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労働者名簿,賃金台帳及び記録の保存(AIリライト)

第1 制度の概要と本記事の基準日

1 本記事の対象

本記事は,使用者が作成する労働者名簿及び賃金台帳の対象者,記載事項,様式,電子化並びに労働関係記録の保存期間を説明するものである。
内容は,令和8年9月2日現在の労働基準法及び労働基準法施行規則に基づく。

2 各事業場ごとの作成義務

使用者は,労働者名簿及び賃金台帳を,企業全体で一つではなく各事業場ごとに調製しなければならない(労働基準法107条及び108条)。
労働者名簿は日々雇い入れられる者を作成対象から除くのに対し,賃金台帳は日々雇い入れられる者についても作成する点が異なる。

第2 労働者名簿

1 作成対象と訂正義務

使用者は,各事業場ごとに,日々雇い入れられる者を除く各労働者について労働者名簿を調製しなければならない(労働基準法107条1項)。
記載事項に変更があった場合には,遅滞なく訂正しなければならない(同条2項)。

2 記載事項

労働者名簿の記載事項は,次のとおりである(労働基準法107条1項,労働基準法施行規則53条1項及び様式第19号)。
① 氏名
② 生年月日
③ 履歴
④ 性別
⑤ 住所
⑥ 従事する業務の種類
⑦ 雇入れの年月日
⑧ 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇である場合は,その理由を含む。)
⑨ 死亡の年月日及びその原因

常時30人未満の労働者を使用する事業では,⑥の従事する業務の種類を記載する必要はない(労働基準法施行規則53条2項)。

第3 賃金台帳

1 作成及び記入の時期

使用者は,各事業場ごとに賃金台帳を調製し,賃金計算の基礎となる事項,賃金額その他の法定事項を,賃金支払の都度,遅滞なく労働者各人別に記入しなければならない(労働基準法108条及び労働基準法施行規則54条1項)。
給与計算システムにデータが存在するだけでは足りず,法定事項を各労働者について確認できる賃金台帳として整える必要がある。

2 記載事項

賃金台帳の記載事項は,次のとおりである(労働基準法施行規則54条1項)。
① 氏名
② 性別
③ 賃金計算期間
④ 労働日数
⑤ 労働時間数
⑥ 時間外労働時間数,休日労働時間数及び深夜労働時間数
⑦ 基本給,手当その他賃金の種類ごとの額
⑧ 労働基準法24条1項に基づいて賃金の一部を控除した場合は,その額

3 記載事項の例外及び補充

就業規則において労働基準法と異なる所定労働時間又は休日を定めた場合には,⑥の時間数について,就業規則に基づいて算定する時間数を記載することができる(労働基準法施行規則54条2項)。
この取扱いは,同項の要件を満たす場合に限られ,単に所定労働時間だけを記載すれば実際の時間外労働等を記録しなくてよいという意味ではない。

通貨以外の物で支払う賃金がある場合には,その評価総額を記載しなければならない(労働基準法施行規則54条3項)。
日々雇い入れられる者のうち1か月を超えて引き続き使用される者以外については,賃金計算期間の記載を要しない(同条4項)。
労働基準法41条各号に該当する労働者及び高度プロフェッショナル制度の対象労働者については,労働時間数並びに時間外・休日・深夜労働時間数の記載を要しない(労働基準法施行規則54条5項)。

4 様式と一体調製

常時使用される労働者(1か月を超えて引き続き使用される日々雇い入れられる者を含む。)には様式第20号を用い,その他の日々雇い入れられる者には様式第21号を用いる(労働基準法施行規則55条)。
ただし,法定様式は必要事項の最小限度を定めるものであり,必要事項を満たす限り,横書き,縦書きその他の異なる様式を用いることができる(労働基準法施行規則59条の2第1項)。

使用者は,年次有給休暇管理簿,労働者名簿及び賃金台帳を一体の帳簿として調製することができる(労働基準法施行規則55条の2)。

第4 電子データによる作成及び保存

1 電子化に必要な機能

労働者名簿,賃金台帳その他の労働関係記録は,電子データで作成し,保存することができる。
もっとも,法定事項を備え,画面表示及び印字ができ,労働基準監督官の臨検時等に直ちに必要事項を明らかにして提出できることに加え,誤消去を防止し,必要な期間にわたって保存できるシステムである必要がある。

