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手関節のデグロービング損傷と後遺障害等級認定―可動域・手指・瘢痕・裁判例(AI作成)

第1 デグロービング損傷の等級は診断名だけでは決まらない

1 用語と本記事の対象

デグロービング損傷は,皮膚及び皮下組織が深部組織から手袋を脱がせるように剝離する外傷である。日本語の医学文献では「デグロービング損傷」が一般的であり,ウェブ上では「デグローピング損傷」と表記されることもある。本記事は,前腕遠位部,手関節,手背及び手指に及ぶこの損傷について,自動車事故又は労働災害後の後遺障害等級と損害賠償上の評価を扱う。

デグロービング損傷は,皮膚だけの損傷とは限らない。圧挫又は巻込みの力により,骨折,腱断裂,血管損傷,末梢神経損傷,関節包損傷及び筋区画内圧上昇を伴い得る。皮膚を温存又は再建できても,瘢痕拘縮,腱癒着,知覚脱失及び関節拘縮が残れば,実用手としての機能は大きく制限される。

2 最初に分けるべき結果障害

自賠責保険では,デグロービング損傷に固有の等級は設けられていない。したがって,①手関節の機能障害,②手指の欠損又は用廃,③前腕の回内・回外障害,④末梢神経障害又は疼痛・CRPS,⑤上肢の露出面等に残る醜状を分け,各要件を満たすかを検討する必要がある。その上で,各障害が別個に評価されるのか,一方から通常派生する関係として重い等級に含まれるのかを判断する。

重い受傷名,長期入院,複数回の植皮又は皮弁手術は,外傷の重篤性を示す。しかし,それだけで特定の等級は決まらない。反対に,手関節の可動域が比較的保たれていても,手指欠損,腱滑走不良,知覚脱失又は母指対立障害により,上位の等級又は大きな労働能力への影響が問題となることがある。

本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり,個別事案の医学的又は法的評価には,受傷時の記録,手術所見,症状固定時の診察結果及び適用時点の認定基準を確認する必要がある。

第2 手関節機能障害の現行基準

1 8級6号・10級10号・12級6号

自動車損害賠償保障法施行令別表第二は,1上肢の三大関節中の1関節について,次の機能障害を定めている。手関節の可動域評価では,原則として障害側と健側の実測値を比較する。

結果障害自賠責等級可動域の目安
1関節の用を廃したもの8級6号主要運動の可動域が健側の10%程度以下又は10度以下となる強直又はこれに近い状態等
1関節の機能に著しい障害を残すもの10級10号主要運動の可動域が健側の2分の1以下
1関節の機能に障害を残すもの12級6号主要運動の可動域が健側の4分の3以下

厚生労働省の関節可動域測定要領によれば,手関節の主要運動は屈曲と伸展であり,同一面の運動方向の可動域を合計する。橈屈と尺屈は参考運動である。主要運動が2分の1又は4分の3をわずかに上回る場合でも,参考運動がそれぞれ2分の1又は4分の3以下に制限されていれば,10級又は12級として認定する取扱いがある。

「わずかに上回る」とは原則として5度である。ただし,手関節の屈曲・伸展について「著しい機能障害」に当たるかを判断するときは10度とされる。割合だけを示すのではなく,屈曲,伸展,橈屈及び尺屈の両側実測値を5度単位で確認する必要がある。

2 他動値が原則であり,自動値には医学的理由を要する

関節の機能障害は,原則として医師が外力を加えて動かす他動運動の可動域により評価する。他動値が適切でない場合,例えば末梢神経損傷による弛緩性麻痺又は耐え難い疼痛等が医学的に認められる場合には,自動運動の可動域を参考にする。

デグロービング損傷では,植皮後の皮膚緊張又は腱癒着により,本人が自ら動かす自動値が他動値より小さくなることがある。しかし,「植皮を受けた」「瘢痕拘縮がある」という事実だけで自動値が採用されるわけではない。他動では動くのに自動では動かない機序を,皮膚の固定性及び緊張方向,腱の連続性及び滑走,神経支配,疼痛の程度並びに手術所見によって説明する必要がある。

手関節の測定方法と日常生活上の支障については,手関節の可動域制限と後遺障害12級6号も参照されたい。なお,等級号数は適用時点の施行令別表で確認すべきであり,本記事では令和8年8月2日現在の別表第二に従っている。

