年次有給休暇に関するメモ書き


目次
第1 総論
1 年次有給休暇の付与
2 時季指定権及び時季変更権
3 不利益取扱いの禁止
第2 労働者の時季指定権
1 総論
2 労働者の時季指定権の限界
3 その他
第3 使用者の時季指定義務及び計画年休
1 使用者の時季指定義務
2 年次有給休暇の計画的付与
3 その他
第4 使用者の時季変更権
1 総論
2 勤務割による勤務体制が取られている場合の時季変更権
3 使用者の時季指定権行使を適法とした最高裁判例
第5 年次有給休暇の賃金及び買取
1 年次有給休暇の賃金
2 年次有給休暇の買取
第6 年次有給休暇と休業補償給付及び傷病手当金との関係

1 年次有給休暇と休業補償給付との関係
2 年次有給休暇と傷病手当金との関係
第7 関連記事その他

第1 総論
1 年次有給休暇の付与
(1) 雇入れの日から6か月間継続勤務し,全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては最低10日の年次有給休暇を与える必要があります(労働基準法39条1項)。
(2) 通常の労働者の年次有給休暇の日数は、その後、勤続年数が1年増すごとに所定の日数を加えた年次有給休暇を付与しなければならないのであって,勤続6年半以上の場合,毎年20日の年次有給休暇を与える必要があります(労働基準法39条2項)。 
2 時季指定権及び時季変更権

・ 年次有給休暇は,計画的付与の場合を除き,労働者の請求する時季に与えなければなりません。ただし,労働者が請求した時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては,使用者は他の時季に変更することができます(労働基準法39条5項)。
3 不利益取扱いの禁止
・ 年次有給休暇を取得した労働者に対して,賃金の減額や精皆勤手当,賞与の額の算定に際しての年次有給休暇取得日を欠勤として取扱う等の不利益な取扱いをしてはなりません(労働基準法附則136条)。

第2 労働者の時季指定権
1 総論
(1) 休暇の時季指定の効果は,使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって,年次休暇の成立要件として,労働者による「休暇の請求」や,これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はありません。
    そのため,労働基準法39条に基づき,労働者が,その有する年次有給休暇の日数の範囲内で,始期と終期を特定して休暇の時季指定をしたときは,客観的に同条5項ただし書所定の事由が存在し,かつ,これを理由として使用者が時季変更権の行使をしない限り,右の指定によって年次有給休暇が成立し,当該労働日における就労義務が消滅します(最高裁昭和48年3月2日判決)。
(2) 年次有給休暇における休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり,休暇をどのように利用するかは,使用者の干渉を許さない労働者の自由である(最高裁昭和48年3月2日判決)ものの,時季指定権の行使が権利の濫用として無効とされるとき場合,年次有給休暇の自由利用の原則が問題とされる余地はありません(東京高裁平成11年4月20日判決)。
(3) 年次有給休暇は,1日単位で与えることが原則ですが,労使協定を結べば,1時間単位で与えることができます(ただし,上限は1年で5日分までです)(労働基準法39条4項)
2 労働者の時季指定権の限界 
(1) 労働者が請求していた年次有給休暇の時季指定日に,たまたまその所属する事業場において予定を繰り上げてストライキが実施されることになり,当該労働者が,右ストライキに参加しその事業場の業務の正常な運営を阻害する目的をもって,右請求を維持して職場を離脱した場合には,右請求に係る時季指定日に年次有給休暇は成立しません(最高裁平成3年11月19日判決)。
(2) 労基法39条5項は,労働者の時季指定権に対抗するための手段として,使用者に対して時季変更権を付与しているにとどまり,使用者としては,時季指定権の行使に対しては,常に時季変更権によって対抗することができるだけであるという趣旨まで含むものではありません(東京高裁平成11年4月20日判決)。
3 その他
・ 会社の業務として実施される社員旅行を休む場合,年次有給休暇を取得するのが普通であると思います。

第3 使用者の時季指定義務及び計画年休
1 使用者の時季指定義務
    年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものなので、使用者が一方的に取得させることはできません(厚生労働省HPの「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」の4の問9の答え参照)。
    ただし,平成31年4月から,全ての企業において,年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して,年次有給休暇の日数のうち年5日については,使用者が時季を指定して取得させることが必要となりました(厚生労働省HPの「年次有給休暇の時季指定義務」参照)。
(2) 年次有給休暇を5日以上取得済みの労働者に対しては,使用者による時季指定は不要です(労働基準法39条8項)。
2 年次有給休暇の計画的付与
(1) 年次有給休暇の付与日数のうち,5日を超える部分については,労使協定を結べば,計画的に年次有給休暇の取得日を割り振ることができます(労働基準法39条6項)。
(2) 年次有給休暇の計画的付与のパターンとしては,①会社単位で取得する方法(一斉付与方式),②組織単位で取得する方法(交替制付与方式)及び③個人単位で取得する方法(個人別付与方式)があります。
(3) 自由参加の社員旅行を計画年休日に実施すれば,年5日の年次有給休暇の確実な取得に資すると思います。
3 その他 
・ 厚生労働省HPに「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説 2019年4月施行」が載っています。

