◯山中弁護士への事件のご依頼・ご相談は「交通事故のお問い合わせ」から可能です。
目次第1 この記事の対象第2 手関節の可動域制限が該当する後遺障害等級1 該当するのは第12級6号である2 上位及び下位の評価3 自賠責保険が労災保険の認定基準に従う仕組み第3 可動域の測り方と4分の3基準の当てはめ1 掌屈と背屈は合計値で評価する2 比較の相手は原則として健側である3 参考可動域角度4 測定は原則として他動運動による5 参考運動(橈屈・尺屈)による救済とその限界第4 前腕の回内・回外は別枠で評価される1 解剖学上の一体性と等級評価上の区別2 準用等級と「いずれか上位」の処理第5 可動域制限の原因を医学的に裏付ける1 器質的損傷の裏付けが認定の前提である2 橈骨遠位端骨折の変形治癒3 見落とされやすい併存病態4 腱断裂5 複合性局所疼痛症候群第6 症状固定及び申請の時期1 抜釘を待つべき場合2 廃用性の機能障害3 測定時期によって数値が動くことへの備え第7 可動域制限が生活動作に及ぼす影響と代償動作1 日常生活動作が要求する可動域2 握力低下の機序3 運動方向ごとの支障4 隣接関節による代償には代価が伴う5 二次障害との因果関係は別に立証する6 ダーツスローモーションと訓練上の留意点第8 裁判例1 掌屈と背屈の合計値で健側と比較し,握力低下は神経症状に含めた例2 参考運動は橈屈と尺屈の合計で判断されている3 参考運動が測定されていないと救済を主張できない4 自賠責保険の非該当認定が訴訟で覆された例5 労災保険の認定を裁判所が採用せず,可動域制限を否定した例6 可動域が4分の3に達しない場合は神経症状として評価される7 回内・回外の制限を含めて一つの等級とした例8 症状固定後の増悪を考慮して自賠責保険の認定を上回る等級を認めた例9 柔道整復師の施術費と医師の同意第9 賠償額及び関連する実務上の論点1 自賠責保険の水準2 裁判上の水準3 関節固定術を選択した場合の等級4 併合及び通常派生する関係5 動揺関節6 柔道整復師の施術7 労災保険との関係第10 後遺障害診断書及び資料収集の確認事項1 診断書に記載してもらう事項2 画像資料の取得3 自覚症状の伝え方出典・参考資料法令裁判例行政資料学会資料文献
第1 この記事の対象
本記事は,交通事故等により手関節(手首)に可動域制限が残った場合の後遺障害等級について,認定の根拠となる法令及び通達,可動域の測定方法,等級の当てはめ,裁判所が実際にどのように判断しているか,並びに可動域制限が生活動作に及ぼす影響と代償動作を扱う。等級の枠組みは労働者災害補償保険の認定基準に由来するため,本記事の等級に関する記述は,特に断らない限りせき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について(平成16年6月4日基発第0604003号)及びその別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」によるものである。裁判例については,実際に判決文を読んで判示内容を確認したものだけを取り上げ,掲載誌及び全文を確認したデータベースを出典欄に示している。
本記事は,手関節可動域の測定方法と第12級6号の判定を担当する。骨折・脱臼の画像と認定経路は,橈骨遠位端骨折,舟状骨骨折,尺骨茎状突起骨折,月状骨骨折,有頭骨骨折及び月状骨脱臼・月状骨周囲脱臼の各記事で扱う。軟部組織損傷等は,TFCC損傷,手根骨不安定症,伸筋腱・屈筋腱断裂及び手関節のデグロービング損傷の各記事が担当する。CRPSの診断基準と後遺障害評価は,関節可動域制限とは別稿で扱う。
手関節の12級6号を検討する場合は,診断名だけでなく,対象運動,他動・自動,健側との比較,疼痛・代償動作及び測定原記録を確認する。
本記事の詳しい測定方法に進む前に,四肢関節共通の可動域制限の後遺障害等級,申請書類全体の後遺障害診断書の確認も参照できる。
認定から賠償までの流れは交通事故の後遺障害の総合案内で説明している。
第2 手関節の可動域制限が該当する後遺障害等級
1 該当するのは第12級6号である
交通事故により手関節の可動域が健側の4分の3以下に制限された状態は,自動車損害賠償保障法施行令別表第二の第12級6号「一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」に該当する。三大関節とは肩関節,ひじ関節及び手関節をいい,手関節はそのうちの一つである。同表の第12級7号は「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」であって下肢についての規定であるから,手関節の可動域制限を第12級7号と表記するのは誤りである。下肢の三大関節の可動域制限については,股関節の可動域制限と後遺障害12級7号,膝関節の可動域制限と後遺障害12級7号及び足関節の可動域制限と後遺障害12級7号で,それぞれ別に扱っている。
等級表に該当する項目がない障害について他の等級を借りる場合を準用等級又は相当等級というところ,手関節の可動域制限は第12級6号そのものに該当するから,「第12級相当」ではなく「第12級6号に該当」と表記するのが正確である。後述する前腕の回内・回外の制限は,これに対して文字どおり「第12級に準ずる」ものとして扱われる。
2 上位及び下位の評価
同じ手関節の機能障害でも,制限の程度により三段階に分かれる。①可動域が健側の4分の3以下であれば「関節の機能に障害を残すもの」として第12級6号,②2分の1以下であれば「関節の機能に著しい障害を残すもの」として第10級10号,③関節が強直したもの,関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの,及び人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち可動域が健側の2分の1以下に制限されているものは「関節の用を廃したもの」として第8級6号である。人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節で可動域が健側の2分の1を超えるものも,「関節の機能に著しい障害を残すもの」として第10級10号に当たる。ここでいう強直とは,完全強直又はこれに近い状態をいい,通達の別添第1の2(1)は「これに近い状態」を関節可動域が原則として健側の関節可動域角度の10パーセント程度以下に制限されているものとし,「10パーセント程度」とは健側の関節可動域角度の10パーセントに相当する角度を5度単位で切り上げた角度であるとしたうえ,関節可動域が10度以下に制限されている場合はすべてこれに該当するものと取り扱うとしている。