第3 手関節以外に確認すべき障害

1 手指の欠損及び用廃

手指の欠損又は用廃は,手関節機能障害とは別に検討する。自賠責の手指用廃には,関節可動域が健側の2分の1以下となる場合のほか,末節部の大部分を欠く場合又は指腹部及び側部の深部感覚・表在感覚が完全に失われた場合等がある。デグロービング損傷では,皮膚壊死後の切断,再接着後の関節固定,腱癒着及び指神経損傷が重なるため,指ごとに欠損高位,MP・PIP・DIP又はIP関節の可動域及び感覚を記録しなければならない。

手関節屈筋及び伸筋は前腕から手指運動にも影響するが,手関節の等級と手指の等級は同じではない。手関節可動域が4分の3を超えていても手指用廃が成立する場合があり,逆に握りにくさがあっても法定の手指用廃要件を満たさない場合がある。

2 前腕回旋,神経症状,CRPS及び醜状

前腕の回内・回外制限は,手関節の屈曲・伸展とは別の運動である。厚生労働省の上肢障害認定基準では,回内・回外の可動域が健側の4分の1以下で10級,2分の1以下で12級を準用する。食器を口へ運ぶ,手のひらを上にして物を受ける,鍵を回す等の動作に影響するため,手関節の屈伸だけで測定を終えないことが重要である。

末梢神経断裂又は牽引損傷があれば,知覚脱失,筋力低下,疼痛及び発汗異常等が問題となる。CRPSという診断名があっても,行政上の等級が当然に決まるものではない。厚生労働省の神経系統障害認定基準が挙げる関節拘縮,骨萎縮及び皮膚変化等を,健側比較及び経時的資料で示す必要がある。CRPSの要件を満たさなくても,局部の神経症状として12級又は14級が検討対象になることはある。

植皮部,皮弁部又は採皮部に瘢痕が残る場合は,醜状障害も別に確認する。もっとも,瘢痕による皮膚緊張が可動域を制限する場合の機能障害と,外観上の醜状をどのように併合又は包含するかは,瘢痕の部位,範囲及び機能障害との原因関係によって異なる。

3 併合と同一系列・通常派生

複数の障害があっても,機械的に全ての等級を併合するわけではない。同一上肢の関節機能障害と手指障害は系列処理が問題となり,同一外傷から通常生ずる疼痛又は神経症状は,より重い機能障害に含まれる場合がある。他方,直接の神経断裂による独立した支配領域の障害,露出面の瘢痕又は採皮部瘢痕等が別個の障害として評価される余地もある。

したがって,等級表の号数を列挙するだけでは足りない。各結果障害について,原因となる組織損傷,症状及び機能を対応させ,どの障害からどの症状が通常派生するかを示す必要がある。

第4 等級認定のための資料と立証順序

通常の対応 本記事で扱う類型でも,弁護士が通常行う作業は,症状固定後に既存の診療録,画像,検査報告書及び後遺障害診断書を取得し,認定理由と照合して不足点を特定するところまでである。

本記事で挙げる追加検査又は専門的評価は,治療又は診断上の必要性を主治医若しくは担当専門医が判断するものであり,弁護士が検査方法を設計し,原画像若しくは生データを自ら医学的に解析し,又は訴訟上有利な資料を得る目的だけで手配するものではない。

既存資料で等級判断に必要な事実を確認できる場合は,追加検査又は医学意見書を重ねる必要はなく,具体的な否定理由又は未解決の医学的争点が結論を変え得る場合に限って専門的対応を検討する。

1 急性期から症状固定までの資料をつなぐ

優先度が高いのは,①事故直後の創部写真及び画像,②初回手術記録,デブリードマン記録及び看護記録,③皮膚壊死範囲,骨・腱・血管・神経損傷を示す所見,④植皮,皮弁,腱移行,腱剝離又は関節授動の各手術記録,⑤経時的な関節可動域,握力,ピンチ力及び感覚検査,⑥症状固定時の左右別測定値である。急性期の損傷と固定時の結果障害を,時間の流れに沿ってつなぐことが目的である。

隣接指の拘縮又は後発する神経症状を主張する場合は,受傷直後に当該部位の損傷又は腫脹があったか,固定期間はどの程度か,リハビリテーション中にいつから可動域又は感覚の異常が記録されたかを確認する。症状固定時の診断書だけでは,事故との因果関係を説明しにくい。

