質問主意書とは,国会開会中に,衆議院議員又は参議院議員が各議院の議長を経由して,内閣に文書で質問する制度である。
議員1人でも提出できるが,議長の承認が必要であり,内閣は質問主意書を受け取った日から原則として7日以内に答弁しなければならない。
本記事では,質問と質疑の違い,提出から答弁までの手続,7日間の数え方,答弁書の作成過程,衆議院議院運営委員会理事会の合意,法務省の手引き及び質問主意書・答弁書の探し方を,現行法令と公的資料に基づいて整理する。
第1 質問主意書の意味と制度上の位置付け
1 質問主意書とは何か
参議院の公式解説によれば,質問主意書は,国会議員が国会開会中に議長を経由して内閣に対し文書で質問するための文書である。
質問主意書には,議員立法のような賛成者要件がなく,議長の承認を前提として議員1人でも提出できる。
本会議又は委員会の質疑時間は,会派の議員数等による制約を受けることがあるため,質問主意書は,少数会派又は会派に属しない議員が政府見解を確認するためにも利用される。
2 「質問」と「質疑」の違い
国会実務上の「質問」は,議題と関係なく,国政一般について内閣に事実の説明を求め,又は所見をただす行為である。
これに対し,「質疑」は,その時点の議題について疑義をただす行為であり,原則として口頭で行われる。
質問主意書は,前者の「質問」を原則として書面で行うための文書であり,本会議又は委員会における質疑とは対象及び手続が異なる。
3 国政調査権との違い
質問主意書は,議員個人が議長の承認を得て行使する質問権の一形態であり,議院又は委員会が行使する日本国憲法62条の国政調査権そのものではない。
もっとも,いずれも政府統制及び行政監視に関係し,質問主意書が本会議,委員会又は国政調査権に基づく調査を補完することはある。
第2 提出から答弁までの法定手続
1 国会法74条から76条まで
(1) 議長の承認と内閣への転送
e-Gov法令検索の国会法74条は,各議院の議員が内閣に質問するときは議長の承認を要し,質問は簡明な主意書を作って議長に提出しなければならないと定めている。
議長又は議院が承認した質問については,議長が質問主意書を内閣に転送する(国会法75条1項)。
議長が承認しなかった場合には,提出議員による異議申立て,議院への付議及び,提出議員から要求があった場合の会議録掲載という手続が国会法74条3項及び4項に置かれている。
(2) 7日以内の答弁と期限の延長
内閣は,質問主意書を受け取った日から7日以内に答弁しなければならない(国会法75条2項前段)。
その期間内に答弁できない場合には,内閣は,その理由と答弁できる期限を明示しなければならない(同項後段)。
したがって,「7日以内」は基本となる答弁期限であるが,国会法自体が,理由と新たな期限を示すことによる延長を予定している。
(3) 緊急質問と口頭答弁
質問が緊急を要するときは,議院の議決により口頭で質問することができる(国会法76条)。
これは,議員が質問主意書を提出する通常の書面質問とは異なり,議院の議決を要する例外的な手続である。
2 7日間の数え方
国会法133条は,同法及び各議院の規則による期間を当日から起算すると定めている。
そのため,国会法75条2項の7日間は,内閣が質問主意書を受け取った日を第1日として数える。
国会法には土曜日,日曜日及び祝日を除外する規定がないため,この期限は7開庁日ではなく,休日を含む7日間である。
なお,法務省の「質問主意書関係事務の手引き」によれば,質問主意書は,議長の承認を得る前に,答弁準備の時間を確保するため便宜的に各府省へ事前送付されることがある(仮転送)。この場合でも,7日の起算日は仮転送の日ではなく,議長の承認を経て内閣に送付された日(正式転送の日)である。
3 衆議院規則と参議院規則
(1) 衆議院規則
衆議院規則158条は,承認された質問主意書及び答弁書を,電磁的記録の提供その他の適当な方法により各議員へ提供すると定めている。
答弁書が要領を得ない場合,質問者は更に質問主意書を提出できる(同規則159条)。
また,内閣は質問に口頭で答弁でき,質問者はその答弁に対して更に口頭で質問できる(同規則160条)。
(2) 参議院規則
参議院規則153条は,承認された質問主意書及び答弁書を,電磁的記録の提供その他の適当な方法により各議員へ提供すると定めている。
同規則154条は,内閣による口頭答弁及び質問者による更なる口頭質問を定めている。
なお,衆議院規則159条に相当する再質問主意書の明文規定は,参議院規則には置かれていない。
第3 質問できる事項と答弁の限界
1 国政一般を対象とするが制約がある
質問主意書は,委員会の議題に限定されず,国政一般について内閣の見解を求めることができる。
もっとも,議長の承認が必要であり,何を記載しても当然に受理される制度ではない。
参議院の公式解説は,議院の品位を傷つける質問主意書及び単に資料を求める質問主意書は認められないなど,一定の制約があると説明している。
2 資料要求と回答困難事由
