メインコンテンツへスキップ
       

交通事故の仮払い仮処分-要件,申立書,必要資料及び自賠責の仮渡金との違い(AI作成)

第1 交通事故の仮払い仮処分の位置付け

1 仮の地位を定める仮処分である

交通事故の被害者が示談成立又は本案判決の確定前に治療費,休業による生活費その他の金銭の支払を求める「仮払い仮処分」は,独立した名称の手続ではなく,民事保全法23条2項の仮の地位を定める仮処分として申し立てるものである。
同項は,争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるために必要なとき,仮処分命令を発することができると定め,同法24条は必要な給付を命ずることを認めている。
本記事は,令和8年9月13日現在の法令及び公表資料に基づき,人身事故の被害者が金銭の仮払いを求める場合の要件,資料,手続及びリスクを説明するものである。

2 仮差押え,自賠責の仮渡金及び内払いとは異なる

仮払い仮処分と混同しやすい手続は,次のとおりである。
① 仮差押えは,将来の強制執行が不可能又は著しく困難になるおそれがあるときに債務者の財産を保全する手続であり,申立人へ直ちに金銭を給付する手続ではない。
自動車損害賠償保障法17条の仮渡金は,自賠責保険会社に対して法定額を請求する制度であり,裁判所が個別の生活状況を審理して命ずる仮処分ではない。
③ 加害者側又は任意保険会社による内払いは,交渉又は保険契約上の取扱いによる支払であり,裁判所の命令に基づく支払ではない。
したがって,当座の資金が必要な場合も,各制度の根拠,相手方,金額の決め方及び返還・精算の有無を分けて検討する必要がある。

第2 申立てが認められる二つの要件

1 被保全権利を疎明する

民事保全法13条により,申立人は,保全すべき権利又は権利関係と保全の必要性の双方を疎明しなければならない。
被保全権利は,加害者等に対する損害賠償請求権であり,民法709条自動車損害賠償保障法3条その他の責任根拠,事故態様,受傷との因果関係,損害額及び既払金を示す必要がある。
請求総額だけを掲げるのではなく,仮払いを求める時点までに発生した治療費,介護費,休業損害等と,近い将来に支出時期が到来する費用を分け,過失相殺等を考慮しても請求額を上回る権利があることを資料で示すことになる。

2 著しい損害又は急迫の危険を疎明する

損害賠償請求権が存在するだけでは足りず,本案判決を待つと著しい損害又は急迫の危険が生じることを具体的に示す必要がある。
例えば,治療又は介護を継続できない危険,休業により住居費・食費等を賄えない状況,家族を含む収入・預貯金・利用可能な給付の不足,支払期限が迫った費用及び既払金の使途を,月別の収支と資料に結び付けて説明する。
将来の不安を抽象的に述べるだけでなく,何の費用が,いつ,いくら不足し,支払われなければどのような不利益が生じるかを特定することが重要である。

3 「証明」ではなく「疎明」である

民事保全では本案訴訟の証明より低い段階の「疎明」が用いられるが,仮払いは相手方から金銭を移転させるため,資料が粗くてもよいという意味ではない。
東京地方裁判所の案内は,即時に取り調べることができる証拠で疎明し,一般には書証を用いると説明している。
事故責任,因果関係,損害額又は資金不足に大きな争いがあるときは,短い審理で裁判所が判断できるよう,争点ごとに中核資料を絞る必要がある。

第3 誰を相手にどの裁判所へ申し立てるか

1 運転者,運行供用者,使用者等の責任根拠を分ける

申立ての相手方は,請求の根拠となる損害賠償債務を負う者である。
運転者の不法行為責任,車両の運行供用者の責任,事業執行中の事故における民法715条の使用者責任又は複数の行為者に関する民法719条の共同不法行為責任等について,誰にどの要件が当てはまるかを個別に整理する。
支払能力だけで相手方を選ぶことはできず,複数人を相手にするときも各人の責任根拠と申立ての利益を示す必要がある。

2 保険会社を相手にするには直接請求権の根拠が要る

自賠責保険会社に対しては,自動車損害賠償保障法16条1項が,被害者による損害賠償額の直接請求を定めている。
任意保険会社を相手に仮払いを求める場合は,示談交渉を担当しているという事情だけでなく,約款その他に基づいて被害者が保険会社へ直接請求できる法的根拠を確認する必要がある。
直接請求権の有無・発生時期・条件は契約内容により異なり得るため,保険会社名だけを申立書に記載して足りるものではない。