2 可動域測定で欠かせない事項

可動域表には,患側・健側,自動・他動,測定肢位,疼痛の有無,代償運動及び測定日を記載する。手関節では屈曲・伸展に加えて橈屈・尺屈を測り,前腕回旋を主張する場合は回内・回外も別に測る。手指では各関節を指ごとに測定し,腱癒着が疑われる場合は手関節肢位を変えたときの指運動の変化も確認する。

左右差だけでなく,その差を生む器質的原因が必要である。単純X線又はCTは骨性拘縮,MRI又は超音波は腱等の軟部組織,神経伝導検査又は筋電図は末梢神経障害の検討に利用できるが,検査の適否は予想される損傷部位に応じて決める。検査結果が正常であっても皮膚性拘縮を否定するものではない一方,受傷写真だけで腱又は神経障害まで証明できるものでもない。

3 職業上及び日常生活上の影響

行政等級と損害賠償上の労働能力喪失率は同一ではない。把持,つまみ,書字,キーボード操作,調理,ボタン掛け,工具操作及び重量物保持等について,どの組織損傷と機能制限が支障を生むかを具体化する。雇用契約書,事故前後の業務内容,配置転換記録,賃金資料,復職支援記録及び補助具の使用状況は,実際の職業影響を示す資料となる。

ただし,活動状況は等級を上げるために誇張して記載すべきではない。診察時の可動域と,日常生活又は就労中に確認される動作が大きく食い違うと,疼痛性抑制又は努力差を指摘される可能性がある。できる動作,時間をかければできる動作及び第三者の介助を要する動作を分けて記録することが望ましい。

4 高負担の鑑定へ進む条件と停止基準

初期段階では,診療録,画像,手術記録,後遺障害診断書及び既存のリハビリテーション記録を収集し,法定閾値と因果関係の両面から評価する。自動値と他動値の選択,皮膚性拘縮と腱癒着の区別又はCRPSの客観所見等,結論を左右する争点が残る場合に,手外科医又はリハビリテーション科医の意見を検討する。

他方,主要運動及び参考運動がいずれも基準を明確に上回り,手指欠損・用廃,前腕回旋障害,客観的神経障害又は等級対象となる醜状もなく,経時的記録にも恒常的制限がない場合は,高額な私的鑑定へ進んでも結論が変わりにくい。どの事実が判明すれば等級又は損害評価が変わるかを説明できないときは,追加調査の停止を検討すべきである。

第5 デグロービング損傷と等級を扱った主要裁判例

1 等級判断又は損害評価をした直接関連事件

確認できた裁判例のうち,損傷と等級又は損害評価の関係を直接検討する際に重要なものは次のとおりである。裁判所HP未掲載の判決は,判例秘書プラスの判文で確認した。

裁判例事実と判断結論及び射程
札幌地裁令和3年11月18日判決・令和元年(ワ)第2559号・L07650956糊付機への巻込みにより中指・環指・小指をデグロービング損傷し,示指も挫滅した。3指欠損等を8級相当,手関節は屈伸が健側比78.5%であったが橈屈・尺屈が50%であったため12級6号とし,準用7級とした。労働能力喪失率56%,逸失利益2747万2344円。参考運動により12級を認めた最も直接的な判例である。
大阪地裁平成13年1月25日判決・平成11年(ワ)第8567号・交通民集34巻1号61頁・L05650868交通事故による肘開放骨折,尺骨神経損傷,上腕皮膚欠損及び前腕デグロービング損傷について,肩,肘,前腕回旋,手関節,手指,知覚,上肢短縮及び醜状を個別に検討した。自賠責上の併合7級,労働能力喪失率56%,逸失利益2403万9971円を認めた。身体障害者手帳の等級とは別に判断した点も重要である。
東京地裁昭和47年10月2日判決・昭和46年(ワ)第4371号・判時703号58頁・L02730434幼児の前腕から手背の皮膚欠損,第5指喪失,植皮後瘢痕及び拘縮について,前腕回旋,手関節,残存手指及び醜状を総合した5級相当が前提となった。労働能力喪失率79%。旧等級及び旧運用の事件であり,現在の号数へ直接移し替えることはできない。
東京地裁平成27年3月25日判決・平成25年(ワ)第26652号・L07030223学校の集塵機で生徒が手背デグロービング損傷,橈尺骨等の骨折及び動脈損傷を負った。日本スポーツ振興センターは瘢痕及び前腕機能障害を併合8級としていた。学校側の責任を認め,5割の過失相殺後に1883万8141円を認容した。裁判所が自賠責等級を独自に再構成した事件ではない。
大阪地裁令和4年5月30日判決・平成30年(行ウ)第130号・L07750471ロール・歯車への巻込みによる3指不全切断,再接着及び植皮後の障害について,他動値を原則とし,自動値に基づく示指用廃を否定した。手指9級9号,手関節12級6号及び神経症状12級12号を同一系列として準用8級とした。原処分を維持し請求を棄却した。自動値採用には,他動値が不適切となる医学的理由が必要であることを示す。
大阪地裁令和6年12月11日判決・令和4年(行ウ)第16号・L07950964前記大阪地裁令和4年判決と同じ労働者が,症状固定後の中指再骨折について労災上の再発を主張した。新たな骨折等と旧傷病との医学的因果関係を否定し,再発を認めなかった。症状固定後の再受傷を旧外傷の当然の再発とは扱えないことを示す。

