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無断キャンセル(ノーショー)のキャンセル料はいくらまで請求できるか――消費者契約法9条の「平均的な損害」と裁判例(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,飲食店や美容サロン等の予約について,客が連絡なく来店しなかった場合(いわゆる無断キャンセル又はノーショー)や直前に取り消した場合に,店がキャンセル料をどこまで請求できるかを,法令,最高裁判例,下級審の裁判例及び経済産業省の委託調査事業による有識者勉強会の報告書に基づいて整理するものである。
本記事の法令は令和8年9月13日現在のものであり,裁判例は裁判所ウェブサイト及び判例秘書で確認した範囲に限っている。

結論は次の3点である。
①予約の内容が確定していればその時点で契約が成立し,客の一方的なキャンセルについて店は損害賠償を請求し得ると考えられている(経済産業省の委託調査事業による有識者勉強会の報告書)。
②店があらかじめキャンセル料を定めていても,客が消費者である場合は,同種の契約の解除に伴い店に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効となる(消費者契約法9条1項1号)。
③平均的な損害を超えることの主張立証責任は基本的に無効を主張する側にあるとした最高裁判例がある一方で,店は,消費者から求められたときは,キャンセル料の算定根拠の概要を説明するよう努めなければならない(同条2項)。

第2 無断キャンセルで損害賠償を請求できる根拠

1 予約による契約の成立

(1) No show対策レポート

サービス産業の高付加価値化に向けた外部環境整備等に関する有識者勉強会(平成29年度経済産業省委託調査事業)は,2018年11月1日に「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」(以下「No showレポート」という。)を取りまとめた。
同勉強会には,委員として弁護士,大学教授,業界団体の代表者等が参加し,経済産業省,農林水産省及び消費者庁はオブザーバーとして参加した(経済産業省の公表ページ)。
同レポートは,飲食の提供契約は,予約方法が何であるかにかかわらず,内容が確定していればその時点で成立すると考えられるとし,口頭のみの電話予約でも契約が成立することがあるとしている(7頁)。
そのうえで,一方的なキャンセルについて損害賠償を請求することが可能であると考えられるとし,契約の内容が確定していない場合でも,不法行為に基づく損害賠償を請求することは可能であるとしている(同頁)。

(2) 根拠となる民法の規定

No showレポートは,キャンセルによる損害賠償の根拠として民法415条と709条を挙げている(7頁)。
民法415条1項本文は,「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。」と定める。
同項ただし書は,債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,損害賠償を請求できないとしている。
民法709条は,「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定める。

2 無断キャンセルと契約の「解除」

(1) キャンセル料の定めの性質

店があらかじめ定めたキャンセル料は,契約の解除に伴う損害賠償の額の予定又は違約金に当たることが多く,後記第3で述べる消費者契約法9条1項1号の対象となる。
予約の時間に連絡なく来店しないことが契約の「解除」に当たるかは,予約の内容やキャンセルポリシーの定め方によって異なり得る。

(2) 入学式の無断欠席を解除とした最高裁判例

最高裁平成18年11月27日判決(平成17年(受)第1437号,民集60巻9号3597頁)は,入学式を無断欠席した場合には入学を辞退したものとみなす旨の記載がある大学の合格者について,入学式を無断で欠席することは,特段の事情のない限り,黙示の在学契約の解除の意思表示に当たると判断した。
この判決は大学の在学契約についてのものであるが,予約をしながら連絡なく来店しないことも,事情によっては黙示の解除の意思表示と評価される余地があると考えられる。

第3 キャンセル料の上限――消費者契約法9条1項1号

1 条文と適用される場面

(1) 消費者契約に当たる予約

消費者契約法は,消費者と事業者との間で締結される契約を「消費者契約」とし(2条3項),個人は,事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除いて「消費者」に当たるとしている(同条1項)。
法人その他の団体と,事業として又は事業のために契約の当事者となる個人は,「事業者」である(同条2項)。
個人が私的な会食や施術のために店を予約する場合は,予約は消費者契約に当たるのが通常である。
これに対し,会社がその名義で宴会を予約する場合のように客が事業者であるときは,消費者契約に当たらず,同法9条は適用されない。