平成20年4月4日付の政府答弁書は,衆議院において,単に資料を求めるための質問主意書は受理しないとの先例があると政府が承知している旨を説明している。
同答弁書は,質問事項の調査が膨大な作業を要する場合には,回答が困難である旨を答弁することがあるとも述べている。
なお,同答弁書が挙げる個人情報,所管外事項,他国との信頼関係及び捜査の具体的内容は,質問主意書そのものの一律の不答弁事由ではなく,国会議員からの資料要求に応じない合理的理由の例示である。
3 答弁書の法的位置付け
質問主意書に対する答弁書は,内閣として答弁するために閣議決定される,当該質問に対する政府の公式な回答である。
もっとも,答弁書は法律,政令,省令又は裁判所の判決ではなく,それ自体が国民又は裁判所を一般的に拘束する法規範ではない。
答弁書を利用するときは,「政府は当該答弁書でこのように説明した」と位置付け,法令の客観的意味又は裁判例の判示事項と区別する必要がある。
第4 答弁書の作成過程
1 一般的な流れ
(1) 担当府省庁への回付と案文作成
令和3年5月14日付の政府答弁書によれば,内閣官房は,議長から転送された質問主意書を質問内容に関係する府省庁等へ回付する。
回付を受けた府省庁等は答弁書の案文を作成し,必要な関係府省庁等との協議を経て成案を得る。
質問の内容によって担当部局及び協議先は異なるため,特定の事例における協議先をすべての答弁書に一般化することはできない。
(2) 内閣法制局の審査と閣議決定
各府省庁等で作成された案文は,内閣法制局の審査を経る。
成案となった答弁書は,内閣として答弁するために閣議で決定され,内閣総理大臣から当該議院の議長へ送付される。
この一般的な流れは,参議院の公式解説にも明記されている。
2 令和3年の政府答弁書が示す具体例と件数
令和3年5月14日付の政府答弁書が取り上げた具体例では,内閣官房が法務省,外務省,財務省及び厚生労働省と協議し,内閣法制局の検討を経た後,内閣総理大臣が内閣法4条に基づいて答弁書を閣議に付議している。
同答弁書によれば,平成18年1月1日から令和3年5月11日までに,通常の7日以内に答弁した件数は約1万2200件であり,期限を延長して答弁した件数は約1600件である。
これらの数値は同期間の政府集計であり,現在の累計件数又は最近の増減を示す統計ではない。
3 平成20年の研究論文の読み方
田中信一郎「質問主意書の答弁書作成過程」は,衆参各院での受理,担当府省の割振り,府省内外の調整,内閣法制局の審査及び閣議決定までを詳しく調査した論文である。
ただし,同論文は2008年当時の事務次官等会議を含む作成過程を記述したものであるため,現在の一般的な作成過程は,参議院の現行解説及び令和3年の政府答弁書によって確認する必要がある。
4 法務省の手引きに見る作成事務の具体像
法務省が作成した「質問主意書関係事務の手引き」は,答弁書作成の内部事務を具体的に説明している。同手引きは法務省の事務を整理した資料であり,政府全体を拘束する規程ではないが,答弁書が閣議決定に至るまでの作業を知る手掛かりになる。
一つの質問主意書が複数の府省に関係する場合には,内閣官房が問ごとに担当府省を割り付け,最も多くの問を担当する府省が取りまとめを行う。割振りに異論がある府省は,短時間のうちに内閣官房へ意見を述べる扱いとされている。
取りまとめ府省が作成した答弁書の案文は,内閣法制局第一部(国会提出予定の法案又は直近2年以内に成立した法律等に関わるものは第二部)の審査,府省内の決裁及び内閣総務官室の審査を経て,閣議請議に至る。閣議に付される際,政府として初めて見解を示すものや従来の方針を変更するものは全大臣が署名する「一般案件」,従来の方針に変更のないものは内閣総理大臣限りの署名とする「配布案件」として扱われ,実際にはその大半が配布案件として閣議に付される。
第5 衆議院議院運営委員会理事会における合意
1 平成16年8月6日の理事会合意メモ
衆議院議院運営委員会理事会における合意は,質問主意書制度を,議会の国政に関する調査・監督機能の一つであり,議員に与えられた質問権の一形態であると位置付けている。
同合意は,資料要求など協議の必要があるものを担当理事間で協議し,更に必要があるものを議院運営委員会理事会で協議するものとした。
また,会期末における質問主意書の提出期限を「会期終了日の前日まで」とした。
2 平成18年6月15日の合意
平成18年6月15日の合意は,閣議を経た答弁書の内容に重大な変更が生じた場合,内閣が本院に対して変更内容を適切に説明すべきであるとした。
ただし,内閣が対応すべき「期間及び手続等」については合意に至らず,引き続き協議するものとされた。
同合意は,質問主意書を「簡明かつ短期間」で処理することが想定された制度であることを踏まえ,提出者,議院運営委員会理事会及び内閣が「答弁の質を確保」しつつ円滑な運用に努めるものとした。
また,議長の承認に必要な手続に要する時間を考慮し,会期末の提出期限を会期終了日の2日前までとした。
3 合意の射程と会期末に関する参考投稿