3 本案の管轄裁判所を確認する

民事保全法12条は,本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所を保全命令事件の管轄裁判所とする。
交通事故の金銭仮払いでは,通常,本案の損害賠償請求訴訟を提起できる裁判所を基礎に検討し,民事訴訟法5条9号による不法行為地の管轄その他の裁判籍と訴額を確認する。
本案が既に控訴審に係属している場合等には管轄が変わるため,事故地だけで決めず,申立前に受付へ確認するのが安全である。

第4 申立書と疎明資料

1 申立書には求める給付と二つの要件を書く

申立書には,当事者,申立ての趣旨,被保全権利及び保全の必要性を記載し,仮払いを求める金額,支払時期及び終期を特定する。
被保全権利の説明では,責任原因,事故と受傷との因果関係,損害の費目別計算,過失割合に関する主張及び既払金控除後の残額を示す。
保全の必要性の説明では,現在の収入,資産,世帯収支,公的給付,今後の支払予定及び不足額を時系列で示し,請求する給付と避けるべき損害を対応させる。

2 事故責任,因果関係及び損害を示す資料

基本資料として,①交通事故証明書,②実況見分調書等の刑事記録又は事故状況を示す写真・図面,③診断書・診療録・画像資料,④診療報酬明細書・領収書,⑤休業損害証明書・給与明細・確定申告書,⑥介護の内容と費用を示す記録,⑦自賠責・任意保険その他の既払金一覧を検討する。
刑事記録,医療記録又は勤務先資料は,保有者への請求,開示手続又は捜査・訴訟の進行により入手時期が変わり,申立人が当然に直ちに取得できるわけではない。
まず手元の資料で争点を特定し,結論を左右する不足資料だけを早期に取得する必要がある。

3 現在の資金不足を示す資料

保全の必要性に関する資料として,①預貯金通帳又は取引明細,②事故前後の給与明細・休業状況,③世帯員の収入資料,④家賃・住宅ローン・公共料金等の請求書,⑤治療・介護・通院交通費の見積り又は支払予定,⑥健康保険,労災保険,傷病手当金,人身傷害保険等の利用状況,⑦保険会社への内払い申入れと回答をそろえる。
資産又は他制度からの給付を隠すのではなく,利用できる金額と時期を示した上で,なお残る不足額を計算する。
家計表は数字だけでなく,原資料の該当箇所と対応させ,単発費用と毎月継続する費用を分けると必要額を説明しやすい。

4 想定される反論を先に点検する

相手方からは,事故責任又は過失割合,受傷との因果関係,治療の必要性,休業期間,損害額,既払金,預貯金・家族収入・他の給付の存在及び請求期間の長さ等が争われ得る。
申立人側は,反論を予想して資料を無制限に集めるのではなく,裁判所が短期間に確認できる反証資料を優先する。
第三者だけが保有する資料について開示又は送付を得られない可能性があり,主要な争点を疎明できない状態で高額の申立てへ進むと,費用と時間に見合わないことがある。

第5 仮払いを求める金額と期間

1 法律上の一律の割合又は期間はない

民事保全法は,交通事故の損害総額の何割を支払わせるか,何か月分を認めるかという一律の基準を定めていない。
申立額は,被保全権利の疎明額を上限としつつ,著しい損害又は急迫の危険を避けるために現在必要な範囲から組み立てる。
治療費,介護費,住居費又は最低限の生活費等についても,費目名だけで当然に認められるのではなく,金額,支払時期及び代替手段を示す必要がある。

2 必要額は月別の不足額から組み立てる

計算は,①対象期間を定める,②期間中の治療・介護・生活維持に必要な支出を積み上げる,③就労収入,世帯収入,預貯金から無理なく充てられる額及び利用可能な保険給付を控除する,④既払金と重複しないことを確認する,という順で行うと分かりやすい。
一時金を求める場合は各費用の支払期限を,月額の支払を求める場合は始期・終期と月額の根拠を明記する。
慰謝料等を含む損害賠償請求権があることと,当該費目を直ちに受け取らなければ著しい損害等が生じることは別の問題であるため,請求額を損害総額の単純な割合で決めない方がよい。

第6 審理,担保,費用及び命令後の手続

1 申立て後に書面審査と債権者面接が行われることがある

裁判所の民事保全案内は,要審尋事件について,申立て,債権者面接,審尋期日,担保決定,担保提供及び発令という概略を示している。
東京地方裁判所では原則として全件で債権者面接を行い,午前受付なら翌日以降,午後受付なら翌々日以降が原則であると案内しているが,これは同裁判所の運用であり,全国共通の決定期限ではない。
補正又は追加資料を求められることがあるため,緊急性が高くても申立日に命令が出るとは限らない。