労災保険と自賠責保険とでは,同じ内容の障害でも号数が一致しないことがある。「関節の機能に著しい障害を残すもの」は,労災保険の障害等級表では第10級の9であるのに対し,自賠責保険の施行令別表第二では第10級10号である。これは,自賠責保険の別表第二に「正面を見た場合に複視の症状を残すもの」が第10級2号として置かれ,以降の号数が一つずつ繰り下がっているためである。第8級6号及び第12級6号は両者で一致するので,労災の資料と自賠責の資料を突き合わせる際は,一致する等級と一致しない等級があることを前提に確認する必要がある。本記事では,労災保険の号数を引用するときは通達の表記に従って「第10級の9」のように記載し,自賠責保険の号数は「第10級10号」のように記載して区別する。
3 自賠責保険が労災保険の認定基準に従う仕組み
自賠責保険における後遺障害等級の認定基準は,自賠責保険の告示自体に細目まで定められているわけではない。自動車損害賠償保障法第16条の3第1項は,「保険会社は,保険金等を支払うときは,死亡,後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準(以下「支払基準」という。)に従つてこれを支払わなければならない」と定め,これを受けた自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)第3が,「等級の認定は,原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」と定めている。すなわち,法律が支払基準への準拠を義務付け,その支払基準が労災保険の認定基準を借りる,という二段の構造になっている。福岡地方裁判所小倉支部平成30年4月17日判決(判例タイムズ1455号187頁)も,「自賠責保険における後遺障害等級認定は,労働者災害補償保険における障害等級別認定基準(以下「労災認定基準」という。)に準拠して行われる(自賠法16条の3参照。)」として同じ理解を示している。自賠責保険の支払基準そのものについては,自賠責保険の支払基準(令和2年4月1日以降の交通事故に適用されるもの)を参照されたい。
第3 可動域の測り方と4分の3基準の当てはめ
1 掌屈と背屈は合計値で評価する
手関節の可動域制限を判断するに当たって最も誤解が多いのが,どの数値を分母・分子に置くかである。通達の別添第1の1(2)は,「原則として,屈曲と伸展のように同一面にある運動については,両者の可動域角度を合計した値をもって関節可動域の制限の程度を評価すること」と定め,その例外として「肩関節の屈曲と伸展は,屈曲が主要運動で伸展が参考運動であるので,それぞれの可動域制限を独立して評価すること」を挙げるにとどめている。手関節の掌屈(手のひら側へ曲げる動き)と背屈(手の甲側へ反らす動き)はまさに同一面にある運動であり,右の例外にも当たらないから,両者を合計した値で比較する。通達自身の設例も,手関節を基本肢位から自動で90度屈曲することができるが橈骨神経損傷により自動では伸展が全くできない場合について,「健側の可動域が屈曲・伸展を合計して160度のときは,患側の可動域は,健側の3/4以下に制限されていることとなり,『関節の機能障害』に該当する」として,手関節を例に合計値による評価を示している。
したがって,掌屈だけを取り出して4分の3を測るのは誤りである。例えば健側が掌屈70度・背屈60度で合計130度である被害者について,患側の掌屈と背屈の合計が97.5度以下になったときに,第12級6号に該当することになる。掌屈は大きく残っているが背屈がほとんどないという事案と,掌屈も背屈も中程度に減っている事案とが,合計値では同じ評価になり得るという点も,この評価方法の帰結である。後記第8の裁判例も,例外なく掌屈と背屈の合計値を健側の合計値と対比して当てはめを行っている。
2 比較の相手は原則として健側である
同別添第1の1(1)は,「障害を残す関節の可動域を測定し,原則として健側の可動域角度と比較する」ものとし,せき柱や,健側となるべき関節にも障害を残す場合等に限って,後述する参考可動域角度と比較するとしている。すなわち,一般に「正常値」として紹介される角度は,あくまで健側が使えないときの代替の物差しである。もともと手首が柔らかく健側の可動域が大きい被害者であれば,同じ患側の角度でも制限率は大きく算定されることになるから,後遺障害診断書には必ず健側の実測値も記載してもらう必要がある。この原則と例外の切分けは訴訟でも争われており,健側にも障害があると主張して参考可動域角度との比較を求めた事案について,裁判所が健側に異常があるとは認められないとしてこれを排斥した例がある(後記第8の1)。
3 参考可動域角度
参考可動域角度は,日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会及び日本足の外科学会が定める関節可動域表示ならびに測定法(2022年4月改訂)によるもので,手関節については屈曲(掌屈)が0度から90度,伸展(背屈)が0度から70度,橈屈が0度から25度,尺屈が0度から55度である。前腕は回内・回外がいずれも0度から90度である。したがって,掌屈と背屈の合計の参考可動域角度は160度,橈屈と尺屈の合計は80度となる。これらの数値は通達の別添が掲げる測定要領の表と一致する。
(続きを読む...)手関節の可動域制限と後遺障害12級6号――認定基準,測定方法,代償動作及び裁判例(AI作成)