第4 使用者の時季変更権
1 総論
(1) 労働者から指定された時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合,その時季を変更することができます(労働基準法39条5項ただし書)ところ,「事業の正常な運営を妨げる」か否かは,当該労働者の所属する事業場を基準として判断されます(最高裁昭和48年3月2日判決)。
(2) 労働者の指定した年次有給休暇の期間が開始し又は経過したのちに使用者が時季変更権を行使した場合であっても,労働者の右休暇の請求がその指定した期間の始期にきわめて接近してされたため使用者において時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかったようなときには,客観的に右時季変更権を行使しうる事由があり,かつ,その行使が遅滞なくされたものであれば,適法な時季変更権の行使があったものとしてその効力が認められます(最高裁昭和57年3月18日判決)。
2 勤務割による勤務体制が取られている場合の時季変更権
(1)  郵政事業に勤務する職員の年次有給休暇のうち,所属長が年度の初頭において職員の請求により業務の繁閑等をしんしゃくして各人別に決定した休暇付与計画による休暇についての年度の途中における時季変更権の行使は,計画決定時には予測できなかった事態発生の可能性が生じた場合において,かつ,右事態発生の予測が可能になってから合理的期間内に限り,許されます(最高裁昭和58年9月30日判決)。
(2) 勤務割による勤務体制がとられている事業場において,勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合に、使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしなかった結果,代替勤務者が配置されなかったときは,必要配置人員を欠くことをもって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできません(最高裁平成元年7月4日判決。なお,先例として,最高裁昭和62年7月10日判決及び最高裁昭和62年9月22日判決参照)。
3 使用者の時季指定権行使を適法とした最高裁判例
① 最高裁平成元年7月4日判決は,勤務割による勤務予定日についての年次休暇の時季指定に対し使用者が代替勤務者確保のための配慮をせずにした時季変更権の行使が適法とされた事例です。
② 最高裁平成4年6月23日判決は,「通信社の記者が始期と終期を特定して休日等を含め約一箇月の長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をしたのに対し使用者が右休暇の後半部分についてした時季変更権の行使が適法とされた事例」です。
③ 事業遂行に必要な技術者の養成と能力向上を図るため,各職場の代表者を参加させて,一箇月に満たない比較的短期間に集中的に高度な知識,技能を修得させ,これを職場に持ち帰らせることによって,各職場全体の業務の改善,向上に資することを目的として行われた訓練の期間中に,訓練に参加している労働者から年次有給休暇が請求されたときは,使用者は,当該休暇期間における具体的な訓練の内容がこれを欠席しても予定された知識,技能の修得に不足を生じさせないものであると認められない限り,事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使することができます(最高裁平成12年3月31日判決)。

第5 年次有給休暇の賃金及び買取
1 年次有給休暇の賃金
・ 年次有給休暇に対しては,原則として,①労働基準法で定める平均賃金,②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金,③健康保険法に定める標準報酬月額の30分の1に相当する金額のいずれかを支払う必要があり,いずれを選択するかについては,就業規則などに明確に規定しておく必要があります。なお,③による場合,労使協定を締結する必要があります(労働基準法39条9項)。
2 年次有給休暇の買い取り

(1) 有給休暇の買い取りは原則として禁止されているのであって,例外的に認められるのは以下の三つのケースです(HRソリューションラボHPの「有給休暇の買取は原則NG!例外で認められるケースとそのルールを解説」参照)。
① 法律で定められた日数を上回る有給休暇
② 退職時に残っている有給休暇
③ 時効により消滅した有給休暇
(2) 賃金請求権の消滅時効が3年になった令和2年4月以降についても,年次有給休暇の消滅時効は2年です。


第6 年次有給休暇と休業補償給付及び傷病手当金との関係
1 年次有給休暇と休業補償給付との関係
・ 労働災害無料相談金沢HP「労災の休業補償のポイントと注意点【弁護士が解説】」には以下の記載があります(休業補償給付が支給されるのは休業4日目からです。)。
    休業補償給付を受け取るケースでも「年次有給休暇」を使うことは可能です。
    休業補償給付からは賃金の80%までしか支給されないので、年次有給休暇によって100%の賃金をもらえればメリットはあるといえます。
    もっとも,休業補償給付の対象日を年次有給休暇として扱ってしまうと,休業補償給付の支給対象外になってしまうので,年次有給休暇を利用するのか,労災の休業補償給付を利用するのかを,よく検討する必要があります。
2 年次有給休暇と傷病手当金との関係
(1) 業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)の後,4日目以降の仕事に就けなかった日に対しては,傷病手当金が支給されます(協会けんぽHPの「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」参照)。
(2) 傷病手当金の支給条件の一つに「休業期間に給与支払いがされてないこと」とあります(健康保険法108条)から,有給休暇と傷病手当金の両方を受け取ることはできません。

第7 関連記事その他
1 厚生労働省HPに「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」が載っています。
2 年次有給休暇の基準日を個々の労働者の採用日に関係なく統一的に定めることもできますところ,この場合,勤務期間の切捨ては認められず,常に切り上げる必要があります。
3 無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は,労働基準法39条1項及び2項における年次有給休暇権の成立要件としての全労働日に係る出勤率の算定に当たっては,出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれます(最高裁平成25年6月6日判決)。
4 公休とは,会社が社員に対して与えている「労働義務のない休み」のことであって,一般的な「週休二日制」で与えられる休日がこの公休に該当します(jinjerBlogの「公休とは?パート・アルバイトの公休の扱いなどの基礎知識を解説」参照)。
5(1) 会社を休みにした上で自由参加の社員旅行を実施する場合,公休日に実施するわけですから,そもそも社員旅行に参加するのに有給を使う必要はありません。
(2) 労使協定に基づく会社の計画年休日に社員旅行を実施する場合,社員旅行に参加するかどうかにかかわらず,すべての社員が有給を使用することになります。
6 交通事故によって長期間にわたり会社を休まざるを得なくなった場合,8割以上の出勤の条件を満たすことができず,有給休暇の付与を受けることができない可能性がありますところ,大阪地裁平成20年9月8日判決(判例秘書に掲載)は有給休暇の減少分を交通事故と相当因果関係のある損害として認めています。
7 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き


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