(2) 9条1項1号の文言

同法9条1項1号が対象とするのは,「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの」であり,無効となるのはその超える部分である。
したがって,キャンセル料の定めが全部無効になるのではなく,平均的な損害の額を超える部分に限って無効となる。
また,平均的な損害は,「解除の事由、時期等の区分に応じ」て考えるものとされている。

2 平均的な損害の意味と主張立証責任

(1) 最高裁平成18年11月27日判決

最高裁平成18年11月27日判決(平成17年(受)第1158号・第1159号,民集60巻9号3437頁)は,大学の学納金の不返還特約について,在学契約の解除に伴い大学に生ずべき平均的な損害は,一人の学生と大学との在学契約が解除されることによって当該大学に一般的,客観的に生ずると認められる損害をいうとした。
そのうえで同判決は,「上記平均的な損害及びこれを超える部分については,事実上の推定が働く余地があるとしても,基本的には,違約金等条項である不返還特約の全部又は一部が平均的な損害を超えて無効であると主張する学生において主張立証責任を負うものと解すべきである。」と判示している。

(2) キャンセル料をめぐる紛争への示唆

同判決は学納金の事案であるが,平均的な損害の立証責任の所在を示した判断として,キャンセル料をめぐる紛争でも参考になると考えられる。
これによれば,キャンセル料が高すぎると考える消費者は,同種の予約の解除によって店に一般的,客観的に生ずる損害がキャンセル料より小さいことを,基本的には自ら主張立証することになる。
他方で,同判決も事実上の推定が働く余地に触れており,原価や予約の埋まり具合のように店の側にしかない資料について,どこまでの立証が求められるかは個別の事案によると考えられる。

3 解除の時期による違い

(1) 学納金の最高裁判例

前記の最高裁平成18年11月27日判決(平成17年(受)第1158号・第1159号)は,学生が入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測される時点より前の解除については,原則として大学に生ずべき平均的な損害は存しないとし,3月31日までに解除の意思表示がされた場合は原則として不返還特約はすべて無効になるとした。
最高裁平成18年12月22日判決(平成17年(受)第1762号,集民222号721頁)は,鍼灸学校の合格者が入学年度の始まる前に在学契約を解除した事案で,平均的な損害は存しないとして不返還特約を全部無効とした。

(2) キャンセル料への示唆

これらの判例は,同じ種類の契約でも,解除の時期によって平均的な損害の有無や額が変わることを示している。
キャンセル料についても,早い時期の取消しと直前の取消し又は無断キャンセルとを区別せずに一律の額を定めると,早い時期の取消しについて平均的な損害を超える部分が生じやすいと考えられる。

4 算定根拠の説明(9条2項)

消費者契約法9条2項は,事業者は,キャンセル料等の条項に基づいて消費者に支払を請求する場合において,消費者から説明を求められたときは,損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠の概要を説明するよう努めなければならないと定める。
この規定は,令和4年法律第59号による改正で新設され,令和5年6月1日から施行されている。
同改正により,それまでの同条1号は同条1項1号となったため,前記の最高裁判例がいう「消費者契約法9条1号」は現行の同条1項1号に当たる。

第4 飲食店のパーティー予約についての裁判例

1 東京地裁平成14年3月25日判決の事案

東京地裁平成14年3月25日判決(平成14年(レ)第12号,判例タイムズ1117号289頁,金融・商事判例1152号36頁)は,飲食店が,パーティーの予約を解約した客に営業保証料を請求した事件の控訴審である。
同判決は裁判所ウェブサイトには掲載されておらず,本記事は判例秘書で全文を確認した。

客は,平成13年4月8日,同年6月10日(日曜日)に30名ないし40名でパーティーをする予約をし,翌日,1人当たりの料金を4500円とすることが確定した。
予約の際,店は,日程が重なる別の問合せがあった場合は先の予約客に確認し,実施するとの確答を得た後にその客が解約したときは,営業保証料として1人当たり5229円を徴収すると説明していた。
客は,別の問合せを受けた店からの確認に一旦は実施すると答えたが,同じ日のうちに解約を申し出て,翌日に解約の意思表示をした。
店はこの予約のために同じ時刻の80名の予約を断っており,40名分の営業保証料20万9160円を請求し,原審は30名分の15万6870円を認めた。