2 損傷名又は行政等級は現れるが,裁判所が等級を判断していない事件

裁判例を引用するときは,判文に等級が記載されていることと,裁判所がその等級の当否を判断したことを区別しなければならない。次の事件は受傷態様を知る資料にはなるが,等級の先例として引用するには限界がある。

裁判例判決の内容と限界
福岡地裁柳川支部令和3年5月31日判決・令和元年(ワ)第61号・労判1274号77頁・L07651586,福岡高裁令和3年10月29日判決・令和3年(ネ)第535号・同号70頁・L07620589ガラス研磨機への巻込みによる手背・前腕の皮膚剝離,骨折及び植皮後に,労災行政上は準用7級とされた。しかし,両判決は安全措置義務違反を否定して請求を棄却しており,等級の当否を判断していない。
東京地裁平成27年6月26日判決・平成26年(ワ)第19431号・判時2286号72頁・L07030688左上肢デグロービング損傷について一上肢用廃等が主張されたが,責任論で請求を棄却し,等級及び損害額を判断しなかった。
千葉地裁松戸支部令和2年10月29日判決・平成30年(ワ)第789号・L07551342左上肢デグロービング損傷及び手関節創傷があったが,訴訟で具体的に評価された後遺障害は顎部痛等であり,上肢の等級判断はしていない。
東京地裁昭和56年8月7日判決・昭和54年(ワ)第5144号・判時1026号105頁・L03630249前腕剝皮創,開放骨折及び母指伸筋腱断裂等を負ったが,土地工作物責任等を否定して請求を棄却し,等級を判断しなかった。
岐阜地裁平成7年10月12日判決・平成4年(ワ)第297号・判タ907号229頁・判時1589号106頁・L05050431,最高裁平成13年6月8日第二小法廷判決・平成9年(オ)第968号・判タ1073号145頁・L05610041高温のローリングプレスによる両手の手袋状皮膚剝離,感染及び死亡をめぐる医療過誤事件である。最高裁は感染への対応を遅らせた過失を認めて破棄差戻しとしたが,後遺障害等級を判断した事件ではない。

