という表示だけで結論を出すべきではない。

本記事は,令和8年9月7日時点で公表されている令和8年法律第56号,個人情報保護委員会の改正法資料及び現行Q&Aに基づく一般的な整理である。
同法は令和8年7月10日に成立し,同月17日に公布されたが,第30条の3及び第58条の2を含む主要部分の具体的な施行日は,公布の日から2年以内の政令で定める日とされており,本記事の基準日現在では確定していない。
また,第58条の2の契約事項及び取扱方法の細目は個人情報保護委員会規則等に委ねられているため,今後の規則,ガイドライン及びQ&Aによって契約実務を更新する必要がある。

第2 現行法上の三類型

1 サービス提供者が個人データを取り扱わないクラウド利用

クラウドサービスの利用が個人データの第三者提供又は取扱いの委託に当たるかは,サーバに個人データを保存するという外形だけでなく,サービス提供者が当該個人データを取り扱うこととなっているかによって判断される。
個人情報保護委員会のQ&A7-53は,契約条項によってサービス提供者が個人データを取り扱わないこと及び適切なアクセス制御が確保されている場合には,個人データの提供に当たらず,現行法第25条の委託先監督義務も生じないとする。

もっとも,この場合でも利用者である事業者自身の安全管理措置義務がなくなるわけではない。
Q&A7-54が示すとおり,クラウド環境を利用する事業者は,保存した個人データについて自ら安全管理措置を講ずる必要がある。

2 サービス提供者が委託業務として個人情報を取り扱う場合

サービス提供者が,入力,集計,保管,検索,要約又は応答生成等のために個人情報を取り扱う場合は,取扱いの委託に当たるかを検討する必要がある。
現行法上,個人データの取扱いを委託する場合には,第25条による必要かつ適切な監督が必要となり,委託先の選定,契約及び取扱状況の把握を組み合わせることになる。

個人情報保護委員会のQ&A5-11は,定型的業務の委託について,外部事業者の約款等を吟味し,その遵守によって個人データの安全管理が図られると判断できる場合,自己の社内規を守らせる覚書の追加締結までは必須でないと説明する。
しかし,改正法第58条の2の特例を用いる場合には同条所定の契約事項が必要となるため,現行法上の委託先監督の方法と同条の適用条件を混同してはならない。

(続きを読む...)令和8年改正個人情報保護法と委託契約-クラウド・生成AI利用で見直す事項(第30条の3・第58条の2)(AI作成)

総付景品の上限見直し――決まったことと,まだ決まっていないこと(AI作成)

第1 総付景品の上限は既に変わったのか第2 現在の200円・20%という上限第3 閣議決定で決まった検討の内容1 何を調べ,公表するのか2 令和9年の結論と施行日の違い3 閣議決定だけで上限変更や廃止が生じるのか第4 業界団体が示した二つの300円案第5 見直しをめぐる意見と判断材料1 定額と割合で異なる論点2 執行件数や利用率から分かる範囲第6 今後の企画で確認する公表資料第7 出典1 法令・告示2 行政機関の解説・運用資料3 閣議決定・会議記録・行政説明資料4 業界団体の提案資料
第1 総付景品の上限は既に変わったのか

令和8年8月31日現在,消費者庁が掲載する総付景品の一般的な数値上限は,取引価額が1000円未満の場合は200円,1000円以上の場合は取引価額の20%である(総付景品告示1項)。

令和8年7月21日に閣議決定された規制改革実施計画163頁~164頁は,上限の引上げについて調査・検討を進める方針と日程を定めたものである。
新しい金額・割合や具体的な施行日を定めたものではなく,本記事で確認した公表資料の範囲でも,これらを定めた改正告示は確認できない。

項目
決まったこと
まだ確定していないこと

検討対象
200円の定額部分と20%の定率部分の双方
改定後の金額・割合

日程
令和8年度に検討開始,令和9年に結論,結論後速やかに措置
改正告示の具体的な施行日

将来の点検
措置後の再点検の実施・時期を検討する
再点検までの年数,規制を廃止するかどうか

本記事は,日本の一般的な総付景品規制と今回の見直しの現在地を扱い,個別企画の適法性やすべての業種別規制を判定するものではない。
景品表示法全体の仕組みは,本ブログの「景品表示法の仕組み―景品規制・不当表示・ステマ規制・法執行(AI作成)」を参照されたい。