2 原則として相手方が参加できる審尋を経る

民事保全法23条4項により,仮の地位を定める仮処分命令は,原則として口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができない。
期日を経ると申立ての目的を達することができない事情がある場合は例外となるが,仮払い仮処分を常に相手方へ知らせず即日発令できる手続と説明するのは正確でない。
相手方の反論と追加資料の提出を見込み,申立書と疎明資料の整合を事前に点検する必要がある。

3 担保額は事案ごとに裁判所が決める

民事保全法14条は,裁判所が担保を立てさせて発令し,担保提供を執行の条件とし,又は担保を立てさせずに発令できると定めている。
したがって,交通事故の仮払い仮処分に一律の担保率があるとはいえず,申立前に固定額を断定することはできない。
裁判所の一般案内によれば申立手数料は1件2000円であり,別に郵便料,資格証明書等の取得費用,担保及び代理人費用を見込む必要がある。

4 発令後の執行には2週間の制限がある

民事保全法43条2項により,保全執行は,債権者に保全命令が送達された日から2週間を経過すると実施できない。
同条3項は債務者への送達前でも執行できるとし,同法52条は給付を命ずる仮処分命令を債務名義とみなす。
発令後は,命令の送達日,担保提供の完了日,執行方法及び入金確認を直ちに管理する必要がある。

第7 仮処分の前に比較する早期支払の方法

1 低負担の方法を先に確認する

初めに,加害者側又は任意保険会社への内払いの申入れ,自賠責の被害者請求・仮渡金,人身傷害保険,健康保険,労災保険及び傷病手当金等を確認する。
自賠責の請求方法,仮渡金額及び時効は,交通事故の慰謝料はいつもらえるか-治療中の自賠責被害者請求・仮渡金・示談成立後の支払と時効(AI作成)で説明している。
治療費負担を抑える方法は,交通事故でも健康保険は使える―第三者行為による傷病届と利用時の注意点(AIリライト)も参照されたい。

2 中間段階で不足額と争点を固定する

低負担の方法だけでは不足が残る場合,書面で内払いを求め,保険会社の回答期限と拒否理由を確認し,事故責任・医療・収入・家計の中核資料をそろえる。
その段階で,いつまでにいくら必要か,任意支払又は公的給付でいくら補えるか,相手方が何を争うかを一枚の表にまとめる。
資料を追加しても被保全権利又は保全の必要性を短期間に疎明できないと判明したときは,仮処分の準備を続けるか,本案訴訟その他の方法へ切り替えるかを再評価する。

3 高負担の仮処分へ進む条件を確認する

仮払い仮処分は,任意支払等で間に合わず,本案判決まで待てない具体的な資金不足があり,責任と必要額を即時に確認できる資料がそろう場合に検討する。
申立費用だけでなく,短期間での書面作成,審尋への対応,担保,執行,本案訴訟及び取消し後の返還可能性まで含めて負担を比較する。
相手方に支払能力がなく,命令を得ても現実に回収できない可能性が高い場合は,仮処分の有効性自体を点検する必要がある。

第8 取消し,返還,本案訴訟及び期間制限

1 本案の訴えを求められたときは期間管理が要る

民事保全法37条により,債務者が起訴命令を申し立てると,裁判所は債権者に本案訴訟の提起等を命じ,その期間は2週間以上とされる。
所定期間内に本案提起を証する書面を出さなければ,債務者の申立てにより保全命令が取り消される。
また,被保全権利又は保全の必要性が消滅する等の事情変更があれば同法38条,債務者に償うことができない損害を生ずるおそれ等の特別事情があれば同法39条による取消しが問題となる。

2 却下・異議等には2週間の不変期間がある

申立てを却下された債権者の即時抗告は,民事保全法19条により告知を受けた日から2週間の不変期間内に行う必要がある。
保全異議又は保全取消しに関する裁判への保全抗告も,同法41条により原則として送達を受けた日から2週間の不変期間内である。
送達又は告知を受けた時点で,対象となる裁判,申立権者及び期限の起算日を確認する必要がある。

3 命令が取り消されると返還が問題になる

民事保全法33条は,仮処分命令によって債権者が金銭の支払を受けた後,保全異議により仮処分命令が取り消される場合,裁判所が金銭の返還を命ずることができると定めている。
最高裁昭和63年3月15日第三小法廷判決(昭和58年(オ)第1406号仮払金返戻請求事件・民集42巻3号170頁)は賃金仮払いの事案であり,交通事故の判断ではないが,仮処分命令が控訴審で取り消された場合,特段の事情がない限り仮払金返還請求権が発生し,返還義務の範囲は不当利得の規定に準じて定めると判示した。
受領した仮払金を生活費等に使ったとしても返還問題がなくなるとは限らないため,本案で認められる見込みと返還時の資金手当ても検討する必要がある。