3 評価方法を補う類似裁判例

直接のデグロービング事案だけでは,自動・他動値,CRPS,系列処理及び醜状との関係を十分に把握できない。次の類似判例は,各論点の分岐を示す。

裁判例本件テーマとの関係
大阪地裁令和4年4月13日判決・平成30年(ワ)第9469号・L07750625上肢挫滅,神経損傷,植皮,瘢痕拘縮及びCRPSの主張を個別に検討し,保険会社側等の高位評価をそのまま採らず,事故による残存障害を併合12級相当とした。診断名と裁判上の等級が一致しない例である。
大阪地裁平成21年11月30日判決・平成19年(行ウ)第225号・L06430967下肢事案であるが,他動値を原則とし,末梢神経損傷による弛緩性麻痺又は耐え難い疼痛等の医学的事情があるときに自動値を参考にする測定要領を合理的とした。
大阪地裁平成23年2月21日判決・平成21年(ワ)第275号・自保J1857号21頁・L06650980両上肢等の重篤な圧挫後,関節,手指及び醜状を系列ごとに処理し,最終併合5級相当及び労働能力喪失率79%を認めた。
福岡地裁平成5年5月27日判決・昭和60年(ワ)第1672号・判タ857号220頁・L04850293尺骨神経損傷・感染後の肘,手及び指の機能障害と瘢痕を評価した。末梢神経損傷と複数の結果障害の原因分解に関係する。
神戸地裁平成27年1月20日判決・平成25年(ワ)第1472号・同第1612号・L07051574前腕・手部の外傷性皮膚欠損について主として露出面醜状を評価した。皮膚欠損が直ちに関節又は手指の機能等級を意味しない例である。
甲府地裁平成17年6月24日判決・平成16年(ワ)第133号・L06050213上肢RSDについて,関節拘縮,全手指固定,握力及び把持能力等から一上肢用廃の5級6号相当,労働能力喪失率79%とした。
大阪高裁平成18年9月28日判決・平成16年(ネ)第112号・平成18年(ネ)第823号・交通民集39巻5号1227頁・L06120597RSDと事故との因果関係は認めたが,明らかな運動神経損傷がなく,相当程度動かせ,就労を継続していたこと等から一上肢全廃を否定し,神経系統7級相当とした。

甲府地裁判決と大阪高裁判決の差は,疼痛という診断名の違いではなく,器質的拘縮,実測可動域,握力・把持能力及び実際の活動状況の違いにある。デグロービング後にCRPS又は強い疼痛を主張する場合も,同じ観点から資料の整合性を検討する必要がある。

第6 行政判断及び訴訟で争点になりやすい事項

1 被害者側が組み立てるべき主張

被害者側は,まず結果障害ごとの候補等級を作り,診断書の数値と法定閾値を照合する。次に,各障害の器質的原因を手術記録及び検査所見に結び付け,症状固定までの継続性を診療録で示す。最後に,併合又は通常派生の関係を整理し,職業上の具体的影響を逸失利益の評価へ結び付ける。

自動値を採用すべきと主張する場合は,他動値より自動値が小さいという結果だけでなく,他動値が実用機能を表さない理由を示す必要がある。皮膚性拘縮であれば瘢痕の固定性及び緊張方向,腱癒着であれば腱滑走及び手関節肢位による変化,神経損傷であれば支配領域,筋力及び電気生理学的所見を対応させる。

2 相手方から予想される反論

相手方からは,①他動値が基準を上回る,②参考運動の制限も閾値に達しない,③症状固定前後で数値が変動する,④画像又は手術所見が訴える機能制限を説明しない,⑤隣接指の拘縮は長期固定による廃用で事故との相当因果関係がない,⑥神経症状又は疼痛は機能障害から通常派生するため別等級にならない,⑦就労又は日常動作が申告された制限と整合しない等の反論が想定される。

これらへの対応は,検査を無制限に追加することではない。争点となる反論を特定し,既存資料で説明できない一点に絞って追加診察又は専門家意見を求める方が,費用及び期間に見合うことが多い。

3 自賠責,労災及び民事裁判を混同しない

国土交通省の自賠責保険支払基準は,後遺障害等級を原則として労災保険の障害等級認定基準に準じて認定するとしている。しかし,自賠責,労災,身体障害者手帳及び民事裁判は,目的,適用基準及び審理対象が同一ではない。

民事裁判所は行政認定又は保険実務上の評価を重要な資料として扱うが,それに法的に拘束されるわけではない。札幌地裁令和3年判決のように可動域数値を検討して等級を採る事件がある一方,大阪地裁令和4年4月13日判決のように,保険会社側等の高位評価をそのまま採用しない事件もある。異議申立て又は訴訟を検討するときは,労災保険の審査請求及び再審査請求並びに労災保険関係書類の開示請求も参照されたい。

第7 裁判例調査の範囲と現在の到達点

1 確認したデータベースと検索方法

本記事の裁判例は,令和8年8月2日までに判例秘書プラス及び判例体系で判文を確認した。診断名の「デグロービング」だけでなく,「剝皮創」「皮膚欠損」「植皮」「皮弁」「瘢痕拘縮」「手関節」「手指」「前腕」「ローラー」「巻き込まれ」「自動可動域」「他動可動域」「RSD」「CRPS」等を組み合わせ,事件番号及び裁判年月日による再検索も行った。