第2 現在の200円・20%という上限

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「1個買うと1個無料」は適法か―景品・値引き・セット販売の違い(AI作成)

第1 「1個買うと1個無料」は一律に禁止されない第2 同じ商品を追加する「増量値引き」の条件1 「1個購入して1個追加」への当てはめ2 同じ値段なら同一商品といえるか3 購入数を超える追加や抽選は別に扱う第3 無料引換券・割引券とセット販売1 後日の無料引換券と金額割引券は区別する2 セット販売は「購入特典」と何が違うか第4 景品に当たる場合の上限と価額1 一般の総付景品は200円又は取引価額の20%が上限2 仕入値ではなく通常の購入価格で比較する第5 「無料」「半額」の広告表示は別に判断する第6 出典1 法令・告示2 行政機関の通達・価格表示の解説3 消費者庁のQ&A
第1 「1個買うと1個無料」は一律に禁止されない

「1個買うと1個無料」は,景品表示法が一律に禁止する販売方法ではない。
同じ対価で同じ商品を追加する場合には,正常な商慣習に照らして値引きと認められ,景品規制の対象外となることがある。
ただし,商品の同一性,追加数量,提供方法などによって結論が変わり,景品に当たらなくても「無料」などの広告表示の適否は別に問題となる。

本記事は,令和8年8月31日現在の日本の景品表示法について,一般的な小売販売を中心に説明するものである。
特定企業のキャンペーンの適法性を判定するものではない。

景品類とは,顧客を誘引するため,事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して相手方に提供する経済上の利益で,内閣総理大臣が指定するものをいう(景品表示法2条3項)。
もっとも,景品類の指定告示1項は,正常な商慣習に照らして値引きと認められる利益を景品類から除外している。

区分
判断の中心
景品規制との関係

値引き・増量値引き
対価を下げるものか,同じ対価で同一商品を追加するものか
正常な商慣習に照らして値引きと認められれば,景品類に含まれない

セット販売
複数の商品を組み合わせて販売することが明らかか
原則として取引に付随する提供ではない。ただし,景品と認識される提供方法などは別である

景品の提供

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個人情報保護法の安全管理措置は機密性に偏っているか――情報セキュリティ3要素のバランスと報告義務の構造(AI作成)

目次

第1 情報セキュリティ3要素と個人情報保護法上の安全管理措置

1 機密性・完全性・可用性という3要素
2 個人情報保護法23条が定める安全管理措置

第2 個人情報保護委員会ガイドラインが示す具体的な措置の内容

1 安全管理措置の5類型
2 技術的安全管理措置として必須とされる4項目

第3 漏えい等報告義務における3要素の扱い

1 報告対象事態の4類型と漏えい・滅失・毀損
2 ランサムウェア事案の位置づけと共通様式の新設

第4 医療分野における先行的な対応

1 医療情報システムの安全管理に関するガイドラインが示す3要素
2 可用性・完全性に踏み込んだ対策

第5 実務上の留意点

1 安全管理措置を点検する際の視点

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精神科病院退院者の環境調整の諸制度――退院後生活環境相談員,地域移行支援,居住支援法人及び費用負担(AI作成)

第1 この記事が扱う範囲

1 検討の対象と時点
2 隣接する論点との切り分け3 使える制度の一覧

第2 精神科病院に課されている退院促進の措置

1 退院後生活環境相談員
2 地域援助事業者の紹介
3 医療保護入院者退院支援委員会
4 入院者訪問支援事業

第3 都道府県及び市町村が負う相談援助と調整

1 相談援助の義務と精神保健福祉センター
2 障害福祉サービスの利用のあっせん,調整及び要請

第4 障害者総合支援法による地域移行の給付

1 地域移行支援及び地域定着支援
2 共同生活援助,自立生活援助及び体験の機会
3 相談支援事業者,基幹相談支援センター及び協議会
4 地域活動支援センター及び成年後見制度利用支援事業

