目次
第1 本人希望の転勤を処理する判断順序第2 会社命令型と本人希望型を区別する1 異動の名称ではなく実質で分類する2 本人に希望勤務地への異動請求権が当然に生じるわけではない第3 現行規程に区別がなければ個別除外は慎重に行う1 就業規則の文言・目的・運用を確認する2 就業規則より不利な個別合意には労働契約法12条がある第4 将来に向けた本人希望型制度は別建てできる1 申請制度と会社命令制度を別章又は別規程にする2 就業規則の変更手続と既存社員への適用を分ける第5 管理職だけを会社命令型の対象とする場合1 「管理職」を客観的に定義する2 管理職限定だけで全ての差が正当化されるわけではない3 差別的取扱いとキャリア機会を点検する第6 手当・旅費・社宅に差を設ける基準1 給付の目的を分解する2 労働法上の支給義務と税務上の取扱いを分ける第7 会社都合と本人都合が混在する場合第8 規程と書式の条項例1 定義条項2 申請と決定3 労働条件の確認4 費用と手当第9 運用に必要な書類第10 制度改定の確認事項第11 出典・参考資料1 法令2 裁判例3 行政資料
第1 本人希望の転勤を処理する判断順序
本人が勤務地の変更を希望した場合でも,申出だけで転勤が成立するわけではない。
労働契約,就業規則及び労働協約を確認した上で,会社が人員配置上の必要性,受入部署,職務内容及び労働条件を検討し,異動を決定する必要がある。
その際は,次の順序で整理すると,異動の可否と手当の有無を混同しにくい。
①現在の就業規則・赴任旅費規程・社宅規程が,本人希望の転勤を適用対象から外しているかを確認する。
②異動の主たる目的が会社の業務上の必要にあるのか,本人の生活上又はキャリア上の希望にあるのか,双方にあるのかを記録する。
③現行規程を適用する事案か,将来に向けて別制度を設けるべき事案かを分ける。
④異動の決定と,赴任旅費,社宅,支度金,単身赴任手当等の給付決定を別々に行う。
⑤労働条件の変更,税務,社会保険,給与控除及び差別的取扱いの問題を個別に確認する。
本記事は,本人の申出を契機として同一使用者内で勤務地を変更する場面を対象とする。
使用者が一方的に命じる転勤の有効性は,配転命令(転勤命令)の有効性―就業規則の根拠,職種・勤務地の限定合意と東亜ペイント事件の判断枠組み(AI作成)で扱っている。
第2 会社命令型と本人希望型を区別する
1 異動の名称ではなく実質で分類する
「転勤希望制度」「自己都合転勤」「社内公募」等の名称だけで法的性質は決まらない。
申出の端緒,会社側の配置上の必要性,候補者の選定,異動を断った場合の取扱い及び費用負担を総合して分類する。
類型主な特徴記録すべき事項会社命令型会社の業務上の必要に基づき,対象者と勤務地を会社が選ぶ必要性,人選理由,発令日,赴任日,負担軽減措置本人希望型本人が生活上又はキャリア上の理由で申し出て,会社が受入れの可否を判断する申出理由,受入条件,撤回期限,労働条件への同意社内公募型募集条件を示して応募を受け,選考後に会社が異動を決定する募集要項,選考基準,合否,異動条件混合型本人の希望と会社の業務上の必要が併存する各目的の比重,会社が求めた条件,費用ごとの負担理由
会社が本人の希望を受け入れた後に正式な異動命令を出したというだけで,全ての費用が当然に会社命令型になるわけではない。
反対に,会社が欠員補充や育成のために積極的に異動を求めながら,申請書に本人が署名したことだけを理由に本人希望型とすることも適切ではない。
2 本人に希望勤務地への異動請求権が当然に生じるわけではない
一般に,労働契約又は社内制度に特別の定めがなければ,労働者が希望した勤務地へ異動させることを会社に当然に請求できるわけではない。
会社は,欠員,受入部署の業務,必要な技能,賃金・等級,通勤可能性及び他の従業員との公平を検討して,申出を承認しないことができる。
ただし,配偶者の転勤,子の養育,家族の介護,治療その他の事情を申告した労働者については,適用される法令,休業・短時間勤務等の制度及び社内規程を確認し,申出を検討した経過を残すことが望ましい。
第3 現行規程に区別がなければ個別除外は慎重に行う
1 就業規則の文言・目的・運用を確認する
赴任旅費規程や社宅規程が「会社の命による転勤」だけを対象と明記している場合は,その要件への該当性を検討する。
これに対し,規程が単に「転勤した社員」「転居を伴う人事異動」等を対象とし,本人希望型を除く文言を置いていない場合は,本人の希望が契機であったことだけを理由に全ての手当を外すことは慎重に考える必要がある。
規程の対象は,条文だけでなく,制定目的,関係条項,従来の説明及び運用を踏まえて解釈される。
会社が想定していなかった類型であっても,現行文言がその類型を含むなら,今回だけ適用外とするのではなく,現行規程を適用した上で将来の制度を改めることを検討する。
2 就業規則より不利な個別合意には労働契約法12条がある