診断名検索の結果には,下肢のデグロービング,別の当事者の既往歴又は大規模集団訴訟の添付資料に語が現れるだけの事件も含まれる。本記事の一覧は,手関節・手部の損傷と等級,責任又は治療経過が実質的に関係する事件と,評価方法を補う上肢の類似事件に限定した。判例データベースの未収録事件又は非公開和解まで含む「全て」の存在を証明するものではない。

2 実務上の到達点

現在の到達点は,診断名ではなく結果障害を評価することである。手関節では屈曲・伸展を主要運動,橈屈・尺屈を参考運動として両側を測り,他動値を原則とする。手指欠損・用廃,前腕回旋,神経症状,CRPS及び醜状を別に検討し,各障害の原因関係に基づいて系列処理を行う。

デグロービング損傷に固有の新しい自賠責等級又は公的ガイドラインは,本記事の調査範囲では確認できなかった。医学的な救肢又は創閉鎖と,知覚,腱滑走,母指対立,握力及び日常生活に利用できる実用手の回復とは同義ではないため,治療成績の評価でも関節可動域だけに限定しないことが必要である。

第8 出典・参考資料

1 法令・行政資料

2 裁判例

  • ④ 札幌地裁令和3年11月18日判決・令和元年(ワ)第2559号・判例秘書プラスL07650956(裁判所HP未掲載)
  • ⑤ 大阪地裁平成13年1月25日判決・平成11年(ワ)第8567号・交通事故民事裁判例集34巻1号61頁・判例秘書プラスL05650868(裁判所HP未掲載)
  • ⑥ 東京地裁昭和47年10月2日判決・昭和46年(ワ)第4371号・判例時報703号58頁・判例秘書プラスL02730434(裁判所HP未掲載)
  • ⑦ 東京地裁平成27年3月25日判決・平成25年(ワ)第26652号・判例秘書プラスL07030223(裁判所HP未掲載)
  • ⑧ 大阪地裁令和4年5月30日判決・平成30年(行ウ)第130号・判例秘書プラスL07750471(裁判所HP未掲載)
  • ⑨ 大阪地裁令和6年12月11日判決・令和4年(行ウ)第16号・判例秘書プラスL07950964(裁判所HP未掲載)
  • ⑩ 福岡地裁柳川支部令和3年5月31日判決・令和元年(ワ)第61号・労働判例1274号77頁・判例秘書プラスL07651586,福岡高裁令和3年10月29日判決・令和3年(ネ)第535号・労働判例1274号70頁・同L07620589(いずれも裁判所HP未掲載)
  • ⑪ 東京地裁平成27年6月26日判決・平成26年(ワ)第19431号・判例時報2286号72頁・判例秘書プラスL07030688(裁判所HP未掲載)
  • ⑫ 千葉地裁松戸支部令和2年10月29日判決・平成30年(ワ)第789号・判例秘書プラスL07551342(裁判所HP未掲載)
  • ⑬ 東京地裁昭和56年8月7日判決・昭和54年(ワ)第5144号・判例時報1026号105頁・判例秘書プラスL03630249(裁判所HP未掲載)
  • ⑭ 大阪地裁令和4年4月13日判決・平成30年(ワ)第9469号・判例秘書プラスL07750625,大阪地裁平成21年11月30日判決・平成19年(行ウ)第225号・同L06430967,大阪地裁平成23年2月21日判決・平成21年(ワ)第275号・自保ジャーナル1857号21頁・同L06650980(いずれも裁判所HP未掲載)
  • ⑮ 福岡地裁平成5年5月27日判決・昭和60年(ワ)第1672号・判例タイムズ857号220頁・判例秘書プラスL04850293,神戸地裁平成27年1月20日判決・平成25年(ワ)第1472号・同第1612号・同L07051574(いずれも裁判所HP未掲載)

3 書籍・医学文献

  • ① 日本救急医学会監修『標準救急医学第5版』医学書院,平成26年,423頁~424頁
  • ② 井樋栄二・津村弘監修『標準整形外科学第15版』医学書院,令和5年,776頁
  • ③ 榎木貴之・小杉晴洋『自賠責・紛争処理事例と判例から読み解く後遺障害等級認定の判断―傾向を踏まえた交通事故事件処理―』新日本法規,令和8年,410頁~411頁,417頁~418頁,450頁