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外部委託先で個人情報が漏えいした場合の委託元の対応―報告,本人通知及び委託先監督(AI作成)

第1 対象と最初に分けるべき問題

1 本記事の対象

2 対応の骨格

第2 個人情報保護委員会等への報告

1 報告対象となる四類型

2 委託元と委託先の義務主体

3 施行規則9条の通知と共同・代行報告の違い

第3 速報,確報及び報告先

1 速報と確報の期限

2 報告事項と報告先

第4 本人への通知

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死者の医療情報の二次利用―個人情報保護法の対象外と最高裁令和8年2月20日判決(AI作成)

第1 この記事が扱う対象1 「二次利用」とは何を指すか2 検討の対象と時点第2 個人情報保護法における死者情報の位置づけ1 「生存する個人」という定義上の限界2 死者の情報が遺族本人の情報になる場合第3 最高裁判所令和8年2月20日判決1 事案の概要2 法廷意見の判断枠組み3 補足意見が示した射程4 刑事施設の診療情報をめぐる一連の最高裁判断第4 医療・介護分野における遺族への情報提供1 ガイダンスと診療情報の提供等に関する指針2 個別法にみる死者情報の遺族への提供第5 次世代医療基盤法による死者の医療情報の取込み1 「個人に関する情報」という定義の技巧2 死者の情報を対象に含めた理由3 オプトアウトの実効性という課題第6 研究利用に関する倫理指針の規律1 死者の尊厳を根拠とする独自の規律2 代諾者の同意と生前の拒否意思第7 刑事責任と民事上の名誉保護1 秘密漏示罪の「人」に死者は含まれない2 死者の名誉毀損罪3 遺族の敬愛追慕の情という受け皿第8 今後の見通し1 内閣府検討会における死亡者情報の議論状況2 令和8年改正個人情報保護法との関係出典・参考資料1 法令・通達・指針2 裁判例3 公的資料4 文献

第1 この記事が扱う対象

1 「二次利用」とは何を指すか

医療情報の「一次利用」とは,診療や介護のために医療機関等が患者本人の情報を用いることをいい,「二次利用」とは,これとは別の目的,典型的には研究開発や統計作成のために医療情報を用いることをいう。本記事が扱うのは,患者が死亡した後,その医療情報を遺族への提供,研究,データベースへの収録などの形でどこまで用いることができるかという問題である。生前の医療情報の一次利用(診療そのもの)や,本人が生存中の個人情報保護法制の一般論は対象としない。生存する患者の医療情報が本人の同意なく第三者提供され得る仕組み(次世代医療基盤法のオプトアウト,改正個人情報保護法の統計作成等の特例,内閣府検討会が構想する出口規制)については,医療情報は同意なく使われるようになるのか――次世代医療基盤法・改正個人情報保護法と内閣府検討会の到達点で扱っている。死亡後のオンラインアカウントやデジタルデータの承継という別の問題は,Appleアカウントの相続手続―故人アカウント管理連絡先,iCloudデータ及び端末の扱い及びGoogleアカウントの相続手続―死亡後のデータ取得・資金請求・閉鎖で扱っており,本記事では取り上げない。

2 検討の対象と時点

本記事の法令・裁判例の基本的な整理は,令和8年8月16日までに確認した資料を基礎とする。中心となるのは,死者に関する保有個人情報の開示が争われた最高裁判所令和8年2月20日判決であり,この判決を軸に,個人情報保護法,次世代医療基盤法,医療・介護関係のガイダンス,人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針,刑法及び民事の裁判例を横断して整理する。内閣府検討会における死亡者情報の取扱いについては,令和8年10月9日公表の正式なとりまとめを第8に反映した。将来の制度構想と,現在の本人通知等の要件を区別して読む必要がある。

