第1 録音から共有までを別々に確認する
法律相談,顧問先との打合せ又は税務相談でAI議事録を使う場合,録音を認めてもらったことだけで,録音の外部送信,AI処理及び第三者への共有まで認められたと扱わない。
録音,端末からの転送,文字起こし,要約,保存及び共有を工程に分け,それぞれの目的,処理先及び確認者を決める。
以下は通常の相談・打合せを対象とする運用例であり,裁判期日,取調べその他特別な規律のある場面は別に検討する。
AIの利用率又は議事録の作成速度は,個別の記録の正確性を証明しない。
採否を判断する際は,原音声へ戻れること,誤りを直せること及び共有先を制限できることを確認する。
第2 録音の説明と秘密情報の外部処理
1 録音の告知と個人情報保護法上の義務
個人情報保護委員会のFAQ・Q1-10は,通話内容から個人を識別できる場合には個人情報に当たり,利用目的の通知又は公表が必要である一方,同法上,録音している旨を伝える義務まではないと説明する。
この説明は,秘密録音がどの場面でも適法であること,又は弁護士・税理士の守秘義務,契約,プライバシー上の問題がなくなることを意味しない。
相談の場では,記録の目的,AIを使う工程,外部への送信の有無,共有先及び保存方針を事前に説明する運用が望ましい。
録音又は外部AI処理を希望しない人には,手書きメモ等で対応できるようにする。
この説明方法は実務上の提案であり,すべての録音に一律の同意取得義務があるという趣旨ではない。
2 守秘義務と顧客の許諾の範囲
弁護士法23条は,職務上知り得た秘密に関する保持の権利及び義務を定め,税理士法38条は,正当な理由のない業務上の秘密の漏えい又は窃用を禁止する。
国税庁の税理士制度Q&A・問6-24は,正当な理由について,本人の許諾がある場合又は法令に基づく義務がある場合と説明する。
顧客の許諾を確認するときは,「議事録を作る」という目的だけでなく,どの情報をどの事業者がどの目的で扱うかを特定する。
顧客の発言には相手方,従業員又は家族の情報も含まれ得るため,顧客の許諾だけで関係者全員の情報の扱いが解決するとは限らない。
必要な部分だけを処理し,医療,家族関係,資産その他の詳細を不用意に送らない。
第3 自動同期,学習オフ及び削除の確認
1 端末内録音とクラウド処理を区別する
録音時にインターネットへ接続していなくても,後でアプリを開いた時点で外部へ同期するサービスがある。
例えば,GensparkのSecond Brain公式説明では,端末での録音後,アプリへの転送・同期を経て文字起こし及び要約を行い,転送後には端末上の録音ファイルが自動削除されると説明している。
これは提供者の仕様説明であり,クラウド上のデータ,複製又はバックアップまで削除されることの確認ではない。
利用開始前に,録音端末,スマートフォン,AI事業者,会議サービス及び連携先の間のデータの流れを図又は台帳にする。
自動同期,メール・CRM等への連携,共有リンクの初期設定も確認し,外部へ送信する前に対象情報を減らせる工程を設ける。
2 学習に使われないことだけでは足りない
学習オフの設定があっても,文字起こしの処理,保存,保守担当者のアクセス又は再委託先への処理がなくなるわけではない。
個人情報保護委員会の生成AI利用に関する注意喚起は,利用目的との関係及び入力した個人データが機械学習等に利用されないこと等の確認を求めている。
個別サービスについては,契約,設定,保存期間,削除方法,処理国及び再委託先を別に確認する。
同委員会FAQ・Q7-53の「個人データを取り扱わない」クラウドの説明を,外部のAI事業者が内容を処理するサービスへ当然に当てはめない。
委託,第三者提供又は外国での取扱いに関する検討は,実際の処理内容と契約条件に即して行う。
第4 原音声,文字起こし及び要約を分ける
1 原音声の保全と照合箇所
後で説明又は証拠として使う可能性がある録音は,端末の自動削除や加工の前に,適法に取得した原音声を事務所の管理下で保全できるか確認する。
取得日時,録音者,元ファイル,録音の中断及び加工履歴を記録し,保全用複製と作業用複製を分ける。
保存期間は,事件・業務の必要性,契約及び適用される規律に応じて決め,無期限保存を初期設定にしない。
文字起こしでは,話者,否定表現,日付,金額,期限及び固有名詞を原音声と照合する。
聞き取れない部分を文脈だけで補わず,「聞き取り不能」又は確認中と示す。
修正者,修正日及び対応する音声の時刻を残すと,再確認しやすい。
2 発言,要約及び推測を混ぜない
次の例は架空の打合せを用いたものである。
AIが「今月末までに支払うことで合意」と要約しても,原音声が「今月末に支払えるか確認する」であれば,合意の成立を確認した記録へ変えてはならない。
| 記録の種類 | 記載する内容 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 原発言 | 発言内容と音声の時刻 | 原音声と照合する |
| 要約 | 話題と確認済みの結論 | 条件,留保,反対発言の脱落を確認する |
| 担当者の判断 | 法的評価又は税務上の判断 | 発言と区別し,資料と判断理由を示す |
| 未確定事項 | 確認先,担当者及び期限 | 次回確認まで確定扱いしない |
AI議事録は,署名された合意書,承認された反訳書又は証拠評価に代わるものではない。
裁判所へ反訳書を提出する場合の記載事項及び元データの扱いは,反訳書の作り方で整理している。
第5 共有前の確認と誤りが見つかった場合
共有前に,①宛先,②添付又はリンクの権限,③不要な秘密情報,④誤った合意・金額・期限,⑤未確定事項の表示を確認する。
顧客向け要約と事務所内の判断メモを分け,担当者の内部評価を顧客用ファイルへ混入させない。
自動送信を避け,人が承認した版だけを送る運用が考えられる。
共有後に誤りが判明した場合は,原音声と送付済みの版を保全し,修正版の対象箇所,理由及び変更日を示す。
漏えい又は誤共有の疑いがある場合は,共有範囲とアクセス記録を確認し,必要な連絡・報告を検討する。
訂正のために記録を上書きするだけでは,どの版に基づいて行動したか分からなくなる。
事務所全体の許可サービス,入力情報及び事故対応は,法律事務所の生成AI利用ガイドラインの作り方を参照されたい。
税務資料を外部AIへ入力する前の区分は,税理士事務所で生成AIを使うときの入力資料の分け方で説明している。
第6 出典の位置付け
法的義務は上記の法令,行政機関の解釈は個人情報保護委員会のFAQ及び国税庁のQ&Aを根拠とする。
サービスの仕様は提供者の説明に基づくものであり,特定の事務所の契約・設定又は安全性を確認したものではない。
工程の台帳,原音声との照合及び共有前の確認は,これらを踏まえた運用提案である。