目次第1 労働基準法91条が定める二つの上限1 条文と本記事の対象2 「1回の額」と「総額」は別々の上限である3 平均賃金と賃金総額の算定4 計算例第2 「基本給の10%以内」型の規程の点検1 1件の非違行為について月々の割合で減給する定め2 上限を超える定めの効力と罰則3 モデル就業規則の規定例第3 同条の減給に当たる措置と当たらない措置1 職務の変更を伴う格下げと,職務をそのままにした降給2 出勤停止と昇給停止3 遅刻・早退の賃金控除と賞与からの減額第4 同条の制限を受けないことと懲戒処分の相当性第5 関連する山中弁護士ブログの記事第6 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 行政解釈4 公的資料5 文献
第1 労働基準法91条が定める二つの上限
1 条文と本記事の対象
労働基準法91条は,「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」と定めている。
本記事は,同条の「1回の額」と「総額」の意味,平均賃金及び賃金総額の算定方法,並びに同条の制限を受ける措置と受けない措置の区別を,行政解釈に沿って説明するものである。
本記事で取り上げる行政解釈は,旧労働省の通達等であり,厚生労働省労働基準局編『労働基準法解釈総覧(改訂16版)』に収録されているものである。
本記事の記載は,令和8年9月11日時点の法令及び公表資料に基づく。
就業規則に定める制裁は減給に限られない。
「労働基準法の施行に関する件」(昭和22年9月13日発基第17号)は,就業規則に定める制裁は減給に限定されるものではなく,譴責,出勤停止,即時解雇等も,制裁の原因となる事案が公序良俗に反しない限り禁止する趣旨ではないとしている。
常時10人以上の労働者を使用する使用者は,表彰及び制裁の定めをする場合には,その種類及び程度に関する事項を就業規則に記載しなければならない(労働基準法89条9号)。
最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決(フジ興産事件)も,「使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」としている。
2 「1回の額」と「総額」は別々の上限である
同条の上限は二つある。
一つは,1回の減給の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならないという上限であり,もう一つは,1賃金支払期の減給の総額がその期の賃金総額の10分の1を超えてはならないという上限である。
二つの関係について,行政解釈は,「法第九十一条は、一回の事案に対しては減給の総額が平均賃金の一日分の半額以内、又一賃金支払期に発生した数事案に対する減給の総額が、当該賃金支払期における賃金の総額の十分の一以内でなければならないとする趣旨である。」としている(昭和23年9月20日基収第1789号)。
この解釈例規の問いは,1件の非違行為について日を替え,又は月を替えれば減給を繰り返せるのではないかというものであった。
回答は,1回の事案に対する減給の総額を平均賃金の1日分の半額以内とするものであるから,1件の非違行為について減給を何回かに分け,又は複数の月にわたって続けても,その合計は平均賃金の1日分の半額を超えられない。
「10分の1」は,1賃金支払期に複数の非違行為があり,それぞれについて減給する場合に,その合計を抑える上限である。
3 平均賃金と賃金総額の算定
平均賃金は,算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を,その期間の総日数で除した金額である(労働基準法12条1項本文)。
賃金締切日がある場合は,直前の賃金締切日から起算する(同条2項)。
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