第2 個人情報保護法における死者情報の位置づけ

1 「生存する個人」という定義上の限界

個人情報保護法2条1項は,「個人情報」を「生存する個人に関する情報であって,次の各号のいずれかに該当するものをいう」と定義する。この文言は,令和3年の法改正(行政機関個人情報保護法及び独立行政法人等個人情報保護法を個人情報保護法に統合する改正)の前後を通じて維持されており,死亡した人の情報は,どれほど機微な内容であっても,個人情報保護法上の「個人情報」には当たらない。令和3年改正前は,民間事業者に適用される個人情報保護法とは別に,行政機関には行政機関個人情報保護法,独立行政法人等には独立行政法人等個人情報保護法という別の法律が適用されていたが,これらもいずれも「生存する個人」に関する情報を対象としており,官民を通じて死者の情報は対象外とされてきた。

このため,患者が死亡すれば,その診療情報は個人情報保護法上の取得制限(20条)や第三者提供制限(27条)の対象から外れる。第三者提供に本人同意を要するという原則も,そもそも「本人」が存在しない以上,適用の前提を欠くことになる。

2 死者の情報が遺族本人の情報になる場合

もっとも,死者の情報が個人情報保護法の外側にあるという理は,遺族が当該情報について常に無権利であることを意味しない。ある情報が死者に関するものであると同時に,生存する遺族自身に関する情報でもあることがあり,その限度では,遺族本人の個人情報として個人情報保護法の適用を受ける。個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日個人情報保護委員会・厚生労働省。令和8年4月改訂版)は,この点を「なお,死者に関する情報が,同時に,遺族等の生存する個人に関する情報でもある場合には,当該生存する個人に関する情報となる」と説明する。問題は,どのような場合に死者の情報が遺族本人の情報だと評価されるのかであり,この判断枠組みを正面から示したのが,次に取り上げる最高裁判所令和8年2月20日判決である。

第3 最高裁判所令和8年2月20日判決

1 事案の概要

上告人の母は,平成30年5月に懲役受刑者として刑事施設に収容され,平成31年4月に刑の執行停止により釈放された後,令和元年12月に死亡した。母は収容中,上告人との面会において,同室者からいじめを受けている旨を述べていた。上告人は,令和2年8月,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(令和3年法律第37号による廃止前のもの。以下この項で「旧法」という)12条1項に基づき,処分行政庁(法務大臣から権限の委任を受けた近畿矯正管区長)に対し,母が同室者から受けたいじめに関する事案を調査した記録(本件調査記録)に記録されている情報(本件情報)の開示を請求したが,処分行政庁は,本件情報は生存する個人に関する情報ではなく,また上告人を本人とする保有個人情報にも当たらないとして,その全部を開示しない旨の決定をした。

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医療情報は同意なく使われるようになるのか――次世代医療基盤法・改正個人情報保護法と内閣府検討会の到達点(AI作成)

第1 この記事が扱う対象と時点

1 「同意なく使われる」という問いが指す3つの層

2 対象範囲と検討の時点

第2 現行法がすでに認めている同意によらない医療情報の利用

1 個人情報保護法上の要配慮個人情報と学術研究目的の例外

2 次世代医療基盤法のオプトアウトの仕組み

3 2022年の約9万5千人分の通知漏れ事案

第3 次世代医療基盤法の制定・改正時に何が争われたか

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令和8年改正個人情報保護法に基づき,民間企業の個人情報保護規程で対応が必要な事項(AI作成)

目次

第1 この記事の対象と改正期限

1 令和10年7月17日は一律の施行日ではない
2 令和9年1月17日までに先行させる対応がある

第2 個人情報保護規程を改定する基本方針

1 規程の名称より具体的な取扱規律が必要である
2 必須・条件付き・推奨・下位規範待ちを分ける
3 高リスク処理を漏えいだけで判断しない

第3 全社共通で先に見直す事項

1 責任者・データ台帳・高リスク案件の承認
2 従業者の禁止行為とアクセス権限
3 漏えい等・行政対応・課徴金の証拠

第4 取扱いがある企業に必要となる特則

1 同意例外と統計・AI
2 16歳未満・未成年者と特定生体個人情報
3 委託・連絡可能情報・オプトアウト提供

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