2 本社等で一括管理する場合

本社,支店,工場等の複数の事業場がある場合に,本社等で電子データを一括して作成し,保存すること自体は差し支えない。
ただし,各事業場の閲覧又は提出が必要になったときに,その事業場のデータを直ちに取り出せるようにしておく必要がある。

第5 労働関係記録の保存

1 保存対象

使用者が保存しなければならないのは,①労働者名簿,②賃金台帳,③雇入れに関する書類,④解雇に関する書類,⑤災害補償に関する書類,⑥賃金に関する書類及び⑦その他労働関係に関する重要な書類である(労働基準法109条)。
厚生労働省のQ&Aは,雇入れに関する書類の例として雇入決定関係書類,契約書及び労働条件通知書,解雇に関する書類の例として解雇決定関係書類,解雇予告除外認定関係書類及び予告手当又は退職手当の領収書を挙げている。
同Q&Aは,その他労働関係に関する重要な書類の例として,出勤簿,タイムカード等の労働時間記録,残業命令書及びその報告書,退職,休職及び出向に関する書類並びに事業内貯蓄金関係書類等を挙げている。

2 5年と3年の関係

労働基準法109条の本則は,保存期間を5年間としている。
しかし,労働基準法附則143条1項は,当分の間,同条の「五年間」を「三年間」と読み替えるため,令和8年9月2日現在,実際に適用される法定保存期間は3年間である。

3年間は現時点の最低限の法定期間であり,本則が5年間であることと矛盾するものではない。

3 保存期間の起算日

保存期間の起算日は,次のとおりである(労働基準法施行規則56条1項)。
① 労働者名簿は,労働者の死亡,退職又は解雇の日
② 賃金台帳は,最後の記入をした日
③ 雇入れ又は退職に関する書類は,労働者の退職又は死亡の日
④ 災害補償に関する書類は,災害補償を終えた日
⑤ 賃金その他労働関係に関する重要な書類は,その完結の日

賃金台帳又は賃金その他労働関係に関する重要な書類について,その記録に係る賃金の支払期日が上記②又は⑤の日より遅い場合には,その支払期日が起算日となる(労働基準法施行規則56条2項)。
例えば,賃金計算期間が当月1日から末日までで,支払期日が翌月10日である場合,タイムカード等の賃金計算に係る記録は翌月10日から保存期間を計算する。

4 3年を超える保存の検討

法定の最低保存期間が3年であることは,3年経過後にすべての記録を直ちに廃棄すべきことを意味しない。
退職手当の請求権の消滅時効,時効の更新,労使間の紛争,他の法令による保存義務及び社内の文書管理基準等により,3年を超えて記録が必要になることがあるため,廃棄前に記録ごとの必要性を確認する必要がある。

第6 違反に対する罰則

1 30万円以下の罰金

労働基準法107条から109条までに違反した者は,30万円以下の罰金に処せられる(労働基準法120条1号)。

2 事業主に対する両罰規定

違反行為者が事業主のために行為した代理人,使用人その他の従業者である場合には,原則として事業主にも罰金刑が科される(労働基準法121条1項)。

第7 関連記事

労働基準法に関するメモ書きでは,労働基準法上の他の制度及び実務上の留意点を掲載している。

第8 出典・参考資料

1 法令

① e-Gov法令検索「労働基準法
② e-Gov法令検索「労働基準法施行規則

2 厚生労働省資料

① 厚生労働省「改正労働基準法等に関するQ&A」5頁~8頁
② 厚生労働省「賃金台帳等の労働契約関係の書類の保存期間は何年ですか?
③ 厚生労働省「労務関係の書類をパソコンで作成して保存したいのですが,可能でしょうか。」(電子保存の要件に関する説明を参照。保存期間の記述は法改正前の内容である。)
④ 長野労働局「働く人のための労働条件ハンドブック2026」8頁~11頁
⑤ 厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)

3 関連記事

① 山中弁護士ブログ「労働基準法に関するメモ書き

② 山中弁護士ブログ「賃金・残業代の消滅時効は3年か5年か―労働基準法115条・附則143条の読替えと撤廃論議