4 損害賠償請求権と自賠責請求権の時効を別に管理する

民法724条及び724条の2により,人の生命又は身体を害する不法行為の損害賠償請求権は,原則として損害及び加害者を知った時から5年,不法行為の時から20年で時効消滅する。
これに対し,自動車損害賠償保障法19条は,同法16条1項の被害者請求権及び17条1項の仮渡金請求権について,損害及び保有者を知った時から3年と定めている。
事故時期,後遺障害の起算点,完成猶予・更新及び経過措置により結論が変わるため,保険会社との協議中であることだけを理由に期限管理を止めてはならない。

第9 申立てへ進む条件と見送る条件

1 申立てを具体化しやすい条件

次の事情がそろうほど,仮払い仮処分を具体的に検討しやすい。
① 事故責任,受傷との因果関係及び請求額の基礎を即時に確認できる資料がある。
② 本案判決まで待つと治療・介護又は最低限の生活の維持に具体的な支障が生じる。
③ 内払い,自賠責,公的給付及び自己資金を考慮しても,特定の時期に不足額が残る。
④ 請求額と対象期間が必要性に対応し,既払金との重複がない。
⑤ 担保,審尋,本案訴訟及び返還リスクに対応できる。

2 仮処分を見送って再評価する条件

責任又は因果関係の中心部分を即時に疎明できない場合,資産・世帯収入・保険給付により当面の不足が解消される場合,将来費用の金額又は支払時期が不明な場合,命令を得ても回収可能性が低い場合又は担保・返還リスクが必要額に比べて大きい場合は,直ちに申立てへ進まない選択がある。
その場合は,不足資料の取得,任意の内払い,自賠責請求,社会保険給付又は本案訴訟のうち,何が結論を変えるかを特定して次の手段を選ぶ。
資料を追加しても著しい損害又は急迫の危険を具体化できないときは,仮処分ではなく通常の損害賠償請求として進めることを検討する。

3 相談時に確認する事項

相談時には,①事故日・事故態様・相手方,②傷病名・治療経過・今後の予定,③就労状況と事故前後の収入,④月別の世帯収支・預貯金・借入れ,⑤保険と社会保障給付,⑥既払金の額・日付・費目,⑦内払いの申入れと回答,⑧直近の支払期限,⑨入手済み資料と第三者保有資料,⑩損害賠償請求権・自賠責請求権・不服申立ての期限を確認する。
この確認によって,被保全権利,保全の必要性,請求額,必要資料及び代替手段を同じ時点で評価できる。

第10 出典・参考資料

1 法令

民事保全法(平成元年法律第91号)11条~14条,19条,23条,24条,33条,37条~39条,41条,43条及び52条(e-Gov法令検索,令和8年9月13日確認)
民法(明治29年法律第89号)709条,715条,719条,724条及び724条の2(e-Gov法令検索,令和8年9月13日確認)
民事訴訟法(平成8年法律第109号)5条9号(e-Gov法令検索,令和8年9月13日確認)
自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)3条,16条~19条(e-Gov法令検索,令和8年9月13日確認)
自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)5条及び6条(e-Gov法令検索,令和8年9月13日確認)

2 裁判例

最高裁昭和63年3月15日第三小法廷判決・昭和58年(オ)第1406号仮払金返戻請求事件・民集42巻3号170頁(裁判所ウェブサイト,令和8年9月13日確認)

3 裁判所の手続案内

① 最高裁判所事務総局「民事保全」(制度概要,申立先,費用,必要書類,手続及び不服申立て,令和8年9月13日閲覧)
② 東京地方裁判所民事第9部「保全事件の申立て(電子申立て不可)」(受付,債権者面接,書面提出,費用及び疎明資料に関する東京地裁の案内,令和8年9月13日閲覧)
③ 大阪地方裁判所第15民事部「交通事故事件について」(責任主体,自賠責請求,社会保険及び交通事故関係資料の説明,令和8年9月13日閲覧)

4 文献

① 法務省民事局参事官室編『一問一答 新民事保全法』(商事法務研究会,平成2年)85頁,114頁~115頁,142頁~145頁

5 関連記事

交通事故の慰謝料はいつもらえるか-治療中の自賠責被害者請求・仮渡金・示談成立後の支払と時効(AI作成)
交通事故でも健康保険は使える―第三者行為による傷病届と利用時の注意点(AIリライト)