平成16年及び平成18年の合意は,衆議院議院運営委員会理事会の合意であり,参議院の内部手続を直接規律するものではない。
次の投稿は,会期末に質問主意書の提出が増える状況を投稿者が観察したものであるため参考として残すが,法令又は議院先例の根拠には用いない。
国会会期中、議員は質問主意書を出して政府に書面ベースで質問ができるのですが、会期末になるとどさっと質問が出てくる様子。特に衆はその傾向が顕著。
国会議員は、夏休みの宿題を8月の最終週に片づけるタイプが多いと推測。 pic.twitter.com/T6s34xicya
— 国会情報をつぶやくヒツジさん@C101(土)東ポ19a (@KokkaiSheep) December 26, 2022
第6 法務省の手引きと関連資料
1 「質問主意書関係事務の手引き」の位置付け
「質問主意書関係事務の手引き~はじめて主意書を担当する方へ~」は,答弁書作成のスケジュール,担当府省の割振り,内閣法制局審査,省内決裁及び閣議請議を具体的に説明する資料である。
令和2年6月26日付の政府答弁書は,同手引きについて,法務省大臣官房が質問主意書に関する事務として認識する内容を整理したものと説明している。
したがって,同手引きは法務省の内部事務を知るための有用な資料であるが,政府全体を拘束する法令又は統一的な手続規程ではない。
2 開示文書に関する参考投稿
次の投稿は,平成18年1月1日から令和3年5月11日までの質問主意書に関する内閣法制局の開示文書を案内するものであり,資料探索の入口として残す。
平成18年1月1日から令和3年5月11日までの間の質問主意書(内閣法制局の開示文書)を添付しています。 pic.twitter.com/kkOLjvldVU
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) July 2, 2021
同投稿は開示文書への案内であり,記事中の法的説明は,e-Gov,両議院の公式資料及び政府答弁書によって確認している。
3 衆議院事務局の解説動画
衆議院事務局は,質問と質疑の違い,質問主意書の提出から答弁までの流れ等を動画で解説している。
動画は制度の概要をつかむのに適しているが,現行条文の確認にはe-Gov及び各議院の規則を用いる必要がある。
また,国会手続で用いられる用語の概要は,国土交通省大臣官房が作成した国会関係用語集も参考になるが,これは省内限りの資料であり,法令に基づかない経験上の記載も含まれる点に留意を要する。
第7 質問主意書及び答弁書の探し方
1 衆議院及び参議院の公式サイト
衆議院の質問一覧では,国会回次別に,質問主意書,答弁書及び経過情報を確認できる。
参議院ホームページでは,質問主意書・答弁書一覧から,第1回国会以降の質問主意書及び答弁書を国会回次別に確認できる。
検索するときは,質問の題名だけでなく,提出者名,国会回次,質問番号及び答弁日を併せて確認すると,同名又は類似題名の文書を区別しやすい。
2 国会会議録検索システムと研究文献
国会会議録検索システムでは,質問主意書及び答弁書が会議録に掲載された箇所を語句で検索できる。
制度の運用を研究文献から確認する場合には,文献の刊行時点と現在の手続を区別する必要がある。
とりわけ,平成20年の論文に記載された事務次官等会議など,後に廃止又は変更された手続を現行制度として紹介しないよう注意を要する。
第8 出典
1 法令及び議院規則
2 公的資料及び政府答弁書
② 衆議院議院運営委員会理事会における合意(平成16年8月6日及び平成18年6月15日)
③ 衆議院議員丸山穂高君提出質問主意書答弁業務の負担軽減に関する質問に対する答弁書(令和3年5月14日付)
④ 参議院議員浜田聡君提出「質問主意書関係事務の手引き~はじめて主意書を担当する方へ~」に関する質問に対する答弁書(令和2年6月26日付)
⑤ 衆議院議員平野博文君提出閣僚等の答弁・説明義務及び「あたご」事故の調査等に関する質問に対する答弁書(平成20年4月4日付)
⑥ 法務省「質問主意書関係事務の手引き~はじめて主意書を担当する方へ~」
3 研究文献及び書籍
① 田中信一郎「質問主意書の答弁書作成過程」『政治学研究論集』28号,明治大学大学院,2008年,39頁~58頁
② 鴫谷潤・藤田昌三「質問主意書の制度と現状」『立法と調査』146号,参議院事務局,1988年,35頁~41頁
③ 浅野一郎・河野久編著『新・国会事典〔第2版〕』有斐閣,2008年,159頁~160頁
④ 法学書院編集部編『国会職員の仕事がわかる本』法学書院,2000年,59頁~60頁及び65頁~66頁
⑤ 吉田利宏『新法令用語の常識〔第2版〕』日本評論社,2022年,190頁
⑥ 新井誠・曽我部真裕・佐々木くみ・横大道聡『憲法〔第3版〕』日本評論社,2026年,153頁
⑦ 辻村みよ子『憲法〔第8版〕』日本評論社,2025年,392頁
⑧ 田中祥貴『参議院と憲法保障―二院制改革をめぐる日英比較制度論』法律文化社,2021年,16頁
⑨ 西川伸一『内閣法制局―法の番人か?権力の侍女か?』五月書房,2013年,54頁