2 判決の判断

(1) 消費者契約法の適用

判決は,飲食店を営む会社は事業者,個人である客は消費者であり,パーティーの予約は消費者契約に当たるとし,同法の施行日である平成13年4月1日より後の予約であるから同法が適用されるとした。
そのうえで,営業保証料は予約の解除に伴う損害賠償の予定又は違約金に当たり,平均的な損害を超える部分は同法9条1号(現行の9条1項1号)により無効であるとした。

(2) 平均的な損害の判断方法

判決は,平均的な損害を,契約の類型ごとに合理的な算出根拠に基づいて算定された平均値と捉えた。
そして,解除の事由や時期のほか,契約の特殊性,逸失利益・準備費用・利益率等の損害の内容,契約の代替可能性や転用可能性等の損害が生ずる蓋然性等の事情に照らして判断するとした。

(3) 平均的な損害の額の認定

判決は,客に有利な事情として,開催の約2か月前の解約であり開催日に他の客の予約が入る可能性が高いこと,店がパーティーのための材料費や人件費等の支出を免れたことを挙げた。
店に有利な事情としては,解約がなければ営業利益を得られたこと,開催日が仏滅で結婚式の二次会等が行われにくい日であること,解約が客の自己都合によること,客自身が3万6000円程度の支払はやむを得ないと考えていたことを挙げた。
そのうえで,旅行業界の標準約款のような基準も見当たらず,同種の解約に伴う平均的な損害を算定する証拠資料が乏しいとして,民事訴訟法248条の趣旨に従い,1人当たりの料金4500円の3割に予定人数の平均である35名を乗じた4万7250円を平均的な損害と認め,原判決を変更してその限度で請求を認めた。
民事訴訟法248条は,「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」と定める。

3 この判決から読み取れること

この判決から読み取れるのは,次の点である。
①営業保証料は解約の時期にかかわらず1人当たり一律の額とされていたが,約2か月前の解約については,料金の3割を基準とする額まで減額された。
②平均的な損害を算定する資料が乏しいときに,裁判所が民事訴訟法248条の趣旨に従って割合で額を定めた例である。
③もっとも,本件は開催の約2か月前の解約であり,予約の時間に連絡なく来店しなかった事案ではない。
④平成14年の地方裁判所の判決1件であり,これだけで無断キャンセル一般の平均的な損害の水準を導くことはできない。

第5 No showレポートが示す損害の考え方

1 レポートの位置付けと損害の規模

No showレポートは,経済産業省の委託調査事業による有識者勉強会が飲食店の無断キャンセルの防止策を整理した報告書であり,法令や裁判例のように当事者を拘束するものではない。
同レポートは,No showが飲食業界全体に与えている損害は年間で約2,000億円とも言われているとし,1日前・2日前のキャンセルも加えると被害額は約1.6兆円に及ぶと推計している(4頁)。

2 コース予約と席のみの予約

(1) コース予約

同レポートは,コース予約の場合は,発生した損害を別の顧客で埋め合わせることが著しく難しいと考えられることから,債務不履行による損害がその全額となることがあるとしている(8頁)。
ただし,転用可能な飲食物の代金や人件費等を除く必要があり,消費者契約法等の関連法に則り,各店舗の収益構造等の個別事情を踏まえて損害額を算定することが必要であるとしている(同頁)。

(2) 席のみの予約

席のみの予約について,同レポートは,実際に発生し得る損害として原材料費,食材廃棄費,人件費及び逸失利益を挙げ,逸失利益が平均的な損害に含まれるかについては見解が分かれるとしている(8頁)。
そのうえで,客観的基準により算定した平均客単価の何割か(平均客単価から転用可能な原材料費・人件費等を除いた額)が損害賠償額の一つの目安と考えられるとしている(同頁)。

3 事前のキャンセルと無断キャンセルの違い

同レポートは,事前のキャンセルでは逸失利益を補填できる可能性があるため,逸失利益を含んだ全額の請求は難しいと考えられるとする一方で,No showでは逸失利益を補填できる可能性が限りなく低いとしている(9頁)。
また,No showの場合は,遅れて来店するかもしれない客のために席を確保していることが多く,予約時間後の平均2~3時間後まで(又は閉店まで)の機会損失が生じていることも考慮すべきであるとしている(7頁)。

4 店に期待される取組

同レポートは,キャンセル料を請求するためには,適切なキャンセル料の算定,キャンセルポリシーの設定及び予約時の明示が必要であると考えられるとし,根拠もなく設定された法外な金額のキャンセル料には法律上問題があるとしている(10頁)。
また,店が取り組むことが期待される事項として,①予約の再確認(リコンファーム)の徹底,②客がキャンセルの連絡をしやすい仕組みの整備,③キャンセルポリシーやキャンセル料の目安の明示,④事前決済や預かり金(デポジット)の導入等を挙げている(11頁)。

第6 店がキャンセルポリシーを定めるときの確認事項

本記事では,前記の法令,判例及びNo showレポートを踏まえ,店の側では次の点を確認しておくことが考えられると整理する。
①キャンセル料を,連絡なしの不来店,当日,前日,それより前といった時期の区分ごとに定め,各区分で店に生ずる損害に見合う額にする(消費者契約法9条1項1号)。
②コース予約と席のみの予約を分け,転用できる食材や人件費を除いた損害を見込む。
③キャンセル料をどのような費用や逸失利益から算定したかを記録し,消費者から求められたときに概要を説明できるようにしておく(同条2項)。
④ネット予約だけでなく電話やSNSでの予約でも,予約時にキャンセルポリシーを示し,示したことが後から分かるようにしておく。
⑤予約者の氏名と連絡先を確認し,予約の再確認を行う。
⑥高額のコース予約や大人数の予約では,事前決済や預かり金の導入を検討する。

第7 キャンセル料を請求された客の確認事項

1 請求の内容の確認

客の側では,次の点を確認することが考えられる。
①予約時にキャンセルポリシーが示されていたか,示された内容と請求額が一致しているかを確認する。
②請求額がどのような損害を前提にしているのかについて,店に算定根拠の概要の説明を求める(消費者契約法9条2項)。
③キャンセル料が平均的な損害を超えると考える場合は,取消しの時期,店が他の客で埋め合わせた可能性,転用できた食材等を具体的に示す必要がある(前記最高裁平成18年11月27日判決)。

2 請求する者の確認

キャンセル料の請求は,店から直接届くとは限らず,店の代理人から届くことがある。
弁護士が店舗から依頼を受け,SMSで客にキャンセル料を請求する回収代行サービスが運営されていることは,弁護士ドットコムニュースの2023年7月2日の記事でも紹介されている。
他方で,弁護士法72条本文は,「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と定める。
請求を受けた客は,請求している者が店本人か,店の代理人か,代理人であれば弁護士又は弁護士法人かを確認することが考えられる。

第8 関連記事

消費者契約法に関する最高裁判例は,消費者契約法9条・10条等に関する最高裁判例を一覧にしている。
消費者契約法・特定商取引法・割賦販売法等の違いと主な制度は,消費者契約法の全体像を扱っている。
永代供養とは何か-「永代」の意味,費用,合祀,返金及び改葬の注意点は,永代供養契約の返金と平均的な損害を扱っている。
遺品整理業者の許可・選び方と相続放棄・残置物処理の注意点は,遺品整理の契約における解約料を扱っている。

第9 出典

1 法令

消費者契約法2条1項~3項,9条1項1号・2項(e-Gov法令検索)
民法415条1項,709条(e-Gov法令検索)
民事訴訟法248条(e-Gov法令検索)
弁護士法72条(e-Gov法令検索)

2 裁判例

①最高裁平成18年11月27日第二小法廷判決(平成17年(受)第1158号・第1159号,民集60巻9号3437頁,裁判所ウェブサイト
②最高裁平成18年11月27日第二小法廷判決(平成17年(受)第1437号,民集60巻9号3597頁,裁判所ウェブサイト
③最高裁平成18年12月22日第二小法廷判決(平成17年(受)第1762号,集民222号721頁,裁判所ウェブサイト
④東京地裁平成14年3月25日判決(平成14年(レ)第12号,判例タイムズ1117号289頁,金融・商事判例1152号36頁,裁判所HP未掲載,判例秘書で確認(判例番号L05730059))

3 所管行政機関の資料

①サービス産業の高付加価値化に向けた外部環境整備等に関する有識者勉強会(平成29年度経済産業省委託調査事業)「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」(2018年11月1日)4頁,7頁~11頁(国立国会図書館インターネット資料収集保存事業が保存した経済産業省の公表ページ及びレポートのPDF

4 報道

①弁護士ドットコムニュース『多発する「無断キャンセル客」に強く迫れない美容業界、回収代理サービスの実態』(2023年7月2日